(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108438
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】計測球保持治具
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
G01B11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012807
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅人
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA06
2F065BB05
2F065DD03
2F065FF11
2F065FF61
2F065FF65
2F065FF66
2F065GG04
2F065HH04
2F065JJ01
2F065JJ15
2F065LL16
2F065LL17
2F065MM15
2F065MM16
2F065MM25
2F065MM26
2F065PP22
2F065QQ01
2F065QQ23
(57)【要約】
【課題】三次元形状の計測対象物中の計測位置の計測精度を向上させることができる計測球保持治具を提供する。
【解決手段】計測球における球体の表面の一部に接触可能な球体設置部と、前記球体が前記球体設置部に接触している状態を維持するための球保持用磁石と、磁性材で形成された計測対象物と対向可能な対向面を有する計測対象用磁石と、前記球体設置部、前記球保持用磁石、及び前記計測対象用磁石が取り付けられている本体と、を有する。前記本体は、前記球体設置部を基準にして前記軸線反球体側に位置し、前記計測対象物に接触可能な支点を有する。前記計測対象用磁石は、前記支点が前記計測対象物に接触しているときに、前記計測対象物に対して作用する前記計測対象用磁石の磁力により、前記支点を中心として、前記球体設置部に接している前記球体が前記計測対象物に近づく回転方向に、前記本体に対してモーメントが作用し得る位置に配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材で形成された半径rの球体と、前記球体の表面に固定されている反射鏡と、を有する計測球を保持可能な計測球保持治具において、
前記球体の表面の一部に接触可能な球体設置部と、
前記球体が前記球体設置部に接触している状態を維持するための球保持用磁石と、
磁性材で形成された計測対象物と対向可能な対向面を有する計測対象用磁石と、
前記球体設置部、前記球保持用磁石、及び前記計測対象用磁石が取り付けられている本体と、
を有し、
前記球体設置部は、座中心軸を有し、前記球体設置部に接触している前記球体の中心が前記座中心軸上に位置するよう形成され、
前記球保持用磁石は、前記座中心軸上であって、前記座中心軸が延びる軸線方向における軸線球体側と軸線反球体側とのうち、前記球体設置部を基準にして、前記球体設置部に接触している前記球体とは反対側の前記軸線反球体側に配置され、
前記本体は、前記球体設置部を基準にして前記軸線反球体側に位置し、前記計測対象物に接触可能な支点を有し、
前記支点は、前記計測対象物に接しているときに前記座中心軸を含む仮想面に垂直な軸回りで前記本体が回転するときの回転中心になり、
前記計測対象用磁石は、前記支点が前記計測対象物に接触しているときに、前記計測対象物に対して作用する前記計測対象用磁石の磁力により、前記支点を中心として、前記球体設置部に接している前記球体が前記計測対象物に近づく回転方向に、前記本体に対してモーメントが作用し得る位置に配置されている、
計測球保持治具。
【請求項2】
請求項1に記載の計測球保持治具において、
前記支点は、前記仮想面内で前記座中心軸に対して垂直な軸線垂直方向に、前記座中心軸から離れ、
前記計測対象用磁石は、前記支点よりも前記軸線方向における前記軸線球体側であって、前記軸線垂直方向で、前記座中心軸を基準にして前記支点が配置されている側に配置され、
且つ、前記計測対象用磁石は、前記座中心軸から距離が前記座中心軸からの前記支点までの距離未満である領域内に、前記対向面の少なくとも一部が存在するよう、配置されている、
計測球保持治具。
【請求項3】
請求項2に記載の計測球保持治具において、
前記支点は、前記座中心軸からの距離が前記半径r未満の位置に配置されている、
計測球保持治具。
【請求項4】
請求項3に記載の計測球保持治具において、
前記支点は、前記座中心軸からの距離が前記半径rの半分より長い距離の位置に配置されている、
計測球保持治具。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の計測球保持治具において、
前記計測対象用磁石は、前記対向面の一部が、前記座中心軸からの距離が前記座中心軸から前記支点までの距離未満である領域内に存在し、前記対向面の残りの部分が、前記座中心軸からの距離が前記座中心軸から前記支点までの距離以上である領域内に存在する、
計測球保持治具。
【請求項6】
請求項5に記載の計測球保持治具において、
前記対向面は、前記仮想面に平行で且つ前記仮想面上に位置する、
計測球保持治具。
【請求項7】
請求項5に記載の計測球保持治具において、
前記対向面は、前記仮想面に平行で且つ前記仮想面から離れている、
計測球保持治具。
【請求項8】
請求項2から4のいずれか一項に記載の計測球保持治具において、
前記計測対象用磁石は、前記対向面の全てが、前記座中心軸からの距離が前記座中心軸から前記支点までの距離未満である領域内に存在する、
計測球保持治具。
【請求項9】
請求項8に記載の計測球保持治具において、
前記対向面は、前記仮想面に垂直である、
計測球保持治具。
【請求項10】
請求項2から4のいずれか一項に記載の計測球保持治具において、
前記対向面は、前記仮想面である第一仮想面に垂直で且つ前記座中心軸を含む第二仮想面に平行で、前記第二仮想面から離れている、
計測球保持治具。
【請求項11】
請求項10に記載の計測球保持治具において、
前記対向面は、前記第一仮想面と交わっている、
計測球保持治具。
【請求項12】
請求項10に記載の計測球保持治具において、
前記対向面は、前記第一仮想面から離れている、
計測球保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁性材で形成された球体と、この球体の表面に固定されている反射鏡と、を有する計測球を保持可能な計測球保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元形状の計測対象物の形状等を計測する三次元形状計測装置としては、例えば、計測球と、この計測球を保持する計測球保持治具と、計測装置本体と、を備える装置がある。計測球は、磁性材で形成された球体と、この球体の表面に固定されている反射鏡と、を有する。この三次元形状計測装置で計測対象物の形状等を計測する場合、計測対象物と計測球との相対位置が変化しないように計測球保持治具で計測球を一時的に保持する。そして、計測装置本体から計測球の反射鏡にレーザ光を照射して、反射鏡で反射されたレーザ光を計測装置本体が受光する。なお、計測装置本体は、レーザトラッカーと呼ばれることがある。
