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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108518
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】基準電流源
(51)【国際特許分類】
   G05F 3/26 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
G05F3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012933
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】マキンワ コフィ アフォラビ アントニー
(72)【発明者】
【氏名】タン ゾン
【テーマコード(参考)】
5H420
【Fターム(参考)】
5H420NA21
5H420NA27
5H420NB03
5H420NB12
5H420NB25
5H420NC02
5H420NC17
5H420NC23
(57)【要約】
【課題】回路規模の増加を抑制しつつ、基準電流の精度を向上する。
【解決手段】基準電流源1は、1つのダイオード接続されたバイポーラトランジスタからなる第1半導体素子2と、複数のダイオード接続されたバイポーラトランジスタを並列接続してなる第2半導体素子3と、第1半導体素子2および第2半導体素子3の各ベース・エミッタ間電圧の差である差電圧ΔVbeを電流に変換する抵抗4と、一方の入力端子とグランドとの間に第1半導体素子2が接続されるとともに他方の入力端子とグランドとの間に抵抗4および第2半導体素子3が直列接続されるアンプ5と、アンプ5の出力により出力電流が制御されるカレントミラー回路6と、を備える。基準電流源1は、抵抗4により変換された電流に応じた電流を基準電流IREFとして出力する。抵抗4は、差電圧ΔVbeと同程度の温度特性を有する抵抗である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのダイオードまたは1つのダイオード接続されたバイポーラトランジスタからなる第1半導体素子(2)と、
複数のダイオードまたは複数のダイオード接続されたバイポーラトランジスタを並列接続してなる第2半導体素子(3)と、
前記第1半導体素子および前記第2半導体素子の各順方向電圧または各ベース・エミッタ間電圧の差である差電圧を電流に変換する変換用抵抗(4、22)と、
一方の入力端子とグランドとの間に前記第1半導体素子が接続されるとともに他方の入力端子とグランドとの間に前記変換用抵抗および前記第2半導体素子が直列接続されるアンプ(5、32)と、
前記アンプの出力により出力電流が制御されるカレントミラー回路(6、33)と、
を備え、
前記変換用抵抗により変換された電流に応じた電流を基準電流として出力し、
前記変換用抵抗は、前記差電圧と同程度の温度特性を有する抵抗である基準電流源。
【請求項2】
前記変換用抵抗は、シリサイド化した抵抗により構成されている請求項1に記載の基準電流源。
【請求項3】
前記変換用抵抗(22)は、前記差電圧と同程度の温度特性を有する少なくとも2つの抵抗(22a、22b)の組み合わせからなり、
前記2つの抵抗のうち一方は、前記差電圧の温度特性に対して負方向に大きい温度特性を有し、
前記2つの抵抗のうち他方は、前記差電圧の温度特性に対して正方向に大きい温度特性を有している請求項1または2に記載の基準電流源。
【請求項4】
前記アンプ(32)は、チョッピングの機能を有している請求項1または2に記載の基準電流源。
【請求項5】
さらに、
前記カレントミラー回路(33)のばらつき成分を補正するダイナミックエレメントマッチング回路(42)を備える請求項1または2に記載の基準電流源。
【請求項6】
さらに、
前記カレントミラー回路(33)のばらつき成分を補正するダイナミックエレメントマッチング回路(42)を備える請求項4に記載の基準電流源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準電流を出力する基準電流源に関する。
【背景技術】
【0002】
