(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010855
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】車体挙動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/35 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B60K17/35 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112404
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】篠原 健
【テーマコード(参考)】
3D043
【Fターム(参考)】
3D043AA01
3D043AA06
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA05
3D043EA18
3D043EB03
3D043EB06
3D043EB13
3D043EE05
3D043EE08
3D043EF19
(57)【要約】
【課題】簡単な構成により車体のピッチング挙動を抑制する車体挙動制御装置を提供する。
【解決手段】車輪RWを車体Bに対してバウンド方向及びリバウンド方向にストローク可能に支持するとともに、ストロークに応じて車輪の中心Cがホイールベースを伸縮する方向へ変位するジオメトリを有するサスペンション装置210と、前輪FWへ駆動力を伝達する前輪駆動力伝達機構30と後輪RWへ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構50との差回転を拘束する前後輪差回転拘束部40とを有する車両1に設けられる車体挙動制御装置を、車体のピッチング挙動の発生に応じて前後輪差回転拘束部の拘束力を増加させる前後輪差回転拘束制御部130を備える構成とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を車体に対してバウンド方向及びリバウンド方向にストローク可能に支持するとともに、前記ストロークに応じて前記車輪の中心がホイールベースを伸縮する方向へ変位するジオメトリを有するサスペンション装置と、
前輪へ駆動力を伝達する前輪駆動力伝達機構と後輪へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構との差回転を拘束する前後輪差回転拘束部と
を有する車両に設けられる車体挙動制御装置であって、
前記車体のピッチング挙動の発生に応じて前記前後輪差回転拘束部の拘束力を増加させる前後輪差回転拘束制御部を備えること
を特徴とする車体挙動制御装置。
【請求項2】
前記前後差回転拘束制御部は、前記車体への所定の入力に対するピッチング挙動の大きさが所定の閾値に対して大きい場合に、前記前後輪差回転拘束部の拘束力を通常時に対して増加させること
を特徴とする請求項1に記載の車体挙動制御装置。
【請求項3】
車輪を車体に対してバウンド方向及びリバウンド方向にストローク可能に支持するとともに、前記ストロークに応じて前記車輪の中心がホイールベースを伸縮する方向へ変位するジオメトリを有するサスペンション装置と、
前輪へ駆動力を伝達する前輪駆動力伝達機構と後輪へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構との差回転を拘束する前後輪差回転拘束部と
を有する車両に設けられる車体挙動制御装置であって、
前記車体のピッチング挙動に応じた前輪と後輪との制駆動力差を出力する制駆動力差出力部と、
前記制駆動力差の増加に応じて前記前後輪差回転拘束部の拘束力を増加させる前後輪差回転拘束制御部と
を備えることを特徴とする車体挙動制御装置。
【請求項4】
前記前後輪差回転拘束制御部は、前記前後輪差回転拘束部が伝達するトルクによって前輪と後輪との間に発生する制駆動力差を、前記車体のピッチング挙動に応じた前輪と後輪との制駆動力差と同等以上となるよう前記拘束力を制御すること
を特徴とする請求項3に記載の車体挙動制御装置。
【請求項5】
車両の直進状態を判別する直進状態判別部を備え、
前記前後差回転拘束制御部は、前記直進状態が判別された場合に前記前後差回転拘束部の前記拘束力の増加を行うとともに、前記直進状態が判別されない場合には車両の旋回状態に応じて設定される旋回時拘束力とすること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車体挙動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体のピッチング挙動を制御する車体挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設けられる差動制限機構の制御等に関する技術として、例えば、特許文献1には、タイトコーナブレーキング現象を確実に防止しつつ、差動制限機構の機能を十分に安定して発揮させるため、前輪又は後輪の軸トルクに基づいて、エンジンの駆動力を前軸側と後軸側とに配分する差動制限手段における実際の差動制限トルクを演算し、差動制限トルクの指示値に対して実際の差動制限トルクが振動する振動状態を検出した際に、差動制限トルクの指示値を減少補正する4輪駆動車の制御装置が記載されている。
特許文献2には、前後輪にトルクを所定の比率で配分するインタアクスルデフと、これをロックするインタアクスルデフロックと、インタアクスルデフロックを制御する制御装置とを備えた車両のインタアクスルデフ装置において、トランスミッション出力軸、インタアクスルデフの前側出力軸、後側出力軸の回転数を検出し、この回転数に基づいて駆動輪のスリップの兆候を検知し、スリップの兆候があった場合に、インタアクスルデフロックにデフロック信号を出力することが記載されている。
特許文献3には、左右輪の差回転を許容しかつデフロック機構を備えた差動装置と、ロータリ耕耘装置とを有する歩行型の動力農機において、機体が所定角を越えて前下がり状に傾斜したときには差動装置を作動させるよう構成したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4781695号
