(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108398
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】接合部材および接合部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240805BHJP
E04C 5/07 20060101ALI20240805BHJP
E04B 1/18 20060101ALI20240805BHJP
E04C 5/20 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
E04B1/58 F
E04C5/07
E04B1/18 F
E04C5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012743
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 祥
【テーマコード(参考)】
2E125
2E164
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB11
2E125AG03
2E125AG41
2E125BB02
2E125BB22
2E125BB31
2E125BD01
2E125BD03
2E125BD06
2E125BE08
2E125BF05
2E164EA01
(57)【要約】
【課題】容易に接合する。
【解決手段】接合部材100は、第1面FSおよび第2面SSを有する本体120と、第1面FSに入口が形成され第2面SSに出口が形成され本体120を貫通する貫通孔と、を有する係止部材110と、係止部材110の貫通孔内に位置する挿通部と、挿通部の一方に連続する基部と、挿通部の他方に連続し、挿通部に対して屈曲して係止部材の本体に係止される屈曲部と、を有し、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックで構成された線材210と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面および第2面を有する本体と、前記第1面に入口が形成され前記第2面に出口が形成され前記本体を貫通する貫通孔と、を有する係止部材と、
前記係止部材の前記貫通孔内に位置する挿通部と、前記挿通部の一方に連続する基部と、前記挿通部の他方に連続し、前記挿通部に対して屈曲して前記係止部材の前記本体に係止される屈曲部と、を有し、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックで構成された線材と、
を備える、接合部材。
【請求項2】
前記係止部材の前記貫通孔は、前記入口から前記出口に向かって孔径が漸増するテーパ形状を有し、
前記基部は、前記本体の前記第1面側の外方に位置し、
前記線材の前記挿通部は、前記基部に対して屈曲する、請求項1に記載の接合部材。
【請求項3】
前記線材の前記屈曲部は、前記挿通部の中央から放射状に広がって屈曲する、請求項1に記載の接合部材。
【請求項4】
前記線材は、複数の素線を有し、
前記係止部材は、前記複数の素線の数以上の前記貫通孔を有し、
前記複数の素線それぞれが、前記基部、前記挿通部、および、前記屈曲部を有する、請求項1または2に記載の接合部材。
【請求項5】
前記複数の素線を有する前記線材の少なくとも一部は、1または複数の第1の素線と、前記第1の素線の周囲に螺旋状に巻かれた複数の第2の素線とを有するストランド構造体であり、
前記係止部材の前記貫通孔のうち、前記第2の素線に対応する貫通孔は、前記第2の素線の前記螺旋の延長方向に沿って傾斜する、請求項4に記載の接合部材。
【請求項6】
前記係止部材の前記第2面と対向する対向面を有する押当部材を備え、
前記線材の前記屈曲部は、前記係止部材の前記本体における前記第2面と、前記押当部材の前記対向面との間で挟持される、請求項1に記載の接合部材。
【請求項7】
第1面および第2面を有する本体と、前記第1面に入口が形成され前記第2面に出口が形成され前記本体を貫通する貫通孔とを有する係止部材の前記貫通孔に、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックで構成された線材の端部を、前記入口から挿通して前記出口から引き出す工程と、
前記係止部材の前記出口から引き出された前記線材の端部を加熱し、前記線材における前記貫通孔内に位置する挿通部に対して、前記端部を屈曲させる工程と、
を含む、接合部材の製造方法。
【請求項8】
前記係止部材の前記貫通孔は、前記入口から前記出口に向かって孔径が漸増するテーパ形状を有し、
前記端部を屈曲させる工程の前に、
前記挿通部を加熱し、前記本体の前記第1面側の外方に位置する、前記線材の基部に対して、前記挿通部を屈曲させる工程を含む、請求項7に記載の接合部材の製造方法。
【請求項9】
前記端部を屈曲させる工程は、前記線材の端部を加熱し、前記線材の端部を中央から放射状に押し広げる、請求項7に記載の接合部材の製造方法。
【請求項10】
