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特開2024-108494コーティング組成物、酸化鉄含有被膜を有する物品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108494
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】コーティング組成物、酸化鉄含有被膜を有する物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 125/00 20060101AFI20240805BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240805BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20240805BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240805BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20240805BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240805BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240805BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C09D125/00
C09D7/61
C09D5/32
C09D5/00 D
C09D1/00
B32B27/18 A
B32B27/30 B
B05D7/24 303B
B05D7/24 302J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012893
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】森 春菜
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴弘
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AE05
4D075BB13X
4D075BB16X
4D075BB23X
4D075BB56X
4D075BB92Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB01
4D075DA06
4D075DB13
4D075DC30
4D075DC41
4D075EB14
4D075EB51
4D075EB52
4D075EC02
4D075EC07
4D075EC08
4D075EC30
4D075EC51
4D075EC53
4D075EC54
4F100AA23A
4F100AA25B
4F100AG00C
4F100AK12A
4F100AL07A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10C
4F100DE01A
4F100EH61
4F100JA07A
4F100JD09A
4F100JN02A
4F100YY00A
4J038AA011
4J038CC011
4J038GA13
4J038HA216
4J038JC38
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA09
4J038MA14
4J038NA19
4J038PA06
4J038PA07
(57)【要約】
【課題】成膜適性に優れる酸化鉄含有コーティング組成物を提供すること。
【解決手段】酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含有するコーティング組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含有するコーティング組成物。
【請求項2】
前記酸化鉄の一次粒子径は100nm以下である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記酸化鉄を、組成物全量を100質量%として、0.1質量%以上10質量%以下含有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は2,000以上100,000以下である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
溶媒を更に含有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記酸化鉄の一次粒子径は100nm以下であり、
前記酸化鉄を、組成物全量を100質量%として、0.1質量%以上10質量%以下含有し、
前記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は2,000以上100,000以下であり、かつ
溶媒を更に含有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
酸化鉄含有被膜を有し、かつ
前記酸化鉄含有被膜がポリスチレンスルホン酸を更に含む、物品。
【請求項8】
前記酸化鉄含有被膜の波長380nmにおける透過率、波長400nmにおける透過率、波長420nmにおける透過率および波長440nmにおける透過率は、いずれも50.0%以下である、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
酸化亜鉛含有被膜を更に有する、請求項7に記載の物品。
【請求項10】
基板、前記酸化鉄含有被膜および前記酸化亜鉛含有被膜をこの順に有する、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記酸化鉄含有被膜と前記酸化亜鉛含有被膜とが直接接する積層膜を有する、請求項9に記載の物品。
【請求項12】
前記積層膜の波長380nmにおける透過率、波長400nmにおける透過率、波長420nmにおける透過率および波長440nmにおける透過率はいずれも50.0%以下であり、かつ、前記積層膜の波長360nmにおける透過率は10.0%以下である、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティング組成物を塗布することを含む、酸化鉄含有被膜を有する物品の製造方法。
【請求項14】
