(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010835
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】光ファイバの製造装置および光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/027 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
C03B37/027 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112366
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】米沢 和泰
(72)【発明者】
【氏名】中川 翔太
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021HA02
4G021HA03
4G021HA04
(57)【要約】
【課題】徐冷用加熱炉内においてダストとの接触によるガラスファイバの強度の低下を抑制する。
【解決手段】、光ファイバの製造装置は、光ファイバ母材を加熱して線引する線引炉と、前記線引炉の下方に配置され、前記線引炉で線引されたガラスファイバを加熱する加熱炉と、前記加熱炉内部にクリーン度が1000個/cf以下のガスを供給するガス供給装置と、を備えており、前記加熱炉は、15mm以上の内径を有する炉心管と、前記加熱炉の入口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える入口シャッタと、前記加熱炉の出口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える出口シャッタと、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材を加熱して線引する線引炉と、
前記線引炉の下方に配置され、前記線引炉で線引されたガラスファイバを加熱する加熱炉と、
前記加熱炉内部にクリーン度が1000個/cf以下のガスを供給するガス供給装置と、
を備えており、
前記加熱炉は、
15mm以上の内径を有する炉心管と、
前記加熱炉の入口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える入口シャッタと、
前記加熱炉の出口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える出口シャッタと、
を有する、光ファイバの製造装置。
【請求項2】
前記炉心管の内径は20mm以上である、請求項1に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項3】
前記ガス供給装置は、クリーン度が1個/cf以下のガスを供給する、請求項1に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項4】
前記炉心管は、前記加熱炉の入口側に設けられた前記ガスの供給口を有する、請求項1に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項5】
前記入口シャッタの前記開口の前記径は10mm以下である、請求項1に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項6】
前記出口シャッタの前記開口の前記径は、前記入口シャッタの前記開口の前記径より大きい、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項7】
線引炉と、前記線引炉の下方に配置された加熱炉であって、15mm以上の内径を有する炉心管と前記加熱炉の入口に配置され前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える入口シャッタと前記加熱炉の出口に配置され前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える出口シャッタとを有する加熱炉と、を用いた光ファイバの製造方法であって、
前記線引炉において光ファイバ母材を加熱して線引し、
前記加熱炉において、前記加熱炉内部にクリーン度が1000個/cf以下のガスを供給しながら、前記線引炉によって線引されたガラスファイバを加熱する、光ファイバの製造方法。
【請求項8】
前記炉心管の内径は20mm以上である、請求項7に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項9】
