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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108383
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】顔料水分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20240805BHJP
   C09D 11/104 20140101ALI20240805BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240805BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240805BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D11/104
C09D17/00
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012717
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】長島 舟
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC01
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4J037AA02
4J037CC24
4J037EE08
4J037EE28
4J037FF18
4J039AE06
4J039BA04
4J039BC09
4J039BC15
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE28
4J039CA07
4J039EA36
4J039EA39
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】再分散性に優れ、かつ低吸液性のコート紙や非吸液性の樹脂フィルム等での耐擦過性、及び耐溶剤性に優れた記録物を得ることができる顔料水分散体及び該顔料水分散体を含有する水系インクを提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂及び顔料を含有し、該ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて、分子量1000以下の成分に該当する面積が、全面積の5%以下である、顔料水分散体、並びに、前記顔料水分散体と水溶性有機溶剤とを含有する、水系インクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂及び顔料を含有する顔料水分散体であって、
該ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて、分子量1000以下の成分に該当する面積が、全面積の5%以下である、顔料水分散体。
【請求項2】
前記顔料と前記ポリエステル樹脂とが、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子の形態である、請求項1に記載の顔料水分散体。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である、請求項1又は2に記載の顔料水分散体。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が35℃以上100℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の顔料水分散体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の顔料水分散体と水溶性有機溶剤とを含有する、水系インク。
【請求項6】
インクジェット記録用である、請求項5に記載の水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料水分散体、及び該顔料水分散体を含有する水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像が記録された記録物を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、記録媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
近年、印刷物に耐候性や耐水性を付与する観点や、作業環境、自然環境への負担軽減の観点から、着色剤として顔料を用い、顔料を分散させるポリマーを使用する水系顔料インクが注目されている。
一方、水系顔料インクは、顔料やポリマーの分散安定性不足に由来して生成する粗大粒子により、保存安定性や吐出性が悪化するという問題があった。また、低吸液性のコート紙や非吸液性の樹脂フィルム等に印刷したインクは基材中に浸透し難いため、得られる記録物の耐擦過性、及び耐溶剤性が劣るという問題もあった。
【0003】
そこで、吐出安定性や耐擦過性を改善すべく、種々の提案がなされている。
特許文献1には、水系インクであってもインクの吐出性に優れ、非吸収性の記録媒体への画像の定着性に優れ、かつ印刷物の光沢性に優れるインクジェット記録用水系インクの吐出性と、記録媒体への画像の定着性と、印刷物の光沢性とに優れるインクジェット記録用水系インクの提供を課題として、顔料粒子及びポリエステル樹脂粒子を含有し、顔料粒子が、顔料とポリエステル樹脂(A)とを特定の質量比で含有し、顔料粒子中の顔料と、顔料粒子中のポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂(B)の合計量との質量比が特定の範囲であるインクジェット記録用水系インクが開示されている。
特許文献2には、分散安定性、長期保存後の再分散性に優れた顔料水分散体、及び長期分散安定性に優れ、かつ基材密着性、耐擦過性、耐溶剤性に優れた記録物を得ることができる水系インクの提供を課題として、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子の顔料水分散体であって、該ポリエステル樹脂の構成単位であるアルコール成分として3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含有する顔料水分散体、及び該顔料水分散体と水溶性有機溶剤を含有する水系インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-28114号公報
【特許文献2】特開2022-151760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット記録方式を用いる商業印刷や産業印刷では、顔料水分散体やインクは、一般的に、主タンク、副タンク、インクカートリッジを経由して吐出ノズルに供給されるが、吐出ノズル近傍では、水や溶剤が揮発するためにインクが濃縮される。濃縮インクでは顔料粒子が凝集し易く、再分散し難いことから、吐出性が悪化するという問題がある。
一方で、低吸液性のコート紙や、非吸液性の樹脂フィルム等に印刷したインクは、印刷塗膜の該記録媒体への接着力が不足し、得られる記録物の耐擦過性が劣るという問題がある。
また、近年は印刷物がアルコールのような消毒目的の溶剤に対しても耐久性を発現できる耐溶剤性の向上が求められている。
特許文献1及び2や従来の水系インクは、再分散性と記録物の耐擦過性等との両立が不十分であり、改善が望まれていた。
