(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108498
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】スケール処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/50 20060101AFI20240805BHJP
C02F 5/00 20230101ALI20240805BHJP
C02F 5/12 20230101ALI20240805BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240805BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B01D53/50 200
C02F5/00 620B
C02F5/12 ZAB
B01D53/78
B01D53/14 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012900
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】文 亮太
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA02
4D002AC07
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA16
4D002CA01
4D002CA07
4D002DA05
4D002DA06
4D002DA12
4D002DA16
4D002EA11
4D002GA02
4D002GB09
4D002GB20
4D002HA05
4D020AA06
4D020BA01
4D020BA02
4D020BA08
4D020BA09
4D020BB05
4D020CB08
4D020CB25
4D020CC18
4D020CD01
4D020DA02
4D020DB08
4D020DB20
(57)【要約】
【課題】キレート剤を含む溶解液を用いたスケール除去を実施した後であっても、湿式排煙脱硫装置の再稼働時に、想定通りの性能でSO
xを除去できるスケール除去方法を提供する。
【解決手段】本開示に係るスケール処理方法は、吸収液を用いて排ガスから硫黄酸化物を除去する湿式排煙脱硫装置において排ガスおよび吸収液が接触した部分に付着したスケールを処理する方法であって、スケールを除去するために、スケールにキレート剤を含む溶解液を接触させ、スケールを除去した後、溶解液が接触した部位を洗浄水21で洗浄し、洗浄に使用する前の洗浄水21の酸化還元電位の値に基づいて洗浄終了の基準値を設定し、洗浄に使用された後の使用済み洗浄水21’の酸化還元電位を測定し、得られた測定値が基準値を満たすことをもって洗浄の終了を判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収液を用いて排ガスから硫黄酸化物を除去する湿式排煙脱硫装置において前記排ガスおよび前記吸収液が接触した部分に付着したスケールを処理する方法であって、
前記スケールを除去するために、前記スケールにキレート剤を含む溶解液を接触させ、
前記スケールを除去した後、前記溶解液が接触した部位を洗浄水で洗浄し、
洗浄に使用する前の前記洗浄水の酸化還元電位の値に基づいて洗浄終了の基準値を設定し、
洗浄に使用された後の使用済み洗浄水の酸化還元電位を測定し、
得られた測定値が前記基準値を満たすことをもって前記洗浄の終了を判定するスケール処理方法。
【請求項2】
洗浄に使用する前の前記洗浄水の酸化還元電位の値を初期値とし、
前記基準値は、前記初期値以上、または、前記初期値からマイナス10%までの範囲である請求項1に記載のスケール処理方法。
【請求項3】
前記洗浄水の使用前後のpHを測定し、
使用前後のpHの変動幅が所定範囲内に収まっていることを確認する請求項1に記載のスケール処理方法。
【請求項4】
前記洗浄の終了後、前記湿式排煙脱硫装置に吸収液を充填し、当該吸収液に、酸化力を有する金属成分を添加する請求項1に記載のスケール処理方法。
【請求項5】
前記金属成分は、Fe、MnまたはCuから選択される請求項4に記載のスケール処理方法。
【請求項6】
前記スケールが付着した部品を前記湿式排煙脱硫装置の外部に取り出して、前記溶解液に接触させ、
前記洗浄水による洗浄が終了した後、前記部品を前記湿式排煙脱硫装置に取り付ける請求項1に記載のスケール処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸収液を用いて排ガスから硫黄酸化物を除去する湿式排煙脱硫装置において排ガスおよび吸収液が接触した部分に付着したスケールを処理するためのスケール処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場や火力発電所で生じた燃焼排ガスには、硫黄酸化物(SOx)が含まれている。SOxは有害物質であるため、大気へ排出する前に、脱硫装置で燃焼排ガスからSOxが除去される。