酸化亜鉛含有被膜を形成することを更に含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記酸化亜鉛含有被膜の形成は、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を塗布することを含む、請求項14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物、酸化鉄含有被膜を有する物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に被膜を有する物品において、被膜は各種機能を物品に付与することに寄与し得る。例えば、酸化鉄は、被膜において紫外線遮蔽機能を発揮する有効成分として機能し得る(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2016/208715A1
【特許文献2】特開2010-155937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化鉄およびバインダを含有するコーティング組成物を基板上に塗布して被膜を形成することによって、各種物品に紫外線遮蔽機能を付与することができる。しかし本発明者らの検討の結果、酸化鉄およびバインダを含有するコーティング組成物は、成膜適性に劣る場合があることが判明した。
【0005】
本発明の一態様は、成膜適性に優れる酸化鉄含有コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねる中で、バインダの種類が酸化鉄含有コーティング組成物の成膜適性に影響を及ぼすことを新たに見出した。例えば、本発明者らが検討したところ、酸化鉄とともにポリスチレンスルホン酸ナトリウムを含むコーティング組成物は、酸化鉄とポリスチレンスルホン酸ナトリウムとの混合物の分散処理において激しい発泡を起こす等するため、このコーティング組成物による成膜は困難であった。即ち、酸化鉄とともにポリスチレンスルホン酸ナトリウムを含むコーティング組成物は、成膜適性に劣るものであった。そして本発明者らは更に鋭意検討を重ねた結果、酸化鉄とともにポリスチレンスルホン酸を含むコーティング組成物が成膜適性に優れることを新たに見出した。
【0007】
即ち、本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含有するコーティング組成物。
[2]上記酸化鉄の一次粒子径は100nm以下である、[1]に記載のコーティング組成物。
[3]上記酸化鉄を、組成物全量を100質量%として、0.1質量%以上10質量%以下含有する、[1]または[2]に記載のコーティング組成物。
[4]上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は2,000以上100,000以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[5]溶媒を更に含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[6]上記酸化鉄の一次粒子径は100nm以下であり、
上記酸化鉄を、組成物全量を100質量%として、0.1質量%以上10質量%以下含有し、
上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は2,000以上100,000以下であり、かつ
溶媒を更に含有する、[1]に記載のコーティング組成物。
[7]酸化鉄含有被膜を有し、かつ
上記酸化鉄含有被膜がポリスチレンスルホン酸を更に含む、物品。
[8]上記酸化鉄含有被膜の波長380nmにおける透過率、波長400nmにおける透過率、波長420nmにおける透過率および波長440nmにおける透過率は、いずれも50.0%以下である、[7]に記載の物品。
[9]酸化亜鉛含有被膜を更に有する、[7]または[8]に記載の物品。
[10]基板、上記酸化鉄含有被膜および上記酸化亜鉛含有被膜をこの順に有する、[9]に記載の物品。
[11]上記酸化鉄含有被膜と上記酸化亜鉛含有被膜とが直接接する積層膜を有する、[9]または[10]に記載の物品。
[12]上記積層膜の波長380nmにおける透過率、波長400nmにおける透過率、波長420nmにおける透過率および波長440nmにおける透過率はいずれも50.0%以下であり、かつ、上記積層膜の波長360nmにおける透過率は10.0%以下である、[11]に記載の物品。
[13][1]~[6]のいずれかに記載のコーティング組成物を塗布することを含む、酸化鉄含有被膜を有する物品の製造方法。
[14]酸化亜鉛含有被膜を形成することを更に含む、[13]に記載の製造方法。
[15]上記酸化亜鉛含有被膜の形成は、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を塗布することを含む、[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、成膜適性に優れる酸化鉄含有コーティング組成物、および、この組成物を使用する酸化鉄含有被膜を有する物品の製造方法を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、酸化鉄含有被膜を有する物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[コーティング組成物]
本発明の一態様は、酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含有するコーティング組成物に関する。
【0010】
本発明および本明細書において、「コーティング組成物」とは、被膜を形成するために基板等の上に塗布される組成物を意味する。上記コーティング組成物を基板等の上に塗布することを含む成膜工程を実施することによって、酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含有する被膜(酸化鉄含有被膜)を有する物品を製造することができる。
【0011】
可視光線(400nm以上700nm以下の波長範囲の電磁波)の中で、紫外線(380nm以上400nm未満の波長範囲の電磁波)に次いで大きなエネルギーを持つ波長400nm以上500nm未満の波長範囲の電磁波は、「高エネルギー可視光線」と呼ぶことができる。可視光線の中でも、紫外線~高エネルギー可視光線の波長範囲に含まれる380nm以上440nm以下の波長範囲の電磁波の遮蔽機能を物品に付与することは、各種用途において有用である。上記コーティング組成物を用いて形成される酸化鉄含有被膜は、紫外線の遮蔽機能を物品にもたらすことができ、上記波長範囲の電磁波の遮蔽機能を物品にもたらすこともできる。
【0012】
以下、上記コーティング組成物について、更に詳細に説明する。
【0013】
<酸化鉄>