前記係止部材の前記本体における前記第2面に、押当部材における前記第2面と対向する対向面を押し当てて、屈曲された前記端部を、前記第2面と前記対向面との間で挟持させる工程を含む、請求項7に記載の接合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合部材および接合部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架構内に筋交い(ブレース)等の線材を架設して架構を補強し、建築物の耐震性を向上させることが広く行われている。従来、線材の材料として、鉄が用いられていた。しかし、鉄製の線材は、重量が大きく、また、結露によって錆びてしまうという問題があった。
【0003】
そこで、軽量であり、錆が生じない、炭素繊維強化プラスチック製の線材が開発されている。炭素繊維強化プラスチック製の線材を架構に接合する技術として、線材の両端部に金属製の管状継手を装着し、管状継手を、架構に設けられた固定治具に螺合したり、溶接したりする技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
繊維強化プラスチック製の線材を架構に容易に接合することができる新たな技術の開発が希求されている。
【0006】
本開示は、容易に接合することが可能な接合部材および接合部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る接合部材は、第1面および第2面を有する本体と、第1面に入口が形成され第2面に出口が形成され本体を貫通する貫通孔と、を有する係止部材と、係止部材の貫通孔内に位置する挿通部と、挿通部の一方に連続する基部と、挿通部の他方に連続し、挿通部に対して屈曲して係止部材の本体に係止される屈曲部と、を有し、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックで構成された線材と、を備える。
【0008】
また、係止部材の貫通孔は、入口から出口に向かって孔径が漸増するテーパ形状を有し、基部は、本体の第1面側の外方に位置し、線材の挿通部は、基部に対して屈曲してもよい。
【0009】
また、線材の屈曲部は、挿通部の中央から放射状に広がって屈曲してもよい。
【0010】
また、線材は、複数の素線を有し、係止部材は、複数の素線の数以上の貫通孔を有し、複数の素線それぞれが、基部、挿通部、および、屈曲部を有してもよい。
【0011】
また、複数の素線を有する線材の少なくとも一部は、1または複数の第1の素線と、第1の素線の周囲に螺旋状に巻かれた複数の第2の素線とを有するストランド構造体であり、係止部材の貫通孔のうち、第2の素線に対応する貫通孔は、第2の素線の螺旋の延長方向に沿って傾斜してもよい。
【0012】
また、係止部材の第2面と対向する対向面を有する押当部材を備え、線材の屈曲部は、係止部材の本体における第2面と、押当部材の対向面との間で挟持されてもよい。
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る接合部材の製造方法は、第1面および第2面を有する本体と、第1面に入口が形成され第2面に出口が形成され本体を貫通する貫通孔とを有する係止部材の貫通孔に、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックで構成された線材の端部を、入口から挿通して出口から引き出す工程と、係止部材の出口から引き出された線材の端部を加熱し、線材における貫通孔内に位置する挿通部に対して、端部を屈曲させる工程と、を含む。
【0014】
また、係止部材の貫通孔は、入口から出口に向かって孔径が漸増するテーパ形状を有し、端部を屈曲させる工程の前に、挿通部を加熱し、本体の第1面側の外方に位置する、線材の基部に対して、挿通部を屈曲させる工程を含んでもよい。
【0015】
また、端部を屈曲させる工程は、線材の端部を加熱し、線材の端部を中央から放射状に押し広げてもよい。
【0016】
また、係止部材の本体における第2面に、押当部材における第2面と対向する対向面を押し当てて、屈曲された端部を、第2面と対向面との間で挟持させる工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、容易に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る接合部材を説明する図である。
【
図2】
図2は、係止部材を第1面側から見た図である。
【
図3】
図3は、係止部材を第2面側から見た図である。
【
図5】
図5は、挿通部および屈曲部の部分拡大図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る接合部材の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、解かれる前の線材を説明する図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る引き出し工程を説明する図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る第1屈曲工程を説明する図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る第2屈曲工程を説明する図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る挟持工程を説明する図である。
