(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108545
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20240805BHJP
B32B 37/02 20060101ALI20240805BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240805BHJP
C23C 18/20 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B37/02
B32B15/08
C23C18/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012972
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137554
【氏名又は名称】株式会社イオックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 太一
(72)【発明者】
【氏名】中辻 達也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 悠人
【テーマコード(参考)】
4F100
4K022
【Fターム(参考)】
4F100AB01
4F100AB01C
4F100AB17
4F100AB17C
4F100AK01
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4K022BA08
4K022CA11
4K022CA12
4K022CA16
4K022CA22
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】エッチングを行うことなく、導電性と基材との接着性が良好な金属めっき層を有する積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】積層体の製造方法は、基材上に、バインダ樹脂とパラジウム粒子とを含むプライマー組成物を塗布して、プライマー層を形成する工程、前記プライマー層の表面を処理して、前記パラジウム粒子の一部を表面に露出させる工程、前記パラジウム粒子が露出したプライマー層の表面に無電解めっきを施して、金属めっき層を形成する工程を含む。前記パラジウム粒子の一部を露出させる工程は、前記表面における前記パラジウム粒子の露出量が0.2原子%以上となり、且つ前記表面の任意の10点について測定したときの前記パラジウム粒子の露出量のバラツキが50%以下となるように行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、バインダ樹脂とパラジウム粒子とを含むプライマー組成物を塗布して、プライマー層を形成する工程と、
前記プライマー層の表面を処理して、前記パラジウム粒子の一部を前記プライマー層の表面に露出させる工程と、
前記パラジウム粒子が露出したプライマー層の表面に無電解めっきを施して、金属めっき層を形成する工程と、
を含み、
前記パラジウム粒子の一部を前記プライマー層の表面に露出させる工程は、
前記表面における前記パラジウム粒子の露出量が、前記表面を構成する全原子に対して0.2原子%以上となり、且つ前記表面の任意の10点について測定される前記パラジウム粒子の露出量のバラツキが50%以下となるように行う、
積層体の製造方法。
【請求項2】
前記パラジウム粒子の一部を前記プライマー層の表面に露出させる工程は、
前記表面の任意の10点について測定したときの前記パラジウム粒子の露出量のバラツキが40%未満となるように行う、
請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記処理は、アルカリ処理、プラズマアッシング処理、又は機械的研磨である、
請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂を含み、
前記プライマー組成物は、硬化剤をさらに含む、
請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記パラジウム粒子の含有量は、前記バインダ樹脂の含有量に対して0.5~7質量%である、
請求項1又は4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記硬化剤は、メラミン樹脂を含む、
請求項4に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記メラミン樹脂の含有量は、前記熱硬化性樹脂に対して25~55質量%である、
請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂は、フェノキシ樹脂を含む、
請求項6又は7に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材等の絶縁性基材に対して金属めっきを形成する技術は、電磁波シールの導電性フィルムや、意匠性を付与することを目的とした装飾めっき、集積回路、抵抗器等の電子部品を作製する際に利用されている。特に、電子機器に使用されるプリント配線板を作製する場合、絶縁性基材上に導電性配線パターンを形成する際に、金属めっきを形成する技術が利用される。
【0003】
その際、絶縁性基材と金属めっき層との間の密着性を高めるために、絶縁性基材の表面に微細な凹凸を形成するエッチング(粗化)を行うことが検討されている。しかしながら、このエッチングは、工程を煩雑にするだけでなく、5G向けの高周波対応デバイスにおいては、表皮効果により伝送損失が増大しやすいという問題がある。
【0004】
