(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108647
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013113
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 侑大
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG06
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】高調波成分を適切に除去し、安定したモータ制御を実現すること。
【解決手段】本発明の一形態に係るモータ制御装置は、電流検出部、電流変換部、回転数検出部、第1フィルタ部、重畳成分除去部、及び制御部を備える。電流検出部は、モータに流れる3相電流を検出する。電流変換部は、3相電流を回転座標系の2相電流に変換する。回転数検出部は、2相電流に基づいてモータの回転数を検出する。第1フィルタ部は、モータの回転数の検出結果に基づいて2相電流からモータの回転数に応じた高調波成分を除去した第1フィルタ電流を生成する。重畳成分除去部は、第1フィルタ部における高調波成分を除去する処理により第1フィルタ電流にオフセット成分として重畳された重畳成分を第1フィルタ電流から除去した高調波除去電流を生成する。制御部は、高調波除去電流に基づいてモータの制御指令値を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに流れる3相電流を検出する電流検出部と、
前記3相電流を回転座標系の2相電流に変換する電流変換部と、
前記2相電流に基づいて前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、
前記モータの回転数の検出結果に基づいて前記2相電流から前記モータの回転数に応じた高調波成分を除去した第1フィルタ電流を生成し、前記第1フィルタ電流を出力する第1フィルタ部と、
前記第1フィルタ部における前記高調波成分を除去する処理により前記第1フィルタ電流にオフセット成分として重畳された重畳成分を前記第1フィルタ電流から除去した高調波除去電流を生成し、前記高調波除去電流を出力する重畳成分除去部と、
前記高調波除去電流に基づいて前記モータの制御指令値を生成する制御部と
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記重畳成分除去部は、
前記2相電流から前記重畳成分が重畳される前のオフセット成分である重畳前オフセット成分を抽出した第2フィルタ電流を生成し、前記第2フィルタ電流を出力する第2フィルタ部と、
前記第1フィルタ電流から前記重畳前オフセット成分に前記重畳成分が重畳された重畳後オフセット成分を除去した第3フィルタ電流を生成し、前記第3フィルタ電流を出力する第3フィルタ部と、
前記第2フィルタ電流と前記第3フィルタ電流とを加算し、当該加算結果を前記高調波除去電流として出力する加算器と
を有する
モータ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ制御装置であって、
第3フィルタ部のカットオフ周波数は、前記2相電流の周波数成分のうち前記モータの負荷の脈動に応じた周波数成分である負荷脈動成分の周波数に基づいて決定される
モータ制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載のモータ制御装置であって、
前記第2フィルタ部における入力に対する出力の割合を前記第2フィルタ部の倍率とし、前記第3フィルタ部における入力に対する出力の割合を前記第3フィルタ部の倍率として、前記第2フィルタ部の倍率と前記第3フィルタ部の倍率との和は、1以下である
モータ制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載のモータ制御装置であって、
前記第3フィルタ部は、一次フィルタであり、
前記第3フィルタ部のカットオフ周波数は、前記負荷脈動成分の周波数の1/10以下の周波数である
モータ制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載のモータ制御装置であって、
前記第2フィルタ部および前記第3フィルタ部は、一次フィルタであり、
前記第2フィルタ部のカットオフ周波数は、前記負荷脈動成分の周波数の1/10以下、かつ、前記第3フィルタ部のカットオフ周波数の1/10以上の周波数である
モータ制御装置。
【請求項7】
請求項2から6のうちいずれか1項に記載のモータ制御装置であって、
前記第1フィルタ部は、ノッチフィルタであり、
前記第2フィルタ部は、ローパスフィルタであり、
前記第3フィルタ部は、ハイパスフィルタである
モータ制御装置。
【請求項8】
モータに流れる3相電流を検出する工程と、
前記3相電流を回転座標系の2相電流に変換する工程と、
前記2相電流に基づいて前記モータの回転数を検出する工程と、
前記モータの回転数の検出結果に基づいて前記2相電流から前記モータの回転数に応じた高調波成分を除去した第1フィルタ電流を生成し、前記第1フィルタ電流を出力する工程と、
前記高調波成分を除去する処理により前記第1フィルタ電流にオフセット成分として重畳された重畳成分を前記第1フィルタ電流から除去した高調波除去電流を生成し、前記高調波除去電流を出力する工程と、
前記高調波除去電流に基づいて前記モータの制御指令値を生成する工程と
を備えるモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御を行うモータ制御装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに流れる3相電流を検出し、3相電流をd軸電流及びq軸電流からなる回転座標系の2相電流に変換し、この2相電流に基づいてモータの制御を行う方法が知られている。このとき、2相電流には、モータの回転速度、すなわちモータの回転数に応じて周波数が変化する高調波成分が含まれることがあり、このような高調波成分を除去する技術が開発されている。
【0003】
特許文献1には、モータに流れる3相交流電流を変換した2相交流電流から、ノッチフィルタを用いて高調波成分を除去するモータ制御装置について記載されている。この装置では、モータの回転数に基づいてノッチフィルタの阻止帯域を変化させることで、2相交流電流からモータの回転数に応じた高調波成分が除去される。また、高調波成分が除去された2相交流電流は、モータの制御に用いられる。これにより、モータ制御の安定化を図ることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、モータの回転数に応じた高調波成分を除去するためには、ノッチフィルタのノッチ周波数を、モータの回転数に応じて変化させる必要がある。この場合、モータの回転数が脈動すると、ノッチフィルタのノッチ周波数も脈動することになる。
ところで、モータの回転数が脈動するのは、例えばモータのトルクがモータの構造に起因するコギングトルク等により脈動する場合である。この場合、モータのトルクが脈動することで2相電流も脈動する。従ってこのような状況では、ノッチフィルタの入力である2相電流とノッチフィルタのノッチ周波数とが同様に脈動することが考えられる。
【0006】
本発明者は、ノッチフィルタの入力である2相電流とノッチフィルタのノッチ周波数との両方に脈動がある場合、ノッチフィルタの出力のオフセット成分が変化する点を見出した。このようにオフセット成分が変化することで、適切なフィードバック制御が出来なくなり、モータの動作が不安定になる可能性がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高調波成分を適切に除去し、安定したモータ制御を実現することが可能なモータ制御装置及びモータ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るモータ制御装置は、電流検出部と、電流変換部と、回転数検出部と、第1フィルタ部と、重畳成分除去部と、制御部とを備える。
前記電流検出部は、モータに流れる3相電流を検出する。
前記電流変換部は、前記3相電流を回転座標系の2相電流に変換する。
前記回転数検出部は、前記2相電流に基づいて前記モータの回転数を検出する。
前記第1フィルタ部は、前記モータの回転数の検出結果に基づいて前記2相電流から前記モータの回転数に応じた高調波成分を除去した第1フィルタ電流を生成し、前記第1フィルタ電流を出力する。
前記重畳成分除去部は、前記第1フィルタ部における前記高調波成分を除去する処理により前記第1フィルタ電流にオフセット成分として重畳された重畳成分を前記第1フィルタ電流から除去した高調波除去電流を生成し、前記高調波除去電流を出力する。
前記制御部は、前記高調波除去電流に基づいて前記モータの制御指令値を生成する。
【0009】
このモータ制御装置では、第1フィルタ部により、3相電流を変換した2相電流からモータの回転数に応じた高調波成分が除去され、第1フィルタ電流が出力される。このとき、第1フィルタ電流にはオフセット成分として重畳成分が重畳される。従って第1フィルタ電流は、高調波成分が除去されているものの、そのオフセット成分が実際の値とは異なる電流となる。このため、重畳成分除去部により、第1フィルタ電流から重畳成分が除去され本来のオフセット成分をもつ高調波除去電流が出力される。そして高調波除去電流を用いてモータが制御される。これにより、高調波成分を適切に除去し、安定したモータ制御を実現することが可能となる。
【0010】
前記重畳成分除去部は、前記2相電流から前記重畳成分が重畳される前のオフセット成分である重畳前オフセット成分を抽出した第2フィルタ電流を生成し、前記第2フィルタ電流を出力する第2フィルタ部と、前記第1フィルタ電流から前記重畳前オフセット成分に前記重畳成分が重畳された重畳後オフセット成分を除去した第3フィルタ電流を生成し、前記第3フィルタ電流を出力する第3フィルタ部と、前記第2フィルタ電流と前記第3フィルタ電流とを加算し、当該加算結果を前記高調波除去電流として出力する加算器とを有してもよい。
これにより、高調波成分を除去する際に重畳成分により変化した重畳後オフセット成分を、2相電流が持つ重畳前オフセット成分に戻すことが可能となり、本来のオフセット成分をもつ高調波除去電流を出力することが可能となる。
【0011】
第3フィルタ部のカットオフ周波数は、前記2相電流の周波数成分のうち前記モータの負荷の脈動に応じた周波数成分である負荷脈動成分の周波数に基づいて決定されてもよい。
これにより、負荷脈動成分を減衰させることのない適切なカットオフ周波数を設定することが可能となる。
【0012】
前記第2フィルタ部における入力に対する出力の割合を前記第2フィルタ部の倍率とし、前記第3フィルタ部における入力に対する出力の割合を前記第3フィルタ部の倍率として、前記第2フィルタ部の倍率と前記第3フィルタ部の倍率との和は、1以下であってもよい。
これにより、フィルタの組み合わせによりホワイトノイズ等が増大するといった事態を回避することが可能となり、モータ制御の精度を高めることが可能となる。
【0013】
前記第3フィルタ部は、一次フィルタであってもよい。この場合、前記第3フィルタ部のカットオフ周波数は、前記負荷脈動成分の周波数の1/10以下の周波数であってもよい。
これにより、演算量が少ない一次フィルタにおいて、負荷脈動成分を減衰させることのない適切なカットオフ周波数を設定することが可能となる。
【0014】
前記第2フィルタ部および前記第3フィルタ部は、一次フィルタであってもよい。この場合、前記第2フィルタ部のカットオフ周波数は、前記負荷脈動成分の周波数の1/10以下、かつ、前記第3フィルタ部のカットオフ周波数の1/10以上の周波数であってもよい。
これにより、第2フィルタ部及び第3フィルタ部の演算量を抑制しつつ、負荷脈動成分を十分に減衰し、かつ、フィルタの応答速度を確保することが可能となる。
【0015】
前記第1フィルタ部は、ノッチフィルタであってもよい。この場合、前記第2フィルタ部は、ローパスフィルタであってもよい。また、前記第3フィルタ部は、ハイパスフィルタであってもよい。
これにより、フィルタ処理部を容易に構成することが可能となる。
【0016】
本発明の一形態に係るモータ制御方法は、モータに流れる3相電流を検出する工程と、前記3相電流を回転座標系の2相電流に変換する工程と、前記2相電流に基づいて前記モータの回転数を検出する工程と、前記モータの回転数の検出結果に基づいて前記2相電流から前記モータの回転数に応じた高調波成分を除去した第1フィルタ電流を生成し、前記第1フィルタ電流を出力する工程と、前記高調波成分を除去する処理により前記第1フィルタ電流にオフセット成分として重畳された重畳成分を前記第1フィルタ電流から除去した高調波除去電流を生成し、前記高調波除去電流を出力する工程と、前記高調波除去電流に基づいて前記モータの制御指令値を生成する工程とを実行する。
【0017】
本発明によれば、高調波成分を適切に除去し、安定したモータ制御を実現することが可能なモータ制御装置及びモータ制御方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】ノッチフィルタの周波数特性を説明する模式的なグラフである。
