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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108504
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】吊具及び外壁パネルの取付方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/62 20060101AFI20240805BHJP
   E04G 21/16 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B66C1/62 G
E04G21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012910
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504082025
【氏名又は名称】株式会社イング
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝木 恵太
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 潤一
(72)【発明者】
【氏名】兼安 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 知慈
(72)【発明者】
【氏名】堀 一夫
(72)【発明者】
【氏名】潮見 真生
(72)【発明者】
【氏名】土屋 明子
【テーマコード(参考)】
2E174
3F004
【Fターム(参考)】
2E174BA01
2E174CA38
2E174DA10
2E174DA14
2E174DA34
2E174DA63
3F004EA27
3F004LA05
(57)【要約】
【課題】吊上げ対象部材に形成された係合孔が長孔、丸孔のいずれであっても簡単に係脱できる操作性を備えた吊具を提供する。
【解決手段】吊具4は、吊上げ対象部材(外壁ファスナ2)を貫通して形成された係合孔(長孔22)に上方から挿入可能な中空円筒状の挿入軸部41と、挿入軸部41の上端側に結合されて吊り索に吊持される操作機構組付部42と、係合爪54を側方に出没させる係合爪54出没機構と、係合爪54の突出方向と交差する向きで挿入軸部41に添設され、挿入軸部41の軸方向に沿って摺動し得るように保持される回転止め61と、を具備する。係合孔が丸孔の場合は回転止め61の下端部が丸孔の上縁に当接し、係合孔が長孔の場合は回転止め61が係合孔内に挿入されて、挿入軸部41が回転不能に拘束される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊上げ対象部材を上下方向に貫通して形成された係合孔に上方から挿入可能な中空円筒状の挿入軸部と、
前記挿入軸部の上端側に結合されて吊り索に吊持される操作機構組付部と、
前記係合孔の下縁に係合可能な係合爪を前記挿入軸部の側方に出没させる係合爪出没機構と、
前記係合爪の突出方向と交差する向きで前記挿入軸部に添設され、前記挿入軸部の軸方向に沿って摺動し得るように保持される回転止めと、
を具備する吊具。
【請求項2】
請求項1に記載された吊具において、
前記回転止めは、前記操作機構組付部に設けられた回転止め押出機構によって、前記挿入軸部の下端側へ押し出されるように付勢されており、
前記係合孔が丸孔の場合は、前記回転止めの下端部が前記丸孔の上縁に当接し、
前記係合孔が長孔の場合は、前記回転止めの下端部が前記係合孔内に挿入されることにより、前記挿入軸部が前記係合孔内で回転不能に拘束される
ことを特徴とする吊具。
【請求項3】
請求項2に記載された吊具において、
前記回転止め押出機構は、
前記操作機構組付部に設けられた回転止め摺動ガイド部と、
前記回転止めの上端側に結合されて前記回転止め摺動ガイド部に係合し、前記挿入軸部の軸方向と平行に摺動するスライダと、
前記スライダを前記挿入軸部の下端側へ押し出す回転止め付勢部材と、
を含んで構成されることを特徴とする吊具。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載された吊具において、
前記係合爪出没機構は、
前記挿入軸部の下端近傍に第1ピン節点を介して揺動自在に枢着されたクランクアームと、
