(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108283
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】摺動シート及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240805BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G15/00 550
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012571
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 賢司
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】三井 智史
(72)【発明者】
【氏名】脇中 敏
(72)【発明者】
【氏名】大本 昇
(72)【発明者】
【氏名】栗林 良和
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BB02
2H033BB39
2H033BE03
2H171FA24
2H171FA26
2H171GA20
2H171QC37
2H171QC40
2H171TA02
2H171TA07
2H171TA15
2H171TA18
2H171UA03
2H171UA12
2H171UA20
2H171VA02
2H171VA04
2H171VA06
(57)【要約】
【課題】優れた摺動性を有し、かつ、ステックスリップ現象が発生することを効果的に抑制し、さらに画像性を向上させることができる摺動シート及び摺動部材を提供する。
【解決手段】画像形成装置が備える摺動部材に使用される摺動シートであって、摺動層と、繊維構造層とを備え、前記摺動層は、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂を含有し、その膜厚は、40μm以上145μm以下であり、表面粗さ(Ra)は、1.2μm以上2.5μm以下であることを特徴とする摺動シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置が備える摺動部材に使用される摺動シートであって、
摺動層と、繊維構造層とを備え、
前記摺動層は、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂を含有し、その膜厚は、40μm以上145μm以下であり、表面粗さ(Ra)は、1.2μm以上2.5μm以下であることを特徴とする摺動シート。
【請求項2】
放熱抑制層を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の摺動シート。
【請求項3】
前記摺動層は前記繊維構造層上に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の摺動シート。
【請求項4】
前記繊維構造層は、ガラスクロスであることを特徴とする請求項1に記載の摺動シート。
【請求項5】
断面視において前記摺動層の表面には凸部と凹部とが交互に形成されており、
一部の前記凸部は、高さが5μm以上の高凸部であり、
互いに隣接する前記高凸部間の長さは300μm以下であり、
前記高さは、前記凸部の頂点から前記凸部の両隣の前記凹部を結んだ直線までの長さである、請求項1に記載の摺動シート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の摺動シートと、液晶ポリマーから形成される部材本体とを備えることを特徴とする摺動部材。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の摺動シートと、液晶ポリマーから形成される部材本体と、前記摺動シートと前記部材本体との間に部分的に設けられ、前記摺動シート及び前記部材本体を貼着する粘着層とを備えることを特徴とする摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動シート及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からプリンターや複写機、ファクシミリ、複合機等の画像形成装置が知られている。この画像形成装置は、紙などの記録媒体上にトナー画像を定着させるための定着装置を備えており、該定着装置は、例えば、
図6に示すように、互いに対向して共に回転するローラー101,102および無端状の定着ベルト103と、当該定着ベルト103の内周面側に配置される押圧部材104と、押圧部材104と定着ベルト103との間に配置される摺動部材105とを備えている。押圧部材104は、摺動部材105を介して定着ベルト103をローラー102に対して押圧する。定着ベルト103とローラー102との間には、ニップ部Nが形成され、紙等の記録媒体Zは当該ニップ部Nに導かれ、記録媒体上のトナー画像は、ニップ部Nにおいて加熱および加圧されることにより記録媒体Z上に定着される。
【0003】