【
図13】
図13は、変形例に係る係止部材を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
[接合部材100]
図1は、本実施形態に係る接合部材100を説明する図である。
図1において、接合部材100の一部を断面図で示す。
【0021】
図1に示すように、接合部材100は、係止部材110と、線材210と、押当部材310とを含む。接合部材100は、例えば、線材210(ワイヤー)を架構に接合するために用いられる。
【0022】
図2は、係止部材110を第1面FS側から見た図である。
図3は、係止部材110を第2面SS側から見た図である。
図4は、
図2のIV-IV線断面の拡大図である。
【0023】
図2~
図4に示すように、係止部材110は、本体120と、貫通孔130とを有する。本実施形態において、本体120は、例えば、四角形の平板である。本体120は、例えば、長さ30mm、幅30mm、厚さ3mm以上10mm以下である。本体120は、第1面FSおよび第2面SSを有する。なお、本実施形態において、本体120は、平板であるため、第1面FSは、略平面形状である。また、本実施形態において、第2面SSは、本体120における第1面FSの反対側の面であり、略平面形状である。
【0024】
本体120は、繊維強化プラスチック(FRP)、樹脂、または、金属等で構成される。繊維強化プラスチックの繊維は、例えば、炭素繊維、または、ガラス繊維である。つまり、繊維強化プラスチックは、例えば、炭素繊維強化プラスチック、および、ガラス繊維強化プラスチックのうちのいずれか一方または両方である。以下、「炭素繊維強化プラスチック」を「CFRP」という。また、「ガラス繊維強化プラスチック」を「GFRP」という。また、繊維強化プラスチックは、例えば、熱可塑性樹脂を母材とした繊維強化プラスチックである。本実施形態において、本体120は、例えば、熱可塑性樹脂のCFRPで構成される。また、本実施形態に係る本体120は、熱可塑性樹脂のCFRPのプリプレグリサイクル材のチップを、超音波溶着機(超音波ウェルダー)またはプレス機で圧密しつつ加熱することで、平板に成形したものである。熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、および、熱可塑性ウレタン樹脂のうちのいずれか一方または両方である。
【0025】
貫通孔130は、本体120を貫通する。貫通孔130の入口132は、第1面FSに形成される。貫通孔130の出口134は、第2面SSに形成される。貫通孔130は、第1面FSから第2面SSに亘って本体120を貫通する。
図2、
図3に示すように、本実施形態において、係止部材110は、後述する線材210の素線212a、212bの数と同数(ここでは、7つ)の貫通孔130を有する。本実施形態において、係止部材110の7つの貫通孔130の位置関係は、後述するストランド構造体210aの断面(線材210の軸と直交する断面)における素線212a、および、6つの素線212bの位置関係と実質的に等しい。例えば、係止部材110は、本体120の中央に形成された貫通孔130aと、貫通孔130aの周囲に形成された6つの貫通孔130bとを有する。6つの貫通孔130bは、貫通孔130aを中心とした円周上に略等間隔に設けられる。6つの貫通孔130bの中心を結ぶ線によって、略正六角形が形成される。
【0026】
また、
図4に示すように、貫通孔130a、130bは、入口132から出口134に向かって孔径が漸増するテーパ形状を有する。出口134の径は、入口132の径より大きい。
【0027】
貫通孔130a、130bの第1面FSに対する傾斜角αは、例えば、135度である。また、貫通孔130a、130bの第2面SSに対する傾斜角βは、例えば、45度である。
【0028】
貫通孔130aの最小孔径(入口132の径)は、素線212aが挿通可能な孔径である。貫通孔130aの最小孔径は、例えば、素線212aの太さよりも0.1mm以上0.2mm以下程度大きい。同様に、貫通孔130bの最小孔径(入口132の径)は、素線212bが挿通可能な孔径である。貫通孔130bの最小孔径は、例えば、素線212bの太さよりも0.1mm以上0.2mm以下程度大きい。
【0029】
図1に戻って説明すると、線材210は、複数の素線212a、212bを有する。本実施形態の接合部材100において、線材210の一部は、素線212a、212bで構成されるストランド構造体210aである。ストランド構造体210aについては、後に説明する。本実施形態において、線材210は、1の素線212aと、複数(ここでは、6つ)の素線212bとで構成される。
【0030】
本実施形態において、素線212a、212bは、それぞれ挿通部220、基部230、屈曲部240を有する。