【特許文献2】特開2001-277896号公報
【特許文献3】実開昭62-144730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、車両が波状の凹凸路面を走行する場合には、車体が周期的にノーズアップ方向、ノーズダイブ方向に揺動するピッチング挙動が発生する場合があり、このような挙動が過大となると、乗員の不快感や不安感につながることが懸念される。
また、荷物の積載状況などにより、ピッチング挙動が変化し、ピッチ角が過大となりやすい場合がある。
これに対し、車両のバネ上挙動を制御する手法として、ブレーキやエンジントルク(モータトルク)の制御により各輪の制駆動力制御を行うことや、サスペンション装置にアクチュエータを追加してアクティブサスペンションとして制御することなどが考えられる。
しかし、このような制駆動力制御やアクティブサスペンション制御を行う場合、装置の構成や制御の内容が複雑になることが問題となる。さらに、制駆動力制御は、ピッチング挙動の制御のために本来不必要な加減速が発生し、ドライバ等の乗員に違和感や不快感を与えることが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡単な構成により車体のピッチング挙動を抑制する車体挙動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る車体挙動制御装置は、車輪を車体に対してバウンド方向及びリバウンド方向にストローク可能に支持するとともに、前記ストロークに応じて前記車輪の中心がホイールベースを伸縮する方向へ変位するジオメトリを有するサスペンション装置と、前輪へ駆動力を伝達する前輪駆動力伝達機構と後輪へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構との差回転を拘束する前後輪差回転拘束部とを有する車両に設けられる車体挙動制御装置であって、前記車体のピッチング挙動の発生に応じて前記前後輪差回転拘束部の拘束力を増加させる前後輪差回転拘束制御部を備えることを特徴とする。
これによれば、車体のピッチング挙動の発生に応じて、前後輪差回転拘束部の拘束力を増加させることで、前輪駆動力伝達機構と後輪駆動力伝達機構との間でやり取りされる内部循環トルクを増加させることができる。
このような内部循環トルクは、前後輪の差回転を拘束することで、サスペンション装置のストロークに応じてホイールベースが変動する際に抗力として作用することから、サスペンションストロークを抑制する効果を有し、車体のピッチング挙動を抑制することができる。
このような前後輪差回転拘束部は、前後輪を駆動する4輪駆動(AWD)の車両であれば一般的に設けられるものであり、本発明によれば、車両にピッチング挙動を抑制するために新規かつ専用のハードウェアを設ける必要がなく、簡単な構成によりピッチング挙動を抑制することができる。
【0006】
本発明において、前記前後差回転拘束制御部は、前記車体への所定の入力に対するピッチング挙動の大きさが所定の閾値に対して大きい場合に、前記前後輪差回転拘束部の拘束力を通常時に対して増加させる構成とすることができる。
これによれば、例えば積載状態などにより車両のピッチング挙動が増大しやすい状態にある場合に、ピッチング挙動を通常状態に近づけるよう抑制することができる。
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明の他の一態様に係る車体挙動制御装置は、車輪を車体に対してバウンド方向及びリバウンド方向にストローク可能に支持するとともに、前記ストロークに応じて前記車輪の中心がホイールベースを伸縮する方向へ変位するジオメトリを有するサスペンション装置と、前輪へ駆動力を伝達する前輪駆動力伝達機構と後輪へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構との差回転を拘束する前後輪差回転拘束部とを有する車両に設けられる車体挙動制御装置であって、前記車体のピッチング挙動に応じた前輪と後輪との制駆動力差を出力する制駆動力差出力部と、前記制駆動力差の増加に応じて前記前後輪差回転拘束部の拘束力を増加させる前後輪差回転拘束制御部とを備えることを特徴とする。
これによれば、サスペンション装置のストロークに伴うホイールベース変化に起因する前後輪の制駆動力差の増加に応じて、前後差回転拘束部の拘束力を増加させることにより、内部循環トルクによるサスペンション装置のストローク抑制効果を確保し、車体のピッチング挙動を効果的に抑制することができる。
【0008】
本発明において、前記前後輪差回転拘束制御部は、前記前後輪差回転拘束部が伝達するトルクによって前輪と後輪との間に発生する制駆動力差を、前記車体のピッチング挙動に応じた前輪と後輪との制駆動力差と同等以上となるよう前記拘束力を制御する構成とすることができる。
これによれば、ピッチング挙動に起因する制駆動力差と同等以上の制駆動力差を内部循環トルクによって発生させることにより、ピッチング挙動を効果的に抑制することができる。
【0009】
上記各発明において、車両の直進状態を判別する直進状態判別部を備え、前記前後差回転拘束制御部は、前記直進状態が判別された場合に前記前後差回転拘束部の前記拘束力の増加を行うとともに、前記直進状態が判別されない場合には車両の旋回状態に応じて設定される旋回時拘束力とする構成とすることができる。
これによれば、旋回時における差回転拘束部の拘束力を、旋回性能を向上するよう最適化することが可能となり、本発明の適用による旋回性能への影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、簡単な構成により車体のピッチング挙動を抑制する車体挙動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した車体挙動制御装置の第1実施形態を有する車両の駆動系の構成を模式的に示す図である。
【