【0003】
計測球保持治具としては、例えば、以下の特許文献1に治具がある。この計測球保持治具は、計測球の表面の一部に接触可能な球体設置部と、計測球が球体設置部に接触している状態を維持するための球保持用磁石と、これらが設けられている本体と、を有する。本体は、計測対象物に接触するための円柱状の接触子を有する。
【0004】
この技術では、計測球保持治具の接触子が計測対象物に接触している状態が維持されるよう、計測球保持治具を手等で保持しておく。次に、計測球の反射鏡が計測装置本体のレーザ発振器に向くよう、球体設置部上で計測球を回転させる。そして、レーザ発振器から反射鏡にレーザ光を照射し、反射鏡で反射されたレーザ光を計測装置本体の受光器で受光する。計測装置本体は、受光器が受光したレーザ光に基づいて、計測球の位置を定め、この計測球の位置から計測対象物中で接触子が接触している部分の位置を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0100705号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術では、前述したように、計測球と計測対象物との間に計測球保持治具が存在するため、計測球と計測球保持具の球体設置部との接触状況や、計測球保持治具の寸法精度等に応じて、計測対象物中で計測球保持治具の接触子が接触している部分の位置計測精度が低下する。
【0007】
そこで、本開示は、三次元形状の計測対象物中の計測位置の計測精度を向上させることができる計測球保持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための発明に係る一態様としての計測球保持治具は、
磁性材で形成された半径rの球体と、前記球体の表面に固定されている反射鏡と、を有する計測球を保持可能な計測球保持治具において、前記球体の表面の一部に接触可能な球体設置部と、前記球体が前記球体設置部に接触している状態を維持するための球保持用磁石と、磁性材で形成された計測対象物と対向可能な対向面を有する計測対象用磁石と、前記球体設置部、前記球保持用磁石、及び前記計測対象用磁石が取り付けられている本体と、を有する。前記球体設置部は、座中心軸を有し、前記球体設置部に接触している前記球体の中心が前記座中心軸上に位置するよう形成されている。前記球保持用磁石は、前記座中心軸上であって、前記座中心軸が延びる軸線方向における軸線球体側と軸線反球体側とのうち、前記球体設置部を基準にして、前記球体設置部に接触している前記球体とは反対側の前記軸線反球体側に配置されている。前記本体は、前記球体設置部を基準にして前記軸線反球体側に位置し、前記計測対象物に接触可能な支点を有する。前記支点は、前記計測対象物に接しているときに前記座中心軸を含む仮想面に垂直な軸回りで前記本体が回転するときの回転中心になる。前記計測対象用磁石は、前記支点が前記計測対象物に接触しているときに、前記計測対象物に対して作用する前記計測対象用磁石の磁力により、前記支点を中心として、前記球体設置部に接している前記球体が前記計測対象物に近づく回転方向に、前記本体に対してモーメントが作用し得る位置に配置されている。
【0009】
本態様における計測球保持治具を用いて、計測対象物中の計測位置を計測する際には、まず、計測球の球体を計測球保持治具の球体設置部に接触させる。この球体は、球保持用磁石の磁力により、球体設置部に接触している状態が維持される。すなわち、計測球は、計測球保持治具により保持される。次に、計測球を保持している計測球保持治具の本体の一部を計測対象物中の計測位置周りの部分に対向するよう、この計測球保持治具を配置する。この結果、計測対象用磁石の磁力により、計測球保持治具の支点が計測対象物中の計測位置周りの部分に接して、計測球保持治具が計測対象物中の計測位置周りに取り付けられた状態になる。さらに、計測対象用磁石の磁力により、支点を中心として、球体設置部に接している球体が計測対象物に近づく回転方向に、本体に対してモーメントが作用する。このため、球体設置部に接している球体が計測対象物中の計測位置に接触する。
【0010】
次に、球体の表面に設けられている反射鏡が計測装置本体の側を向くよう、球体が球体設置部及び計測対象物中の計測位置に接触している状態を維持しつつ、球体を回転させる。
【0011】
次に、計測装置本体のレーザ発振器から反射鏡にレーザ光を照射し、反射鏡で反射されたレーザ光を計測装置本体の受光器で受光する。計測装置本体は、反射鏡に照射したレーザ光及び受光器が受光したレーザ光に基づいて、計測球の中心座標を定める。さらに、計測装置本体は、計測球の中心座標から、球体の半径rを用いて、球体が接触している計測対象物の計測位置の座標を求める。
【0012】
背景技術の欄で説明した上記特許文献1に記載の技術では、計測球と計測対象物との間に計測球保持治具が存在するため、計測球と計測球保持具の球体設置部との接触状況や、計測球保持治具の寸法精度等に応じて、計測対象物中で計測球保持治具の接触子が接触している部分の位置計測精度が低下する。
【0013】
一方、本態様では、計測球を保持している計測球保持治具を計測対象物に接触させることで、計測球の球体が計測対象物中の計測位置に接触する。このため、計測装置本体が求める計測位置は、計測球と計測球保持治具の球体設置部との接触状況や、計測球保持治具の寸法精度等の影響を受けにくい。よって、本態様の計測球保持治具を用いることで、計測精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、三次元形状の計測対象物中の計測位置の計測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示に係る第一実施形態における計測対象物及び三次元形状計測装置の斜視図である。
【
図2】本開示に係る第一実施形態における計測球保持治具の斜視図である。
【
図3】本開示に係る第一実施形態における計測球保持治具の正面図である。
【
図4】本開示に係る第一実施形態における計測球保持治具の断面図である。
【
図5】本開示に係る第一実施形態の変形例における計測球保持治具の断面図である。
【
図6】本開示に係る第二実施形態における計測対象物の斜視図である。
【
図7】本開示に係る第二実施形態における計測球保持治具の斜視図である。
【
図8】本開示に係る第二実施形態における計測球保持治具の正面図である。
【
図9】本開示に係る第二実施形態における計測球保持治具の断面図である。
【
図10】本開示に係る第三実施形態における計測対象物の斜視図である。
【
図11】本開示に係る第三実施形態における計測球保持治具の斜視図である。