前記ガスは、クリーン度が1個/cf以下のガスである、請求項7に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項10】
前記ガスは、前記加熱炉の入口側から供給される、請求項7に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項11】
前記入口シャッタの前記開口の前記径は10mm以下である、請求項7に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項12】
前記加熱炉の入口に入線する前記ガラスファイバの温度は、前記ガラスファイバの軟化点温度以上である、請求項7に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項13】
前記出口シャッタの前記開口の前記径は、前記入口シャッタの前記開口の前記径より大きい、請求項7から請求項12のいずれか一項に記載の光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの製造装置および光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、線引炉から加熱して線引されたガラスファイバが、1300~1600℃に加熱された徐冷用加熱炉内を通過する光ファイバの製造装置を開示している。
【0003】
特許文献2は、線引炉から加熱して線引されたガラスファイバが、入口温度(1500~1700℃)および出口温度(1200~1400℃)の徐冷用加熱炉内を通過する光ファイバの製造装置を開示している。
【0004】
特許文献3は、線引炉から加熱して線引されたガラスファイバが、内壁の温度がガラスファイバの温度より低い徐冷装置内を通過する光ファイバの製造装置を開示している。徐冷装置内では、入口から出口に向けて内部圧力が高くなっている。
【0005】
特許文献4は、線引炉から加熱して線引されたガラスファイバが、上昇気流の生じる徐冷用加熱炉内を通過する光ファイバの製造装置を開示している。徐冷用加熱炉の下部には、パージガスが供給されるクリーンエアフードが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-335934号公報
【特許文献2】特表2018-537385号公報
【特許文献3】特開2017-36184号公報
【特許文献4】特開2010-168247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような光ファイバの製造装置において、線引炉内で発生したガラス粒子やその他の粒子などを含むダストが、徐冷用加熱炉内に流入し、ガラスファイバと接触することによりガラスファイバの強度の低下を招く場合がある。
【0008】
本開示の目的は、徐冷用加熱炉内においてダストとの接触によるガラスファイバの強度の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の光ファイバの製造装置は、
光ファイバ母材を加熱して線引する線引炉と、
前記線引炉の下方に配置され、前記線引炉で線引されたガラスファイバを加熱する加熱炉と、
前記加熱炉内部にクリーン度が1000個/cf以下のガスを供給するガス供給装置と、
を備えており、
前記加熱炉は、
15mm以上の内径を有する炉心管と、
前記加熱炉の入口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える入口シャッタと、
前記加熱炉の出口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える出口シャッタと、
を有する。
【0010】
本開示の光ファイバの製造方法は、
線引炉と、前記線引炉の下方に配置された加熱炉であって、15mm以上の内径を有する炉心管と前記加熱炉の入口に配置され前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える入口シャッタと前記加熱炉の出口に配置され前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える出口シャッタとを有する加熱炉と、を用いた光ファイバの製造方法であって、
前記線引炉において光ファイバ母材を加熱して線引し、
前記加熱炉において、前記加熱炉内部にクリーン度が1000個/cf以下のガスを供給しながら、前記線引炉によって線引されたガラスファイバを加熱する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、徐冷用加熱炉内においてダストとの接触によるガラスファイバの強度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る光ファイバの製造装置の構成を示す概念図である。