基準電流源は、例えば電流センサに用いられるシャント抵抗に流す電流、A/D変換器などにおけるアナログ回路の基準となる電流などを供給する用途に用いられることが多い。このような基準電流源は、温度に依存して変動することがない、つまり温度特性の無い一定の基準電流を出力できることが望ましい。特許文献1には、基準電流源における温度特性を小さく抑えるための構成が開示されている。なお、以下の説明では、特許文献1に開示された構成のことを従来技術と称することとする。
【0003】
従来技術は、1つの第1ダイオードの順方向電圧VF1と、その順方向電圧VF1と電流密度を変えた第2ダイオード、具体的には複数の並列接続された第2ダイオードの順方向電圧VF2との差である差電圧dVFと、に基づいて、温度特性が略ゼロの基準電流Irefを生成する構成となっている。差電圧dVFは、下記(A)式により表される。ただし、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、qは電子の電荷量であり、Nは第2ダイオードの並列接続数である。
【0004】
【数1】
【0005】
この場合、第1ダイオードに電流を供給するための第1PMOSトランジスタ、第2ダイオードに電流を供給するための第2PMOSトランジスタおよび基準電流Irefを出力するための第3PMOSトランジスタはカレントミラー回路を構成している。そのため、第1PMOSトランジスタP1および第2PMOSトランジスタP2のそれぞれに流れる電流I1、I2は、下記(B)式に示すように等しい値となる。また、この場合、基準電流Irefは、下記(C)式により表される。ただし、I2Aは第1抵抗と第1ダイオードとの直列回路に流れる電流であり、I2Bは上記直列回路に並列接続された第2抵抗に流れる電流であり、R1は第1抵抗の抵抗値であり、R2は第2抵抗の抵抗値である。
【0006】
【数2】
【0007】
ここで、素子の特性から下記(D)式および(E)式により表されるように、差電圧dVfが正の温度特性を持つとともに、順方向電圧VF1が負の温度特性を持つことが分かっている。
【0008】
【数3】
【0009】
これらを踏まえると、基準電流Irefの温度特性は、下記(F)式のように表される。
【0010】
【数4】
【0011】
従来技術では、上記(F)式から明らかなように、N、R1、R2の各定数を任意の値に設定することにより、差電圧dVfが持つ正の温度特性と順方向電圧VF1が持つ負の温度特性とを相殺する形で基準電流Irefの温度特性を略ゼロにすること、つまり温度特性をキャンセルすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11-45125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術の構成をIC化することを考えた場合、第1抵抗は、面積効率を重視することから、シリサイド化していない抵抗である非シリサイド抵抗が用いられることが一般的である。なお、ICは、Integrated Circuitの略称である。非シリサイド抵抗は、その温度特性が、例えば0.01%/K程度であり、比較的小さい。そのため、第1抵抗として非シリサイド抵抗を用いた場合、差電圧dVfと第1抵抗だけでは温度特性のキャンセルは不可能である。このようなことから、従来技術では、温度特性のキャンセルを可能にするため、第1ダイオードに並列接続された第4抵抗と、第1抵抗と第2ダイオードとの直列回路に並列接続された第2抵抗と、の追加が必要となっており、その分だけ回路規模が大きくならざるを得ない。
【0014】
また、従来技術では、上記(F)式に示されるように、順方向電圧VF1の値が、基準電流Irefの値に影響を及ぼすようになっているため、順方向電圧VF1の絶対値が例えばICのパッケージに加わる応力により変動した場合、基準電流Irefの精度を良好に維持することができなくなるおそれがある。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回路規模の増加を抑制しつつ、基準電流の精度を向上することができる基準電流源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の基準電流源は、1つのダイオードまたは1つのダイオード接続されたバイポーラトランジスタからなる第1半導体素子(2)と、複数のダイオードまたは複数のダイオード接続されたバイポーラトランジスタを並列接続してなる第2半導体素子(3)と、前記第1半導体素子および前記第2半導体素子の各順方向電圧または各ベース・エミッタ間電圧の差である差電圧を電流に変換する変換用抵抗(4、22)と、一方の入力端子とグランドとの間に前記第1半導体素子が接続されるとともに他方の入力端子とグランドとの間に前記変換用抵抗および前記第2半導体素子が直列接続されるアンプ(5、32)と、前記アンプの出力により出力電流が制御されるカレントミラー回路(6、33)と、を備える。前記基準電流源は、前記変換用抵抗により変換された電流に応じた電流を基準電流として出力する。前記変換用抵抗は、前記差電圧と同程度の温度特性を有する抵抗である。
