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▶ 品川リフラクトリーズ株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108282
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
C04B35/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012569
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】金川 拓馬
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不定形耐火物混練時の添加水量増加が少なく、流し込みに適した流動性を維持し、耐食性低下を引き起こさず、耐爆裂性に優れる不定形耐火物を提供する。
【解決手段】耐火原料および結合剤の混合物に、黄麻を添加した不定形耐火物である。前記黄麻の繊維長は1mm~10mmであり、より好ましくは1mm~5mmである。前記黄麻の量は、前記耐火原料および結合剤の混合物100質量%に対し外掛け0.01質量%以上0.5質量%以下である。これにより、不定形耐火物混練時の添加水量増加が少なく、流し込みに適した流動性を維持し、耐食性低下を引き起こさず、耐爆裂性に優れる不定形耐火物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料および結合剤の混合物に、黄麻を添加した不定形耐火物。
【請求項2】
前記黄麻の繊維長が1mm~10mmであり、より好ましくは1mm~5mmである請求項1の不定形耐火物。
【請求項3】
前記黄麻の量は、前記耐火原料および結合剤の混合物100質量%に対し外掛け0.01質量%以上0.5質量%以下である請求項1または請求項2の不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不定形耐火物に関し、特に流し込み不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
流し込み不定形耐火物は、水で混練して型枠に流し込み、硬化後乾燥して使用される。ところが、上記の施工体には水分が残存しているので、高温の炉として使用する前に、前記水分を乾燥除去する必要がある。
【0003】
乾燥時に当然加熱されるのであるが、高温で加熱すると水蒸気圧の増大により爆裂が発生することがあることから、特許文献1、特許文献2に開示するように各種合成繊維、天然繊維を添加し、通気性を向上する手法が知られている。
【0004】
ところが、前記特許文献1に用いる各種合成繊維では、添加水分量の増大をもたらし、また100℃以上での加熱を必要とするところから、爆裂性の向上は期待できない。また、特許文献2に使用するポリビニールアルコールは50℃程度の溶解温度を持つが、溶解速度の観点での難点がある。
【0005】
そこで、特許文献3でのオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコ-ル系樹脂である温水可溶性繊維を添加することが提案されている。
【0006】
すなわち、「耐火材料と結合剤との合量100重量%に対し、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコ-ル系樹脂から製造される温水可溶性繊維を0.01~1.0重量%添加する。」である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-10079号公報
【特許文献2】特開平04-42867号公報
【特許文献3】特開平07-48179号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】堀田佳江,他3名,“靭皮繊維の識別”,関税中央分析所報 第48号 p.73-75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
流し込み不定形耐火物に繊維を添加すると通気性は向上し、爆裂性を改善することができるが、一方で流し込み不定形耐火物混練時の添加水量が増加し、流動性が低下する。その結果気孔率が増大し施工体の耐食性が低下する。また、特許文献3に開示された温水可溶性繊維の場合、水に溶解しやすいため流し込み不定形耐火物の粘性が増大し流動性を低下させる。
【0010】
本発明は、上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、不定形耐火物混練時の添加水量増加が少なく、流し込みに適した流動性を維持し、耐食性低下を引き起こさず、耐爆裂性に優れる不定形耐火物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は耐火原料および結合剤の混合物に、黄麻を添加した不定形耐火物である。前記黄麻の繊維長は1mm~10mmであり、より好ましくは1mm~5mmである。