【
図2】
図2は、
図1の光ファイバの製造装置の部分拡大図である。
【
図3】
図3は、出口シャッタの開口の径が小さい場合におけるガラスファイバ周囲のガスの牽引流の模式図である。
【
図4】
図4は、出口シャッタの開口の径が大きい場合におけるガラスファイバの周囲のガスの牽引流の模式図である。
【
図5】
図5は、光ファイバの断線頻度を算出するために用いられる光ファイバの製造装置の部分拡大図である。
【
図6】
図6は、徐冷炉の炉心管の内径に対する光ファイバの断線頻度を示す図である。
【
図7】
図7は、ガラスファイバからの距離に対するダストの数密度を示す図である。
【
図8】
図8は、光ファイバの断線頻度を算出するために用いられる光ファイバの製造装置の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
本開示の光ファイバの製造装置は、
(1)光ファイバ母材を加熱して線引する線引炉と、
前記線引炉の下方に配置され、前記線引炉で線引されたガラスファイバを加熱する加熱炉と、
前記加熱炉内部にクリーン度が1000個/cf以下のガスを供給するガス供給装置と、
を備えており、
前記加熱炉は、
15mm以上の内径を有する炉心管と、
前記加熱炉の入口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える入口シャッタと、
前記加熱炉の出口に配置され、前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える出口シャッタと、
を有する。
【0014】
上記構成によれば、加熱炉の炉心管の内径が15mm以上あるので、炉心管内におけるダストの数密度の増加を抑制できる。また、加熱炉の炉心管内にクリーン度が1000個/cf以下のガスが供給されるので、炉心管内のクリーン度が改善され、炉心管内のダストの数密度が減少する。さらに、入口シャッタの開口の径と出口シャッタの開口の径が炉心管の内径以下であるので、加熱炉の炉心管内の陽圧化を達成でき、ガラスファイバにより牽引されるガスの牽引流によりガラス粒子を含むダストが炉心管内へ流入することを抑制できる。この結果、加熱炉内におけるダストとの接触によるガラスファイバの強度の低下を抑制でき、光ファイバの断線頻度を低減できる。
【0015】
(2)上記(1)において、前記炉心管の内径は20mm以上でもよい。
【0016】
上記構成によれば、炉心管内のダストの数密度の増加をより抑制でき、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0017】
(3)上記(1)または(2)において、前記ガス供給装置は、クリーン度が1個/cf以下のガスを供給してもよい。
【0018】
上記構成によれば、クリーン度がより高いガスが炉心管内部に供給されるので、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記炉心管は、前記加熱炉の入口側に設けられた前記ガスの供給口を有してもよい。
【0020】
上記構成によれば、加熱炉の入口側においてガラスファイバ近傍の多くのダストを含むガスがクリーン度の高いガスに置換される。これにより、加熱炉の炉心管内を通過するガラスファイバとダストが接触する頻度を効率的に減らすことができる。したがって、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0021】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記入口シャッタの前記開口の前記径は10mm以下でもよい。
【0022】
上記構成によれば、加熱炉の炉心管内の陽圧を大きくし、ガラスファイバにより牽引されるダストを含むガスの牽引流を加熱炉の入口で効果的に引き剥がすことができる。これにより、加熱炉の炉心管内へのダストの流入をより効果的に防ぐことができり、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0023】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記出口シャッタの前記開口の前記径は、前記入口シャッタの前記開口の前記径より大きくてもよい。
【0024】
上記構成によれば、出口シャッタによる加熱炉内の乱流発生を防ぐことができ、ガラスファイバの外径の変動を抑えることができる。
【0025】
本開示の光ファイバの製造方法は、
(7)線引炉と、前記線引炉の下方に配置された加熱炉であって、15mm以上の内径を有する炉心管と前記加熱炉の入口に配置され前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える入口シャッタと前記加熱炉の出口に配置され前記炉心管の内径以下の径を有する開口を備える出口シャッタとを有する加熱炉と、を用いた光ファイバの製造方法であって、