【0017】
このような構成によれば、変換用抵抗および差電圧の特性だけで正の温度特性と負の温度特性との相殺が可能となり、基準電流の温度特性を小さく抑えることができる。また、上記構成では、従来技術のように温度特性のキャンセルを可能にするために別途2つの抵抗を追加する必要はなく、その分だけ回路規模を小さく抑えることができる。さらに、上記構成において、各順方向電圧または各ベース・エミッタ間電圧は応力により変動するおそれがあるものの、それらの差である差電圧は応力による変動は極めて小さくなる。上記構成では、基準電流が変換用抵抗の抵抗値および差電圧の値だけにより定まることから、応力による変動の影響が小さい基準電流を生成することができる。このように、上記構成によれば、回路規模の増加を抑制しつつ、基準電流の精度を向上することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る基準電流源の構成を模式的に示す図
図2】第2実施形態に係る基準電流源の構成を模式的に示す図
図3】第2実施形態に係る変換用抵抗を1つの抵抗により構成した場合と2つの抵抗の組み合わせにより構成した場合とにおける基準電流の温度特性の一例を示す図
図4】第3実施形態に係る基準電流源の構成を模式的に示す図
図5】第4実施形態に係る基準電流源の構成を模式的に示す図
図6】第5実施形態に係る基準電流源の構成を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の基準電流源1は、一定の基準電流IREFを生成して出力する回路であり、第1半導体素子2、第2半導体素子3、抵抗4、アンプ5およびカレントミラー回路6を備えている。基準電流源1は、出力する基準電流IREFの供給先となる各種の回路とともにICとして構成されている。
【0021】
第1半導体素子2は、1つのPNP形のバイポーラトランジスタから構成される。第1半導体素子2のコレクタは、回路の基準電位が与えられるグランドに接続されているとともに、そのベースに接続されている。つまり、第1半導体素子2を構成するバイポーラトランジスタはダイオード接続されている。第1半導体素子2のエミッタは、ノードN1に接続されている。
【0022】
第2半導体素子3は、複数のPNP形のバイポーラトランジスタを並列接続した構成となっている。本実施形態では、第2半導体素子3におけるバイポーラトランジスタの並列接続数がP個であるものとする。ただし、Pは、2以上の正の整数である。この場合、第1半導体素子2を構成する1つのバイポーラトランジスタおよび第2半導体素子3を構成する複数のバイポーラトランジスタのそれぞれは、同一のサイズのトランジスタとなっている。
【0023】
第2半導体素子3のコレクタは、グランドに接続されているとともに、そのベースに接続されている。つまり、第2半導体素子3を構成する複数のバイポーラトランジスタのそれぞれは、ダイオード接続されている。第2半導体素子3のエミッタは、抵抗4を介してノードN2に接続されている。抵抗4は、第1半導体素子2のベース・エミッタ間電圧である電圧Vbe1および第2半導体素子のベース・エミッタ間電圧である電圧Vbe2の差である差電圧ΔVbeを電流に変換する変換用抵抗として機能する。差電圧ΔVbeは、下記(1)式により表される。
【0024】
【数5】
【0025】
アンプ5は、その一方の入力端子である反転入力端子がノードN1に接続されている。つまり、アンプ5の一方の入力端子とグランドとの間には第1半導体素子2が接続されている。また、アンプ5は、その他方の入力端子である非反転入力端子がノードN2に接続されている。つまり、アンプ5の他方の入力端子とグランドとの間には抵抗4および第2半導体素子3が直列接続されている。アンプ5の出力端子は、ノードN3に接続されている。
【0026】