これに対し、エッチングを行わずに、絶縁性基材と金属めっき層とを密着させる方法が検討されている。例えば、特許文献1には、絶縁性基材上に、パラジウム粒子(無電解めっき触媒)、バインダ樹脂及び溶媒を含むプライマー層を形成した後、無電解めっきして、金属めっき層を形成する方法が知られている。
【0005】
特許文献2には、絶縁性基材上に、パラジウム粒子、バインダ樹脂及び溶媒を含むインキ組成物を塗布した後、硬化及びアルカリ処理して、無電解めっきを行う方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-209643号公報
【特許文献2】特開2016-104150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらのプライマー層は、バインダ樹脂と、パラジウム粒子とを含むプライマー組成物を塗布、乾燥及び硬化させて形成される。プライマー層に含まれるパラジウム粒子は、無電解めっき触媒として機能する。しかしながら、特許文献1のように、塗布形成したプライマー層のままでは、パラジウム粒子の大部分がプライマー層の内部に埋まっているため、パラジウム粒子と無電解めっき液との接触が十分ではなく、無電解めっき液の反応性が十分ではないことがあった。
【0008】
これに対し、特許文献2のように、プライマー層の表面をアルカリ処理することで、無電解めっきの反応性を高めることができるものの、例えばプライマー層の組成等によらず、無電解めっき液の反応性をより一層高めることができることが望まれている。それにより、得られる金属めっき層の導電性や基材との接着性をより一層高めることが望まれている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、エッチングを行うことなく、導電性と基材との接着性とが良好な金属めっき層を有する積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成により解決することができる。
【0011】
[1] 基材上に、バインダ樹脂とパラジウム粒子とを含むプライマー組成物を塗布して、プライマー層を形成する工程と、前記プライマー層の表面を処理して、前記パラジウム粒子の一部を前記プライマー層の表面に露出させる工程と、前記パラジウム粒子が露出したプライマー層の表面に無電解めっきを施して、金属めっき層を形成する工程と、を含み、前記パラジウム粒子の一部を前記プライマー層の表面に露出させる工程は、前記表面における前記パラジウム粒子の露出量が、前記表面を構成する全原子に対して0.2原子%以上となり、且つ前記表面の任意の10点について測定される前記パラジウム粒子の露出量のバラツキが50%以下となるように行う、積層体の製造方法。
[2] 前記パラジウム粒子の一部を前記プライマー層の表面に露出させる工程は、前記表面の任意の10点について測定したときの前記パラジウム粒子の露出量のバラツキが40%未満となるように行う、[1]に記載の積層体の製造方法。
[3] 前記処理は、アルカリ処理、プラズマアッシング処理、又は機械的研磨である、[1]又は[2]に記載の積層体の製造方法。
[4] 前記バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂を含み、前記プライマー組成物は、硬化剤をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[5] 前記パラジウム粒子の含有量は、前記バインダ樹脂の含有量に対して0.5~7質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[6] 前記硬化剤は、メラミン樹脂を含む、[4]又は[5]に記載の積層体の製造方法。
[7] 前記メラミン樹脂の含有量は、前記熱硬化性樹脂に対して25~55質量%である、[6]に記載の積層体の製造方法。
[8] 前記熱硬化性樹脂は、フェノキシ樹脂を含む、[6]又は[7]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エッチングを行うことなく、導電性と基材との接着性とが良好な金属めっき層を有する積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る積層体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.積層体の製造方法
図1は、本実施形態に係る積層体の製造方法を示すフローチャートである。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る積層体の製造方法は、1)基材上に、パラジウム粒子を含むプライマー層を形成する工程(ステップS1)と、2)当該プライマー層の表面を処理して、パラジウム粒子の一部をプライマー層の表面に露出させる工程(ステップS2)と、3)パラジウム粒子が露出したプライマー層の表面に無電解めっきを施して、金属めっき層を形成する工程(ステップS3)とを含む。
【0016】
1)の工程(ステップS1)について
基材上に、パラジウム粒子を含むプライマー層を形成する。プライマー層は、基材上に、パラジウム粒子を含むプライマー組成物を塗布して形成することができる。プライマー層は、基材の一方の面のみに形成してもよいし、一方の面と他方の面のそれぞれに形成してもよい。
【0017】
プライマー組成物は、バインダ樹脂と、パラジウム粒子とを含むものであれば特に制限されない。本実施形態では、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、パラジウム粒子とを含むプライマー組成物を使用する例で説明する。プライマー組成物については、後で詳細に説明する。
【0018】
