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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108359
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】伸縮性回路基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
H05K1/03 630H
H05K1/03 670
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012675
(22)【出願日】2023-01-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)掲載日:2022年3月22日、掲載アドレス:https://jiep.or.jp/event/convention/jiep2022s/index.php https://jiep.or.jp/event/convention/jiep2022s/assets/docs/pdf/program-temp_20220324.pdf (2)集会名:第36回エレクトロニクス実装学会春季講演大会(Web講演会https://jiep.or.jp/event/convention/jiep2022s/index.php、https://jiep.or.jp/event/convention/jiep2022s/assets/docs/pdf/program-temp_20220324.pdf)、開催日:2022年3月24日 (3)掲載日:2022年5月11日、掲載アドレス:https://www.toyal.co.jp/assets/rd/tech_report/pdf/new_business/tr_nb2022_040-ja.pdf (4)集会名:一般社団法人スマートプロセス学会 エロクトロニクス生産科学部会 第14回有機/無機接合研究委員会(https://sps-mste.jp/WordPress/wp-content/uploads/2022/10/SP_OIJ-14-221018.pdf)、開催場所:日本橋ライフサイエンスビルディング9階911-913会議室(東京都中央区日本橋本町2-3-11)、開催日:2022年10月18日 (5)掲載日(ダウンロード可能日):2022年10月11日~、掲載アドレス:https://smartprocessoffice-my.sharepoint.com/:b:/g/personal/mste_smartprocessoffice_onmicrosoft_com/EXFc9N3JyKBGnwUch90BNAMBjcVFsOfuikjG_tI0F26OvQ?e=W7YDMH(講演資料ダウンロード用)
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】中尾 凌
(72)【発明者】
【氏名】南山 偉明
(57)【要約】
【課題】本発明は、縮んだ状態においても表面の凹凸が少なく、部品の実装性、実装信頼性、意匠性および触感に優れた伸縮性回路基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、伸縮性を有する樹脂基板と、樹脂基板の少なくとも一方の面に積層された第1の導電層とを備える伸縮性回路基板において、第1の導電層は回路パターンを備える金属箔からなり、回路パターンの配線間隔が0.1mm以上1.0mm以下であり、そして第1の導電層の表面で測定される静摩擦係数が1以下である伸縮性回路基板およびその製造方法が提供される。
【選択図】 図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する樹脂基板と、前記樹脂基板の少なくとも一方の面に積層された第1の導電層とを備える伸縮性回路基板において、
前記第1の導電層は回路パターンを備える金属箔からなり、
前記回路パターンの配線間隔が0.1mm以上4.0mm以下であり、そして
前記第1の導電層の表面で測定される静摩擦係数が1以下である、伸縮性回路基板。
【請求項2】
前記回路パターンの配線間隔が0.1mm以上1.0mm以下である、請求項1に記載の伸縮性回路基板。
【請求項3】
前記金属箔は、アルミニウム箔または銅箔である、請求項1に記載の伸縮性回路基板。
【請求項4】
前記金属箔の厚みが、5μm以上50μm以下である、請求項3に記載の伸縮性回路基板。
【請求項5】
