(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108465
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】半導体装置、及びモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240805BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 658E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012849
(22)【出願日】2023-01-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り サンケン電気株式会社発行のサンケン技報第54巻(2022年11月20日発行)
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】安原 淳
(57)【要約】
【課題】ソフトリカバリーなSJ-MOSFET構造の半導体装置、及びモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】実施の形態に係る半導体装置1は、第1導電型の第1半導体領域10と、第1半導体領域10上に第1方向に形成された第2導電型の第2半導体領域120と、第2半導体領域120上に第1方向に形成された第1導電型の第3半導体領域130と、第2半導体領域120上に第1方向に設けられた制御電極140と、第1半導体領域10と電気的に接続した第1主電極170と、第3半導体領域130と電気的に接続した第2主電極160と、第1半導体領域10上に第1方向に形成され、第1方向に複数がつながるように形成された第1導電型と反対導電型の第2導電型のコラム領域20とを備える。コラム領域20の第1方向に直交する第2方向の最大の幅W1に対する最小の幅W2の比W2/W1が1/2から1/5である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域上に第1方向に形成された第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域上に前記第1方向に形成された第1導電型の第3半導体領域と、
前記第2半導体領域上に前記第1方向に設けられた制御電極と、
前記第1半導体領域と電気的に接続した第1主電極と、
前記第3半導体領域と電気的に接続した第2主電極と、
前記第1半導体領域上に前記第1方向に形成され、前記第1方向に複数がつながるように形成された前記第1導電型と反対導電型の第2導電型のコラム領域と
を備え、
前記コラム領域の前記第1方向に直交する第2方向の最大の幅W1に対する最小の幅W2の比W2/W1が1/2から1/5である、半導体装置。
【請求項2】
前記コラム領域は、前記第2半導体領域と前記第1方向において接続している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1半導体領域と前記第1主電極との間に設けられ、前記第1半導体領域よりも不純物濃度が高い前記第1導電型の第4半導体領域を備え、
前記コラム領域は前記第4半導体領域と接していない、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体装置と、
前記半導体装置を制御する制御回路と
を備える、モータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、及びモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は小型化、大電流化、高速化の要求を受けて、搭載されるデバイスのさらなる高性能化が求められている。その中で高耐圧素子であるスーパージャンクションMOSFET(Super Junction MOSFET以下、SJ-MOSFET)は、民生、産業、自動車など多岐の分野にわたり採用されている。SJ-MOSFETは従来のプレーナ型MOSFETと比較して、耐圧とオン抵抗のトレードオフを改善し、オン抵抗を低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SJ-MOSFET構造は、スイッチング時のリカバリー波形がハードリカバリーとなり、スイッチングノイズが大きくなりやすい。モータ駆動装置などのインテリジェントパワーモジュール(Intelligent Power Module:IPM)用のスイッチング素子としてSJ-MOSFET構造を用いる場合、このノイズに起因した電磁環境両立性(Electromagnetic Compatibility:EMC)対策が必要となる。
【0005】