摺動部材105は、定着ベルト103の摺動抵抗を減らす目的で設けられる部材であり、例えば、その表面にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)から形成される摺動シート106を備えて構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の摺動部材(摺動シート)は回転体である定着ベルトに押し付ける部材であるため高い摺動性が求められ、このような高い摺動性を得るためには、摺動シートにおける表面粗さを大きく(粗く)することにより対応することができるが、表面粗さが大きくなるとステックスリップといわれる現象(振動現象、異音を伴う場合もある)が発生してしまい表面粗さを大きくすることに限界があるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたものであり、優れた摺動性を有し、かつ、ステックスリップ現象が発生することを効果的に抑制し、さらに画像性を向上させることができる摺動シート及び摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、画像形成装置が備える摺動部材に使用される摺動シートであって、摺動層と、繊維構造層とを備え、前記摺動層は、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂を含有し、その膜厚は、40μm以上145μm以下であり、表面粗さ(Ra)は、1.2μm以上2.5μm以下であることを特徴とする摺動シートにより達成される。
【0008】
上記摺動シートにおいては、放熱抑制層を更に備えることが好ましい、
【0009】
また、前記摺動層は前記繊維構造層上に積層されていることが好ましい。
【0010】
また、前記繊維構造層は、ガラスクロスであることが好ましい。
【0011】
また、断面視において前記摺動層の表面には凸部と凹部とが交互に形成されており、一部の前記凸部は、高さが5μm以上の高凸部であり、互いに隣接する前記高凸部間の長さは300μm以下であり、前記高さは、前記凸部の頂点から前記凸部の両隣の前記凹部を結んだ直線までの長さであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の上記目的は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の摺動シートと、液晶ポリマーから形成される部材本体とを備えることを特徴とする摺動部材により達成される。
【0013】
また、本発明の上記目的は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の摺動シートと、液晶ポリマーから形成される部材本体と、前記摺動シートと前記部材本体との間に設けられ、前記摺動シート及び前記部材本体を貼着する粘着層とを備えることを特徴とする摺動部材により達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた摺動性を有し、かつ、ステックスリップ現象が発生することを効果的に抑制し、さらに画像性を向上させることができる摺動シート及び摺動部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る摺動シートの一実施形態に係る概略構成断面図である。
【
図2】本発明に係る摺動部材の一実施形態に係る概略構成断面図である。
【
図3】
図1に係る摺動シートの変形例に係る概略構成断面図である。
【
図4】
図1に係る摺動シートの他の変形例に係る概略構成断面図である。
【
図5】摺動シートの断面における表面形状の一例を示す図である。
【
図6】画像形成装置が備える定着装置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る摺動シート1及び摺動部材10について添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。
【0017】
本発明に係る摺動シート1は、
図1の概略構成断面図に示すように、摺動層2、繊維構造層3、及び、放熱抑制層4を備えている。摺動層2は、繊維構造層3の一方面側に積層され、放熱抑制層4は、繊維構造層3の他方面側に積層されている。
【0018】
摺動層2は、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂を含むシート状部材である。ポリエーテル芳香族ケトン樹脂として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂等を好ましく用いることができる。この摺動層2は、例えば、PEEK樹脂をチューブ状に溶融押出ししつつ、チューブ状に成型した製品を巻き取る際にチューブの押出方向一点に片刃をセットすることでチューブを切り開いてシート状にして巻き取り、その後、所定の大きさに切り出すことにより形成することができる。
【0019】
