(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108406
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】エアバッグ用織物およびエアバッグ用織物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 1/02 20060101AFI20240805BHJP
D03D 5/00 20060101ALI20240805BHJP
D03D 47/30 20060101ALN20240805BHJP
D03D 47/32 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
D03D1/02
D03D5/00 Z
D03D47/30
D03D47/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012752
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 陸
(72)【発明者】
【氏名】服部 和輝
(72)【発明者】
【氏名】本村 洋樹
【テーマコード(参考)】
4L048
4L050
【Fターム(参考)】
4L048AA24
4L048AA34
4L048AA48
4L048AA49
4L048AA50
4L048AB07
4L048AB11
4L048AC09
4L048AC10
4L048AC11
4L048BA01
4L048BD00
4L048BD04
4L048BD07
4L048CA01
4L048CA02
4L048CA11
4L048CA15
4L048DA25
4L048EA00
4L048EA01
4L048EA03
4L048EB05
4L050AA12
4L050AA15
4L050AA16
4L050AB06
4L050CA16
(57)【要約】
【課題】ノンコートエアバッグに求められる優れた乗員拘束性能を得るために、エアバッグ展開後の通気を抑えて内圧を適正に維持することができるノンコートエアバッグ用織物を提供する。
【解決手段】沸水収縮率5~9%を有する合成繊維からなるエアバッグ用織物であって、該織物にASTM D 6476に準じた動的通気度測定で、100cm
3のテストヘッドでSTART PRESSUREが100kPaの圧力を付与した際、100ミリ秒後の保持圧力が16~20kPaであることを特徴とする、ノンコートエアバッグ用織物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸水収縮率5~9%を有する合成繊維からなるエアバッグ用織物であって、該織物にASTM D 6476に準じた動的通気度測定で、100cm3のテストヘッドでSTART PRESSUREが100kPaの圧力を付与した際、100ミリ秒後の保持圧力が16~20kPaであることを特徴とする、ノンコートエアバッグ用織物。
【請求項2】
カバーファクターが2300~2600であることを特徴とする、請求項1に記載のノンコートエアバッグ用織物。
【請求項3】
ASTM D 6467に基づいて測定される動的通気度曲線指数(Exponent)が1.50以上である、請求項2に記載のノンコートエアバッグ用織物。
【請求項4】
織物の少なくとも一方の耳部において、それぞれ異なるクリンプ率をもつ経糸方向に配された織糸YA、YBを有し、YA、YBが繰り返し配列されており、YA、YBの少なくとも一方が、織物の地部を構成する経糸方向に配された織糸YCと同じ合成繊維からなり、YA、YBそれぞれのクリンプ率CA、CBが、CA≧CB×1.2の関係を満たし、YCのクリンプ率CCがCC>CB×1.2の関係を満たすことを特徴とする、請求項3に記載のノンコートエアバッグ用織物。
(ただし、CA(YA)およびCB(YB)は、クリンプ率の大きい方がCAであり、小さい方がCBである。)
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のエアバッグ用織物の製造方法であって、前記織物の製織工程において、下記式で表されるHDIが200~250であることを特徴とする、ノンコートエアバッグ用織物の製造方法。なお、式(1)において、Dwは経糸総繊度(dtex)であり、Nwは経糸密度(本/2.54cm)であり、SFは製織時に使用する開口枠枚数である。
HDI = ((Dw)1/2×Nw)/(2.54×SF)・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用織物およびエアバッグ用織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、乗員の安全確保のためのエアバッグを装備している。エアバッグは、自動車の衝突事故の際、衝突の衝撃を受けてセンサーが作動し、高温、高圧のガスをエアバッグ内で発生させ、このガスによってエアバッグを瞬間的に膨張させて衝突時に乗員の顔面、前頭部を保護するものである。
【0003】
エアバッグは、一般に、150~600dtexの合成繊維を用いた平織物からなる布帛に、耐熱性、難燃性、空気遮断性などの特性を向上させるために、シリコーンなどの樹脂を塗布又は積層した基布(いわゆるコート布)を製造し、これを裁断し、袋体に縫製して作られる。
【0004】
また、基布には樹脂を付与せずに、ポリアミド繊維等の合成繊維フィラメント糸を高密度に製織することで布帛の通気量を小さくして使用される、いわゆるノンコート布がある。
【0005】
ここで、エアバッグ用の織物は、自動車の衝突事故の際、エアバッグを瞬間的に膨張させ、衝突時には乗員の顔面、前頭部等を保護するということから、高強力かつ低通気性が要求されるものである。
【0006】
特に、低通気性に関しては、エアバッグが展開してから乗員を拘束し、保護するまでの100ミリ秒後までの圧力を維持することが重要であり、これを達成するために、織物の密度を限界近くまで高密度化することや、後加工における熱収縮をコントロールする方法がある。
【0007】
例えば、特許文献1~2では原糸の特性や織物のクリンプ構造、製織時におけるタテ糸張力、精練・熱セット時の温度調整等の手段によって、動的な低通気特性に優れ、内圧保持性に優れたエアバッグ用織物の製造方法が開示されている。しかしながら、いずれも限界近くまで織物の密度を高密度度化されたものではなく、エアバッグ展開後の圧力保持特性が得られているとは言い難かった
また、特許文献3には経糸方向のクリンプ率を高めた高密度のエアバッグ用織物が開示されているが、生機から加工で大きく収縮を入れているために織物となった糸の隙間からの通気を抑制しにくく、エアバッグ展開後の圧力維持特性が得られているとは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2013/168730号公報
【特許文献2】特開2009-256860号公報
