IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和ハウス工業株式会社の特許一覧

特開2024-108336音響評価装置および音響評価プログラム
<>
  • 特開-音響評価装置および音響評価プログラム 図1
  • 特開-音響評価装置および音響評価プログラム 図2
  • 特開-音響評価装置および音響評価プログラム 図3
  • 特開-音響評価装置および音響評価プログラム 図4
  • 特開-音響評価装置および音響評価プログラム 図5
  • 特開-音響評価装置および音響評価プログラム 図6
  • 特開-音響評価装置および音響評価プログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108336
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】音響評価装置および音響評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/13 20200101AFI20240805BHJP
   G10K 15/00 20060101ALI20240805BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20240805BHJP
【FI】
G06F30/13
G10K15/00 M
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012645
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天保 美咲
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA04
5B146DJ01
5B146EA01
5B146FA02
(57)【要約】
【課題】音発生エリアと受音エリアとの離隔距離が音響的に適切か否かを設計者が容易に確認できるようにする。
【解決手段】音響評価装置(1)は、室内空間の設計図面データから空間特定情報および什器のオブジェクト情報を読み取る読取り手段(31)と、読取り手段により読み取られたオブジェクト情報に基づいて、室内空間に含まれる複数の作業用エリアを音発生エリアと受音エリアとに分類する分類手段(32)と、読取り手段により読み取られた空間特定情報から算出される室定数を用いて、音発生エリアを音源とした場合の音圧レベルの距離減衰を算出する算出手段(33)とを備える。また、算出手段による算出結果に基づいて、音源から受音エリアに到達する音声の音圧レベルが許容レベル以下となるか否かを判定する判定手段(33)と、判定手段による判定結果を出力する出力手段(25)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間の設計図面データから空間特定情報および什器のオブジェクト情報を読み取る読取り手段と、
前記読取り手段により読み取られた前記オブジェクト情報に基づいて、前記室内空間に含まれる複数の作業用エリアを音発生エリアと受音エリアとに分類する分類手段と、
前記読取り手段により読み取られた前記空間特定情報から算出される室定数を用いて、前記音発生エリアを音源とした場合の音圧レベルの距離減衰を算出する算出手段と、
前記算出手段による算出結果に基づいて、前記音源から前記受音エリアに到達する音声の音圧レベルが許容レベル以下となるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を出力する出力手段とを備える、音響評価装置。
【請求項2】
前記分類手段は、前記音発生エリアにおける対人距離およびモニタ類の有無の少なくとも一方に基づいて、前記音発生エリアを、音源の音圧レベルを考慮した少なくとも2種類のタイプに分類する、請求項1に記載の音響評価装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記音発生エリアのタイプに応じた音源の音響パワーレベルを用いて、距離減衰を算出する、請求項2に記載の音響評価装置。
【請求項4】
前記出力手段は、前記判定手段により前記受音エリアの音圧レベルが前記許容レベルを超えると判定された場合に、警告情報を表示する表示手段を含む、請求項1に記載の音響評価装置。
【請求項5】
前記表示手段は、前記受音エリアのうち、前記音発生エリアの音声到達範囲に含まれる部分を識別可能に表示する、請求項4に記載の音響評価装置。
【請求項6】
前記表示手段は、吸音材を含む音対策部材の情報を表示する、請求項4に記載の音響評価装置。
【請求項7】
室内空間の設計図面データから空間特定情報および什器のオブジェクト情報を読み取るステップと、
読み取られた前記オブジェクト情報に基づいて、前記室内空間に含まれる複数の作業用エリアを音発生エリアと受音エリアとに分類するステップと、
読み取られた前記空間特定情報から算出される室定数を用いて、前記音発生エリアを音源とした場合の音圧レベルの距離減衰を算出するステップと、