上記コーティング組成物に含まれる酸化鉄の組成式は、FeO、Fe、Fe等の酸化物の組成式であることができ、オキシ水酸化物の組成式FeOOHであることもできる。上記コーティング組成物に含まれる酸化鉄は、酸化鉄粒子であることができ、その粒子形状は特に限定されるものではない。酸化鉄の平均一次粒子径は、上記コーティング組成物を用いて形成される酸化鉄含有被膜の可視光線(例えば波長550nm以上の可視光線)の透過性の観点から、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることが更に好ましい。酸化鉄の平均一次粒子径は、例えば、10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上または50nm以上であることができる。
【0014】
本発明および本明細書において、「一次粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布計により計測して個数基準により測定された値をいうものとする。
【0015】
<ポリスチレンスルホン酸>
本発明および本明細書において、「ポリスチレンスルホン酸」とは、スチレンスルホン酸:
【化1】
の単独重合体および共重合体を包含する意味で用いられる。「スチレンスルホン酸」には、o-スチレンスルホン酸、m-スチレンスルホン酸およびp-スチレンスルホン酸が包含される。「ポリスチレンスルホン酸」において、スルホン酸基部分は、所謂プロトン型(-SOH)である。これに対し、例えば、「ポリスチレンスルホン酸ナトリウム」においては、スルホン酸基部分はナトリウム塩(-SONa)である。本発明者らの検討によれば、例えば、酸化鉄とともにポリスチレンスルホン酸ナトリウムを含むコーティング組成物については、先に記載したように、酸化鉄とポリスチレンスルホン酸ナトリウムとの混合物の分散処理において激しい発泡が起こる。更に、例えば後述するスプレー塗布に適用すると被被覆面上で激しく発泡することも、本発明者らの検討の中で判明した。これに対し、酸化鉄とともにポリスチレンスルホン酸を含むコーティング組成物は、上記のような激しい発泡を起こすことなく調製可能であり、かつ上記のような激しい発泡を起こすことなくスプレー塗布によって被被覆面上での成膜が可能である。ポリスチレンスルホン酸は、バインダとして機能することができる。また、酸化鉄は一般に分散性向上が困難な傾向があるのに対し、ポリスチレンスルホン酸は、酸化鉄の分散性向上に寄与する分散剤として機能することもできる。加えて、ポリスチレンスルホン酸は、上記コーティング組成物を用いて形成される酸化鉄含有被膜の耐熱性向上にも寄与し得る。
【0016】
上記コーティング組成物に含まれるポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は、例えば2,000以上、3,000以上もしくは4,000以上であることができ、また、例えば100,000以下もしくは90,000以下であることができる。本発明および本明細書において、「重量平均分子量」は、GPC(Gel Permeation Chromatography)によって求められる値とする。例えば、GPCによって、溶媒として硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=90/10(体積比)溶液を用いて測定温度40℃で測定を行い、標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)を用いて、ピークトップ分子量と溶出時間から作成した検量線を用いて重量平均分子量を算出することができる。後述の実施例の欄に記載の重量平均分子量は、こうして求められた値である。
【0017】
上記コーティング組成物は、組成物全量(後述するように組成物が溶媒を含む場合は溶媒も含む全量)を100質量%として、例えば、0.10質量%以上10.00質量%以下の酸化鉄を含むことができる。また、上記コーティング組成物において、ポリスチレンスルホン酸100質量部に対する酸化鉄含有量は、例えば、20質量部以上、30質量部以上もしくは40質量部以上であることができ、また、例えば、200質量部以下、150質量部以下、100質量部以下もしくは80質量部以下であることができる。
【0018】
<その他の成分>
上記コーティング組成物は、酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含み、他の成分の1種以上を任意に含むことができる。任意に含まれ得る成分の具体例としては、溶媒を挙げることができる。溶媒としては、例えば、水、アルコール、水とアルコールとを任意の割合で含む混合溶媒等を挙げることができる。アルコールとしては、エタノールを例示できる。例えば、ポリスチレンスルホン酸水溶液を、水、アルコールおよび酸化鉄と混合することによって、溶媒として水およびアルコールを含むコーティング組成物を調製することができる。上記コーティング組成物において、溶媒等の任意に含まれ得る成分の含有量は特に限定されるものではない。
【0019】
以上記載した各種成分は、市販品として入手することができ、公知の方法で調製することもできる。
【0020】
上記コーティング組成物は、上記成分を同時または任意の順序で順次混合して得られた混合物に分散処理、更に必要に応じて撹拌処理を施すことによって調製することができる。上記コーティング組成物は、分散処理において激しい発泡を起こすことなく調製することができる。混合、分散処理および撹拌処理は、公知の方法によって実施することができる。
【0021】
[酸化鉄含有被膜を有する物品およびその製造方法]
本発明の一態様は、酸化鉄含有被膜を有する物品に関する。上記物品において、酸化鉄含有被膜はポリスチレンスルホン酸を更に含む。
【0022】
また、本発明の一態様は、上記コーティング組成物を塗布することを含む、酸化鉄含有被膜を有する物品の製造方法に関する。以下において、上記の酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含有するコーティング組成物を、「酸化鉄含有コーティング組成物」とも記載する。
【0023】
以下、上記物品および上記製造方法について、更に詳細に説明する。
【0024】
<酸化鉄含有被膜>
上記酸化鉄含有被膜は、先に記載した酸化鉄およびポリスチレンスルホン酸を含有するコーティング組成物を、例えば基板上に塗布することによって形成することができる。上記酸化鉄含有被膜に含まれる酸化鉄、ポリスチレンスルホン酸等については、上記コーティング組成物に関する先の記載を参照できる。
【0025】
上記酸化鉄含有被膜の膜厚は、物品の用途に応じて適宜調整することができ、特に限定されるものではない。より厚い酸化鉄含有被膜ほど、紫外線~高エネルギー可視光線の波長範囲に含まれる380nm以上440nm以下の波長範囲の電磁波に対して、より優れた遮蔽機能を発揮できる傾向がある。上記酸化鉄含有被膜の膜厚は、例えば、50nm以上、100nm以上、150nm以上または200nm以上であることができる。また、上記酸化鉄含有被膜の膜厚は、被膜の透明性の観点からは、1μm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、700nm以下であることが更に好ましく、600nm以下であることが一層好ましい。本発明および本明細書において、被膜の膜厚は、触針式表面形状測定装置によって測定することができる。測定装置の一例としては、後述の実施例の欄に記載の測定装置を挙げることができる。
