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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108595
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】プレス加工解析方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20240805BHJP
   B21D 22/00 20060101ALI20240805BHJP
   G06F 111/10 20200101ALN20240805BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20240805BHJP
   G06F 119/14 20200101ALN20240805BHJP
【FI】
G06F30/20
B21D22/00
G06F111:10
G06F113:22
G06F119:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013035
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】宅見 優輝
【テーマコード(参考)】
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E137AA21
4E137BB01
4E137CA09
4E137CB01
4E137EA02
4E137GA03
4E137GB02
5B146AA06
5B146DJ02
(57)【要約】
【課題】所要の解析精度を確保しつつも、解析に要する時間が増加する事態を防止して、プレス金型のリードタイムに対する要求を満足する。
【解決手段】このプレス加工解析方法は、解析モデル作製ステップS1と、このステップS1で作製した解析モデルを用いてプレス加工の構造解析を行う構造解析ステップS2とを備える。解析モデル作製ステップS1で、支持部材の解析モデル13,14の代替モデルとして、支持部材の剛体モデル15,16を作製し、構造解析ステップS2で、支持部材の解析モデル13,14に代えて剛体モデル15,16を用いると共に、プレス金型の解析モデル11,12と剛体モデル15,16との間に所定の隙間17,18を設けた状態でプレス加工の構造解析を行う。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス金型の解析モデルと、前記プレス金型を支持する支持部材の解析モデルとを作製する解析モデル作製ステップと、
前記プレス金型の解析モデル及び前記支持部材の解析モデルを用いてプレス加工の構造解析を行う構造解析ステップとを備えたプレス加工解析方法であって、
前記解析モデル作製ステップで、前記支持部材の解析モデルの代替モデルとして、前記支持部材の剛体モデルを作製し、
前記構造解析ステップで、前記支持部材の解析モデルに代えて前記剛体モデルを用いると共に、前記プレス金型の解析モデルと前記剛体モデルとの間に所定の隙間を設けた状態で前記プレス加工の構造解析を行う、プレス加工解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のボデー等を構成するパネル状部品をプレス加工により所定の形状に成形するに際しては、プレス金型の最適設計を目的として、事前にプレス加工の構造解析が行われるのが一般的である。また、この場合、プレス加工時におけるプレス金型の変形(たわみ変形など)を考慮して、プレス加工の対象となるワークだけでなくプレス金型の解析モデルを作製することも行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6397149号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来の解析手法では、プレス金型の変形を考慮したプレス加工解析が提案されているが、さらなる解析精度の向上を目指す場合には、プレス金型だけでなく当該金型を支持するプレス加工装置の支持部材(ボルスタ、スライダなど)のたわみ変形についても考慮に加えて解析を行うことが望ましい。
【0005】
一方で、プレス金型だけでなくその支持部材についてもモデル化して解析を行うとなると、当然のことながら解析モデルの規模が大きくなるため、膨大な計算時間が必要となる。これでは、プレス金型に要求されるリードタイムを満たすことが難しい。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、所要の解析精度を確保しつつも、解析に要する時間が増加する事態を防止して、プレス金型のリードタイムに対する要求を満足することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係るプレス加工解析方法によって達成される。すなわち、この解析方法は、プレス金型の解析モデルと、プレス金型を支持する支持部材の解析モデルとを作製する解析モデル作製ステップと、プレス金型の解析モデル及び支持部材の解析モデルを用いてプレス加工の構造解析を行う構造解析ステップとを備えたプレス加工解析方法であって、解析モデル作製ステップで、支持部材の解析モデルの代替モデルとして、支持部材の剛体モデルを作製し、構造解析ステップで、支持部材の解析モデルに代えて剛体モデルを用いると共に、プレス金型の解析モデルと剛体モデルとの間に所定の隙間を設けた状態でプレス加工の構造解析を行う点をもって特徴付けられる。
