(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108566
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】エッチング液の管理方法
(51)【国際特許分類】
C23F 1/18 20060101AFI20240805BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C23F1/18
H01L21/306 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012995
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】木代 深
【テーマコード(参考)】
4K057
5F043
【Fターム(参考)】
4K057WA01
4K057WA10
4K057WB04
4K057WE08
4K057WG03
4K057WG10
4K057WH10
4K057WM19
4K057WM20
4K057WN01
5F043AA26
5F043BB18
5F043EE28
5F043EE30
5F043EE40
(57)【要約】
【課題】従来技術では解決することができなかった、異種金属元素を含む銅合金からなる基材をエッチング液で加工する銅配線基板の製造方法において存在するエッチング液の管理方法に係る問題を解決する。
【解決手段】異種金属元素を含む銅合金からなる基材をエッチング液でエッチングする生産工程、エッチング条件を調整する調整工程、並びに前記生産工程及び前記調整工程以外のアイドリング工程を有する銅配線基板の製造方法における前記エッチング液の管理方法であって、前記生産工程、前記調整工程、及び前記アイドリング工程からなる群から選択される少なくとも1つの工程において、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握することを特徴とする、エッチング液の管理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種金属元素を含む銅合金からなる基材をエッチング液でエッチングする生産工程、エッチング条件を調整する調整工程、並びに前記生産工程及び前記調整工程以外のアイドリング工程を有する銅配線基板の製造方法における前記エッチング液の管理方法であって、
前記生産工程、前記調整工程、及び前記アイドリング工程からなる群から選択される少なくとも1つの工程において、
前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握することを特徴とする、エッチング液の管理方法。
【請求項2】
前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素のピーク濃度、中間濃度、及びボトム濃度の濃度曲線から、溶解している前記異種金属元素の濃度と前記異種金属元素の想定される凝集物の量との対応関係を基に、各工程での前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握することを特徴とする、請求項1に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項3】
前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を原子吸光法で測定することを特徴とする、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項4】
前記アイドリング工程の時間を前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度がボトム濃度に達する時間以上とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項5】
前記アイドリング工程の時間を前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度がボトム濃度に達する時間以下とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項6】
前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに生産回数の上限を設定する、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項7】
前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに前記エッチング液を吐出させるノズル洗浄の時期を設定する、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項8】
前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに前記エッチング液の液交換の時期を設定する、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項9】
