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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108640
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/00 20060101AFI20240805BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20240805BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H01F5/00 F
H01F27/28 147
H01F17/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013100
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】亀井 章弘
(72)【発明者】
【氏名】土田 実
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AB09
5E070AA01
5E070AB01
5E070CA02
5E070CA03
(57)【要約】
【課題】導電性部材である金属多孔質構造体の放熱性を向上させることによって、金属多孔質構造体にすることで放熱性を向上させ、かつ表皮効果によって高周波大電流を流しやすくすることで金属多孔質構造体の温度上昇を抑えて、エネルギー損失を低減したコイルを提供することを目的とする。また、高周波電流を流した際の伸縮による金属多孔質構造体と絶縁体の剥離が起きにくいコイルを提供する。
【解決手段】軸方向に導電性部材10が螺旋状に巻回されたコイル1であって、前記導電性部材10は、金属多孔質構造体20と、絶縁体30と、を含む、コイル1。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に導電性部材が螺旋状に巻回されたコイルであって、
前記導電性部材は、金属多孔質構造体と、絶縁体と、を含む、コイル。
【請求項2】
前記金属多孔質構造体が、金属繊維構造体である、請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記絶縁体が、前記金属多孔質構造体の表面に部分的に設けられている、請求項1に記載のコイル。
【請求項4】
前記絶縁体が、無機絶縁体である、請求項1に記載のコイル。
【請求項5】
前記絶縁体が、多孔質である、請求項1に記載のコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、絶縁被覆線を用いて多段巻コイルを形成し、近接する線間の電位差を最小限に抑えてコイルの損失を低減し、放熱経路への熱伝達を促進して熱特性を向上させたコイルの発明が記載されている。
【0003】
引用文献2には、絶縁性板材と当該絶縁性板材に導電性部材が付着された帯板状を軸方向に螺旋状に巻回されたコイルに関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-222246号公報
【特許文献2】特開2014-220466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1に記載のコイルは、絶縁被覆線を用いているために、互いの層間に絶縁被覆が介在する。そのため、前記コイルは、段数が多くなると放熱性が悪化しやすく、コイル内部の蓄熱により導体の温度が上がり、導体の電気抵抗が大きくなる。すると、前記コイルは、抵抗成分によって消費されるエネルギー損失(銅損)が大きくなるという課題があった。
【0006】
引用文献2に記載のコイルは、導電性部材としてメッキ膜や銅箔を用いている。しかしながら、前記コイルは、コイル内部の蓄熱によって絶縁性板材と導電性部材との熱膨張差に起因して、絶縁性板材と導電性部材が剥離するという課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、導電性部材である金属多孔質構造体にすることで放熱性を向上させ、かつ表皮効果によって高周波大電流を流しやすくすることで金属多孔質構造体の温度上昇を抑えて、エネルギー損失を低減したコイルを提供することを目的とする。また、高周波電流を流した際の伸縮による金属多孔質構造体と絶縁体の剥離が起きにくいコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]軸方向に導電性部材が螺旋状に巻回されたコイルであって、
前記導電性部材は、金属多孔質構造体と、絶縁体と、を含む、コイル。
[2]前記金属多孔質構造体が、金属繊維構造体である、[1]に記載のコイル。
[3]前記絶縁体が、前記金属多孔質構造体の表面に部分的に設けられている、[1]に記載のコイル。
[4]前記絶縁体が、無機絶縁体である、[1]に記載のコイル。
[5]前記絶縁体が、多孔質である、[1]に記載のコイル。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性部材を金属多孔質構造体にすることで放熱性を向上させ、かつ表皮効果によって高周波大電流を流しやすくすることで金属多孔質構造体の温度上昇を抑えて、エネルギー損失を低減したコイルを提供することができる。また、高周波電流を流した際の伸縮による金属多孔質構造体と絶縁体の剥離が起きにくいコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示し、図1の断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るコイルを構成する導電性部材を示す平面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示し、図1の断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示す斜視図である。