基材の種類は、特に制限されないが、絶縁性基材であることが好ましい。絶縁性基材は、樹脂基材であってもよいし、セラミックスやガラス等の無機基材であってもよい。樹脂基材を構成する材料の例には、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド(例えばMPI)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、環状ポリオレフィン(COC)、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン、フェノール樹脂、液晶性ポリマー(LCP)、フッ素樹脂が含まれる。無機基材を構成するセラミックスの例には、アルミナが含まれる。
【0019】
中でも、積層体がプリント配線板、特に5G等の高周波対応のデバイスに使用されるプリント配線板である場合、絶縁性基材は、低誘電率の絶縁性基材(低誘電性基材)であることがより好ましい。低誘電性基材の材料の例には、ポリイミド(MPI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、環状ポリオレフィン(COC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶性ポリマー(LCP)、フッ素樹脂等の低誘電率の樹脂やガラスが含まれ、好ましくはポリフェニレンサルファイド(PPS)でありうる。
【0020】
基材の厚みは、特に制限されないが、例えば12.5~50μmでありうる。
【0021】
プライマー組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えばグラビア印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法、ディッピング法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、リバースコート法、スクリーン印刷法等により行うことができる。
【0022】
次いで、塗布したプライマー組成物を乾燥及び硬化させて、プライマー層を形成する。
【0023】
乾燥及び硬化は、加熱により行うことができる。加熱温度は、プライマー組成物の組成にもよるが、例えばプライマー組成物に含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤との反応を十分に進行させうる程度であればよく、例えば60~400℃、好ましくは80~150℃程度としうる。加熱時間は、加熱温度にもよるが、例えば0.1~60分程度、好ましくは10~30分程度としうる。
【0024】
本実施形態では、得られるプライマー層は、プライマー組成物の硬化物を含む。プライマー層の厚みは、金属めっき層と基材との接着強度を確保できる程度であればよく、金属めっき層の厚みよりも薄いことが好ましい。プライマー層の厚みは、例えば0.05~0.5μmでありうる。
【0025】
2)の工程(ステップS2)について
上記プライマー層の表面を処理して、プライマー層に含まれるパラジウム粒子の一部をプライマー層の表面に露出させる。
【0026】
上記の通り、プライマー層は、バインダ樹脂と、パラジウム粒子とを含むプライマー組成物を塗布、乾燥及び硬化させて形成される。そのため、プライマー層に含まれるパラジウム粒子の大部分は、プライマー層の内部に埋まっており、プライマー層の表面にはほとんど露出していない。そのため、形成されたプライマー層にそのまま無電解めっきを施しても、無電解めっき液がパラジウム粒子と十分には接触できず、無電解めっき液を十分には反応させることができないことがある。これに対し、プライマー層の表面を処理して、パラジウム粒子の一部を表面に露出させることにより、パラジウム粒子と無電解めっき液とを接触させやすくすることができる。
【0027】
一方で、本発明者らの検討によれば、プライマー層の表面に露出したパラジウム粒子の量が所定以上でないと、無電解めっき液との反応性が十分には向上せず、十分な導電性が得られにくい場合があることが明らかとなった。さらに、パラジウム粒子の露出量が所定以上であっても、露出したパラジウム粒子の分布のバラツキが大きいと、無電解めっきを均一に行うことができず、基材との十分な接着性が得られくい場合があることが明らかとなった。
このような傾向は、特に膜強度が高く、高温下での接着性(接着信頼性)が高いプライマー層、具体的には熱硬化性のプライマー組成物の硬化物を含むプライマー層において顕著であった。
【0028】
そこで、本発明では、プライマー層の表面のパラジウム粒子の露出量が、当該表面を構成する全原子に対して0.2原子%以上となり、且つ当該10点について測定したときのパラジウム粒子の露出量のバラツキが50%以下となるように、プライマー層の表面を処理する。パラジウム粒子の露出量が0.2原子%以上であると、無電解めっき液との反応性が高まるため、十分な導電性が得られる。さらに、表面の任意の10点について測定したときのパラジウム粒子の露出量のバラツキが50%以下であると、無電解めっきを均一に行うことができるため、基材との十分な密着性が得られやすい。なお、当該表面を構成する全原子とは、本実施形態では、例えばSi、S、C、Pd、N、O、F及びNaの総量(原子%)という。
【0029】
同様の観点から、パラジウム粒子の露出量は、プライマー層の表面を構成する全原子に対して0.5原子%以上であることが好ましく、1.0原子%以上であることがより好ましい。露出量の上限値は、特に制限されないが、基材との接着性をより確保する観点では、例えば10.0原子%以下であることが好ましく、2.1原子%以下であることがより好ましい。
さらに、表面の任意の10点について測定したときのパラジウム粒子の露出量のバラツキは、40%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましい。なお、パラジウム粒子の露出量のバラツキは小さいほど好ましく、露出量のバラツキの下限値は、0%でありうる。