【0031】
挿通部220は、素線212a、212bを貫通孔130a、130bに挿通した状態において、貫通孔130a、130b内に位置する部分である。
【0032】
基部230は、素線212a、212bのうち、挿通部220の一方に連続する部分である。本実施形態において、基部230は、係止部材110の本体120の第1面FS側の外方に位置する。基部230は、係止部材110の本体120の第1面FSに形成される入口132から本体120の外方に延在する。
【0033】
屈曲部240は、素線212a、212bのうち、挿通部220の他方に連続する部分である。本実施形態において、屈曲部240は、係止部材110の本体120の第2面SS側の外方に位置する。本実施形態において、屈曲部240は、係止部材110の本体120の第2面SSに当接する。
【0034】
図5は、挿通部220および屈曲部240の部分拡大図である。なお、
図5では、素線212aの挿通部220および屈曲部240を図示しているが、素線212bの挿通部220および屈曲部240も同様の形状であるため、図示および説明を省略する。
【0035】
図5に示すように、挿通部220の外周222は、貫通孔130aに沿った形状である。つまり、挿通部220の外周222の形状は、係止部材110の本体120における第1面FS側から第2面SS側(基部230側から屈曲部240側)に向かって径が漸増するテーパ形状である。このため、挿通部220は、基部230に対して屈曲する。基部230に対する挿通部220の屈曲角γは、(180度-(貫通孔130aの第1面FSに対する傾斜角α))と実質的に等しい。屈曲角γは、例えば、45度である。
【0036】
屈曲部240は、係止部材110の本体120の第2面SS側の外方に位置し、挿通部220に対して屈曲する。本実施形態において、屈曲部240は、挿通部220の中央(基部230の中央)から放射状に広がって屈曲する。つまり、屈曲部240は、挿通部220の中央から外方に屈曲する。また、屈曲部240の外周242の少なくとも一部は、係止部材110の本体120の第2面SSに当接する。
【0037】
挿通部220に対する屈曲部240の屈曲角δは、貫通孔130aの第2面SSに対する傾斜角βと実質的に等しい。屈曲角δは、例えば、45度である。
【0038】
したがって、基部230に対する屈曲部240の屈曲角は、屈曲角γ+δとなり、例えば90度となる。
【0039】
このように、屈曲部240は、挿通部220に対して屈曲して係止部材110の本体120(第2面SS)に係止される。
【0040】
また、線材210(素線212a、212b)は、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックで構成される。換言すれば、線材210は、熱可塑性樹脂を母材(マトリクス)とした繊維強化プラスチックで構成される。線材210は、例えば、熱可塑性樹脂のCFRP、および、熱可塑性樹脂のGFRPのうちのいずれか一方または両方で構成される。熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、および、熱可塑性ウレタン樹脂のうちのいずれか一方または両方である。
【0041】
図1に戻って説明すると、押当部材310は、本体120の第2面SSと対向する対向面312を有する。押当部材310は、本体120と実質的に等しく、例えば、四角形の平板である。本実施形態において、押当部材310の寸法も、本体120と実質的に等しい。なお、押当部材310の形状は、本体120の形状と異なってもよいし、押当部材310の寸法も、本体120の寸法と異なってもよい。なお、押当部材310の対向面312は、本体120の第2面SSに対応する形状(本体120の第2面SSに沿った形状)である。本実施形態において、第2面SSは、略平面形状であるため、押当部材310の対向面312も略平面形状である。
【0042】
押当部材310は、対向面312と、係止部材110の本体120の第2面SSとによって、線材210の屈曲部240が挟持されるように設けられる。
【0043】
押当部材310は、繊維強化プラスチック、樹脂、または、金属等で構成される。繊維強化プラスチックは、例えば、CFRP、および、GFRPのうちのいずれか一方または両方である。また、繊維強化プラスチックは、例えば、熱可塑性樹脂を母材とした繊維強化プラスチックである。本実施形態において、押当部材310は、例えば、熱可塑性樹脂のCFRPで構成される。また、本実施形態に係る押当部材310は、例えば、本体120と同様に、熱可塑性樹脂のCFRPのプリプレグリサイクル材のチップを、超音波ウェルダーまたはプレス機で圧密しつつ加熱することで、平板に成形したものである。熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、および、熱可塑性ウレタン樹脂のうちのいずれか一方または両方である。なお、押当部材310の材質は、本体120の材質と異なってもよい。
【0044】
[接合部材100の製造方法]
