(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108416
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】回転電機のロータ構造
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240805BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012769
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板坂 直樹
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622PP10
(57)【要約】
【課題】磁石を径方向に並べて配置したときに、径方向外側に位置する磁石の磁束の短絡を抑制するとともに、鉄損を出来る限り抑制する。
【解決手段】ロータ10の各磁極部12は、径方向に着磁された磁力固定磁石40と、磁力固定磁石40の径方向外側に配置され、磁力固定磁石40と同じ向きになるように径方向に着磁された第1補助磁力固定磁石61と、磁力固定磁石40の周方向の一端側及び他端側にそれぞれ配置され、それぞれが所定の磁束により周方向における磁化状態を変化させることが可能な第1磁力可変磁石51と、を有する。周方向における第1補助磁力固定磁石61と第1磁力可変磁石51との間には、空隙部72が形成されており、径方向の第1補助磁力固定磁石61の位置における空隙部72の周方向の幅は、ロータコア11とステータコア21との間の空隙の最小幅よりも狭い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアを有するロータと、該ロータコアの径方向の外側に、該ロータコアと空隙を空けて配置されたステータコアを有するステータとを備えた回転電機のロータ構造であって、
前記ロータコアに設けられ、周方向に並ぶ複数の磁極部を備え、
前記各磁極部は、
径方向に着磁された磁力固定磁石と、
前記磁力固定磁石の前記径方向の外側に配置され、前記磁力固定磁石と同じ向きになるように前記径方向に着磁された補助磁力固定磁石と、
前記磁力固定磁石の前記周方向の一端側及び他端側にそれぞれ配置され、それぞれが所定の磁束により前記周方向における磁化状態を変化させることが可能な第1磁力可変磁石と、
をそれぞれ有し、
一の前記磁極部の前記磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石の磁化方向と、該一の前記磁極部に相隣接する他の前記磁極部の前記磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石の磁化方向とは、互いに逆向きであり、
前記第1磁力可変磁石は、前記径方向において前記磁力固定磁石よりも外側に位置しており、
前記ロータコアの、前記周方向における前記補助磁力固定磁石と前記第1磁力可変磁石との間には、前記径方向における該補助磁力固定磁石から前記磁力固定磁石の位置まで延びる空隙部が形成されており、
前記径方向の前記補助磁力固定磁石の位置における前記空隙部の前記周方向の幅は、前記ロータコアと前記ステータコアとの間の空隙の最小幅よりも狭いことを特徴とする回転電機のロータ構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機のロータ構造において、
前記空隙部の前記周方向の幅は、前記補助磁力固定磁石よりも前記径方向の外側の部分の方と比べて、前記補助磁力固定磁石よりも前記径方向の内側の部分の方が広いことを特徴とする回転電機のロータ構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機のロータ構造において、
前記周方向における前記補助磁力固定磁石と前記空隙部との間の間隔は、前記径方向における前記補助磁力固定磁石と前記ロータコアの外縁との間の間隔よりも狭いことを特徴とする回転電機のロータ構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の回転電機のロータ構造において、
前記第1磁力可変磁石は、q軸に隣接して配置されており、
前記各磁極部は、前記空隙部と前記第1磁力可変磁石との間に、それぞれが前記所定の磁束により前記周方向における磁化状態を変化させることが可能な第2磁力可変磁石を有することを特徴とする回転電機のロータ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、回転電機のロータ構造に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転電機のロータとして、磁化状態を変更困難な磁力固定磁石と、磁化状態を変更容易な可変磁石とを備えるものが提案されている。
【0003】
特許文献1には、ロータコアの周方向に並ぶ複数の磁極部を備え、各磁極部は、周方向の中央に配置された第1磁力固定磁石と、第1磁力固定磁石の周方向の両側でかつ磁力固定磁石よりも径方向の外側に配置されかつ磁化状態を変更可能な可変磁石と、第1磁力固定磁石よりも径方向の内側に配置された第2磁力固定磁石と、を備え、第1磁力固定磁石が可変磁石に対して磁気的に直列となるように配置され、第2磁力固定磁石が可変磁石に対して磁気的に並列となるように配置されたロータ構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献1では、第1磁力固定磁石が配置されるスリットには、第1磁力固定磁石の長手方向の外側に、フラックスバリアとしての空洞が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のようなロータ構造の場合、第1磁力固定磁石及び第2磁力固定磁石が径方向外側がN極となるように着磁されているときには、可変磁石の磁化方向が、可変磁石から第1磁力固定磁石に向かう方向の場合には、ステータと鎖交する磁束が増加した状態(以下、増磁状態という)になる一方、可変磁石の磁化方向が、第1磁力固定磁石から可変磁石に向かう方向の場合には、ステータと鎖交する磁束が減少した状態(以下、減磁状態という)になる。
