(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108618
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】めっき処理方法、層状複水酸化物結晶、めっき液及び層状複水酸化物結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20240805BHJP
C23C 18/36 20060101ALI20240805BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240805BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C23C18/31 Z
C23C18/36
C01G53/00 A
C01G49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013066
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523034519
【氏名又は名称】ヴェルヌクリスタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】千葉 太陽
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴司
(72)【発明者】
【氏名】田中 厚志
【テーマコード(参考)】
4G002
4G048
4K022
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AB02
4G002AE05
4G048AA04
4G048AA06
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE07
4K022BA14
4K022BA16
4K022DA01
4K022DB01
4K022DB02
4K022DB21
(57)【要約】
【課題】めっき浴中の亜リン酸を除去して良好なニッケルめっき皮膜を形成することができるめっき処理方法、層状複水酸化物結晶、めっき液及び層状複水酸化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】めっき処理方法は、ニッケル塩と次亜リン酸又は次亜リン酸塩とを含有するめっき液を、下記式(1)又は式(2)で表され、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する結晶粒の複数で構成される層状複水酸化物結晶に接触させ、前記接触後めっき液を用いて被めっき物の表面にニッケルめっき皮膜を形成する。
[Ni2+
1-x1Fe3+
x1(OH)2]・[(Cl-)X1/2] …(1)
[Mg2+
1-x2Fe3+
x2(OH)2]・[(Cl-)X2/2] …(2)
(ここで、0.25<x1≦0.9、0.25<x2≦0.9)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩とを含有するめっき液を、下記式(1)又は式(2)で表され、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する結晶粒の複数で構成される層状複水酸化物結晶に接触させ、前記接触させた後のめっき液を用いて被めっき物の表面に無電解ニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理方法。
[Ni2+
1-x1Fe3+
x1(OH)2]・[(Cl-)X1/2] …(1)
[Mg2+
1-x2Fe3+
x2(OH)2]・[(Cl-)X2/2] …(2)
(ここで、0.25<x1≦0.9、0.25<x2≦0.9)
【請求項2】
前記層状複水酸化物結晶が、前記めっき液中の亜リン酸を吸着する、請求項1に記載のめっき処理方法。
【請求項3】
前記層状複水酸化物結晶が、前記めっき液中の亜リン酸と次亜リン酸のうち、亜リン酸を特異的に吸着する、請求項2に記載のめっき処理方法。
【請求項4】
前記層状複水酸化物結晶が、前記めっき液中の亜リン酸と次亜リン酸のうち、亜リン酸を選択的に吸着し、前記めっき液中の亜リン酸の除去率が5%以上であり、且つ次亜リン酸の除去率に対する亜リン酸の除去率の比が5.0以上である、請求項3に記載のめっき処理方法。
【請求項5】
前記式(1)式及び前記式(2)におけるxの範囲が、0.5≦x≦0.85である、請求項1に記載のめっき処理方法。
【請求項6】
下記式(2)で表され、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する結晶粒の複数で構成されている、層状複水酸化物結晶。
[Mg2+
1-x2Fe3+
x2(OH)2]・[(Cl-)X2/2] …(2)
(ここで、0.25<x2≦0.9)
【請求項7】
前記式(2)におけるxの範囲が、0.5≦x2≦0.85である、請求項6に記載の層状複水酸化物結晶。
【請求項8】
硫酸ニッケルと次亜リン酸ナトリウムとを含有するめっき液を用いて無電解ニッケルめっき被膜を形成するめっき処理に使用される、請求項6又は7に記載の層状複水酸化物結晶。
【請求項9】
ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩とを含有し、更に請求項6又は7に記載の層状複水酸化物結晶を含有する、めっき液。
【請求項10】
請求項6に記載の層状複水酸化物結晶の製造方法であって、
前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたMg源物質、Fe源物質及びNa源物質の混合物に、更にNa源物質を加えて調製された原料を準備する工程と、
前記原料を600℃~1000℃、1時間以上で加熱して、NaMg1-x2Fex2O2結晶(0.25<x2≦0.9)で構成される前駆体結晶を生成する工程と、
前記前駆体結晶のナトリウムイオンを塩化物イオンに置換するイオン置換工程と、
を有する、層状複水酸化物結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき処理方法、層状複水酸化物結晶、めっき液及び層状複水酸化物結晶の製造方法に関し、特に、層状複水酸化物結晶を用いてめっき液中の亜リン酸を除去するめっき処理方法、層状複水酸化物結晶、めっき液及び層状複水酸化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解ニッケルめっき皮膜は、自動車、精密機械、電気・電子、食品等の幅広い分野で、その多様な機能性を活かして電気抵抗膜、磁性膜、導電膜、耐摩耗性膜、耐食性膜等として各種部品の表面処理に多方面で利用されている。
無電解ニッケルめっき被膜を形成する際に用いられるめっき液のうち、還元剤として次亜リン酸を使用しているものがある。このめっき液は、通常、硫酸ニッケルと次亜リン酸ナトリウムとを含有し、更に添加剤としてpH緩衝剤、錯化剤、安定剤等を含有している。
めっき反応は、例えば次式で行われ、当該反応の進行によって被めっき物の表面に無電解ニッケルめっき皮膜が形成される。
NiSO4+2NaH2PO2+H2O→Ni+2NaH2PO3+H2SO4
NaH2PO2+1/2H2→P+NaOH+H2O
2NaOH+H2SO4→Na2SO4+2H2O
【0003】
めっき液では上記式で示すような反応が進行するので消費される金属イオンと還元剤は補充しながら繰り返し使用しているが、最終的には良好なめっきが出来なくなるので産廃処理することになる。
【0004】
ここで、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxides:LDHs)は、アニオン交換性の無機イオン交換体であり、金属酸化物(ホスト層)と、アニオン種や水分子(ゲスト層)とが交互に積層した構造からなる層状無機化合物である。ゲスト層のアニオン種は,層状構造を維持したまま,溶液中のアニオン種と交換できるため、層間(二次元空間)を利用した高選択的イオン交換性を示すことが分かっている。
【0005】
従来、LDHsの選択的イオン交換性は多く議論されており、例えば、水溶液から硝酸イオン、リン及びヒ素を同時かつ選択的に吸着できる吸着剤として、Mg-Al系ハイドロタルサイトを有する吸着剤が考案されている(特許文献1参照)。また、次式で表されるMg-Fe系ハイドロタルサイトのリン酸、硝酸イオン除去能力が開示されている(非特許文献1)。
Mg0.666Fe(III)0.162Al0.172(OH)2(Cl)0.140・(CO3)・0.328H2O
