(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108588
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】生分解性不織布及びその用途
(51)【国際特許分類】
D04H 3/011 20120101AFI20240805BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20240805BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
D04H3/011
D04H3/16
A61F13/15 110
A61F13/15 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013028
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】523419521
【氏名又は名称】エム・エーライフマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】藤本 裕也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 祐一朗
【テーマコード(参考)】
3B200
4L047
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA17
3B200BB03
4L047AA19
4L047AA21
4L047AB03
4L047BA08
4L047CA12
4L047CB01
4L047CC04
4L047CC14
(57)【要約】
【課題】生分解性を有するとともに、極めて優れた曲げ柔らかさを有する生分解性不織布、並びに該生分解性不織布を含む、おむつ、ワイパー、カイロ、及び軽包材の提供。
【解決手段】生分解性熱可塑性樹脂を含む繊維から構成された生分解性不織布であって、引張試験による機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0超0.225以下であることを特徴とする、生分解性不織布、並びに該生分解性不織布を含む、おむつ、ワイパー、カイロ、及び軽包材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性熱可塑性樹脂を含む繊維から構成された生分解性不織布であって、引張試験による機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0超0.225以下であることを特徴とする、生分解性不織布。
【請求項2】
機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0.096以下である、請求項1に記載の生分解性不織布。
【請求項3】
機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0.048以下である、請求項2に記載の生分解性不織布。
【請求項4】
エンボス部と非エンボス部とを有し、該エンボス部の厚みを目付の平方根で除したエンボス部厚み指数が2.84~4.04mm/(g/m2)0.5である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性不織布。
【請求項5】
30℃におけるパルスNMR測定による高運動性成分の割合が4.5~7.9%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性不織布。
【請求項6】
前記生分解性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性不織布。
【請求項7】
前記生分解性熱可塑性樹脂が、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシブチレートバリレート、及びポリヒドロキシブチレートブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性不織布。
【請求項8】
前記生分解性熱可塑性樹脂が、ポリブチレンアジペートテレフタレートである、請求項7に記載の生分解性不織布。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性不織布を含む、おむつ。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性不織布を含む、ワイパー。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性不織布を含む、カイロ。
【請求項12】
前記1~3のいずれかに記載の生分解性不織布を含む、軽包材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性不織布及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生分解性不織布はポリ乳酸を始めとする様々な生分解性樹脂からなり、近年ではサステナビリティ推進に関する意識の高まりから各種分野、用途に広く展開されつつある。しかし、生分解性樹脂は一般に硬いものが多く、不織布としても優れた風合い(手触りや肌ざわり、着心地など、人がものに触れた時に感じる材質感)を得ることは難しい。
【0003】
以下の特許文献1には、異形糸による捲縮繊維により不織布ウェブを形成し、さらにエンボス間隔を一定以上にすることで嵩高、かつ、曲げ柔らかさに優れた生分解性不織布が開示されている。
