(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108350
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】放射線遮蔽体、および照射室
(51)【国際特許分類】
G21F 1/10 20060101AFI20240805BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20240805BHJP
G21F 7/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F3/00 P
G21F3/00 L
G21F7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012663
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】時吉 正憲
(72)【発明者】
【氏名】西山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】浅野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】辻谷 薫
(57)【要約】
【課題】放射線照射装置が設置される照射室の配管が挿通する貫通孔に対し、鉛を用いずに放射線遮蔽性能が高く、かつ容易な施工で放射線遮蔽工事が可能となる、放射線遮蔽体を提供する。
【解決手段】放射線遮蔽体10は、放射線照射装置が設置される照射室1の天井2、床3、または壁4の、配管7が挿通する貫通孔5に設けられる放射線遮蔽体10であって、硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成型され、照射室1の側から貫通孔5に対して挿入され、配管7が挿通される挿通孔11hを有する筒状部11と、筒状部11の外周面から径方向外側に立ち上がるように設けられるフランジ部12と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線照射装置が設置される照射室の天井、床、または壁の、配管が挿通する貫通孔に設けられる放射線遮蔽体であって、
硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成型され、
前記照射室の側から前記貫通孔に対して挿入され、前記配管が挿通される挿通孔を有する筒状部と、
前記筒状部の外周面から径方向外側に立ち上がるように設けられるフランジ部と、
を備えていることを特徴とする放射線遮蔽体。
【請求項2】
前記放射線遮蔽体は、前記筒状部の軸線方向に沿った平面で分割された形状として成型された分割体が、互いに合体されて形成され、
前記分割体の各々の分割面の一方には突条が、他方には凹条が、それぞれ形成され、一の分割体の突条が他の分割体の凹条に密嵌されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の放射線遮蔽体を取付けた貫通孔が壁の上側に形成されていることを特徴とする照射室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線照射装置が設置される照射室の天井、床、または壁を挿通する貫通孔に設けられる放射線遮蔽体、および照射室に関する。
【背景技術】
【0002】
エックス線照射装置等の、放射線照射装置が設置される照射室においては、その外部に放射線が漏れ出ることを抑制する必要がある。このような照射室においても、一般の室と同様に、電気、空調、水等の供給、排出を行うための配管が、照射室の内外を貫通するように、設けられることがあり、この配管が挿通される、天井、床、壁に設けられる貫通孔を介して、放射線が漏れ出る可能性がある。
これに対し、特許文献1には、放射線照射装置が設置される照射室の通路出入口の上方にコンクリート垂れ壁が設けられ、クランク状に屈曲されるクランク状屈曲部を有し、コンクリート垂れ壁に形成された貫通孔に接続される配管と、通路の上部に設けられ、クランク状屈曲部が埋設されるコンクリート遮蔽部と、を備えることにより、貫通孔からの放射線の漏洩を抑制する構成が開示されている。
しかしながら、特許文献1の構成においては、配管の周囲が複雑な構造となり、施工が容易ではない。