図7】本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示す斜視図である。
図8】本発明の一実施形態に係る金属多孔質構造体を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係るコイルについて、図面に基づいて説明する。図1および図2は、本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示す斜視図である。図3および図5は、本発明の一実施形態に係るコイルを模式的に示し、図1の断面図である。図4は、本発明の一実施形態に係るコイルを構成する導電性部材を示す平面図である。
なお、以下の説明で用いる図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
以下の用語の定義は、本明細書、および特許請求の範囲にわたって適用される。
「均質性」とは、繊維で構成されるシートの電気特性、物理特性、および透気特性等のシートが有する特性のシート内におけるバラツキが少ないことを意味する。均質性の指標として、例えば、1cm当たりのJIS Z8101に規定する坪量の変動係数(CV値)を採用することができる。
【0013】
「平均繊維径」とは、顕微鏡で撮像された金属繊維構造体の任意の複数の箇所における垂直断面に基づいて、金属繊維の長手方向に垂直な断面積を公知の計算手法で算出し、当該断面積と同一面積を有する真円の直径を算出することにより導かれた面積径の相加平均値である。上記複数の箇所は、例えば、20箇所とすることができる。
【0014】
「平均繊維長」とは、顕微鏡でランダムに選択した複数本の繊維について繊維の長手方向の長さを測定した値の相加平均値である。繊維が直線状でない場合には、繊維に沿った曲線の長さとする。上記複数本は、例えば、20本とすることができる。
【0015】
「シートの厚み」とは、空気による端子落下方式の膜厚計(例えば、ミツトヨ社製「デジマチックインジケータID-C112X」等)で、例えば、金属繊維構造体の任意の数の測定点を測定した場合の相加平均値である。
【0016】
「占積率」とは、繊維シートの体積に対して繊維が存在する部分の割合で、繊維シートの坪量、厚み、および繊維の真密度から以下の式により算出される。繊維シートが複数の種類の繊維を含む場合には、各繊維の組成比率を反映した真密度値を採用することで占積率を算出することができる。
(占積率(%))=(繊維シートの坪量)/((繊維シートの厚み)×(真密度))×100
【0017】
「空隙率」とは、繊維シートの体積に対して空隙が存在する部分の割合で、繊維シートの坪量、厚み、および繊維の真密度から以下の式により算出される。繊維シートが複数の種類の繊維を含む場合には、各繊維の組成比率を反映した真密度値を採用することで占積率を算出することができる。
(空隙率(%))=(1-(繊維シートの坪量)/((繊維シートの厚み)×(真密度)))×100
【0018】
[コイル]
(コイルの構造)
図1図3に示すように、本実施形態のコイル1は、軸方向に導電性部材10が螺旋状に巻回されてなる。図3に示すように、導電性部材10は、金属多孔質構造体20と、絶縁体30と、を含む。
【0019】
本実施形態のコイル1では、図3に示すように、例えば、導電性部材10が、平面視で円形状の個片40(40A)~40(40X)(Xは5以上の整数)が、それぞれの個片40A~40Xの一端部41および他端部42に設けられた導通端子部50を介して接続され、積層されてなるものである。すなわち、導電性部材10は、X個の個片40が積層されてなるものである。なお、個片40は平面視で円形状であるが、個片40は、図4に示すように不連続部43を有し、不連続部43にて円が分断されている。個片40において、不連続部43を介して対向する部分の一方を一端部41、他方を他端部42とする。積層された複数個の個片40において、コイル1の厚さ方向の上側に位置する個片40(例えば、図3に示す個片40A)の他端部42に設けられた導通端子部50は、その個片40(40A)の下側にて隣接する個片40(例えば、図3に示す個片40B)の一端部41に設けられた導通端子部50と接続されている。これにより、本実施形態のコイル1は、導電性部材10が軸方向に螺旋状に巻回された構造をなす。このように、導通端子部50により、個片40A~40Xが電気的に接続されている。
【0020】
本実施形態のコイル1では、図3に示すように、それぞれの個片40A~40Xが、それぞれの下面40bに設けられた絶縁体30を介して積層されている。このように、絶縁体30により、個片40A~40Xが導通端子部50以外の部分において絶縁されている。
【0021】
本実施形態のコイル1では、図3に示すように、コイル1の最上面1a、すなわち、個片40Aの上面40aにおいて、個片40Aの一端部41に設けられた導通端子部50に、第1引出線60が接続されている。また、コイル1の最下面1b、すなわち、個片40Xの下面40bにおいて、個片40Xの他端部42に設けられた導通端子部50に、第2引出線70が接続されている。
【0022】
図3および図4に示すように、導電性部材10の個片40は、金属多孔質構造体20と、絶縁体30と、を含む。金属多孔質構造体20の平面視における形状は、個片40の平面視における形状と同一である。絶縁体30は、金属多孔質構造体20の下面20b(個片40の下面40b)に設けられている。本実施形態のコイル1では、図4に示すように、例えば、絶縁体30は、間隔を置いて同心円状に設けられた複数の線条部材30A~30Gを含む。線条部材の数は、特に限定されず、導電性部材の厚みや幅に応じて調整し、導電性部材同士が接触しないようにすることが好ましい。
