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特開2024-10830光ファイバの製造方法および光ファイバの製造装置
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  • 特開-光ファイバの製造方法および光ファイバの製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010830
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法および光ファイバの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/027 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
C03B37/027 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112361
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】米沢 和泰
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021HA01
4G021HA03
4G021HA04
(57)【要約】
【課題】線引炉内で発生したガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制する。
【解決手段】
光ファイバの製造方法は、ヒータと前記ヒータの中心より下方に配置される炉内筒とを有し、内部に不活性ガスが供給される線引炉において、光ファイバ用母材を加熱溶融してガラスファイバを線引きするステップと、前記炉内筒の下端から下方に延びた延長内筒と前記延長内筒の外側に配置される冷却ジャケットとを有する前記下部チャンバ内に、線引きされた前記ガラスファイバを走行させるステップと、を備えている。前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、前記ガラスファイバの走行方向と垂直な平面上の前記ガラスファイバの表面温度T1、前記延長内筒の内周面の表面温度T2、および前記延長内筒の内径D2は、2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータと前記ヒータの中心より下方に配置される炉内筒とを有し、内部に不活性ガスが供給される線引炉において、光ファイバ用母材を加熱溶融してガラスファイバを線引きするステップと、
前記炉内筒の下端から下方に延びた延長内筒と前記延長内筒の外側に配置される冷却ジャケットとを有する下部チャンバ内に、線引きされた前記ガラスファイバを走行させるステップと、
を備えており、
前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、前記ガラスファイバの走行方向と垂直な平面上の前記ガラスファイバの表面温度T1、前記延長内筒の内周面の表面温度T2、および前記延長内筒の内径D2は、2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たす、光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、2(T1-T2)/D2≧10[℃/mm]を満たす、請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも一部分は、前記延長内筒の前記ガラスファイバの走行方向における下端部である、請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記下部チャンバのガス吸引口から前記不活性ガスを吸引する、請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記ガス吸引口には配管が接続されており、
前記配管の圧力損失が前回清掃後の圧力損失の150%以上となった場合に前記配管を清掃する、請求項4に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項6】
前記不活性ガスは、ヘリウムを含有するガスである、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項7】
前記不活性ガスは、アルゴンを含有するガスである、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項8】
光ファイバ用母材を加熱溶融する線引炉と、