【0008】
このように、本発明に係るプレス加工解析方法では、プレス金型を支持する支持部材の解析モデルの代替モデルとして、支持部材の剛体モデルを作製し、この剛体モデルを用いてプレス加工の構造解析を行うようにした。剛体モデルであれば、実際の支持部材の解析モデルに比べて単純な構造のモデルにすることができるので、解析モデルの規模を小さくすることができる。よって、解析モデルのデータ量を小さくして、当該モデルを用いた構造解析に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。また、剛体モデルとすること自体による計算時間の短縮効果も得られるため、総じて解析時間の大幅な短縮が可能となる。
【0009】
実際のプレス加工時において、プレス金型及び支持部材は、支持部材の構造にもよるが、プレス方向から見て中央が最も深部となる凹状に変形(たわみ変形)する傾向にある。このような傾向を踏まえ、本発明では、プレス金型の解析モデルと剛体モデルとの間に所定の隙間を設けた状態でプレス加工の構造解析を行うようにした。このように隙間を設けることによって、プレス金型の解析モデルと支持部材の解析モデル(剛体モデル)との間にプレス金型の変形を許容可能な空間が形成されるので、支持部材の解析モデルに剛体モデルを用いた場合であっても、支持部材の実際の形態に即した解析モデルを用いた場合におけるプレス金型の変形を再現することができる。以上より、本発明に係る解析方法によれば、解析時間を短縮しつつも、所要の解析精度を確保することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係るプレス加工解析方法は、支持部材の解析モデルを用いてプレス加工の構造解析を行った際に得られたプレス金型の解析モデルの変形データに基づいて、隙間の大きさを決定する隙間量決定ステップをさらに備えてもよい。
【0011】
このように、実際の支持部材に即した形状の解析モデルを用いて構造解析を行った際のプレス金型の解析モデルの変形データに基づいて、隙間の大きさを決定することにより、プレス加工時に支持部材に生じる変形を精度よく再現することが可能となる。
【0012】
また、隙間量決定ステップを備える場合、本発明に係るプレス加工解析方法においては、隙間量決定ステップで、剛体モデルを用いてプレス加工の構造解析を行った際に得られたプレス金型の解析モデルの変形量と、支持部材の解析モデルを用いてプレス加工の構造解析を行った際に得られたプレス金型の解析モデルの変形量との差が縮まる方向に隙間量を修正してもよい。
【0013】
上述のように隙間量を修正することによって、プレス金型の解析モデルの変形態様を実際のプレス金型の変形態様に近づけることができる。よって、プレス加工時におけるプレス金型の変形をより一層精度よく再現することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るプレス加工解析方法において、剛体モデルはプレート状をなすものであってもよい。なお、ここでいうプレート状をなす剛体モデルモデルには、厚み方向に所定の寸法(有限要素であれば複数の節点)を有する板状モデルだけでなく、シェル要素など厚み方向の寸法が理論上零のモデルが含まれ得る。
【0015】
このように、剛体モデルをプレート状モデルとすることで、解析モデルの規模を最大限に縮小することができる。よって、解析時間の更なる短縮が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、所要の解析精度を確保しつつも、解析に要する時間が増加する事態を防止することができるので、プレス金型のリードタイムに対する要求を満足することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るプレス加工解析方法の流れを示すフローチャートである。
図2図1に示す解析モデル作製ステップの流れを示すフローチャートである。
図3図1に示す解析モデル作製ステップで作製される解析モデルの正面図で、支持部材の解析モデルを備えたプレス加工装置の解析モデルの正面図である。
図4図1に示す解析モデル作製ステップで作製される解析モデルの正面図で、支持部材の解析モデルに代えて剛体モデルを備えたプレス加工装置の解析モデルの正面図である。
図5図2に示す隙間設定ステップの流れを示すフローチャートである。
図6図5に示す隙間量決定ステップの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るプレス加工解析方法の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0019】