前記線引炉において光ファイバ母材を加熱して線引し、
前記加熱炉において、前記加熱炉内部にクリーン度が1000個/cf以下のガスを供給しながら、前記線引炉によって線引された光ファイバを加熱する。
【0026】
上記方法によれば、加熱炉の炉心管の内径が15mm以上あるので、炉心管内におけるダストの数密度の増加を抑制できる。また、加熱炉の炉心管内にクリーン度が1000個/cf以下のガスが供給されるので、炉心管内のクリーン度が改善され、炉心管内のダストの数密度が減少する。さらに、入口シャッタの開口の径と出口シャッタの開口の径が炉心管の内径以下であるので、加熱炉の炉心管内の陽圧化を達成でき、ガラスファイバにより牽引されるガスの牽引流によりガラス粒子を含むダストが炉心管内へ流入することを抑制できる。この結果、加熱炉内におけるダストとの接触によるガラスファイバの強度の低下を抑制でき、光ファイバの断線頻度を低減できる。
【0027】
(8)上記(7)において、前記炉心管の内径は20mm以上でもよい。
【0028】
上記方法によれば、炉心管内のダストの数密度の増加をより抑制でき、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0029】
(9)上記(7)または(8)において、前記ガスは、クリーン度が1個/cf以下のガスでもよい。
【0030】
上記方法によれば、クリーン度がより高いガスが炉心管内部に供給されるので、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0031】
(10)上記(7)から(9)のいずれかにおいて、前記ガスは、前記加熱炉の入口側から供給されてもよい。
【0032】
上記方法によれば、加熱炉の入口側においてガラスファイバ近傍の多くのダストを含むガスがクリーン度の高いガスに置換される。これにより、加熱炉の炉心管内を通過するガラスファイバとダストが接触する頻度を効率的に減らすことができる。したがって、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0033】
(11)上記(7)から(10)のいずれかにおいて、前記入口シャッタの前記開口の前記径は10mm以下でもよい。
【0034】
上記方法によれば、加熱炉の炉心管内の陽圧を大きくし、ガラスファイバにより牽引されるダストを含むガスの牽引流を加熱炉の入口で効果的に引き剥がすことができる。これにより、加熱炉の炉心管内へのダストの流入をより効果的に防ぐことができり、さらなる光ファイバの断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0035】
(12)上記(7)から(11)のいずれかにおいて、前記加熱炉の入口に入線する前記ガラスファイバの温度は、前記ガラスファイバの軟化点温度以上でもよい。
【0036】
上記方法によれば、ガラスファイバを高温で粘度が低い状態で加熱炉に通過させることができるので、ガラスの原子の再配列が促進される。
【0037】
(13)上記(7)から(12)のいずれかにおいて、前記出口シャッタの前記開口の前記径は、前記入口シャッタの前記開口の前記径より大きくてもよい。
【0038】
上記方法によれば、出口シャッタによる加熱炉内の乱流発生を防ぐことができ、ガラスファイバの外径の変動を抑えることができる。
【0039】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光ファイバの製造装置および光ファイバの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以下の説明に用いられる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0040】
(光ファイバの製造装置1)
図1は、本実施形態に係る光ファイバの製造装置1の構成を示す概略図である。光ファイバの製造装置1は、光ファイバ母材Gを線引してガラスファイバG1を形成し、ガラスファイバG1の外周に樹脂を被覆して光ファイバG2を製造するように構成されている。光ファイバ母材Gは、例えば、石英ガラスを主成分とする光ファイバ母材である。
【0041】
光ファイバの製造装置1は、線引炉2、徐冷炉3、ガス供給装置4、樹脂塗布装置5、樹脂硬化装置6、ガイドローラ7、および巻取装置8を備えている。線引炉2、徐冷炉3、樹脂塗布装置5、および樹脂硬化装置6は、光ファイバ母材Gを線引する方向に、線引炉2、徐冷炉3、樹脂塗布装置5、および樹脂硬化装置6の順で配置されている。徐冷炉3は、加熱炉の一例である。