【0026】
上記酸化鉄含有被膜の透過率特性については、紫外線~高エネルギー可視光線の波長範囲に含まれる380nm以上440nm以下の波長範囲の電磁波に対する良好な遮蔽機能を上記物品に付与する観点からは、上記酸化鉄含有被膜の波長380nmにおける透過率、波長400nmにおける透過率、波長420nmにおける透過率および波長440nmにおける透過率は、いずれも50.0%以下であることが好ましい。上記各波長における透過率は、例えば0.0%以上、0.0%超、0.1%以上、1.0%以上、5.0%以上または10.0%以上であることができるが、上記各波長における透過率が低いほど、その波長の電磁波に対する遮蔽機能に優れるため好ましい。
【0027】
例えば、医薬品関連分野では、医薬品の品質保持のために、紫外線遮蔽が求められ、高エネルギー可視光線も遮蔽できることが望まれる。そのため、医薬品を保管および/または流通させる際に使用される容器は、紫外線~高エネルギー可視光線に対する遮蔽機能を有することが望ましい。例えば、上記酸化鉄含有被膜は、そのような容器の外表面および/または内表面に、紫外線~高エネルギー可視光線の波長範囲に含まれる380nm以上440nm以下の波長範囲の電磁波に対する遮蔽機能を付与するための被膜であることができる。また、上記酸化鉄含有被膜は、化粧品、食品等を保管および/または流通させる際に使用される容器の外表面および/または内表面に上記波長範囲の電磁波に対する遮蔽機能を付与するための被膜であることもできる。
【0028】
<酸化鉄含有コーティング組成物の塗布>
上記酸化鉄含有コーティング組成物は、例えば基板上に塗布することができる。詳しくは、上記酸化鉄含有コーティング組成物は、基板表面に直接塗布することができる。基板は、基材のみからなるものであってもよく、基材上に一層以上の被膜を有するものでもよい。基板を構成する素材は特に限定されず、例えば、金属、金属酸化物、ガラス、コンクリート、各種プラスチック、紙、木材等が挙げられ、これらの1種以上を含む複合材でもよい。基板の形状は、板状、曲面状であってもよく、例えば容器形状等の立体形状であってもよい。基板は、表面に凹凸を有するものでもよい。基板の一例としては、先に記載した容器を挙げることができる。上記酸化鉄含有被膜は、基板上の少なくとも一部に位置することができる。また、上記酸化鉄含有被膜は、この被膜が設けられた箇所において、一形態では、物品の最表層として位置することができる。また、他の一形態では、上記酸化鉄含有被膜は、この被膜が設けられた箇所において、基板と他の被膜との間に位置することができる。他の被膜の具体例としては、後述する酸化亜鉛含有被膜を挙げることができる。上記物品は、基板がおもて面および裏面を有する形状の場合、例えばおもて面および裏面のいずか一方または両方の上の一部または全面に、上記酸化鉄含有被膜を有することができる。また、基板の側面の少なくとも一部または全面に、上記酸化鉄含有被膜が設けられていてもよい。上記の点は、後述する酸化亜鉛含有被膜についても同様である。
【0029】
上記酸化鉄含有コーティング組成物の塗布方法としては、液滴塗布法、静電塗布、スピン塗布、ディップ塗布等の公知の方法を用いることができる。基板の形状を選ばない点からは、液滴塗布法が好ましい。液滴塗布法の具体例としては、スプレー塗布法、ミストCVD(Chemical vapor deposition)法等を挙げることができる。スプレー塗布法は、塗布液をノズルからスプレーする方法である。スプレー塗布装置としては、市販のスプレー塗布装置および公知の構成のスプレー塗布装置を使用することができる。ミストCVD法は、塗布液を超音波式ミスト発生装置等によりミスト化し、このミストを基板表面に供給する方法である。ミストCVD塗布装置としては、市販のミストCVD塗布装置および公知の構成のミストCVD塗布装置を使用することができる。成膜適性に関して、上記酸化鉄含有コーティング組成物は、酸化鉄とポリスチレンスルホン酸とを混合して分散処理を施すことによって調製することができ、分散処理において激しい発泡を起こすことなく調製することができる。更に、例えばスプレー塗布において、被被覆面上で激しい発泡を起こすことなく成膜可能である。
【0030】
上記酸化鉄含有コーティング組成物の塗布は、例えば大気圧下または加圧下で、好ましくは大気圧下で実施することができる。大気圧下で実施することは、装置上簡便であり好ましい。塗布を行う雰囲気は、特に限定されず、例えば空気であることができる。
【0031】
上記酸化鉄含有コーティング組成物の基板上への塗布は、基板を加熱して行うことができる。塗布時の基板温度は、例えば400℃以下とすることができ、ヒーター等の公知の加熱手段によって基板温度を制御することができる。本発明および本明細書において、「基板温度」とは、その上に塗布液(例えば上記酸化鉄含有コーティング組成物)が塗布される基板表面の温度をいうものとする。必要により基板温度を所定の温度とし、焼成および乾燥のための加熱を行うことができる。基板温度については、塗布液に含まれる溶媒の種類等に応じて多段階に昇温する等、適宜設定することもできる。
【0032】
塗布を行う雰囲気の雰囲気温度は、例えば50℃以下とすることができる。上記酸化鉄含有コーティング組成物の塗布は、雰囲気温度を50℃以下とし、かつ基板温度を400℃以下として行うことが好ましい。塗布を行う雰囲気温度は0℃以上40℃以下であることが好ましく、基板温度は100℃以上250℃以下であることが好ましい。更に、「塗布-加熱」を1回のサイクルとして、かかるサイクルの回数は1回または2回以上とすることができる。2回以上繰り返すことによって酸化鉄含有被膜の厚膜化を図ることができる。また、上記酸化鉄含有コーティング組成物の塗布量および塗布速度は、コーティング組成物の組成、使用する塗布装置の仕様、形成すべき酸化鉄含有被膜の膜厚等に応じて調整することができる。また、塗布方法としてスプレー塗布法を採用する場合のスプレー圧力(例えば拡散圧力および/または霧化圧力)を調整することによって、形成される酸化鉄含有被膜の膜厚を制御することもできる。スプレー圧力は、例えば0.01MPa以上0.10MPa以下とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0033】
<酸化亜鉛含有被膜>
