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特開2024-108641充電制御装置、蓄電システム及び充電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108641
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】充電制御装置、蓄電システム及び充電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240805BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240805BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H02J7/00 B
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013102
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】藤野 健
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503DA04
5G503EA05
5G503EA08
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA02
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB01
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】放電容量の低下を抑制しつつ、電池を急速充電することができる充電制御装置、蓄電システム及び充電方法を提供すること。
【解決手段】現在の電池のSOC値であるSOC現状値と、外部電源によって電池に対して前回急速充電を開始したときの前記電池のSOCの値である急速充電開始SOC値とを比較して、前記SOC現状値が前記急速充電開始SOC値以下である場合は、第一充電条件を設定する充電条件設定部と、前記電池を前記充電条件設定部で設定された充電条件に基づいて充電する充電制御部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在の電池のSOC値であるSOC現状値と、外部電源によって電池に対して前回急速充電を開始したときの前記電池のSOCの値である急速充電開始SOC値とを比較して、前記SOC現状値が前記急速充電開始SOC値以下である場合は、第一充電条件を設定する充電条件設定部と、
前記電池を前記充電条件設定部で設定された充電条件に基づいて充電する充電制御部と、を有する、充電制御装置。
【請求項2】
前記充電条件設定部は、前記SOC現状値が前記急速充電開始SOC値よりも高い場合は、急速充電時の充電電流値が前記第一充電条件よりも低い第二充電条件を設定する、請求項1に記載の充電制御装置。
【請求項3】
前記充電条件設定部は、SOC現状値が前記急速充電開始SOC値以下となったとき、前記急速充電開始SOC値をリセットし、前記第一充電条件を設定する、請求項1に記載の充電制御装置。
【請求項4】
電池と、前記電池のSOCの値を取得するSOC取得部と、前記電池の充電制御装置と、を含み、
前記充電制御装置が請求項1~3のいずれか1項に記載の充電制御装置である、蓄電システム。
【請求項5】
前記電池が、充電によって金属リチウムが析出する負極を有するリチウム二次電池である、請求項4に記載の蓄電システム。
【請求項6】
現在の電池のSOC値であるSOC現状値と、外部電源によって前記電池に対して前回急速充電を開始したときの前記電池のSOC値である急速充電開始SOC値とを比較する比較工程と、
前記SOC現状値が前記急速充電開始SOC値以下である場合は、第一充電条件を設定し、前記急速充電開始SOC値が前記SOC現状値よりも大きい場合は、急速充電時の充電電流値が前記第一充電条件よりも低い第二充電条件を設定する充電条件設定工程と、
