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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108517
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20240805BHJP
   F16H 59/20 20060101ALI20240805BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20240805BHJP
   F16H 61/688 20060101ALI20240805BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20240805BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/20
F16H61/662
F16H61/688
F16H61/12
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012932
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井川 将
(72)【発明者】
【氏名】岩野 勉
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA04
3J552MA07
3J552MA12
3J552MA26
3J552MA29
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA20
3J552PB05
3J552PB06
3J552PB08
3J552QA25C
3J552RA08
3J552SA07
3J552SA36
3J552SB02
3J552SB31
3J552SB33
3J552VA18W
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA74W
3J552VA77W
3J552VB01Z
3J552VC01Z
3J552VD03W
(57)【要約】
【課題】キックダウン要求時におけるタイムラグを短縮可能な制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、キックダウン要求を検知するキックダウン検知手段と、キックダウン要求に応じてトータル変速比の目標値である目標トータル変速比を設定する目標値設定手段と、キックダウン要求の検知後における実際のプーリ比である実プーリ比を、目標トータル変速比に対応するプーリ比である目標プーリ比に近づけるように減少させるプーリ比変更手段と、第2モードから第1モードへ切り替える際の第1係合要素および第2係合要素の切替動作に要する作動時間より短い予測時間に基づいて、実プーリ比が予測時間の経過後に到達すると予想されるプーリ比である予測プーリ比を算出するプーリ比予測手段と、予測プーリ比が目標プーリ比以下になった場合に、第2モードから第1モードに遷移するように第1係合要素および第2係合要素を切り替える切替制御を開始させる切替開始制御手段と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプット軸とアウトプット軸との間の第1動力伝達経路上に介在される第1係合要素と、前記インプット軸と前記アウトプット軸との間の第2動力伝達経路に介在される第2係合要素とを備え、前記第2動力伝達経路上にベルト変速機構を有し、前記第1係合要素の解放および前記第2係合要素の係合により、前記ベルト変速機構によるプーリ比が大きいほど前記インプット軸と前記アウトプット軸との間でのトータル変速比が大きくなる第1モードとなり、前記第1係合要素の係合および前記第2係合要素の解放により、前記プーリ比が大きいほど前記トータル変速比が小さくなる第2モードとなり、前記プーリ比が一定値であるときに、前記第1係合要素および前記第2係合要素に差回転が生じないように構成された無段変速機を制御する制御装置であって、
キックダウン要求を検知するキックダウン検知手段と、
前記キックダウン要求に応じて前記トータル変速比の目標値である目標トータル変速比を設定する目標値設定手段と、
前記キックダウン要求の検知後における実際の前記プーリ比である実プーリ比を、前記目標トータル変速比に対応する前記プーリ比である目標プーリ比に近づけるように減少させるプーリ比変更手段と、
前記第2モードから前記第1モードへ切り替える際の前記第1係合要素および前記第2係合要素の切替動作に要する作動時間より短い予測時間に基づいて、前記実プーリ比が前記予測時間の経過後に到達すると予想される前記プーリ比である予測プーリ比を算出するプーリ比予測手段と、
前記予測プーリ比が前記目標プーリ比以下になった場合に、前記第2モードから前記第1モードに遷移するように前記第1係合要素および前記第2係合要素を切り替える切替制御を開始させる切替開始制御手段と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記キックダウン要求の検知後に、所定時点における前記予測プーリ比の前記目標プーリ比に対する割合である予測到達率と、前記所定時点における前記実プーリ比の前記目標プーリ比に対する割合である実到達率とを算出する到達率算出手段と、
同一時点における前記予測到達率と前記実到達率との差分が閾値以上である場合に異常が発生したと判定する異常判定手段と、
を更に備える請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記切替開始制御手段は、前記異常判定手段により異常が発生したと判定された場合には、前記予測プーリ比が前記目標プーリ比以下になったか否かに関わらず、前記実プーリ比が前記目標プーリ比以下になった場合に前記切替制御を開始させる、
請求項2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される変速機として、動力を無段階に変速する無段変速機構を備え、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を2つの経路で分割して伝達可能な動力分割式無段変速機が提案されている。
【0003】
