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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108606
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 5/17 20060101AFI20240805BHJP
   B43K 24/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B43K5/17
B43K24/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013051
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】岩原 卓
【テーマコード(参考)】
2C350
2C353
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350KF01
2C350NA11
2C353HA01
2C353HA08
2C353HC04
2C353HJ11
2C353HJ15
(57)【要約】
【課題】ペン先からのインキの蒸発を抑制しながらも、筆記部材の軸筒への取付けを容易にする。
【解決手段】筆記具10は、前端開口部20aを有する前軸21と、前軸21に対して後方から取り付け可能な後軸31と、を有する軸筒20と、ペン先13を有する筆記部材12と、ペン先13を前端開口部20aから出没させる出没機構40と、を備えた筆記具10であって、後軸31は、ペン先13が軸筒20内に没入したときに筆記部材12に接触してペン先13の収容空間Sを密閉する密閉部39を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端開口部を有する前軸と、前記前軸に対して後方から取り付け可能な後軸と、を有する軸筒と、
ペン先を有する筆記部材と、
前記ペン先を前記前端開口部から出没させる出没機構と、を備えた筆記具であって、
前記後軸は、前記ペン先が前記軸筒内に没入したときに前記筆記部材に接触して前記ペン先の収容空間を密閉する密閉部を有する、筆記具。
【請求項2】
前記後軸を前記前軸から取り外した状態において、前記筆記部材を交換できるように構成されている、請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記筆記部材は、後方を向く接触面を含む段部を有し、
前記密閉部は、前記接触面に対して後方から接触する、請求項1に記載の筆記具。
【請求項4】
前記後軸は、本体部と、前記密閉部を有し前記本体部に取り付けられた密閉部材と、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記密閉部材は、金属で形成されている、請求項4に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒と、ペン先部を有する筆記部材と、ペン先部を軸筒から出没させる出没機構と、を備えた筆記具が知られている。また、このような筆記具において、ペン先部の没入状態において、ペン先部でのインキの乾燥を防止するために、ペン先の収容空間を密閉する密閉機構を備えた筆記具も知られている。
【0003】
特許文献1には、軸筒と、筆記部を有し軸筒内に配置された筆記本体と、筆記本体を繰り出すための繰出機構と、を備えた操出式筆記具が開示されている。この操出式筆記具は、内筒体と、第一の弾性体と、第二の弾性体と、をさらに有している。この操出式筆記具では、筆記部が軸筒内に没入した状態で、軸筒内の筆記部回りの空間における後方に連通した通路が第一の弾性体及び第二の弾性体により閉塞される。これにより、筆記部回りの空間が密封されて気密状態となる。したがって、ペン先(筆記部)からのインキの蒸発を抑制することができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3382339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている従来の筆記具においては、内筒体、第一の弾性体及び第二の弾性体のような追加の部材が軸筒の前軸側に取り付けられている。これにより、前軸から後軸を取り外した状態で筆記本体を前軸に取り付ける際に、これらの追加の部材により、筆記本体の前軸への取付けが妨げられることがあった。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、ペン先からのインキの蒸発を抑制しながらも、筆記部材の軸筒への取付けを容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による筆記具は、