本発明は、再分散性に優れ、かつ低吸液性のコート紙や、非吸液性の樹脂フィルム等での耐擦過性、及び耐溶剤性に優れた記録物を得ることができる顔料水分散体及び該顔料水分散体を含有する水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて、分子量1000以下の成分に該当する面積を全面積の5%以下としたポリエステル樹脂を用いることで、高い再分散性を有し、印刷乾燥後の塗膜表面の耐擦過性や耐溶剤性に優れ、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1] ポリエステル樹脂及び顔料を含有する顔料水分散体であって、該ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて、分子量1000以下の成分に該当する面積が、全面積の5%以下である、顔料水分散体。
[2] 前記[1]に記載の顔料水分散体と水溶性有機溶剤とを含有する、水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、再分散性に優れ、かつ低吸液性のコート紙や非吸液性の樹脂フィルム等での耐擦過性、及び耐溶剤性に優れた記録物を得ることができる顔料水分散体及び該顔料水分散体を含有する水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[顔料水分散体]
本発明の顔料水分散体(以下、単に「顔料水分散体」ともいう)は、ポリエステル樹脂及び顔料を含有する顔料水分散体であって、該ポリエステル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、単に「GPC」ともいう)により測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて分子量1000以下の成分に該当する面積が全面積の5%以下である。
なお、本明細書において、「顔料水分散体」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が質量比で最大割合を占めていることを意味する。
また、「記録」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「記録物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。
「低吸液性」とは、低吸液性、非吸液性を含む概念であり、記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量が0g/m以上10g/m以下であることを意味する。
【0009】
本発明の顔料水分散体は、再分散性に優れ、かつ低吸液性のコート紙や、非吸液性の樹脂フィルム等の低吸液性記録媒体での耐擦過性、及び耐溶剤性に優れた記録物を得ることができる顔料水分散体及び該顔料水分散体を含有する水系インクを提供することができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
顔料水分散体に含まれるポリエステル樹脂が、GPCにより測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて、分子量1000以下の成分に該当する面積が全面積の5%以下であるポリエステル樹脂であると、顔料への吸着力が劣る低分子量成分が低減されていることから、顔料未吸着ポリエステル樹脂の量が減少し、インクが濃縮された際に発生するいわゆる枯渇凝集作用の影響が減少し、顔料粒子の凝集を抑制して高い再分散性を発現できる。また、ポリエステル樹脂は、水系インクを乾燥して得られる塗膜と低吸液性記録媒体との親和性を高め、耐擦過性を向上させ、更に、ポリエステル樹脂はエタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類に対して膨潤し難いために、アルコール等に対する耐溶剤性が向上する。特に、低分子量成分が低減されているポリエステル樹脂を含むことで、印刷塗膜の脆弱化も抑制され、耐擦過性、及び耐溶剤性が優れる塗膜になる。
【0010】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料とを併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物、真珠光沢顔料等が挙げられる。特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
【0011】
色相は特に限定されず、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色の有機顔料のいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
上記の顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、本発明の顔料水分散体及び水系インクにおいては、本発明の効果発現の観点から、顔料として無機顔料、特にカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0012】
(顔料を含有するポリエステル樹脂粒子)
本発明に用いられる顔料とポリエステル樹脂とは、顔料水分散体の再分散性を向上させ、本発明の顔料水分散体を用いた水系インクから得られる塗膜の低吸液性記録媒体との耐擦過性、及び耐溶剤性を向上させる観点から、顔料とポリエステル樹脂とが、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子の形態であることが好ましい。
ポリエステル樹脂については後述する。
本明細書において「顔料を含有するポリエステル樹脂粒子」(以下、「顔料含有樹脂粒子」ともいう)は、ポリエステル樹脂が顔料を包含する形態、ポリエステル樹脂と顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態、ポリエステル樹脂が顔料の一部に吸着している形態、及びそれらの混合形態の粒子を含むが、顔料を包含するポリエステル樹脂粒子の形態がより好ましい。
【0013】
≪顔料を含有するポリエステル樹脂粒子を構成するポリマーa≫
顔料を含有するポリエステル樹脂粒子を構成するポリマー(以下、「ポリマーa」ともいう)は、少なくとも顔料分散能を有するものであれば特に制限はないが、水不溶性ポリマーであることが好ましい。
ここで、ポリマーaの「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることを意味し、ポリマーaの前記溶解量は、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0014】
<ポリエステル樹脂>
本発明で用いられるポリエステル樹脂は、アルコール成分由来の構成単位とカルボン酸成分由来の構成単位とを含有し、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合することにより得ることができる。
【0015】
(アルコール成分)
ポリエステル樹脂の原料モノマーであるアルコール成分は、顔料の分散安定性を向上させ、本発明の顔料水分散体を用いた水系インクが濃縮された後の再分散性、耐擦過性等を向上させる観点、及びインクの長期保存後の吐出性を高める観点から、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、及び脂環式ジオールからなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましく、脂肪族ジオール、及び芳香族ジオールからなる群から選ばれる1種以上を含有することがより好ましい。
