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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108548
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ロータの構造
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240805BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20240805BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K21/14 M
H02K19/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012975
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板坂 直樹
【テーマコード(参考)】
5H619
5H621
5H622
【Fターム(参考)】
5H619AA01
5H619BB01
5H619BB24
5H619PP02
5H619PP08
5H621GA17
5H621HH01
5H622AA03
5H622CB02
5H622CB03
(57)【要約】
【課題】磁力可変モータのマグネットトルクおよびリラクタンストルクの双方を有効活用できるようにする。
【解決手段】磁力の変更が可能なロータ30の構造である。ロータコア32に配置された複数の磁極部33を備える。磁極部33の各々は磁力固定磁石40と磁力可変磁石50とを含む。これらの間の部分に空隙部62が配置されている。磁力可変磁石50と空隙部62との周方向の間隔Dが、対向面30aに近づくに従って大きくなるとともに、空隙部62の周方向の幅Waが、径方向を磁力固定磁石40の側から離れるに従って小さくなるように、空隙部62が形成されている。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータを構成する、磁力の変更が可能なロータの構造であって、
ステータと所定のギャップを介して対向するロータコアと、
対向面に沿って周方向に交互に並ぶように前記ロータコアに配置された複数の磁極部と、
を備え、
前記磁極部の各々は、
磁力が径方向に向くように前記ロータコアに配置される磁力固定磁石と、
磁力が周方向に向くように、前記ロータコアにおける前記磁力固定磁石よりも前記対向面の側の部分の当該磁力固定磁石の周方向に隣接した位置に配置される磁力可変磁石と、
を含み、
回転軸方向から見た前記ロータコアにおける前記磁力固定磁石と前記磁力可変磁石との間の部分に、当該磁力固定磁石の端部から前記対向面に向かって延びる断面を有する空隙部が配置されていて、前記磁力可変磁石と前記空隙部との周方向の間隔が、前記対向面に近づくに従って大きくなるとともに、前記空隙部の周方向の幅が、径方向を前記磁力固定磁石の側から離れるに従って小さくなるように前記空隙部が形成されているロータの構造。
【請求項2】
請求項1に記載のロータの構造において、
前記ロータコアにおける前記磁力固定磁石と前記対向面との間の部分に、前記空隙部に端部を近接した状態で、前記磁力固定磁石の磁力を増強する補助磁力固定磁石が配置されているロータの構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロータの構造において、
前記空隙部が、前記磁力固定磁石の端部から前記対向面に向かって先細りした径側延出部と、当該径側延出部の基端部から前記磁力可変磁石に向かって先細りした周側延出部と、を有し、
前記磁力可変磁石が、前記空隙部から離れて配置された第1磁力可変磁石と、当該第1磁力可変磁石に隣接した状態で前記周側延出部の先端部分から前記対向面に向かって延びるように配置された第2磁力可変磁石と、を含むロータの構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、自動車の駆動に好適な駆動モータを構成するロータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車や電気自動車など、自動車の電動化が進んでいる。自動車に搭載される駆動モータは、低速での運転時には低回転ではあるが高トルクな出力が要求されるし、高速での運転時には低トルクではあるが高回転な出力が要求される。そのような広い範囲で、駆動モータは安定した出力が要求される。
【0003】
この種の駆動モータには永久磁石同期モータが広く用いられており、高トルクを出力するために、そのロータには、磁力が強力な永久磁石が組み付けられている。そして、車載の駆動モータは、バッテリを電源とし、インバータでその電流を制御することによって駆動する。そのため、バッテリの電圧やインバータの容量を超える電流は駆動モータに供給できない。
【0004】
回転数の上昇に伴って逆起電力も増加するが、電流量が限られるので、駆動モータが出力できる回転数は制限を受ける。そのため、駆動モータの制御において、ステータに所定の電流を流すことにより鎖交磁束を弱める弱め磁界制御(弱め磁束制御)が一般に行われている。弱め磁界制御により、制限を超える高回転が出力可能になるが、銅損、鉄損が増加する。
【0005】
それに対し、最近では、保磁力の小さい永久磁石を用いることにより、ロータの磁力を変更できるようにした駆動モータ(以下、磁力可変モータともいう)が注目されている。ロータの磁力を駆動状態に応じて可変できれば、逆起電力の低減とともに、駆動モータの高出力化、高効率化などが実現できるようになるので、自動車の燃費、電費を向上できる。
【0006】
例えば、特許文献1には、磁力が変わらない永久磁石(磁力固定磁石)とともに、磁力の変更が可能な永久磁石(磁力可変磁石)をロータに組み付けた磁力可変モータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-27700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車の駆動モータを磁力可変モータにした場合、自動車の運転中にロータの磁力が変化する。それにより、ロータの磁力が変わらない従来の駆動モータよりも、ロータの磁力を増加させる場面、ロータの磁力を減少させる場面など、モータ性能に影響する運転場面が増加する。
【0009】
従って、磁力可変モータを効果的に活用するためには、ロータの構造を、そのような多様な運転場面の各々に対して最適化する必要がある。その点、引用文献1の磁力可変モータは改善の余地がある。
【0010】