[1]前端開口部を有する前軸と、前記前軸に対して後方から取り付け可能な後軸と、を有する軸筒と、
ペン先を有する筆記部材と、
前記ペン先を前記前端開口部から出没させる出没機構と、を備えた筆記具であって、
前記後軸は、前記ペン先が前記軸筒内に没入したときに前記筆記部材に接触して前記ペン先の収容空間を密閉する密閉部を有する、筆記具。
【0008】
本発明による筆記具は、
[2]前記後軸を前記前軸から取り外した状態において、前記筆記部材を交換できるように構成されている、[1]に記載の筆記具。
【0009】
本発明による筆記具は、
[3]前記筆記部材は、後方を向く接触面を含む段部を有し、
前記密閉部は、前記接触面に対して後方から接触する、[1]又は[2]に記載の筆記具。
【0010】
本発明による筆記具は、
[4]前記後軸は、本体部と、前記密閉部を有し前記本体部に取り付けられた密閉部材と、を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の筆記具。
【0011】
本発明による筆記具は、
[5]前記密閉部材は、金属で形成されている、[4]に記載の筆記具。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ペン先からのインキの蒸発を抑制しながらも、筆記部材の軸筒への取付けを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、筆記具の一例を没入状態で示す縦断面図である。
図2図2は、図1の筆記具を突出状態で示す縦断面図である。
図3図3は、図1の筆記具の密閉部材を拡大して示す縦断面図である。
図4図4は、筆記具の前軸を示す縦断面図である。
図5図5は、筆記具の後軸を示す縦断面図である。
図6図6は、筆記具の筆記部材を示す縦断面図である。
図7図7は、筆記部材の交換工程の一例について説明するための図である。
図8図8は、筆記部材の交換工程の一例について説明するための図である。
図9図9は、筆記部材の交換工程の一例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0015】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0016】
本明細書では、筆記具10の中心軸線Aが延びる方向(長手方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向とする。軸方向daに沿って、ペン先側を前方とし、ペン先と反対側を後方とする。また、径方向に沿って、中心軸線Aに近づく側を内側又は内方、中心軸線Aから遠ざかる側を外側又は外方とする。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、筆記具10の一例を没入状態で示す縦断面図であり、図2は、筆記具10を突出状態で示す縦断面図である。図3は、筆記具10の密閉部材を拡大して示す縦断面図である。図4は、筆記具10の前軸21を示す縦断面図であり、図5は、筆記具10の後軸31を示す縦断面図であり、図6は、筆記具10の筆記部材12を示す縦断面図である。
【0018】
筆記具10は、筆記部材12と、軸筒20と、出没機構40と、密閉機構70とを含んでいる。筆記具10は、中心軸線Aに沿って延びている。筆記部材12は、紙面等の筆記面に筆跡を形成する部材である。筆記部材12は、軸筒20内に収容されている。筆記部材12としては、ボールペン、万年筆、マーカー等に用いられる部材が挙げられる。本実施形態では、筆記具10が万年筆である例について説明する。
【0019】
筆記部材12は、前端部に設けられたペン先13と、インキを収容する収容筒14と、第1受部15と、突出部16と、接触面18とを有する。収容筒14は、例えば、カートリッジであってもよいし、コンバーターであってもよい。第1受部15は、筆記部材12の外面に形成された段部における前方を向く面であり、後述の第1弾発部材42の弾発力を受ける。突出部16は、筆記部材12の本体部から径方向の外側に突出する。接触面18は、筆記部材12の外面に形成された段部17における後方を向く面である。接触面18は、ペン先13が軸筒20内に没入したときに、後述する後軸31の密閉部39が接触する面である。本実施形態では、接触面18は、中心軸線Aに直交して延びる面である。また、接触面18は、中心軸線A周りに環状に延びている。
【0020】