【0023】
本実施形態のコイル1では、図4に示すように、平面視で、線条部材30A~30Gからなる第1絶縁領域31と、線条部材30A~30Gからなる第2絶縁領域32と、線条部材30A~30Gからなる第3絶縁領域33と、線条部材30A~30Gからなる第4絶縁領域34とがほぼ等間隔に設けられている。すなわち、隣接する絶縁領域の間は離隔している。
【0024】
「金属多孔質構造体」
金属多孔質構造体20としては、例えば、金属粒子を凝集させて融着したものが挙げられる。また、金属多孔質構造体20としては、金属繊維を凝集させて融着したものであってもよい。金属多孔質構造体20は、金属繊維から形成される金属繊維構造体を含むことが好ましい。
【0025】
本実施形態では、金属多孔質構造体20の平面視における形状が円形状であるが、本発明における金属多孔質構造体の平面視における形状は円形状に限定されない。本実施形態における金属多孔質構造体の平面視における形状は、三角形状、四角形状等であってもよい。ただし、金属多孔質構造体の平面視における形状がいかなる形状であっても、平面視で一部が分断された不連続部を有し、不連続部を介して対向する部分の一方を一端部、他方を他端部とする。
【0026】
金属繊維を構成する金属としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、青銅、黄銅、ニッケルおよびクロムからなる群から選択される少なくとも1種の金属、あるいは、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムおよびオスミウムからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属が挙げられる。これらの中でも、熱伝導性および剛直性に優れる点から、銅繊維およびアルミニウム繊維が好ましい。
【0027】
金属繊維構造体は、任意の構造をとることができる。例えば、本実施形態における金属繊維構造体は、繊維がランダムに交絡した不織布であってもよいし、規則性を有する織布であってもよい。
【0028】
金属繊維構造体は、本実施形態における金属繊維構造体に含まれている繊維同士が、少なくとも一部で結着されている。金属繊維構造体に含まれている繊維同士が結着されているとは、例えば、金属繊維が、銅繊維とアルミニウム繊維とを含む場合においては、銅繊維同士、アルミニウム繊維同士、または銅繊維とアルミニウム繊維とが物理的に固定され、結着部を形成していることを意味する。
【0029】
金属繊維構造体は、金属繊維構造体に含まれている繊維同士が結着部で直接的に固定されていてもよい。金属繊維構造体は、本実施形態における金属繊維構造体に含まれている繊維同士が銅成分、若しくはアルミニウム成分、または銅、およびアルミニウム以外の金属成分を介して間接的に固定されていてもよい。
【0030】
銅、およびアルミニウム以外の金属成分としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス、鉄、ニッケル、およびクロム等が挙げられる。また、銅、およびアルミニウム以外の金属としては、例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、およびオスミウム等の貴金属が挙げられる。
【0031】
金属繊維構造体は、金属以外の成分を含んでいてもよい。金属以外の成分としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン、およびポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル樹脂、アラミド樹脂、ナイロン、およびアクリル樹脂、並びにこれらの繊維状物等の結着性、および担持性を有する有機物等が挙げられる。これらの有機物は、例えば、金属繊維構造体の作製時における形態維持性を補助・向上させるため等に用いることができる。
【0032】
金属繊維構造体に含まれている繊維同士が、少なくとも一部で結着されていることにより、金属繊維構造体は、導電性を具備することができる。金属繊維構造体は、本実施形態における金属繊維構造体に含まれている繊維同士が、少なくとも一部で結着されているため、銅繊維の間に空隙を有することができる。空隙は、例えば、銅繊維が交絡することにより形成されてもよい。空隙の存在によって、金属繊維構造体の伝熱性が低減しやすい。
【0033】
本実施形態における金属繊維構造体の空隙率は、35%~95%であることが好ましく、40%~90%であることがより好ましい。空隙率が前記下限値未満の場合には、抵抗値が大きくなりやすく、発熱量も大きくなりやすい。空隙率が前記上限値を超えると、通気性が悪化しやすく、放熱効率が下がりやすい。
【0034】
金属繊維構造体は、金属繊維構造体に含まれている繊維同士が、焼結により結着されていることが好ましい。当該繊維同士が焼結により結着されていることにより、本実施形態における金属繊維構造体は、導電性、熱伝導性、および均質性が安定する。
【0035】
金属繊維の平均繊維径は、1μm~100μmであることが好ましく、15μm~50μmであることが好ましい。金属繊維の平均繊維径が前記下限値未満であると、金属繊維の剛直性が低下して、金属繊維構造体を作製する際に所謂ダマが生じやすくなる傾向がある。金属繊維の平均繊維径が前記上限値を超えると、金属繊維の剛直性が繊維交絡の妨げになることがある。
【0036】
金属繊維の長手方向に垂直な断面の形状は、任意の形状とすることができる。かかる断面の形状は、例えば、円形、楕円形、略四角形、および不定形等のいずれの形状であってもよいが、好ましくは円形である。ここで、円形断面とは、金属繊維不織布の生産を実施する上で受ける応力において、曲部を生じ易い程度の円断面形状であれば良いため、真円断面である必要はない。
【0037】