【0030】
プライマー層の表面におけるパラジウム粒子の露出量や露出量のバラツキは、XPS分析により測定することができる。
具体的には、パラジウム粒子の露出量は、プライマー層の表面の100μm×100μmの領域について、XPS分析することにより測定することができる。測定は2回行い、それらの平均値としうる(n=2)。
パラジウム粒子の露出量のバラツキは、プライマー層の表面の10cm×10cmの範囲内から任意の10点についてXPS分析によりパラジウム粒子の露出量を測定する。そして、各点で測定される露出量とそれらの平均値を、下記式に当てはめて、露出量のバラツキ(%)を算出する。
露出量のバラツキ(%)=[(各点で測定される露出量と平均値との差(絶対値)の最大値)/平均値]×100
【0031】
プライマー層の表面におけるパラジウム粒子の露出量は、主に処理の種類や処理時間によって調整することができる。パラジウム粒子の露出量のバラツキは、主に処理の種類によって調整することができる。具体的には、処理として、プラズマアッシング処理を採用すると、パラジウム粒子の露出量は多くなりやすく、露出量のバラツキは少なくなりやすい。また、処理時間を長くすれば、露出量は多くなりやすい。
【0032】
処理の種類は、プライマー層に含まれるバインダ樹脂等の有機物を除去して、パラジウム粒子を表面に露出させうるものであればよく、アルカリ処理、プラズマアッシング処理、又は機械的研磨でありうる。
【0033】
アルカリ処理としては、プライマー層をアルカリ溶液と接触させることができる方法であればよく、プライマー層を形成した基材を浸漬してもよいし、プライマー層の表面にアルカリ溶液を吹き付け又は塗布してもよい。アルカリ溶液は、プライマー層に含まれる樹脂成分等を溶解除去できるものであればよい。アルカリ剤の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の無機アルカリ剤;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アルカリ剤が含まれる。
【0034】
プラズマアッシングに使用するガスの種類は、特に制限されず、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、アルゴンガス、フッ素系ガス(CF4、SF6)が挙げられる。中でも、酸素含有ガスを用いるプラズマアッシングが好ましく、酸素プラズマアッシングがより好ましい。酸素含有ガスは、必要に応じて窒素ガス、水素ガス等の他のガスをさらに含んでもよい。
【0035】
機械的研磨としては、CMP研磨(化学的機械研磨)等が挙げられる。
【0036】
3)の工程(ステップS3)について
次いで、上記プライマー層のパラジウム粒子が露出した表面に無電解めっきを施して、金属めっき層を形成する。具体的には、上記プライマー層のパラジウム粒子が露出した表面を無電解めっき液と接触させて、金属めっき層を形成する。
【0037】
無電解めっき液は、金属と、還元剤と、水及び/又は水溶性有機溶剤とを含みうる。金属の種類は、積層体の用途にもよるが、例えば銅、白金、金、銀、ニッケル、クロム、コバルト、スズからなる群より選ばれる一以上を含みうる。金属めっき層は、銅、白金、金、銀、ニッケルからなる群より選ばれる金属を含むことが好ましく、銅又はその合金を含むことがより好ましい。
【0038】
無電解めっきの条件は、無電解めっき液の組成に応じて設定されうる。例えば、無電解銅めっき浴の温度は、通常、25~45℃程度としうる。処理時間は、用途にもよるが、0.3~0.4μm程度の厚みの金属めっき層を形成する場合は、例えば10~20分程度としうる。
【0039】
金属めっき層の厚みは、積層体の用途にもよるが、例えばプリント配線板に用いられる場合、0.01~50μmであることが好ましく、0.1~10μmであることがより好ましく、0.1~2μmであることがさらに好ましい。
【0040】
金属めっき層は、パターン状に形成してもよい。パターン状に形成された金属めっき層は、例えばプリント配線板の配線パターンとして機能させることができる。
【0041】
他の工程
本実施形態に係る積層体の製造方法は、必要に応じて他の工程をさらに含んでもよい。例えば、2)の工程と3)の工程の間において、4)デスミア処理を行ってもよい。4)デスミア処理工程では、2)の工程で発生した削りカス等をアルカリ処理等で除去したり、水洗したりするウェットクリーニング処理でありうる。
【0042】
(作用)
上記実施形態によれば、上記2)の工程において、プライマー層に含まれるパラジウム粒子を所定量以上、均一に露出させる。それにより、上記3)の工程において、プライマー層の内部に埋まっているパラジウム粒子(C)だけでなく、プライマー層の表面に露出したパラジウム粒子(C)と無電解めっき液とを十分に接触させることができる。そのため、無電解めっきの反応性や当該反応の均一性を高めることができ、導電性及び基材との接着性に優れた金属めっき層を形成することができる。
【0043】
2.積層体
上記積層体の製造方法で製造される積層体は、基材と、プライマー層と、金属めっき層とを含む。
【0044】
プライマー層は、基材上に配置されている。プライマー層は、その内部に分散したパラジウム粒子(C)を含むだけでなく、表面に露出したパラジウム粒子(C)も含む。
【0045】
金属めっき層は、プライマー層のパラジウム粒子(C)の一部が露出した面と接して配置されている。それにより、金属めっき層は、プライマー層を介して基材と良好に接着している。
【0046】
