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  • 特開-品質検査装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108353
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】品質検査装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20240805BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240805BHJP
   B23K 9/067 20060101ALI20240805BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
B23K31/00 N
B23K9/067
B23K31/00 K
B23K9/167 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012668
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】若原 駿
(72)【発明者】
【氏名】堀 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジェレミー
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E082AA08
4E082EC03
4E082GA03
(57)【要約】
【課題】
電源からトーチに直流電圧を印加して被溶接材を溶接する溶接装置のアーク電圧を測定する際に、非常に大きなサージ電圧が発生する場合でも、アーク電圧を高分解能で測定できる品質検査装置を提供する。
【解決手段】
電源12からトーチ13に直流電圧を印加して被溶接材21を溶接する溶接装置11のアーク電圧を測定する品質検査装置1において、電源12とトーチ13との間に流れる電流を測定する電流測定部2と、アーク電圧を測定する電圧測定部3と、電圧測定部3とトーチ13との間の電気的接続を開放または短絡するリレー4と、電流に基づいてリレー4の開放または短絡を制御する制御部5と、を有し、制御部5は、溶接開始時点ではリレー4を開放させ、サージ電圧終息後にリレー4を短絡させるように制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からトーチに直流電圧を印加して被溶接材を溶接する溶接装置のアーク電圧を測定する品質検査装置において、
前記電源と前記トーチとの間に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記アーク電圧を測定する電圧測定部と、
前記電圧測定部と前記トーチとの間の電気的接続を開放または短絡するリレーと、
前記電流に基づいて前記リレーの開放または短絡を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、溶接開始時点では前記リレーを開放させ、サージ電圧終息後に前記リレーを短絡させるように制御することを特徴とする品質検査装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、前記電流が所定の閾値まで上昇した場合に、前記リレーを短絡させるように制御することを特徴とする品質検査装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記サージ電圧は1kV以上であることを特徴とする品質検査装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記溶接装置の前記トーチはタングステン電極を有することを特徴とする品質検査装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記アーク電圧の時系列の電圧値に基づいて前記溶接の品質を判定する判定部を有することを特徴とする品質検査装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記判定部は、前記アーク電圧の時系列の電圧値から特徴量を抽出し、前記特徴量に基づいて前記溶接が複数の溶接不良パターンの何れかに該当するか否かを判定することを特徴とする品質検査装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記判定部は、機械学習を用いた学習済みモデルと前記特徴量とに基づいて前記溶接が複数の溶接不良パターンの何れかに該当するか否かを判定することを特徴とする品質検査装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記アーク電圧の電圧値に基づいて前記トーチが有する電極の消耗を判定する判定部を有することを特徴とする品質検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源からトーチに直流電圧を印加して被溶接材を溶接する溶接装置では、アーク電圧を測定することにより溶接の品質を判定することができる。
【0003】
例えば、特許文献1の図6図7、段落0026、0041、0046~0049には、アーク溶接において、ワイヤ(溶加材)を用いる場合、ワイヤ端に生成する溶滴が溶融池へ接触(短絡)すると、瞬間的に電位差が急落し、電流が急増する波形変化が生じる短絡移行と呼ばれる溶滴移行の電流・電圧波形が観測されることを利用して、溶接電源の電圧および電流を測定した波形に基づいて短絡回数が増加した短絡増加区間を異常区間と推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-65758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アーク溶接にはいくつか種類があり、方式によって発生するサージ電圧の大きさも異なる。例えばTIG(Tungsten Inert Gas)溶接の一種であるタッチスタート方式のTIG溶接では、発生するサージ電圧は10V程度と小さいが、高電圧方式のTIG溶接では、溶接時に数kV以上という非常に大きなサージ電圧が発生するため、電圧を測定することが困難であるという課題がある。
