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  • 特開-液晶ポリエステル樹脂 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108563
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/60 20060101AFI20240805BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240805BHJP
   C08L 67/03 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C08G63/60
C08K3/013
C08L67/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012992
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】林 遼太朗
(72)【発明者】
【氏名】戸田 翔伍
(72)【発明者】
【氏名】藤原 久成
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF161
4J002CL062
4J002DA016
4J002DA026
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE186
4J002DE266
4J002DG046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DK006
4J002DL006
4J002FA042
4J002FA046
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD090
4J002FD160
4J002GQ00
4J029AA05
4J029AA06
4J029AB01
4J029AD01
4J029AD06
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029BB05A
4J029BB10A
4J029CB06A
4J029CC06A
4J029EB05A
4J029HB02
4J029HB05
4J029JA051
4J029JA091
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC731
4J029JF031
4J029JF041
4J029JF321
4J029JF371
4J029JF471
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】
【課題】本発明は、機械強度を維持しつつ、流動性および成形加工性に優れた液晶ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、式[I]~[V]
【化1】
[式中、p、q、r、sおよびtは、それぞれ各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:15≦p≦30、5≦q≦25、15≦r≦35、10≦s≦30、10≦t≦30、q<r、p+q+r+s+t=100]
で表される繰返し単位を含んで構成される液晶ポリエステル樹脂に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]~[V]
【化1】
[式中、p、q、r、sおよびtは、それぞれ各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
15≦p≦30、
5≦q≦25、
15≦r≦35、
10≦s≦30、
10≦t≦30、
q<r、
p+q+r+s+t=100]
で表される繰返し単位を含んで構成される液晶ポリエステル樹脂。
【請求項2】
r/qは1.05~5.0を満たす、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項3】
剪断速度1000sec-1の条件下で測定した結晶融解温度+17~23℃における溶融粘度が1~200Pa・sである、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項4】
流動長は10~40mmである、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項5】
請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂と無機充填材および/または有機充填材を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
無機充填材および/または有機充填材は、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上である、請求項5に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂あるいは請求項5または6に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される、成形品、フィルムまたは繊維からなる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械強度を維持しつつ、流動性および成形加工性に優れた液晶ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、流動性が良好であり、また、バリが出にくいという特徴を有し、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等にも優れるため、複雑な形状を有する電気・電子部品において、その使用量が増大している。
【0003】
近年、情報技術(IT)の急成長に伴い、情報・通信分野においては電気電子部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化等が進んでおり、0.5mm以下の非常に薄い部分が形成されるケースが多く、このような部分(薄肉部)においても樹脂が完全に充填するような良好な流動性が求められている。一般に液晶ポリエステルは他の樹脂に比べて流動性に優れているが、このような薄肉化が要求される場合には、機械強度を維持しつつ、さらなる流動性の向上が要求されるようになってきている。
【0004】
液晶ポリエステルは、溶融粘度を低下させたり、充填剤や他の樹脂とブレンドしたりすることで流動性が向上することが知られている。例えば、特定の溶融粘度以下の液晶ポリエステル樹脂と板状または粒状の充填剤からなる流動性に優れた液晶ポリエステル樹脂組成物(特許文献1)、液晶ポリエステル100重量部に対して、p-ヒドロキシ安息香酸の繰り返し単位を主成分とするオリゴマーを0.5~10重量部添加してなる流動性の改良された液晶ポリエステル樹脂組成物(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-197555号公報
【特許文献2】特開平3-095260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの方法で流動性は向上するものの、さらに薄肉の成形品を成形するために射出成形温度を高くすると、射出成形時にノズルから樹脂が垂れ出すハナ垂れ現象(あるいはドローリング現象とも呼ばれる)や、型開きの際に製品の離型性が不良になる糸引き現象を引き起こす恐れがあり、成形加工性に問題を有していた。
【0007】
本発明の目的は、機械強度を維持しつつ、流動性および成形加工性に優れた液晶ポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の繰返し単位を構成成分とすることによって、機械強度を維持しつつ、流動性および成形加工性に優れた液晶ポリエステル樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]式[I]~[V]
【化1】
[式中、p、q、r、sおよびtは、それぞれ各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
15≦p≦30、
5≦q≦25、
15≦r≦35、
10≦s≦30、
10≦t≦30、
q<r、
p+q+r+s+t=100]
で表される繰返し単位を含んで構成される液晶ポリエステル樹脂。
[2]r/qは1.05~5.0を満たす、[1]に記載の液晶ポリエステル樹脂。
[3]剪断速度1000sec-1の条件下で測定した結晶融解温度+17~23℃における溶融粘度が1~200Pa・sである、[1]または[2]に記載の液晶ポリエステル樹脂。
[4]流動長は10~40mmである、[1]~[3]のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂と無機充填材および/または有機充填材を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
[6]無機充填材および/または有機充填材は、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上である、[5]に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