前記異種金属元素が主としてチタンであり、前記凝集物が主としてチタン酸化物である、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【請求項10】
前記エッチング液が塩化第二鉄水溶液である、請求項1又は2に記載のエッチング液の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエッチング液の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅配線基板は、銅合金からなる基板にレジスト材料を塗布及びパターニングし、エッチング加工して配線パターンを形成することにより製造される。銅配線基板のエッチング加工では、エッチング液を循環し連続的に繰り返し使用するため、エッチング液中に不溶性の凝集物(沈殿物質、スラッジ)が蓄積し、ノズルや配管が詰まることがある。そのような事象が発生した場合、ノズルや配管の洗浄のため、銅配線基板の製造を長時間にわたり停止せざるを得ず、生産性を大幅に低下させてしまう。
銅合金のエッチング液としては、塩化第二鉄水溶液(鉄液)を使用することが多い。エッチング加工で除去する銅合金中の銅は鉄液中の塩化第二鉄によって酸化され、塩化第二銅となり液中に溶解する。その際、銅合金に含まれる少量の金属元素もイオンとなり空気中の酸素と結合して金属酸化物となるが、特に金属元素がチタンの場合、生成するチタン酸化物は鉄液に溶解性が極めて悪いため、不溶性の凝集物が発生する傾向が顕著となる問題点があった。
【0003】
特許文献1には、エッチング液の成分濃度とともに溶解金属濃度を監視し、成分濃度が一定となるように自動的に補充液を補給するとともに、溶解金属を分離回収するエッチング液管理装置、溶解金属濃度測定装置及び溶解金属濃度測定方法が開示されている。また、特許文献2には、フレキシブルプリント配線板、多層プリント配線板等のプリント配線板の銅回路の形成に利用されるエッチング液中から、エッチング性能に大きな影響を与える銅イオンを除去することで、当該エッチング液の安定化と、その寿命を伸ばすことができ、コストダウンと廃棄物の削減や、環境資源の保護につながるエッチング液の維持管理方法が記載されている。
特許文献1に記載されたエッチング液管理装置や特許文献2に記載されたエッチング液の維持管理方法は、溶解物の濃度を直接測定して管理するだけのものであり、エッチング液中で生成し、ノズルや配管の詰まらせる不溶性の凝集物の量を測定・推測することができない。また測定する物質も本件とは異なっている。
【0004】
特許文献3には、チタン(Ti)の金属層を純水の又はわずかに希釈したフッ化水素酸(HF)によって攻撃することにより除去する工程を有する半導体デバイスの製造方法が記載されている。また、特許文献4には、シリコン基板上の酸化チタン膜に、フッ酸と非酸化性の酸とを含む混合水溶液又はフッ酸と有機酸とを含む混合水溶液を接触させて前記酸化チタン膜を前記シリコン基板から除去する工程を有する酸化チタン膜の除去方法が記載されている。また、特許文献5には、チタン又はチタン合金の表面スケール除去と平滑化を同時に行うためのエッチング方法が記載されている。また、特許文献6には、チタン酸化物に、炭酸及び/又は炭酸塩、オゾン及び水を接触させることを特徴とする、チタン酸化物の溶解法が記載されている。特許文献3に記載された半導体デバイスの製造方法にけるチタンの金属膜のフッ化水素酸による溶解処理、特許文献4に記載された酸化チタン膜の除去方法、及び特許文献5に記載されたチタン又はチタン合金のエッチング方法は、いずれも安全性に大きな問題がある上に製造する製品にも悪影響を及ぼす。特許文献6に記載された方法はフッ化物を使用しないより安全な方法であるが、ほとんど効果がない。
【0005】
非特許文献1には、配管を流れるスラリーの固体粒子の堆積と圧力損失を把握するシミュレーション手法が記載されている。しかし、非特許文献1に記載された配管内のスラリーシミュレーション方法では、エッチング液中で生成する不溶性の凝集物の量を測定・推測することができず、ノズルや配管の詰まりを解決できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-029208号公報
【特許文献2】国際公開第2012/073816号
【特許文献3】特開平2-044721号公報
【特許文献4】国際公開第2014/203600号
【特許文献5】特開2004-043850号公報
【特許文献6】特開2003-226987号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】野々上友也,高橋公紀、「配管内のスラリーシミュレーション」、日揮技術ジャーナル、2014年、第3巻、第3号、p.1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術では解決することができなかった、異種金属元素を含む銅合金からなる基材をエッチング液で加工する銅配線基板の製造方法において存在するエッチング液の管理方法に係る問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様は、異種金属元素を含む銅合金からなる基材をエッチング液でエッチングする生産工程、エッチング条件を調整する調整工程、並びに前記生産工程及び前記調整工程以外のアイドリング工程を有する銅配線基板の製造方法における前記エッチング液の管理方法であって、