【0006】
また、非常に大きなサージ電圧まで含めて測定できる広い計測レンジを持った電圧計測器を用いた場合でも、サージ電圧終息後のアーク電圧は10V程度であり、サージ電圧に比べて非常に小さいため、アーク電圧の分解能が低くなってしまい、アーク電圧を高分解能で測定できないという課題がある。
【0007】
そして、アーク電圧の分解能が低いと、アーク電圧の波形に基づいて溶接の品質を精度よく判定することが困難になるという課題がある。
【0008】
特許文献1は、電圧・電流が測定できることを前提とした技術であり、非常に大きなサージ電圧が発生する場合に、電圧・電流を高分解能で測定する方法については記載されていない。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、電源からトーチに直流電圧を印加して被溶接材を溶接する溶接装置のアーク電圧を測定する際に、非常に大きなサージ電圧が発生する場合でも、アーク電圧を高分解能で測定できる品質検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明の品質検査装置は、例えば、電源からトーチに直流電圧を印加して被溶接材を溶接する溶接装置のアーク電圧を測定する品質検査装置において、前記電源と前記トーチとの間に流れる電流を測定する電流測定部と、前記アーク電圧を測定する電圧測定部と、前記電圧測定部と前記トーチとの間の電気的接続を開放または短絡するリレーと、前記電流に基づいて前記リレーの開放または短絡を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、溶接開始時点では前記リレーを開放させ、サージ電圧終息後に前記リレーを短絡させるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の品質検査装置によれば、電源からトーチに直流電圧を印加して被溶接材を溶接する溶接装置のアーク電圧を測定する際に、非常に大きなサージ電圧が発生する場合でも、アーク電圧を高分解能で測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の品質検査装置を説明するための機能ブロック図。
図2】実施例1の動作を説明するための電圧波形図。
図3】実施例1の動作を説明するためのフローチャート。
図4】実施例2の動作を説明するための電圧波形図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。各図、各実施例において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【実施例0014】
図1は、実施例1の品質検査装置を説明するための機能ブロック図である。
【0015】
本実施例では、品質検査装置1がアーク電圧を測定する対象である溶接装置11として、高電圧方式のTIG溶接を行う溶接装置11を例に説明する。但し、これに限られず、例えば1kV以上の非常に大きなサージ電圧が発生する他の方式の溶接装置11であってもよい。
【0016】
溶接装置11は、電源12と、トーチ13と、チャック15とを有する。トーチ13は、電極14を有する。TIG溶接の場合、電極14としてタングステン電極を用いる。溶接を行う際には、チャック15によって被溶接材21を固定する。そして、溶接装置11は、電源12からトーチ13に直流電圧を印加して被溶接材21を溶接する。
【0017】
実施例1の品質検査装置1は、電流測定部2と、電圧測定部3と、リレー4と、制御部5と、判定部6と、学習済みモデル7とを有する。
【0018】
電流測定部2は、電源12とトーチ13との間に流れる電流を測定する。電流測定部2としては、例えば電流計などの電流計測器を用いることができる。
【0019】
電圧測定部3は、後述するアーク電圧32を測定する。電圧測定部3としては、例えば電圧計などの電圧計測器を用いることができる。
【0020】
リレー4は、電圧測定部3とトーチ13との間の電気的接続を開放または短絡する。
【0021】
制御部5は、電流測定部2で測定された電流が入力され、この電流に基づいてリレー4の開放または短絡を制御する。また、制御部5は、電圧測定部3で測定された電圧が入力され、後述する判定部6に出力する。制御部5としては、例えばPLC(Programmable Logic Controller)などを用いることができる。
【0022】
ここで、制御部5は、溶接開始時点ではリレー4を開放させ、サージ電圧31の終息後にリレー4を短絡させるように制御する。
【0023】
図2は、実施例1の動作を説明するための電圧波形図である。図2の横軸は時刻t、縦軸は電圧Vである。
【0024】
図2に示すように、溶接の際には、最初に非常に大きなサージ電圧31が発生し、サージ電圧31の終息後に、アーク電圧32が発生する。図2では、サージ電圧31のスケールとアーク電圧32のスケールを合わせてしまうとアーク電圧32の変化がつぶれて見えなくなってしまうので、サージ電圧31の大きさは途中を省略して示している。
【0025】
ここで、電流測定部2で測定された図示しない電流は、サージ電圧31の発生中は小さく、サージ電圧31の終息後に上昇する。この特性を利用して、制御部5は、例えば、電流が所定の閾値まで上昇した場合に、リレー4を短絡させるように制御する。
【0026】
本実施例の品質検査装置1によれば、サージ電圧31の発生中はリレー4を開放してサージ電圧31が電圧測定部3に印加されないようにするとともに、サージ電圧31の終息後にリレー4を短絡してアーク電圧測定開始時刻t1からアーク電圧32を測定するので、計測レンジの狭い低電圧用の電圧測定部3を用いることができ、非常に大きなサージ電圧31が発生する場合でも、アーク電圧32を高分解能で測定できる。また、低電圧用の電圧測定部3を用いることができるので、コストを抑えることができる。
【0027】
