(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108665
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】コンクリート打設型枠用シート
(51)【国際特許分類】
E04G 9/10 20060101AFI20240805BHJP
B28B 7/36 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
E04G9/10 101B
B28B7/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013139
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭太
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 忠洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛智
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】原田 匠
(72)【発明者】
【氏名】本田 亮
(72)【発明者】
【氏名】錦木 健二
【テーマコード(参考)】
2E150
4G053
【Fターム(参考)】
2E150AA21
2E150BA02
2E150MA11W
2E150MA15W
2E150MA32W
2E150MA34W
4G053BB13
4G053CA05
4G053CA21
(57)【要約】
【課題】コンクリートの美観及び品質を向上させることを可能としたコンクリート打設型枠用シートを提供する。
【解決手段】コンクリート打設型枠の表面に貼り付けて使用されるコンクリート打設型枠用シート1であって、シート基材2と、シート基材2の一方の面側に設けられた吸水層3とを備え、吸水層3は、塩化ビニル樹脂に高吸水性樹脂が含有されてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設型枠の表面に貼り付けて使用されるコンクリート打設型枠用シートであって、
シート基材と、
前記シート基材の一方の面側に設けられた吸水層とを備え、
前記吸水層は、塩化ビニル樹脂に高吸水性樹脂が含有されてなることを特徴とするコンクリート打設型枠用シート。
【請求項2】
前記高吸水性樹脂は、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物又はアクリル酸(塩)重合体であり、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5~25重量部の割合で含有されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート打設型枠用シート。
【請求項3】
前記塩化ビニル樹脂は、重合度が700~2000であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート打設型枠用シート。
【請求項4】
前記吸水層は、前記塩化ビニル樹脂に撥水剤が含有されてなることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート打設型枠用シート。
【請求項5】
前記撥水剤は、シリコーン系撥水剤であり、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5~5重量部の割合で含有されていることを特徴とする請求項4に記載のコンクリート打設型枠用シート。
【請求項6】
前記シート基材は、不織布又は織布、若しくは、前記塩化ビニル樹脂を含浸させた不織布又は織布であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート打設型枠用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設型枠用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンクリートの打設に際しては、コンクリートに含まれる水分を排水するために、型枠の表面に排水シートを貼り付けることが行われる(例えば、下記特許文献1,2を参照)。
【0003】
具体的に、下記特許文献1には、コンクリート型枠の表面に貼付し、コンクリートから水分及び空気を取り込んで外部に排出するための排水シートとして、コンクリートに面する側を前面側とした透水層と、透水層の背面側に設けた排水層とを備え、透水層と排水層との間に、スペーサ部を介して通気層を設けた構成が開示されている。
【0004】
一方、下記特許文献2には、コンクリート打設型枠の表面に貼り付けて使用されるコンクリート打設型枠用シートであって、シート基材と、シート基材の一方の面側に設けられた撥水層と、シート基材の一方の面側に設けられた吸水層と、少なくとも撥水層及びシート基材を貫通する複数の孔部とを備え、コンクリート打設型枠の表面側に吸水層が位置するように、コンクリート打設型枠の表面に貼り付けられる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-255323号公報
【特許文献2】特開2022-149369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の排水シートでは、コンクリートの表面に排水シートの模様が転写されたり、コンクリートに色ムラが発生したりするため、コンクリートの美観及び品質を損なうことがあった。
【0007】
また、上述した特許文献2に記載のコンクリート打設型枠用シートでは、コンクリートの表面に孔部の形状が転写されることによって、コンクリートの美観を損なうことがあった。一方、孔部の径を小さくすれば、孔部の痕を目立たなくすることが可能であるものの、透水性及び透気性が不十分となり、コンクリートの仕上がりが悪くなる。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、コンクリートの美観及び品質を向上させることを可能としたコンクリート打設型枠用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 コンクリート打設型枠の表面に貼り付けて使用されるコンクリート打設型枠用シートであって、