カレントミラー回路6は、アンプ5の出力により出力電流が制御される回路であり、3つのトランジスタQ1、Q2、Q3を備えている。トランジスタQ1~Q3は、いずれもPチャネル型のMOSトランジスタである。トランジスタQ1~Q3の各ゲートは、共通接続されているとともにノードN3に接続されている。トランジスタQ1~Q3の各ソースは、共通接続されているとともに回路の電源電圧VDDが与えられる電源線7に接続されている。トランジスタQ1のドレインは、ノードN1に接続されており、トランジスタQ2のドレインは、ノードN2に接続されている。トランジスタQ3のドレインは、基準電流IREFの出力ノードであるノードNoに接続されている。
【0027】
上記構成によれば、アンプ5の動作により、互いに面積比が異なる第1半導体素子2および第2半導体素子3に、互いに同等のコレクタ電流が流れる。つまり、上記構成によれば、第1半導体素子2および第2半導体素子3が互いに異なる電流密度で動作する。このとき、抵抗4の低電位側端子の電圧が電圧Vbe2になるとともに抵抗4の高電位側端子の電圧が電圧Vbe1になり、その結果、抵抗4の各端子間の電圧が差電圧ΔVbeになる。そのため、差電圧ΔVbeが抵抗4により電流に変換される。
【0028】
カレントミラー回路6を構成する各トランジスタQ1~Q3のドレイン電流は、このように抵抗4により変換された電流に応じた電流となる。そのため、上記構成の基準電流源1によれば、抵抗4により変換された電流に応じた電流が基準電流IREFとして出力される。本実施形態では、抵抗4は、差電圧ΔVbeと同程度の温度特性を有する抵抗であり、具体的には、シリサイド化したポリ抵抗、拡散抵抗などにより構成されている。
【0029】
次に、上記構成の基準電流源1により生成される基準電流IREFの温度特性がキャンセルされる仕組みについて説明する。差電圧ΔVbeの温度特性および抵抗4の温度特性は、それぞれ下記(2)式および(3)式により表される。ただし、T0は任意の温度であり、ΔVbe0は温度T0での差電圧ΔVbeであり、Rは抵抗4の抵抗値であり、R0は温度T0での抵抗値Rであり、αおよびβは温度係数である。
【0030】
【数6】
【0031】
上記構成における基準電流IREFは、下記(4)式により表されるように、差電圧ΔVbeと抵抗4の抵抗値Rとにより定まる。そして、上記(2)式および(3)式を踏まえると、基準電流IREFは、下記(5)式のように表すことができる。
【0032】
【数7】
【0033】
ここで、差電圧ΔVbeの温度係数αは、下記(6)式に示すように、0.33%/K程度の値となる。また、抵抗4の温度係数βは、シリサイド化した抵抗の種類にもよるが、概ね0.3%/K程度の値となる。
【0034】
【数8】
【0035】
このように、上記構成では、温度係数αと温度係数βとが概ね同じ値となっている。温度係数α、βが同一の値であれば、上記(6)式における温度に依存する項「α(T-T0)-β(T-T0)」をゼロにすることができ、そうすると、基準電流IREFは、温度に依存して変動することがない電流となる。したがって、上記構成によれば、基準電流IREFの温度特性をキャンセルすることが可能となっている。
【0036】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
一般的には、シリサイド化した抵抗は、シート抵抗値が小さいために、面積効率が悪い、ばらつきが大きい、といった課題があり、使用されることが少ない。ただし、シリサイド化した抵抗は、その温度特性が差電圧ΔVbeの温度特性と非常に近いというメリットがある。本実施形態の基準電流源1では、このような点に着目し、差電圧ΔVbeを電流に変換する変換用抵抗である抵抗4として、シリサイド化した抵抗、つまり差電圧ΔVbeと同程度の温度特性を有する抵抗が用いられている。
【0037】
このようにすることで、本実施形態の基準電流源1では、抵抗4および差電圧ΔVbeの特性だけで正の温度特性と負の温度特性との相殺が可能となり、基準電流IREFの温度特性を小さく抑えることができる。また、本実施形態の基準電流源1では、従来技術のように温度特性のキャンセルを可能にするために別途2つの抵抗を追加する必要はなく、その分だけ回路規模を小さく抑えることができる。
【0038】