前記電池を前記充電条件設定工程で設定された充電条件に基づいて充電する充電工程と、を有する、充電方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電制御装置、蓄電システム及び充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池の充電制御装置に関する研究開発が行われている。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池の充電制御装置では、充電停止後に溶解が見込まれるリチウムが負極に析出することを許容するように、充電電流を制御することが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7073837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電池の充電制御装置に関する技術においては、充電時間の短時間化が課題である。しかしながら、電池に対して大電流の充電を行うと電池の放電容量を低下させる要因となることがある。特に、充電対象の電池が負極活物質として金属リチウムを用いたリチウム二次電池である場合、急速充電を行うと負極に多孔性で密度が低いリチウム層が形成されやすくなる。充電によって形成するリチウム層が低密度であると、充電時の負極の厚さが厚くなり、リチウム二次電池全体の厚さが厚くなるおそれがある。また、この低密度リチウム層が形成された状態で急速充電を加えると析出する金属リチウムはさらに低密度化するようになる。これにより、金属リチウムは電解質とより反応しやすくなり、活性な金属リチウムが減少して、放電に寄与しなくなる。
【0006】
本願は上記課題の解決のため、放電容量の低下を抑制しつつ、電池を急速充電することができる充電制御装置、蓄電システム及び充電方法を提供することを目的としたものである。そして、延いては電池の利用エネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、充電対象の電池のSOC(充電状態)値であるのSOC現状値と、外部電源によって電池に対して前回急速充電を開始したときの電池のSOC値である急速充電開始SOC値とを基準として、その電池に対して適切な充電許可電流値または充電許可電力値の設定を行うことにより、上記課題を解決することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、次の構成の充電制御装置、蓄電システム及び充電方法を提供する。
【0008】
(1)現在の電池のSOC値であるSOC現状値と、外部電源によって前記電池に対して前回急速充電を開始したときの前記電池のSOC値である急速充電開始SOC値とを比較して、前記SOC現状値が前記急速充電開始SOC値以下である場合は、第一充電条件を設定する充電条件設定部と、前記電池を前記充電条件設定部で設定された充電条件に基づいて充電する充電制御部と、を有する、充電制御装置。
【0009】
(1)の充電制御装置によれば、電池のSOC現状値と記録された急速充電開始SOC値を比較し、SOC現状値が急速充電開始SOC値以下である場合は、電池を第一充電条件に基づいて急速充電する。
【0010】
(2)前記充電条件設定部は、前記SOC現状値が前記急速充電開始SOC値よりも高い場合は、急速充電時の充電電流値が前記第一充電条件よりも低い第二充電条件を設定する、(1)に記載の充電制御装置。
【0011】
(2)の充電制御装置によれば、SOC現状値が急速充電開始SOC値よりも大きい場合は、第一充電条件よりも充電速度を減少させた第二充電条件で充電するので、放電容量の低下を抑制することができる。
【0012】
(3)前記充電条件設定部は、SOC現状値が前記急速充電開始SOC値以下となったとき、前記急速充電開始SOC値をリセットし、前記第一充電条件を設定する、(1)に記載の充電制御装置。
【0013】
(3)の充電制御装置によれば、SOC現状値が急速充電開始SOC値以下となったとき、急速充電開始SOC値がリセットされ、第一充電条件に基づいて電池が充電されるので、より確実に急速充電を行うことができる。
【0014】
(4)電池と、前記電池のSOCの値を取得するSOC取得部と、前記電池の充電制御装置と、を含み、前記充電制御装置が(1)~(3)のいずれか1つに記載の充電制御装置である、蓄電システム。
【0015】
(4)の蓄電システムによれば、充電制御装置が上述の(1)~(3)のいずれかに記載の充電制御装置であるので、放電容量の低下を抑制しつつ、電池を急速充電することができる。
【0016】
(5)前記電池が、充電によって金属リチウムが析出する負極を有するリチウム二次電池である、(4)に記載の蓄電システム。
【0017】
(5)の蓄電システムによれば、電池が、充電によって金属リチウムが析出する負極を有するリチウム二次電池であるので、電池の体積当たりの容量が大きい。
【0018】
(6)現在の電池のSOC値であるSOC現状値と、外部電源によって前記電池に対して前回急速充電を開始したときの前記電池のSOC値である急速充電開始SOC値とを比較する比較工程と、前記SOC現状値が前記急速充電開始SOC値以下である場合は、第一充電条件を設定し、前記急速充電開始SOC値が前記SOC現状値よりも大きい場合は、急速充電時の充電電流値が前記第一充電条件よりも低い第二充電条件を設定する充電条件設定工程と、前記電池を前記充電条件設定工程で設定された充電条件に基づいて充電する充電工程と、を有する、充電方法。