前記線引炉の下端に接続されており、加熱溶融された前記光ファイバ用母材から線引きされたガラスファイバが内部を走行する下部チャンバと、
を備えており、
前記線引炉は、内部に不活性ガスを供給するガス供給口と、ヒータと、前記ヒータの中心より下方に配置される炉内筒と、を有し、
前記下部チャンバは、前記炉内筒の下端から下方に延びた延長内筒と、前記延長内筒の外側に配置される冷却ジャケットと、を有し、
前記下部チャンバから出線する前記ガラスファイバの温度が800度以上でありかつ前記ガラスファイバの線引速度が500m/分以上である場合、前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、前記ガラスファイバの走行方向と垂直な平面上の前記ガラスファイバの表面温度T1、前記延長内筒の内周面の表面温度T2、および前記延長内筒の内径D2は2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たす、光ファイバの製造装置。
【請求項9】
前記延長内筒は、前記下部チャンバから着脱可能に構成される、請求項8に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項10】
前記延長内筒の内径が300mm以下である、請求項8に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項11】
前記延長内筒の内径が150mm以下である、請求項10に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項12】
前記下部チャンバは、前記不活性ガスを吸引するガス吸引口を備えている、請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の光ファイバの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの製造方法および光ファイバの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、炉心管の下端に接続された延長筒の内側に冷却ジャケットが設けられた光ファイバの線引炉が開示されている。冷却ジャケット内に冷媒が供給されることにより、延長筒内の雰囲気温度が所定温度に保持される。
【0003】
特許文献2には、カーボン炉心管の内表面にコーティング層が形成された光ファイバの線引炉が開示されている。コーティング層により、光ファイバ用母材から発生するシリカの蒸気とカーボン炉芯管との反応によるカーボン炉芯管の劣化が抑制される。
【0004】
特許文献3には、光ファイバの線引炉で使用されるヘリウムガスを回収し再利用する光ファイバの線引装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-2832号公報
【特許文献2】特開平10-338538号公報
【特許文献3】特開2004-250286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような線引炉においては、高温で加熱された光ファイバ用母材の表面から蒸発したシリカの粒子(ガラス粒子)が線引炉内を浮遊し、ガラスファイバと接触することにより、ガラスファイバの断線を引き起こす場合がある。
【0007】
本開示の目的は、線引炉内で発生したガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、
ヒータと前記ヒータの中心より下方に配置される炉内筒とを有し、内部に不活性ガスが供給される線引炉において、光ファイバ用母材を加熱溶融してガラスファイバを線引きするステップと、
前記炉内筒の下端から下方に延びた延長内筒と前記延長内筒の外側に配置される冷却ジャケットとを有する下部チャンバ内に、線引きされた前記ガラスファイバを走行させるステップと、
を備えており、
前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、前記ガラスファイバの走行方向と垂直な平面上の前記ガラスファイバの表面温度T1、前記延長内筒の内周面の表面温度T2、および前記延長内筒の内径D2は、2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たす。
【0009】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造装置は、
光ファイバ用母材を加熱溶融する線引炉と、
前記線引炉の下端に接続されており、加熱溶融された前記光ファイバ用母材から線引きされたガラスファイバが内部を走行する下部チャンバと、