前記クランクアームの上端部に第2ピン節点を介して連結されたリンクアームと、
前記リンクアームの上端部を前記操作機構組付部に設けられた係合爪出没ガイド孔に沿って前記挿入軸部の軸方向に摺動可能に保持するスライド節点と、
前記スライド節点を前記挿入軸部の下端側へ押し下げる係合爪付勢部材と、
を具備し、
前記クランクアームの下部に前記係合爪が設けられるとともに、
前記クランクアームと前記リンクアームとを連結する前記第2ピン節点が前記操作機構組付部の側方に露出して、前記操作機構組付部側へ押し込み可能に組み付けられている
ことを特徴とする吊具。
【請求項5】
請求項4に記載された吊具において、
前記スライド節点の中心軸が前記操作機構組付部の外方に延設されて、その延設端に操作用の引き紐が結束され、
前記引き紐が前記操作機構組付部の上部に設けられたガイドリングに挿通されて下方に懸垂されている
ことを特徴とする吊具。
【請求項6】
請求項4に記載された吊具において、
前記操作機構組付部の側方に、前記クランクアーム及び前記リンクアームを被覆するアームカバーが取り付けられていることを特徴とする吊具。
【請求項7】
請求項1、2または3に記載された吊具において、
前記係合孔に前記挿入軸部が挿入された状態で前記吊上げ対象部材の適所に当接または係止し得る当て板が、所定長さの当て板支持アームを介して、前記操作機構組付部に取り付けられていることを特徴とする吊具。
【請求項8】
外壁材の裏面に取り付けられたフレームの上枠材に、外壁パネルの裏面側に延び出す外壁ファスナを取り付け、
前記外壁パネルを吊り上げて前記外壁ファスナを梁の上フランジに載架し、
前記外壁ファスナに形成された係合孔と前記梁に形成された取付孔とを重ねてボルト・ナット締結する外壁パネルの取付方法において、
前記外壁ファスナの係合孔に請求項2または3に記載された吊具の前記挿入軸部を挿し込んで前記係合爪を前記係合孔に係合させ、
前記吊具を吊上げて前記外壁パネルを前記梁の直近まで搬送し、
前記外壁ファスナの下方に突出している前記挿入軸部の下端を前記上フランジの前記取付孔に挿し込んで前記係合孔と前記取付孔とを合致させながら、前記外壁ファスナを前記梁の前記上フランジに載架し、
前記挿入軸部をさらに下降させて前記係合爪を前記上フランジの前記取付孔に一旦、係合させた後、
前記係合爪を前記挿入軸部内に没入させて前記吊具を前記梁及び前記外壁ファスナの上方に抜き出し、
前記係合孔及び前記取付孔にボルトを挿し込んでナットを締結する
ことを特徴とする外壁パネルの取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、例えば外壁パネル等を吊上げて躯体に設置するような作業に使用される吊具と、その吊具を用いた外壁パネルの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の外周部に取り付けられる外壁パネル及びその取付構造の例として、特許文献1に開示されたものを図11図12に示す。例示の外壁パネル1は、外壁材11の裏面に、鋼材からなる矩形のフレーム12を取り付けたものである。フレーム12は、左右一対の縦枠材13と、それらを横方向に連結する上枠材14、下枠材15及び中桟材16とから構成されている。
【0003】
外壁パネル1は、上枠材14の上面に取り付けられる外壁ファスナ2を介して、躯体の梁3に連結される。外壁ファスナ2は細長い平坦な鋼材片からなり、その長手方向における一端近傍に丸孔21が形成され、他端近傍には外壁ファスナ2の長手方向に延びる長孔22が形成されている。上枠材14には上下方向の貫通孔17が複数箇所に形成されて、それらの貫通孔17に下方からボルト18が挿入され、それらのボルト18に外壁ファスナ2の丸孔21が挿着されてナット19で締結される。外壁ファスナ2の他端側はH形鋼等からなる梁3の上フランジ31に載架され、外壁ファスナ2の長孔22と上フランジ31に形成された取付孔(丸孔)32とが重ねられてボルト・ナット23で綴結される。つまり、外壁ファスナ2に形成された長孔22は、梁3に対する外壁パネル1の取り付け位置を、外壁パネル1の出入り方向(厚さ方向)に調整するためのものである。なお、長孔22は、外壁パネル1の左右方向(横幅方向)に延びるように形成される場合もある。
【0004】
