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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108258
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】複合半透膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/12 20060101AFI20240805BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240805BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20240805BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240805BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D69/02
B01D71/56
C02F1/44 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012529
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】志村晴季
(72)【発明者】
【氏名】三井伸也
(72)【発明者】
【氏名】小川久美子
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA61
4D006JA05A
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06C
4D006JA19A
4D006JA25Z
4D006JA53Z
4D006KA56
4D006KA67
4D006MA03
4D006MA09
4D006MB12
4D006MC16
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC27
4D006MC39
4D006MC46
4D006MC48
4D006MC54X
4D006MC61
4D006MC62
4D006MC63
4D006NA41
4D006NA54
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB04
4D006PB08
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】実用に耐える透水性と除去性を有し、酸に接触後も高い除去性を有する複合半透膜を提供する。
【解決手段】本発明の複合半透膜は不織布基材の上に形成された支持層と、前記支持層上に設けられた分離機能層とを備える複合半透膜であって、前記分離機能層が架橋芳香族ポリアミドを含有し、 NaClの濃度が3.5重量%、温度が25℃、pHが6.5の水溶液を5.5MPaの圧力で前記複合半透膜に透過させたときの脱塩率が99.75%以上であり、さらに、前記複合半透膜0.2 m2に対し、分離機能層側の表面のみに2-プロパノール1000 mLを25 ℃で20時間接触させた抽出液を濃縮した後、重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解し、25 ℃で1H NMRの分析を行ったとき、化学シフト5.80ppm以上6.80ppm以下の積分値xと、6.80ppm以上9.00ppm以下の積分値yから計算されるx/(x+y)の値が0.16以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層と、前記支持層上の分離機能層とを備える複合半透膜であって、
前記分離機能層が架橋芳香族ポリアミドを含有し、
NaClの濃度が3.5重量%、温度が25℃、pHが6.5の水溶液を5.5MPaの圧力で前記複合半透膜に透過させたときの脱塩率が99.75%以上であり、
下記抽出物について、溶媒として重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を用いた、25 ℃での1H NMRで得られる下記xおよびyが、x/(x+y)≦0.16を満たす、
複合半透膜。
x:化学シフト5.80ppm以上6.80ppm以下の積分値
y:化学シフト6.80ppm以上9.00ppm以下の積分値
抽出物:前記複合半透膜0.2 m2の分離機能層側の表面に25℃の2-プロパノール1000mLを20時間接触させることで抽出液を得、前記抽出液から2-プロパノールを除去することで得られる固形物。
【請求項2】
前記抽出物の量が10 mg以下である
請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記分離機能層が全芳香族ポリアミドである
請求項1または2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記分離機能層をアルカリ加水分解して得られるカルボン酸塩のうち、イソフタル酸およびその塩のモル数a、テレフタル酸およびその塩のモル数b、トリメシン酸およびその塩のモル数cが、(a+b)/c ≦ 0.1を満たし、かつ
前記分離機能層をアルカリ加水分解して得られるアミンがm-フェニレンジアミンである
