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  • 特開-スポット溶接機の制御方法 図1
  • 特開-スポット溶接機の制御方法 図2
  • 特開-スポット溶接機の制御方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108305
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】スポット溶接機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
B23K11/11 520
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012609
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】権代 大貴
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AB02
4E165BA01
4E165BA05
4E165BB02
4E165BB12
(57)【要約】
【課題】小型モーターでも必要な加圧力を保ちつつ高速打点をすることができるスポット溶接機の制御方法を提供する。
【解決手段】スポット溶接機により複数の打点についてスポット溶接するに際し、可動電極をサーボモーターの最大回転速度及び最短加速・減速時間で動作させたときに、打点毎の実行トルクが定格トルクを超える打点については、実行トルクが定格トルク以下となるように、サーボモーターの加速・減速時間tvを長くする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極と、前記固定電極に対して接近又は離隔するように移動可能な可動電極と、前記可動電極を駆動するサーボモーターと、前記サーボモーターの回転運動を直線運動に変換して前記可動電極を移動させるクランク機構とを備え、前記固定電極と前記可動電極とで被溶接材を加圧しながらスポット溶接するスポット溶接機の制御方法であって、
前記スポット溶接機により複数の打点についてスポット溶接するに際し、前記可動電極を前記サーボモーターの最大回転速度及び最短加速・減速時間で動作させたときに、打点毎の実行トルクが定格トルクを超える打点については、前記実行トルクが前記定格トルク以下となるように、前記サーボモーターの加速・減速時間を長くする
ことを特徴とするスポット溶接機の制御方法。
【請求項2】
前記実行トルクが前記定格トルクを超える打点については、前記サーボモーターの加速・減速時間を長くする共に、前記打点におけるスポット溶接動作が終了した後、次の打点においてスポット溶接動作を行う前までの溶接停止時の停止時間を長く設定することにより、前記実行トルクが前記定格トルク以下となるようにすることを特徴とする請求項1記載のスポット溶接機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接材を加圧しながらスポット溶接するスポット溶接機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の生産工程では、自動車のボディ等の被溶接材を電極で加圧しながら抵抗溶接を行うスポット溶接が行われている。スポット溶接機としては、例えば、可動電極の駆動源にサーボモーターを用い、ボールねじでサーボモーターの回転運動を直線運動に変えて可動電極を移動させ、被溶接材を加圧するサーボガンが知られている。このようなサーボガンでは、小型化しても高い加圧力を得られるものが求められている。例えば、ボールねじのリードを小さくしてボールねじを小型化し、減速比を上げれば、小型モータでも高い加圧力を得ることができる。また、特許文献1には、ボールねじのリードを大きくして剛球径を大きくし、ねじ条数を増やして高負荷(加圧)対応とする場合、リードを大きくすることで高トルクを出すために大型モーターが必要となるが、ボールねじに遊星歯車減速機を付けて減速比を上げることにより、モーター小型化と高負荷対応とを両立させるようにした溶接ガンが記載されている。
【0003】
しかし、リードを小さくしたり、減速機を付けたりして減速比を上げると、高い加圧力を得ることはできるものの、背反として、アーム加圧速度(開閉速度)が遅くなり、1打点当たりの溶接作業時間が長くなってしまうという問題があった。また、高速化するには、減速比を下げるために大きくしたリードを駆動するトルクを得る必要があり、大型モーターで加圧力を出さなければならないという問題があった。