【
図3A】ノッチ周波数が脈動するノッチフィルタの入力及び出力の一例を示すグラフである。
【
図3B】ノッチ周波数が固定されたノッチフィルタの入力及び出力の一例を示すグラフである。
【
図4】モータ制御装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】重畳成分除去部の動作例を示すフローチャートである。
【
図6】ノッチフィルタのゲインとノッチフィルタに入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
【
図7】ローパスフィルタのゲインとローパスフィルタに入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
【
図8】ハイパスフィルタのゲインとハイパスフィルタに入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
【
図9】ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの出力の加算結果を示す模式的なグラフである。
【
図10】比較例として挙げるハイパスフィルタ及びローパスフィルタの周波数特性を説明する模式的なグラフである。
【
図11A】比較例として挙げるハイパスフィルタ及びローパスフィルタの周波数特性を示すグラフである。
【
図11B】
図11Aに示すハイパスフィルタ及びローパスフィルタの倍率を加算した結果を示すグラフである。
【
図12A】本実施形態に係るハイパスフィルタ及びローパスフィルタの周波数特性を示すグラフである。
【
図12B】
図12Aに示すハイパスフィルタ及びローパスフィルタの倍率を加算した結果を示すグラフである。
【
図13】1次のハイパスフィルタの周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図14A】2次のハイパスフィルタの周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図14B】2次のハイパスフィルタの周波数特性の他の一例を示すグラフである。
【
図14C】比較例として挙げる2次のハイパスフィルタの周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図15】第2の実施形態に係るモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図16】バンドパスフィルタの周波数特性を説明する模式的なグラフである。
【
図17】通過周波数が脈動するバンドパスフィルタを含む高調波除去部の入力及び出力の一例を示すグラフである。
【
図18】バンドパスフィルタのゲインとバンドパスフィルタに入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
【
図19】バンドパスフィルタから出力される電流の周波数成分を示す模式的なグラフである。
【
図20】ハイパスフィルタのゲインとハイパスフィルタに入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
<第1の実施形態>
[モータ制御装置の構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。モータ制御装置100は、直流電圧を3相交流電圧に変換するインバータを備えた装置である。具体的には、モータ制御装置100は、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)信号を用いたPWM制御によりインバータを制御して、モータ30に供給する電力を制御する。
図1に示す例では、モータ30に接続されるIPM35がインバータに相当する。
【0021】
モータ30は、3相交流電圧により駆動される3相交流モータである。モータ30は、回転軸を中心に回転する回転子と、回転子を支持する固定子とを有する。
モータ30の固定子には、3相の交流電圧がそれぞれ印加される3相の巻線(コイル)が設けられる。以下では、3相交流の各相をU相、V相、W相と記載する。
モータ30の回転子には、一般に複数の永久磁石がモータ30の回転軸の周りに回転対称に配置される。各永久磁石は、モータ30の回転軸にN極又はS極を交互に向けて配置される。このうち1つの永久磁石のN極の磁束の方向(N極方向が+方向)をd軸とし、d軸と直交する軸をq軸とする。
【0022】
モータ30に供給される電流や電圧を、U相、V相、及びW相の3相の成分で表す座標系(UVW座標系)は、固定座標系である。また、モータ30に供給される電流や電圧を、d軸及びq軸の2相の成分で表す座標系(dq座標系)は、回転座標系である。UVW座標系及びdq座標系は互いに座標変換が可能である。
【0023】
また、電気角で表した回転子の推定位置(U軸を基準とした推定角度)をθeと記載し、電気角で表した回転子の推定角速度をωeと記載する。推定角速度ωeは、固定座標系(UVW座標系)での角速度を表す。
また、モータ30の回転子の機械角速度をωmと記載する。機械角速度ωmは、回転子の角速度を機械角で表した角速度であり、推定角速度ωeから算出可能である。
推定角速度ωe及び機械角速度ωmの単位は、例えばラジアン/秒[rad/s]である。
【0024】
推定角速度ωe及び機械角速度ωmは、モータ30の回転数を表すパラメータである。本開示において、モータ30の回転数とは、単位時間あたりのモータ30の回転数であり、モータの回転速度のことである。モータ30の回転数の単位は、例えば1秒間あたりの回転数[rps]や、1分間あたりの回転数[rpm]である。
【0025】
モータ30は、例えば空気調和機に搭載された圧縮機を回転させるコンプレッサモータや、ファンを回転させるファンモータ等である。なお、本発明に係るモータ制御装置100は、空気調和機に搭載されるモータ30の制御以外にも、任意の用途に用いられるモータ30の制御に適用可能である。
以下では、モータ30が圧縮機に用いられる場合を例に挙げて説明する。この場合、圧縮機がモータ30の負荷である。
【0026】
モータ制御装置100は、モータ30をベクトル制御により駆動する。ベクトル制御では、モータ30の固定子に設けられた3相の巻線に流す電流を、モータ30の回転子に磁束を発生させる電流成分(d軸電流)と、回転子にトルクを発生する電流成分(q軸電流)とに分けて、それぞれの電流成分が独立に制御される。
図1に示すように、モータ制御装置100は、駆動回路31と、電流検出部32と、演算回路33とを有する。
【0027】
駆動回路31は、モータ30に対する制御指令値に基づいてモータ30を駆動するインバータ回路である。駆動回路31は、固定座標系(UVW座標系)における制御指令値(U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*)を演算回路33から受け、モータ30を駆動するための直流電圧Vdcを電源10から受ける。U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*は、ベクトル制御の制御指令値である。
【0028】
また駆動回路31は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*、及び直流電圧Vdcに基づいて、3相の交流電圧をU相、V相、W相の各相の巻線を介してモータ30へ供給することにより、モータ30を駆動する。
具体的には、駆動回路31は、PWM変調器34及びインテリジェントパワーモジュール(IPM)35を有する。
【0029】
PWM変調器34は、演算回路33から受けた制御指令値(U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*)をそれぞれPWM信号に変換してIPM35へ供給する。例えば各電圧指令値に応じたパルス幅が設定されたPWM信号が生成される。
【0030】
IPM35は、複数のスイッチング素子を有し、PWM信号をPWM変調器34から受け、PWM信号に従って複数のスイッチング素子を所定のタイミングでスイッチング動作させることで電力変換を行い、生成された3相の交流電圧をモータ30へ供給することにより、モータ30を駆動する。
【0031】
電流検出部32は、モータ30に流れる3相電流を検出する。3相電流とは、モータ30の3相の巻線に流れる電流である。以下では、U相の巻線に流れる電流をU相電流iuと記載し、V相の巻線に流れる電流をV相電流ivと記載し、W相の巻線に流れる電流をW相電流iwと記載する。
具体的には、電流検出部32は、U相電流iu、W相電流iw、V相電流ivのうち、2つの電流値を検出し、それらの電流値をもとに残りの相の電流値を算出する。
【0032】
図1に示す電流検出部32は、モータ30に流れる3相電流を単一のシャント抵抗Rを用いて検出する1シャント抵抗検出方式の回路である。なお、電流検出部32の具体的な構成は限定されない。例えばCT(Current Transformer)などの他の電流検出手段が用いられてもよい。電流検出部32の検出結果は、演算回路33に出力される。
【0033】
演算回路33は、モータ30の制御に必要な演算処理を行う回路である。演算回路33は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を搭載したコンピュータを用いて構成される。
演算回路33には、電流検出部32の検出値や、モータ30の回転数を指定する指令値等が入力される。これらの入力に基づいて、モータ30のベクトル制御を行うための制御指令値が生成される。
【0034】
演算回路33は、機能ブロックとして、UVW-dq変換器36、モータ位置検出部37、フィルタ処理部38、及び電圧指令生成部39を有する。演算回路33の各機能ブロックは、専用のIC等を用いて構成されてもよい。
【0035】
UVW-dq変換器(UVW/dq)36は、3相電流を回転座標系の2相電流に変換する。回転座標系の2相電流とは、モータ30の回転子とともに回転する回転座標系(dq座標系)で表された電流である。回転座標系の2相電流は、d軸電流Idと、q軸電流Iqである。以下では、UVW-dq変換器36から出力される回転座標系の2相電流であるd軸電流Id及びq軸電流Iqをまとめてdq軸電流と記載する場合がある。
【0036】
UVW-dq変換器36は、回転子の推定位置(電気回転角度θe)を位置推定器44から受け、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iu,iv,iw)を回転座標系(dq座標系)における電流ベクトル(Id,Iq)へ変換する。
なお、電流ベクトル(Id,Iq)における各成分は、検出された電流ベクトル(iu,iv,iw)から変換されたものなので、検出値と見做すことができる。以下の説明では、Idをd軸電流又はd軸電流値ともいい、Iqをq軸電流又はq軸電流値ともいう。
本実施形態では、UVW-dq変換器36は、電流変換部に相当する。
【0037】
モータ位置検出部37は、d軸電流Id及びq軸電流IqをUVW-dq変換器36から受け、モータ30の回転子の電気回転角度θe及び機械角速度ωmを算出する。また後述するように、モータ位置検出部37は、電気回転角度θe及び機械角速度ωmを算出するために、軸誤差Δθ及び推定角速度ωeを算出する。このうち、推定角速度ωe及び機械角速度ωmは、単位時間当たりのモータ30の回転数、すなわちモータ30の回転速度を表すパラメータである。本開示では、単位時間当たりのモータ30の回転数を指して、単にモータ30の回転数と記載する。
本実施形態では、モータ位置検出部37は、2相電流に基づいてモータの回転数を検出する回転数検出部に相当する。
図1に示すように、モータ位置検出部37は、軸誤差演算器42、PLL制御器43、位置推定器44、及び変換器45を含む。
【0038】
軸誤差演算器42は、d軸電流Id及びq軸電流IqをUVW-dq変換器36から受け、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を電圧指令生成部39から受け、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に基づいて、回転子の実際の位置と推定位置との偏差である軸誤差Δθを求め、PLL制御器43へ出力する。
【0039】
PLL制御器43は、軸誤差Δθに基づいて、直前に推定した固定座標系(UVW座標系)における推定角速度ωeを修正する。PLL制御器43は、修正された推定角速度ωeを位置推定器44及び変換器45へ出力する。PLL制御器43は、積分器及び比例器を有するPI制御器を用いて実現される。
【0040】
位置推定器44は、推定角速度ωeを積分することにより、固定座標系(UVW座標系)における回転子の推定位置として電気回転角度θeを算出し、UVW-dq変換器36及び電圧指令生成部39へそれぞれ出力する。電気回転角度θeは、モータ30の回転子(ロータ)の位相を表す量である。
【0041】
変換器45は、固定座標系(UVW座標系)における推定角速度ωeをモータ30の極対数Pnで割る(極対数の逆数1/Pnをかける)ことにより、機械角で表したロータの機械角速度ωmを求め、電圧指令生成部39及びフィルタ処理部38へ出力する。
【0042】