【0019】
(6)の充電方法によれば、SOC現状値が急速充電開始SOC値以下である場合は、急速充電を行うことを含む第一充電条件に基づいて電池を充電し、急速充電開始SOC値がSOC現状値よりも大きい場合は、第一充電条件よりも充電電流値が低い第二充電条件に基づいて電池を充電するので、放電容量の低下を抑制しつつ、電池を急速充電することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放電容量の低下を抑制しつつ、電池を急速充電することができる充電制御装置、蓄電システム及び充電方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る蓄電システムを示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る充電方法を示すフロー図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る充電方法に従って充電されたリチウム二次電池の負極の状態を示す模式断面図である。
図3B】従来の充電方法に従って充電されたリチウム二次電池の負極の状態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明を例示するものであって、本発明は以下に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態の蓄電システム1は、図1に示すように、電池10と、電池10に接続するSOC取得部15と、SOC取得部15に接続する充電制御装置20とを含む。充電制御装置20は外部電源5に接続される。充電制御装置20は、外部電源5から供給される電力により、電池10を充電する。
【0024】
電池10は、例えば、リチウム二次電池である。リチウム二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に配置されたセパレータ及び電解液を有する。電解液及びセパレータに代えて固体電解質を用いてもよい。
【0025】
正極は、正極集電体層と正極活物質層とを含む。正極集電体層の材料としては、例えばアルミニウムを用いることができる。正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質の例としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、LiNiMnCo(p+q+r=1)、LiNiAlCo(p+q+r=1)、マンガン酸リチウム(LiMn)、Li1+xMn2-x-y(x+y=2、M=Al、Mg、Co、Fe、Ni及びZnから選ばれる少なくとも1種)で表される異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム(Li及びTiを含む酸化物)、リン酸金属リチウム(LiMPO、M=Fe、Mn、Co、及びNiから選ばれる少なくとも1種)等が挙げられる。正極活物質層は、バインダー及び導電助剤など正極活物質層の材料として用いられている各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0026】
負極は、負極集電体層と負極活物質層とを含む。負極集電体層の材料としては、例えば銅を用いることができる。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質としてリチウム又はリチウムと合金を形成する金属を用いることができる。リチウムと合金を形成する金属の例としては、Mg、Si、Au、Ag、In、Ge、Sn、Pb、Al及びZn等が挙げられる。また、負極活物質として炭素質材料を含むことができる。炭素質材料の例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン及びソフトカーボンが挙げられる。
【0027】
電解液は、有機溶媒と電解質とを含む。有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エーテル、鎖状エーテル、ハイドロフルオロエーテル、芳香族エーテル、スルホン、環状エステル、鎖状カルボン酸エステル、ニトリルを用いることができる。環状カーボネートの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートの例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネート等が挙げられる。環状エーテルの例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル1,3-ジオキソラン等が挙げられる。