【0003】
ところで、特許文献1には、壁や天井スラブに、金属遮蔽体を埋設することも、併せて開示されている。このような金属遮蔽体としては、一般に、密度が高く放射線を遮蔽可能で、かつ安価な鉛が使用されることが多い。しかし近年、持続可能な開発目標の観点から、鉛を含めた重金属の使用を減らすことが求められている。したがって、鉛を使用せずに、放射線を遮蔽することが望まれる。
これに関し、特許文献2、特許文献3には、硫酸バリウムが放射線を遮蔽する性質を有することを活かし、硫酸バリウムを石膏に混入、含有させた、硫酸バリウム混入石膏ボードや石膏含有ボードが開示されている。これらのボードを鉛の替わりに使用することで、放射線の遮蔽のための鉛の使用量を低減することができる。
【0004】
このような、硫酸バリウムを石膏に混入させた物質を用いて、配管周辺の放射性遮蔽対策を行うことも考えられるが、このためには、上記の物質を配管や貫通孔の形状にあわせて成形する必要がある。しかし、石膏は加工性が高くはなく、配管や貫通孔の形状にあわせた複雑な形状に形成することは容易ではない。仮に、望ましい形状に形成することができたとしても、石膏は欠けやすいため、施工時に破損する可能性があり、したがって施工が容易ではなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-89464号公報
【特許文献2】特開2010-32270号公報
【特許文献3】特開2019-189476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、放射線照射装置が設置される照射室の配管が挿通する貫通孔に対し、鉛を用いずに放射線遮蔽性能が高く、かつ容易な施工で放射線遮蔽工事が可能となる、放射線遮蔽体、および照射室を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の放射線遮蔽体は、放射線照射装置が設置される照射室の天井、床、または壁の、配管が挿通する貫通孔に設けられる放射線遮蔽体であって、硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成型され、前記照射室の側から前記貫通孔に対して挿入され、前記配管が挿通される挿通孔を有する筒状部と、前記筒状部の外周面から径方向外側に立ち上がるように設けられるフランジ部と、を備えていることを特徴とする。
このような構成によれば、放射線遮蔽体は、照射室の側から貫通孔に対して挿入され、配管が挿通される挿通孔を有する筒状部を有する構成となっている。すなわち、放射線遮蔽体は、照射室の側から放射線遮蔽体を貫通孔に対して挿入するのみで設置することができる。また、放射線遮蔽体は、遮蔽ゴムにより成型されているため、施工時に破損する可能性が低く、過度に慎重に取り扱う必要がない。このような理由により、施工が容易である。
また、放射線遮蔽体が成型される遮蔽ゴムは、硫酸バリウムを含有している。このため、放射線遮蔽性能が高い。
更に、放射線遮蔽体を設置するに際し、筒状部を照射室の側から貫通孔に対して挿入すると、筒状部の外周面から径方向外側に立ち上がるように設けられるフランジ部が、照射室の天井、床、または壁に突き当たり、貫通孔の内壁と、筒状部の外周面との間の隙間を、照射室の側から閉塞する。これにより、照射室から、放射線が当該隙間を通って照射室の外へと漏れ出ることが抑制される。
このような理由により、鉛を用いることなく、放射線遮蔽性能を高めることができる。
その結果、放射線照射装置が設置される照射室の配管が挿通する貫通孔に対し、鉛を用いずに放射線遮蔽性能が高く、かつ容易な施工で放射線遮蔽工事が可能となる、放射線遮蔽体を提供することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記放射線遮蔽体は、前記筒状部の軸線方向に沿った平面で分割された形状として成型された分割体が、互いに合体されて形成され、前記分割体の各々の分割面の一方には突条が、他方には凹条が、それぞれ形成され、一の分割体の突条が他の分割体の凹条に密嵌されている。