上記物品は、基板および上記酸化鉄含有被膜のみからなるものでもよく、基板および上記酸化鉄含有被膜に加えて一層以上の被膜を任意の位置に更に有するものでもよい。かかる被膜の具体例としては、酸化亜鉛含有被膜を挙げることができる。酸化亜鉛含有被膜は、上記物品の短波長側(例えば波長360nm以上380nm以下)の電磁波に対する遮蔽機能を付与することに寄与し得る。
【0034】
上記酸化亜鉛含有被膜については、酸化亜鉛を含む被膜である点以外、特に限定されるものではない。例えば、上記酸化亜鉛含有被膜は、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を塗布する工程を経て形成することができる。ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を用いることにより、ジアルキル亜鉛の加水分解によって、酸化亜鉛を含有する被膜を形成することができる。ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を用いる方法は、酸化亜鉛粒子とバインダとを含む塗布液によって酸化亜鉛含有被膜を形成する方法に対して、バインダなしで、酸化亜鉛含有被膜を形成することが可能な方法である。また、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を用いる方法によれば、被被覆面(例えば上記酸化鉄含有被膜表面)に酸化亜鉛を強固に付着させることも可能である。更に、酸化亜鉛粒子とバインダとを用いて形成された酸化亜鉛含有被膜に対して、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を用いて形成された酸化亜鉛含有被膜は、高い耐熱性、高い機械的強度および高い耐水性を示し得る観点からも好ましい。
【0035】
上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、物品の用途に応じて適宜調整することができ、特に限定されるものではない。より厚い酸化亜鉛含有被膜ほど、より優れた紫外線遮蔽機能を発揮できる傾向がある。上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、例えば、50nm以上、100nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、300nm以上、350nm以上、400nm以上または450nm以上であることができる。また、上記酸化亜鉛含有被膜の膜厚は、被膜の透明性の観点からは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。
【0036】
上記物品が酸化亜鉛含有被膜を有する場合、上記物品は、酸化亜鉛含有被膜を任意の位置に含むことができる。例えば、上記物品は、基板と酸化鉄含有被膜との間に、または、基板上に位置する酸化鉄亜鉛被膜上に、酸化亜鉛含有被膜を有することができる。一形態では、上記物品は、基板、上記酸化鉄含有被膜および酸化亜鉛含有被膜をこの順に有することができる。いずれの積層形態においても、上記酸化鉄含有被膜と酸化亜鉛含有被膜とは、直接接することができ、または他の層を介して間接的に積層されていてもよい。先に記載したように、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を用いて形成された酸化亜鉛含有被膜は高い耐熱性、高い機械的強度および高い耐水性を示し得るため、かかる酸化亜鉛含有被膜を含むことは、上記物品の耐熱性、耐久性および耐水性向上の観点から好ましい。また、基板上に位置する酸化鉄亜鉛被膜上に酸化亜鉛含有被膜を設けることにより、酸化亜鉛含有被膜は、酸化鉄含有被膜を保護する保護層として機能し得る。例えば、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物を用いて形成された酸化亜鉛含有被膜は高い耐水性を示し得るため、かかる酸化亜鉛含有被膜を酸化鉄含有被膜上に設けることは、酸化鉄含有被膜を水分から保護する観点から好ましい。
【0037】
上記酸化鉄含有被膜と酸化亜鉛含有被膜とが直接接する積層膜の透過率特性については、上記積層膜の波長380nmにおける透過率、波長400nmにおける透過率、波長420nmにおける透過率および波長440nmにおける透過率がいずれも50.0%以下であることが好ましく、更に、上記積層膜の波長360nmにおける透過率が10.0%以下であることがより好ましい。
上記積層膜の380nm、400nm、420nmおよび440nmの各波長における透過率は、例えば0.0%以上、0.0%超、0.1%以上、1.0%以上、5.0%以上または10.0%以上であることができるが、上記各波長における透過率が低いほど、その波長の電磁波に対する遮蔽機能に優れるため好ましい。
上記積層膜の波長360nmにおける透過率は、例えば0.0%以上、0.0%超または0.1%以上であることができるが、透過率が低いほど、波長360nmの電磁波に対する遮蔽機能に優れるため好ましい。
上記積層膜の膜厚は、例えば250nm以上であることができ、また、例えば2μm以下であることができる。
【0038】
<ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物>
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物に含まれるジアルキル亜鉛としては、例えば下記式(1)によって表されるジアルキル亜鉛を挙げることができる。
【0039】
【化2】
【0040】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上7以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す。式(1)で表される有機亜鉛化合物は、ジアルキル亜鉛である。RおよびRは、一形態では同じアルキル基を表し、他の一形態では異なるアルキル基を表す。
【0041】
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、2-ヘキシル基、ヘプチル基等を挙げることができる。
【0042】
式(1)で表されるジアルキル亜鉛は、Rで表されるアルキル基およびRで表されるアルキル基として、炭素数が1以上3以下のアルキル基を有することが好ましい。上記有機亜鉛化合物は、入手容易性が高いことから、ジエチル亜鉛(即ちRおよびRがいずれもエチル基)であることがより好ましい。
【0043】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物に含まれるジアルキル亜鉛は、公知の方法で合成することができ、市販品として入手することもできる。