鎖状エーテルの例としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエチルエーテル等が挙げられる。ハイドロフルオロエーテルの例としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタン等が挙げられる。芳香族エーテルの例としては、アニソールが挙げられる。スルホンの例としては、スルホラン、メチルスルホラン等が挙げられる。環状エステルの例としては、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルの例としては、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等が挙げられる。ニトリルの例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル等が挙げられる。有機溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
電解質は、電荷移動媒体であるリチウムイオンの供給源であり、リチウム塩を含む。リチウム塩の例としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO(LiTFSI)、LiN(FSO(LiFSI)、及びLiBC等が挙げられる。リチウム塩は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
固体電解質としては、例えば硫化物系固体電解質を用いることができる。硫化物系固体電解質の例としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P2S5-Li2O-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)等を挙げることができる。
【0030】
セパレータを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、アラミド、ポリイミド、フッ素樹脂、グラスファイバー、セルロースファイバー等が挙げられる。
【0031】
SOC取得部15は、現在の電池10のSOC現状値を取得する。SOC現状値の算出方法は特に制限はなく、例えば電池10の開回路電圧(OCV)を測定し、この結果を用いてさらに得られたOCV値とSOC-OCV曲線とからSOCを推定する方法を用いることができる。SOC取得部15は、電池10の充電開始前及び充電時のSOC現状値を取得するようにされていてもよい。また、SOC取得部15は、電池10の放電時のSOC現状値を連続的もしくは間欠的に取得するようにされていてもよい。さらに、OCV値と電流値を積算して計算される電力量を組み合わせてSOC現状値を算出するようにされていてもよい。
【0032】
充電制御装置20は、充電条件設定部21と、充電制御部22と、を有する。本実施形態の充電制御装置20は、例えばBMU(Battery Management Unit)に組み込まれている。
【0033】
充電条件設定部21は、急速充電開始SOC値を記憶しており、また電池10の劣化状態に応じた複数の急速充電条件が記憶されている。さらに充電条件設定部21は、急速充電終了SOC値あるいは急速充電区間を記憶していてもよい。急速充電開始SOC値は、外部電源5によって電池10を前回急速充電したときの電池10のSOC現状値の下限値であり、急速充電を開始した時点のSOC現状値である。急速充電終了SOC値は、外部電源5によって電池10を前回急速充電したときの電池10のSOC現状値の上限値であり、急速充電を終了した時点のSOC現状値である。急速充電区間は、外部電源5によって電池10を前回急速充電したときの電池10のSOC値の範囲であり、急速充電終了SOC値から急速充電開始SOC値を差し引いた値である。急速充電条件は、例えば電池10を外部電源5によって急速充電する際の温度とSOC値において電池10が受け入れられる条件である。急速充電条件は、充電電流値または電力値の制限値のテーブルや制限値の算出式であってもよい。充電条件設定部21は、充電開始前の電池10のSOC現状値が急速充電開始SOC値以下である場合に用いる第一充電条件と、充電開始前の電池10のSOC現状値が急速充電開始SOC値よりも大きい場合に用いる第二充電条件の二種以上を記憶していることが好ましい。第一充電条件は、例えば充電条件設定部21に記憶された急速充電条件の中で最も充電電流値が高い条件である。第二充電条件は、第一充電条件よりも急速充電時の充電電流値が低い条件である。第一充電条件及び第二充電条件で設定される条件は、例えば急速充電を行うSOCの区間と、そのSOC区間での充電電流値とであってもよい。