このような構成によれば、放射線遮蔽体が、分割体同士を互いに合体させることで形成されている。これにより、新築建物への施工時に限らず、既存建物において、既に配管が挿通されている貫通孔に対しても、例えば配管を中心として外方から囲うように分割体を配置した状態で分割体同士を互いに合体させて、放射線遮蔽体を形成したうえで、配管に沿って放射線遮蔽体を移動させて、貫通孔と配管との隙間に筒状部を挿入することで、配管に対する工事を行うことなく、後施工により放射線遮蔽体を設けることができる。
また、分割体は、筒状部の軸線方向に沿った平面で分割された形状として成型されており、基本的に中空の部分を有さない形状をなしているため、その成型を容易に行うことができる。
更に、分割体同士を合体させる際、分割体の各々の分割面の一方には突条が、他方には凹条が、それぞれ形成され、一の分割体の突条が他の分割体の凹条に密嵌されている。このため、分割体同士の合わせ目に放射線が侵入しようとしても、分割面に対して立ち上がるように設けられた突条の壁面で遮断される。したがって、分割体同士の合わせ目を放射線が通過してしまうのを抑えることができる。
【0009】
また、本発明の照射室は、上記記載の放射線遮蔽体を取付けた貫通孔が壁の上側に形成されている。
このような構成によれば、照射室の壁の上側に貫通孔が形成されていることで、この貫通孔の部分には、照射室内の床上に設置された放射線照射装置から放射された放射線が照射室の壁で複数回の反射を繰り返して到達することになる。よって、照射室の壁上側に設けた貫通孔を通過する放射線は、放射線照射装置の放射時に比べて、強度が低減していることで、照射室外への放射線の通過を有効に抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放射線照射装置が設置される照射室の配管が挿通する貫通孔に対し、鉛を用いずに放射線遮蔽性能が高く、かつ容易な施工で放射線遮蔽工事が可能となる、放射線遮蔽体、および照射室を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る放射線遮蔽体の構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の放射線遮蔽体の構成を示す斜視図である。
【
図3】放射線遮蔽体の軸線方向に沿った断面図である。
【
図4】放射線の照射試験結果を示す図であり、試験体のゴム厚さと、鉛当量との関係を示す図である。
【
図5】鉛当量毎の、各管電圧で必要な放射線遮蔽体のゴム厚さを示す図である。
【
図6】複数種の照射室における遮蔽計算結果を示す図である。
【
図8】放射線遮蔽体を構成する分割体を示す斜視図である。
【
図9】分割体の成型に用いる型枠の例を示す図である。
【
図10】放射線遮蔽体を設置するに際し、天井、床、または壁に貫通孔を形成した状態を示す断面図である。
【
図11】一対の分割体を合体させて放射線遮蔽体を組み立てる状態を示す断面図である。
【
図12】放射線遮蔽体の筒状部を貫通孔に挿入した状態を示す断面図である。
【
図13】貫通孔が、照射室の壁の上側に形成されている場合における、放射線遮蔽体に対する放射線の照射状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、放射線照射装置が設置される照射室の天井、床、または壁を挿通する貫通孔に設ける放射線遮蔽体、および前記放射線遮蔽体を取付けた貫通孔を形成された照射室である。放射線遮蔽体は、硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成型される。具体的には、放射線遮蔽体は、挿通孔を有する筒状部と、前記筒状部の外周面から径方向外側に設けられるフランジ部とを備えている。
以下、添付図面を参照して、本発明による放射線遮蔽体を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る放射線遮蔽体の構成を示す断面図を
図1に示す。
図2は、放射線遮蔽体の構成を示す斜視図である。
図3は、放射線遮蔽体の軸線方向に沿った断面図である。
放射線遮蔽体10は、放射線照射装置が設置される照射室1の天井2、床3、または壁4に形成された、貫通孔5に設けられる。貫通孔5には、電気、空調、水等の供給、排出を行うための配管7が挿通される。ここで配管7には、配線が含まれる。
