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特開2024-108382燃料電池用ラジカル硬化性シール部材
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  • 特開-燃料電池用ラジカル硬化性シール部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108382
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】燃料電池用ラジカル硬化性シール部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0284 20160101AFI20240805BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240805BHJP
   C08F 290/04 20060101ALI20240805BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240805BHJP
【FI】
H01M8/0284
C09K3/10 E
C08F290/04
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012715
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太郎
【テーマコード(参考)】
4H017
4J127
5H126
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB01
4H017AD01
4H017AE05
4J127AA03
4J127AA04
4J127BB021
4J127BB031
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC031
4J127BC151
4J127BD031
4J127BG031
4J127BG03Y
4J127BG171
4J127BG17Y
4J127CA02
4J127CB141
4J127CB372
4J127CC112
4J127CC161
4J127CC162
4J127EA12
4J127FA15
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126DD14
5H126EE03
5H126GG18
5H126HH01
5H126HH02
5H126JJ05
5H126JJ08
5H126JJ10
(57)【要約】
【課題】圧縮割れ耐性に優れている、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材を提供する。
【解決手段】下記(A)~(D)成分を含有し、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して5~20質量部であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマー。
(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)ラジカル重合開始剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分を含有し、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して5~20質量部であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマー。
(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)ラジカル重合開始剤。
【請求項2】
上記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して8~20質量部である、請求項1記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項3】
上記(B)成分が、ペンタエリスリトール骨格を有する5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーである、請求項1または2記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項4】
上記燃料電池用ラジカル硬化性シール部材のガラス転移温度が、-40℃以下である、請求項1または2記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項5】
上記ラジカル硬化性組成物が、シリカを含有していないラジカル硬化性組成物である、請求項1または2記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項6】
上記燃料電池用ラジカル硬化性シール部材は、下記の圧縮加熱処理後において割れが発生しない、請求項1または2記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[圧縮加熱処理]
圧縮率:50%
加熱温度:120℃
加熱時間:100時間
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構成部材をシールするために用いられるラジカル硬化性シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、ガスの電気化学反応により電気を発生させ、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ない。なかでも固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動させることができ、大きな出力密度を有する。そのため、上記固体高分子型燃料電池は、発電用、自動車用電源等、種々の用途が期待される。
【0003】