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Removal Characteristics of Phosphate and Nitrate Ions with an Mg-Fe-Al-Cl Form Hydrotalcite」 Tomoyuki Kuwabara、Hideo Kimura、Shunzi Sunayama、Ariumi Kawamoto、Hisamitsu Oshima and Toshio Sato;Journal of Society of Inorganic Materials,Japan 14,17-25(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、無電解ニッケルめっきにおけるめっき液は、上記式で示すようにその反応が進むにつれて液中の還元剤(次亜リン酸)が酸化され、亜リン酸が副生されて次第に蓄積される。消費される金属イオンと還元剤は補給できるが、めっき液中の亜リン酸の量が一定濃度以上に達すると、めっき速度の低下や液の自己分解が生じ易くなるため、めっき液は廃棄される。
本発明者らは、めっき反応において副生される亜リン酸をめっき液から除去すると、良好な無電解ニッケルめっき皮膜を形成するめっき液を再生でき、めっき液を継続して使用できる寿命を延ばすことができると考えた。即ち、めっき液から亜リン酸を選択的に吸収(吸着)できる材料を開発できれば、上記課題が解決できると考えた。
【0009】
上記文献では、Mg-Al系層状腹水酸化物のリン吸着やMg-Fe系層状腹水酸化物のリン酸吸着について検討されているものの、亜リン酸を対象とする吸着特性は検討されていなかった。例えば、一般的な排水からのリン酸除去を考えると全てタイプのリン酸を吸着する材料を検討するということになり、特定のタイプのリン酸だけを吸着させる材料を開発するという発想にはいたらない。また、下記のように、次亜リン酸を吸着せずに亜リン酸を吸着させるような材料を検討するという発想には至らない。一般的な選択吸着を考えた場合、大きな(嵩高い)イオン分子に対して小さなイオン分子を選択的に吸着する選択性の設計は出来るが、次亜リン酸PO2
3-に比べてそれより大きな(嵩高い)イオン分子である亜リン酸PO3
3-が選択できる材料設計という発想には至らない。
しかしながら、本発明者らは、上述のようにめっき処理において亜リン酸を選択的に吸着させる材料として使用可能な層状腹水酸化物について、研究、改善の余地があることを見出した。上記めっき処理においてはめっき被膜形成に必要な次亜リン酸を除去せず、めっき反応の進行を妨げる要因となる亜リン酸を除去するといった特異的な吸着が求められることから、このような特異的な吸着能を有する層状腹水酸化物を発明してそれを用いためっき処理法を開発することを目標にした。
【0010】
本発明の目的は、めっき浴中の亜リン酸を除去して良好なニッケルめっき皮膜を形成することができるめっき処理方法、層状複水酸化物結晶、めっき液及び層状複水酸化物結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、安価で入手容易なFe源物質を用い、Na源となるNa源物質を、前駆体結晶の化学量論比よりも多く含有する原料を加熱して、フラックス法で前駆体結晶を製造すると、従来とは異なる平板状の積層構造を有する前駆体結晶を形成できることを見出した。また、得られた前駆体結晶にイオン交換処理を施すと、前駆体結晶の平板状の積層構造が維持され、その結果、平板状の積層構造を有する層状複水酸化物結晶を高い分散性で得ることができることを見出した。そして上記知見に基づき、本発明者は、下記式(1)式又は式(2)で表される層状複水酸化物結晶が亜リン酸に対して高い吸着能を有しており、ニッケルめっき皮膜の形成時にめっき浴に上記層状複水酸化物結晶を添加することで、めっき速度の低下や液の自己分解が生じ難く、良好なめっき処理を実現しつつ、めっき液の廃棄量を各段に少なくして環境負荷を低減できることを見出した。特に、得られた層状複水酸化物結晶は、めっき液中の亜リン酸と次亜リン酸のうち、亜リン酸を特異的に吸着する吸着能を有していることから、次亜リン酸によるめっき反応を十分に進行させることが可能となり、より優れためっき処理を実現できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩とを含有するめっき液を、下記式(1)又は式(2)で表され、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する結晶粒の複数で構成される層状複水酸化物結晶とを接触させ、前記接触させた後のめっき液を用いて被めっき物の表面に無電解ニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理方法。
[Ni2+
1-x1Fe3+
x1(OH)2]・[(Cl-)X1/2] …(1)
[Mg2+
1-x2Fe3+
x2(OH)2]・[(Cl-)X2/2] …(2)
(ここで、0.25<x1≦0.9、0.25<x2≦0.9)
【0013】
[2]前記層状複水酸化物結晶が、前記めっき液中の亜リン酸を吸着する、上記[1]に記載のめっき処理方法。
【0014】
[3]前記層状複水酸化物結晶が、前記めっき液中の亜リン酸と次亜リン酸のうち、亜リン酸を特異的に吸着する、上記[2]に記載のめっき処理方法。
[4]前記層状複水酸化物結晶が、前記めっき液中の亜リン酸と次亜リン酸のうち、亜リン酸を選択的に吸着し、前記めっき液中の亜リン酸の除去率が5%以上であり、且つ次亜リン酸の除去率に対する亜リン酸の除去率の比が5.0以上である、上記[3]に記載のめっき処理方法。
【0015】
[5]前記式(1)式及び前記式(2)におけるxの範囲が、0.5≦x≦0.85である、上記[1]に記載のめっき処理方法。
【0016】
[6]下記式(2)で表され、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する結晶粒の複数で構成されている、層状複水酸化物結晶。
[Mg2+
1-x2Fe3+
x2(OH)2]・[(Cl-)X2/2] …(2)
(ここで、0.25<x2≦0.9)
【0017】
[7]前記式(2)におけるxの範囲が、0.5≦x2≦0.85である、上記[6]に記載の層状複水酸化物結晶。
【0018】
[8]硫酸ニッケルと次亜リン酸ナトリウムとを含有するめっき液を用いて無電解ニッケルめっき被膜を形成するめっき処理に使用される、上記[6]又は[7]に記載の層状複水酸化物結晶。
【0019】
[9]ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩とを含有し、更に上記[6]又は[7]に記載の層状複水酸化物結晶を含有する、めっき液。
【0020】
[10]上記[6]に記載の層状複水酸化物結晶の製造方法であって、
前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたMg源物質、Fe源物質及びNa源物質の混合物に、更にNa源物質を加えて調製された原料を準備する工程と、
前記原料を600℃~1000℃、1時間以上で加熱して、NaMg1-x2Fex2O2結晶(0.25<x2≦0.9)で構成される前駆体結晶を生成する工程と、
前記前駆体結晶のナトリウムイオンを塩化物イオンに置換するイオン置換工程と、
を有する、層状複水酸化物結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、めっき浴中の亜リン酸を除去して良好なニッケルめっき皮膜を形成することができるめっき処理方法、層状複水酸化物結晶、めっき液及び層状複水酸化物結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るめっき処理方法で使用される層状複水酸化物結晶を構成する一の結晶粒の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3(a)~
図2(d)は、
図2の層状複水酸化物結晶の各工程を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の他の実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図4の層状複水酸化物結晶の各工程を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、実施例1で得られた前駆体結晶、加水分解処理後の結晶、還元処理後の結晶及び塩化物イオン置換後の結晶を、粉末X線回折(XRD)法で回折強度を測定した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は、実施例1で得られた前駆体結晶の構成を示す電子顕微鏡画像である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)は、実施例1で得られた層状複水酸化物結晶の構成を示す電子顕微鏡画像である。
【
図9】
図9は、実施例1で得られた層状複水酸化物結晶の粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図10】実施例で算出された亜リン酸イオンの検量線を示すグラフである。