本実施形態の基準電流源1では、第1半導体素子2および第2半導体素子3の各逆飽和電流が応力により変動することが要因で電圧Vbe1、Vbe2が変動するおそれがある。しかし、本実施形態の基準電流源1によれば、差電圧ΔVbeは、電圧Vbe1、Vbe2の差から決まることから、各逆飽和電流に差分が無ければ、その応力変動は極めて小さくなる。本実施形態の基準電流源1では、基準電流IREFが抵抗4の抵抗値Rおよび差電圧ΔVbeの値だけにより定まることから、応力による変動の影響が小さい基準電流IREFを生成することができる。このように、本実施形態によれば、回路規模の増加を抑制しつつ、基準電流IREFの精度を向上することができるという優れた効果が得られる。
【0039】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図2および図3を参照して説明する。
図2に示すように、本実施形態の基準電流源21は、図1に示した第1実施形態の基準電流源1に対し、抵抗4に代えて抵抗22を備えている点などが異なる。抵抗22は、2つの抵抗22a、22bの組み合わせ、具体的には2つの抵抗22a、22bが直列接続された直列回路から構成される。抵抗22aは、差電圧ΔVbeと同程度の温度特性を有する抵抗であり、具体的には、シリサイド化したポリ抵抗により構成されている。抵抗22bは、差電圧ΔVbeと同程度の温度特性を有する抵抗であり、具体的には、シリサイド化した拡散抵抗により構成されている。
【0040】
2つの抵抗22a、22bのうち一方である抵抗22aの温度係数β1は、0.28%/K程度の値であり、差電圧ΔVbeの温度係数αよりも小さい値である。言い換えると、抵抗22aは、差電圧ΔVbeの温度特性に対して負方向に大きい温度特性を有している。また、2つの抵抗22a、22bのうち他方である抵抗22bの温度係数β2は、0.335%/K程度の値であり、差電圧ΔVbeの温度係数αよりも大きい値である。言い換えると、抵抗22bは、差電圧ΔVbeの温度特性に対して正方向に大きい温度特性を有している。
【0041】
次に、上記構成の基準電流源21により生成される基準電流IREFの温度特性がキャンセルされる仕組みについて説明する。抵抗22の温度特性は、下記(7)式により表される。ただし、Rは抵抗22の抵抗値であり、R10は温度T0での抵抗22aの抵抗値であり、R20は温度T0での抵抗22bの抵抗値である。
【0042】
【数9】
【0043】
上記構成における基準電流IREFは、第1実施形態と同様、(4)式により表されるように、差電圧ΔVbeと抵抗4の抵抗値Rとにより定まる。そして、上記(7)式を踏まえると、基準電流IREFは、下記(8)式のように表すことができる。
【0044】
【数10】
【0045】
ここで、上記(8)式を、下記(9)式のように温度に依存する項を無くすように変形できるように抵抗22a、22bを選択すれば、基準電流IREFは、温度に依存して変動することがない電流となる。したがって、上記構成によれば、基準電流IREFの温度特性を精度良くキャンセルすることが可能となっている。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の基準電流源21では、差電圧ΔVbeを電流に変換する変換用抵抗である抵抗22が、差電圧ΔVbeと同程度の温度特性を有する2つの抵抗22a、22bの組み合わせから構成されている。この場合、抵抗22aは、差電圧ΔVbeの温度特性に対して負方向に大きい温度特性を有し、抵抗22bは、差電圧ΔVbeに対して正方向に大きい温度特性を有している。このような構成によれば、変換用抵抗を1つのシリサイド化した抵抗により構成する場合に比べて温度特性をキャンセルする効果を一層高めることができる。その理由は、以下の通りである。
【0047】
すなわち、変換用抵抗を1つのシリサイド化した抵抗により構成する場合、その1つのシリサイド化した抵抗の温度特性と差電圧ΔVbeの温度特性とが完全に一致していないと、それらのずれ分に応じた温度特性が基準電流IREFに現れることになる。例えば、変換用抵抗を1つのシリサイド化したポリ抵抗である抵抗22aにより構成した場合、図3に点線で示すように、基準電流IREFは、温度が高くなるにつれて大きくなるような正の温度特性を有するものとなる。
【0048】