より具体的には、溶融押出機のホッパにPEEK樹脂を投入し、環状ダイスを用いて溶融押出しし、押し出されたチューブ状樹脂の内面を、径を規制する径規制治具に接触させる。径規制治具の材質は、例えば、真鍮などの金属からなり、チューブ状樹脂と接触する面は任意の加工が施されていてもよい。径規制治具の内部には冷却用の水が通過(循環)しており、押し出されたチューブ状溶融樹脂と接触して急冷できるようになっている。これにより径及び膜厚が定まったチューブ体を得ることができ、上記のようにチューブ状に成型した製品を巻き取る際にチューブの押出方向一点に片刃をセットしてチューブを切り開くことによりシート状の摺動層2が得られる。なお、径規制治具の温度としては、通常10℃~90℃程度の範囲に保持することが好ましい。また、上述のように、PEEK樹脂をチューブ状に溶融押出ししつつ、チューブを切り開いてシート状に形成する代わりに、溶融押出機によって直接的にシート状の形態を有するように成型することも可能であるが、このように直接的にシート状に成型するとシート両端部の膜厚精度が低くなる可能性が高くなり、製品カットによるロスが多くなることが懸念されるため、PEEK樹脂をチューブ状に溶融押出ししつつ、チューブを切り開いてシート状に形成する方法がより好ましい。
【0020】
ここで、摺動層2の表面粗さ(算術平均粗さRa)を調整するために、溶融押出機のホッパに投入されるPEEK樹脂には、予め複数のフィラーが配合されている。PEEK樹脂に添加されるフィラーの量や、フィラーの平均粒子径等を変更することにより摺動層2の表面粗さ(算術平均粗さRa)を制御することができる。つまり、フィラーの平均粒子径を大きくする、或いは添加量を多くすることで摺動層2の表面粗さ(Ra)を大きくすることができ、フィラーの平均粒子径を小さく、或いは添加量を少なくすることで摺動層2の表面粗さ(Ra)を小さくすることができる。PEEK樹脂に添加配合されるフィラーとしては粒子状フィラー、鱗片状フィラーあるいは繊維状フィラーのいずれを採用してもよい。このようなフィラーとしては、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、クレー、カオリン、ハイドロタルサイト、シリカ、アルミナ、フェライト、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ニッケル、ガラス粉、石英粉末、ガラス繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、熱硬化性樹脂等の絶縁性フィラーや、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、金属粉末、導電性金属酸化物(導電性酸化チタン、導電性酸化錫、導電性マイカ等)、イオン性導電剤等の導電性フィラーを用いることができる。なお、上記各材料のフィラーから1種選択して使用してもよく、あるいは複数種類のフィラーを混合して使用してもよい。また、PEEK樹脂に添加されるフィラーの含有量としては、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、5重量部~40重量部の範囲に設定することが好ましく、15重量部~30重量部に設定することがより好ましい。また、使用するフィラーとして粒子状フィラーあるいは鱗片状フィラーを採用する場合、その平均粒子径は、1.0μm~5.0μmの範囲に設定することが好ましい。また、使用するフィラーとして繊維状フィラーを採用する場合、その平均繊維径は、0.2μm~1.0μmの範囲に設定することが好ましく、平均繊維長さは、10μm~20μmの範囲に設定することが好ましい。
【0021】
摺動層2の一方面側に配置される繊維構造層3は、例えば、繊維織物や繊維編物、繊維不織布から構成される層であり、耐熱性を有する繊維材料から形成されることが好ましい。このような繊維構造層3としては、ガラス繊維から形成されるガラスクロス(ガラス繊維織物)を好適に例示することができる。なお、ガラスクロスの他に、炭素繊維クロス等も好適に使用することもできる。この繊維構造層3の厚みは、特に限定されないが、摺動シート1の寸法安定性、強度向上の観点から、例えば15μm~50μm程度の寸法に設定することが好ましい。
【0022】
繊維構造層3の他方面側に配置される放熱抑制層4は、摺動シート1の放熱ロスを抑制するために設けられる層であり、例えば、フッ素系樹脂から形成されるシート体を採用することが好ましい。フッ素系樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)等を挙げることができる。この放熱抑制層4の厚みについても、特に限定されないが、例えば、15μm~50μm程度の寸法に設定することが好ましい。なお、この放熱抑制層4については省略して摺動シート1を構成してもよい。
【0023】
上記構成の摺動シート1は、例えば、繊維構造層3に対してランカップリング剤を塗布し、プラズマ処理にて表面処理を施した後、エポキシ系接着剤を塗布し、当該繊維構造層3の一方面側にシート状の摺動層2を、他方面側にシート状の放熱抑制層4を重ね合わせ、加熱しつつ(例えば、220℃程度に加熱)、ピンチロールにて加圧ピンチ(例えば、圧力2GPa程度)して形成することができる。なお、エポキシ系接着剤は反応硬化型の接着剤であり、繊維構造層3の繊維内に含浸されて熱によって硬化反応する。
【0024】
また、本発明に係る摺動部材10は、
図6に示すように、画像形成装置が有する定着装置が備える定着ベルト103の内周側に配置され、定着ベルト103をローラー102に対して押圧する部材であり、
