(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108429
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/029 20120101AFI20240805BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240805BHJP
【FI】
F16H57/029
F16H57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012786
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細尾 俊和
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA04
3J063AB01
3J063AC01
3J063AC11
3J063BA07
3J063BB03
3J063CA01
3J063CA05
3J063CB41
3J063CD45
(57)【要約】
【課題】オイルシールの劣化によるオイル漏れを早期に発見して異種のオイルの混流を防止する。
【解決手段】モータと、ディファレンシャル機構と、モータとディファレンシャル機構との間に介装され出力軸31を有する減速機構と、これらの機構が一体収容されるハウジング部50とを備え、減速機構用潤滑油が収容される第1収容部51とディファレンシャル機構用潤滑油が収容される第2収容部52とを区画する隔壁部53と、隔壁部53と出力軸31との間で第1収容部側を密閉する第1オイルシール71と、隔壁部53と出力軸31との間で第2収容部側を密閉する第2オイルシール72と、隔壁部53に出力軸31の下方へ延設された貫通孔56と、貫通孔56の下部を閉塞部材80で塞がれ形成されたオイル貯留部57と、オイル貯留部57の上方で貫通孔56から下向きに分岐され貫通孔56を大気解放する大気解放部58と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたモータと、
前記車両の左右駆動輪へ前記モータの駆動力を差動分配するディファレンシャル機構と、
前記モータと前記ディファレンシャル機構との間に介装され、前記モータの駆動力を前記ディファレンシャル機構に伝える出力軸を有する減速機構と、
前記減速機構と前記ディファレンシャル機構とが一体的に収容されるハウジング部と、
を備えた車両用駆動装置であって、
前記ハウジング部は、
前記減速機構を潤滑する減速機構用潤滑油が収容される第1収容部と前記ディファレンシャル機構を潤滑するディファレンシャル機構用潤滑油が収容される第2収容部とを区画する隔壁部と、
前記隔壁部と前記出力軸との間に設けられ、前記第1収容部側を密閉する第1オイルシールと、
前記隔壁部と前記出力軸との間に設けられ、前記第2収容部側を密閉する第2オイルシールと、
前記第1オイルシールと前記第2オイルシールとの間の隔壁部に形成され、前記出力軸よりも下方に延設された貫通孔と、
前記貫通孔の下部を閉塞部材により塞ぐことで形成されたオイル貯留部と、
前記オイル貯留部よりも上方で前記貫通孔から下向きに分岐され、前記貫通孔を大気解放する大気解放部と、を備えた
ことを特徴とする、車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動トラックに用いて好適な車両用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、内燃機関を備えることなく駆動源としてモータを使用して車両を走行させる電気自動車が開発されている。このような電気自動車には、モータと複数のギヤからなる減速機構とを含む駆動装置を備え、当該駆動装置及びディファレンシャル機構を介して、モータの駆動力を駆動輪に伝達するものがある。このような構成の電気自動車は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
また、電気自動車の開発は、乗用車のみならず、トラック等の中・大型車の分野においても行われており、上記のような駆動装置を利用することで、内燃機関を搭載することなくバッテリによる電力だけで走行できるようにした電動トラックが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電気自動車の場合、減速機とディファレンシャル機構(デフ機構)とを一体的にハウジングに収容することによって、駆動装置の省スペース化を図ることが考えられる。特に上記のような電動トラックの場合は、スペース効率の向上効果が大きく期待される。