前記生産工程、前記調整工程、及び前記アイドリング工程からなる群から選択される少なくとも1つの工程において、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握することを特徴とする、エッチング液の管理方法である。
【0010】
(2)本発明の別の一態様は、また、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素のピーク濃度、中間濃度、及びボトム濃度の濃度曲線から、溶解している前記異種金属元素の濃度と前記異種金属元素の想定される凝集物の量との対応関係を基に、各工程での前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握することを特徴とする、(1)のエッチング液の管理方法である。
【0011】
(3)本発明のまた別の一態様は、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を原子吸光法で測定することを特徴とする、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【0012】
(4)本発明のさらに別の一態様は、前記アイドリング工程の時間を前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度がボトム濃度に達する時間以上とすることを特徴とする、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【0013】
(5)本発明のさらに別の一態様は、前記アイドリング工程の時間を前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度がボトム濃度に達する時間以下とすることを特徴とする、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【0014】
(6)本発明のさらに別の一態様は、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに生産回数の上限を設定する、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【0015】
(7)本発明のさらに別の一態様は、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに前記エッチング液を吐出させるノズル洗浄の時期を設定する、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【0016】
(8)本発明のさらに別の一態様は、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに前記エッチング液の液交換の時期を設定する、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【0017】
(9)本発明のさらに別の一態様は、前記凝集物が主としてチタンであり、前記凝集物が主としてチタン酸化物である、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【0018】
(10)本発明のさらに別の一態様は、前記エッチング液が塩化第二鉄水溶液である、(1)又は(2)のエッチング液の管理方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来技術では解決することができなかった、異種金属元素を含む銅合金からなる基材をエッチング液で加工する銅配線基板の製造方法において存在するエッチング液の管理方法に係る問題を解決することができる。
エッチング液中のスラッジの量は採取して測定、定量が困難であったが、本発明者は、エッチング液を少量採取して金属元素濃度を測定するだけで定量し把握できる新しい簡便な方法を見いだした。また、エッチング工程の進行とスラッジ発生量の関係を見出したことにより、最小限の測定回数でスラッジ発生量の予測が可能となった。このことにより、ノズルや配管の詰まりなどを発生させることない適正な生産間隔、生産回数上限や、ノズルや配管の洗浄時期を設定できるようになった。
【0020】
上記(1)の態様のエッチング液の管理方法によれば、基材のエッチング加工に伴い発生する異種金属元素の想定される凝集物(スラッジ)量を、簡便で安全に把握できる。
【0021】
上記(2)の態様のエッチング液の管理方法によれば、実際にエッチング液を採取して評価する回数は最小限で、発生する前記凝集物(スラッジ)量を把握することができる。
【0022】
上記(3)の態様のエッチング液の管理方法によれば、エッチング液中に溶解している異種金属元素の濃度をより簡便かつ精度よく測定することができ、より精密にエッチング液中で生成する前記凝集物(スラッジ)量を把握することができる。