【0003】
脱硫装置には、湿式と乾式がある。湿式排煙脱硫装置では、通常、吸収剤を含む吸収液を用いてSOxを除去する。吸収剤は、石灰石(炭酸カルシウム)または水酸化マグネシウム等である。SOxは吸収剤と反応して、硫酸塩に変換され、排ガス中から除去される。硫酸塩は、石膏および硫酸マグネシウムなどである。
【0004】
湿式排煙脱硫装置には、生成した硫酸塩、および湿式排煙脱硫装置で使用される吸収液に起因するミストや排ガス中の微量成分などから構成されるスケールが生じる。
【0005】
これらのスケールは長期運転によって大型化する。大型化したスケールは、湿式排煙脱硫装置内部の配管や吸収液噴霧用のスプレノズルの噴霧口、排ガス流路などを閉塞させるため、湿式排煙脱硫装置の運転に支障をきたす要因となり得る。
【0006】
一般的なスケール対策として、湿式排煙脱硫装置の停止期間内に、スケール付着部品を取り外しての清掃・交換や装置内部に立ち入っての清掃作業が実施されている。清掃の主な手段としては、高圧水洗またはハンマー・グラインダーを用いた物理的除去方法が挙げられる。
【0007】
別のスケール対策として、各種石膏溶解剤を用いた化学的除去方法が特許文献1に記載されている。特許文献1では、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤のアルカリ金属塩を含むスケール除去用組成物を用いて石膏スケールを除去している(特許文献1の請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているように、アルカリ金属塩のキレート剤を含む石膏除去剤は、石膏スケールを溶解除去できる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、キレート剤を含むスケール除去用組成物を用いて石膏スケールを除去した後の脱硫装置を再稼働すると、再稼働後前と比べてSOxの除去性能が低下する可能性があることを確認している。
【0010】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、キレート剤を含む溶解液を用いたスケール除去を実施した後であっても、想定通りの性能でSOxを除去できるスケール除去方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示のスケール処理方法は以下の手段を採用する。
【0012】
本開示は、吸収液を用いて排ガスから硫黄酸化物を除去する湿式排煙脱硫装置において前記排ガスおよび前記吸収液が接触した部分に付着したスケールを処理する方法であって、前記スケールを除去するために、前記スケールにキレート剤を含む溶解液を接触させ、前記スケールを除去した後、前記溶解液が接触した部位を洗浄水で洗浄し、洗浄に使用する前の前記洗浄水の酸化還元電位の値に基づいて洗浄終了の基準値を設定し、洗浄に使用された後の使用済み洗浄水の酸化還元電位を測定し、得られた測定値が前記基準値を満たすことをもって前記洗浄の終了を判定するスケール処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、スケール除去に用いた溶解液成分が被処理部分に残留することで、湿式排煙脱硫装置の再稼働後における吸収液中の亜硫酸酸化反応が阻害され、その結果SOxの除去性能が低下するとの結論に至った。
【0014】
本開示によれば、キレート剤を含む溶解液を用いたスケール除去の後、洗浄水で洗浄することで、被処理部分での溶解液成分の残留を防止する。また、使用後洗浄水の酸化還元電位を用いて洗浄の終了を判定することで、十分に溶解液成分が洗い流された後に湿式排煙脱硫装置を再稼働できる。これらにより、キレート剤を含む溶解液を用いたスケール除去を実施した後であっても、亜硫酸酸化反応の阻害を抑制し、想定通りの性能でSOxを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係るスケール溶解工程の手順を説明する図である。
【
図2】第1実施形態に係る溶解液洗浄工程の手順を説明する図である。
【
図3】第2実施形態に係る酸化成分添加工程の手順を説明する図である。
【
図4】第3実施形態に係るスケール溶解工程の手順を説明する図である。
【
図5】第3実施形態に係る溶解液洗浄工程の手順を説明する図である。
【
図6】第3実施形態における酸化成分添加について説明する図である。
【
図8】試験1の測定結果(SO
3濃度)を示す図である。
【
図9】試験1の測定結果(ORP)を示す図である。
【
図10】酸化力を有する金属成分を添加した試験液におけるSO
3濃度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示に係るスケール処理方法は、湿式排煙脱硫装置の内部の壁面および構造物、湿式排煙脱硫装置の後段に接続されているガス流路(配管)、および装置に堆積されるスケールの処理に適用される。
【0017】