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の生分解性不織布よりも優れた曲げ柔らかさを有する生分解性不織布が求められている。
前記した従来技術の問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、生分解性を有するとともに、極めて優れた曲げ柔らかさを有する生分解性不織布、並びに該生分解性不織布を含む、おむつ、ワイパー、カイロ、及び軽包材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討し実験を重ねた結果、生分解性熱可塑性樹脂を含む繊維から構成され、引張試験による機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0超0.225以下となる生分解性不織布の曲げ柔らかさが極めて向上することを予想外に見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]生分解性熱可塑性樹脂を含む繊維から構成された生分解性不織布であって、引張試験による機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0超0.225以下であることを特徴とする、生分解性不織布。
[2]機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0.096以下である、前記[1]に記載の生分解性不織布。
[3]機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0.048以下である、前記[2]に記載の生分解性不織布。
[4]エンボス部と非エンボス部とを有し、該エンボス部の厚みを目付の平方根で除したエンボス部厚み指数が2.84~4.04mm/(g/m2)0.5である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の生分解性不織布。
[5]30℃におけるパルスNMR測定による高運動性成分の割合が4.5~7.9%である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の生分解性不織布。
[6]前記生分解性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の生分解性不織布。
[7]前記生分解性熱可塑性樹脂が、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシブチレートバリレート、及びポリヒドロキシブチレートブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の生分解性不織布。
[8]前記生分解性熱可塑性樹脂が、ポリブチレンアジペートテレフタレートである、前記[7]に記載の生分解性不織布。
[9]前記[1]~[7]のいずれかに記載の生分解性不織布を含む、おむつ。
[10]前記[1]~[7]のいずれかに記載の生分解性不織布を含む、ワイパー。
[11]前記[1]~[7]のいずれかに記載の生分解性不織布を含む、カイロ。
[12]前記[1]~[7]のいずれかに記載の生分解性不織布を含む、軽包材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生分解性不織布は、生分解性を有するとともに極めて優れた曲げ柔らかさを有するため、おむつ、ワイパー、カイロ、及び軽包材として好適に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態は、生分解性熱可塑性樹脂を含む繊維から構成された生分解性不織布であって、引張試験による機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))が0超0.225以下であることを特徴とする、生分解性不織布である。
【0010】
本実施形態の生分解性不織布の機械方向の3%モジュラス指数(N/30mm/(g/m2))は、0超、0.225以下であり、好ましくは0.212以下、より好ましくは0.096以下であり、さらに好ましくは0.080以下、最も好ましくは0.009以上、0.048以下である。3%モジュラス指数が0.225以下であれば、充分な曲げ柔らかさを維持しやすい。特に、ガラス転移温度が25℃以下の場合、3%モジュラス指数が0超、0.212以下であることの効果が高くなる。
【0011】
本実施形態の生分解性不織布は、生分解性熱可塑性樹脂を含む繊維から構成される。生分解性熱可塑性樹脂としては、ポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリヒドロキシブチレートブチレート、ナイロン4、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリビニルアルコールが挙げられる。生分解性や曲げ柔らかさの観点からは、ポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリヒドロキシブチレートブチレート、ポリブチレンアジペートテレフタレートが好ましい。また、ホームコンポスト性及びソイルコンポスト性を発現し易いという観点からは、ポリカプロラクトン、ナイロン4、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレートが好ましく、マリンコンポスト性を発現し易いという観点からは、ポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリカプロラクトン、ナイロン4が好ましい。尚、ホームコンポスト性、ソイルコンポスト性、及びマリンコンポスト性の詳細については後述する。また、最終製品の一部材としての分離のし易さの観点からは、熱湯程度の熱量で溶融可能であるポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペートが好ましい。
