(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108259
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】一体化成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240805BHJP
B29C 45/36 20060101ALI20240805BHJP
B29C 70/12 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/36
B29C70/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012531
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 美穂
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【テーマコード(参考)】
4F202
4F205
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AA03
4F202AB25
4F202AD05
4F202AD12
4F202AG03
4F202AH11
4F202AJ11
4F202AJ12
4F202AR02
4F202AR12
4F202CK53
4F205AA03
4F205AB25
4F205AD05
4F205AG03
4F205AG08
4F205AH11
4F205AJ11
4F205AJ12
4F205AR02
4F205AR12
4F205HA12
4F205HA24
4F205HA34
4F205HA36
4F205HB01
4F205HB12
4F205HF05
4F206AA03
4F206AB25
4F206AD05
4F206AD12
4F206AG03
4F206AG08
4F206AH11
4F206AJ11
4F206AJ12
4F206AR02
4F206AR12
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB24
4F206JF05
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パイプ等の筒状部を有する繊維強化樹脂構造部材と、他の接合部材とが一体として成形されてなる一体化成形品の製造方法において、射出圧力に依存することなく筒状部の変形や割れを防止しつつ、両部材を強固に接合し、外観品位および力学特性が良好な一体化成形品を実現する。
【解決手段】少なくとも一端が開口した繊維強化樹脂から本質的になる筒状部を有する構造部材(a)1を射出成形用金型5、6に固定し、インサート成形にて熱可塑性樹脂7から本質的になる樹脂構造部材(b)2を前記筒状部と一体化しつつ成形する一体化成形品の製造方法であって、前記筒状部の開口から支持部材4を挿入し、予熱された支持部材が前記筒状部の内面に接した状態で、前記筒状部における前記支持部材が接している内面の外面に接するように溶融した熱可塑性樹脂を流動させ、該熱可塑性樹脂を固化させて樹脂構造部材を成形する、一体化成形品の製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端が開口した繊維強化樹脂から本質的になる筒状部を有する構造部材(a)を射出成形用金型に固定し、インサート成形にて熱可塑性樹脂から本質的になる樹脂構造部材(b)を前記筒状部と一体化しつつ成形する一体化成形品の製造方法であって、
前記筒状部の開口から支持部材を挿入し、予熱された支持部材が前記筒状部の内面に接した状態で、前記筒状部における前記支持部材が接している内面の外面に接するように溶融した熱可塑性樹脂を流動させ、該熱可塑性樹脂を固化させて樹脂構造部材(b)を成形する、一体化成形品の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の流動を、前記射出成形用金型内で射出圧力30MPa以上をかけながら行う、請求項1に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項3】
前記支持部材の線膨張係数が前記筒状部の線膨張係数よりも大きい、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項4】
前記支持部材が、前記筒状部の面外方向に2層構造であり、中心側と対比して外面側が相対的に熱伝導率の低い材料から構成されてなる、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項5】