前記樹脂基板は、少なくともスチレン系エラストマー、アミド系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマーおよび動的加硫系エラストマーからなる群から選ばれる1種または2種以上のエラストマーを含んでいる、請求項1に記載の伸縮性回路基板。
【請求項6】
前記樹脂基板の一方の面とは反対側の他方の面に、さらに第2の導電層が積層されており、
前記第2の導電層は回路パターンを備える金属箔からなる、請求項1から5のいずれか1項に記載の伸縮性回路基板。
【請求項7】
前記樹脂基板と前記第1の導電層とは、押出ラミネート法により積層されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の伸縮性回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂基板と、前記第1の導電層および前記第2の導電層とは、押出ラミネート法により積層されていることを特徴とする、請求項7に記載の伸縮性回路基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウェアラブル機器、ヘルスケア関連機器、ロボットなどの分野において、フレキシブル回路の適用が広がってきている。そのような用途において、フレキシブル回路は、例えば人体や、機器のデザインにより造形された曲面、関節部等に沿わせて使用できるのみならず、人体やデザイン機器等から脱着しても断線や接続不良等を起こすことなく、電気的にも高いフレキシブル性と伸縮性が求められる。特にヒトの身体に沿わせる用途で直接肌と触れ合う箇所に取り付けるフレキシブル回路の場合、回路基板表面の肌触りが極めて良好であることが求められる。
【0003】
上記の様な用途に用いられる回路用基板としては、例えば特開2019―075409号公報(特許文献1)に記載されているように、伸縮性基材と、その一方の面には配線および機能性部材を配置し、その反対側の他方の面には応力調整層を配置した伸縮性回路基板が知られている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の伸縮性回路基板では、基板に伸縮性を与える目的で配線や応力調整層の断面を凹凸形状にしなければならず、そのため、部品の実装や電気的な接点部の取得について難があり、また、回路基板表面の肌触りが悪く、美観も良くないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019―075409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、縮んだ状態においても表面の凹凸が少なく、部品の実装性、実装信頼性、意匠性および触感に優れた伸縮性回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑み、伸縮性回路基板の回路パターンや各層の構成及びそれらの物理的特性等について鋭意検討を重ねた結果、伸縮性回路基板の構成や特性の中でも特にヒトの肌触りに大きな影響を与えるのは、導電層の回路パターンの配線間隔と該回路パターンが形成された導電層の表面の静摩擦係数であるとの知見を得た。より具体的には、例えば配線間隔が大きく(広く)なると、伸縮性回路基板がヒトの肌に直接触れたときに回路パターンの段差を顕著に感じさせて、悪い肌触り感を与えることになる。一方、配線間隔が小さく(狭く)なると、ヒトの肌触り感は改善されるものの、伸縮性回路基板の伸縮性が低下してフレキシブル性を損なうことになる。また、伸縮性回路基板の導電層表面の静摩擦係数の値が大きくなったときも、悪い肌触りを感じさせることになる。
【0008】
そのため、発明者等は、伸縮性回路基板の導電層が備える回路パターンの配線間隔を特定の範囲内で形成し、上記導電層の表面の静摩擦係数を特定の範囲とすることで上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、伸縮性を有する樹脂基板と、樹脂基板の少なくとも一方の面に積層された第1の導電層とを備える伸縮性回路基板において、第1の導電層は回路パターンを備える金属箔からなり、回路パターンの配線間隔が0.1mm以上4.0mm以下であり、そして第1の導電層の表面で測定される静摩擦係数が1以下である伸縮性回路基板が提供される。なお、回路パターンの配線間隔は、より好ましくは0.1mm以上1.0mm以下であってもよい。
【0010】
また、本発明の伸縮性回路基板は、樹脂基板の一方の面とは反対側の他方の面にさらに第2の導電層を積層し、第2の導電層は回路パターンを備える金属箔から構成してもよい。
【0011】
本発明の伸縮性回路基板は、縮んだ状態においても表面の凹凸が少ないため、電気的な接点部の取得性や部品の実装性、実装の信頼性、意匠性に優れ、特にヒトの肌に直接触れたときの肌触り感が極めて優れている。