【0006】
なお、通常、減速機側のシャフトやギヤなど潤滑には減速機用ギヤオイルが使用され、ディファレンシャル機構側のシャフトやギヤの潤滑にはデフオイル(ディファレンシャル用オイル)が使用される。減速機用ギヤオイルとデフオイルとは性状が異なるため、このように減速機とデフ機構とを一体的に備える場合、減速機用ギヤオイルが流通する空間とデフオイルが流通する空間とをハウジング内で隔壁等によって区切ると共に、夫々のオイルが漏れないようオイルシールによってシールすることが必要になる。
【0007】
しかしながら、何らかの理由によって一方の空間をシールするオイルシールが劣化した場合、他方の空間に異種のオイルが混流してしまう虞がある。そのため、オイルシールの劣化によるオイル漏れを早期に発見する必要がある。
【0008】
本件はこのような課題に着目して創案されたもので、隣接する2つの空間にそれぞれ流通されるオイルをシールするオイルシールの劣化によるオイル漏れを早期に発見して、異種のオイルが混流してしまうことを防止する車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
本適用例に係る車両用駆動装置は、車両に搭載されたモータと、前記車両の左右駆動輪へ前記モータの駆動力を差動分配するディファレンシャル機構と、前記モータと前記ディファレンシャル機構との間に介装され、前記モータの駆動力を前記ディファレンシャル機構に伝える出力軸を有する減速機構と、前記減速機構と前記ディファレンシャル機構とが一体的に収容されるハウジング部と、を備えた車両用駆動装置であって、前記ハウジング部は、前記減速機構を潤滑する減速機構用潤滑油が収容される第1収容部と前記ディファレンシャル機構を潤滑するディファレンシャル機構用潤滑油が収容される第2収容部とを区画する隔壁部と、前記隔壁部と前記出力軸との間に設けられ、前記第1収容部側を密閉する第1オイルシールと、前記隔壁部と前記出力軸との間に設けられ、前記第2収容部側を密閉する第2オイルシールと、前記第1オイルシールと前記第2オイルシールとの間の隔壁部に形成され、前記出力軸よりも下方へ延設された貫通孔と、前記貫通孔の下部を閉塞部材により塞ぐことで形成されたオイル貯留部と、前記オイル貯留部よりも上方で前記貫通孔から下向きに分岐され、前記貫通孔を大気解放する大気解放部と、を備えたことを特徴としている。
【0010】
本適用例によれば、オイルシールの劣化によるオイル漏れが生じると、大気解放部から外部にオイルが漏れ出るので、オイル漏れを早期に発見することができ、異種のオイルの混合を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本件によれば、オイルシールの劣化によるオイル漏れを早期に発見することができ、異種のオイルの混合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態にかかる車両用駆動装置のハウジング部の要部を拡大して示す鉛直断面図(
図3のA部拡大図)である。
【
図2】実施形態にかかる車両用駆動装置の模式的な構成図である。
【
図3】実施形態にかかる車両用駆動装置のハウジング部の要部を示す鉛直断面図(
図2のB-B矢視断面に相当する図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本件の実施形態について説明する。以下の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせられる。
【0014】
なお、本実施形態にかかる車両用駆動装置が搭載される車両は、内燃機関を搭載することなくバッテリによる電力だけで走行できる電動車両であり、特に、大型で、スペース効率向上の要求が強い電動トラックであるものとする。ただし、本車両用駆動装置は、電動トラックに限らず、電動車両に広く適用しうるものである。
【0015】
[1.構成]
図2は本実施形態にかかる車両用駆動装置の構成を示す模式的な平面図である。
図2に示すように、車両用駆動装置10は、電動モータ20(以下、単に、モータ20ともいう)と、減速機構30と、ディファレンシャル機構40(以下、単に、デフ機構40ともいう)とを備え、減速機構30とデフ機構40とは、ハウジング部50内に一体的に収容されている。ハウジング部50は、モータ20のハウジング21と一体化され、本車両用駆動装置10は、1つのユニットとして構成されている。
【0016】
減速機構30は、モータ20の図示しない出力軸に駆動連結され、モータ20から出力される駆動力の回転速度を減速(変速)してデフ機構40に出力する。減速機構30は、モータ20からの駆動力をデフ機構40に伝える出力軸31を有している。