前記支持部材の最大径が前記筒状部の開口の径より小さく、その差が1~100μmである、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項6】
前記支持部材が、前記筒状部の開口から奥に向かうにつれて径が減少する形状を有し、前記支持部材の最大径と最小径との差が1~100μmの範囲である、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項7】
前記支持部材が、周方向に2以上のピースに分割可能である、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項8】
前記支持部材が、前記筒状部の開口から奥に向かうにつれて径が増加する形状を有する、請求項7に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項9】
構造部材(a)がパイプ形状の部材である、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項10】
構造部材(a)の少なくとも前記筒状部が、層構造を有する繊維強化熱硬化性樹脂からなる、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項11】
樹脂構造部材(b)を構成する熱可塑性樹脂が強化繊維を含む、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項12】
構造部材(a)の前記筒状部の少なくとも一部の外面に熱可塑性樹脂層を有し、前記構造部材(a)に含まれる繊維の少なくとも一部が、前記熱可塑性樹脂層と接する、請求項1または2に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項13】
前記インサート成形によって、構造部材(a)と構造部材(b)とを熱溶着により一体化する、請求項12に記載の一体化成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂部材を含む一体化成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂は力学特性、軽量性に優れた材料であり、航空機や自動車、産業用機器などの構造部材として広く用いられている。このような用途においては、繊維強化樹脂を主骨格とするフレーム構造を採用する場合がある。この場合、繊維強化樹脂製のフレーム材の一部に連結あるいは着脱が可能な部材を形成する必要があるが、そのような部材は、比較的形状が複雑であるため、射出成形などで別途製造し、接着剤やボルトを用いてフレーム材に固定することが一般的であった。例えば、特許文献1では、炭素繊維強化樹脂製のパイプと継手を接着剤で接合した構造体が開示されている。また、特許文献2では、炭素繊維強化樹脂製のパイプに樹脂部材を直接接合するインサート成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-295372号公報
【特許文献2】特開2019-202435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の接着剤を用いた製法では、接合面に接着剤の塗布むらが発生するため、接合の信頼性を十分に確保することは困難であった。一方で、特許文献2に記載のインサート成形によって所望の箇所へむら無く接合が可能となったが、射出圧力によるパイプの割れや変形を回避するためにはインサート部材の剛性を高く設計することが必要であり、材料コストと作製時間が増すという課題があった。加えて、これらのコストを抑えるためには、射出圧力も低く設定することが必要となり、射出成形部材の外観不良や力学特性の低下も課題として残っていた。
【0005】
本発明の目的は、パイプ等の筒状部を有する繊維強化樹脂構造部材と他の構造部材とをインサート成形によって一体化した一体化成形品の製造方法において、筒状部の変形や割れを防止しつつ両部材を強固に接合し、外観品位および力学特性が良好な一体化成形品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決する本発明は、少なくとも一端が開口した繊維強化樹脂から本質的になる筒状部を有する構造部材(a)を射出成形用金型に固定し、インサート成形にて熱可塑性樹脂から本質的になる樹脂構造部材(b)を前記筒状部と一体化しつつ成形する一体化成形品の製造方法であって、前記筒状部の開口から支持部材を挿入し、予熱された支持部材が前記筒状部の内面に接した状態で、前記支持部材が接している前記筒状部の外面に接するように溶融した熱可塑性樹脂を流動させ、該熱可塑性樹脂を固化させて樹脂構造部材(b)を成形する、一体化成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記のような一体化成形品の製造方法において、射出圧力に依存することなく、筒状部の変形や割れを防止しつつ両部材を強固に接合し、外観品位および力学特性が良好な一体化成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】樹脂構造部材(b)としての継手の例を示す外観模式図である。