例えば、引用文献1の磁力可変モータの場合、リラクタンストルクが十分に活用できていない不利がある。
【0011】
すなわち、ロータの中心から放射状に各磁極中心を通って延びるd軸は、磁力固定磁石の周方向に長い磁極面とその幅中央部位で直交するだけでなく、磁力固定磁石の両側にも、別の磁力固定磁石が近接している。そして、ロータの中心から放射状に各磁極間中心を通って延びるq軸は、径方向に長い磁力可変磁石の端面とその幅中央部位で直交するだけでなく、その径方向内側には大きな空隙(フラックスバリア11)が存在している。
【0012】
磁気抵抗は、透磁率の高いコアに比べて磁石および空隙の方が圧倒的に高い。従って、引用文献1の磁力可変モータでは、ロータにおけるd軸およびq軸のいずれの部分においても磁束は通り難い。それにより、大きな突極差(Lq-Ld)が得られないので、引用文献1の磁力可変モータでは、リラクタンストルクを有効に活用できていない。
【0013】
開示する技術は、磁力可変モータの様々な運転場面に対して効果的に対応できるロータの構造の実現を目指すものであり、特に、マグネットトルクおよびリラクタンストルクの双方の有効活用が可能になる技術について開示する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
開示する技術は、駆動モータを構成する、磁力の変更が可能なロータの構造に関する。
【0015】
前記ロータは、ステータと所定のギャップを介して対向するロータコアと、対向面に沿って周方向に交互に並ぶように前記ロータコアに配置された複数の磁極部と、を備える。前記磁極部の各々は、磁力が径方向に向くように前記ロータコアに配置される磁力固定磁石と、磁力が周方向に向くように、前記ロータコアにおける前記磁力固定磁石よりも前記対向面の側の部分の当該磁力固定磁石の周方向に隣接した位置に配置される磁力可変磁石と、を含む。
【0016】
そして、回転軸方向から見た前記ロータコアにおける前記磁力固定磁石と前記磁力可変磁石との間の部分に、当該磁力固定磁石の端部から前記対向面に向かって延びる断面を有する空隙部が配置されていて、前記磁力可変磁石と前記空隙部との周方向の間隔が、前記対向面に近づくに従って大きくなるとともに、前記空隙部の周方向の幅が、径方向を前記磁力固定磁石の側から離れるに従って小さくなるように前記空隙部が形成されている。
【0017】
すなわち、このロータの構造によれば、各磁極部に磁力固定磁石、つまり磁力が一定で変化しない磁石と、磁力可変磁石、つまり磁力の変更が可能な磁石とが配置されている。従って、磁力可変磁石を増磁または減磁することにより、各磁極部で得られる総磁力を所定の範囲で大小に変更できる。
【0018】
そして、回転軸方向から見た場合に、磁力可変磁石は、ロータコアにおける磁力固定磁石よりも対向面の側の部分の磁力固定磁石の周方向に隣接した位置に配置されている。それにより、磁力可変磁石は、ステータからの磁界の作用を受け易く、周方向に着磁され易い。
【0019】
そして、ロータコアにおけるこれら磁石の間の部分に、磁力固定磁石の端部から対向面に向かって延びる断面を有する空隙部が配置されている。すなわち、磁力固定磁石の磁極面と磁力可変磁石の磁極面との間は、空隙部によって遮断されている。それにより、磁力固定磁石から出る磁束と磁力可変磁石から出る磁束とが互いに干渉するのを抑制でき、双方の磁力を効果的に活用できる。
【0020】
そして、磁力可変磁石と空隙部との周方向の間隔は、対向面に近づくに従って大きくなるとともに、空隙部の周方向の幅が、径方向を磁力固定磁石の側から離れるに従って小さくなるように空隙部が形成されている。すなわち、空隙部の軸方向断面は、径方向外側に向かうに従って、磁力可変磁石から離れるように先細りした形状に形成されている。それにより、磁力可変磁石から出る磁束は、空隙部によって径方向外側に向かうように誘導され、磁力固定磁石から出る磁束と反発することなく円滑に合流する。従って、マグネットトルクを効果的に活用できる。
【0021】
上述したように、突極差(Lq-Ld)が大きいほど、リラクタンストルクは大きくなる。すなわち、Lqが大きい(q軸を中心としてステータの側からロータに流れるq軸磁束が流れ易い)ほど、そして、Ldが小さい(d軸を中心としてステータの側からロータに流れるd軸磁束が流れ難い)ほど、リラクタンスは大きくなる。
【0022】
それに対し、空隙部は、径方向外側に向かって先細りしているので、その径方向外側に向かうほど、磁気抵抗は小さくなる。そのため、空隙部であっても、その径方向外側は比較的磁束が流れ易い。従って、d軸周辺を流れるd軸磁束およびq軸周辺を流れるq軸磁束は、空隙部の径方向外側を通って流れ得る。
【0023】
しかし、そのd軸磁束は、空隙部の周方向幅が大きくなる方向に向かううえに、その下流側には磁力可変磁石が位置しているので、流れ難い。それに対し、そのq軸磁束は、空隙部の周方向幅が大きくならない方向に向かううえに、その下流側にはロータコアによる磁路が存在するので、流れ易い。
【0024】
従って、このロータの構造によれば、d軸磁束は流れ難い一方で、q軸磁束は流れ易くなっている。突極差が大きいことから、大きなリラクタンストルクを得ることができる。従って、マグネットトルクに加え、リラクタンストルクについても効果的に活用できる。
【0025】
前記ロータコアにおける前記磁力固定磁石と前記対向面との間の部分に、前記空隙部に端部を近接した状態で、前記磁力固定磁石の磁力を増強する補助磁力固定磁石が配置されている、としてもよい。
【0026】
そうすれば、マグネットトルクをより増強できる。そして、d軸近傍のd軸磁束は、磁気抵抗が大きい補助磁力固定磁石と正対するので、補助磁力固定磁石を迂回して流れる必要があり、よりいっそう流れ難くなる。その一方で、q軸磁束は、補助磁力固定磁石の斜め側方から空隙部と補助磁力固定磁石との間の部分に向かうので、流れ易い。従って、突極差も更に大きくなり、リラクタンストルクも大きくできる。
【0027】
前記空隙部が、前記磁力固定磁石の端部から前記対向面に向かって先細りした径側延出部と、当該径側延出部の基端部から前記磁力可変磁石に向かって先細りした周側延出部と、を有し、前記磁力可変磁石が、前記空隙部から離れて配置された第1磁力可変磁石と、当該第1磁力可変磁石に隣接した状態で前記周側延出部の先端部分から前記対向面に向かって延びるように配置された第2磁力可変磁石と、を含む、としてもよい。
【0028】
そうすれば、第2磁力可変磁石と周側延出部の先端部分との間の磁路は遮断されるので、第2磁力可変磁石の磁極面から出る磁力可変磁石の磁束は、漏れること無く、空隙部によって径方向外側に向かうように誘導される。従って、マグネットトルクを大きくできる。
【0029】