湿式排煙脱硫装置の内部の構造物は、吸収塔の入口ヒサシ、内部サポート、スプレヘッダ、ミストエリミネータ、グリッド等の充填物および上記構造物の接続配管等である。湿式排煙脱硫装置の後段に接続される装置は、ガスガスヒータ等の再加熱装置である。
【0018】
「スケール」は、亜硫酸塩スケールおよび/または硫酸塩スケールである。亜硫酸塩スケールおよび/または硫酸塩スケールは、亜硫酸塩や硫酸塩を主成分として排ガス由来の灰や重金属などの不純物が含まれたものである。
【0019】
〔第1実施形態〕
本実施形態に係るスケール処理方法は、(S1)スケール溶解工程および(S2)溶解液洗浄工程を含んでいる。
【0020】
以下では、湿式排煙脱硫装置の吸収塔内壁に付着したスケールの処理について、
図1,2を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るスケール溶解工程の手順を説明する図である。
図2は、本実施形態に係る溶解液洗浄工程の手順を説明する図である。
【0021】
(被処理対象)
まず、被処理対象である湿式排煙脱硫装置およびスケール付着について説明する。
【0022】
湿式排煙脱硫装置は、工場および火力発電所などで生じた燃焼排ガス(以降、「排ガス」)から硫黄酸化物(SOx)を除去するための設備である。湿式排煙脱硫装置(以降、「脱硫装置」)は、吸収塔1を備えている。
【0023】
吸収塔1の上下方向の中央側部には、入口ダクト2が接続されている。入口ダクト2は、ボイラ等の燃焼装置(不図示)からの排ガスを吸収塔1に導入する。吸収塔1の上部には、出口ダクト3が接続されている。
【0024】
入口ダクト2から導入された排ガスは、出口ダクト3へ向けて吸収塔1内を流通する。吸収塔1内には、排ガスと吸収液を接触させるための用途部品(不図示)が設置されている。該用途部品は、例えばスプレノズルまたはグリッド等の充填物である。用途部品がスプレノズルである場合、スプレノズルは、水平方向に延びるスプレヘッダ(不図示)に間隔をあけて複数設置される。スプレノズルは、吸収塔1内を流通する排ガスに吸収液を噴霧できる。
【0025】
排ガス流れに同伴する微小な液滴は、吸収塔1のガス出口側に設置されたミストエリミネータ(不図示)で除去される。微小な液滴が取り除かれたガスは、吸収塔1の後段に接続される再加熱装置(不図示)によって昇温されて、煙突(不図示)から排出される。
【0026】
スプレノズルから噴霧された吸収液の液滴の大部分は、排ガスと接触(気液接触)することにより排ガス中のSOxを吸収した後、吸収塔1の下部に設けられた吸収液タンク4に落下し、貯留される。吸収液タンク4内に貯留された吸収液は、循環ポンプ(不図示)によって送液されて循環配管(不図示)からスプレノズルに再供給される。吸収液タンク4には、貯留された吸収液に空気を供給する装置(不図示)が設けられている。
【0027】
吸収液は、吸収剤を水に溶解したスラリーである。吸収剤は、SOxとの反応により硫酸塩を形成する物質である。吸収剤は、例えば炭酸カルシウム(CaCO3,石灰石)または水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)である。
【0028】
空気供給や酸化剤添加などの酸化手段により吸収液タンク4内に空気または酸化剤を供給することで、亜硫酸塩は酸化され、硫酸塩となる。
【0029】
吸収剤として石灰石を用いてSO2を除去する石灰石膏法の主反応の式(1),(2)を以下に示す。
CaCO3(石灰石)+SO2+1/2H2O→CaSO3・1/2H2O+CO2
・・・・(1)
CaSO3・1/2H2O+1/2O2+3/2H2O→CaSO4・2H2O(二水石膏)
・・・・(2)
【0030】
SO2が吸収剤(石灰石)と反応し、亜硫酸カルシウム半水塩が生成される。亜硫酸カルシウム半水塩は空気酸化され、二水石膏(硫酸塩)となる。
【0031】
脱硫装置を長期運転すると、スケール10が吸収塔1内部の壁面、構造物等に付着する。
【0032】
なお、排ガス流れに同伴する微小な液滴には、水分に加え、脱硫装置で生成された亜硫酸塩および硫酸塩等が含まれている。そのため、スケールはミストエリミネータにも付着する。さらに、ミストエリミネータで微小な液滴を取りきれなかった場合、脱硫装置後のガス流路、および脱硫装置の後段に接続された装置においてもスケールが付着する。
【0033】
(スケール処理)
S1:スケール溶解工程(
図1参照)
吸収液タンク4の排出配管12から吸収液を抜き出す。その後、スケール10に溶解液11を接触させて、被処理部分からスケール10を溶解除去する。溶解液11をスケールに接触させる方法は、スプレ噴霧による自動運転、ドローンによる散布、溶解液11をバックパックに設置した作業員の人力による噴霧等であってよい。
図1では、スプレ噴霧を例示する。
【0034】
スプレされた溶解液11の液滴は、スケール10に接触した後、吸収塔1の底部に落下し、吸収塔1内から排出され、循環液タンク13に貯留される。
【0035】
図1では循環液タンク13を吸収塔1とは独立した構成として記載しているが、これに限らず、もともと脱硫吸収塔1と一体化して底面側に存在する吸収液タンク4を循環液タンク13として使用する形でもよい。一体化したタンクでは、運転時には吸収液が貯留・循環利用され、スケール処理時には溶解液が貯留・循環利用されうる。