固体高分子型燃料電池においては、膜電極接合体(MEA)等をセパレータで挟持したセルが発電単位となる。MEAは、電解質となる高分子膜(電解質膜)と、電解質膜の厚さ方向両面に配置された一対の電極触媒層(燃料極(アノード)触媒層、酸素極(カソード)触媒層)と、からなる。一対の電極触媒層の表面には、更に、ガスを拡散させるための多孔質層が配置される。燃料極側には水素等の燃料ガスが、酸素極側には酸素や空気等の酸化剤ガスがそれぞれ供給される。供給されたガスと電解質と電極触媒層との三相界面における電気化学反応により、発電が行われる。固体高分子型燃料電池は、上記セルを多数積層したセル積層体を、セル積層方向の両端に配置したエンドプレート等により締め付けて構成される。
【0004】
セパレータには、各々の電極に供給されるガスの流路や、発電の際の発熱を緩和するための冷媒の流路が形成される。例えば、各々の電極に供給されるガスが混合すると、発電効率が低下する等の問題が生じる。また、電解質膜は、水を含んだ状態でプロトン導電性を有する。このため、作動時には、電解質膜を湿潤状態に保つ必要がある。したがって、ガスの混合、ガスおよび冷媒の漏れを防止すると共に、セル内を湿潤状態に保持するためには、MEAおよび多孔質層の周囲や、隣り合うセパレータ間のシール性を確保することが重要となる。これらの構成部材をシールするために用いられるシール部材としては、例えば、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリイソブチレンポリマーや(メタ)アクリルポリマー等のポリマーを含有するラジカル硬化性シール部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/029978号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、燃料電池は、例えば200~300枚のセルを積層して、上記のようなシール部材を高圧縮(例えば、圧縮率50%)させながら締結して構成されたものであるため、優れた圧縮割れ耐性(耐圧縮破壊性)が求められる。
【0007】
圧縮割れ耐性を向上させる手法としては、シール部材の材料中にシリカを添加する手法が考えられる。しかしながら、シール部材の材料中にシリカを添加すると、圧縮割れ耐性が改善する傾向が見られる一方、シリカ由来のSi(ケイ素)成分が経時的にシール部材から溶出してしまうため、例えば、シール部材や燃料電池の各種性能に影響を及ぼす可能性が懸念される。そのため、上述のシリカを添加する手法とは異なる新たな手法の開発が求められる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、圧縮割れ耐性に優れる燃料電池用ラジカル硬化性シール部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、かかる事情に基づいて鋭意研究を重ねる過程において、圧縮割れ耐性を高める観点から、シール部材を構成する材料のなかでも特に多官能(メタ)アクリレートに着目して検討を進めた。本発明者等は、シール部材の機械的強度および伸び特性の両者を高度にバランスさせる観点から更なる検討を重ねた結果、特定の多官能(メタ)アクリルモノマー、すなわち、5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーを、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマーに対して特定の含有割合で配合して得られたラジカル硬化性組成物からなる架橋体を、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材として用いたところ、意外にも、圧縮割れ耐性の向上効果が顕著に得られるようになることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の[1]~[6]をその要旨とする。
[1]
下記(A)~(D)成分を含有し、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して5~20質量部であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマー。
(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)ラジカル重合開始剤。
[2]
上記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して8~20質量部である、[1]記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[3]
上記(B)成分が、ペンタエリスリトール骨格を有する5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーである、[1]または[2]記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[4]
上記燃料電池用ラジカル硬化性シール部材のガラス転移温度が、-40℃以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[5]
上記ラジカル硬化性組成物が、シリカを含有していないラジカル硬化性組成物である、[1]~[4]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[6]
上記燃料電池用ラジカル硬化性シール部材は、下記の圧縮加熱処理後において割れが発生しない、[1]~[5]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[圧縮加熱処理]
圧縮率:50%
加熱温度:120℃
加熱時間:100時間
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材は、圧縮割れ耐性に優れる。そのため、燃料電池用のシール部材として優れた性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材をシール体とした一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施形態に限られるものではない。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方を包含する概念として用いられる語である。また、「ポリマー」は、コポリマーおよびオリゴマーを包含する概念として用いられる語である。
【0014】