続いて、上記接合部材100の製造方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る接合部材100の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すように、本実施形態に係る接合部材100の製造方法は、引き出し工程S110、第1屈曲工程S120、第2屈曲工程S130、挟持工程S140を含む。以下、各工程について説明する。
【0045】
[引き出し工程S110]
引き出し工程S110では、まず、解かれる前の線材210の端部を解く。
図7は、解かれる前の線材210を説明する図である。
図7に示すように、本実施形態において、解かれる前の線材210は、ストランド構造体210aである。ストランド構造体210aは、素線212a(第1の素線)と、素線212aの周囲に螺旋状に巻かれた複数(ここでは6つ)の素線212b(第2の素線)とを有する。換言すれば、ストランド構造体210aは、素線212aと、素線212aの周囲に撚られた複数の素線212bとを有する。ストランド構造体210aにおいて、素線212aは、線材210の断面の中心に配される。本実施形態に係る引き出し工程S110では、まず、ストランド構造体210aである線材210の端部を解き、素線212aおよび複数の素線212bを互いに離隔させる。
【0046】
図8は、本実施形態に係る引き出し工程S110を説明する図である。
図8に示すように、係止部材110の本体120の第1面FSに形成された入口132から貫通孔130a内に、素線212aの端部を挿入して、素線212aの端部を、本体120の第2面SSに形成された出口134から引き出す。同様に、係止部材110の本体120の第1面FSに形成された入口132から貫通孔130b内に、素線212bの端部を挿入して、素線212bの端部を、本体120の第2面SSに形成された出口134から引き出す。
【0047】
[第1屈曲工程S120]
図9は、本実施形態に係る第1屈曲工程S120を説明する図である。
図9に示すように、第1屈曲工程S120では、円錐形状の先端を有する超音波ウェルダー10を用いる。超音波ウェルダー10の先端を本体120の第2面SS側の外方から素線212bの端部の中央に押し当て、超音波ウェルダー10によって、素線212bの挿通部220を加熱する。そうすると、素線212bを構成する熱可塑性樹脂が溶融し、素線212bの挿通部220の外周222が貫通孔130bに沿った形状となる。同様に、超音波ウェルダー10の先端を本体120の第2面SS側の外方から素線212aの端部の中央に押し当て、超音波ウェルダー10によって、素線212aの挿通部220を加熱する。そうすると、素線212aを構成する熱可塑性樹脂が溶融し、素線212aの挿通部220の外周222が貫通孔130aに沿った形状となる。つまり、第1屈曲工程S120では、挿通部220を加熱し、基部230に対して、挿通部220を屈曲させる。
【0048】
[第2屈曲工程S130]
図10は、本実施形態に係る第2屈曲工程S130を説明する図である。
図10に示すように、第2屈曲工程S130では、円形状の平面を先端に有する超音波ウェルダー20を用いる。超音波ウェルダー20の先端を本体120の第2面SS側の外方から素線212bの端部に押し当て、素線212bの端部を中央から放射状に押し広げて、超音波ウェルダー20によって、素線212bの端部を加熱する。そうすると、素線212bを構成する熱可塑性樹脂が溶融し、素線212bの端部が、超音波ウェルダー20の先端と、係止部材110の本体120の第2面SSとの間に放射状に広がる。同様に、超音波ウェルダー20の先端を本体120の第2面SS側の外方から素線212aの端部に押し当て、素線212aの端部を中央から放射状に押し広げて、超音波ウェルダー20によって、素線212aの端部を加熱する。これにより、素線212aおよび素線212bにおいて、挿通部220に連続する屈曲部240が形成される。
【0049】
図11は、屈曲部240を撮像した画像である。
図11に示すように、素線212aの屈曲部240は、素線212aの端部の中央から放射状に広がって本体120の第2面SS側の外方に配される。また、素線212bの屈曲部240は、素線212bの端部の中央から放射状に広がって本体120の第2面SS側の外方に配される。
【0050】
[挟持工程S140]
図12は、本実施形態に係る挟持工程S140を説明する図である。
図12に示すように、挟持工程S140では、係止部材110の本体120における第2面SSに、押当部材310の対向面312を押し当てて、屈曲部240(屈曲された端部)を、第2面SSと対向面312との間で挟持させる。例えば、挟持工程S140では、超音波ウェルダーによって、押当部材310の対向面312と、屈曲部240とを溶着してもよい。また、挟持工程S140では、超音波ウェルダーによって、押当部材310の対向面312と、係止部材110の本体120の第2面SSとを溶着してもよい。また、挟持工程S140では、押当部材310の対向面312と、係止部材110の本体120の第2面SSとの間に接着剤を充填してもよい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る接合部材100および接合部材100の製造方法は、補強用のワイヤーとして用いられる線材210の端部自体を屈曲させて、係止部材110に係止させる。そして、線材210が係止されて、当該線材210と一体化された係止部材110が、架構に接合される。つまり、本実施形態に係る接合部材100は、係止部材110を架構に接合するだけで、容易に線材210を架構に接合することが可能となる。