【特許文献3】WO2019/167820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、優れた乗員拘束性能を得るためにエアバッグ展開後の通気を抑えて内圧を適正に維持することができるノンコートエアバッグ用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は下記(1)の構成を有する。
(1)沸水収縮率5~9%を有する合成繊維からなるエアバッグ用織物であって、該織物にASTM D 6476に準じた動的通気度測定で、100cm3のテストヘッドでSTART PRESSUREが100kPaの圧力を付与した際、100ミリ秒後の保持圧力が16~20kPaであることを特徴とする、ノンコートエアバッグ用織物。
かかる本発明のエアバッグ用織物において、好ましくは、以下の(2)~(4)のいずれかの構成を有することである。
(2)カバーファクターが2300~2600であることを特徴とする、上記(1)に記載のノンコートエアバッグ用織物。
【0011】
(3)ASTM D 6467に基づいて測定される動的通気度のExponentが1.50以上である、上記(1)または(2)に記載のノンコートエアバッグ用織物。
(4)合成繊維からなるエアバッグ用織物において、前記織物の少なくとも一方の耳部において、それぞれ異なるクリンプ率をもつ経糸方向に配された織糸YA、YBを有し、YA、YBが繰り返し配列されており、YA、YBの少なくとも一方が、織物の地部を構成する経糸方向に配された織糸YCと同じ合成繊維からなり、YA、YBそれぞれのクリンプ率CA、CBが、CA≧CB×1.2の関係を満たし、YCのクリンプ率CCがCC>CB×1.2の関係を満たすことを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれかに記載のノンコートエアバッグ用織物。
(ただし、CA(YA)およびCB(YB)は、クリンプ率の大きい方がCAであり、小さい方がCBである。)
また、本発明のエアバッグ用織物の製造方法は、上記課題を解決するために、下記(5)の構成を有する。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載のエアバッグ用織物の製造方法であって、前記織物の製織工程において、下記式で表されるHDIが200~250であることを特徴とする、ノンコートエアバッグ用織物の製造方法。なお、式(1)において、Dwは経糸総繊度(dtex)であり、Nwは経糸密度(本/2.54cm)であり、SFは製織時に使用する開口枠枚数である。
HDI = ((Dw)1/2×Nw)/(2.54×SF)・・・(1)
【発明の効果】
【0012】
本発明のエアバッグ用織物によれば、エアバッグに求められる優れた通気特性を有し、優れた乗員拘束性能を有するノンコートエアバッグ用織物を提供することができる。
【0013】
本発明のエアバッグ用織物の製造方法によれば、そうした優れたノンコートエアバッグ用織物を製織することを可能にする織物の製造方法が提供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明のノンコートエアバッグ用織物の動的通気特性を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の織物の地部を構成する織糸の構造を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の織物の耳部を構成する織糸の構造を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、従来技術の実施形態である織機の経糸開口部の概略的な側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態である織機の経糸開口部の概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[エアバッグ用織物]
本発明のノンコートエアバッグ用織物(以下、単に織物ともいう)は、その地部は合成繊維のマルチフィラメント(以下、合成繊維糸ともいう)からなる。ここで、地部とは、耳部以外の織物本体の部分をいう。該合成繊維としては、例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリサルホン系繊維、あるいは超高分子量ポリエチレン系繊維等を用いることができる。 中でも、大量生産性や経済性に優れたポリアミド系繊維やポリエステル系繊維が好ましい。
【0016】
ポリアミド系繊維としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミンなど等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維をあげることができる。ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は強度に特に優れており、好ましい。
【0017】
また、ポリエステル系繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなる繊維を挙げることができる。ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステルからなる繊維であってもよい。
【0018】
また、これらの合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、合成繊維の単繊維の断面形状としては、円形断面の他に、扁平断面のものを用いることもできる。
【0019】
本発明の織物は、通常は、同じ合成繊維糸を経糸および緯糸としていることが好ましい。同じ合成繊維糸を経糸および緯糸としてなるとは、経糸・緯糸とも同種のポリマーからなり、経糸・緯糸とも同じ単繊維繊度を有し、かつ経糸・緯糸とも同じ総繊度を有するということである。同種のポリマーとは、ナイロン66同士、ポリエチレンテレフタレート同士等、ポリマーの主たる繰り返し単位が共通するポリマー同士である。例えば、ホモポリマーと共重合ポリマーとの組み合わせも、本発明でいう同種のポリマーとして好ましく使用される。さらには、共重合成分の有無、また共重合する場合は共重合成分の種類、量も同じ組み合わせとしておけば、経糸と緯糸を区別する必要がないため、生産管理上も好ましい。
【0020】
本発明において織物の地部糸(地部における経糸・緯糸)として使用される合成繊維糸は、単繊維繊度1~7dtexの合成繊維フィラメントであることが好ましい。単繊維繊度を7dtex以下とすることで、織物中の単繊維間に占める空隙が小さくなり、繊維の充填化効果がより一層向上するため通気量を低下させることができ好ましい。また、単糸繊度が小さいと合成繊維フィラメントの剛性が低下し、織物の柔軟性を向上させる効果も得られるためエアバッグの収納性が向上し、好ましい。
【0021】