デフ機構40は、減速機構30の出力軸31から入力されたモータ20の駆動力を、車両の左右駆動輪61,62へ差動分配する。
【0017】
ハウジング部50は、減速機構30を収容する第1収容部51とデフ機構40を収容する第2収容部52とを備えている。これらの第1収容部51と第2収容部52とは、隔壁部53によって区画されている。第1収容部51には、減速機構30を潤滑する減速機構用潤滑油(減速機用ギヤオイル)が収容され、第2収容部52には、デフ機構40を潤滑するデフ機構用潤滑油(ディファレンシャル機構用潤滑油、デフオイル)が収容される。
【0018】
なお、減速機構30の出力軸31は、隔壁部53を貫通し、第1収容部51と第2収容部52との双方にわたって配設されている。出力軸31の第1収容部51の側には、減速機構30のギヤ機構の一部を構成する出力ギヤ32が出力軸31と一体に回転するように装備され、出力軸31の第2収容部52の側には、デフ機構40のギヤ機構の一部を構成する入力ギヤ41が出力軸31と一体に回転するように装備されている。
【0019】
図3は、本車両用駆動装置10のハウジング部50の要部の鉛直断面図であり、
図2のB-B矢視断面に相当する図である。
図3に示すように、第1収容部51と第2収容部52とを区画する隔壁部53には、第1収容部51と第2収容部52とを貫通する軸孔54が形成され、この軸孔54内を出力軸31が貫通している。なお、出力軸31は、ベアリング33,42,43を介してハウジング部50に支持されている。
【0020】
軸孔54の内周面54aと出力軸31の外周面31aとの間には、第1収容部51側を密閉する第1オイルシール71と、第2収容部52側を密閉する第2オイルシール72とが装備されている。
これにより、性状の異なる減速機構用潤滑油とデフ機構用潤滑油との混合が防止されるようになっている。
【0021】
図1は、ハウジング部50の要部を拡大して示す鉛直断面図であって、
図3のA部拡大図である。
図1に示すように、軸孔54と出力軸31との間には、第1オイルシール71と第2オイルシール72とで挟まれた環状の空間55が形成されている。軸孔54の鉛直方向下部には、ハウジング部50の外部へ貫通する貫通孔56が形成されている。この貫通孔56は、空間55を大気解放することで、オイルシール71,72の機能を向上させることを一つの目的としている。
【0022】
この貫通孔56は、鉛直上端部が軸孔54に開口し、鉛直方向真下に延びて、鉛直下端部がハウジング部50の外部に開口している。貫通孔56は、鉛直下方に行くにしたがって、内径が拡大して形成されている。本実施形態では、貫通孔56の上部,中間部,下部とのうち、上部の内径が比較的小径に形成され、下部の内径が比較的大径に形成され、上下方向の中間部の内径がこれらの中間的な大きさに形成されている。
【0023】
これは、貫通孔56の上部(上端部の開口部分付近)を比較的小径に形成するのは、第1オイルシール71と第2オイルシール72との間の限られた領域内に貫通孔56を形成するためである。一方、貫通孔56を比較的大径に形成するのは、貫通孔56の内部をオイル貯留部57として機能させるというもう一つの目的のためである。
【0024】
つまり、ハウジング部50の減速機構30やデフ機構40の組み立て時には、オイルやグリース等の塗布オイル類が減速機構30やデフ機構40の第1オイルシール71や第2オイルシール72などのシール部位に塗布されるが、これらの塗布オイル類はこれらの減速機構30やデフ機構40の運転開始後に第1オイルシール71や第2オイルシール72から空間55内に漏出する。塗布オイル類がハウジング部50の外部に漏出することは、商品性を損なうので、外部への漏出を防止する必要がある。
【0025】
そこで、貫通孔56の下部に、閉塞部材80を内装して塞ぐことにより、閉塞部材80の上方にオイル貯留部57としての空間領域を設け、塗布オイル類をこの空間領域にキャッチし、外部への漏出を防止できるようにしている。貫通孔56の下部の内径が比較的大径に形成されることで、オイル貯留部57の容積が上記の塗布オイル類を貯留するのに十分なだけ確保されることとなる。
【0026】
貫通孔56のオイル貯留部57よりも上方の中間部には分岐部58aが設けられ、この分岐部58aにおいて、貫通孔56から鉛直斜め下向きに分岐するハウジング部50の外部に開口し、貫通孔56を大気解放する通路である大気解放部58が設けられている。貫通孔56の下部は、閉塞部材80で塞がれるので、空間55は、この大気解放部58を通じて大気解放される。
【0027】