距離減衰の算出結果に基づいて、前記音源から前記受音エリアに到達する音声の音圧レベルが許容レベル以下となるか否かを判定するステップと、
前記判定するステップでの判定結果を出力するステップとをコンピュータに実行させる、音響評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響評価装置および音響評価プログラムに関し、特に、複数の作業用エリアを含む室内空間における音響を評価するための装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の設計段階で、室内空間の音響を評価する技術が従来から提案されている。たとえば特開2022-64407号公報(特許文献1)には、音源室と受音室とを仕切る間仕切壁に開口が開設されている場合に、受音室での聞き取りやすさを簡便に計算可能な音響設計支援装置が開示されている。
【0003】
特開2022-104148号公報(特許文献2)には、空間の室用途に応じた評価基準を定めることで、室内の音響に対する検討を可能とした室内音響評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-64407号公報
【特許文献2】特開2022-104148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、時間や場所に制約されない「ABW(Active Based Working)」と呼ばれる働き方が注目されている。ABWを採用するオフィスでは、一つの大きな室内空間に、会話を行うエリア(以下「音発生エリア」という)と、会話せずに1人で集中するエリア(以下「受音エリア」という)とが、間仕切りなく設けられることが多い。受音エリアには、個人用の独立したデスクが配置され、音発生エリアには、会議用のデスクやソファが配置される。
【0006】
音発生エリアから受音エリアへの音の干渉を減らすために、吸音材、仕切板、サウンドマスキングなどの物理的な音対策部材を適用することが考えられるが、音対策部材の導入には費用がかかるため、設計段階では、両エリア間で距離を取ることで音響に対処することが重要である。しかしながら、設計図面を見ただけでは音発生エリアと受音エリアとの離隔距離が音響的に適切か否かを判別することが難しい。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、音発生エリアと受音エリアとの離隔距離が音響的に適切か否かを設計者が容易に確認できるようにするための音響評価装置およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に従う音響評価装置は、室内空間の設計図面データから空間特定情報および什器のオブジェクト情報を読み取る読取り手段と、読取り手段により読み取られたオブジェクト情報に基づいて、室内空間に含まれる複数の作業用エリアを音発生エリアと受音エリアとに分類する分類手段と、読取り手段により読み取られた空間特定情報から算出される室定数を用いて、音発生エリアを音源とした場合の音圧レベルの距離減衰を算出する算出手段とを備える。また、算出手段による算出結果に基づいて、音源から受音エリアに到達する音声の音圧レベルが許容レベル以下となるか否かを判定する判定手段と、判定手段による判定結果を出力する出力手段とを備える。
【0009】
好ましくは、分類手段は、音発生エリアにおける対人距離およびモニタ類の有無の少なくとも一方に基づいて、音発生エリアを、音源の音圧レベルを考慮した少なくとも2種類のタイプに分類する。
【0010】
この場合、算出手段は、音発生エリアのタイプに応じた音源の音響パワーレベルを用いて、距離減衰を算出することが望ましい。
【0011】
好ましくは、出力手段は、判定手段により受音エリアの音圧レベルが許容レベルを超えると判定された場合に、警告情報を表示する表示手段を含む。
【0012】
表示手段は、受音エリアのうち、音発生エリアの音声到達範囲に含まれる部分を識別可能に表示することが望ましい。また、表示手段は、吸音材を含む音対策部材の情報を表示してもよい。
【0013】
この発明の他の局面に従う音響評価プログラムは、室内空間の設計図面データから空間特定情報および什器のオブジェクト情報を読み取るステップと、読み取られたオブジェクト情報に基づいて、室内空間に含まれる複数の作業用エリアを音発生エリアと受音エリアとに分類するステップと、読み取られた空間特定情報から算出される室定数を用いて、音発生エリアを音源とした場合の音圧レベルの距離減衰を算出するステップと、距離減衰の算出結果に基づいて、音源から受音エリアに到達する音声の音圧レベルが許容レベル以下となるか否かを判定するステップと、判定するステップでの判定結果を出力するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、音発生エリア(音源)から受音エリアに到達する音声の音圧レベルが許容レベル以下となるか否かを判定した結果が出力されるので、設計者は、音発生エリアと受音エリアとの離隔距離が音響的に適切か否かを容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る音響評価装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】設計図面データから特定される室内空間のイメージ図であり、(A)に室内空間の立体形状を示し、(B)に什器レイアウトを示す。
