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特開2024-108392積層セラミック電子部品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108392
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
H01G4/30 201M
H01G4/30 201K
H01G4/30 201G
H01G4/30 512
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 311E
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012735
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】富澤 祐寿
(72)【発明者】
【氏名】萩原 康仁
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AD02
5E001AD03
5E001AF06
5E001AH07
5E001AJ03
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE01
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
(57)【要約】
【課題】使用する材料の種類を増加させることなく、かつ、用いる導電性材料に制約がなく、しかも簡便な方法で得ることができる被覆層を用いることで、セラミック素体の上下面の一方又は双方の一部に形成された外部電極の剥離を防止できる積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供する
【解決手段】表面に下地電極層が形成されたセラミック素体に対して、該下地電極層の近傍にレーザーを照射して表面のセラミック層を所定深さだけ溶融させることで、溶融したセラミック層が下地電極層側に移動して凝固し、下地電極層の周縁部を覆うことにより、下地電極層がその端部から剥離するのを防止でき、その上に形成されるメッキ層もはがれにくくなる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内部電極が誘電体層を介して積層され、前記内部電極が積層方向に直交する方向に引き出される積層体と、
少なくとも、前記積層体の積層方向上下面上に位置する、セラミック層からなる保護部と、
を有するセラミック素体、及び
前記内部電極と電気的に接続する、少なくとも一対の外部電極
を備え、
前記外部電極は、
少なくとも積層方向上下のいずれか一方又は両方の保護部表面の一部に形成された下地電極層と、
前記下地電極層近傍の保護部のセラミック層に連続して前記下地電極層の端部又は周縁部を覆う被覆層と、
少なくとも前記下地電極層の上面を覆うメッキ層と、
を有し、
前記外部電極が形成されていない保護部の、少なくとも前記被覆層との境界領域において、その表面の積層方向の位置が、前記下地電極層と前記保護部との境界線の積層方向の位置よりも前記積層体側にある、
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記被覆層層は結晶質を含み、その結晶粒径が、保護部におけるセラミック焼結体の結晶粒径より大きい、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記被覆層は結晶質を含み、被覆層の厚さ方向に配向した柱状の結晶粒子を有する、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記被覆層は、楕円形状の結晶粒子を含み、その短径と長径の比が1.5倍以上である結晶粒子を、面積割合で10%以上含む、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記被覆層は、セラミックの溶融凝固層からなる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記メッキ層は、さらに前記被覆層表面の少なくとも一部を覆う請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
前記下地電極層が、銅、ニッケル、錫、金、銀、パラジウム、白金、タングステン、クロム、チタン、又は鉄のいずれかの単層、又は多層、或いはこれらの合金層からなる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項8】
前記下地電極層が、スパッタリング膜、化学蒸着(CVD)膜、物理蒸着(PVD)膜、原子層堆積(ALD)膜、メッキ膜、印刷膜、或いはインクジェット印刷膜からなる金属膜である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項9】
前記メッキ層が、錫を主成分とする層からなるか、或いは錫を主成分とする層を最上層に有する複数の層からなる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項10】
前記メッキ層が、前記下地電極層側から順に、銅を主成分とする層、ニッケルを主成分とする層、及び錫を主成分とする層を有するか、又はニッケルを主成分とする層、及び錫を主成分とする層を有する、請求項9に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項11】
厚さが100μm以下の積層セラミック電子部品において、
前記セラミック素体の表面に露出する前記保護部表面の中央部に、その保護部表面の積層方向の位置が、前記下地電極層と前記保護部との境界線の積層方向の位置よりも前記外部電極表面に近い領域を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項12】
(1)所定枚数の内部電極パターンが印刷されたセラミックグリーンシートを積層した後、内部電極パターンを有さないセラミックグリーンシートを積層、圧着して、積層シートとする工程
(2)前記積層体シートを切断して積層チップとする工程
(3)前記積層チップを焼成してセラミック素体とする工程
(4)前記セラミック素体の、少なくとも積層方向上下のいずれか一方又は両方の保護部表面の一部に下地電極層を形成する工程