【
図11】実施例で算出された次亜リン酸イオンの検量線を示すグラフである。
【
図12】実施例1~3及び比較例1~2における亜リン酸イオン単独での吸着能を示すグラフである。
【
図13】実施例1~3及び比較例1~2における次亜リン酸イオン単独での吸着能を示すグラフである。
【
図14】実施例1~3及び比較例1~2における亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンの双方の存在下での吸着能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっている場合がある。また本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、異なる実施形態の特徴的な構成をそれぞれ組み合わせてもよい。
【0024】
[めっき処理方法]
本発明の実施形態に係るめっき処理方法は、ニッケル塩と次亜リン酸又は次亜リン酸塩とを含有するめっき液を、下記式(1)又は式(2)で表され、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する結晶粒の複数で構成される層状複水酸化物結晶と接触させ、前記接触させた後のめっき液を用いて被めっき物の表面にニッケルめっき皮膜を形成する。
[Ni2+
1-x1Fe3+
x1(OH)2]・[(Cl-)X1/2] …(1)
[Mg2+
1-x2Fe3+
x2(OH)2]・[(Cl-)X2/2] …(2)
(ここで、0.25<x1≦0.9、0.25<x2≦0.9)
【0025】
(めっき液)
本実施形態に係るめっき液は、ニッケル塩と、次亜リン酸又は次亜リン酸塩とを含有する。めっき液は、典型的には無電解ニッケルめっき液である。
ニッケル塩は、特に限定されず、一般に使用される水溶性ニッケル塩、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等が挙げられる。これら水溶性ニッケル塩は1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
めっき液中のニッケル塩の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケルイオンの濃度として、0.1g/L以上100g/L以下であることが好ましく、1g/L以上50g/L以下であることがより好ましい。0.1g/L未満だと未反応の場合があり、100g/Lより多い場合は、過反応による分解が起こる場合がある。
【0027】
次亜リン酸又は次亜リン酸塩は、還元剤としてめっき液に含有される。次亜リン酸塩は、一般に使用される還元剤、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等が挙げられる。これら還元剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
めっき液中の上記還元剤の含有量は、使用する還元剤の種類や必要とする析出速度により相違するが、例えば、1g/L以上100g/L以下が好ましく、2g/L以上50g/L以下がより好ましい。1g/L未満だと未反応の場合があり、100g/Lより多い場合は、過反応による分解が起こる場合がある。
【0029】
上記めっき液が、無電解ニッケル合金めっき液である場合は、更に、公知の合金化金属塩を含有していてもよい。この合金化金属塩は、めっき皮膜の硬さ、磁性、延展性、電気抵抗、靭性等の物性を改善することができる。このような合金化金属塩の金属は、特に限定されないが、例えば、鉄、銅、スズ、コバルト、タングステン、レニウム、マンガン、パラジウム、バナジウム、亜鉛、クロム、金、銀、白金等が挙げられる。これら合金化金属塩の金属は1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
めっき液中の上記合金化金属塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1g/L以上100g/L以下が好ましく、1g/L以上50g/L以下がより好ましい。
【0031】
上記めっき液は、更に、錯化剤を含有していてもよい。錯化剤としては、特に限定されないが、種々の無機酸および有機酸が好ましく使用される。具体的な無機酸および有機酸としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物;酢酸、プロピオン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸、グリコール酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸等のモノカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物またはヒドロキシカルボン酸化合物およびこれらの塩等が挙げられる。これら錯化剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0032】
めっき液中の上記錯化剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、1g/L以上100g/L以下が好ましく、10g/L以上40g/L以下がより好ましい。
【0033】
本実施形態のめっき液は、更に、安定剤を含有していてもよい。安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ビスマス、モリブデン、アンチモン等が挙げられる。ビスマスとしては、例えば、酸化ビスマス、硫酸ビスマス等が挙げられる。モリブデンとしては、例えば、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモン等のモリブデン酸塩、モリブデン酸二ナトリウム二水和物等の前記モリブデン酸塩の水和物、モリブデン酸等が挙げられる。アンチモンとしては、例えば、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、アンチモン酸アンモン等のアンチモン酸塩、それらアンチモン酸塩水和物、アンチモン酸、アンチモニル-L-酒石酸、酒石酸アンチモニルカリウム等が挙げられる。これら安定剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0034】
めっき液中の上記安定剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、0.1mg/L以上1000mg/L以下が好ましく、10mg/L以上500mg/L以下がより好ましい。
【0035】
本実施形態のめっき液は、更に、反応促進・応力軽減剤を含有していてもよい。反応促進・応力軽減剤としては、特に限定されないが、例えば、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物等が挙げられる。具体的には、チオ硫酸塩、チオン酸塩、ポリチオン酸塩、チオ尿素、チオシアン酸塩、チオスルホン酸塩、チオ炭酸塩、チオカルバミン酸塩、チオセミカルバジド、スルフィド、ジスルフィド、チオール、メルカプタン、チオグリコール酸、チオジグリコール酸等またはこれらの誘導体等が挙げられる。これら反応促進・応力軽減剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0036】
めっき液中の上記反応促進・応力軽減剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、0.001mg/L以上1000mg/L以下が好ましく、0.01mg/L以上100mg/L以下がより好ましい。
【0037】
本実施形態のめっき液は、更に、皮膜物性改善剤を含有していてもよい。皮膜物性改善剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ピッチ等のフッ素樹脂若しくはフッ化化合物;ナイロン、ポリエチレン等の有機ポリマー;黒鉛、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、酸化チタン、ダイヤモンド等の無機物;カーボンナノチューブ等、一般に無電解複合めっき浴に用いられる水不溶性の微粒子や短繊維を、1種または2種以上用いることができる。
【0038】
めっき液中の上記皮膜物性改善剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、0.001g/L以上500g/L以下が好ましく、1g/L以上10g/L以下がより好ましい。
【0039】