図3】音発生エリアのタイプ別の距離減衰の算出結果を示すグラフである。
図4】各音発生エリアを音源とした音声到達範囲を示すイメージ図である。
図5】本発明の実施の形態に係る音響評価装置の動作を示すフローチャートである。
図6図5のステップS17での表示例を示す図である。
図7図5のステップS17での表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0017】
<構成について>
図1を参照して、本実施の形態に係る音響評価装置1の概略構成について説明する。音響評価装置1は、設計段階において、複数の作業用エリアを有する室内空間における音響を評価する。典型的には「室内空間」はオフィス空間であり、「作業用エリア」はワークエリアに相当する。なお、「室内空間」はオフィス空間以外の空間であってもよい。
【0018】
音響評価装置1は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)21と、各種情報およびプログラムを記憶する記憶部22と、BIM(Building Information Modeling)データなどの設計図面データを入力する入力部23と、ユーザからの指示の入力を受け付ける操作部24と、各種情報を表示する表示部25とを含む。音響評価装置1はPC(Personal Computer)などの汎用コンピュータにより構成されてもよいし、操作部24と表示部25とが一体的に設けられたタブレット端末により構成されていてもよい。
【0019】
入力部23は、建物の室内空間に関する設計図面データを入力する。設計図面データは、室内空間全体の大きさや内装材の種類などの「空間特定情報」と、室内空間内に配置予定の什器に関する「オブジェクト情報」とを含む。オブジェクト情報は、什器の種類(デスク、椅子、など)、形態(デスクの仕切りの有無、椅子の背もたれの有無、など)、サイズ、および配置位置(座標情報)などの情報を含む。什器は、少なくともデスクおよび椅子を含み、テレビやホワイトボードなどのモニタ類をさらに含む。設計図面データは、BIMデータに代表されるような、立体モデルの設計データであることが望ましい。
【0020】
入力部23は、設計装置から設計図面データを入力する入出力インターフェイスにより実現されてもよいし、インターネットなどのネットワークを介して設計図面データを取得する通信インターフェイスにより実現されてもよい。なお、設計装置自体が音響評価装置1として機能してもよい。
【0021】
CPU21は、入力部23を介して設計図面データを取得し、室内空間の内部の音響を評価する。CPU21は、その機能として、読取り部31、分類部32、算出部33、および判定部34を含む。
【0022】
読取り部31は、入力部23から設計図面データを取得し、取得した設計図面データから空間特定情報および什器のオブジェクト情報を読み取る。これらの情報から室内空間の大きさや什器のレイアウトを特定することができる。図2は、設計図面データから特定される室内空間100の具体例を模式的に示す図であり、(A)に、空間特定情報から特定される室内空間の立体形状を示し、(B)に、オブジェクト情報から特定される什器レイアウトを示す。
【0023】
図2(A)を参照して、室内空間100は、壁101、床102、および天井103によって囲まれた略直方体形状の空間である。なお、室内空間100の立体形状は単純な直方体形状に限定されない。室内空間100には、床102から天井103まで延びる間仕切り壁や、間仕切り壁と同等の高さのある仕切り壁が設けられていない。図2(B)に示されるように、室内空間100は、複数の作業用エリア111~114を含む。各作業用エリアは、同種の什器(デスク、椅子など)を1個または複数個有している。什器の種類、形態、および寸法等の違いに応じて、作業用エリア111~114が定められている。
【0024】
作業用エリア111~114についてより具体的に説明すると、同じ型番(形態およびサイズ)のデスクがまとまって配置される場合、それらを含むエリアが一つの作業用エリアとして設定されている。たとえば同じシリーズのデスクであっても、形態またはサイズが異なるものは、異なる作業用エリアに含まれてもよい。図2に示す例では、4つの作業用エリア111~114が存在している。
【0025】
たとえば、第1の作業用エリア111は、仕切りのない1つの会議用デスクOd1に対し、複数の椅子Oc1が配置されたエリアである。第2の作業用エリア112は、中央に仕切りを有する横長デスクOd2に対し、複数の椅子Oc2が配置されたエリアである。第3の作業用エリア113は、モニタ類(この例ではテレビモニタ)Omとともに、1つの会議用デスクOd3、複数の椅子Oc3、ソファOc4が配置されたエリアである。第4の作業用エリア114は、囲いのある独立したデスクOd5と椅子Oc5とが1対1で設けられたエリアである。