(5)前記保護部の前記下地電極層の近傍にレーザーを照射して保護部の表面を所定深さだけ溶融除去し、溶融したセラミック層で前記下地電極層の端部又は周縁部を覆うことで被覆層を形成する工程
(6)少なくとも前記下地電極層を覆うメッキ層を形成する工程
を含むセラミック電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記(6)の工程が、
(6-1)被覆層の高さ方向の表面と、形成されるメッキ層の表面の高さが画一となるように、単層又は複数層からなる第一のメッキ層を形成する工程
(6-2)少なくとも前記被覆層の一部を覆うとともに前記第一のメッキ層の上に第二のメッキ層を形成する工程
を含む、請求項12に記載の積層セラミック部品の製造方法。
【請求項14】
前記下地電極層を銅の単層で形成し、前記(6-1)の工程を、銅メッキ及びニッケルメッキの順で、或いはニッケルメッキだけで行い、前記(6-2)の工程を、錫メッキで行う、請求項13に記載の積層セラミック部品の製造方法。
【請求項15】
前記下地電極層をニッケルの単層で形成し、前記(6-1)の工程を、銅メッキ及びニッケルメッキの順で行い、前記(6-2)の工程を、錫メッキで行う、請求項13に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項16】
前記下地電極層を、スパッタリング法、化学吸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)、メッキ、印刷、或いはインクジェット法で形成する、請求項12から請求項15のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品及びその製造方法に関し、とくに、セラミック素体の上下面に外部電極を有する積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などのデジタル電子機器の小型化及び薄層化に伴い、電子回路基板等に面実装される積層セラミックコンデンサは、小型化及び大容量化が進んでいる。
とくに、スマートフォンにおいてCPUの周囲に配置されるデカップリングコンデンサには、厚みを抑えた超小型低背のものが使われている。これは、実装面積を減らす目的と、等価直列インダクタンス(ESL)を低減する目的で、積層セラミックコンデンサがICチップのダイ(Die)の直下に配置される傾向が高まっていることによる。
【0003】
積層セラミック電子部品は、複数の内部電極がセラミックを主成分とする誘電体層を介して積層されたセラミック素体及び外部電極を備えている。
一般的に、積層セラミック電子部品のサイズを小さくすれば、セラミック層を介して積層された内部電極の面積が小さくなるため、静電容量は減少する。
そのため、積層セラミック電子部品を小型化しつつ、静電容量を確保するには、セラミック層及び内部電極の層を薄くして積層数を増すことが有効である。こうしたセラミック層及び内部電極の薄層化は、積層セラミック電子部品の低背化にも有効である。
また、セラミック素体の上下面に設けられる外部電極についても、積層セラミック電子部品の低背化を目的とする薄層化が検討されている。
【0004】
図1は、積層セラミック電子部品の一つである積層セラミックコンデンサの代表的な一例を示す斜視図であり、図2は、該積層セラミックコンデンサの、側面に平行な面で切断した模式的断面図である。
図1、2に示すとおり、代表的な積層セラミックコンデンサは、セラミック素体10、及び該セラミック素体10の両端面に設けられた一対の極性の異なる外部電極20a、20bを有している。前記外部電極20a、20bは、通常、下地電極層とその上に形成されたメッキ層とを有しており、外部電極のそれぞれはその一部が前記セラミック素体上下面及び両側面に回り込んでいる。以下、外部電極が回り込んでいる部分Aを、「回り込み部」という。
【0005】
セラミック素体の上下面に回り込み部を有する積層セラミック電子部品の1例として挙げた前記積層セラミックコンデンサ1は、一対の外部電極20を有する2端子型積層セラミックコンデンサであるが、2つよりも多い外部電極を有するものもある。
例えば、特許文献1には、4つの外部電極を有する4端子型積層セラミックコンデンサが記載されており、特許文献2には、3つの外部電極を有する3端子型積層セラミックコンデンサが記載されている。
【0006】
また、セラミック素体の上下面にのみ、複数の外部電極を備えた積層セラミック電子部品もある。
その1例として、例えば特許文献3には、複数の内部電極が誘電体層を介して積層された積層体を備えたセラミック素体、及び該セラミック素体の上下面のそれぞれに4つの外部電極を有する積層セラミックコンデンサが記載されている。該積層セラミックコンデンサでは、前記セラミック素体の内部に4つの貫通孔が形成されており、前記の4つの外部電極は、各々の貫通孔に充填された導電性材料を介して、前記の内部電極と電気的に接続されている。
【0007】
こうしたセラミック素体の上下面に外部電極を有する積層セラミック電子部品においては、セラミック素体の上下面に設けられた外部電極の厚さを薄くすることで、厚さの減少分だけ、積層数を増加したり、絶縁等に必要なマージンを厚くしたりすることが可能となる。とくに、外部電極における下地電極層を、スパッタリング法により形成することで、導電性ペーストを焼結させて形成した従来の金属層よりも、薄くかつ均一なものとすることができるので、積層セラミック電子部品の低背化及び小型化に有効である。
【0008】
しかしながら、低背化のためにセラミック素体上下面における外部電極の厚さを薄くした場合、外部電極とセラミック素体との接着力が低下し、外部電極がセラミック素体から剥離することがある。とくに、スパッタリング法により成膜された下地電極層を有する場合には、下地電極層の端部から捲れ易いという問題がある。
【0009】
外部電極の剥離を防ぐ方策として、積層セラミック電子部品のセラミック素体の表面に被覆層を付加することは、既に良く知られている。
例えば、特許文献4、5に記載された積層セラミック電子部品では、セラミック素体の上下面及び両側面に、エポキシ樹脂等の樹脂層或いはガラスコート層を形成し、該樹脂層或いは該ガラスコート層により、回り込み部における外部電極の先端部を覆っている。
また、特許文献4では、ガラスコート層があることで、外部電極とセラミック素体との接合部からのメッキ液や水分等の侵入が生じ難くなるとしている。