【0012】
本発明では、金属箔は、高い導電性、シワ発生の防止、必要最小限の強度の確保などの観点よりアルミニウム箔または銅箔であることが好ましく、また、その厚みは5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0013】
樹脂基板は、伸縮性、製造容易性などの観点より、少なくともスチレン系エラストマー、アミド系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマーおよび動的加硫系エラストマーからなる群から選ばれる1種または2種以上のエラストマーを含んでいることが好ましい。
【0014】
本発明では、上述した伸縮性回路基板は、製造時のシワの発生を効果的に防止できることから、樹脂基板と第1の導電層、または第2の導電層を有する場合は樹脂基板と第1および第2の導電層とは押出ラミネート法により積層し、製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、伸縮性を有する樹脂基板と、樹脂基板の少なくとも一方の面に積層された第1の導電層とを備える伸縮性回路基板において、第1の導電層は回路パターンを備える金属箔からなり、回路パターンの配線間隔が0.1mm以上4.0mm以下であり、そして第1の導電層の表面で測定される静摩擦係数が1以下である伸縮性回路基板およびその製造方法が提供される。
【0016】
その結果、本発明の伸縮性回路基板は、縮んだ状態においても表面の凹凸が少ないため、高度な電気的な接点部の取得性や部品の実装性、実装の信頼性、意匠性を備え、特にヒトの肌に直接触れたときの肌触り感が極めて良好であるという優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1a】本発明における回路パターンの配線幅と配線間隔を模式的に示した伸縮性回路基板の断面図である。
図1b図1aに示される回路パターンの配線幅と配線間隔を模式的に示した伸縮性回路基板の平面図である。
図2】本発明における実施例1の伸縮性回路基板に適用された回路パターンを示す平面図である。
図3】本発明における実施例2の伸縮性回路基板に適用された回路パターンを示す平面図である。
図4】本発明における実施例3の伸縮性回路基板に適用された回路パターンを示す平面図である。
図5】本実施形態における比較例1の伸縮性回路基板に適用された回路パターンを示す平面図である。
図6】本実施形態における比較例2の伸縮性回路基板に適用された回路パターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る伸縮性回路基板およびその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0019】
本発明の一実施形態に係る伸縮性回路基板は、伸縮性を有する樹脂基板と、樹脂基板の少なくとも一方の面に積層された第1の導電層とを備える伸縮性回路基板において、第1の導電層は金属箔からなる回路パターンを備えている。
【0020】
<樹脂基板>
本実施形態に用いられる樹脂基板は、伸縮性を有する樹脂を含有する基板である。本実施形態において、樹脂基板の伸縮性は、例えば20%伸長した後の基板(試験片)の伸長回復率が80%以上であることが好ましく、その上限は100%である。
【0021】
伸長回復率は、上記伸縮性を有する樹脂基板の測定用サンプルを用いた引張り試験により求められる。すなわち、樹脂製の基板サンプルに荷重を加えて伸張させ、該荷重を除去して収縮させる作用を加えた際に、初期長さ(標線距離)をL、20%伸張させた際の長さ(標線距離)をL、伸張荷重を除去した際の長さ(標線距離)をLとした場合、下記式(1)により求められる。
伸長回復率(%)={(L-L)/(L-L)}×100・・・(1)
【0022】
樹脂基板の破断伸び率は、90%以上であることが好ましい。破断伸び率が90%以上であると、十分な伸縮性が得られ易くなる傾向にある。この観点から破断伸び率は高い方が好ましく、例えば100%以上、150%以上、300%以上であればより好ましい。
【0023】
破断伸び率は、上述の伸縮性を有する樹脂基板の測定用サンプルを用いた引張り試験において求められる。すなわち、樹脂製の基板サンプルに荷重を加えて伸張させ、破断させた際に、初期長さ(標線距離)をL、破断した際の長さ(標線距離)をLとした場合、下記式(2)により求められる。なお、本発明において樹脂基板の破断伸び率は、後述する伸縮性回路基板の引張破断伸び率とは測定対象も測定方法も異なるものである。
破断伸び率(%)={(L-L)/L}×100・・・(2)
【0024】
