(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108281
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ランス用キャスタブル耐火物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20240805BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20240805BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240805BHJP
F27D 3/16 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C04B35/66
B22D41/02 Z
F27D1/00 N
F27D3/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012568
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】生駒 泰明
【テーマコード(参考)】
4K051
4K055
【Fターム(参考)】
4K051AA02
4K051AA06
4K051AB00
4K051BE03
4K055AA02
4K055AA04
4K055MA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ランス用キャスタブル耐火物の耐食性を向上しつつ、線変化率を低減し亀裂を抑制する。
【解決手段】アルミナ-マグネシア質のランス用キャスタブル耐火物である。耐火物骨材としては、アルミナ原料が5質量%以上35質量%以下、マグネシア原料が0.5質量%以上5質量%以下で、更にスピネル原料が55質量%以上85質量%以下である。この耐火物骨材に炭素原料が1質量%以上10質量%以下添加される。上記原料の合計100質量%に対し、窒化珪素鉄を外掛け0.5質量%以上10質量%以下、金属アルミニウムを外掛け1質量%未満、添加する。上記窒化珪素鉄の添加により、焼結が進行して収縮することにより膨張が抑制される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ原料が5質量%以上35質量%以下、
マグネシア原料が0.5質量%以上5質量%以下、
スピネル原料が55質量%以上85質量%以下、
炭素原料が1質量%以上10質量%以下であり、
上記原料の合計100質量%に対し、
窒化珪素鉄を外掛け0.5質量%以上10質量%以下、
金属アルミニウムを外掛け1質量%未満、添加することを特徴とするランス用キャスタブル耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼処理用ランスパイプに適用するキャスタブル耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼・非鉄金属分野で溶融金属の精錬処理のために必要なガスを溶鋼に導くために使用されるランスは、当該ランスの芯金の先端の噴出口の付近を耐火物で覆った構造となっている。当該耐火物はキャスタブル耐火物による流し込み施工によって前記噴出口付近に被覆される。
【0003】
前記ランスは、下降して取鍋中の高温の溶融金属に浸漬してガスを吹き込み、吹込みが終わると上昇して自然冷却するため、前記噴出口付近の耐火物は加熱と冷却の温度変化のある環境で繰り返し使用され、銑鉄やスラグへの高い耐食性が要求される。
【0004】
本発明のランスは、このような形状や使用条件であるため、高炉樋メタルライン材や溶銑鍋の内張り用耐火物よりも高い耐スポーリング性が要求される。しかし、スポーリング性が高すぎると亀裂が発生した際に亀裂が伸展する問題も発生するため、亀裂を防ぐことも重要視される。
【0005】
特許文献1に、耐火原料100質量%に占める割合で、粒径1mm以上のマグネシア原料を15質量%以上50質量%以下、粒径1μm以上10μm以下のアルミナ微粉を2質量%以上15質量%以下、粒径1μm未満のシリカ超微粉を1質量%以上8質量%以下、それぞれ含有する不定形耐火物が開示されている。
【0006】
前記不定形耐火物において粒径1mm以上のマグネシア原料の含有量をA質量%としたとき、耐火原料100質量%に占める割合で、粒径1mm未満のマグネシア原料の含有量はA/10質量%以下(0を含む。)である。
【0007】
また、前記耐火原料中の粒径1mm未満の原料で構成した耐火物の膨張率が1000℃で0.6%以下である。
【0008】