動力分割式無段変速機の一例では、無段変速機構は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成、つまりプライマリプーリおよびセカンダリプーリに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有している。無段変速機構のプライマリ軸には、インプット軸に入力されるエンジンの動力が伝達される。無段変速機構のセカンダリ軸は、遊星歯車機構のサンギヤに接続されている。
【0004】
また、動力分割式無段変速機には、平行軸式歯車機構が備えられている。平行軸式歯車機構は、インプット軸の動力が伝達/遮断されるスプリットドライブギヤと、スプリットドライブギヤとギヤ列を構成し、遊星歯車機構のキャリヤと一体回転するスプリットドリブンギヤとを備えている。遊星歯車機構のリングギヤには、アウトプット軸が接続されている。アウトプット軸の回転は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に伝達される。
【0005】
この動力分割式無段変速機では、前進走行時における動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードが設けられている。
【0006】
ベルトモードでは、インプット軸とスプリットドライブギヤとの間での動力の伝達/遮断を切り替える第1クラッチが解放されて、スプリットドライブギヤが自由回転状態(フリー)にされ、遊星歯車機構のキャリヤが自由回転状態にされる。また、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとを結合/分離する第2クラッチが係合されて、サンギヤとリングギヤとが結合される。そのため、無段変速機構から出力される動力により、サンギヤおよびリングギヤが一体的に回転し、アウトプット軸がリングギヤと一体的に回転する。したがって、ベルトモードでは、無段変速機構の変速比であるプーリ比が大きいほど、その変速比に比例して、動力分割式無段変速機全体での変速比であるトータル変速比(インプット軸の回転数/アウトプット軸の回転数)が大きくなる。
【0007】
スプリットモードでは、第2クラッチが解放されて、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとの結合が解除される。また、第1クラッチが係合されて、インプット軸からスプリットドライブギヤに動力が伝達される。すなわち、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えは、第1クラッチと第2クラッチとの係合の切り替えにより達成される。インプット軸からスプリットドライブギヤに伝達される動力は、スプリットドライブギヤからスプリットドリブンギヤを介することにより一定の変速比(スプリット点)で変速されて、遊星歯車機構のキャリヤに入力される。サンギヤは、プーリ比に応じた回転数で回転する。そのため、スプリットモードでは、プーリ比が大きいほどトータル変速比が小さくなり、スプリット点以下のトータル変速比を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-132353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スプリットモードでの走行時においてキックダウン要求がなされると、トータル変速比の目標値(目標トータル変速比)が高く設定され、ベルトモードへ遷移するために第1クラッチを解放して第2クラッチを係合させるクラッチ切替制御(クラッチツークラッチ)が実行される。このとき、従来技術においては、キックダウン要求時におけるプーリ比が目標トータル変速比に対応する目標プーリ比よりも大きい場合、クラッチ切替制御は、プーリ比を目標プーリ比との間の差分が零又は略零になるまで減少させた後に実行される。そのため、当該差分が大きい場合には、キックダウン要求がなされてからベルトモードへの遷移が完了して加速し始めるまでのタイムラグが大きくなり、運転者にもたつき感を感じさせてしまう場合がある。
【0010】
本発明の目的は、キックダウン要求時におけるタイムラグを短縮可能な制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態としての制御装置は、インプット軸とアウトプット軸との間の第1動力伝達経路上に介在される第1係合要素と、前記インプット軸と前記アウトプット軸との間の第2動力伝達経路に介在される第2係合要素とを備え、前記第2動力伝達経路上にベルト変速機構を有し、前記第1係合要素の解放および前記第2係合要素の係合により、前記ベルト変速機構によるプーリ比が大きいほど前記インプット軸と前記アウトプット軸との間でのトータル変速比が大きくなる第1モードとなり、前記第1係合要素の係合および前記第2係合要素の解放により、前記プーリ比が大きいほど前記トータル変速比が小さくなる第2モードとなり、前記プーリ比が一定値であるときに、前記第1係合要素および前記第2係合要素に差回転が生じないように構成された無段変速機を制御する制御装置であって、キックダウン要求を検知するキックダウン検知手段と、前記キックダウン要求に応じて前記トータル変速比の目標値である目標トータル変速比を設定する目標値設定手段と、前記キックダウン要求の検知後における実際の前記プーリ比である実プーリ比を、前記目標トータル変速比に対応する前記プーリ比である目標プーリ比に近づけるように減少させるプーリ比変更手段と、前記第2モードから前記第1モードへ切り替える際の前記第1係合要素および前記第2係合要素の切替動作に要する作動時間より短い予測時間に基づいて、前記実プーリ比が前記予測時間の経過後に到達すると予想される前記プーリ比である予測プーリ比を算出するプーリ比予測手段と、前記予測プーリ比が前記目標プーリ比以下になった場合に、前記第2モードから前記第1モードに遷移するように前記第1係合要素および前記第2係合要素を切り替える切替制御を開始させる切替開始制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、キックダウン要求後、実プーリ比が目標プーリ比に達する前であっても、予測プーリ比が目標プーリ比に達している場合には、切替制御が開始される。これにより、タイムラグを短縮することが可能となる。
【0013】