そして、第1磁力可変磁石と第2磁力可変磁石との間に磁路が存在しているので、q軸近傍を流れるq軸磁束は流れ易い。従って、リラクタンストルクも大きくできる。
【発明の効果】
【0030】
開示する技術によれば、マグネットトルクおよびリラクタンストルクの双方の有効活用が可能になる。それにより、特に高トルクを出力する場面で有利となり、駆動モータの性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】開示する技術を適用した自動車を示す図である。
図2】駆動モータの運転領域を表したマップである。
図3】駆動モータの断面構造を示す図である。
図4図3における磁極部の部分を拡大した図である。
図5】増磁場面に対する工夫を説明するための図(比較例)である。
図6】磁場面に対する工夫を説明するための図(実施例)である。
図7】減磁場面、高力率運転場面に対する工夫を説明するための図である。
図8】磁束阻害構造の機能を説明するための図である。
図9】マグネットトルクの活用について説明するための図である。
図10】リラクタンストルクの活用について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、開示する技術について説明する。ただし、以下の説明は本質的に例示に過ぎない。開示する技術は、磁力の変更が可能なロータの構造に関する。そして、特に自動車を駆動する駆動モータに好適である。従って、本実施形態では、車載の駆動モータへの適用例を示す。
【0033】
<駆動モータで走行する自動車>
図1に、駆動モータで走行する自動車1を示す。この自動車1はハイブリッド車である。その駆動源には、開示する技術を適用した駆動モータ2(磁力可変モータ)とともにエンジン3が搭載されている。これらが協働して2つの駆動輪4Rを回転駆動する。それにより、自動車1は走行する。
【0034】
この自動車1の場合、エンジン3は車体の前側に配置されており、駆動輪4Rは車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。更に、この自動車1の駆動源の主体はエンジン3である。駆動モータ2は、エンジン3の駆動をアシストする形で利用される(いわゆるマイルドハイブリット)。駆動モータ2はまた、発電機としても利用される(いわゆる回生)。
【0035】
エンジン3は、例えばガソリンを燃料にして燃焼を行う内燃機関である。エンジン3は、軽油を燃料とするディーゼル機関であってもよい。駆動モータ2は、第1クラッチ5を介してエンジン3の後方に連結されている。駆動モータ2は、三相の交流によって駆動する永久磁石同期モータである。
【0036】
ただし、この駆動モータ2は上述したように磁力可変モータである。そのロータには、後述する磁力固定磁石40および磁力可変磁石50が設けられていて、磁力の変更が可能に構成されている。モータ性能を向上するために、そのロータの構造は工夫が施されている(その詳細は後述)。
【0037】
駆動モータ2は、インバータ6を介して駆動バッテリ7と接続されている。駆動バッテリ7は、複数のリチウムイオン電池で構成されている。駆動バッテリ7の定格電圧は50V以下(具体的には48V)である。駆動バッテリ7は、インバータ6に直流電力を供給する。インバータ6は、その直流電力を位相が異なる3相の交流電流に変換して駆動モータ2に供給する。それにより、駆動モータ2は回転する。
【0038】
駆動モータ2の後方には、第2クラッチ8を介して変速機9が連結されている。変速機9は、多段式自動変速機(いわゆるAT)である。エンジン3および/または駆動モータ2によって出力される回転動力は、第2クラッチ8を通じて変速機9に出力される。変速機9はプロペラシャフトを介してデファレンシャルギアに連結されている。
【0039】
デファレンシャルギアは、一対の駆動シャフトを介して左右の駆動輪4R,4Rに連結されている。自動車1の走行時(力行時)には、変速機9で変速された回転動力が、デファレンシャルギアで振り分けられて各駆動輪4Rに伝達される。
【0040】
自動車1の減速時(回生時)には、駆動モータ2を用いて消費されるエネルギーの回収が行われる。具体的には、自動車1が制動する時に、第2クラッチ8は連結したままで第1クラッチ5を解放する。そうすることにより、駆動輪の回転動力で駆動モータ2を回転させて発電する。その電力を駆動バッテリ7に充電してエネルギーを回収する。
【0041】
<燃費の向上>
ハイブリッド車の場合、力行時には主にエンジン3が用いられるので、燃費に対する駆動モータ2の影響は小さい。一方、回生時には主に駆動モータ2が用いられるので、燃費に対する駆動モータ2の影響は大きい。
【0042】
自動車1は高頻度で減速する。そのため、減速時に消費されるエネルギーは多い。従って、ハイブリッド車の燃費向上のためには、回生時のエネルギー回収率を高めることが重要である。
【0043】
そして、そのためには、駆動モータ2の高出力化が有効であり、それに対して、駆動モータ2のロータ30の磁力を変更可能にすること、すなわち、駆動モータ2に磁力可変モータを採用するのが効果的である。磁力可変モータであれば、広範囲な運転領域で力率を最適化することが可能になるので、高出力にできる。
【0044】
そして、力率を最適化、すなわち、ステータ10が出力する電磁力とロータ30が出力する磁力とが略一致するようにすれば、駆動モータ2を高出力にできる。それに対し、通常の永久磁石型同期モータの場合、ロータ30の磁力は一定である。そのため、力率を最適化できるは一部の運転領域だけである。
【0045】
それに対し、磁力可変モータであれば、ロータ30の磁力を変更できるので、広範囲な運転領域で力率を最適化できる。そして、広範囲な運転領域で力率を最適化できれば、駆動モータ2を高出力化できる。更に、工夫することによって高効率化も実現可能になるので、自動車1の燃費を向上できる。
【0046】
<駆動モータの運転領域>
図2に、駆動モータ2の運転領域を表したマップを例示する。このマップでは、回転数別のトルク(負荷)の上限値を示す負荷上限ラインTmにより、駆動モータ2が出力できる運転領域が画定されている。
【0047】
磁力可変モータの運転領域は、力率が最適化されるように、ロータ30の磁力別に複数の磁化領域に区画されている。例示のマップでは、3つの磁化領域に区画されている。
【0048】
すなわち、最大トルクT1を含み、負荷上限ラインに沿って高負荷側に拡がる第1磁化領域Rm1と、第1磁化領域Rm1よりも低負荷側に拡がる第2磁化領域Rm2と、第2磁化領域Rm2よりも低負荷側に拡がり、高回転側において駆動モータ2が空運転するトルク(自動車1の走行に寄与しないトルク)T0を含む第3磁化領域Rm3と、に区画されている。
【0049】