【0042】
線引炉2は、光ファイバ母材Gを加熱して線引するように構成されている。具体的には、線引炉2は、炉心管21とヒータ22を備えている。炉心管21内には、フィーダ(図示せず)により光ファイバ母材Gが吊り下げられる。ヒータ22は、炉心管21を囲むように配置されており、炉心管21内に吊り下げられた光ファイバ母材Gの下端部を加熱する。なお、炉心管21内には不活性ガスが導入されてもよい。
【0043】
徐冷炉3は、線引炉2で線引きされたガラスファイバG1を加熱しながら徐冷する。徐冷炉3内を通過するガラスファイバG1は、所定の冷却速度(例えば、3000℃/秒以下)で徐冷される。具体的には、
図2に例示されるように、徐冷炉3は、炉心管31、ヒータ32、入口シャッタ33、および出口シャッタ34を備えている。
【0044】
炉心管31は、円筒状であり、15mm以上、好ましくは20mm以上の内径D1を有している。炉心管31には、ガスの供給口311が設けられている。本例においては、ガスの供給口311は炉心管31の入口側に設けられており、徐冷炉3の入口側から炉心管31内部にガスが供給される。なお、本明細書において用いられる「炉心管31の入口側」という表現は、炉心管31の長手方向における中心よりも上方であることを意味する。
【0045】
ヒータ32は、炉心管31を囲むように配置されており、炉心管31内に入線したガラスファイバG1を加熱する。
【0046】
入口シャッタ33は、ガラスファイバG1が入線する徐冷炉3の入口に配置されている。具体的には、入口シャッタ33は、炉心管31の上側に取り付けられている。入口シャッタ33は、円盤状であり、ガラスファイバG1が挿通される開口331を有している。開口331の径D2は、炉心管31の内径D1以下である。入口シャッタの開口331の径D2は、例えば15mm以下、好ましくは10mm以下である。
【0047】
出口シャッタ34は、ガラスファイバG1が出線する徐冷炉3の出口に配置されている。具体的には、出口シャッタ34は、炉心管31の下側に取り付けられている。出口シャッタ34は、円盤状であり、ガラスファイバG1が挿通される開口341を有している。開口341の径D3は、炉心管31の内径D1以下である。
【0048】
ガス供給装置4は、徐冷炉3内部にクリーン度が1000個/cf以下、好ましくは1個/cf以下のガスを供給するように構成されている。徐冷炉3内部に供給されるガスとしては、窒素や空気などが用いられる。ここで、「クリーン度」は、1立方フィートの空間内に存在する直径0.5μm以上の粒子の数により表される。例えば、クリーン度が1000個/cfとは、直径0.5μm以上の粒子が1立方フィートの空間内に1000個存在することを意味している。
【0049】
ガス供給装置4には、ガス供給用配管41が接続されている。ガス供給用配管41は、徐冷炉3の炉心管31のガスの供給口311に接続されている。ガス供給装置4から供給されたガスは、ガス供給用配管41を通ってガスの供給口311から炉心管31内部に供給される。
【0050】
図1に例示されるように、樹脂塗布装置5は、徐冷炉3から出線したガラスファイバG1の周囲に樹脂を塗布する。樹脂硬化装置6は、ガラスファイバG1の周囲に塗布された樹脂を硬化させる。巻取装置8は、ガラスファイバG1の周囲に樹脂が形成された光ファイバG2を巻き取る。
【0051】
(光ファイバの製造方法)
次に、光ファイバの製造装置1を用いた光ファイバの製造方法について説明する。
【0052】
まず、
図1に例示されるように、光ファイバ母材Gはフィーダにより線引炉2の炉心管21内に供給され、光ファイバ母材Gの下端部がヒータ22により加熱されて軟化する。軟化した光ファイバ母材Gの下端部は下方に細く引き伸ばされて、ガラスファイバG1が形成される。
【0053】
線引炉2から出線したガラスファイバG1は、線引炉2と徐冷炉3の間で空冷された後、徐冷炉3に入線する。徐冷炉3の入口に入線する直前のガラスファイバG1の温度は、例えばガラスファイバG1の軟化点温度以上となるように、ガラスファイバG1の線引速度や張力などが適宜設定されている。一般に、光ファイバの材料として使用される石英ガラスの軟化点は約1600℃である。したがって、光ファイバ母材Gとして石英ガラスを主成分とする光ファイバ母材Gを用いる場合は、徐冷炉3の入口に入線する直前のガラスファイバG1の温度が約1600℃となるように、ガラスファイバG1の線引速度や張力などが設定されうる。
【0054】
線引炉2から出線したガラスファイバG1は、入口シャッタ33の開口331に挿通されて、炉心管31内を走行し、出口シャッタ34の開口341から出線する。炉心管31内には、ガスの供給口311からクリーン度が1000個/cf以下のガスが供給される。ガラスファイバG1は、徐冷炉3内を通過しながら、所定の冷却速度で徐冷される。