また、上記構成において、制御装置は、前記キックダウン要求の検知後に、所定時点における前記予測プーリ比の前記目標プーリ比に対する割合である予測到達率と、前記所定時点における前記実プーリ比の前記目標プーリ比に対する割合である実到達率とを算出する到達率算出手段と、同一時点における前記予測到達率と前記実到達率との差分が閾値以上である場合に異常が発生したと判定する異常判定手段と、を更に備えてもよい。
【0014】
上記構成によれば、キックダウン要求後における異常の有無を判定できる。
【0015】
上記構成において、前記切替開始制御手段は、前記異常判定手段により異常が発生したと判定された場合には、前記予測プーリ比が前記目標プーリ比以下になったか否かに関わらず、前記実プーリ比が前記目標プーリ比以下になった場合に前記切替制御を開始させてもよい。
【0016】
上記構成によれば、異常発生時には、従来と同様の手法、すなわち実プーリ比と目標プーリ比との差分に基づいて切替制御の開始時期が決定される。これにより、キックダウン要求時におけるシフトダウン動作のロバスト性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、キックタウン要求時におけるタイムラグを短縮可能な制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
図2図2は、車両の前進時および後進時におけるクラッチおよびブレーキの状態を示す図である。
図3図3は、遊星歯車機構のサンギヤ、キャリヤおよびリングギヤの回転数の関係を示す共線図である。
図4図4は、ベルト変速機構によるプーリ比と変速機の全体でのトータル変速比との関係を示す図である。
図5図5は、車両の制御系の構成を示すブロック図である。
図6図6は、キックダウン要求時におけるクラッチ切替制御のタイミングの決定方法を示す図である。
図7図7は、キックダウン要求時におけるクラッチ切替制御の開始タイミングを示す図である。
図8図8は、キックダウン要求からクラッチ切替制御の開始までの処理を示すフローチャートである。
図9図9は、キックダウン要求時における異常判定処理及び異常発生時における対処処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0021】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0022】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3および変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0023】
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
【0024】
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0025】
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
【0026】
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
【0027】
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
【0028】
変速機4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、変速機4は、ベルト変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
【0029】
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0030】
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
【0031】
ベルト変速機構33は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、ベルト変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
【0032】
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油圧室54が形成されている。
【0033】
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
【0034】
ベルト変速機構33では、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、プーリ比が連続的に無段階で変更される。
【0035】
具体的には、プーリ比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
【0036】
プーリ比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
【0037】
一方、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑り(ベルト滑り)が生じない大きさを必要とする。そのため、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧が得られるよう、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
【0038】
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
【0039】
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0040】
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
【0041】
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
【0042】
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
【0043】
また、変速機4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
【0044】
クラッチC1(第1係合要素の一例)は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0045】