[7][1]~[4]のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂あるいは[5]または[6]に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される、成形品、フィルムまたは繊維からなる物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械強度を維持しつつ、流動性および成形加工性に優れた液晶ポリエステル樹脂を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例および比較例の引張強度試験で用いたダンベル状試験片の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂と呼ばれる、異方性溶融相を形成する液晶ポリエステル樹脂である。
【0013】
液晶ポリエステル樹脂の異方性溶融相の性質は、直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0014】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、式[I]~[V]
【化2】
[式中、p、q、r、sおよびtは、それぞれ各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
15≦p≦30、
5≦q≦25、
15≦r≦35、
10≦s≦30、
10≦t≦30、
q<r、
p+q+r+s+t=100]
で表される繰返し単位を含んで構成される。
【0015】
式[I]に係る組成比pは15~30モル%であり、16~24モル%が好ましく、18~22モル%がより好ましく、19~21モル%がさらに好ましく、19.5~20.5モル%が特に好ましい。
【0016】
式[I]で表される繰返し単位が15モル%未満であると機械強度の維持が難しく、30モル%を超えると結晶融解温度が下がることで耐熱性が悪化する。
【0017】
式[I]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0018】
式[II]に係る組成比qは5~25モル%であり、7~20モル%が好ましく、8~15モル%がより好ましく、9~12モル%がさらに好ましく、9.5~11モル%が特に好ましい。
【0019】
式[II]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、ハイドロキノン、ならびにこのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
式[III]に係る組成比rは15~35モル%であり、20~33モル%が好ましく、25~32モル%がより好ましく、27~31モル%がさらに好ましく、29~30.5モル%が特に好ましい。
【0021】
式[III]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、4,4´-ジヒドロキシビフェニル、ならびにこのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
式[IV]に係る組成比sは10~30モル%であり、15~28モル%が好ましく、18~26モル%がより好ましく、19~22モル%がさらに好ましく、19.5~20.5モル%が特に好ましい。
【0023】
式[IV]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、テレフタル酸、ならびにこのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
式[V]に係る組成比tは10~30モル%であり、15~28モル%が好ましく、18~26モル%がより好ましく、19~22モル%がさらに好ましく、19.5~20.5モル%が特に好ましい。
【0025】
式[V]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ならびにこのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
式[II]に係る組成比qと式[III]に係る組成比rは、q<rを充足し、r/qが1.05~5.0であるのが好ましく、1.5~4.5であるのがより好ましく、2.0~4.0であるのがさらに好ましく、2.5~3.5であるのが特に好ましい。
【0027】
本発明の液晶ポリエステル樹脂における繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s+t]は、100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0028】
他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0029】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0030】
以下、本発明の液晶ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の製造方法には特に限定はなく、前記の単量体成分によるエステル結合を形成させる公知の重縮合法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0032】
溶融アシドリシス法とは、本発明の液晶ポリエステル樹脂を製造するのに適した方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリエステルを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0033】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0034】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリエステル樹脂を製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0035】
単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステル樹脂の製造時にモノマーに無水酢酸などのアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0036】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0037】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BFなど)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0038】
触媒の使用量は、モノマー質量に対し10~1000ppmが好ましく、20~200ppmがより好ましい。
【0039】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、成形加工や溶融混練に供される。
【0040】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステル樹脂は、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または窒素やヘリウムなど不活性ガスの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0041】
熱処理の温度は、液晶ポリエステル樹脂が溶融しない範囲において特に限定されないが、好ましくは260~350℃、より好ましくは280~320℃である。
【0042】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度(キャピラリーレオメーターで測定、結晶融解温度+17~23℃、1000s-1)は、1~200Pa・sであるのが好ましく、5~100Pa・sであるのがより好ましく、10~80Pa・sであるのがさらに好ましく、25~40Pa・sであるのが特に好ましい。
【0043】
溶融粘度が1Pa・s未満であるとハナ垂れ現象や糸引き現象が発生しやすくなる傾向があり、200Pa・sを超えると機械強度が減少する傾向がある。
【0044】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の流動長は10~40mmであるのが好ましく、13~30mmであるのがより好ましく、17~25mmであるのがさらに好ましく、19~22mmであるのが特に好ましい。尚、本明細書における流動長は、後述の実施例に記載の測定方法によって測定された値である。
【0045】
上記のようにして得られた本発明の液晶ポリエステル樹脂は、無機充填材および/または有機充填材、添加剤や他の樹脂成分などを含有した液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0046】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が含有してもよい無機充填材および/または有機充填材の具体例としては、例えば、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらの充填材は単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0047】