出没機構40は、筆記具10を、軸筒20の前端開口部20aからペン先13が突出する突出状態と、前端開口部20aからペン先13が没入する没入状態と、に交互に切り換えるための機構である。
【0021】
軸筒20は、前軸21と、前軸21の前方に配置された先端部材30と、前軸21の後方に配置された後軸31とを含んでいる。軸筒20の中心軸線は、筆記具10の中心軸線Aと一致している。軸筒20の前端には、ペン先13が通過可能な前端開口部20aが設けられている。本実施形態では、先端部材30の前端に前端開口部20aが形成されている。後軸31は、前軸21に対して後方から取り付け可能に構成されている。本実施形態の筆記具10は、後軸31を前軸21から取り外した状態において、筆記部材12の少なくとも一部を交換することができるように構成されている。
【0022】
前軸21は、略筒状の形状を有する部材であり、使用者が筆記具10で筆記を行う際に、指でつかむことが意図されている。本実施形態の前軸21は、内軸22と、内軸22に対して径方向の外側に配置された外軸25と、第1連結部材26と、筒状部材27と、前端部材29とを含んでいる。
【0023】
内軸22は、筆記部材12の前方部分を収容する部材である。内軸22は、略筒状の形状を有する部材である。内軸22の内面には、筆記部材12の突出部16と係合する溝部24が形成されている。溝部24は軸方向daに延びる溝であり、筆記部材12の突出部16が溝部24内に位置することにより、筆記部材12が、軸筒20に対して軸方向daには移動可能且つ周方向には回転不能に支持される。また、内軸22の前方部分の内面には、第2受部28が設けられている。第2受部28は、内軸22の内面に形成された段部における後方を向く面であり、後述の第1弾発部材42の弾発力を受ける。
【0024】
内軸22は、ペン先13の収容空間Sの後方部分を画定する部材である。内軸22は、例えば、アクリロニトリル-スチレン(AS)共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エラストマー等の樹脂材料、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム材料等により形成される。とりわけ、内軸22は、水分透過率の低い材料で形成されることが好ましい。内軸22が水分透過率の低い材料で形成されることにより、インキの蒸気を含む雰囲気が軸筒20(内軸22)を通って収容空間Sから外部に放出されることを抑制することができる。これにより、収容空間S内におけるペン先13からのインキの蒸発量を低減することができる。このような水分透過率の低い材料としては、例えばポリプロピレン(PP)が好適に用いられる。なお、内軸22は、単一の部材で構成されてもよいし、複数の部材で構成されてもよい。
【0025】
外軸25は、使用者から視認される部材であるとともに、使用者が筆記具10で筆記を行う際に指でつかむ部材である。したがって、外軸25は、意匠性や使用者による持ちやすさを考慮して、適切な材料で形成される。例えば、外軸25は、樹脂、エラストマー、金属、木材等で形成されてもよい。第1連結部材26は、後軸31との連結部を構成する部材である。第1連結部材26は、内軸22及び外軸25の少なくとも一方の後端部に固定されている。例えば、第1連結部材26は、接着またはインサート成型により内軸22及び外軸25の少なくとも一方の後端部に固定されてもよい。第1連結部材26は、例えば樹脂、金属等により形成される。なお、図示した例に限られず、外軸25や第1連結部材26は省略されてもよい。例えば、前軸21の全体が一体に形成されてもよい。
【0026】
筒状部材27及び前端部材29は、ペン先13の収容空間Sの前方部分を画定する部材である。筒状部材27は、中心軸線Aと一致する中心軸線を有する略円筒状の形状を有する部材である。筒状部材27は、内軸22に対して固定されている。詳細には、筒状部材27は、内軸22の前方部分に取り付けられている。筒状部材27は、例えば、圧入、接着、ネジ部の螺合により、内軸22に取り付けられる。筒状部材27の材料は特に限られないが、例えば、金属、樹脂等を用いることができる。前端部材29は、前端が後述の蓋部材71により閉止されることにより、収容空間Sの前端部を密閉するための部材である。前端部材29は、筒状部材27の前端に取り付けられている。とりわけ、前端部材29は、前端部材29と筒状部材27との間が密閉されるように、筒状部材27に取り付けられている。前端部材29は、例えば、ゴム等の弾性部材で形成される。
【0027】