織物の地部糸として使用される合成繊維糸の総繊度としては、150~600dtexであることが好ましい。該地部糸として使用される合成繊維糸の総繊度を150dtex以上とすることにより、織物の強度が維持される。また、総繊度を600dtex以下とすることにより、収納時のコンパクト性や、低通気性を維持できる。総繊度は、より好ましくは200~550dtex、さらに好ましくは250~500dtexである。この範囲内の総繊度とすることにより、織物の強力、滑脱抵抗力、低通気性、柔軟性、コンパクト収納性をバランスよく向上させることができる。
【0022】
本発明の織物を構成する合成繊維糸、特に地部糸として使用される合成繊維糸の引張強度としては、エアバッグとして要求される機械的特性を満足するためと製糸操業面から、経糸および緯糸ともに8.0~9.0cN/dtexが好ましく、より好ましくは8.3~8.7cN/dtexである。
【0023】
また、本発明で用いられる合繊繊維の沸水収縮率は5~9%であることが好ましく、より好ましくは5~8%である。合成繊維の沸水収縮率が5%以上であれば、加熱処理工程時に緊張処理することで織糸相互密着の増加により、優れた低通気特性を得ることができる。沸水収縮率が5%よりも小さいと織物への加熱処理工程時に十分に収縮せず、織糸相互密着の効果が十分に得られず、優れた低通気特性性を得るのが難しくなる。また、沸水収縮率が9%より大きいと、過剰な収縮によって織糸のクリンプが大きくなることで織糸間もしくは各織糸のフィラメント間に空隙が生じ、通気が逆に大きくなることや、インフレーター展開時の高温・高圧力によって織物の構造変化が著しく生じてしまい、内圧維持特性に優れた基布が得られない。
【0024】
本発明の織物は、ASTM D 6476に準じた動的通気度測定で、100cm3のテストヘッドでSTART PRESSUREが100kPaの圧力を付与した際、100ミリ秒後の保持圧力が16~20kPaであることを特徴とする。ここで、「保持圧力」という値は、エアバッグが展開して乗員の拘束が完了するまでのエアバッグ内部の圧力に相当する。すなわち、この保持圧力はエアバッグの展開挙動および乗員拘束過程におけるエアバッグの性能の観点から重要な要素となる。保持圧力が上記範囲内である場合、得られるエアバッグは展開時に乗員を受け止める性能(拘束性能)が優れる。保持圧力が16kPa未満である場合、展開時における乗員拘束性能が劣りやすい。一方、保持圧力が20kPaを超えるには、通気を抑制するためにエアバッグ用織物への樹脂のコーティングや、織物の高密度化、熱セット温度の低温化などが必要であり、いずれも織物の目付けや柔軟性が劣ることから、エアバッグ用織物としてのコンパクト性・乗員拘束性能が劣る。
【0025】
本発明で製造される織物は、上記のような同じ合成繊維糸からなる経糸と緯糸からなるものとした上で、該織物の組織は特に限定されない。一例を挙げると、織物組織は、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織、多軸織等が例示される。これらの中でも、織物組織は、エアバッグに使用する場合、特に必要な機械的特性に優れ、かつ、地薄な点から、平織が特に好ましい。織密度は、樹脂加工される織物かあるいは樹脂加工されない織物かにより、また織糸の繊度などにより変わりうるが、カバーファクターは2300~2600であることが、低通気性と高滑脱抵抗力を両立する上で好ましい。一般的に、カバーファクターが上記範囲内であれば、エアバッグに必要な機械的特性(引張強力、引裂強力等)が適切に保持されつつ、かつ、適切な目付けとなりやすく、粗硬になりにくい。カバーファクターが2300未満である場合、基布の目付けが小さくなりやすく、目ズレが起こりやすい。一方、カバーファクターが2600を超える場合、基布の目付けが大きくなりやすく、粗硬になりやすい。一般的に、カバーファクターが2300を超えると、製織時に問題となる耳部の織り口の後退が大きくなる。また、フレアも顕著となる。本発明は、カバーファクター2300未満、もしくは、2600を超える織物・その製造に際しても、有効に採用できるが、特に、カバーファクターが2300~2600である織物の場合、上記効果が奏されやすい。なお、本発明において、カバーファクター(CF)は、経糸または緯糸に用いられる糸の総繊度と織密度から計算される値であり、以下の式(1)によって定義される。なお、式(1)において、Dwは経糸総繊度(dtex)であり、Nwは経糸密度(本/2.54cm)であり、Dfは緯糸総繊度(dtex)であり、Nfは緯糸密度(本/2.54cm)である。
CF=(Dw)1/2×Nw+(Df)1/2×Nf ・・・ (1)
また、本発明のエアバッグ用織物は、ASTM D6467に基づいて測定される動的通気度曲線指数(Exponent)が、1.50以上であることが重要であり、好ましくは1.55以上、より好ましくは1.60以上である。動的通気度曲線指数(Exponent)は、動的通気度の測定で得られる圧力―動的通気度曲線から得られる曲線指数であり、例えばTEXTEST社のエアバッグ専用通気性試験機FX3350により算出される。
【0026】
動的通気度曲線指数について詳細に説明する。動的通気度曲線指数が1.0であると、バッグ内圧の変化に拘らず一定の通気度を示す。動的通気度曲線指数が1.0より大きいと、バッグ内圧の増加に伴い、通気度が上昇することを示す。動的通気度曲線指数が1.0より小さいと、バッグ内圧の増加に伴い、通気度が低下することを示す。一般的に、平均動的通気度が小さければ小さいほど、動的通気度曲線指数は大きくなる。つまり、空気が通過できる流路があると、その流路がバッグ内圧の増加に伴い、拡大し通気度が上昇することを意味する。エアバッグの展開においては、乗員が膨らんだエアバッグに当たると、バッグ内部の圧力に増加が生じ、圧力増加が通気度の増加を引き起こす。本発明のエアバッグ用織物は、1.50以上の高い動的通気度曲線指数を有することにより、低い内圧では、インフレーターガスの通気が抑えられ、乗員が拘束されてバッグ内部の圧力が増加すると、基布からのガスの通気量が増加する。つまり、高いExponent(1.50以上)を有することで、エアバッグが展開してから乗員を拘束完了するまでの過程で、バッグの内圧を適切にコントロールすることができ、効率的に乗員を保護することができる。
【0027】
一般的に、エアバッグ用織物を製織する際、耳部には、耳端に絡み糸や増糸が用いられる。さらに、耳たぶりを小さくするため、増糸と経糸の間に、耳締め糸を用いる場合もある。
【0028】
「絡み糸」はレノとも呼ばれ、耳ほつれを防止するため、織物の耳部の最も外側で、複数本の糸が絡み合いながら緯糸を締め付け、耳部を形成する。耳を形成する場合、一般的に遊星歯車機構を使用され、さらに好ましくは遊星歯車ねじり方式が用いられる。耳部を形成する方法は、その他の方法であってもよい。絡み糸の素材、種類、繊度は、地部糸の種類、織密度により適宜選択される。使用本数は、両端部にそれぞれ2本ずつ以上、好ましくは2本ずつであることが好ましい。絡み糸は、一般的には、耳締めの性能の優れるモノフィラメントが用いられる。絡み糸は、マルチフィラメントが使用されてもよい。絡み糸の材質としては、地糸と同じであることが好ましい。絡み糸の繊度は、33dtex以下であることが好ましい。繊度が33dtexを超える場合、織物の耳部においてほつれが発生する場合がある。絡み糸の繊度は5~22dtexであることが好ましい。