判定部6は、アーク電圧32の時系列の電圧値(電圧波形)に基づいて溶接の品質を判定する。具体的には、判定部6は、例えば、アーク電圧32の時系列の電圧値から特徴量を抽出し、この特徴量に基づいて溶接が複数の溶接不良パターンの何れかに該当するか否かを判定する。判定部6は、機械学習を用いた学習済みモデル7と特徴量とに基づいて溶接が複数の溶接不良パターンの何れかに該当するか否かを判定することが望ましい。判定部6は、例えばコンピュータなどの計算機システムにおいてプログラムを実行することで実現することができる。
【0028】
学習済みモデル7を機械学習する方法としては、例えば、学習用データの収集のために良品の電圧波形と、不良品の電圧波形を収集し、良品の電圧波形については良品に分類し、不良品の電圧波形については溶接不良パターン(不良モード)毎に分類し、これらの電圧波形と分類とを使用して機械学習を行う方法が挙げられる。
【0029】
学習済みモデル7を用いない従来の判定手法としては、例えばアーク電圧32の電圧波形の±3σの範囲を上下限値とし、その逸脱度合いによって良否判定をする方法がある。しかしながら、図2に示すアーク電圧32A~32Dのうち、アーク電圧32Aは良品(OK)の電圧波形で、アーク電圧32B~32Dは不良品(NG)の電圧波形であるが、従来の判定手法ではすべて±3σの範囲に収まってしまい、アーク電圧32B~32Dも良品と判定されてしまう可能性がある。これに対して、学習済みモデル7を用いて溶接の品質を判定することで、良品と不良品を精度良く判定できるとともに、不良品であった場合に複数の溶接不良パターンの何れに該当するかまで判定することができ、不良原因の特定が可能となる。
【0030】
図3は、実施例1の動作を説明するためのフローチャートである。
【0031】
図3の前段階として、チャック15によって被溶接材21を固定し、トーチ13を溶接点に相対移動させる。この相対移動は、トーチ13を移動させてもよいし、被溶接材21を移動させてもよい。
【0032】
次に、ステップS1において、制御部5によりリレー4を開放する。これによって、電圧測定部3が切り離され、サージ電圧31が印加されないようにできる。
【0033】
ステップS2では、電源12からトーチ13に直流電圧を印加して被溶接材21の溶接を開始する。このとき、サージ電圧31が発生する。
【0034】
ステップS3では、制御部5が電流測定部2で測定された電流に基づいてサージ電圧31が終息したかを判断する。終息していない場合(NO)はステップS3を繰り返す。終息した場合(YES)は、ステップS4に移る。
【0035】
ステップS4では、制御部5によりリレー4を短絡する。これによって、電圧測定部3が接続される。
【0036】
ステップS5では、電圧測定部3がアーク電圧32を測定する。
【0037】
ステップS6では、判定部6が溶接の品質を判定する。良品(OK)と判定した場合は図3のフローを終了する。不良品(NG)と判定した場合はステップS7に移る。
【0038】
ステップS7では、例えば、不良品であることと、推定された溶接不良パターンとを図示しない表示部に表示するなどしてエラー出力する。そして、エラー出力の内容に応じて、不具合対応を行い、図3のフローを終了する。
【0039】
図3のフロー終了後は、良品と判定された場合にはトーチ13を次の溶接点に相対移動させ、全ての溶接点が終わるまで図3のフローを繰り返し実行する。
【0040】
以上のような動作により、不良品を検出した際には溶接を停止できるとともに、推定された溶接不良パターンに基づいて原因究明の時間短縮が可能となる。
【実施例0041】
実施例2は、実施例1の変形例であり、トーチ13が有する電極14の消耗を判定する機能を有する点で実施例1と相違する。
【0042】
図4は、実施例2の動作を説明するための電圧波形図である。図2の横軸は時刻t、縦軸は電圧Vである。
【0043】
図4に示すように、溶接を行うにつれて、鋭利だった電極14の先端が電極14E~14Hのように徐々に丸まって消耗していく。この消耗により、電極14の先端と被溶接材21との間の距離が大きくなっていき、アークが長くなるので、アーク電圧32の電圧値もアーク電圧32E~32Hのように徐々に上昇していく。なお、アーク電圧32E~32Hは、それぞれ電極14E~14Hに対応した電圧波形である。
【0044】
そこで、本実施例の判定部6は、実施例1の判定部6の機能に加えて、もしくは実施例1の判定部6の機能に代えて、アーク電圧32の電圧値に基づいてトーチ13が有する電極14の消耗を判定する。具体的には、例えば、アーク電圧32の電圧値が所定の閾値以上の場合に、電極14が消耗したと判定し、図示しない表示部に電極14が消耗したこと、あるいは、電極14が交換時期であることを通知する。これにより、溶接不良が発生する前に電極14の交換タイミングを予見することが可能となる。
【0045】
従来は溶接した回数で電極14の交換を行っていたが、電極毎にまだ溶接できる物もあれば不良が発生するほど消耗している物もあるというように個体差があった。本実施例のように電圧波形に基づいて電極14の消耗を判定することで、適切なタイミングで電極14を交換でき、不良発生や電極14の交換回数を低減することが可能となる。
【0046】
なお、判定部6による判定方法としては、上記したような所定の閾値と比較する方法以外に、学習済みモデル7を用いて判定してもよい。
【0047】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に記載された構成に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。また、各実施例で説明した構成の一部または全部を組み合わせて適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 品質検査装置
2 電流測定部
3 電圧測定部
4 リレー
5 制御部
6 判定部
7 学習済みモデル
11 溶接装置
12 電源
13 トーチ
14、14E~14H 電極
15 チャック
21 被溶接材
31 サージ電圧
32、32A~32H アーク電圧
V 電圧
t 時刻
t1 アーク電圧測定開始時刻
図1
図2
図3
図4