本実施形態のめっき液のpHは、特に限定されないが、めっき処理時にpH3~11となるようにすることが好ましく、pH4~10とすることが特に好ましい。無電解めっき浴のpHをこの範囲とすることにより、効率的な金属イオンの還元反応が進行し、無電解めっき皮膜の析出速度が良好となる効果が得られる。めっき浴のpH調整には、塩酸、硫酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリを、好ましくは水で希釈して適宜添加することができる。
【0040】
また、本実施形態のめっき処理方法において、めっき処理時の温度は、ニッケルイオンの還元反応が行なわれる温度であれば特に限定されないが、効率の良い還元反応を起こさせる観点からは、40℃以上98℃以下が好ましく、60℃以上95℃以下がより好ましい。
【0041】
(層状複水酸化物結晶)
【0042】
図1は、本発明の一実施形態に係るめっき処理方法で使用される層状複水酸化物結晶を構成する一の結晶粒の構成を示す模式図である。
層状複水酸化物結晶1(以下、Layered Double Hydroxide、LDHs結晶ともいう)は、下記式(1)で表され、また、
図1に示すように、複数の板状結晶11,11,…が積層された積層構造を有する結晶粒10の複数で構成されている。
[Ni
2+
1-x1Fe
3+
x1(OH)
2]・[(Cl
-)
X1/2] …(1)
(ここで、0.25<x1≦0.9)
層状複水酸化物結晶1は、無水物であってもよいし、あるいは、少量の水(H
2O)を含んでいる水和物であってもよい。
【0043】
隣接する板状結晶11,11の間には層状空間12が形成されており、複数の板状結晶11,11,…と複数の層状空間12,12,…とが交互に配されている。
【0044】
結晶粒10を拡大して観察すると、板状結晶11は、薄板状結晶あるいはシート状結晶とも称することができる。板状結晶11は、サブミクロンオーダーの厚みを有しており、層状空間12も、サブミクロンオーダーの間隔を有している。これら複数の板状結晶11,11,…が数~数十層で積層されてなる積層構造によって結晶粒10が構成されている。結晶粒10の幅方向の粒径あるいは円相当径は、0.1μm~300μmであり、好ましくは0.5μm~100μm、より好ましくは1.0μm~50μmである。また、板状結晶11の幅方向の粒径あるいは円相当径は、0.1μm~300μmであり、好ましくは0.5μm~100μm、より好ましくは1.0μm~50μmである。
【0045】
結晶粒10は、アニオン交換性の無機イオン交換体であり、ホスト層(金属水酸化物)とゲスト層(アニオン種や水分子)が交互に積層した構造からなる層状無機化合物とも称することができる。ゲスト層のアニオン種は、層状構造を維持したまま、溶液中のアニオン種と交換できるため、層間(二次元空間ともいう)を利用した高選択的なイオン交換性を示す。
【0046】
上記式(1)のうち、Ni2+は全部置換に限らず、一部置換であってもよい。また、Fe3+も同様、全部置換に限らず、一部置換であってもよい。
【0047】
また、上記(1)式におけるxの範囲は、0.5≦x1≦0.85が好ましく、0.6≦x1≦0.8がより好ましい。この場合、層状複水酸化物結晶におけるNi2+の含有量が更に減少する。よって、製造時に使用されるNi源物質を少量にすることができ、層状複水酸化物結晶1の製造コストを更に低減することができる。
【0048】
また、他の実施形態の層状複水酸化物結晶は、下記式(2)で表され、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する結晶粒の複数で構成されていてもよい。他の実施形態に係る層状複水酸化物結晶(以下、Mg-Fe系層状複水酸化物結晶ともいう)の積層構造及び結晶粒の形態は、上記式(1)で表されるNi-Fe系層状複水酸化物結晶と同様であるので、Ni-Fe系層状複水酸化物結晶と同様であるので、同様の構成については、同一の符号を付す。
[Mg2+
1-x2Fe3+
x2(OH)2]・[(Cl-)X2/2] …(2)
(ここで、0.25<x2≦0.9)
層状複水酸化物結晶1は、無水物であってもよいし、あるいは、少量の水(H2O)を含んでいる水和物であってもよい。
【0049】
隣接する板状結晶11,11の間には層状空間12が形成されており、複数の板状結晶11,11,…と複数の層状空間12,12,…とが交互に配されている。
【0050】
結晶粒10を拡大して観察すると、板状結晶11は、薄板状結晶あるいはシート状結晶とも称することができる。板状結晶11は、サブミクロンオーダーの厚みを有しており、層状空間12も、サブミクロンオーダーの間隔を有している。これら複数の板状結晶11,11,…が数~数十層で積層されてなる積層構造によって結晶粒10が構成されている。結晶粒10の幅方向の粒径あるいは円相当径は、0.1μm~300μmであり、好ましくは0.5μm~100μm、より好ましくは1.0μm~50μmである。板状結晶11の幅方向の粒径あるいは円相当径は、0.1μm~300μmであり、好ましくは0.5μm~100μm、より好ましくは1.0μm~50μmである。
【0051】
結晶粒10は、アニオン交換性の無機イオン交換体であり、ホスト層(金属水酸化物)とゲスト層(アニオン種や水分子)が交互に積層した構造からなる層状無機化合物とも称することができる。ゲスト層のアニオン種は、層状構造を維持したまま、溶液中のアニオン種と交換できるため、層間(二次元空間ともいう)を利用した高選択的なイオン交換性を示す。
【0052】
上記式(2)のうち、Mg2+は全部置換に限らず、一部置換であってもよい。また、Fe3+も同様、全部置換に限らず、一部置換であってもよい。
【0053】
また、上記式(2)におけるx2の範囲は、0.5≦x2≦0.85が好ましく、0.6≦x2≦0.8がより好ましい。この場合、層状複水酸化物結晶におけるMg2+の含有量が更に減少する。よって、製造時に使用されるMg源物質を少量にすることができ、層状複水酸化物結晶1の製造コストを更に低減することができる。
【0054】
層状複水酸化物結晶1は、上記式(1)又は式(2)で表され、複数の板状結晶11が積層された積層構造を有する結晶粒10の複数で構成されているので、従来よりも高い分散性を有し、これにより高いイオン交換能を実現することができる。したがって、例えばめっき液中でも結晶粒10同士が凝集し難く、その結果層状複水酸化物結晶1のイオン交換容量が増大し、十分なイオン交換能を得ることができる。特に、亜リン酸(亜リン酸イオン)の吸着能が高いことから、めっき液と層状複水酸化物結晶1とを混合することで、層状複水酸化物結晶1によってめっき液中の亜リン酸を簡便且つ十分に除去することができる。一方、層状複水酸化物結晶1は次亜リン酸(次亜リン酸イオン)の吸着能が低いことから、めっき液中の次亜リン酸を殆ど吸着せず、めっき液中の次亜リン酸の濃度を低下させること無く、めっき液中に次亜リン酸を十分に残存させることができる。
【0055】
本発明の層状複水酸化物結晶は、上述のように、前記めっき液中の亜リン酸と次亜リン酸のうち、亜リン酸を選択的に吸着するものであるが、その選択性として、前記めっき液中の亜リン酸の除去率が5%以上であり、且つ次亜リン酸の除去率に対する亜リン酸の除去率の比が5.0以上であるのが好ましい。また、前記めっき液中の亜リン酸の除去率は10%以上であるのがより好ましく、12%以上であるのが更に好ましく、15%以上であるのが特に好ましい。更に、前記めっき液中の亜リン酸の除去率が5%以上、10%以上、12%以上又は15%以上である場合において、次亜リン酸の除去率に対する亜リン酸の除去率の比が10以上であるのが好ましく、30以上であるのがより好ましく、50以上であるのが更に好ましく、60以上であるのが特に好ましい。
【0056】
(層状複水酸化物結晶の製造方法)
図2は、本発明の一実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3(a)~
図3(d)は、
図1の層状複水酸化物結晶の各工程を説明するための模式図である。
【0057】
本実施形態の層状複水酸化物結晶の製造方法は、原料準備工程、前駆体結晶生成工程、加水分解工程、還元処理工程、及びイオン置換工程、を有する。但し、本実施形態の製造方法の各工程の前後に、他の処理工程を有してもよい。
【0058】
先ず、後述する前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNi源物質、Fe源物質及びNa源物質の混合物に、更にNa源物質を加えて調製した原料を準備する(ステップS11)。
【0059】
Ni源物質としては、例えば、NiO、Ni(OH)2、Ni(NO3)2、Ni(NO3)2・6H2O、NiCO3、NiSO4、NiSO4・6H2O、NiCl2 NiCl2・6H2O、(HCOO)2Ni、(HCOO)2Ni・2H2O、C2O4Ni、C2O4Ni・2H2O、(CH3COO)2Ni、(CH3COO)2Ni・4H2O、Ni(CH3COCHCOCH3)、Ni(CH3COCHCOCH3)・xH2O、NiCO3、NiCO3・xH2O、(NH4)2Ni(SO4)2、(NH4)2Ni(SO4)2・6H2O、Niを挙げることができる。