【0026】
分類部32は、読取り部31により読み取られたオブジェクト情報に基づいて、室内空間100に含まれる複数の作業用エリア111~114を「音発生エリア」と「受音エリア」とに分類する。
【0027】
本実施の形態では、分類部32は、独立したデスクと椅子とが1対1で設けられた第4の作業用エリア114を「受音エリア130」として判定し、それ以外の第1~第3の作業用エリア111~113を「音発生エリア120」として判定する。なお、デスクが無いエリアであっても、一人用ソファが独立して設けられた作業用エリアを「受音エリア130」として判定してもよい。
【0028】
分類部32は、音発生エリア120をタイプ別に分類することが望ましい。具体的には、音発生エリア120における対人距離、および、モニタ類Omの有無の少なくとも一方に基づいて、音発生エリア120を、音源の音圧レベルを考慮した少なくとも2種類のタイプに分類することが望ましい。「対人距離」は、作業者間の距離(対面距離または隣り合う人同士の距離)を表わし、什器の形態およびサイズから算出される。具体的には、会議用デスクOd1の奥行寸法L1、横並びの椅子Oc2間の間隔L2、などから算出される。なお、これらの数値L1,L2は、オブジェクト情報から得られるデスクや椅子の形状から算出可能である。
【0029】
本実施の形態では、音発生エリア120を、3つのタイプすなわち、i)デスクワーク利用タイプ、ii)通常の打合せ利用タイプ、iii)スピーカなどを用いた打合せ利用タイプ、のいずれかに分類する。比較的小さい会話音が生じるエリアを、i)デスクワーク利用タイプと判定し、比較的大きい会話音が生じ得るエリアを、ii)通常の打合せ利用タイプと判定する。また、通常の会話音よりも大きいスピーカ音が生じ得るエリアを、iii)スピーカなどを用いた打合せ利用タイプと判定する。各タイプの具体的な判定基準は次の通りである。
【0030】
i)デスクワーク利用タイプ
・一つのデスクに対し複数人が着座可能
・対面距離が所定値(たとえば1500mm)以上、または、対面者なし
ii)通常の打合せ利用タイプ
・一つのデスクに対し複数人(たとえば4人以下)が着座可能
・対面距離が所定値(たとえば1500mm)以内
・モニタ類なし
iii)スピーカなどを用いた打合せ利用タイプ
・一つのデスクに対し複数人(たとえば4人以上)が着座可能
・モニタ類あり
図2に示す例では、第1の作業用エリア111は、対面での会話が生じるエリアであるため「通常の打合せ利用タイプ」と判別される。第2の作業用エリア112は、少人数での会話が生じ得るエリアであり、「デスクワーク利用タイプ」と判別される。第3の作業用エリア113は、モニタ類Omがあり、スピーカなどを用いた大音量の音声が生じるエリアでるため、「スピーカなどを用いた打合せ利用タイプ」として判別される。
【0031】
算出部33は、音発生エリア120を音源とした場合の音圧レベルの距離減衰を算出する。距離減衰は、次の数式1~3により算出可能である。
[式1] L=L+10log10(j/4πr+4/R)
:音源から距離rの点の音圧レベル
:音源の音響パワーレベル
j:音源の指向係数
[式2] R=Sα/(1-α)
R:室定数
S:室内総表面積
α:平均吸音率
[式3] α=0.161V/TS
T:室の残響時間
V:室容積
【0032】
上記式1および2に示されるように、距離減衰は、室内空間100全体の吸音性を示す「室定数」を用いて算出される。上記式2に示されるように、室定数Rは、室内空間100の表面積および内装材(仕上げ材)の平均吸音率から算出される。これらの情報は、空間特定情報から特定することができる。なお、式3は、セイビンの残響式に相当する。
【0033】
算出部33は、音発生エリア120のタイプに応じた「音源の音響パワーレベルLw」および「音源の指向係数j」を用いて、距離減衰を算出することが望ましい。本実施の形態のようなi)~iii)のタイプに分類される場合、「音源の音響パワーレベルLw」は、タイプi)を“60dB”とし、タイプii)およびiii)を“65dB”とすることが考えられる。なお、タイプii)およびiii)の「音源の音響パワーレベルLw」は、互いに異なる値であってもよい。
【0034】
また、「音源の指向係数j」は、会話音に対応するタイプi)およびii)を、自由空間の指向係数“1”とし、スピーカ音に対応するタイプiii)を、音の跳ね返りを考慮した指向係数“2”とすることが考えられる。なお、スピーカを配置するような作業用エリアが存在しない場合には、「音源の指向係数j」は固定値(“1”)であってもよい。
【0035】
図3は、音発生エリア120のタイプ別の距離減衰の算出結果を示すグラフである。グラフの縦軸は、聞き手(受音者)の位置での音圧レベル(単位:dB)を示し、横軸は、音源と聞き手間の距離(単位:m)を示す。図3のグラフでは、タイプi)に対応する会話音(話声)およびタイプiii)のスピーカ音それぞれについて、音源からの距離rに応じた音圧レベルの減少度合が示されている。
【0036】