先端部材30は、軸筒20の先端部分を形成する部材である。先端部材30は、前軸21の前端部、蓋部材71及び弾発部材73を保護する機能を有する。先端部材30は、略円錐台形状を有しており、前方に向かうにつれてその外径が小さくなっている。先端部材30の前端には、ペン先13が出没する前端開口部20aが形成されている。先端部材30の後端部が前軸21の前端部に取付けられることにより、先端部材30が前軸21に対して連結される。先端部材30は、例えば、圧入、接着、ネジ部の螺合により、前軸21に連結される。
【0028】
後軸31は、前軸21の後方に配置された、略筒状の形状を有する部材である。後軸31は、ペン先13が軸筒20内に没入したときに筆記部材12に接触してペン先13の収容空間Sを密閉する密閉部39を有している。本実施形態の後軸31は、本体部32と、密閉部材38とを含んでいる。本体部32は、内軸33と、内軸33に対して径方向の外側に配置された外軸34と、第2連結部材35と、頭冠37とを含んでいる。密閉部材38の詳細については後述する。
【0029】
内軸33は、筆記部材12の後方部分を収容する部材である。内軸33は、略筒状の形状を有する部材である。内軸33は、例えば、樹脂、金属、木材等で形成される。内軸33の内周面には、前方に突出する鋸歯状の複数のカム歯と、カム歯間に形成され軸方向daに延びる溝部と、が形成されている。
【0030】
外軸34は、使用者から視認される部材である。したがって、外軸34は、意匠性等を考慮して、適切な材料で形成される。例えば、外軸34は、樹脂、エラストマー、金属、木材等で形成されてもよい。第2連結部材35は、前軸21との連結部を構成する部材である。本実施形態では、第2連結部材35の内面に形成された雌ネジ部が、第1連結部材26の外面に形成された雄ネジ部に螺合することにより、後軸31が前軸21に対して取り付けられる。第2連結部材35は、内軸33及び外軸34の少なくとも一方の前端部に固定されている。例えば、第2連結部材35は、接着またはインサート成型により内軸33及び外軸34の少なくとも一方の前端部に固定されてもよい。第2連結部材35は、例えば樹脂、金属等により形成される。なお、図示した例に限られず、内軸33及び外軸34が単一の部材で構成されてもよい。また、内軸33、外軸34及び第2連結部材35が単一の部材で構成されてもよい。すなわち、後軸31の全体が一体に形成されてもよい。
【0031】
第1連結部材26と第2連結部材35との間には、Oリング81が配置されている(図3参照)。Oリング81は、第1連結部材26と第2連結部材35との連結が緩むことを抑制する機能を有する。また、Oリング81は、収容空間S内の蒸発したインキが第1連結部材26と第2連結部材35との間の隙間を介して外部に放出されることを抑制する機能を有する。
【0032】
出没機構40は、筆記具10を、突出状態と没入状態とに交互に切り換えるための機構である。本実施形態の出没機構40は、ノック部材50と、回転カム部材60と、第1弾発部材42と、第2弾発部材44と、を含んでいる。
【0033】
第1弾発部材42は、例えばコイルスプリングである。第1弾発部材42は、筆記部材12の第1受部15と、軸筒20(前軸21)の第2受部28との間に圧縮状態で配置されている。本実施形態では、第1受部15及び第2受部28は、第1弾発部材42からの弾発力を受ける。これにより、第1弾発部材42は、軸筒20に対して筆記部材12を後方へ向けて常に付勢している。
【0034】
ノック部材50は、使用者により操作されることが意図された部材である。ノック部材50は、操作部52と、操作部52の前方に位置する拡径部54とを含んでいる。操作部52は、使用者の指等で押圧される部分である。操作部52は、軸筒20(後軸31)の後端から後方に突出している。没入状態及び突出状態において、操作部52の後端は軸筒20の後端から後方に突出する。拡径部54は、操作部52の径方向寸法よりも大きな径方向寸法を有する。軸筒20の後端部の内径は、操作部52は通過可能であるが、拡径部54は通過不能である大きさを有している。したがって、ノック部材50は、軸筒20の後端部から後方へ抜け出ることがない。
【0035】
拡径部54の前端には、前方に突出するカム歯が形成されている。また、拡径部54の外周面には、軸筒20(後軸31)の内周面に形成された溝部に係合する突出部が形成されている。ノック部材50は、突出部が軸筒20の溝部に係合した状態で、軸方向daに移動可能且つ周方向に回転不能に配置されている。
【0036】
ノック部材50の内部には、軸方向daに延びる穴部56が形成されている。本実施形態では、穴部56は、ノック部材50の前端において開口し、ノック部材50の後端において閉塞している。穴部56の内面には、径方向の内側に向かって突出する内方突出部58が形成されている。
【0037】