金属繊維の平均繊維長は、1mm~30mmであることが好ましく、3mm~10mmであることがより好ましい。金属繊維の平均繊維長が前記範囲内であれば、例えば、抄造によって本実施形態における金属繊維構造体を作製する際に、金属繊維のダマが生じにくく、金属繊維の分散を高度に制御しやすくなるとともに、繊維同士の交絡により金属繊維構造体のハンドリング強度が向上しやすい。
【0038】
金属繊維のアスペクト比は、33~10000であることが好ましい。アスペクト比が前記下限値未満である場合には、所謂ダマは生じにくいが、金属繊維の交絡が生じにくくなるため、導電性が低下することがある。アスペクト比が前記上限値を超えると、ハンドリング強度は、充分に保たれるが、ダマが生じやすくなり、金属繊維構造体の均質性が低下することがある。
【0039】
金属繊維構造体のアスペクト比の測定方法は、平均繊維長を平均繊維径で除することで算出される。
【0040】
金属繊維構造体の占積率は、5%~65%の範囲が好ましく、10%~60%がより好ましい。占積率が前記下限値未満の場合には、繊維量が不足するため、均質性が低下することがある。占積率が前記上限値を超えると金属繊維構造体の可撓性が低下するとともに、通気性も低下し、温度が下がりにくくなる。
【0041】
金属繊維構造体の厚みは、任意の厚さに調整することができるが、例えば、20μm~5mmであることが好ましく、100μm~1mmであることがより好ましい。
【0042】
金属繊維構造体は、1cm当たりのJIS Z8101に規定する坪量の変動係数(CV値)が10%以下であることが好ましい。坪量は、単位面積当たりの重量を示す指標であるから、坪量の変動係数が一定の値以下であることは、各個片の占積率、導電性および熱伝導性についても安定した値であるといえる。すなわち、金属繊維構造体の坪量の変動係数が10%以下であれば、金属繊維構造体に極端なサイズのダマ、および空隙が存在せず、金属繊維構造体の占積率、導電性、および熱伝導性の値も充分に均質となりやすい。
【0043】
坪量の変動係数は、例えば、下記に示す方法によって求めることができる。
1.計測対象の金属繊維構造体を1cm角に切断して、金属繊維構造体の個片を得る。
2.上記各個片を高精度分析天秤(例えば、エー・アンド・アイ社製「BM-252」)で秤量し、各個片の質量を測定する。
3.個片が厳密な正方形に切断されていない可能性を考慮して、平行する2辺の中央付近の距離を測定し、その測定値を縦長、横長とする。
4.上記縦長、および横長から各個片の面積を算出する。
5.上記質量を、上記面積で割ることによって各個片の坪量を算出する。
6.全個片の坪量の標準偏差を平均値で割り、100を乗じて、金属繊維構造体の個片の坪量の変動係数(CV値)を算出する。
なお、個片数は、例えば、100個以上を測定することによって、変動係数の安定化を図ることができる。また、計測対象の金属繊維構造体の個片の面積が1cmに満たない場合には、1cmに換算した値を変動係数(CV値)とすることができる。
【0044】
(金属繊維構造体の製造方法)
以下、金属繊維構造体の製造方法の一例について説明する。
金属繊維構造体を得る方法としては、例えば、金属繊維または金属繊維を主体とするウェブを圧縮成形する乾式法、および金属繊維または金属繊維を主体とする原料を湿式抄造法で抄紙する方法等が挙げられる。
【0045】
乾式法により、金属繊維構造体を得る場合には、カード法、エアレイド法等により得られた金属繊維または金属繊維を主体とするウェブを圧縮成形することができる。このとき、繊維間を結合させるために、金属繊維にバインダーを含浸させてもよい。バインダーとしては、特に制限されないが、例えば、アクリル接着剤、エポキシ接着剤、およびウレタン接着剤等の有機バインダー等、並びにコロイダルシリカ、水ガラス、およびケイ酸ソーダ等の無機質接着剤を用いることができる。なお、バインダーを含浸させる代わりに、金属繊維の表面に熱接着性樹脂を予め被覆しておき、金属繊維または金属繊維を主体とする集合体を積層し、積層してできた積層体を加圧・加熱圧縮してもよい。
【0046】
金属繊維構造体は、金属繊維等を水中に分散させて、水中に分散した金属繊維等を抄き上げる湿式抄造法により作製することもできる。具体的には、例えば、まず撹拌ミキサーを用い、金属繊維を主体とするスラリーを作製する。当該スラリーに、填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、および定着剤等の公知の添加剤を適宜添加することにより、金属繊維構造体を得ることができる。
【0047】
金属繊維以外の繊維状物として、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン、およびポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル樹脂、アラミド樹脂、ナイロン、およびアクリル樹脂を、上記スラリーに添加することもできる。これらの金属繊維以外の有機繊維は、加熱溶融により結着性を発揮し、金属繊維構造体の形態維持性を補助等することができる。ただし、焼結によって繊維間に結着部を設ける場合においては、有機繊維等の非存在下で焼結し、確実に結着部を設けることが好ましい。
【0048】
上記のように有機繊維等の非存在下で、金属繊維等を抄造する場合、水と繊維等との真密度の差、および繊維の過交絡により、いわゆるダマ等の凝集物が生じやすい。そのため、適宜増粘剤等を使用することが好ましい。また、撹拌ミキサー中のスラリーは、真密度の大きな金属繊維がミキサーの底面に沈降しやすい傾向にある。そのため、底面付近を除いたスラリーを抄造スラリーとして用いることが好ましい。
【0049】
次に、上記スラリーを用いて、抄紙機にて湿式抄造を実施する。抄紙機としては、例えば、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、および傾斜型抄紙機、並びにこれらの中から同種または異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機等を用いることができる。