フィルタ処理部38は、d軸電流Id及びq軸電流Iqに対してフィルタ処理を実行し、d軸電流Id及びq軸電流Iqからモータ30の回転数に応じた高調波成分を除去する。
以下では、フィルタ処理部38から出力されるd軸電流を、フィルタ処理電流Idfと記載し、フィルタ処理部38から出力されるq軸電流を、フィルタ処理電流Iqfと記載する。またフィルタ処理電流Idf及びフィルタ処理電流Iqfを合わせて、フィルタ処理電流と記載する場合がある。
【0043】
具体的には、フィルタ処理部38は、d軸電流Id及びq軸電流IqをUVW-dq変換器36から受け、モータ30の回転数を表す機械角速度ωmを変換器45から受け、d軸のフィルタ処理電流Idfとq軸のフィルタ処理電流Iqfとを生成し、電圧指令生成部39へ出力する。
フィルタ処理部38は、高調波除去部20と、重畳成分除去部24とを有する。
【0044】
高調波除去部20は、モータ30の回転数の検出結果に基づいてdq軸電流からモータ30の回転数に応じた高調波成分を除去した第1フィルタ電流を生成し、第1フィルタ電流を出力する。
ここで、モータ30の回転数に応じた高調波成分とは、例えばモータ30の構造に起因する高調波成分である。高調波成分の周波数は、モータ30の回転数に対応する周波数(以下、回転周波数と記載する)の整数倍である。高調波成分については、
図6等を参照して後述する。
【0045】
高調波除去部20は、モータ30の回転数の検出結果である機械角速度ωmを用いて、dq軸電流であるd軸電流Id及びq軸電流Iqから、それぞれ高調波成分を除去する。以下では、d軸電流Idから高調波成分を除去した電流を、第1フィルタ電流Id1と記載し、q軸電流Iqから高調波成分を除去した電流を、第1フィルタ電流Iq1と記載する。また第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1を合わせて、第1フィルタ電流と記載する場合がある。
【0046】
本実施形態では、高調波除去部20として、ノッチフィルタ21が用いられる。ノッチフィルタ21は、入力に対して、ノッチ周波数fnを中心とする所定の周波数帯域に含まれる周波数成分の通過を阻止する帯域阻止フィルタである。ノッチフィルタ21により通過が阻止される周波数帯域は、阻止帯域となる。ノッチ周波数fnは、例えば阻止帯域において周波数成分の減衰量が最大(ゲインが最小)となる周波数である。またノッチ周波数fnは、典型的には阻止帯域の中心周波数である。
【0047】
ノッチフィルタ21では、機械角速度ωmに基づいて、少なくとも1つのノッチ周波数fnが設定される。この時、各ノッチ周波数fnは、モータ30の回転数に応じた高調波成分の周波数に設定される。これにより、ノッチフィルタ21を通過させることで、入力(d軸電流Id及びq軸電流Iq)から高調波成分を除去することが可能となる。
【0048】
図1に示すように、ノッチフィルタ21は、d軸電流Id及びq軸電流IqをUVW-dq変換器36から受け、機械角速度ωmを変換器45から受け、d軸電流Idから高調波成分を除去して第1フィルタ電流Id1を生成し、q軸電流Iqから高調波成分を除去して第1フィルタ電流Iq1を生成し、第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1を重畳成分除去部24に出力する。本実施形態では、高調波除去部20を構成するノッチフィルタ21は、第1フィルタ部として機能する。
【0049】
重畳成分除去部24は、ノッチフィルタ21における高調波成分を除去する処理により第1フィルタ電流(Id1,Iq1)にオフセット成分として重畳された重畳成分を第1フィルタ電流(Id1,Iq1)から除去したフィルタ処理電流(Idf,Iqf)を生成し、フィルタ処理電流(Idf,Iqf)を出力する。
ここで、オフセット成分とは、電流に含まれる直流成分(DC成分)であり、周波数が0となる成分である。従って重畳成分も、直流成分(DC成分)である。
【0050】
上記したように、ノッチフィルタ21により高調波成分を除去する場合、ノッチ周波数fnは、モータ30の回転数である機械角速度ωmに基づいて設定される。すなわち、モータ30の回転数(機械角速度ωm)が変化すれば、ノッチ周波数fnも変化する。このような場合、モータ30の回転数(機械角速度ωm)が脈動すると、ノッチフィルタ21から出力される第1フィルタ電流(Id1,Iq1)にオフセット成分として重畳成分が加わる。
具体的には、dq軸電流がもつ本来のオフセット成分に、重畳成分を加算したものが、第1フィルタ電流(Id1,Iq1)のオフセット成分となる。以下では、重畳成分が重畳される前のオフセット成分を重畳前オフセット成分と記載する。ノッチフィルタ21に入力されるdq軸電流(Id,Iq)のオフセット成分は、重畳前オフセット成分である。また重畳成分が重畳された後のオフセット成分を重畳後オフセット成分と記載する。ノッチフィルタ21から出力される第1フィルタ電流(Id1,Iq1)のオフセット成分は、重畳後オフセット成分である。
なお、重畳成分については、
図3Aを参照して後述する。
【0051】
重畳成分除去部24では、このような重畳成分を第1フィルタ電流(Id1,Iq1)から除去して、フィルタ処理電流(Idf,Iqf)が生成される。本実施形態では、フィルタ処理電流(Idf,Iqf)は、高調波除去電流に相当する。
重畳成分除去部24は、ローパスフィルタ25と、ハイパスフィルタ26と、d軸電流加算器27dと、q軸電流加算器27qとを有する。
【0052】
ローパスフィルタ25は、所定のカットオフ周波数faよりも低い周波数成分を通過させ、カットオフ周波数faよりも高い周波数成分を除去するフィルタである。
ローパスフィルタ25は、dq軸電流から重畳成分が重畳される前のオフセット成分である重畳前オフセット成分を抽出した第2フィルタ電流を生成し、第2フィルタ電流を出力する。
以下では、d軸電流Idから重畳前オフセット成分を抽出した電流を、第2フィルタ電流Id2と記載する。またq軸電流Iqから重畳前オフセット成分を抽出した電流を、第2フィルタ電流Iq2と記載する。また第2フィルタ電流Id2及び第2フィルタ電流Iq2を合わせて、第2フィルタ電流と記載する場合がある。
また、本実施形態では、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faは、モータ30の回転数である機械角速度ωmに基づいて設定される。
【0053】
ローパスフィルタ25は、d軸電流Id及びq軸電流IqをUVW-dq変換器36から受け、機械角速度ωmを変換器45から受け、d軸電流Idからオフセット成分を抽出して第2フィルタ電流Id2を生成し、q軸電流Iqからオフセット成分を抽出して第2フィルタ電流Iq2を生成し、第2フィルタ電流Id2をd軸電流加算器27dに出力し、第2フィルタ電流Iq2をq軸電流加算器27qに出力する。本実施形態では、ローパスフィルタ25は、第2フィルタ部に相当する。
【0054】
ハイパスフィルタ26は、所定のカットオフ周波数fbよりも高い周波数成分を通過させ、カットオフ周波数fbよりも低い周波数成分を除去するフィルタである。
ハイパスフィルタ26は、第1フィルタ電流(Id1,Iq1)から重畳前オフセット成分に重畳成分が重畳された重畳後オフセット成分を除去した第3フィルタ電流を生成し、第3フィルタ電流を出力する。
以下では、d軸の第1フィルタ電流Id1から重畳後オフセット成分を除去した電流を、第3フィルタ電流Id3と記載する。またq軸の第1フィルタ電流Iq1から重畳後オフセット成分を除去した電流を、第3フィルタ電流Iq3と記載する。また第3フィルタ電流Id3及び第3フィルタ電流Iq3を合わせて、第3フィルタ電流と記載する場合がある。
【0055】
また、本実施形態では、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbは、モータ30の回転数である機械角速度ωmに基づいて設定される。ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbは、基本的にローパスフィルタ25のカットオフ周波数faよりも高い値に設定される。
【0056】
ハイパスフィルタ26は、d軸の第1フィルタ電流Id1及びq軸の第1フィルタ電流Iq1をノッチフィルタ21から受け、機械角速度ωmを変換器45から受け、d軸の第1フィルタ電流Id1から重畳後オフセット成分を除去して第3フィルタ電流Id3を生成し、q軸の第1フィルタ電流Iq1から重畳後オフセット成分を除去して第3フィルタ電流Iq3を生成し、第3フィルタ電流Id3をd軸電流加算器27dに出力し、第3フィルタ電流Iq3をq軸電流加算器27qに出力する。本実施形態では、ハイパスフィルタ26は、第3フィルタ部に相当する。
【0057】
d軸電流加算器27dは、d軸の第2フィルタ電流Id2をローパスフィルタ25から受け、d軸の第3フィルタ電流Id2をハイパスフィルタ26から受け、第2フィルタ電流Id2と第3フィルタ電流Id3とを加算し、当該加算結果をフィルタ処理電流Idfとして出力する。d軸電流加算器27dから出力されたd軸のフィルタ処理電流Idfは、電圧指令生成部39の減算器49に出力される。
【0058】
q軸電流加算器27dは、q軸の第2フィルタ電流Iq2をローパスフィルタ25から受け、q軸の第3フィルタ電流Iq2をハイパスフィルタ26から受け、第2フィルタ電流Iq2と第3フィルタ電流Iq3とを加算し、当該加算結果をフィルタ処理電流Iqfとして出力する。q軸電流加算器27qから出力されたq軸のフィルタ処理電流Iqfは、電圧指令生成部39の減算器50に出力される。
【0059】
このように、ローパスフィルタ25の出力である第2のフィルタ電流(Id2,Iq2)と、ハイパスフィルタ26の出力である第3のフィルタ電流(Id3,Iq3)とを加算したフィルタ処理電流(Idf,Iqf)は、上記した高調波成分とともに、重畳成分も除去された信号となる。
本実施形態では、d軸電流加算器27d及びq軸電流加算器27qは、加算結果を高調波除去電流として出力する加算器に相当する。
【0060】
電圧指令生成部39は、d軸のフィルタ処理電流Idf及びq軸のフィルタ処理電流Iqfをフィルタ処理部38から受け、電気回転角度θe及び機械角速度ωmをモータ位置検出部37から受け、d軸電流指令値Id*を図示しないd軸電流指令値設定部から受け、機械角速度指令値ωm*を図示しない機械角速度指令値設定部から受け、フィルタ処理電流Idf、フィルタ処理電流Iqf、電気回転角度θe、機械角速度ωm、d軸電流指令値Id*、及び機械角速度指令値ωm*に基づいて、モータ30の制御指令値(U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*)を生成する。
【0061】
このように、電圧指令生成部39は、高調波除去電流であるフィルタ処理電流(Idf,Iqf)に基づいてモータ30の制御指令値を生成する。本実施形態では、電圧指令生成部39は、制御部に相当する。
電圧指令生成部39は、減算器47、速度制御器48、減算器49、減算器50、電流制御器51、及びdq-UVW変換器(dq/UVW)52を備える。なお、上記したd軸電流指令値設定部及び機械角速度指令値設定部は、図示しない上位のコントローラにより実現される。
【0062】
減算器47は、機械角速度指令値ωm*を機械角速度指令値設定部から受け、推定値である機械角速度ωmをモータ位置検出部37から受け、機械角速度指令値ωm*から機械角速度ωmを減算し、減算結果を角速度差分として速度制御器48へ出力する。
【0063】
速度制御器48は、例えば、積分器及び比例器を有し、機械角速度指令値ωm*(速度指令値)と機械角速度ωm(推定速度)との差分である角速度差分(速度差分)に基づいて、q軸電流指令値Iq*(電流指令値)を生成する。
【0064】
減算器49は、d軸電流指令値Id*をd軸電流指令値設定部から受け、d軸のフィルタ電流Idfをフィルタ処理部38のd軸電流加算器27dから受け、d軸電流指令値Id*からフィルタ電流Idfを減算し、その減算結果を電流制御器51へ出力する。
【0065】
減算器50は、q軸電流指令値Iq*を速度制御器48から受け、q軸のフィルタ電流Iqfをフィルタ処理部38のq軸電流加算器27qから受け、q軸電流指令値Iq*からフィルタ電流Iqfを減算し、その減算結果を電流制御器51へ出力する。
【0066】
電流制御器51は、減算器49からd軸電流についての減算結果を受け、減算器50からq軸電流についての減算結果を受け、各減算結果に基づいてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成し、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をdq-UVW変換器52に出力する。
【0067】
電流制御器51には、例えば、減算器49からの出力に基づいてd軸電圧指令値Vd*を生成するPI制御器や、減算器50からの出力に基づいてq軸電圧指令値Vq*を生成するPI制御器等が設けられる。また、電流制御器51には、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*とを非干渉化するため非干渉化制御器が設けられてもよい。例えば非干渉化制御器は、フィルタ電流Idfからd軸用の非干渉化補正値を算出し、フィルタ電流Iqfからq軸用の非干渉化補正値を算出するように構成される。