本発明の一実施形態である燃料電池用ラジカル硬化性シール部材(以下、「本シール部材」という場合がある。)は、先に述べたように、下記(A)~(D)成分を含有し、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して5~20質量部であるラジカル硬化性組成物(以下、「本ラジカル硬化性組成物」という場合がある。)の架橋体からなる、燃料電池用ラジカル硬化性シール部材である。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマー。
(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)ラジカル重合開始剤。
【0015】
本ラジカル硬化性組成物の架橋体を燃料電池用ラジカル硬化性シール部材とすることによって、圧縮割れ耐性の向上効果が顕著に得られる。このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマー(A)に対して5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマー(B)を特定の含有割合で配合し、更に、単官能(メタ)アクリルモノマー(C)、およびラジカル重合開始剤(D)を配合して得られたラジカル硬化性組成物の架橋体を用いることにより、シール部材の機械的強度および伸び特性の両者を高度にバランスさせることができる結果、圧縮割れ耐性の向上効果が顕著に得られるものと考えられる。
【0016】
例えば、シール部材に対して、(B)成分ではなく、4官能以下の多官能(メタ)アクリルモノマーを配合した場合には、圧縮割れ耐性を一定程度は改善し得るものの、機械的強度および伸び特性の両者を高度にバランスさせることは困難であるため、圧縮割れ耐性の向上効果を顕著に得ることはできない。
【0017】
しかも、本シール部材は、その材料としてシリカを用いなくても、圧縮割れ耐性の向上効果が顕著に得られる点において有用性が高い。すなわち、シール部材の圧縮割れ耐性を向上させる手法は限られており、現実的にはシリカの配合する手法を採用することが想定されているが、シール部材の材料としてシリカを用いた場合、シリカ由来のSi(ケイ素)成分が経時的にシール部材から溶出し、例えば、シール部材や燃料電池の各種性能に影響を及ぼす可能性が懸念される。本シール部材は、その材料としてシリカを用いなくても、圧縮割れ耐性の向上効果が顕著に得られるため、上記のような懸念を軽減することができる。
【0018】
また、シール部材の材料としてシリカを用いる場合、その粒子径や表面状態のバラツキに起因して、シール部材の諸特性にもバラツキが生じる傾向があるため、品質安定性に懸念があるが、本シール部材は、シリカを用いなくても、優れた圧縮割れ耐性を発揮することができるため、品質安定性に優れるものとなる。
【0019】
更に、シール部材の材料としてシリカを用いる場合、その凝集性に起因して、製造工程における分散処理工程に相応の工数を要するが、本シール部材は、シリカを用いなくても、優れた圧縮割れ耐性を発揮することができるため、分散処理に要する工数を減少させることができ、生産性ないし経済性に優れるものとなる。
【0020】
以下、本シール部材に使用される各成分材料等について詳細に説明する。
【0021】
<(A)成分>
(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマーは、本シール部材の材料であるラジカル硬化性組成物の主成分であり、通常、上記組成物全量(100質量%)に対して50質量%以上、好ましくは、50~85質量%、より好ましくは、60~75質量%程度を占める成分である。かかる(A)成分は、アクリルポリマー等に比して、耐加水分解性に優れており、加水分解によって生じる力学特性の変化(脆化による伸びの低下、硬度上昇等)を抑制することができるため、本シール部材は製品耐久性に優れるものとなる。
【0022】
(A)成分は、分子鎖末端にラジカル硬化性官能基である(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレンポリマーであればよいが、ラジカル硬化性を高める観点から、その分子鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレンポリマーであることが好ましい。
【0023】
(A)成分1分子当たりに導入される(メタ)アクリロイル基の平均数は、特に限定されないが、例えば、1.5~4個が好ましく、より好ましくは1.7~2.5個である。
【0024】
(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。(A)成分のガラス転移温度(Tg)が上記温度よりも高くなると、低温シール性に劣る傾向がみられる。なお、(A)成分のガラス転移温度(Tg)の下限値は特に限定されるものではないが、例えば-80℃以上である。
【0025】
(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、公知の方法により測定でき、例えば、示差走査熱量計(DSC)で測定される。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC-5200を用い、試料を-90℃まで温度を下げた後、20℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線からガラス転移温度を求める。
【0026】
(A)成分の数平均分子量(Mn)は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば、2000~100000が好ましく、3000~50000がより好ましい。数平均分子量(Mn)が前記範囲よりも小さいと、圧縮割れ耐性に劣る傾向がみられる。
【0027】
(A)成分の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば、1.1~1.6が好ましく、1.1~1.4がより好ましい。
【0028】
なお、前記数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。具体的には、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0029】