【0044】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物は、ジアルキル亜鉛を1種以上含み、通常、溶媒を更に含むことができる。溶媒は、特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、1,2-ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、グライム、ジグライム、トリグライム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒等が挙げられる。また、溶媒は1種のみ用いることができ、2種類以上を任意の割合で混合して用いることもできる。
【0045】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物のジアルキル亜鉛の濃度は、組成物全量を100質量%として、15質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下、12質量%以下の順に更に好ましい。また、上記濃度は、例えば、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。上記濃度は、十分な膜厚を有する酸化亜鉛含有被膜を製造する、ポットライフおよび溶媒の揮発に伴うノズルのつまりを抑える等の観点から、上記範囲であることが好ましい。
【0046】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物は、上記成分のみを含むことができ、または、公知の成分の1種以上を任意の割合で含むこともできる。
【0047】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物の塗布は、水および酸素が存在する雰囲気下で行うことができる。「水および酸素が存在する雰囲気」の相対湿度は、例えば20%以上100%以下であることができる。「水および酸素が存在する雰囲気」の相対湿度は、酸化亜鉛含有被膜の生成がスムーズであるという観点から、40%以上100%以下であることが好ましく、40%以上90%以下、40%以上80%以下、40%以上70%以下、40%以上60%以下の順により好ましい。
「水および酸素が存在する雰囲気」における酸素濃度は、雰囲気中の気体全量(ただし水蒸気を除く)を100体積%として、例えば5体積%以上50体積%以下、10体積%以上40体積%以下または15体積%以上30体積%以下であることができる。
「水および酸素が存在する雰囲気」は、例えば空気であることができ、好ましくは、上記範囲の相対湿度分の水を含有した空気であることができる。または、「水および酸素が存在する雰囲気」は、上記の空気の代わりに窒素、酸素および水を混合させた混合ガスの雰囲気であってもよい。なお、公知の通り、空気の酸素濃度は、水蒸気を除く気体全量に対して約20体積%である。
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物の塗布は、例えば大気圧下または加圧下で、好ましくは大気圧下で、水および酸素が存在する雰囲気下で行うことができる。大気圧下で実施することは、装置上簡便であり好ましい。
【0048】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物は、例えば、基板上に形成された上記酸化鉄含有被膜表面に塗布することができる。塗布は、基板を加熱して行うことができる。塗布時の基板温度は、例えば400℃以下とすることができ、ヒーター等の公知の加熱手段によって基板温度を制御することができる。必要により基板温度を所定の温度とし、焼成および乾燥のための加熱処理を行うことができる。加熱処理によって、溶媒乾燥および酸化亜鉛形成を行うことができる。溶媒乾燥のための加熱処理および酸化膜形成のための加熱処理において、基板温度は同一であってもよく異なってもよい。溶媒乾燥とその後の酸化亜鉛形成のための基板温度を同一にし、溶媒乾燥と酸化亜鉛形成を同時に行うことも可能である。基板温度については、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物に含まれる溶媒の種類等に応じて多段階に昇温する等、適宜設定することもできる。
【0049】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物の塗布を行う雰囲気の雰囲気温度は、例えば50℃以下とすることができる。ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物の塗布は、雰囲気温度を50℃以下とし、かつ基板温度を400℃以下として行うことが好ましい。酸化亜鉛含有被膜中の酸化亜鉛の結晶化を促進する観点からは、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物の塗布を行う雰囲気温度は0℃以上40℃以下であることが好ましく、基板温度は100℃以上250℃以下であることが好ましい。更に、「塗布-加熱」を1回のサイクルとして、かかるサイクルの回数は1回または2回以上とすることができる。2回以上繰り返すことによって酸化亜鉛含有被膜の厚膜化を図ることができる。また、ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物の塗布量および塗布速度は、組成物中のジアルキル亜鉛の濃度、使用する塗布装置の仕様、形成すべき酸化亜鉛含有被膜の膜厚等に応じて調整することができる。また、塗布方法としてスプレー塗布法を採用する場合のスプレー圧力(例えば拡散圧力および/または霧化圧力)を調整することによって、形成される酸化亜鉛含有被膜の膜厚を制御することもできる。スプレー圧力は、例えば0.01MPa以上0.10MPa以下とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0050】
ジアルキル亜鉛含有コーティング組成物の塗布の詳細については、上記酸化鉄含有コーティング組成物の塗布方法に関する先の記載も参照できる。
【0051】
先に記載したように、上記酸化鉄含有被膜および上記積層膜が適用される用途の一例としては、医薬品を保管および/または流通させる際に使用される容器を挙げることができる。そのような容器には、容器内の内容物の液量の確認、容器内の内容物中の異物有無の確認等を容器外から可能にする程度の内容物視認性を有することが望まれる。一般に、上記の液量の確認、異物の確認等は、波長550nm以上の可視光線の照射下で行われる。この点に関し、医薬品の保管および/または流通させる際に使用される容器として汎用されている茶色の遮光瓶は、波長550nmにおける透過率が30%程度である。したがって、例えば550nm以上の波長範囲の可視光線に対して30%以上の透過率を示す被膜であれば、かかる被膜を上記容器に設けた場合、その容器内の内容物について上記の各種確認が可能ということができる。化粧品、食品等を保管および/または流通させる際に使用される容器も、同様の理由から、内容物視認性を有することは望ましい。