ノック部材50の外周面には、Oリング59が配置されている。Oリング59は、ノック部材50の外周面において周方向に環状に延びて形成された溝部内に配置されている。図1に示された例では、Oリング59は、ノック部材50の操作部52と拡径部54との間に配置されている。Oリング59は、図1に示された没入状態において、軸筒20(後軸31)の内周面とノック部材50の外周面との間を密閉する機能を有する。Oリング59は、例えば、ゴム等の弾性材料で形成されている。
【0038】
回転カム部材60は、その外面に、軸方向daに延びるとともに軸筒20の溝部に係合する複数の突条を有している。突条の後端には、軸方向da及び周方向に対して傾斜したカム面が形成されている。カム面は、ノック部材50のカム歯と係合する。回転カム部材60は、軸方向daに沿って後方に突出する後方突出部62を有している。後方突出部62の後端には、係合部64が設けられている。係合部64は、後方突出部62から径方向の外側に向かって突出する突出部である。係合部64は、ノック部材50の内方突出部58に係合して、ノック部材50と回転カム部材60との軸方向daの移動を規制する。
【0039】
ノック部材50と回転カム部材60との間には、第2弾発部材44が配置されている。第2弾発部材44は、例えばコイルスプリングである。第2弾発部材44は、筆記部材12の後方における軸筒20内に配置されている。詳細には、第2弾発部材44は、ノック部材50と回転カム部材60との間に圧縮状態で配置されている。したがって、第2弾発部材44は、回転カム部材60に対してノック部材50を後方へ向けて常に付勢している。これにより、ノック部材50は、回転カム部材60に対して後方へ移動するが、回転カム部材60の係合部64がノック部材50の内方突出部58に係合することにより、ノック部材50が回転カム部材60に対してそれ以上後方へ移動することが妨げられる。回転カム部材60の係合部64がノック部材50の内方突出部58に係合した状態で、第2弾発部材44によってノック部材50が後方へ付勢されることにより、ノック部材50ががたつくことが抑制される。
【0040】
軸筒20の溝部、ノック部材50のカム歯及び突出部、並びに、回転カム部材60の突条及びカム面の具体的な構造及び動作は公知であるので、詳細な説明は省略する。一例として、これらの具体的な構造として、特開2013-006281号公報に開示された機構の構造を用いることが可能である。
【0041】
本実施形態の筆記具10は、ペン先13の収容空間Sを密閉する密閉機構70を有する。密閉機構70は、蓋部材71と、ピンと、弾発部材73とを含んでいる。蓋部材71は、没入状態において内軸22の前端を閉止して収容空間Sを密閉するとともに、突出状態においてペン先13の突出を許容する。蓋部材71及び弾発部材73は、ピンを介して前端部材29に取り付けられている。これにより、蓋部材71は、回転軸となるピン周りに回転移動可能に構成されている。蓋部材71は、弾発部材73により、ペン先13の収容空間を密閉する方向に付勢されている。弾発部材73は、例えばねじりバネである。本実施形態では、没入状態(図1)においては、弾発部材73の弾発力により蓋部材71が閉じており、収容空間Sが密閉されている。これにより、ペン先13におけるインキの乾燥が抑制される。没入状態から突出状態に遷移する際には、前方に移動したペン先13が蓋部材71を前方に押すことにより蓋部材71が開き、ペン先13が軸筒20の前端開口部20aから前方へ突出する(図2)。この突出状態において、筆記具10による筆記が可能になる。
【0042】
上述したように、没入状態において、ペン先13の収容空間Sの前端は、蓋部材71により閉鎖することができる。その一方、従来の筆記具では、収容空間Sの後方部分は、筆記部材12と軸筒20との間の隙間を介して外部と連通している。この場合、収容空間S内のインキの蒸気を含む雰囲気が当該隙間を介して外部に放出され得る。これにより、収容空間S内におけるペン先13からのインキの蒸発量が増大するおそれがある。
【0043】
上記特許文献1の操出式筆記具は、内筒体と、第一の弾性体と、第二の弾性体と、を有している。この操出式筆記具では、筆記部が軸筒内に没入した状態で、軸筒内の筆記部回りの空間における後方に連通した通路が第一の弾性体及び第二の弾性体により閉塞される。これにより、筆記部回りの空間が密封されて気密状態となる。したがって、ペン先(筆記部)からのインキの蒸発を抑制することができる利点がある。
【0044】
しかし、このような筆記具では、内筒体、第一の弾性体及び第二の弾性体のような追加の部材が軸筒の前軸側に取り付けられている。これにより、前軸から後軸を取り外した状態で筆記本体を前軸に取り付ける際に、これらの追加の部材により、筆記本体の前軸への取付けが妨げられることがあった。