また、例えば、変換用抵抗を1つのシリサイド化した拡散抵抗である抵抗22bにより構成した場合、図3に一点鎖線で示すように、基準電流IREFは、温度が高くなるにつれて小さくなるような負の温度特性を有するものとなる。これに対し、本実施形態のように、変換用抵抗である抵抗22を2つのシリサイド化した抵抗22a、22bの組み合わせから構成した場合、図3に実線で示すように、基準電流IREFは、温度に依存する変動がほとんど無いものとなり、変換用抵抗を1つの抵抗22aまたは22bにより構成する場合に現れるような温度特性をほぼ完全に相殺することができる。
【0049】
また、本実施形態では、変換用抵抗である抵抗22を2つの抵抗22a、22bの直列回路により構成している。このようにすれば、変換用抵抗である抵抗22を2つの抵抗22a、22bの並列回路により構成する場合に比べ、抵抗22の抵抗値を小さくすることができるというメリットがある。
【0050】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について図4を参照して説明する。
図4に示すように、本実施形態の基準電流源31は、図1に示した第1実施形態の基準電流源1に対し、アンプ5に代えてアンプ32を備えている点、カレントミラー回路6に代えてカレントミラー回路33を備えている点などが異なっている。
【0051】
アンプ32は、チョッピングの機能を有するチョッパーアンプとして構成されており、その動作クロックとしてクロック信号fcpが供給されている。アンプ32は、入力された信号の極性をクロック信号fcpにより交互に反転を行うことにより変調し、入力の信号帯域をクロック周波数帯域に変換している。アンプ32では、増幅された信号が再度クロック信号fcpにより極性を交互に反転することにより本来の入力の信号帯域に復調される。
【0052】
カレントミラー回路33は、カレントミラー回路6が備える構成に加え、3つのトランジスタQ31、Q32、Q33を備えている。トランジスタQ31~Q33は、いずれもPチャネル型のMOSトランジスタである。トランジスタQ31~Q33の各ゲートは、共通接続されている。トランジスタQ1のドレインは、トランジスタQ31のソース・ドレイン間を介してノードN1に接続されている。
【0053】
トランジスタQ2のドレインは、トランジスタQ32のソース・ドレイン間を介してノードN2に接続されている。トランジスタQ3のドレインは、トランジスタQ33のソース・ドレイン間を介して基準電流IREFの出力ノードであるノードNoに接続されている。このように、カレントミラー回路33は、カスコード接続された構成となっている。
【0054】
トランジスタのミスマッチなどの要因で引き起こされるオフセット成分は温度特性を有するため、上記オフセット成分が原因となって基準電流IREFの精度が低下するおそれがある。そこで、本実施形態の基準電流源31では、アンプ32としてチョッピングの機能を有するチョッパーアンプを用いるようにした。このような構成によれば、アンプ32が有するチョッピングの機能により上記オフセット成分が除去されることから、基準電流IREFの精度を一層向上させることができる。
【0055】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について図5を参照して説明する。
図5に示すように、本実施形態の基準電流源41は、図1に示した第1実施形態の基準電流源1に対し、カレントミラー回路6に代えて第3実施形態と同様のカレントミラー回路33を備えている点、ダイナミックエレメントマッチング回路42が追加されている点などが異なっている。なお、図5などの図面および以下の説明では、ダイナミックエレメントマッチングのことをDEMと省略することがある。
【0056】
DEM回路42は、複数のスイッチなどから構成されており、それらスイッチのオンオフを切り替えることによりカレントミラー回路33のばらつき成分を補正することができる。DEM回路42は、カレントミラー回路33において、トランジスタQ1~Q3のそれぞれとトランジスタQ31~Q33のそれぞれとの間に介在するように設けられている。なお、DEM回路42は、トランジスタQ31~Q33のそれぞれとノードN1、N2、Noのそれぞれとの間に介在するように設けることもできる。
【0057】
本実施形態の基準電流源41は、カレントミラー回路33のばらつき成分を補正するDEM回路42を備えている。このような構成によれば、DEM回路42によりカレントミラー回路33の各出力電流の一致度合いが高められることから、基準電流IREFの精度を一層向上させることができる。
【0058】
(第5実施形態)
以下、第5実施形態について図6を参照して説明する。