【
図12】本開示に係る第三実施形態における計測球保持治具の正面図である。
【
図13】本開示に係る第三実施形態における計測球保持治具の断面図である。
【
図14】本開示に係る第四実施形態における計測対象物の斜視図である。
【
図15】本開示に係る第四実施形態における計測球保持治具の斜視図である。
【
図16】本開示に係る第四実施形態における計測球保持治具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示に係る計測球保持治具の複数の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
「第一実施形態」
計測球保持治具の第一実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、三次元形状の計測対象物50の形状等を計測する三次元形状計測装置は、計測球1と、計測装置本体5と、計測球1を保持する計測球保持治具10と、を備える。計測球1は、磁性材で形成された球体2と、この球体2の表面に固定されている反射鏡3と、を有する。計測球保持治具10は、この計測球1を保持可能である。計測装置本体5は、レーザ光の出射及び受光が可能である。このため、計測装置本体5は、レーザトラッカーと呼ばれることがある。この三次元形状計測装置で計測対象物50の形状等を計測する場合、まず、計測球保持治具10で計測球1を一時的に保持する。次に、計測対象物50と計測球1との相対位置が変化しないように計測球保持治具10を計測対象物50に接触させる。そして、計測球1の反射鏡3に計測装置本体5からレーザ光を照射して、反射鏡3で反射されたレーザ光を計測装置本体5が受光する。
【0019】
ここで、計測対象物50は、対象軸線Oを基準にして周方向Ocに延びるフィンであるとする。計測対象物50としてのフィンは、対象軸線Oが延びる対象軸線方向Odにおける両側のうち、軸線第一側Od1を向く第一面51と、軸線第二側Od2を向く第二面52と、を有する。第一面51は、対象軸線Oに対して垂直で且つ周方向Ocに延びている面である。第二面52は、対象軸線Oに対して傾斜し且つ周方向Ocに延びている面である。第一面51と第二面52とは、対象軸線Oに対する径方向内側の位置で互いに交わっている。第一面51と第二面52とが交わっている部分が、このフィンの先端53である。この先端53は、周方向Ocに延びている。本実施形態では、周方向Ocに延びる先端53の複数の位置(計測位置55)を計測する。
【0020】
本実施形態における計測球保持治具10は、以上に説明した計測対象物50に対する計測球1の相対位置が変化しないように、この計測球1の保持に好適な治具である。なお、この計測球1の球体2の半径はrである。
【0021】
本実施形態における計測球保持治具10は、
図2~
図4に示すように、球体2の表面の一部に接触可能な球体設置部11と、磁性材で形成されている球体2が球体設置部11に接触している状態を維持するための球保持用磁石12と、磁性材で形成されている計測対象物50と対向可能な対向面16を有する計測対象用磁石15と、これらが取り付けられている本体20と、を有する。
【0022】
球体設置部11は、
図2に示すように、座中心軸Sを有し、球体設置部11に接触している球体2の中心Cが座中心軸S上に位置するよう形成されている。具体的に、球体設置部11の表面形状は、座中心軸S上の点を中心として半径rの球面の一部の形状である。なお、本実施形態では、球体設置部11の表面形状が球面の一部であるが、球体設置部の表面形状が円錐面の一部、つまりテーパ面の形状であってもよい。表面形状がテーパ面の形状である球体設置部は、表面形状が球面の一部である球体設置部11に比べて、製作時の加工が容易になる。
【0023】
ここで、座中心軸Sが延びている方向を軸線方向Sdとする。また、この軸線方向Sdの一方側を軸線球体側Sddとし、この軸線方向Sdの他方側を軸線反球体側Sdaとする。さらに、座中心軸Sを含む第一仮想面P1に平行で且つ座中心軸Sに垂直な方向を軸線垂直方向Svとする。また、この軸線垂直方向Svで座中心軸Sに近づく側を中心軸側Svdとし、この軸線垂直方向Svで座中心軸Sから遠ざかる側を反中心軸側Svaとする。
【0024】
球体2が球体設置部11に接触している状態では、この球体2は、球体設置部11を基準にして軸線球体側Sddに位置している。球保持用磁石12は、座中心軸S上であって、球体設置部11を基準にして軸線反球体側Sdaに配置されている。
【0025】
本体20は、以上で説明した球体設置部11及び球保持用磁石12が設けられている主本体21と、この主本体21から軸線垂直方向Svに延びている第一腕26x及び第二腕26yと、を有する。
【0026】
主本体21は、軸線球体側Sddを向く正面22と、軸線反球体側Sdaを向く背面23と、軸線垂直方向Svで互いに対向している一対の側面24と、を有する。球体設置部11は、主本体21の正面22から軸線反球体側Sdaに凹むように形成されている。背面23は、正面22に対して背合わせの関係にある。一対の側面24は、正面22と背面23とを接続する。一対の側面24の間隔は、軸線反球体側Sdaから軸線球体側Sddに向かうに連れて次第に狭くなっている。すなわち、各側面24は、軸線反球体側Sdaから軸線球体側Sddに向かうに連れて次第に座中心軸Sに近づくよう、座中心軸Sに対して傾斜している。一対の側面24のうちの一方の側面24と背面23との角は、計測対象物50に接触可能な支点25を成す。また、一対の側面24のうちの他方の側面24と背面23との角も、計測対象物50に接触可能な支点25を成す。支点25は、球体設置部11を基準にして軸線反球体側Sdaで、座中心軸Sから軸線垂直方向Svに離れた箇所に位置している。座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける支点25までの距離である支点距離Dは、本実施形態では、半径r未満である(
図4参照)。この支点25は、本体20が第一仮想面P1に垂直な軸回りで回転するときの回転中心となる。
【0027】
第一腕26xは、
図2及び
図3に示すように、主本体21から軸線垂直方向Svの一方側に延びている。第二腕26yは、主本体21から軸線垂直方向Svの他方側に延びている。第一腕26x及び第二腕26yは、いずれも、主本体21の側面24が計測対象物50の先端53に対向している際、計測対象物50の第一面51又は第二面52に対向可能な対向面27を有する。第一腕26xの対向面27及び第二腕26yの対向面27は、いずれも、第一仮想面P1上に位置している。
【0028】
第一腕26xには、この第一腕26xの対向面27と計測対象用磁石15の対向面16が面一になるよう、計測対象用磁石15が配置されている。第二腕26yには、この第二腕26yの対向面27と計測対象用磁石15の対向面16が面一になるよう、計測対象用磁石15が配置されている。よって、各計測対象用磁石15は、計測対象用磁石15の対向面16が、座中心軸Sと軸線垂直方向Svに間隔をあけて平行になり且つ第一仮想面P1上に位置するよう、配置されている。