上記積層体は、任意の用途、例えば電子回路、集積回路等に使用される回路形成用基板、有機EL素子、有機トランジスタ、フレキシブルプリント基板、RFID、タッチパネル等に使用される透明電極、電磁波シールド材に用いることができる。中でも、高温下での耐久性が求められる用途に好適に用いることができ、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)、テープ自動ボンディング(TAB)、チップオンフィルム(COF)、プリント配線板(PWB)等の一般に銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)といわれる用途に用いることが可能である。
【0047】
以下、上記積層体の製造方法に用いられるプライマー組成物について説明する。
【0048】
3.プライマー組成物
上記積層体の製造方法に用いられるプライマー組成物は、バインダ樹脂と、パラジウム粒子とを含む。
【0049】
バインダ樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。特に、膜強度が高く、高温下での接着信頼性の高いプライマー層を形成する観点では、バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0050】
即ち、上記積層体の製造方法に用いられるプライマー組成物は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、パラジウム粒子(C)とを含むことが好ましい。
【0051】
3-1.熱硬化性樹脂(A)
熱硬化性樹脂(A)の種類は、特に制限されず、フェノキシ樹脂やエポキシ樹脂が含まれる。中でも、膜強度が高く、接着信頼性が高いプライマー層を得やすい観点から、熱硬化性樹脂(A)は、フェノキシ樹脂(A-1)を含むことが好ましく、接着性をより高める観点から、エポキシ樹脂(A-2)をさらに含むことがより好ましい。
【0052】
3-1-1.フェノキシ樹脂(A-1)
フェノキシ樹脂(A-1)は、多官能フェノール類と多官能グリシジルエーテル(好ましくはビスフェノール類とエピクロルヒドリン)を重付加反応させて得られるポリヒドロキシポリエーテル構造を有する高分子である。
【0053】
フェノキシ樹脂(A-1)の重量平均分子量(Mw)は、20000~100000であることが好ましく、30000~80000であることがより好ましい。フェノキシ樹脂(A-1)のMwが高いほど、得られるプライマー層の膜強度がより高まりやすい。フェノキシ樹脂(A-1)のMwが上限値以下であると、プライマー組成物の粘度が増大し過ぎず、取り扱い性が損なわれにくい。フェノキシ樹脂(A-1)のMwは、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を行い、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0054】
フェノキシ樹脂(A-1)の第二級水酸基当量は、特に制限されないが、240g/eq以上であることが好ましく、250~290g/eqであることがより好ましい。フェノキシ樹脂(A-1)の第二級水酸基当量が上記範囲内であると、水酸基を多く含むため、メラミン樹脂(B-1)との反応性や基材との接着性をより高めやすい。なお、フェノキシ樹脂(A-1)は、分子中にエポキシ基を有してもよい。
【0055】
フェノキシ樹脂(A-1)としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型の共重合体型フェノキシ樹脂(ビスフェノールAF型フェノキシ樹脂)、ビスフェノールE型フェノキシ樹脂、ナフタレン型フェノキシ樹脂、ノボラック型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、シクロペンタジエン型フェノキシ樹脂等が挙げられる。市販品の例には、jER4250(三菱ケミカル社製、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂混合タイプ、エポキシ当量7500~8900g/eq)等が挙げられる。
【0056】
フェノキシ樹脂(A-1)は、分子中に水酸基を多く含むため、メラミン樹脂(B-1)と良好に反応しうる。それにより、得られるプライマー層は、より高い膜強度や接着信頼性を有しうる。
【0057】
フェノキシ樹脂(A-1)の含有量は、プライマー組成物の不揮発成分に対して20~65質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましい。フェノキシ樹脂(A-1)の含有量が多いほど、メラミン樹脂(B-1)と硬化反応しやすいため、得られるプライマー層は、より高い膜強度や接着信頼性を有しうる。本明細書において、不揮発成分とは、溶媒以外の組成物を構成する成分をいう。
【0058】
3-1-2.エポキシ樹脂(A-2)
エポキシ樹脂(A-2)は、上記フェノキシ樹脂(A-1)以外の、エポキシ基を有する樹脂である。エポキシ樹脂(A-2)は、分子中に2個以上のエポキシ基を有する2官能のエポキシ樹脂を含むことが好ましく、分子中に3個以上のエポキシ基を有する多官能のエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。分子中に3個以上のエポキシ基を有する多官能のエポキシ樹脂は、例えばレゾールフェノール樹脂(B-2)との反応点が多いため、エポキシ基の開環により生成する水酸基も多く、接着性を特に高めやすい。
【0059】
エポキシ樹脂(A-2)の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂等の芳香環を有するエポキシ樹脂(芳香族エポキシ樹脂);シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂等の脂環式エポキシ樹脂;トリメチロール型エポキシ樹脂等の脂肪族エポキシ樹脂が含まれる。
【0060】