【0007】
特許文献1のロータ構造では、第1磁力固定磁石の長手方向の外側に空洞が形成されていることで、第1磁力固定磁石の磁束の短絡を抑制できるという効果が期待される。これにより、第2磁力固定磁石からの磁束と第1磁力固定磁石からの磁束との反発が抑制される。
【0008】
しかしながら、この構成では、減磁状態のときに、第1磁力固定磁石からの磁束が空隙を避けてステータ側に漏れ出るおそれがあり、ステータの磁束変動による鉄損の増加が懸念される。このため、磁石を径方向に並べて配置したときに、径方向外側に位置する磁石の磁束の短絡を抑制しつつ、減磁状態における鉄損を抑制するという観点からは改良の余地がある。
【0009】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、磁石を径方向に並べて配置したときに、径方向外側に位置する磁石の磁束の短絡を抑制するとともに、ステータと鎖交する磁束を減少させるように可変磁石の磁化状態を変化させた際の鉄損を出来る限り抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様では、ロータコアを有するロータと、該ロータコアの径方向の外側に、該ロータコアと空隙を空けて配置されたステータコアを有するステータとを備えた回転電機のロータ構造を対象として、前記ロータコアに設けられ、周方向に並ぶ複数の磁極部を備え、前記各磁極部は、径方向に着磁された磁力固定磁石と、前記磁力固定磁石の前記径方向の外側に配置され、前記磁力固定磁石と同じ向きになるように前記径方向に着磁された補助磁力固定磁石と、前記磁力固定磁石の前記周方向の一端側及び他端側にそれぞれ配置され、それぞれが所定の磁束により前記周方向における磁化状態を変化させることが可能な第1磁力可変磁石と、をそれぞれ有し、一の前記磁極部の前記磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石の磁化方向と、該一の前記磁極部に相隣接する他の前記磁極部の前記磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石の磁化方向とは、互いに逆向きであり、前記第1磁力可変磁石は、前記径方向において前記磁力固定磁石よりも外側に位置しており、前記ロータコアの、前記周方向における前記補助磁力固定磁石と前記第1磁力可変磁石との間には、前記径方向における該補助磁力固定磁石から前記磁力固定磁石の位置まで延びる空隙部が形成されており、前記径方向の前記補助磁力固定磁石の位置における前記空隙部の前記周方向の幅は、前記ロータコアと前記ステータコアとの間の空隙の最小幅よりも狭い、という構成とした。
【0011】
この構成によると、一の磁極部の磁力固定磁石の磁化方向が径方向の内側から外側に向かう方向である場合、一の磁極部については、第1磁力可変磁石の磁化方向が、第1磁力可変磁石から磁力固定磁石に向かう方向の場合には、ステータと鎖交する磁束が増加した状態(以下、増磁状態という)になる一方、第1磁力可変磁石の磁化方向が、磁力固定磁石から第1磁力可変磁石に向かう方向の場合には、ステータと鎖交する磁束が減少した状態(以下、減磁状態という)になる。一方で、一の磁極部に相隣接する他の磁極部については、第1磁力可変磁石の磁化方向が、第1磁力可変磁石から磁力固定磁石に向かう方向の場合には、減磁状態になる一方、第1磁力可変磁石の磁化方向が、磁力固定磁石から第1磁力可変磁石に向かう方向の場合には、増磁状態になる。
【0012】
前記の構成では、相対的に径方向の外側に位置する補助磁力固定磁石に対して周方向に隣接するように空隙部が設けられることで、補助磁力固定磁石の磁束が短絡することを抑制することができる。
【0013】
また、前記の構成では、空隙部の周方向の幅が、ロータコアとステータコアとの間の空隙の最小幅よりも狭いため、減磁状態において、磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石からの磁束は、第1磁力可変磁石に向かいやすくなる。このため、前記一の磁極部の磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石からの磁束は、第1磁力可変磁石を介して、前記他の磁極部の磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石に向かう。これにより、前記一の磁極部と前記他の磁極部との間で閉磁路を形成することができ、ステータに磁束が漏れることを出来る限り抑制することができる。この結果、鉄損を出来る限り抑制することができる。
【0014】
ここに開示された技術の第2の態様では、前記第1の態様において、前記空隙部の前記周方向の幅は、前記補助磁力固定磁石よりも前記径方向の外側の部分の方と比べて、前記補助磁力固定磁石よりも前記径方向の内側の部分の方が広い。
【0015】
この構成によると、補助磁力固定磁石の磁束が、補助磁力固定磁石よりも径方向の内側の部分の空隙を通ることを抑制することができる。これにより、補助磁力固定磁石の磁束が短絡することをより効果的に抑制することができる。
【0016】
ここに開示された技術の第3の態様では、前記第2の態様において、前記周方向における前記補助磁力固定磁石と前記空隙部との間の間隔は、前記径方向における前記補助磁力固定磁石と前記ロータコアの外縁との間の間隔よりも狭い。
【0017】
この構成によると、補助磁力固定磁石と空隙部との間の幅が比較的狭くなるため、補助磁力固定磁石の磁束が短絡することをより効果的に抑制することができる。
【0018】
ここに開示された技術の第4の態様では、前記第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、前記第1磁力可変磁石は、q軸に隣接して配置されており、前記各磁極部は、前記空隙部と前記第1磁力可変磁石との間に、それぞれが前記所定の磁束により前記周方向における磁化状態を変化させることが可能な第2磁力可変磁石を有する。