請求項3に記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記分離機能層についてのDD-MAS 13C固体NMRで得られる各官能基のモル比率が、アミド基/(カルボキシ基+アミノ基)≧1.8である、
請求項4に記載の複合半透膜。
【請求項6】
複合半透膜エレメントにより供給水を濃縮水と淡水とに分離する水処理システムであり、かつ、
上記複合半透膜エレメントが上記請求項1~5のいずれか1項に記載の複合半透膜を含む、
水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な、複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液状混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして、膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜等があり、これらの膜は、例えば塩分、有害物を含んだ水等から飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収等に用いられている。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は、支持膜上に塩類等の分離性能を有する分離機能層を被覆した複合半透膜であり、支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。後者の複合半透膜のなかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドを含有する分離機能層を有する複合半透膜(特許文献1)が、透過性および選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。
【0004】
ここで水処理プラントにおいては、膜汚れを洗浄するため、各種の化学薬品が使われることがある。中でも、酸・アルカリを用いた膜洗浄がしばしば実施される。その際、酸接触による架橋ポリアミド膜の劣化を抑制するための検討が行われてきた。架橋ポリアミド膜の耐酸性・耐アルカリ性の向上方法としては、分離機能層の官能基を制御する方法(特許文献2、特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2010/096563号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2017/111140号パンプレット
【特許文献3】国際公開WO2016/002819号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、逆浸透膜が普及するに従って、薬品洗浄に対する要求は年々高まっている。その中で、高い溶質除去性を維持したまま酸洗浄が可能な、高耐久逆浸透膜が望まれている。本発明の目的は、実用に耐える透水性と除去性を有し、酸に接触後も高い除去性を有する複合半透膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の複合半透膜は、支持層と、前記支持層上の分離機能層とを備える複合半透膜であって、前記分離機能層が架橋芳香族ポリアミドを含有し、NaClの濃度が3.5重量%、温度が25℃、pHが6.5の水溶液を5.5MPaの圧力で前記複合半透膜に透過させたときの脱塩率が99.75%以上であり、下記抽出物について、溶媒として重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を用いた、25 ℃での1H NMRで得られる下記xおよびyが、x/(x+y)≦0.16を満たす。
【0008】
x:化学シフト5.80ppm以上6.80ppm以下の積分値
y:化学シフト6.80ppm以上9.00ppm以下の積分値
抽出物:前記複合半透膜0.2 m2の分離機能層側の表面に25℃の2-プロパノール1000mLを20時間接触させることで抽出液を得、前記抽出液から2-プロパノールを除去することで得られる固形物
また、この複合半透膜は水処理システムに利用可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって実用性のある透水性と除去性を有し、さらに酸に接触後も高い除去性を示す複合半透膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0011】
1.複合半透膜
本発明に係る複合半透膜は、微多孔性支持層と、前記微多孔性支持層上に設けられた分離機能層とを有する。以下、「上下」方向とは、複合半透膜の厚み方向を指す。また、分離機能層は、支持層の「上」に配置される。
【0012】
微多孔性支持層は、基材上に形成されていてもよく、本発明の実施形態に係る複合半透膜は、基材と基材上に形成された微多孔性支持層とを含む支持膜を有していても良い。
【0013】
前記分離機能層は実質的に分離性能を有するものであり、前記微多孔性支持層は実質的にイオン等の分離性能を有さず、前記分離機能層に強度を与えることができる。
【0014】
(1-1)支持膜
支持膜は、基材と微多孔性支持層を備えてもよいし、支持膜は基体を有さず、微多孔性支持層のみで構成されていてもよい。すなわち、微多孔性支持層が支持膜であってもよい。
【0015】
基材としては、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、及びこれらの混合物又は共重合体からなる布帛が挙げられる。中でも、機械的、熱的に安定性の高いポリエステル系重合体の布帛が好ましい。布帛の形態としては、長繊維不織布や短繊維不織布、さらには織編物を好ましく用いることができる。