この他、電流制御器51の具体的な構成は限定されない。
【0068】
dq-UVW変換器52は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を電流制御器51から受け、電気回転角度θeを位置推定器44から受け、電気回転角度θeに基づいて、回転座標系(dq座標系)における制御指令値(Vd*,Vq*)から、固定座標系(UVW座標系)における制御指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を生成する。
制御指令値(Vu*,Vv*,Vw*)は、PWM変調器34に出力される電圧指令値であり、モータ30の制御指令値となる。
【0069】
また、モータ制御装置100には、図示しないDC検出回路が設けられる。DC検出回路は、電源10から供給される直流電圧Vdcの電圧値を検出する回路である。以下では、直流電圧Vdcの電圧値を、同じ符号を用いて直流電圧値Vdcと記載する。直流電圧値Vdcは、IPM35における出力電圧限界値である。DC検出回路の検出結果は、演算回路33に出力される。
【0070】
例えば、電源10に供給される外部電源の電圧や負荷の変動等により電源10の電圧値が変化する場合があり得る。このような場合、演算回路33ではDC検出回路の検出結果を用いて制御指令値が調整される。これにより電源10の電圧が変化してもモータ30を安定して駆動することが可能となる。
なお、DC検出回路が設けられない場合には、直流電圧値Vdcとして、予め設定された定数(規定値)を用いることも可能である。
【0071】
[ノッチフィルタと重畳成分]
図2は、ノッチフィルタの周波数特性を説明する模式的なグラフである。
図2に示すグラフは、阻止帯域60が1つ設定されたノッチフィルタ21のゲイン(ノッチフィルタゲイン)の周波数特性を表している。グラフの横軸は周波数[Hz]であり、縦軸はゲイン[dB]である。
【0072】
図2に示す例では、ノッチフィルタ21の阻止帯域60は、ノッチ周波数fnでゲインが最小となる谷型の特性を持つ。また阻止帯域60では、ゲインが負であり、ノッチ周波数fnにおいて減衰量が最大となる。なお、ゲインが0となる周波数では、周波数成分が減衰せずにそのまま通過する。これにより、阻止帯域60の周波数成分を選択的に除去し、その他の周波数成分を通過させることができる。
【0073】
本実施形態では、上記したようにノッチフィルタ21の阻止帯域60が、モータ30の回転数に応じた高調波成分を除去することが可能なように設定される。具体的には、ノッチ周波数fnが、モータ30の回転数に対応する回転周波数の整数倍に設定される。
なお阻止帯域60の帯域幅は、一定の幅に設定される。例えばノッチ周波数fnの±10Hzの周波数帯域が1/10以下となるように阻止帯域60の帯域幅が設定される。この他、高調波成分の波形等に応じて、高調波成分を所望のレベルまで減衰することが可能なように阻止帯域60の帯域幅が適宜設定される。
【0074】
このように、ノッチフィルタ21のノッチ周波数fnがモータ30の回転数(モータ30の速度)に基づいて設定される場合、モータ30の回転数が脈動すると、ノッチ周波数fnも同様に脈動する。
例えば、モータ30の構造に起因するコギングトルク等により、モータ30のトルクが脈動することがある。このようにトルクが脈動すると、モータ30の回転数がトルクの脈動と同様の周波数で脈動し、ノッチ周波数fnも同様に脈動することになる。またモータ30のトルクが脈動すると、d軸電流Id及びq軸電流Iqもトルクと同様の周波数で脈動する。つまり、ノッチフィルタ21の入力であるd軸電流Id及びq軸電流Iqと、ノッチフィルタ21のノッチ周波数fnとが同じ周波数で脈動することになる。
本発明者は、このようにノッチフィルタ21の入力とノッチ周波数fnとが同様に脈動する場合の、ノッチフィルタ21の出力を調べた。
【0075】
図3Aは、ノッチ周波数fnが脈動するノッチフィルタ21の入力及び出力の一例を示すグラフである。ここでは、ノッチフィルタ21についてのシミュレーション結果について説明する。
図3Aには、ノッチフィルタ21の入力であるdq軸電流が実線のグラフで図示されており、ノッチフィルタ21の出力である第1フィルタ電流が細かい点線のグラフで図示されており、入力が持つ本来のオフセット成分が粗い点線のグラフで図示されている。なおグラフの横軸は時間[t]であり、縦軸は入力の最大値が1となるように規格化された電流値である。
以下では、ノッチフィルタ21の入力や出力等の電流の直流成分をオフセット成分61と記載する。
図3Aでは、ノッチフィルタ21の入力及び出力のオフセット成分61を、点線の矢印を用いて模式的に図示している。
【0076】
ノッチフィルタ21の入力は、オフセット成分61の値が0.5であり、30Hzで振動する正弦波である。さらにノッチフィルタ21のノッチ周波数fnも、入力と同様に30Hzで振動するように設定される。
例えばノッチ周波数fnは、入力の振動成分を除去するために、30Hz±αの範囲で振動するように設定される。この範囲でノッチ周波数fnを振動させる際の周波数が30Hzに設定される。なおαは、例えば振動の周波数(30Hz)の半分の値である。
従ってノッチフィルタ21の出力は、30Hzでノッチ周波数fnが脈動するノッチフィルタ21に、30Hzで脈動するdq軸電流を通過させた結果となる。
【0077】
この場合、
図3Aに示すように、ノッチフィルタ21の出力は、交流成分をオフセット成分61に重ね合わせた電流となる。
このうち、交流成分は、例えばノッチ周波数fnを振動させたために残った周波数成分である。なお、交流成分の振幅は入力の振幅に比べ十分に小さく、ノッチフィルタ21により入力の振動成分が十分に減衰されていることがわかる。
一方、ノッチフィルタ21の出力のオフセット成分61は、入力のオフセット成分61よりも大きくなる。このように、ノッチフィルタ21の入力とノッチ周波数fnとが同様に脈動する場合、ノッチフィルタ21の出力のオフセット成分は、入力のオフセット成分をシフトした値となる。このシフト量が出力のオフセット成分に重畳される重畳成分Sとなる。
このように、ノッチフィルタ21の入力のオフセット成分61は、重畳成分Sが重畳される前の重畳前オフセット成分61aであり、ノッチフィルタ21の出力のオフセット成分61は、重畳成分Sが重畳された後の重畳後オフセット成分61bである。
【0078】
図3Bは、ノッチ周波数fnが固定されたノッチフィルタ21の入力及び出力の一例を示すグラフである。ここでは、
図3Aとは異なり、ノッチ周波数fnは30Hzに固定される。この場合、ノッチフィルタ21は、入力に含まれる30Hzの周波数成分を選択的に除去するため、ノッチフィルタ21の出力は、本来の入力のオフセット成分61となる。すなわち、ノッチ周波数fnが脈動せずに固定されている場合、ノッチフィルタ21の出力のオフセット成分61は、入力のオフセット成分61と一致する。
【0079】
このように、ある周波数で脈動するdq軸電流に対して、同じ周波数で脈動するノッチ周波数fnでフィルタ処理を行うと、ノッチフィルタ21の出力には、元のdq軸電流に存在しなかった重畳成分Sが重畳されることになる。例えば同じ周波数の正弦波を乗算すると振動項と定数項とが現れるが、ノッチフィルタ21の演算処理においてこのような定数項に対応する値が算出されることで、重畳成分Sが発生すると考えられる。
【0080】
重畳成分Sが重畳されることでノッチフィルタ21の出力のオフセット成分61(重畳後オフセット成分61b)は、ノッチフィルタ21の入力が持つ本来のオフセット成分61(重畳前オフセット成分61a)とは異なる値になる。このように実際の値と異なる重畳後オフセット成分61bをフィードバックしてしまうと、モータ30の制御が不安定化することが考えられる。
そこで、本発明者は、ノッチフィルタ21の出力から上記した重畳成分Sを除去することが可能なようにモータ制御装置100を構成した。以下では、モータ制御装置100の動作について具体的に説明する。
【0081】
[モータ制御装置100の動作]
図4は、モータ制御装置100の動作例を示すフローチャートである。
図5は、重畳成分除去部の動作例を示すフローチャートである。
図4に示す処理は、モータ制御装置100の動作中に所定のサンプリング周期で繰り返し実行される処理である。また、
図5に示す処理は、
図4に示すステップ105の内部処理である。所定のサンプリング周期は、例えば3相電流を制御するPWMの搬送波の周期(キャリア周期)である。
【0082】
図4に示すように、電流検出部32により、モータ30に流れる3相電流が検出される(ステップ101)。電流検出部32では、3相電流として、U相電流iu、W相電流iw、V相電流ivの3つの電流値がそれぞれ検出される。3相電流の各電流値は、UVW-dq変換器36に出力される。
【0083】
次に、UVW-dq変換器36により、3相電流が回転座標系の2相電流(dq軸電流)に変換される(ステップ102)。UVW-dq変換器36では、位置推定器44により算出された電気回転角度θeに基づいて、U相電流iu、W相電流iw、V相電流ivの各電流値が、dq軸電流であるd軸電流Id及びq軸電流Iqの電流値に変換される。各電流値は、モータ位置検出部37及びフィルタ処理部38にそれぞれ出力される。
【0084】
次に、モータ位置検出部37により、モータ30の回転数が検出される(ステップ103)。モータ位置検出部37では、軸誤差演算器42によりd軸電流Id及びq軸電流Iqに基づいて軸誤差Δθが算出され、PLL制御器43により軸誤差Δθに基づいて固定座標系(UVW座標系)における推定角速度ωeが算出される。また変換器45により推定角速度ωeが機械角速度ωmに変換される。機械角速度ωmは、フィルタ処理部38及び電圧指令生成部39にそれぞれ出力される。
なおモータ位置検出部37の位置推定器44では、PLL制御器43から出力された推定角速度ωeが積分され、電気回転角度θeが算出される。
【0085】
機械角速度ωmが検出されると、フィルタ処理部38のノッチフィルタ21(高調波除去部20)により、dq軸電流から高調波成分が除去される(ステップ104)。以下では、ノッチフィルタ21の動作について具体的に説明する。
【0086】
[ノッチフィルタの動作]
図6は、ノッチフィルタ21のゲインとノッチフィルタ21に入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
図6に示すグラフの横軸は周波数[Hz]である。また左側の縦軸は、ノッチフィルタ21に入力される電流(d軸電流Id及びq軸電流Iq)の振幅[A]であり、右側の縦軸は、ノッチフィルタゲイン[dB]である。
【0087】
まず、ノッチフィルタ21に入力されるdq軸電流について説明する。
図6に示すように、dq軸電流には、オフセット成分61と、負荷脈動成分62と、高調波成分63とが含まれる。また
図6において、全周波数範囲に含まれる比較的小さな周波数成分は、ホワイトノイズを表している。
【0088】
オフセット成分61は、dq軸電流の平均値に相当する。周波数分布のグラフでは、周波数=0に表れるピークがオフセット成分61となる。従って、オフセット成分61は周波数成分を持たない成分であるともいえる。またdq軸電流のオフセット成分61は、重畳前オフセット成分61aである。
【0089】
負荷脈動成分62は、モータ30の負荷の脈動に応じた周波数成分である。すなわち、負荷脈動成分62が出現する周波数は、モータ30の負荷と同様に脈動する。また負荷脈動成分62が出現する周波数は、モータ30の回転数によって定まる。以下では負荷脈動成分62の周波数をflと記載する。
【0090】
例えばモータ30の負荷が圧縮機であるとする。この場合、負荷脈動成分62が出現する周波数は、圧縮機の構造に起因する。例えば単一のシリンダを備える1Pタイプの圧縮機が用いられる場合、モータ30の回転数に対応する周波数(モータ30の回転周波数f0)に負荷脈動成分62が出現し、fl=f0となる。また例えば2つのシリンダを備える2Pタイプの圧縮機が用いられる場合、モータ30の回転周波数f0の2倍の周波数に負荷脈動成分62が出現し、fl=2×f0となる。
【0091】
高調波成分63は、モータ30の構造に起因して発生する高調波である。従って、高調波成分63は、モータ構造起因成分であるといえる。高調波成分63が出現する周波数は、圧縮機の構造の他に、モータ30の極数、モータ30のスロット数、及びモータ30の回転数によって定まる。なお高調波成分63の周波数は、典型的には負荷脈動成分62の周波数flよりも高くなる。以下では高調波成分63の周波数をfhn(n=1,2,3…)と記載する。
【0092】
例えば、モータ30がX極Yスロットモータである場合には、モータ30の回転周波数f0にXとYの最小公倍数を乗算した周波数に高調波成分63が出現する。さらに、XとYの最小公倍数の2分の1倍、2倍、3倍、…、n倍の次数の周波数にも高調波成分63が出現する。例えば、モータ30が6極9スロットのモータである場合、6と9との最小公倍数である18次の周波数の他、6と9との最小公倍数の2分の1倍の9次の周波数、及び、36次、54次、…という18×n次の周波数に高調波成分63が出現する。この場合、例えばモータ30の回転数が30[rps]である場合、270[Hz]、540[Hz]、1080[Hz]、1620[Hz]、…、540×n[Hz]の周波数に高調波成分63が出現する。