【0045】
このような課題に対処するために、本実施形態の筆記具10では、後軸31が、ペン先13が軸筒20内に没入したときに筆記部材12に接触してペン先13の収容空間Sを密閉する密閉部39を有している。以下、主に図1及び図3を参照して、密閉部39について説明する。図3は、没入状態における密閉部材38を拡大して示す縦断面図であり、図1のIIIが付された部分を拡大して示している。
【0046】
本実施形態の後軸31は、本体部32と、本体部32に取り付けられた密閉部材38と、を有している。密閉部材38は、略筒状の形状を有する部材である。密閉部材38は、本体部32に対して取り付けられている。本実施形態では、密閉部材38の外面に雄ネジ部が形成されており、この雄ネジ部と本体部32の内軸33の内面又は第2連結部材35の内面に形成された雌ネジ部とが螺合することにより、密閉部材38が本体部32に対して取り付けられている。なお、本体部32と密閉部材38とは、互いに一体に設けられてもよい。
【0047】
密閉部材38は、密閉部39を有している。密閉部39は、密閉部材38の前端部に形成されている。密閉部39は、筆記部材12に接触することにより、筆記部材12と後軸31との間の隙間を密閉する。これにより、ペン先13の収容空間Sの後方部分が密閉される。筆記部材12の外面には、接触面18が形成されている。接触面18は、筆記部材12の外面に形成された段部17における後方を向く面である。本実施形態では、密閉部39は、ペン先13が軸筒20内に没入したときに、接触面18に対して後方から接触するように構成されている。
【0048】
密閉部39は、密閉部材38の前端部以外の箇所に形成されてもよい。また、密閉部39は、没入状態において段部17以外の箇所に接触するように構成されてもよい。すなわち、接触面18は、段部17以外の箇所に形成されてもよい。
【0049】
密閉部材38の材料としては、例えば、金属材料、樹脂材料、弾性材料等が特に限定されることなく使用され得る。金属材料としては、例えば、(金属材料の例)等を用いることができる。樹脂材料としては、アクリロニトリル-スチレン(AS)共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を用いることができる。弾性材料としては、エラストマー、ゴム材料等を用いることができる。
【0050】
密閉部材38が金属材料で形成されると、密閉部材38の強度を十分に確保しながらも、密閉部材38の径方向の厚さを小さくすることができる。これにより、軸筒20の外径が大きくなることを抑制することが可能になる。すなわち、軸筒20をスリムに形成することができる。
【0051】
図1図3を参照して、出没機構40及び密閉部39の動作について説明する。
【0052】
没入状態(図1)において使用者がノック部材50を前方へ押圧すると、回転カム部材60を介して筆記部材12が前方に向かって移動する。筆記部材12が前方に向かって移動すると、ペン先13が弾発部材73の弾発力に抗して蓋部材71を前方に押すことにより蓋部材71が開く。さらに筆記部材12が前方に向かって移動すると、ペン先13が前端開口部20aから前方へ突出する。ノック部材50の前方への押圧が解除されても、筆記部材12は、ペン先13が前端開口部20aから前方へ突出した状態を維持する。これにより、筆記具10が没入状態から突出状態に遷移する。
【0053】
また、突出状態(図2)において、使用者がノック部材50を前方へ押圧すると、筆記部材12が前方に向かって微小距離だけ移動する。ノック部材50の前方への押圧が解除されると、第1弾発部材42の弾発力により、筆記部材12が後方に向かって移動し、ペン先13が前端開口部20aから没入する。さらに筆記部材12が後方に向かって移動すると、ペン先13が収容空間S内に収容され、弾発部材73の弾発力により蓋部材71が軸筒20(前端部材29)の開口部を閉鎖する。これにより、収容空間Sの前方部分が密閉される。
【0054】
ここで、突出状態から没入状態へ遷移する際、筆記部材12が後退すると、図1及び図3に示されているように、筆記部材12の接触面18が後軸31の密閉部39に接触する。これにより、収容空間Sの後方部分が密閉される。また、没入状態から突出状態へ遷移する際には、筆記部材12が前進することにより、図2に示されているように、接触面18が密閉部39から離間する。これにより、収容空間Sの後方部分は開放される。
【0055】
次に、図7図9を参照して、筆記部材12の交換方法について説明する。図7図9は、筆記部材12の交換工程の一例について説明するための図である。
【0056】