【0016】
脂肪族ジオールとしては、直鎖のジオール、及び側鎖にアルキル基を有する脂肪族ジオールが好ましい。側鎖に有するアルキル基としてはメチル基がより好ましい。脂肪族ジオールの具体例としては、1,2-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,6-ヘプタンジオール、2,7-オクタンジオール、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、1,2-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、1,2-プロパンジオール、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールが更に好ましい。
【0017】
側鎖にメチル基を有する脂肪族ジオールは、その側鎖に存在するメチル基がアンカーのように顔料に吸着することで、ポリエステル樹脂を長期間保存しても顔料からポリエステル樹脂が脱離し難く、安定であり、凝集による粗大粒子の発生を抑制できると考えられる。
1,2-プロパンジオール及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールを併用する場合、アルコール成分中における3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは35モル%以下である。また、1,2-プロパンジオール及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールを併用する場合、アルコール成分中における1,2-プロパンジオールの含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上であり、そして、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは85モル%以下である。
【0018】
芳香族ジオールとしては、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物及び水素化ビスフェノールAからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物がより好ましい。ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンにオキシアルキレン基を付加した構造を有する化合物であり、具体的には下記一般式(I)で表される化合物が好ましく、該化合物の範囲で2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化1】

一般式(I)において、OR、ROは、それぞれ独立に炭素数1以上4以下のオキシアルキレン基を示し、好ましくはオキシエチレン基又はオキシプロピレン基である。
x及びyは、アルキレンオキシドの付加モル数であり、それぞれ独立して0以上の正数である。x及びyの和の平均値は、カルボン酸成分との反応性の観点から、好ましくは2以上であり、そして、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
また、ORとROは、各々同一であっても異なっていてもよいが、本発明の効果発現の観点から、同一であることが好ましい。
このビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキシド付加物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物がより好ましい。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を用いる場合、アルコール成分中におけるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、本発明の効果発現の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上であり、そして、100モル%以下が好ましい。
【0019】
脂環式ジオールとしては、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、及び水素添加ビスフェノールAからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、1,4-シクロヘキサンジオールがより好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂の原料モノマーであるアルコール成分には、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、及び脂環式ジオール以外のその他のアルコール成分を含有してもよい。
その他のアルコール成分としては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、又はそれらのアルキレン(炭素数2以上4以下)オキシド付加物(平均付加モル数1以上16以下)等が挙げられる。
アルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0021】
(カルボン酸成分)
ポリエステル樹脂の原料モノマーであるカルボン酸成分には、カルボン酸、その酸無水物、及びそのアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が含まれる。
ポリエステル樹脂の構成単位であるカルボン酸成分としては、本発明の顔料水分散体を用いた水系インク濃縮後の再分散性、耐擦過性等を向上させる観点、及びインクの長期保存後の吐出性を高める観点から、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、及び3価以上の多価カルボン酸からなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましく、芳香族ジカルボン酸、及び脂肪族ジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上を含有することがより好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、その炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは8以上、より更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは16以下である。
直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基で置換されたコハク酸、又は、これらの無水物若しくは炭素数1以上3以下のアルキルエステルが挙げられる。炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基で置換されたコハク酸としては、例えば、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が挙げられる。これらの中でも、フマル酸が好ましい。
脂環式ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、及びテトラヒドロフタル酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、及びピロメリット酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、無水トリメリット酸も好ましい。