【0093】
dq軸電流に含まれる重畳前オフセット成分61a、負荷脈動成分62、及び高調波成分63のうち、高調波成分63が含まれたままの電流に基づいてモータ30の制御指令値を生成すると、モータ30が振動するなどモータ30の制御が不安定化することが考えられる。そこで、ノッチフィルタ21では、モータ30の制御の安定化を図るため、dq軸電流に含まれる高調波成分63以外の成分(重畳前オフセット成分61aや負荷脈動成分62等)は除去せずに、高調波成分63のみが除去される。
【0094】
上記したように、高調波成分63は複数の周波数に出現することが考えられる。このため、ノッチフィルタ21には、複数の高調波成分63を除去するための複数の阻止帯域60(複数のノッチ周波数fn)が設定される。なお、複数の阻止帯域60を持つノッチフィルタ21は、例えば単一の阻止帯域60を持つ複数のフィルタを構成し、各フィルタを直列に接続することで構成される。このとき、各フィルタの各阻止帯域60は、対象とする高調波成分63を除去可能なようにそれぞれ設定される。
単一の阻止帯域60を持つノッチフィルタ21は、例えば以下に示す(1)式、及び、(1.1)式-(1.6)式に従って構成される。
【0095】
【0096】
(1)式において、[k]は、今回のサンプリング周期を表し、[k-1]は前回のサンプリング周期を表し、[k-2]は前々回のサンプリング周期を表している。x[k]は今回のサンプリング周期での入力値であり、x[k-1]は前回のサンプリング周期での入力値であり、x[k-2]は前々回のサンプリング周期での入力値である。y[k]は今回のサンプリング周期での出力値であり、y[k-1]は前回のサンプリング周期での出力値であり、y[k-2]は前々回のサンプリング周期での出力値である。またN0、N1、N2、D0、D1、D2は、ノッチフィルタ21の所定のフィルタ定数であり、(1.1)式-(1.6)式に従って設定される。
【0097】
また(1.1)式-(1.6)式において、ωnは、角速度[rad/s]で表したノッチ周波数fnであり、ωn=2π×fnである。fcは、サンプリング周波数である。またζsetは、減衰の幅を表す定数であり、dは、減衰の深さを表す定数である。ζset及びdは、固定の値が用いられる。
【0098】
図6に示す例では、2つの高調波成分63が出現している。各高調波成分63の周波数は、低い方から順にfh1及びfh2である。また高調波成分63の各周波数fh1及びfh2は、モータ30の回転周波数f0の整数倍である。ここでは、fh1=M1×f0であり、fh2=M2×f0であるとする。なお、M1及びM2は、モータ30の構造に起因して定まる整数であり、M1<M2である。
モータ30の回転周波数f0は、機械角速度ωmを用いてf0=ωm/2πと表される。従って、図中左側の高調波成分63の周波数fh1は、fh1=M1×ωm/2πとなる。また図中右側の高調波成分63の周波数fh2は、fh1=M2×ωm/2πとなる。
【0099】
この場合、ノッチフィルタ21には、fh1及びfh2に出現する高調波成分63を除去するために、2つの阻止帯域60が設定される。例えば図中左側の阻止帯域60のノッチ周波数fnはfh1に設定される。この場合、ωn=M1×ωmに設定される。また、図中右側の阻止帯域60のノッチ周波数fnはfh2に設定され、ωn=M2×ωmに設定される。
【0100】
このように、ノッチフィルタ21を用いることで、モータ30の回転数(機械角速度ωm)に応じて周波数が変化する複数の高調波成分63がd軸電流Id及びq軸電流Iqからそれぞれ除去される。
【0101】
なお、モータ30のトルクが脈動する場合には、
図3A等を参照して説明したように、モータ30の回転数が、高調波成分と同じ周波数で脈動することになる。この場合、ノッチフィルタ21のノッチ周波数fnもモータ30と同様に脈動することから、ノッチフィルタ21出力である第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1には、d軸電流Id及びq軸電流Iqには存在しなかった重畳成分Sが重畳される。
【0102】
図4に戻り、dq軸電流(d軸電流Id及びq軸電流Iq)から高調波成分63が除去されると、重畳成分除去部24により、ノッチフィルタ21の出力(第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1)から、重畳成分Sが除去される(ステップ105)。以下では、重畳成分除去部24の各部の動作について説明する。
【0103】
[ローパスフィルタの動作]
図5に示すように、ローパスフィルタ25により、dq軸電流(d軸電流Id及びq軸電流Iq)に対してローパスフィルタ処理が実行される(ステップ201)。この処理は、d軸電流Id及びq軸電流Iqからそれぞれのオフセット成分61である重畳前オフセット成分61aを抽出する処理である。
【0104】
図7は、ローパスフィルタ25のゲインとローパスフィルタ25に入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
図7に示すグラフの横軸は周波数[Hz]である。また左側の縦軸は、ローパスフィルタ25に入力される電流(d軸電流Id及びq軸電流Iq)の振幅[A]であり、右側の縦軸は、ローパスフィルタゲイン[dB]である。
【0105】
ローパスフィルタ25に入力されるdq軸電流は、ノッチフィルタ21に入力される電流と同じ電流である。すなわち、ローパスフィルタ25の入力には、オフセット成分61と、負荷脈動成分62と、高調波成分63とが含まれる。
このうち、ローパスフィルタ25では、オフセット成分61が抽出される。すなわち、ローパスフィルタ25では、dq軸電流に含まれるオフセット成分61以外の成分(負荷脈動成分62や高調波成分63等)が除去され、オフセット成分61のみが抽出される。
ローパスフィルタ25は、例えば以下に示す(2)式に従って構成される。
【0106】
【0107】
(2)式において、[k]は、今回のサンプリング周期を表し、[k-1]は前回のサンプリング周期を表している。x[k]は今回のサンプリング周期での入力値であり、x[k-1]は前回のサンプリング周期での入力値である。y[k]は今回のサンプリング周期での出力値であり、y[k-1]は前回のサンプリング周期での出力値である。従って(2)式に示すローパスフィルタ25は、1つ前の出力値及び入力値を参照する1次のフィルタとなっている。
ΔTは、サンプリング周期の長さであり、サンプリング周波数の逆数である。
ωaは、角速度[rad/s]で表したローパスフィルタ25のカットオフ周波数faであり、ωa=2π×faである。またカットオフ周波数faは、例えばローパスフィルタゲインが-3dBになる周波数である。
【0108】
図7に示すように、ローパスフィルタゲインは、カットオフ周波数faよりも高い周波数で急激に低下する。これにより、カットオフ周波数faよりも高い周波数成分が除去され、カットオフ周波数faよりも低い周波数成分が抽出される。例えば周波数が0の場合、ローパスフィルタゲインは0dBである。これにより、dq軸電流が持つ本来のオフセット成分61である重畳前オフセット成分61aをそのまま抽出することが可能となる。
【0109】
なお、ローパスフィルタ25は、その他の成分(負荷脈動成分62や高調波成分63等)を通過させないように構成される。従って、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faは、負荷脈動成分62の周波数flよりも小さい周波数に設定される。
【0110】
[ハイパスフィルタの動作]
図5に戻り、ハイパスフィルタ26により、ノッチフィルタ21から出力された第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1に対してハイパスフィルタ処理が実行される(ステップ202)。この処理は、第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1からそれぞれの重畳後オフセット成分61bを除去する処理である。
なお、ステップ201及び202の処理は、逆の順番で実行されても良いし、並行して実行されてもよい。
【0111】
図8は、ハイパスフィルタ26のゲインとハイパスフィルタ26に入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
図8に示すグラフの横軸は周波数[Hz]である。また左側の縦軸は、ハイパスフィルタ26に入力される電流(第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1)の振幅[A]であり、右側の縦軸は、ハイパスフィルタゲイン[dB]である。以下では、ハイパスフィルタ26に入力される電流である第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1をまとめて第1フィルタ電流と記載する。
【0112】
第1フィルタ電流は、ノッチフィルタ21を通過することで、高調波成分63が除去された電流である。従って第1フィルタ電流では、dq軸電流において高調波成分63が出現する周波数(例えばfh1及びfh2)であっても、振幅値が十分に減衰している。
【0113】
またノッチフィルタ21から出力される第1フィルタ電流には、負荷脈動成分62と、重畳後オフセット成分61bとが含まれる。このうち、負荷脈動成分62は、dq軸電流に含まれる本来の負荷脈動成分62である。
一方、重畳後オフセット成分61bの値は、dq軸電流に含まれる重畳前オフセット成分61aに重畳成分Sを重畳した値となる。すなわち、第1フィルタ電流のオフセット成分61(重畳後オフセット成分61)は、dq軸電流が持つ本来のオフセット成分61(重畳前オフセット成分61a)とは異なる値になる。
【0114】
そこで、ノッチフィルタ21の後段に設けられたハイパスフィルタ26では、第1フィルタ電流に含まれる重畳後オフセット成分61bが除去される。なお、負荷脈動成分62は、モータ30の負荷の変動を表す周波数成分であり、モータ30の制御に必要である。このため、ハイパスフィルタ26では、負荷脈動成分62は除去せずに、オフセット成分61のみが除去される。
ハイパスフィルタ26は、例えば以下に示す(3)式に従って構成される。
【0115】
【0116】
(3)式において、[k]は、今回のサンプリング周期を表し、[k-1]は前回のサンプリング周期を表している。x[k]は今回のサンプリング周期での入力値であり、x[k-1]は前回のサンプリング周期での入力値である。y[k]は今回のサンプリング周期での出力値であり、y[k-1]は前回のサンプリング周期での出力値である。従って(3)式に示すハイパスフィルタ26は、1つ前の出力値及び入力値を参照する1次のフィルタとなっている。
ΔTは、サンプリング周期の長さであり、サンプリング周波数の逆数である。
ωbは、角速度[rad/s]で表したハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbであり、ωb=2π×fbである。またカットオフ周波数fbは、例えばハイパスフィルタゲインが-3dBになる周波数である。
【0117】
図8に示すように、ハイパスフィルタゲインは、カットオフ周波数fbよりも低い周波数で急激に低下する。これにより、カットオフ周波数fbよりも低い周波数成分が除去され、カットオフ周波数fbよりも高い周波数成分が抽出される。またハイパスフィルタゲインは、周波数が0の成分、すなわちオフセット成分61を十分に減衰することが可能なように設定される。これにより、重畳成分Sが重畳されたために実際の値(重畳前オフセット成分61aの値)とは異なる値となっている重畳後オフセット成分61bを第1フィルタ電流から除去することが可能となる。
【0118】
また、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbは、負荷脈動成分62の周波数flに基づいて決定される。具体的には、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbは、モータ30の制御に必要となる負荷脈動成分62を除去しないように、負荷脈動成分62の周波数flよりも小さい周波数に設定される。これにより、負荷脈動成分62を減衰させることなく適正に抽出することが可能となる。
【0119】
なお、負荷脈動成分62の周波数flは、モータ30の回転周波数f0に基づいて算出可能である。そこで、ハイパスフィルタ26では、モータ30の機械角速度ωmから負荷脈動成分62の周波数flを算出し、周波数flを基準としてカットオフ周波数fbが設定される。これにより、負荷脈動成分62を確実に抽出することが可能となる。
【0120】
上記したローパスフィルタ25のカットオフ周波数fa、及びハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbを設定する方法については、後に詳しく説明する。
【0121】
このように、ハイパスフィルタ26を用いることで、第1フィルタ電流から、負荷脈動成分62を抽出し、重畳成分Sを含む重畳後オフセット成分61bが除去される。