【0029】
さらに、
図4に示すように、計測対象用磁石15は、支点25が計測対象物50の先端53に接触しているときに、計測対象物50に対して作用する計測対象用磁石15の磁力により、支点25を中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50の先端53に近づく回転方向に、本体20に対してモーメントMが作用し得る位置に配置されている。具体的に、計測対象用磁石15は、支点25よりも軸線方向Sdにおける軸線球体側Sddであって、軸線垂直方向Svで、座中心軸Sを基準にして支点25が配置されている側に配置されている。さらに、計測対象用磁石15の対向面16の一部は、座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける距離が前述の支点距離D未満である領域内に存在し、計測対象用磁石15の残りの部分は、座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける距離が前述の支点距離D以上の領域内に存在する。
【0030】
本実施形態における計測球保持治具10を用いて、計測対象物50の先端53上の複数の位置を計測する際には、まず、計測球1の球体2を計測球保持治具10の球体設置部11に接触させる。この球体2は、球保持用磁石12の磁力により、球体設置部11に接触している状態が維持される。すなわち、計測球1は、計測球保持治具10により保持される。次に、計測球1を保持している計測球保持治具10の主本体21の一方の側面24が計測対象物50の先端53と軸線垂直方向Svで対向し、且つこの計測球保持治具10の一方の計測対象用磁石15の対向面16及び一方の腕26xの対向面27が計測対象物50の第一面51と対向するよう、この計測球保持治具10を配置する(
図3参照)。この結果、計測対象用磁石15の磁力により、計測対象用磁石15の対向面16及び一方の腕26xの対向面27が計測対象物50の第一面51が接触し、計測球保持治具10の支点25が計測対象物50の先端53に接触する。すなわち、計測球保持治具10が計測対象物50中の先端53周り取り付けられた状態になる。なお、計測対象用磁石15の対向面16は、計測対象物50の第一面51に接触する必要はない。さらに、計測対象用磁石15の磁力、具体的には、計測対象用磁石15中で計測対象物50の先端53よりも軸線垂直方向Svにおける中心軸側Svdに位置している部分の磁力により、計測球保持治具10の支点25を中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50の先端53に近づく回転方向に、本体20に対してモーメントMが作用する。このため、球体設置部11に接している球体2が、計測対象物50中で、計測位置55を含む先端53に接触する。
【0031】
次に、球体2の表面に設けられている反射鏡3が計測装置本体5の側を向くよう、球体2が球体設置部11及び計測対象物50中の計測位置55に接触している状態を維持しつつ、球体2を回転させる。
【0032】
次に、計測装置本体5のレーザ発振器から反射鏡3にレーザ光を照射し、反射鏡3で反射されたレーザ光を計測装置本体5の受光器で受光する(
図1参照)。計測装置本体5は、反射鏡3に照射したレーザ光及び受光器が受光したレーザ光に基づいて、計測球1の中心Cの座標を定める。さらに、計測装置本体5は、計測球1の中心Cの座標から、球体2の半径rを用いて、球体2が接触している計測対象物50の計測位置55の座標を求める。
【0033】
背景技術の欄で説明した上記特許文献1に記載の技術では、計測球と計測対象物との間に計測球保持治具が存在するため、計測球と計測球保持具の球体設置部との接触状況や、計測球保持治具の寸法精度等に応じて、計測対象物中で計測球保持治具の接触子が接触している部分の位置計測精度が低下する。
【0034】
一方、本実施形態では、計測球1を保持している計測球保持治具10を計測対象物50に接触させることで、計測球1の球体2が計測対象物50中の計測位置55に接触する。このため、本実施形態では、計測装置本体5が求める計測位置55は、計測球1と計測球保持治具10の球体設置部11との接触状況や、計測球保持治具10の寸法精度等の影響を受けにくい。よって、本実施形態における計測球保持治具10を用いることで、計測位置55の計測精度を高めることができる。
【0035】
本実施形態における計測球保持治具10では、
図4に示すように、座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける支点25までの距離である支点距離Dが球体2の半径r未満である。しかしながら、
図5に示す変形例のように、座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける支点25までの距離である支点距離Dが球体2の半径r以上であってもよい。この変形例の場合、支点25を中心とした本体20の倒れ込み量が本実施形態よりも多くなるため、レーザ光の受光可能角度LAが本実施形態におけるレーザ光の受光可能角度LAよりも小さくなる。言い換えると、変形例の場合、レーザ光を出射する計測装置本体5の配置可能領域が本実施形態よりも狭くなる。よって、支点距離Dは球体2の半径r未満であることが好ましい。但し、支点距離Dはあまりに短くなると、球保持用磁石12と計測対象用磁石15とが互いに干渉し合うことになるため、支点距離Dは球体2の半径r未満で且つこの半径rの1/2以上(r>D≧r/2)であることが好ましい。
【0036】
「第二実施形態」
計測球保持治具の第二実施形態について、
図6~
図9を参照して説明する。
【0037】
図6に示すように、本実施形態における計測球保持治具を用いて、形状等が計測される計測対象物50aは、対象軸線Oを基準にして周方向Ocに延びる内周面53aを有する部材である。この内周面53aは、対象軸線Oが延びる対象軸線方向Odに所定の幅を有する。この部材は、この内周面53aと、内周面53aの軸線第一側Od1の縁に接続され且つ軸線第一側Od1を向く第一面51aと、内周面53aの軸線第二側Od2の縁に接続され且つ軸線第二側Od2を向く第二面52aと、を有する。本実施形態では、内周面53a中の複数の位置(計測位置55)を計測する。
【0038】
図7~
図9に示すように、本実施形態における計測球保持治具10aは、以上に説明した計測対象物50aに対する計測球1の相対位置が変化しないように、この計測球1の保持に好適な治具である。
【0039】
本実施形態における計測球保持治具10aも、第一実施形態における計測球保持治具10と同様、球体2の表面の一部に接触可能な球体設置部11と、磁性材で形成されている球体2が球体設置部11に接触している状態を維持するための球保持用磁石12と、磁性材で形成されている計測対象物50aと対向可能な対向面16を有する計測対象用磁石15と、これらが取り付けられている本体20aと、を有する。