【0060】
Fe源物質としては、例えば、Fe2O3、FeO、Fe(OH)2、Fe(OH)3、Fe(NO3)2、FeSO4、Fe2(SO4)3、FeCl2、FeCl3、FeC2O4、Fe2(C2O4)3、Fe(CH3COO)2、Fe2(CH3COO)3、Fe(CH3COCHCOCH3)、Fe2(CH3COCHCOCH3)3、FeCO3、Fe2(CO3)3、(NH4)2Fe(SO4)2、(NH4)2Fe2(SO4)3及びこれらの水和物、Feを挙げることができる。
【0061】
Na源物質としては、例えば、NaNO3、Na2CO3、Na2SO4、Na2SO4・10H2O、Na2SO3、NaCl、CH3COONa、CH3COONa、CH3COONa・3H2O、C2O4Na2、C6H5Na3O7、C6H5Na3O7・2H2O、NaHCO3を挙げることができる。上記原料中のNa源物質の含有量は、前駆体結晶の化学量論比に基づく含有量よりも過剰であるのが好ましく、化学量論比におけるNa源物質の含有量100mol%に対して過剰とする量は、1mol%以上50mol%以下であるのがより好ましく、3mol%以上25mol%倍以下であるのが更に好ましく、5mol%以上15mol%以下であるのが特に好ましい。
【0062】
上記原料中のNa源物質は、上記化合物のうちの1種又は複数種で構成される。例えば、上記混合物中のNa源物質は、NaNO3で構成されてもよい。この場合、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNiNO3を含む混合物に、更にNaNO3を加えたものを原料とする。
また、上記原料中のNa源物質は、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNaNO3と、更に加えられたNa2CO3とで構成されてもよい。この場合、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNO3を含む混合物に、更にNa2CO3を加えたものを原料とする。上記原料中のNa源物質におけるNaNO3の含有量は、1mol%以上50mol%以下であるのが好ましく、3mol%以上25mol%以下であるのがより好ましく、5mol%以上15mol%以下であるのが更に好ましい。また、上記原料中のNa源物質におけるNa2CO3の含有量は、1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。
【0063】
次に、前記原料を600~1000℃、1時間以上で加熱して、NaNi
1-x1Fe
x1O
2結晶(0.25<x1≦0.9)で構成される前駆体結晶を生成する(ステップS12、
図3(a))。このように高温溶融塩を用いて結晶育成する方法はフラックス法と称することができ、本実施形態ではフラックス法により前駆体結晶を生成する。また、前駆体結晶として、好ましくは0.5<x1≦0.85、より好ましくは0.6<x1≦0.80となるように、NaNi
1-x1Fe
x1O
2結晶を生成することができる。これにより、自形の発達した高結晶性粒子をマイクロオーダーで育成することができ、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する前駆体結晶を得ることができる。
【0064】
この前駆体結晶生成工程では、具体的には、上記原料を昇温、保持及び冷却して、上記前駆体結晶を生成することができる。本前駆体結晶生成工程における昇温条件及び冷却条件は、例えば昇温速度45℃/h~1600℃/h、保持温度700~1000℃、保持時間0.1~20時間、冷却速度0.1~60000℃/h、停止温度500℃以下、放冷温度は例えば室温である。
この前駆体結晶生成工程において、例えば、(1)加熱開始から700℃までは昇温速度120℃/h以上600℃/h以下で加熱し、700℃を超え800℃までは昇温速度20℃/h以上180℃/h以下で加熱し、次いで(2)保持温度750℃以上900℃以下、保持時間0.5時間以上12時間以下で保持し、その後(3)300℃まで冷却速度50℃/h以上300℃/h以下で冷却することができる。
【0065】
その後、NaNi
1-x1Fe
x1O
2結晶で構成される前駆体結晶を加水分解する(ステップS13、
図3(b))。加水分解処理の方法は、例えば、アルカリ溶液を用いて上記前駆体結晶を酸化的加水分解することができる。アルカリ溶液は、特に制限はないが、例えば、次亜塩素酸とナトリウム(NaClO)や、水酸化カリウム(KOH)を含むことができる。
また、アルカリ溶液に代えて、水を用いて前駆体結晶を加水分解処理することが好ましい。これにより、アルカリ溶液を用いる場合と比較して、容易に入手でき且つ安価な処理剤で加水分解処理を行うことができる。水で加水分解処理を行う場合、例えば、固液比30mL/g以上2L/g以下、撹拌時間10時間以上24時間以下、撹拌温度5℃以上50℃以下とすることができる。またこの固液比は、1L/g以下であってもよい。水に含まれる不純物が最終生成物である層状複水酸化物結晶の組成に影響を与えることから、加水分解処理に用いられる水は、純水又は超純水であるのが好ましいが、所望のイオン交換能を示す層状複水酸化物結晶が得られる限り、ある程度の不純物を含有する水道水等の水であってもよい。本加水分解処理工程により、前駆体結晶における複数の板状結晶の形状が維持された状態で、隣接する板状結晶同士の間隔が拡大する。
【0066】
次いで、上記前駆体結晶の加水分解によって得られた結晶を還元処理する(ステップS14、
図3(c))。還元処理の方法は、例えば、塩の溶液を用いて還元処理することができる。溶液は、例えば過酸化水素(H
2O
2)を含むことができる。上記塩は、特に制限はないが、例えば塩酸(HCl)などの強酸と、水酸化ナトリウム(NaOH)などの強アルカリとの塩である。また、より簡便に処理を行う観点から、上記結晶を塩の溶液に浸漬して1回のバッチ処理で還元処理することができる。1回のバッチ処理で還元処理を行う場合、例えば固液比30mL/g以上2L/g以下、撹拌時間10時間以上24時間以下、撹拌温度5℃以上50℃以下とすることができる。またこの固液比は、1L/g以下であってもよい。これにより、上記結晶を塩の溶液に浸漬して3回のバッチ処理を行う場合と比較して、より簡便な工程、作業で還元処理を行うことができる。本還元処理工程により、加水分解処理後の複数の板状結晶の形状及び位置が維持された状態で、金属水酸化物層間に炭酸イオンが保持される。
【0067】
その後、上記還元処理によって得られた結晶の層間に位置する炭酸イオンを塩化物イオンに置換処理する(ステップS15、
図3(d))。この置換処理の方法は、例えば、上記還元処理によって得られた結晶を塩と強酸の水溶液に浸漬する。塩は、例えば、水酸化ナトリウムなどの強酸と、塩酸などの強アルカリとの塩である。強酸は、例えば塩酸である。また、より簡便に処理を行う観点から、上記還元処理によって得られた結晶を、強酸を含まない塩の溶液に浸漬して置換処理することができる。この置換処理を行う場合、例えば固液比30mL/g以上1L/g以下、撹拌時間10時間以上24時間以下、撹拌温度5℃以上50℃以下とすることができる。本イオン置換工程により、還元処理後の複数の板状結晶の形状及び位置が維持された状態で、金属水酸化物層間に塩化物イオンが保持され、これにより、上記式(1)で表される層状複水酸化物結晶を有する結晶粒が得られる。
【0068】
(層状複水酸化物結晶の製造方法)
本発明の他の実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法を説明する。他の実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法は、Na源物質に代えてMg源物質を使用すること以外は、上記一実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法と基本的に同じである。
【0069】
本実施形態の層状複水酸化物結晶の製造方法は、原料準備工程、前駆体結晶生成工程、加水分解工程、還元処理工程、及びイオン置換工程、を有する。但し、本実施形態の製造方法の各工程の前後に、他の処理工程を有してもよい。
【0070】
先ず、後述する前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたMg源物質、Fe源物質及びNa源物質の混合物に、更にNa源物質を加えて調製した原料を準備する。
【0071】
Mg源物質としては、例えば、MgO,Mg(OH)2,Mg(NO3)2,MgSO4,MgCl2,MgC2O4,Mg(CH3COO)2,MgCO3及びこれらの水和物,Mgを挙げることができる。
【0072】