一形態では、上記酸化鉄含有被膜および上記積層膜は、医薬品の保管および/または流通させる際に使用される容器として汎用されている茶色の遮光瓶と同等以上の内容物視認性を、各種容器に付与することができる。この点に関して、一形態では、上記酸化鉄含有被膜および上記積層膜は、550nm以上の波長の可視光線に対して30.0%以上の透過率を示すことができる。また、一形態では、上記酸化鉄含有被膜および上記積層膜は、医薬品の保管および/または流通させる際に使用される容器として汎用されている茶色の遮光瓶より優れた内容物視認性を、各種容器に付与することができる。この点に関して、一態様では、上記酸化鉄含有被膜および上記積層膜は、波長550nmにおいて35.0%以上の透過率を示すことができ、波長600nmにおいて40.0%以上の透過率を示すことができ、および/または、波長650nmにおいて45.0%以上の透過率を示すことができる。上記透過率を有することは、先に記載した内容物視認性の観点から好ましい。上記の各種波長または波長範囲における透過率は、例えば、75.0%以下、70.0%以下または65.0%以下であることができるが、ここに例示した値を上回ることもできる。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0053】
以下に記載の各種物性値の測定は、下記測定装置を使用して行った。
【0054】
膜厚の測定は、触針式表面形状測定装置(ブルカーナノ社製DektakXT-S)を使用して行った。
【0055】
透過率測定を日本分光製分光光度計を用いて行い、以下の表に記載の各種波長における酸化鉄含有被膜、積層膜または酸化亜鉛含有被膜の透過率を求めた。
【0056】
1.酸化鉄含有コーティング組成物に関する実施例・比較例
【0057】
[実施例1-1]
8.4質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液(ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量:90,000)1.23g(固形分(ポリスチレンスルホン酸):0.103g)、純水3.72g、エタノール15.45g、黄色透明酸化鉄(戸田工業製、FeOOH、一次粒子径70nm)71.4mgを十分に混合した後、15分間超音波処理して分散させた。こうして得られた分散液を十分に撹拌することでコーティング組成物AY-1を得た(酸化鉄濃度:0.35質量%)。
【0058】
[実施例1-2]
実施例1-1のコーティング組成物AY-1の調製において、黄色透明酸化鉄の代わりに赤色透明酸化鉄(戸田工業製、Fe、一次粒子径70nm)を用いた以外は、コーティング組成物AY-1の調製と同様にして、コーティング組成物AR-1を調製した(酸化鉄濃度:0.35質量%)。
【0059】
[実施例1-3]
実施例1-1のコーティング組成物AY-1の調製において、黄色透明酸化鉄を50.4mg使用した以外は、実施例1-1のコーティング組成物AY-1の調製において、AY-1と同様にして、コーティング組成物AY-2を調製した(酸化鉄濃度:0.25質量%)。
【0060】
[実施例1-4]
実施例1-2のコーティング組成物AR-1の調製において、赤色透明酸化鉄を50.4mg使用した以外は、コーティング組成物AR-1の調製と同様にして、コーティング組成物AR-2を調製した(酸化鉄濃度:0.25質量%)。
【0061】
[実施例1-5]
実施例1-2のコーティング組成物AR-1の調製において、重量平均分子量90,000のポリスチレンスルホン酸を重量平均分子量20,000のポリスチレンスルホン酸に変更した以外は、コーティング組成物AR-1と同様にして、コーティング組成物AR-3を調製した(酸化鉄濃度:0.35質量%)。
【0062】
[実施例1-6]
実施例1-2のコーティング組成物AR-1の調製において、重量平均分子量90,000のポリスチレンスルホン酸を重量平均分子量4,100のポリスチレンスルホン酸に変更した以外は、コーティング組成物AR-1と同様にして、コーティング組成物AR-4を調製した(酸化鉄濃度:0.35質量%)。
【0063】
実施例1-1~1-6のコーティング組成物の調製においては、超音波処理して分散させた分散液には発泡は確認されず、スプレー塗布による成膜に適用可能なコーティング組成物を調製することができた。更に、調製されたコーティング組成物について、酸化鉄の凝集が見られないこと、即ち酸化鉄が均一に分散していることを目視で確認した。
【0064】
[比較例1-1]
実施例1-1のコーティング組成物AY-1の調製において、ポリスチレンスルホン酸水溶液の代わりにポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を使用した。詳しくは、1.0質量%ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムの重量平均分子量:98,000)10.00g(固形分(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム):0.100g)、純水10.00g、黄色透明酸化鉄70.0mgを十分に混合し、15分間超音波処理して分散させた(酸化鉄濃度:0.35質量%)。しかし、分散液は激しく発泡した。
【0065】
2.酸化鉄含有被膜を有する物品に関する実施例・比較例
【0066】
[実施例2-1]
5cm×5cmのサイズのガラス基板(コーニング社製イーグルXG)を基板ホルダに設置し、基板温度120℃に加熱した後、大気圧下、雰囲気温度25℃の空気中で、実施例1-1で調製したコーティング組成物AY-1を1.0mL/minの塗布速度でスプレー塗布装置によってスプレー塗布した。スプレー圧力(拡散圧力、霧化圧力ともに)は0.07MPaとした。スプレー塗布装置を用いて1.0mLスプレー塗布した後、雰囲気温度25℃の空気中で、焼成および乾燥のために1分間の加熱処理(基板温度120℃)を行った。「スプレー塗布-加熱処理」のサイクルを3回繰り返し、表面に530nmの膜厚の酸化鉄含有被膜を有するガラス基板を得た。
【0067】
[実施例2-2~実施例2-6]
実施例2-1と同様にして、コーティング組成物AY-1の代わりに、実施例1-2~実施例1-6で調製したコーティング組成物をそれぞれ使用し、表面に酸化鉄含有被膜を有するガラス基板をそれぞれ得た。
【0068】
以上の実施例および比較例のまとめを表1に示す。比較例1-1で得られた分散液を用いてスプレー塗布による成膜を試みたものの、基板上で激しい発泡が起こったため、成膜不可であった。表1には、この結果を比較例2-1の欄に記載した。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例2-1~実施例2-6で成膜した酸化鉄含有被膜の各種波長における透過率を表2に示す。