【0023】
上記(4)の態様のエッチング液の管理方法によれば、複数回の生産を繰り返すときの間隔を、上述したエッチング液の管理方法により適切に設定することができる。
【0024】
上記(5)の態様のエッチング液の管理方法によれば、複数回の生産を繰り返すときの間隔を、上述したエッチング液の管理方法により適切に設定することができる。
【0025】
上記(6)の態様のエッチング液の管理方法によれば、複数回の生産を繰り返すときの回数の上限を、上述したエッチング液の管理方法により適切に設定することができる。
【0026】
上記(7)の態様のエッチング液の管理方法によれば、前記凝集物(スラッジ)によりノズルや配管が詰まる前に洗浄ができるよう、上述したエッチング液の管理方法によりノズルや配管の洗浄時期を適切に決定することができる。
【0027】
上記(8)の態様のエッチング液の管理方法によれば、上述したエッチング液の管理方法により、エッチング液を適切な時期に更新することができる。
【0028】
上記(9)の態様のエッチング液の管理方法によれば、銅合金としてチタン銅を用いる場合に、簡便で安全なエッチング液の管理方法、生産工程管理方法を提供することができる。
【0029】
上記(10)の態様のエッチング液の管理方法によればエッチング液として塩化第二鉄水溶液を用いる場合に、簡便で安全なエッチング液の管理方法、生産工程管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、チタン酸化物の凝集推定メカニズムを説明する模式図である。
【
図2】
図2は、生産完了から時間を経過した際のエッチング液のチタン濃度変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、複数回生産をした際のエッチング液のチタン濃度変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、エッチング処理装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0032】
本発明のエッチング液の管理方法の第一の態様は、異種金属元素を含む銅合金からなる基材をエッチング液でエッチングする生産工程、エッチング条件を調整する調整工程、並びに前記生産工程及び前記調整工程以外のアイドリング工程を有する銅配線基板の製造方法における前記エッチング液の管理方法であって、前記生産工程、前記調整工程、及び前記アイドリング工程からなる群から選択される少なくとも1つの工程において、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握することを特徴とする、エッチング液の管理方法である。本態様のエッチング液の管理方法によれば、基材のエッチング加工に伴い発生する異種金属元素の想定される凝集物(スラッジ)量を、簡便で安全に把握することができる。
【0033】
本発明では、エッチング液に含まれる異種金属元素の濃度の変化を経時的に把握し、最小濃度であるボトム濃度と最大濃度であるピーク濃度を求めておく。異種金属元素の測定時の濃度は通常ボトム濃度とピーク濃度の間の値となる。
【0034】
銅合金にチタン銅を、エッチング液に塩化第二鉄水溶液(鉄液)を用いた例で具体的に説明する。
チタン銅とは、銅に1.5質量%以上5.0質量%以下のチタン(Ti)を含んだ合金である。チタン銅には銅に対して、主として異種金属元素であるチタンを含んでいるが、チタン以外の異種金属元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、P中の1種以上が合計して0質量%以上0.5質量%以下が含まれている。
ここで、「主として」とは、チタン(Ti)の含有量がチタン銅の全異種金属元素の含有量に対して80質量%以上であることと定義する。
【0035】
チタン銅のエッチング加工でチタンがエッチング液中にイオン化し、空気により酸化してチタン酸化物が発生する際、エッチング処理中(生産直前と生産直後の間)は、エッチング液中に数十nmから数百nm程度の大きさで、空気を含み、比重が1.4~1.6以下の軽い浮遊物質として鉄液中に存在し、時間とともに浮遊物質が二次凝集して比重の大きな沈殿物質(凝集物)になる、という浮遊物質と沈殿物質の二種類の形態によりスラッジとなるメカニズムを推定できる(
図1)。
沈殿物質の形態(スラッジ)を採取して測定することは容易ではなく、スラッジ発生量の把握は難しい。しかし、浮遊物質の形態はエッチング液を少量採取して金属元素(チタン)の濃度を測定することで比較的容易に発生量の把握が可能である。推定したメカニズムによれば、沈殿物質は浮遊物質が変化して生成するため、浮遊物質の全体量を把握すれば、発生する沈殿物質のスラッジの発生量も把握できることとなる。
この推定を裏付けるため、エッチング工程において、生産完了から時間を経過(待機)した際のエッチング液のチタン濃度の変化を評価する(
図2)。
生産完了直後にチタン濃度が高いのは、エッチング工程においてチタンがエッチング液中にイオン化し、酸素と急激に反応して浮遊物質の形態のチタン酸化物となるためで、生産完了にチタン濃度が徐々に低下するのは、浮遊物質の形態が徐々に凝集して沈殿物質(凝集物)の形態、すなわちスラッジになっていくためである。