これら磁化領域Rmの各々は、それぞれの出力に対応した最適な磁力が設定される。通常、第1磁化領域Rm1の磁力は、第2磁化領域Rm2の磁力よりも高く、第3磁化領域Rm3の磁力は、第2磁化領域Rm2の磁力よりも低く設定される。
【0050】
自動車1の走行中、駆動モータ2の運転状態に基づいて磁化領域Rmが予測され、磁化領域Rmを移行する場合には、その磁化領域の磁力に合わせてロータ30の磁力が変更される。例えば、第2磁化領域Rm2から第1磁化領域Rm1に移行する場合には、駆動モータ2で増磁が実行される。第2磁化領域Rm2から第3磁化領域Rm3に移行する場合には、駆動モータ2で減磁が実行される。
【0051】
詳細は後述するが、増磁または減磁する場合には、ステータ10に対してロータ30が所定位置となるタイミングで、所定のコイル12にパルス状の大電流を流す。そうすることによって処理対象とする磁力可変磁石50に対してステータ10から強い磁界を発生させる。それにより、所定の磁力が得られるまで磁力可変磁石50を着磁する。
【0052】
増磁と減磁とでは発生させる磁界の向きは逆である。増磁では、磁力可変磁石50の磁力が磁力固定磁石40の磁力と同方向に向くように着磁する。減磁では、磁力可変磁石50の磁力が磁力固定磁石40の磁力と逆方向に向くように着磁する。着磁の状態により、磁力可変磁石50の磁力の向きを反転したり磁力の強さを大小に変化したりできる。
【0053】
ただし、着磁は車載機器の制限を受ける。すなわち、磁力可変磁石50の磁力を強く着磁するためには、大電流を駆動モータ2に供給する必要があり、駆動バッテリ7の電圧およびインバータ6の容量によって制限を受ける。
【0054】
これら機器を大型化することも考えられるが、車載されているので大型化することは難しい。そのため、既存の機器を用いる制限された条件下でも適切に着磁できるように、開示する技術では、駆動モータ2の構造、特にロータ30の構造を工夫している。
【0055】
<駆動モータの構造>
図3に、回転軸方向から見た駆動モータ2の断面構造を示す。例示の駆動モータ2は、ステータ10、ロータ30、シャフト20、ハブ21などで構成されている。なお、以下の説明において、回転軸方向または軸方向は、回転軸Jが延びている方向を表す。径方向は、回転軸Jを中心とした半径方向を表す。周方向は、回転軸Jを中心としたその周囲の方向を表す。
【0056】
ステータ10は、円筒状の部材からなり、自動車1の車体に固定される不図示のモータケースに収容されている。ステータ10は、軸方向断面が環状のステータコア11と、複数のコイル12とを有している。ステータコア11は、透磁率の高い複数の鋼板を回転軸方向に積層して構成されている。コイル12は、ステータコア11に電線を巻回して構成されている。
【0057】
具体的には、ステータコア11には、内側に等間隔で放射状に張り出す複数(48個)のティース11aが設けられている。これらティース11aの間に形成されている空間(スロット)に電線を所定の順序で巻き掛けることで複数のコイル12が形成されている。これらコイル12は、流れる電流の位相が異なるU相、V相、およびW相からなる三相のコイル群を構成している。各相のコイル12は、周方向に順番に配置されている。
【0058】
ロータ30は、軸方向断面が環状の部材からなり、ステータ10の内側に配置されている(いわゆるインナロータ型)。ロータ30の外周面30aは、ステータ10の内周面と所定のギャップ31を介して対向している(図4参照)。ロータ30は、軸方向断面が環状のロータコア32と、磁力が径方向外側に向くように設けられたN極およびS極とからなる複数(16個)の磁極部33と、を有している。
【0059】
ロータコア32は、ステータ10とギャップ31を介して対向する軸方向断面が環状の部材からなり、透磁率の高い複数の鋼板を回転軸方向に積層して構成されている。磁極部33の各々は、ロータコア32の外周面(ロータ30の外周面と同じ。対向面30aともいう)に沿ってN極とS極とが周方向に交互に並ぶように配置されている。
【0060】
なお、この実施形態では、16極48スロットの駆動モータ2を例示するが、駆動モータ2のスロットコンビネーションは、これに限るものでない。例えば、2N倍の磁極数と、3M倍のスロット数(N、Mは整数)とで、スロットコンビネーションを構成することができる。特に車載する場合、モータサイズ、要求出力、後述するロータ30の構造などの制限から、磁極数は8極以上20極以下の範囲で設定するのが好ましい。
【0061】
ロータ30は、ハブ21を介して、モータケースに軸支されたシャフト20と一体化されている。それにより、これらロータ30、ハブ21、およびシャフト20は、回転軸Jを中心に回転自在に構成されている。
【0062】
(ロータの構造の詳細)
図4に、図3における磁極部33の部分を拡大した図を示す。回転軸Jから放射状に延びて各磁極部33の周方向の中心を通る線はd軸を表している。回転軸Jから放射状に延びて隣接した2つの磁極部33の間の中心を通る線はq軸を表している。
【0063】
ロータコア32は、フランジ部32a、ベース部32b、コネクト部32cなどで構成されている。フランジ部32aは、ステータ10と対向している軸方向断面が環状の部分である。ベース部32bは、ハブ21に固定される軸方向断面が環状の部分である。ベース部32bは、フランジ部32aと所定の間隔を隔ててその内側に位置する。これらフランジ部32aとベース部32bとがコネクト部32cによって連結されている。
【0064】
コネクト部32cは、複数の第1柱部34および複数の第2柱部35を含む。具体的には、第1柱部34は、d軸ごとに設けられている。第2柱部35は、q軸ごとに設けられている。コネクト部32cで区画されることにより、ロータコア32におけるフランジ部32aとベース部32bとの間の部分には、複数の空隙部(後述する第1空隙部61および第3空隙部63)が形成されている。
【0065】
磁極部33の各々は、磁力固定磁石40、第1補助磁力固定磁石41(補助磁力固定磁石)、第2補助磁力固定磁石42、磁力可変磁石50、空隙部などによって構成されている。磁力可変磁石50は、第1磁力可変磁石51および第2磁力可変磁石52を含む。空隙部は、第1空隙部61、第2空隙部62、および、第3空隙部63を含む。
【0066】
磁力固定磁石40、第1補助磁力固定磁石41、第2補助磁力固定磁石42の各々は、従来の永久磁石と同様であり、磁性体の残留磁束密度が不変、つまり磁力が一定で変化しない磁石である。これら磁力固定磁石40には、ネオジム磁石などの、磁束密度が高く、保磁力も大きい磁石が用いられる。これら磁力固定磁石40は、それぞれ異なる磁性体であってもよいが、このロータ30では、同じ磁性体が用いられている。
【0067】