【0019】
この構成によると、第2磁力可変磁石は、第1磁力可変磁石と同じ磁束により磁化状態が変化するため、周方向において、第1磁力可変磁石の磁化方向と第2磁力可変磁石の磁化方向とは同じ方向になる。このため、磁力固定磁石及び補助磁力固定磁石からの磁束は、第2磁力可変磁石によって、第1磁力可変磁石により向かいやすくなる。これにより、前記一の磁極部と前記他の磁極部との間で閉磁路をより形成しやすくなるため、鉄損をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、ステータと鎖交する磁束を減少させるように可変磁石の磁化状態を変化させた際の鉄損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るロータ構造を有する駆動モータを備えた自動車の概略図である。
【
図2】
図2は、駆動モータの運転効率を示すグラフである。
【
図4】
図4は、駆動モータの磁極部を拡大した拡大断面図である。
【
図5】
図5は、磁極部における補助磁力固定磁石と空隙の周辺を拡大した拡大断面図である。
【
図6】
図6は、駆動モータが減磁状態であるときの磁束の方向を示す概略図である。
【
図7】
図7は、実施形態2に係るロータ構造を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
(実施形態1)
〈車両の構成〉
図1に、本実施形態1に係るロータ構造を有する駆動モータ2を備えた自動車1を概略的に示す。ここで例示する自動車は、ハイブリッド車である。自動車の駆動源としては、開示する技術を適用した駆動モータ2(磁力可変モータ)とともにエンジン3が搭載されている。これらが協働して、4つの車輪4F,4F,4R,4Rのうち、左右対称状に位置する2輪(駆動輪4R)を回転駆動する。それにより、自動車1は移動(走行)する。
【0024】
この自動車1の場合、エンジン3は車体の前側に配置されており、駆動輪4Rは車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。更に、この自動車の駆動源の主体はエンジン3であり、駆動モータ2は、エンジン3の駆動をアシストする形で利用される(いわゆるマイルドハイブリット)。駆動モータ2はまた、発電機としても利用される(いわゆる回生)。
【0025】
エンジン3は、例えばガソリンを燃料にして燃焼を行う内燃機関である。エンジン3は、軽油を燃料とするディーゼル機関であってもよい。駆動モータ2は、第1クラッチ5を介してエンジン3の後方に連結されている。駆動モータ2は、三相の交流によって駆動する永久磁石同期モータである。
【0026】
この駆動モータ2は上述したように磁力可変モータである。そのロータには、後述する磁力固定磁石40及び磁力可変磁石51,52が設けられていて、磁力の変更が可能に構成されている。モータ性能を向上するために、そのロータの構造は工夫が施されている。駆動モータ2の詳細については後述する。
【0027】
駆動モータ2は、インバータ6を介して駆動バッテリ7と接続されている。駆動バッテリ7は、複数のリチウムイオン電池で構成されている。駆動バッテリ7の定格電圧は50V以下(具体的には48V)である。駆動バッテリ7は、インバータ6に直流電力を供給する。インバータ6は、その直流電力を位相が異なる3相の交流電流に変換して駆動モータ2に供給する。それにより、駆動モータ2は回転する。
【0028】
駆動モータ2の後方には、第2クラッチ8を介して変速機9が連結されている。変速機9は、多段式自動変速機(いわゆるAT)である。エンジン3及び/又は駆動モータ2によって出力される回転動力は、第2クラッチ8を通じて変速機9に出力される。変速機9はプロペラシャフトを介してデファレンシャルギアに連結されている。
【0029】
デファレンシャルギアは、一対の駆動シャフトを介して左右の駆動輪4Rに連結されている。自動車1の走行時(力行時)には、変速機9で変速された回転動力が、デファレンシャルギアで振り分けられて各駆動輪4Rに伝達される。
【0030】
自動車1の減速時(回生時)には、駆動モータ2を用いて消費されるエネルギーの回収が行われる。具体的には、自動車1が制動する時に、第2クラッチ8は連結したままで第1クラッチ5を解放する。そうすることにより、駆動輪の回転動力で駆動モータ2を回転させて発電する。その電力を駆動バッテリ7に充電してエネルギーを回収する。
【0031】
〈燃費の向上〉
ハイブリッド車の場合、力行時には主にエンジン3が用いられるので、燃費に対する駆動モータ2の影響は小さい。一方、回生時には主に駆動モータ2が用いられるので、燃費に対する駆動モータ2の影響は大きい。
【0032】
自動車1は高頻度で減速する。そのため、減速時に消費されるエネルギーは多い。従って、ハイブリッド車の燃費向上のためには、回生時のエネルギー回収率を高めることが重要である。
【0033】
そのためには、駆動モータ2の高出力化が有効であり、それに対して、駆動モータ2のロータ10の磁力を変更可能にすること、すなわち、駆動モータ2に磁力可変モータを採用するのが効果的である。磁力可変モータであれば、広範囲な運転領域で力率を最適化することが可能になるので、高出力にできる。
【0034】
そして、力率を最適化、すなわち、ステータ20とロータ10との各磁力の対抗成分が略一致するようにすれば、駆動モータ2を高出力にできる。それに対し、通常の永久磁石型同期モータの場合、ロータ10の磁力は一定である。そのため、力率を最適化できるのは一部の運転領域だけである。
【0035】
それに対し、磁力可変モータであれば、ロータ10の磁力を変更できるので、広範囲な運転領域で力率を最適化できる。そして、広範囲な運転領域で力率を最適化できれば、駆動モータ2を高出力化できる。更に、工夫することによって高効率化も実現可能になるので、自動車1の燃費を向上できる。
【0036】
<駆動モータの運転領域>