樹脂基板の弾性率は、1MPa以上200MPa以下であることが好ましく、5MPa以上100MPa以下であることがより好ましい。弾性率が1MPaよりも低くなると伸長時における基板の破断が起こり易くなり、また、弾性率が200MPaよりも高くなると、基板に求められる伸縮性が不十分となる。
【0025】
樹脂基板の伸長回復率、伸び率および弾性率は、作製した伸縮性回路基板から導電層を形成する金属箔を塩酸エッチングにより溶解ないし剥離させ、樹脂基板のみを残したものを試験片として用いることにより求められる。試験機としては、引張試験機 ストログラフ(東洋精機製,VGS1-E)を用いて測定することができる。測定は、JIS K 7311(1995)に準じ、サンプル幅5mmの短冊状に切断し、標線距離20mm、引張速度300mm/min、引張距離20mmの条件にて行うことができる。
【0026】
上述のエッチングの際に用いられるエッチング液は、酸であってもアルカリであってもよく、樹脂基板に用いられる樹脂の種類や金属箔の種類に応じて適宜選択することができる。エッチング液の一例として、塩酸や塩化第二鉄液等が好適に用いられる。
【0027】
本実施形態において、樹脂基板の形状は特に限定はないが、例えばシート状、フィルム状のように薄くて柔軟性を有する平板であることが好ましい。
【0028】
樹脂基板の厚みは、50μm以上200μm以下であることが好ましく、80μm以上150μm以下であることがより好ましい。樹脂基板の厚みが50μmよりも薄くなると、基板と金属箔とをラミネートする製造時に折れシワが発生し、フラットな面状態が保てなくなる。また、面方向へのストレッチ性が弱まり、全体的には引張による破断強度が低下する。また、樹脂基板の厚みが200μmよりも厚くなると、基板の重量が不必要に重くなる。さらに、樹脂基板の厚みが厚くなると、誘電率に悪影響を及ぼし、例えば静電センサーとして用いた場合、感度が悪くなるといった不都合を生じ易くなるため、この点からも基板の厚みは200μm以下であることが好ましい。
【0029】
樹脂基板の厚みは、マイクロメータ(ミツトヨ U字形鋼板マイクロメータ 型番389-251-30)によって測定することができる。ラミネート前の基板、またはラミネート後の伸縮性回路基板から金属箔の一部または全部をエッチングにより溶解ないし剥離させ、金属箔が除去された基板の厚みを5点測定し、その平均値を樹脂基板の厚みとすればよい。
【0030】
樹脂基板は、伸縮性を有し、また、熱ラミネートまたは押し出しラミネートが可能な樹脂からできていることが好ましい。そのような樹脂としては、例えば、熱可塑性エラストマーがあり、その中でも、スチレン系エラストマー、アミド系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、動的架橋型熱可塑性エラストマー、動的加硫型熱可塑性エストラマー等が好適に用いられる。また、基板に用いられる樹脂は1種類でも、2種類以上の樹脂を混ぜたものであってもよい。
【0031】
<導電層>
本実施形態において、導電層に用いられる金属箔は、導電性を有するものであれば特に限定はなく、例えば金箔、銀箔、銅箔、アルミニウム箔、チタン箔、ステンレス箔、ニッケル箔、錫箔または鉄箔等を用いることができる。中でも、アルミニウム箔および銅箔が好適に用いられる。
【0032】
金属箔の厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0033】
金属箔の厚みは、マイクロメータ(ミツトヨ U字形鋼板マイクロメータ 型番389-251-30)によって測定することができる。ラミネート前の金属箔、またはラミネート後に伸縮性回路基板から剥離させた金属箔の厚みを5点測定し、その平均値を金属箔の厚みとすればよい。
【0034】
金属箔の引張強度は、1N/mm以上150N/mm以下であることが好ましく、10N/mm以上100N/mm以下であることがより好ましい。上述の範囲であれば、伸縮性回路基板をRoll to Rollにて製造する際、金属箔からなる導電層に折れシワが発生するのを効果的に抑制することができる。
【0035】
金属箔の伸び率は、3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。金属箔の伸び率は、JIS Z 2241(2011)金属材料引張試験方法に準拠した方法によって測定することができる。試験機としてはストログラフ(東洋精機製,VGS1-E)を用い、金属箔をサンプル幅15mmの短冊状に切断し、試験速度10mm/min、チャック間距離50mmの条件にて測定することができる。
【0036】
<回路パターン>