【0040】
球体設置部11は、
図7に示すように、座中心軸Sを有し、球体設置部11に接触している球体2の中心Cが座中心軸S上に位置するよう形成されている。
【0041】
本体20aは、第一実施形態における計測球保持治具10aの本体20と同様、球体設置部11及び球保持用磁石12が設けられている主本体21aと、この主本体21aから軸線垂直方向Svに延びている第一腕26xa及び第二腕26yaと、を有する。
【0042】
主本体21aは、第一実施形態における計測球保持治具10aの主本体21と同様、軸線球体側Sddを向く正面22と、軸線反球体側Sdaを向く背面23と、軸線垂直方向Svで互いに対向している一対の側面24と、を有する。球体設置部11は、主本体21aの正面22から軸線反球体側Sdaに凹むように形成されている。背面23は、正面22に対して背合わせの関係にある。一対の側面24は、正面22と背面23とを接続する。一対の側面24の間隔は、軸線反球体側Sdaから軸線球体側Sddに向かうに連れて次第に狭くなっている。すなわち、各側面24は、軸線反球体側Sdaから軸線球体側Sddに向かうに連れて次第に座中心軸Sに近づくよう、座中心軸Sに対して傾斜している。一対の側面24のうちの一方の側面24と背面23との角は、計測対象物50aに接触可能な支点25を成す。一対の側面24のうちの他方の側面24と背面23との角も、計測対象物50aに接触可能な支点25を成す。支点25は、球体設置部11を基準にして軸線反球体側Sdaで、座中心軸Sから軸線垂直方向Svに離れた箇所に位置している。座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける支点25までの距離である支点距離Dは、本実施形態では、半径r以上である(
図9参照)。この支点25は、本体20aが第一仮想面P1に垂直な軸回りで回転するときの回転中心となる。
【0043】
第一腕26xaは、
図7及び
図8に示すように、主本体21aから軸線垂直方向Svの一方側に延びている。第二腕26yaは、主本体21aから軸線垂直方向Svの他方側に延びている。第一腕26xa及び第二腕26yaは、いずれも、主本体21aの側面24が計測対象物50aの内周面53aに対向している際、計測対象物50aの第一面51a又は第二面52aに対向可能な対向面27を有する。第一腕26xaの対向面27及び第二腕26yaの対向面27は、いずれも、第一仮想面P1に対して垂直な方向にこの第一仮想面P1から離れている。
【0044】
第一腕26xaには、この第一腕26xaの対向面27と計測対象用磁石15の対向面16とが平行になるよう、計測対象用磁石15が配置されている。第二腕26yaには、この第二腕26yaの対向面27と計測対象用磁石15の対向面16とが平行になるよう、計測対象用磁石15が配置されている。よって、各計測対象用磁石15は、計測対象用磁石15の対向面16が、座中心軸Sと軸線垂直方向Svに間隔をあけて平行になり且つ第一仮想面P1から離れるよう、配置されている。
【0045】
さらに、計測対象用磁石15は、
図9に示すように、第一実施形態における計測球保持治具10の計測対象用磁石15と同様、支点25が計測対象物50aの内周面53aに接触しているときに、計測対象物50aに対して作用する計測対象用磁石15の磁力により、支点25を中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50aの内周面53aに近づく回転方向に、本体20aに対してモーメントMが作用し得る位置に配置されている。具体的に、計測対象用磁石15は、支点25よりも軸線方向Sdにおける軸線球体側Sddであって、軸線垂直方向Svで、座中心軸Sを基準にして支点25が配置されている側に配置されている。さらに、計測対象用磁石15の対向面16の一部は、座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける距離が前述の支点距離D未満である領域内に存在し、計測対象用磁石15の残りの部分は、座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける距離が前述の支点距離D以上の領域内に存在する。
【0046】
本実施形態における計測球保持治具10aを用いて、計測対象物50aの内周面53a上の複数の位置を計測する際には、まず、計測球1の球体2を計測球保持治具10aの球体設置部11に接触させる。この球体2は、球保持用磁石12の磁力により、球体設置部11に接触している状態が維持される。次に、計測球1を保持している計測球保持治具10aの主本体21aの一方の側面24が計測対象物50aの内周面53aと軸線垂直方向Svで対向し、且つこの計測球保持治具10aの計測対象用磁石15の対向面16及び腕26xaの対向面27が計測対象物50aの第一面51a又は第二面52aと対向するよう、この計測球保持治具10aを配置する(
図8参照)。この結果、計測対象用磁石15の磁力により、計測球保持治具10aの腕26xaの対向面27が計測対象物50aの第一面51a又は第二面52aに接触し、計測球保持治具10aの支点25が計測対象物50aの内周面53aに接触する。すなわち、計測球保持治具10aが計測対象物50a中の内周面53a周り取り付けられた状態になる。さらに、計測対象用磁石15の磁力、具体的には、計測対象用磁石15中で計測対象物50aの内周面53aよりも軸線垂直方向Svにおける中心軸側Svdに位置している部分の磁力により、計測球保持治具10aの支点25を中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50aの内周面53aに近づく回転方向に、本体20aに対してモーメントMが作用する。このため、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50a中の計測位置55を含む内周面53aに接触する。
【0047】
よって、本実施形態における計測球保持治具10aを用いることで、第一実施形態における計測球保持治具10を用いた場合と同様、計測位置55の計測精度を高めることができる。
【0048】
「第三実施形態」
計測球保持治具の第三実施形態について、
図10~
図13を参照して説明する。
【0049】
図10に示すように、本実施形態における計測球保持治具を用いて、形状等が計測される計測対象物50bは、対象軸線Oを基準にして周方向Ocに延びるフィンである。このフィンは、対象軸線Oを基準にして周方向Ocに延びる内周面53bと、内周面53bの軸線第一側Od1の縁に接続され且つ軸線第一側Od1を向く第一面51bと、内周面53bの軸線第二側Od2の縁に接続され且つ軸線第二側Od2を向く第二面52bと、を有する。このフィンの内周面53bは、このフィンの先端となる。但し、このフィンの先端は、