図2】第1実施形態の車体挙動制御装置を有する車両のリアサスペンション装置の構成を模式的に示す図である。
【
図3】車両の積載状態とピッチング挙動との関係を模式的に示す図である。
【
図4】第1実施形態の車体挙動制御装置におけるピッチング挙動抑制制御を示すフローチャートである。
【
図5】車両のピッチング挙動と内部循環トルクとの関係を模式的に示す図である。
【
図6】本発明を適用した車体挙動制御装置の第2実施形態におけるピッチング挙動抑制制御を示すフローチャートである。
【
図7】本発明を適用した車体挙動制御装置の第3実施形態を有する車両のリアサスペンション装置の構成を模式的に示す図である。
【
図8】本発明を適用した車体挙動制御装置の第4実施形態を有する車両のリアサスペンション装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した車体挙動制御装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の車体挙動制御装置は、例えば、四輪駆動(AWD)の乗用車等の車両に設けられ、車体のピッチング挙動を制御するものである。
図1は、第1実施形態の車体挙動制御装置を有する車両の駆動系の構成を模式的に示す図である。
【0013】
車両1は、左右一対の前輪FW及び後輪RW、エンジン10、変速機20、前輪駆動力伝達機構30、トランスファ40、後輪駆動力伝達機構50、エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120、駆動力配分制御ユニット130、トランスファクラッチ駆動部140等を有する。
【0014】
エンジン10は、車両の走行用動力源である。
エンジン10として、例えば、4ストロークガソリンエンジンを用いることができる。
なお、車両1の走行用動力源は、エンジン10に限定されず、エンジン10及びモータジェネレータを有するエンジン-電気ハイブリッドシステムや、モータジェネレータのみを有する構成としてもよい。
【0015】
変速機20は、エンジン10の出力軸の回転速度を所定の変速比で減速又は増速する変速機構部を備えている。
変速機構部として、例えば、チェーン式、ベルト式などのCVTバリエータや、複数のプラネタリギヤセット等を有する構成とすることができる。
【0016】
エンジン10と変速機20との間には、トルクコンバータ21が設けられる。
トルクコンバータ21は、車速ゼロからの発進を可能とする発進デバイスとして機能する流体継ぎ手である。
トルクコンバータ21には、所定の条件下で入力部(インペラ)と出力部(タービン)との相対回転を拘束するロックアップクラッチが設けられる。
【0017】
前輪駆動力伝達機構30は、変速機20の出力軸の回転を、左右の前輪FWに伝達する動力伝達機構である。
前輪駆動力伝達機構30は、ドライブギヤ31、ドリブンギヤ32、ピニオンシャフト33、フロントディファレンシャル34、フロントドライブシャフト35等を有する。
【0018】
ドライブギヤ31、ドリブンギヤ32は、平行軸に設けられた一対のヘリカルギヤである。
ドライブギヤ31は、変速機20の出力軸に直結されている。
ドリブンギヤ32は、ピニオンシャフト33に設けられている。
ピニオンシャフト33は、変速機20からドライブギヤ31、ドリブンギヤ32を介して伝達されるトルクを、フロントディファレンシャル34に伝達する回転軸である。
ピニオンシャフト33には、フロントディファレンシャル34の外周部分に設けられる図示しないリングギヤに駆動力を伝達するピニオンギヤが設けられる。
ピニオンシャフト33のピニオンギヤと、フロントディファレンシャル34のリングギヤは、最終減速装置として機能する。
【0019】
フロントディファレンシャル34は、ピニオンシャフト33から伝達される駆動力を、左右のフロントドライブシャフト35に伝達するとともに、左右の前輪FWの回転速度差を吸収する差動機構である。
フロントドライブシャフト35は、フロントディファレンシャル34から左右の前輪FWに駆動力を伝達する回転軸である。
フロントドライブシャフト35には、サスペンションのストローク及び前輪FWの転舵に追従するため、回転方向を変換するユニバーサルジョイント等が設けられている。
【0020】
トランスファクラッチ40は、変速機20の出力軸と、後輪駆動力伝達機構50のプロペラシャフト51の前端部との間に設けられた締結要素である。
トランスファクラッチ40は、変速機20の出力軸からプロペラシャフト51に伝達されるトルクを、拘束力の調整によって変更可能な油圧式あるいは電磁式などの湿式多板クラッチを有する。
トランスファクラッチ40は、変速機20の出力軸に接続された前軸と、プロペラシャフト51の前端部に接続された後軸との拘束力を、ロック状態(直結状態)から、不可避的に生じるフリクション以外にはトルク伝達が行われないフリー状態(解放状態)までの間で、連続的に変化させることが可能である。
トランスファクラッチ40は、前輪駆動力伝達機構30と後輪へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構50との差回転を拘束する前後輪差回転拘束部である。
【0021】
前輪駆動力伝達機構30のドライブギヤ31、ドリブンギヤ、ピニオンシャフト33、フロントディファレンシャル34、及び、トランスファクラッチ40は、変速機20と共通の筐体である図示しないトランスミッションケースの内部に収容される。
【0022】
後輪駆動力伝達機構50は、トランスファクラッチ40を介して伝達される変速機20の出力軸の回転を、左右の後輪RWに伝達する動力伝達機構である。
後輪駆動力伝達機構50は、プロペラシャフト51、リアディファレンシャル52、リアドライブシャフト53等を有する。
【0023】
プロペラシャフト51は、トランスファクラッチ40の後軸からリアディファレンシャル52へ駆動力を伝達する回転軸である。
リアディファレンシャル52は、プロペラシャフト51から伝達される駆動力を、左右のリアドライブシャフト53に伝達するとともに、左右の後輪RWの回転速度差を吸収する差動機構である。