本実施形態において、伸縮性回路基板の樹脂基板の上に積層された回路パターンの形状は、用途や所望の性能に応じて適宜選択される。本実施形態では、伸縮性回路基板の樹脂基板の上に積層された回路パターンは、線状の金属箔(配線)が折り畳まれた構造または網目状の構造を有している。配線は幅と長さを有しており、本願明細書では幅を測定する方向を幅方向、長さを測定する方向を長手方向と呼んでいる。
【0037】
また、本実施形態では、伸縮性回路基板は樹脂基板の両面に第1の導電層および第2の導電層を備えていてもよい。伸縮性回路基板が樹脂基板の両面に第1,2の導電層を備えている場合、一方面(A面)の回路パターンと他方面(B面)の回路パターンは、樹脂基板を挟んで互いに対向する位置に形成されていてもよく、もしくは互いにズレた位置に形成されてもよい。本実施形態の伸縮性回路用基板は肌触りに優れていることが重要であるので、回路パターンは、互いにズレた位置に形成させた方が表面の凹凸を抑制することができて有利である。
【0038】
本実施形態において、導電層を形成する金属箔は回路パターンを備えており、該回路パターンの配線間隔が0.1mm以上4.0mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上1.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
回路パターンの配線間隔が上記範囲内にあると、伸縮性回路基板は十分な柔軟性を備えつつも、良好な肌触りを得ることができる。回路パターンの配線間隔が0.1mm未満であると伸縮性回路基板の柔軟性は低下する。一方、配線間隔4.0mmよりも大きくなると顕著に凹凸を感じさせることとなり、肌触りが悪くなる。
【0040】
ここで、図面を用いて、本発明における回路パターンの配線幅と配線間隔の定義について説明をする。図1aには、本実施形態における回路パターン3の配線幅Lと配線間隔Sを模式的に示した伸縮性回路基板1の断面図が示されており、図1bには、図1aに示される回路パターン3の配線幅Lと配線間隔Sを模式的に示した伸縮性回路基板1の平面図が示されている。
【0041】
回路パターン3は公知の方法によって形成することができるが、本実施形態では、回路パターン3は、アルミニウム箔または銅箔からなる金属箔を非腐食材料(レジストインキ)でマスキングし、該金属箔をエッチングすることにより形成させている。一般に金属箔をエッチングすることにより得られる回路パターン3は、その導体31の幅Wが、図1aに示されるように導体31の深さ(高さ)方向で変化する。そのため、本発明では、回路パターン3の配線30を真上から見たとき、樹脂基板2に投影される導体31の幅W、別言すれば導体31の最大幅Wを回路パターン3の配線幅Lと定義している。
【0042】
また、一般に上述の配線幅Lは、実質的に金属箔をマスキングしたレジストインキ層4の線幅(W)と同一となるように調整されており同一視することができるので(図1a)、本実施形態および本発明では、レジストインキ層4の線幅の値(W)を回路パターン3の配線幅の値Lとして用いている。なお、回路パターン3の線状の金属箔の幅(配線幅L)は特に制限はないが、例えば0.1mm以上5.0mm以下の幅が好適に用いられる。
【0043】
上述した回路パターン3の配線幅Lの定義により、本発明における回路パターン3の配線間隔Sは、隣り合う配線30(導体31)の端と端との間の距離を意味し、隣り合う配線30(導体31)の中心と中心との間の距離を意味するものではない。別言すれば、回路パターン3の配線30を真上から見たとき、樹脂基板2に投影される導体31の端とそれに対向する隣の導体31の端との間の距離を意味している(図1a)。
【0044】
そのため、図1bに示されるように、隣り合う配線30(導体31)同士が蛇行等することによりそれらの端と端との距離が長手方向おいて変化するとき、回路パターン3の配線間隔Sが0.1mm以上であるとは、隣り合う配線30(導体31)同士の端と端との間の距離が最小である場合においても0.1mm以上であることを意味し、一方、回路パターン3の配線間隔Sが1.0mm以下であるとは、隣り合う配線30(導体31)同士の端と端との間の距離が最大である場合においても1.0mm以下であることを意味している。
【0045】
<プライマー層>
本実施形態の伸縮性回路基板は、樹脂基板と導電層を形成する金属箔との間に接着性を向上させる目的でプライマー層を備えていてもよい。プライマー層は、伸縮性を有するプライマーを用いることが好ましく、例えばアクリル樹脂系などのプライマーが好適に用いられる。
【0046】
<伸縮性回路用基板の製造方法>
本実施形態の伸縮性回路基板の製造方法は、導電層を形成する金属箔と樹脂基板とをラミネートするラミネート工程を備え、さらに導電層に回路パターンを形成する場合、導電層を形成する金属箔をエッチングするエッチング工程を備えていてもよい。