放射線遮蔽体10は、筒状部11と、フランジ部12と、を有している。筒状部11は、中心軸Cに沿った軸線方向に延びる円筒状をなしている。筒状部11内には、配管7が挿通される。フランジ部12は、筒状部11の軸線方向の中間部に形成されている。フランジ部12は、筒状部11の外周面から、中心軸Cを中心とした径方向の外側に立ち上がるように設けられている。フランジ部12は、軸線方向から見て円環状に形成されている。
筒状部11の軸線方向の中間部にフランジ部12が設けられることで、筒状部11は、フランジ部12から軸線方向の一方側に突出する第一筒状部11aと、フランジ部12から軸線方向の他方側に、第一筒状部11aよりも長い長さで突出する第二筒状部11bと、を有している。
放射線遮蔽体10は、筒状部11の第一筒状部11aを、貫通孔5に挿入し、フランジ部12を、貫通孔5の周囲の天井2、床3、または壁4の、照射室1側の表面に突き当てた状態で設置される。この状態で、筒状部11の第二筒状部11bは、天井2、床3、または壁4から照射室1の室内側に突出する。フランジ部12は、貫通孔5よりも貫通孔5の径方向の外側に延びており、第一筒状部11aの外周面と貫通孔5の内周面との隙間を、照射室1の室内側から覆っている。
【0013】
このような放射線遮蔽体10は、硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成型されている。放射線遮蔽体10は、無鉛の遮蔽体である。放射線遮蔽体10は、硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成形されていることで、鉛と同等程度のX線遮蔽率及びγ線遮蔽率を持ち、放射線に対して優れた遮蔽効果を発揮することができる。硫酸バリウムは、放射線の遮蔽性向上効果が高く、入手が容易であり、ハンドリング性に優れている。硫酸バリウムは、粉体であり、市販品としても入手可能である。硫酸バリウムは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、例えば、互いに粒径の異なる硫酸バリウムの組み合わせ、純度、産地の異なる硫酸バリウムの組み合わせなどが挙げられる。
【0014】
上記のような放射線遮蔽体10の各部位の厚さは、5mm以上、60mm以下とするのが望ましい。
ここでは、上記のような放射線遮蔽体10に関し、遮蔽ゴムに必要とされる厚さを、次のようにして算出した。
医療法における放射線診療室の遮蔽計算では、「病院又は診療所における診療用放射線の取扱いについて(医政発0315第4号 平成31年3月15日)」に記載された、各遮蔽材の厚さに対する放射線の透過率を計算に使用する。そのためには、使用する材料が鉛等の一般的な遮蔽材以外の場合、鉛に相当する厚さである、鉛当量を評価する必要がある。
そこで、まず、放射線の照射試験を行い、100kV、120kV、150kVの各管電圧に対し、10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mmの6種類の厚さの遮蔽ゴムを試験体とした遮蔽性能(鉛当量)を確認した。
図4は、放射線の照射試験結果を示す図であり、試験体のゴム厚さと、鉛当量との関係を示す図である。
図4中の丸印が、得られた試験結果である。管電圧が100kVと120kVの場合においては、材料が厚くなる場合に測定不能となった。
そして、
図4の各々の結果から、各管電圧に対応する線形近似式を立式し、これを基に、
図5に示されるように、1.0mmPB、2.0mmPB、3.0mmPBの各々の鉛当量に対応する、遮蔽ゴムの厚さを算出した。
【0015】
次いで、照射室1における、医療法の遮蔽計算を行った。
図6は、複数種の照射室における遮蔽計算結果を示す図である。
計算対象の照射室1は、一般撮影室(立位)、一般撮影室(臥位)、CT室、X-TV室、及び血管撮影室の5部屋として、放射線照射装置の仕様・照射条件、壁貫通部の位置関係等の代表的な情報を整理した。
図6の「ゴム厚さ」の値としては、上記の各部屋に対する管電圧が120kVの場合には、
図5に示した、管電圧が120kVの場合の、1.0mmPb、2.0mmPb、3.0mmPbの各鉛当量に対する遮蔽ゴムの厚さの値を用いた。管電圧が100kVより小さい部屋の場合には、
図5に示した、管電圧が100kVの場合の、1.0mmPb、2.0mmPb、3.0mmPbの各鉛当量に対する遮蔽ゴムの厚さの値を用いた。X線透過率の計算には、各鉛当量に応じたX線の透過率を用いた。