【0010】
また、特許文献6には、外部電極の回り込み部を有する積層セラミックコンデンサにおいて、回り込み部の下地電極層の先端部を覆う、セラミック焼結体(チタン酸バリウムの焼結体)からなる被覆部を設けることで、外部電極の回り込み部の厚さを小さくした場合でも、回り込み部がコンデンサ本体から剥離する懸念を小さくできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2021-114584号公報
【特許文献2】特開2019-212746号公報
【特許文献3】特開2021-93494号公報
【特許文献4】特開平8-162357号公報
【特許文献5】特開2001-44069号公報
【特許文献6】特開2018-18845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4、5に記載の方法では、積層セラミック電子部品本体を製造するのに用いる材料以外に、別途、樹脂、或いはガラスコート層を形成するための酸化物ガラスを用いる必要がある。
これに対し、特許文献6に記載に方法では、被覆層に、積層セラミックコンデンサ本体を構成するセラミック材料(チタン酸バリウム)と同じ材料を用いることで製造できるものである。
しかしながら、特許文献6に記載された方法は、セラミックグリーンシート上に印刷された電極ペーストからなる未焼成下地電極層とその一部を覆うようにして印刷されたセラミックスラリー層とを有する未焼成シートを、未焼成積層チップ上に積層した後、焼成する方法、すなわち、未焼成積層チップの焼成時に、下地電極層とセラミック被覆層とを同時に形成する方法である。したがって、下地電極層を構成する導電性材料には、セラミックスの焼成温度で溶融してしまう、Cu等の金属を用いることができないという制約がある。
【0013】
本発明は、こうした従来技術における上記課題に鑑みてされたものであり、使用する材料の種類を増加させることなく、かつ、用いる導電性材料に制約がなく、しかも簡便な方法で得ることができる被覆層を用いることで、セラミック素体の上下面の一方又は双方の一部に形成された外部電極の剥離を防止できる積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明のもう1つの目的は、信頼性を損なわずに外部電極を薄くすることにより更なる低背化を可能にした積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前述の課題を解決するため検討した結果、セラミック素体の上下面に下地電極層が形成されたセラミック素体に対して、該下地電極層の近傍にレーザーを照射して表面のセラミック層を所定深さだけ溶融させることで、溶融したセラミック層が下地電極層側に移動して凝固し、下地電極層の端部又は周縁部を覆うことができるという知見を得た。そして、下地電極層を薄くした場合であっても、下地電極層の端部又は周縁部が溶融凝固したセラミック層で覆われることで、下地電極層が捲れるのを防止でき、その上に形成されるメッキ層が剥がれにくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一つの側面は、
複数の内部電極が誘電体層を介して積層され、前記内部電極が積層方向に直交する方向に引き出される積層体と、
少なくとも、前記積層体の積層方向上下面上に位置する、セラミック層からなる保護部と、
を有するセラミック素体、及び
前記内部電極と電気的に接続する、少なくとも一対の外部電極
を備え、
前記外部電極は、
少なくとも積層方向上下のいずれか一方又は両方の保護部表面の一部に形成された下地電極層と、
前記下地電極層近傍の保護部のセラミック層に連続して前記下地電極層の端部又は周縁部を覆う被覆層と、
少なくとも前記下地電極層の上面を覆うメッキ層と、
を有し、
前記外部電極が形成されていない保護部の、少なくとも前記被覆層との境界領域において、その表面の積層方向の位置が、前記下地電極層と前記保護部との境界線の積層方向の位置よりも前記積層体側にある、
積層セラミック電子部品である。
【0016】
前記課題を解決するための本発明の他の一つの側面は、
(1)所定枚数の内部電極パターンが印刷されたセラミックグリーンシートを積層した後、内部電極パターンを有さないセラミックグリーンシートを積層、圧着して、積層シートとする工程
(2)前記積層体シートを切断して積層チップとする工程
(3)前記積層チップを焼成してセラミック素体とする工程
(4)前記セラミック素体の、少なくとも積層方向上下のいずれか一方又は両方の保護部表面の一部に下地電極層を形成する工程
(5)前記保護部の前記下地電極層の近傍にレーザーを照射して保護部の表面を所定深さだけ溶融除去し、溶融したセラミック層で前記下地電極層の端部又は周縁部を覆うことで被覆層を形成する工程
(6)少なくとも前記下地電極層を覆うメッキ層を形成する工程
を含むセラミック電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、少なくとも前記保護部の積層方向上下面のいずれか一方又は両方の一部に形成された下地電極層の端部又は周縁部が剥離しにくくなることで、その上のメッキ層も剥がれにくくなり、高い密着強度が保たれる。また、メッキ層が、下地電極層を覆うセラミックの溶融凝固層からなる被覆層の上にも延在しているので、外部電極のセラミック素体への密着性が向上し、信頼性が向上した積層セラミッック電子部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】代表的な積層セラミックコンデンサの斜視図
図2図1の積層セラミックコンデンサの、側面に平行な面で切断した模式的断面図
図3】本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体を模式的に示す、側面に平行な面で切断した断面図
図4】本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、セラミック素体の保護部の上面の一部に形成された、下地電極層、被覆層及びメッキ層を有する外部電極の一例を模式的に示す、側面に平行な面で切断した部分断面図
図5】レーザーの照射により、被覆層が下地電極層の一方の端部を覆うように形成されることを説明する図