【0016】
多孔性支持層は、連通した多数の細孔を有する。細孔の孔径や孔径分布は特に限定されないが、例えば、均一な孔径からなる対称構造、又は、一方の面からもう一方の面まで徐々に孔径が大きくなる非対称構造であり、且つ、孔径が小さい側の表面における孔径が、0.1~100nmである、多孔性支持層が好ましい。
【0017】
多孔性支持層の素材としては、ポリスルホン(以下、「PSf」)、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシド等の、ホモポリマー又はコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロース等、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルが挙げられる。中でも、PSf、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン等の、ホモポリマー又はコポリマーが好ましく、酢酸セルロース、PSf、ポリフェニレンスルフィドスルホン、又はポリフェニレンスルホンがより好ましく、化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることから、PSfが特に好ましい。
【0018】
PSfの重量平均分子量(以下、「M」)は、10000~200000であることが好ましく、15000~100000であることがより好ましい。PSfのMが10000以上であることで、多孔性支持層として好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。一方、PSfのMが200000以下であることで、多孔性支持層原液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0019】
基材と多孔性支持層の厚みは、複合半透膜の強度及びそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。良好な機械的強度及び充填密度を得るため、基材と多孔性支持層の厚みの合計は、30~300μmであることが好ましく、100~220μmであることがより好ましい。また、多孔性支持層の厚みは、20~100μmであることが好ましい。なお、基材と多孔性支持層の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した、20点の厚みの平均値を算出することで求めることができる。
【0020】
(1-2)分離機能層
分離機能層は、溶質の分離機能を担う層であり、架橋芳香族ポリアミドを含有する。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを主成分とすることが好ましい。
【0021】
架橋芳香族ポリアミドを主成分とするとは、分離機能層中の架橋芳香族ポリアミドが占める割合が50質量%以上であることをいう。分離機能層中の架橋芳香族ポリアミドが占める割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、分離機能層は実質的に架橋芳香族ポリアミドのみで形成されていることがさらに好ましい。分離機能層が実質的に架橋芳香族ポリアミドのみで形成されるとは、分離機能層の99重量%以上を架橋芳香族ポリアミドが占めることを意図する。
【0022】
架橋芳香族ポリアミドとしては、アラミド系の化合物が挙げられるが、分子構造内に、芳香族以外の部位を含んでもよい。ただし、架橋全芳香族ポリアミドが剛直性・化学的安定性、操作圧力に対する耐久性の点からより好ましい。架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との重縮合物である。ここで、多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0023】
多官能芳香族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有し、かつ、アミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基である芳香族アミンを意味する。
【0024】
多官能芳香族アミンとしては、例えば、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、及びp-ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、及び4-アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。
【0025】
特に、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAとも記す)、p-フェニレンジアミン、及び1,3,5-トリアミノベンゼンが好適であるる。架橋芳香族ポリアミドを構成する多官能芳香族アミンは1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0026】