上記の条件を基に「病院又は診療所における診療用放射線の取扱いについて(医政発0315第4号 平成31年3月15日)」に準じて計算した。
その結果、鉛当量2.0mmPb以上であれば、いずれの対象部屋(管電圧)でも放射線管理区域の法定値1、300μSv/3か月を確実に下回ることを確認できた。
【0016】
上記の結果を基に、本実施形態の放射線遮蔽体10においては、遮蔽性能を鉛当量2.0mmPbとした。管電圧は、一般的に使用される装置の中で高い管電圧となる120kVとした。そのうえで、遮蔽ゴムの厚さを、上記の
図5において、鉛当量が2.00mmPbで、管電圧が120kVの場合に対応する、25mmの値とした。
本実施形態における放射線遮蔽体10の各部寸法は、この25mmの値を基準として設定されている。
【0017】
より詳細には、
図3に示すように、まず、筒状部11の外径D1は、筒状部11が挿通される貫通孔5の内径に合わせて設定されている。貫通孔5の内径が、例えば150mmである場合、筒状部11の外径D1は、150mmに設定される。このとき、筒状部11(第一筒状部11a)を貫通孔5に挿入する際の作業性を考慮し、外径D1は、貫通孔5の内径よりも僅かに小さくするのが好ましい。
筒状部11の内径D2は、筒状部11の径方向における厚さT1が、所要の放射線遮蔽性能を確保できるように設定されている。本実施形態においては、筒状部11の内径D2は、この厚さT1が上記の25mmの値となるよう、例えば100mmに設定されている。
筒状部11の内径D2と外径D1は、配管の大きさに合わせて内径D2をまず設定したうえで、これに厚さT1の2倍となる値50mmを加算することで、外径D1を決定するように、設定してもよい。
【0018】
フランジ部12の外径D3は、第一筒状部11aの外周面と貫通孔5の内周面との隙間を確実に覆うよう、挿通孔11hの内径よりも所定寸法以上大きく設定する。本実施形態では、フランジ部12の外径D3は、挿通孔11hの内径よりも100mm大きい250mmとされている。これにより、フランジ部12は、貫通孔5に対して、径方向の外側への拡径寸法dとして50mmを確保することができる。
フランジ部12の厚さT2は、例えば、上記の25mmの値に設定されている。また、放射線遮蔽体10における、天井2、床3、または壁4から室内側への突出寸法Hは、貫通孔5の内径以上とするのが好ましい。つまり、フランジ部12の厚さT2と、第二筒状部11bの軸線方向の長さL2との合計は、貫通孔5の内径以上に設定されている。本実施形態では、放射線遮蔽体10における、天井2、床3、または壁4から室内側への突出寸法Hを、貫通孔5の内径と同じ、100mmに設定している。したがって、第二筒状部11bの軸線方向の長さL2は、75mmに設定されている。
また、貫通孔5に挿入される第一筒状部11aの軸線方向の長さL1は、例えば30mmに設定されている。
【0019】
このように、鉛当量が2.00mmPbで、管電圧が120kVとした場合においては、放射線遮蔽体10の各部位の厚さを、25mm以上の値として、放射線遮蔽体10の各部位の寸法を設定するのが望ましい。
鉛当量が2.00mmPbとした場合であっても、例えば100kV程度の管電圧が想定される場合には、各部位の厚さは17mm以上であれば十分な放射線遮蔽性能を有する可能性があるため、各部位の厚さが例えば17mm以上25mm以下の値となるようにしてもよい。
更には、対象となる部屋が一般撮影室(臥位)や血管撮影室で、鉛当量が1.0mmPbで良いような場合には、各部位の厚さを、例えば8mm以上17mm以下の値となるようにしてもよい。
【0020】
図7は、放射線遮蔽体を軸線方向から見た図である。
図8は、放射線遮蔽体を構成する分割体を示す斜視図である。
図3、
図7に示すように、放射線遮蔽体10は、一対の、同じ形状を有する分割体21を組み合わせることで形成されている。一対の分割体21は、放射線遮蔽体10を、筒状部11の軸線方向に沿った平面で分割された形状として成型されている。すなわち、各分割体21は、筒状部11の一部を形成する半円筒状の筒状部分割体21pと、フランジ部12の一部を形成する半円環状のフランジ分割体21qとが一体化された形状を有している。