実施の形態が解決しようとする課題は、ソフトリカバリーなSJ-MOSFET構造の半導体装置、及びモータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施の形態に係る半導体装置は、第1導電型の第1半導体領域と、第1半導体領域上に第1方向に形成された第2導電型の第2半導体領域と、第2半導体領域上に第1方向に形成された第1導電型の第3半導体領域と、第2半導体領域上に第1方向に設けられた制御電極と、第1半導体領域と電気的に接続した第1主電極と、第3半導体領域と電気的に接続した第2主電極と、第1半導体領域上に第1方向に形成され、第1方向に複数がつながるように形成された第1導電型と反対導電型の第2導電型のコラム領域とを備える。コラム領域の第1方向に直交する第2方向の最大の幅W1対する最小の幅W2の比W2/W1が1/2から1/5である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施の形態によれば、ソフトリカバリーなSJ-MOSFET構造の半導体装置、及びモータ駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の基本技術に係る半導体装置の断面図。
【
図2】本発明の別の基本技術に係る半導体装置の断面図。
【
図5】(a)実施形態に係る半導体装置において、最適化前の電位分布シミュレーション結果を表す図、(b)実施形態に係る半導体装置において、最適化後の電位分布シミュレーション結果を表す図。
【
図6】
図5(a)及び
図5(b)に示す実施形態に係る半導体装置において、ドレイン・ソース間に印加する逆バイアス電圧VDS(V)とPコラム構造による出力容量C(F)との関係の比較図。
【
図7】実施形態に係る半導体装置において、Pコラム構造最適化前のリカバリー特性例。
【
図8】実施形態に係る半導体装置において、Pコラム構造最適化後のリカバリー特性例。
【
図9】実施形態に係る半導体装置において、デバイスA~EのX2/X1比率、耐圧BVdss、耐圧比率、オン抵抗Ron、Ron比率、ソフトリカバリー効果の比較図。
【
図10】デバイスA~Eの電位分布シミュレーション結果を表す図。
【
図11】デバイスA~Eの電位分布シミュレーション結果を表す拡大図。
【
図12】デバイスA~Eのリカバリー特性の比較図。
【
図13】デバイスA~Eのリカバリー特性上の傾き角度θの比較図。
【
図14】デバイスA~Eのリカバリー特性上の傾き角度θとRon比率の比較図。
【
図15】実施形態に係る半導体装置を適用したモータ駆動装置の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部の長さの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0010】
また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(基本構造)
図1は、本発明の基本技術に係るSJ-MOSFETの半導体装置1Aの断面図である。
【0012】
基本技術に係る半導体装置1Aは、
図1に示すように、SJ構造を採用した種々の半導体素子を形成可能である。例えば、電界効果トランジスタ(FET)が形成される。基本技術に係る半導体装置1Aは、
図1に示すように、第1導電型の基板(ドレイン領域)110A上に形成された半導体領域10Aに、コラム領域20Aが形成された構造を備える。半導体領域10Aはドリフト領域である。基本技術に係る半導体装置1Aは、P型のベース領域120A、N型のソース領域130A、ゲート電極140A、ゲート絶縁膜150A、ソース電極160A、及びドレイン電極170Aを更に備える。
【0013】
SJ-MOSFETは、ドレイン・ソース間の電流経路となり、かつ半導体装置1Aの耐圧を決定する半導体領域(N型ドリフト層)10A内に、ベース領域120Aと接続されたコラム領域20Aを周期的に配置した構造を有する。これにより、半導体装置1Aに逆バイアス電圧が印加されると、表面のベース領域120Aから半導体領域10Aの方向に向かって空乏層が伸びる。また、半導体領域10Aとコラム領域20Aとの接合部から半導体領域10A内に空乏層が広がる。
【0014】
更に印加電圧を大きくすると、コラム領域20Aから半導体領域10Aに広がる空乏層が互いに繋がり、半導体領域10Aが略空乏化する。そのため半導体領域10Aの不純物濃度を上げても半導体領域10Aが空乏化し易いため、半導体領域10Aの不純物濃度を上げて低オン抵抗化が実現可能となる。
【0015】
図1において、ドレイン電流IDの電流経路は、破線で示すように表される。ドレイン電流IDの電流経路上のRsubはドレイン領域110A内のバルク抵抗成分、Rdは半導体領域10Aの抵抗成分、Rjはベース領域120A間のJFET効果で半導体領域10A内に発生する抵抗成分、Raはゲート絶縁膜150A直下の半導体領域10Aの抵抗成分、Rchはベース領域120A内に形成されるチャネル抵抗成分、Rsはソース領域130A内の抵抗成分をそれぞれ表している。