(A)成分の23℃での粘度(E型粘度計による粘度)は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば、100~10000Pa・sが好ましく、より好ましくは500~6000Pa・s、更により好ましくは1000~5000Pa・sである。
【0030】
(A)成分の具体的な構造は、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有し、且つ、ポリイソブチレン骨格(-[CH2C(CH32]n-。但しn=2以上)を有するポリマーであれば特に限定されない。例えば、下記式(1)~(4)に示される構造を有する公知の構造が挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
式(1)中、R1は、2価以上の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基を表す。Aは、-[CH2C(CH32]-単位を含むポリイソブチレン骨格を表す。R2は炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を含有しない基を表す。R3、R4はそれぞれ水素、炭素数1~20の1価の炭化水素基、またはアルコキシ基を表す。R5は水素、またはメチル基を表す。nは2以上の整数を表す。
【化2】
【化3】
【化4】
【0033】
式(2)~(4)中、R1は、2価以上の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基を表す。Aは、-[CH2C(CH32]-単位を含むポリイソブチレン骨格を表す。R3、R4はそれぞれ水素、炭素数1~20の1価の炭化水素基、またはアルコキシ基を表す。R5は水素、またはメチル基を表す。nは2以上の整数を表す。
【0034】
(A)成分は、合成品であっても市販品であってもよく、市販品としては、例えば、カネカ社製のEP400V等が挙げられる。また、(A)成分の合成方法(製造方法)としては、例えば、特開2013-035901号公報、国際公開WO2013-047314号公報に記載されている公知の方法が挙げられる。
【0035】
<(B)成分>
(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーとは、分子構造内に5つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。前述のとおり、本ラジカル硬化性組成物は、優れた圧縮割れ耐性を発揮する観点から、(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーを含有し、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して5~20質量部であることが重要である。
【0036】
(B)成分としては、以下に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、ペンタエリスリトール骨格を有する5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーが好ましい。ペンタエリスリトール骨格を有する5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーとは、ペンタエリスリトール骨格(ペンタエリスリトールのうちの骨格部分:C(CH2-O-)4残基)を分子中に1つ以上有し、(メタ)アクリロイル基を分子中に5つ以上有する化合物である。
【0037】
(B)成分の具体例としては、以下に限定されないが、例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、およびこれらのアルキレンオキサイド変性化合物等が挙げられる。これらのなかでも、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0038】
これら(B)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(B)成分の含有量は、上述のとおり、本発明の効果を奏する観点から、(A)成分100質量部に対して5~20質量部であることが重要である。(B)成分の含有量は、上記範囲において適宜設定できるが、本発明の効果を顕著に奏する観点からは、(A)成分100質量部に対して6~20質量部が好ましく、より好ましくは8~20質量部であり、特に好ましくは10~15質量部である。
【0040】
本シール部材は、多官能(メタ)アクリルモノマーとして、本発明の効果を阻害しない範囲内において、2~4官能の多官能(メタ)アクリルモノマーを含んでもよい。但し、2~4官能の多官能(メタ)アクリルモノマーの含有量は、(A)成分100質量部に対して5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下である。2~4官能の多官能(メタ)アクリルモノマーの含有量が上記範囲を上回ると、圧縮割れ耐性が劣化する傾向がある。
【0041】
上記2~4官能の多官能(メタ)アクリルモノマーは、分子構造内に2~4つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。2~4官能の多官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
<(C)成分>
(C)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーは、分子構造内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。具体的には、公知のエチレン性不飽和単官能モノマーが挙げられ、例えば、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等のアクリル酸アルキルエステルモノマーが挙げられる。なかでも、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソデシルが好ましく、アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましい。
【0043】
これらの(C)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