図6】本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、セラミック素体の保護部の表面の一部に形成された、下地電極層、被覆層及びメッキ層を有する外部電極の他の一例を模式的に示す、側面に平行な面で切断した部分断面図
図7図4に図示したメッキ層が複数の層から形成されている一例を示す、側面に平行な面で切断した部分断面図
図8】4端子型積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す斜視図
図9図8に図示する積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体の内部における内部電極の積層構造を例示する模式図
図10】3端子型積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す斜視図
図11図10に図示する積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体の内部における内部電極の積層構造を例示する模式図
図12】実施例1において得られた被覆層のEBSD像を模式的に示す図
図13】実施例2における、レーザーの走査方法を模式的に示す図
図14】実施例3における、レーザーによる溶融加工で形成された保護部表面の中央部の盛り上がった領域を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明するが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
すなわち、本発明は、セラミックを主成分とする誘電体層が内部電極である導体層を介して積層されたセラミック素体を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能であり、本実施形態として以下に記載する積層セラミックコンデンサの他、例えば、圧電素子、サーミスタ等が挙げられる。
なお、数値範囲等を「~」を用いて表す場合、その下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。また、方向などを「直交」や「水平」や「平行」を用いて表す場合、その記載意味に限定されるものではなく、その近傍の範囲を含む意味である。
【0020】
[積層セラミックコンデンサ]
本実施形態の一側面である積層セラミックコンデンサ(以下、「本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ」という。)は、従来の積層セラミックコンデンサと同様のセラミック素体と、外部電極とを備えている。
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの寸法は、限定されないが、低背の積層セラミックコンデンサである場合、長さ(L)が1.0mm、幅(W)が0.5mm、厚さ(T)が最大110μmである。
以下、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおける、セラミック素体、及び外部電極について説明する。
【0021】
<セラミック素体>
図3は、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体10を模式的に示す、側面に平行な面で切断した断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体10は、複数の内部電極11が誘電体層12を介して積層され、両端面に、前記内部電極が積層方向と平行に引き出される積層体13、及び該該積層体13の積層方向上下面上に位置する保護部14、及び該上下面及び前記端面の双方に直交する一対の側面上に位置する保護部14(図示せず)を備えている。
なお、該図3では、保護部14の表面の積層方向の位置の詳細については図示せず、次項<外部電極>の項において記述する。
【0022】
[内部電極]
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極11を形成する導電性材料としては、特に制限されるものではなく、例えばニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、及び金(Au)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属材料が用いられる。製造コストを抑制できるという点で、NiやCuなどの卑金属材料を主成分とするのが好ましく、特に、誘電体層12との同時焼成が図れるという点でNiがより好ましい。金属材料としてNiを主成分とするときは、錫(Sn)または金(Au)を添加してもよい。
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサが、低背の積層セラミックコンデンサである場合、内部電極の厚さは、通常0.5~3.0μmである。
【0023】
[誘電体層]
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体層12は、セラミック原料粉末を焼成することで得られる。
誘電体セラミックスには、誘電体層の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
誘電体セラミックスには、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸マグネシウム(MgTiO)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Ti,Zr)O)、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム((Ba,Ca)(Zr,Ti)O)、ジルコン酸バリウム(BaZrO)、酸化チタン(TiO)などが含まれていてもよい。
また、誘電体セラミックスには、誘電体セラミック以外のガラス相などが含まれていても良い。
【0024】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサが、低背の積層セラミックコンデンサである場合、誘電体層12の厚さは、焼成後の厚さで5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。誘電体層12の厚さを小さくすることで、誘電体層12の積層数を増やすことができ、その結果、積層体の寸法を大きくすることなく、積層セラミックコンデンサの容量を増加させることができる。