【0052】
また、係止部材110が架構に接合される場合、従来の金属製の管状継手に代えて、係止部材110が、架構の内側、つまり、視認される箇所に配されることになる。係止部材110は、線材210を挿通可能な貫通孔130を有していればよい。このため、係止部材110の本体120の形状を自在に変更することができる。
【0053】
従来の金属製の管状継手を線材210の両端部に装着する技術は、建築物の材質によって、建築物の美観を損ねるおそれがあった。例えば、木造建築を補強する場合、線材210の両端部に装着された金属製の管状継手によって、木造建築特有の美観(例えば、侘び寂び)が損なわれてしまうという問題があった。
【0054】
これに対し、本実施形態に係る接合部材100は、係止部材110の本体120を建築物に調和する形状とすることができ、建築物の美観の低下を抑制することが可能となる。また、係止部材110の本体120の材質を、建築物に調和する材質とすることで、建築物の美観の低下をより抑制することが可能となる。また、係止部材110の本体120の色を、建築物に調和する色とすることで、建築物の美観の低下をさらに抑制することが可能となる。
【0055】
また、上記のように、係止部材110の貫通孔130は、入口132から出口134に向かって孔径が漸増するテーパ形状を有し、線材210の挿通部220は、基部230に対して屈曲する。これにより、線材210において、屈曲部240の手前(基部230側)で、挿通部220を基部230に対して屈曲させることができる。つまり、線材210を少なくとも2段階で屈曲させることができる。したがって、線材210を1段階で屈曲させる場合、つまり、挿通部220を屈曲させない場合と比較して、緩やかに屈曲した屈曲部240とすることが可能となる。これにより、屈曲部240を形成する際に、線材210が切れてしまう事態を回避することができる。
【0056】
また、上記のように、屈曲部240は、挿通部220の中央から放射状に広がって屈曲する。これにより、接合部材100が架構に接合された際、屈曲部240は、線材210に掛かる力を、係止部材110の本体120に略均等に分散させることができる。したがって、接合部材100は、線材210を強固に本体120に係止することが可能となる。
【0057】
また、上記のように、係止部材110は、線材210を構成する素線212a、212bの数と同数の貫通孔130a、130bを有し、素線212a、212bそれぞれが、挿通部220、基部230、および、屈曲部240を有している。これにより、接合部材100は、素線212a、212bそれぞれを個別に係止部材110の本体120に係止することができる。したがって、接合部材100は、線材210を強固に本体120に係止することが可能となる。また、素線212a、212bのうちの1つの屈曲部240が、仮に貫通孔130から抜けてしまったとしても、他の屈曲部240によって、線材210を本体120に係止することができる。
【0058】
また、上記のように、接合部材100は、押当部材310を備える。押当部材310は、係止部材110の本体120とともに線材210の屈曲部240を挟持する。したがって、押当部材310は、線材210をさらに強固に本体120に係止することが可能となる。
【0059】
また、上記のように、接合部材100の線材210は、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックで構成される。このため、接合部材100の製造方法は、線材210の端部を加熱するだけで、屈曲部240を容易に形成することができる。同様に、接合部材100の製造方法は、線材210の挿通部220を加熱するだけで、挿通部220を容易に屈曲させることができる。
【0060】
また、上記のように、接合部材100の係止部材110の本体120は、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックまたは熱可塑性樹脂単体で構成されてもよい。この場合、接合部材100の製造方法において、加熱するだけで、線材210の屈曲部240と、係止部材110の本体120の第2面SSとを溶着することができる。同様に、接合部材100の製造方法において、加熱するだけで、線材210の挿通部220と、係止部材110の本体120の貫通孔130とを溶着することができる。
【0061】