このような外壁パネル1を重機等で吊上げて躯体の取付位置まで近づける際には、重機等から懸垂させたワイヤまたはロープの下端に適宜の吊具を取り付けて、その吊具を外壁パネル1のフレームか、あるいは外壁ファスナ2に係合させる必要がある。特許文献1の「従来の技術」欄には、ロープの下端に取り付けたU字型のシャックルで外壁ファスナ2を上下方向に挟み、シャックルの一端側から他端側に螺合させるアイボルトを外壁ファスナ2の長孔22に通して外壁ファスナ2を吊持する方法が記載されている。
【0005】
また、鋼材等に形成された係合孔に挿し込んで係合させる吊具としては、例えば特許文献2に開示されたようなものも公知である。当該吊具(吊下げ治具)は、被吊下げ体に形成された上下方向の係合孔内に挿入可能な治具本体と、治具本体内に昇降可能に設けられた操作子と、操作子を押し戻すスプリングと、操作子を押し下げると治具本体内に収まり、操作子が戻されると治具本体の側方に突出する係止体と、を具備する。そして、操作子の頭部を指で押しながら治具本体を被吊下げ体の係合孔へ挿し込んだ後、操作子の頭部から指を離すと係止体が横向きになって、係合孔内に抜け出し不能に係合されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-130372号公報
【特許文献2】特開平8-26661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願が開示する発明は、前記従来のような吊具の使い勝手を改良したものであり、外壁ファスナに簡単に着脱することができて、不用意に脱落しない吊具の提供を目的とする。特に、外壁ファスナに形成される係合孔が長孔及び丸孔のいずれであっても好適に係脱される操作性と、外壁ファスナに吊具を係合させたままで外壁ファスナを梁のフランジに載架させることができる施工性とを備えた吊具の実現を具体的な解決課題としている。
【0008】
また、前記吊具を用いて外壁パネルを梁に効率よく取り付ける取付方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願が開示する発明に係る吊具は、吊上げ対象部材を上下方向に貫通して形成された係合孔に上方から挿入可能な中空円筒状の挿入軸部と、前記挿入軸部の上端側に結合されて吊り索に吊持される操作機構組付部と、前記係合孔の下縁に係合可能な係合爪を前記挿入軸部の側方に出没させる係合爪出没機構と、前記係合爪の突出方向と交差する向きで前記挿入軸部に添設され、前記挿入軸部の軸方向に沿って摺動し得るように保持される回転止めと、を具備するものとして特徴付けられる。
【0010】
そして、前記回転止めは、前記操作機構組付部に設けられた回転止め押出機構によっては、前記挿入軸部の下端側へ押し出されるように付勢されており、前記係合孔が丸孔の場合は、前記回転止めの下端部が前記丸孔の上縁に当接し、前記係合孔が長孔の場合は、前記回転止めの下端部が前記係合孔内に挿入されることにより、前記挿入軸部が前記係合孔内で回転不能に拘束される、ことを特徴とする。
【0011】
さらに、前記回転止め押出機構は、前記操作機構組付部に設けられた回転止め摺動ガイド部と、前記回転止めの上端側に結合されて前記回転止め摺動ガイド部に係合し、前記挿入軸部の軸方向と平行に摺動するスライダと、前記スライダを前記挿入軸部の下端側へ押し出す回転止め付勢部材と、を含んで構成されるものとすることができる。
【0012】
また、前記係合爪出没機構は、前記挿入軸部の下端近傍に第1ピン節点を介して揺動自在に枢着されたクランクアームと、前記クランクアームの上端部に第2ピン節点を介して連結されたリンクアームと、前記リンクアームの上端部を前記操作機構組付部に設けられた係合爪出没ガイド孔に沿って前記挿入軸部の軸方向に摺動可能に保持するスライド節点と、前記スライド節点を前記挿入軸部の下端側へ押し下げる係合爪付勢部材と、を具備し、前記クランクアームの下部に前記係合爪が設けられるとともに、前記クランクアームと前記リンクアームとを連結する前記第2ピン節点が前記操作機構組付部の側方に露出して、前記操作機構組付部側へ押し込み可能に組み付けられている、ものとすることができる。
【0013】
さらに、前記スライド節点の中心軸が前記操作機構組付部の外方に延設されて、その延設端に操作用の引き紐が結束され、前記引き紐が前記操作機構組付部の上部に設けられたガイドリングに挿通されて下方に懸垂されている、ように構成されてもよい。
【0014】
また、本願が開示する発明に係る吊具は、前記操作機構組付部の側方に、前記クランクアーム及び前記リンクアームを被覆するアームカバーが取り付けられている、ように構成されてもよい。
【0015】