シート基材と、
前記シート基材の一方の面側に設けられた吸水層とを備え、
前記吸水層は、塩化ビニル樹脂に高吸水性樹脂が含有されてなることを特徴とするコンクリート打設型枠用シート。
〔2〕 前記高吸水性樹脂は、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物又はアクリル酸(塩)重合体であり、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5~25重量部の割合で含有されていることを特徴とする前記〔1〕に記載のコンクリート打設型枠用シート。
〔3〕 前記塩化ビニル樹脂は、重合度が700~2000であることを特徴とする前記〔1〕に記載のコンクリート打設型枠用シート。
〔4〕 前記吸水層は、前記塩化ビニル樹脂に撥水剤が含有されてなることを特徴とする前記〔1〕に記載のコンクリート打設型枠用シート。
〔5〕 前記撥水剤は、シリコーン系撥水剤であり、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5~5重量部の割合で含有されていることを特徴とする前記〔4〕に記載のコンクリート打設型枠用シート。
〔6〕 前記シート基材は、不織布又は織布、若しくは、前記塩化ビニル樹脂を含浸させた不織布又は織布であることを特徴とする前記〔1〕に記載のコンクリート打設型枠用シート。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、コンクリートの美観及び品質を向上させることを可能としたコンクリート打設型枠用シートを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコンクリート打設型枠用シートの構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
本発明の一実施形態として、例えば
図1に示すコンクリート打設型枠用シート1について説明する。
なお、
図1は、コンクリート打設型枠用シート1の構成例を示す断面図である。
【0014】
本実施形態のコンクリート打設型枠用シート1は、
図1に示すように、コンクリート打設型枠の表面に貼り付けて使用されるものであり、シート基材2と、シート基材2の一方の面側に設けられた吸水層3とを備えている。
【0015】
シート基材2は、不織布又は織布、若しくは、塩化ビニル樹脂を含侵させた不織布又は織布からなる。不織布又は織布としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの無機繊維や、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維などの有機繊維などが挙げられる。
【0016】
その中でも、強度の面から、ガラス繊維の不織布又は織布を用いることが好ましい。さらに、ガラス繊維の不織布の目付量は、30~200g/m2であることが好ましく、ガラス繊維の織布の目付量は、50~150g/m2であることが好ましい。
【0017】
これにより、塩化ビニル樹脂を含浸し易くなる他、柔軟性及び強度を十分に確保することが可能である。また、シート基材2の厚みは、0.20~0.50mmであることが好ましい。
【0018】
塩化ビニル樹脂は、シート基材2として充分な柔軟性を担保するために、重合度が700~2000である軟質塩化ビニル樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
軟質塩化ビニル樹脂としては、例えば、ゾル状又はペースト状のものを用いることができる。また、フタル酸系、アジピン酸系、リン酸系などの各種可塑剤を適宜配合してもよい。ポリ塩化ビニル樹脂の例としては、例えば、東ソー社製のペースト塩ビやカネカ社製のペーストPVC等が挙げられる。
【0020】
吸水層3は、塩化ビニル樹脂に高吸水性樹脂(SAP)を含有したものからなる。なお、SAPとは、一般に自重の数百倍から約千倍までの水を吸収又は保持できる高分子化合物を意味する。
【0021】
SAPとしては、例えば、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合体のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物、又はアクリル酸(塩)重合体が挙げられる。SAPの例としては、三洋化成工業製のサンレッシュシリーズ、日本触媒製のアクアリックCA等が挙げられる。
【0022】
また、SAPの粒子形状については、例えば、破砕タイプのものやパールタイプのものが挙げられる。また、SAPの粒径は、吸水層3の厚み以下であることが好ましい。SAPの粒径が吸水層3の厚みより大きいと、コンクリートの表面に色むらや剥がれが発生する可能性が高くなる。
【0023】
SAPは、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5~25重量部の割合で含有されていることが好ましく、より好ましくは1~20重量部、更に好ましくは2~15重量部である。
【0024】
これにより、余剰水を効果的に吸水することができ、コンクリートの表面にアバタや色むらが発生するのを抑制できる。一方、SAPの含有量が0.5質量部よりも少ないと、吸水性が低くなる。また、25質量部よりも多いと、吸水量が多くなり過ぎて、コンクリートの表面の一部が剥がれるおそれがある。更に加工性も劣る。
【0025】
吸水層3は、塩化ビニル樹脂に撥水剤を含有させてもよい。撥水剤としては、例えば、シリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤を用いることができる。その中でも、シリコーン系撥水剤を用いることが好ましい。撥水剤の例としては、例えば、日油製のモディパー、信越化学製のシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0026】
撥水剤は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.5~5重量部の割合で含有されていることが好ましい。これにより、吸水性能を補助すると共に、コンクリートの表面に色むら等が発生するのを抑制できる。
【0027】
吸水層3は、シート基材2の上に、ペースト状の塩化ビニル樹脂にSAPと撥水剤と混合した塗工ペーストを塗工した後、加熱炉を通過することで、シート基材2の表面に形成できる。