【0012】
本実施形態の生分解性不織布は、積層構造であってもよく、例えば、SS、SMS、SMMS、SMSMなどの積層構造であってもよい。ここで、Sは、スパンボンド法の長繊維不織布、Mは、メルトブロウン法の極細不織布を意味する。また、生分解性不織布を基材として、短繊維不織布層を積層してもよい。
【0013】
本実施形態の生分解性不織布を構成する繊維の形状は、特に限定しないが、丸型、扁平型、C型、Y型、V型などの異形断面などが用いられ、好ましくは丸型断面であり、さらに、海島構造や鞘芯構造、割繊構造であってもよい。
【0014】
本実施形態の生分解性不織布を構成する繊維は、目的に応じて、他の樹脂、難燃剤、無機充填剤、柔軟剤、可塑剤、顔料、耐電防止剤などを、さらに1種又は2種以上含有してもよい。
【0015】
本実施形態の生分解性不織布を構成する繊維は、前記生分解性熱可塑性樹脂以外の、副成分の熱可塑性樹脂(以下、「副成分の樹脂」ともいう。)を含んでもよい。前記副成分の樹脂の含有量は、不織布全質量を100質量%としたとき、好ましくは0.5質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは2質量%~50質量%であり、さらに好ましくは5質量%~30質量%、最も好ましくは5質量%~25質量%である。添加量が0.5質量%以上であれば、不織布の結晶性をコントロールすることができるため、不織布の曲げ柔らかさのコントロールも容易となる。
【0016】
副成分の樹脂としては、ポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリヒドロキシブチレートブチレート、ナイロン4、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレン等が挙げられる。生分解性や曲げ柔らかさの良さの観点からは、ポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリヒドロキシブチレートブチレート、ポリブチレンアジペートテレフタレートが望ましく、最終製品の一部材としての分離のし易さの観点からは、熱湯程度の熱量で溶融可能であるポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペートが望ましい。尚、前記副成分の樹脂として非生分解性樹脂であるポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレン等を含むこともできるが、後述の各種生分解性を満足するという観点からは、前記非生分解性樹脂の含有量は10質量%未満であることが好ましい。
【0017】
本実施形態の生分解性不織布を構成する繊維は、主成分の生分解性熱可塑性樹脂を海、副成分の樹脂を島とする海島繊維であると、より低い添加率で結晶性をコントロールできるため、不織布の曲げ柔らかさのコントロールも容易となる。
【0018】
本実施形態の生分解性不織布は帯電防止性・吸水性発現の点から界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としてはノニオン系・アニオン系・カチオン系のいずれを用いてもよく、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型、エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型、アルキルアミン型、第4級アンモニウム型を使用することができ、エステル型が好ましく、エステル型の中でもソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエステルが特に好ましい。また、これら界面活性剤を単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
【0019】
界面活性剤の付着率は、十分な帯電防止・吸水性発現の点から、不織布質量に対して0.1wt%以上が好ましく、2.0wt%以下がより好ましい。界面活性剤の付着率が0.1wt%以上2.0wt%以下であれば、十分な性能が得られる。
【0020】
界面活性剤の塗工方式はキス方式、グラビア方式、スプレー方式等、既存の方式で塗工可能であり、目的によって適宜選択することができる。具体的には、片面のみに性能発現させたい場合はキス方式やグラビア方式等の転写方式が好ましく、両面とも同一な性能を得たい場合は、スプレー法による塗工が好ましい。
【0021】
本実施形態の生分解性不織布の目付は好ましくは10g/m2以上450g/m2以下であり、より好ましくは10g/m2~250g/m2であり、さらに好ましくは12g/m2~70g/m2であり、最も好ましくは12g/m2~40g/m2である。目付が10g/m2以上であれば、強度が十分となり、他方、450g/m2以下であれば、充分な曲げ柔らかさを維持できる。
【0022】