を備えており、
前記線引炉は、内部に不活性ガスを供給するガス供給口と、ヒータと、前記ヒータの中心より下方に配置される炉内筒と、を有し、
前記下部チャンバは、前記炉内筒の下端から下方に延びた延長内筒と、前記延長内筒の外側に配置される冷却ジャケットと、を有し、
前記下部チャンバから出線する前記ガラスファイバの温度が800度以上でありかつ前記ガラスファイバの線引速度が500m/分以上である場合、前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、前記ガラスファイバの走行方向と垂直な平面上の前記ガラスファイバの表面温度T1、前記延長内筒の内周面の表面温度T2、および前記延長内筒の内径D2は2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たす。
【発明の効果】
【0010】
本開示の構成によれば、線引炉内で発生したガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る光ファイバの製造装置の概略構成図である。
図2図2は、図1の光ファイバの製造装置の部分拡大図である。
図3図3は、温度勾配と断線頻度の関係を示す図である。
図4図4は、ガス回収用配管における圧力損失と断線頻度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、
ヒータと前記ヒータの中心より下方に配置される炉内筒とを有し、内部に不活性ガスが供給される線引炉において、光ファイバ用母材を加熱溶融してガラスファイバを線引きするステップと、
前記炉内筒の下端から下方に延びた延長内筒と前記延長内筒の外側に配置される冷却ジャケットとを有する下部チャンバ内に、線引きされた前記ガラスファイバを走行させるステップと、
を備えており、
前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、前記ガラスファイバの走行方向と垂直な平面上の前記ガラスファイバの表面温度T1、前記延長内筒の内周面の表面温度T2、および前記延長内筒の内径D2は、2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たす。
【0014】
このような方法によれば、延長内筒内の径方向の温度勾配(2(T1-T2)/D2)が5[℃/mm]以上であるため、線引炉内で発生し下部チャンバに流入したガラス粒子は、熱泳動力により延長内筒の内周面へ移動しやすくなる。これにより、ガラス粒子を延長内筒の内周面に付着させることができ、線引炉内で発生し下部チャンバ内に浮遊するガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制できる。
【0015】
(2)上記(1)において、前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、2(T1-T2)/D2≧10[℃/mm]を満たしてもよい。
【0016】
このような方法によれば、延長内筒内の径方向の温度勾配がさらに大きいので、ガラス粒子の熱泳動力を増進させることができる。これにより、より多くのガラス粒子を延長内筒の内周面に付着させることができ、ガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制できる。
【0017】
(3)上記(1)または(2)において、前記少なくとも一部分は、前記延長内筒の前記ガラスファイバの走行方向における下端部でもよい。
【0018】
このような方法によれば、ヒートゾーンから離れた延長内筒の下端部において延長内筒内の径方向の温度勾配(2(T1-T2)/D2)が5[℃/mm]以上であるため、延長内筒の長手方向全体に渡ってガラス粒子を延長内筒の内周面に付着させることができる。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記下部チャンバのガス吸引口から前記不活性ガスを吸引してもよい。
【0020】
このような方法によれば、下部チャンバ内に流入し延長内筒の内周面に付着しなかったガラス粒子を不活性ガスと共に吸引できる。これにより、下部チャンバ内に浮遊するガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制できる。
【0021】
(5)上記(4)の前記ガス吸引口には配管が接続されており、
前記配管の圧力損失が前回清掃後の圧力損失の150%以上となった場合に前記配管を清掃してもよい。
【0022】
このような方法によれば、ガス吸引口から吸引されたガラス粒子が配管内に堆積することにより配管内の圧力損失が上昇し不活性ガスの吸引力が低下することを抑制できる。これにより、ガラス粒子の吸引量の低下を抑制できる。