リアディファレンシャル52には、プロペラシャフト51の回転速度を所定の最終減速比で減速してリアドライブシャフト53に伝達する最終減速装置が設けられている。
リアドライブシャフト53は、リアディファレンシャル52から左右の後輪RWに駆動力を伝達する回転軸である。
リアドライブシャフト53には、サスペンションのストロークに追従するため、回転方向を変換するユニバーサルジョイント等が設けられている。
【0024】
エンジン制御ユニット110は、エンジン10及びその補機類を統括的に制御する装置である。
エンジン制御ユニット110は、例えばドライバのアクセル操作量などに応じて要求トルクを設定し、エンジン10が実際に発生するトルク(実トルク)が要求トルクに一致するようエンジン10の出力を制御する。
エンジン制御ユニット110は、エンジン10の実トルクの推定値(通常は要求トルクと一致する)を、駆動力配分制御ユニット130に伝達する。
【0025】
トランスミッション制御ユニット120は、変速機20及びその補機類を統括的に制御する装置である。
トランスミッション制御ユニット120は、変速機20における変速比や、トルクコンバータ21におけるロックアップクラッチの締結力を制御する機能を有する。
トランスミッション制御ユニット120は、変速比20の変速比、及び、トルクコンバータ21がトルク増幅作用を発生している場合にはトルク比に関する情報を、駆動力配分制御ユニット130に伝達する。
【0026】
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファクラッチ駆動部140を介してトランスファクラッチ40の締結力を制御することにより、前後軸の駆動力配分を制御する装置である。
駆動力配分制御ユニット130は、車両1の通常走行時(後述するピッチング挙動の発生時以外)には、現在の車両1の走行状態(例えば、加減速状態、旋回状態等)に応じて、前後駆動力配分の目標値を設定するとともに、この目標値に応じてトランスファクラッチ40の締結力を制御する。
駆動力配分制御ユニット130は、このような通常走行時の前後駆動力配分の目標値を、車両1の走行状態に基づいて読み出されるマップ値として保持することができる。
また、駆動力配分制御ユニット130は、車体Bへの所定の入力(加速度等)に対するピッチング挙動の大きさの増加に応じて、トランスファクラッチ40の拘束力を増加させる前後輪差回転拘束制御部として機能する。
【0027】
駆動力配分制御ユニット130には、車速センサ131,132、舵角センサ133、加速度センサ134、ヨーレートセンサ135、サスペンションストロークセンサ136等が接続されている。
車速センサ131,132は、それぞれ前輪FW、後輪RWの回転速度(角速度)に応じた車速信号を出力するセンサである。
車速センサ131,132は、前輪FW,後輪RWを回転可能に支持するハブ部に設けられる。
車速センサ131,132は、左右の前輪FW,後輪RWにそれぞれ設けられている。
【0028】
舵角センサ133は、乗員(ドライバ)が操舵操作を行うステアリングホイールの角度位置(ハンドル角)を検出するセンサである。
駆動力配分制御ユニット130は、舵角センサ133が検出するハンドル角、及び、図示しないステアリングギヤボックスのギヤ比(定数)に基づいて、前輪FWの舵角を演算可能となっている。
舵角センサ133は、本発明の直進状態判別部として機能する。
加速度センサ134は、車体に作用する前後方向、及び、左右方向(車幅方向)の加速度を検出するセンサである。
ヨーレートセンサ135は、車体の鉛直軸回りの自転速度であるヨーレートを検出するセンサである。
【0029】
サスペンションストロークセンサ136は、前輪FW、後輪RWをそれぞれ車体に対して上下方向にストローク可能に支持する前後サスペンション装置に設けられ、ストローク方向の変位を検出するセンサである。
駆動力配分制御ユニット130は、サスペンションストロークセンサ136の出力に基づいて、車体Bのピッチ角を算出する。
【0030】
エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120、駆動力配分制御ユニット130は、例えば、CPUなどの情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイクロコンピュータとして構成することができる。
エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120、駆動力配分制御ユニット130は、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは、直接に、通信可能に接続されている。
【0031】
トランスファクラッチ駆動部140は、トランスファクラッチ40の締結力を制御する装置である。
トランスファクラッチ駆動部140は、例えばトランスファクラッチ40が油圧式である場合には、トランスファクラッチ40において締結力の発生源となる油圧を調整する機能を有する。
トランスファクラッチ駆動部140は、変速機20に設けられた図示しないオイルポンプから供給される油圧を、調圧してトランスファクラッチ40に供給する調圧弁を備えている。
トランスファクラッチ駆動部140は、駆動力配分制御ユニット130からの指示値に応じて、トランスファクラッチ40の油圧を制御することで拘束力を調整する。
【0032】
車両1は、以下説明するリアサスペンション装置を有する。
図2は、第1実施形態の車体挙動制御装置を有する車両のリアサスペンション装置の構成を模式的に示す図である。
図2は、右の後輪RWを支持するリアサスペンション装置を車幅方向外側から見た状態を示している。
図2においては、理解を容易にするために、リアサスペンション装置の構成のうち、車幅方向から見たときのストローク時の車輪中心Cの挙動に支配的な要素のみを図示している。(後述する
図7乃至
図9において同様)
【0033】
第1実施形態において、リアサスペンション装置210は、例えば、トレーリングリンクアーム式のものである。
後輪RWが取り付けられる図示しないハブベアリングハウジングは、トレーリングアーム211を介して、車体Bに取り付けられている。