【0012】
前記黄麻の量は、前記耐火原料および結合剤の混合物100質量%に対し外掛け0.01質量%以上0.5質量%以下である。
【発明の効果】
【0013】
上記により、不定形耐火物混練時の添加水量増加が少なく、流し込みに適した流動性を維持し、耐食性低下を引き起こさず、耐爆裂性に優れる不定形耐火物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<基本的事項>
前記したように、流し込み不定形耐火物の製造時の爆裂を防止する目的で、各種繊維を添加し、通気性を向上させることが行われている。
【0015】
各種繊維の内、有機合成繊維は、その種類によって大小はあるものの混練水量が増大し、流し込みに適した流動性を確保できない欠点がある。一方天然繊維については、特許文献3に麻、綿、パルプ等の天然の有機繊維の使用を示唆があるが(段落0006)、具体的な種類や特性値に関しては検討されていない。
【0016】
上記パルプを含む天然の有機繊維の多くは繊維が絡み合った塊(ダマ)の状態で存在し、不定形耐火物に混合するとしても、混錬時に分散し難く作業性が低下する。また、羊毛のように水をはじく繊維も作業性を低下させることになる。
【0017】
多くの天然繊維の内、麻は比較的塊(ダマ)になり難く上記課題を解決するための用途に適用しやすい。
【0018】
麻と言っても多種があり、亜麻(あま)、苧麻(ちょま)、黄麻(こうま)、洋麻(ようま)、大麻(たいま)、マニラ麻、サイザル麻等が知られている。
【0019】
各種の麻について詳細に検討した結果、ペクチンを含有しない黄麻の添加が上記課題を解決するために顕著に有効であるとの認識に至り、さらに黄麻の特性値や添加量について検討した(先行技術文献の非特許文献参照)。
【0020】
前記ペクチンは水溶性である上、繊維同士を糊付けする役割を持つ成分である。ペクチンを含有しない黄麻は、繊維同士が解れやすく、混練時に材料全体に広がりやすい。材料の乾燥時、吸水した繊維の収縮により、繊維同士が連続した部分で連通気孔が形成され、材料の通気性が向上すると考えられるが、黄麻は他の繊維に比べて材料中に広がりやすく、繊維同士が連続する部分を形成しやすいために、大きく通気性が向上すると考えられる。
【0021】
以上の観点から、本発明の不定形耐火物は、耐火原料および結合剤の混合物に、黄麻を所定量添加することとした。
【0022】
<黄麻>
本発明の不定形耐火物は、爆裂防止剤として黄麻から得られる繊維を使用するところに特徴を有する。黄麻は、田麻科(しなのきか)に属する一年草の植物である。各種麻の識別は、例えば非特許文献1によることができる。上記のように黄麻は吸水性があるが、ペクチンを含有しないので溶解性はない。また他の種類の麻に比べても、流し込み不定形耐火物の混練水量増大を引き起こさない。
【0023】
繊維長は1mm~10mmが好ましい。1mm~10mmであれば、混練水量が大きく増加することがないため、耐食性の低下を引き起こすことなく、耐爆裂性を向上させることができる。より好ましくは1mm~5mmである。
【0024】
繊維径は5μm~50μmが好ましい。50μmを超えると、同一重量での本数が少なく、十分な通気孔を形成できず、耐爆裂性が低下するため好ましくない。5μm未満では、同一重量での本数が多くなり、流動性が低下し、施工性が悪化するため好ましくない。より好ましくは10μm~30μmである。
【0025】
添加量は耐火原料と結合剤の合計100質量%に対して、外掛けで0.01質量%~0.5質量%が好ましい。0.01質量%~0.5質量%では、混練水量が大幅に増加することがないため、耐食性の低下を引き起こすことなく、耐爆裂性を向上させることができる。より好ましくは、0.05質量%~0.3質量%である。
【0026】
上記に示した好適な範囲を選択すれば、流し込みに適した流動性を維持し、耐食性低下を引き起こさず、耐爆裂性に優れる不定形耐火物が得られる。
【0027】
<耐火原料>
耐火原料の種類は特に限定されず、不定形耐火物に一般的に使用される原料であればよい。例えば、アルミナ原料、アルミナ-シリカ原料、シリカ原料、粘土原料、スピネル原料、マグネシア原料、ジルコン原料、ジルコニア原料、炭化珪素原料、カーボン原料等を使用できる。
【0028】
また、耐火原料の粒度も特に限定されないが、本発明の耐爆裂性キャスタブルに所定の流動性を付与することができる適切な粒度構成とすることが好ましい。例えば、耐火性原料の粒度構成を、1mm以上の粒子35~65質量%、好ましくは40~60質量%、0.1mm以上1mm未満の粒子5~35質量%、好ましくは10~30質量%、0.1mm未満の粒子15~45質量%、好ましくは20~40質量%とすることができる。