【0055】
徐冷炉3から出線したガラスファイバG1は、樹脂塗布装置5により樹脂が塗布され、樹脂硬化装置6により樹脂が硬化されて、光ファイバG2が形成される。光ファイバG2は、ガイドローラ7を経由して巻取装置8により巻き取られる。
【0056】
ここで、線引炉2内では、高温に加熱された光ファイバ母材Gからガラスが蒸発し、蒸発したガラスは冷えて微粒子となり、線引炉2内の雰囲気中に浮遊する。一部のガラス微粒子はガラスファイバG1の線引により牽引されるガスの牽引流に取り込まれて、ガスの牽引流により線引炉2から流出して徐冷炉3の炉心管31内に流入する。一般的に電力消費量対効果の観点から徐冷炉3の炉心管31の内径D1は小さいので、徐冷炉3の炉心管31内におけるガラス粒子を含むダストの数密度は高くなる。このため、炉心管31内を通過する高温のガラスファイバG1とダストが接触する頻度が高くなり、ガラスファイバG1においてダストと接触した箇所の強度が低下する。これにより、線引後のプルーフテストにおいて光ファイバG2の断線頻度が増加する。
【0057】
これに対して、本実施形態の光ファイバの製造装置1および光ファイバの製造方法によれば、徐冷炉3の炉心管31の内径D1が15mm以上あるので、炉心管31内におけるダストの数密度の増加を抑制できる。また、徐冷炉3の炉心管31内にクリーン度が1000個/cf以下のガスが供給されるので、炉心管31内のクリーン度が改善され、炉心管31内のダストの数密度が減少する。さらに、入口シャッタ33の開口331の径D2と出口シャッタ34の開口341の径D3が炉心管31の内径D1以下であるので、徐冷炉3の炉心管31内の陽圧化を達成でき、ガラスファイバG1により牽引されるガスの牽引流によりガラス粒子を含むダストが炉心管31内へ流入することを抑制できる。この結果、徐冷炉3内におけるダストとの接触によるガラスファイバG1の強度の低下を抑制でき、光ファイバG2の断線頻度を低減できる。
【0058】
徐冷炉3の炉心管31の内径D1が20mm以上である場合には、炉心管31内のダストの数密度の増加をより抑制でき、さらなる光ファイバG2の断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0059】
炉心管31内部に供給されるガスとしてクリーン度が1個/cf以下のガスが使用される場合には、クリーン度がより高いガスが炉心管31内部に供給されるので、さらなる光ファイバG2の断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0060】
また、本実施形態においては、ガスの供給口311は徐冷炉3の入口側にあるので、徐冷炉3の入口側においてガラスファイバG1近傍の多くのダストを含むガスがクリーン度の高いガスに置換される。これにより、徐冷炉3の炉心管31内を通過するガラスファイバG1とダストが接触する頻度を効率的に減らすことができる。したがって、さらなる光ファイバG2の断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態において、入口シャッタ33の開口331の径D2が10mm以下である場合には、徐冷炉3の炉心管31内の陽圧を大きくし、ガラスファイバG1により牽引されるダストを含むガスの牽引流を徐冷炉3の入口で効果的に引き剥がすことができる。これにより、徐冷炉3の炉心管31内へのダストの流入をより効果的に防ぐことができり、さらなる光ファイバG2の断線頻度の低減効果を得ることができる。
【0062】
また、本実施形態において、徐冷炉3の入口に入線する直前のガラスファイバG1の温度がガラスファイバG1の軟化点温度以上である場合には、ガラスファイバG1を高温で粘度が低い状態で徐冷炉3に通過させることができるので、ガラスの原子の再配列が促進される。
【0063】
なお、本実施形態において、出口シャッタ34の開口341の径D3は、入口シャッタ33の開口331の径D2より大きくてもよい。ここで、ガラスファイバG1は、高温で粘度が低い状態で徐冷炉3内を通過するので、徐冷炉3の入口付近での乱流の発生、あるいは徐冷炉3内での乱流や上昇気流の発生は、ガラスファイバG1の外径が変動する要因となりうる。
【0064】
例えば、
図3に示されるように、出口シャッタ34の開口341の径D3が小さいと、炉心管31内を線引き方向に走行するガラスファイバG1により牽引されたガスの牽引流の一部が出口シャッタ34によりブロックされて上方に跳ね返り、徐冷炉3内に乱流を発生させる。一方、