エッチング液中のチタン濃度は一定時間(
図2においては5時間程度)経過すると安定するため、スラッジの量も安定すると推定できる。このため生産完了直後から安定するまでのエッチング液のチタン濃度を評価することでスラッジの発生量を把握することが可能である。
さらには
図3において、スラッジの発生量は生産完了直後のチタン濃度と、一定時間経過後に安定したチタン濃度の差分に対応するため、生産完了直後と一定時間経過(待機)後の2点のチタン濃度を測定すれば十分である。
エッチング液中の金属元素濃度の定量には、従来公知の定量方法を採用することができる。
【0036】
本発明において、凝集物とは塩化第二鉄水溶液(鉄液)に不溶の化合物である。チタン銅を塩化第二鉄水溶液(鉄液)でエッチングする場合、凝集物は、主としてチタン酸化物であるが、Fe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、P中の1種以上の元素の酸化物が塩化第二鉄水溶液(鉄液)中に合計して0質量%以上20質量%以下が含まれている。
ここで、「主として」とは、チタン酸化物の含有量が凝集物の全質量に対して80質量%以上であることと定義する。
【0037】
本発明において「凝集物の量を把握する」とは、凝集物の量を実際に測定するのではなく、エッチング液中に溶解している異種金属元素の量から凝集物の量を推定することをいう。
【0038】
本発明の第二の態様は、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素のピーク濃度、中間濃度、及びボトム濃度の濃度曲線から、溶解している前記異種金属元素の濃度と前記異種金属元素の想定される凝集物の量との対応関係を基に、各工程での前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握することを特徴とする。本態様では、凝集物の量を、溶解している異種金属元素の量と凝集物の量との関係に基づいて把握することで、実際にエッチング液を採取して評価する回数は最小限で、発生する前記凝集物(スラッジ)量を把握することができる。
本発明では、
図2のように特性曲線を用いたり、測定点だけでなく連続的及びまたは断続的に値を把握し判断しやすくしたりすることを、特に「可視化」ということがある。
【0039】
銅合金にチタン銅を、エッチング液に塩化第二鉄水溶液(鉄液)を用いた例でより具体的に説明する。
2回生産した際のエッチング液中のチタン濃度の変化を
図3に示す。
図3からわかるように、2回とも同様の傾向が見られる。
したがって、エッチング液中のチタン濃度の変化を把握するには、必ずしも生産完了直後(
図3のA)の測定は必要がなく、生産完了後の待機で濃度が安定している状態(
図3のB、C)のみを測定するだけでも可能であり、発生するスラッジの量を把握できる。
【0040】
本発明の第三の態様は、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を原子吸光法で測定することを特徴とする。エッチング液中の金属元素濃度の定量には原子吸光法、ICP(Inductively Coupled Plasma;誘導結合プラズマ)法、蛍光X線法など、従来公知の方法を採用することができるが、エッチング液中に溶解している異種金属元素の濃度をより簡便かつ精度よく測定することができ、より精密にエッチング液中で生成する前記凝集物(スラッジ)量を把握することができることから、原子吸光法が好ましい。
【0041】
本発明の第四の態様は、前記アイドリング工程の時間を前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度がボトム濃度に達する時間以上とすることを特徴とする。複数回の生産を繰り返すときの間隔を、より適切に設定することができる。
【0042】
本発明の第五の態様は、前記アイドリング工程の時間を前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度がボトム濃度に達する時間以下とすることを特徴とする。複数回の生産を繰り返すときの間隔を、より適切に設定することができる。
【0043】
銅合金にチタン銅を、エッチング液に塩化第二鉄水溶液(鉄液)を用いた例でより具体的に説明する。複数回の生産を繰り返した際のエッチング液中の金属元素濃度は、
図3に示すように同様な挙動の繰り返しなので金属元素濃度が安定する待機時間は容易に把握でき、生産の間隔をより長く設定することで、安定した生産が可能となる。精度の観点から濃度が安定する待機時間以上を設定してもよいが金属濃度やスラッジの量は容易に類推できるため、生産性の観点から金属濃度が安定化する前に次ロット生産に移行してもよい。
【0044】
本発明の第六の態様は、前記エッチング液中に溶解している前記異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに生産回数の上限を設定することを特徴とする。複数回の生産を繰り返すときの回数の上限を、上述したエッチング液の管理方法により適切に設定することができる。