多官能芳香族酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する芳香族酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、及びナフタレンジカルボン酸クロリドなどを挙げることができる。酸ハロゲン化物の中でも、酸塩化物が好ましく、特に経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応性の容易さ等の点から、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸ハロゲン化物であるイソフタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、トリメシン酸クロリドが好ましい。
【0027】
イソフタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、またはトリメシン酸クロリドを用いる場合、分離機能層中におけるイソフタル酸クロリド由来の成分のモル数a、テレフタル酸クロリド由来の成分のモル数b、トリメシン酸クロリド由来の成分のモル数cは、(a+b)/c ≦ 0.1であることが好ましい。3官能のトリメシン酸由来部位は2官能のイソフタル酸およびテレフタル酸よりも立体障害が大きく、分離機能層中で水が透過できる流路を形成しやすいためである。
【0028】
分離機能層のポリアミドは多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物の重合に由来するアミド基、未反応官能基に由来するアミド基とカルボキシ基が存在する。分離機能層における(ポリアミドのアミド基)/(カルボキシ基+アミノ基)のモル比をpとしたとき、p≧1.8であると、ポリアミドが十分に緻密な構造を形成し、酸性条件でも構造が変化しにくくなり、後述するオリゴマーの脱離が抑制できることから、耐酸性が向上する。
【0029】
上記カルボキシ基、アミノ基、及びアミド基のモル比は、分離機能層の13C固体NMR測定により求めることができる。具体的には、3m以上の複合半透膜から基材を剥離し、分離機能層と多孔性支持層を得た後、多孔性支持層を溶解・除去し、分離機能層を得る。この際、複合半透膜を熱水等で事前洗浄しても良い。多孔性支持層の除去には各種の有機溶媒を用いることができる。また、有機溶媒は複数種を混合しても良く、複数種の溶媒を用いて複数回洗浄しても良い。得られた分離機能層をDD/MAS-13C固体NMR法により測定を行い、各官能基の炭素ピークまたは各官能基が結合している炭素ピークの積分値の比較から、各比を算出することができる。
【0030】
分離機能層に含まれるポリアミドは一般的に、分子量数百程度のオリゴマーから、数千~数万のポリマーまで、分子量分布を有する。オリゴマーの多くは、製造時に洗浄されることによって取り除かれるが、水素結合性が高いことから、分離機能層と非共有結合的に相互作用し、一定量残留する。
【0031】
本発明者らは、複合半透膜が酸と接触することで、ポリアミドのオリゴマーの脱離が起き、これが酸性下での複合半透膜の分離性能の低下につながっていることを見いだした。本発明者らはさらに、酸接触がオリゴマーの脱離を促進するのは、オリゴマーが有する芳香族アミノ基がイオン化することで、分離機能層との相互作用が弱まるためであること、および、オリゴマーが有する芳香族アミノ基とベンゼン環とのモル比が小さいほど脱離が起こりにくいこと、すなわち耐酸性が向上することを見いだした。
【0032】
芳香族アミノ基とベンゼン環とのモル比の指標となる値は、1H NMRで定量することができる。また、上記オリゴマーは、分離機能層から2-プロパノールにより抽出することができる。
【0033】
まず、複合半透膜0.2 m2に対し、分離機能層側の表面に25 ℃の2-プロパノール1000 mLを20時間接触させることで、2-プロパノール中に抽出する。得られた抽出液をロータリーエバポレーター等で濃縮することで、抽出液から2-プロパノールを除去することができる。必要に応じてさらに蒸発乾固してもよい。こうして、オリゴマーを含む固形物である抽出物を得る。
【0034】
この抽出物を分析用溶媒である重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解し、25℃で1H NMR(核磁気共鳴分光法)で解析して下記値x、yを得る。
x:化学シフト5.80ppm以上6.80ppm以下の積分値
y:化学シフト6.80ppm以上9.00ppm以下の積分値
上記積分値xは芳香族アミノ基のα水素のモル数に対応する。すなわち、積分値xは、芳香族アミノ基のモル数に対応する。上記積分値yは芳香族化合物におけるそれ以外の水素に対応するのでベンゼン環のモル数に対応する。0≦x/(x+y)≦0.16を満たすxおよびyを示す複合半透膜は、芳香族アミノ基のベンゼン環に対するモル比が小さいので、良好な耐酸性を示す。
【0035】
酸と接触した際のオリゴマーの脱離による性能変化は、膜に残存するオリゴマーが少ないほど小さくなる。本発明者らは、前記の官能基組成を有するオリゴマーについて検討した結果、抽出される量が10mg以下であると性能変化が小さく好ましいことを見出した。
【0036】
分離対象物質が複合半透膜内部に浸透することを防ぐため、分離機能層は、複合半透膜の表面側に配置されていることが好ましく、且つ、ろ過一次側に配置されていることがより好ましい。
【0037】
2.複合半透膜の製造方法
本発明の複合半透膜の製造方法は、上述した所望の特徴を満たす複合半透膜が得られれば特に限定されないが、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0038】