一方、磁力可変磁石50は、磁性体の残留磁束密度が可変、つまり磁力の変更が可能な磁石である。磁力可変磁石50には、アルニコ磁石などの、磁束密度は高いが、保磁力は小さい磁石が用いられる。第1磁力可変磁石51と第2磁力可変磁石52とは、異なる磁性体であってもよいが、このロータ30では同じ磁性体が用いられている。
【0068】
それにより、駆動バッテリ7およびインバータ6が出力可能な大電流(例えば750Arms)では、磁力固定磁石40は着磁できないが、磁力可変磁石50は着磁でき、その磁力を変化させることができる。なお、駆動モータ2を普通に駆動する時の電流の大きさでは、磁力可変磁石50もほとんど着磁しない。従って、磁力可変磁石50も永久磁石として機能する。
【0069】
磁力固定磁石40は、各磁極部33の主体となる要素であり、その磁力は最も強い。磁力固定磁石40の軸方向断面は、短辺側よりも長辺側が十分に(例えば2倍以上5倍以下)大きい長方形に形成されている。磁力固定磁石40の長辺側の側面は、磁束が出入りするS極またはN極からなる磁極面PFを構成している。磁力固定磁石40は、d軸を中心にして磁力が径方向に向くように、その磁極面PFをd軸に直交させた状態でフランジ部32aの中心側に配置されている。
【0070】
周方向に長い磁力固定磁石40は、d軸に対して線対称状に二分されている。すなわち、磁力固定磁石40は、d軸を挟んで線対称に位置する一対の磁石片40a,40aで構成されている。それにより、フランジ部32aにおける磁力固定磁石40の周方向幅の中心部位には、軸方向断面が径方向に延びる棒状の部分(ロータコア32の一部である内側連結部36)が設けられている。
【0071】
第1補助磁力固定磁石41は、各磁極部33の補助的な要素であり、磁力固定磁石40の磁力を補強する機能を有している。その磁力は磁力固定磁石40に次いで強い。第1補助磁力固定磁石41の軸方向断面は、磁力固定磁石40よりも短辺および長辺の双方が小さい長方形に形成されている。第1補助磁力固定磁石41の長辺側の側面もまた磁極面PFを構成している。
【0072】
第1補助磁力固定磁石41は、磁力固定磁石40と同様に、その磁極面PFをd軸に直交させた状態でフランジ部32aにおけるその対向面30aと磁力固定磁石40との間の部分に配置されている。磁力固定磁石40の磁力が増強されるように、径方向に並ぶ第1補助磁力固定磁石41および磁力固定磁石40の各々の磁極面PF(N極またはS極)は同じ向きに配置されている。
【0073】
第2補助磁力固定磁石42は、各磁極部33の補助的な要素であり、磁力固定磁石40の磁束を誘導する機能を有している。第2補助磁力固定磁石42は、各磁極部33に2つずつ設けられている。第2補助磁力固定磁石42の軸方向断面は、磁力固定磁石40と異なり、長辺が短辺より僅かに大きい長方形に形成されている。第2補助磁力固定磁石42の磁極面PFは、その長辺側の側面によって構成されている。
【0074】
第2補助磁力固定磁石42の各々は、その磁極面PFを構成している長辺側の端面が磁力固定磁石40の周方向側端面と接するように、磁力固定磁石40の端部に配置されている。第2補助磁力固定磁石42の各々は、d軸に対して線対称状に配置されている。
【0075】
(磁力可変磁石)
磁力可変磁石50は、フランジ部32aにおける磁力固定磁石40よりもその対向面30aの側の部分であって磁力固定磁石40の周方向に隣接した位置に配置されている。
【0076】
磁力可変磁石50は、磁力固定磁石40と協働して各磁極部33の主体となる要素であり、その磁力は変更可能である。磁力可変磁石50による最大の磁力は、磁力固定磁石40および第1補助磁力固定磁石41による総合した磁力と同等以下に設定されている。
【0077】
磁力可変磁石50の各々は、q軸を中心とする位置に配置されている。上述したように、磁力可変磁石50は第1磁力可変磁石51および第2磁力可変磁石52を含む。第1磁力可変磁石51の周方向幅の中心は、q軸上に位置している。第2磁力可変磁石52は、第1磁力可変磁石51の周方向の両側に設けられていて、第1磁力可変磁石51に隣接するように配置されている。
【0078】
第1磁力可変磁石51および第2磁力可変磁石52の各々は、同一の磁性体片53で構成されている。その磁性体片53の軸方向断面は、短辺側よりも長辺側が十分に(5倍程度)大きい長方形に形成されている。磁性体片53の長辺の大きさは、磁力固定磁石40の短辺の大きさと略同じである。第1磁力可変磁石51および第2磁力可変磁石52の各々は、磁力固定磁石40よりも軸方向断面の厚みは十分に小さい。
【0079】
磁性体片53の長辺側の側面は磁極面PFを構成する。磁力が周方向に向くように、各磁性体片53の磁極面PFは周方向に面している。第1磁力可変磁石51は、2つの磁性体片53,53を突き合わせて周方向に並置することによって構成されている。第2磁力可変磁石52は、1つの磁性体片53を第1磁力可変磁石51と平行に並べることによって構成されている。
【0080】
(空隙部)
第1空隙部61および第3空隙部63は、上述したように、コネクト部32cで区画されることによってフランジ部32aとベース部32bとの間に形成されている。第2空隙部62は、フランジ部32aに形成されている。
【0081】
具体的には、第1柱部34は、磁力固定磁石40の各々の径方向内側に位置する複数(図示では2本)の部分(外側連結部34a)によって構成されている。外側連結部34aの各々は、フランジ部32aとベース部32bとの間に架設されていて、軸方向断面が径方向に延びる柱状に形成されている。
【0082】
これら外側連結部34aの各々は、所定の間隔を隔てた状態で、d軸に対して線対称状に配置されている。第3空隙部63は、これら外側連結部34aの間に形成されている。第3空隙部63は、d軸に沿って延びる略矩形の軸方向断面を有している。
【0083】
第2柱部35は、磁力可変磁石50の各々の径方向内側に位置して、フランジ部32aとベース部32bとの間に架設されている。第2柱部35の軸方向断面は径方向に延びる柱状に形成されている。第1柱部34よりも第2柱部35の方が径方向に長い。周方向幅は、第1磁力可変磁石51よりも第2柱部35の方が大きい。第2柱部35の周方向幅の中心は、q軸上に位置している。
【0084】
第2柱部35は、合成樹脂70(非磁性体)を含有している。すなわち、第2柱部35における第1磁力可変磁石51よりも径方向内側の部分に、第2柱部35に沿って延びる合成樹脂70が埋設されている。合成樹脂70の軸方向断面は、周方向幅が第2柱部35よりも僅かに小さい長方形に形成されている。
【0085】
それにより、第2柱部35における合成樹脂70の両側の部分には、第1磁力可変磁石51よりも周方向外側に位置するとともに、軸方向断面が棒状の一対の部分(ロータコア32の一部である連結腕部35a)が形成されている。なお、棒状は柱状よりも幅が小さいことを表している。
【0086】