表2に示す結果から、実施例2-1~実施例2-6で成膜した酸化鉄含有被膜が、紫外線~高エネルギー可視光線の波長範囲に含まれる380nm以上440nm以下の波長範囲の電磁波に対する透過率が50%以下であり、かかる波長範囲の電磁波に対して優れた遮蔽機能を発揮することが確認できる。
【0071】
【表2】
【0072】
3.積層膜を有する物品に関する実施例・比較例
【0073】
[実施例3-1]
(1)ジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-1の調製
メチルシクロヘキサン224.26gにジエチル亜鉛24.94gを加え、十分に撹拌を行うことでジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-1B-1を得た。ジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-1の調製は窒素ガス雰囲気で行い、溶媒は脱水および脱気して使用した。
(2)酸化亜鉛含有被膜の成膜
実施例2-1で成膜した酸化鉄含有被膜を有するガラス基板に、基板温度120℃にて、大気圧下、雰囲気25℃、相対湿度45%の水が存在する空気中で、スプレー成膜装置のスプレーノズルよりジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-1を1.0mL/minの塗布速度で塗布した。スプレー圧力(拡散圧力、霧化圧力ともに)は0.07MPaとした。スプレー塗布装置を用いて1.0mLスプレー塗布を10回行った後、焼成および乾燥のために5分間の加熱処理(基板温度:スプレー塗布時の基板温度と同じ)をし、酸化鉄含有被膜上に酸化亜鉛含有被膜を成膜した。
こうして、酸化鉄含有被膜と酸化亜鉛含有被膜とが直接接する積層膜がガラス基板上に形成された。積層膜の膜厚は990nmであった。積層膜の膜厚および実施例2-1で成膜した酸化鉄含有被膜の膜厚から、酸化亜鉛含有被膜の膜厚は460nmと算出された。
【0074】
[実施例3-2~実施例3-12]
実施例3-1と同様にして、実施例2-1で成膜した酸化鉄含有被膜を有するガラス基板の代わりに表3に示す酸化鉄含有被膜を有するガラス基板を使用し、表3に示す成膜条件で酸化鉄含有被膜上に酸化亜鉛含有被膜を成膜した。こうして、酸化鉄含有被膜と酸化亜鉛含有被膜とが直接接する積層膜がガラス基板上に形成された。各実施例について、積層膜および酸化亜鉛含有被膜の膜厚を表3に示す。
【0075】
[実施例3-13~実施例3-15]
(1)ジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-2の調製
メチルシクロヘキサンの代わりにキシレンを使用した以外は、ジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-1の調製と同様にして、ジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-2を得た。
(2)酸化亜鉛含有被膜の成膜
実施例3-1と同様にして、実施例2-1で成膜した酸化鉄含有被膜を有するガラス基板の代わりに表3に示す酸化鉄含有被膜を有するガラス基板を使用し、表3に示す成膜条件で酸化鉄含有被膜上に酸化亜鉛含有被膜を成膜した。こうして、酸化鉄含有被膜と酸化亜鉛含有被膜とが直接接する積層膜がガラス基板上に形成された。各実施例について、積層膜および酸化亜鉛含有被膜の膜厚を表3に示す。
【0076】
[比較例3-1]
5cm×5cmのサイズのガラス基板(コーニング社製イーグルXG)を基板ホルダに設置し、基板温度120℃に加熱した後、大気圧下、雰囲気温度25℃、相対湿度45%の水が存在する空気中で、ジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-1を1.0mL/minの塗布速度でスプレー塗布装置によってスプレー塗布した。スプレー圧力(拡散圧力、霧化圧力ともに)は0.07MPaとした。スプレー塗布装置を用いて1.0mLスプレー塗布した後、焼成および乾燥のために1分間の加熱処理(基板温度:スプレー塗布時の基板温度と同じ)を行った。「スプレー塗布-加熱処理」のサイクルを10回繰り返し、表面に660nmの膜厚の酸化亜鉛含有被膜を有するガラス基板を得た。
【0077】
[比較例3-2]
比較例3-1において、基板温度を120℃から200℃に変更した以外は、比較例3-1と同様にして、表3に記載の膜厚の酸化亜鉛含有被膜を有するガラス基板を得た。
【0078】
[比較例3-3]
比較例3-2において、ジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-1の代わりにジエチル亜鉛含有コーティング組成物B-2を使用し、「スプレー塗布-加熱処理」のサイクルの繰り返し回数を10回から5回に変更した以外は、比較例3-1と同様にして、表3に記載の膜厚の酸化亜鉛含有被膜を有するガラス基板を得た。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例3-1~実施例3-15によって、実施例2-1~実施例2-6で作製した酸化鉄含有被膜の上層に酸化亜鉛含有被膜を成膜可能であることが確認できた。
【0081】
実施例3-1~実施例3-12、実施例3-14でガラス基板上に形成された、酸化鉄含有被膜と酸化亜鉛含有被膜とが直接接する積層膜の各種波長における透過率を表4に示す。
【0082】
比較例3-1~3-3は、酸化鉄含有被膜なしのガラス基板上に酸化亜鉛含有被膜を成膜した成膜例である。比較例3-1~3-3でガラス基板上に形成された酸化亜鉛含有被膜の各種波長における透過率を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
表4に示す結果から、表4に示す各実施例で形成された積層膜によって、比較例3-1~比較例3-3のような酸化亜鉛含有被膜のみでは得られない、380nm以上440nm以下の波長範囲の電磁波の遮蔽機能と、360nmの波長の電磁波(即ち、より短波長側の電磁波)の遮蔽機能と、の両立が可能になることが確認できる。
また、表4に示すように、表4に示す各実施例で形成された積層膜は、550nm以上の波長の電磁波に対して30.0%以上の透過率を示すことも確認された。詳しくは、表4に示す各実施例で形成された積層膜は、波長550nmにおいて35.0%以上、波長600nmにおいて40.0%以上、波長650nmにおいて45.0%以上の透過率を示した。このような透過率特性を有することは、先に記載したように、医薬品を保管および/または流通させる際に使用される容器等への適用の観点から好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の一態様は、酸化鉄含有被膜が使用される各種技術分野において有用である。