前記カルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0022】
(ポリエステル樹脂の製造)
ポリエステル樹脂は、前記アルコール成分と前記カルボン酸成分とを適宜組み合せて重縮合して得ることができる。例えば、前記アルコール成分と前記カルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてエステル化触媒を用いて、150℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、二酸化ゲルマニウム等の金属化合物等が挙げられ、エステル化反応効率の観点から、スズ触媒が好ましい。スズ触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II)、これらの塩等が好ましく、ジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II)がより好ましい。必要に応じて、更に没食子酸等のエステル化助触媒を用いてもよい。
また、4-t-ブチルカテコール等のラジカル重合禁止剤を併用してもよい。
【0023】
(ポリエステル樹脂の物性)
ポリエステル樹脂は、顔料の分散安定性を向上させ、本発明の顔料水分散体を用いた水系インクの長期保存後の再分散性、長期分散安定性、耐擦過性等を向上させる観点から、酸基を有するものが好ましい。
ポリエステル樹脂の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは80mgKOH/g以下、更に好ましくは60mgKOH/g以下、より更に好ましくは40mgKOH/g以下、より更に好ましくは35mgKOH/g以下である。
ポリエステル樹脂の軟化点は、上記と同様の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上であり、そして、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
【0024】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、上記と同様の観点から、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下である。
ポリエステル樹脂全体の重量平均分子量は、上記と同様の観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは7,000以上、更に好ましくは9,000以上、より更に好ましくは11,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは60,000以下、より更に好ましくは40,000以下である。
ポリエステル樹脂全体の数平均分子量は、上記と同様の観点から、好ましくは2,000以上、より好ましくは2,500以上、更に好ましくは3,000以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは9,000以下、更に好ましくは8,000以下である。
ポリエステル樹脂の酸価、軟化点、ガラス転移温度、重量平均分子量、及び数平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。また、これらの物性は、用いるモノマーの種類、配合比率、重縮合の温度、反応時間、及び低分子量成分を除去するための精製方法を適宜調整、選択することにより、所望のものを調製することができる。
【0025】
本発明の顔料水系分散体は、ポリエステル樹脂及び顔料を含有し、該ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて、分子量1000以下の成分に該当する面積が、全面積の5%以下である。
【0026】
ポリエステル樹脂の低分子量成分は、本発明の顔料水分散体を用いた水系インクが濃縮された濃縮インクの再分散性、及び低吸液性記録媒体との耐擦過性、及び耐溶剤性の観点から、分子量1,000以下の成分が少ないことが好ましい。
【0027】
本発明の顔料水分散体が含有するポリエステル樹脂は、濃縮インクの再分散性、及び低吸液性記録媒体との耐擦過性、及び耐溶剤性の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布のクロマトグラムにおいて、分子量1000以下の成分に該当する面積が、全面積に対して5%以下であり、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、より更に好ましくは1%以下である。
【0028】
≪ポリエステル樹脂の低分子量成分低減方法≫
ポリエステル樹脂の低分子量成分は、公知の製造方法の製造条件を調整することで低減することが可能であるが、一般的に知られている透析法、ゲルろ過法、限外ろ過法、沈殿法などでも低減することが可能である。ポリエステル樹脂の低分子量成分を低減する方法としては、コスト、及び汎用性の観点から、好ましくは製造条件の調整、限外ろ過法、及び沈殿法からなる群から選ばれる1種以上である。
【0029】
(顔料含有樹脂粒子の製造)
顔料含有樹脂粒子は、顔料水分散体として下記の工程1を有する方法により、効率的に製造することができる。また、必要に応じて、更に架橋工程を行うことができる。
工程1:顔料、ポリマーa、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を含む顔料混合物を分散処理して、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子(顔料含有樹脂粒子)の顔料水分散体を得る工程
【0030】
≪工程1≫
ポリマーaは、好ましくはカルボン酸成分由来のカルボキシ基を有するが、得られる顔料水分散体、及び本発明の顔料水分散体を用いた水系インクの分散安定性、耐擦過性等を向上させる観点から、該カルボキシ基のうち少なくとも一部が中和剤で中和されていることがより好ましい。
中和する場合は、pHが7以上10以下になるように中和することが好ましい。
pHは、実施例に記載の方法により測定される。
中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられ、水酸化ナトリウム及びアンモニアからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。また、ポリマーaを予め中和しておいてもよい。
中和剤の使用当量は、上記と同様の観点から、好ましくは20モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、また、好ましくは200モル%以下、より好ましくは150モル%以下、更に好ましくは120モル%以下である。
ここで中和剤の使用当量は、中和前のポリマーaを「ポリマーa’」とする場合、次式によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマーa’の酸価(mgKOH/g)×ポリマーa’の質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
【0031】
工程1における分散処理は、公知の方法で行うことができる。剪断応力による本分散だけで顔料粒子を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な顔料水分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、更に本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
【0032】