トレーリングアーム211は、後輪RWの車輪中心Cから前方側かつ斜め上方側へ突出している。
トレーリングアーム211の前端部212は、車輪中心Cに対して前方側かつ上方側において、車体Bに対し、車幅方向に沿った中心軸回りに揺動可能に連結されている。
【0034】
このようなトレーリングアーム式のリアサスペンション装置210においては、ストローク時における車輪中心Cの軌跡は、
図2に一点鎖線で示すように、トレーリングアーム211の前端部212を中心とする円弧状となる。
この場合、リアサスペンション装置210がバウンド方向(縮方向)にストロークした場合、車輪中心Cは、車体Bに対して上昇しつつ後退する。
また、リアサスペンション装置210がリバウンド方向(伸方向)にストロークした場合、車輪中心Cは、車体Bに対して下降しつつ前進する。
【0035】
車両1に入力(前後加速度等)があった場合のピッチング挙動は、積載状態等による重心位置変化等の影響を受ける。
図3は、車両の積載状態とピッチング挙動との関係を模式的に示す図である。
図3は、上段から順に、通常状態、ルーフトップ積載状態、荷室積載状態を示し、各段の左側は停止時(前後加速度が作用しないとき)を示し、右側は加速時の状態を示している。
車両の加速時には、重心CGに車体に対して後方側への加速度が作用することにより、車体は前部が上昇しかつ後部が下降する方向へのピッチング挙動が発生する。
【0036】
図3の中段に示すルーフトップ積載状態は、ルーフの上側にキャリア等を用いて重量物Wを搭載した状態である。
この場合、上段に示す通常状態に対して重心高が高くなり、重心CGに加速度が作用した場合に車体Bにピッチング挙動を生じさせるモーメントが増大される。
これにより、例えば通常状態と同じ加速度が重心CGに作用した場合のピッチング挙動の振幅は、ルーフトップ積載状態のほうが大きくなる。(ピッチング挙動に対する抵抗力が低下する。)
【0037】
図3の下段に示す荷室積載状態は、車両後部に設けられる荷室(ラゲッジルーム)に重量物Wを搭載した状態である。
この場合、上段に示す通常状態に対して重心位置が後退し、この場合にも重心CGに加速度が作用した場合に車体にピッチング挙動を生じさせるモーメントが増大される。
これにより、例えば通常状態と同じ加速度が重心CGに作用した場合のピッチング挙動の振幅は、荷室積載状態のほうが大きくなる。(ピッチング挙動に対する抵抗力が低下する。)
さらに、荷室積載状態においては、停止時の状態において、既に通常状態に対して車体後部が下降する方向に傾斜した状態となり、この状態から加速した場合、乗員は実際のピッチング挙動以上にピッチング挙動が大きい印象を受けることになる。
【0038】
第1実施形態においては、以下説明する制御により、通常状態に対して車体のピッチング挙動の振幅が増大する状態であっても、ピッチング挙動を通常状態に近づけるようにしている。
図4は、第1実施形態の車体挙動制御装置におけるピッチング挙動抑制制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0039】
<ステップS01:直進判別>
駆動力配分制御ユニット130は、舵角センサ133の出力に基づいて前輪FWの舵角を算出する。
舵角がゼロ又は所定の微小値である場合には、車両1が直進状態にあるものとしてステップS02に進み、その他の場合は車両1が旋回状態にあるものとしてステップS09に進む。
【0040】
<ステップS02:前後加速度判断>
駆動力配分制御ユニット130は、加速度センサ134の出力に基づいて車体に作用する前後方向の加速度を演算する。
車体に前後方向の加速度が発生している場合(一例として、絶対値が所定値以上の加速度が検出された場合)は、車体Bにピッチング挙動が発生している可能性が高いものとしてステップS03に進み、その他の場合はステップS09に進む。
【0041】
<ステップS03:ピッチ角演算>
駆動力配分制御ユニット130は、サスペンションストロークセンサ136の出力に基づいて、車体のピッチング振動における最大振幅時のピッチ角を算出する。
その後、ステップS04に進む。
【0042】
<ステップS04:ピッチ角を第1閾値と比較>
駆動力配分制御ユニット130は、ステップS03において算出したピッチ角を、予め設定された第1閾値と比較する。
第1閾値は、例えば、車両1の積載状態が標準的な状態にあるときにおける前後加速度に対するピッチ角(ピッチ剛性)とすることができる。この場合、事前の試験あるいはシミュレーションで取得したデータをもとに設定した1次近似式によって、第1閾値を算出することができる。
ピッチ角が第1閾値以上である場合は、車体Bのピッチング挙動の振幅が通常状態に対して大きくなりやすい状態(ピッチング挙動への抵抗力が低い状態)にあるものとして、ステップS06に進み、その他の場合はステップS05に進む。
【0043】
<ステップS05:ピッチ角を第2閾値と比較>
駆動力配分制御ユニット130は、ステップS03において算出したピッチ角を、予め設定されかつ第1閾値よりも小さい第2閾値と比較する。この第2閾値も、第1閾値と同様に、1次近似式によって算出することができる。
ピッチ角が第2閾値未満である場合は、車体のピッチング挙動の振幅が通常状態に対して大きくなりにくい状態(ピッチング挙動への抵抗力が高い状態)にあるものとして、ステップS08に進み、その他の場合はステップS07に進む。
【0044】
<ステップS06:トランスファトルク増加>
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファクラッチ40の拘束力(締結力)を従前の値よりも増加させ、トランスファクラッチ40の伝達トルク(トランスファトルク)を増加させる。
その後、一連の処理を終了する。
【0045】
<ステップS07:トランスファトルク維持>
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファクラッチ40の拘束力(締結力)を従前の値のまま維持し、トランスファトルクを維持する。
その後、一連の処理を終了する。