図2の概略構成断面図に示すように、上記構成の摺動シート1と部材本体11とを備えて構成される。部材本体11は、例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルファイド、ポリイミド等の樹脂や、アルミニウムや鉄等の金属、セラミック等から構成される。また、その形状は任意であり、特に限定されない。摺動シート1は、部材本体11の裏側に引っ掛け周囲を巻回して配置されており、また、摺動シート1と部材本体11との間には部分的に粘着層を配置して、当該粘着層によって摺動シート1と部材本体11とが貼着されてもよい。粘着層を構成する材料としては特に限定されず、例えば、アクリル系、ウレタン系、天然ゴム系の粘着剤あるいはこれら粘着剤を複数混合した粘着剤を採用することができる。なお、
図2に示すように、部材本体11の周囲を摺動シート1が巻回するような構成に限定されず、定着ベルト103との当接面部にのみ摺動シート1を配設するように構成してもよい。
【0025】
以上、本発明に係る摺動シート1及び摺動部材10について説明したが、摺動シート1や摺動部材10の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記にて説明したように摺動層2、繊維構造層3及び放熱抑制層4の積層体を加熱しながら加圧して互いに貼り合わせる方法の他、例えば、
図3の概略構成断面図に示すように、シート状の摺動層2と繊維構造層3とを接着層5を介して互いに貼着するようにして形成することもできる。同様に、繊維構造層3と放熱抑制層4とを接着層6を介して互いに貼着するようにして形成することもできる。接着層5,6を構成する接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤やシリコーン系接着剤を採用することができる。また、接着層5,6の厚みは、特に限定されないが、例えば、2μm~30μm程度の寸法に設定することが好ましい。
【0026】
また、シート状の摺動層2を繊維構造層3に積層する代わりに、
図4の概略構成断面図に示すように、繊維構造層3の表面にPEEK樹脂(フィラーが添加されたPEEK樹脂)を直接塗布することにより摺動シート1を構成してもよい。なお、
図4においては放熱抑制層4を省略して記載している。繊維構造層3の表面にPEEK樹脂を塗布する方法は特に限定されず、フィラーが添加されたPEEK樹脂コート剤中に繊維構造層3を浸漬することにより塗布する方法、或いは、フィラーが添加されたPEEK樹脂コート剤を繊維構造層3に噴霧して塗布する方法等を採用することができる。
【0027】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
摺動シート1の製造
以下の手順で、
図1に示す構造の摺動シート1を製造した。
【0029】
(摺動層2)
PEEK樹脂(ビクトレックス株式会社製 品番:450G)にフィラー(大塚化学株式会社製 品番:ティスモD)を添加して、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物を形成し、当該混合組成物を溶融押出機に投入し、加熱温度380℃にてペレタイズを行う。次に上記混合組成物を環状ダイスを用いて溶融押出しすることによりチューブ状樹脂を形成し、その後、チューブ状樹脂の押出方向一点に片刃をセットすることでチューブを切り開いてシート状の摺動層2を得て、所定の大きさに切り出すことにより形成した。PEEK樹脂に添加されるフィラーは、平均繊維径が0.6μm、平均繊維長が15μmの繊維状フィラーであり、添加量は、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、30重量部とした。また、所定の大きさに切り出された摺動層2は平面視矩形状であり、その縦寸法は、50cm、横寸法は20cmとした。また、この摺動層2の厚みは、68μmである。
【0030】
(繊維構造層3)
繊維構造層として日東紡績株式会社製の品番:KS-1080のガラスクロスを用いた。この繊維構造層も平面視矩形状であり、その縦寸法は、50cm、横寸法は20cmとした。また、樹脂構成層(ガラスクロス)の厚みは、30μmである。
【0031】
(放熱抑制層4)
三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製の品番450HP-JのPFA樹脂を用いて、シート状の放熱抑制層4を形成した。この放熱抑制層4も平面視矩形状であり、その縦寸法は、50cm、横寸法は20cmとした。また、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、30μmである。
【0032】
(摺動層2、繊維構造層3及び放熱抑制層4の積層<摺動シート1の形成>)
繊維構造層3(ガラスクロス)の両面にランカップリング剤を塗布し、プラズマ処理にて表面処理を施した後、エポキシ系接着剤を塗布し、繊維構造層3の一方面側にシート状の摺動層2を、他方面側にシート状の放熱抑制層4を重ね合わせ、220℃ピンチロール(圧力2GPa)にてピンチして、摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、128μmである。ここで、摺動層2、繊維構造層3及び放熱抑制層4の厚みは、株式会社ミツトヨ製 マイクロメータにて測定した。
【0033】
<実施例2>
摺動層2を形成する際に、PEEK樹脂に添加されるフィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、25重量部とした点以外は、上記実施例1と同様な方法により実施例2に係る摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、127μmである。また、摺動層2の厚みは、67μmであり、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、31μmである。