【0036】
循環液タンク13に貯留された溶解液11(スケールに接触済みの溶解液を含む)は、送液ポンプ14によって送液され、供給配管15を経由して再びスケール10にスプレ噴霧されうる。
【0037】
供給配管15には、には、送液ポンプ16を介して溶解液タンク17が接続されている。溶解液タンク17には、補給用の溶解液18が貯留されている。溶解液タンク17に貯留されている補給用の溶解液18は、スケールが溶解するまでの間にスプレ噴霧が継続できる一定の液レベルが保持されるよう、適宜、供給配管19を通って供給配管15に補給される。なお、溶解液タンク17および送液ポンプ16は、循環液タンク13を介して供給配管15に接続されていてもよい。
【0038】
溶解液11(18)は、溶解液はキレート剤の塩を主成分に含む水溶液である。代表的なキレート剤は例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)などが挙げられる。溶解液は、上記のキレート剤に加えて溶解を促進する成分として有機酸および炭酸塩、pH調整剤を含んでいてもよい。また、これ以外にも防食剤などの成分を含んでいてもよい。
【0039】
スケール溶解が十分に行われた後、循環液タンク13の排出配管20から溶解液11を排出する。
【0040】
S2:溶解液洗浄工程(
図2参照)
溶解液洗浄工程は、(S2-1)水洗工程と、(S2-2)洗浄終了判定工程とを含んでいる。
【0041】
S2-1:水洗工程
スケール溶解工程(S1)の後、溶解液11が噴霧された部位(被処理部分)を洗浄水21により洗浄する。
図2では、洗浄水供給配管22から供給された洗浄水が供給配管15を経由して被処理部分に噴霧される。これにより、被処理部分から溶解液成分が取り除かれる。
【0042】
洗浄水21としては、工業用水または、上記(S1)でスケール10を溶解液11に接触させる前に抜き出した吸収液などを用いることができる。
【0043】
被処理部分に噴霧された洗浄水21(21’)の液滴は、残留する溶解液成分(キレート剤を含む)を洗い流した後、吸収塔1の底部(吸収液タンク4)に落下し、排出配管12から吸収塔1外へ排出され、排液タンク23に貯留される。貯留された洗浄水(使用後洗浄水21’)は、適宜、排出配管24を通って排液タンク23から排出される。なお、排液タンク23は、循環液タンク13を兼用してもよい。兼用する場合、水洗工程開始前に、循環液タンク13から溶解液11を排出する。
【0044】
S2-2:洗浄終了判定工程
まず、上記水洗工程(S2-1)に使用する前の洗浄水21(使用前洗浄水)の酸化還元電位(ORP)を測定する。
【0045】
使用前洗浄水21のORP値(初期値)に基づいて、洗浄終了判定の基準値を設定する。基準値は、初期値以上または初期値からマイナス10%までの範囲に設定するとよい。
【0046】
次に、上記水洗工程(S2-1)で使用された洗浄水、すなわち、溶解液成分を洗い流した後の洗浄水(使用後洗浄水21’)のORPを測定する。
【0047】
例えば、使用後洗浄水21’として、吸収塔1内の落下液または吸収塔1からの排出液を必要量分取してORPを測定するとよい。
図2では、排出配管12からの排出液を分取してORPを測定する。
【0048】
図2に限定されず、必要容量を満たす小型の容器に使用後洗浄水21’を受けてORPを測定してもよい。これにより、その時点で得られる最新の使用後洗浄水を測定できるため、それ以前の使用後洗浄水に含まれる成分の影響を抑え、使用後洗浄水の性状の変化を逐次確認できる。ORP測定は、連続または断続的に実施されうる。
【0049】
続いて、測定により得られた使用後洗浄水21’のORP値を洗浄終了判定の基準値と比較し、使用後洗浄水21’のORP値が、基準値を満たすことをもって、洗浄終了と判定する。基準値を満たすことは、被処理部分に残留していた溶解液成分が十分に取り除かれたことを意味する。洗浄された使用後洗浄水21’のORP値が基準値を満たさない、すなわち、初期値未満、または初期値からマイナス10%までの範囲外である場合には、洗浄を継続する。
【0050】
例えば、ORP値が200mVの溶解液を用いてスケールを除去した後、初期値が500mV(450~550mV)の洗浄水を用いて洗浄した場合、洗浄初期の使用後洗浄水のORP値は300mV程度となり、洗浄が進むにつれて400mV、450mVと徐々に上昇する。最終的に使用前洗浄水の初期値以上または初期値付近まで戻ったことを確認したことをもって洗浄終了と判定する。
【0051】
上記洗浄終了判定では、洗浄終了と判定された後、洗浄水による洗浄(水洗工程)を終了する。
【0052】
洗浄終了判定工程では、ORPとともに、洗浄水のpHの変動について監視するとよい。具体的には、使用前洗浄水および使用後洗浄水のpHを測定し、使用前洗浄水のpHに対する使用後洗浄水のpHの変動幅が所定範囲に収まっているかどうか確認する。
【0053】