この場合、dq軸電流が持つ本来のオフセット成分61である重畳前オフセット成分61aまで除去してしまうことになるため、重畳前オフセット成分61aを復元する必要がある。この重畳前オフセット成分61aの復元に、上記したローパスフィルタ25の出力が用いられる。
【0122】
[ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの加算]
図5に戻り、ローパスフィルタ25の出力と、ハイパスフィルタ26の出力とが加算される(ステップ203)。具体的には、d軸電流加算器27dにより、ローパスフィルタ25から出力されたd軸の第2フィルタ電流Id2と、ハイパスフィルタ26から出力されたd軸の第3フィルタ電流Id3とが加算され、d軸のフィルタ処理電流Idfが出力される。またq軸電流加算器27qにより、ローパスフィルタ25から出力されたq軸の第2フィルタ電流Iq2と、ハイパスフィルタ26から出力されたq軸の第3フィルタ電流Iq3とが加算され、q軸のフィルタ処理電流Iqfが出力される。
【0123】
図9は、ローパスフィルタ25及びハイパスフィルタ26の出力の加算結果を示す模式的なグラフである。以下では、フィルタ処理電流Idf及びフィルタ処理電流Iqfをまとめてフィルタ処理電流と記載する。
図9に示すグラフの横軸は周波数[Hz]であり、グラフの縦軸は、フィルタ処理電流の振幅[A]である。
【0124】
フィルタ処理電流には、ノッチフィルタ21により抽出されハイパスフィルタ26を通過した負荷脈動成分62と、ローパスフィルタ25により抽出された重畳前オフセット成分61aとが含まれる。また、フィルタ処理電流では、dq軸電流に含まれるような高調波成分63が除去されている。つまり、フィルタ処理電流は、ノッチフィルタ21の出力である第1フィルタ電流の重畳後オフセット成分61から重畳成分Sを除去した電流となる。従って、フィルタ処理電流は、ノッチフィルタ21に入力される前のdq軸電流から、高調波成分63だけを除去した電流であるともいえる。
【0125】
dq軸電流からフィルタ処理電流を生成する工程をまとめると以下のようになる。
1.dq軸電流をノッチフィルタ21に入力し、dq軸電流から高調波成分63を除去する(ステップ104)。
2.dq軸電流をローパスフィルタ25に入力し、dq軸電流から重畳前オフセット成分61aを抽出する(ステップ201)。
3.ノッチフィルタ21の出力をハイパスフィルタ26に入力し、ノッチフィルタ21によって重畳される重畳成分Sとともに重畳後オフセット成分61bを除去する(ステップ202)。
4.ローパスフィルタ25の出力とハイパスフィルタ26の出力を加算し、高調波成分63のみを除去したフィルタ処理電流を出力する。
【0126】
これにより、ノッチフィルタ21において、高調波成分63を除去する際に重畳成分Sにより変化した重畳後オフセット成分61bを、dq軸電流が持つ本来のオフセット成分61である重畳前オフセット成分61aに戻すことが可能となる。この結果、本来のオフセット成分61を持つフィルタ処理電流を出力することが可能となる。
【0127】
図4に戻り、d軸のフィルタ処理電流Idf及びq軸のフィルタ処理電流Iqfが生成されると、電圧指令生成部39により、フィルタ処理電流Idf及びフィルタ処理電流Iqfに基づいて、モータ30の制御指令値が生成される(ステップ106)。
【0128】
電圧指令生成部39では、減算器49によりd軸電流指令値Id*からフィルタ電流Idfが減算され、減算器50によりq軸電流指令値Iq*からフィルタ電流Iqfが減算される。これらの減算結果に基づいて、電流制御器51によりd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*が生成される。このように、モータ制御装置100では、本来のオフセット成分61(重畳前オフセット成分61a)と負荷脈動成分62とを含み、高調波成分63のみが除去された電流(フィルタ処理電流Idf及びフィルタ処理電流Iqf)がフィードバックされる。これにより、モータ制御の安定性を向上することが可能となる。
【0129】
[ローパスフィルタ25及びハイパスフィルタ26のカットオフ周波数]
以下では、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数fa及びハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbを設定する方法について説明する。ここでは、ハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25がともに1次フィルタであるものとする。
【0130】
図8等を参照して説明したように、ハイパスフィルタ26は、第1フィルタ電流から、負荷脈動成分62を抽出するとともに、重畳後オフセット成分61bを除去するためのフィルタである。従って、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbは、負荷脈動成分62を減衰させることなく抽出し、またオフセット成分61を十分に除去できるように設定される。このため、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbは、負荷脈動成分62の周波数flでの減衰量がない範囲で、できるだけ高い周波数に設定される。
【0131】
また
図7等を参照して説明したように、ローパスフィルタ25は、dq軸電流から、オフセット成分61を抽出するためのフィルタである。例えばオフセット成分61のみを通過させるためには、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faはできるだけ低い方がよい。一方でローパスフィルタ25のカットオフ周波数faが低すぎると、ローパスフィルタ25の応答速度が遅くなる。この点からローパスフィルタ25のカットオフ周波数faは、ある程度高い周波数であることが好ましい。
【0132】
ところで、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数fbを高くすると、ローパスフィルタ25の通過帯域が、ハイパスフィルタ26の通過帯域と重なってしまうことが考えられる。ここで通過帯域とは、例えばフィルタを通過した際の減衰量が所定の値よりも小さい帯域(例えば減衰量が3dBよりも小さい帯域等)である。
【0133】
ローパスフィルタ25の出力と、ハイパスフィルタ26の出力は、d軸電流加算器27d及びq軸電流加算器27qにより加算される。このため、通過帯域が重なっている領域では、ホワイトノイズ等が増大する可能性がある。
ホワイトノイズは、幅広い周波数に出現するノイズ成分である。例えば
図6、
図7、
図8、及び
図9等には、全周波数範囲にホワイトノイズとなる周波数成分が模式的に図示されている。ホワイトノイズは、通常は無視できる程度に小さく、モータ30の制御に影響しない。一方で、上記したようにホワイトノイズが増大すると、その大きさが無視できなくなり、モータ30の制御に影響を及ぼす可能性がある。
【0134】
図10は、比較例として挙げるハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の周波数特性を説明する模式的なグラフである。
図10には、ノッチフィルタ21の出力(第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1)の周波数成分と、ハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の各フィルタゲインとが図示されている。
【0135】
図10には、ハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の通過帯域が重なる領域(図中の斜線の領域)が比較的大きい場合の例が模式的に図示されている。ここでは、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbが、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faよりも小さい(fb<fa)。この場合、ハイパスフィルタ26の出力及びローパスフィルタ25の出力を加算すると、比較的広い周波数範囲にわたってホワイトノイズが増加する可能性がある。
【0136】
またハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbがローパスフィルタ25のカットオフ周波fa以下である場合であっても、fb及びfaが近いと、通過帯域が重なる領域等においてホワイトノイズが増加することが懸念される。
【0137】
図11Aは、比較例として挙げるハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の周波数特性を示すグラフである。
図11Aには、ハイパスフィルタ26のゲイン及びローパスフィルタ25のゲインのシミュレーション結果が示されている。グラフの横軸は、対数で表した周波数[Hz]であり、縦軸は、ハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25のゲイン[dB]である。
【0138】
ここで、ハイパスフィルタ26の抽出対象となる負荷脈動成分62の周波数flが100Hzであるとする。ハイパスフィルタ26は、fl=100Hzの周波数成分を減衰させないように構成される。具体的には、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbが、負荷脈動成分62の周波数flの1/10に設定される。すなわち、fb=fl/10=10Hzである。
この場合、ハイパスフィルタ26の100Hzでのゲインは0dBとなり、負荷脈動成分62を減衰させずに抽出することが可能となる。
【0139】
またローパスフィルタ25のカットオフ周波数faは、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbと同様に、負荷脈動成分62の周波数flの1/10に設定される。すなわち、fa=fl/10=10Hzである。
【0140】
以下では、フィルタの倍率を用いて
図11Aの結果について考察する。ここでフィルタの倍率とは、フィルタの出力をフィルタの入力で割った値(出力/入力)であり、dBで表されるフィルタのゲインをフィルタの入力に対する出力の割合で表したものである。フィルタの倍率の常用対数をとったものがdBとなる。
図11Bは、
図11Aに示すハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の倍率を加算した結果を示すグラフである。
図11Bには、ハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の各ゲインを倍率に換算したグラフが示されている。グラフの横軸は、周波数[Hz]であり、縦軸は、ハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の倍率である。
【0141】
ハイパスフィルタ26の倍率は、ハイパスフィルタ26における入力に対する出力の割合である。またローパスフィルタ25の倍率は、ローパスフィルタ25における入力に対する出力の割合である。つまりハイパスフィルタ26(ローパスフィルタ25)の倍率は、フィルタの出力をフィルタの入力で割った値(出力/入力)である。
【0142】
図11Bに示すように、ハイパスフィルタ26の倍率及びローパスフィルタ25の倍率は、いずれも全周波数範囲において、1以下となる。一方で、ハイパスフィルタ26の倍率とローパスフィルタ25の倍率とを加算した加算倍率は、グラフに示す周波数範囲では1よりも大きくなる。特に、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fb及びローパスフィルタ25のカットオフ周波数faに設定された10Hzでは、加算倍率が最大となり、その近傍ではホワイトノイズが大幅に増大することが考えられる。
【0143】
図12Aは、本実施形態に係るハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の周波数特性を示すグラフである。
図12Aでは、
図11Aと同様に、ハイパスフィルタ26の抽出対象となる負荷脈動成分62の周波数flが100Hzに設定され、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbが負荷脈動成分62の周波数flの1/10に設定される(fb=10Hz)。これにより、ハイパスフィルタ26の100Hzでのゲインは0dBとなり、負荷脈動成分62を減衰させずに抽出可能である。
【0144】
なおハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbがこれより大きくなると、負荷脈動成分62が減衰することが考えられる。このため、負荷脈動成分62を減衰させないためには、カットオフ周波数fbは、上記した値以下に設定することが好ましい。すなわち、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbは、負荷脈動成分62の周波数flの1/10以下の周波数である。これにより、演算量が少ない一次フィルタにおいて、負荷脈動成分62を減衰させることのない適切なカットオフ周波数fbを設定することが可能となる。