図1を用いて説明した計測対象物50としてのフィンの先端53と異なり、対象軸線方向Odの幅がある。本実施形態では、この内周面53b中の複数の位置(計測位置55)を計測する。
【0050】
図11~
図13に示すように、本実施形態における計測球保持治具10bは、以上に説明した計測対象物50bに対する計測球1の相対位置が変化しないように、この計測球1の保持に好適な治具である。
【0051】
本実施形態における計測球保持治具10bも、第一実施形態及び第二実施形態における計測球保持治具10,10aと同様、
図11~
図13に示すように、球体2の表面の一部に接触可能な球体設置部11と、磁性材で形成されている球体2が球体設置部11に接触している状態を維持するための球保持用磁石12と、磁性材で形成されている計測対象物50bと対向可能な対向面16bを有する計測対象用磁石15bと、これらが取り付けられている本体20bと、を有する。
【0052】
球体設置部11は、
図11に示すように、座中心軸Sを有し、球体設置部11に接触している球体2の中心Cが座中心軸S上に位置するよう形成されている。
【0053】
本体20bは、球体設置部11及び球保持用磁石12が設けられている主本体21bと、この主本体21bから軸線反球体側Sdaに延びている支点胴26bと、を有する。
【0054】
主本体21bは、軸線球体側Sddを向く正面22と、軸線反球体側Sdaを向く背面23と、軸線垂直方向Svで互いに対向している一対の側面24と、を有する。球体設置部11は、主本体21bの正面22から軸線反球体側Sdaに凹むように形成されている。背面23は、正面22に対して背合わせの関係にある。一対の側面24は、正面22と背面23とを接続する。
【0055】
支点胴26bは、ほぼ直方体形状を成し、軸線球体側Sddを向く面が主本体21bの背面23に接続されている。この支点胴26bは、軸線垂直方向Svで互いに対向する一対の側面28bと、軸線反球体側Sdaを向く背面27bと、を有する。一対の側面28bの軸線反球体側Sdaの縁は、背面27bに接続されている。一対の側面28bのうち、一方の側面28bと、主本体21bの一方の側面24とは面一である。本体20bは、主本体21bの一方の側面24及び支点胴26bの一方の側面28bから中心軸側Svdに凹み、軸線方向Sdに延びる第一溝29baを有する。本体20bは、さらに、第一溝29baの底面から中心軸側Svdに凹み、軸線方向Sdに延びる第二溝29bbを有する。第一溝29baの溝幅及び第二溝29bbの溝幅は、いずれも、計測対象物50bの第一面51bと第二面52bとの間隔よりも広い(
図12参照)。このため、この第二溝29bb内には、計測対象物50bの内周面53bを含む先端部分が入り込める。第一溝29ba及び第二溝29bbは、いずれも、主本体21bの正面22から支点胴26bの背面27bまで延びている。
【0056】
図13に示すように、第二溝29bbの底面と支点胴26bの背面27bとの角は、計測対象物50bの内周面53bに接触可能な支点25bを成す。よって、この支点25bは、球体設置部11を基準にして軸線反球体側Sdaで、座中心軸Sから軸線垂直方向Svに離れた箇所に位置している。座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける支点25bまでの距離である支点距離Dは、本実施形態では、半径r未満である。
【0057】
計測対象用磁石15bは、支点25bが計測対象物50bの内周面53bに接触しているときに、計測対象物50bに対して作用する計測対象用磁石15bの磁力により、支点25bを中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50bの内周面53bに近づく回転方向に、本体20bに対してモーメントMが作用し得る位置に配置されている。
【0058】
具体的に、計測対象用磁石15bは、支点胴26b内に、以下のように配置されている。
(1)計測対象用磁石15bの全ては、座中心軸Sから距離が支点距離D未満である領域内に存在する。よって、計測対象用磁石15bの対向面16bの全てが、座中心軸Sから距離が支点距離D未満である領域内に存在することになる。
(2)計測対象用磁石15bの対向面16bは、第二溝29bbの底面と面一、又は第二溝29bbの底面よりも座中心軸S側である。
(3)計測対象用磁石15bの対向面16bは、第二仮想面P2に平行で、第二仮想面P2から反中心軸側Svaに離れている。
なお、第二仮想面P2は、座中心軸Sを含み第一仮想面P1に垂直な仮想面である。よって、この第二仮想面P2は、軸線垂直方向Svに対して垂直である(
図12参照)。
(4)計測対象用磁石15bの対向面16bは、第一仮想面P1と垂直に交わっている。
【0059】
本実施形態における計測球保持治具10bを用いて、計測対象物50bの内周面53b上の複数の位置を計測する際には、まず、計測球1の球体2を計測球保持治具10bの球体設置部11に接触させる。この球体2は、球保持用磁石12の磁力により、球体設置部11に接触している状態が維持される。次に、計測球1を保持している計測球保持治具10bの第二溝29bbに計測対象物50bの内周面53bを含む先端部分を入れて、この第二溝29bbの底面及び計測対象用磁石15bの対向面16bが計測対象物50bの内周面53bと軸線垂直方向Svで対向するよう、この計測球保持治具10bを配置する(
図12参照)。この結果、計測対象用磁石15bの磁力により、計測球保持治具10bの支点25bが計測対象物50bの内周面53bに接触して、計測球保持治具10bが計測対象物50b中の計測位置55を含む内周面53b周り取り付けられた状態になる。さらに、計測対象用磁石15bの磁力により、計測球保持治具10bの支点25bを中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50bの内周面53bに近づく回転方向に、本体20bに対してモーメントMが作用する。このため、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50b中の計測位置55を内周面53bに接触する。
【0060】
よって、本実施形態における計測球保持治具10bを用いることで、以上で説明した各実施形態における計測球保持治具10,10aを用いた場合と同様、計測位置55の計測精度を高めることができる。
【0061】
「第四実施形態」
計測球保持治具の第三実施形態について、
図14~
図16を参照して説明する。
【0062】
図14に示すように、本実施形態における計測球保持治具を用いて、形状等が計測される計測対象物50cは、滑らかな曲面又は平面(以下、これらの面を総称して計測面53cとする)を有する部材である。本実施形態では、この計測面53c中の複数の位置(計測位置55)を計測する。
【0063】
図15及び
図16に示すように、本実施形態における計測球保持治具10cは、この計測対象物50cに対する計測球1の相対位置が変化しないように、この計測球1の保持に好適な治具である。