【0029】
「増糸」は絡み糸と同様に、織物の耳部のほつれ防止を目的として使用され、織物の耳部において絡み糸と経糸の間に配置され、絡み糸を補助する。ただし、増糸に対しては、遊星装置は使用されない。耳締め性に優れる平組織で用いることが好ましい。また、増糸の素材、種類、繊度はそれぞれ、地部糸の種類、織密度により適宜選択される。上記した絡み糸と同様に、増糸は、耳締めの性能が優れるモノフィラメントが好適に用いられる。使用される場合の増糸の本数は、たとえば両端部に各2本から12本である。増糸の繊度は、33dtex以下であることが好ましい。繊度が33dtexを超える場合、織物の耳部においてほつれが発生する場合がある。絡み糸の繊度は5~22dtexであることが好ましい。
【0030】
「耳締め糸」は、絡み糸、増糸とは別に、織物の耳たぶりの防止を目的として使用される場合があり、織物の耳部において増糸と経糸の間に配置される。増糸と同様、遊星装置は使用されない。耳締め性に優れる平組織で用いることが好ましい。耳締め糸の素材、種類、繊度はそれぞれ、地糸の種類、織密度により適宜選択される。耳締め糸は、高い張力をかけて製織するために、地糸の総繊度に対し60%以上の総繊度を有するマルチフィラメントが好適に用いられる。総繊度が地糸の60%未満である場合、高い張力をかけて製織することができず、耳たぶりの防止効果が得られなくなる。使用される場合の耳締め糸の本数は、たとえば両端部に各4本から16本である。
【0031】
本発明においては、織物の少なくとも一方の耳部において、それぞれ異なるクリンプ率をもつ経糸方向に配された織糸YA、YBを有し、YA、YBが繰り返し配列されており、YA、YBそれぞれのクリンプ率CA、CBが、CA≧CB×1.2の関係を満たすことを特徴とする。本発明における、それぞれ異なるクリンプ率をもつ経糸方向に配された織糸YA、YBは、経糸(地部糸)、絡み糸、増糸、耳締め糸のいずれかに限定されるものではないが、経糸、増糸、耳締め糸のいずれかであることが好ましい。織糸YA、YBはそれぞれ同種のポリマー、または同じ総繊度であることが好ましいが、異なるポリマー、または総繊度であってもよい。
【0032】
それぞれ異なるクリンプ率をもつ経糸方向に配された織糸YA、YBは、織物の少なくとも一方の耳部に繰り返し配することが好ましい。一般的に、織物の「耳部」とは、織物の耳端から100mm以内の部分をいう。本発明における、織糸YA、YBを繰り返し配する部分としては、織物の耳端から25mm以内に配することが好ましい。耳端から25mmを超えると、織糸YA、YBが繰り返し配された耳部は、織物の地部と織物としての特性が異なるため、エアバッグとして裁断するのに使用可能な部位が小さくなり、ロスが大きくなる場合がある。耳端から25mm以内の部位において、織糸YA、YBを配する位置・幅は特に限定されないが、製織時に発生する織り前の織り口後退とフレアの発生を効果的に抑止するためには、耳端から1~15mmの部位において、5mm以上の幅で織糸YA、YBを繰り返し配することが好ましい。
【0033】
本発明においては、織糸YA、YBそれぞれのクリンプ率CA、CBは、CA≧CB×1.2の関係を満たすことが重要である。また、CA≧CB×2.0の関係を満たすことがより好ましく、CA≧CB×3.0の関係を満たすことがさらに好ましい。本発明における織物の地部は
図1のように、一般的な平織物と同様に、緯糸10と交錯する経糸方向に配された織糸YCは、隣り合う織糸YCと同じクリンプ率をもつ。このとき織密度を高めていくと緯糸を打ち込む限界が生じて、製織時に織り口後退が大きくなる。一方で、本発明における織物の耳部は
図2のように、YA、YBにそれぞれのクリンプ率が差つけられた結果、クリンプ構造に変化が生じて一般的な平織物よりも緯糸を打ち込みやすくすることができ、織密度を高密度化することができる。耳部にこうしたクリンプ構造を作ることで、地部よりも耳部における緯糸の打ち込みが入りやすくなり、製織時に発生する織り前の織り口後退とフレアの発生を効果的に抑制することができる。CA≧CB×1.2の関係を満たすことで、クリンプ構造変化による十分な抑制効果を得ることができる。
【0034】
本発明において、YA、YBは隣接させて配列することで平組織を構成することが好ましい。YA、YBを隣接させて配列することで、クリンプ構造変化による高密度化の十分な効果を奏することができる。YA、YBの配列の方法としては、例えば、YAとYBを1本ずつ交互に配列する方法(1:1)が好ましい。配列を2:1としたり、10:1とするなど比率を変化させた場合や、配列を2:2としたり、8:8とするなど配列を適宜選択することでも織り口の後退とフレアの発生を抑制する効果を得ることができるが、YA、YBを1:1で隣接させて配列を繰り返して配することが特に好ましく、十分な抑制効果が得られやすくなる。YA、YBによって構成する織組織としては、例えばYA、YBそれぞれを引きそろえるなどして畝組織を構成する場合でも本発明における効果を得ることができるが、耳締め性に優れる平織組織であることが特に好ましい。
【0035】
本発明において、YA、YBの少なくとも一方が、織物の地部を構成する経糸方向に配された織糸YCと同じ合成繊維からなることが好ましい。YA、YBが、例えば、YCとは総繊度または収縮が大きく異なる特性をもつ糸からなる場合、地部と耳部とで織物としての厚みや収縮特性に差が現れるため、製織された織物がロールとして巻かれる際や、その後の精練、セット、コーティング工程において、耳部の皺発生の原因となる。YA、YBの少なくとも一方が、YCと同じ合成繊維であれば、地部と耳部との差が小さくなるため耳部の皺が発生しにくくなるため、好ましい。また、YA、YB、YCが全て同じ合成繊維からなることが特に好ましい。
【0036】
本発明において、YCのクリンプ率CCが、CA>CC>CBの関係を満たすことが好ましい。CA>CC>CBの関係を満たすことで、
図2に示されるような織物構造をもつ地部と、
図3に示されるような織物構造をもつ耳部を得ることができ、地部よりも耳部における緯糸が緻密化することで、フレアの発生を効果的に抑制することができる。CA、CBがCCよりも小さいと(CC>CA>CB)、地部よりも耳部の織糸のクリンプが小さくなることから、織物の耳部が粗硬になりやすく、皺発生の原因となる場合がある。また、CA、CBがCCよりも大きい場合(CA>CB>CC)、十分な耳締め性が得られず織り口の後退とフレアの発生を抑制する効果が得られなくなる。
【0037】
[エアバッグ用織物の製造方法]
本発明のエアバッグ用織物の製造方法(以下、単に織物の製造方法ともいう)は、上記の本発明の織物(エアバッグ用織物)の製造方法である。以下に示される他の工程は、いずれも例示であり、公知の他の工程に置き換えられてもよい。
【0038】