これらの中では、タルクおよびガラス繊維が、機械物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0048】
無機充填材および/または有機充填材を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがより好ましい。
【0049】
無機充填材および/または有機充填材の含有量が1質量部以上であると液晶ポリエステル樹脂組成物について機械強度の向上効果が得られやすい。無機充填材および/または有機充填材の含有量が150質量部を超えると、流動性が低下する傾向がある。
【0050】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が含有してもよい他の添加剤の具体例としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10~25のものをいう)などの滑剤、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型剤、染料、顔料、カーボンブラックなどの着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0051】
これらの添加剤を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル樹脂の合計量100質量部に対する合計量として、0.01~10質量部が好ましく、0.1~3質量部がより好ましい。
【0052】
添加剤の添加により機能を発現させる場合、その含有量が0.01質量部未満であると、添加剤の機能が実現しにくくなる傾向があり、10質量部を超えると、液晶ポリエステル樹脂組成物の成形加工時の熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0053】
また、上記他の添加剤のうち、滑剤、離型剤などの添加剤を使用する場合は、液晶ポリエステル樹脂組成物を作製する際に添加してもよいし、成形加工の際に液晶ポリエステル樹脂のペレット表面に付着させてもよい。
【0054】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が含有してもよい他の樹脂成分の具体例としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂成分は単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記他の樹脂成分を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1~100質量部が好ましく、0.5~80質量部がより好ましい。
【0056】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂、ならびに、無機充填材および/または充填材、添加剤または他の樹脂成分を混合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度近傍から結晶融解温度+50℃の温度条件で溶融混練して得ることができる。
【0057】
このようにして得られた本発明の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形など公知の加工方法によって成形品、フィルムまたは繊維などの物品に加工される。
【0058】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0059】
実施例における各物性値は以下の方法によって測定した。
【0060】
〈結晶融解温度〉
セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量計(DSC)Exstar6000を用いて測定を行った。液晶ポリマーの試料を、40℃から20℃/分の昇温条件下で375℃まで昇温させた後に10分間保持する。次いで、20℃/分の降温条件で50℃まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で375℃まで測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とした。また、ピークが複数出た場合はピーク面積の大きい側(融解エンタルピーが大きい側)を結晶融解温度とした。
【0061】
〈溶融粘度〉
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製、キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec-1の条件下、表2に示す測定温度(結晶融解温度+13~23℃)における溶融粘度を測定した。
【0062】
〈流動長(流動性)〉
縦50.0mm、横2.0mm、厚さ0.2mmの長方形バーフロー型試験片を用い、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX-15-1E)を用いて、表1の成形条件にて射出成形し、バーフロー金型に充填した際の流動長を測定した。流動長が長いほど流動性が良いことを示す。
【0063】
【表1】
【0064】
〈引張強度〉
型締め圧15tの射出成形機(住友重機械工業(株)製 MINIMAT M26/15)を用いて、シリンダー温度は表2に示す成形温度、金型温度は70℃で射出成形し、図1の厚み2.0mmのダンベル状試験片を得た。引張試験はINSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離25.4mm、引張速度5mm/分で行った。
【0065】
〈曲げ強度〉
型締め圧15tの射出成形機(住友重機械工業(株)製 MINIMAT M26/15)を用いて、シリンダー温度は表2に示す成形温度、金型温度は70℃で射出成形し、短冊状試験片(長さ65mm×幅12.7mm×厚さ2.0mm)を作製した。曲げ試験は、3点曲げ試験をINSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミティッド社製万能試験機)を用いて、ASTM D790に準拠し、スパン間距離40.0mm、圧縮速度1.3mm/分で行った。
【0066】
〈Izod衝撃強度〉
型締め圧15tの射出成形機(住友重機械工業(株)製MINIMAT M26/15)を用いて、シリンダー温度は表2に示す成形温度、金型温度は70℃で射出成形し、短冊状試験片(長さ65mm×幅12.7mm×厚さ2.0mm)を作製し、ノッチを付した後にASTM D256に準拠して測定した。
【0067】
〈ハナ垂れおよび糸引き〉
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX-15-1E)を用いて流動長(流動性)を測定する際、ハナ垂れおよび糸引きの発生を目視で確認した。それぞれの現象が発生したものを「×」、発生しなかったものを「○」と評価した。ハナ垂れおよび糸引きは発生しない方が成形時のハンドリング性が良く、すなわち成形加工性が良い。
【0068】
実施例において、下記の略号は以下の化合物を表す。
LCP:液晶ポリマー
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
HQ:ハイドロキノン
BP:4,4´-ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
NDA:2,6-ナフタレンジカルボン酸
【0069】
[実施例1]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、HQ、BP、TPAおよびNDAを、下記に示す組成比で総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.05倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間かけて昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、3時間かけて350℃まで昇温した後、30分かけて20mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマー1のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたLCPについて各物性を測定した。結果を表2に示す。
POB :179.8g(20モル%)
HQ :71.7g(10モル%)
BP :363.8g(30モル%)
TPA :216.1g(20モル%)
NDA :281.2g(20モル%)
【0070】
[実施例2~7、比較例1~4]
原料のモノマーを表2のモル%となるように仕込んだ以外は、実施例1と同様にLCPを得た。得られた各LCPについて各物性をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0071】
[比較例5]
原料のモノマーを表2のモル%となるように仕込んだ以外は、実施例1と同様に重合したが、トルク上昇のため攪拌困難となり、反応を中止した。
【0072】
表2から明らかなように、実施例1~7で得られた液晶ポリエステル樹脂は流動性および成形加工性に優れることが理解される。
【0073】
【表2】
図1