【0064】
本実施形態における計測球保持治具10cも、以上の各実施形態における計測球保持治具10,10a,10bと同様、球体2の表面の一部に接触可能な球体設置部11と、磁性材で形成されている球体2が球体設置部11に接触している状態を維持するための球保持用磁石12と、磁性材で形成されている計測対象物50cと対向可能な対向面16cを有する計測対象用磁石15cと、これらが取り付けられている本体20cと、を有する。
【0065】
球体設置部11は、
図15に示すように、座中心軸Sを有し、球体設置部11に接触している球体2の中心Cが座中心軸S上に位置するよう形成されている。
【0066】
本体20cは、軸線球体側Sddを向く正面22と、軸線反球体側Sdaを向く背面23と、軸線垂直方向Svで互いに対向している一対の側面24と、を有する。球体設置部11は、本体20cの正面22から軸線反球体側Sdaに凹むように形成されている。背面23は、正面22に対して背合わせの関係にある。一対の側面24のうちの一方の側面24は、正面22の反中心軸側Svaの縁と背面23の反中心軸側Svaの縁とを接続する。
【0067】
一方の側面24と背面23との角は、計測対象物50cの計測面53cに接触可能な支点25を成す。よって、この支点25は、球体設置部11を基準にして軸線反球体側Sdaで、座中心軸Sから軸線垂直方向Svに離れた箇所に位置している。座中心軸Sから軸線垂直方向Svにおける支点25までの距離である支点距離Dは、本実施形態では、半径r未満である(
図16参照)。
【0068】
図16に示すように、計測対象用磁石15cは、支点25が計測対象物50cの計測面53cに接触しているときに、計測対象物50cに対して作用する計測対象用磁石15cの磁力により、支点25を中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50cの計測面53cに近づく回転方向に、本体20cに対してモーメントMが作用し得る位置に配置されている。具体的に、計測対象用磁石15cは、支点25よりも軸線方向Sdにおける軸線球体側Sddであって、軸線垂直方向Svで、座中心軸Sを基準にして支点25が配置されている側に配置されている。さらに、計測対象用磁石15cの全ては、座中心軸Sから距離が支点距離D以内である領域内に存在する。よって、計測対象用磁石15cの対向面16cの全てが、座中心軸Sから距離が支点距離D以内である領域内に存在することになる。計測対象用磁石15cの対向面16cは、第一仮想面P1から離れ、且つ第一仮想面P1に垂直である(
図15参照)。
【0069】
本実施形態における計測球保持治具10cを用いて、計測対象物50cの計測面53c上の複数の位置を計測する際には、まず、計測球1の球体2を計測球保持治具10cの球体設置部11に接触させる。この球体2は、球保持用磁石12の磁力により、球体設置部11に接触している状態が維持される。次に、計測球1を保持している計測球保持治具10cの一方の側面24及び計測対象用磁石15cの対向面16cが、計測対象物50cの計測面53cと軸線垂直方向Svで対向するよう、この計測球保持治具10cを配置する。この結果、計測対象用磁石15cの磁力により、計測球保持治具10cの支点25が計測対象物50cの計測面53cに接触して、計測球保持治具10cが計測対象物50c中の計測位置55(計測面53c)周り取り付けられた状態になる。さらに、計測対象用磁石15cの磁力により、計測球保持治具10cの支点25を中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50cの計測面53cに近づく回転方向に、本体20cに対してモーメントMが作用する。このため、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50c中の計測位置55を含む計測面53cに接触する。
【0070】
よって、本実施形態における計測球保持治具10cを用いることで、以上で説明した各実施形態における各計測球保持治具10,10a,10bを用いた場合と同様、計測位置55の計測精度を高めることができる。
【0071】
本開示は、以上で説明した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲において、種々の追加、変更、置き換え、部分的削除等が可能である。
【0072】
「付記」
以上の実施形態及び変形例における計測球保持治具は、例えば、以下のように把握される。
【0073】
(1)第一態様における計測球保持治具は、
磁性材で形成された半径rの球体2と、前記球体2の表面に固定されている反射鏡3と、を有する計測球1を保持可能な計測球保持治具10,10a,10b,10cにおいて、前記球体2の表面の一部に接触可能な球体設置部11と、前記球体2が前記球体設置部11に接触している状態を維持するための球保持用磁石12と、磁性材で形成された計測対象物50,50a,50b,50cと対向可能な対向面16,16b,16cを有する計測対象用磁石15,15b,15cと、前記球体設置部11、前記球保持用磁石12、及び前記計測対象用磁石が取り付けられている本体20,20a,20b,20cと、を有する。前記球体設置部11は、座中心軸Sを有し、前記球体設置部11に接触している前記球体2の中心Cが前記座中心軸S上に位置するよう形成されている。前記球保持用磁石12は、前記座中心軸S上であって、前記座中心軸Sが延びる軸線方向Sdにおける軸線球体側Sddと軸線反球体側Sdaとのうち、前記球体設置部11を基準にして、前記球体設置部11に接触している前記球体2とは反対側の前記軸線反球体側Sdaに配置されている。前記本体20,20a,20b,20cは、前記球体設置部11を基準にして前記軸線反球体側Sdaに位置し、前記計測対象物50,50a,50b,50cに接触可能な支点25,25bを有する。前記支点25,25bは、前記計測対象物50,50a,50b,50cに接しているときに前記座中心軸Sを含む仮想面P1に垂直な軸回りで前記本体20,20a,20b,20cが回転するときの回転中心になる。前記計測対象用磁石15,15b,15cは、前記支点25,25bが前記計測対象物50,50a,50b,50cに接触しているときに、前記計測対象物50,50a,50b,50cに対して作用する前記計測対象用磁石15,15b,15cの磁力により、前記支点25,25bを中心として、前記球体設置部11に接している前記球体2が前記計測対象物50,50a,50b,50cに近づく回転方向に、前記本体20,20a,20b,20cに対してモーメントMが作用し得る位置に配置されている。
【0074】