溶解液成分を多く含む使用後洗浄水では、ORP値が低くなる。ORPはpHと相関するため、溶解液成分の含有により使用後洗浄水のORPが変動すると、それに伴って使用後洗浄水のpHも変動する。しかしながら、溶解液成分が洗浄水のpHに与える影響は大きくないため、使用前後のpHの変動幅は限られている。変動幅の所定範囲は洗浄水を工業用水と考えた場合、pH=6~9の間と考えられる。
【0054】
一方、上記水洗工程(S2-1)において、溶解液成分以外の別の不純物が洗浄水によって洗い流された場合、その不純物の影響により使用後洗浄水のpHが大幅に変動し、それに伴ってORP値も変動する可能性がある。洗浄終了判定工程において、ORPとともに、洗浄水のpHを監視することで、そのような場合と溶解液成分の残留に起因したORP変動を区別することが可能となる。
【0055】
本実施形態に係るスケール処理方法によれば、溶解液を用いてスケールを化学的に除去するため、被処理部品を外部に取り出さずにスケール処理を行うことができる。これにより、被処理部品の取り出しおよび内部作業用の足場設置などの大掛かりな準備が不要となる。その結果、作業期間および運転停止期間が短縮され、作業費用も削減でき、作業の安全性も向上する。
【0056】
溶解液洗浄工程(S2)の後、復旧のため吸収塔1(の吸収液タンク4)へ吸収液を再度充填する。本実施形態によれば、キレート剤を含む溶解液を用いたスケール除去を実施した後であっても、脱硫装置の再稼働後、スケール処理前と同等程度のSOx除去性能を発揮できる。
【0057】
〔第2実施形態〕
本実施形態に係るスケール処理方法は、溶解液洗浄工程の後、酸化成分添加工程を含む点で第1実施形態と相違する。溶解液洗浄工程までは第1実施形態と共通である。
【0058】
図3は、本実施形態に係る酸化成分添加工程の手順を説明する図である。溶解液洗浄工程(水洗工程終了)の後、復旧のために吸収液タンク4に充填された吸収液に、酸化力を有する金属成分を添加する。
図3において、酸化力を有する金属成分は、供給配管25を介して吸収液タンク4に貯留されている吸収液26に添加されている。
【0059】
酸化力を有する金属成分は、酸化力を有する金属であれば良い。代表的な酸化力を有する金属成分としては、Fe,MnおよびCuが挙げられる。
【0060】
酸化力を有する金属成分(以降、酸化成分)の添加量は、スケール溶解工程(S1)で吸収液タンク4の排出配管12から抜き出す前の吸収液のORPを10mV以上上昇させる量が望ましい。酸化成分の添加量は、脱硫装置の再稼働後、吸収液の脱硫反応に影響を及ぼさない量とすることが望ましい。吸収液の脱硫反応に影響を及ぼさないようにするためには、吸収液タンク4に充填された吸収液中における酸化成分の濃度が10以上50ppm以下となるようにするとよい。
【0061】
添加された酸化成分は、吸収液26と共に送液ポンプ27により供給配管28に送られ、スプレノズル29を介して吸収塔1内に噴霧される。吸収塔1内に溶解液成分が残留している場合、溶解液成分は吸収液26に含まれる酸化成分と反応するが、予め吸収液26に酸化成分を添加しておくことで、吸収液26の酸化力を維持できる。これにより、スケール処理後の吸収塔1内に溶解液成分が残留していたとしても、亜硫酸酸化反応への影響を抑えられる。
【0062】
〔第3実施形態〕
本実施形態に係るスケール処理方法は、スケールが付着した被処理部品を脱硫装置の外部に取り出して、スケール溶解工程および溶解液洗浄工程を実施する点が第1実施形態と相違する。
【0063】
図4は、本実施形態に係るスケール溶解工程の手順を説明する図である。
図5は、本実施形態に係る溶解液洗浄工程の手順を説明する図である。
【0064】
S11:スケール溶解工程(
図4参照)
被処理対象は、脱硫装置(吸収塔31)にあるスケール32が付着した構造物(被処理部品33)である(
図4の(a)参照)。
【0065】
まず、スケール32が付着した被処理部品33を吸収塔31の外に取り出す。取り出した被処理部品33は、仮設プールなどの処理用容器34に入れられる(
図4の(b)参照)。処理用容器34は、被処理部品33を収容でき、かつ、液体を貯留可能である。処理用容器34は、液体を排出可能な排出口を有しているとよい。
【0066】
次に、被処理部品33に付着したスケール32に溶解液35を接触させる。溶解液35をスケール32に接触させる方法は、液含浸、スプレ噴霧による自動運転、ドローンによる散布、溶解液35をバックパックに設置した作業員の人力による噴霧等であってよい。
【0067】
図4の(b)では、処理用容器34に溶解液35を供給して、被処理部品33を溶解液35に浸漬させ、スケール32を溶解液35に接触させている。浸漬時間は、溶解液の能力や溶解液の温度に依存するが、およそ2時間から24時間の範囲内である。溶解液とスケールの接触により溶解が進むため、溶解液は容器内の液を循環させるなどして流動させて溶解成分とスケールとの接触面積および時間を広くとり、また溶解液を適宜入れ替えるなどして接触する溶解成分を更新させることが望ましい。接触面積と接触時間を浸漬法と同じように確保できる場合には上記の通り、スプレ噴霧や散布を行う方式でも良い。
【0068】
溶解液35は、第1実施形態の溶解液11と同様である。