まず、没入状態において、後軸31を前軸21から取り外す。本実施形態では、第2連結部材35の内面に形成された雌ネジ部が、第1連結部材26の外面に形成された雄ネジ部に螺合することにより、後軸31が前軸21に対して取り付けられている。したがって、後軸31を前軸21に対して中心軸線A周りに回転させることにより、後軸31を前軸21から取り外すことができる。このとき、密閉部材38(密閉部39)も、前軸21から取り外される。その後、筆記部材12を、軸筒20内から取り出す。
【0057】
筆記部材12の全体を交換する場合には、軸筒20内から取り出した筆記部材12に代わる、新たな筆記部材12を準備する。これに限られず、筆記部材12の一部のみを交換してもよい。なお、筆記部材12の一部のみを交換することも、筆記部材12を交換することに含まれるものとする。筆記部材12の一部のみを交換する場合、例えば、筆記部材12の収容筒14を交換してもよい。収容筒14がカートリッジである場合、ペン先13を含む筆記部材12の本体部からカートリッジを取り外し、他のカートリッジ、例えばインキが充填されたカートリッジ、を筆記部材12の本体部に取り付ける。収容筒14がコンバーターである場合、筆記部材12の本体部からコンバーターを取り外し、他のコンバーターを筆記部材12の本体部に取り付ける。
【0058】
次に、図7及び図8に示されているように、筆記部材12を前軸21に対して後方から前方へ向かって挿入する。このとき、前軸21は、密閉部材38(密閉部39)を有していないので、密閉部材38(密閉部39)により筆記部材12の挿入が妨げられることはない。
【0059】
その後、図8及び図9に示されているように、後軸31を前軸21に対して後方から取り付ける。図9に示された状態で、後軸31を前軸21に対して中心軸線A周りに回転させることにより、後軸31を前軸21に取り付けることができる。このとき、後軸31の密閉部39が筆記部材12の接触面18に接触して、収容空間Sの後方部分が密閉される。
【0060】
後軸31を前軸21に後方から取り付ける際、密閉部材38は、筆記部材12に対する位置合わせ用のガイドとしても機能する。これにより、後軸31を前軸21に取り付ける際に、密閉部39が第1連結部材26等の他の部材に接触して、密閉部39に傷や変形が生じることを抑制することができる。したがって、密閉部39の傷や変形によって収容空間Sの密閉効果が低下することを抑制することができる。
【0061】
本実施形態の筆記具10は、前端開口部20aを有する前軸21と、前軸21に対して後方から取り付け可能な後軸31と、を有する軸筒20と、ペン先13を有する筆記部材12と、ペン先13を前端開口部20aから出没させる出没機構40と、を備えた筆記具10であって、後軸31は、ペン先13が軸筒20内に没入したときに筆記部材12に接触してペン先13の収容空間Sを密閉する密閉部39を有する。
【0062】
没入状態において、ペン先13からインキが蒸発し得る。蒸発したインキは、軸筒20の内部に広がる。没入状態では、ペン先13の収容空間Sの前方部分は、蓋部材71により閉塞される。その一方、軸筒20の後方部分では、部品間の隙間を通って蒸発したインキが筆記具10の外部に放出される。この場合、筆記具10の非使用時にも筆記部材内に収容されたインキが減少する。また、ペン先13においてインキが乾燥して固着することもある。
【0063】
本実施形態の筆記具10によれば、没入状態において、後軸31の密閉部39が筆記部材12に接触することにより、ペン先13の収容空間Sの後方部分が密閉される。したがって、ペン先13から蒸発したインキが軸筒20の後方部分を通って筆記具10の外部に放出されることが効果的に抑制される。これにより、収容空間S内が蒸発したインキで満たされ、ペン先13からのインキのさらなる蒸発が抑制される。また、密閉部39は後軸31に設けられており、前軸21は密閉部39を構成する追加の部材を有していないので、筆記部材12を前軸21内に挿入する際に、密閉部39により筆記部材12の挿入が妨げられることはない。したがって、ペン先13からのインキの蒸発を抑制しながらも、筆記部材12の軸筒20への取付けを容易にすることができる。
【0064】
また、密閉機構70を備えた筆記具10では、筆記部材12の後退にともなって蓋部材71が閉じられ、その後、筆記部材12がさらに後退して軸筒20の内部に収容される。このとき、蓋部材71が閉じられた後に筆記部材12が後退することで、収容空間Sの内部に負圧が生じることがある。この場合、筆記部材12の内部に収容されたインキが筆記部材12のペン先13を介して収容空間S内に漏れ出すおそれがある。
【0065】