中でも、接着信頼性をより高めやすくする観点では、芳香族エポキシ樹脂が好ましい。例えば、分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能の芳香族エポキシ樹脂としては、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が含まれる。市販品の例には、「jER1031S」(テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂)、「157S70」(ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂)が挙げられる。
【0061】
エポキシ樹脂(A-2)は、液状のエポキシ樹脂であっても、固体状のエポキシ樹脂であってもよい。膜強度を高めやすくする観点では、固体状のエポキシ樹脂が好ましい。液状とは、20℃で液状であることを意味し、固体状とは、20℃で固体状であることを意味する。
【0062】
エポキシ樹脂(A-2)のエポキシ当量は、特に制限されないが、5000g/eq未満であることが好ましい。一方、フェノキシ樹脂(A-1)のエポキシ当量は、5000g/eq以上であることが好ましい。このように、フェノキシ樹脂(A-1)も、エポキシ樹脂(A-2)と同様に、分子中にエポキシ基を有し得るが、本明細書では、これらをエポキシ当量で区別することができる。エポキシ樹脂(A-2)のエポキシ当量は、反応性の観点では、100~1000g/eqであることが好ましく、140~300g/eqであることがより好ましい。
【0063】
エポキシ樹脂(A-2)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、1000以下であることが好ましい。エポキシ樹脂(A-2)のMwは、上記と同様の方法で測定されうる。
【0064】
熱硬化性樹脂(A)は、プライマー組成物の不揮発成分に対して50~70質量%であることが好ましく、55~60質量%であることがより好ましい。
【0065】
3-2.硬化剤(B)
硬化剤(B)の種類は、熱硬化性樹脂(A)を硬化させるものであれば特に制限されない。硬化剤(B)の例には、メラミン樹脂等の縮合型の硬化剤、レゾールフェノール樹脂等の重付加型の硬化剤が含まれる。中でも、膜強度が高く、接着信頼性がより高いプライマー層を得る観点では、硬化剤(B)は、メラミン樹脂(B-1)を含むことが好ましく、レゾールフェノール樹脂(B-2)をさらに含むことがより好ましい。
【0066】
3-2-1.メラミン樹脂(B-1)
メラミン樹脂(B-1)は、フェノキシ樹脂(A-1)に含まれる水酸基と反応して、フェノキシ樹脂(A-1)を硬化させる硬化剤として機能しうる。
【0067】
そのようなメラミン樹脂(B-1)は、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的若しくは完全にエーテル化した化合物又はこれらの混合物でありうる。メラミン樹脂(B-1)は、単量体、2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれであってもよい。
【0068】
メラミン樹脂(B-1)の例には、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂が含まれ、好ましくはメチロール化メラミン樹脂である。メラミン樹脂(B-1)の市販品の例には、三和ケミカル社製のニカラックMW-100LM、ニカラックMW-30、ニカラックMW-30M、ニカラックMW-22、ニカラックMW-22A、ニカラックMS-11、ニカラックMX-750;三井サイアナミッド社製のサイメル300、サイメル301、サイメル350;三井化学社製U-VAN 703等が含まれる。
【0069】
メラミン樹脂(B-1)は、メラミン樹脂(B-1)の自己縮合に加え、フェノキシ樹脂(A-1)に含まれる水酸基とメラミン樹脂(B-1)との反応(硬化反応)が進行しやすいため、プライマー組成物の硬化物の膜強度がより向上しやすい。
【0070】
メラミン樹脂(B-1)の含有量は、熱硬化性樹脂(A)に対して25~55質量%であることが好ましく、35~45質量%であることがより好ましい。メラミン樹脂(B-1)の含有量が多いほど、プライマー組成物の硬化物の架橋密度がより高くなり、プライマー層の膜強度がより高くなりやすい。一方で、そのようなプライマー層ほど、パラジウム粒子が熱硬化性樹脂(A)や硬化剤(B)で覆われやすく、プライマー層の表面に露出しにくい。そのような場合に、本発明の積層体の製造方法が特に有効である。
【0071】
また、メラミン樹脂(B-1)の含有量は、フェノキシ樹脂(A-1)100質量部に対して25~65質量部であることが好ましい。メラミン樹脂(B-1)の含有量がフェノキシ樹脂(A-1)100質量部に対して25質量部以上であると、フェノキシ樹脂(A-1)とメラミン樹脂(B-1)とをより多く硬化反応させやすく、得られるプライマー層の膜強度をより高めやすい。同様の観点から、メラミン樹脂(B-1)の含有量は、フェノキシ樹脂(A-1)100質量部に対して30~60質量部であることが好ましく、35~55質量部であることがより好ましい。
【0072】
3-2-2.レゾールフェノール樹脂(B-2)
レゾールフェノール樹脂(B-2)は、エポキシ樹脂(A-2)の重付加型エポキシ樹脂硬化剤として機能しうる。即ち、レゾールフェノール樹脂(B-2)が有するフェノール性OHとメチロール基の少なくとも一方が、エポキシ樹脂(A-2)のエポキシ基と付加反応しうる。それにより、接着信頼性の良好なプライマー組成物を付与しうる。
【0073】
レゾールフェノール樹脂(B-2)としては、フェノール型、クレゾール型、アルキル型、ビスフェノールA型又はこれらの共重合体が挙げられる。レゾールフェノール樹脂(B-2)の市販品としては、フェノライトTD-447(DIC社製、クレゾール型)等が挙げられる。