【0023】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記不活性ガスは、ヘリウムガスを含有してもよい。
【0024】
このような方法によれば、ヘリウムガスは熱伝導性がよいので、線引炉内を流れる不活性ガスの温度分布が均一となり、不活性ガスの流れに乱れが生じることを抑制できる。
【0025】
(7)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記不活性ガスは、アルゴンガスを含有してもよい。
【0026】
このような方法によれば、アルゴンガスの原子はヘリウムガスの原子よりも大きいので、ヘリウムガスと比べてガラス粒子の熱泳動力を増進させることができる。
【0027】
(8)本開示の一態様に係る光ファイバの製造装置は、
光ファイバ用母材を加熱溶融する線引炉と、
前記線引炉の下端に接続されており、加熱溶融された前記光ファイバ用母材から線引きされたガラスファイバが内部を走行する下部チャンバと、
を備えており、
前記線引炉は、内部に不活性ガスを供給するガス供給口と、ヒータと、前記ヒータの中心より下方に配置される炉内筒と、を有し、
前記下部チャンバは、前記炉内筒の下端から下方に延びた延長内筒と、前記延長内筒の外側に配置される冷却ジャケットと、を有し、
前記下部チャンバから出線する前記ガラスファイバの温度が800度以上でありかつ前記ガラスファイバの線引速度が500m/分以上である場合、前記下部チャンバの前記ガラスファイバの走行方向における少なくとも一部分において、前記ガラスファイバの走行方向と垂直な平面上の前記ガラスファイバの表面温度T1、前記延長内筒の内周面の表面温度T2、および前記延長内筒の内径D2は2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たす。
【0028】
このような装置によれば、延長内筒内の径方向の温度勾配(2(T1-T2)/D2)が5[℃/mm]以上であるため、線引炉内で発生し下部チャンバに流入したガラス粒子は、熱泳動力により延長内筒の内周面へ移動しやすくなる。これにより、ガラス粒子を延長内筒の内周面に付着させることができるので、線引炉内で発生し下部チャンバ内に浮遊するガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制できる。
【0029】
(9)上記(8)において、前記延長内筒は、前記下部チャンバから着脱可能に構成されてもよい。
【0030】
このような装置によれば、下部チャンバから延長内筒を取り外すことができるので、延長内筒を清掃し、延長内筒の内周面に堆積したガラス粒子を除去できる。あるいは、延長内筒を新しい延長内筒に交換できる。これにより、延長内筒の内周面におけるガラス粒子の堆積効率の低下を抑制できる。
【0031】
(10)上記(8)または(9)において、前記延長内筒の内径が300mm以下でもよい。
【0032】
このような装置によれば、延長内筒内の径方向の温度勾配が大きくなり、ガラス粒子が延長内筒の内周面に付着しやすくなる。
【0033】
(11)上記(10)において、前記延長内筒の内径は150mm以下でもよい。
【0034】
このような装置によれば、延長内筒の内径がさらに小さいので、延長内筒内の径方向の温度勾配がより大きくなり、より多くのガラス粒子を延長内筒の内周面に付着させることができる。
【0035】
(12)上記(8)から(11)のいずれかにおいて、前記下部チャンバは、前記不活性ガスを吸引するガス吸引口を備えてもよい。
【0036】
このような装置によれば、下部チャンバ内に流入し延長内筒の内周面に付着しなかったガラス粒子を不活性ガスと共に吸引できる。これにより、下部チャンバに浮遊するガラス粒子がガラスファイバと接触することを抑制できる。
【0037】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係る光ファイバの製造装置および製造方法の実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、異なる図面であっても同一又は相当の要素には同一の符号又は名称を付し、重複する説明を適宜省略する。また、各図面に示された各部材の寸法は、説明の便宜上のものであって、実際の各部材の寸法とは異なる場合がある。
【0038】
(光ファイバの製造装置)
図1は、本開示の一実施形態に係る光ファイバの製造装置1の概略構成図である。図2は、光ファイバの製造装置1の部分拡大図である。
【0039】