本分散に用いる分散機としては、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料水分散体中の顔料粒子の平均粒径を調整することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上300MPa以下であり、パス回数は、好ましくは3以上30以下である。
【0033】
顔料混合物に有機溶媒が含まれている場合は、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料水分散体を得ることができる。
顔料水分散体の固形分濃度は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、及びインクの製造を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。前記固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体中の顔料含有樹脂粒子の平均粒径は、保存安定性を向上させる観点、及び再分散性を向上させる観点から、好ましくは60nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは80nm以上、より更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは170nm以下、より更に好ましくは150nm以下である。前記平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体のpHは、保存安定性、腐食性低減等の観点から、20℃において、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.3以上であり、そして、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9以下である。前記pHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0034】
<顔料水分散体中の各成分の含有量>
本発明の顔料水分散体中の各成分の含有量は、得られる顔料水分散体、及び該顔料水分散体を用いた水系インクの分散安定性、再分散性、耐擦過性等を向上させる観点から、以下のとおりである。
本発明の顔料水分散体中の顔料の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは6質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましく15質量%以下である。
本発明の顔料水分散体中の顔料含有樹脂粒子の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは13質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
本発明の顔料水分散体中のポリエステル樹脂(ポリマーa)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0035】
本発明の顔料水分散体中の顔料含有樹脂粒子の質量に対する顔料の質量比(顔料/顔料含有樹脂粒子)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、及びインクの製造を容易にする観点から、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下である。
前記質量比(顔料/顔料含有樹脂粒子)は、仕込み量比から算出することができる。
【0036】
[水系インク]
本発明の水系インクは、本発明の顔料水分散体と水溶性有機溶剤とを含有する。
ここで、「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が質量比で最大割合を占めていることを意味する。
本発明の水系インクは、前記で得られた顔料含有樹脂粒子を含む顔料水分散体と、水溶性有機溶剤と、必要に応じて、水、界面活性剤等の各種添加剤とを混合することにより、効率的に製造することができる。
上記各成分の混合方法に特に制限はない。
【0037】
<水溶性有機溶剤>
本発明の水系インクに用いられる水溶性有機溶剤は、25℃で液体であっても固体であってもよいが、該水溶性有機溶剤を25℃の水100mLに溶解させたときに、その溶解量は10mL以上である。
水溶性有機溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
水溶性有機溶剤の沸点は、インクの濡れ拡がり性を向上させ、得られる印刷物の耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは130℃以上、より更に好ましくは140℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは245℃以下、更に好ましく240℃以下、より更に好ましく235℃以下である。なお、水溶性有機溶剤として2種以上の水溶性有機溶剤を用いる場合には、水溶性有機溶剤の沸点は、各水溶性有機溶剤の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
水溶性有機溶剤としては、アルキレングリコールエーテル等のグリコールエーテル、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール、アミド化合物等が挙げられる。これらの中では、アルキレングリコールエーテルが好ましい。
【0038】
アルキレングリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
これらの中では、インクの濡れ拡がり性を向上し、得られる印刷物の耐擦過性を向上させる観点から、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0039】
本発明の水系インクにおいては、アルキレングリコールエーテルに加えて、1,2-プロパンジオールを含有することが好ましい。
1,2-プロパンジオールは、主としてインクノズルからの水の蒸発を抑え、かつ記録後は速やかに揮散することによって最低限の乾燥工程によって強固なインク皮膜を形成し、記録面と記録裏面とが付着するのを抑制する機能を有すると考えられる。
【0040】
<界面活性剤>
本発明の水系インクは、インクの表面張力を適正に保ち、記録媒体への濡れ性を向上させ、得られる印刷物の耐擦過性を向上させる観点から、界面活性剤を含有してもよい。
本発明の水系インクが界面活性剤を含有する場合、特に制限はないが、ノニオン性界面活性剤を含有することが好ましく、シリコーン系界面活性剤を含有することがより好ましい。
シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン等が挙げられるが、上記と同様の観点から、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンの具体例としては、PEG-3ジメチコン、PEG-6ジメチコン、PEG-9ジメチコン、PEG-9メチルエーテルジメチコン、PEG-10ジメチコン、PEG-11メチルエーテルジメチコン、PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン、PEG-32メチルエーテルジメチコン、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン等が挙げられる。