【0034】
<実施例3>
摺動層2を形成する際に、PEEK樹脂に添加されるフィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、35重量部とした点以外は、上記実施例1と同様な方法により実施例3に係る摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、128μmである。また、摺動層2の厚みは、68μmであり、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、30μmである。
【0035】
<実施例4>
摺動層2を形成する際に、PEEK樹脂に添加されるフィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、30重量部とし、形成される摺動層2の厚みが41μmとした点以外は、上記実施例1と同様な方法により実施例4に係る摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、101μmである。また、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、30μmである。
【0036】
<実施例5>
摺動層2を形成する際に、PEEK樹脂に添加されるフィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、30重量部とし、形成される摺動層2の厚みを129μmとした点以外は、上記実施例1と同様な方法により実施例5に係る摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、189μmである。また、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、30μmである。
【0037】
<実施例6>
この実施例6に係る摺動シート1は、
図4に示すように、繊維構造層3の表面にPEEK樹脂(フィラーが添加されたPEEK樹脂)を直接塗布することにより形成した。PEEK樹脂として、ビクトレックス社製 品番:F807BLKのPEEKコート剤を用い、当該PEEKコート剤にフィラーを、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、30重量部添加し、このフィラーが添加されたPEEK樹脂中に繊維構造層3(ガラスクロス)を浸漬することにより形成した。繊維構造層3(ガラスクロス)は、実施例1に係るものと同じものを使用した。また、この実施例6においては、放熱抑制層4を設けない構成とした。得られた摺動シート1の厚みは、120μmである。なお、繊維構造層3(ガラスクロス)の両面に形成される摺動層2の厚みは、それぞれ45μmである。
【0038】
<比較例1>
摺動層2を形成する際に、PEEK樹脂に添加されるフィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、20重量部とした点以外は、上記実施例1と同様な方法により比較例1に係る摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、131μmである。また、摺動層2の厚みは、71μmであり、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、30μmである。
【0039】
<比較例2>
摺動層2を形成する際に、PEEK樹脂に添加されるフィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、40重量部とした点以外は、上記実施例1と同様な方法により比較例2に係る摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、135μmである。また、摺動層2の厚みは、75μmであり、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、31μmである。
【0040】
<比較例3>
摺動層2を形成する際に、PEEK樹脂に添加されるフィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、30重量部とし、形成される摺動層2の厚みが161μmとした点以外は、上記実施例1と同様な方法により比較例3に係る摺動シート1を形成した。得られた摺動シート1の厚みは、221μmである。また、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、30μmである。
【0041】
<比較例4>
摺動層2のみによって比較例4に係る摺動シートを形成した。この比較例4に係る摺動層2は、PEEK樹脂(ピクトレックス株式会社製 品番:450G)に、フィラーの添加量を、PEEK樹脂とフィラーとの混合組成物100重量部に対して、30重量部とし、上記実施例1における方法により形成した。摺動層2の厚み(摺動シートの厚み)は、65μmである。
【0042】
<比較例5>