【0050】
次に、抄紙後の湿紙を、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、および赤外方式ドライヤー等を用いて乾燥し、金属繊維構造体のシートを得ることができる。
【0051】
金属繊維構造体を湿式抄造法により製造する場合には、抄造網上の水分を含んだ湿体シートを形成する金属繊維、若しくは金属繊維を主体とする成分を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を実施してもよい。繊維交絡処理工程としては、例えば、湿体シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程を採用することが好ましく、具体的には、シートの流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、当該複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って繊維同士を交絡させることができる。当該工程を経た後は、湿体シートは、ドライヤー工程を経て巻取り等される。
【0052】
上述した繊維交絡処理工程を経て製造される金属繊維構造体は、例えば、繊維同士を結着させる前に、プレス(加圧)工程を実施してもよい。結着前にプレス工程を実施することによって、その後の結着工程において、繊維間に結着部を確実に設けることができ、金属繊維構造体の導電性、および均質性が向上しやすくなる。
【0053】
プレス工程は、加熱下で実施してもよく、非加熱下で実施してもよい。金属繊維構造体が、加熱溶融により結着性を発揮する有機繊維等を含む場合には、当該有機繊維等の溶融開始温度以上の温度で加熱することが有効である。金属繊維構造体が、金属繊維のみを含む場合には、加圧のみでもよい。
【0054】
プレス工程における圧力は、金属繊維構造体の厚みを考慮して適宜設定することができる。例えば、厚み170μm程度の金属繊維構造体にプレス工程を実施する場合、線圧300kg/cm未満、好ましくは、250kg/cm未満でプレス工程を実施することにより、金属繊維構造体に導電性および均質性を付与しやすくすることができる。当該プレス工程により、金属繊維構造体の占積率、および空隙率を調整することもできる。
【0055】
金属繊維構造体の繊維同士を結着させる方法としては、例えば、金属繊維構造体を焼結する方法、化学エッチングにより結着する方法、レーザー溶着する方法、IH加熱を利用して結着する方法、ケミカルボンド法、およびその他公知のサーマルボンド法等を用いることができる。これらの中でも、金属繊維構造体を焼結する方法は、金属繊維構造体に含まれている繊維同士を確実に結着し、繊維間を固定することができ、金属繊維構造体の導電性、熱伝導性、および坪量の変動係数(CV値)が安定しやすくなるため好ましい。
【0056】
金属繊維構造体を焼結させるには、真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を経ることが好ましい。焼結工程を経た金属繊維構造体は、金属繊維構造体に含まれている繊維同士が、焼結により結着されている。上述したように、焼結によって金属繊維間に結着部を設ける場合には、有機繊維等の非存在下で焼結することが好ましい。焼結工程を実施することにより、金属繊維のみで構成されるシートであっても、金属繊維同士の接点が結着し、確実に結着部を設けることができ、導電性および均質性が安定しやすい。
【0057】
焼結工程を経た金属繊維構造体は、さらにプレス工程を経ることが好ましい。焼結工程の後、プレス工程を経ることで、金属繊維構造体の導電性および均質性がさらに向上しやすくなる。例えば、金属繊維構造体が、金属繊維の不織布である場合、金属繊維がランダムに交絡した不織布は、プレスによって、厚み方向だけでなく、面方向にも繊維のシフトが生じる。これにより、焼結時には空隙であった箇所にも繊維が配置されやすくなり、かかる状態が、金属繊維等が具備する塑性変形特性によって維持される。
【0058】
焼結工程の後に実施されるプレス工程の圧力は、金属繊維構造体の厚みを考慮して適宜設定することができる。
【0059】
「絶縁体」
絶縁体30としては、有機絶縁体や無機絶縁体等が挙げられる。
【0060】
絶縁体30は、金属多孔質構造体20の表面(上面20a、下面20b)に設けられている。
絶縁体30は、金属多孔質構造体20をコイル状に積層した際に、金属多孔質構造体20同士の絶縁を保つために設けられている。すなわち、絶縁体30は、金属多孔質構造体20をコイル状に積層した際に、少なくとも金属多孔質構造体20同士が接触する部分に設けられている。
【0061】
絶縁体30の厚みは、任意の厚さに調整することができるが、50μm~1mmであることが好ましく、100μm~500μmであることがより好ましい。
【0062】
有機絶縁体としては、特に限定されないが、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0063】
絶縁体30が有機絶縁体の場合には、図5に示すように、金属多孔質構造体20と有機絶縁体(絶縁体30)の間に、接着剤層80を設けてもよい。また、有機絶縁体を金属多孔質構造体20の表面に直接塗工等により形成してもよい。
【0064】
上記の接着剤層80を構成する樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の硬化後の融点が100℃以上の接着剤が挙げられる。
【0065】
絶縁体30は、図4に示すように、金属多孔質構造体20の表面に部分的に設けられていることが好ましい。
絶縁体30が、金属多孔質構造体20の表面に部分的に設けられている場合には、金属多孔質構造体20が発熱した際にコイル1内に熱を蓄積せずに良好に外部に発散することができる。