(2-1)支持膜の製膜
支持膜の製膜方法としては、公知の方法が好適に利用できる。以下、多孔性支持層の素材としてPSfを用いる場合を例にとって述べる。
【0039】
まず、PSfを、PSfの良溶媒に溶解し、多孔性支持層原液を調製する。PSfの良溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」)が好ましい。
【0040】
多孔性支持層原液中のPSfの濃度は、12~25質量%であることが好ましく、14~23質量%であることがより好ましい。高分子溶液におけるポリマー濃度(すなわち固形分濃度)が高いほど、多孔性支持層の表面における粒の数密度が大きい多孔性支持層が得られ、その結果、分離機能層の突起の数密度も高くなり、圧力変動に耐えうる突起構造を実現できる。また、分離機能層形成時のモノマー供給速度が小さくなりすぎない程度にポリマー濃度が低いことで、多孔性支持層の表面細孔径が調整され、分離機能層形成時に、適切な高さを持つ突起が形成される。多孔性支持層原液中のPSfの濃度がこの範囲内であることで、得られる多孔性支持層の強度と透過性能とを両立することができる。なお、多孔性支持層原液中の素材の濃度の好ましい範囲は、用いる素材、良溶媒等によって適宜調整することができる。
【0041】
次に、得られた多孔性支持層原液を、基材表面に塗布し、PSfの非溶媒を含む凝固浴に浸漬する。凝固浴に含まれるPSfの非溶媒としては、例えば、水が好ましい。基材表面に塗布した多孔性支持層原液を、PSfの非溶媒を含む凝固浴に接触させることで、非溶媒誘起相分離によって多孔性支持層原液が凝固し、基材表面に多孔性支持層が形成した支持膜を得ることができる。凝固浴は、PSfの非溶媒のみで構成されていてもよいが、多孔性支持層原液を凝固可能な範囲で、PSfの良溶媒を含んでいてもよい。
【0042】
得られた支持膜を、分離機能層の形成の前に洗浄することで、膜中に残存する溶媒を除去してもよい。
【0043】
(2-2)分離機能層の重合工程
架橋芳香族ポリアミドを含有する分離機能層の形成方法について、「(2-1)支持膜の製膜」で得られた支持膜上で、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸クロリドとを重合して固化させる方法を例にとって述べる。重合方法としては、生産性、性能の観点から界面重合法が最も好ましい。以下、界面重合の工程について説明する。
【0044】
界面重合の工程は、(a)多官能芳香族アミンを含有する水溶液を支持膜に接触させる工程と、(b)多官能芳香族酸クロリドを含有する有機溶媒溶液を、多官能芳香族アミンを含有する水溶液を接触させた支持膜に接触させ加熱する工程と、(c)接触後の有機溶媒溶液を液切りする工程と、(d)複合半透膜を洗浄する工程、とを備える。
【0045】
微多孔性支持層、多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸ハロゲン化物としては、上述のものを挙げることができ、好ましいものも同様である。
【0046】
工程(a)において、多官能芳香族アミン水溶液における多官能芳香族アミンの濃度は
0.1重量%以上20重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5
重量%以上15重量%以下の範囲内である。多官能芳香族アミンの濃度がこの範囲である
と十分な溶質除去性能および透水性を得ることができる。多官能芳香族アミンは、2種類以上を用いてもよい。
【0047】
工程(a)において、水溶液は、支持膜に均一且つ連続的に接触させることが好ましい。具体的には、例えば、支持膜上にアミン水溶液をコーティングする方法や、支持膜を水溶液に浸漬する方法が挙げられる。支持膜と水溶液との接触時間は、1秒~10分であることが好ましく、3秒~3分であることがより好ましい。
【0048】
水溶液を支持膜に接触させた後は、支持膜上に液滴が残らないよう液切りすることが好ましい。液切りすることで、分離機能層の欠点発生を抑制することができる。液切りの方法としては、水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素等の気流を吹き付け、強制的に液切りする方法が挙げられる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0049】
工程(b)において、多官能芳香族酸クロリドとしては、例えば、トリメシン酸クロリド(以下、「TMC」)、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリド、2,5-フランジカルボン酸クロリドが挙げられる。これらの多官能芳香族酸クロリドは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
有機溶媒は、水と非混和性であり、多官能芳香族酸クロリドを溶解し、支持膜を侵さず、且つ、多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸クロリドに対して不活性であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、イソオクタン、イソデカン、イソドデカン等の炭化水素化合物及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0051】