また、本願が開示する発明に係る吊具は、前記係合孔に前記挿入軸部が挿入された状態で前記吊上げ対象部材の適所に当接または係止し得る当て板が、所定長さの当て板支持アームを介して、前記操作機構組付部に取り付けられている、ように構成されてもよい。
【0016】
また、本願が開示する発明に係る外壁パネルの取付方法は、外壁材の裏面に取り付けられたフレームの上枠材に、外壁パネルの裏面側に延び出す外壁ファスナを取り付け、前記外壁パネルを吊り上げて前記外壁ファスナを梁の上フランジに載架し、前記外壁ファスナに形成された係合孔と前記梁に形成された取付孔とを重ねてボルト・ナット締結する外壁パネルの取付方法において、前記外壁ファスナの係合孔に請求項2または3に記載された吊具の前記挿入軸部を挿し込んで前記係合爪を前記係合孔に係合させ、前記吊具を吊上げて前記外壁パネルを前記梁の直近まで搬送し、前記外壁ファスナの下方に突出している前記挿入軸部の下端を前記上フランジの前記取付孔に挿し込んで前記係合孔と前記取付孔とを合致させながら、前記外壁ファスナを前記梁の前記上フランジに載架し、前記挿入軸部をさらに下降させて前記係合爪を前記上フランジの前記取付孔に一旦、係合させた後、前記係合爪を前記挿入軸部内に没入させて前記吊具を前記梁及び前記外壁ファスナの上方に抜き出し、前記係合孔及び前記取付孔にボルトを挿し込んでナットを締結する、ものとして特徴付けられる。
【発明の効果】
【0017】
本願が開示する発明の吊具は、挿入軸部に添設されて挿入軸部の軸方向に摺動し得る回転止めを具備しているので、吊上げ対象部材に形成される係合孔が長孔であっても丸孔であっても同じ操作方法で、挿入軸部の係合爪を係合孔に容易に係脱させることができる。係合孔が長孔の場合は、挿入軸部に添設された回転止めが長孔内に挿入されて、挿入軸部を回転不能に拘束するので、吊上げ作業時の安全性も向上する。
【0018】
また、吊上げ対象部材を他部材に重ねて連結するような作業においては、吊上げ対象部材の下方に突出した挿入軸部を他部材の取付孔に挿し込むことで、両部材を容易に位置合わせすることができ、挿入軸部を抜き取れば両部材を速やかにボルト・ナット締結することができる。
【0019】
したがって、外壁パネルの取付作業に前記吊具を用いると、梁に対する外壁パネルの位置決めが容易になって、施工効率が格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本願が開示する発明の一実施形態に係る吊具の上面図(a)及び正面図(b)である。
図2】前記吊具の左側面図(a)及び右側面図(b)である。
図3】前記吊具における係合爪出没機構の構成を示すA-A断面図であって、(a)は係合爪が挿入軸部の側方に突出した状態、(b)は係合爪が挿入軸部内に没入した状態を示す図である。
図4】前記吊具における回転止めが丸孔状の係合孔に当接して押し上げられた状態を示す正面図(a)及び左側面図(b)である。
図5】前記吊具を使用して外壁ファスナを梁の上フランジに取り付ける工程の概略説明図である。
図6】前記吊具を使用して吊上げた外壁ファスナを梁の上フランジに載架する前(a)及び載架した後(b)の各部の動きを示す正面図である。
図7図6の状態に続いて吊具を梁及び外壁ファスナから抜き取る工程を示す正面図である。
図8図7の状態に続いて、吊具を抜き取った外壁ファスナと梁とをボルト・ナット締結する工程の正面図である。
図9】前記吊具にアームカバーを取り付けた形態を示す正面図(a)及び断面図(b)である。
図10】前記吊具に当て板を取り付けた形態を示す正面図(a)及び左側面図(b)である。
図11】住宅等に取り付けられる外壁パネルの例を示す裏面側斜視図である。
図12】前記外壁パネルと梁との取付構造の例を示す側面部である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1図10は本願が開示する発明の一実施形態に係る吊具を示す。なお、以下において部位・部材の相対的な位置関係や動作の向きを説明する際には、実際に吊具を使用して吊上げ対象部材を吊持している状態を基準にして上下方向(高さ方向)を特定するとともに、説明の便宜上、図1(b)に表した面を吊具の正面と定めて、左右方向(横幅方向)及び前後方向(奥行き方向)を特定することとする。
【0022】