図4に例示されるように、出口シャッタ34の開口341の径D3が大きいと、ガスの牽引流は乱されずに、整流またはそれに近い状態で、ガラスファイバG1と共に徐冷炉3から流出する。すなわち、出口シャッタ34の開口341の径D3を入口シャッタ33の開口331の径D2よりも大きくすることにより、出口シャッタ34による徐冷炉3内の乱流発生を防ぐことができ、ガラスファイバG1の外径の変動を抑えることができる。
【0065】
(実施例)
以下、実施例を示して本開示を更に具体的に説明する。本開示は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
まず、徐冷炉3の炉心管31の内径D1を変化させた場合の光ファイバG2の断線頻度を調査した。具体的には、
図5に示されるように、長さLが2mで且つ内径D1が10mm、15mm、20mm、25mm、30mm、または35mmである炉心管31を備える光ファイバの製造装置1Aを用いて製造された光ファイバG2の断線頻度を算出した。
図5に示される徐冷炉3の入口付近に設置された放射温度計10によりガラスファイバG1の温度を測定し、ガラスファイバG1の温度が1600℃付近(1550~1650℃の範囲)となるように線引速度および張力を調整しながら、15000kmの線引を実施した。線引後の光ファイバG2に対してプルーフテストを行い、プルーフテストにて発生した断線頻度を算出した。なお、プルーフテストでは、線引後の光ファイバにその長手方向に引き伸び率1%となる荷重を負荷した場合の断線回数を測定した。断線頻度は、1000km当りの断線回数として算出した。結果を表1および
図6に示す。
【0067】
【0068】
表1と
図6に示されるように、徐冷炉3の炉心管31の内径D1が小さいと、断線が多く発生することが分かった。この結果から、徐冷炉3の炉心管31の内径D1は小さくし過ぎない方が良く、少なくとも15mm以上、好ましくは20mm以上であることが確認できた。
【0069】
ここで、徐冷炉3の炉心管31の内径D1が小さいと断線が増える理由としては、ダストの数密度が、線引炉2から出線されたガラスファイバG1に近いほど高いことが要因と考えられる。そこで、
図5に示される線引き方向に垂直な方向におけるガラスファイバG1の中心からの距離r(mm)に対する線引炉2の直下におけるダストの数密度を測定した。結果を表2および
図7に示す。なお、ダストの数密度は、1立方フィートの空間内に存在する直径0.5μm以上の粒子の数(個/cf)で表した。
【0070】
【0071】
表2と
図7に示されるように、ガラスファイバG1に近くなるほど、ダストの数密度が高くなることが分かった。これは、線引炉2内で発生したガラス微粒子がガラスファイバG1の線引きにより牽引されるガスの牽引流に取り込まれるので、線引炉2から出線したガラスファイバG1との距離rが近い程、ダストの数が大きくなると考えられる。
【0072】
この結果から、徐冷炉3の炉心管31の内径D1が小さいと、炉心管31内部でのダストの数密度が高くなり、炉心管31内を走行するガラスファイバG1がダストと接触する頻度が高くなり、ガラスファイバG1において低強度となる点が増加すると考えられる。
【0073】
次に、徐冷炉3に供給するガスのクリーン度およびガスの供給口311の位置を変化させた場合の光ファイバG2の断線頻度を調査した。具体的には、
図8に示されるよう、長さLが2mで且つ内径が20mmであり、ガスの供給口311からガスが供給される炉心管31を備える光ファイバの製造装置1Bを用いて製造された光ファイバG2の断線頻度を算出した。
【0074】
供給するガスとしては、露点-40℃のドライエアをフィルタでろ過し、クラス1000とクラス1の2種類のガスを用意した。クラス1は、0.5μmの粒子が1立方フィートの空間内に1個存在するガスである。クラス1000は0.5μmの粒子が1立方フィートの空間内に1000個存在するガスである。
図8に示される徐冷炉3の入口近傍の供給口311Aおよび徐冷炉3の出口近傍の供給口311Bのいずれか一方からクラス1000またはクラス1のガスを20L/分で供給し、徐冷炉3に入線するガラスファイバG1の温度が1600℃付近(1550~1650℃の範囲)となるように線引速度および張力を調整しながら15000kmの線引を実施した。線引後の光ファイバG2に対してプルーフテストを行い、プルーフテストにて発生した断線頻度を算出した。結果を表3に示す。
【0075】
【0076】
表3に示されるように、徐冷炉3内にガスを供給することにより、断線頻度が減少することが分かった。これは、徐冷炉3内にガスを供給することにより徐冷炉3の内部、特にガラスファイバG1近傍のクリーン度が改善するため、断線頻度が減少するためと考えられる。また、クラス1000よりもクラス1のガスを使用する、すなわち、クリーン度がより高いガスを使用することにより、断線頻度が減少することが分かった。
【0077】