本実施形態の生分解性不織布のガラス転移温度は好ましくは25℃以下であり、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。ガラス転移温度が25℃以下の場合、室温環境にて分子鎖の運動性が向上し、曲げ柔らかさが向上する。また、生分解性不織布のガラス転移温度が25℃以下の場合、エンボス加工による熱圧着において、低温かつ高圧力にて極力熱を加えずにエンボス部の繊維間圧着を行うことができ、この場合、一般的な不織布よりもさらにエンボス部の厚みを薄くすることができ、より曲げ柔らかさが向上する。ガラス転移温度を上記の範囲とする観点からは、本実施形態の生分解性不織布はポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリヒドロキシブチレートブチレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート等の生分解性熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0023】
本実施形態の生分解性不織布は、生分解性と共に優れた曲げ柔らかさを有しており、医療・衛生材、工業資材、車両内装材・外装材、防音材、吸音材、部品搬送トレイ、青果物トレイ、食品容器、育苗ポッドやマルチシートなどの農業用資材、軽包材、フィルター用途などの幅広い分野に好適に利用可能である。特に珈琲フィルターやティーバッグフィルターなどの食品フィルター、おむつ、マスク、農業用資材、軽包材として好適である。
【0024】
本実施形態の生分解性不織布が融点100℃以下の生分解性熱可塑性樹脂からなる場合、熱湯によって溶融、収縮する性質を利用することで、例えば、おむつのような多素材が複合されている製品からの不織布の分離・回収を容易にする。
【0025】
本実施形態の生分解性不織布がエンボス部と非エンボス部を有する場合、該エンボス部の厚みを生分解性不織布の目付の平方根で除したエンボス部の厚み指数(mm/(g/m2)0.5)は好ましくは2.84以上7.78以下であり、より好ましくは5.60以下、さらに好ましくは4.04以下である。エンボス部の厚み指数が2.84以上であれば、エンボス部が破れにくく強度が向上し、7.78以下であればエンボス部の厚みが薄くなり、曲げ柔らかさが増す。特に、ガラス転移温度が25℃以下の場合、エンボス部の厚み指数が2.84以上4.04以下であることの効果が高くなる。
【0026】
本実施形態の生分解性不織布は、30℃におけるパルスNMR測定による高運動性成分の割合は好ましくは4.5%以上7.9%以下、より好ましくは5.3%~7.9%、さらに好ましくは5.7%~7.9%である。高運動性成分の割合が4.5以上であると30℃における非晶運動性成分の割合が多くなり、拘束されない自由の分子鎖が多くなるため、折り曲げに対して分子構造が柔軟化し、曲げやすくなる。30℃におけるパルスNMR測定による高運動性成分の割合の求め方については後述する。
【0027】
本実施形態の生分解性不織布の製造方法は限定されないが、公知のスパンボンド法、メルトブロー法、エアレイド法、カード法、抄造法などを採用することができる。本実施形態の生分解性不織布は接着により一体化されていることが好ましく、接着方法としては、エンボス加工、サーマルボンド、柱状流交絡、機械交絡、ニードルパンチ等を用いることができる。効率よく生産でき、成型した後の毛羽立ち等も抑制できることから、長繊維不織布が好ましく、更にはスパンボンド法にて製造することが好ましい。
【0028】
スパンボンド法を用いる場合、樹脂を加熱溶融して紡糸口金から吐出させ、得られた紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却し、エアーサッカー等の吸引装置にて牽引細化する。引き続き、吸引装置から排出された糸条群を開繊させた後、コンベア上に堆積させてウェブとする。次いで、このコンベア上に形成されたウェブに加熱されたエンボスロール等の部分熱圧着装置を用いて部分的に熱圧着を施すことにより、スパンボンド不織布が得られる。スパンボンド法で得られる不織布は、布強度が強く、かつ、ボンディング部の破損による短繊維の脱落がない等の物性上の特徴を有しており、また、低コストで生産性が高い。
【0029】
スパンボンド法では、エアジェットによる高速気流牽引装置を用いることが一般的であり、牽引装置に導入するエアー量により牽引力を調整できる。この牽引力は、牽引装置の全長と同じ長さの直径0.235mmのテグス(釣り糸)(本明細書内では、東レ社製ナイロンテグス「銀鱗(2号/ナチュラル/50m巻単体)」を用いた。)2本を牽引装置内に投入し、テグスに連結したバネ測りによって応力を測定し、投入したテグス長で割り返すことで牽引力(mN/m)を計測した。牽引力は、好ましくは27mN/m以上125mN/m以下であり、より好ましくは38mN/m~93mN/m、最も好ましくは、70mN/m~93mN/mである。牽引力が125mN/m以下であれば、紡糸時の糸切れを十分に抑制できると共に、過剰な配向結晶化を抑制することで熱圧着や定長熱処理の後の複屈折Δnの過剰な増加を抑制できる。牽引力が27mN/m以上であれば、適度に配向結晶化を促進でき熱圧着が可能となることで、十分な強度を持った不織布を得られる。
【0030】