【0046】
<ステップS08:トランスファトルク減少>
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファクラッチ40の拘束力(締結力)を従前の値よりも減少させ、トランスファトルクを減少させる。
その後、一連の処理を終了する。
【0047】
<ステップS09:トランスファトルク通常時制御>
駆動力配分制御ユニット130は、予め準備された前後駆動力配分のマップ値に基づいて、通常時のトランスファクラッチ40の拘束力(締結力)制御を実行する。
このときのトランスファクラッチ40の拘束力は、車両1が旋回状態にある場合には、例えば、車両の旋回性能に最適化された旋回時拘束力となる。
その後、一連の処理を終了する。
なお、以上説明した一連の処理は、トランスファクラッチ40の拘束力制御後に逐次リスタートし、フィードバック制御することができる。これにより、車両1のピッチング挙動に関する特性を、常に通常状態に近づけることができる。
【0048】
以下、トランスファクラッチ40の拘束力増加によって車体のピッチング挙動を抑制可能な原理について説明する。
図5は、車両のピッチング挙動と内部循環トルクとの関係を模式的に示す図である。
図5(a)は、前傾(ノーズダイブ)から後傾(ノーズアップ)への変化時を示し、
図5(b)は、後傾から前傾への変化時を示している。
【0049】
車両1のようなAWD車において、ピッチング挙動が生じ、フロントサスペンション、リアサスペンションに逆位相のストロークが発生すると、
図5に示すように、前輪FWが車体に対して回転するため、前輪FW、後輪RWにスリップが発生し、トランスファクラッチ40を介して前輪駆動力伝達機構30と後輪駆動力伝達機構50との間でやり取りされる内部循環トルクが発生する。
【0050】
図5(a)に示すように、前傾から後傾へ姿勢変化する場合には、リアサスペンションは、リバウンド状態からバウンド状態へ変化する。
この場合、後輪RWの車輪中心Cが車体Bに対して後退することにより、ホイールベースは伸び方向に変化することになる。
この際、後輪RWには、内部循環トルクによって駆動力がかかる。
そのため、後輪RWの車輪中心Cは、
図2に示す軌跡に沿って、リバウンドからバウンド方向(下から上)に移動する。このとき、駆動力の車輪中心Cの軌跡の接線方向力が下向きにかかるため、車輪中心Cの移動が妨げられる。
これにより、リアサスペンションのストロークが減少し、結果として車体Bが前傾から後傾へ推移する際のストローク量が減少する。
【0051】
図5(b)に示すように、後傾から前傾へ姿勢変化する場合には、リアサスペンションは、バウンド状態からリバウンド状態へ変化する。
この場合、後輪RWの車輪中心Cが車体Bに対して前進することにより、ホイールベースは縮方向に変化することになる。
この際、後輪RWには、内部循環トルクによって制動力がかかる。
そのため、後輪RWの車輪中心Cは、
図2に示す軌跡に沿って、バウンドからリバウンド方向(上から下)に移動する。このとき、駆動力の車輪中心Cの軌跡の接線方向力が上向きにかかるため、車輪中心Cの移動が妨げられる。
これにより、リアサスペンションのストロークが減少し、結果として車体Bが後傾から前傾へ推移する際のストローク量が減少する。
【0052】
以上説明したように、リアサスペンションのストロークが減少することで、車体(ばね上部分)のピッチング挙動の変化量(振幅)は減少する。
ここで、内部循環トルクは、差動制限機構(LSD)であるトランスファクラッチ40の締結トルクによって調整することが可能であり、トランスファクラッチ40がロックされた状態において内部循環トルクは最大となる。
内部循環トルクが大きいほど上述した制駆動力は大きくなることから、トランスファクラッチ40の拘束力(トランスファトルク)を制御することで、ピッチング挙動を制御することが可能となる。
【0053】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1実施形態によれば、車体Bのピッチング挙動の発生に応じて、トランスファクラッチ40の拘束力を増加させることで、前輪駆動力伝達機構30と後輪駆動力伝達機構50との間でやり取りされるトランスファトルク(内部循環トルク)を増加させることができる。
このような内部循環トルクは、前輪FWと後輪RWの差回転を拘束することで、サスペンション装置のストロークに応じてホイールベースが変動する際に抗力として作用することから、サスペンションストロークを抑制する効果を有し、車体Bのピッチング挙動を抑制することができる。
このようなトランスファクラッチ40は、前後輪を駆動する4輪駆動(AWD)の車両であれば一般的に設けられるものであり、車両1にピッチング挙動を抑制するために新規かつ専用のハードウェアを設ける必要がなく、簡単な構成によりピッチング挙動を抑制することができる。
(2)車体Bの所定の前後加速度に対するピッチ角の大きさが所定の閾値に対して大きい場合に、トランスファクラッチ40の拘束力を通常時に対して増加させる構成とすることにより、例えば積載状態などにより車体Bのピッチング挙動が増大しやすい状態にある場合に、ピッチング挙動を通常状態に近づけるよう抑制することができる。
(3)トランスファクラッチ40の拘束力増加によるピッチング挙動の抑制を直進時にのみ行うことにより、旋回時におけるトランスファクラッチ40の拘束力を、旋回性能を向上するよう最適化することが可能となり、本発明の適用による旋回性能への影響を抑制することができる。
【0054】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した車体挙動制御装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と共通する箇所については説明を省略し、主に相違点について説明する。
第2実施形態の車体挙動制御装置においては、車両1のピッチング挙動に起因して発生する前輪FWと後輪RWとの制駆動力差の増加に応じて、トランスファクラッチ40の拘束力を増加させることを特徴とする。