PEEK樹脂(ピクトレックス株式会社製 品番:450G)のみにて摺動層2を形成し点以外は、上記実施例1と同様な方法により比較例5に係る摺動シートを形成した。得られた摺動シートの厚みは、128μmである。また、摺動層2の厚みは、68μmであり、放熱抑制層4(PFAシート)の厚みは、30μmである。
【0043】
<比較例6>
中興化成工業株式会社製 品番:FGF-300-6のPTFEシートを比較例6に係る摺動シートとした。この比較例6に係る摺動シートは、従来から使用されている摺動シートであり、その厚みは、133μmである。また、この比較例6に係る摺動シート(PTFEシート)の構造は、ガラスクロスの表面にPTFEコート層が形成される構成となる。
【0044】
上記実施例1~6、比較例1~6に係る各摺動シート1に関する摺動層2、樹脂構造層、及び、放熱抑制層4、並びに各摺動シート1の厚み寸法(全層厚)について表1にまとめて記載する。
【0045】
【0046】
また、上記実施例1~6、比較例1~6に係る各摺動シートついて、表面粗さ(算術平均粗さRa)、及び、厚み方向に関する熱伝導率を測定したので、測定結果を表2に記す。表面粗さ(Ra)の測定方法は、Surfcom1400G(東京精密株式会社製)を用いてJIS B0601:1994に準拠した。また、各摺動シートにおいて10点測定し、その平均値を表面粗さ(Ra)とした。
【0047】
また、表面粗さの測定の際に、高さ5μm以上の凸部間の距離を計測し、その最大値を凸間距離とした。凸部の高さについて
図5を用いて説明する。
図5は、摺動シートの断面における表面形状の一例を示す図である。
図5を参照して、横軸は摺動シートのMD(Machine Direction)方向を示し、縦軸は摺動シートの厚み方向を示す。摺動シートの表面には、凸部と凹部とが交互に形成されている。凸部の高さは、鉛直下方に延びる直線の長さであり、凸部の頂点から凸部の両隣の凹部を結んだ直線までの長さである。例えば、凸部C1の高さH1は、凸部C1の頂点P2から、凹部P1,P3を結んだ直線L1までの長さである。また、例えば、凸部C2の高さH2は、凸部C2の頂点P5から、凹部P4,P6を結んだ直線L2までの長さである。
【0048】
また、熱伝導率については、株式会社日立ハイテク製 ai phaseにて測定した。この熱伝導率についても各摺動シートにおいて3点測定し、その平均値を熱伝導率として算出した。
【0049】
また、上記実施例1~6、比較例1~6に係る各摺動シートを液晶ポリマー(LCP)製の部材本体11の表面に粘着層を介して貼着して摺動部材10を構成して実機搭載し、摺動性、ステックスリップ現象の発生確認、画像性、耐久性に関する試験を行ったので、その試験結果についても表2に示す。
【0050】
ここで、摺動性及び耐久性の試験は、
図6において説明した定着装置と同じ構成を備えるカラープリンタを用い、摺動部材の摺動性能を評価した。具体的には、カラープリンタに備え付けの押圧部材と定着ベルトとの間に、実施例1~6,比較例1~6に係る摺動部材10が配設されるようにしてカラープリンタの定着装置を構成した。定着装置におけるローラーの温度を200℃とし、定着装置のみを外部モータによって300mm/secの速度で500kmにわたって連続駆動した。つまり、記録シートに対する定着動作を実行することなく、500kmにわたって定着装置を連続駆動することにより、定着ベルトと押圧部材との間で各摺動部材を500kmにわたって摺動させた。駆動開始後すぐ(0km通過時)、および500km通過時のそれぞれにおいて外部モータのトルク(N・m)を測定し、その変化(トルクの上昇度)をモニタした。外部モータの設定荷重は180Nである。定着装置は動作中、ローラーの温度である200℃に維持された。表2においては、摺動性に優れ問題が全くない場合を◎、実用上問題ないレベルの場合を〇、許容可能なレベルを△、許容不可の場合を×としている。より具体的には、0km通過時のトルクが0.20Nm未満と小さい場合を◎、0.20Nm以上0.25Nm未満の場合を〇、0.25Nm以上0.30Nm未満の場合を△、0.30Nm以上を×としている。また、測定されるトルクの値の変化が少ないほど耐久性に優れているといえるため、駆動開始後すぐ(0km通過時)、および500km通過時のそれぞれにおいて外部モータのトルク(N・m)の変化量に基づいて耐久性を評価した。表2においては、トルクの変化量が0.05Nm未満と小さい場合を〇、0.05Nm以上0.10Nm未満の場合を△、0.10Nm以上を×としている。
【0051】
また、ステックスリップ現象の発生確認については、異音の有無を確認することにより行った。具体的には、上記実施例1~6、比較例1~6に係る摺動部材を搭載したカラープリンタを用いて、J紙(富士ゼロックス社製、カラーコピー用紙)A4に、画像濃度1%の画像を5万枚形成し、通紙している間の異音について評価を行った。 異音の測定は、集音マイクを用い、FFT周波数解析を実施した。 騒音測定器で測定の結果、Δ10dB(バックグラウンドに対する周波数500-800Hz範囲のピーク)以下のものを問題が全くない場合として〇とし、Δ10dB超Δ20dB未満のものを許容可能なレベルとして△、Δ20dB以上のものは異音が発生していると判断し、許容不可×として評価した。
【0052】
また、画像性の試験については、普通紙を用いて二次転写性を評価することにより行った。具体的には、上記実施例1~6、比較例1~6に係る摺動部材を搭載した各カラープリンタにおいて、定着ベルトに対して、C(シアン)色のベタ画像を印刷し、印刷前後の定着ベルト上のトナー重量を測定した。次いで、下記式から二次転写効率を求め、二次転写効率95%以上の場合を〇、二次転写効率90%以上95%未満の場合を△、二次転写効率90%未満の場合を×としている。