本実施形態の生分解性不織布の製造における熱圧着の方法は限定されず、表面に凹凸模様を有するエンボスロールと凹凸のないフラットロールとの組み合わせによる熱圧着でも、両方の表面が凹凸模様を有する一対のエンボスロールによる熱圧着でもよい。また、ロール表面の材質も限定されず、金属、ゴム、樹脂等でも構わない。表面に凹凸模様を有するエンボスロールを用いる場合、ロール温度は、不織布の樹脂の融点よりも、好ましくは10℃以上低い温度にて、線圧は好ましくは5N/mm~100N/mm、より好ましくは20N/mm~80N/mmにて、圧着面積率は好ましくは3%~50%、より好ましくは6%~40%にて、熱圧着することができる。適切な範囲で熱圧着を行うことで、不織布の曲げ柔らかさと圧着を両立させることが可能となる。尚、前記「不織布の樹脂の融点」は後述の示差走査熱量計を用いる方法によって測定されるが、融解ピークが複数存在する場合は、最も面積の大きいピークの頂点を融点とする。
【0031】
本実施形態の生分解性不織布の製造において、前記熱圧着工程の有無に関係なく定長熱処理を行ってもよい。定長熱処理とは、熱処理中に長さ方向及び幅方向の不織布寸法が変化しないように規制した状態で熱処理することである。紡糸直後の不織布ウェブを熱圧着した後、定長熱処理を行うことで得られる不織布は、表面平滑性が良く、熱環境下における延伸性が優れているため、成型加工時に破れにくく、形がきれいな成型体を得やすい。定長熱処理を行う方法としては、一般的な方法を用いてよく、熱風乾燥、ピンテンター乾燥、熱板、カレンダー加工、フェルトカレンダー加工、エアスルー加工、熱プレス等を用いてよい。定長熱セット時の温度範囲としては、不織布を構成する樹脂が装置に付着することなく、不織布の繊維が適度に接着された状態を得られる温度であればよい。
【0032】
本実施形態の生分解性不織布の製造において、熱圧着以外の方法でボンディングしてもよい。例えば、水流交絡法やニードルパンチ法の場合、熱を加えずに不織布のボンディングが可能となるため、不織布の曲げ柔らかさが向上する。尚、これらのボンディングはエンボス加工後に行っても構わない。
【0033】
本実施形態の生分解性不織布は、特定のエージング条件により、結晶性を向上させることができ、不織布の熱収縮を抑制することが可能である。具体的なエージング条件としては、40℃雰囲気下で10日間以上保管すれば、前記した効果を得やすい。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
まず、実施例、比較例で用いた測定法、評価法等を説明する。
【0035】
(1)機械方向の3%モジュラス指数
島津製作所社製オートグラフAG-X plus(ロードセル:1kN)を用いて、30mm幅の試料を伸び原点0.1%FS、把握長100mm、引張速度300mm/minで伸長し、3mm伸長時に得られる30mm幅当たりの引張強さを3%モジュラスとし、不織布の機械(長さ)方向について10回測定を行い、その平均値を求めた。その平均値を目付で除した数値を機械方向の3%モジュラス指数として取り扱った。
【0036】
(2)目付(g/m2)
JIS L-1913に従って、総面積が1500cm2(幅20cmx長さ25cm 3枚)となるように不織布試料を切り取り、単位当たりの質量に換算して求めた。尚、目付は、原則として上記の方法で測定するが、充分なサンプルサイズが採取できない場合、5cm角等の任意のサイズで測定してもよい。
【0037】
(3)平均繊維径(μm)
キーエンス社製のVHX-700Fマイクロスコープを用いて500倍の拡大写真を撮り、観察視野においてピントの合った繊維10本の平均値で求めた。
【0038】
(4)ガラス転移温度(℃)
PerkinElmer社製の示差走査熱量計DSC6000を用いて、不織布約5.0mgを、窒素雰囲気中、10℃/分の昇温速度で、-50℃から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程で検出される、ガラス状態からゴム状態への転移領域に相当する二次転移領域における熱量の二次転移の開始温度をガラス転移点(Tg)とした。
【0039】
(5)不織布の樹脂の融点(℃)
PerkinElmer社製の示差走査熱量計DSC6000を用い、不織布5.0mgを、窒素雰囲気中、10℃/分の昇温速度で、-50℃から350℃まで加熱する昇温過程で検出される吸熱ピークを融解ピークとし、そのピークの頂点を融点とした。尚、不織布を構成する樹脂の種類や数によっては融解ピークが複数見られることがある。
【0040】
(6)エンボス部の厚み指数
不織布サンプルを断面方向に凍結割断し、KEYENCE製の走査電子顕微鏡VE-8800にてエンボス部の厚みを観察した。倍率は×200とし、エンボス部の中央部、中央部から両側20μmの地点、さらに20μm外側の地点で計5点の厚みを測定した。5点のうち最大値と最小値を省いた3点分をエンボス1つ当たりのデータとして扱い、エンボス5か所分、すなわち計15点分の厚みの平均値をエンボス部の厚みとした。さらにその値を不織布の目付の平方根で除したものを厚み指数とした。
【0041】
(7)30℃におけるパルスNMR測定による高運動性成分の割合
パルスNMRにより得られる高運動性成分の比率(V、%)は以下の方法により算出できる。パルスNMRの測定装置として、ブルカー社製のMinispec MQ20を用い、測定核種を1H、測定法をソリッドエコー法、積算回数を256回、として測定を行う。具体的には、高さ1.0 cmになるように切削した測定試料を入れた外径10mmのガラス管を30 ℃に温度制御した装置内に設置し、設置後5分経過した時点でソリッドエコー法により1HのT2緩和時間を測定する。測定に際しては測定の間の繰り返し待ち時間を試料のT1緩和時間の5倍以上とるように設定する。上記のようにして得られた磁化減衰曲線(磁化強度の経時変化を示す曲線)から、取り込み開始時点での測定開始時の信号強度を100%とした際の0.4 msecでの信号強度を本実施形態における高運動性成分の比率(V、%)とする。
【0042】
(8)生分解性