急速充電を行うSOC区間は、特に制限されるものではないが、例えば10%以上90%未満の範囲内にあり、好ましくは15%以上75%未満の範囲内である。SOC区間及び充電電流値は、外部電源5の規格や電池10の容量や電池10の種類により設定値を調整する。充電電流値は、例えば外部電源5の最大電流値以下であり、かつ電池10の発熱量や耐久性を考慮して設定することができる。第二充電条件では、例えば前回の急速充電区間によって充電電流値を調整してもよい。この場合、第二充電条件の充電電流値は、前回の急速充電区間が短いほど、第一充電条件との差が小さくなるように設定される。急速充電は、外部電源5から直流充電コネクタを介して直流による充電を指し、例えばcombo(コンボ)、CHAdeMO(チャデモ)などの規格を用いて行うことができる。
【0034】
充電制御部22は、電池10を外部電源5によって充電する際の電流又は電力を制御する。
充電制御部22が第一充電条件に基づいて電池10を充電するとき、充電条件設定部21は、急速充電を開始した時点のSOC現状値を新たな急速充電開始SOC値として記憶し、SOC現状値が急速充電終了SOC値に達したときに、急速充電開始SOC値を書き換えることが好ましい。また、SOC現状値が急速充電開始SOC値以下となった場合、充電条件設定部21に記憶されている急速充電開始SOC値をリセットしてもよい。急速充電開始SOC値をリセットしたときは、充電条件設定部21は、リセット後に第一充電条件に基づいて電池10を急速充電したときの急速充電開始SOC値を取得して記憶することが好ましい。
【0035】
次に、充電制御装置20を用いた電池10の充電方法を、図2を参照して説明する。
まず、充電制御装置20は、急速充電要求ありと判断すると、急速充電履歴を参照する(第1工程S1)。次いで、前回は急速充電したかを判断する(第2工程S2)。第2工程S2において、前回は急速充電した(YES)と判断された場合は第3工程S3に進む。第3工程S3は、SOC現状値と急速充電開始SOC値とを比較する工程(比較工程)である。SOC現状値が急速充電開始SOC値以下である場合、前回の急速充電区間は放電が終わっていると判断する。第3工程S3において、前回の急速充電区間は放電が終わっていると判断された場合(YES)は、第4工程S4に進む。また、第2工程S2において、前回は急速充電していないと判断された場合(NO)も第4工程S4に進む。第4工程S4は、第一充電電流制御マップを参照して第一充電条件を設定する工程である(充電条件設定工程)。
【0036】
第3工程S3において、前回の急速充電区間は放電が終わっていない、即ちSOC現状値が急速充電開始SOC値よりも大きいと判断された場合(NO)は、第5工程S5に進む。第5工程S5は、第二充電電流制御マップを参照して第二充電条件を設定する工程である(充電条件設定工程)。第4工程又は第5工程で充電条件が設定されると、第6工程S6に進む。
【0037】
第6工程S6は第4工程又は第5工程で設定された充電条件に基づいて充電する工程(充電工程)である。
次いで、第7工程S7において、急速充電区間(急速充電開始SOC値と急速充電終了SOC値)をBMUに転送し、BMUに組み込まれた充電条件設定部21に保存する。
【0038】
本実施形態の充電方法を、具体例を挙げて説明する。
本実施形態で用いた第一充電条件及び第二充電条件の電流制御マップで設定されている条件を下記の表に示す。なお、電流制御マップは、充電条件設定部21に記録されている。
【0039】
【表1】
【0040】
上記の表に示すように、電流制御マップは、電池10のSOC区間ごとにDC(直流)充電時の許可充電電流値が設定された電流制限マップとされている。この電流制限マップでは、SOC値が15%以上75%未満の区間は急速充電を行う区間とされている。SOCが15%未満の区間は許可充電電流値が150Aの普通充電を行う区間とされ、SOCが75%以上の区間は許可充電電流値が125Aの普通充電を行う区間とされている。許可充電電流値は、外部電源5が電池10に対して供給することが許可された電流の上限値である。第一充電条件は、各SOC区間を参照して、許可充電電流値が切り替わるように設定されている。また、第二充電条件は、前回の充電でDC充電が急速充電と判定された場合、各SOC区間と前回の急速充電区間(前回の充電で急速充電を行ったときの急速充電終了SOC値-急速充電開始SOC値)の二つを参照して、許可充電電流値が切り替わるように設定されている。前回の急速充電区間は、△10%、△20%、△30%、△40%、△50%とされている。なお、電流制限マップのSOC区間、充電電流値及び前回の急速充電区間の数値は、上記の表に記載されている値に限定されるものではない。
【0041】
(1)前回の充電において、電池10のSOC値が15%から75%となるまで急速充電を行った後SOC値が75%から100%となるまで普通充電を行い(前回の急速充電区間△60%)、その後、放電してSOC値が10%の状態となり、この状態からSOC値が100%となるまで充電する場合