【0016】
コラム領域20の形成方法には、大きく分けて2つある。一つは多層エピタキシャル層を堆積させる「マルチエピレイヤー方式」であり、もう一つはSi層を縦長に深くエッチングして形成した溝(トレンチ)にエピタキシャル層を埋め込む「ディープトレンチ方式」である。
図1において、P型コラム領域20Aは、説明の簡単化のために一様なP
-層として示されているが、実際には、後述する
図4に示すように、複数の団子状領域が深さ方向(Z方向)に連結された形状を有する。
【0017】
(ソフトリカバリー化構造:エピタキシャル構造の最適化)
図2は、本発明の別の基本技術に係るSJ-MOSFETの半導体装置1Aの断面図である。
図2の構造では、エピタキシャル構造の最適化の一例を示す。エピタキシャル構造の最適化をおこない、意図的に基板(ドレイン領域)110Aとコラム領域20Aの間にN
-層110Bを形成する。これにより、スイッチング時のリカバリーにおいて、基板110A上部に形成されたN
-層110Bに少数キャリアであるホールを残す(蓄積する)ことが可能となり、リカバリー時の戻り波形をソフトにすることが可能となる。
【0018】
エピタキシャル構造の最適化前構造(
図1)と最適化構造(
図2)のシミュレーションによるリカバリー波形の比較を
図3に示す。
図3において、破線は最適化前構造、実線は最適化構造のリカバリー波形である。
図3より、逆方向電流のピークに達した後の電流の戻り波形において、エピタキシャル構造の最適化構造(
図2)では電流の戻り波形の傾斜が緩やかとなり、戻りの後のリンギングが無いソフトな波形を実現していることがわかる。
【0019】
(実施形態)
図4は、実施形態に係る半導体装置1の断面図である。尚、デバイスの方向をXYZ軸で定義する。
図4でコラム領域20が配列される方向をX方向、コラム領域20が延伸する紙面に垂直方向をY方向、XY平面に垂直方向をZ方向とする。
【0020】
実施形態に係る半導体装置1は、
図4に示すように、第1導電型の半導体領域10と、半導体領域10中に形成された第2導電型の複数のコラム領域20とを備える。コラム領域20が配置されることによって、半導体領域10内に複数のpn接合が形成される。このように、半導体装置1は、第1導電型のコラム領域と第2導電型のコラム領域とが隣接して配置されたスーパージャンクション(SJ)構造を有する。
図4では、マルチエピレイヤー方式によってコラム領域20を形成している。このため、コラム領域20が、深さ方向に沿って複数のくびれが箇所を有している。即ち、コラム領域20が配列される方向(X方向)と垂直な方向(Z方向)のXZ断面は、
図4に示すように、複数の団子状領域が深さ方向に連結された形状を示している。
【0021】
実施形態に係る半導体装置1は、
図4に示すように、第1導電型の第1半導体領域(ドリフト領域)10と、第1半導体領域10上にZ方向に形成された第2導電型の第2半導体領域(ベース領域)120と、第2半導体領域120上にZ方向に形成された第1導電型の第3半導体領域(ソース領域)130と、第3半導体領域130上にZ方向に設けられた制御電極(ゲート電極)140と、第1半導体領域10と電気的に接続した第1主電極(ドレイン電極)170と、第3半導体領域130と電気的に接続した第2主電極(ソース電極)160と、第1半導体領域10上にZ方向に形成され、深さ方向(Z方向)に複数がつながるように形成された第2導電型のコラム領域20とを備える。ここで、コラム領域20のX方向の最大の幅W1に対する最小の幅W2の比W2/W1が1/2から1/5である。
【0022】
また、実施形態に係る半導体装置1において、コラム領域20は、
図4に示すように、第2半導体領域(Pベース領域)120とZ方向において接続している。
【0023】
また、実施形態に係る半導体装置1は、
図4に示すように、第1半導体領域(ドリフト領域)10と第1主電極(ドレイン電極)170との間に第1半導体領域(ドリフト領域)10よりも不純物濃度が高い第1導電型の第4半導体領域(ドレイン領域)110を備えていても良い。ここで、コラム領域20は第4半導体領域110と接していない。
【0024】
なお、第1導電型と第2導電型とは互いに反対導電型である。すなわち、第1導電型がn型であれば、第2導電型はp型であり、第1導電型がp型であれば、第2導電型はn型である。以下では、第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合を説明する。
【0025】
第4半導体領域(ドレイン領域)110は、例えばシリコン(Si)基板などの半導体基板にn型不純物がドープされたn