本発明の織物の製造方法によれば、まず、織物に関連して上記した総繊度の経糸が整経され、織機に設置される。同様に緯糸が織機に設置される。織機は、特に限定されないが、高密度織物を製織する場合は全幅テンプル装置を備える織機を使用することが好ましい。織機は、ウォータージェットルーム、エアジェットルーム、レピアルーム等が例示される。これらの中でも、高速製織が比較的容易であり、生産性を高めやすい点から、織機は、ウォータージェットルームが好ましい。
【0039】
製織の際、織物の地部を構成する経糸1本あたりにかける張力は、0.2~0.5cN/dtexの範囲に調整されることが好ましい。経糸の張力が上記範囲内である場合、得られる織物は、織物を構成するマルチフィラメントの糸束中の単繊維間空隙が減少することにより、寸法安定性が向上し得る。経糸張力が0.2cN/dtex未満の場合、製織中における緯糸の拘束力が低く、経糸と緯糸とが同密度の織物が得られにくい。一方、経糸張力が0.5cN/dtexを超える場合、織物において、経糸と緯糸の接触面積(密着度)が大きくなりやすい。そのため、経糸が毛羽立ちやすく、製織性が劣りやすい。経糸張力を調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、経糸張力は、織機の経糸送り出し速度を調整する方法、緯糸の打ち込み密度を調整する方法等により調整し得る。なお、経糸張力が上記範囲であるかどうかは、たとえば織機稼働中に経糸ビームとバックローラーの中央部分とにおいて、経糸1本当たりに加わる張力を張力測定器で測ることにより、確認し得る。
【0040】
本発明の織物の製造方法において、経糸総繊度Dw(dtex)、経糸密度Nw(本/2.54cm)、製織時に使用する開口枠枚数SFから算出される綜絖密度指数HDIが200~250であることが好ましい。HDIは、製織時における開口枠部での経糸および綜絖(ヘルド)の充填の程度を意味し、HDIが高くなるほど、経糸および綜絖(ヘルド)が充填された状態となる。経糸および綜絖の充填度が高くなると、経糸および綜絖同士が擦過し、糸切れや毛羽が発生し易くなることで、製織性が悪くなる傾向にある。そのため、従来は平織物の製造における開口枠枚数SFは最低2枚であるところ、4~6枚以上使用するなどして、HDIが50~150の範囲に調整することが一般的であった。本発明者等は、HDIと製織性および得られるエアバッグ用織物の通気特性の関係を鋭意検討したところ、HDIを200~250とすることで、優れた製織性と通気特性が得られることを見出した。
HDI = ((Dw)
1/2×Nw)/(2.54×SF)・・・(1)
(式(1)において、Dwは経糸総繊度(dtex)であり、Nwは経糸密度(本/2.54cm)であり、SFは製織時に使用する開口枠枚数である。)
本発明の織物の製造方法におけるHDIについて詳細に説明する。
図4は、従来技術の実施形態である織機の経糸開口部の概略的な側面図である。なお、
図4には、織機1の一部の構成のみが例示されており、他の構成(たとえば筬やテンプル装置等)は省略されている。織機1は、経糸2と、その経路となるバックローラー3と、経糸2を開口するための複数の枠体(
図4では第1枠4a、第2枠4b、第3枠4c、第4枠4d)の4枚枠である場合が例示されている)を備える。各枠体には、経糸を一本ずつ通す綜絖(ヘルド)を備える。第1枠4aは、枠体のうち、最も織り前側(すなわち下流側)に配置された枠体である。枠体は、製織の際、隣り合う枠体と適宜協働して上下に移動する。
図4には、第1枠4aが最も高く挙がった状態の織機1が例示されている。原理上、平織物を製造するには開口枠枚数SFは最低2枚必要になるが、経糸および綜絖(ヘルド)の充填を小さくするため、従来4~6枚使用する。しかし、開口枠枚数を多くした場合、
図4に例示されるように、後ろの枠体(すなわち上流側)になるほど、経糸を開口するために必要な上下の移動量が大きくなる。このため、経糸の擦過の増加による毛羽の発生や、製織中の枠ごとに経糸の張力差が生じ、優れた通気特性を有する織物が得られにくいという問題があった。
図5は、本発明の実施形態である織機の経糸開口部の概略的な側面図である。本発明のエアバッグ用織物を製織する際、第1枠4a、第2枠4bの2枚のみを使用する。これによって従来技術の4~6枚で製織する場合よりもHDIが高くなり、経糸および綜絖の充填は高くなるが、後ろの枠体(従来技術における第3枠、第4枠)を使用しないことによって、開口時の上下の移動量が抑えられ、経糸の擦過が抑制される効果が得られる。また、経糸および綜絖が適切に充填されることで、製織中の綜絖の左右方向への偏り(ヘルド揺れ)が抑えられ、経糸切れや毛羽の発生や抑制できることを見出した。なお、開口枠枚数を減らした場合、枠1枚あたりにかかる経糸張力の負荷が増加し、織物製織中に生じる枠体中央部への応力集中が増加することによって、枠体の断裂などのトラブルが生じやすくなる。そのため、開口枠枚数を減らす場合は開口枠の中央部で上下枠体を金属部材で接続して補強し剛性を向上させるなどの対応を適宜行うことが好ましい。
【0041】
本発明の織物の製造方法において、織機で製織される織物の少なくとも一方の耳部において、それぞれ異なるクリンプ率をもって経糸方向に配された織糸YA、YBをそれぞれ異なる張力で製織し、YA、YBにかかるそれぞれの張力TA、TBが、TB≧TA×1.2の関係を満たすことを特徴とする。それぞれ異なるクリンプ率をもつ経糸方向に配された織糸YA、YBは、経糸、絡み糸、増糸、耳締め糸のいずれかに限定されるものではないが、経糸、増糸、耳締め糸のいずれかであることが好ましい。織糸YA、YBはそれぞれ同種のポリマー、または同じ総繊度であることが好ましいが、異なるポリマー、または総繊度であってもよい。
【0042】
それぞれ異なるクリンプ率をもつ経糸方向に配された織糸YA、YBは、織物の少なくとも一方の耳部に繰り返し配することが好ましい。本発明における、織糸YA、YBを繰り返し配する部分としては、織物の耳端から25mm以内に配することが好ましい。耳端から25mmを超える場合、織糸YA、YBの本数が増えるため、糸の通し作業ならびに張力管理が難しくなる。耳端から25mm以内の部位において、織糸YA、YBを配する位置・幅は特に限定されないが、製織時に発生する織り前の織り口後退とフレアの発生を効果的に抑止するためには、耳端から1~15mmの部位において、5mm以上の幅で織糸YA、YBを繰り返し配することが好ましい。
【0043】