【0069】
スケール溶解が十分に行われた後、処理用容器34から溶解液35を排出する。
【0070】
S12:溶解液洗浄工程(
図5参照)
溶解液洗浄工程は、(S12-1)水洗工程と、(S12-2)洗浄終了判定工程とを含んでいる。
【0071】
S12-1:水洗工程
スケール溶解工程(S11)の後、溶解液35が接触した被処理部品33を洗浄水36により洗浄する。
図5の(a)では、溶解液35を排出した後の処理用容器34内に洗浄水36を供給して、被処理部品33を洗浄水36(36’)に浸漬させている。これにより、被処理部品の表面から溶解液成分が取り除かれる。内部構造に溶解液が浸透し難い被処理部品を洗浄する場合は、表面及び内部の溶解液被接触部分を洗浄水で万遍なく洗い流せるようにワンスルーでのかけ流し方式を行うことが望ましい。
【0072】
洗浄水36は、第1実施形態の洗浄水21と同様である。
【0073】
S12-2:洗浄終了判定工程
まず、上記水洗工程(S12-1)に使用する前の洗浄水36(使用前洗浄水)の酸化還元電位(ORP)を測定する。
【0074】
使用前洗浄水36のORP値(初期値)に基づいて、洗浄終了の基準値を設定する。基準値は、初期値以上または初期値からマイナス10%までの範囲に設定するとよい。
【0075】
次に、上記水洗工程(S12-1)で使用された洗浄水36’(使用後洗浄水)のORPを測定する。
【0076】
より具体的には、使用後洗浄水36’として処理用容器34からの排出液を必要量分取し、ORPを測定する。これに限定されず、必要容量を満たす小型の容器に使用後洗浄水36’を受けてORPを測定してもよい。ORP測定は、連続または断続的に実施されうる。
【0077】
続いて、測定により得られた使用後洗浄水36’のORP値を洗浄終了判定の基準値と比較し、第1実施形態と同様に、使用後洗浄水36’のORP値が、基準値を満たすことをもって、洗浄終了と判定する。洗浄された使用後洗浄水36’のORP値が基準値を満たさない場合には、洗浄を継続する。
【0078】
上記洗浄終了判定工程で洗浄終了と判定された後、洗浄水による洗浄(水洗工程)を終了し、被処理部品33を吸収塔31内に取り付ける(
図5の(b)参照)。
【0079】
第1実施形態と同様、洗浄終了判定工程(S12-2)では、ORPとともに、洗浄水のpHの変動について監視するとよい。
【0080】
図6に示すように、被処理部品33を吸収塔31内に取り付けた後、第2実施形態と同様、復旧のために吸収液タンク37に充填された吸収液38に、酸化力を有する金属成分(酸化成分39)を添加してもよい。
【0081】
本実施形態に係るスケール処理方法では、脱硫装置の外部で被処理部品33のスケール溶解を実施するため、脱硫装置内が溶解液に曝されない。よって、脱硫装置内に溶解液が残留することを避けられるため、脱硫装置内での酸化阻害リスクを低くできる。
【0082】
上記第1実施形態~第3実施形態に係るスケール処理方法により得られる作用効果の根拠を以下で説明する。
【0083】
[試験1]
本試験では、溶解液成分(キレート剤)が、吸収液を用いた脱硫反応に与える影響を確認した。
【0084】
溶解液:
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の塩(キレート剤)と、炭酸アルカリ塩と、その他スケールの溶解除去に効果があるとされる成分と、を試薬の形態で水と混合して溶解液を調製した。ここで、各成分が溶解するよう溶解液のpHを調整した。
【0085】
試験液:
日本国内の発電所(実機)の脱硫装置で使用される吸収液に、工業用石膏(5重量%)および亜硫酸水素ナトリウム試薬(20mM相当)を添加し、さらに、溶解液(0~10000ppm)を混合して試験液(合計液量250ml)を調製した。各試験液におけるpHが一定となるように調整した。
【0086】
図7は、本試験で使用した装置の概略図である。
図7に示すように、上記試験液40をビーカー41に入れ、G2ガラスボールフィルタ42(孔径40~50μm)を用いて試験液40に空気を吹き込み、攪拌子43で撹拌し、SO
3濃度滴定(ヨードメトリ法)により試験液40中の亜硫酸濃度を測定した。
【0087】
図8に、測定結果を示す。同図において、横軸は時間(min)、縦軸はSO
3濃度(mM)である。
【0088】
溶解液を添加しなかった場合、時間の経過に伴って試験液中のSO3濃度は低下し、約20分で略ゼロとなった。これは亜硫酸塩が酸化されて硫酸塩が形成されたことを示唆する。
【0089】
一方、溶解液を添加した試験液では、溶解液濃度が高くなるほど、SO3濃度の低下速度が遅くなる傾向が示された。溶解液100ppmの試験液では、溶解液を添加しなかった試験液(溶解液0ppm)と比較して明らかにSO3濃度の低下速度が緩やかであった。溶解液10000ppmの試験液において、SO3濃度は殆ど低下しなかった。この結果から、溶解液が、亜硫酸塩の酸化反応を阻害することが確認された。
【0090】
図9に、各試験液についてORPを測定した結果を示す。同図において、横軸は時間(min)、縦軸はORP(mV)である。
【0091】