<式>
転写効率(%)=100×[(転写前トナー重量-転写後トナー重量)/転写前トナー重量]
【0053】
【0054】
また、上記実施例1~6、比較例1~6に係る各摺動シートに関し、下記式にて熱伝導性を算出し、この値に基づいて放熱ロスを評価したので、その結果を表3に示す。また、表3においては、下記式にて算出される数値が、1200(W/m2・K)以下の場合を放熱ロスが少なく問題が全くない場合として〇とし、1200(W/m2・K)を超えて1500(W/m2・K)未満の場合を許容可能なレベルとして△、1500(W/m2・K)以上の場合は許容不可として×として評価した。なお、放熱ロスが少ない場合(摺動シートの熱伝導性が低い場合)、摺動シートが搭載された定着装置における消費電力を低く抑えることが可能となる
<式> (各摺動シート熱伝導率)/(各摺動シートの全層厚み)
【0055】
【0056】
まず、表2から、最も小さい表面粗さ(Ra:0.67)を有する比較例5に係る摺動シートの摺動性が悪く、次に小さい表面粗さ(Ra:1.13)を有する比較例1に係る摺動シートの摺動性が実用上問題ないレベルであることがわかる。一方、表面粗さ(Ra)が1.13よりも大きな値を有する実施例1~6,比較例2~4、比較例6については、摺動性に関して全く問題のない優れたものであることがわかる。つまり極めて優れた摺動性を発揮するための表面粗さ(Ra)の境界値は、比較例1における表面粗さ(Ra)1.13と、実施例2における表面粗さ(Ra)1.25との中間値であると考えられ、優れた摺動性を発揮するための表面粗さ(Ra)の下限値は、1.20程度であることがわかる。
【0057】
また、表1や表2より、実施例3と比較例2は、実施例1、2,4,5,比較例1,3と摺動シートの構造(摺動層2、樹脂構造層、放熱抑制層4を備える構造)が同じであるにもかかわらず、ステックスリップが許容可能レベル(実施例3)、許容不可のレベル(比較例2)であることが認められる。このことから、ステックスリップが発生することを極めて効果的に抑制できる表面粗さ(Ra)の境界値は、比較例2における表面粗さ(Ra)2.64と、実施例3における表面粗さ(Ra)2.43との中間値であると考えられ、表面粗さ(Ra)が、2.50以下であることが、ステックスリップ発生を抑制する観点から重要であることがわかる。
【0058】
つまり、優れた摺動性を発揮しつつ、ステックスリップ発生を抑制するためには、表面粗さ(Ra)が、1.20以上2.50以下に設定することが極めて重要であることがわかる。
【0059】
実施例5と比較例3とは、摺動シートの構造(摺動層2、樹脂構造層、放熱抑制層4を備える構造)が同じであり、表面粗さも1.77、1.74とほぼ同一の結果であるにも関わらず、画像性の評価に関して、比較例3に係る摺動シートの方が、実施例5に係る摺動シートよりも劣る結果であることがわかる。実施例5と比較例3に係る摺動シートについては、摺動層2の厚みが、129μm(実施例5)と161μm(比較例3)と相違しており、比較例3の方が厚みが大きくなっており、この厚みの差が画像性に影響を与えていると考えられる。具体的には、摺動層2の厚みが大きくなると、摺動シートの寸法安定性が低下し、摺動部材10を構成した際の部材本体11への追従性が悪化すると考えられる。また、良好な画像性を得るためには、摺動層2の厚みに関して、比較例3の161μmと、実施例5の129μmとの中間値以下程度の値(145μm)に設定することが重要であることがわかる。また、画像性が極めて良好な実施例1~6の結果を踏まえると,摺動層2の厚みとして40μm以上に設定することが重要であることがわかる。また、実施例1~6に係る摺動シートの表面粗さ(Ra)が、2.50以下であり、例えば、比較例6に係る従来から使用されている摺動シート(表面粗さ(Ra):5.77)と比べて小さい値であるため、定着ベルト103との接触面積が増大することになり、その結果、従来よりも良好な画像性を得ることができる。なお、比較例4に係る摺動シートは、表面粗さ(Ra)が1.74であり、表面粗さ(Ra)2.50以下であるが、繊維構造層4を備えていない構成であるため、寸法安定性が悪く画像性が悪いものになっていると考えられる。
【0060】
また、耐久性に関して、実施例1~6,比較例1~4については、全く問題のないレベルであるが、比較例5及び比較例6については、許容不可のレベルであることがわかる。比較例5に関しては、摺動層2を形成するPEEK樹脂にフィラーが添加されておらず、表面粗さが低すぎることが原因であると思われる。また、比較例6に関しては、摺動層2を形成する樹脂がPTFEであること、表面粗さ(Ra)が5.77と高すぎることが原因であると思われる。
【0061】
また、表1や表3より、実施例1~5,比較例1~3、比較例5に係る各摺動シートは、放熱抑制層4を備える構成であるため、放熱ロスに関して、問題が全くないレベルであることがわかる。これに対し、放熱抑制層4を備えない比較例4に関しては、放熱ロスが許容不可のレベルであることがわかる。なお、実施例6及び比較例6に係る摺動シートも放熱抑制層4を備えない構成であるが、比較例4に比べて全膜厚が大きい構造となっているため、放熱ロスに関して許容可能なレベルとなっている。