放射線遮蔽体10は、一対の分割体21同士を、分割面22で互いに突き合わせることで、互いに合体させて形成されている。
図7、
図8に示すように、各分割体21の分割面22には、突条23と、凹条24とが形成されている。分割体21の各々において、分割面22の一方には突条23が、他方には凹条24が、それぞれ形成されている。換言すると、各分割体21において、中心軸Cを挟んで一方の側の分割面22には、突条23が形成され、中心軸Cを挟んで他方の側の分割面22には、凹条24が形成されている。
突条23と凹条24は、分割面22が延在する方向に延びるように形成されている。
突条23は、分割面22から突出して形成されている。突条23は、筒状部分割体21pに沿って軸線方向に延びる第一突条部23aと、第一突条部23aの軸線方向の中間部からフランジ分割体21qに沿って径方向の外側に延びる第二突状部23bと、を有している。凹条24は、分割面22から窪む溝状に形成されている。凹条24は、筒状部分割体21pに沿って軸線方向に延びる第一凹条部24aと、第一凹条部24aの軸線方向の中間部からフランジ分割体21qに沿って径方向の外側に延びる第二凹状部24bと、を有している。
【0021】
放射線遮蔽体10は、このような分割体21同士の分割面22同士を突き当てることで、一の分割体21の分割面22に形成された突条23が、他の分割体21の分割面22に形成された凹条24に密嵌されている。
より詳細には、一方の分割体21の分割面22に形成された第一突条部23aが、他方の分割体21の分割面22に形成された第一凹条部24aに密嵌されている。また、一方の分割体21の分割面22に形成された第二突状部23bが、他方の分割体21の分割面22に形成された第二凹状部24bに密嵌されている。
このように、突条23と凹条24とが密嵌されているので、分割体21同士の接合部分に放射線が侵入しても、分割面22に対して立ち上がるように設けられた突条23の壁面で遮断され、分割面22同士の間を放射線が突き抜けにくい。
【0022】
図9は、分割体の成型に用いる型枠の例を示す図である。
上記したような分割体21は、硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成型する際、
図9に示すような、内側型枠101と、第一外側型枠102と、第二外側型枠103と、を有した型枠100を用いるのが好ましい。内側型枠101は、例えば、分割体21の筒状部分割体21pの内周面、及び分割面22を形成する。第一外側型枠102は、第一筒状部11aの外周面とフランジ部12の一部を形成する。第二外側型枠103は、第一外側型枠102に対して軸線方向に隣り合って配置され、第二筒状部11bの外周面と、フランジ部12の残りの一部を形成する。このような型枠100を用いて、分割体21を成型することにより、放射線遮蔽体10を一体成型する場合に比較し、成型後の脱型等が容易に行える。
本実施形態においては、各分割体21は、同じ形状を有するように形成されている。このため、型枠100は、1種類のみを用意すればよい。
【0023】
次に、放射線遮蔽体10の設置方法について説明する。
図10は、放射線遮蔽体を設置するに際し、天井、床、または壁に貫通孔を形成した状態を示す断面図である。
図11は、一対の分割体を合体させて放射線遮蔽体を組み立てる状態を示す断面図である。
図12は、放射線遮蔽体の筒状部を貫通孔に挿入した状態を示す断面図である。
図10に示すように、まず、放射線遮蔽体10を設置するに際しては、まず、天井2、床3、または壁4の所定の位置に、貫通孔5を形成する。
次いで、
図11に示すように、天井2、床3、または壁4に対して室内側で、一対の分割体21同士を組み合わせて互いに合体させ、放射線遮蔽体10を形成する。このとき、突条23と凹条24とを組み合わせることで、一対の分割体21同士を容易に位置決めして、放射線遮蔽体10を組み立てることができる。
続いて、
図12に示すように、放射線遮蔽体10の第一筒状部11aを、貫通孔5に挿入し、フランジ部12を天井2、床3、または壁4に突き当てる。そして、フランジ部12を、例えばボルト、ビス等を用いて、天井2、床3、または壁4に固定する。
その後、
図1に示すように、放射線遮蔽体10の筒状部11内を通して、貫通孔5に配管7を挿通させる。これにより、天井2、床3、または壁4を配管7が貫通する部分に、放射線遮蔽体10を設置することができる。