+型半導体基板である。基板110はドレイン領域として機能する。ドリフト領域であるn
-型の半導体領域10は、基板110の一方の主面111上に配置されている。半導体領域10の不純物濃度は、基板110よりも低い。例えば、砒素(As)やアンチモン(Sb)などが高濃度にドープされたn型シリコン基板上にリン(P)などがドープされたn型エピタキシャル層を成長させて、半導体領域10が形成される。また、図示は省略するが、
図2と同様に、第4半導体領域(ドレイン領域)110と半導体領域10の間には、高抵抗のn
-層が配置されていても良い。ここで、コラム領域20は、第4半導体領域(ドレイン領域)110と接していない。
【0026】
コラム領域20がベース領域120から離れてしまうと、コラム領域20が分断されるので、ホールの供給がうまくできない。そうすると、連続スイッチングさせると、やがてターンオン時の電圧の戻りが遅くなる。そこで、コラム領域20がベース領域120と接していることが望ましい。
【0027】
また、コラム領域20がドレイン領域110と接していないことが望ましい。これにより、空乏化していない領域を作ることが出来るので、よりソフトスイッチングを実現できる。
【0028】
コラム領域20は、半導体領域10にボロン(B)などのp型の不純物が選択的に拡散されて形成される。実施形態に係る半導体装置1において、例えば、コラム領域20は上方から平面的に見て、並行してストライプ状にY方向に延伸している。ストライプ状のコラム領域20は並行してX方向に配列されている。
【0029】
実施形態に係る半導体装置1において、複数のコラム領域20の繰り返し距離(ピッチ)Dは、すべて等しくなるように設定されている。なお、ここでいう「ピッチ」とは、平面方向から見て、隣接するコラム領域20の中心間距離のことである。コラム領域20の深さ及び幅は同一になるように形成される。
【0030】
ベース領域120の不純物濃度は、コラム領域20よりも高く設定される。
図4に示したように、ベース領域120は、コラム領域20の上部にそれぞれ接続して半導体領域10の上面に配置されている。ベース領域120は、半導体領域10の上部の一部にボロン(B)などを選択的にドープして形成される。
【0031】
ソース領域130は、ベース領域120の内側に島状に形成されている。ソース領域130は、半導体領域10の上面に露出している。
【0032】
ゲート電極140は、ゲート絶縁膜150を介して半導体領域10の上方とソース領域130の上方とに渡って配置されている。これにより、ゲート電極140と対向するソース領域130にチャネルが形成される。ゲート電極140は、例えばポリシリコン膜である。ゲート絶縁膜150は、例えばシリコン酸化膜である。
【0033】
ソース電極160は、ソース領域130に電子を注入するための電極である。ソース電極160は、ベース領域120とソース領域130にオーミック接続されている。ドレイン電極170は、基板110の他方の主面112上に配置される。
【0034】
図4ではプレーナ型のMOS構造について示したが、トレンチゲート型のMOS構造に置き換えてもよい。
【0035】
ここで、オン状態について説明する。ドレイン電極170とソース電極160間に、ドレイン電極170の電位がソース電極160の電位よりも高くなる電圧を印加する。この状態でゲート電極140にしきい値以上の電圧が印加されると、ゲート電極140に対向する領域のベース領域120にキャリア(電子)が蓄積される。これにより、チャネルがベース領域120に形成される。その結果、ソース電極160から注入されたキャリアが、ソース領域130、ベース領域120のチャネル、半導体領域10、及び基板110を伝播して、ドレイン電極170に達する。即ち、電流がドレイン電極170からソース電極160に流れる。
【0036】
次に、オフ状態の場合について説明する。オフ状態では、空乏層がコラム領域20間に広がる。これにより、素子領域の外周での電界集中が制御される。ソース電極160とドレイン電極170間に高電圧が印加された場合、外周領域の表面電位は、徐々に降下していく。外周領域の外縁では電圧が十分に下がっているため、SJ構造ではなく、外周領域の構造により耐圧を確保できる。
【0037】
(ソフトリカバリー化構造:Pコラム構造の最適化)
実施形態に係る半導体装置1において、さらなるリカバリー特性の改善のため、コラム領域20の最適化をおこなった。
図5(a)は、コラム領域20の最適化前の構造の電位分布シミュレーション結果である。また、
図5(b)は、コラム領域20の最適化後の構造の電位分布シミュレーション結果である。
図5(a)、
図5(b)において、コラム領域20のコラム段数は耐圧に応じて変動する。
【0038】