図1及び図2は、本発明の一実施形態に係るプレス加工解析方法の流れを示している。図1に示すように、この解析方法は、解析モデルを作製する解析モデル作製ステップS1と、作製した解析モデルを用いてプレス加工の構造解析を実施する構造解析ステップS2とを備える。また、解析モデル作製ステップS1は、図2に示すように、プレス金型の解析モデルを作製する金型モデル作製ステップS11と、プレス金型と共にプレス加工装置を構成しプレス金型を支持する支持部材の解析モデルを作製する支持部材モデル作製ステップS12と、支持部材の解析モデルの代替モデルとしての剛体モデルを作製する剛体モデル作製ステップS13と、プレス金型の解析モデルと剛体モデルとの間に所定の隙間を設定する隙間設定ステップS14とを有する。以下、解析モデル作製ステップS1、特に隙間設定ステップS14を中心に詳細を説明する。
【0020】
(S11)金型モデル作製ステップ
このステップS11では、解析対象となるプレス金型の解析モデル(以下、単に金型モデルと称する。)を作製する。本実施形態では、図3に示すように、一対のプレス金型をなすダイ(上型)とパンチ(下型)の実際の形態に即した解析モデルである金型モデル11,12を作製する。この場合、各金型モデル11,12は、例えばソリッド要素で作製される。
【0021】
なお、図3には示していないが、必要な場合には、ブランクホルダなどプレス金型とともに使用される他の要素の解析モデルを作製してもよい。
【0022】
(S12)支持部材モデル作製ステップ
このステップS12では、プレス金型と共にプレス加工装置を構成しプレス金型を支持する支持部材の解析モデルを作製する。本実施形態では、図3に示すように、一対のプレス金型をなすダイ(上型)とパンチ(下型)が取り付けられる支持部材としてのスライダとボルスタの実際の形態に即した実機解析モデルである支持部材モデル13,14を作製する。この場合、支持部材モデル13,14は、例えばソリッド要素で作製される。
【0023】
(S13)剛体モデル作製ステップ
このステップS13では、支持部材モデル13,14の代替モデルとして、剛体モデルを作製する。本実施形態では、図4に示すように、各支持対象となる金型モデル11,12の全体を支持可能な大きさ(平面積)のプレート状をなす剛体モデル15,16が作製される。この際、各剛体モデル15,16の厚み寸法は、支持部材モデル13,14の厚み寸法よりも小さく設定される(図3及び図4を参照)。各剛体モデル15,16は、例えばソリッド要素で作製されてもよく、あるいはシェル要素で作製してもよい。
【0024】
(S14)隙間設定ステップ
このステップS14では、ステップS11~S13で作製した各解析モデルの配置を決定するに際して、金型モデル11,12と剛体モデル15,16との間に所定の隙間17,18を設ける(図4を参照)。図5は、本実施形態に係る隙間設定ステップS14の詳細な流れを示すフローチャートである。図5に示すように、このステップS14は、隙間17,18の初期値を設定する初期値設定ステップS15と、剛体モデル15,16の解析結果と、支持部材モデル13,14の解析結果とに基づいて、隙間17,18の大きさを決定する隙間量決定ステップS16とを有する。
【0025】
(S15)初期値設定ステップ
このステップS15では、金型モデル11,12と剛体モデル15,16との間に形成される隙間17,18の初期値g1,g2を設定する。本実施形態では、一方の金型モデル11と一方の剛体モデル15との間に一つの隙間17が設けられ、他方の金型モデル12と他方の剛体モデル16との間に一つの隙間18が設けられる。また、剛体モデル15,16はともにプレート状をなすことから、各隙間17,18は概ね一定の寸法を有する。よって、各一つの隙間17,18につき一つの初期値g1,g2が設定される。ここで、初期値g1,g2の値はそれぞれ、想定される金型モデル11,12の厚み方向(図4の上下方向)の変形量の最大値に基づいて設定されるのがよい。
【0026】
(S16)隙間量決定ステップ
このステップS16では、剛体モデル15,16を用いた場合の解析結果としての金型モデル11,12の変形データと、支持部材モデル13,14を用いた場合の解析結果としての金型モデル11,12の変形データとに基づいて、隙間17,18の大きさを修正することによって、隙間17の適正な値G1,G2(図4を参照)を決定する。
【0027】
図6に、本実施形態に係る隙間量決定ステップS16のフローチャートを示す。このように、本実施形態に係る隙間量決定ステップS16は、支持部材モデル解析ステップS21と、剛体モデル解析ステップS22と、変形量第一比較ステップS23と、隙間量第一修正ステップS24と、変形量第二比較ステップS25と、隙間量第二修正ステップS26と、隙間量設定ステップS27とを有する。以下、各ステップS21~S27の詳細を時系列順に説明する。
【0028】
(S21)支持部材モデル解析ステップ
まず、本ステップS21では、図3に示す支持部材モデル13,14を含む解析モデルを用いて、プレス加工の構造解析を行う。この際の解析条件(荷重、拘束条件など)は、実際のプレス加工の構造解析と同じ条件とする。また、金型モデル11,12と支持部材モデル13,14の配置は、実際の支持態様を反映した配置態様とする。すなわち、各金型モデル11,12が支持部材モデル13,14と接触した状態とする(図3を参照)。