(C)成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、(A)成分100質量部に対して5~70質量部が好ましく、より好ましくは10~50質量部である。
【0045】
(C)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。(C)成分のガラス転移温度(Tg)が上記温度よりも高くなると、低温シール性に劣る傾向がみられる。なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-80℃以上である。
かかる(C)成分のガラス転移温度(Tg)は、(C)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーのホモポリマーを、上記と同様、示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。
【0046】
<(D)成分>
(D)成分のラジカル重合開始剤としては、エネルギー線を照射することによりラジカルが発生する化合物であれば特に限定されない。(D)成分の具体例としては、以下に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノン等のベンゾフェノン型化合物、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン等のアントラキノン型化合物、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン}、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等のアルキルフェノン型化合物、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン型化合物、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド型化合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル等のフェニルグリオキシレート型化合物等が挙げられる。なかでも、反応性に優れる観点から、アルキルフェノン型化合物が好ましく、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等が好ましい。
【0047】
これら(D)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
(D)成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、(A)成分100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0049】
<シリカ>
本シール部材の材料である本ラジカル硬化性組成物は、上記(A)~(D)成分の他、シリカを含有してもよいが、シール部材からシリカ由来のSi成分が経時的に溶出し、シール部材の物性や燃料電池の各種性能に悪影響を及ぼす恐れがあるため、シリカを含有しないことが好ましい。
【0050】
ラジカル硬化性組成物がシリカを含有する場合、その含有量は、本ラジカル硬化性組成物全量(100質量%)に対して8質量%未満が好ましく、より好ましくは5質量%未満であり、1質量%未満が更により好ましく、0.5質量%未満が特に好ましく、最も好ましくは0質量%である。
【0051】
上記シリカとしては、例えば、シラン化合物で表面処理されたシリカ、ジメチルシランで表面処理されたジメチルシリル化シリカ、トリメチルシランで表面処理されたトリメチルシリル化シリカ、オクチルシランで表面処理されたオクチルシリル化シリカ、メタクリロキシシランで表面処理されたメタクリルシリル化シリカ等も含まれる。
【0052】
<各種の添加剤>
本ラジカル硬化性組成物には、上記(A)~(D)成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、シリカ以外のフィラー、老化防止剤、相溶化剤、硬化性調整剤、滑剤、顔料、消泡剤、発泡剤、光安定剤、表面改質剤等、各種の添加剤を配合してもよい。
なお、本ラジカル硬化性組成物には、燃料電池の発電を阻害したり、燃料電池の白金触媒を汚染するおそれがあることから、アミン、硫黄、リン系材料といったものは、不含とすることが望ましい。
【0053】
<ラジカル硬化性組成物の製造方法>
本ラジカル硬化性組成物は、上記(A)~(D)成分や、その他の成分を加え、プラネタリーミキサー等のミキサーを用いて混合・撹拌することにより製造される。
【0054】
<硬化方法(架橋方法)>
本ラジカル硬化性組成物は、電子線や紫外線等の活性エネルギー線により硬化(架橋)される。なかでも、基材へのダメージが少ない紫外線が好ましい。活性エネルギー源としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、高圧水銀灯、ブラックライト、LED、蛍光灯等を好ましく用いることができる。
【0055】
<本シール部材のガラス転移温度(Tg)>
本ラジカル硬化性組成物の架橋体からなる本シール部材のガラス転移温度(Tg)は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、-40℃以下が好ましく、より好ましくは-50℃以下である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記温度よりも高くなると、低温シール性に劣る傾向がみられる。本シール部材のガラス転移温度(Tg)の下限値は特に限定されるものではないが、例えば-80℃以上である。
なお、本シール部材のガラス転移温度(Tg)は、上記と同様、示差走査熱量計(DSC)により測定される。
【0056】
<本シール部材の圧縮割れ耐性>
本ラジカル硬化性組成物の架橋体からなる本シール部材は、優れた圧縮割れ耐性を発揮する。例えば、本シール部材は、下記の圧縮加熱処理後においても割れが発生しない。
[圧縮加熱処理]
圧縮率:50%
加熱温度:120℃
加熱時間:100時間
【0057】
また、本ラジカル硬化性組成物の架橋体からなる本シール部材は、上記の圧縮加熱処理において圧縮率を60%に変更した場合においても割れが発生しないことが好ましい。
【0058】
<本シール部材の破断伸び(Eb)>