ポリエーテル変性シリコーンの市販品例としては、信越化学工業株式会社のシリコーン:KF-6011、KF-6012、KF-6013,KF-6015、KF-6016、KF-6017、KF-6028、KF-6038、KF-6043等が挙げられる。
【0041】
本発明の水系インクにおいては、シリコーン系界面活性剤の他に、アセチレングリコール系界面活性剤を使用することも好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ、「オルフィン」シリーズ、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が挙げられる。
上記の界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明の水系インクに用いられるその他の添加剤としては、定着助剤、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等が挙げられる。
定着助剤としては、水不溶性ポリマー粒子を含有するエマルションが挙げられ、水不溶性ポリマー粒子としては、ポリウレタン及びポリエステル等の縮合系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂及びアクリルシリコーン系樹脂等のビニル系樹脂の粒子が挙げられる。
【0043】
<水系インク中の各成分の含有量>
本発明の水系インク中の各成分の含有量は、本発明の水系インクの分散安定性、耐擦過性等を向上させる観点から、以下のとおりである。
本発明の水系インク中の顔料の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましく6質量%以下である。
本発明の水系インク中の顔料含有樹脂粒子の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
本発明の水系インク中のポリエステル樹脂(ポリマーa)の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
本発明の水系インク中の水溶性有機溶剤の合計含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは42質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
本発明の水系インク中の水の含有量は、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0044】
本発明の水系インク中の顔料含有樹脂粒子の質量に対する顔料の質量比(顔料/顔料含有樹脂粒子)は、水系インクの製造を容易にする観点から、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下である。
【0045】
本発明の水系インク中のシリコーン系界面活性剤の含有量は、インクの表面張力を適正に保ち、記録媒体への濡れ性を向上させ、得られる印刷物の耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0046】
<本発明の水系インクの物性>
本発明の水系インクの32℃の粘度は、長期分散安定性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは2.5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。本発明の水系インクの32℃の粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
本発明の水系インクの平均粒径は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは60nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは170nm以下である。本発明の水系インクの平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0047】
本発明の水系インクの再分散性は、調製直後の水系インクの特定波長における吸光度(ブラックインクは吸収波長550nm、ホワイトインクは吸収波長500nm、カラーインクは極大吸収波長)と、当該水系インクを濃縮した後に再分散させたインクの特定波長における吸光度とを比較することにより評価できる。すなわち、水系インクの濃縮前後の特定波長における吸光度の変化が小さいと、水系インクを濃縮した後に再分散させたインク中においても、顔料含有樹脂粒子が濃縮前と同様に均一に分散していることを意味し、再分散性に優れることがわかる。
言い換えれば、水系インクの濃縮前後の特定波長における吸光度の変化率(%)(100×濃縮後の特定波長における吸光度/濃縮前の特定波長における吸光度)は、大きいほど再分散性に優れており、その値は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは95%以上である。
再分散性の指標となる、水系インクの濃縮前後の特定波長における吸光度の変化率は、実施例に記載の方法により測定され、評価される。
【0048】
本発明の水系インクは、長期保存後の再分散性に優れ、かつ耐擦過性、及び耐溶剤性に優れた記録物を得ることができるため、インクジェット記録用として用いることが好ましい。
本発明の水系インクは、ピエゾ式等の公知のインクジェット記録装置に装填し、低吸液性記録媒体等にインク液滴として吐出させて画像等を記録することができる。
低吸液性記録媒体としては、低吸液性のコート紙、アート紙、及び非吸液性の樹脂フィルムが挙げられる。
コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。
樹脂フィルムとしては、透明合成樹脂フィルムが挙げられ、例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ナイロン等のフィルムが挙げられる。これらのフィルムは、二軸延伸、一軸延伸、無延伸のフィルムであってもよく、また、コロナ放電処理を実施しても良い。これらの中では、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムが好ましく、コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム、コロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルム、白色ポリ塩化ビニルフィルム等がより好ましい。
【実施例0049】
製造例、実施例及び比較例における各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0050】
(1)ポリエステル樹脂の酸価の測定
JIS K0070-1992において、測定溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒〔アセトン:トルエン=1:1(容量比)〕に変更したこと以外は、JIS K0070-1992に記載の中和滴定法に従って樹脂の酸価を測定した。
【0051】
(2)ポリエステル樹脂の軟化点の測定
フローテスター(株式会社島津製作所製、商品名:CFT-500D)を用いて、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を樹脂の軟化点とした。
【0052】
(3)ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)の測定