溶解液を添加しなかった試験液およびキレート剤10ppmの試験液では、時間経過とともにORPが上昇し、20分を過ぎると初期ORPの4倍程度の値となった。
【0092】
一方、溶解液による亜硫酸塩の酸化阻害が起こっている条件(溶解液100ppm)の試験液では、ORPの上昇が緩やかであり、1時間以上経過した後もORPは初期値の2倍にも満たなかった。この結果から、亜硫酸塩の酸化阻害が起こっている条件では、酸化阻害が起こっていない条件と比べてORPが低く推移することがわかる。使用後洗浄水のORPを監視し、ORPが低くなければ溶解剤が接触していた部分には溶解剤成分が残っていないと間接的に言うことができる。この状態で吸収塔に吸収液を充填し、循環運転をしても系内には溶解剤成分が残っていないこととなるので亜硫酸の酸化阻害とは無縁となる。
【0093】
図9によれば、ppmオーダーの溶解液濃度で、酸化阻害が生じる。溶解液の濃度を知る方法としては、特許文献1に記載されているようなキレート滴定法が知られている。しかしながら、キレート滴定法では、ppmオーダーの溶解液濃度の正確な測定は難しい。また、キレート滴定法では、滴定を行う環境の用意、測定サンプルの前処理および測定に時間を要する。これに対し、ORP測定は、ポータブル計測器を用いて迅速に溶解液成分の残留状況を確認できる。
【0094】
[試験2]
上記試験1と同様の試験液(溶解液100ppm)に、さらに酸化力を有する金属成分(酸化成分)を添加し、試験1と同様に試験液中の亜硫酸濃度を測定した。
【0095】
酸化力を有する金属成分を含む試薬として、MnSO4・5H2OまたはFe2(SO4)3・nH2Oを用いた。MnSO4・5H2OはMn換算で10ppmとなるように添加した。Fe2(SO4)3・nH2Oは、Fe換算で10ppmとなるように添加した。
【0096】
図10に、酸化成分を添加した試験液におけるSO
3濃度の推移を示す。同図において、横軸は時間(min)、縦軸はSO
3濃度(mM)である。
【0097】
溶解液を添加しなかった試験液に比べ、溶解液を添加した試験液(溶解液100ppm)は、SO3濃度の低下速度が緩やかであった。一方、溶解液を添加した試験液(溶解液100ppm)であっても、FeまたはMnを含む試験液では、溶解液を添加しなかった試験液と同様以上の速さでSO3濃度が低下した。
【0098】
この結果から、Fe,MnおよびCuなどの酸化力を有する金属成分を加えることで、キレート剤が残留していたとしても、亜硫酸塩の酸化阻害を抑制できることが確認された。
【0099】
(考察)
一般的に吸収液には、補給水や排ガス中に含まれFe,MnおよびCuなどの成分が含まれている。Fe,MnおよびCuは、酸化力を有する金属成分である。溶解液の主成分であるキレート剤は、これらの金属成分と安定なキレート錯体を形成する。キレート剤が残留している場合、キレート剤に吸収液中の酸化成分が奪われることで吸収液の酸化力が低下し、結果として亜硫酸塩の酸化反応が進み難くなると考えられる。
【0100】
第1実施形態~第3実施形態では、使用後洗浄水のORPを監視して、洗浄終了を判定してから洗浄を終了するため、溶解液成分の残留量は、酸化阻害が生じない程度まで低減されている。よって、脱硫装置の再稼働後における吸収液の脱硫反応を阻害することはない。
【0101】
溶解液に含まれるキレート剤は、スケール溶解時に、スケールの主成分、例えばCaイオンとキレート錯体(Caキレート錯体)をすると推測される。このCaキレート錯体は、Fe,MnおよびCuなど酸化力を有する金属成分とのキレート錯体(Feキレート錯体等)よりも安定度定数が小さい。Caキレート錯体のCaは、脱硫装置の再稼働後に吸収液と接触したタイミングで、Feなどの酸化成分に置換されうる。
【0102】
よって、錯体形成後のキレート剤であっても、亜硫酸塩の酸化反応を阻害する可能性がある。そのため、スケール量に対して適正な量の溶解液が供給されているかどうかに関わらず、酸化阻害の対策が必要である。
【0103】
第2実施形態のように、吸収液に酸化力を有する金属成分を添加しておくことで、再稼働後に被処理部分に残留しているキレート剤およびスケール成分と反応後のキレート錯体は、安定度定数の大きいFeキレート錯体等になる。Feキレート錯体等は、吸収液から酸化成分を奪うことはない。よって、構造上の都合等により溶解液洗浄工程終了後にキレート剤(反応済みキレート剤を含む)が多少残留していたとしても、脱硫装置の再稼働後における吸収液の脱硫反応を阻害することはない。
【0104】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載のスケール処理方法は、例えば以下のように把握される。
【0105】
本開示の第1態様に係るスケール処理方法は、吸収液を用いて排ガスから硫黄酸化物を除去する湿式排煙脱硫装置において前記排ガスおよび前記吸収液が接触した部分に付着したスケールを処理する方法であって、前記スケールを除去するために、前記スケールにキレート剤を含む溶解液を接触させ、前記スケールを除去した後、前記溶解液が接触した部位を洗浄水で洗浄し、洗浄に使用する前の前記洗浄水の酸化還元電位の値に基づいて洗浄終了の基準値を設定し、洗浄に使用された後の使用済み洗浄水の酸化還元電位を測定し、得られた測定値が前記基準値を満たすことをもって前記洗浄の終了を判定する。