有機溶媒溶液中の多官能芳香族酸クロリドの濃度は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~4質量%であることがより好ましく、0.03~2質量%であることがさらに好ましい。多官能芳香族酸クロリドの濃度が0.01質量%以上であることで、十分な反応速度で重合を進行させることができる。一方、多官能芳香族酸クロリドの濃度が10質量%以下であることで、重合中の副反応の発生を抑制することができる。
【0052】
多官能芳香族アミン水溶液または多官能芳香族酸クロリド溶液には、多官能芳香族酸クロリドの反応に影響を与える化合物を添加することで、上記オリゴマーおよびポリアミドの官能基バランスを制御することができる。具体的には、アミド系、ウレア系等の化合物を添加することで、カルボキシ基/アミド基のモル比を増加させることができる。このような化合物の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N,-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジイソプロピルホルムアミド、N,N-ジイソプロピルアセトアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、ε-カプロラクタム、N-メチル-ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、N-メチル-δ-バレロラクタム、2-アザシクロオクタノン、2-アザシクロノナノン、1,1,3,3-テトラメチルウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、ビス(テトラメチレン)ウレア、1,1’-カルボニルジピロリジン、1,1’-カルボニルジピペリジンなどを用いることができる。入手の容易性、価格等の点から、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N,-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ε-カプロラクタム、1,1,3,3-テトラメチルウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、ビス(テトラメチレン)ウレア、1,1’-カルボニルジピロリジンが好ましい。
【0053】
また、多官能芳香族アミン水溶液または多官能芳香族酸クロリド溶液には、重合を阻害しない範囲であれば、必要に応じて、界面活性剤等、酸化防止剤、金属塩等の化合物が含まれていてもよい。
【0054】
カルボキシ基/アミド基のモル比を増加させる方法として、添加物を用いる上記の方法以外に、多官能芳香族酸クロリドの一部を極微量の水等で加水分解してカルボキシ基にしてもよい。ただし、過度な加水分解は溶解性・反応性の低下につながるため好ましくない。
【0055】
多官能芳香族酸クロリドの有機溶媒溶液の、多官能芳香族アミン水溶液と接触させた支持膜への接触の方法は、多官能芳香族アミン水溶液の支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。
【0056】
多官能芳香族アミンを含有する水溶液を接触させた多孔性支持層と多官能芳香族酸クロリドの有機溶媒溶液を接触させた後、膜を加熱処理することが好ましい。加熱処理によって反応を促進し高分子量化を進めることにより、低分子量成分を低減し、酸接触時の性能変化を抑制することができる。また、上記の添加物や芳香族酸クロリドの加水分解の影響で、芳香族酸クロリドが有するクロロカルボニル基が加水分解し、芳香族アミンとの反応が抑制されるのを、加熱処理による加速で補うこともできる。加熱処理する温度は50~180℃が好ましく、60~160℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。加熱温度が高すぎると、厚膜化が進むため、良好な透水性が得られなくなる。
【0057】
工程(c)において、反応後の有機溶媒溶液を液切りする工程により、有機溶媒を除去
する。有機溶媒の除去は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下し
て除去する方法、送風機で風を吹き付けることで有機溶媒を乾燥除去する方法、水とエア
ーの混合流体で過剰の有機溶媒を除去する方法等を用いることができる。
【0058】
工程(d)において、複合半透膜を薬液で洗浄する。薬液で洗浄することで、未反応のモノマーおよび、オリゴマーを除去しつつ、複合半透膜の選択透過性を向上することができる。薬液の溶媒は水であることが好ましい。未反応のモノマーであるアミン類を除去するため、薬液は酸性であることが好ましい。洗浄性の点からpHは3以下が好ましく、複合半透膜へのダメージを防ぐために1以上が好ましい。
【0059】