【0029】
(S22)剛体モデル解析ステップ
次に、本ステップS22では、図4に示す剛体モデル15,16を含む解析モデルを用いて、プレス加工の構造解析を行う。この際の解析条件は、支持部材モデル解析ステップS21の際と同じ条件とする。また、初回解析時における隙間17,18の値はそれぞれ初期値g1,g2とする。従い、金型モデル11,12と剛体モデル15,16とは隙間17,18を介して離れた状態にある。この場合、金型モデル11,12は、現実に起こり得る変形態様(たわみ変形)を再現可能なように、例えば剛体モデル15,16側の四つの頂点11a,12a(図4を参照)のみを拘束した状態とする。
【0030】
(S23)変形量第一比較ステップ
次に、各解析ステップS21,S22で得られた解析結果のうち、ステップS21で得られた金型モデル11,12の変形量データと、ステップS22で得られた金型モデル11,12の変形量データとを比較する。そして、ステップS22の場合(剛体モデル15,16を用いた場合)の少なくとも一方の金型モデル11,12の変形量が、ステップS21の場合(支持部材モデル13,14を用いた場合)の対応する金型モデル11,12の変形量を上回っていた場合、隙間量第一修正ステップS24に進む。それ以外の場合は、変形量第二比較ステップS25に進む。
【0031】
(S24)隙間量第一修正ステップ
このステップS24では、プレート状をなす剛体モデル15,16と金型モデル11,12との隙間17,18のうち少なくとも一方の値が本来付与すべき値と比べて過大であるとみなして、隙間17,18の初期値g1,g2のうち過大とみなした値に、対応する少なくとも一方の負の修正値α1,α2を付加する。例えば、隙間17の初期値g1が過大の場合、修正値α1の分だけ隙間17の値(初回は初期値g1)を減らす。隙間18の初期値g2が過大の場合、修正値α2の分だけ隙間18の値(初回は初期値g2)を減らす。なお、修正値α1,α2はそれぞれ、初期値g1,g2よりも小さい値とする。
【0032】
(S25)変形量第二比較ステップ
このステップS25では、剛体モデル15,16を用いた場合の少なくとも一方の金型モデル11,12の変形量が、支持部材モデル13,14を用いた場合の対応する金型モデル11,12の変形量を下回っているか否かを判定する。そして、剛体モデル15,16を用いた場合の少なくとも一方の金型モデル11,12の変形量が、支持部材モデル13,14を用いた場合の対応する金型モデル11,12の変形量を下回っていた場合、隙間量第二修正ステップS26に進む。
【0033】
(S26)隙間量第二修正ステップ
このステップS26では、剛体モデル15,16と金型モデル11,12との隙間17,18のうち少なくとも一方の値が本来付与すべき値に比べて過小であるとみなして、隙間17,18の初期値g1,g2のうち過小とみなした値に、対応する少なくとも一方の正の修正値α1,α2を付加する。例えば、隙間17の初期値g1が過小の場合、修正値α1の分だけ隙間17の値(初回は初期値g1)を増やす。隙間18の初期値g2が過小の場合、修正値α2の分だけ隙間18の値(初回は初期値g2)を増やす。
【0034】
ステップS24又はステップS26で隙間17,18の値の修正を行った場合、再びステップS22に戻り、修正後の隙間17,18の値が設定された状態の剛体モデル15,16を含む解析モデルを用いて剛体モデル解析ステップS22を実施する。このようにして、ステップS22~S26を繰り返し実施する。
【0035】
(S27)隙間量設定ステップ
そして、変形量第一比較ステップS23で、剛体モデル15,16を用いた場合の金型モデル11,12の変形量がともに支持部材モデル13,14を用いた場合の金型モデル11,12の変形量を上回っておらず、かつ、変形量第二比較ステップS25で、剛体モデル15,16を用いた場合の金型モデル11,12の変形量がともに、支持部材モデル13,14の変形量を下回っていない場合、言い換えると、剛体モデル15,16を用いた場合の金型モデル11,12の変形量が、支持部材モデル13,14を用いた場合の金型モデル11,12の変形量と等しい場合、この時点での隙間17,18の値を最終的な隙間17,18の値G1,G2として設定する。
【0036】
なお、各ステップS23,S25における金型モデル11,12の変形量の比較態様は原則として任意であり、例えば解析により得られた全ての点の変形量の総和同士を比較してもよいし、各点の変形量同士を比較してもよい。また、変形量が同じ場合には、完全に変形量データが等しい場合のみならず、実質的に等しいとみなし得る場合、例えば変形量の差が大きい方の値の所定割合以下(例えば0.1%以下)である場合なども含まれる。
【0037】
(S2)構造解析ステップ
このステップS2では、ステップS12で作製した支持部材モデル13,14に代えて、ステップS13で作製した剛体モデル15,16を用いてプレス加工の構造解析を行う。また、ステップS14で算出した値G1,G2の隙間17,18を剛体モデル15,16と金型モデル11,12との間に設けた状態で、上記構造解析を行う。