第1空隙部61は、第1柱部34と第2柱部35との間に形成されている。すなわち、第1空隙部61の周方向の両側は、第1柱部34と第2柱部35とによって区画され、第1空隙部61の径方向内側はベース部32bによって区画されている。第1空隙部61は、磁極部33の各々に、d軸に対して線対称状に2つ形成されている。第1空隙部61の径方向外側は、第1柱部34の径方向外側の端部から第2柱部35の径方向外側の端部にわたって延びる屈曲面61aによって区画されている。
【0087】
その屈曲面61aは、磁力固定磁石40および第2補助磁力固定磁石42に近接し、これらに沿って延びるように形成されている。回転軸方向から見て、屈曲面61aは、径方向内側に向かって膨らむ円弧状である。第1空隙部61の軸方向断面は大きい。第1空隙部61により、ロータコア32は軽量化されている。
【0088】
第2空隙部62は、回転軸方向から見て、フランジ部32aにおける磁力固定磁石40と磁力可変磁石50との間の部分に配置されている。第2空隙部62は、磁極部33の各々に、d軸に対して線対称状に2つ形成されている。第2空隙部62の軸方向断面は、磁力固定磁石40の端部40b(詳細には、磁力固定磁石40の径方向外側に位置する角部)からフランジ部32aの対向面30aに向かって延びるように形成されている。
【0089】
そして、図4の左側の磁極部33において示すように、磁力可変磁石50と第2空隙部62との周方向の間隔Dは、対向面30aに近づくに従って大きくなるとともに、第2空隙部62の周方向の幅Waは、径方向を磁力固定磁石40の側から離れるに従って小さくなるように第2空隙部62は形成されている。
【0090】
具体的には、第2空隙部62は、磁力固定磁石40の端部から対向面30aに向かって先細りした部分(径側延出部62a)と、径側延出部62aの基端部から磁力可変磁石50に向かって先細りした部分(周側延出部62b)とを有し、軸方向断面がL形状に形成されている。
【0091】
回転軸方向から見て、径側延出部62aのd軸側の側面は、径方向に延びる直線状であり、周側延出部62bの径方向内側の側面は、周方向に延びる直線状である。そして、径側延出部62aのq軸側と周側延出部62bの径方向外側にわたる側面は、磁力固定磁石40の端部に向かって膨らむ曲線状である。
【0092】
磁力固定磁石40の端部40bの一部(詳細には、磁力固定磁石40の端面の径方向外側部分)は、第2空隙部62に露出し、第2空隙部62と直に接している。第2補助磁力固定磁石42の径方向外側の端面の一部も、第2空隙部62に露出し、第2空隙部62と直に接している。
【0093】
それにより、各磁極部33におけるフランジ部32aの径方向外側には、2つの第2空隙部62と磁力固定磁石40の磁極面PFとによって、周方向の両側および径方向内側が区画された第1閉鎖領域37が形成されている。その第1閉鎖領域37に、両端部を径側延出部62aに近接させた状態で、第1補助磁力固定磁石41が配置されている。第1補助磁力固定磁石41の各端部と、径側延出部62aにおけるd軸側の各側面との間の周方向幅Wbは同一である。
【0094】
第1磁力可変磁石51は第2空隙部62から離れた位置に配置されているのに対し、第2磁力可変磁石52は、周側延出部62bの先端部分から対向面30aに向かって延びるように配置されている。
【0095】
具体的には、第2磁力可変磁石52の径方向内側の端部52aは、周側延出部62bの先端部分に露出し、第2空隙部62と直に接している。それにより、各磁極部33におけるフランジ部32aの対向面30aの側には、第2空隙部62と第2磁力可変磁石52の磁極面PFとによって、周方向の両側および径方向内側が区画された2つの第2閉鎖領域38が形成されている。
【0096】
<駆動モータの様々な運転場面への対応>
上述したように、駆動モータ2は、広範囲な運転領域で安定した出力が求められる。燃費向上の観点からは、更に、その広範囲な運転領域で力率の最適化が求められる。しかも、磁力可変モータの場合、増磁および減磁からなる磁化方向が真逆の着磁が行われる。
【0097】
従って、駆動モータ2の高出力化、高効率化等を実現するためには、これら様々な運転場面に対して磁束の流れを最適化できるようにする必要がある。上述したロータ30の構造は、その要求を実現できるように工夫されている。
【0098】
(増磁場面に対する工夫)
上述したように、駆動モータ2に供給できる大電流は制限される。従って、そのような制限の下で、磁力可変磁石50は、磁力が飽和に達するまで、効率よく増磁できるのが好ましい。しかし、磁力固定磁石40および磁力可変磁石50の各々を基本的な位置に配置するだけでは、そのような増磁は難しい。
【0099】
図5に、比較例として、そのようなロータ30の構造を例示する。上図は模式図であり、下図はそれを実施形態のロータ30に対応させた図である。増磁時には、磁力可変磁石50に対し、矢印Msが示すように、その周方向外側からd軸側に向けて強い磁力(磁界)を作用させて磁化させる。
【0100】
磁力固定磁石40の径方向外側の磁極面PF(N極)からは、高密度な磁束が径方向外側に向けて流れている。その磁束の一部が、磁力可変磁石50を増磁する磁束と反発し合うことから、磁力可変磁石50を増磁する磁束の磁束密度が低下する。その結果、磁力可変磁石50を効率よく増磁できない。
【0101】
図6に、図5に対応して表した実施形態のロータ30の構造を例示する。空気の磁気抵抗は、ステータコア11の磁気抵抗に比べて圧倒的に高い。従って、第2空隙部62を設けたことにより、反発し合う磁路が遮断される。そして、磁束は最短距離で流れる性質がある。従って、磁力可変磁石50から磁力固定磁石40のS極に向かう順方向の磁束の流れが形成される。
【0102】
更に、このロータ30の場合、第1空隙部61の屈曲面61aによってその磁束の流れが誘導される。また更に、第2補助磁力固定磁石42により、その磁束の流れが促進される。その結果、制約された条件下であっても、磁力が飽和に達するまで、磁力可変磁石50を効率よく増磁できる。
【0103】
(減磁場面、高力率運転場面に対する工夫)
減磁の場合、増磁よりも低い磁束密度で、磁力が飽和に達するまで磁力可変磁石50を減磁できる。しかし、減磁では、磁力可変磁石50に対して、増磁とは逆方向、つまりd軸側から着磁する。
【0104】
そのため、減磁で磁力可変磁石50に作用させる磁界は、磁束密度の違いを除けば、弱め磁界制御で作用させる磁界と実質的には同じである。具体的には、中負荷ないし低負荷かつ高回転での運転領域で駆動モータ2を駆動する運転場面(高力率運転場面)、例えば、図2における運転ポイントP1(追い越し加速など)では、連続した中回転での高出力が要求される。
【0105】