図2に、駆動モータ2の運転領域を表したマップを例示する。このマップでは、回転数別のトルク(負荷)の上限値を示す負荷上限ラインTmにより、駆動モータ2が出力できる運転領域が画定されている。
【0037】
磁力可変モータの運転領域は、力率が最適化されるように、ロータ10の磁力別に複数の磁化領域に区画されている。例示のマップでは、3つの磁化領域に区画されている。
【0038】
すなわち、最大トルクT1を含み、負荷上限ラインに沿って高負荷側に拡がる第1磁化領域Rm1と、第1磁化領域Rm1よりも低負荷側に拡がる第2磁化領域Rm2と、第2磁化領域Rm2よりも低負荷側に拡がり、高回転側において駆動モータ2が空運転するトルク(自動車1の走行に寄与しないトルク)T0を含む第3磁化領域Rm3と、に区画されている。
【0039】
これら磁化領域Rmの各々は、それぞれの出力に対応した最適な磁力が設定される。通常、第1磁化領域Rm1の磁力は、第2磁化領域Rm2の磁力よりも高く、第3磁化領域Rm3の磁力は、第2磁化領域Rm2の磁力よりも低く設定される。
【0040】
自動車1の走行中、駆動モータ2の運転状態に基づいて磁化領域Rmが予測され、磁化領域Rmを移行する場合には、その磁化領域の磁力に合わせてロータ10の磁力が変更される。例えば、第2磁化領域Rm2から第1磁化領域Rm1に移行する場合には、駆動モータ2で増磁が実行される。第2磁化領域Rm2から第3磁化領域Rm3に移行する場合には、駆動モータ2で減磁が実行される。
【0041】
詳細は後述するが、増磁又は減磁する場合には、ステータ20に対してロータ10が所定位置となるタイミングで、所定のコイル22にパルス状の大電流を流す。そうすることによって処理対象とする磁力可変磁石51,52に対してステータ20から強い磁界を発生させる。それにより、所定の磁力が得られるまで磁力可変磁石51,52を着磁する。
【0042】
増磁と減磁とでは発生させる磁界の向きは逆である。増磁では、磁力可変磁石51,52の磁力が磁力固定磁石40の磁力と同方向に向くように着磁する。減磁では、磁力可変磁石51,52の磁力が磁力固定磁石40の磁力と逆方向に向くように着磁する。着磁の状態により、磁力可変磁石51,52の磁力の向きを反転したり磁力の強さを大小に変化したりできる。
【0043】
しかしながら、着磁は車載機器の制限を受ける。すなわち、磁力可変磁石51,52の磁力を強く着磁するためには、大電流を駆動モータ2に供給する必要があり、駆動バッテリ7の電圧及びインバータ6の容量によって制限を受ける。
【0044】
これら機器を大型化することも考えられるが、車載されているので大型化することは難しい。そのため、既存の機器を用いる制限された条件下でも適切に着磁できるように、ここに開示する技術では、駆動モータ2の構造、特にロータ10の構造を工夫している。
【0045】
〈駆動モータの構成〉
図3は、駆動モータ2の横断面を示す。
図3に示すように、駆動モータ2は、後述する磁極部12を16個有する16極のモータである。駆動モータ2は、ロータ10と、ステータ20と、シャフト30とを備える。
【0046】
以下の説明では、回転軸方向又は軸方向は、回転軸Jが延びている方向を表す。径方向は、回転軸Jを中心とした半径方向を表す。周方向は、回転軸Jを中心としたその周囲の方向を表す。径方向において、回転軸Jから遠い側を「径方向外側」といい、回転軸Jに近い側を「径方向内側」という。
【0047】
〔ステータ〕
ステータ20は、径方向においてロータ10と隙間を隔てて対向する。ステータ20は、ステータコア21と、複数のコイル22とを有する。
【0048】
ステータコア21は、円環状に形成されたバックヨーク21aと、バックヨーク21aから径方向内側に放射状に突出する複数(48個)のティース21bとを有する。例えば、ステータコア21は、透磁率の高い複数の電磁鋼板を回転軸方向に積層して構成された積層コアである。
【0049】
複数のコイル22は、複数のティース21bに巻回される。複数のコイル22が通電すると、複数のコイル22に磁束が発生する。例えば、複数のコイル22は、流れる電流の位相が異なるU相、V相、及びW相からなる三相のコイル群を構成している。各相のコイル22は、周方向に順番に配置されている。
【0050】
この例では、複数のコイル22において発生する磁束には、ロータ10を回転させるための磁束である回転磁束と、後述する第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の磁化状態を変化させるための磁束である可変磁束(所定の磁束)とが含まれる。
【0051】
例えば、複数のコイル22に交流電流を供給することにより、複数のコイル22に回転磁束が発生する。この回転磁束によりロータ10が回転する。また、ロータ10の回転中(又は停止中)に、複数のコイル22に所定の電流(例えば回転磁束を発生させる交流電流よりも高いパルス電流)を所定の時間だけ供給することにより、複数のコイル22に可変磁束が発生する。この可変磁束により後述する第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の磁化状態が変化する。
【0052】
〔ロータ〕
次に、
図4~
図6を参照して、ロータ10について説明する。ロータ10は、ロータコア11と、複数の磁極部12とを備える。
【0053】
〔ロータコア〕
ロータコア11は、円柱状に形成される。例えば、ロータコア11は、透磁率の高い複数枚の電磁鋼板が軸方向に積層された積層コアである。ロータコア11の中央部には、軸孔が設けられる。軸孔には、シャフト30が挿入されて固定される。
【0054】
〔磁極部〕
複数の磁極部12は、ロータコア11に設けられ、周方向に並ぶ。複数の磁極部12の各々は、磁力固定磁石40と、第1磁力可変磁石51と、第2磁力可変磁石52と、第1補助磁力固定磁石61と、第2補助磁力固定磁石62と、を有する。
【0055】
ロータ10の周方向に相隣接する磁極部12は、互いに磁性が異なっている。具体的には、磁力固定磁石40、第1補助磁力固定磁石61、及び第2補助磁力固定磁石62の磁化方向が互いに逆向きになっている。以下の説明では、複数の磁極部12のうち一部を第1磁極部12Nといい、第1磁極部12Nと周方向に相隣接する磁極部12を第2磁極部12Sという。