本発明の織物の製造方法においては、織糸YA、YBにかかるそれぞれの張力TA、TBは、TB≧TA×1.2の関係を満たすことが重要である。また、TB≧TA×1.5の関係を満たすことがより好ましく、TB≧TA×2.0の関係を満たすことがさらに好ましい。一般的に、製織時に織糸にかかる張力を大きくすると、その織糸のクリンプ率は小さくなり、一方で、製織時に織糸にかかる張力を小さくすると、その織糸のクリンプ率は大きくなる。YA、YBにかかるそれぞれの張力TA、TBの差を大きくすることで、クリンプ率の差を大きくし、クリンプ構造変化により織密度を高密度化できる効果を得られやすくなり、製織時に発生する織り前の織り口後退とフレアの発生を効果的に抑制することができる。織糸YA、YBにかかるそれぞれの張力TA、TBを調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、紙管やボビンなどから織糸を1本ずつ供給してスプリングワッシャーなどのテンサーで張力を管理する方法や、経糸ビームとは別に耳部の織糸用にビームを用意する方法、経糸ビームを整経する際に耳部の糸のみ巻取りの張力を変更する方法等により調整し得る。織糸YA、YBにかかるそれぞれの張力TA、TBの範囲は特に限定されないが、0.1~0.6cN/dtexの範囲で調整することが好ましい。
【0044】
本発明の織物の製造方法においては、YA、YBを隣接させて配列することで平組織を構成することが好ましい。YA、YBを隣接させて配列することで、クリンプ構造変化による高密度化の十分な効果を奏することができる。YA、YBの配列の方法としては、例えば、YAとYBを1本ずつ交互に配列する方法(1:1)が好ましい。配列を2:1としたり、10:1とするなど比率を変化させた場合や、配列を2:2としたり、8:8とするなど配列を適宜選択することでも織り口の後退とフレアの発生を抑制する効果を得ることができるが、YA、YBを1:1で隣接させて配列を繰り返して配することが特に好ましく、十分な抑制効果が得られやすくなる。YA、YBによって構成する織組織としては、例えばYA、YBそれぞれを引きそろえるなどして畝組織を構成する場合でも本発明における効果を得ることができるが、耳締め性に優れる平組織であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の織物の製造方法においては、YA、YBの少なくとも一方が、織物の地部を構成する経糸方向に配された織糸YCと同じ合成繊維からなることが好ましい。YA、YBが、例えば、YCとは総繊度または収縮が大きく異なる特性をもつ糸からなる場合、地部と耳部とで織物としての厚みや収縮特性に差が現れるため、製織された織物がロールとして巻かれる際や、その後の精練、セット、コーティング工程において、耳部の皺発生の原因となる。YA、YBの少なくとも一方が、YCと同じ合成繊維であれば、地部と耳部との差が小さくなるため耳部の皺が発生しにくくなるため、好ましい。また、YA、YB、YCが全て同じ合成繊維からなることが特に好ましい。
【0046】
本発明の織物の製造方法においては、YCにかかる張力TCがTB>TC>TAの関係を満たすことが好ましい。TB>TC>TAの関係を満たすことで、
図1に示されるような織物構造をもつ地部と、
図2に示されるような織物構造をもつ耳部を得ることができ、地部よりも耳部における緯糸の打ち込みが入りやすくなることで、製織時に発生する織り前の織り口後退とフレアの発生を効果的に抑制することができる。TA、TBがTCよりも大きいと、(TB>TA>TC)、地部よりも耳部の織糸のクリンプが小さくなることから、織物の耳部が粗硬になりやすく、皺発生の原因となる場合があることに加えて、製織中に耳端部のみに過度な張力がかかることで、織物の耳崩れが生じてしまうことがある。また、TA、TBがTCよりも大きい場合(TA>TB>TC)、十分な耳締め性が得られず織り口の後退とフレアの発生を抑制する効果が得られなくなる。
【0047】
製織が終わると、得られた織物は、必要に応じて、乾燥処理が行われる。乾燥温度は、通常80℃以上である。乾燥温度が80℃以上である場合、織物は、乾熱収縮率が小さく、寸法安定性が向上する。その結果、織物は、エアバッグとして好適に使用し得る。
【0048】
次に、織物は、精練、熱セット等の加工が適宜施される。精練加工における精練温度は、20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましい。また、精練温度は、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましい。精練温度が20℃以上である場合、織物は、残留した歪みが除去され、マルチフィラメント内の単繊維フィラメント同士が動きやすくなり、マルチフィラメントが織物に対して扁平に広がり得る。そのため、織物は、寸法安定性が向上し得る。また、精練温度が80℃以下である場合、マルチフィラメントの大きな収縮が抑制される。その結果、織物は、寸法安定性が向上し得る。
【0049】
熱セットにおける熱セット温度は、精練と同じく、製織後の織物に残留した歪みを除去することができ、マルチフィラメントの大きな収縮を抑制し得る温度であることが好ましい。具体的には、熱セット温度は、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。また、熱セット温度は、190℃以下であることが好ましい。熱セット温度が上記範囲内である場合、得られる基布は、寸法安定性が向上し得る。
【0050】
以上の工程を経た織物は、樹脂やエラストマーのコーティングが適宜施されてもよい。本発明の織物は、コーティングが施されることにより、非通気性が付与され得る。コーティングを施す場合、コーティング量は、5~35g/m2程度であることが好ましい。樹脂またはエラストマーとしては、耐熱性、耐寒性、難燃性を有するものが好ましい。樹脂またはエラストマーは、たとえば、シリコーン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等が好適に用いられる。
【0051】
以上の工程を経た織物は、耳カットが適宜施されてもよい。本実施形態の織物は、耳カットが施されることにより、裁断時の位置調整が容易となる。耳カットで廃棄される織物の部位としては、織物の耳端から絡み糸、増糸、耳締め糸、熱セットでピン穴がつく耳端から25mm程度までの経糸までをカットする。耳部の織物として使用しない部位をカットすることで、裁断工程で積層可能な枚数が増え、裁断効率が向上し得る。
【0052】
以上、本発明の織物の製造方法によれば、エアバッグ用織物製織時の耳端部の織り口後退を抑制することでき、耳たぶりを小さくすることができる。特に、用途として、エアバッグ用織物として使用する場合、製織後に行われる精練、セットさらにコーティング工程での加工通過性、均一塗布性に優れ、さらに、裁断性および縫製性に優れたエアバッグ用織物を提供することができる。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例において、それぞれの特性値は、以下の方法により算出した。
【0054】
<特性値の算出方法>
(総繊度)
総繊度は、JIS L1013:2010 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定することにより算出した。
【0055】
(フィラメント数)
フィラメント数は、JIS L1013:2010 8.4の方法に基づいて算出した。
【0056】
(単繊維繊度)
単繊維繊度は、総繊度をフィラメント数で除することにより算出した。
【0057】
(沸水収縮率)