本態様における計測球保持治具10,10a,10b,10cを用いて、計測対象物50,50a,50b,50c中の計測位置55を計測する際には、まず、計測球1の球体2を計測球保持治具10,10a,10b,10cの球体設置部11に接触させる。この球体2は、球保持用磁石12の磁力により、球体設置部11に接触している状態が維持される。すなわち、計測球1は、計測球保持治具10,10a,10b,10cにより保持される。次に、計測球1を保持している計測球保持治具10,10a,10b,10cの本体20,20a,20b,20cの一部を計測対象物50,50a,50b,50c中の計測位置55周りの部分に対向するよう、この計測球保持治具10,10a,10b,10cを配置する。この結果、計測対象用磁石15,15b,15cの磁力により、計測球保持治具10,10a,10b,10cの支点25,25bが計測対象物50,50a,50b,50c中の計測位置55周りの位置に接して、計測球保持治具10,10a,10b,10cが計測対象物50,50a,50b,50c中の計測位置55周り取り付けられた状態になる。さらに、計測対象用磁石15,15b,15cの磁力により、支点25,25bを中心として、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50,50a,50b,50cに近づく回転方向に、本体20,20a,20b,20cに対してモーメントMが作用する。このため、球体設置部11に接している球体2が計測対象物50,50a,50b,50c中の計測位置55に接触する。
【0075】
次に、球体2の表面に設けられている反射鏡3が計測装置本体5の側を向くよう、球体2が球体設置部11及び計測対象物50,50a,50b,50c中の計測位置55に接触している状態を維持しつつ、球体2を回転させる。
【0076】
次に、計測装置本体5のレーザ発振器から反射鏡3にレーザ光を照射し、反射鏡3で反射されたレーザ光を計測装置本体5の受光器で受光する。計測装置本体5は、反射鏡3に照射したレーザ光及び受光器が受光したレーザ光に基づいて、計測球1の中心座標を定める。さらに、計測装置本体5は、計測球1の中心座標から、球体2の半径rを用いて、球体2が接触している計測対象物50,50a,50b,50cの計測位置55の座標を求める。
【0077】
(2)第二態様における計測球保持治具は、
前記第一態様における計測球保持治具10,10a,10b,10cにおいて、前記支点25,25bは、前記仮想面P1内で前記座中心軸Sに対して垂直な軸線垂直方向Svに、前記座中心軸Sから離れている。前記計測対象用磁石15,15b,15cは、前記支点25,25bよりも前記軸線方向Sdにおける前記軸線球体側Sddであって、前記軸線垂直方向Svで、前記座中心軸Sを基準にして前記支点25,25bが配置されている側に配置されている。且つ、前記計測対象用磁石15,15b,15cは、前記座中心軸Sからの距離が前記座中心軸Sから前記支点25,25bまでの距離D未満である領域内に、前記対向面16,16b,16cの少なくとも一部が存在するよう、配置されている。
【0078】
(3)第三態様における計測球保持治具は、
前記第二態様における計測球保持治具10,10b,10cにおいて、前記支点25,25bは、前記座中心軸Sからの距離が前記半径r未満の位置に配置されている。
【0079】
本態様では、反射鏡3によるレーザ光の受光可能角度LAを大きくすることができる。言い換えると、本態様では、レーザ光を出射する計測装置本体5の配置可能領域を広くすることができる。
【0080】
(4)第四態様における計測球保持治具は、
前記第三態様における計測球保持治具10,10b,10cにおいて、前記支点25,25bは、前記座中心軸Sからの距離が前記半径rの半分より長い距離の位置に配置されている。
【0081】
本態様では、球保持用磁石12と計測対象用磁石15,15b,15cとの干渉を容易に回避することができる。
【0082】
(5)第五態様における計測球保持治具は、
前記第二態様から前記第四態様のうちのいずれか一態様における計測球保持治具10,10aにおいて、前記計測対象用磁石15は、前記対向面16の一部が、前記座中心軸Sからの距離が前記座中心軸Sから前記支点25までの距離D未満である領域内に存在し、前記対向面16の残りの部分が、前記座中心軸Sからの距離が前記座中心軸Sから前記支点25までの距離D以上である領域内に存在する。
【0083】
(6)第六態様における計測球保持治具は、
前記第五態様における計測球保持治具10において、前記対向面16は、前記仮想面P1に平行で且つ前記仮想面P1上に位置する。
【0084】
(7)第七態様における計測球保持治具は、
前記第五態様における計測球保持治具10aにおいて、前記対向面16は、前記仮想面P1に平行で且つ前記仮想面P1から離れている。
【0085】
(8)第八態様における計測球保持治具は、
前記第二態様から前記第四態様のうちのいずれか一態様における計測球保持治具10b,10cにおいて、前記計測対象用磁石15b,15cは、前記対向面16b,16cの全てが、前記座中心軸Sからの距離が前記座中心軸Sから前記支点25,25bまでの距離D未満である領域内に存在する。
【0086】
(9)第九態様における計測球保持治具は、
前記第八態様における計測球保持治具10b,10cにおいて、前記対向面16b,16cは、前記仮想面P1に垂直である。
【0087】
(10)第十態様における計測球保持治具は、
前記第二態様から前記第四態様のうちのいずれか一態様における計測球保持治具10b,10cにおいて、前記対向面16b,16cは、前記仮想面P1である第一仮想面に垂直な面で且つ前記座中心軸Sを含む第二仮想面P2に平行で、前記第二仮想面P2から離れている。
【0088】
(11)第十一態様における計測球保持治具は、
前記第十態様における計測球保持治具10bにおいて、前記対向面16bは、前記第一仮想面P1と交わっている。
【0089】
(12)第十二態様における計測球保持治具は、
前記第十態様における計測球保持治具10cにおいて、前記対向面16cは、前記第一仮想面P1から離れている。
【符号の説明】
【0090】
1:計測球
2:球体
3:反射鏡
5:計測装置本体(レーザトラッカー)
10,10a,10b,10c:計測球保持治具
11:球体設置部
12:球保持用磁石
15,15b,15c:計測対象用磁石
16,16b,16c:対向面
20,20a,20b,20c:本体
21,21a,21b:主本体
22:正面
23:背面
24:側面
25,25b:支点
26x,26xa:第一腕
26y,26ya::第二腕
27:対向面
26b:支点胴
27b:背面
28b:側面
29ba:第一溝
29bb:第二溝
50,50a,50b,50c:計測対象物
51,51a,51b:第一面
52,52a,52b:第二面
53:先端
53a,53b:内周面
53c:計測面
55:計測位置
O:対象軸線
Od:対象軸線方向
Od1:軸線第一側
Od2:軸線第二側
Oc:周方向
S:座中心軸
Sd:軸線方向
Sdd:軸線球体側
Sda:軸線反球体側
Sv:軸線垂直方向
Svd:中心軸側
Sba:反中心軸側
P1:第一仮想面
P2:第二仮想面