【0028】
吸水層3の厚みは、0.1~1mmであることが好ましく、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは0.3mm以下である。
【0029】
なお、吸水層3には、上述したSAPや撥水剤の他にも、例えば、安定剤や粘度調整剤、充填剤、難燃剤などを任意に含有させてもよい。
【0030】
以上のような構成を有する本実施形態のコンクリート打設型枠用シート1は、コンクリート打設型枠の表面側に吸水層3が位置するように、コンクリート打設型枠の表面に貼り付けられる。
【0031】
なお、コンクリート打設型枠用シート1には、コンクリート打設型枠の表面に貼り付けるために粘着層が設けられていてもよい。
【0032】
また、吸水層3は、凹凸構造を有して、その凸面がシート基材2の表面に接するように配置された構成であってもよい。
【0033】
本実施形態のコンクリート打設型枠用シート1では、上述した塩化ビニル樹脂にSAPと撥水剤とを含有させた吸水層3によって、型枠内に打設されたコンクリートと吸水層3との間で、水分を吸水層3側へと速やかに吸水させることが可能である。
【0034】
これにより、本実施形態のコンクリート打設型枠用シート1では、コンクリートの表面にシートの模様が転写されたり、コンクリートに色ムラが発生したりすることを防ぐことができる。すなわち、コンクリートの表面にアバタが発生するのを防ぎつつ、コンクリートの緻密化により強度を上げることが可能である。
【0035】
以上のようにして、本実施形態のコンクリート打設型枠用シート1を用いた場合には、コンクリートの美観及び品質を向上させることが可能である。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0037】
(実施例1)
実施例1では、シート基材として、厚みが0.3mm、目付量が150g/m2のガラス繊維不織布を用意した。また、吸水層として、重合度1200の塩化ビニル樹脂100重量部に対して、高吸水性樹脂として、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体からなる平均粒径30μmのSAPを0.5重量部と、撥水剤として、シリコーン系撥水剤を1重量部と、可塑剤として、フタル酸ジオクチル(DOP)を50重量部とを添加した塗工ペーストを用意した。
【0038】
実施例1では、シート基材の一方の面側に塗工ペーストを塗工した後、加熱炉を通過することで、シート基材の面上に吸水層を形成した。このとき、吸水層の厚みは、0.2mmであった。これにより、実施例1のコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0039】
(実施例2)
実施例2では、吸水層に2重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、吸水層に10重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0041】
(実施例4)
実施例4では、吸水層に15重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0042】
(実施例5)
実施例5では、吸水層に20重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0043】
(実施例6)
実施例6では、吸水層に25重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0044】
(実施例7)
実施例7では、吸水層に20重量部のSAPを添加し、撥水剤を0重量部とした以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0045】
(実施例8)
実施例8では、吸水層として、重合度740の塩化ビニル樹脂に、15重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0046】
(実施例9)
実施例9では、吸水層に15重量部のSAPと、0.5重量部の撥水剤とを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0047】
(実施例10)
実施例10では、吸水層に15重量部のSAPと、5重量部の撥水剤とを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0048】
(比較例1)
比較例1では、吸水層のSAPと、撥水剤とをそれぞれ0重量部とした以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0049】
(比較例2)
比較例2では、吸水層に0.1重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0050】
(比較例3)
比較例3では、吸水層に30重量部のSAPを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0051】
(比較例4)
比較例4では、吸水層に平均粒径380μmのSAPを10重量部添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0052】
(比較例5)
比較例5では、吸水層に0.1重量部の撥水剤とを添加した以外は、実施例1と同様にコンクリート打設型枠用シートを作製した。
【0053】
これら実施例1~10及び比較例1~5について、コンクリート打設型枠を用いてコンクリートの打設を行い、吸水性能、表面性(アバタ/色ムラ/剥がれ/打ち継ぎ線)、加工性について評価した。その結果をまとめたものを下記表1に示す。また、各評価基準を下記表2に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
なお、本評価試験では、縦横600mm、高さ1300mmの直方体状の型枠合板を組み立て躯体を作製した。また、600mm×1200mmのシートを躯体の底部から型枠合板に貼り付けた。(型枠合板の上部100mmにはシート無し。)その後、セメントを打設し、7日間養生した後に脱型した。
【0057】
表1に示すように、実施例1~10では、比較例1~5に比べて、吸水性能、表面性(アバタ/色ムラ/剥がれ/打ち継ぎ線)、加工性に対して良好な結果が得られた。