なお、図3のグラフは、室内空間100を22(m)×60(m)×3(m)の単純な直方体とし(図2(A)参照)、室内空間100の内装材(仕上げ材)の平均吸音率を以下の表に示す値とした場合の計算結果に対応する。
【0037】
【表1】
【0038】
判定部34は、算出部33による算出結果に基づいて、音源から受音エリア130に到達する音声の音圧レベルが許容レベル以下となるか否かを判定する。許容レベルは、受音エリア130である第4の作業用エリア114に対して想定される「静かさ」を考慮して定められる。たとえば、静かな事務所程度の音圧であれば“50dB”、図書館のような音圧であれば“40dB”、鉛筆等の執筆音が聞こえるような静かな音圧であれば“30dB”として定めることができる。
【0039】
図3のグラフでは、静かな事務所程度の音圧(50dB)を許容レベルVthとして設定した例が示されている。音源から受音エリア130に到達する音声の音圧レベルが許容レベルVth(50dB)以下となるような距離(音源からの距離)を、ここでは「適正距離」と表記する。図3の例では、音源が会話音タイプの音発生エリア120の場合、適正距離の最小値Faは4m程度である。音源がスピーカ音タイプの音発生エリア120の場合の適正距離の最小値Fbは、会話音タイプの最小値Faよりも大きい。
【0040】
図4に、各音発生エリア120内の音源P1~P3からの音圧レベルが許容レベル以下となるライン、すなわち適正距離の最小値のラインを、円または円弧で示している。円または円弧の内側が許容レベルを超える音圧となる範囲であり、この範囲を「音声到達範囲」という。第1および第2の作業用エリア111,112は、会話音(のみ)が生じ得るエリアであるため、たとえば受音エリア130に(最も)近い椅子の位置を音源P1,P2として定めることができる。第3の作業用エリア113は、スピーカ音が生じるエリアであるため、たとえばスピーカを配置し得るデスクの中央位置を音源P3として定めることができる。
【0041】
判定部34は、各音発生エリア120の音源と受音エリア130との距離(最短距離)を算出し、算出した距離が適正距離の最小値以上であるか、すなわち受音エリア130が各音発生エリア120の音声到達範囲外であるかどうかを判定する。より具体的には、受音エリア130が音声到達範囲に重なる干渉部分を有していないか否かを判定する。このようにして、室内空間100の音響が評価される。
【0042】
判定部34による判定結果は表示部25に出力される。これにより、設計者に、室内空間100の音響環境の良否が報知される。したがって、設計者は、音発生エリア120と受音エリア130との離隔距離が音響的に適切か否かを容易に確認することができる。表示部25は、出力手段として機能する。
【0043】
なお、表示部25は、判定部34により受音エリア130の音圧レベルが許容レベルを超えると判定された場合(音響環境が良好ではないと判定された場合)、警告情報を表示し、設計者に再検討が必要である旨報知することが望ましい。
【0044】
上述の読取り部31、分類部32、算出部33、および判定部34の機能は、CPU21がソフトウェアを実行することにより実現される。このソフトウェアは記憶部22に予め記憶されていてもよいし、ダウンロードにより入手してもよい。なお、これらの機能部のうちの少なくとも1つはハードウェアにより実現されてもよい。
【0045】
<動作について>
図5を参照して、本実施の形態に係る音響評価装置1の動作について説明する。図5は、室内空間における音響評価方法を示すフローチャートである。ここでは、理解を容易にするために、図2に示した室内空間100を対象とした音響評価方法について説明する。なお、図5に示す処理は、たとえばユーザ(設計者)が操作部24を操作して音響評価開始の指示を入力したことに応じて開始される。
【0046】
はじめに、読取り部31が、入力部23を介してBIMデータを取得し(ステップS1)、取得したBIMデータから、空間特定情報および什器のオブジェクト情報を含む必要情報を読み取る(ステップS3)。本実施の形態では、BIMデータから直接、空間特定情報および什器のオブジェクト情報を読み取るので、設計者による手入力の負担を軽減できる。また、手入力よりも抜け漏れが生じ難いというメリットもある。
【0047】
次に、分類部32が、ステップS3で読み取られた必要情報に基づいて、室内空間100に含まれる作業用エリア111~114を特定する(ステップS5)。その後、各エリアに含まれる什器の形態、サイズ等に応じて、作業用エリア111~114を、音発生エリア120と受音エリア130とに分類する(ステップS7)。この際、上述のように、音発生エリア120をタイプ別に細分化することが望ましい。
【0048】
なお、分類部32による分類処理に必要な什器等の情報として、BIMデータに含まれるオブジェクト情報の他、ユーザによりテキスト入力された情報を用いてもよい。また、分類部32による分類結果を表示部25に表示し、ユーザに確認させるようにしてもよい。この場合、分類部32による分類結果を手動により修正できるようにしてもよい。
【0049】