【
図2】
図1に示す継手を構造部材(a)と接合した一体化成形品の例を示す外観模式図である。
【
図3】本発明における一体化成形品の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図5】
図4に示す支持部材を構造部材(a)の内面に当接するように配した筒状部の例を示す透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、添付図面を参照して本発明の好ましい形態を説明する。
【0010】
構造部材(a)は、少なくとも一端が開口した繊維強化樹脂から本質的になる筒状部を有する。筒状とは、外壁で区画された細長形状の内腔を有する形状であって、外壁の断面形状は、円形に限らず、楕円形、多角形、異形の断面であることができるが、円形または多角形であることが好ましい。筒状部は、長手方向に湾曲していてもよい。また、構造部材(a)は、長尺の筒状部のみで構成される部材、すなわち全体としてパイプ形状の部材であっても構わない。
【0011】
構造部材(a)は、筒状部が繊維強化樹脂から本質的になるものであればよく、筒状部以外には強化繊維が含まれていない部材や、おなじく繊維強化樹脂製の、あるいは繊維強化樹脂製ではない他の部材と既に接合されている部材であってもよいが、好ましくは全体が繊維強化樹脂から本質的になるものである。ここで、繊維強化樹脂から本質的になる、とは、その大部分が強化繊維を含む樹脂によって構成されるが、一部に強化繊維を含まない部分を有していてもよいことを意味する。例えば、後述する筒状部の表層に接合用の熱可塑性樹脂層が配された態様において、熱可塑性樹脂層に強化繊維が含まれていない場合であっても、筒状部全体として強化繊維を含む樹脂部分が支配的である限り、繊維強化樹脂から本質的になるものと考える。なお、典型的には、筒状部はその80体積%以上、好ましくは90体積%以上が繊維強化樹脂である。
【0012】
筒状部の断面積(長手方向に垂直な断面の断面積。以下、本明細書において、筒状部の断面とは、特に断りのない限り、長手方向に垂直な断面を意味するものとする。また、筒状部が湾曲している場合は、内腔の中心を結んだ曲線の接線に垂直な断面を意味するものとする。)は20mm2以上が好ましく、より好ましくは50mm2以上、また300mm2以下が好ましく、より好ましくは200mm2以下である。筒状体(a)が上記断面積の範囲である場合は高剛性の一体化成形品を生産性よく得ることができる。
【0013】
繊維強性樹脂に含まれる強化繊維は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維(黒鉛繊維を含む)、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられる。中でも、ガラス繊維、ポリアクリロニトリル系およびピッチ系の炭素繊維が好ましく、軽量性と力学特性の観点からポリアクリロニトリル系またはピッチ系の炭素繊維がより好ましく、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維が特に好ましい。
【0014】
強化繊維はサイジング剤で表面処理を行っていることが力学特性向上の観点から好ましい。サイジング剤としては多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、具体的にはグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、アミノ基を1分子中により多く含むポリエチレンイミン等が挙げられ、これらの中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、繊維への塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが本発明では好ましく用いられる。
【0015】