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製、商品名:Pyres 6 DSC)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料を昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を樹脂のガラス転移温度(Tg)とした。
【0053】
(4)ポリエステル樹脂の重量平均分子量、及び数平均分子量の測定
ポリエステル樹脂の重量平均分子量、及び数平均分子量は、N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置[東ソー株式会社製、GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn Super AW-H)、流速:0.5mL/min]により分子量分布曲線のデータを収集し、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット[PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製]によって換算し、算出した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0054】
(5)分子量1000以下の成分の含有率の測定
前記(4)ポリエステル樹脂の重量平均分子量、及び数平均分子量の測定の際に得られた分子量分布曲線から、分子量測定範囲全体の分子量分布曲線の全面積値I1と分子量1000以下に該当する分子量分布曲線の面積値I2を求め、下記式により分子量1000以下に該当する面積の割合を求めた。
分子量1000以下の成分含有率(%)=(I2/I1)×100
なお、分子量測定範囲の分子量の上限は、分析に用いたカラムの排除限界分子量とし、同下限は校正曲線作成に用いた標準サンプルの数平均分子量の1/10とした。また、分子量分布曲線は、RI(示差屈折率)検出器によって得られるものを用いた。
【0055】
(6)固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ:40mm、高さ:30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへ試料約1.0gを添加して混合した後秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後の試料の質量を固形分として、添加した試料の質量で除して固形分濃度(質量%)とした。
【0056】
(7)顔料水分散体及び水系インクの平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、商品名:ELS-8000)を用いて、動的光散乱法により顔料水分散体及び水系インクの平均粒径を測定し、キュムラント法解析により算出した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定試料には、顔料水分散体及び水系インクをスクリュー管(マルエム株式会社製No.5)に計量し、固形分濃度が2×10-4質量%になるように水を加えてマグネチックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌したものを用いた。
【0057】
(8)pHの測定
pH電極(株式会社堀場製作所製、商品名:6337-10D)を使用した卓上型pH計(株式会社堀場製作所製、商品名:F-71)を用いて、20℃における顔料水分散体のpHを測定した。
【0058】
(ポリエステル樹脂の製造)
製造例1
温度計、ステンレス製撹拌棒、脱水管を有する流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10Lの四つ口フラスコに、表1に示したフマル酸(FA)以外の各原料モノマー(アルコール成分、及びカルボン酸成分)、エステル化触媒(ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II))、及びエステル化助触媒(没食子酸)を入れ、窒素雰囲気下、大気圧下で撹拌(300rpm)しながら、マントルヒーターを用いて235℃まで昇温し、5時間反応を行った後、フラスコ内の圧力を8.3kPaまで下げ、1時間撹拌した。
その後、180℃まで冷却し、大気圧に戻した後、フマル酸(FA)、及び4-t-ブチルカテコールを入れ、210℃まで昇温し、1時間反応させた後、フラスコ内の圧力を8.3kPaまで下げ、軟化点が表1に示す温度に到達するまで反応させてポリエステル樹脂P1を得た。樹脂物性測定結果を表1に示す。
【0059】
製造例2
製造例1において、表1に示す条件に変更した以外は、製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂P2を得た。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示す成分の詳細は以下のとおりである。
(アルコール成分)
1,2-PD:1,2-プロパンジオール
MPD:3-メチル-1,5ペンタンジオール
BPA-PO:ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン
TMP:トリメチロールプロパン
(カルボン酸成分)
TPA:テレフタル酸
FA:フマル酸
【0062】
(低分子量成分の除去工程)
製造例1-1~1-3
ポリエステル樹脂P1 80gをメチルエチルケトン(MEK)120gに溶解させて固形分濃度40質量%のポリエステル樹脂溶液を得た。その後、ポリエステル樹脂溶液を、10倍量のエタノール(2000g)を撹拌しながら、該エタノールに10g/分の速度で滴下した。滴下終了から24時間放置した後、メンブレンフィルター(孔径5μm、メルクミリポア社製)を用いた減圧濾過処理により有機溶媒を除し、メンブレンフィルター上の残留物を80℃の減圧乾燥機にて48時間乾燥して精製ポリエステル樹脂A1を得た。
同様の作業をポリエステル樹脂のMEK樹脂溶液の固形分濃度を20質量%、10質量%に変更して実施し、精製ポリエステル樹脂A2、A3をそれぞれ得た。精製ポリエステル樹脂A1~A3の物性を表2に示す。
【0063】
製造例1-4~1-6
製造例1-1~1-3において、ポリエステル樹脂をP2に変更して同様の作業を実施し、精製ポリエステル樹脂A4、A5、A6をそれぞれ得た。精製ポリエステル樹脂A4~A6の物性を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
(顔料水分散体の調製)
実施例I-1
(1)工程1(顔料分散工程)
内容積2Lの容器内で、メチルエチルケトン(MEK)198.6gに精製ポリエステル樹脂A1 66.7gを溶解させ、その後、5N水酸化ナトリウム水溶液を6.46g(85モル%中和)加えた。更にイオン交換水390.5gを30分かけて滴下し、10~15℃でディスパー翼を用いて1,500r/minで15分間撹拌混合を行った。
続いて、カーボンブラック(キャボット社製、商品名:モナーク717)100gを加え、10~15℃でディスパー翼を用いて、6,500r/minで2時間撹拌混合し、予備分散体を得た。
得られた予備分散体を200メッシュフィルターで濾過し、イオン交換水を36.1g添加して希釈した後に、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー:M-110EH-30XP)を用いて、150MPaの圧力で15パス分散処理し、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子の顔料水分散液を得た。
(2)工程2(濃縮工程)