【0045】
銅合金にチタン銅を、エッチング液に塩化第二鉄水溶液(鉄液)を用いた例でより具体的に説明する。複数回の生産を繰り返した際のエッチング液中の金属元素濃度は、
図3に示すように同様な挙動の繰り返しなので、発生するスラッジの量は生産の回数から算出でき、配管やノズルに詰まりが発生するスラッジの量以下となるよう生産回数の上限を設定可能である。
生産回数の上限は、通常、35~70回であり、40~60回が好ましく、45~50回がより好ましい。
【0046】
本発明の第七の態様は、エッチング液中に溶解している異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに前記エッチング液を吐出させるノズル洗浄の時期を設定することを特徴とする。凝集物(スラッジ)によりノズルや配管が詰まる前に洗浄ができるよう、上述したエッチング液の管理方法によりノズルや配管の洗浄時期を適切に決定することができる。
【0047】
銅合金にチタン銅を、エッチング液に塩化第二鉄水溶液(鉄液)を用いた例でより具体的に説明する。複数回の生産を繰り返した際のエッチング液中の金属元素濃度は、
図3に示すように同様な挙動の繰り返しなので、発生するスラッジの量は生産の回数から算出でき、配管やノズルに詰まりが発生するスラッジの量以下となるようノズルや配管の洗浄時期を設定可能である。
【0048】
本発明の第八の態様は、エッチング液中に溶解している異種金属元素の濃度を測定し、前記異種金属元素の測定時の濃度とボトム濃度との差分から前記異種金属元素の想定される凝集物の量を把握し、前記凝集物の累積量をもとに前記エッチング液の液交換の時期を設定することを特徴とする。エッチング液を適切な時期に更新することができる。
【0049】
銅合金にチタン銅を、エッチング液に塩化第二鉄水溶液(鉄液)を用いた例でより具体的に説明する。複数回の生産を繰り返した際のエッチング液中の金属元素濃度は、
図3に示すように同様な挙動の繰り返しなので、発生するスラッジの量は生産の回数から算出でき、配管やノズルに詰まりが発生するスラッジの量以下となるようエッチング液の更新時期を設定可能である。
【0050】
本発明の第九の態様は、凝集物(スラッジ)がチタン酸化物であることを特徴とする。
本発明の第十の態様は、エッチング液が塩化第二鉄水溶液であることを特徴とする。
銅合金としてチタン銅を用いる場合、エッチング液として塩化第二鉄水溶液を用いる場合に、簡便で安全なエッチング液の管理方法、生産工程管理方法を提供することができる。
【実施例0051】
以下では本発明を実施例によってより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
図4に示す、エッチング処理槽11と、循環槽12と、フィルター13と、を備えるエッチング処理装置1を使用し、基板として、チタン銅(チタン含量:約3%)を使用し、エッチング液として、塩化第二鉄液(温度:60~80℃、鉄濃度:240~260g/L、比重:1.4~1.6)を使用してエッチングを行う生産を開始する前に、予め条件調整を兼ねて、同一温度で、エッチングをおこなった。そのときに循環するエッチング液は数10m
3とした。
その際、エッチング開始後の時間とともに、エッチング液をサンプリングした。サンプリングは、エッチング処理槽11の液サンプリング箇所Sから行った。エッチング液の分析には、原子吸光法を採用し、装置は島津製作所製のAA-7000を使用した。
得られたチタン元素濃度は、
図2に示すようになった。すなわち、
図2に示すように、チタン濃度は急激に上昇し最大70±5ppmに達し、その後、漸減し、生産完了後6時間経ったところで、チタン量・濃度は30ppmの一定値に達した。その後は30ppmで一定であった。その差の約40±5ppmは2次粒子化した不溶性のチタン酸化物となり、スラッジとなったと考えられる(
図2のA)。
生産前の条件調整で、以上のことがわかったので、生産時には何ら測定をせず、生産完了後6時間経ったところで、次の生産ロットに入った。
条件調整のあと、生産に入った。生産回数22回目までは、生産開始からの時間だけで、次の生産に移った、23回目で、念のため、チタン元素濃度を測定した。チタン元素濃度の特性曲線は、最初の時の曲線と概ね変わっていないことが確認できた。
この時点で、ノズル詰まりは起きておらず、製品の品質にもばらつきはなかった。
また、生産を48回繰り返したが、ノズル詰まりのトラブルはなく順調に生産出来た。その時点で一連の生産を停止し、ノズル洗浄を行った。ノズル洗浄は順調に出来、従来に比べ、生産性は大幅に向上でき、製品の品質にも影響なく、良品が得られた。
【0053】
[実施例2]
実施例1において、生産完了後のアイドリング時間を短くすると、チタン元素量は漸減中で一定値にはなっていなかったが、ロット毎のスラッジの量は予測でき、それらを積算すると、45ロットでもノズル詰まりは起きないことがわかったので、45ロットまで繰り返して生産を行い、その後エッチング液を更新した。
またノズルの詰まりはなく、そのためスムーズ且つ迅速にノズルの洗浄が出来た。製品の品質にもばらつきがなく、良品が得られた。