実施形態に係る半導体装置1において、コラム領域20の横幅が最大となるW1の領域の上方と下方の領域にコラム領域20の横幅が最小となるW2の領域を設ける。ここで、W2/W1を1/5~1/2にする。これにより、コラム領域20の横幅が最大となるW1の領域に挟まれた半導体領域10の部分は隣り合う空乏層同志がつながりやすいが、コラム領域20の横幅が最小となるW2の領域に挟まれた半導体領域10の部分は隣り合う空乏層同志がつながりにくい。実施形態に係る半導体装置1においては、隣り合う空乏層同士がつながりやすい箇所とつながりにくい箇所が深さ方向のZ方向で複数繰り返し設けられている。
【0039】
図5(a)において、コラム領域20のX方向最大幅のW1=2X1に対する最小幅W2=2X2の比は、約0.69である。一方、
図5(b)において、コラム領域20のX方向の最大幅W1=2X1に対する最小幅W2=2X2の比は、約0.36である。コラム領域20のX方向の最大幅W1に対する最小幅W2を変化させた様々なシミュレーションの結果、コラム領域20のX方向の最大幅W1に対する最小幅W2の比W2/W1が1/2から1/5の範囲にあることが望ましいことが見出された。シミュレーションの結果より、X2/X1の値が1/2を超えると、後述するようにリカバリー波形の傾きの角度θの値があまり変化しない傾向が得られている。このため、X2/X1の上限値は1/2に設定することが望ましい。一方、X2/X1の値が1/5より小さくなると、ドレイン・ソース間のオン抵抗Ron比率が急峻に増大する傾向が得られている。このため、X2/X1の下限値は1/5に設定することが望ましい。
【0040】
図6は、ドレイン・ソース間に印加する逆バイアス電圧VDS(V)とコラム領域20による出力容量C(F)との関係の比較図である。
図6より逆バイアス電圧10V~100Vの領域において
図5(a)及び
図5(b)に示すコラム領域20の違いにより、容量変化にも違いが見られることがわかる。
【0041】
その結果、
図6に示すように、コラム領域20の最適化前の構造ではVDSが約20Vあたりから急激に出力容量Cが変化するのに対し、最適化後ではVDSが10V付近から段階的に出力容量Cが変化し、最適化前の構造に比べて緩やかな容量変化となる。
【0042】
図7は、
図5(a)に示す実施形態に係る半導体装置において、コラム領域の最適化前のリカバリー特性例を示す。
図8は、
図5(b)に示す実施形態に係る半導体装置において、コラム領域の最適化後のリカバリー特性例を示す。
図7及び
図8では、逆方向電流のピークに達してから電流OFFまでのリンギング波形が示されている。
【0043】
図5(b)に示す実施形態に係る半導体装置では、電圧の急激な変化を抑え、戻り電流の急激な変動を抑制した結果、
図8に示すように、逆方向電流のピークに達してから電流OFFまでのリンギングを抑制可能である。
【0044】
(コラム構造のシミュレーション結果)
図9は、実施形態に係る半導体装置において、様々なコラム構造を有するデバイスA~Eについて、X2/X1比率、ドレイン・ソース間耐圧BVdss、耐圧比率、ドレイン・ソース間オン抵抗Ron、Ron比率、ソフトリカバリー効果を比較した図である。デバイスA~Eは、実施形態に係る半導体装置であり、X2/X1比率がそれぞれ0.19、0.39、0.57、0.69、0.82を有する。
【0045】
デバイスA~Eのドレイン・ソース間耐圧BVdss(V)の値は、それぞれ545.5、564.4、597.5、623.2、648.5である。デバイスA~Eの耐圧比率は、デバイスDを0%として、それぞれ-12%、-9%、-4%、0%、+4%である。
【0046】
デバイスA~Eのドレイン・ソース間オン抵抗Ron(オーム/mm2)の値は、それぞれ2.407、2.483、2.662、2.897、3.432である。デバイスA~EのRon比率は、デバイスDを0%として、それぞれ-17%、-14%、-8%、0%、+18%である。
【0047】
デバイスA~Eの中で、ソフトリカバリー特性の効果は、デバイスAが最良である。デバイスBは、デバイスAに比較して劣るが、相対的に良好である。デバイスC~Eは、デバイスA~Bに比較して、ソフトリカバリー特性の効果は、相対的に劣る。
【0048】
図10は、実施形態に係る半導体装置において、デバイスA~Eの電位分布シミュレーション結果を表す図である。
図10は、コラム領域20をX方向で対称に切断した構造部分についての電位分布シミュレーション結果である。また、
図11は、
図10の部分拡大図である。
図11には、コラム領域20の最大幅W1の1/2に等しいX1と、Pコラム構造の最小幅W2の1/2に等しいX2も示されている。
【0049】
上述のように、コラム領域20のX方向の最大幅W1に対する最小幅W2を変化させた様々なシミュレーションの結果、コラム領域20のX方向の最大幅W1に対する最小幅W2の比W2/W1が、1/2~1/5の範囲にあることが望ましいことが見出された。
【0050】
(リカバリー特性の傾き角度θ)