また、特許文献2に、Alおよび/またはAl合金をAl換算で5~80質量%(但し、金属合計量が80質量%を超えない。)含むピッチ粒0.5~10質量%、カーボンブラック0.01~7質量%、残部がアルミナおよび炭化珪素を主材とした耐火性骨材に、結合剤及び分散剤を配合してなる溶銑用不定形耐火物、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許7032084
【特許文献2】特開2003-073175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、マグネシア原料を含有する不定形耐火物の耐熱衝撃性を向上させたものであるが、LFランス(APランスを含む)の場合、ランス先端部の耐火物マトリックス部が先行的に摩耗する場合があり、ランスの寿命向上のためには耐食性を向上させる必要がある。
【0011】
特許文献2は、耐摩耗性および耐食性に優れた効果を発揮する高耐用性の溶銑用不定形耐火物であるが、ランスに適用した場合、亀裂の抑制に課題がある。
【0012】
そこで本発明の課題は、ランス用耐火物の耐食性を向上しつつ、線変化率を低減し亀裂を抑制するランス用キャスタブル耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の不定形耐火物は、アルミナ-マグネシア質のランス用キャスタブル耐火物に、窒化珪素鉄、金属アルミニウム、炭素原料を含むことを特徴とする。
【0014】
耐火物骨材としては、アルミナ原料が5質量%以上35質量%以下、マグネシア原料が0.5質量%以上5質量%以下で、更にスピネル原料が55質量%以上85質量%以下である。この耐火物骨材に炭素原料が1質量%以上10質量%以下添加される。
【0015】
上記原料の合計100質量%に対し、窒化珪素鉄を外掛け0.5質量%以上10質量%以下、金属アルミニウムを外掛け1質量%未満、添加する。
【発明の効果】
【0016】
窒化珪素鉄の添加により、焼結が進行して収縮することにより膨張が抑制される。また、以下に説明するように、SiCの生成により耐スラグ性が向上する。更に、反応過程で生成される窒素ガスと金属アルミニウムの反応により生成される窒化アルミが気孔を埋めることにより耐食性が向上する。この結果、アルミナとマグネシア原料を使用する場合でも、線変化率を抑制させることができ、結果として亀裂を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<基本的事項>
アルミナ-マグネシア質耐火物に、窒化珪素鉄と金属アルミニウムと炭素原料を含むと、窒化珪素鉄が1300℃以上で下記の式(1),(2)で示す反応を起こす。
【0018】
3Fe+Si3N4→3FeSi+2N2(g)・・・・・・(1)
FeSi+C→SiC+Fe・・・・・・・・・・・・(2)
上記式(2)で示すSiCを生成することで、アルミナ-マグネシア質耐火物の耐スラグ性が向上する。また、窒化珪素鉄が適度に焼結することで、組織が緻密になり、スラグへの耐食性が向上する。そして、式(1)で発生したN2ガスと金属アルミニウムが反応して以下の式の反応により窒化アルミが生成すると考えられる。
【0019】
2Al+N2→2AlN・・・・・・・・・・・・・(3)
この反応により、生成した窒化アルミが気孔を埋めることで、耐火物の組織はより緻密になり、線変化率を抑制させることができるとともに耐食性が向上する。
【0020】
<アルミナ-マグネシア質原料>
本発明のランス用キャスタブル耐火物は、骨材に、アルミナ原料、マグネシア原料、スピネル原料を使用する。配合量は、アルミナ原料を5質量%~35質量%、マグネシア原料を0.5質量%~5質量%、スピネル原料を55質量%~85質量%、とすることが好ましい。
【0021】
<炭素原料>
前記炭素原料の含有量は、耐火原料100質量%に占める割合で、1質量%以上10質量%以下である。1質量%より少ないと、前記式(2)でのSiC生成不足による耐食性が不十分となる。一方で、10質量%より多いと、稼働面の酸化が進みやすくなり、稼働面組織が脆化することで、耐食性が低下する。
【0022】
炭素原料が、ピッチ原料であると、水に対する濡れ性が良好で、混練時の流動性確保やカーボンボンド生成による熱間強度が向上するため好ましい。また、粒度は3mm以下であると、組織全体に比較的分散し、かつ、乾燥時のピッチの揮発性物質の揮発による組織の亀裂を抑制するため好ましい。
【0023】
<窒化珪素鉄>
前記窒化珪素鉄の含有量は、耐火原料100質量%に占める割合に対し、外掛けで0.5質量%以上10質量%以下であり、好ましくは2~7質量%である。0.5質量%未満だと、炭素原料との反応によるSiC生成が十分に進まないほか、焼結による組織の緻密化が起こらないため、スラグへの耐食性向上の効果が得られない。