【0106】
スケールが付着した被処理部分において、スケールにキレート剤を含む溶解液を接触させることで、スケールを溶解し除去できる。スケール除去後に、洗浄水で洗浄することで、スケール除去に使用した溶解液成分の残留を防止する。これにより、湿式排煙脱硫装置の再稼働後における吸収液の脱硫反応の阻害、および亜硫酸塩の増加が生じ難くなる。
【0107】
本態様では、使用後洗浄水の酸化還元電位を監視することで、溶解液成分の残留状況を間接的に確認できる。洗浄初期では、使用後洗浄水に含まれる溶解液成分量が多いため、使用後洗浄水の酸化還元電位は、使用前洗浄水の酸化還元電位よりも低くなる。洗浄が進むにつれて、使用後洗浄水に含まれる溶解液成分量が少なくなり、使用後洗浄水の酸化還元電位は、使用前洗浄水の酸化還元電位に近づく。
【0108】
本態様において洗浄終了の基準値は、使用前洗浄水の酸化還元電位の値に基づいて設定される。洗浄水の酸化還元電位の値は、使用する洗浄水の種類(由来)に応じて異なるが、使用前後の洗浄水の酸化還元電位を比較することで、溶解液成分の残留状況を評価できる。
【0109】
使用後の洗浄水は、産業廃棄物として処理する必要がある。本態様では、使用前後の洗浄水の酸化還元電位により溶解液成分の残留を確認して洗浄を終了できるため、過剰な洗浄を回避できる。これにより、廃棄する使用後洗浄水量を低減できる。
【0110】
酸化還元電位は、ポータブル計測器を用いて測定可能であるため、現場で迅速に洗浄終了を判定できる。
【0111】
本開示の第2態様に係るスケール処理方法は、上記第1態様において、洗浄に使用する前の前記洗浄水の酸化還元電位の値を初期値とし、前記基準値は、前記初期値以上、または、前記初期値からマイナス10%までの範囲であってよい。
【0112】
洗浄液に溶解液成分が含まれない場合、使用前後の洗浄水の酸化還元電位は、理論的には略同じとなる。よって、使用後洗浄水の酸化還元電位が初期値以上であれば、洗浄終了と判断できる。酸化還元電位の測定誤差を考慮すると、洗浄終了の基準値は、初期値からマイナス10%までの範囲を許容する。
【0113】
本開示の第3態様に係るスケール処理方法は、第1態様または第2態様において、前記洗浄水の使用前後のpHを測定し、使用前後のpHの変動幅が所定範囲内に収まっていることを確認するとよい。
【0114】
使用後洗浄水の酸化還元電位は、溶解液成分の残留性と異なる要因で変動する可能性がある。基本的に、溶解液成分の残留は、洗浄水のpHに大きな影響を与えない。しかしながら、例えば、大量の洗浄水で洗浄して溶解液成分以外の別の不純物が洗い流された場合、使用前後で洗浄水のpHが大きく変動し、溶解液成分の残留に関係なく、酸化還元電位も変動することが考えられる。そのような場合を排除するため、使用前後の洗浄水のpHの変動幅を監視するとよい。所定の範囲は、洗浄水を工業用水と考えた場合、pH6以上9以下であってよい。
【0115】
本開示の第4態様に係るスケール処理方法は、第1態様~第3態様のいずれかにおいて、前記洗浄の終了後、前記湿式排煙脱硫装置に吸収液を充填し、当該吸収液に、酸化力を有する金属成分を添加してもよい。
【0116】
本開示の第5態様に係るスケール処理方法では、第4態様の態様において、前記金属成分が、Fe、MnまたはCuから選択されうる。
【0117】
酸化力を有する金属成分を吸収液に添加しておくことで、湿式排煙脱硫装置の再稼働後における吸収液の脱硫反応の阻害を軽減できる。その結果、亜硫酸塩の増加も抑制できる。酸化力を有する金属成分の添加量は、洗浄操作で湿式排煙脱硫装置から抜き出す前の吸収液の酸化還元電位が10mV以上上昇する量が好ましい。ただし、吸収液の脱硫反応に影響を及ぼさないよう、吸収液中における酸化力を有する金属成分の濃度は10以上50ppm以下とすることが望ましい。
【0118】
本開示の第6態様に係るスケール処理方法は、第1態様~第5態様のいずれかにおいて、前記スケールが付着した部品を前記湿式排煙脱硫装置の外部に取り出して、前記溶解液に接触させ、前記洗浄水による洗浄が終了した後、前記部品を前記湿式排煙脱硫装置に取り付けてもよい。
【0119】
装置外部で溶解液を用いるため、装置内部が直接溶解液に曝露されることはない。これにより、酸化阻害のリスクが低減される。
【符号の説明】
【0120】
1,31 吸収塔
2 入口ダクト
3 出口ダクト
4,37 吸収液タンク
10,32 スケール
11,35 溶解液
12,20,24 排出配管
13 循環液タンク
14,16,27 送液ポンプ
15,19,25,28 供給配管
17 溶解液タンク
18 補給用の溶解液
21,36 洗浄水(使用前洗浄水)
21’,36’ 洗浄水(使用後洗浄水)
22 洗浄水供給配管
23 排液タンク
26,38 吸収液
29 スプレノズル
33 被処理部品
34 処理用容器
39 酸化成分
40 試験液
41 ビーカー
42 G2ガラスボールフィルタ
43 攪拌子