【0074】
エポキシ樹脂(A-2)とレゾールフェノール樹脂(B-2)の合計量は、フェノキシ樹脂(A-1)100質量部に対して25~85質量部であることが好ましく、30~80質量部であることがより好ましい。上記合計量が多いほど、金属めっき層の基材に対する接着性をより高めやすい。
【0075】
レゾールフェノール樹脂(B-2)の含有量は、エポキシ樹脂(A-2)とレゾールフェノール樹脂(B-2)の合計に対して40~60質量%であることが好ましい。レゾールフェノール樹脂(B-2)の含有量が上記範囲内であると、エポキシ樹脂(A-2)の硬化反応や、エポキシ樹脂(A-2)とフェノキシ樹脂(A-1)との反応をより生じさせやすく、硬化物の接着強度や接着信頼性がより高まりやすい。
【0076】
3-3.パラジウム粒子(C)
パラジウム粒子(C)は、無電解めっきの核剤として機能しうる。パラジウム粒子(C)は、分散剤で分散されていてもよい。
【0077】
パラジウム粒子(C)の平均粒子径は、例えば2~10nmでありうる。パラジウム粒子(C)の平均粒子径は、任意の10個の粒子径を透過型電子顕微鏡で測定し、それらの個数平均をとることにより(個数基準平均径として)算出することができる。
【0078】
パラジウム粒子(C)の含有量は、熱硬化性樹脂(A)(バインダ樹脂)に対して0.5~7質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。パラジウム粒子(C)の含有量が0.5質量%以上であると、パラジウム粒子(C)と無電解めっき液との反応性がより高まりやすく、プライマー層と金属めっき層との接着性をより高めやすい。パラジウム粒子(C)の含有量が7質量%以下であると、熱硬化性樹脂(A)の含有量が少なくなりすぎないため、プライマー層と基材との接着性が損なわれにくい。
【0079】
3-4.他の成分
3-4-1.溶媒(D)
プライマー組成物は、パラジウム粒子(C)を分散させる溶媒(D)(分散媒)をさらに含んでもよい。溶媒は、パラジウム粒子(C)やその分散体を分散可能なものが好ましく、例えば水や非プロトン性極性溶媒でありうる。
【0080】
非プロトン性極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン等が含まれる。
【0081】
その他、メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類を含有してもよい。
【0082】
3-4-2.シリカ粒子(E)
シリカ粒子(E)は、主としてパラジウム粒子(C)の安定性を高める機能を有し得る。シリカ粒子(E)として、未処理のシリカ粒子の他、親水性シリカ粒子、疎水性シリカ粒子を用いることができる。シリカ粒子の形状は、限定されず、球状シリカであっても、破砕シリカであってもよい。
【0083】
中でも、シリカ粒子は、シリカ粒子同士の凝集を抑制しやすく、パラジウム粒子(C)の分散安定性を一層高めやすくする観点から、疎水性シリカ粒子が好適である。疎水性シリカ粒子は、シリカ粒子をシランカップリング剤やシリコーンオイル等で表面処理することにより得られる。
【0084】
シリカ粒子(E)の平均粒子径は、10~100nmであることが好ましく、10~50nmであることがより好ましい。平均粒子径は、動的光散乱法の測定機器を用いてキュムラント法により測定することができる。また、上記と同様に、透過型電子顕微鏡により測定し、個数基準平均径として算出することもできる。
【0085】
シリカ粒子(E)の含有量は、特に限定されないが、例えばプライマー組成物の不揮発成分に対して1~30質量%としうる。それにより、パラジウム粒子(C)の安定性を一層高めうる。
【0086】
なお、上記実施形態では、金属めっき層を有する積層体を製造する方法を示したが、これに限らず。金属めっき層を形成する前のもの、例えば基材と、パラジウム粒子が露出したプライマー層とを有するプライマー層付き基材を製造してもよい。
【実施例0087】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0088】
1.プライマー組成物の材料
(1)熱硬化性樹脂(A)
・フェノール樹脂(A-1):jER4250(三菱ケミカル社製、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂混合タイプ、第二級水酸基当量:270g/eq、エポキシ当量7500~8900g/eq、Mw:6万)
・エポキシ樹脂(A-2):jER1031S(三菱ケミカル社製、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量200g/eq、Mw:800、固体)
【0089】
(2)硬化剤(B)
・メラミン樹脂(B-1):三井化学社製、U-VAN 703
・レゾールフェノール樹脂(B-2):DIC社製、フェノライトTD-447(クレゾール変性タイプ)
【0090】
(3)パラジウム粒子(C)
・Pdナノパウダー(イオックス社製ML-001N、平均粒子径5nm)
【0091】
(4)シリカ粒子(E)(触媒安定剤)
・PMA-ST(日産化学社製、シリカ粒子、平均粒子径12nm)
【0092】
2.積層体の作製及び評価
[実施例1]
(1)プライマー組成物の調製
フェノール樹脂(A-1)を100質量部と、エポキシ樹脂(A-2)を25質量部と、メラミン樹脂(B-1)を50質量部と、レゾールフェノール樹脂(B-2)を25質量部と、パラジウム粒子(C)を4質量部と、シリカ粒子(E)を10質量部と、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン及びN-メチル-2-ピロリドンからなる溶剤を合計3140質量部と、を混合して、固形分濃度10質量%のプライマー組成物を調製した。