このとき、駆動モータ2では、d軸においてロータ30とステータ10との間でぶつかる磁束が打ち消し合って相殺されるように、弱め磁界制御が行われる。その結果、高力率運転場面では、弱め磁界制御に伴って、磁力可変磁石50に減磁方向の磁界が作用する。
【0106】
一方、図2における運転ポイントP2(高速巡航走行など)では、低負荷側に移行する際に減磁が行われる。減磁では、磁力可変磁石50に強い磁界を作用させる必要がある。なお、運転ポイントP2で高負荷側に移行する際には、上述したような増磁が行われる。
【0107】
図7に、高力率運転場面および減磁場面の各々での基本的なロータ30の構造を模式的に例示する。上図は高力率運転場面であり、下図は減磁場面である。
【0108】
矢印Msが示すように、ステータ10からロータ30の磁極部33に向けて、高力率運転場面では弱い磁束が、減磁場面では強い磁束が、それぞれ加えられる。これら磁束の各々は、磁力固定磁石40の側からステータ10に向かう磁束と反発し、その一部は、両側の磁力可変磁石50に向かう。
【0109】
それにより、減磁場面では、これら双方の磁束量で磁力可変磁石50を着磁できるので、増磁よりも小さい大電流で減磁できる。従って、減磁場面では、これら磁束を磁力可変磁石50の側に向かわせるのが好ましい。
【0110】
一方、高力率運転場面では、磁束の一部が磁力可変磁石50の側に逸れると、安定した磁束の相殺が困難になる。磁力可変磁石50が不要に減磁されてしまうおそれもある。従って、高力率運転場面では、減磁場面と異なり、磁束が磁力可変磁石50の側に逸れるのを抑制するのが好ましい。
【0111】
それに対し、この駆動モータ2には、磁力固定磁石40の側から反発して磁力可変磁石50に向かう磁束(反発磁束)の磁路を段階的に妨げる磁束阻害構造が設けられている。具体的には、第2閉鎖領域38が磁束阻害構造を構成している。
【0112】
磁石を構成している磁性体と空気の磁気抵抗はほぼ同じである。そして、これらの磁気抵抗は、ステータコア11の磁気抵抗に比べて圧倒的に高い。従って、第2空隙部62および第2磁力可変磁石52の双方は、同等の磁気抵抗を有し、磁束の流れを阻害する。
【0113】
図8を参照して、磁束阻害構造の機能を説明する。図8の(a)に示すように、ステータ10の側の磁束量が少ない時には、反発して磁力固定磁石40から磁力可変磁石50に向かう磁束量も少ない。そして、その流れの多くは、第2空隙部62によって阻害される。磁束は最短距離で流れる性質があるので、逸れた磁束は、矢印mf1で示すように、短絡した磁路で磁力固定磁石40に戻る。
【0114】
図8の(b)に示すように、ステータ10の側の磁束量が増えると、磁力固定磁石40から磁力可変磁石50に向かう磁束の一部は、矢印mf2で示すように、短絡せずに第2空隙を透過して磁力可変磁石50に向かう。しかし、その流れは第2磁力可変磁石52によって阻害される。そして、その磁束は、短絡した磁路で磁力固定磁石40に戻る。
【0115】
そして、図8の(c)に示すように、ステータ10の側の磁束量が更に増えると、磁力固定磁石40から磁力可変磁石50に向かう磁束の一部は、矢印mf3で示すように、第2空隙部62および第2磁力可変磁石52を透過し、第1磁力可変磁石51に向かって流れるようになる。それにより、第2磁力可変磁石52と第1磁力可変磁石51の双方を減磁することが可能になる。この結果、減磁場面および高力率運転場面の相反した要求を実現できる。
【0116】
(高トルク運転場面に対する工夫)
駆動モータ2では、低回転ではあるが高トルクの出力が要求される。例えば、図2における運転ポイントP3(坂道発進など)では、高トルクの出力が要求される。この場合、磁力可変磁石50の磁力を飽和磁力まで高めるだけでは、出力できないおそれがある。
【0117】
それに対し、この駆動モータ2では、マグネットトルクおよびリラクタンストルクの双方を効果的に活用することで、高トルク運転場面でも適切に駆動できるように工夫されている。
【0118】
すなわち、永久磁石同期モータである駆動モータ2が出力するトルクは、ロータ30に設けられている磁石(磁力固定磁石40および磁力可変磁石50)に起因して発生するマグネットトルクと、ロータコア32の突極差(Lq-Ldに相当)に起因して発生するリラクタンストルクとを合わせたトータルトルクである。
【0119】
従って、マグネットトルクおよびリラクタンストルクの双方を効果的に活用すれば、駆動モータ2が出力できる最大トルクも大きくなるので、高トルク運転場面でも適切に駆動できるようになる。なお、Lqはq軸におけるインダクタンス(磁束の通り易さに相当)であり、Ldはd軸におけるインダクタンスである。突極差が大きいほど、リラクタンストルクは大きくなる。
【0120】
(マグネットトルクの活用)
図9を参照して、マグネットトルクの活用について説明する。図9は、磁力固定磁石40のN極が径方向外側に向いた磁極部33を示している。上図はその基本的な構成を表した模式図であり、下図はそれを実施形態のロータ30に対応させた図である。
【0121】
磁力固定磁石40からは、ステータ10に向かう強い磁力が発生している。実施形態のロータ30のように、第1補助磁力固定磁石41を設置すれば、更にその磁力を強化でき、高トルクを出力できる。そして、高トルク運転場面での磁力可変磁石50は、飽和磁力に至るまで増磁されている。従って、磁力可変磁石50のd軸側の磁極面PFはN極であり、磁力可変磁石50の磁力は最大値となっている。
【0122】
回転軸方向から見た場合、ロータコア32における磁力固定磁石40と磁力可変磁石50との間の部分には、磁力固定磁石40の端部から対向面30aに向かって延びる断面を有する第2空隙部62が配置されている。従って、磁力固定磁石40の径方向外側の磁極面PFと、磁力可変磁石50のd軸側の磁極面PFとの間は、第2空隙部62によって遮断されている。それにより、磁力固定磁石40から出る磁束と磁力可変磁石50から出る磁束とが互いに干渉するのを抑制でき、双方の磁力を効果的に活用できる。
【0123】
そして、磁力可変磁石50と第2空隙部62との周方向の間隔Dは、ステータコア11の対向面30aに近づくに従って大きくなるように形成されている。そして、第2空隙部62の周方向の幅Waは、径方向を磁力固定磁石40の側から離れるに従って小さくなるように形成されている。
【0124】
すなわち、第2空隙部62の軸方向断面は、径方向外側に向かうに従って、磁力可変磁石50から離れるように先細りした形状に形成されている。それにより、磁力可変磁石50から出る磁束は、第2空隙部62によって径方向外側に向かうように誘導され、磁力固定磁石40から出る磁束と反発することなく円滑に合流する。
【0125】
更に、第2磁力可変磁石52は、第1磁力可変磁石51に隣接した状態で周側延出部62bの先端部分から対向面30aに向かって延びるように配置されている。