【0025】
[保護部]
保護部14は、内部電極及び誘電体層を、外部からの湿気やコンタミ等から保護し、それらの経時的な劣化を防ぐために設けられている。
保護部の材料は、特に限定されないが、積層体との接着性や電気的絶縁性の点で、セラミックス材料であることが好ましく、前記の誘電体層を構成するセラミックスの主成分と同じであることがより好ましい。
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサが、低背の積層セラミックコンデンサである場合、保護部の厚さは、焼成後の厚さで通常5~20μmである。
【0026】
<外部電極>
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、一対の極性の異なる外部電極は、前記積層体13の両端面上に形成されており、一部が前記保護部14の上下面及び両側面に回り込んで形成されている。
図4は、前記積層体13の保護部の表面に回り込んで形成された外部電極20を模式的に示す、側面に平行な面で切断した部分断面図である。図中、14は保護部を、21は下地電極層を、22はメッキ層を、30は被覆層を、それぞれ示している。
【0027】
図4に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、外部電極は、下地電極層とその上に形成されたメッキ層とを有しており、少なくとも前記保護部の積層方向上下面のいずれか一方に形成されている回り込み部における下地電極層は、その端部が被覆層に覆われている。
【0028】
図5は、レーザーの照射により、被覆層30が、下地電極層21の端部を覆うように形成されることを説明する図であり、保護部14表面の一部に下地電極層21が形成されたセラミック素体に対して、レーザー照射装置40からレーザーが照射されることを示している。図中、14´は、レーザー照射により溶融した保護部を示している。
該図に示すように、レーザーを保護部14の表面に下地電極層21に向けて走査して保護部14の表面を所定深さだけ溶融除去することで、セラミック素体と下地電極層21の境界部において、溶融して盛りあがった保護部14´のセラミック層が下地電極層21側に移動して凝固し、下地電極層21の端部を覆う。
下地電極層21の端部は、被覆層30で覆われて、該被覆層30の下方にあるため、端部が捲れにくい。
また、下地電極層21の端部は、被覆層30で覆われて、該被覆層30の下方にあるため、封止性が増し、下地電極層とセラミック素体との接合部からのメッキ液や水分等の侵入が生じ難くなる。
【0029】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、メッキ層22は、図4に図示した例では、前記被覆層30の全表面を覆って形成されているが、被覆層30の全表面を覆って形成されている必要はなく、少なくとも前記下地電極の上面を覆っていればよい。
【0030】
図6は、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、セラミック素体の保護部の表面の一部に形成された、下地電極層、被覆層及びメッキ層を有する外部電極の他の一例を模式的に示す、側面に平行な面で切断した部分断面図である。
該図に示す例では、メッキ層22は、被覆層30の高さ方向の上部から下地電極21の上面までを覆うように形成されている。
【0031】
図4又は図6に図示するように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、メッキ層22を、前記被覆層30の少なくとも一部を覆い前記下地電極層上に延在するように形成した場合、廻り込み部における外部電極のセラミック素体への密着性が更に向上する。また、回り込み部における封止性も更に向上し、メッキ層22とセラミック素体10との接合部からのメッキ液や水分等の侵入が生じ難くなる。
【0032】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサは、図5に図示したように、セラミック素体の保護部表面へのレーザーの照射により、セラミック素体の保護部14のセラミック層が溶融除去され、所定深さ(図中、矢印(↑)で示す)だけ掘り下げられるため、セラミック素体の表面に露出する前記保護部上面の積層方向の高さは、下地電極層と保護部との境界線よりも低くなっている領域を有している。
通常、積層セラミックコンデンサにおいては、外部電極の下地電極層の端部は導電体層として飛び出した形状をしているため、電界が集中しやすく、絶縁破壊の起点となりやすいが、本発明によれば、所定深さだけ掘り下げられた領域を有することで、その分、対向する外部電極間の距離を確保することで絶縁破壊を防止することができる。
【0033】
以下、下地電極層、被覆層、及びメッキ層のそれぞれについて、さらに詳しく記載する。
(下地電極層)
下地電極層21は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)タングステン(W)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、又は鉄(Fe)のいずれかの単層、又は多層、或いはこれらの合金層であってもよい。コストの点で、Cu又はNiの卑金属が好ましく用いられる。
下地電極層21は、スパッタリング法、化学吸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)、メッキ、印刷、インクジェット等の方法で成膜された金属層とすることが好ましい。
なかでも、本実施形態においては、厚さが薄く均一な外部電極を形成できるスパッタリング法によって形成されるスパッタ膜であることが好ましい。
本実施形態の積層セラミックコンデンサにおいて、下地電極層21の厚みは、10~1000nmであることが好ましく、50~400nmがより好ましい。
【0034】
(被覆層)
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおける被覆層30は、レーザー照射により保護部14のセラミック焼結体が溶融した後に固化したセラミック層からなっている。
【0035】
後述する実施例1に示すとおり、被覆層30は結晶質を含み、その結晶粒径は、下地電極層21の下方に位置する保護部14、すなわち、レーザー照射を受けていない保護部14のセラミック焼結体の結晶粒径よりも大きくなっている。