工程1で得られた顔料水分散液の全量を2Lナスフラスコに入れ、固形分濃度が15質量%になるようにイオン交換水を添加し、回転式蒸留装置(東京理化器械株式会社製、ロータリーエバポレーター:N-1000S)を用いて、回転数50r/minで、32℃に調整した温浴で加温させながら、0.09MPa(abs)の圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPa(abs)に下げて固形分濃度25質量%になるまで濃縮して濃縮物を得た。
得られた濃縮物を500mLアングルローターに投入し、遠心分離機(日立工機株式会社製、高速冷却遠心機:iMac CR22G、設定温度20℃)を用いて3,660r/minで20分間遠心分離した後、液相部分を孔径5μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、Minisart)で濾過し、固形分濃度が22質量%になるよう水で希釈し、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子の水分散体1(顔料:13.2質量%、ポリエステル樹脂:8.8質量%)(以下、「顔料水分散体1」と表記する)を得た。得られた顔料水分散体1の再分散性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0066】
実施例I-2~I-6、及び比較例I-1~I-2
実施例I-1において、工程1におけるポリエステル樹脂の種類及び水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表3に示す条件に変更した以外は、実施例I-1と同様にして、顔料水分散体2~6及びC1~C2を製造し、実施例I-1と同様にして、再分散性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0067】
<再分散性の評価>
後述する顔料を含有するポリエステル樹脂粒子の水分散体を30.3部(水系インク中の顔料の含有量として4部)、1,2-プロパンジオール40部、及び全量が100部になるようにイオン交換水を加えて、再分散試験用水系インクを得た。得られたインクの調製直後の吸光度と濃縮後の吸光度を下記のように測定して吸光度の変化率、すなわち再分散性(単位:%)を求め、インクの再分散性を評価した。
(i)調製直後の吸光度の測定
再分散性試験用水系インクをイオン交換水にて2500倍に希釈したものを、調製直後24時間以内に吸光度の測定サンプル(調製直後のサンプル)とし、分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U-3010)を用いて、ブラックインクは吸収波長550nm、ホワイトインクは吸収波長500nm、カラーインクは各色それぞれの極大吸収波長における吸光度を測定し、下記式にて調製直後の吸光度を算出した。
調製直後の吸光度=(調製直後のサンプルのインクの色に応じた上記特定波長における吸光度×2500)
(ii)濃縮後の吸光度の測定
再分散性試験用水系インクをスクリュー管No.6(株式会社マルエム製)に2g添加し、蓋をせずに40℃、25%RHの環境で12時間放置して、水系インクの液体成分を蒸発させた。スクリュー管の底に残留した固形物に、質量2gとなるようにイオン交換水を添加し、150rpmで1分間撹拌した。その後、イオン交換水にて2500倍に希釈したものを、濃縮後の吸光度の測定サンプル(濃縮後のサンプル)とし、分光光度計を用いて、インクの色に応じた上記特定波長における吸光度を測定し、下記式にて濃縮後の吸光度を算出した。
濃縮後の吸光度=(濃縮後のサンプルのインクの色に応じた上記特定波長における吸光度×2500)
再分散性の評価は、水系インクの濃縮前後の特定波長における吸光度の変化率、すなわち再分散性(単位:%)を下記式に基づいて算出し、判定を行った。
再分散性(%)=100×濃縮後の吸光度/調製直後の吸光度
該数値は100に近いほど再分散性に優れていることを示す。
【0068】
【表3】
【0069】
実施例II-1~II-10、及び比較例II-1~II-2
顔料水分散体、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及びイオン交換水を表4に示す比率で混合し、得られた混合液を孔径5μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、Minisart)で濾過し、水系インク1~10及びC1~C2を得た。得られた水系インク1~10及びC1~C2を用いて、耐擦過性及び耐溶剤性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0070】
<耐擦過性の評価>
ダイレクトTシャツプリンター(株式会社マスターマインド製、商品名:MMP8130、4色仕様)に実施例又は比較例で得られた水系インクを充填した。該プリンターにA4サイズのフィルムヒーター(株式会社河合電器製作所製)を固定し、印刷基材として白色ポリ塩化ビニルフィルム(PVC、スリーエムジャパン株式会社製、商品名:IJ180-10)を用意し、フィルム下部から設定温度50℃で加熱し、印刷モード(白生地ダイレクト、1440×1440dpi)、印刷中に吐き捨て印刷をしない設定とした。Duty100%のベタ画像の印刷を行い、得られた印刷物を直ぐに80℃の定温乾燥機にて5分間加熱乾燥させ、評価用印刷物を得た。
評価用印刷物の印刷面を、セルロース製不織布(旭化成せんい株式会社製、商品名:ベンコット M3-II)に100g/cmの荷重をかけて1m/分の速度で50往復擦った。擦った後の印刷面表面の損傷(傷)を目視で観察し、下記の評価基準で耐擦過性を評価した。
(評価基準)
4:印刷面表面に傷がなく、光沢感の低下も認められない。
3:印刷面表面に傷はないが、光沢感の低下が認められる。
2:印刷面表面に傷があるが、フィルムの表面は露出していない。
1:印刷面表面が剥離し、露出したフィルムの面積は全印刷面積の50%未満である。
評価基準の数値が大きいほど、印刷面表面の傷が少なく、耐擦過性に優れる。
<耐溶剤性の評価>
前記<耐擦過性の評価>において作製した評価用印刷物の印刷面を、70質量%のエタノール水溶液を染み込ませた綿棒(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)で5g/cmの荷重を加えて100往復擦った。擦った後の印刷面表面の状態を目視で観察し、下記の評価基準で耐溶剤性を評価した。
(評価基準)
5:印刷塗膜が基材から剥離していない。
4:剥離面積が10%未満である。
3:剥離面積が10%以上30%未満である。
2:剥離面積が30%以上50%未満である。
1:剥離面積が50%以上である。
評価基準の数値が大きいほど、剥離面積が小さく、耐溶剤性に優れる。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示す成分の詳細は以下のとおりである。
(水溶性有機溶剤)
iBDG:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
BFG:プロピレングリコールモノブチルエーテル
PFG:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
MFDG:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
1,2-PD:1,2-プロパンジオール
(界面活性剤)
KF-6011:アルキレングリコール変性ポリジメチルシロキサン、信越化学工業株式会社製
【0073】
表3及び4から、実施例の顔料水分散体は再分散性が良好であるとともに、該顔料水分散体を用いた水系インクは耐擦過性及び耐溶剤性に優れ、高い塗膜強度を示すことがわかる。