【0024】
図13は、貫通孔が、照射室の壁の上側に形成されている場合における、放射線遮蔽体に対する放射線の照射状態を示す図である。
ところで、
図13に示すように、貫通孔5が、照射室1の壁4の上側に形成されている場合、放射線遮蔽体10は、分割体21同士の合わせ目となる分割面22が、側方に位置するように設けるのが好ましい。
貫通孔5が、照射室1の壁4の上側に形成されている場合、貫通孔5の部分に対しては、照射室1内の床3上に設置された放射線照射装置8から、斜め上方に向かって放射される放射線R1が到達する。分割体21の分割面22が、上下方向に延びるように配置されていると、放射線R1が、下方に位置している分割面22同士の合わせ目に入り込みやすい。これに対し、分割面22を側方に位置するように設けることにより、放射線R1が分割面22同士の合わせ目に入り込みにくくなる。
また、放射線R2が、水平に近い方向から分割面22同士の合わせ目に侵入しようとする場合があるとしても、そのような放射線R2は、放射線照射装置10から放射された後に、照射室1の壁4で反射を繰り返したものである。このような放射線R2は、複数回の反射により強度が低減しているため、分割面22に設けられた突条23により十分に遮断可能である。
【0025】
上述したような放射線遮蔽体10によれば、放射線遮蔽体10は、放射線照射装置8が設置される照射室1の天井2、床3、または壁4の、配管7が挿通する貫通孔5に設けられる放射線遮蔽体10であって、硫酸バリウムを含有する遮蔽ゴムにより成型され、照射室1の側から貫通孔5に対して挿入され、配管7が挿通される挿通孔11hを有する筒状部11と、筒状部11の外周面から径方向外側に立ち上がるように設けられるフランジ部12と、を備えている。
このような構成によれば、放射線遮蔽体10は、照射室1の側から貫通孔5に対して挿入され、配管7が挿通される挿通孔11hを有する筒状部11を有する構成となっている。すなわち、放射線遮蔽体10は、照射室1の側から放射線遮蔽体10を貫通孔5に対して挿入するのみで設置することができる。また、放射線遮蔽体10は、遮蔽ゴムにより成型されているため、施工時に破損する可能性が低く、過度に慎重に取り扱う必要がない。このような理由により、施工が容易である。
また、放射線遮蔽体10が成型される遮蔽ゴムは、硫酸バリウムを含有している。このため、放射線遮蔽性能が高い。
更に、放射線遮蔽体10を設置するに際し、筒状部11を照射室1の側から貫通孔5に対して挿入すると、筒状部11の外周面から径方向外側に立ち上がるように設けられるフランジ部12が、照射室1の天井2、床3、または壁4に突き当たり、貫通孔5の内壁と、筒状部11の外周面との間の隙間を、照射室1の側から閉塞する。これにより、照射室1から、放射線が当該隙間を通って照射室1の外へと漏れ出ることが抑制される。
このような理由により、鉛を用いることなく、放射線遮蔽性能を高めることができる。
その結果、放射線照射装置8が設置される照射室1の配管7が挿通する貫通孔5に対し、鉛を用いずに放射線遮蔽性能が高く、かつ容易な施工で放射線遮蔽工事が可能となる、放射線遮蔽体10を提供することができる。
【0026】
また、筒状部11の軸線方向に沿った平面で分割された形状として成型された分割体21が、互いに合体されて形成され、分割体21の各々の分割面22の一方には突条23が、他方には凹条24が、それぞれ形成され、一の分割体21の突条23が他の分割体21の凹条24に密嵌されている。
このような構成によれば、放射線遮蔽体10が、分割体21同士を互いに合体させることで形成されている。これにより、新築建物への施工時に限らず、既存建物において、既に配管7が挿通されている貫通孔5に対しても、例えば配管7を中心として外方から囲うように分割体21を配置した状態で分割体21同士を互いに合体させて、放射線遮蔽体10を形成したうえで、配管7に沿って放射線遮蔽体10を移動させて、貫通孔5と配管7との隙間に筒状部11を挿入することで、配管7に対する工事を行うことなく、後施工により放射線遮蔽体10を設けることができる。
また、分割体21は、筒状部11の軸線方向に沿った平面で分割された形状として成型されており、基本的に中空の部分を有さない形状をなしているため、その成型を容易に行うことができる。