上記特許文献1の操出式筆記具では、第一の弾性体及び第二の弾性体が筆記具の前方部分に配置されているため、ペン先の収容空間の容積が小さい。この場合、蓋部材、第一の弾性体及び第二の弾性体により収容空間が密閉された瞬間の収容空間の容積を第1の容積とし、収容空間が密閉された後に筆記部材が後退することによって増大する収容空間の容積を第2の容積としたときに、第1の容積に対する第2の容積の比が大きくなる。したがって、収容空間が密閉された後に筆記部材が後退することで、収容空間の内部に比較的大きな負圧が生じ得る。
【0066】
本実施形態の筆記具10によれば、密閉部39が後軸31に設けられていることにより、蓋部材71及び密閉部39により収容空間Sが密閉された瞬間の収容空間Sの容積が大きくなる。したがって、第1の容積に対する第2の容積の比が小さくなる。これにより、収容空間Sが密閉された後に筆記部材12が後退することで生じる負圧を小さくすることができる。したがって、この負圧により筆記部材12の内部に収容されたインキが筆記部材12のペン先13を介して収容空間S内に漏れ出すことを抑制することができる。
【0067】
さらに、ペン先13からインキが漏れ出した場合、筆記具10の姿勢によっては、漏れ出したインキが後軸31内まで移動するおそれがある。後軸31内には、出没機構40を構成する複数の部品が収容されており、これらの部品間の隙間にインキが入り込んで乾燥すると、部品どうしが固着され得る。この場合、出没機構40の動作に不具合が生じ得る。後軸31内を洗浄することも考えられるが、後軸31内に侵入し部品間の隙間に入り込んだインキを完全に除去することは困難である。また、後軸31内の部品にグリース等の潤滑剤が塗布されている場合には、後軸31内を洗浄するとインキとともに潤滑剤も除去され得る。この場合にも、出没機構40の動作に不具合が生じ得る。
【0068】
本実施形態の筆記具10によれば、密閉部39を有することにより、ペン先13から漏れ出したインキが後軸31内まで移動することを抑制することができる。これにより、部品間の隙間にインキが入り込んで固着し、出没機構40の動作に不具合が生じることを抑制することができる。
【0069】
本実施形態の筆記具10では、後軸31を前軸21から取り外した状態において、筆記部材12を交換できるように構成されている。
【0070】
このような筆記具10によれば、密閉部39を前軸21から取り外した状態で、筆記部材12を交換することができる。したがって、筆記部材12の軸筒20への取付けを容易にすることができる。
【0071】
本実施形態の筆記具10では、筆記部材12は、後方を向く接触面18を含む段部17を有し、密閉部39は、接触面18に対して後方から接触する。
【0072】
このような筆記具10によれば、筆記部材12の出没にともなう筆記部材12の後方への移動により、密閉部39と接触面18とを接触させることができる。したがって、密閉部39と接触面18とを接触させるための特別な動作が必要ない。
【0073】
本実施形態の筆記具10では、後軸31は、本体部32と、密閉部39を有し本体部32に取り付けられた密閉部材38と、を含む。
【0074】
このような筆記具10によれば、密閉部材38を本体部32と別体に形成することができるので、密閉部材38の設計の自由度を向上させることができる。例えば、密閉部材38を構成する材料と本体部32を構成する材料とを互いに異ならせることもできる。
【0075】
本実施形態の筆記具10では、密閉部材38は、金属で形成されている。
【0076】
このような筆記具10によれば、密閉部材38の強度を十分に確保しながらも、密閉部材38の径方向の厚さを小さくすることができる。これにより、軸筒20の外径が大きくなることを抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0077】
10 筆記具
12 筆記部材
13 ペン先
14 収容筒
15 第1受部
16 突出部
17 段部
18 接触面
20 軸筒
20a 前端開口部
21 前軸
22 内軸
24 溝部
25 外軸
26 第1連結部材
27 筒状部材
28 第2受部
29 前端部材
30 先端部材
31 後軸
32 本体部
33 内軸
34 外軸
35 第2連結部材
37 頭冠
38 密閉部材
39 密閉部
40 出没機構
42 第1弾発部材
44 第2弾発部材
50 ノック部材
52 操作部
54 拡径部
56 穴部
58 内方突出部
59 Oリング
60 回転カム部材
62 後方突出部
64 係合部
70 密閉機構
71 蓋部材
73 弾発部材
81 Oリング
da 軸方向
A 中心軸線
S 収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9