Fe源物質としては、例えば、Fe2O3、FeO、Fe(OH)2、Fe(OH)3、Fe(NO3)2、FeSO4、Fe2(SO4)3、FeCl2、FeCl3、FeC2O4、Fe2(C2O4)3、Fe(CH3COO)2、Fe2(CH3COO)3、Fe(CH3COCHCOCH3)、Fe2(CH3COCHCOCH3)3、FeCO3、Fe2(CO3)3、(NH4)2Fe(SO4)2、(NH4)2Fe2(SO4)3及びこれらの水和物、Feを挙げることができる。
【0073】
Na源物質としては、例えば、NaNO3、Na2CO3、Na2SO4、Na2SO4・10H2O、Na2SO3、NaCl、CH3COONa、CH3COONa、CH3COONa・3H2O、C2O4Na2、C6H5Na3O7、C6H5Na3O7・2H2O、NaHCO3を挙げることができる。上記原料中のNa源物質の含有量は、前駆体結晶の化学量論比に基づく含有量よりも過剰であるのが好ましく、化学量論比におけるNa源物質の含有量100mol%に対して過剰とする量は、1mol%以上50mol%以下であるのがより好ましく、3mol%以上25mol%倍以下であるのが更に好ましく、5mol%以上15mol%以下であるのが特に好ましい。
【0074】
上記原料中のNa源物質は、上記化合物のうちの1種又は複数種で構成される。例えば、上記混合物中のNa源物質は、NaNO3で構成されてもよい。この場合、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNiNO3を含む混合物に、更にNaNO3を加えたものを原料とする。
また、上記原料中のNa源物質は、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNaNO3と、更に加えられたNa2CO3とで構成されてもよい。この場合、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNO3を含む混合物に、更にNa2CO3を加えたものを原料とする。上記原料中のNa源物質におけるNaNO3の含有量は、1mol%以上50mol%以下であるのが好ましく、3mol%以上25mol%以下であるのがより好ましく、5mol%以上15mol%以下であるのが更に好ましい。また、上記原料中のNa源物質におけるNa2CO3の含有量は、1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。
【0075】
次に、前記原料を600~1000℃、1時間以上で加熱して、NaMg1-x2Fex2O2結晶(0.25<x2≦0.9)で構成される前駆体結晶を生成する。このように高温溶融塩を用いて結晶育成する方法はフラックス法と称することができ、本実施形態ではフラックス法により前駆体結晶を生成する。また、前駆体結晶として、好ましくは0.5<x2≦0.85、より好ましくは0.6<x2≦0.80となるように、NaMg1-x2Fex2O2結晶を生成することができる。これにより、自形の発達した高結晶性粒子をマイクロオーダーで育成することができ、複数の板状結晶が積層された積層構造を有する前駆体結晶を得ることができる。
【0076】
この前駆体結晶生成工程では、具体的には、上記原料を昇温、保持及び冷却して、上記前駆体結晶を生成することができる。本前駆体結晶生成工程における昇温条件及び冷却条件は、例えば昇温速度45℃/h~1600℃/h、保持温度700~1000℃、保持時間0.1~20時間、冷却速度0.1~60000℃/h、停止温度500℃以下、放冷温度は例えば室温である。
この前駆体結晶生成工程において、例えば、(1)加熱開始から700℃までは昇温速度120℃/h以上600℃/h以下で加熱し、700℃を超え800℃までは昇温速度20℃/h以上180℃/h以下で加熱し、次いで(2)保持温度750℃以上900℃以下、保持時間0.5時間以上12時間以下で保持し、その後(3)300℃まで冷却速度50℃/h以上300℃/h以下で冷却することができる。
【0077】
その後、NaMg1-x2Fex2O2結晶で構成される前駆体結晶を加水分解する。加水分解処理の方法は、例えば、アルカリ溶液を用いて上記前駆体結晶を酸化的加水分解することができる。アルカリ溶液は、特に制限はないが、例えば、次亜塩素酸とナトリウム(NaClO)や、水酸化カリウム(KOH)を含むことができる。
また、アルカリ溶液に代えて、水を用いて前駆体結晶を加水分解処理することが好ましい。これにより、アルカリ溶液を用いる場合と比較して、容易に入手でき且つ安価な処理剤で加水分解処理を行うことができる。水で加水分解処理を行う場合、例えば、固液比30mL/g以上2L/g以下、撹拌時間10時間以上24時間以下、撹拌温度5℃以上50℃以下とすることができる。またこの固液比は、1L/g以下であってもよい。水に含まれる不純物が最終生成物である層状複水酸化物結晶の組成に影響を与えることから、加水分解処理に用いられる水は、純水又は超純水であるのが好ましいが、所望のイオン交換能を示す層状複水酸化物結晶が得られる限り、ある程度の不純物を含有する水道水等の水であってもよい。本加水分解処理工程により、前駆体結晶における複数の板状結晶の形状が維持された状態で、隣接する板状結晶同士の間隔が拡大する。
【0078】
次いで、上記前駆体結晶の加水分解によって得られた結晶を還元処理する。還元処理の方法は、例えば、塩の溶液を用いて還元処理することができる。溶液は、例えば過酸化水素(H2O2)を含むことができる。上記塩は、特に制限はないが、例えば塩酸(HCl)などの強酸と、水酸化ナトリウム(NaOH)などの強アルカリとの塩である。また、より簡便に処理を行う観点から、上記結晶を塩の溶液に浸漬して1回のバッチ処理で還元処理することができる。1回のバッチ処理で還元処理を行う場合、例えば固液比30mL/g以上2L/g以下、撹拌時間10時間以上24時間以下、撹拌温度5℃以上50℃以下とすることができる。またこの固液比は、1L/g以下であってもよい。これにより、上記結晶を塩の溶液に浸漬して3回のバッチ処理を行う場合と比較して、より簡便な工程、作業で還元処理を行うことができる。本還元処理工程により、加水分解処理後の複数の板状結晶の形状及び位置が維持された状態で、金属水酸化物層間に炭酸イオンが保持される。
【0079】
その後、上記還元処理によって得られた結晶の層間に位置する炭酸イオンを塩化物イオンに置換処理する。この置換処理の方法は、例えば、上記還元処理によって得られた結晶を塩と強酸の水溶液に浸漬する。塩は、例えば、水酸化ナトリウムなどの強酸と、塩酸などの強アルカリとの塩である。強酸は、例えば塩酸である。また、より簡便に処理を行う観点から、上記還元処理によって得られた結晶を、強酸を含まない塩の溶液に浸漬して置換処理することができる。この置換処理を行う場合、例えば固液比30mL/g以上1L/g以下、撹拌時間10時間以上24時間以下、撹拌温度5℃以上50℃以下とすることができる。本イオン置換工程により、還元処理後の複数の板状結晶の形状及び位置が維持された状態で、金属水酸化物層間に塩化物イオンが保持され、これにより、上記式(2)で表される層状複水酸化物結晶を有する結晶粒が得られる。
【0080】
このように、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたNi源物質、Fe源物質及びNa源物質の混合物に、更にNa源物質を加えて調製された原料を、600℃~1000℃、1時間以上で加熱して、NaNi1-x1Fex1O2結晶(0.25<x1≦0.9)で構成される前駆体結晶を生成するので、マイクロスケールで従来よりも高い分散性を有する前駆体結晶を育成することができ、その結果、亜リン酸に対して高い吸着能を有する層状複水酸化物結晶1を製造することができる。
【0081】
また、前駆体結晶の化学量論比に基づいて混合されたMg源物質、Fe源物質及びNa源物質の混合物に、更にNa源物質を加えて調製された原料を、600℃~1000℃、1時間以上で加熱して、NaMg1-x2Fex2O2結晶(0.25<x2≦0.9)で構成される前駆体結晶を生成するので、マイクロスケールで従来よりも高い分散性を有する前駆体結晶を育成することができ、その結果、亜リン酸に対して高い吸着能を有する層状複水酸化物結晶1を製造することができる。
【0082】
また、前駆体結晶を生成する工程において、原料中のNa源物質の含有量が化学量論比通りである場合、前駆体結晶の粒子が硝酸系のガスの発生によって反応容器から飛び出したり、或いは結晶粒子の飛び出しを防止するための蓋が反応容器と固着してしまい、これらを分離しなければならないことから、前駆体結晶の収率が低下したり作業が煩雑となる場合がある。本発明によれば、原料中のNa源物質の含有量を化学量論比よりも多くすることで、Na源物質が溶媒としての作用を奏し、反応容器から結晶粒子が飛び出すのを抑制することができ、また、蓋の設置も不要となり、高い収率且つ簡便な作業で前駆体結晶を得ることができる。
【0083】
上記一実施形態に係る層状複水酸化物結晶は、更に他の層状複水酸化物結晶の製造方法でも製造できる。
【0084】