金属多孔質構造体20の表面に、部分的に設けられる絶縁体30の形状は、特に限定されない。
【0066】
金属多孔質構造体20の表面に部分的に絶縁体30を設けるには、例えば、次のように行うことができる。
所定の形状の開口部を有するマスクシートを金属多孔質構造体20の表面に覆い、当該マスクシートの表面から液体状の有機絶縁体を塗工することによって、マスクシートの開口部から液体状の有機絶縁体が直接、金属多孔質構造体20の表面に形成される。その後、マスクシートを金属多孔質構造体20の表面から剥がすことによって、金属多孔質構造体20の表面に部分的に絶縁体30を形成できる。
【0067】
上記液体状の有機絶縁体の塗布方法は特に限定されず、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等が挙げられる。
【0068】
絶縁体30が、無機絶縁体である場合には、絶縁体30を多孔質にすることが可能である。絶縁体30が、多孔質である場合には、絶縁体30の表面積が大きくなり、絶縁体30と空気との接触面積が大きくなるため、金属多孔質構造体20が発熱した際にコイル1内に熱を蓄積せずに良好に外部に発散することができる。
【0069】
無機絶縁体を得るには、例えば、次のようにする。
無機絶縁体は、後述する無機粒子と無機結着剤を含有し、無機結着剤によって互いの一部が結着した多数の無機粒子からなる集合体であって、多数の無機粒子の粒子間等に微小空隙が形成された多孔質体である。
【0070】
無機絶縁体の空隙率は、10%以上であり、10%~50%であることが好ましく、20%~40%であることがより好ましい。
空隙率は、幾何学法により測定した全空隙率のことである。本実施形態においては、嵩密度をアルキメデス法により算出し、真密度を気相置換法(ピクノメータ法)により測定し、得られた結果を下記式(1)に代入した値を空隙率とした。
空隙率(%)={1-(嵩密度/真密度)}×100・・・(1)
【0071】
<無機粒子>
上記無機絶縁体が有する無機粒子の平均粒子径は、0.1μm以上であり、1μm~100μmであることが好ましく、5μm~20μmであることがより好ましい。無機粒子の平均粒子径が前記下限値以上であると、後述する無機結着剤により結着する際に粒子間に適切な空隙を確保することができ、上記無機絶縁体を多孔質体とすることができる。
【0072】
ここで、平均粒子径とは、上記無機粒子の粒子径の平均値をいい、本実施形態においては、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された50%体積累積径(D50)をいう。
【0073】
本実施形態においては、上記無機粒子は特に限定されず、例えば、従来公知の金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸化物等が挙げられる。これらの中でも、金属酸化物を用いることが好ましい。
【0074】
上記無機粒子としては、具体的には、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、極微細炭酸カルシウム等)、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸塩; 硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸化物;また、その他に、カルシウムカーボネート、方解石、大理石、石膏、カオリンクレー、焼成クレー、タルク、セリサイト、光学ガラス、ガラスビーズ等が挙げられる。
【0075】
これらの中でも、後述する無機結着剤との親和性が良好となる理由から、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウムが好ましい。
また、本実施形態においては、上記無機粒子は、2種類以上の粒子や、2種類以上の平均粒子径を有する粒子を併用してもよい。
種類や平均粒子径の異なる粒子を併用することにより、上記無機絶縁体の強度の向上や、上記無機絶縁体と金属多孔質構造体との密着強度の向上を図ることができる。
【0076】
さらに、本実施形態においては、上記無機粒子の形状は特に限定はされず、例えば、球状、多面体状(例えば、20面体状、12面体状等)、立方体状、4面体状、いわゆるコンペイトウ形状、板状、針状、不定形状等いずれであってもよい。
【0077】
<無機結着剤>
上記無機絶縁体に含まれる無機結着剤は、リン酸アルミニウム、ケイ酸ナトリウムおよび塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種(以下、本段落においては「リン酸アルミニウム等」という。)である。
【0078】
(リン酸アルミニウム)
上記リン酸アルミニウムとしては、狭義のリン酸アルミニウムだけではなく、リン酸アルミニウムの他に、例えば、メタリン酸アルミニウム、オルトリン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0079】
また、上記リン酸アルミニウムとしては、市販のリン酸と市販の硫酸アルミニウム(または、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、および、これらの混合物)とを水の存在下で反応させて得ることができる。さらに、塩化アルミニウムは水酸化アルミニウムの反応を触媒的に進行させる役割を有すると考えられるため、上記反応においては、水酸化アルミニウムと塩化アルミニウムの両方を添加することが好ましく、塩化アルミニウムの量が水酸化アルミニウムの量に対して、5%~10%であることが好ましい。なお、反応物の中和が必要な場合は水酸化ナトリウム溶液を用いることができ、硫酸アルミニウムは、硫酸とアルミナとを反応させて製造してもよい。