放電後のSOC値が10%であり、前回の急速充電区間は放電が終わっているので、第3工程S3の判断はYESとなる。このため、急速充電は、第一充電条件で行う。具体的は、SOC値が10%から15%となるまでは普通充電を行い、SOC値が15%以上となった段階で、上記の許可充電電流値以下の充電電流値で急速充電を行う。そして、SOC値が75%となった段階で普通充電を行う。充電終了後、前回の急速充電区間を△60%(急速充電開始SOC値15%、急速充電終了SOC値75%)として、充電条件設定部21に保存する。
【0042】
(2)前回の充電において、電池10のSOC値が15%から55%となるまで急速充電を行い(前回の急速充電区間△40%)、その後、放電してSOC値が10%の状態となり、この状態からSOC値が100%となるまで充電する場合
放電後のSOC値が10%となるまで放電されているので、上記(1)と同様に、第3工程S3の判断はYESとなる。このため、急速充電は、第一充電条件で行う。具体的は、SOC値が10%から15%となるまでは普通充電を行い、SOC値が15%以上となった段階で、上記の許可充電電流値以下の充電電流値で急速充電を行い、SOC値が75%となった段階で普通を行う。充電終了後、急速充電区間を△60%(急速充電開始SOC値15%、急速充電終了SOC値75%)として、充電条件設定部21に保存する。
【0043】
(3)前回の充電において、電池10のSOC値が15%から55%まで急速充電を行い(前回の急速充電区間△40%)、その後、放電してSOC値が30%の状態となり、この状態からSOC値が100%まで充電する場合
放電後のSOC値が30%であり、前回の急速充電区間は放電が終わっていないので、第3工程S3の判断はNOとなる。このため、急速充電は第二充電条件で行う。具体的には、SOC値が30%から75%となるまでは、前回の急速充電区間が△40%の第二充電条件で設置された許可充電電流値以下の充電電流値で急速充電を行い、SOC値が75%となった段階で普通充電を行う。充電終了後、急速充電区間を△45%(急速充電開始SOC値30%で、急速充電終了SOC値75%)として、充電条件設定部21に保存する。
【0044】
次に、本実施形態の充電方法を用いて充電した電池(リチウム二次電池)10の負極の状態を、図3Aを用いて説明する。なお、図3Aにおいて、負極11は、集電体として銅箔12と、銅箔12の表面に積層されたリチウム箔13とを含む積層体とされている。
【0045】
図3Aの(a)は、電池をSOCが0~15%では普通充電し、SOCが15%となった時点で第一充電条件に基づいて急速充電を開始する条件でSOC55%まで充電したときの負極11の模式断面図である。この条件では、急速充電開始SOC値は15%となる。この場合、電池10を普通充電した範囲(0%≦SOC<15%)では、リチウム箔13の上に孔の混入が少ない高密度リチウム層14aが形成される。電池10を第一充電条件で急速充電した範囲(15%≦SOC≦55%)では、析出するリチウムの析出速度が速くなるため、微細な空孔が混入しやすくなる。こうして、高密度リチウム層14aと比較して、内部に微細な空孔が混入し、リチウム密度が疎な中密度リチウム層14bが形成される。
【0046】
図3Aの(b)は、(a)の電池を放電してSOC値が10%の状態となったときの負極11の模式断面図である。図3Aの(b)に示すように、SOC値が急速充電開始SOC値以下となるまで放電することによって負極11の中密度リチウム層14bが消失する。図3の(c)は、(b)の電池を、SOC値が10%から15%となるまでは普通充電を行い、SOC値が15%以上となった段階で、第一充電条件に基づいて急速充電を行い、SOC値が75%となった段階で普通充電を行ったときの負極11の模式断面図である。図3Aの(c)に示すように、SOC値が15%までは普通充電で充電とされているので、高密度リチウム層14aが形成される。そして、SOC値が15%~75%は第一充電条件で、75%以上は普通充電で充電されているので、中密度リチウム層14bが形成される。本実施形態の充電方法では、急速充電によって中密度リチウム層14bが形成されるので、電池10を急速充電しても放電容量の低下が起こりにくい。
【0047】
これに対して、電池10の急速充電開始SOC値を考慮しない従来の充電方法では、電池10に対して急速充電を行うと電池の放電容量を低下させることがある。