図4は、更に他の層状複水酸化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5は、
図4の層状複水酸化物結晶の各工程を説明するための模式図である。
【0085】
本実施形態の層状複水酸化物結晶の製造方法は、原料準備工程、前駆体結晶生成工程、浸漬工程及びイオン置換工程を有する。但し、本実施形態の製造方法の各工程の前後に、他の処理工程を有してもよい。
【0086】
原料準備工程(ステップS21)及び前駆体結晶生成工程(ステップS22、
図5(a))は、上記一実施形態の製造方法と同様の方法で行うことができる。
【0087】
その後、例えば前駆体結晶生成工程で得られたNaNi1-x1Fex1O2結晶で構成される前駆体結晶を水に浸漬する。水に含まれる不純物が最終生成物である層状複水酸化物結晶の組成に影響を与えることから、浸漬工程に用いられる水は、純水又は超純水であるのが好ましいが、所望のイオン交換能を示す層状複水酸化物結晶が得られる限り、ある程度の不純物を含有する水道水等の水であってもよい。
【0088】
前駆体結晶を水に浸漬する場合、例えば、固液比25mL/g以上1.0L/g以下、撹拌時間10分間以上40時間以下とすることができる。本浸漬工程により、前駆体結晶における複数の板状結晶の形状が維持された状態で、隣接する板状結晶同士の間隔が拡大する。
【0089】
次いで、得られた結晶の層間に位置するナトリウムイオンを塩化物イオンに置換処理する(ステップS23、
図5(b))。この置換処理の方法は、例えば、得られた結晶を強酸の水溶液に浸漬する。強酸は、例えば塩酸である。この置換処理を行う場合、固液比50mL/g以上1.00L/g以下、撹拌時間10時間以上40時間以下、撹拌温度20℃以上40℃以下とすることができ、好ましくは、固液比100mL/g以上1.00L/g以下、撹拌時間10時間以上40時間以下、撹拌温度20℃以上40℃以下とすることができる。このように、加水分解工程および還元処理工程を有さない、本実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法であっても、前述の式(1)で表される層状複水酸化物結晶を有する結晶粒を得られる。
【0090】
上記他の実施形態に係る層状複水酸化物結晶は、更に他の層状複水酸化物結晶の製造方法でも製造できる。更に他の実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法は、Na源物質に代えてMg源物質を使用すること以外は、上記他の実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法と基本的に同じである。
【0091】
本実施形態の層状複水酸化物結晶の製造方法は、原料準備工程、前駆体結晶生成工程、浸漬工程及びイオン置換工程を有する。但し、本実施形態の製造方法の各工程の前後に、他の処理工程を有してもよい。
【0092】
原料準備工程及び前駆体結晶生成工程は、上記他の実施形態の製造方法と同様の方法で行うことができる。
【0093】
その後、例えば前駆体結晶生成工程で得られたNaMg1-x2Fex2O2結晶で構成される前駆体結晶を水に浸漬する。水に含まれる不純物が最終生成物である層状複水酸化物結晶の組成に影響を与えることから、浸漬工程に用いられる水は、純水又は超純水であるのが好ましいが、所望のイオン交換能を示す層状複水酸化物結晶が得られる限り、ある程度の不純物を含有する水道水等の水であってもよい。
【0094】
前駆体結晶を水に浸漬する場合、例えば、固液比25mL/g以上1.0L/g以下、撹拌時間10分間以上40時間以下とすることができる。本浸漬工程により、前駆体結晶における複数の板状結晶の形状が維持された状態で、隣接する板状結晶同士の間隔が拡大する。
【0095】
次いで、得られた結晶の層間に位置するナトリウムイオンを塩化物イオンに置換処理する。この置換処理の方法は、例えば、得られた結晶を強酸の水溶液に浸漬する。強酸は、例えば塩酸である。この置換処理を行う場合、固液比50mL/g以上1.00L/g以下、撹拌時間10時間以上40時間以下、撹拌温度20℃以上40℃以下とすることができ、好ましくは、固液比100mL/g以上1.00L/g以下、撹拌時間10時間以上40時間以下、撹拌温度20℃以上40℃以下とすることができる。このように、加水分解工程および還元処理工程を有さない、本実施形態に係る層状複水酸化物結晶の製造方法であっても、前述の式(2)で表される層状複水酸化物結晶を有する結晶粒を得られる。
【0096】
本実施形態のめっき処理方法は、上記層状複水酸化物結晶を含有するめっき液を用いること以外は、通常の無電解めっき液を用いためっき方法と同様であれば良く、例えば、被めっき物を本実施形態のめっき液で処理すればよい。また、本実施形態のめっき液で処理する際に、前処理として、被めっき物を脱脂、水洗、触媒付与、触媒の活性化等を行ってもよい。被めっき物を本実施形態のめっき液で処理する方法としては、特に限定されないが、例えば、建浴した本実施形態のめっき液中に被めっき物を浸漬する方法、建浴した本実施形態のめっき液を被めっき物に噴霧する方法等が挙げられる。
【0097】
本実施形態のめっき処理方法において、めっき液と上記層状複水酸化物結晶との混合方法は、めっき液と上記層状複水酸化物結晶とが接触する状態を維持できる方法であれば特に制限されない。例えば、めっき処理が行われる浴槽に上記層状複水酸化物結晶を投入してもよいし、上記浴槽に循環路を介して接続された他の槽に上記層状複水酸化物結晶を投入してもよい。
【0098】
本実施形態のめっき液でめっきされる被めっき物としては、無電解ニッケルがめっきできるものであれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、ポリカーボネート(PC)、PC/ABS、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の樹脂が挙げられる。
【0099】
本発明のめっき処理方法により、無電解ニッケルめっき製品および無電解ニッケル合金めっきが得られる。本発明のめっき皮膜は従来のめっき皮膜に比べて、密度が高く、また膜厚の厚い被膜を安定的に形成することが可能となる。これらのめっき製品は、自動車部品や水栓金具といった意匠部品の下地めっきのほか、プリント基板やITO基板の下地めっき、抵抗体、磁気ディスク、電磁波シールド、微粒子含有複合めっき皮膜の金属マトリックス等の用途に広範囲に使用できるものである。
【実施例0100】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
(実施例1)
先ず、前駆体結晶であるNaNi0.7Fe0.3O2結晶をフラックス法で生成した。出発原料として、化学量論比通りに混合されたNiO2.316g、Fe2O31.061g及びNaNO34.015gを用いた。NaNO3を目的結晶(前駆体結晶)である化学量論比よりも過剰に加え、セルフフラックスとして調合した場合をフラックス法(FLUX)とし、実施例1の原料とした。このとき、フラックスとしてのNaNO3を、化学量論比における溶質(NiO、Fe2O3及びNaNO3)中のNaNO3の含有量100mol%に対する過剰量が10Mol%となるように調製した。また、NiO及びFe2O3は、ボールミルにて所望の粒径に調製したものを準備した。
【0102】
上記のように調合された各原料を乾式混合して、容量30mLのアルミナるつぼ(SAC-999)に充填した後、マッフル炉にて700℃までは昇温速度500℃/h、昇温時間1時間24分、800℃までは昇温速度60℃/h、昇温時間1時間40分で加熱した。その後、保持温度800℃、保持時間10時間で保持し、その後300℃まで冷却速度200℃/h、冷却時間2時間30分で冷却し、NaNi0.7Fe0.3O2結晶を得た。得られた粉末を水道水を用い、固液比0.1L/g、撹拌時間24時間で酸化的加水分解処理した。その後、得られた結晶を溶液H2O20.02Mol/L、NaCl0.02Mol/L、固液比0.1L/g、撹拌時間48時間で、還元処理を1回のバッチ処理で行った。更に、溶液NaClaq.4.0Mol及びHClaq.3.2mMolを用い、固液比0.1L/g、反応時間24時間で置換処理し、上記式(1)で表される実施例1のLDHs結晶を得た。
【0103】
(実施例2)
前駆体結晶であるNaNi0.4Fe0.6O2結晶をフラックス法で生成した。出発原料として、市販試薬のNiO(特級、和光純薬工業)を1.2906g、Fe2O3(特級、和光純薬工業)を2.0694g、NaNO3(特級、和光純薬工業)を4.140g用いたこと以外は、実施例1と同様にして、上記式(1)で表される実施例2のLDHs結晶を得た。
【0104】
(実施例3)
前駆体結晶であるNaMg0.67Fe0.33O2結晶をフラックス法で生成した。出発原料として、市販試薬のMgO(特級、和光純薬工業)を2.2011 g、Fe2O3(特級、和光純薬工業)を1.1589g、NaNO3(特級、和光純薬工業)を4.140g用いたこと以外は、実施例1と同様にして、上記式(2)で表される実施例3のLDHs結晶を得た。