また、上記のように、接合部材100の押当部材310は、熱可塑性樹脂の繊維強化プラスチックまたは熱可塑性樹脂単体で構成されてもよい。この場合、接合部材100の製造方法において、加熱するだけで、線材210の屈曲部240と、押当部材310の対向面312とを溶着することができる。同様に、接合部材100の製造方法において、加熱するだけで、押当部材310の対向面312と、係止部材110の本体120の第2面SSとを溶着することができる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば、上述した実施形態において、貫通孔130a、130bがテーパ形状である場合を例に挙げた。しかし、貫通孔130a、130bは、入口132から出口134に向かって孔径が一定であってもよい。この場合、接合部材100の製造方法において、第1屈曲工程S120は省略される。
【0064】
また、貫通孔130は、入口132から出口134に向かって孔径が漸増するテーパ形状を、貫通孔130の軸方向に複数段有してもよい。この場合、各テーパ形状の傾斜角は異なる。これにより、挿通部220を2回以上屈曲させることができ、線材210を3段階以上で屈曲させることが可能となる。したがって、さらに緩やかに屈曲した屈曲部240とすることが可能となる。
【0065】
また、ストランド構造体210aの素線212bに対応する貫通孔130bは、素線212aの周囲に螺旋状に巻かれた素線212bの螺旋の延長方向に沿って傾斜してもよい。
図13は、変形例に係る係止部材110を説明する図である。
図13に示すように、変形例において、貫通孔130bは、入口132から出口134に向かって素線212bの螺旋の延長方向に沿って傾斜する。これにより、ストランド構造体210aの素線212bを容易に貫通孔130bに挿通させることが可能となる。
【0066】
また、上記実施形態において、素線212a、212bの屈曲部240が、挿通部220の中央から放射状に広がって屈曲する場合を例に挙げた。しかし、素線212a、212bの屈曲部240は、挿通部220に対して屈曲していればよい。例えば、素線212a、212bの屈曲部240はそれぞれ、挿通部220に対して一方向に屈曲していてもよい。この場合、複数の素線212bそれぞれが、貫通孔130aを中心とした円の径方向外方に屈曲してもよい。また、線材210の端部が二股に分割されて2つの屈曲部240が形成され、2つの屈曲部240はそれぞれ、挿通部220に対して異なる方向に屈曲していてもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、係止部材110が、素線212a、212bの数と同数の貫通孔130を有する場合を例に挙げた。しかし、係止部材110は、素線212a、212bの数以上の貫通孔130を有してもよい。この場合、線材210を構成する素線の数に応じて、複数の貫通孔130に適宜挿通される。
【0068】
また、係止部材110は、素線212a、212bの数未満の貫通孔130を有していてもよい。この場合、複数の素線が1の貫通孔130に挿通される。また、係止部材110は、1の貫通孔130のみを有してもよい。この場合、すべての素線212a、212bが1の貫通孔130に挿通される。
【0069】
また、上記実施形態において、中心に配される素線212aが1本のみのストランド構造体210aを例に挙げた。しかし、ストランド構造体210aを構成する素線212aの数は、限定されない。同様に、ストランド構造体210aを構成する素線212bの数は、限定されない。
【0070】
また、上記実施形態において、解かれる前の線材210がストランド構造体210aである場合を例に挙げた。しかし、線材210の構造に限定はない。また、線材210は、複数の素線で構成されてもよいし、1の素線で構成されてもよい。
【0071】
また、上記実施形態において、接合部材100が押当部材310を備える場合を例に挙げた。しかし、接合部材100は、押当部材310を備えなくてもよい。
【0072】
また、上記実施形態において、係止部材110の本体120が四角形の平板である場合を例に挙げた。しかし、本体120の形状は、限定されない。本体120の形状は、例えば、四角形以外の多角形または円形の平板であってもよいし、立方体、多角柱、球、半球であってもよい。なお、本体120の形状が球の場合、入口132の接平面が第1面FSとなり、出口134の接平面が第2面SSとなる。同様に、本体120の形状が半球の場合、入口132の接平面が第1面FSとなる。建築物の一部に類似した形状、または、建築物の一部に調和する形状であってもよい。
【0073】
また、上記実施形態の接合部材100の製造方法において、超音波ウェルダー10、20を用いて、線材210の挿通部220および端部を加熱して屈曲させる場合を例に挙げた。しかし、はんだごてを用いて、線材210の挿通部220および端部を加熱して屈曲させてもよい。
【0074】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」、および、目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0075】
FS 第1面
SS 第2面
100 接合部材
110 係止部材
120 本体
130 貫通孔
130a 貫通孔
130b 貫通孔
132 入口
134 出口
210 線材
210a ストランド構造体
212a 素線(第1の素線)
212b 素線(第2の素線)
220 挿通部
230 基部
240 屈曲部
310 押当部材
312 対向面