光ファイバの製造装置1は、線引炉2と下部チャンバ3を備えている。線引炉2は、光ファイバ用母材G1を加熱溶融するように構成されている。下部チャンバ3は、線引炉2の下端に接続されている。下部チャンバ3は、下部チャンバ3内の雰囲気温度を所定温度に保持するように構成されている。線引炉2内で加熱溶融された光ファイバ用母材G1から線引きされたガラスファイバG2は下部チャンバ3の内部を走行する。なお、光ファイバの製造装置1はさらに、下部チャンバ3の下方にガラスファイバG2を冷却する冷却装置、ガラスファイバG2の外周に被覆樹脂を塗布する塗布装置、被覆樹脂が塗布されたガラスファイバG2を巻き取る巻取装置などを備えうる。
【0040】
線引炉2は、筐体21、炉心管22、ヒータ23、および炉内筒24を備えている。筐体21は、炉心管22、ヒータ23および炉内筒24を囲うように構成されている。ヒータ23は、炉心管22を囲むように配置されている。ヒータ23と筐体21の間には、断熱材(図示省略)が配置されている。
【0041】
炉心管22には、ガス供給口221が設けられている。具体的には、ガス供給口221は、炉心管22の上端側に設けられている。ガス供給口221には、ガス供給用配管11の一端が接続されている。ガス供給用配管11の他端には、不活性ガスを供給する不活性ガス供給器12が接続されている。不活性ガス供給器12から供給された不活性ガスは、ガス供給用配管11を通ってガス供給口221から炉心管22内に供給される。不活性ガスは、例えばヘリウムガスである。
【0042】
炉内筒24は、炉心管22内に配置されている。具体的には、炉内筒24は、炉心管22の長手方向においてヒータ23の中心より下方に配置される。炉内筒24は、炉心管22と一体的に形成されうる。本例においては、炉内筒24は、上端部において下方に向けて内径が小さくなるテーパ部241を有している。
【0043】
下部チャンバ3は、延長内筒31、冷却ジャケット32、およびガス回収機構33を有している。延長内筒31は、炉内筒24の下端に接続されており、炉内筒24の下端から下方に延びている。
【0044】
図2に例示されるように、延長内筒31は、炉内筒24の出口と延長内筒31との入口が接続するように設けられている。延長内筒31の上端部は、炉内筒24の下端部の内径D1と同じ内径D2を有している。本例においては、延長内筒31は、長手方向に沿って一定の内径D2を有する円筒形状である。延長内筒の内径D2は、例えば300mm以下であり、好ましくは150mm以下である。また、延長内筒の内径D2は、好ましくは30mm以上である。
【0045】
延長内筒31は、下部チャンバ3から着脱可能に設けられている。例えば、延長内筒31は、下部チャンバ3の下端の開口部から着脱可能に設けられる。本例においては、下部チャンバ3からガス回収機構33を取り外した後に、下部チャンバ3の下端の開口部から延長内筒31が取り外される。
【0046】
冷却ジャケット32は、延長内筒31の外側に配置されている。冷却ジャケット32は、冷媒が流れる流路321を有している。冷却ジャケット32には、冷媒供給装置(図示省略)が接続されており、冷媒供給装置により冷却ジャケット32内への冷媒の供給が制御される。
【0047】
ガス回収機構33は、冷却ガスを吸引するガス吸引口331を備えている。本例においては、ガス回収機構33は上側シャッタ332と下側シャッタ333を有しており、二つのガス吸引口331が下側シャッタ333の底面に形成されている。上側シャッタ332と下側シャッタ333との間にはガス回収空間Sが形成されている。上側シャッタ332に形成された通過孔332Aを通過してガス回収空間Sに回収されたガスは、下側シャッタ333に形成されたガス吸引口331により吸引されて下部チャンバ3の外部へ排出される。また、下側シャッタ333には、ガス回収空間Sを通過したガラスファイバG2が下部チャンバ3の外部へ出線するファイバ導出口333Aが形成されている。
【0048】
ガス吸引口331には、ガス回収用配管13の一端が接続されている。ガス回収用配管13の他端にはガス再生装置14が接続されている。ガス回収空間Sに回収されたガスには、炉心管22内に供給された不活性ガスおよび光ファイバ用母材G1から発生したガラス粒子などが含まれている。ガス再生装置14は、ガス吸引口331から吸引されたガスから不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)を分離精製し、不活性ガスを再利用可能な状態に再生させる。なお、ガス再生装置14と不活性ガス供給器12とを配管15で接続し、ガス再生装置14で再生された不活性ガスを不活性ガス供給器12へ供給するように構成してもよい。
【0049】