【0105】
(比較例1)
実施例1の還元処理後に得られたLDHs結晶前駆体を、保持温度400℃、保持時間4時間で焼成し、金属水酸化物層間の炭酸イオンを除去して、比較例1の複合金属酸化物を得た。
(比較例2)
実施例2の還元処理後に得られたLDHs結晶前駆体を、保持温度400℃、保持時間4時間で焼成し、金属水酸化物層間の炭酸イオンを除去して、比較例2の複合金属酸化物を得た。
【0106】
上記で得られた実施例1~3のLDHs結晶を、以下の方法で測定、評価した。
(LDHs結晶の構造)
実施例1について、前駆体結晶、還元処理後の結晶、及び塩化物イオン置換後の結晶(LDHs結晶)の結晶構造それぞれを、粉末X線回折(XRD)法によるXRD装置(リガク社製、「MiniFlexII」)で同定した。
【0107】
(前駆体結晶及びLDHs結晶の外観)
実施例1について、前駆体結晶の外観、及び得られたLDHs結晶の外観を電子顕微鏡画像(リガク社製、装置名「JSM-7400F」)で確認した。
(LDHs結晶の粒度分布)
実施例1のLDHs結晶を蒸留水で分散させ、粒度分布測定装置(島津製作所製、製品名「SALD-7100」)を用いてLDHs結晶の粒度分布を測定した。
【0108】
先ず、実施例1の各工程で得られた結晶を粉末X線回折(XRD)法で回折強度を測定した結果を
図6に示す。
実施例1では、プロファイル図形における回折線から、NaNO
3をフラックスとするフラックス法によって育成された前駆体結晶に、水道水による酸化的加水分解処理、過酸化水素及びNaClの水溶液による1回の還元処理及びHCl水溶液による塩化物イオンへの置換処理を施すことで、前駆体結晶の積層構造がほぼ維持されたLDHs結晶が得られたことを確認した。
【0109】
また、実施例1の前駆体結晶の外観を
図7(a)及び
図7(b)に、得られたLDHs結晶の外観を
図8(a)及び
図8(b)に、LDHs結晶の粒度分布の測定結果を
図9に示す。
実施例1では、
図7(a)及び
図7(b)に示す外観を有する前駆体結晶、並びに
図8(a)及び
図8(b)に示す外観を有するLDHs結晶の結晶粒が得られたことを確認した。また、実施例1では、
図9のグラフに示すように、粒子径が2μm~160μmの範囲で分布しており、粒子径17.5μm~20.0μmの範囲で、相対粒子量q
3が最大値を示している。よって、実施例1のLDHs結晶を構成する結晶粒の粒径が、マイクロスケールで揃っていることを確認した。
【0110】
(亜リン酸、次亜リン酸の検量線の作成)
亜リン酸水素二ナトリウム五水和物(Na
2HPO
3・5H
2O)を用い、亜リン酸イオン濃度が100ppmである標準溶液を調製した。ナトリウムイオン標準液の範囲内(25~50ppm)に収まるように標準溶液を希釈し、亜リン酸イオン濃度が30ppmである希釈液を作製した。希釈液中のナトリウムイオンを定量することにより、亜リン酸イオンの濃度を算出した。
上記と同様にして、亜リン酸イオン濃度が1ppm、10ppmである標準溶液を調製し、それぞれ希釈液中のナトリウムイオンを定量することにより、亜リン酸イオンの濃度を算出した。
また、次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaPH
2O
2・H
2O)を用い、次亜リン酸イオン濃度が100ppmである標準溶液を調製した。ナトリウムイオン標準液の範囲内(25~50ppm)に収まるように標準溶液を希釈し、次亜リン酸イオン濃度が30ppmである希釈液を作製した。希釈液中のナトリウムイオンを定量することにより、次亜リン酸イオンの濃度を算出した。
上記と同様にして、次亜リン酸イオン濃度が1ppm、10ppmである標準溶液を調製し、それぞれ希釈液中のナトリウムイオンを定量することにより、次亜リン酸イオンの濃度を算出した。結果を
図10及び
図11に示す。
【0111】
図10及び
図11に示すように、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンの検量線を得ることができた。
【0112】
(亜リン酸イオン単独での吸着能、及び次亜リン酸イオン単独での吸着能の評価)
実施例1~3及び比較例1~2で得られたLDHs結晶の亜リン酸イオン吸着能を、以下の条件で評価した。得られたLDHs結晶を標準溶液に浸漬し、クールスターラーを用いて攪拌した。このとき、吸着条件として、亜リン酸イオンの初期濃度を1.0mmol/L、pH約11、固液比1.0g/L、攪拌速度120rpm、攪拌時間20時間、温度を室温とした。
また、実施例1~3及び比較例1~2で得られたLDHs結晶の次亜リン酸イオン単独での吸着能を、以下の条件で評価した。吸着条件は、亜リン酸イオン単独での吸着能の評価と同条件とした。標準溶液中の亜リン酸イオンを100%として、そのうちLDHs結晶に吸着した亜リン酸イオン分の割合を、亜リン酸イオンの除去率とした。また、標準溶液中の次亜リン酸イオンを100%として、そのうちLDHs結晶に吸着した次亜リン酸イオン分の割合を、次亜リン酸イオンの除去率とした。結果を
図12及び
図13に示す。
【0113】
図12に示すように、実施例1~2のLDHs結晶では、亜リン酸イオンの除去率が10%以上であり、良好な亜リン酸イオン吸着能を示すことが分かった。特に、実施例1のLDHs結晶では、亜リン酸イオンの除去率が18.9%であり、亜リン酸イオンの除去率が10.2%である実施例2のLDHs結晶と比較して、各段に優れた亜リン酸イオン吸着能を示すことが分かった。これは、実施例1のLDHs結晶の電荷密度が、実施例2のLDHs結晶の電荷密度よりも低く、イオン半径が大きい亜リン酸イオンを有利に除去できたと推察される。
また、実施例3のLDHs結晶でも、亜リン酸イオンの除去率が12.1%以上であり、良好な亜リン酸イオン吸着能を示すことが分かった。
【0114】
一方、比較例1~2では、亜リン酸イオンの除去率が1.6%以下であり、亜リン酸イオン吸着能が低いことが分かった。
【0115】
また、
図13に示すように、実施例1~2のLDHs結晶では、次亜リン酸イオンの除去率が5.4%以下であり、亜リン酸イオン吸着能と比較して次亜リン酸イオン吸着能が低いことが分かった。これは、次亜リン酸イオンの電荷密度が亜リン酸イオンと比較して小さく、LDHs結晶の吸着作用が大幅に低下したと推察される。また、実施例3のLDHs結晶でも、実施例1と同等の亜リン酸イオンの除去率であり、亜リン酸イオン吸着能と比較して次亜リン酸イオン吸着能が低いことが分かった。
【0116】
また、比較例1~2では、次亜リン酸イオンの除去率が0であり、次亜リン酸イオン吸着能が無いことが分かった。
【0117】
(亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンの双方の存在下での吸着能の評価)
実施例1~3及び比較例1~2で得られたLDHs結晶の亜リン酸吸着能を、以下の条件で評価した。得られたLDHs結晶を標準溶液に浸漬し、クールスターラーを用いて攪拌した。このとき、吸着条件として、亜リン酸イオンの初期濃度を1mmol/L、次亜リン酸イオンの初期濃度を0.5mmol/L、固液比1.0g/L、攪拌速度120rpm、攪拌時間12時間、温度を25℃とした。結果を
図14に示す。
【0118】
図14に示すように、実施例1~3のLDHs結晶では、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンの競争吸着試験において、亜リン酸イオンの除去率が10.1%以上であるのに対し、次亜リン酸イオンの除去率は0.5%以下であった。またこのとき、次亜リン酸の除去率に対する亜リン酸の除去率の比は、実施例1では36.4、実施例2では50.4、実施例3では62.5であった。よって、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンの双方の存在下では、次亜リン酸イオンを殆ど吸着せず、亜リン酸イオンを選択的に吸着することが分かった。
本発明の製造方法で得られた層状複水酸化物結晶は、亜リン酸イオンを吸着する亜リン酸イオン吸着用物質として用いることができる。よって、様々な工業分野で使用される亜リン酸イオン吸着剤に本発明の製造方法で得られた層状複水酸化物結晶を適用することができる。例えば、自動車、精密機械、電気・電子、食品等の分野で、電気抵抗膜、磁性膜、導電膜、耐摩耗性膜、耐食性膜等として各種部品の表面処理に利用される無電解ニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理方法に、本発明の層状複水酸化物結晶を適用することができる。特に、無電解ニッケルめっき被膜の形成に用いられ、還元剤として次亜リン酸を使用するめっき液に、本発明の層状複水酸化物結晶を好適に適用することができる。