【0047】
<ラミネート工程>
本実施形態において、ラミネート工程は、金属箔と樹脂基板とをラミネートする工程である。本実施形態においてラミネートする方法に特に限定はなく、ドライラミネート法、熱ラミネート法、押出ラミネート法等を用いることができるが、製造時のシワの発生を効果的に抑制するためには押出ラミネート法を用いることが好ましい。また、ドライラミネート法を用いて製造する場合、一般的に金属箔と樹脂基板の接合に用いられる接着剤の伸縮性が低く、得られた伸縮性回路基板の伸縮性にも悪影響を及ぼすことがあるので注意が必要である。
【0048】
また、本実施形態では、樹脂基板と金属箔との接着性を向上させる目的で、上述のラミネート工程に先立って、樹脂基板と金属箔との間にプライマーを塗工しておいてもよい。
【0049】
<エッチング工程>
本実施形態の伸縮性回路基板の製造方法では、上述のラミネート工程の後、導電層を構成する金属箔をエッチングし、回路パターンを形成するエッチング工程を備えていている。エッチング工程は、伸縮性回路基板の金属箔の表面に所望の形状となるようにレジストインキを印刷し、次にエッチング液に浸漬してレジストインキが印刷されていない部分を溶解させた後、必要に応じてレジストインキを剥離することにより、金属箔に回路パターンを形成することができる。また、エッチング工程は、伸縮性回路基板の金属箔の表面にドライフィルムをラミネートして露光したのち、未感光部分を除去することにより所定の回路パターンを現像し、次にエッチング液に浸漬してレジストインキが印刷されていない部分を溶解させた後、ドライフィルムを除去(剥離)することにより、金属箔に回路パターンを形成させてもよい。
【0050】
本実施形態において、レジストインキの印刷方法に特に限定はなく、公知の印刷方法を用いることができ、例えばグラビア印刷法やスクリーン印刷法等を採用することができる。
【0051】
レジストインキについても特に限定はなく、公知のインキを用いることができ、例えば有機系レジストインキや無機系レジストインキ等を、エッチング液との相性や導電層を形成する金属箔表面への塗工性等を考慮して適宜選択することができる。
【0052】
また、エッチング液についても特に限定はなく、公知のエッチング液を用いることができ、基材に用いる樹脂の種類や金属箔の種類に応じて適宜酸性またはアルカリ性等のエッチング液を選択することができる。例えば、エッチング液として水酸化ナトリウム水溶液、塩酸、塩化第二鉄液、塩化銅液、過酸化水素等、またはそれらの混合液を用いることができる。
【0053】
以上のように、本実施形態の伸縮性回路基板の製造方法では、上述した構成を備えることにより、伸縮性回路基板をRoll to Rollにて製造する際、金属箔からなる導電層に折れシワが発生するのを効果的に抑制することができる。
【実施例0054】
<伸縮性回路基板の作製>
押出ラミネート機を用い、以下の条件、構成にて実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板を作製した。
【0055】
[実施例1]
第1および第2の導電層には、それぞれ第1および第2のアルミニウム箔(1N30 東洋アルミニウム(株)製 30μm、最大引張り強度 21N)をそれぞれ用意し、各アルミニウム箔のマット面側に接着性付与のためアンカーコート剤を塗布した。次に、上記第1のアルミニウム箔と第2のアルミニウム箔との間に基材成形用の伸縮性樹脂として、日本ゼオン(株)製のスチレン系エラストマー(TPS) Quintac 3620(弾性率 25MPa)を用い、その厚みが100μmとなるように押出ラミネート法によりラミネートすることで伸縮性回路基板の母材を作製した。
【0056】
続いて、上記母材における第1のアルミニウム箔の表面と第2のアルミニウム箔の表面のそれぞれにドライフィルムをラミネートして露光したのち、未感光部分を除去することにより所定の回路パターンを現像した。次に、回路パターンが現像された上記母材を塩化第二鉄溶液(35℃)を用いてエッチングすることでレジストインキが印刷されていない部分を溶解させて洗浄し、ドライフィルムを除去(剥離)することにより所定の回路パターンが形成された実施例1の伸縮性回路基板を作製した。
【0057】
実施例1の伸縮性回路基板に適用された回路パターンの平面図を図2に示している。実施例1において、回路パターンの配線幅をL、配線間隔をSとしたとき、回路パターンはL/S(Line and Space)=0.5mm/0.5mm、折り返し角度が約50°の蛇行形状とし、最大の配線間隔も最小の配線間隔もいずれも0.5mmとした。