本装置では、大気解放部58は、空間55を大気解放する機能だけでなく、一定量以上のオイル漏れがあった場合に、大気解放部58内にオイルを漏出させることで、オイル漏れを早期に検知させる機能も有している。
【0028】
つまり、オイル貯留部57は、減速機構30やデフ機構40の組み立て時に第1オイルシール71や第2オイルシール72などのシール部位に塗布される塗布オイル類を貯留するのに十分な容積を有しており、塗布オイル類だけでなく、減速機構用潤滑油が第1オイルシール71から漏出した場合やデフ機構用潤滑油が第2オイルシール72から漏出した場合も、オイル貯留部57に貯留される。
【0029】
オイルシール71,72の何れかが劣化することによってオイル漏れが発生すると、オイルの漏れ量は著しく多くなるので、オイル貯留部57に貯留される漏出油の油面が上昇して分岐部58aに到達するとオーバフローし、大気解放部58を伝って外部に漏出することになる。これによって、オイル漏れを検知することができる。
【0030】
[2.作用及び効果]
本実施形態にかかる車両用駆動装置10は、上記のように構成されているので、以下の作用及び効果を得ることができる。
【0031】
減速機構30とデフ機構40とは、ハウジング部50内に一体的に収容され、ハウジング部50は、モータ20のハウジング21と一体化され、本車両用駆動装置10は、1つのユニットとして構成されているので、装置をコンパクトに構成することができる。したがって、車両のスペース効率を向上させることができ、特に、電動トラックに適用することによって、商品性を向上させることができる。
【0032】
隔壁部53の軸孔54と出力軸31との間には、第1収容部51をシールする第1オイルシール71と、第2収容部52をシールする第2オイルシール72とがそれぞれ装備されているので、性状の異なる減速機構用潤滑油とデフ機構用潤滑油との混合が防止される。
【0033】
第1オイルシール71と第2オイルシール72とで挟まれた環状の空間55は、貫通孔56及び大気解放部58を通じて大気解放しているので、オイルシール71,72の機能を向上させることができる。
【0034】
また、貫通孔56の下部には、閉塞部材80で塞がれたオイル貯留部57としての空間領域が設けられているので、減速機構30やデフ機構40の組み立て時に第1オイルシール71や第2オイルシール72などのシール部位に塗布されるオイルやグリース等の塗布オイル類がこれらの減速機構30やデフ機構40の運転開始後に第1オイルシール71や第2オイルシール72から空間55内に漏出したら、このオイル貯留部57に貯留されて外部には漏出しないので、オイル系統の商品性が損なわれることはない。
【0035】
オイルシール71,72の何れかの劣化によってオイル漏れが発生すると、オイルの漏れ量は著しく多くなり、オイル貯留部57からオーバフローし、大気解放部58を伝って外部に漏出するので、オイル漏れを早期に検知することができる。
貫通孔56及び大気解放部58は、外部からの水浸入に対してはラビリンス構造となるので、水浸入防止の効果も期待出来る。
【0036】
[3.その他]
以上、実施形態を説明したが、かかる実施形態は一例であり、本件の車両用駆動装置は、実施形態のものに限定されるものではない。
例えば、上記の実施形態では、貫通孔56の内径を下方に向かって二段階増大させることで、上端部のスペース的な制約の中で、貫通孔56の下部に、塗布オイル類を貯留するのに十分な容積をもったオイル貯留部57を設けているが、下方に向かう内径の増大態様は限定されるものではない。また、上端部のスペース的な制約がなければ、貫通孔56の全長を同一内径としてもよい。
【0037】
さらに、分岐部58aをオイル貯留部57の上方に配置し、大気解放部58を分岐部58aから下向きに形成することは必要であるが、大気解放部58の貫通孔56からの分岐態様や大気解放部58の形状、上記実施形態のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0038】
10 車両用駆動装置
20 電動モータ(モータ)
21 モータ20のハウジング
30 減速機構
31 減速機構30の出力軸
31a 出力軸31の外周面
32 減速機構30の出力ギヤ
33 ベアリング
40 ディファレンシャル機構(デフ機構)
41 デフ機構30の入力ギヤ
42,43 ベアリング
50 ハウジング部
51 第1収容部
52 第2収容部
53 隔壁部
54 軸孔
54a 軸孔54の内周面
55 空間
56 貫通孔
57 オイル貯留部
58a 分岐部
58 大気解放部
61,62 駆動輪
71 第1オイルシール
72 第2オイルシール
80 閉塞部材