このように構成された光ファイバの製造装置1は、延長内筒31のガラスファイバの走行方向における下端部312において、ガラスファイバG2の走行方向と垂直な平面上のガラスファイバG2の表面温度T1、延長内筒31の内周面311の表面温度T2、および延長内筒31の内径D2が2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たすように構成されている。延長内筒31の下端部312は、下部チャンバ3内のガラスファイバG2の走行方向における少なくとも一部分の一例である。
【0050】
例えば、下部チャンバ3から出線するガラスファイバG2の温度が800度以上でありかつガラスファイバG2の線引速度が500m/分以上である場合に、2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たすように構成される。
【0051】
具体的には、2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たすように、所定の内径D2を有する延長内筒31が使用される。加えてまたは代えて、延長内筒31の内周面311の表面温度T2が所定の温度になるように、冷却ジャケット32を流れる冷媒の温度および流量が設定されうる。例えば、冷媒の温度は、20度から40度の間で調整されうる。
【0052】
(光ファイバの製造方法)
次に、図1に例示される光ファイバの製造装置1を用いた光ファイバの製造方法について説明する。
【0053】
母材吊り機構(図示省略)により、不活性ガスが導入された炉心管22内に光ファイバ用母材G1を吊り下げ、ヒータ23で光ファイバ用母材G1の下部を加熱し溶融させる。溶融された光ファイバ用母材G1は、溶融ガラスの自重と引っ張り力により所定の外径のガラスファイバG2となって連続的に線引される。
【0054】
線引炉2から出線したガラスファイバG2は、下部チャンバ3の内部を通過する。下部チャンバ3内の雰囲気温度は所定温度に保持されており、ガラスファイバG2は、急冷が緩和されるとともに、ある程度冷却硬化される。
【0055】
炉心管22から下部チャンバ3内へ流入した不活性ガスを含むガスは、ガス吸引口331から吸引される。ガス再生装置14によって吸引されたガスから不活性ガスが分離精製されて再利用される。
【0056】
ところで、線引炉2内で加熱された光ファイバ用母材G1の表面からシリカが蒸発することにより、線引炉2内にシリカの粒子(ガラス粒子P)が発生する。線引炉2内に発生したガラス粒子Pは、図2に例示されるように、ガラスファイバG2の牽引流および線引炉2内の上方から供給される不活性ガスのガス流により、下部チャンバ3に流入する。下部チャンバ3内に流入したガラス粒子Pは、ガラスファイバG2に衝突し、ガラスファイバG2の断線の原因となる。
【0057】
そこで、本実施形態に係る光ファイバの製造装置1は、延長内筒31の下端部312においてガラスファイバG2の走行方向と垂直な平面上のガラスファイバG2の表面温度T1、延長内筒31の内周面311の表面温度T2、および延長内筒31の内径D2が2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]を満たすように、構成されている。すなわち、延長内筒31の径方向における温度勾配(2(T1-T2)/D2)が5[℃/mm]以上であるので、図2に例示されるように下部チャンバ3に流入したガラス粒子Pは、熱泳動力により延長内筒31の内周面311へ移動しやすくなる。これにより、ガラス粒子Pを延長内筒31の内周面311に付着させることができ、線引炉2内で発生し下部チャンバ3内に浮遊するガラス粒子PがガラスファイバG2と接触することを抑制できる。
【0058】
また、本実施形態においては、延長内筒31は、長手方向に沿って一定の内径D2を有する円筒形状である。また、ガラスファイバG2の表面温度T1は、ヒートゾーンから離れる程、低くなる。したがって、下端部312において2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]以上を満たす場合は、延長内筒31の下端部312よりもヒートゾーンに近い部分も2(T1-T2)/D2≧5[℃/mm]以上を満たす。これにより、延長内筒31の長手方向全体に渡ってガラス粒子Pを延長内筒31の内周面311に付着させることができる。
【0059】
なお、光ファイバの製造装置1は、延長内筒31の径方向における温度勾配(2(T1-T2)/D2)は10[℃/mm]以上となるように構成されてもよい。これにより、延長内筒31内の径方向の温度勾配がさらに大きくなるので、より多くのガラス粒子を延長内筒31の内周面311に付着させることができ、線引炉2内に発生したガラス粒子がガラスファイバG2と接触することを抑制できる。