【0029】
<結合剤>
結合剤の種類は特に限定されず、不定形耐火物に一般的に使用されるものであればよい。例えば、アルミナセメント、ストロンチウムセメント、コロイダルシリカ、アルミナゾル、オキシカルボン酸のアルミニウム塩、珪酸ソーダ等が例示できる。
【0030】
<その他の添加物>
本発明の不定形耐火物には、金属アルミニウム、金属シリコン等の金属添加物、ポリリン酸塩、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸等の分散剤、酸化ホウ素、カルボン酸類、炭酸リチウム、消石灰等の硬化調整剤、ステンレスファイバー等の亀裂抑制材等、通常不定形耐火物に添加しうる添加材を使用する事もできる。また、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、酢酸カルシウム、セピオライト等、増粘効果を有する添加材を使用する事もできる。
【実施例0031】
表1に本願発明品の配合を示す。実施例では繊維径15μm、繊維長1mm、2mm、5mmの黄麻を耐火物原料と結合剤100質量%に対して外掛けで、各0.05質量%、0.1質量%、0.3質量%、使用した。また、繊維径5μm、繊維長5mmの黄麻を前記と同様の100質量%に対して外掛けで、0.1質量%、0.3質量%、更に、繊維径30μm、繊維長2mmの黄麻を前記100質量%に対して外掛けで、0.05質量%、0.2質量%使用した。
【0032】
表2に示す比較例では、繊維を添加しない基準例(比較例1)と、長さの異なる2種のサイザル麻(2mm:比較例2~4、5mm:比較例5~7)、ビニロン繊維(3mm:比較例8~10)、ポリエステル繊維(5mm:比較例11.12)、ナイロン繊維(5mm:比較例13,14)を使用した。
【0033】
耐火原料として炭化けい素、アルミナ、窒化珪素、シリカフラワー、カーボンブラックを使用した。結合剤にはアルミナセメントを使用した。
【0034】
各配合に水を加えてミキサーで混練し、JIS R2521に準じて測定したタップフロー値が150mm±10mmとなるように水量を調整した。
【0035】
得られた不定形耐火物について、30℃における混練水量、40℃における流動性、および、耐爆裂性、耐食性を評価し、これらに基づき総合評価を行った。
【0036】
<混練水量>
流し込み不定形耐火物を混練した際に必要な混練水量により評価を行った。繊維無添加とした比較例1を基準として混練水量が増加しなかったものをA、混練水量の増加が0.3質量%以下のものをB、0.3質量%超0.5質量%以下のものをC、0.5質量%超をDと評価した。
【0037】
<流動性>
より厳しい条件における流動性を評価するため、真夏におけるミキサー混練後の材料の最高練上がり温度を想定し、40℃におけるタップフロー値を測定した。40℃におけるタップフロー値が30℃におけるタップフロー値より大きいものをA、40℃におけるタップフロー値が30℃におけるタップフロー値よりも5mm以下低下するものをB、同様に10mm以下低下するものをC、10mm以上低下するものをDと評価した。
【0038】
<耐爆裂性>
表1に示す配合に混練水を加えてミキサーで混練後、直径80mm×高さ80mmの型枠に流し込み、30℃で24時間養生後、脱枠して試料を得た。
【0039】
耐爆裂性の評価は、前記の試料を所定の温度に保持した電気炉に投入し、爆裂の有無を確認することにより決定した。爆裂限界温度は、爆裂が発生した電気炉雰囲気温度から-100℃とした。爆裂限界温度が比較例1より400℃以上高いものをA、200℃以上高いものをB、100℃以上高いものをC、変わらないものをDとした。
【0040】
<耐食性>
耐食性は溶融スラグに対する耐溶損性から評価した。試験方法は回転ドラム法、試験温度は1600℃とし、侵食材としてCaO/SiO=1.2(質量比)のスラグを用いた。繊維無添加とした比較例1の侵食指数を100とし、100未満をA、100以上110未満をB、110以上120未満をC、120以上をDと評価した。なお、侵食指数は小さい程耐食性に優れていることを示す。
【0041】
<総合評価>
総合評価は、常温における流動性、高温における流動性、耐爆裂性、耐食性のうち、全てがAもしくはBであった場合を「A」、1つ以上Dがあった場合を「C」、それ以外を「B」として評価した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
冒頭に記述したように、ビニロン等の合成繊維はおおむね水分量が増加し、繊維無添加に比べて流動性、爆裂性、耐食性に劣る傾向があり、総合評価は当然低くなる。
【0045】
本発明品ではすべての指標においてB以上、総合評価でAを獲得しているが、比較例ではより評価が低くなっている。注目すべきは、天然繊維であり、「麻」であっても、サイザル麻の場合、十分な細孔が形成されないせいか、爆裂性の指標が低くなっている。