ガスの供給口については、特にクラス1のガスを供給する場合は、供給口311Bよりも供給口311Aを使用した方が断線頻度の低減効果が大きいことが分かった。これは、ガラスファイバG1近傍のダストの数密度が高いガスを徐冷炉3の入口近傍でクリーン度の高いガスに置換することにより、徐冷炉3内でガラスファイバG1とダストが接触する頻度を効率的に減らせるためと考えられる。
【0078】
次に、徐冷炉3の入口および出口の内径を変化させた場合の光ファイバG2の断線頻度を調査した。具体的には、
図2に示される光ファイバの製造装置1において、長さLが2mで且つ内径D1が20mmである炉心管31を用いた。入口シャッタ33としては、10mmまたは15mmの径の開口331を有する入口シャッタを用いた。出口シャッタ34としては、10mmまたは15mmの径の開口341を有する出口シャッタを用いた。そして、徐冷炉3の入口近傍の供給口311からクラス1のガスを20L/分で供給し、徐冷炉3に入線するガラスファイバG1の温度が1600℃付近(1550~1650℃の範囲)となるように線引速度および張力を調整しながら15000kmの線引を実施した。線引後の光ファイバG2に対してプルーフテストを行い、プルーフテストにて発生した断線頻度を算出した。結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
表4に示されるように、入口シャッタ33の開口331の径D2と出口シャッタ34の開口341の径D3は、徐冷炉3の炉心管31の内径D1より小さい程、断線頻度が減少することが分かった。これは、徐冷炉3の炉心管31内に供給されたガスにより炉心管31内が陽圧化されるためと考えられる。そして、炉心管31内での陽圧が大きくなるにつれて、ガラスファイバG1により牽引されるガスの牽引流が徐冷炉3内への流入することを阻止する効果が大きくなり、徐冷炉3内のクリーン度の低下を抑制できるためと考えられる。
【0081】
次に、炉心管31の内径D1、入口シャッタ33の開口331の径D2、および出口シャッタ34の開口341の径D3に対する光ファイバG2の断線頻度およびガラスファイバG1の外径変動を調査した。具体的には、
図2に示される光ファイバの製造装置1において、長さLが2mで且つ内径D1がφ20mmである炉心管31と開口331の径D2が10mmの径である入口シャッタ33を用い。出口シャッタ34としては、開口341の径D3が10mm、15mm、または20mmである出口シャッタを用いた。そして、徐冷炉3の入口近傍の供給口311からクラス1のガスを20L/分で供給し、徐冷炉3に入線するガラスファイバG1の温度が1600℃付近(1550~1650℃の範囲)となるように線引速度および張力を調整しながら15000kmの線引を実施した。線引後の光ファイバG2に対してプルーフテストを行い、プルーフテストにて発生した断線頻度を算出した。また、線引中のガラスファイバG1の外径変動を算出した。結果を表5に示す。なお、ガラスファイバG1の外径変動は、徐冷炉3から出線するガラスファイバG1の外径を測定し、複数の測定値に基づいて標準偏差σを算出し、3σの値として表した。
【0082】
【0083】
表5に示されるように、断線頻度は、出口シャッタ34の開口341の径D3を大きくしても、低いままであることが分かった。一方で、出口シャッタ34の開口341の径D3は、10mmよりも15mmの方が断線頻度が減少することが分かった。この結果から、出口シャッタ34の開口341の径D3は、炉心管31の内径D1以下の範囲内において大きいほど、光ファイバG2の断線頻度の低減効果を維持しつつ、ガラスファイバG1の外径変動を抑制できることを確認できた。
【0084】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【0085】
上記の実施形態において、光ファイバの製造装置1は、
図1に例示される構成に限定されない。例えば、光ファイバの製造装置1において、徐冷炉3と樹脂塗布装置5との間には、冷却装置が設けられてもよい。冷却装置により、徐冷炉3を出線した光ファイバG2を、冷却媒体により数百℃から室温近くまで急速に冷却することができる。
【符号の説明】
【0086】
1、1A、1B:光ファイバの製造装置
2:線引炉
21:炉心管
22:ヒータ
3:徐冷炉
31:炉心管
311、311A、311B:ガスの供給口
32:ヒータ
33:入口シャッタ
331:開口
34:出口シャッタ
341:開口
4:ガス供給装置
41:ガス供給用配管
5:樹脂塗布装置
6:樹脂硬化装置
7:ガイドローラ
8:巻取装置
10:放射温度計
G:光ファイバ母材
G1:ガラスファイバ
G2:光ファイバ
L:炉心管の長さ
r:ガラスファイバからの距離
D1:炉心管の内径
D2:入口シャッタの開口の径
D3:出口シャッタの開口の径
σ:標準偏差