沸水収縮率は、JIS L1013:2010 8.18.1熱水収縮率B法 100℃の方法に基づいて算出した。
【0058】
(織密度)
経糸および緯糸のそれぞれの織密度は、JIS L 1096:2010 8.6.1に基づいて算出した。具体的には、試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5箇所について2.54cmの区間の経糸および緯糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
【0059】
(基布の厚み)
基布の厚みは、JIS L 1096:2010 8.4に基づいて算出した。具体的には、試料の異なる5カ所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に測定し、平均値を算出した。
【0060】
(目付け)
目付けは、JIS L 1096:2010 8.3.2に基づき、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m2当たりの質量(g/m2)に換算することにより算出した。
【0061】
(引張強力)
引張強力は、JIS K 6404-3:1999 6.試験方法B(ストリップ法)に基づいて、経方向および緯方向のそれぞれについて、試験片を5枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るまでの最大荷重を測定し、経方向および緯方向のそれぞれについて平均値を算出した。
【0062】
(破断伸度)
破断伸度は、JIS K 6404―3:1999 6.試験方法B(ストリップ法)に基づいて、経方向および緯方向のそれぞれについて、試験片を5枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、これらの試験片の中央部に100mm間隔の標線を付し、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るときの標線間の距離を読みとり、以下の式(2)に基づいて算出した。
E=[(L-100)/100]×100 ・・・ (2)
式中、Eは破断伸度(%)を示し、Lは切断時の標線間の距離(mm)を示す。
破断伸度は、経方向および緯方向のそれぞれの平均値を算出した。
【0063】
(動的通気度・Exponent)
ASTM D6476に基づいて測定した。
【0064】
TEXTEST社のエアバッグ専用通気性試験機FX3350を用い、テストヘッドは100cm3を用いた。また、テストヘッドに充填する圧縮空気の初期圧力(START PRESSURE)は、100kPaとした。
【0065】
テストヘッドに充填した圧縮空気を解放して基布の試料に当て、経時的に圧力および通気度の変化を測定する。
図1は、本発明のノンコートエアバッグ用織物の動的通気特性である時間―圧力曲線が示したグラフである。
図1にはテストヘッド内部の圧力P1と、動的通気度を測定する基布部の圧力P2がそれぞれ示されている。測定開始と同時に、圧力P1は低下、圧力P2は増加し、約20~30ミリ秒後にP2がピークに達し、両圧力が一致する。その後、基布からの通気によって両圧力が共に低下していく。得られた時間―圧力曲線から、100ミリ秒後の保持圧力を算出した。
また、得られた圧力―動的通気度曲線において最大圧力到達後の上限圧力(UPPER LIMIT:25kPa)~下限圧力(LOWER LIMIT:15kPa)の範囲からFX3350より動的通気度曲線指数(Exponent)を算出した。
【0066】
(クリンプ率)
クリンプ率は、JIS L 1096:2010 8.7(B法)に基づき測定した。
【0067】
試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、織物の地部を構成する織糸YC、もしくは、織物の耳部におけるクリンプ率の異なる織糸YA、YBが隣り合う位置に配置された、それぞれ3ヵ所について200mmの距離に印をつけ、この印内の糸を解いて分解糸とし、JIS L 1013の5.1に規定された初荷重の下で真っすぐに張った長さをそれぞれ測定して平均値を算出し、変化長を計算した。
【0068】
(織口接触タイミング)
織機にて、筬が最前位置から後退し、開口した経糸中に緯糸が挿入され、筬が前進して緯糸を打ち込むという一連の織機の周期的運動を織機の回転角0°~360°で表し、筬が最前位置となる状態を回転角0°として、筬が緯糸を打ち込む際に織口が接触する瞬間の回転角を測定し、織口接触タイミングとした。織口接触タイミングは、織機が運転して織物を製織している際に、織機用のタイミングライトを当てて測定し、織物の中央の地部と、緯糸の給糸側・反給糸側のそれぞれの耳部で測定し、耳部については給糸側・反給糸側の平均値を算出した。織口後退の評価は、地部と耳部の差を織口後退の大きさとして判断し、3°未満を「S」、3°以上6°未満を「A」、6°以上8°未満を「B」、8°以上を「C」とした。
(製織毛羽欠点の発生数)
織りあがった織物を検反台にかけ、長さ1000mの織物の中にある大きさ3mm以上の製織毛羽欠点の数を目視でカウントし、100mあたりの発生数を計算した。
【0069】
(織物の耳たぶりの発生有無)
織りあがった織物を長さ1mにカットして平らな机上に広げて、耳部の最も浮き上がった部分の高さを1mm刻み(1mm未満の量は四捨五入)で測定し、両方の耳部の平均値を算出した。評価は、耳たぶり高さを大きさとして判断し、8mm未満を「S」、8mm以上10mm未満を「A」、10mm以上12mm未満を「B」、12mm以上を「C」とした。また、耳崩れの発生した織物は「-」とした。
【0070】
<実施例1>
(経糸、緯糸)
経糸および緯糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が3.5dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度が470dtexであり、引張強度が8.5cN/dtex、伸度が23.5%であり、沸水収縮率が7.0%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
【0071】
(製織)
上記の合成繊維フィラメントを地部糸として経糸、緯糸に用い、全幅テンプルを備えるウォータージェット織機を使用して、経糸の織密度57本/2.54cm、緯糸の織密度57本/2.54cmの平織物を製織した。製織時に使用した開口枠枚数は2枚とし、開口枠の中心部で上下の枠体を金属部材で接続して補強し製織した。
【0072】