クラッチC2(第2係合要素の一例)は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合) する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0046】
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
【0047】
<動力伝達モード>
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。図4は、ベルト変速機構33によるプーリ比と変速機4の全体でのトータル変速比との関係を示す図である。
【0048】
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0049】
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジションおよびD(ドライブ)ポジションがこの順に一列に並べて設けられている。
【0050】
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放され、パーキングロックギヤ(図示せず)が固定されることにより、変速機4の変速レンジの1つであるPレンジが構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、変速機4の変速レンジの1つであるNレンジが構成される。クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71およびピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
【0051】
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである前進レンジが構成される。この前進レンジでの動力伝達モードには、ベルトモード(第1モードの一例)およびスプリットモード(第2モードの一例)が含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
【0052】
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
【0053】
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3および図4に示されるように、変速機4全体でのトータル変速比がベルト変速機構33のプーリ比に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
【0054】
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
【0055】
インプット軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
【0056】
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、プーリ比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、ベルト変速機構33のプーリ比が大きいほど、変速機4のトータル変速比が小さくなり、プーリ比に対するトータル変速比の感度(プーリ比の変化量に対するトータル変速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
【0057】
ベルトモードおよびスプリットモードにおけるアウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
【0058】
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである後進レンジが構成される。後進レンジでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
【0059】
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
【0060】
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0061】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。図5には、1つのECU91のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU91と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU91を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0062】
トルクコンバータ3および変速機4を含むユニットには、各部に油圧を供給するための油圧回路92が備えられている。ECU91は、変速機4の変速制御などのため、油圧回路92に含まれる各種のバルブなどを制御する。
【0063】
ECU91には、その制御に必要な各種センサが接続されている。一例として、ECU91には、トルクコンバータ3のタービンランナ23の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するタービン回転センサ93と、プライマリ軸41の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するプライマリ回転センサ94と、セカンダリ軸42の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセカンダリ回転センサ95と、アウトプット軸32の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するアウトプット回転センサ96と、運転者により操作されるアクセルペダル(図示せず)の操作量に応じた検出信を出力するアクセルセンサ97とが接続されている。
【0064】