例えば、加圧力400kgf、加圧速度200mm/sをだすにはサーボモーターの出力を1500Wにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5437841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、小型モーターでも必要な加圧力を保ちつつ高速打点をすることができるスポット溶接機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスポット溶接機の制御方法は、固定電極と、前記固定電極に対して接近又は離隔するように移動可能な可動電極と、前記可動電極を駆動するサーボモーターと、前記サーボモーターの回転運動を直線運動に変換して前記可動電極を移動させるクランク機構とを備え、前記固定電極と前記可動電極とで被溶接材を加圧しながらスポット溶接するスポット溶接機の制御方法であって、前記スポット溶接機により複数の打点についてスポット溶接するに際し、前記可動電極を前記サーボモーターの最大回転速度及び最短加速・減速時間で動作させたときに、打点毎の実行トルクが定格トルクを超える打点については、前記実行トルクが前記定格トルク以下となるように、前記サーボモーターの加速・減速時間を長くするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、打点毎の実行トルクが定格トルクを超える打点について、実行トルクが定格トルク以下となるように、サーボモーターの加速・減速時間を長くするようにしたので、加速・減速トルクを下げることにより、減速比及び加圧トルクを変えることなく、実行トルクを下げることができる。よって、小型モーターでも必要な加圧力を保ちつつ、高速打点をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係るスポット溶接機の制御方法で制御するスポット溶接機の構成例を表す図である。
図2】サーボモーターのトルク及び回転速度と時間との関係を表す図である。
図3】サーボモーターのトルク及び回転速度と時間との関係を表す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態に係るスポット溶接機の制御方法で制御するスポット溶接機1の構成例を表す図である。スポット溶接機1は、固定電極10と、固定電極10に対して接近又は離隔するように移動可能な可動電極20と、可動電極20を駆動するサーボモーター30と、サーボモーター30の回転運動を直線運動に変換して可動電極20を移動させるクランク機構とを備えている。このスポット溶接機1は、固定電極10と可動電極20とで被溶接材Mを加圧しながらスポット溶接するものであり、例えば、産業用ロボットに装着して用いることもできる。
【0011】
固定電極10は、可動電極20との間で、被溶接材Mを加圧しながらスポット溶接するものである。固定電極10は、例えば、可動電極20と対向するように支持体50の一端側配設部51に対して配設されている。可動電極20は、例えば、可動アーム21に取り付けられている。可動アーム21は、例えば、クランク機構に対して配設され、具体的には、後述するボールねじ40のナット42と連結されることにより配設されている。サーボモーター30は、例えば、支持体50の他端側配設部52に対して配設されている。サーボモーター30は、例えば、モーター本体31と、モーター本体31の動力をクランク機構40に伝達するギヤ等のモーター伝動手段32とを有している。
【0012】
クランク機構は、例えば、固定電極10と可動電極20の対向方向に延在され、サーボモーター30により駆動するボールねじ40を有している。ボールねじ40は、例えば、サーボモーター30により回転するねじ軸41と、ねじ軸41に配設され、可動電極20と連動するナット42と、ねじ軸41とナット42との間に配設されたボール(図示せず)と、サーボモーター30の動力をねじ軸41に伝達するギヤ等のボールねじ伝動手段43とを有している。ボールねじ41の一端側は支持体50の一端側配設部51と他端側配設部52との間に設けられた中間配設部53に対して配設され、他端側は支持体50の他端側配設部52に対して配設されている。
【0013】
本実施の形態では、例えば、スポット溶接機1により複数の打点についてスポット溶接するに際し、次のようにしてサーボモーター30を選定し、サーボモーター30の駆動を制御する。図2及び図3は、サーボモーター30のトルク及び回転速度と時間との関係を表す図であり、1つの打点におけるスポット溶接動作から次の打点におけるスポット溶接動作を行う前までの1打点サイクルを表している。また、図2は、実行トルクが定格トルクを超える場合を表し、図3は、実行トルクが定格トルク以下となるように、サーボモーター30の加速・減速時間を長くした場合を表している。
【0014】
まず、サーボモーター30は、サーボモーター30の瞬時最大トルクが各打点において必要な加圧トルクTpを満たすように選定する。サーボモーター30の瞬時最大トルクは、サーボモーター30が瞬時(短時間)に使用できる最大トルクである。すなわち、瞬時最大トルクを加圧トルク以上とする。その際、瞬時最大トルクが必要な加圧トルクTpを満たす範囲内でできるだけ低いサーボモーター30を選定するようにすれば、サーボモーター30を小型化することができるので好ましい。なお、加圧トルクTpは、各打点の溶接条件(必要加圧力)からボールねじ41のリード及びギア比に基づき決定する値である。
【0015】