図6は、第2実施形態の車体挙動制御装置におけるピッチング挙動抑制制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0055】
<ステップS11:直進判別>
駆動力配分制御ユニット130は、舵角センサ133の出力に基づいて前輪FWの舵角を算出する。
舵角がゼロ又は所定の微小値である場合には、車両1が直進状態にあるものとしてステップS12に進み、その他の場合は車両1が旋回状態にあるものとしてステップS20に進む。
【0056】
<ステップS12:前後加速度判断>
駆動力配分制御ユニット130は、加速度センサ134の出力に基づいて車体に作用する前後方向の加速度を演算する。
車体に前後方向の加速度が発生している場合(一例として、絶対値が所定値以上の加速度が検出された場合)は、車体Bにピッチング挙動が発生している可能性が高いものとしてステップS13に進み、その他の場合はステップS20に進む。
【0057】
<ステップS13:ピッチ角演算>
駆動力配分制御ユニット130は、サスペンションストロークセンサ136の出力に基づいて、車体のピッチング振動における最大振幅時のピッチ角を算出する。
その後、ステップS14に進む。
【0058】
<ステップS14:前後駆動力差によるトルクT
i算出>
駆動力配分制御ユニット130は、ピッチング挙動に応じた前輪FWと後輪RWとの駆動力差によってトランスファクラッチ40に入力されるトルクT
iを算出する。
駆動力配分制御ユニット130は、制駆動力差出力部としての機能を有する。
トルクT
iは、以下の式により算出する。
【数1】
T
i:前輪と後輪の制駆動力差によるトルク
K(μ):ドライビングスティフネス
V
f:前輪FWの車輪速
V
r:後輪RWの車輪速
V:車速
R
f:前輪FWのタイヤ動荷重半径
R
r:後輪RWのタイヤ動荷重半径
その後、ステップS15に進む。
【0059】
<ステップS15:トランスファトルクTTRFとトルクTiの比較>
駆動力配分制御ユニット130は、現在のトランスファクラッチ40の伝達トルクであるトランスファトルクTTRFを、ステップS14で求めた制駆動力差によるトルクTiと比較する。
TTRF>Tiである場合はステップS17に進み、その他の場合はステップS16に進む。
【0060】
<ステップS16:トランスファトルクTTRF限界値とトルクTiの比較>
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファクラッチ40によって発生可能なトランスファトルクTTRFの限界値(最大値)を、ステップS14で求めた制駆動力差によるトルクTiと比較する。
トランスファトルクTTRFの限界値は、例えば、車両固有の定数として予め取得しておくことができる。
TTRF限界値>Tiである場合はステップS18に進み、その他の場合はステップS19に進む。
【0061】
<ステップS17:トランスファトルクTTRF維持>
駆動力配分制御ユニット130は、現在のトランスファトルクTTRFにおいて、制駆動力差によるトルクTiによるスリップが発生しないロック状態を維持できるものとして、トランスファクラッチ40の拘束力を維持(トランスファトルクTTRFを維持)する。
その後、一連の処理を終了する。
【0062】
<ステップS18:トランスファトルクTTRF=Ti>
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファトルクTTRFが制駆動力差によるトルクTiと一致するよう、トランスファクラッチ40の拘束力を制御する。
これにより、トランスファクラッチ40はスリップが発生しないロック状態に維持される。
その後、一連の処理を終了する。
【0063】
<ステップS19:トランスファトルクTTRF=限界値>
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファクラッチ40の拘束力(締結力)を許容された最大値とし、トランスファトルクTTRFを限界値とする。
この場合には、制駆動力差によるトルクTiがトランスファトルクTTRFを上回ることにより、トランスファクラッチ40のスリップが生じることは避けられないが、トランスファクラッチ40の拘束力制御によって得られる最大限のピッチング挙動抑制効果を得ることができる。
その後、一連の処理を終了する。
【0064】
<ステップS20:トランスファトルク通常時制御>
駆動力配分制御ユニット130は、予め準備された前後駆動力配分のマップ値に基づいて、通常時のトランスファクラッチ40の拘束力(締結力)制御を実行する。
その後、一連の処理を終了する。
【0065】
以上説明した第2実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)サスペンション装置210のストロークに伴うホイールベース変化に起因する前輪FWと後輪RWとの制駆動力差によるトルクTiの増加に応じて、トランスファクラッチ40の拘束力に応じたトランスファトルクTTRFを増加させることにより、内部循環トルクによるサスペンション装置210のストローク抑制効果を確保し、車体Bのピッチング挙動を効果的に抑制することができる。
(2)トランスファトルクTTRFが限界値に達するまでの領域においては、ピッチング挙動に起因する制駆動力差と同等以上の制駆動力差をトランスファトルクTTRF(内部循環トルク)によって発生させることにより、ピッチング挙動を効果的に抑制することができる。
【0066】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用する車体挙動制御装置の第3実施形態について説明する。
第3実施形態の車体挙動制御装置は、第1、第2実施形態のトレーリングアーム式のサスペンション装置に代えて、以下説明するストラット式のサスペンション装置220を有する車両に設けられる。
図7は、第3実施形態の車体挙動制御装置を有する車両のリアサスペンション装置の構成を模式的に示す図である。
【0067】
リアサスペンション装置220は、ストラット221を有する。
ストラット221は、サスペンションのストローク速度に応じた減衰力を発生する油圧式のショックアブソーバ(ダンパ)を有する。