構造部材(a)に含まれる強化繊維は連続繊維であることが好ましい。ここで、本明細書における連続繊維とは、10mm以上の長さを有する繊維を意味し、この長さを有する限りにおいて必ずしも繊維強化部材全体にわたって連続した繊維である必要はなく、途中で分断されていてもよい。連続繊維の形態としては、例えば、繊維束を織り込んだ織物の形態や、フィラメント、ブレイド、フィラメント束、紡績糸等を一方向に引き揃えた形態が挙げられる。構造部材(a)は、これらのうち2種以上の強化繊維の形態を併用して形成したものであってもよい。
【0016】
繊維強化樹脂を構成する樹脂の種類は特に制限はないが、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド樹脂等や、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種をブレンドした樹脂があげられる。これらの中でも、剛性、強度に優れることから、エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂が成形品の力学特性の観点からより好ましい。なお熱硬化性樹脂中における主成分とは、熱硬化性樹脂における成分比率が、60質量%以上を占めることをいう。繊維強化熱硬化性樹脂には用途等に応じ他の充填材や添加剤が含有されていてもよい。例えば、エラストマーあるいはゴム成分、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0017】
構造部材(a)の筒状部は、例えば、フィラメントワインディング法やシートワインディング法等により、熱硬化性樹脂を含浸させた強化繊維を引きそろえたプリプレグ等を、所定の張力を付加しながらマンドレルに巻き付けて賦形した後に硬化する方法や、賦形型を使用した内圧成形、あるいは、プレス成形で賦形したのちに硬化する方法などにより製造することができる。このように製造された筒状部は、層構造を有する繊維強化熱硬化性樹脂からなる。後述する熱可塑性樹脂層を表層に形成する場合、最後に少なくとも一層分、熱可塑性樹脂からなるフィルムや不織布を巻き付けて、熱硬化性樹脂と一体化して硬化する方法により構造部材(a)を製造し得る。
【0018】
本発明における樹脂構造部材(b)は、構造部材(a)の筒状部と、筒状部の外壁の少なくとも一部と接して接合された、熱可塑性樹脂から本質的になる部材である。ここで、熱可塑性樹脂から本質的になる、とは、熱可塑性樹脂を主成分とするとともに、熱可塑性樹脂としての挙動を失わない範囲で、後述する強化繊維等の添加物を含んでいてもよいことを意味する。
【0019】
樹脂構造部材(b)を構成する熱可塑性樹脂は特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/カプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)などのポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアセタール樹脂またはポリオキシメチレン樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂などが挙げられる。なかでもポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、PPS樹脂が好ましい。
【0020】
樹脂構造部材(b)は継手であることが好ましい。典型的には、継手は、2つの構造部材(典型的には前述の構造部材(a))を繋ないだり、構造部材の方向を変えたり、太さの異なる構造部材と連結したり、3つ以上の構造部材を合流したり分岐させたりするための部材である。
図1A~Cには代表的な継手を、
図2A、Bには代表的な構造部材(a)と樹脂構造部材(b)が接合した一体化成形品の外観模式図を示す。それぞれの構造はこれに限定されるものではないが、構造部材(a)がパイプ、樹脂構造部材(b)が継手である一体化成形品を用いたフレーム構造は、本発明の典型的な態様である。
【0021】
力学特性を向上させるためには、樹脂構造部材(b)もまた強化繊維を含有していることが好ましい。強化繊維としては、前述の構造部材(a)を構成する繊維強化樹脂と同様の繊維が挙げられ、軽量性と力学特性の観点からは炭素繊維が好ましい。これらの強化繊維には、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などの表面処理が施されていても良い。
【0022】