薬液処理の過程で除去性能が低下することを抑制するためには、正荷電基が分離機能層中の静電ポテンシャルに及ぼす影響を小さくする必要がある。このために、酸性下での薬液は、陰イオンとして標準水和エンタルピーAが-350≦A≦-200(kJ/mol)を満たすイオンを含有することが好ましい。標準水和エンタルピーAが-350kJ/mol以上であることで、酸性での洗浄過程において正荷電を有する官能基の第一溶媒和圏に上記陰イオンが脱水和した状態で近接することができる。これにより、正荷電基が生じる静電場が静電的に遮蔽されるので、正荷電基が分離機能層中の静電ポテンシャルに及ぼす影響が低減される。結果として、正荷電基による塩除去性の低下が緩和される。標準水和エンタルピーの絶対値Aが-200kJ/mol以下である(Aの絶対値が200kJ/mol以上である)ことで、陰イオンの水和によるネットワーク構造の不安定化の寄与が抑えられ、複数の水分子が形成する水素結合ネットワーク構造を破壊しないため、透水性が低下しない。このようなイオンとして、テトラフルオロホウ酸イオン、イソチオシアン酸イオン、過マンガン酸イオン、硝酸イオン、ヨウ素酸イオン、臭素酸イオン等を挙げることができる。これらの陰イオンを含有する酸を単独で使用しても良いし、その金属塩を用いても良い。また、化合物は1種類でよいし、2種類以上混合して用いても良い。また、2種類以上の化合物は、1つの薬液中で混合されていてもよいし、それぞれの化合物を含む複数の薬液が使用されてもよい。
【0060】
薬液処理の温度は、好ましくは40℃以上100℃以下、より好ましくは70℃以上100℃以下である。処理温度が40℃以上であることで、架橋芳香族ポリアミドの運動性が高い状態で処理され、より多くの正荷電基に上記陰イオンを近接させることが可能である。処理温度が70℃以上であることで、未反応のモノマーおよびオリゴマーをより効率よく除去することが可能である。
【0061】
薬液処理に併せて、熱水による洗浄を行ってもよい。熱水による洗浄は薬液処理前に行ってもよく、薬液処理後に行ってもよく、行わなくてもよいが、熱水による洗浄を行う場合は、薬液処理後に行うのが好ましい。
【0062】
3.複合半透膜の利用
複合半透膜は、プラスチックネット等の供給水流路材と、トリコット等の透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列又は並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0063】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプや、その供給水を前処理する装置等と組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、供給水を飲料水等の透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0064】
すなわち、上記複合半透膜は、それを組み込んだ複合半透膜エレメントにより供給水を濃縮水と淡水とに分離する水処理システムに利用することができる。
【0065】
本発明に係る複合半透膜によって処理される供給水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L~100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターでろ過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0066】
流体分離装置の操作圧力は高い方が溶質除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5~10MPaであることが好ましい。供給水温度は、高くなると溶質除去率が低下するが、低くなるに従い膜透過流束も減少するので、5~45℃であることが好ましい。また、供給水pHが高くなると、海水等の高溶質濃度の供給水の場合、マグネシウム等のスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転であることが好ましい。
【実施例0067】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0068】
本発明の複合半透膜に関する物性値は、以下の方法で測定した。
【0069】
(膜透過流束)
供給水(海水)の膜透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)で膜透過流束(m3/m2/日)を表した。
【0070】
(溶質除去率)
(溶質除去率(TDS除去率))TDS除去率(%)=100×{1-(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(耐酸性試験)
複合半透膜をpH1.0に調整した塩酸に25℃雰囲気下、24時間浸漬した。引き続いて水で十分に洗浄した。耐薬品性は浸漬前後でのTDSSP比から求めた。
【0071】
TDSSP比=(100-浸漬後のTDS除去率)/(100-浸漬前のTDS除去率)
酸浸漬後は通常TDS除去率が浸漬前のTDS除去率より悪くなる。浸漬後のTDS除去率が浸漬前に比べ悪くなるほど、TDSSP比は1.0より大きくなる。
【0072】
(オリゴマーの抽出と組成分析)
複合半透膜0.2 m2を切り出し、分離機能層側の表面のみに2-プロパノール1000 mLを25 ℃で20時間接触させた。この抽出液をロータリーエバポレーターで濃縮し、蒸発乾固して抽出量を秤量した。その後、重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解し、25 ℃で1H NMRの分析を行った。
【0073】
(ポリアミドの官能基の定量)