ECU91では、タービン回転センサ93、プライマリ回転センサ94、セカンダリ回転センサ95およびアウトプット回転センサ96の各検出信号から、タービンランナ23の回転数であるタービン回転数、プライマリ軸41(プライマリプーリ43)の回転数であるプライマリ回転数、セカンダリ軸42(セカンダリプーリ44)の回転数であるセカンダリ回転数、およびアウトプット軸32の回転数であるアウトプット回転数が取得される。また、ECU91では、アクセルセンサ97の検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度が求められる。
【0065】
なお、タービン回転センサ93、プライマリ回転センサ94、セカンダリ回転センサ95、アウトプット回転センサ96およびアクセルセンサ97の一部は、他のECUに接続されて、その一部のセンサから取得される情報は、他のECUから受信してもよい。
【0066】
<変速制御>
変速機4のトータル変速比は、ECU91によるプーリ比の変更ならびにクラッチC1,C2およびブレーキB1の係合/解放により制御される。この変速制御では、まず、変速線図に基づいて、アクセル開度および車速に応じた目標回転数が設定される。変速線図は、アクセル開度および車速と目標回転数との関係を定めたマップであり、ECU91のROMに格納されている。車速の情報は、たとえば、エンジン2を制御するエンジンECUからECU91に送信される。目標回転数が設定されると、インプット軸31に入力される回転数、つまりタービン回転数を目標回転数に一致させるトータル変速比の目標値である目標トータル変速比が求められ、目標トータル変速比に応じたプーリ比の目標値である目標プーリ比が設定される。
【0067】
その後、プーリ比の目標に基づいて、プライマリプーリ43の可動シーブ52に供給される油圧であるプライマリ圧およびセカンダリプーリ44の可動シーブ56に供給される油圧であるセカンダリ圧の指令値が設定され、各指令値に基づいて、目標プーリ比と実プーリ比(実際のプーリ比)との差分が零に近づくように、プライマリ圧およびセカンダリ圧が制御される。実プーリ比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
【0068】
トータル変速比がスプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比に等しいスプリット点(図4参照)を跨いで変更される場合、そのトータル変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替え(以下、単に「モード切替」という。)が伴う。モード切替は、クラッチC1,C2の係合を切り替えるクラッチ切替制御(切替制御の一例)により達成される。すなわち、クラッチC1,C2に供給される油圧の制御により、解放状態のクラッチC1(係合側)が係合され、係合状態のクラッチC2(解放側)が解放されることにより、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる。逆に、係合状態のクラッチC1(解放側)が解放され、解放状態のクラッチC2(係合側)が係合されることにより、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる。
【0069】
本実施形態のECU91は、スプリットモードでの走行時にキックダウン要求がなされた場合に、スプリットモードからベルトモードへ切り替えるクラッチ切替制御を実行するタイミングを最適化するための処理を行う。キックダウン要求の検知は、公知技術を適宜利用して実行されればよいが、例えばアクセルペダルが所定時間以内に所定量以上踏み込まれた場合にキックダウン要求がなされたと判定できる。
【0070】
図6は、キックダウン要求時におけるクラッチ切替制御のタイミングの決定方法を示す図である。
【0071】
図6において、点Aは、スプリット点を示している。点Bは、キックダウン要求に応じて設定される目標トータル変速比Rttと当該目標トータル変速比Rttに対応する目標プーリ比である目標プーリ比Rbtとを示す点である。点Cは、キックダウン要求時におけるプーリ比である要求時プーリ比Rb1を示す点である。点Dは、キックダウン要求後における実際のプーリ比である実プーリ比Rbrを示す点である。本例では実プーリ比Rbrが時間経過に伴い減少していく状況が示されている。
【0072】
図6に示されるように、本実施形態では、要求時プーリ比Rb1が目標プーリ比Rbtより大きい場合が想定される。このような場合、従来技術においては、変速ショックを低減するために、キックダウン要求後における実プーリ比Rbrを目標プーリ比Rbtと一致または略一致させてからクラッチ切替制御を開始する。そのため、要求時プーリ比Rb1と目標プーリ比Rbtとの差分が大きい場合、キックダウン要求がなされてからベルトモードへの遷移が完了して加速し始めるまでのタイムラグが大きくなり、運転者にもたつき感を与えてしまう場合がある。
【0073】
本実施形態のECU91は、上記のような問題を回避するために、スプリットモードからベルトモードへ切り替える際のクラッチC1,C2の切替動作に要する時間であるクラッチ作動時間(作動時間の一例)を考慮して、クラッチ切替制御を開始するタイミングを決定する処理を実行する。
【0074】
ECU91は、キックダウン要求を検知すると、スプリットモードからベルトモードへ切り替える際のクラッチC1,C2の切替動作に要するクラッチ作動時間よりも短い所定の予測時間に基づいて、実プーリ比Rbrが予測時間経過後に到達すると予測されるプーリ比である予測プーリ比Rbpを算出する。そして、ECU91は、予測プーリ比Rbpが目標プーリ比Rbt以下になった場合に、スプリットモードをベルトモードに切り替えるクラッチ切替制御を開始する。
【0075】
クラッチ作動時間は、公知技術を利用した適宜な手法により設定され得るが、例えば事前に実施された実験、シミュレーション等の結果に基づいて設定され得る。クラッチ作動時間は、一定値であってもよいし、所定の条件に応じて変化する値であってもよい。クラッチ作動時間は、例えばECU91に備えられたメモリに記憶され、キックダウン要求時に当該メモリから読み出されて使用される。
【0076】
予測時間は、例えば、クラッチ作動時間より短い一定値として設定され得る。予測時間がクラッチ作動時間より短く設定されることで、プーリ比の調整が完了した後にクラッチC1,C2の掛け替えが完了するという従来通りの順番で制御できるため、変速ショックの悪化の懸念がない。予測時間は、クラッチ作動時間と同様に、例えばECU91に備えられたメモリに記憶され、キックダウン要求時に当該メモリから読み出されて使用される。