【0126】
すなわち、第2磁力可変磁石52と周側延出部62bの先端部分との間の磁路は遮断されているので、第2磁力可変磁石52の磁極面から出る磁力可変磁石50の磁束は、漏れること無く、第2空隙部62によって径方向外側に向かうように誘導される。従って、マグネットトルクを効果的に活用できる。
【0127】
(リラクタンストルクの活用)
図10を参照して、リラクタンストルクの活用について説明する。図10は、ロータ30における磁極部33の部分を示している。破線矢印mfdは、後述するd軸磁束の流れを表している。実線矢印mfqは、後述するq軸磁束の流れを表している。
【0128】
上述したように、リラクタンストルクは、Lqが大きい、つまりq軸を中心としてステータ10の側からロータ30に流れる磁束(q軸磁束)が流れ易いほど、大きくなる。リラクタンストルクはまた、Ldが小さい、つまりd軸を中心としてステータ10の側からロータ30に流れる磁束(d軸磁束)が流れ難いほど、大きくなる。
【0129】
それに対し、ロータ30におけるd軸の中心部位には、周方向の両側が第2空隙部62で区画され、径方向の内側が磁力固定磁石40で区画された第1閉鎖領域37が設けられている。従って、ステータ10の側からd軸近傍を流れるd軸磁束は、第1閉鎖領域37に流入するので、流れ難い。
【0130】
しかも、第1閉鎖領域37の径方向外側には、d軸磁束の流れ方向に正対するように第1補助磁力固定磁石41が配置されている。従って、よりいっそう流れ難い。磁力固定磁石40の周方向幅の中心部位には、ロータコア32の一部である内側連結部36が存在する。しかし、その上流側に第1補助磁力固定磁石41が存在しているので、d軸磁束が内側連結部36に流入するためには、第1補助磁力固定磁石41を迂回しなければならない。従って、d軸近傍を流れるd軸磁束は、ロータ30を流れ難い。
【0131】
第2空隙部62は、径方向外側に向かって先細りしているので、その径方向外側に向かうほど、磁気抵抗は小さくなる。そのため、第2空隙部62であっても、その径方向外側は比較的磁束が流れ易い。従って、d軸周辺を流れるd軸磁束は、第2空隙部62の径方向外側を通って流れ得る。
【0132】
また、第2空隙部62の径方向外側の端部とフランジ部32aの対向面30aとの間にはロータコア32の部分が存在している。従って、d軸周辺を流れるd軸磁束は、その部分を通って磁束が流れ得る。しかし、これらd軸磁束の流れは、第2空隙部62の周方向幅が大きくなる方向に向かううえに、これらd軸磁束の流れが向かう下流側には、径方向内側の端部が周側延出部62bの先端部分から対向面30aに向かって延びる第2磁力可変磁石52が位置している。
【0133】
従って、下流側の磁路も遮断されるので、これらd軸磁束も流れ難い。更にその下流側には第1磁力可変磁石51、第1空隙部61、および合成樹脂70が存在しているので、これらd軸磁束がその先に流れても更に流れ難くい。その結果、d軸磁束はロータ30を流れ難い。
【0134】
それに対し、ロータ30におけるq軸の中心部位には、第1磁力可変磁石51が存在しているが、その周方向幅は小さい。そして、第1磁力可変磁石51の両側に隣接する第2磁力可変磁石52は、第1磁力可変磁石51から離れた位置に有るので、第1磁力可変磁石51の両側には、ロータコア32からなる磁路が存在している。従って、q軸近傍を流れるq軸磁束は、ロータ30に流入し易い。
【0135】
その部位からロータ30に流入したq軸磁束の流れの下流側には、第1空隙部61と合成樹脂70を含有する第2柱部35が存在している。しかし、第2柱部35には、ロータコア32の一部である一対の連結腕部35a,35aが設けられている。そして、第1空隙部61の径方向外側には、ロータコア32の一部として、屈曲面61aに沿った軸方向断面が棒状の部分が存在している。従って、これら磁路を通ることができるので、q軸近傍を流れるq軸磁束は、ロータ30を流れ易い。
【0136】
更に、q軸周辺を流れるq軸磁束もロータ30を流れ易い。すなわち、第2磁力可変磁石52よりもd軸側に流入するq軸磁束の下流側には、第2空隙部62が存在する。しかし、第2空隙部62は、径方向外側に向かって先細りしているので、その径方向外側に向かうほど、磁気抵抗は小さくなる。
【0137】
そのため、第2空隙部62であっても、その径方向外側は磁束が流れ得る。従って、q軸周辺を流れるq軸磁束は、第2空隙部62の径方向外側を通って流れ得る。また、第2空隙部62の径方向外側の端部とフランジ部32aの対向面30aとの間にはロータコア32の部分が存在している。従って、q軸周辺を流れるq軸磁束は、その部分を通って磁束が流れ得る。
【0138】
そして、これらq軸磁束の流れは、第2空隙部62の周方向幅が大きくならない方向に向かううえに、これらq軸磁束の流れが向かう下流側には、d軸磁束の流れとは異なり、磁力固定磁石40と第1補助磁力固定磁石41との間の部分を通るロータコア32による磁路が存在する。それにより、これらq軸磁束は、その流れ方向に沿った比較的短い距離で流れることができる。従って、q軸周辺を流れるq軸磁束もまたロータ30を流れ易い。その結果、q軸磁束はロータ30を流れ易い。
【0139】
このように、このロータ30の構造によれば、d軸磁束は流れ難い一方で、q軸磁束は流れ易くなっている。突極差が大きいことから、大きなリラクタンストルクを得ることができる。従って、マグネットトルクに加え、リラクタンストルクについても効果的に活用できる。その結果、駆動モータ2が出力できる最大トルクも大きくなるので、高トルク運転場面でも適切に駆動できるようになる。
【0140】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、上述した実施形態では、ハイブリッド車を例示したが、駆動モータ2のみで走行する電気自動車であってもよい。ロータコア32は、ハブ21を介してシャフト20に固定していたが、ハブ21を介さず直接シャフト20に固定してもよい。
【符号の説明】
【0141】
1 自動車
2 駆動モータ
3 エンジン
6 インバータ
7 駆動バッテリ
10 ステータ
11 ステータコア
12 コイル
30 ロータ
30a 外周面(対向面)
31 ギャップ
32 ロータコア
33 磁極部
34 第1柱部
35 第2柱部
40 磁力固定磁石
41 第1補助磁力固定磁石(補助磁力固定磁石)
42 第2補助磁力固定磁石
50 磁力可変磁石
51 第1磁力可変磁石
52 第2磁力可変磁石
61 第1空隙部
62 第2空隙部
63 第3空隙部
70 合成樹脂
PF 磁極面
J 回転軸
図1
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図10