本ラジカル硬化性組成物の架橋体からなる本シール部材は、伸び特性が良好であり、例えば、本シール部材は、JIS K 6251に準拠し、23℃の雰囲気下で測定された切断時伸び(Eb)は100%以上であり、140%以上が好ましく、より好ましくは150%以上である。
【0059】
<本シール部材のSi溶出量(ppm)、体積変化率(%)>
本シール部材は、その材料である本ラジカル硬化性組成物にシリカを配合しなくても、優れた圧縮割れ耐性を発揮する。
したがって、例えば、本シール部材は、後記の実施例記載の方法によって求められるSi溶出量が1ppm未満であり、より好ましくは0.1ppm未満、更により好ましくは0.01ppm未満である。
【0060】
また、例えば、本シール部材は、後記の実施例記載の方法によって求められる体積変化率(%)が98~102%の範囲内であることが好ましい。
【0061】
<シール方法>
上記ラジカル硬化性組成物のシール方法は、例えば、ラジカル硬化性組成物を燃料電池の構成部材に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させればよい。塗布方法としては、例えば、ディスペンサー、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷等の各種方法を用いることができる。より具体的には、FIPG(フォームインプレイスガスケット)、CIPG(キュアーインプレイスガスケット)、MIPG(モールドインプレイスガスケット)等のシール方法を用いることができる。
【0062】
上記ラジカル硬化性組成物は短時間(例えば、数十秒程度)で架橋することが可能であることから、上記ラジカル硬化性組成物を用いて、上記シール方法に従い、燃料電池の構成部材をシールすることにより、生産性に優れるようになる。また、本シール部材は、膜状のシール部材にすることが容易であり、シール部材の薄膜化により、燃料電池の小型化を実現することができる。
【0063】
<用途>
上記ラジカル硬化性組成物の架橋体からなる本シール部材は、燃料電池の構成部材に用いられる。
【0064】
<本シール部材(燃料電池用ラジカル硬化性シール部材)の作製>
本シール部材は、(A)~(D)成分、および必要に応じてその他の成分を含有する組成物を調製した後、例えば、燃料電池のセパレータ等の各種構成部材に対してディスペンサー等を用いて塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより作製することができる。
また、燃料電池の各種構成部材に接着剤を塗布した面に対し、上記ラジカル硬化性組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより作製することもできる。
更に、燃料電池の各種構成部材のシール対象部分の形状に応じて、所定形状に成形しておくこともできる。例えば、フィルム状に成形すると、燃料電池の各種構成部材にシール部材を、接着剤により貼り付けて利用に供することができる。
【0065】
本シール部材によりシールされる燃料電池用の構成部材は、燃料電池の種類、構造等により様々であるが、例えば、セパレータ(金属セパレータ、カーボンセパレーター等)、ガス拡散層、MEA(電解質膜、電極)等が挙げられる。
【0066】
本シール部材をシール体とした一例を図1に示す。図1は、複数枚のセルが積層されてなる燃料電池における単一のセル1を主として示したものであり、セル1は、MEA2と、ガス拡散層3と、シール部材4と、セパレータ5と、接着層6を備えている。そして、上記シール部材4が、本シール部材である。
【0067】
また、燃料電池用の構成部材としては、例えば、セパレータ5とシール部材4とが接着層6を介して接着されてなるもの、セパレータ5と自己接着性を有するシール部材4とが接着されてなるもの等であってもよい。
【0068】
MEA2は、図示しないが、電解質膜と、電解質膜を挟んで積層方向両側に配置された一対の電極からなる。電解質膜および一対の電極は、矩形薄板状を呈している。MEA2を挟んで積層方向両側には、ガス拡散層3が配置されている。ガス拡散層3は、多孔質層で、矩形薄板状を呈している。
【0069】
セパレータ5は、カーボンセパレーターもしくは金属製のものが好ましく、導通信頼性の観点から、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜等の炭素薄膜を有する金属セパレータが特に好ましい。セパレータ5は、矩形薄板状を呈しており、長手方向に延在する溝が多数凹設されている。この溝により、セパレータ5の断面は、凹凸形状を呈している。セパレータ5は、ガス拡散層3の積層方向両側に対向して配置されている。ガス拡散層3とセパレータ5との間には、凹凸形状を利用して、電極にガスを供給するためのガス流路7が区画されている。
【0070】
シール部材4は、矩形枠状を呈している。そして、シール部材4は、接着層6を介して、MEA2やガス拡散層3の周縁部、およびセパレータ5に接着され、MEA2やガス拡散層3の周縁部を封止している。
なお、図1の例において、シール部材4は、上下に分かれた2個の部材を使用しているが、両者を合わせた単一のシール部材とすることも可能である。
【0071】
接着層6を形成する材料としては、例えば、ゴム糊、常温(23℃)で液状のゴム組成物、プライマー等が用いられる。上記材料の塗布方法としては、例えば、ディスペンサー塗布等が挙げられ、通常は常温の条件下で塗布すればよい。上記接着層6の厚みは、上記液状ゴム組成物を用いる場合、通常、0.01~1mmである。
【0072】
固体高分子型燃料電池等の燃料電池の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路7を通じて供給される。ここで、MEA2の周縁部は、接着層6を介して、シール部材4によりシールされている。このため、ガスの混合や漏れは生じない。
【実施例0073】
以下、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0074】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
なお、各材料に示される各数値(測定値等)は、先に説明した基準に従い求められた値である。
【0075】
<(A)成分>
(a1)アクリロイル基を分子鎖末端に有するポリイソブチレンポリマー(カネカ社製、EP400V)