樹脂構造部材(b)は比較的複雑な形状に成形される場合が想定されることから、樹脂構造部材(b)に含まれる強化繊維は、不連続の強化繊維であることが、成形加工性の観点で好ましい。この場合、強化繊維の質量平均繊維長Lwは0.3mm以上であることが好ましく、0.8mm以上がより好ましい。質量平均繊維長が長い程、強度や剛性が向上し、特に衝撃強度が向上する。特に、曲げ弾性率が10GPa以上であることが好ましく、20GPa以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明においては、構造部材(a)の筒状部の少なくとも一部の表層に熱可塑性樹脂層が配されることが好ましく、この場合、樹脂構造部材(b)が当該熱可塑性樹脂層を介して構造部材(a)と熱溶着により接合して一体化することも好ましい。このような熱可塑性樹脂層の厚みは通常1~300μmであり、50~150μmがより好ましい。また、熱可塑性樹脂領域の形態は、構造部材(a)の表面に熱可塑性樹脂が露出した領域を形成している限り特に限定はないが、例えば、層状、スポット状、網目状、格子状など例示することができる。
【0024】
このような熱可塑性樹脂層に用いられる熱可塑性樹脂としては、前述した樹脂構造部材(b)を構成する熱可塑性樹脂と同様の選択肢から選択される樹脂を用いることができるが、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリアリレート樹脂などが好ましい。
【0025】
また、構造部材(a)と樹脂構造部材(b)の接合部においては、構造部材(a)に含まれる繊維の一部が構造部材(a)の表層に配された熱可塑性樹脂層、または樹脂構造部材(b)の熱可塑性樹脂と接していることが好ましい。このような接合構造を形成することで繊維補強効果により強固な接合状態を形成することができる。該構造は、例えば、熱硬化性繊維強化樹脂からなる構造部材(a)の表層を研磨して繊維を露出させた後、該露出部に熱可塑性樹脂フィルムを配置して再度加圧成形して得られた構造部材(a)、または熱硬化性樹脂プリプレグ積層体に熱可塑性樹脂フィルムを積層した構造部材(a)の基材を、所望の温度および加圧条件で成形して得られた構造部材(a)に樹脂構造部材(b)の樹脂材料を射出一体化することによって得ることができる。
【0026】
図3には、本発明における一体化成形品の製造方法の一例を示す。本発明の一体化成形品の製造方法においては、まず、
図3Aに示すように、構造部材(a)1を射出成形用金型5(可動側)および6(固定側)の内部に固定し、構造部材(a)の筒状部3の開口から支持部材4を挿入する。この状態で射出成形用金型を加熱することにより、支持部材4は予熱され、筒状部3の内面に接した状態となる。すなわち、本実施形態において、支持部材4は筒状部3の内面形状に対応した外面形状を有する筒状の部材である。
【0027】
また、構造部材(a)の筒状部の少なくとも一部の外面に熱可塑性樹脂層を配置し、インサート成形によって構造部材(b)を熱溶着により接合することで、より強固な接合を実現できる。
【0028】
支持部材を構成する材料は特に制限はないが、射出成形時における構造部材(a)の変形や割れを抑制する観点からは、支持部材の線膨張係数が構造部材(a)の筒状部の線膨張係数よりも大きいことが好ましい。構成部材(a)の線膨張係数と支持部材の線膨張係数の差は、2×10-5(1/℃)であることが好ましく、5×10-5(1/℃)であることがより好ましい。線膨張係数の差が大きいほど、予熱や成形時の金型からの熱伝達による支持部材の熱膨張によって、支持部材が筒状部の内面に密着し、射出圧力に対抗する方向の内部圧力が発生するため、より成形中の筒状部の支持する効果が高まる。
【0029】
この場合において、支持部材を筒状部に挿入する際に、支持部材の最大径が筒状部の開口の径よりも小さいと、筒状部に支持部材を挿入しやすいため好ましい。ただし、筒状部を内面から支持する観点では、筒状部の開口の径と支持部材の最大径の差は1~100μmであることが好ましく、より好ましくは1~50μmである。
【0030】
また、支持部材は、筒状部の開口から奥に向かうにつれて径が減少する形状を有し、前記支持部材の最大径と最小径との差が1~100μmであることが好ましい。これにより、構造部材(a)の開口部の径における微少な寸法精度のばらつきを吸収することができるため、前記筒状部へ支持部材を嵌合する際の取扱い性と、筒状部を内面から支持する効果を両立することができる。
【0031】
支持部材を構成する材料は、射出成形時の温度に耐え得る材料であれば特に限定されず、例えば、金属やセラミック、熱硬化性樹脂(シリコーンゴムやベークライト)等を用いることができる。
【0032】