【0058】
[実施例2]
実施例2の伸縮性回路基板に適用された回路パターンの平面図を図3に示している。回路パターンをL/S=0.2mm/0.5mmの格子形状に変更した以外は、実施例1と同じ条件、構成により実施例2の伸縮性回路基板を作製した。
【0059】
[実施例3]
実施例3の伸縮性回路基板に適用された回路パターンの平面図を図4に示している。回路パターンをL/S=0.2mm/0.5mmの格子形状とし、格子交点を1/4の割合で除去し、最小の配線間隔0.4mmに変更した以外は、実施例1と同じ条件、構成により実施例3の伸縮性回路基板を作製した。
【0060】
[比較例1]
比較例1の伸縮性回路基板に適用された回路パターンの平面図を図5に示している。回路パターンをL/S=0.5mm/0.6mmまたはL/S=0.5mm/0.2mm、折り返し角度が180°の蛇行形状とし、最大の配線間隔を4.9mm、最小の配線間隔を0.2mmに変更した以外は、実施例1と同じ条件、構成により比較例1の伸縮性回路基板を作製した。
【0061】
[比較例2]
比較例2の伸縮性回路基板に適用された回路パターンの平面図を図6に示している。回路パターンをL/S=0.5mm/0.6mmまたはL/S=0.5mm/0.2mm、折り返し角度180°の蛇行形状とし、最大の配線間隔を4.8mm、最小の配線間隔を0.2mmに変更した以外は、実施例1と同じ条件、構成により比較例2の伸縮性回路基板を作製した。
【0062】
<伸縮性回路基板の各層の特性>
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板の各層について、伸縮性回路基板に用いた導電層(金属箔)および樹脂基板の特性を以下の方法により測定した。
【0063】
[A.導電層(金属箔)の厚み]
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板において、第1および第2の導電層の形成に用いたラミネート前の第1および第2の金属箔の厚みは、マイクロメータ(ミツトヨ U字形鋼板マイクロメータ 型番389-251-30)を用いて測定した。また、第1および第2の金属箔の厚みは、上記の方法により各金属箔について5点ずつ測定を行い、それぞれの平均値を第1および第2の金属箔の厚みとした。
【0064】
[B.導電層(金属箔)の伸び率]
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板において、第1および第2の導電層の形成に用いたラミネート前の第1および第2の金属箔の伸び率は、引張試験によって測定した。引張試験の測定方法はJIS Z 2241(2011)金属材料引張試験方法に準拠する方法によって測定した。試験機はストログラフ(東洋精機製,VGS1-E)を用い、金属箔をサンプル幅15mmの短冊状に切断し、試験速度10mm/min、チャック間距離50mmの条件にて測定した。
【0065】
[C.樹脂基板の厚み]
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板において、樹脂基板の厚みは、伸縮性回路基板から導電層を形成する金属箔を塩酸エッチングにより溶解ないし剥離させ、樹脂基板のみを残したものを試験片とし、その基板をマイクロメータ(ミツトヨ U字形鋼板マイクロメータ 型番389-251-30)を用いて測定した。樹脂基板の厚みは、上記の方法により5点測定を行い、その平均値を樹脂基板の厚みとした。
【0066】
[D.樹脂基板の弾性率]
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板において、樹脂基板の弾性率は、伸縮性回路基板から導電層を形成する金属箔を塩酸エッチングにより溶解ないし剥離させ、樹脂基板のみを残したものを試験片とし、引張試験機 ストログラフ(東洋精機製,VGS1-E)を用いて測定した。測定は、JIS K 7311(1995)に準じ、サンプル幅5mmの短冊状に切断し、標線間距離20mm、引張速度300mm/min、引張距離20mmの条件にて行った。
【0067】
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板の各層について、第1および第2の導電層(金属箔)の厚みと伸び率の測定結果、樹脂基板の厚みと弾性率の測定結果を下記表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
<伸縮性回路基板の特性および評価>
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板の特性を以下の方法により測定し、評価した。
【0070】