【0062】
次に、本発明の発明者らは、実施例1~6,比較例1~6に係る摺動シートに関して引張弾性率及び曲げ弾性力を測定したのでその結果を表4に示す。
【0063】
【0064】
ここで、引張弾性率の測定には、実施例1~6,比較例1~6に係る各摺動シートを25cm(MD方向)×2cm(TD方向)に切り出して試験片とし、25℃60%RHの環境下で24時間調湿し、得られた試験片の引張弾性率を、JIS K7127に記載の引張り試験方法により測定した。具体的には、試料片を、引張試験装置(株)オリエンテック製テンシロンにセットし、チャック間距離200mm、引張り速度20mm/minの条件で下方に引っ張った際の引張弾性率を測定した。測定は、180℃60%RH下で行った。
【0065】
また、曲げ弾性力の測定は、上記試験片を別途作成し、上記引張試験装置のチャックにセットし、チャック間距離40mm、移動速度20mm/minの条件で、当該チャックを上方に動かして試験片を曲げた際に当該試験片に付加される力を測定することにより行った。
【0066】
表4より、実施例1~6に係る摺動シートは、従来から使用されている比較例6に係る摺動シートと比べ、180℃下での引張弾性率の値が同等以上の高い値となっている。一方、曲げ弾性力に関しては、実施例1~6に係る摺動シートは、従来から使用されている比較例6に係る摺動シートと略同等の値となっていることがわかる。
【0067】
ここで、180℃下での引張弾性率が低くなるほど、摺動シートが伸びやすくなり寸法安定性が悪くなるため、画像性が悪化することになると考えられる(換言すると、180℃下での引張弾性率が高くなるほど、摺動シートが伸びにくく寸法安定性が高まるため、画像性が向上すると考えられる)。また、摺動シートは部材本体11の表面に配置されて摺動部材10を構成するものであることから、摺動シートの曲げ弾性力の値が低いほど、部材本体11の表面形状に追従しやすくなり画像性が向上することになると考えられる(換言すると、摺動シートの曲げ弾性力の値が高いほど、部材本体11の表面形状に追従しにくくなり画像性が悪化することになると考えられる)。また、表2より、比較例6の画像性は、実施例1~6等と比べて劣る結果となっている。このことから、比較例6に係る摺動シートの曲げ弾性力(1.65N/m)は、実施例1~6に係る摺動シートの曲げ弾性力の数値範囲(1.50N/m~2.00N/m)の範囲内に含まれるものであるが、この曲げ弾性力の値の差が、画像性に大きく影響を与えるものではないと考えられる。一方、実施例1~4,実施例6に係る摺動シートは、比較例6に係る摺動シートと比べ、180℃下での引張弾性率の値が1000MPa高い値となっており、この引張弾性率の差が大きく画像性の向上に寄与しているものと考えられる。また、実施例5に係る摺動シートは、比較例6に係る摺動シートと同等の引張弾性率を有しているが、表面粗さの値に大きな差があり(実施例5(1.77);比較例6(5.77))、この表面粗さの差が、画像性に影響し、実施例5に係る摺動シートの画像性が、比較例6よりも優れる結果になったと考えられる。なお、画像性に関して90%以上の二次転写効率を得るためには、引張弾性率の値が1600MPa以上であることが好ましい。
【0068】
また、比較例3に係る摺動シートは、表面粗さの値や熱伝導率の値が、実施例1、実施例4,実施例5と略同等な値を有しているが、画像性が、これら実施例1,4,5に比べて劣る結果となっている。これは、180℃下での引張弾性率が、比較例3は2500MPaであるのに対し、実施例1,4,5は3000MPa以上であり、実施例1,4,5に係る摺動シートの方が、比較例3に係る摺動シートよりも寸法安定性が高いためであると考えられる。また、比較例4に係る摺動シートは、摺動層2のみにより構成されるものであることから、曲げ弾性力が低いものとなり、部材本体11表面に対する追従性は良好なものとなるが、180℃下での引張弾性率が極めて低くなるため、摺動シートが極めて伸びやすい状態となってしまい寸法安定性が低すぎて画像性が悪化するものであると考えられる。
【0069】
また、表2より、実施例1~6と比較例1~4から摺動層の表面の高さが5μm以上の凸部間の距離すなわち凸間距離が300μm以下の場合に、摺動シートの摺動性が実用上問題ないレベルであることがわかる。なお比較例5ではフィラーを添加しておらず、表面粗さ測定において高さ5μm以上の凸部間の距離を観測することができなかった。さらに、極めて優れた摺動性を発揮するための凸間距離の境界値は、比較例1における凸間距離300μmと実施例2における凸間距離280μmの中間値であると考えられ、優れた摺動性を発揮するためには、摺動層の表面の凹凸の高さが5μm以上の凸部間の距離が290μm以内であることがより望ましいことがわかる。これは、高さ5μm以上の凸部の間の距離が短くなり凸部の数が増えることで接地点が増え、定着装置を駆動した際に摺動シートの表面の凸部に掛かる圧力が分散されることで摺動性が良くなっていると考えられる。また、凸間距離を300μm以下とすることは、摺動層と定着ベルト103との接地点が増えることにもなり、画像性も良いものにしていると考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1 摺動シート
2 摺動層
3 繊維構造層
4 放熱抑制層
5,6 接着層
10 摺動部材
11 部材本体