また、支持部材は、構造部材(a)の前記筒状部の面外方向に2層構造であり、中心側と対比して外面側が相対的に熱伝導率の低い材料から構成されることも好ましい。例えば、中心側が相対的に熱伝導率の高い材料から、外面側が相対的に熱伝導率の低い材料から構成された支持部材は、予熱によって中心側の熱伝導率の高い材料が主に膨張するが、外面側は熱伝導の低い材料であるために、構造部材(a)の筒状部への熱影響を抑えることができ、構造部材(a)の力学物性の低下が防止できる。
【0033】
また、支持部材は、
図4Cおよび
図5Cに示すように、周方向に2以上のピースに分割可能に構成すると、構造部材(a)との寸法精度の誤差をある程度許容することができる。例えば、
図4Cおよび
図5Cは、指示状部材を2つのピース4aと4bに分割可能に構成した例であるが、このような構成においては、ピース4bを筒状部の開口から奥方向へ押し入れることによって、筒状部内面から外面方向へ圧力を加えて筒状部を支持することができるため、特にインサート成形時の射出圧力が高い場合に優れた効果を発揮する。このような分割可能な支持部材であれば、構造部材(a)の前記筒状部の開口から奥に向かうにつれて径が増加する形状を有する形状であっても構わない。すなわち、構造部材(a)の開口部が射出成形用金型のキャビティ内に配される構成においては、構造部材(a)のもう一端の開口から支持部材を押すことによって、前記筒状部の内面から外面方向へ圧力を加えることが可能となる。
【0034】
さらに別の例では、支持部材は、複数のビーズから構成されても構わない。球体であるビーズは筒状体内周面と点接触となるため、ビーズの外径が小さいほど筒状部に密にビーズが配置され、筒状部内周面との接触面積も大きくなる。製造工程でのコンタミネーション防止と取扱い性の観点から、ビーズの外径は1mm以上10mm以下であることが好ましい。このような態様の支持部材は、構造部材(a)が湾曲している場合に適しており、支持部材に複雑な加工を施さなくても筒状部の湾曲した内周面に沿うように配置することができる。
【0035】
次に、
図3Bに示すように、予熱された支持部材4が筒状部3の内面に接した状態で、
図3Cのように筒状部3における支持部材4が接している内面の外面に接するように射出成形機8から溶融した熱可塑性樹脂7を流動させ、該熱可塑性樹脂を固化させて樹脂構造部材(b)をインサート成形する。射出成形条件は特に制限はないが、熱可塑性樹脂の流動を、射出成形用金型内で30MPa以上、さらには50MPa以上の射出圧力をかけながら行うときに、本発明の効果が顕著に発揮される。
【0036】
なお、本発明の一体化成形品の製造方法においては、一体化成形品の軽量化の観点から、
図3Eに示すように、熱可塑性樹脂の固化後に筒状部3から支持部材4を抜き取って除去することが好ましい。
【実施例0037】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例の記載によって何ら限定されるものではない。なお、得られた一体化成形品は、以下の方法を用いて評価した。
【0038】
[成形後の内観]
一体化成形品n=5個について、構造部材(a)と樹脂構造部材(b)の接合部を対象として、X線観察を実施した。観察対象部分のみを残すように一体化成形品をカットした後、X線検査装置(透視)にて二次元の透過画像を撮影して一体化成形品の内部を観察した。観察画像から、構造部材(a)の変形の有無を評価した。
【0039】
[接合状態]
一体化成形品n=5個について、1.5mの高さから樹脂構造部材(b)が下方向となるように落下させる落下試験を実施し、その時の構造部材(a)と樹脂構造部材(b)の接合状態を目視および前述したX線透視撮影を再度おこなって、構造部材(a)および樹脂構造部材(b)の接合部、樹脂構造部材(b)および封止部材(c)の接合部におけるクラックの発生有無を評価した。
【0040】
(実施例1)
先端外径30mm、長さ700mmの離型処理したステンレス製マンドレルに、東レ(株)製”トレカプリプレグ”P3051S-30およびP3052S-12を使用し、マンドレル長手方向を0度軸とした場合、繊維強化樹脂P3051S-30を材料角度0度に、繊維強化樹脂P3052S-12を材料角度60度となるように積層させた。さらにその外側に共重合ポリアミド樹脂(東レ製CM4000、ポリアミド6/66/610、融点150℃)のペレットを熱プレスして得られた厚み70μmのポリアミドフィルムを1周分巻き付けた後、ラッピングテープ(耐熱性フィルムテープ、幅10mm)を張力3kgで巻きつけて、150℃の硬化炉で30分間加熱成形を行った。この後、マンドレルを抜き取り、ラッピングテ-プの除去した後、切断して、厚み0.5mm、長さ500mmのパイプを得た。次いで、外径30mmのアルミニウム合金からなる円柱部材の中央にネジ孔(M12)を加工した後、さらに外径を切削加工して