吊具4は、吊上げ対象部材を上下方向に貫通して形成された係合孔(例えば、図11及び図12に示した外壁ファスナ2の長孔22)に上方から挿入される挿入軸部41と、挿入軸部41の上端側に結合された操作機構組付部42と、挿入軸部41及び操作機構組付部42の側面に形成された溝孔状の開口部43を通じて係合爪54を出没させる係合爪出没機構と、係合爪54の突出方向と交差する向きで挿入軸部41に添設され、挿入軸部41の軸方向に沿って摺動し得るように保持される回転止め61と、を具備するものとして構成される。
【0023】
挿入軸部41は、吊上げ対象部材に形成される係合孔の長さよりも十分に長い軸長を有する中空円筒状の部位で、その下端には略円錐状の尖先キャップ44が取り付けられている。
【0024】
操作機構組付部42は略角筒状をなし、挿入軸部41と互いの中空部分を連通させて、挿入軸部41と一体的に形成されている。操作機構組付部42の上端部には、ロープ、ワイヤスリング等の吊り索9(図5)によってこの吊具4を吊持するためのアイボルト45が取り付けられている。
【0025】
挿入軸部41及び操作機構組付部42の左側面には、係合爪出没機構を構成するクランクアーム51及びリンクアーム52を側方に出没させる溝孔状の開口部43が形成されている。
【0026】
クランクアーム51は、図3に示すように、中間部で屈折した細長い鋼板片からなり、その下端近傍が、挿入軸部41の下端近傍を前後方向に貫通する第1ピン節点53に枢着されて、例示形態では図示左右方向に10度前後、揺動し得るように保持されている。クランクアーム51の下部には、係合孔の下縁に係合可能な鋭角部を有する係合爪54が形成されている。この係合爪54は、クランクアーム51が図示左側に揺動すると挿入軸部41の左側に突出し、クランクアーム51が図示右側に揺動すると挿入軸部41の内部に没入する。クランクアーム51の上部は下部よりも大きく外側に傾斜して、クランクアーム51が図示右側に揺動した状態でも、その上端部を操作機構組付部42の左側方に露出させる形状を有している。
【0027】
リンクアーム52は、真っすぐの細長い鋼板片からなり、その下端部が、クランクアーム51の上端部に第2ピン節点55を介して連結されている。第2ピン節点55は第1ピン節点53と平行に設けられているので、リンクアーム52はクランクアーム51の揺動面内で、クランクアーム51に対する角度を変化させる。リンクアーム52の上端部は、操作機構組付部42に設けられた係合爪出没ガイド孔46に沿って摺動するスライド節点56に連結されている。係合爪出没ガイド孔46は、挿入軸部41の軸方向と平行に延びる長孔であり、操作機構組付部42を前後方向に貫通するように形成されている。スライド節点56は、その係合爪出没ガイド孔46に挿通されて前後方向に突出する長ボルトによって構成されている。係合爪出没ガイド孔46よりも上方に形成された操作機構組付部42の中空部内には、その長ボルトを挿入軸部41の下端側へ押し下げる係合爪付勢部材としての圧縮コイルばね57が収納されている。この圧縮コイルばね57の付勢力によって、クランクアーム51及びリンクアーム52は、第2ピン節点55を側方に露出させて、係合爪54を突出させるように常時、付勢される。その付勢力に抗して第2ピン節点55を操作機構組付部42側に押し込むと、クランクアーム51が図示右側に揺動するので、係合爪54を挿入軸部41の内部に没入させることができる。
【0028】
スライド節点56を構成する長ボルトは操作機構組付部42の前後方向に延設されて、その延設端近傍に操作用の引き紐58が結束されている。その引き紐58は、操作機構組付部42の上部にアイナット47を用いて設けられたガイドリングに挿通されて、下方に長く懸垂されている。この引き紐58を引いてスライド節点56を持ち上げる操作によっても、係合爪54を没入させることができる。
【0029】
回転止め61は、挿入軸部41と略等径の円柱状部材をその軸心に沿って二分割したような半円形断面の部材からなり、その下端には略円錐台形状に縮径するテーパ部62が形成されている。例示形態では、2個の回転止め61が、係合爪54の突出方向と交差する向きで挿入軸部41の前後両面を挟み、それぞれの平面側を挿入軸部41に沿わせるようにして配置されている。これらの回転止め61は、操作機構組付部42に設けられた回転止め押出機構によって、挿入軸部41の下端側へ押し出されるように常時、付勢されている。なお、回転止め61は、挿入軸部41の片側だけに添設されていてもよい。
【0030】
回転止め押出機構は、操作機構組付部42に設けられた回転止め摺動ガイド部63と、回転止め摺動ガイド部63に係合して挿入軸部41の軸方向と平行に摺動するスライダ66と、そのスライダ66を挿入軸部41の下端側へ押し出す回転止め付勢部材と、を含んで構成される。