また、前記被覆層30の結晶質は、被覆層30の厚さ方向に配向した柱状の結晶粒子を有している。
さらに、被覆層30の結晶質は、楕円形状の結晶粒子を含み、その短径と長径の比が1.5倍以上である粒子が、面積割合で10%以上含まれている。
【0036】
以上のとおり、被覆層30の結晶と、レーザーの照射を受けていない保護部14のセラミック焼結体の結晶とでは、その粒径及びその形状が異なっており、被覆層30は、レーザーの照射により溶融したセラミックが固化した溶融凝固層であることが分かる。
溶融した後に固化したセラミックの結晶質は、その結晶粒径が大きくなることで、粒界の存在頻度及び粒界の面積が小さくなるので、溶融凝固層で形成された被覆層30は、粒界を伝って侵入しやすい水分等の侵入を防止できる効果を有するといえる。
また、被覆層30の、溶融した後に固化したセラミックの結晶質は、被覆層30の厚さ方向に配向した柱状の結晶粒子を有しているため、結晶配向方向に垂直な方向の強度と靱性が向上するという効果を有しているといえる。
【0037】
(メッキ層)
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、メッキ層22は、錫(Sn)を主成分とする層からなる単層であってもよいが、錫(Sn)を主成分とする層を最上層に有する複数の層とすることが好ましい。
具体的には、前記下地電極層21が銅を主成分とする層である場合、メッキ層22は、下地電極21側から順に、銅を主成分とする層、ニッケルを主成分とする層、及び錫を主成分とする層とするか、或いは、ニッケルを主成分とする層、及び錫を主成分とする層とすることが好ましい。
また、前記下地電極層21がニッケルを主成分とする層である場合、メッキ層22は、下地電極21側から順に、銅を主成分とする層、ニッケルを主成分とする層、及び錫を主成分とする層とすることが好ましい。
【0038】
図7は、図4に図示したメッキ層22が、複数の層から形成されている一例を模式的に示す、側面に平行な面で切断した部分断面図である。
図7に示す例では、メッキ層22が、第一のメッキ層221.第二のメッキ層222、及び第三のメッキ層(最上層)223の複数の層から形成されている。
図7に示すように、メッキ層222を、被覆層30の高さ方向の表面と、形成されるメッキ層の表面の高さが画一となるように形成することで、最上層のメッキ層223の厚みを均一にすることができる。
【0039】
以上、セラミック素体の上面の保護部の一部に形成された回り込み部における外部電極20において、その下地電極層の端部が被覆層30で覆われていることについて記述したが、セラミック素体の下面の保護部の一部に形成された回り込み部、或いは、セラミック素体の両側面の保護部の一部に形成された回り込み部における外部電極の下地電極層も、その端部が被覆層30で覆われていてもよいことは言うまでもない。
【0040】
以上に記載したとおり、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサにおいて、セラミック素体の上下面の一方又は両方における下地電極層の端部が被覆層30で覆われていることにより、下地電極層の端部が捲れにくくなり、その上のメッキ層も剥がれにくくなり、高い密着強度が保たれるという作用効果を奏する。また、セラミック素体の上下面の一方又は両方における下地電極層の端部が被覆層30で覆われていることにより、下地電極層とセラミック素体との接合部からのメッキ液や水分等の侵入が生じ難くなるという効果を奏する。
【0041】
本発明のこれらの作用効果は、本実施形態に係る一対(2つ)の外部電極を有する積層セラミックコンデンサのみならず、前述の、セラミック素体の上下面に2つよりも多い外部電極を有する電子部品においても同様の作用効果を奏する。
【0042】
図8は、その1例である、4端子型積層セラミックコンデンサの例を模式的に示す斜視図であり、図9は、図8に図示する積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体10の内部における内部電極の積層構造を例示する模式図である。
図9に示すとおり、本例の4端子型積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体10(右の斜視図参照)は、1方の対角線の両端に内部電極引き出し部111(a)を有する内部電極パターンが形成された略正方形状の誘電体層(a)と、他方の対角線の両端に内部電極引き出し部111(b)を有する内部電極パターンが形成された略正方形状の誘電体(b)とを交互に積層した積層体と、その上下に形成された保護部14となる誘電体層から構成されており、セラミック素体10の4隅に引き出された内部電極引き出し部111(a)及び内部引き出し部111(b)のそれぞれを覆うように、外部電極20(a)及び外部電極20(b)が形成される。
【0043】
また、図10は、他の1例である、3端子型積層セラミックコンデンサの例を模式的に示す斜視図であり、図11は、図10に図示する積層セラミックコンデンサにおけるセラミック素体10の内部における内部電極の積層構造を例示する模式図である。
図11に例示するように、セラミック素体10の内部において、第1内部電極パターンが形成された誘電体層(a)と第2内部電極パターンが形成された誘電体層(b)とが互いに積層され、その上下面に保護部14となる誘電体層が形成されている。
前記第1内部電極パターンは長方形状を有し、該パターンの長辺は、後述する第2内部電極パターンの長辺よりも長くなっている。また、前記第2内部電極パターンは、長方形状を有し、2つの長辺の中央部に内部電極の引き出し部111(b)を有しており、第2内部電極パターンは、略十字形状を有している。
セラミック素体10(右の斜視図参照)の、両端面に引き出された内部電極引き出し部111(a)、及び両側面に引き出された内部電極の引き出し部111(b)のそれぞれを覆うように、外部電極20(a)及び該帯外部電極20(b)が形成される。
【0044】
なお、例示した積層セラミックコンデンサは、4端子型と3端子型の2例だけであるが、端子の数はこれらの例示に限られず、幾つあってもよく、また、複数の端子の形状も略四角形に限られず、どのような形状であってもよい。