以下の4種類の生分解試験を行い、少なくとも1つの試験に合格すれば生分解性を有すると判断した。
<インダストリアルコンポスト性>
ISO 14855-1(58±2℃)、JIS K 6953-1に従って、Industrial Composting(コンポスト工場)を模擬した条件下で、都市ごみの固形廃棄物の有機成分をコンポストとして用い、58±2℃にて生分解試験を行い、二酸化炭素発生量から理論的発生二酸化炭素の比として生分解度を求め、生分解度が6ヵ月以内に90%以上になれば合格「〇」とし、不合格を「×」とした。
<ホームコンポスト性>
ISO 14855-1(28±2℃)、JIS K 6953-1に従って、28±2℃にて生分解試験を行い、二酸化炭素発生量から理論的発生二酸化炭素の比として生分解度を求め、生分解度が6ヵ月以内に90%以上になれば合格「〇」とし、不合格を「×」とした。
<ソイルコンポスト性>
ISO 17556(25±2℃)に従って、25±2℃にて生分解試験を行い、二酸化炭素発生量から理論的発生二酸化炭素の比として生分解度を求め、生分解度が6ヵ月以内に90%以上になれば合格「〇」とし、不合格を「×」とした。
<マリンコンポスト性>
ASTM D6691(30±1℃)に従って、30±1℃にて生分解試験を行い、二酸化炭素発生量から理論的発生二酸化炭素の比として生分解度を求め、生分解度が6ヵ月以内に90%以上になれば合格「〇」とし、不合格を「×」とした。
【0043】
(9)曲げ柔らかさ(不織布機械方向の曲げ剛性指数)
測定装置は、カトーテック(株)社製KES・FB2-AUTO-Aを用いる。試料は、20cm×20cmであり、KES曲げ剛性を測定する。また、以下の式:
機械方向(MD)の曲げ剛性指数=機械方向(MD)の曲げ剛性(gf・cm)/{目付(g/m2)}2×107
により、機械方向(MD)の曲げ剛性指数を計算する。曲げ剛性指数が小さいほど曲げ柔らかいことを示す。
【0044】
[実施例1]
ポリブチレンアジペートテレフタレート(表ではPBATと略す。)を単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度210℃で押出し、エアジェットによる高速気流牽引装置で牽引力93mN/mの力でフィラメント群を牽引し、これらを移動捕集面に堆積させ、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。
次いで、表面に凹凸模様を有するロールと、平滑な表面を有するロールとからなる一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が11%、両ロールとも温度105℃、ロール線圧30N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の生分解性不織布を得た。
【0045】
[実施例2~7]
以下の表に記載の目付となるよう、ライン速度を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、生分解性不織布を製造した。
【0046】
[実施例8]
エンボス加工温度を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、生分解性不織布を製造した。
【0047】
[実施例9]
ポリブチレンサクシネートアジペート(表中、PBSAと略す。)を単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度140℃、牽引力93mN/mで、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。次いで、表面に凹凸模様を有するロールと、平滑な表面を有するロールとからなる一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が11%、両ロールとも温度75℃、ロール線圧30N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の生分解性不織布を得た。
【0048】
[実施例10]
ポリブチレンサクシネート(表中、PBSと略す。)を単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度210℃、牽引力93mN/mで、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。次いで、表面に凹凸模様を有するロールと、平滑な表面を有するロールとからなる一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が11%、両ロールとも温度100℃、ロール線圧30N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の生分解性不織布を得た。
【0049】
[実施例11]
ポリカプロラクトン(表中、PCLと略す。)を単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度110℃、牽引力93mN/mで、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。次いで、表面に凹凸模様を有するロールと、平滑な表面を有するロールとからなる一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が11%、両ロールとも温度50℃、ロール線圧30N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の生分解性不織布を得た。