また、サーボモーター30は、最大回転速度がボールねじ41の許容回転速度以下となるように選定する。サーボモーター30の最大回転速度は、サーボモーター30が回転できる最大の回転速度である。ボールねじ41の許容回転速度は、ボールねじ41のリード及びギア比に基づき決定する最速送り速度である。
【0016】
次いで、選定したサーボモーター30の最大回転速度及び最短加速・減速時間で可動電極20を動作させたときの打点毎の実行トルクを求める。すなわち、可動電極20を固定電極10に接近させる際に、サーボモーター30の回転速度を零から最大回転速度まで最短加速・減速時間で加速し、最大回転速度で可動電極20を接近移動させた後、サーボモーター30の回転速度を最大回転速度から零まで最短加速・減速速度で減速して加圧通電を行い、次いで、可動電極20を固定電極10から離間させる際に、サーボモーター30の回転速度を零から最大回転速度まで最短加速・減速時間で加速し、最大回転速度で可動電極20を離間移動させた後、サーボモーター30の回転速度を最大回転速度から零まで最短加速・減速速度で減速させたときの打点毎の実行トルクを求める。
【0017】
打点毎の実行トルクというのは、1つの打点におけるスポット溶接動作から次の打点においてスポット溶接動作を行う前までの1打点サイクルにおける打点毎の実行トルクである。打点毎の実行トルクは、次の数1により求められる。
【0018】
【数1】
【0019】
数1において、Tpは加圧トルク、tpは加圧通電時間、Tvは加速・減速トルク、tvは加速・減速時間、tcは1つの打点におけるスポット溶接動作から次の打点においてスポット溶接動作を行う前までの1打点サイクル時間である。加速・減速時間tvは、1打点サイクルにおいて4回あり、具体的には、可動電極20を固定電極10に接近させる際にサーボモーター30の回転速度を零から最大回転速度まで加速する時と、可動電極20が固定電極10の近くまで移動した時にサーボモーター30の回転速度を最大回転速度から零まで減速する時と、可動電極20を固定電極10から離間させる際にサーボモーター30の回転速度を零から最大回転速度まで加速する時と、可動電極20が固定電極10から所定位置まで離間した時にサーボモーター30の回転速度を最大回転速度から零まで減速する時の4回である。
【0020】
求めた打点毎の実行トルクが定格トルク以下の場合には、例えば、サーボモーター30の最大回転速度及び最短加速・減速時間で可動電極20を動作させるように設定して制御する。すなわち、サーボモーター30の加速・減速時間tvは最短加速・減速時間に設定する。定格トルクは、サーボモーター30の定格出力、定格回転速度で運転するときに出力するトルクである。
【0021】
一方、実行トルクが定格トルクを超える打点については、実行トルクが定格トルク以下となるように、サーボモーター30の加速・減速時間tvを長くして設定する。例えば、図3に示したように、サーボモーター30の加速・減速時間tvを長くすると、加減速トルクTvが下がり、それにより実行トルクを下げることができるからである。
【0022】
また、実行トルクが定格トルクを超える打点については、上述したように、サーボモーター30の加速・減速時間tvを長くする共に、その打点におけるスポット溶接動作が終了した後、次の打点においてスポット溶接動作を行う前までの溶接停止時の停止時間を長く設定することにより、実行トルクが定格トルク以下となるようにしてもよい。溶接停止時に必要となるトルクは、可動電極20を固定電極10から離間した状態に維持するものであるので低く、そのため、停止時間を長くすれば実行トルクを下げることができるからである。
【0023】
これにより、打点毎に設定した加速・減速時間tv及び溶接停止時間に基づいてサーボモーター30を制御し、スポット溶接を行う。
【0024】
このように本実施の形態によれば、打点毎の実行トルクが定格トルクを超える打点について、実行トルクが定格トルク以下となるように、サーボモーター30の加速・減速時間tvを長くするようにしたので、加速・減速トルクTvを下げることにより、減速比及び加圧トルクTpを変えることなく、実行トルクを下げることができる。よって、小型モーターでも必要な加圧力を保ちつつ、高速打点をすることができる。
【0025】
また、サーボモーター30の加速・減速時間tvを長くする共に、その打点におけるスポット溶接動作が終了した後、次の打点においてスポット溶接動作を行う前までの溶接停止時の停止時間を長く設定するようにしても、実行トルクを下げることができる。
【0026】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、他の構成要素を備えていてもよい。また、各構成要素の要件は、異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…スポット溶接装置、10…固定電極、20…可動電極、21…可動アーム、30…サーボモーター、31…モーター本体、32…モーター伝動手段、40…ボールねじ、41…ねじ軸、42…ナット、43…ボールねじ伝動手段、50…支持体、51…一端側配設部、52…他端側配設部、53…中間配設部
図1
図2
図3