また、例示した積層セラミックコンデンサは、いずれも端面ないし側面にも外部電極を有しているが、前記特許文献3等に記載の、セラミック素体の上下面にのみ複数の外部電極を備えた積層セラミックコンデンサ(以下、「貫通孔型積層セラミックコンデンサ」という)も、本発明の実施形態に含まれる。
【0045】
上記に例示したセラミック素体の上下面に2つよりも多い外部電極を有する積層セラミックコンデンサ(以下、「多端子型積層セラミックコンデンサ」という。)、或いは前記の貫通孔型積層セラミックコンデンサにおいて、外部電極20は、前記の本実施形態のセラミックコンデンサと同様に、下地電極層とその上に形成されたメッキ層とからななり、セラミック素体10の上下面のいずれか一方又は両方の保護部14の表面に形成された下地電極層近傍の保護部14のセラミック層に連続して前記下地電極層の周縁部を覆う被覆層と、少なくとも前記下地電極層の上面を覆うメッキ層とを有している(前記図4図6参照)。
外部電極20をこのように構成することで、下地電極層の周縁部が捲れにくくなり、その上のメッキ層も剥がれにくくなり、高い密着強度が保たれるという作用効果を奏する。また、下地電極層とセラミック素体との接合部からのメッキ液や水分等の侵入が生じ難くなるという効果を奏する。
【0046】
多端子型積層セラミックコンデンサ、或いは貫通孔型積層セラミックコデンサにおいて、下地電極層の周縁部を覆う被覆層は、前記の図5で説明したと同様に、レーザーをセラミック素体の表面の中央部から、複数の下地電極層のそれぞれに向けて走査して保護部表面を所定深さだけ溶融除去することで、セラミック素体と下地電極層の境界部において、溶融して盛りあがった保護部が前記下地電極層側に移動して凝固することで形成される。
【0047】
<積層セラミックコンデンサの製造方法>
本実施形態の他の一側面である積層セラミックコンデンサの製造方法は、
(1)所定枚数の内部電極パターンが印刷されたセラミックグリーンシートを積層した後、内部電極パターンを有さないセラミックグリーンシートを積層、圧着して、積層シートとする工程
(2)前記積層体シートを切断して積層チップとする工程
(3)前記積層チップを焼成してセラミック素体とする工程
(4)前記セラミック素体の、少なくとも積層方向上下のいずれか一方又は両方の保護部表面の一部に下地電極層を形成する工程
(5)前記保護部の前記下地電極層の近傍にレーザーを照射して保護部の表面を所定深さだけ溶融除去し、溶融したセラミック層で前記下地電極層の端部又は周縁部を覆うことで被覆層を形成する工程
(6)少なくとも前記下地電極を覆うメッキ層を形成する工程
を含む。
【0048】
以下、前記(4)から(6)の工程について、さらに説明する。
(4)の工程:
下地電極層21は、導電性材料とガラス粉末等を含んだ導電性ペーストを塗布・焼付けして形成することもできるが、スパッタリング法、化学吸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)、メッキ、印刷、インクジェット等の方法を用いることが好ましい。なかでも、本実施形態においては、厚さが薄く均一な外部電極を形成できるスパッタリング法によって成膜することが好ましい。
【0049】
(5)の工程:
前記の図5に図示するように、前記の下地電極21が形成されていない保護部14の中央から、下地電極層21が形成されている領域に向けてレーザーを走査し、下地電極層側で止まるように走査することで、溶解して盛りあがったセラミック層が下地電極層側に移動して凝固し、下地電極層の端部を覆う被覆部30を形成することができる。
【0050】
照射に用いるレーザーは、レーザー照射に伴う熱により、セラミック素体の保護部のセラミック焼結体を溶融することができるものであれば、特に限定されず、連続光であっても、或いはパルス光であってもよく、パルスレーザーとしては、セラミック焼結体を溶融せずに昇華させてしまうものでなければ、短パルスレーザーであってもよい。
【0051】
また、低背品の積層セラミックコンデンサである場合、特に厚さが100μm以下である場合、前記セラミック素体の表面に露出する前記保護部表面の中央部において、レーザー走査による溶融加工を行うことで盛り上がる領域、すなわち、セラミック素体の上面の積層方向の位置が、前記保護部との境界線の積層方向の位置より前記外部電極表面に近い領域を設けることにより、梁構造を形成して、補強効果を得ることができる。
【0052】
(6)の工程:
メッキ工程は、一回の処理工程で行ってもよいが、
(6-1)被覆層30の高さ方向の表面と、形成されるメッキ層の表面の高さが画一となるように、単層又は複数層からなる第一のメッキ層を形成する工程
(6-2)少なくとも前記被覆層の一部を覆うとともに前記第一のメッキ層の上に第二のメッキ層を形成する工程
によりおこなうことが好ましい。
(6-1)の工程を採用するとで、最上層のメッキ層の厚みを均一にすることができる。
【0053】
具体的には、スパッタリング法により銅を主成分とする下地電極層21を形成した場合、前記(6-1)の工程を、銅メッキ及びニッケルメッキの順で行うか、或いは、ニッケルメッキで行った後、(6-2)の工程を錫メッキで行うことが好ましい。
また、スパッタリング法によりニッケルを主成分とする下地電極層21を形成した場合、(6-1)の工程を銅メッキ及びニッケルメッキの順で行い、(6-2)の工程を錫メッキで行うことが好ましい。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
本実施例では、両端面に外電極を有する積層セラミックコデンサを以下のようにして製造した。
誘電体層(主成分BaTiO)の厚みが1.0μm未満、内部電極(主成分Ni)の厚みが1μm未満の、積層数40枚の、セラミック素体(長さ(L)が0.98mm±0.05mm、幅(W)が0.48mm±0.05mm、及び高さ(T)が0.078mm±0.12mm)を準備した。
上記セラミック素体の両端面と、上下面の一部及び両側面の一部(回り込み部)に、銅(Cu)を主成分とするスパッタ膜(厚さ0.4μm)からなる下地電極層を形成した後、以下の条件で、セラミック素体の中央部からそれぞれの下地電極層近傍までレーザーを走査して、保護部のセラミック焼結体を溶融させることで、Cu下地電極層の先端部を覆う被覆層(平均厚さ3~10μm)を形成した。
【0056】
(レーザー加工機)
型式 MD-T1000(キーエンス製)
レーザー種 Nd:YVO4 、波長=532nm
パワー:15%
速度:100mm/sec
周波数:40kHz
印字回数:1回
【0057】