図12は、実施形態に係る半導体装置において、デバイスA~Eのリカバリー特性の比較図である。また、
図13には、
図12の時刻t0~時刻tMの間のリカバリー回復期間におけるリカバリー波形が拡大して示されている。ここで、時刻t0はリカバリー波形の谷部分に選定し、時刻tMはリカバリー波形の立ち上り後の安定部分に選定した。
【0051】
ここで、
図13において、時刻t0~tMの間の特定の時刻tCにおいて引いた垂直な線(ID軸に平行)とデバイスA~Eのリカバリー波形を表す各曲線との接点おいて引いた接線は、破線で示すように表される。そこで、垂直な線(ID軸に平行)と各曲線に対して引いた接線とのなす角度をデバイスA~Eのリカバリー特性の傾き角度θと定義する。例えば、
図13では、時刻tCにおいて引いた垂直線(ID軸に平行)とデバイスCのリカバリー曲線との接点で引いた接線のなす角度をθcで表している。時刻tCにおいて引いた垂直線(ID軸に平行)とデバイスA、B、D、Eのリカバリー曲線との接点で引いた接線のなす角度θ
A、θ
B、θ
D、θ
Eも同様に求めることが出来る。なお、
図13では、煩雑さを避けるため図示を省略している。
【0052】
図14は、実施形態に係る半導体装置において、デバイスA~Eのリカバリー特性の傾き角度θ(a.u.)とRon比率(a.u.)の比較図である。リカバリー特性の傾き角度θ(a.u.)は、θ
A>θ
B>θc>θ
D>θ
Eの傾向が得られている。これに対して、Ron比率(a.u.)は、傾き角度θ(a.u.)とは逆の傾向が得られている。X2/X1の値が1/2を超えると、リカバリー波形の傾きの角度θの値があまり変化しない。このため、X2/X1の上限値は1/2に設定することが望ましい。一方、X2/X1の値が1/5より小さくなると、ドレイン・ソース間のオン抵抗Ron比率が急峻に増大する。このため、X2/X1の下限値は1/5に設定することが望ましい。
【0053】
(モータ駆動装置)
図15は、実施形態に係る半導体装置を適用した三相交流インバータ600の回路図である。実施形態に係る半導体装置は、ソフトリカバリー性能のSJ-MOSFET180として表されている。
図15に示すように、三相交流インバータ600において、絶縁ゲート端子(「ゲート」と略す)171を有するSJ-MOSFET180には、SJ-MOSFET180と逆並列にダイオード172が接続されている。三相交流インバータ600を構成する各アームのSJ-MOSFET180のゲート171には、SJ-MOSFETを制御する制御回路167が接続されている。また、制御回路167には、三相交流インバータ600用の制御回路164が接続されている。
【0054】
三相交流インバータ600は、電圧源169から電力が供給され、ゲート171に電圧が印加され高速にターンオン、ターンオフを繰り返すことで誘導性負荷168に供給する電力を制御する。なお、誘導性負荷168は、例えばモータ(電動機)である。
【0055】
三相交流インバータ600を小型化、高効率化するには、熱抵抗の低減と共に、SJ-MOSFET180とダイオード172の損失低減が有効である。損失には、SJ-MOSFET180とダイオード172がそれぞれ導通する際に生じる導通損失と、SJ-MOSFET180がスイッチングする際にSJ-MOSFET180とダイオード172で生ずるスイッチング損失がある。
【0056】
更にスイッチング損失は、SJ-MOSFET180がターンオンする際に発生するターンオン損失、対アームのダイオードにおける逆回復損失、更にSJ-MOSFET180がターンオフする際に発生するターンオフ損失、対アームのダイオードにおける順回復損失の4つに分けられる。
【0057】
モータ駆動装置などのインテリジェントパワーモジュール(IPM)用のスイッチング素子として、実施形態に係る半導体装置(ソフトリカバリー性能のSJ-MOSFET)を用いることで、ノイズに起因したEMC対策を実現可能である。
【0058】
(その他の実施形態)
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0059】
1、1A…半導体装置
10、10A…半導体領域(第1半導体領域)
20、20A…コラム領域
110、110A…基板(ドレイン領域)
110B…N-層(第4半導体領域)
120、120A…ベース領域(第2半導体領域)
130、130A…ソース領域(第3半導体領域)
140、140A…ゲート電極(制御電極)
150、150A…ゲート絶縁膜
160、160A…ソース電極(第2主電極)
164…制御回路
167…SJ-MOSFETのゲートを制御する制御回路
168…誘導性負荷
169…直流電圧源
170、170A…ドレイン電極(第1主電極)
171…SJ-MOSFETの絶縁ゲート(端子)
172…ダイオード
180…SJ-MOSFET
600…三相交流インバータ