【0050】
[実施例12、13]
副成分としてポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンを加えたこと以外は、実施例1と同様にして、生分解性不織布を製造した。
【0051】
[実施例14、15]
牽引力を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、生分解性不織布を製造した。
【0052】
[実施例16]
短繊維として、単繊維繊維径が30μmのポリブチレンアジペートテレフタレートの原綿を用い、これをカード機に通して目付20g/m2の不織クロスウェブを作製した。次いで作製したウェブを100メッシュの金網上に載置し、孔径0.08mmの噴射孔が孔感覚0.7mmで配置された高圧液体流処理設備を用いて高圧液体流処理を行い、ウェブを一体化した。液体流の噴射条件は、60kg/cm2の水圧で1回、120kg/cm2の水圧で1回とした。また反対側より120kg/cm2の水圧で1回とした。その後、得られたウェブの過剰な水分の除去のため、熱風乾燥機によって70℃で乾燥処理を行い、生分解不織布を得た。
【0053】
[実施例17]
実施例14で得られた生分解性不織布に対して、一方のロール表面に凹凸模様を有する一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が14%、上・下ロールとも温度105℃、ロール線圧30N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の生分解性不織布を得た。
【0054】
[実施例18]
実施例14で得られた生分解性不織布に対して、刺針密度400本/cm2のニードルパンチ加工を行い、繊維ウェブを交絡させることで、目付20g/m2の生分解性不織布を得た。
【0055】
[比較例1]
ポリ乳酸(表中、PLAと略す。)を単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度230℃、牽引力93mN/mで、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。次いで、表面に凹凸模様を有するロールと、平滑な表面を有するロールとからなる一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が11%、両ロールとも温度130℃、ロール線圧20N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の不織布を得た。
【0056】
[比較例2]
ポリエチレンテレフタレート(表中、PETと略す。)を単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度290℃、牽引力93mN/mで、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。次いで、表面に凹凸模様を有するロールと、平滑な表面を有するロールとからなる一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が11%、両ロールとも温度220℃、ロール線圧20N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の不織布を得た。
【0057】
[比較例3]
ポリプロピレン(表中、PPと略す。)を単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度230℃、牽引力93mN/mで、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。次いで、表面に凹凸模様を有するロールと、平滑な表面を有するロールとからなる一対のエンボスロールを用いて、圧着面積率が11%、両ロールとも温度140℃、ロール線圧20N/mmの条件で熱圧着し、目付20g/m2の不織布を得た。
【0058】
[実施例19]
目付が5.0g/m2となるようにライン速度を調整したこと以外は実施例1と同様にして作製したウェブ(目付5.0g/m2)の上に、PBATをメルトブロウンノズルから、紡糸温度210℃、加熱空気230℃で1000Nm3/hrの条件下で直接噴出させ、メルトブロウンウェブ(目付2.0g/m2、平均繊維径2.1μm)を形成した。この際、メルトブロウンノズルからスパンボンドウェブまでの距離を110mmとし、メルトブロウンノズル直下の捕集面における吸引風速を7m/secに設定した。更に得られたメルトブロウンウェブ上に、前記スパンボンドウェブと同様のポリ乳酸のスパンボンドウェブを形成した。得られた積層ウェブを、実施例1と同様に熱圧着することにより、総目付12.0g/m2の不織布を得た。
【0059】
[実施例20]
1層目のスパンボンド層について単糸断面の形状を鞘芯比率50/50wt%の鞘芯とし、芯側にPBAT、鞘側にPBSAを用いたこと以外は、実施例18と同様にして生分解性不織布を製造した。
【0060】
以上の実施例1~20、比較例1~3の不織布の物性及び評価結果を、以下の表1乃至4に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
本発明の生分解性不織布は、生分解性と共に、優れた曲げ柔らかさを有するため、医療・衛生材、工業資材、車両内装材・外装材、防音材、吸音材、育苗ポッドやマルチシートなどの農業用資材、軽包材、フィルター用途などの幅広い分野に好適に利用可能である。