その際、織物の両方の耳部には絡み糸、増糸、耳締め糸を使用した。絡み糸としては、22detexのナイロン66モノフィラメントを使用し、両方の耳部に2本ずつ、遊星装置から供給した。増糸は、絡み糸と同様の22dtexのナイロン66モノフィラメントを使用し、両方の耳部に8本ずつ、ボビンから供給した。耳締め糸としては、地部を構成する経糸と同じ470dtexの無撚りの合成繊維フィラメントを使用し、両方の耳部に16本ずつ使用した。耳締め糸は、供給時の張力を管理するため、スプリングワッシャー式のテンサーで張力を調整した。耳締め糸は、供給張力を0.20cN/dtexに調整した低張力用のものと、0.60cN/dtexに調整した高張力用のものを8本ずつ用意し、耳端部側から順に低張力(YA)の糸と、高張力の糸(YB)を1:1で交互に配列して、製織した。また、地部を構成する経糸(YC)の張力は0.40cN/dtexで製織した。
【0073】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物の耳部には、クリンプ率CAが12%であるYAと、クリンプ率CBが4%であるYBが繰り返し配されており、また地部を構成するYCのクリンプ率は10%であり、得られた織物は、耳たぶりが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。
【0074】
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、オープンソーパー型精練機にて65℃で精練し、40℃で湯洗いし、120℃で織物を乾燥させた。さらに、ピンテンター乾燥機を用いて、乾燥後の織物幅と同じ幅になるよう幅出し率を設定し、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、160℃にて60秒間、織物を熱セットした。得られた織物の特性を表1に示す。得られた織物は、保持圧力が18kPaであり、通気特性に優れた基布が得られた。
【0075】
<実施例2>
経糸および緯糸の織密度をいずれも55本/2.54cmに変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0076】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物の耳部には、クリンプ率CAが11%であるYAと、クリンプ率CBが5%であるYBが1:1の割合で繰り返し配されており、また地部を構成するYCのクリンプ率は9%であり、得られた織物は、耳たぶりが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。得られた織物は、保持圧力が17kPaであり、通気特性に優れた基布が得られた。
【0077】
<実施例3>
耳締め糸として、供給張力を0.30cN/dtexに調整した低張力用のものと、0.50cN/dtexに調整した高張力用のものを8本ずつ用意し、耳端部側から順に低張力(YA)の糸と、高張力の糸(YB)を1:1で交互に配列して、製織し、地部を構成する経糸(YC)の張力は0.40cN/dtexで製織し、熱セット温度を180℃に変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0078】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物の耳部には、クリンプ率CAが11%であるYAと、クリンプ率CBが5%であるYBが1:1の割合で繰り返し配されており、また地部を構成するYCのクリンプ率は9%であり、得られた織物は、耳たぶりが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。得られた織物は、保持圧力が16kPaであり、通気特性に優れた基布が得られた。
【0079】
<実施例4>
経糸、緯糸、耳締め糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が2.6dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度が350dtexであり、引張強度が8.5cN/dtex、伸度が24.5%であり、沸水収縮率が6.2%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを使用し、経糸の織密度62本/2.54cm、緯糸の織密度62本/2.54cmとする以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0080】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物の耳部には、クリンプ率CAが10%であるYAと、クリンプ率CBが5%であるYBが1:1の割合で繰り返し配されており、また地部を構成するYCのクリンプ率は8%であり、得られた織物は、耳たぶりが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。得られた織物は、保持圧力が18kPaであり、通気特性に優れた基布が得られた。
【0081】
<比較例1>
経糸および緯糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が3.5dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度が470dtexであり、引張強度が8.5cN/dtex、伸度が23.5%であり、沸水収縮率が9.3%であり、無撚りの合成繊維フィラメントとし、製織時に使用する開口枠枚数を4枚とし、オーバーフィード率2%の寸法規制の下で熱セットを実施した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を製織した。
得られた織物の耳部には、クリンプ率CAが14%であるYAと、クリンプ率CBが5%であるYBが1:1の割合で繰り返し配されており、また地部を構成するYCのクリンプ率は11%であり、得られた織物は、耳たぶりが小さく、耳締まり状態も均一で良好であったが、製織時に経糸の製織毛羽が発生し、欠点の多い織物が得られた。得られた織物の特性を表1に示す。得られた織物は、高い織密度が得られたものの、収縮によって通気が大きく、保持圧力が低い基布が得られた。
【0082】
<比較例2>
製織時に使用する開口枠枚数を4枚とし、熱セット温度を120℃に変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。得られた織物の耳部には、クリンプ率CAが13%であるYAと、クリンプ率CBが6%であるYBが1:1の割合で繰り返し配されており、また地部を構成するYCのクリンプ率は11%であり、得られた織物は、耳たぶりが小さく、耳締まり状態も均一で良好であったが、製織中の耳部に毛羽が発生し、欠点の多い織物が得られた。得られた織物の特性を表1に示す。得られた織物は、高い保持圧力が得られたが、柔軟性に劣る基布が得られた。
【0083】
<比較例3>
経糸および緯糸の織密度をいずれも53本/2.54cmに変更し、耳締め糸を使用しなかった以外は、比較例2と同様にエアバッグ用織物を製織した。得られた織物は、耳たぶりが大きくなった。得られた織物の特性を表1に示す。得られた織物は、糸同士の間からの通気が大きく、保持圧力が低い基布が得られた。
【0084】