【0056】
尚、第1磁極部12Nと第2磁極部12Sとでは、磁力固定磁石40、第1補助磁力固定磁石61、及び第2補助磁力固定磁石62の磁化方向が異なるだけで、構成自体は同じであるため、以下の説明では、特に言及しない限り、第1磁極部12Nと第2磁極部12Sとを区別せずに、単に磁極部12として説明する。
【0057】
〈磁力固定磁石〉
磁力固定磁石40は、一対の磁石で構成されている。磁力固定磁石40は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、磁力固定磁石40は、ロータコア11に設けられた磁力固定磁石孔S40に収容される。また、磁力固定磁石40は、径方向と直交する方向(接線方向)に延びる。具体的には、磁力固定磁石40は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向が接線方向を向く。
【0058】
また、磁力固定磁石40は、径方向に着磁される。この例では、第1磁極部12Nの磁力固定磁石40は、径方向外端がN極となるように着磁される。第2磁極部12Sの磁力固定磁石40は、径方向外端がS極となるように着磁される。
【0059】
磁力固定磁石40には、ネオジム磁石などの、磁束密度が高く、保磁力も大きい磁石が用いられる。磁力固定磁石40は、所定の磁束、例えば駆動バッテリ7及びインバータ6が出力可能な大電流(例えば750Arms)で発生する磁束が印加されても磁化状態が実質的に変化しない。磁力固定磁石40の保磁力は、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の保磁力よりも高い。これら磁力固定磁石40は、それぞれ異なる磁性体であってもよいが、このロータ10では、同じ磁性体が用いられている。
【0060】
〈第1磁力可変磁石〉
第1磁力可変磁石51は、第1磁極部12Nにおける磁力固定磁石40の周方向の一端側及び他端側の部分にそれぞれ配置される。各第1磁力可変磁石51は、磁力固定磁石40よりも径方向外側にそれぞれ配置される。
【0061】
各第1磁力可変磁石51は、q軸に隣接して配置されている。第1磁極部12Nの各第1磁力可変磁石51は、第2磁極部12Sの各第1磁力可変磁石51とq軸を挟んで隣り合う。q軸は、周方向において隣り合う2つの磁極部12の間を通過して径方向に延びる仮想線である。
【0062】
第1磁力可変磁石51とq軸との間の周方向の長さは、第1磁力可変磁石51と磁力固定磁石40との間の周方向長さよりも短い。第1磁力可変磁石51は、周方向において磁力固定磁石40と間隔をおいてそれぞれ対向する。
【0063】
第1磁力可変磁石51は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第1磁力可変磁石51は、ロータコア11に設けられた第1磁力可変磁石孔S51に収容される。また、第1磁力可変磁石51は、q軸(周方向において隣り合うq軸)に沿うように延びる。具体的には、第1磁力可変磁石51は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向がq軸と平行な方向を向く。
【0064】
また、複数の磁極部12の各々において、各第1磁力可変磁石51は、磁力固定磁石40の周方向における中央を通過して径方向に延びる仮想線(d軸)を軸として対称となっている。
【0065】
〈第2磁力可変磁石〉
第2磁力可変磁石52は、周方向において磁力固定磁石40と各第1磁力可変磁石51との間の位置にそれぞれ配置される。各第2磁力可変磁石52は、径方向において、磁力固定磁石40よりも径方向外側、より詳しくは、第1磁力可変磁石51と同じ位置にそれぞれ配置される。
【0066】
第2磁力可変磁石52は、周方向において磁力固定磁石40と間隔をおいて対向する。第2磁力可変磁石52とq軸との間の周方向長さは、第2磁力可変磁石52と磁力固定磁石40との間の周方向長さよりも短い。
【0067】
第2磁力可変磁石52は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第2磁力可変磁石52は、ロータコア11に設けられた第2磁力可変磁石孔S52に収容される。また、第2磁力可変磁石52は、q軸(周方向において隣り合うq軸)に沿うように延びる。具体的には、第2磁力可変磁石52は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向がq軸と平行な方向を向く。
【0068】
各第2磁力可変磁石52は、磁力固定磁石40の周方向における中央を通過して径方向に延びる仮想線(d軸)を軸として対称となっている。
【0069】
〈磁力可変磁石の磁気特性〉
第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52には、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石などの、磁束密度は高いが、保磁力は小さい磁石が用いられる。第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の各々は、所定の磁束、例えば駆動バッテリ7及びインバータ6が出力可能な大電流(例えば750Arms)で発生する磁束により、その磁力を変化させることができる。第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52は、駆動モータ2を普通に駆動する時の電流の大きさでは、ほとんど着磁しない。このときには、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52も永久磁石として機能する。
【0070】