【0093】
(2)プライマー層の形成
絶縁性基材として、厚み50μmのポリイミドフィルムを準備した。このフィルムの片面に、上記プライマー組成物を、バーコーターを用いて塗布し、乾燥用オーブン内で150℃、5分間乾燥させた後、さらに150℃、30分間加熱して硬化させて、厚み0.5μmのプライマー層を形成した。
【0094】
(3)プライマー層の表面の処理
次いで、上記プライマー層の表面に、プラズマアッッシング装置により、酸素ガスとフッ素系ガス(CF4、SF6等)とを含む酸素含有ガスを用いてプラズマアッシングを行った。
【0095】
(4)パラジウム粒子の露出量とそのバラツキの測定
プライマー層の表面のパラジウム粒子の露出量とそのバラツキを、以下の方法で測定した。
【0096】
(露出量とバラツキ)
プライマー層の表面におけるパラジウム粒子の露出量とそのバラツキは、XPS分析により測定した。
具体的には、パラジウム粒子の露出量は、プライマー層の表面の10μm×10μmの測定領域について、XPS分析することにより測定した。測定は2回行い、それらの平均値を露出量とした(n=2)。
パラジウム粒子の露出量のバラツキは、プライマー層の表面の10cm×10cmの範囲内から任意の10点についてXPS分析によりパラジウム粒子の露出量を測定した。そして、各点で測定された露出量とそれらの平均値とを、下記式に当てはめて、露出量のバラツキ(%)を算出した。
露出量のバラツキ(%)=[(各点で測定される露出量と平均値との差(絶対値)の最大値)/平均値]×100
【0097】
(5)金属めっき層の形成
上記処理を施したプライマー層を形成したフィルムを、無電解めっき浴に浸漬させて、無電解めっきを行った。無電解銅めっき浴は、上村工業社製スルカップPSY(Cu濃度2~3g/L)を用いた。また、無電解めっきは、35℃で10分間行い、めっき層の厚みが0.2μmとなるように行った。それにより、積層体を得た。
【0098】
[実施例2~3、比較例4]
プラズマアッシングの処理時間を変更した以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。処理時間は、実施例3、実施例2、実施例1、比較例4の順に短くした。
【0099】
[実施例4~5、比較例2~3]
プラズマアッシング処理に代えて、以下の条件でアルカリ処理を行った以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。処理時間は、実施例4、実施例5、比較例3および比較例2の順に短くした。
<処理条件>
アルカリ溶液:NaOH水溶液(10質量%)
処理温度:35℃
【0100】
[比較例1]
プライマー層表面の処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0101】
[評価]
積層体の作製工程における、無電解めっき液の反応性、無電解めっきの均一性、シート抵抗及び接着性を、以下の方法で評価した。
【0102】
(1)無電解めっき液の反応性
無電解めっきした時の、金属めっき層が析出するまでの時間を測定し、以下の基準に基づいて、無電解めっき液の反応性を評価した。金属めっき層が析出したかどうかは、目視により判断した。
◎:1分以内に析出確認
○:1分超2分以内に析出確認
△:2分超3分以内に析出確認
×:3分超5分以上析出無し
△以上であれば良好と判断した。
【0103】
(2)無電解めっきの均一性
A4サイズのプライマー層上に、中心部と端部に同時に無電解めっきを施し、めっきが析出しているかどうかを目視で確認した。そして、以下の基準に基づいて、無電解めっきの均一性を評価した。
◎:中心部と端部に同時に金属めっき層が析出しており、均一である
〇:中心部と端部にほぼ同時に金属めっき層が析出しており、均一である
△:面内に析出不足部が少しみられるが、問題ないレベル
×:面内に未析出部があり、析出が均一ではない
△以上であれば良好と判断した。
【0104】
(3)シート抵抗
得られた金属めっき層の表面のシート抵抗値を、表面抵抗計により測定した。
シート抵抗値が低いほど、導電性は良好であることを意味する。
【0105】
(4)接着性
得られた積層体における金属めっき層の接着性を、90°剥離試験にて測定した。具体的には、室温下で、剥離速度25mm/分の条件で測定した。そして、接着強度が5N/cm以上であれば良好と判断した。
【0106】
実施例1~5及び比較例1~4の評価結果を、表1に示す。
【0107】
【0108】
表1に示されるように、プライマー層表面のパラジウム粒子の露出量が0.2原子%よりも少ないと、無電解めっき反応性が低く、シート抵抗値が低いことがわかる(比較例1、2及び4)。一方、プライマー層表面のパラジウム粒子の露出量が0.2原子%以上であっても、露出量のバラツキが50%よりも多いと、無電解めっきの均一性が低く、十分な接着性が得られないことがわかる(比較例3)。
【0109】
これに対し、プライマー層表面のパラジウム粒子の露出量が0.2原子%以上であり、且つプライマー層表面の露出量のバラツキが50%以下であると、無電解めっき液の反応性、無電解めっきの均一性が高く、シート抵抗値と接着性のいずれも良好であることがわかる(実施例1~5)。
【0110】
特に、プライマー層表面のパラジウム粒子の露出量のバラツキが40%未満、好ましくは20%未満であると、無電解めっき液の反応性、無電解めっきの均一性がより高くなり、シート抵抗値と接着性のいずれも一層高まることがわかる(実施例1~3と実施例4~5との対比)。
本発明によれば、エッチングを行うことなく、導電性と基材との接着性が良好な金属めっき層を有する積層体の製造方法を提供することができる。そのため、プリント配線板、特に5G等の高周波対応のデバイスに使用されるプリント配線板を得るための積層体に好適である。