【0080】
本実施形態においては、上記リン酸アルミニウムと共に、リン酸塩化合物を用いてもよい。
リン酸塩化合物としては、水に不溶性であれば特に限定されず、例えば、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸バリウム、リン酸アルミニウム、リン酸ガリウム、リン酸ランタン、リン酸チタニウム、リン酸ジルコニウム等が挙げられる。
また、リン酸塩化合物を上記リン酸アルミニウムと併用する場合、50質量%以上がリン酸アルミニウムであることが好ましい。
【0081】
(ケイ酸ナトリウム)
上記ケイ酸ナトリウムは、ケイ酸ソーダまたは水ガラスとも呼ばれるものであり、メタケイ酸のナトリウム塩であるNaSiOが一般的であるが、その他に、NaSiO、NaSi、NaSi等も用いることができる。
メタケイ酸のナトリウム塩は、二酸化ケイ素を、炭酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムと融解して得ることができる。
【0082】
(塩化アルミニウム)
上記塩化アルミニウムは、無水塩化アルミニウム、塩化アルミニウム水和物、ポリ塩化アルミニウム(水酸化アルミニウムを塩酸に溶解させて生成する、塩基性塩化アルミニウムの重合体)のいずれであってもよい。
【0083】
上記無機絶縁体は、上記無機粒子と無機結着剤以外に、他の化合物を含有していてもよい。他の化合物としては、例えば、分散剤、反応促進剤等が挙げられる。また、上記無機絶縁体は、前記他の化合物に加えて、上記無機粒子と無機結着剤との反応生成物等も含有していてもよい。
【0084】
(無機絶縁体の製造方法)
無機絶縁体の製造方法は、金属多孔質構造体上に、無機粒子と、リン酸アルミニウム、ケイ酸ナトリウムおよび塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の無機結着剤とを含有する塗布液を塗布して塗膜を形成する工程(以下、「塗膜形成工程」と言う。)を有する。
【0085】
塗布液は、上記無機粒子と上記無機結着剤とを含有する溶液であれば特に限定されないが、上記無機粒子と上記無機結着剤とを含有するスラリーであることが好ましい。
また、上記塗布液中の上記無機結着剤の含有量は、上記無機粒子100質量部に対して、5質量部~50質量部であることが好ましい。
【0086】
本実施形態においては、上記無機結着剤として、上記リン酸アルミニウムを用いる場合、上記塗布液は、リン酸、水酸化アルミニウムおよび水を含有する混合液を利用し、この混合液中でリン酸と水酸化アルミニウムを液中で反応させることによりリン酸アルミニウムを生成させた反応溶液を用いることができる。
【0087】
同様に、上記無機結着剤として、上記塩化アルミニウムを用いる場合、上記塗布液は、塩酸、水酸化アルミニウムおよび水を含有する混合液を利用し、この混合液中で塩酸と水酸化アルミニウムを液中で反応させることにより塩化アルミニウムを生成させた反応溶液を用いることができる。
【0088】
上記塗布液の塗布方法は、特に限定されず、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等が挙げられる。
【0089】
塗膜形成工程で形成した上記塗膜を乾燥させることにより、空隙率が10%以上である上記無機絶縁体を形成する。
【0090】
ここで、上記塗膜の乾燥条件は、特に限定されず、一般的に用いられる方法を選択できるが、リン酸アルミニウムにより無機粒子が結着する反応を進めるために焼成(加熱乾燥)することが好ましい。
【0091】
また、上記塗膜の乾燥温度は、100℃~300℃であることが好ましく、150℃~280℃であることがより好ましく、200℃~250℃であることがさらに好ましい。
水分を除去する観点から、乾燥温度は100℃以上が好ましい。また、リン酸と水酸化アルミニウムの反応を進めて結着させるには、乾燥温度は150℃以上が好ましい。さらに、得られたリン酸アルミニウムに残存する吸着水を完全に除去する観点から、乾燥温度は200℃以上が好ましい。
【0092】
乾燥時間は、10分~60分が好ましく、20分~40分がより好ましい。
【0093】
「導通端子部」
導通端子部50は、金属多孔質構造体20と同じく、金属粒子もしくは金属繊維から形成されている。導通端子部50は、金属繊維から形成される金属繊維構造体を含むことが好ましい。
【0094】
(導通端子部の形成方法)
導通端子部50は、金属粒子もしくは金属繊維を凝集させ、融着することで金属多孔質構造体20と一体形成する。
【0095】
「第1引出線、第2引出線」
第1引出線60および第2引出線70としては、例えば、銅箔、ステンレス箔、アルミ箔等等が挙げられる。
【0096】
(導通端子部の形成方法)
第1引出線60または第2引出線70を導通端子部50に接続するには、導通端子部50の表面の絶縁体30を除去して、導通端子部50の表面を露出させ、その表面に導電性接着剤を塗工し、導電性接着剤を介して、導通端子部50に第1引出線60または第2引出線70を接続する。
【0097】
導電性接着剤としては、ナノ銀、ナノ銅、ナノニッケル等のナノ金属粒子と、エポキシ、アクリル、ポリイミド等の樹脂とを含むものが挙げられる。
【0098】
「接着剤層」
接着剤層80を構成する接着剤としては、例えば、エポキシ、アクリル、ポリイミド等が挙げられる。
【0099】
本実施形態のコイル1によれば、軸方向に導電性部材10が螺旋状に巻回され、導電部材10が、金属多孔質構造体20と、絶縁体30と、を含むため、導電性部材10である金属多孔質構造体20の放熱性が向上し、金属多孔質構造体10の温度の上昇を抑えて、エネルギー損失を低減することができる。また、本実施形態のコイル1によれば、コイル1の内部が蓄熱されても金属多孔質構造体20と絶縁体30の剥離を抑制することができる。
【0100】
[他の実施形態]