この例では、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の各々の磁化容易方向は、周方向、より詳しくは、径方向と直交する方向(接線方向)を向く。第1磁力可変磁石51の磁化困難方向は、第1磁力可変磁石51の磁化容易方向と直交する方向(この例では径方向)を向く。第2磁力可変磁石52の磁化困難方向は、第2磁力可変磁石52の磁化容易方向と直交する方向(この例では径方向)を向く。
【0071】
また、この例では、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の各々は、磁化方向が第1方向を向く状態と、磁化方向が第2方向を向く状態と、磁力が実質的にゼロとなるゼロ状態とに切り換え可能である。第1方向は、ティース21bと鎖交する磁束(有効磁束)を増加させる方向である。第2方向は、ティース21bと鎖交する磁束(有効磁束)を減少させる方向である。例えば、第1方向は、第2磁極部12Sから第1磁極部12Nへ向かう方向となり、第2方向は、第1磁極部12Nから第2磁極部12Sへ向かう方向となる。
【0072】
第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の各々は、ステータ20のコイル22において発生する同じ可変磁束により周方向における磁化状態を変化させるため、第1磁力可変磁石51の磁化方向が第1方向であるときには、第2磁力可変磁石52の磁化方向も第1方向となり、第1磁力可変磁石51の磁化方向が第2方向であるときには、第2磁力可変磁石52の磁化方向も第2方向となる。
【0073】
以下の説明において、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の磁化方向が第1方向を向いた状態を増磁状態といい、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の磁化方向が第2方向を向いた状態を減磁状態という。
【0074】
〈第1補助磁力固定磁石〉
第1補助磁力固定磁石61は、磁力固定磁石40の径方向外側の位置に配置される。第1補助磁力固定磁石61の径方向における位置は、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の径方向の中央位置と略同じ位置である。
【0075】
第1補助磁力固定磁石61は、ロータコア11に埋め込まれる。この例では、第1補助磁力固定磁石61は、ロータコア11に設けられた第1補助磁力固定磁石孔S61に収容される。また、第1補助磁力固定磁石61は、磁力固定磁石40の径方向の一端部に沿うように延びる。具体的には、第1補助磁力固定磁石61は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向が周方向を向く。第1補助磁力固定磁石61の短手方向の長さは、磁力固定磁石40の短手方向の長さよりも短い。
【0076】
第1補助磁力固定磁石61は、その磁化方向が磁力固定磁石40の磁化方向と同じになるように着磁される。つまり、第1磁極部12Nの第1補助磁力固定磁石61は、径方向外端がN極となるように着磁される。第2磁極部12Sの磁力固定磁石40は、径方向外端がS極となるように着磁される。
【0077】
第1補助磁力固定磁石61には、ネオジム磁石などの、磁束密度が高く、保磁力も大きい磁石が用いられる。第1補助磁力固定磁石61は、所定の磁束、例えば駆動バッテリ7及びインバータ6が出力可能な大電流(例えば750Arms)で発生する磁束が印加されても磁化状態が実質的に変化しない。第1補助磁力固定磁石61の保磁力は、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の保磁力よりも高い。これら第1補助磁力固定磁石61は、それぞれ異なる磁性体であってもよいが、このロータ10では、同じ磁性体が用いられている。
【0078】
〈第2補助磁力固定磁石〉
第2補助磁力固定磁石62は、磁力固定磁石40の周方向両側に該磁力固定磁石40に隣接してそれぞれ配置される。第2補助磁力固定磁石62の径方向における位置は、磁力固定磁石40と同じ位置である。
【0079】
各第2補助磁力固定磁石62は、ロータコア11にそれぞれ埋め込まれる。この例では、各第2補助磁力固定磁石62は、ロータコア11に設けられた第2補助磁力固定磁石孔S62にそれぞれ収容される。また、各第2補助磁力固定磁石62は、磁力固定磁石40の周方向の一端部に沿うようにそれぞれ延びる。具体的には、第2補助磁力固定磁石62は、横断面形状が矩形状に形成され、長手方向が径方向を向く。第2補助磁力固定磁石62の長手方向の長さは、磁力固定磁石40の短手方向の長さよりも短い。
【0080】
各第2補助磁力固定磁石62は、周方向にそれぞれ着磁される。具体的には、第1磁極部12Nの各第2補助磁力固定磁石62は、周方向における磁力固定磁石40に近い側がN極となるようにそれぞれ着磁される。第2磁極部12Sの各第2補助磁力固定磁石62は、周方向における磁力固定磁石40に近い側がS極となるようにそれぞれ着磁される。
【0081】
第2補助磁力固定磁石62には、ネオジム磁石などの、磁束密度が高く、保磁力も大きい磁石が用いられる。第2補助磁力固定磁石62は、所定の磁束、例えば駆動バッテリ7及びインバータ6が出力可能な大電流(例えば750Arms)で発生する磁束が印加されても磁化状態が実質的に変化しない。第2補助磁力固定磁石62の保磁力は、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の保磁力よりも高い。これら第2補助磁力固定磁石62は、それぞれ異なる磁性体であってもよいが、このロータ10では、同じ磁性体が用いられている。
【0082】
〈第1空隙部〉
各磁極部12は、磁力固定磁石40の径方向内側の部分から、周方向における第1磁力可変磁石51と第2磁力可変磁石との中間領域にまで広がる第1空隙部71をそれぞれ有する。第1空隙部71は、各磁極部12に2つ形成されている。各第1空隙部71は、d軸に対して対称になるようにそれぞれ形成されている。
【0083】