図3Bの(a)は、電池をSOCが0~15%は普通充電し、SOCが15%となった時点で第一充電条件に基づいて急速充電を開始する条件でSOC55%まで充電したときの負極11の模式断面図であり、図3Aの(a)と同じである。図3Bの(b)は、(a)の電池を放電してSOC値が30%の状態となったときの負極11の模式断面図である。図3Aの(b)に示すように、SOC値が急速充電開始SOC値以上である場合は、負極11に中密度リチウム層14bが残存している。従来の充電方法では、SOC現状値が電池10の急速充電開始SOC値よりも大きい状態で急速充電を行うことがある。図3Bの(c)は、(b)の電池を、SOC値が第一充電条件に基づいて急速充電を行い、SOC値が75%となった段階で普通充電を行ったときの負極11の模式断面図である。図3Bの(c)に示すように、放電によって残存した中密度リチウム層14bの上には、低密度リチウム層14cが形成されている。中密度リチウム層14bに混入している微細な空孔の上にはリチウムは析出しない。このため、中密度リチウム層14bの上には、中密度リチウム層14bと比較して、内部に微細な空孔がより多く形成された多孔性で、リチウム密度が疎な低密度リチウム層14cが形成される。
【0048】
本実施形態の充電方法では、電池10のSOC現状値が電池10の急速充電開始SOC値よりも大きい場合、即ち中密度リチウム層14bが残存している状態では、第一充電条件よりも充電電流値が低い第二充電条件に基づいて電池10を充電する。このため、中密度リチウム層14bの上に低密度リチウム層14cが形成しにくくできる。
【0049】
以上のような構成とされた本実施形態の充電制御装置20及び蓄電システム1によれば、電池10のSOC現状値が急速充電開始SOC値以下である場合は、第一充電条件に基づいて電池10を充電するので、電池10を急速充電しても放電容量の低下を抑制することができる。また、SOC現状値が急速充電開始SOC値よりも大きい場合は、第一充電条件よりも充電電流値が低い第二充電条件に基づいて電池10を充電することによって、充電の電流値を低くするので、放電容量の低下を抑制することができる。このため、電池10の寿命が長くなる。特に、前回の充電で急速充電を行ったSOCの区間である前回の急速充電区間ごとに、第二充電条件の充電条件が設定されている場合は、より充電の電流値を低くするので、電池10の寿命がより長くなる。本実施形態の充電制御装置20及び蓄電システム1は、電池10が、充電によって金属リチウムが析出する負極を有するリチウム二次電池である場合に有効である。
【0050】
さらに、充電制御装置20及び蓄電システム1によれば、充電制御部22が充電条件設定部21の急速充電開始SOC値を第一充電条件に基づいて電池10を充電したときのSOCの下限値に書き換えることによって、急速充電開始SOC値の精度を向上させることができる。またさらに、SOC現状値が急速充電開始SOC値以下となったとき、充電条件設定部21に記憶されている急速充電開始SOC値をリセットし、第一充電条件に基づいて電池が充電することによって、より確実に急速充電を行うことができる。
【0051】
また、本実施形態の充電方法によれば、SOC現状値が急速充電開始SOC値以下である場合は、急速充電を行うことを含む第一充電条件に基づいて電池を充電し、急速充電開始SOC値がSOC現状値よりも大きい場合は、急速充電を行うことを含まない第二充電条件に基づいて電池を充電するので、放電容量の低下を抑制しつつ、電池を急速充電することができる。
【0052】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
上記実施形態の充電制御装置20において、充電条件設定部21は、急速充電開始SOC値と充電条件を取得して記憶するが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、急速充電開始SOC値と充電条件とを情報端末に記憶させ、充電条件設定部21は、充電時に、情報端末から急速充電開始SOC値と充電条件を取得する充電条件取得部であってもよい。情報端末としては、例えば、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータを用いることができる。
【0053】
本実施形態の充電制御装置20及びこの充電制御装置20を有する蓄電システム1は、例えば電気自動車、電気二輪車などの電動式車両のモータの電源用として利用することができる。なお、本実施形態では、充電制御装置20は、自動車のBMUに組み込まれているが、充電制御装置20は、自動車のBMUに組み込まれていなくてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 蓄電システム
5 外部電源
10 電池
11 負極
12 銅箔
13 リチウム箔
14a 高密度リチウム層
14b 中密度リチウム層
14c 低密度リチウム層
15 SOC取得部
20 充電制御装置
21 充電条件設定部
22 充電制御部
図1
図2
図3A
図3B