なお、本発明は、上記の実施形態に限定するものではない。
【0101】
例えば、以下に示すような変形例を採用してもよい。
【0102】
(第1の変形例)
図6に示すように、第1の変形例のコイル100は、金属多孔質構造体110と、金属多孔質構造体110の一方の面110aに積層された絶縁体120とからなる長尺の導電性部材130がエッジワイズ状に巻回されてなるものである。
【0103】
(第2の変形例)
図7に示すように、第2の変形例のコイル200は、導電性部材210が、平面視でL字型の個片220(220A)~220(220G)が、それぞれの個片220A~220Gの一端部221および他端部222に設けられた導通端子部(図示略)を介して接続され、積層されてなるものである。
【実施例0104】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
[実施例1]
<金属多孔質構造体20の作製>
平均繊維長0.114mm、平均繊維径0.021mmの銅繊維を用意した。
次に上記銅繊維を型枠にいれた後、圧力を加え圧縮成形して図8のような平面視で円形状の金属多孔質構造体20を得た。得られた金属多孔質構造体20は、外側の直径が約30mm、内側の直径が約18mm、厚さは約420μm、占積率は約56%であった。また、該金属多孔質構造体20は、突出した導通端子部50を有し、該導通端子部50の直径は約5mm、厚さは約200μmであった。また、得られた金属多孔質構造体20は、金属多孔質構造体が連続していない不連続部43を有し、該不連続部43の間隙は約1mmであった。
このような金属多孔質構造体20を14個作製した。
【0106】
<絶縁体30の作製>
次に、絶縁体30を形成するために、酸化アルミニウム(アルミナ)の微粒子100質量部に対してケイ酸ナトリウム(水ガラス)5質量部を混合して塗布液を作製した。酸化アルミニウム(アルミナ)の微粒子は、不定形状であって平均粒子径は約10μmである。
前記14個の金属多孔質構造体20各々の表面に、樹脂製のマスクを被せた後、ブレード塗布方法によって上記塗布液を塗工し、図4のような形状を有する絶縁体30を形成した。金属多孔質構造体20の表面に形成された絶縁体30の塗工厚さは約120μmであった。
【0107】
<コイルの作製>
前記で得た14個の絶縁体30を表面に形成した金属多孔質構造体20を約400℃の恒温槽で2時間加熱し、導電性部材10の個片40を得た。この加熱により金属多孔質構造体20の内部における銅繊維同士が焼結され導通される。またこの加熱により絶縁体30は、金属多孔質構造体20に固着すると共に多孔質となる。加熱後における絶縁体30の厚さは約90μmであった。
【0108】
次に、14個の導電性部材10の個片40における各々の導通端子部50の表面にナノ銀を塗工した。
次に、当該14個の導電性部材10の個片40を図3のように積層した後、積層体全体を約400℃の恒温槽で1時間加熱して実施例1のコイルを得た。
【0109】
次に、上記実施例1のコイルにおける露出された導通端子部に第1引出線及び第2引出線を接続した。
次に、上記実施例1のコイルにおける第1引出線及び第2引出線を除いたコイル本体表面全体にポリイミド樹脂を付着させた。
【0110】
<コイルの評価>
前記実施例1のコイルにおける第1引出線と第2引出線との間に、高周波交流電源と抵抗を設置し、10Hzから100,000Hzまで周波数を連続的に変化させながら実効値10Aの電流を流した。この時のコイル温度を熱電対で測定したところ、最大100℃まで温度が上昇した。また、高周波電流を流したことによるコイルの伸縮の影響で金属多孔質構造体20から絶縁体30が剥離することはなかった。
【0111】
[比較例1]
孔が開いていない銅箔を用意し、図8と同様な形状となるように加工し銅箔構造体を得た。該銅箔構造体は、外側の直径が約30mm、内側の直径が約18mm、厚さは約420μmであった。また、該銅箔構造体は、突出した導通端子部を有し、該導通端子部の直径は約5mm、厚さは約200μmであった。また、得られた銅箔構造体は、銅箔が連続していない不連続部を有し、該不連続部の間隙は約1mmであった。
このような銅箔構造体を14個作製した。
【0112】
次に、前記実施例1において、金属多孔質構造体20の代わりに上記銅箔構造体を用いて<絶縁体30の作製>及び<コイルの作製>を実施して比較例1のコイルを得た。
次に、上記比較例1のコイルにおける露出された導通端子部に第1引出線及び第2引出線を接続した。
次に、上記比較例1のコイルにおける第1引出線及び第2引出線を除いたコイル本体表面全体にポリイミド樹脂を付着させた。
【0113】
<コイルの評価>
前記比較例1のコイルにおける第1引出線と第2引出線との間に、高周波交流電源と抵抗を設置し、10Hzから100,000Hzまで周波数を連続的に変化させながら実効値10Aの電流を流した。この時のコイル温度を熱電対で測定したところ、最大200℃まで温度が上昇した。また、高周波電流を流したことによるコイルの伸縮の影響で金属多孔質構造体20から絶縁体30が一部剥離してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のコイルによれば、導電性部材を金属多孔質構造体にすることで放熱性を向上させ、かつ表皮効果によって高周波大電流を流しやすくすることで金属多孔質構造体の温度上昇を抑えて、エネルギー損失を低減することができるとともに、高周波電流を流した際の伸縮による金属多孔質構造体と絶縁体の剥離を抑制することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 コイル
10 導電性部材
20 金属多孔質構造体
30 絶縁体
40 個片
50 導通端子部
60 第1引出線
70 第2引出線
80 接着剤層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8