各第1空隙部71は、周方向における磁力固定磁石40の位置から第1磁力可変磁石51に向かって、径方向の長さが長くなるように広がっている。第1空隙部71において最も径方向外側に位置する部分は、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の径方向内側の端部よりも径方向内側に位置している。
【0084】
〈第2空隙部〉
各磁極部12は、周方向における第1補助磁力固定磁石61と第1磁力可変磁石51との間に第2空隙部72をそれぞれ有する。第2空隙部72は、各磁極部12に2つ形成されている。各第2空隙部72は、d軸に対して対称になるようにそれぞれ形成されている。
【0085】
第2空隙部72は、径方向において、第1補助磁力固定磁石61の位置から磁力固定磁石40の位置まで延びている。また、第2空隙部72は、周方向において、磁力固定磁石40の位置から第2磁力可変磁石52の位置まで延びている。
【0086】
図5に示すように、第2空隙部72は、略T字状をなしている。第2空隙部72は、径方向に延びる縦延び部72aと、周方向に延びる横延び部72bと、縦延び部72aと横延び部72bとが交差する交差部72cとを有する。
【0087】
縦延び部72aの径方向外側の端部は、第1補助磁力固定磁石61の径方向外側の端部よりも径方向外側に位置している。縦延び部72aの周方向の幅は、その径方向外側の端部から第1補助磁力固定磁石61の径方向の中央位置までは略一定であって、第1補助磁力固定磁石61の径方向の中央位置からは、径方向内側に向かって広くなっている。より具体的には、縦延び部72aにおける周方向の第1補助磁力固定磁石61に近い側の部分は、第1補助磁力固定磁石61の短手方向に沿って延びている一方で、縦延び部72aにおける周方向の第1補助磁力固定磁石61から遠い側の部分は、第1補助磁力固定磁石61の径方向の中央位置からは、径方向内側ほど第2磁力可変磁石52に近づくように湾曲して延びている。このため、第2空隙部72の周方向の幅は、第1補助磁力固定磁石61よりも径方向外側の部分よりも、第1補助磁力固定磁石61よりも径方向内側の部分の方が広い。
【0088】
縦延び部72aにおける第1補助磁力固定磁石61よりも径方向外側の部分は、その幅h2が、ステータ20とロータ10との隙間の最小幅h1よりも狭い。
【0089】
また、第1補助磁力固定磁石61と縦延び部72aとの周方向の間隔d2は、第1補助磁力固定磁石61とロータコア11の外縁との最狭の間隔d1よりも狭い。より具体的には、間隔d2は、第1補助磁力固定磁石61の内部の磁束密度を1Tと仮定した場合、ロータコア11における第1補助磁力固定磁石61と縦延び部72aとの間の部分が1.5T以上になったときに、以下の式を満たす寸法である。
【0090】
d2 < (1/1.5)×w
wは、第1補助磁力固定磁石61の長手方向の幅である。尚、1.5Tは、ロータコア11の構成材である電磁鋼板が磁気飽和状態になる磁束密度である。
【0091】
横延び部72bは、周方向における第2磁力可変磁石52の中央位置まで延びている。横延び部72bの径方向の幅は、周方向における第2磁力可変磁石52に近い側から遠い側に向かって徐々に広くなっている。より具体的には、横延び部72bにおける径方向内側の部分は、周方向に沿って延びている一方で、横延び部72bにおける径方向外側の部分は、第2磁力可変磁石52から遠くなるほど径方向外側に位置するように湾曲して延びている。横延び部72bの径方向外側の部分は、縦延び部72aにおける周方向の第1補助磁力固定磁石61から遠い側の部分と連続するように湾曲している。
【0092】
第2空隙部72における磁力固定磁石40に隣接する部分は、周方向の幅が、縦延び部72aの幅h2よりも広い。
【0093】
〔減磁状態での磁束の流れ〕
図6は、減磁状態での磁束の流れを例示する。
図6の黒線の矢印は各磁石(磁力固定磁石40、第1磁力可変磁石51、第2磁力可変磁石52、第1補助磁力固定磁石61、及び第2補助磁力固定磁石62)の磁化方向を示す。
図6の白抜きの矢印は磁束の流れを示す。
【0094】
図6に示すように、減磁状態であるため、第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52の磁化方向は第1磁極部12Nから第2磁極部12Sに向かう方向である。このとき、ロータ10では、第1磁極部12Nと第2磁極部12Sとの間で第1閉磁路M1が形成される。具体的には、第1磁極部12Nの磁力固定磁石40及び第1補助磁力固定磁石61から径方向外側に出た磁束は、第1磁極部12Nの第2空隙部72を通過して、第1磁極部12Nの第2磁力可変磁石52及び第1磁力可変磁石51を経由して第2磁極部12Sに入る。その後、前記磁束は、第2磁極部12Sの第1磁力可変磁石51及び第2磁力可変磁石52を経由して、第2磁極部12Sの第2空隙部72を通過した後、第2磁極部12Sの磁力固定磁石40及び第1補助磁力固定磁石61に入る。そして、第2磁極部12Sの磁力固定磁石40及び第1補助磁力固定磁石61から出た磁束は、ロータコア11の磁力固定磁石40よりも径方向内側の部分を通って、第1磁極部12Nの磁力固定磁石40に入る。
【0095】
また、
図6に示すように、各磁極部12内において、磁力固定磁石40、第1補助磁力固定磁石61、第2磁力可変磁石52、及び第2補助磁力固定磁石62により形成される第2閉磁路M2が形成される。具体的には、第1磁極部12N内では、磁力固定磁石40及び第1補助磁力固定磁石61から径方向外側に出た磁束は、第2空隙部72を通過した後、第2磁力可変磁石52を経由して、ロータコア11における第1空隙部71と第2空隙部72との間の部分に入る。その後、該磁束は、第2補助磁力固定磁石62を経由して磁力固定磁石40に入るか又は磁力固定磁石40に直接入る。一方の第2磁極部12S内では、磁力固定磁石40及び第2補助磁力固定磁石62から出た磁束は、ロータコア11における第1空隙部71と第2空隙部72との間の部分を通って、第2磁力可変磁石52に到達する。その後、該磁束は、第2空隙部72を通過して、第1補助磁力固定磁石61を経由して磁力固定磁石40に入るか又は磁力固定磁石40に直接入る。
【0096】