【0077】
図6において、点Eは、実プーリ比Rbrが予測時間経過後に到達するプーリ比である予測プーリ比Rbpを示す点である。本例では予測プーリ比Rbpが実プーリ比Rbrの減少に伴って減少していく状況が示されている。予測プーリ比Rbpは、公知技術を適宜利用して算出され得るが、例えば予測時間に予め設定されたプーリ比の変化速度を乗じる方法等により算出され得る。
【0078】
図6において、点Fは、本実施形態のクラッチ切替制御の実行開始時におけるプーリ比である切替時プーリ比Rb2を示す点である。ここで例示する切替時プーリ比Rb2は、予測プーリ比Rbpが目標プーリ比Rbtに到達したときの実プーリ比Rbrである。
【0079】
図7は、キックダウン要求時におけるクラッチ切替制御の開始タイミングを示す図である。
【0080】
図7において、時刻t0は、アクセル開度が増加し始めた時刻、すなわち運転者によりアクセルペダルが踏み込まれ始めた時刻を示している。時刻t1は、アクセル開度が所定値に達し、キックダウン要求が検知された時刻を示している。
【0081】
目標トータル変速比Rttは、アクセル開度の増加に応じて増加し、時刻t1において確定する。実プーリ比Rbr及び予測プーリ比Rbpは、目標トータル変速比Rttの増加に応じて減少する。予測プーリ比Rbpは、時刻t2において目標トータル変速比Rttに対応する目標プーリ比Rbt(図6参照)に到達し、実プーリ比Rbrは、時刻t3において目標トータル変速比Rttに対応する目標プーリ比Rbtに達している。本実施形態においては、スプリットモードからベルトモードへ切り替えるクラッチ切替制御は、時刻t2に開始され、タービン回転数は、時刻t4においてベルトモードにおける目標値に到達する。一方、従来技術においては、クラッチ切替制御は、時刻t2から時間Δt経過した時刻t3に開始され、タービン回転数は、時刻t4から時間Δt経過した時刻t5においてベルトモードにおける目標値に到達する。このように、本実施形態によれば、キックダウン要求後に発生するタイムラグを従来よりも時間Δtだけ減少させることができる。
【0082】
図8は、キックダウン要求からクラッチ切替制御の開始までの処理を示すフローチャートである。
【0083】
ECU91は、キックダウン要求を検知したか否かを判定し(S101)、キックダウン要求が検知されていない場合(S101:No)、本ルーチンを終了する。キックダウン要求が検知された場合(S101:Yes)、キックダウン要求時の操作(例えばアクセル開度等)に基づいて目標トータル変速比Rttが設定される(S102)。その後、実プーリ比Rbrを目標トータル変速比Rttに対応する目標プーリ比Rbtに近づけるように変更(減少)させる(S103)。また、予め設定された予測時間に基づいて、実プーリ比Rbrが予測時間経過後に到達する予測プーリ比Rbpが算出される(S104)。
【0084】
その後、算出された予測プーリ比Rbpが目標プーリ比Rbt以下であるか否かが判定され(S105)、予測プーリ比Rbpが目標プーリ比Rbt以下でない場合(S105:No)、ステップS102以降の処理が再度実行される。予測プーリ比Rbpが目標プーリ比Rbt以下である場合(S105:Yes)、ECU91は、スプリットモードからベルトモードへ切り替えるクラッチ切替制御を開始させる(S106)。
【0085】
上記のような処理により、キックダウン要求後、実プーリ比Rbrが目標プーリ比Rbtに達する前であっても、予測プーリ比Rbpが目標プーリ比Rbtに達している場合には、クラッチ切替制御が開始される。これにより、従来のように、実プーリ比Rbrが目標プーリ比Rbtに達するまでクラッチ切替制御を開始しない場合に比べ、タイムラグを短縮することが可能となる。
【0086】
<異常判定制御>
本実施形態のECU91は、更に、キックダウン要求時の処理における異常を判定し、異常発生時に対処するための処理を行う。
【0087】
図9は、キックダウン要求時における異常判定処理及び異常発生時における対処処理を示すフローチャートである。
【0088】
ECU91は、キックダウン要求の検知後、予測プーリ比Rbpに基づく予測到達率を算出し(S201)、実プーリ比Rbrに基づく実予測到達率を算出する(S202)。予測到達率は、所定時点(例えばキックダウン要求の検知後一定の時間が経過した時点)における予測プーリ比Rbpの目標プーリ比Rbtに対する割合(例えば、Rbp/Rbt)である。実到達率は、上記と同一の所定時点における実プーリ比Rbrの目標プーリ比Rbtに対する割合(例えば、Rbr/Rbt)である。
【0089】
その後、同一時点における理想到達率と実到達率との差分が閾値以上か否かが判定され(S203)、差分が閾値以上でない場合(S203:No)、異常は発生していないと判定され、本ルーチンは終了する。一方、差分が閾値以上である場合(S203:Yes)、異常が発生していると判定され(S204)、ECU91は、予測プーリ比Rbpが目標プーリ比Rbt以下であるか否かに関わらず、実プーリ比Rbrが目標プーリ比Rbt以下であるか否かに基づいて、スプリットモードからベルトモードへ切り替えるクラッチ切替制御の開始時期を決定する(S205)。
【0090】
上記のような処理によれば、予測到達率と実到達率との差分に基づいて異常の有無が判定され、異常発生時には、従来と同様の手法、すなわち実プーリ比Rbrと目標プーリ比Rbtとの差分に基づいてクラッチ切替制御の開始時期が決定される。これにより、キックダウン要求時におけるシフトダウン動作のロバスト性を向上させることができる。
【0091】
上記実施形態の制御装置における各種機能を実現するための処理をコンピュータ(例えばECU91等)に実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供することが可能なものである。また、当該プログラムは、インターネット等のネットワーク経由で提供又は配布されてもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
4…変速機、31…インプット軸、32…アウトプット軸、33…ベルト変速機構、91…ECU(制御装置)、C1…クラッチ(第1係合要素)、C2…クラッチ(第2係合要素)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9