【0076】
<(B)成分>
(b1)ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(新中村化学工業社製、A-DPH)
(b2)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業社製、A-9550)
(b3)ポリペンタエリスリトールポリアクリレート(新中村化学工業社製、TPOA-50)
【0077】
<(B’)成分(2~4官能の多官能(メタ)アクリルモノマー)>
(b’1)トリメチロールプロパントリアクリレート(大阪有機化学工業社製、ビスコート#295)
(b’2)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(新中村化学工業社製、AD-TMP)
【0078】
<(C)成分>
(c1)アクリル酸2-エチルヘキシル(大阪有機化学工業社製、2EHA)
【0079】
<(D)成分>
(d1)2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(iGM RESINS社製、Omnirad1173)
【0080】
<その他の成分>
メタクリルシリル化シリカ
【0081】
[実施例1~10、比較例1~8]
(燃料電池用ラジカル硬化性シール部材(試験用サンプル)の作製)
下記の表1に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、プラネタリーミキサー(井上製作所社製)で混練することにより、ラジカル硬化性組成物を調製した。
ついで、上記ラジカル硬化性組成物を、バーコーターにより所定の厚みに塗布し、高圧水銀UV照射機(ヘレウス社製、F600V-10)にて紫外線を照射して(照射強度:250mW/cm2、積算光量:3000mJ/cm2)、シートを作製した。
【0082】
<圧縮割れ耐性>
上記シートを打ち抜いて、直径10mm、厚み1mmの平面視円形状の各試験用サンプルを得た。かかる各試験用サンプルについて、JIS K6262に準拠して、圧縮割れ耐性を評価した。すなわち、各試験用サンプルを圧縮率50%または60%で圧縮し、その状態で120℃×100時間の加熱を行った後、圧縮を解放した後の各試験用サンプルの割れの有無を目視にて確認し、以下の基準により評価した。その結果を、表1に示す。なお、「割れ」とは、各試験用サンプルの外観にひび割れが生じることを意味する。
◎:圧縮率60%において割れが認められない。
〇:圧縮率60%において割れが認められた。圧縮率50%では割れが認められない。
×:圧縮率50%において割れが認められた。
【0083】
<Si溶出量>
上記シートから、幅30mm、長さ50mm、厚み1mmのサイズの試験片を切り出して、各試験用サンプルを得た。かかる各試験用サンプルを硫酸水溶液(pH3、温度95℃、100mL)に1000時間浸漬し、ICP分析法にて浸漬後のSi溶出量を測定し、以下の基準により評価した。その結果を、表1に示す。
◎:Si溶出量が0.01ppm未満。
○:Si溶出量が0.01ppm以上0.1ppm未満。
×:Si溶出量が0.1ppm以上。
【0084】
<体積変化率>
上記シートから、幅30mm、長さ50mm、厚み1mmのサイズの試験片を切り出して、各試験用サンプルを得た。かかる各試験用サンプルを温水(95℃、100mL)に1000時間浸漬し、浸漬前の体積V1と浸漬後の体積V2から体積変化率を求め、以下の基準により評価した。その結果を、表1に示す。
体積変化率(%)=(浸漬後の体積V2)÷(浸漬前の体積V1)×100
○:体積変化率が98%以上102%以下。
×:体積変化率が98%未満または102%超。
【0085】
<切断時伸び(Eb)>
JIS K 6251に準拠し、切断時伸び(Eb)を評価した。すなわち、上記シートから切り出して得たダンベル形状の各試験用サンプルについて、23℃の雰囲気下で、切断時伸び(Eb)を測定し、下記の基準により評価した。その結果を、表1に示す。
◎:Ebの値が140%以上。
○:Ebの値が140%未満100%以上。
×:Ebの値が100%未満。
【0086】
<ガラス転移温度(Tg)>
上記シートから切り出した各試験用サンプルについて、示差走査熱量計(DSC)により、ガラス転移温度(Tg)を測定した。その結果を、表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
上記表1の結果から、本発明に規定の各要件を充足する実施例のシール部材は、いずれも、圧縮割れ耐性に優れていることがわかる。
また、上記表1の結果から、本発明に規定の各要件を充足する実施例のシール部材は、いずれも、切断時伸び、Si溶出量、および体積変化率の各評価においても良好な結果が得られることがわかる。
【0089】
これに対し、比較例1、3~6のシール部材は、本発明に規定する(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーを含有しておらず、その結果、圧縮割れ耐性に劣ることがわかる。また、比較例2のシール部材は、本発明に規定する(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーを含有するものの、(A)成分100質量部に対して30質量部の範囲で含有しており、その結果、圧縮割れ耐性に劣ることがわかる。
【0090】
また、比較例7~8のシール部材は、本発明に規定する(B)5官能以上の多官能(メタ)アクリルモノマーを含有しておらず、シリカを含有するものであり、その結果、圧縮割れ耐性に改善効果が認められるものの、Si溶出量(ppm)や体積変化率(%)が増加することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のシール部材は、燃料電池を構成する部材に用いられ、例えば、金属セパレータ等の燃料電池用構成部材と、それをシールするゴム製のシール部材とが接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体、もしくは上記シール部材同士が接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体の上記シール部材に用いられる。
【符号の説明】
【0092】
1 セル
2 MEA
3 ガス拡散層
4 シール部材
5 セパレータ
6 接着層
7 ガス流路
図1