更に、分割体21同士を合体させる際、分割体21の各々の分割面22の一方には突条23が、他方には凹条24が、それぞれ形成され、一の分割体21の突条23が他の分割体21の凹条24に密嵌されている。このため、分割体22同士の合わせ目に放射線が侵入しようとしても、分割面22に対して立ち上がるように設けられた突条23の壁面で遮断される。したがって、分割体21同士の合わせ目を放射線が通過してしまうのを抑えることができる。
【0027】
上記のように、放射線遮蔽体10が、複数の分割体21として形成されることにより、設置対象となる照射室1への運搬も容易となる。
【0028】
また、貫通孔5は、照射室1の壁4の上側に形成され、分割面22が側方に位置するように設けられている。
このような構成によれば、照射室1の壁4の上側に貫通孔5が形成されている場合、この貫通孔5の部分に対しては、照射室1内の床3上に設置された放射線照射装置8から、斜め上方に向かって放射される放射線R1が到達する。分割体21の分割面22が、下方に位置している場合、放射線R1が分割面22同士の合わせ目に入り込みやすい。これに対し、分割面22を側方に位置するように設けることにより、放射線R1が分割面22同士の合わせ目に入り込みにくくなる。
また、放射線R2が、水平に近い方向から分割面22同士の合わせ目に侵入しようとする場合があるとしても、そのような放射線R2は、放射線照射装置10から放射された後に、照射室1の壁4で反射を繰り返したものである。このような放射線R2は、複数回の反射により強度が低減しているため、分割面22に設けられた突条23により十分に遮断可能である。
結果として、分割体21同士の合わせ目を放射線が通過してしまうのを、より有効に抑えることができる。
【0029】
また、照射室1は、上記のような放射線遮蔽体10を取付けた貫通孔5が壁4の上側に形成されている。
このような構成によれば、照射室1の壁4の上側に貫通孔5が形成されていることで、この貫通孔5の部分には、照射室1内の床3上に設置された放射線照射装置8から放射された放射線が照射室1の壁4で複数回の反射を繰り返して到達することになる。よって、照射室1の壁4上側に設けた貫通孔5を通過する放射線は、放射線照射装置8の放射時に比べて、強度が低減していることで、照射室1外への放射線の通過を有効に抑えることができる。
【0030】
また、突条23は、筒状部11の分割面22において軸線方向に延びる第一突条部23aと、フランジ部12の分割面22において第一突条部23aの中間部から径方向の外側に延びる第二突状部23bと、を有しており、これに対応するように、凹条24は、筒状部11の分割面22において軸線方向に延びる第一凹条部24aと、フランジ部12の分割面22において第一凹条部24aの中間部から径方向の外側に延びる第二凹状部24bと、を有している。
このような構成によれば、分割面22に沿って突条23と凹状24を設けることにより、放射線が分割面22からすり抜けるのを抑制することができる。
【0031】
また、フランジ部12の厚さT2は、5mm以上、60mm以下である。
このような構成によれば、放射線遮蔽性能を十分に確保することができる。
【0032】
また、各分割体21は、同一の形状として形成されている。
このような構成によれば、分割体21を製造するに際し、型を一種類のみ用意すればよいため、製造が容易である。
【0033】
なお、本発明の放射線遮蔽体10は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、放射線遮蔽体10は、2つの分割体21を組み合わせることで形成されたが、これに限られない。例えば、放射線遮蔽体は、3以上の分割体を組み合わせることで形成されても構わない。放射線遮蔽体が、例えば3つの分割体を組み合わせることで形成される場合においては、
図7のように放射線遮蔽体を軸線方向から見た際に、中心軸Cを中心として、周方向に120°の角度で放射線遮蔽体を分割するように、各分割体が形成され得る。
これ以外にも、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 照射室 11 筒状部
2 天井 11h 挿通孔
3 床 12 フランジ部
4 壁 21 分割体
5 貫通孔 22 分割面
7 配管 23 突条
8 放射線照射装置 24 凹条
10 放射線遮蔽体