前記被覆層を有するセラミック素体の下地電極層の上に、被覆層の高さ方向の表面と、形成されるメッキ層の表面の高さが画一となるように、Cuメッキ層(厚さ2μm)及びNiメッキ層(厚さ2μm)をこの順に形成した。
次いで、前記セラミック素体に形成された被覆層及び前記のNiメッキ層の双方を覆うように,Snメッキ層(厚さ4μm)を形成して、積層セラミックコンデンサを得た(図7参照)。
【0058】
(比較例)
実施例1におけるレーザー照射を行わない以外は、実施例1と同様にして、下地電極層上に、Cuメッキ層、NIメッキ層及びSnメッキ層を形成して、積層セラミックコンデンサを得た。
【0059】
(密着強度評価)
実施例1及び比較例で形成された積層セラミックコンデンサ100個について、下地電極層及びメッキ層(Cu/Ni/Sn)からなる外部電極に、セロハンテープを貼り付けて、セロハンテープにより外部電極が引き剥がされた個数を評価した。
結果を以下の表1に記載する。
【0060】
【表1】
【0061】
(熱湿試験評価)
前記の実施例1及び比較例で得られた積層セラミックコンデンサを用いて、温度:85%、湿度:85%、電圧:4V定格×2=8V、の条件下での24時間の抵抗率変化を測定し、1000Ω以上変化したものをNGとした。
テスト数100のうちのNG数を、以下の表2に記載する。
【0062】
【表2】
【0063】
(結晶粒子の観察及び元素分析)
実施例1で得られた積層セラミックコンデンサにおいて、レーザー照射により形成された被覆層と、レーザー照射を受けていない保護部14とを比較するため、被覆層と、下地電極層の下方に位置する保護部について、後方散乱電子回折測定装置(SEM-EBSD)を用いた結晶形状の観察及び結晶粒径の測定、並びにSEM-EDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いた元素分析を行った。
結晶粒径については、それぞれの結晶粒子の面積値を円近似しその直径を結晶粒子径とした。
【0064】
図12は、溶融後固化した箇所の結晶形状を示す図であって、左図の模式図における四角で囲んだ箇所のEBSD像を抜き取り、その模式図を右図に示してある。
【0065】
結果、以下のことが判明した。
(1)被覆層は結晶質であり、その結晶粒径は、保護部におけるセラミック焼結体の結晶粒径より大きく、後者の結晶粒形が0.01~0.8μmであるのに対し、前者の結晶粒径が0.05~9μmである。
(2)被覆層における結晶質は、被覆層の厚さ方向に配向した柱状の結晶粒子を有している。
(3)被覆層30における結晶質は、楕円形状の結晶粒子を含み、その短径と長径の比が1.5倍以上である粒子が、面積割合で10%以上含まれている。
(4)被覆層の組成は、レーザー照射を受けていない保護部の組成と異ならない。
【0066】
(実施例2)
本実施例では、図8、9に図示する4端子型積層セラミックコデンサを以下のようにして製造した。
図9に図示するセラミック素体(誘電体層(主成分BaTiO)の厚み:0.7μm未満、内部電極(主成分Ni)の厚み:1μm未満、積層数:40枚、長さ(L):0.58mm±0.05mm、幅(W):0.48mm±0.05mm、高さ(T):0.05mm±0.01mm)を準備した。
該セラミック素体の、内部電極が引き出されている側面部分と該側面部分を跨ぐ上下面の4隅に、銅(Cu)を主成分とするスパッタ膜(厚さ0.4μm)からなる下地電極層を形成した。
次いで、以下の条件で、セラミック素体上下面の中央部からそれぞれの下地電極層近傍までレーザーを走査して、保護部のセラミック焼結体を溶融させることで、Cu下地電極層の端部を覆う被覆層(平均厚さ3~10μm)を形成した。
【0067】
(レーザー加工機)
型式 MD-T1000(キーエンス製)
レーザー種 Nd:YVO4 、波長=532nm
パワー:15%
速度:100mm/sec
周波数:40kHz
印字回数:1回
【0068】
図13は、上記のレーザーの走査方法を模式的に示す図である。
該図中の矢印を付した線で示すように、セラミック素体の中央部から、セラミック素体の外側に向けて、十字状にレーザーを走査し、各下地電極層の周縁側で止まるように走査した。
【0069】
その後、前記被覆層を有するセラミック素体の下地電極層の上に、被覆層の高さ方向の表面と、形成されるメッキ層の表面の高さが画一となるように、Cuメッキ層(厚さ2μm)及びNiメッキ層(厚さ2μm)をこの順に形成した。
次いで、前記セラミック素体に形成された被覆層及び前記のNiメッキ層の双方を覆うように,Snメッキ層(厚さ4μm)を形成した。
【0070】
得られた4端子型の積層セラミックコンデンサを用いて、実施例1と同様に、密着強度評価、熱湿試験評価、及び結晶粒子の観察を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【0071】
(実施例3)
本実施例では、セラミック素体(W方向幅が600μm、L方向幅が500μm、高さ(T)60μm)の中央部に、レーザー走査による溶融加工を行うことで盛りあがった領域を設けて梁構造を形成した以外は、実施例2と同様にして、4端子型積層セラミックコンデンサを得た。
図14は、レーザーによる溶融加工で形成された保護部表面の中央部の盛り上がった領域を模式的に示す断面図である。
形成された梁50の幅は、保護部14と下地電極層21との境界線上における幅で、20~40nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、外部電極の密着性が向上するので、スパッタリング法等により薄い外部電極を形成した場合であっても、外部電極の剥がれ不具合を低減することができる。また、本発明のこうした効果については、セラミック素体の厚さが薄くなればなるほど効果があるので、本発明は、セラミック素体の厚さが150μm以下の低背の積層セラミックコンデンサに利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1:積層セラミックコンデンサ
10:セラミック素体
11:内部電極
111(a)、111(b):内部電極の引き出し部
12:誘電体層
13:積層体
14:保護部
14´:溶融した保護部
20:外部電極
21:下地電極層
22:メッキ層
30:被覆層
40:レーザー照射装置
50:梁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14