【0031】
例示形態の回転止め摺動ガイド部63は、回転止め摺動ガイド孔64と、回転止め摺動ガイド杆65と、を組み合わせて構成されている。回転止め摺動ガイド孔64は、挿入軸部41の軸方向と平行に延びる長孔であり、クランクアーム51及びリンクアーム52の出没方向に交差して操作機構組付部42を前後方向に貫通するように形成されている。また、回転止め摺動ガイド杆65は、挿入軸部41の軸方向と平行に延びる棒状部材であり、クランクアーム51及びリンクアーム52の出没面の反対側、つまり例示形態では操作機構組付部42の右側面に取り付けられている。
【0032】
スライダ66は、操作機構組付部42の右側面から正面及び背面を挟むように形成された横断面コ字形の部材であり、正面側及び背面側が前後の回転止め61の上端側にそれぞれ結合されるとともに、回転止め摺動ガイド孔64内に挿通された2本の連結ボルト67を介して互いに結合されている。スライダ66の右側面側は回転止め摺動ガイド杆65に挿装されて、昇降可能に保持されている。回転止め摺動ガイド杆65には、スライダ66を挿入軸部41の下端側へ押し下げる回転止め付勢部材としての圧縮コイルばね68が挿装されている。
【0033】
これらの部材によって構成された回転止め押出機構は、回転止め61の下端が係合爪54の上縁よりも下降する位置(図1図2)から、回転止め61の下端が係合爪54の上方に大きく離れる位置(図4図6(b))までの範囲内で、回転止め61を摺動可能に保持する。
【0034】
この吊具4を図11及び図12に示した外壁ファスナ2の長孔22に係合させて外壁パネル1を吊持し、躯体の梁3に取り付ける際の作業手順を以下に説明する。
【0035】
外壁パネル1の上枠材14にはあらかじめ、図11に示したようにして複数箇所に外壁ファスナ2を取り付けておく。そして、外壁ファスナ2の長孔22に吊具4の挿入軸部41を当てがい、挿入軸部41に添設された回転止め61を長孔22の長軸に沿わせて、挿入軸部41を長孔22に押し込む。すると、係合爪54が長孔22の長軸方向の縁部に接触して挿入軸部41内に一旦、没入した後、外壁ファスナ2の厚みを通過して再び突出し、図1図2に示したように長孔22の短軸方向に係合する。このようにして、吊具4をワンアクションで外壁ファスナに取り付けることができる。長孔22の縁部に接触した係合爪54が円滑に没入しない場合は、第2ピン節点55を操作機構組付部42側に押し込んで係合爪54の没入を補助してもよい。なお、外壁パネル1に外壁ファスナ2を取り付ける作業、及びその外壁ファスナ2に吊具4を係合させる作業は、図5(a)に示すように、外壁パネル1を横積みにした状態でも無理なく行うことができる。
【0036】
こうして長孔22内に挿入された挿入軸部41は、係合爪54が長孔22の短軸方向に係合し、回転止め61が係合孔の内面に干渉することで回転不能に拘束される。これにより、係合爪54が長孔22の長軸方向に回転して長孔22から抜け出す事態を確実に防ぐことができる。
【0037】
図4は、外壁ファスナ2に形成される係合孔が長孔22ではなく丸孔24である場合の係合形態を示す。丸孔24に挿入軸部41を挿入すると、回転止め61の下端が丸孔24の上縁に当接して回転止め61が押し上げられるので、丸孔24内には挿入軸部41だけが挿入された状態で係合される。つまり、この吊具4は、係合孔が長孔22であっても丸孔24であっても、同じ操作方法で係合孔に係合させることができる。
【0038】
こうして外壁ファスナ2に吊具4が取り付けられたならば、図5(b)~(c)に示すように、吊具4のアイボルト45に吊り索9を取り付け、図示しない重機等で吊上げて外壁パネル1を立て起こし、その外壁パネル1を躯体側の梁3の直近まで搬送する。そして、図6(a)に示すように、外壁ファスナ2の下方に突出している挿入軸部41の下端を、梁3の上フランジ31に形成された取付孔32に挿し込むようにして、係合孔(長孔22または丸孔24)と取付孔32との位置を合致させながら、外壁ファスナ2を上フランジ31に重ねる。
【0039】
吊具4をさらに下降させると、図6(b)に示すように、外壁ファスナ2の下面に係合していた係合爪54は取付孔32の縁部に接触して一旦、挿入軸部41内に没入するが、上フランジ31の厚みを通り抜けたところで再び突出して、上フランジ31の下面に係合する。このときも、必要に応じて係合爪54の没入を手で補助する。一方、回転止め61は、丸孔状の取付孔32には入らないので、上フランジ31の上面に当接して、さらに上方へと押し上げられる。