図4Cに示すような支持部材を作製した。支持部材は2つのピースに分割されている。部品4b(
図5C)には事前に加工したネジ孔が備えられ、該ネジ孔に外径12mmの鉄製丸棒を挿入し、支持部材を外部から固定するための治具を設けた。該支持部材をパイプ開口から挿入し、2分割されたうちの一方の支持部材のピースを抑えながら、もう一方の支持部材のピースを最後に押し入れることによって、2分割された支持部材をパイプ面内から面外方向へ押し広げ、筒状部に内圧を加えた。この後、パイプを温度80℃の射出成形用金型にインサートし、射出成形用金型外部に設けた治具を用いて前記丸棒とパイプの両方を固定した。射出成形用金型を閉じて20秒保持し支持部材を予熱した後、シリンダー温度280℃に設定した射出成形機(日本製鋼所製J350EIII)を用いて、東レ(株)製長繊維ペレット(TLP1060)を、支持部材が接している面のパイプ外面に、パイプ長手方向30mmの領域に接触するように
図1Aに示す継手を射出成形し、
図2Aに示すような一体化成形品を製造した。射出圧力は50MPaとした。最後に、射出成形用金型から取り出した一体化成形品を冷却した後、支持部材をパイプ開口部から取り除いた。
【0041】
得られた一体化成形品n=5個について、X線透過画像からはパイプの割れや変形は確認されず、支持部材を脱型する際にも一体化成形品内周面の状態は良好に保たれた。さらに、これらのパイプを1.5mの高さから継手が下方になるように落下させ、その後のパイプと継手の接合状態を確認する落下試験を実施した結果、5個ともに接合部には変化は見られず、良好な接合状態が維持された。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様の材料および方法を用いて、厚み0.5mm、長さ500mmのパイプを得た。次いで、アルミニウム合金からなる円柱部材の中央部にネジ穴(M12)加工を施した後、該円柱部材の外径を旋盤で切削加工することで外径30(寸法公差-0.02~-0.05)mmの
図4Aに示すような円柱形状の支持部材を得た。外径12mmの鉄製丸棒を支持部材の中央に備えたネジ孔に挿入し、支持部材を外部から固定するための治具を設けた。該支持部材をパイプ開口部から挿入した後、実施例1と同様の方法を用いてパイプを射出成形用金型にインサートし、該金型外部から前記丸棒とパイプの両方を固定した。この後、射出成形用金型を閉じて20秒保持し支持部材を予熱した後、実施例1と同様の方法を用いて
図1Aに示す継手を射出成形し、
図2Aに示すような一体化成形品を製造した。最後に、射出成形用金型から取り出した一体化成形品を冷却した後、支持部材をパイプ開口部から取り除いた。
【0043】
得られた一体化成形品n=5個について、X線透過画像からはパイプの割れや変形は確認されず、支持部材を脱型する際にも一体化成形品内周面の状態は良好に保たれた。さらに、これらのパイプを1.5mの高さから継手が下方になるように落下させ、その後のパイプと継手の接合状態を確認する落下試験を実施した結果、5個ともに接合部には変化は見られず、良好な接合状態が維持された。
【0044】
(比較例1)
実施例1と同様の材料および方法を用いて、厚み0.5mm、長さ500mmのパイプを得た。次いで、パイプを射出成形用金型にインサートし、射出成形用金型外部に設けた治具でパイプ自体を固定した後、シリンダー温度280℃に設定した射出成形機(日本製鋼所製J350EIII)を用いて、東レ(株)製長繊維ペレット(TLP1060)を、パイプ外周面の所望の位置に、パイプ長手方向30mmの領域に接触するように
図1Aに示す継手を射出成形し、
図2Aに示すような一体化成形品を製造した。射出圧力は実施例1と同様に50MPaとした。
【0045】
得られた一体化成形品n=5個について、X線透過画像からは5本全てのパイプに割れが生じていた。加えて、樹脂流入口から最も離れた接合部においてもパイプが潰れるように大きく変形していることが確認された。したがい、パイプと継手の接合状態を確認するための落下試験は評価不可能であった。
【0046】
(まとめ)
実施例1は比較例1と対比して、インサート成形時にパイプの割れや変形が生じず、強固な接合状態を確認することができた。これは、実施例1では継手接合位置であるパイプの内周面に接触するように支持部材を挿入したため、射出圧力に耐えられたためであると考えられる。
【0047】
また、実施例2も実施例1と同様に、インサート成形時にパイプの割れや変形は生じず、強固な接合状態を確認することができた。これは、パイプ内周面と支持部材のクリアランスを制御し、支持部材の膨張を生かすことで、パイプを内部から支持することができたためであると考えらえる。