【0038】
以上述べたように、本実施形態に係るプレス加工の構造解析方法では、支持部材の解析モデルである支持部材モデル13,14の代替モデルとして、支持部材の剛体モデル15,16を作製し、この剛体モデル15,16を用いてプレス加工の構造解析を行うようにした。剛体モデル15,16であれば、実際の形状に即した支持部材モデル13,14に比べて単純な構造のモデルにすることができるので、解析モデルの規模を小さくすることができる。よって、解析モデルのデータ量を小さくして、当該モデルを用いた構造解析に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。また、剛体モデル15,16とすること自体による計算時間の短縮効果も得られるため、総じて解析時間の大幅な短縮が可能となる。もちろん、本実施形態のように、剛体モデル15,16をプレート状モデルとすることで、解析モデルの規模を最大限に縮小することができる。よって、解析時間の更なる短縮が可能となる。
【0039】
また、本実施形態に係るプレス加工の構造解析方法では、実際のプレス加工時におけるプレス金型及び支持部材の変形態様に鑑みて、プレス金型の解析モデル(金型モデル11,12)と剛体モデル15,16との間に所定の隙間17,18を設けた状態でプレス加工の構造解析を行うようにした。このように隙間17,18を設けることによって、金型モデル11,12と剛体モデル15,16との間にプレス金型の変形を許容可能な空間が形成されるので、支持部材モデル13,14に代えて剛体モデル15,16を用いた場合であっても、支持部材の実際の形態に即した解析モデルである支持部材モデル13,14を用いた場合における金型モデル11,12の変形を再現することができる。以上より、本実施形態に係る解析方法によれば、解析時間を短縮しつつも、所要の解析精度を確保することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、支持部材モデル13,14を用いてプレス加工の構造解析を行った際に得られた金型モデル11,12の変形データに基づいて、隙間17,18の大きさを決定する隙間量決定ステップS16を設けたので、プレス加工時に支持部材に生じる変形を精度よく再現することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、隙間量決定ステップS16において、剛体モデル15,16を用いてプレス加工の構造解析を行った際に得られた金型モデル11,12の変形量と、支持部材モデル13,14を用いてプレス加工の構造解析を行った際に得られた金型モデル11,12の変形量との差が縮まる方向に隙間17,18の値を修正したので、金型モデル11,12の変形態様を実際のプレス金型の変形態様に近づけることができる。よって、プレス加工時におけるプレス金型の変形をより一層精度よく再現することが可能となる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係るプレス加工解析方法は、上記例示の構成に限られることなく、本発明の範囲内において種々の変更が可能なことはもちろんである。
【0043】
例えば上記実施形態では、剛体モデル解析ステップS22において、各金型モデル11,12の剛体モデル15,16側の四つの頂点11a,12a(図4を参照)のみを拘束した状態で、プレス加工の構造解析を行った場合を例示したが、もちろんこれには限られない。支持部材の構造に応じて、さらにいえば想定される支持部材の変形態様に応じて、金型モデル11,12の拘束条件を設定することが可能である。
【0044】
また、上記実施形態では、全域にわたって幅寸法が一定な隙間17,18を金型モデル11,12と剛体モデル15,16との間に設けた場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、剛体モデル15,16の形状を変更することにより、金型モデル11,12との間の幅寸法が一定でない(場所によって異なる)隙間を設けることも可能である。
【0045】
また、上述の通り、剛体モデル15,16はプレート状には限られない。解析時間の短縮効果を享受できる範囲において、また金型モデル11,12の変形を阻害しない範囲において、任意の形態をとることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
11,12 金型モデル
11a,12a 頂点(拘束点)
13,14 支持部材モデル
15,16 剛体モデル
17,18 隙間
g1,g2 初期値
S1 解析モデル作製ステップ
S11 金型モデル作製ステップ
S12 支持部材モデル作製ステップ
S13 剛体モデル作製ステップ
S14 隙間設定ステップ
S15 初期値設定ステップ
S16 隙間量決定ステップ
S2 構造解析ステップ
S21 支持部材モデル解析ステップ
S22 剛体モデル解析ステップ
S23 変形量第一比較ステップ
S24 隙間量第一修正ステップ
S25 変形量第二比較ステップ
S26 隙間量第二修正ステップ
S27 隙間量設定ステップ
α1,α2 修正値
図1
図2
図3
図4
図5
図6