【0040】
外壁パネル1の上枠材14に取り付けられた複数箇所の外壁ファスナ2が、こうして梁3の上フランジ31に載架され、外壁ファスナ2の係合孔(長孔22または丸孔24)と上フランジ31の取付孔32とが位置合わせされたならば、図7に示すように、引き紐58を引いて係合爪54を没入させながら吊具4を一箇所ずつ上方に抜き出す。そして、図8に示すように、吊具4を抜き取った係合孔及び取付孔32に下方から速やかにボルト23を挿し込んで、ナット25を締結する。こうして、外壁パネル1の搬送、躯体への位置合わせ及び連結を、一連の作業で効率よく、かつ安全に行うことができる。
【0041】
図9は、吊具4の変形形態を示す。例示の形態は、操作機構組付部42の側方に、クランクアーム51及びリンクアーム52を被覆するアームカバー71を取り付けたものである。アームカバー71は、中間部分に隙間を設けて、第2ピン節点55付近を指先で押し込むことができるように構成されている。このようなアームカバー71を取り付ければ、外壁パネル1等を吊下げて搬送している途中に、吊具4が躯体や重機等に不用意に接触して第2ピン節点55が押し込まれ、係合爪54が没入して外壁パネル1等が落下する、といった事故を防ぐことができる。
【0042】
図10は、吊具4の他の変形形態を示す。例示の形態は、操作機構組付部42の側方に、所定長さの当て板支持アーム72を介して、当て板73が取り付けられたものである。この当て板73は、外壁パネル1のフレーム12や外壁ファスナ2等、吊上げ対象部材に形成された係合孔(丸孔24)に挿入軸部41が挿入された状態で、吊上げ対象部材の適所に当接または係止することで、挿入軸部41が丸孔24内で不規則に回転することを防ぐ作用をなす。例示形態では、当て板73が係合爪54と平行になるように取り付けられているが、吊上げ対象部材の形状等に応じて、当て板73が係合爪54と直交するように取り付けられてもよい。
【0043】
以上に説明したように、本願が開示する発明の吊具4は、挿入軸部41に添設されて挿入軸部41の軸方向に摺動し得る回転止め61を具備しているので、吊上げ対象部材に形成される係合孔が長孔22であっても丸孔24であっても同じ操作方法で、挿入軸部41の係合爪54を係合孔に容易に係脱させることができる。係合孔が長孔22の場合は、挿入軸部41に添設された回転止め61が長孔22内に挿入されて、挿入軸部41を回転不能に拘束するので、吊上げ作業時の安全性も向上する。
【0044】
さらに、外壁ファスナ2を梁3の上フランジ31に載架させて連結するような作業においては、外壁ファスナ2の下方に突出した挿入軸部41を上フランジ31の取付孔32に挿し込むことで、両部材を容易に位置合わせすることができ、挿入軸部41を抜き取れば両部材を速やかにボルト・ナット締結することができる。かくして、重量物の搬送及び建て込み作業における施工性が格段に改善される。
【0045】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に均等な動作原理を利用する範囲内で、あるいは例示形態と実質的に同等程度以上の作用効果が得られる範囲内で、適宜、改変することができる。
【0046】
また、本明細書に開示した実施形態その他の事項は、以下の付記に示す技術的思想として把握することもできる。
(付記1)
吊上げ対象部材を上下方向に貫通して形成された係合孔に上方から挿入可能な中空円筒状の挿入軸部と、
前記挿入軸部の上端側に結合されて吊り索に吊持される操作機構組付部と、
前記係合孔の下縁に係合可能な係合爪を前記挿入軸部の側方に出没させる係合爪出没機構と、
前記係合爪の突出方向と交差する向きで前記挿入軸部に添設され、前記挿入軸部の軸方向に沿って摺動し得るように保持される回転止めと、
を具備する吊具。
(付記2)
付記1に記載された吊具において、
前記回転止めは、前記操作機構組付部に設けられた回転止め押出機構によって、前記挿入軸部の下端側へ押し出されるように付勢されており、
前記係合孔が丸孔の場合は、前記回転止めの下端部が前記丸孔の上縁に当接し、
前記係合孔が長孔の場合は、前記回転止めの下端部が前記係合孔内に挿入されることにより、前記挿入軸部が前記係合孔内で回転不能に拘束される
ことを特徴とする吊具。
(付記3)
付記2に記載された吊具において、