複合半透膜5mから基材を物理的に剥離させ、微多孔性支持層と分離機能層を回収した。24時間静置することで乾燥させた後、ジクロロメタンの入ったビーカー内に少量ずつ加えて撹拌し、微多孔性支持層を構成するポリマーを溶解させた。ビーカー内の不溶物を濾紙で回収した。この不溶物をジクロロメタンの入ったビーカー内に入れ攪拌し、ビーカー内の不溶物を回収した。この作業を、ジクロロメタン溶液中に微多孔性支持層を形成するポリマーの溶出が検出できなくなるまで繰り返した。回収した分離機能層は真空乾燥機で乾燥させ、残存するジクロロメタンを除去した。得られた分離機能層は凍結粉砕によって粉末状の試料とし、固体NMR法測定に用いられる試料管内に封入して、DD/MAS法による13C固体NMR測定を行った。13C固体NMR測定には、例えば、Chemagnetics社製CMX-300を用いることができる。測定条件を以下に示す。
【0074】
基準物質:ポリジメチルシロキサン(内部基準:1.56ppm)
試料回転数:10.5kHz
パルス繰り返し時間:100s
得られたスペクトルから、各官能基が結合している炭素原子由来のピークごとにピーク分割を行い、分割されたピークの面積から官能基量比を定量した。この結果から、アミド基、カルボキシ基とアミノ基のモル比を求めた。
【0075】
(ポリアミドの組成分析)
上記で回収した分離機能層を重水酸化ナトリウム40%重水溶液に浸漬し、圧力容器内で密閉して120℃で10時間加熱し、完全に加水分解した。得られた溶液をH NMR測定し、分解物の割合を解析した。この結果から、トリメシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸のモル比を求めた。
【0076】
(参考例1)
ポリエステル不織布(通気量2.0cc/cm/sec)上にポリスルホン(PSf)の18.0質量%DMF溶液を200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間静置することによって支持膜を作製した。この支持膜を3.0質量%のm-フェニレンジアミンと1.0%の1,1,3,3-テトラメチルウレアを含む水溶液中に2分浸漬した。該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。40℃に制御した環境で、0.16質量%TMCを含む40℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布した。次に、120℃のオーブンで支持膜を加熱し、その後膜から余分な溶液を除去するために、膜を垂直にして液切りを行った。
【0077】
(比較例1)
参考例1により得られた複合半透膜を、70℃、pH2の塩酸に90秒間浸漬することで比較例1の複合半透膜を得た。
【0078】
(比較例2)
参考例1により得られた複合半透膜を、70℃、pH2の硫酸に90秒間浸漬することで比較例2の複合半透膜を得た。
【0079】
(比較例3)
参考例1により得られた複合半透膜を、70℃、pH2のクエン酸に90秒間浸漬することで比較例3の複合半透膜を得た。
【0080】
(比較例4)
参考例1により得られた複合半透膜を、85℃、pH7の純水に90秒間浸漬することで比較例4の複合半透膜を得た。
【0081】
(比較例5)
界面重合時に用いる水溶液への1,1,3,3-テトラメチルウレアの添加を省略する以外は、比較例1と同様にして、比較例5の複合半透膜を得た。
【0082】
(比較例6)
120℃のオーブンで支持膜を加熱する工程を省略する以外は、比較例4と同様にして、比較例6の複合半透膜を得た。
【0083】
(比較例7)
界面重合時に用いる水溶液への1,1,3,3-テトラメチルウレアの添加を省略する以外は、比較例6と同様にして、比較例7の複合半透膜を得た。
【0084】
(実施例1)
参考例1により得られた複合半透膜を、70℃、pH2のチオイソシアン酸に90秒間浸漬することで実施例1の複合半透膜を得た。
【0085】
(実施例2)
参考例1により得られた複合半透膜を、70℃、pH2のテトラフルオロホウ酸に90秒間浸漬することで実施例2の複合半透膜を得た。
【0086】
(実施例3)
参考例1により得られた複合半透膜を、70℃、pH2の硝酸に90秒間浸漬することで実施例3の複合半透膜を得た。
【0087】
(実施例4)
参考例1により得られた複合半透膜を、50℃、pH2のチオイソシアン酸に90秒間浸漬することで実施例4の複合半透膜を得た。
【0088】
(実施例5)
参考例1により得られた複合半透膜を、50℃、pH3のチオイソシアン酸に90秒間浸漬することで実施例5の複合半透膜を得た。
【0089】
(実施例6)
界面重合時に用いる水溶液に、3.0質量%のm-フェニレンジアミンと1.0%のε-カプロラクタムを含む水溶液を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例6の複合半透膜を得た。
【0090】
(実施例7)
界面重合時に用いる水溶液に、3.0質量%のm-フェニレンジアミンと1.0%のN,N-ジメチルホルムアミドを含む水溶液を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例7の複合半透膜を得た。
【0091】
(実施例8)
界面重合時に用いるデカン溶液に、0.16質量%のTMCと0.010質量%のイソフタル酸クロリドを含む40℃のデカン溶液を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例8の複合半透膜を得た。
【0092】
以上の結果を表1に示す。実施例1~8より、本発明の複合半透膜は、実用に耐える透水性と高い塩除去性を有し、かつ、酸接触後の塩除去率の維持性に優れることが分かる。
【0093】
【表1】