【0145】
また
図12Aでは、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faが、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbの1/10に設定される。すなわち、fa=fb/10=1Hzである。このため、ハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の通過帯域の重なりは
図11Aと比べて小さくなる。
【0146】
図12Bは、
図12Aに示すハイパスフィルタ26及びローパスフィルタ25の倍率を加算した結果を示すグラフである。
図12Bに示すように、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faを、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbの1/10に設定した場合、加算倍率は、全周波数範囲で1以下となる。
【0147】
このように、ローパスフィルタ25の倍率とハイパスフィルタ26の倍率との和(加算倍率)は、1以下であることが好ましい。これにより、ローパスフィルタ25の出力とハイパスフィルタ26の出力とを加算した場合であっても、ホワイトノイズ等のレベルが、dq軸電流等と比べて増大することがなくなる。つまり、フィルタの組み合わせによりホワイトノイズ等が増大するといった事態を回避することが可能となる。この結果、モータ制御の精度を高めることが可能となる。
【0148】
一方で、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faが小さくなるほど、ローパスフィルタ25の応答速度は低下する。このため、ローパスフィルタ25の応答速度が十分に確保できる範囲で、加算倍率が小さくなるようにローパスフィルタ25のカットオフ周波数faを設定することが好ましい。つまり、ローパスフィルタ25のカットオフ周波数faは、負荷脈動成分62の周波数flの1/10以下、かつ、ハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbの1/10以上の周波数であることが好ましい。これにより、ローパスフィルタ25及びハイパスフィルタ26の演算量を抑制しつつ、負荷脈動成分62を十分に減衰し、かつ、フィルタの応答速度を確保することが可能となる。
【0149】
上記では、1次のハイパスフィルタ26を用いる場合について説明したが、2次のハイパスフィルタ26を用いることも可能である。以下では、1次のハイパスフィルタ26の周波数特性、及び2次のハイパスフィルタ26の周波数特性について、具体的に説明する。
【0150】
[1次のハイパスフィルタ]
図13は、1次のハイパスフィルタ26の周波数特性の一例を示すグラフである。ここでは、
図11A及び
図12Aと同様に、負荷脈動成分62の周波数flが100Hzであるとして、カットオフ周波数fbがfl/10=10Hzに設定される。この場合、fl=100Hzにおけるゲインは0dBであり、負荷脈動成分62は減衰することなく抽出される。
【0151】
(3)式を参照して説明したように、1次のハイパスフィルタ26では、サンプリング周期ΔTと、カットオフ周波数fbを角速度で表したωbがパラメータとなる。このうち、サンプリング周期ΔTは定数であり、例えばPWMのキャリア周期に設定される。従って、1次のハイパスフィルタ26において設定可能なパラメータはカットオフ周波数fb(ωb)だけである。
【0152】
カットオフ周波数fbは、例えばゲインが-3dBになる周波数である。この場合、カットオフ周波数fbでは、入力に対して出力が約30%減衰する。すなわち、カットオフ周波数fbでは、フィルタを通過した後の周波数成分の振幅が、フィルタを通過する前の振幅の70%程度に低下する。
【0153】
また1次のハイパスフィルタ26では、ゲインのカーブ形状が、カットオフ周波数fbだけで定まる。例えばハイパスフィルタ26のゲインは、低周波数になるほど低下する。
図13に示す例では、例えばゲインが-30dBとなる周波数は約0.3Hzである。このようなゲインの傾きもカットオフ周波数fbを設定することで定まる。
【0154】
[2次のハイパスフィルタ]
2次のハイパスフィルタ26では、カットオフ周波数fbに加えて、Q値を設定することが可能である。2次のハイパスフィルタ26の伝達関数G(s)を以下に示す。
【0155】
【0156】
(4)式において、sは、伝達関数G(s)の複素変数である。また、ωbは、角速度[rad/s]で表した2次のハイパスフィルタ26のカットオフ周波数fbであり、ωb=2π×fbである。Qは、伝達関数G(s)のQ値である。
【0157】
Q値は、2次のハイパスフィルタ26の特性を決めるパラメータであり、カットオフ周波数fbにおける倍率はQ値によってきまる。例えば、Q=0.7とした場合、カットオフ周波数fbにおいて2次のハイパスフィルタ26の倍率は0.7となる。これは、カットオフ周波数fbの周波数成分の振幅が、フィルタを通過する前の振幅の70%になることを意味する。すなわち、Q=0.7とした場合、カットオフ周波数fbにおける2次のハイパスフィルタ26のゲインは約-3dBとなる。
【0158】
図14Aは、2次のハイパスフィルタ26の周波数特性の一例を示すグラフである。
図14Aでは、カットオフ周波数fbが10Hzに設定され、Q値が0.7に設定されている。この場合、負荷脈動成分62の周波数flを100Hzとすると、fl=100Hzにおけるゲインは0dBであり、負荷脈動成分62は減衰することなく抽出される。
【0159】
また、上記したように、fb=10Hzにおける2次のハイパスフィルタ26のゲインは-3dBである。従って
図14Aに示す2次のハイパスフィルタ26では、カットオフ周波数fbにおけるゲインは、
図13に示す1次のハイパスフィルタ26と同様である。
【0160】
なお、
図14Aでは、
図13に比べゲインの傾きが大きい。例えば周波数が1Hzになる前にゲインが-30dBまで低下する。このように、カットオフ周波数fbでのゲインが同じであっても、2次のハイパスフィルタ26では、カットオフ周波数fb以下の周波数成分を除去する際の減衰量が、1次のハイパスフィルタ26よりも高くなる。これにより、例えば負荷脈動成分62よりも低い周波数成分を十分に除去することが可能となる。
【0161】
図14Bは、2次のハイパスフィルタ26の周波数特性の他の一例を示すグラフである。
図14Bでは、カットオフ周波数fbが10Hzに設定され、Q値が1に設定されている。この場合でも、負荷脈動成分62の周波数flを100Hzとすると、fl=100Hzにおけるゲインは0dBであり、
図14Aの場合と同様に負荷脈動成分62は減衰することなく抽出される。
【0162】
なお、Q値が1に設定されるため、fb=10Hzにおける2次のハイパスフィルタ26のゲインは0dBである。すなわち、カットオフ周波数fbの周波数成分も減衰することなく抽出される。なお、ゲインが-30dBとなる周波数は、
図14Aと略同様である。従って、Q値を大きくすることでゲインの傾きが大きくなっているといえる。
【0163】
図14Cは、比較例として挙げる2次のハイパスフィルタ26の周波数特性の一例を示すグラフである。
図14Cでは、カットオフ周波数fbが10Hzに設定され、Q値が0.1に設定されている。この場合、100Hzにおけるゲインは-3dB程度となり、負荷脈動成分62の周波数flが100Hzである場合には、負荷脈動成分62を減衰することになる。このように、カットオフ周波数fbが周波数flの1/10である場合でも、Q値の設定によっては、負荷脈動成分62を減衰させることになる。
なお、負荷脈動成分62の周波数flが100Hzよりも十分に大きい場合等には、
図14に示す2次のハイパスフィルタ26が用いられてもよい。
【0164】
このように、2次のハイパスフィルタ26では、カットオフ周波数fb及びQ値を設定することで、1次のハイパスフィルタ26と比べて、カットオフ周波数fbでのゲインや、ゲインのカーブ形状を細かく設定することが可能である。これにより、必要な周波数成分(例えば負荷脈動成分62等)を精度よく抽出することや、不要な周波数成分(例えば重畳成分Sを含む重畳後オフセット成分61b等)を十分に除去することが可能となる。
【0165】
ところで、1次のハイパスフィルタ26については、カットオフ周波数fbを負荷脈動成分62の周波数flの1/10に設定する点について記載した。一方で2次のハイパスフィルタ26では、カットオフ周波数fbをfb=fl/10に設定しても、Q値によっては負荷脈動成分62を減衰させる場合もある(
図14C参照)。このため、2次のハイパスフィルタ26では、負荷脈動成分62を減衰させずに抽出することが可能なように、カットオフ周波数fb及びQ値がそれぞれ設定される。
【0166】
なお、
図14A及び
図14Bに示すように、カットオフ周波数fbでのゲインを-3dB以上に設定した場合(Q=0.7以上に設定した場合)には、カットオフ周波数fbをfb=fl/10に設定しても、負荷脈動成分62が減衰することはない。従って、Q≧0.7である場合には、1次のハイパスフィルタ26の場合と同様にカットオフ周波数fbを設定可能である。
【0167】
以上、本実施形態に係るモータ制御装置100では、ノッチフィルタ21により、3相電流(iu,iv,iw)を変換したdq軸電流(Id,Iq)からモータ30の回転数に応じた高調波成分63が除去され、第1フィルタ電流(Id1,Iq1)が出力される。このとき、第1フィルタ電流(Id1,Iq1)にはオフセット成分61として重畳成分Sが重畳される。従って第1フィルタ電流(Id1,Iq1)は、高調波成分63が除去されているものの、そのオフセット成分61である重畳後オフセット成分61が実際の値とは異なる電流となる。このため、重畳成分除去部24により、第1フィルタ電流(Id1,Iq1)から重畳成分Sが除去され、本来のオフセット成分61である重畳前オフセット成分61aを持つフィルタ処理電流(Idf,Iqf)が出力される。そしてフィルタ処理電流(Idf,Iqf)を用いてモータ30が制御される。これにより、高調波成分63を適切に除去し、安定したモータ制御を実現することが可能となる。
【0168】
<第2の実施形態>
本発明に係る第2の実施形態に係るモータ制御装置について説明する。これ以降の説明では、上記の実施形態で説明したモータ制御装置100における構成及び作用と同様な部分については、その説明を省略又は簡略化する。
【0169】
図15は、第2の実施形態に係るモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態では、高調波成分63を除去するためのフィルタとして、上記の実施形態で説明したノッチフィルタ21に代えて、バンドパスフィルタ71が設けられる。
【0170】
以下では、モータ制御装置200の構成について、高調波除去部70を中心に説明する。なお、モータ制御装置200の高調波除去部70以外の構成は、
図1を参照して説明したモータ制御装置100の構成と同様である。
図15に示すように、高調波除去部70は、バンドパスフィルタ71と、d軸電流減算器72dと、q軸電流減算器72qとを有する。
【0171】
バンドパスフィルタ71は、入力に対して、特定の周波数を基準とする周波数帯域に含まれる周波数成分を選択的に通過させる帯域通過フィルタである。バンドパスフィルタ71において、周波数成分が通過する周波数帯域は、通過帯域となる。以下では通過帯域の中心となる周波数を通過周波数fpと記載する。通過周波数fpは、例えば通過帯域において周波数成分のゲインが最大(減衰量が最小)となる周波数である。また通過周波数fpは、典型的には通過帯域の中心周波数である。
【0172】
バンドパスフィルタ71では、機械角速度ωmに基づいて、少なくとも1つの通過周波数fpが設定される。この時、各通過周波数fpは、モータ30の回転数に応じた高調波成分63の周波数fhに設定される。これにより、バンドパスフィルタ71を通過させることで、入力(d軸電流Id及びq軸電流Iq)から高調波成分63を抽出することが可能となる。
【0173】
このように、バンドパスフィルタ71は、
図1等に示すノッチフィルタ21とは反対に、高調波成分63を抽出するフィルタとなる。以下では、d軸電流Idから高調波成分63を抽出した電流を抽出電流Ideと記載し、q軸電流Iqから高調波成分63を抽出した電流を抽出電流Iqeと記載する。
【0174】
図15に示すように、バンドパスフィルタ71は、dq軸電流(d軸電流Id及びq軸電流Iq)をUVW-dq変換器36から受け、機械角速度ωmを変換器45から受け、d軸電流Idから高調波成分63を抽出して抽出電流Ideを生成し、q軸電流Iqから高調波成分63を抽出して抽出電流Iqeを生成し、抽出電流Ideをd軸電流減算器72dに出力し、抽出電流Iqeをq軸電流減算器72qに出力する。
【0175】
d軸電流減算器72dは、d軸電流IdをUVW-dq変換器36から受け、d軸の抽出電流Ideをバンドパスフィルタ71から受け、d軸電流Idから抽出電流Ideを減算する。上記したように、抽出電流Ideは、d軸電流Idから高調波成分63を抽出した電流である。従って、d軸電流減算器72dの出力は、d軸電流Idから高調波成分63を除去した電流となる。