空隙はロータコア11と比較して磁気抵抗が大きいため、磁束は、出来る限り空隙が狭い部分を通過しようとする。本実施形態では、第2空隙部72の縦延び部72aにおける第1補助磁力固定磁石61よりも径方向外側の部分は、その幅h2が、ステータ20とロータ10との隙間の最小幅h1よりも狭い。このため、第1補助磁力固定磁石61よりも径方向外側において、磁束は、ロータ10から外に漏れるよりも、第2空隙部72を通過して再びロータコア11に入るように流れる。これにより、第1磁極部12Nと第2磁極部12Sとの間で閉磁路が形成されて、ロータ10からの磁束漏れが抑制される。
【0097】
また、第2空隙部72によって、第1補助磁力固定磁石61自身の磁束の短絡が抑制されて、第1補助磁力固定磁石61からの磁束は、第1補助磁力固定磁石61から第2磁力可変磁石52に向かうように流れる。
【0098】
〔実施形態1の効果〕
以上のように、実施形態1のロータ構造を有するロータ10では、第2空隙部72を設けることにより第1補助磁力固定磁石61自身の磁束の短絡が抑制される。また、第2空隙部72の縦延び部72aにおける周方向の幅h2を、ステータ20とロータ10との隙間の最小幅h1よりも狭くしたことで、減磁状態において、第1磁極部12Nの磁力固定磁石40及び第1補助磁力固定磁石61からの磁束は、第1磁極部12Nの第1磁力可変磁石51に向かいやすくなる。これにより、第1磁極部12Nと第2磁極部12Sとの間で第1閉磁路M1を形成することができ、ステータ20に磁束が漏れることを出来る限り抑制することができる。この結果、鉄損を出来る限り抑制することができる。
【0099】
したがって、実施形態1のロータ10では、磁化方向を変更しにくい磁石を径方向に並べて配置した際の、径方向外側に位置する磁石(ここでは第1補助磁力固定磁石61)の磁束の短絡を抑制しつつ、減磁状態における鉄損を出来る限り抑制することができる。
【0100】
また、本実施形態1のロータ10では、第2空隙部72の周方向の幅は、第1補助磁力固定磁石61よりも径方向外側の部分よりも、第1補助磁力固定磁石61よりも径方向内側の部分の方が広い。これにより、第1補助磁力固定磁石61の磁束の短絡をより効果的に抑制することができる。
【0101】
また、本実施形態1のロータ10では、また、第1補助磁力固定磁石61と第2空隙部72との周方向の間隔d2は、第1補助磁力固定磁石61とロータコア11の外縁との最狭の間隔d1よりも狭い。これにより、第1補助磁力固定磁石61の磁束の短絡をより効果的に抑制することができる。
【0102】
また、本実施形態1のロータ10では、各磁極部12は、第2空隙部72と第1磁力可変磁石51との間に、それぞれが所定の磁束により周方向における磁化状態を変化させることが可能な第2磁力可変磁石52を有する。これにより、磁力固定磁石40及び第1補助磁力固定磁石61からの磁束は、第2磁力可変磁石52によって、第1磁力可変磁石51により向かいやすくなる。これにより、第1磁極部12Nと第2磁極部12Sとの間で第1閉磁路M1をより形成しやすくなるため、鉄損をより効果的に抑制することができる。
【0103】
また、本実施形態1のロータ10は、第2磁力可変磁石52に加えて、磁力固定磁石40の周方向の両側に、磁力固定磁石40に隣接して配置された2つの第2補助磁力固定磁石62を有する。これにより、各磁極部12内でも第2閉磁路M2が形成される。これにより、ロータ10からの磁束の漏れを抑制でき、鉄損をより効果的に抑制することができる。
【0104】
(実施形態2)
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0105】
実施形態2のロータ210では、第2磁力可変磁石52及び第2補助磁力固定磁石62が設けられていない点、及び第2空隙部272の形状が異なる点で、前記実施形態1とは異なる。
【0106】
第2空隙部272は、前記実施形態1でいう横延び部を有しておらず、縦延び部のみで構成されている。本実施形態2においても、第2空隙部272の周方向の幅は、第1補助磁力固定磁石61よりも径方向外側の部分よりも、第1補助磁力固定磁石61よりも径方向内側の部分の方が広い。
【0107】
また、本実施形態2においても、第2空隙部272における第1補助磁力固定磁石61よりも径方向外側の部分は、その幅が、ステータ20とロータ10との隙間の最小幅よりも狭い。また、第1補助磁力固定磁石61と第2空隙部272との周方向の間隔d2は、第1補助磁力固定磁石61とロータコア11の外縁との最狭の間隔d1よりも狭い。
【0108】
本実施形態2の構成であっても、第1補助磁力固定磁石61の磁束の短絡を抑制できる。また、第1補助磁力固定磁石61からの磁束がステータ20側よりも第1磁力可変磁石51側に向かいやすいため、第1磁極部212Nと第2磁極部212Sとの間で閉磁路が形成されやすい。このため、鉄損を効果的に抑制することができる。
【0109】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0110】
前述の実施形態1及び2では、ロータ10,210を有するモータの適用対象として、ハイブリッド自動車を例示した。これに限らず、ロータ10,210を有するモータは、エンジンEを有していない電気自動車に対しても適用可能である。
【0111】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
ここに開示された技術は、ロータコアを有するロータと、ロータコアと空隙を空けて配置されたステータコアを有するステータとを備えた回転電機のロータ構造として有用である。
【符号の説明】
【0113】
10 ロータ
11 ロータコア
12 磁極部
12N 第1磁極部(一の磁極部)
12S 第2磁極部(他の磁極部)
20 ステータ
21 ステータコア
40 磁力固定磁石
51 第1磁力可変磁石
52 第2磁力可変磁石
61 第1補助磁力固定磁石
72 第2空隙部
210 ロータ
d1 補助磁力固定磁石とロータコアの外縁との間の間隔
d2 補助磁力固定磁石と空隙部との間の間隔
h1 ロータとステータとの間の最小幅
h2 空隙部の周方向の幅