次に、算出部33が、室内空間100の空間サイズ(表面積)および内装材の平均吸音率から計算される室定数Rを用いて、各音発生エリア120を音源とした音圧レベルの距離減衰を算出する(ステップS9)。距離減衰の算出式は上述の通りであり、音発生エリア120のタイプに応じた「音源の音響パワーレベルLw」および「音源の指向係数j」を用いる。これにより、音発生エリア120である第1~第3の作業用エリア111~113それぞれについて、音圧レベルの距離減衰が算出される。なお、距離減衰の算出精度を高めるために、各什器の吸音効果を考慮した重み付け等を行ってもよい。
【0050】
その後、判定部34が、各音源と受音エリア130との距離(最短距離)、および、ステップS9での算出結果に基づいて、受音エリア130に到達する音の音圧レベルが許容レベル(たとえば50dB)以下か否かを判定する(ステップS11)。具体的には、各音発生エリア120(音源)から受音エリア130までの距離が、適正距離であるか否か(図3に示す最小値FaまたはFb以上であるか)を判定する。
【0051】
判定部34は、受音エリア130の音圧レベルが許容レベル以下であり、音発生エリア120と受音エリア130との離隔距離が適正距離である場合(ステップS11にてYES)、室内空間100の音響環境は良好であると判定する(ステップS13)。他方、受音エリア130の音圧レベルが許容レベルを超えており、音発生エリア120と受音エリア130との離隔距離が適正距離未満である場合(ステップS11にてYES)、室内空間100の音響環境は良好ではなく、改善する必要があると判定する(ステップS15)。
【0052】
音響環境の改善が必要である場合、CPU21は、その旨を示す警告情報を表示部25に表示する(ステップS17)。警告の表示方法としては、図6に示すように、室内空間100の画像上に警告マークMを表示することが考えられる。警告マークMは、たとえば受音エリア130上またはその近傍に表示される。操作部24の操作により警告マークMが選択されると、たとえば図7に示すように、受音エリア130に影響を及ぼしている音発生エリア120(第2の作業用エリア112)の音声到達範囲を示す円が表示される。図7では、この円が、許容レベルを示す数値、たとえば“50dB”のラインを示していることが示されている。
【0053】
このように、受音エリア130のうち、音発生エリア120の音声到達範囲に含まれる部分を識別可能に表示することが望ましい。これにより、設計者は、受音エリア130の一部が音発生エリア120(第2の作業用エリア112)の音声到達範囲に含まれており、受音エリア130がこのエリアの会話音で煩くなる可能性が高いということを把握することができる。
【0054】
上述のように、本実施の形態によれば、音発生エリア120と受音エリア130との離隔距離が音響的に適切か否かを容易に確認することができる。つまり、受音エリア130を想定通りの静かさの集中エリア(個人が集中して業務を行うエリア)として用いることができるか否かを、容易に把握することができる。これにより、設計者は、音声到達範囲に含まれる干渉部分が無くなるように、什器の配置位置を変更して受音エリア130と音発生エリア120との離隔距離を広げることを検討することができる。たとえば、受音エリア130の干渉部分にある什器(デスクOd5および椅子Oc5)を削除することを検討することができる。
【0055】
このように、室内空間100の音響環境を離隔距離によって対処することで、吸音材やサウンドマスキングなどの音対策部材の使用を極力抑えることができるので、室内空間100の建設にかかる費用を抑えることができる。なお、音対策部材も什器の一種と捉えてもよい。
【0056】
一方で、離隔距離だけで対処することが難しい場合には、各エリア内の什器のレイアウトはそのままで、吸音材を含む音対策部材の設置を検討することもできる。たとえば操作部24により所定の指示が入力された場合に、複数種類の音対策部材の情報を、たとえばリスト形式で表示部25に表示してもよい。また、この場合、たとえば音対策部材のカタログデータとの紐付けにより、音響環境の改善に適した音対策部材を抽出して表示するようにしてもよい。
【0057】
なお、本実施の形態に係る音響評価装置1により実行される音響評価方法を、プログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0058】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0059】
また、本発明にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0060】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 音響評価装置、21 CPU、22 記憶部、23 入力部、24 操作部、25 表示部、31 読取り部、32 分類部、33 算出部、34 判定部、100 室内空間、111~114 作業用エリア、120 音発生エリア、130 受音エリア、M 警告マーク、P1,P2,P3 音源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7