[A.伸縮性回路基板の引張破断伸び率]
実施例1~3および比較例1,2において、伸縮性回路基板の引張破断伸び率は、張試験機 ストログラフ(東洋精機製,VGS1-E)を用いて測定した。測定は、サンプル幅100mm、チャック間距離330mm、引張速度50mm/minの条件にて行った。また、引張前の元サンプルの長さに対する伸び率が2%ずつ増加する度に引張を停止し、引張試験機にセットされ伸ばされたままの状態の回路基板の導電層について、同じ面内における上側のつかみ部に近い部分と、下側のつかみ部に近い部分のそれぞれにテスターを当ててその導通を確認した。引張破断伸び率は、引張前の元サンプルの長さに対する伸び率が2%ずつ増加する度に回路基板の導電層の導通測定を繰り返し、断線を確認したときの伸び率を伸縮性回路基板の引張破断伸び率とした。
【0071】
[B.伸縮性回路基板の静摩擦係数]
実施例1~3および比較例1,2において、伸縮性回路基板の静摩擦係数は、摩擦力測定機(佐川製作所製)を用いて測定した。測定する試料として伸縮性回路基板を2枚準備し、回路パターン備える導電層同士を向かい合うように重ね合わせて測定機に設置した。測定する伸縮性回路基板のうち、上側の試料の上に200gの錘を載置し、移動速度50mm/min,移動距離20mmの条件にて上側の試料を滑らすことにより静摩擦係数を測定した。本実施形態では、上記の静摩擦係数を10回測定し、その平均値を導電層の静摩擦係数とした。
【0072】
[C.伸縮性回路基板の肌触り]
実施例1~3および比較例1,2において、伸縮性回路基板の肌触りの評価は、任意に選んだモニター1名(健全な20歳代の成人男性)による官能試験を行うことにより評価した。具体的には、モニターにより、φ30mmのパイプに巻き付けた各実施例および各比較例の伸縮性回路基板サンプルの導体層の表面を指で触り、指で凹凸を感じた場合を「×」、指で凹凸を感じなかった場合を「〇」として評価した。
【0073】
実施例1~3および比較例1,2の伸縮性回路基板について行った引張破断伸び率及び静摩擦係数の測定結果と、肌触りの評価結果を下記表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
<考察>
表2に示されるように、ヒトの肌触りについての官能試験において、実施例1~3の伸縮性回路基板はいずれも20%以上の高い引張破断伸び率を有しながら、肌触りにおいては凹凸を感じさせない「〇」の評価を得たのに対して、比較例1,2の伸縮性回路基板はいずれも20%未満の低い引張破断伸び率となり、肌触りも凹凸を感じさせる「×」の評価となった。
【0076】
そのため、実施例1~3の伸縮性回路基板と比較例1,2の伸縮性回路基板との基板条件や引張破断伸び率および静摩擦係数についての基板特性について比較すると、良好な肌触りを得るためには、回路パターンの配線間隔が0.1mm以上4.0mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上1.0mm以下であることがさらに好ましいことが判った。
【0077】
回路パターンの配線間隔が上記範囲内にあると、伸縮性回路基板は十分な柔軟性を備えつつも、良好な肌触りを得ることができる。しかし、回路パターンの配線間隔が0.1mm未満であると伸縮性回路基板の柔軟性は低下し、一方、配線間隔が4.0mmよりも大きくなると顕著に凹凸を感じさせて肌触りを悪化させることになる。
【0078】
また、同様に良好な肌触りを得るためには、伸縮性回路基板の静摩擦係数は1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、さらに伸縮性回路基板の引張破断伸び率は20%以上であることが好ましいことが判った。
【0079】
さらに、良好な肌触りを得るための伸縮性回路基板の条件としては、表1より、金属箔の厚みが5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上40μm以下であることがより好ましいことも判った。
【0080】
以上のように、実施例1~3の伸縮性回路基板は、縮んだ状態においても表面の凹凸が少なく、部品の実装性、実装信頼性、意匠性および触感に優れていることが判った。
【符号の説明】
【0081】
1・・・・伸縮性回路基板
2・・・・樹脂基板
3・・・・回路パターン
30・・・配線
31・・・導体
4・・・・線状のレジストインキ層
L・・・・配線幅
W・・・・樹脂基板に投影される導体幅、レジストインキ層の線幅
S・・・・配線間隔
Smax・・・最大の配線間隔
Smin・・・最小の配線間隔

図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6