ストラット221は、伸縮方向(ショックアブソーバのロッド軸線方向)を、鉛直方向に対して、上端部が下端部に対して車両後方側となるように後傾させて配置される。
【0068】
ストラット211の上端部は、例えばゴム等の弾性体マウントを介して車体Bに取り付けられる。
ストラット211の下端部は、後輪RWを支持するハブベアリングハウジングに結合される。
このようなリアサスペンション装置220においても、第1実施形態のリアサスペンション装置210と同様に、バウンド方向(縮方向)にストロークした場合、車輪中心Cは、車体Bに対して上昇しつつ後退する。
また、リアサスペンション装置220がリバウンド方向(伸方向)にストロークした場合、車輪中心Cは、車体Bに対して下降しつつ前進する。
【0069】
以上説明した第3実施形態においても、上述した第1実施形態又は第2実施形態と同様のトランスファクラッチ40の拘束力制御を行うことにより、第1実施形態、第2実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0070】
<第4実施形態>
次に、本発明を適用した車体挙動制御装置の第4実施形態について説明する。
第4実施形態の車体挙動制御装置は、第1、第2実施形態のトレーリングアーム式のサスペンション装置に代えて、以下説明するダブルウィッシュボーン式のリアサスペンション装置230を有する車両に設けられる。
図8は、第4実施形態の車体挙動制御装置を有する車両のリアサスペンション装置の構成を模式的に示す図である。
【0071】
リアサスペンション装置230は、フロントアッパリンク231、リアアッパリンク232、フロントロワリンク233、リアロワリンク234を有する。
各リンクは、車幅方向内側の端部が車体Bに対して揺動可能に連結され、車幅方向外側の端部が、後輪RWを支持するハブベアリングハウジングHに揺動可能に連結されている。
【0072】
フロントアッパリンク231、リアアッパリンク232は、後輪RWの車輪中心Cに対して上方に配置され、車両前方側から順次配列されている。
フロントロワリンク233、リアロワリンク234は、後輪RWの車輪中心Cに対して下方に配置され、車両前方側から順次配列されている。
【0073】
フロントアッパリンク231の車体B側の端部は、リアアッパリンク232の車体B側の端部よりも高い位置に配置されている。
フロントアッパリンク231のハウジングH側の端部は、リアアッパリンク232のハウジングH側の端部よりも高い位置に配置されている。
フロントロワリンク233の車体B側の端部は、リアロワリンク234の車体B側の端部よりも高い位置に配置されている。
フロントロワリンク233のハウジングH側の端部は、リアロワリンク234のハウジングH側の端部よりも高い位置に配置されている。
【0074】
このような配置によって、リアサスペンション装置230は、第1実施形態のリアサスペンション装置210と同様に、バウンド方向(縮方向)にストロークした場合、車輪中心Cは、車体Bに対して上昇しつつ後退するジオメトリとなっている。
また、リアサスペンション装置230がリバウンド方向(伸方向)にストロークした場合、車輪中心Cは、車体Bに対して下降しつつ前進する。
【0075】
以上説明した第4実施形態においても、上述した第1実施形態又は第2実施形態と同様のトランスファクラッチ40の拘束力制御を行うことにより、第1実施形態、第2実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0076】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車体挙動制御装置、サスペンション装置、車両等の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、走行用動力源の種類や、サスペンション形式などは適宜変更することができる。
(2)各実施形態においては、前輪が変速機の出力軸と直結され、後輪が変速機の出力軸からトランスファクラッチを介して駆動力を伝達される構成であったが、AWDシステムの構成はこれに限らず、適宜変更することができる。
例えば、後輪が変速機の出力軸と直結され、前輪にトランスファクラッチを介して駆動力を構成する構成(いわゆるRWDベースの構成)としてもよい。
また、ベベルギヤ式、プラネタリギヤ式などの機械的なセンターディファレンシャルを介して前後輪に駆動力を伝達するとともに、センターディファレンシャルの前軸、後軸の間にこれらの差回転を拘束するトランスファクラッチを有する構成としてもよい。
(3)各実施形態においては、車体Bのピッチ角を、サスペンションストロークセンサを用いて検出しているが、これに限らず、例えば加速度センサなどの他のセンサを用いてピッチ角を検出してもよい。また、車両の諸元から設定した運動方程式を用いて、数値計算によりピッチ角を算出してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 車両 FW 前輪
RW 後輪 10 エンジン
20 トランスミッション 21 トルクコンバータ
30 前輪駆動力伝達機構 31 ドライブギヤ
32 ドリブンギヤ 33 ピニオンシャフト
34 フロントディファレンシャル 35 フロントドライブシャフト
40 トランスファクラッチ 50 後輪駆動力伝達機構
51 プロペラシャフト 52 リアディファレンシャル
53 リアドライブシャフト
110 エンジン制御ユニット 120 トランスミッション制御ユニット
130 駆動力配分制御ユニット 131 車速センサ
132 車速センサ 133 舵角センサ
134 加速度センサ 135 ヨーレートセンサ
140 トランスファクラッチ駆動部
210 リアサスペンション装置(第1実施形態)
211 トレーリングアーム 212 前端部
220 リアサスペンション装置(第3実施形態)
221 ストラット
230 リアサスペンション装置(第4実施形態)
231 フロントアッパリンク 232 リアアッパリンク
233 フロントロワリンク 234 リアロワリンク