延長内筒31の径方向における温度勾配(2(T1-T2)/D2)は大きい方がより多くのガラス粒子を延長内筒31の内周面311に付着させることができるが、実現可能な範囲として上限は100[℃/mm]程度である。
【0060】
また、本実施形態においては、延長内筒31は、300mm以下、好ましくは150mm以下の内径を有している。これにより、延長内筒31内の径方向の温度勾配(2(T1-T2)/D2)が大きくなり、ガラス粒子Pが延長内筒31の内周面311に付着しやすくなる。他方、延長内筒31の内径D2は、30mm以上であるので、線引き前に行われる種落としの際に線引炉2から落とされるガラスの塊が延長内筒31を通過できる。
【0061】
また、本実施形態においては、延長内筒31は、下部チャンバ3から着脱可能に構成されている。下部チャンバ3の延長内筒31の内周面311に付着して凝固したガラス粒子が堆積することにより、下部チャンバ3の内部の温度勾配が変化したり、ガラス粒子の堆積効率が低下したりする。したがって、延長内筒31が下部チャンバ3から取り外せることにより、延長内筒31を清掃し、延長内筒31の内周面311に堆積したガラス粒子を除去できる。あるいは、延長内筒31を新しい延長内筒31に交換できる。これにより、延長内筒31の内周面311におけるガラス粒子の堆積効率の低下を抑制できる。例えば、延長内筒31の交換または清掃は、複数の光ファイバ用母材G1の線引きが行われた後に実施される。
【0062】
また、本実施形態においては、不活性ガスとしてヘリウムガスが使用されている。ヘリウムガスは熱伝導性がよいので、線引炉2内を流れる不活性ガスの温度分布が均一となり、不活性ガスの流れに乱れが生じることを抑制できる。
【0063】
また、本実施形態においては、炉内筒24は、下方に向かうにつれて内径が小さいテーパ部241を有している。これにより、炉内筒24からの熱輻射を効率よく光ファイバ用母材G1に伝えることができる。
【0064】
また、本実施形態においては、下部チャンバ3のガス吸引口331から不活性ガスが吸引されている。これにより、下部チャンバ3内に流入し延長内筒31の内周面311に付着しなかったガラス粒子を不活性ガスと共に吸引できる。したがって、下部チャンバ3内に浮遊するガラス粒子がガラスファイバG2と接触することを抑制できる。
【0065】
なお、ガス吸引口331から吸引されたガラス粒子Pがガス回収用配管13内で堆積すると、ガス回収用配管13内の圧力損失が上昇し、不活性ガスの吸引力が低下する。不活性ガスの吸引力の低下は、ガラス粒子Pの吸引量の低下を招く。したがって、ガス回収用配管13の圧力損失がガス回収用配管13を清掃した直後の圧力損失の150%以上になった場合に、ガス回収用配管13の清掃を行うことが好ましい。これにより、ガラス粒子がガス回収用配管13内に堆積することによりガス回収用配管13内の圧力損失が上昇し不活性ガスの吸引力が低下することを抑制できる。例えば、ガス回収用配管13内における圧力損失が150%以上になった場合、光ファイバ用母材G1の線引きが終了し次の光ファイバ用母材G1が線引炉に挿入される間に、ガス回収用配管13が清掃される。
【0066】
(実施例)
以下、実施例を示して本開示を更に具体的に説明するが、本開示は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0067】
光ファイバの製造装置1において、延長内筒31の内径D2および延長内筒31の内周面311の表面温度T2を変化させた後、光ファイバ用母材G1を線引きし、線引きされたガラスファイバG2の断線頻度を評価した。その結果を、表1に示す。延長内筒31の内周面311の表面温度T2は、冷却ジャケット32を流れる冷媒の温度および流量を変更することにより変化させた。線引き開始前の延長内筒31の内周面311の表面温度を下部チャンバ3の下から放射温度計で測定した。
【0068】
また、延長内筒31の内径D2、延長内筒31の内周面311の表面温度T2、およびガラスファイバG2の表面温度T1から延長内筒31内の径方向の温度勾配(2(T1-T2)/D2)を算出した。算出された温度勾配とガラスファイバG2の断線頻度との関係を図3に示す。下部チャンバ3のファイバ導出口333AにおけるガラスファイバG2の表面温度を測定し、測定されたガラスファイバG2の表面温度とヒータ23の温度に基づいて直線による内挿によってガラスファイバG2の表面温度T1を算出した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示されるように、延長内筒31の内周面311の表面温度T2が低いほど、ガラスファイバG2の断線頻度が減少することが分かった。また、延長内筒31の内径D2が小さいほど、ガラスファイバG2の断線頻度が減少することが分かった。また、図3に示されるように、温度勾配の増加に伴いガラスファイバG2の断線頻度が低減していることが分かった。例えば、温度勾配が5℃/mm以上である場合、ガラスファイバG2の断線頻度が一般的に生産効率が著しく悪化すると言われている1.5件/千kmを超えないことが分かった。また、温度勾配を10℃/mm以上である場合、さらに断線頻度が低減することが分かった。