【0024】
一方で、10質量%より多いと、混練時の添加水分量が増加するため、耐食性が低下する。窒化珪素鉄の粒径は、粒径100μm以下、さらに好ましくは45μm以下であり、この粒径であると粒子が全体に分散し、組織が均一に焼結するため好ましい。
【0025】
<金属アルミニウム粉(金属アルミニウム)>
金属アルミニウムの含有量は、外掛け1質量%未満である。1質量%以上であると、発生する水素ガスの量が多くなり、養生時に施工体への亀裂が入るため好ましくない。金属アルミニウム粉の粒径は、100μm以下であると原料が組織全体に均一に分散されるため好ましい。
【0026】
<結合剤>
本発明のキャスタブル耐火物は、アルミナセメント、ケイ酸塩、リン酸塩等のバインダーが使用可能である。アルミナセメントを使用する場合、耐食性維持のため含有量は耐火原料100質量%に占める割合で、5質量%以下であることが好ましい。
【0027】
その他の原料として、シリカ原料や粘土原料、分散剤を使用することもでる。また、硬化調整剤は、製造環境に応じて添加量を適宜調整し、使用することができる。
【実施例0028】
以下に試験方法を説明する。試験片は、表の各原料を配合率に従って配合し、その配合に対してJIS R 2553に準拠し水を添加し、万能ミキサーで混錬したものを混練物として得た。
【0029】
<線変化率>
各配合の混練物を、40mm×40mm×160mmの型枠に流し込み、20℃で24時間養生後、110℃で24時間乾燥した。脱枠後にこれを試験片として長さを測定し、1500℃で3時間加熱した後の長さを測定し、JIS R 2554に準拠して線変化率を算出した。
【0030】
線変化率の評価は、
優:0.6未満、
良:0.6以上~0.75未満、
可:0.75以上~0.85未満、
不可:0.85以上、と評価した。
【0031】
<耐食性>
各配合の混練物を、40mm×40mm×160mmの型枠に流し込み、20℃で24時間養生後、110℃で24時間乾燥した。脱枠後にこれを試験片とし、合成スラグ(CaO/SiO2=4.4)を用いて、1650℃で5時間のスラグ回転侵食試験を実施し、溶損量を測定後、侵食指数を算出した。浸食指数は、比較例1の溶損量を基準として100とし、指数で算出したものである。
【0032】
侵食指数の評価は、
優:90未満、
良:90以上~100以下、
可:100以上~105以下、
不可:105超え、と評価した。
【0033】
なお、侵食指数は耐食性の指標であり、侵食指数の値が小さいほど耐食性に
優れることを示す。
【0034】
<総合評価>
総合評価は、以下の基準により、3段階で評価した。
【0035】
優:評価項目がどちらも優の場合、
良:評価項目が、優と良、あるいは、良と良の組み合わせの場合、
可:評価項目が、優と可、あるいは、可と可の組み合わせの場合、
不可:評価項目に1つでも不可がある場合。
【0036】
<配合と結果>
表1に本発明の実施例の原料配合と、結果を示す。
【0037】
【0038】
アルミナ原料として、Al2O3が98質量%以上の焼結及び電融アルミナを使用した。マグネシア原料として、MgOが98質量%のマグネシアクリンカーを使用した。スピネル原料として、Al2O3が75~92質量%、MgOが5~25質量%の焼結及び電融スピネルを使用した。炭素原料として、ピッチと鱗状黒鉛を使用した。バインダーとしてアルミナセメントを使用した。金属アルミニウムは、200M(メッシュ)を通過するものを使用した。窒化珪素鉄は市販のものを使用した。
【0039】
実施例1~9は、本発明の範囲内で金属アルミニウムと窒化珪素鉄の配合量を変化させたものであり、1500℃焼成後の線変化率の抑制と耐食性に優れる結果となった。
【0040】
比較例1は、耐食性の評価のべース配合である。窒化珪素鉄の添加で線変化率が低かったものの、金属アルミニウムの添加がないので耐食性が劣る結果となった(式(2)参照)。これに対して比較例3は窒化珪素鉄を添加しない例であり、耐食性に優れるが線変化率が劣る。すなわち、線変化率と耐食性の両立を図るには、窒化珪素鉄と金属アルミニウムの添加が必要である。
【0041】
比較例2は、金属アルミニウムの添加量を1質量%に増やした例で、養生時のガス発生量増加により微細な亀裂が発生し、結果として、比較例1と比較し耐食性が低下したと考えられる。
【0042】
次に、本発明の範囲内で金属アルミニウムと窒化珪素鉄の配合量を固定し、他の原料の配合率を変化させた実施例を、表2に示す。
【0043】
【0044】
表2の実施例10~16に示すアルミナ-マグネシア原料は、いずれもランス用キャスタブル耐火物として使用できる結果を示している。