d軸電流減算器72dは、d軸電流Idから抽出電流Ideを減算した電流を、第1フィルタ電流Id1として後段のハイパスフィルタ26に出力する。
【0176】
q軸電流減算器72qは、q軸電流IqをUVW-dq変換器36から受け、q軸の抽出電流Iqeをバンドパスフィルタ71から受け、q軸電流Iqから抽出電流Iqeを減算する。上記したように、抽出電流Iqeは、q軸電流Iqから高調波成分63を抽出した電流である。従って、q軸電流減算器72qの出力は、q軸電流Iqから高調波成分63を除去した電流となる。
q軸電流減算器72qは、q軸電流Iqから抽出電流Iqeを減算した電流を、第1フィルタ電流Iq1として後段のハイパスフィルタ26に出力する。
【0177】
このように、モータ制御装置200では、バンドパスフィルタ71、d軸電流減算器72d、及びq軸電流減算器72qにより、モータ30の回転数の検出結果(機械角速度ωm)に基づいてdq軸電流(d軸電流Id及びq軸電流Iq)からモータ30の回転数に応じた高調波成分63を除去した第1フィルタ電流(第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1)が生成される。本実施形態では、バンドパスフィルタ71、d軸電流減算器72d、及びq軸電流減算器72qにより、第1フィルタ部が構成される。
【0178】
図16は、バンドパスフィルタ71の周波数特性を説明する模式的なグラフである。
図16に示すグラフは、通過帯域65が1つ設定されたバンドパスフィルタ71のゲイン(バンドパスフィルタゲイン)の周波数特性を表している。グラフの横軸は周波数[Hz]であり、縦軸はゲイン[dB]である。
【0179】
図16に示す例では、バンドパスフィルタ71の通過帯域65は、通過周波数fpでゲインが最大(例えば0dB)となる山型の特性を持つ。なお、通過帯域65から外れた周波数では、周波数成分が除去される。これにより、通過帯域65の周波数成分を選択的に抽出し、その他の周波数成分を除去することができる。
【0180】
本実施形態では、上記したようにバンドパスフィルタ71の通過帯域65が、モータ30の回転数に応じた高調波成分63を除去することが可能なように設定される。具体的には、通過周波数fpが、モータ30の回転周波数の整数倍に設定される。
このように、バンドパスフィルタ71の通過周波数fpがモータ30の回転数(モータ30の速度)に基づいて設定されるため、モータ30の回転数が脈動すると、通過周波数fpも同様に脈動することになる。
【0181】
図17は、通過周波数fpが脈動するバンドパスフィルタ71を含む高調波除去部70の入力及び出力の一例を示すグラフである。ここでは、バンドパスフィルタ21を含む高調波除去部70についてのシミュレーション結果について説明する。
図17には、バンドパスフィルタ71の入力であるdq軸電流が実線のグラフで図示されており、dq軸電流が持つ本来のオフセット成分61が粗い点線のグラフで図示されている。dq軸電流は、高調波除去部70の入力である。
またバンドパスフィルタ71の入力から出力を減算した電流である第1フィルタ電流が細かい点線のグラフで図示されている。第1フィルタ電流は、高調波除去部70の出力である。なおグラフの横軸は時間[t]であり、縦軸は入力の最大値が1となるように規格化された電流値である。
また
図17では、高調波除去部70の入力(dq軸電流)及び出力(第1フィルタ電流)のオフセット成分61を、点線の矢印を用いて模式的に図示している。
【0182】
バンドパスフィルタ71に入力されるdq軸電流は、オフセット成分の値が0.5であり、30Hzで振動する正弦波である。さらにバンドパスフィルタ71の通過周波数fpも、dq軸電流と同様に30Hzで振動するように設定される。従ってバンドパスフィルタ71から出力される抽出電流は、30Hzで通過周波数fpが脈動するバンドパスフィルタ71に、30Hzで脈動するdq軸電流を通過させた結果となる。
【0183】
バンドパスフィルタ71の入力から出力を減算した第1フィルタ電流は、入力から30Hzの周波数成分(仮想的に設定された高調波成分63)を除去した電流である。例えばバンドパスフィルタ71において30Hzの周波数成分だけが抽出され、他の周波数成分に変化がなければ、第1フィルタ電流は、dq軸電流がもつ本来のオフセット成分61に一致するはずである。
【0184】
しかしながら、
図17に示すように、第1フィルタ電流は、dq軸電流が持つ本来のオフセット成分61とは異なる値になる。具体的には、第1フィルタ電流は、交流成分をオフセット成分61に重ね合わせた電流となる。このうち、交流成分は、例えばバンドパスフィルタ71において、通過周波数fpを振動させたために残った周波数成分である。
【0185】
一方、第1フィルタ電流のオフセット成分61は、dq軸電流のオフセット成分61とは一致しない。これは、バンドパスフィルタ71から出力される抽出電流に直流成分が含まれており、その直流成分が第1フィルタ電流を算出する際に本来のオフセット成分61から減算されたためであると考えられる。これは、上記の実施形態で説明したノッチフィルタ21の場合と同様の現象である。
つまり、バンドパスフィルタ71の入力と通過周波数fpとが同様に脈動する場合、高調波除去部70の出力である第1フィルタ電流のオフセット成分61は、高調波除去部70の入力であるdq軸電流のオフセット成分61をシフトした値となる。この時のシフト量を重畳成分Sと記載する(
図19参照)。
【0186】
このように、高調波除去部70の入力であるdq軸電流のオフセット成分61は、重畳成分Sが重畳される前の重畳前オフセット成分61aであり、高調波除去部70の出力である第1フィルタ電流のオフセット成分61は、重畳成分Sが重畳された後の重畳後オフセット成分61bである。
なお
図17に示す例では、第1フィルタ電流の重畳後オフセット成分61bが、dq軸電流の重畳前オフセット成分61aよりも大きい。この場合、バンドパスフィルタ71から出力される抽出電流に含まれる直流成分は、マイナスの値であると考えられる。
【0187】
これに対し、モータ制御装置200では、バンドパスフィルタ71、d軸電流減算器72d、及びq軸電流減算器72qにより構成される高調波除去部70の後段に、第1の実施形態と同様に、重畳成分除去部24が設けられる。これにより、高調波除去部70の出力に重畳成分Sが重畳される場合でも、重畳成分Sを適正に除去することが可能である。
【0188】
図18は、バンドパスフィルタ71のゲインとバンドパスフィルタ71に入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
図18に示すグラフの横軸は周波数[Hz]である。また左側の縦軸は、バンドパスフィルタ71に入力されるdq軸電流の振幅[A]であり、右側の縦軸は、バンドパスフィルタゲイン[dB]である。
dq軸電流には、オフセット成分61と、負荷脈動成分62と、高調波成分63とが含まれる。このうち、オフセット成分61は、重畳成分Sが重畳される前の重畳前オフセット成分61aである。
【0189】
図18に示す例では、バンドパスフィルタ71に入力されるdq軸電流に、2つの高調波成分63が出現している。各高調波成分63の周波数は、低い方から順にfh1及びfh2である。上記の実施形態で説明したように、高調波成分63の各周波数fh1及びfh2は、モータ30の回転周波数f0の整数倍であり、回転周波数f0を角速度で表した機械角速度ωmを用いて表される。例えば図中左側の高調波成分63の周波数fh1は、fh1=M1×ωm/2πとなる。また図中右側の高調波成分63の周波数fh2は、fh1=M2×ωm/2πとなる。
【0190】
この場合、バンドパスフィルタ71には、fh1及びfh2に出現する高調波成分63を抽出するために、2つの通過帯域65が設定される。例えば図中左側の通過帯域65の通過周波数fpはfh1に設定される。また、図中右側の通過帯域65の通過周波数fpはfh2に設定される。
これにより、モータ30の回転数(機械角速度ωm)に応じて周波数が変化する複数の高調波成分63がdq軸電流から抽出される。
【0191】
図19は、バンドパスフィルタ71から出力される電流の周波数成分を示す模式的なグラフである。
図19に示すグラフの横軸は周波数[Hz]であり、左側の縦軸は、バンドパスフィルタ71から出力される抽出電流の振幅[A]である。
抽出電流(抽出電流Ide及び抽出電流Iqe)には、バンドパスフィルタ71の通過帯域65を通過した高調波成分63に加え、オフセット成分61が含まれる。なお、抽出電流では、負荷脈動成分62が除去される。
【0192】
抽出電流のオフセット成分61は、バンドパスフィルタ71の入力と通過周波数fpとが同様に脈動する場合に、バンドパスフィルタ71によるフィルタ処理で発生する直流成分(重畳成分S)である。
図19では、重畳成分Sの大きさが縦軸で表されている。なお実際の重畳成分Sは、正負いずれの値もとり得るため、
図19に示す重畳成分Sの大きさは、実際の重畳成分Sの絶対値を表しているともいえる。
【0193】
図20は、ハイパスフィルタ26のゲインとハイパスフィルタ26に入力される電流の周波数成分とを示す模式的なグラフである。
図20に示すグラフの横軸は周波数[Hz]である。また左側の縦軸は、ハイパスフィルタ26に入力される電流(第1フィルタ電流Id1及び第1フィルタ電流Iq1)の振幅[A]であり、右側の縦軸は、ハイパスフィルタゲイン[dB]である。
【0194】
ハイパスフィルタ26に入力される第1フィルタ電流は、高調波除去部70から出力される電流である。すなわち、バンドパスフィルタ71の入力(
図18に示すdq軸電流)からバンドパスフィルタ71の出力(
図19に示す抽出電流)を減算した結果である。従って、第1フィルタ電流は、
図20に示すように、高調波成分63が除去された電流となる。一方で、第1フィルタ電流には、オフセット成分61(重畳後オフセット成分61b)及び負荷脈動成分62が残っている。
【0195】
第1フィルタ電流の重畳後オフセット成分61bは、dq軸電流の重畳前オフセット成分61aからハイパスフィルタ26によって生じる重畳成分Sを減算した値となる。例えば、重畳成分Sが負の成分である場合、
図20に示すように、第1フィルタ電流の重畳後オフセット成分61bは重畳前オフセット成分61aに比べ大きくなる。逆に、重畳成分Sが正の成分である場合、重畳後オフセット成分61bは重畳前オフセット成分61aに比べ小さくなる。いずれにしても、重畳後オフセット成分61bは、本来のオフセット成分である重畳前オフセット成分61aとは異なる値となる。
【0196】
重畳成分Sの分だけシフトした第1フィルタ電流のオフセット成分61は、ハイパスフィルタ26を通過することで除去される。なお、負荷脈動成分62は、モータ30の負荷の変動を表す周波数成分であり、モータ30の制御に必要である。このため、ハイパスフィルタ26では、負荷脈動成分62は除去せずに、オフセット成分61のみが除去される。
【0197】
ハイパスフィルタ26によって除去されたオフセット成分61は、dq軸電流の重畳前オフセット成分61aを抽出したローパスフィルタ25の出力を用いて復元される。すなわち、d軸電流加算器27d及びq軸電流加算器27qにより、ハイパスフィルタ26の出力(第3フィルタ電流Id3及び第3フィルタ電流Iq3)及びローパスフィルタ25の出力(第2フィルタ電流Id2及び第3フィルタ電流Iq2)が加算される。これにより、重畳前オフセット成分61aが復元されたフィルタ処理電流(フィルタ処理電流Idf及びフィルタ処理電流Iqf)を出力することが可能となる。
【0198】
<その他の実施形態>
本発明は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0199】
上記の実施形態では、主にモータの構造に起因する高調波成分を除去する点について説明したが、他の高調波成分に本発明が適用されてもよい。例えば、モータに対して過変調制御を行うと、dq軸電流に高調波成分が出現することがある。このような過変調制御によって生じる高調波成分に対してノッチフィルタやバンドパスフィルタを追加してもよい。このような場合であっても、本発明を用いることで、ノッチフィルタやバンドパスフィルタによって生じる重畳成分Sを除去することが可能である。
【0200】
図1及び
図15では、フィルタ処理部の各フィルタに機械角速度ωmが入力される構成について説明した。これに限定されず、例えば、フィルタ処理部の各フィルタに機械角速度ωmに代えて、推定角速度ωeが入力されてもよい。この場合、各フィルタにおいて推定角速度ωeを機械角速度ωmに変換してもよい。
【0201】
以上説明した本発明に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【符号の説明】
【0202】
Id…d軸電流
Iq…q軸電流
Id1、Iq1…第1フィルタ電流
Id2、Iq2…第2フィルタ電流
Id3、Iq3…第3フィルタ電流
Idf、Iqf…フィルタ処理電流
S…重畳成分
20…高調波除去部
21…ノッチフィルタ
24…重畳成分除去部
25…ローパスフィルタ
26…ハイパスフィルタ
27d…d軸電流加算器
27q…q軸電流加算器
30…モータ
61…オフセット成分
61a…重畳前オフセット成分
61b…重畳後オフセット成分
62…負荷脈動成分
63…高調波成分
100、200…モータ制御装置