【0071】
また、光ファイバの製造装置1において、ガス吸引口331に接続されたガス回収用配管13内の圧力損失とガラスファイバG2の断線頻度との関係を調査した。不活性ガスとしては、ヘリウムガスを用いた。ガス回収用配管13内の圧力損失とガラスファイバG2の断線頻度との関係を図4に示す。図4において、横軸は、ガス回収用配管13を清掃した直後の圧力損失を1とした場合の圧力損失を示している。圧力損失は、ガス回収用配管13内の異なる2か所において圧力を測定し、検出された二つの圧力の差として算出した。
【0072】
図4に示されるように、ガス回収用配管13内の圧力損失がガス回収用配管13の清掃直後の圧力損失の150%以上(すなわち、横軸において1.5以上)となる場合に、ガラスファイバG2の断線頻度が1.5件/千kmを超えることが分かった。
【0073】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。また、上記説明した各例が含む要素は、互いに組みわせることができる。
【0074】
上記の実施形態において、延長内筒31の内周面311の表面温度T2は下部チャンバ3の下から放射温度計を用いて測定されている。しかしながら、下部チャンバ3に測定窓を設け、測定窓と反対側の延長内筒31の内周面311の表面温度T2を測定窓から放射温度計により測定してもよい。あるいは、下部チャンバ3の延長内筒31の内周面311の表面付近に熱電対を配置し、熱電対により延長内筒の内周面311の表面温度T2を測定してもよい。
【0075】
上記の実施形態においては、不活性ガスとして、ヘリウムガスが使用されている。しかしながら、不活性ガスは、ヘリウムガスを主成分として、例えばアルゴンガスや窒素ガスなどの他のガスを含有してもよい。この場合、ヘリウムガスは、50%以上含有されることが好ましい。
【0076】
また、不活性ガスとして、ヘリウムガスの代わりに、例えばアルゴンガスが使用されてもよい。アルゴンガスの原子はヘリウムガスの原子よりも大きいので、不活性ガスとしてアルゴンガスが使用される場合は、ヘリウムガスと比べてガラス粒子P子の熱泳動力を増進させることができる。また、不活性ガスは、アルゴンガスを主成分として、例えばヘリウムガスや窒素ガスなどの他のガスを含有してもよい。この場合、アルゴンは、50%以上含有されていることが好ましい。
【0077】
上記の実施形態においては、延長内筒31の径方向における温度勾配(2(T1-T2)/D2)を5[℃/mm]以上となるように、延長内筒31の内径D2および/または冷却ジャケット32を流れる冷媒の温度および流量を設定している。しかしながら、例えば、ガラスファイバG2の表面温度T1が所定の温度になるようにヒータ23の温度が調整されてもよい。なお、ヒータ23の温度は、製造される光ファイバやガラスファイバG2の線引張力などの観点から適宜定まる設定範囲内で調整される。
【0078】
上記の実施形態においては、線引き前に冷却ジャケット32を流れる冷媒の温度および流量が設定されている。しかしながら、線引き中においても、延長内筒31の径方向における温度勾配が5[℃/mm]以上になるように、冷却ジャケット32を流れる冷媒の温度および流量やヒータ23の温度が調整されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1:光ファイバの製造装置
11:ガス供給用配管
12:不活性ガス供給器
13:ガス回収用配管
14:ガス再生装置
15:配管
2:線引炉
21:筐体
22:炉心管
221:ガス供給口
23:ヒータ
24:炉内筒
241:テーパ部
3:下部チャンバ
31:延長内筒
311:内周面
312:下端部
32:冷却ジャケット
321:流路
33:ガス回収機構
331:ガス吸引口
332:上側シャッタ
332A:通過孔
333:下側シャッタ
333A:ファイバ導出口
G1:光ファイバ用母材
G2:ガラスファイバ
P:ガラス粒子
D1:炉内筒の内径
D2:延長内筒の内径
S:ガス回収空間
T1:ガラスファイバの表面温度
T2:延長内筒の内周面の表面温度
図1
図2
図3
図4