図6に示すように、本実施形態の基準電流源51は、図5に示した第4実施形態の基準電流源41に対し、アンプ5に代えて第3実施形態と同様のアンプ32を備えている点などが異なっている。このような構成によれば、アンプ32が有するチョッピングの機能によりオフセット成分が除去されるとともに、DEM回路42によりカレントミラー回路33の各出力電流の一致度合いが高められることから、基準電流IREFの精度をより一層向上させることができる。
【0059】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
変換用抵抗は、シリサイド化した抵抗である抵抗4に限らず、差電圧ΔVbeと同程度の温度特性を有する抵抗であればよく、例えば配線抵抗などであってもよい。
【0060】
第1実施形態などでは、互いに面積比が異なる第1半導体素子2および第2半導体素子3に互いに同等のコレクタ電流が流れるような構成となっていたが、これに代えて、互いに同じ面積比の第1半導体素子および第2半導体素子に互いに異なるコレクタ電流が流れるような構成とすることもできる。
【0061】
第1実施形態などでは、第1半導体素子2として1つのダイオード接続されたPNP形のバイポーラトランジスタからなるものを採用するとともに第2半導体素子3として複数のダイオード接続されたPNP形のバイポーラトランジスタを並列接続してなるものを採用していたが、これに代えて、次のような構成とすることもできる。すなわち、第1半導体素子2として1つのダイオード接続されたNPN形のバイポーラトランジスタからなるものを採用するとともに第2半導体素子3として複数のダイオード接続されたNPN形のバイポーラトランジスタを並列接続してなるものを採用することもできる。また、第1半導体素子として1つのダイオードからなるものを採用するとともに第2半導体素子として複数のダイオードを並列接続してなるものを採用することもできる。このようにする場合、変換用抵抗は、第1半導体素子および第2半導体素子の各順方向電圧の差である差電圧を電流に変換することになる。
【0062】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0063】
本開示は、特許請求の範囲に記載の発明に加え、以下のような発明を含む。
[1]
1つのダイオードまたは1つのダイオード接続されたバイポーラトランジスタからなる第1半導体素子(2)と、
複数のダイオードまたは複数のダイオード接続されたバイポーラトランジスタを並列接続してなる第2半導体素子(3)と、
前記第1半導体素子および前記第2半導体素子の各順方向電圧または各ベース・エミッタ間電圧の差である差電圧を電流に変換する変換用抵抗(4、22)と、
一方の入力端子とグランドとの間に前記第1半導体素子が接続されるとともに他方の入力端子とグランドとの間に前記変換用抵抗および前記第2半導体素子が直列接続されるアンプ(5、32)と、
前記アンプの出力により出力電流が制御されるカレントミラー回路(6、33)と、
を備え、
前記変換用抵抗により変換された電流に応じた電流を基準電流として出力し、
前記変換用抵抗は、前記差電圧と同程度の温度特性を有する抵抗である基準電流源。
[2]
前記変換用抵抗は、シリサイド化した抵抗により構成されている[1]に記載の基準電流源。
[3]
前記変換用抵抗(22)は、前記差電圧と同程度の温度特性を有する少なくとも2つの抵抗(22a、22b)の組み合わせからなり、
前記2つの抵抗のうち一方は、前記差電圧の温度特性に対して負方向に大きい温度特性を有し、
前記2つの抵抗のうち他方は、前記差電圧の温度特性に対して正方向に大きい温度特性を有している請求項[1]または[2]に記載の基準電流源。
[4]
前記アンプ(32)は、チョッピングの機能を有している請求項[1]から[3]のいずれか一項に記載の基準電流源。
[5]
さらに、
前記カレントミラー回路(33)のばらつき成分を補正するダイナミックエレメントマッチング回路(42)を備える[1]から[4]のいずれか一項に記載の基準電流源。
【符号の説明】
【0064】
1、21、31、41、51…基準電流源、2…第1半導体素子、3…第2半導体素子、4、22…抵抗、22a、22b…抵抗、5、32…アンプ、6、33…カレントミラー回路、42…ダイナミックエレメントマッチング回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6