前記回転止め押出機構は、
前記操作機構組付部に設けられた回転止め摺動ガイド部と、
前記回転止めの上端側に結合されて前記回転止め摺動ガイド部に係合し、前記挿入軸部の軸方向と平行に摺動するスライダと、
前記スライダを前記挿入軸部の下端側へ押し出す回転止め付勢部材と、
を含んで構成されることを特徴とする吊具。
(付記4)
付記1、2または3に記載された吊具において、
前記係合爪出没機構は、
前記挿入軸部の下端近傍に第1ピン節点を介して揺動自在に枢着されたクランクアームと、
前記クランクアームの上端部に第2ピン節点を介して連結されたリンクアームと、
前記リンクアームの上端部を前記操作機構組付部に設けられた係合爪出没ガイド孔に沿って前記挿入軸部の軸方向に摺動可能に保持するスライド節点と、
前記スライド節点を前記挿入軸部の下端側へ押し下げる係合爪付勢部材と、
を具備し、
前記クランクアームの下部に前記係合爪が設けられるとともに、
前記クランクアームと前記リンクアームとを連結する前記第2ピン節点が前記操作機構組付部の側方に露出して、前記操作機構組付部側へ押し込み可能に組み付けられている
ことを特徴とする吊具。
(付記5)
付記4に記載された吊具において、
前記スライド節点の中心軸が前記操作機構組付部の外方に延設されて、その延設端に操作用の引き紐が結束され、
前記引き紐が前記操作機構組付部の上部に設けられたガイドリングに挿通されて下方に懸垂されている
ことを特徴とする吊具。
(付記6)
付記4に記載された吊具において、
前記操作機構組付部の側方に、前記クランクアーム及び前記リンクアームを被覆するアームカバーが取り付けられていることを特徴とする吊具。
(付記7)
付記1、2または3に記載された吊具において、
前記係合孔に前記挿入軸部が挿入された状態で前記吊上げ対象部材の適所に当接または係止し得る当て板が、所定長さの当て板支持アームを介して、前記操作機構組付部に取り付けられていることを特徴とする吊具。
(付記8)
外壁材の裏面に取り付けられたフレームの上枠材に、外壁パネルの裏面側に延び出す外壁ファスナを取り付け、
前記外壁パネルを吊り上げて前記外壁ファスナを梁の上フランジに載架し、
前記外壁ファスナに形成された係合孔と前記梁に形成された取付孔とを重ねてボルト・ナット締結する外壁パネルの取付方法において、
前記外壁ファスナの係合孔に請求項2または3に記載された吊具の前記挿入軸部を挿し込んで前記係合爪を前記係合孔に係合させ、
前記吊具を吊上げて前記外壁パネルを前記梁の直近まで搬送し、
前記外壁ファスナの下方に突出している前記挿入軸部の下端を前記上フランジの前記取付孔に挿し込んで前記係合孔と前記取付孔とを合致させながら、前記外壁ファスナを前記梁の前記上フランジに載架し、
前記挿入軸部をさらに下降させて前記係合爪を前記上フランジの前記取付孔に一旦、係合させた後、
前記係合爪を前記挿入軸部内に没入させて前記吊具を前記梁及び前記外壁ファスナの上方に抜き出し、
前記係合孔及び前記取付孔にボルトを挿し込んでナットを締結する
ことを特徴とする外壁パネルの取付方法。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願が開示する発明は、重量物を吊上げて搬送し、所定の位置に据え付けるような作業において、特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 外壁パネル
11 外壁材
12 フレーム
13 縦枠材
14 上枠材
15 下枠材
16 中桟材
17 貫通孔
18 ボルト
19 ナット
2 外壁ファスナ
21 丸孔
22 長孔
23 ボルト・ナット
24 丸孔
25 ナット
3 梁
31 上フランジ
32 取付孔
4 吊具
41 挿入軸部
42 操作機構組付部
43 開口部
44 尖先キャップ
45 アイボルト
46 係合爪出没ガイド孔
47 アイナット
51 クランクアーム
52 リンクアーム
53 第1ピン節点
54 係合爪
55 第2ピン節点
56 スライド節点
57 圧縮コイルばね(係合爪付勢部材)
58 引き紐
61 回転止め
62 テーパ部
63 回転止め摺動ガイド部
64 回転止め摺動ガイド孔
65 回転止め摺動ガイド杆
66 スライダ
67 連結ボルト
68 圧縮コイルばね(回転止め付勢部材)
71 アームカバー
72 当て板支持アーム
73 当て板
9 吊り索
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12