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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108666
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】カバー部材及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/00 20060101AFI20240805BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20240805BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G09F9/00 302
C03C17/34 Z
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013140
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】391012729
【氏名又は名称】株式会社ミクロ技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】吉川 実
(72)【発明者】
【氏名】玉置 勝也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一夫
【テーマコード(参考)】
4G059
5G435
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC08
4G059AC16
4G059EA01
4G059EA04
4G059EA05
4G059EA12
4G059GA01
4G059GA02
4G059GA12
4G059HB00
5G435AA04
5G435BB05
5G435BB12
5G435HH05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カバー部材の端部がオレンジ色等に発色するのを抑制したカバー部材を提供する。
【解決手段】表面3に反射防止膜4が成膜されたカバー部材1において、カバー部材1の端部10に外側へ向けて表裏非対称に突出した部分であって、最も突出した表面側の端部12がカバー部材1の厚さ方向に沿った中心Cより表面側に位置する突出部11を設け、カバー部材1の端部の表面側に成膜される反射防止膜4の膜厚を減少させた。その結果、カバー部材1の端部10がオレンジ色等に発色するのを抑制することが可能となった。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に反射防止膜が成膜されたカバー部材において、
前記カバー部材の端部に外側へ向けて表裏非対称に突出した部分であって、前記カバー部材の端部の表面側に成膜される前記反射防止膜の膜厚を減少させるように最外側の表面側の端部が前記カバー部材の厚さ方向に沿った中心より表面側に位置する突出部を設けたカバー部材。
【請求項2】
前記突出部は、前記カバー部材の表面の境界からの突出量が0.20mm以下である請求項1に記載のカバー部材。
【請求項3】
前記突出部の表面側がR形状に面取りされた曲線で構成されている請求項1に記載のカバー部材。
【請求項4】
前記突出部の表面側がC形状に面取りされた直線で構成されている請求項1に記載のカバー部材。
【請求項5】
前記突出部の表面側が直線と曲線の組み合わせから構成されている請求項1に記載のカバー部材。
【請求項6】
前記カバー部材の厚さが、0.5~2.5mmである請求項1~5のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項7】
前記カバー部材を構成する基板が、ガラス基板である請求項1に記載のカバー部材。
【請求項8】
前記ガラス基板が、強化ガラス基板である請求項7に記載のカバー部材。
【請求項9】
前記強化ガラス基板が、化学強化ガラスであり、圧縮応力層の厚さが5μm以上である請求項8に記載のカバー部材。
【請求項10】
前記強化ガラス基板が、化学強化ガラスであり、圧縮応力層の表面圧縮応力が500MPa以上である請求項8に記載のカバー部材。
【請求項11】
前記カバー部材を構成する基板が、合成樹脂製の基板であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項12】
前記カバー部材を構成する基板が、アンチグレア層を有する請求項1に記載のカバー部材。
【請求項13】
前記カバー部材を構成する基板が、防汚膜を有する請求項1に記載のカバー部材。
【請求項14】
前記アンチグレア層が、前記カバー部材を構成する基板の表面に形成された凹凸からなる請求項12に記載のカバー部材。
【請求項15】
前記アンチグレア層が、前記カバー部材を構成する基板の表面に形成された塗膜からなる凹凸である請求項12に記載のカバー部材。
【請求項16】
前記カバー部材が車載表示装置のカバー部材である請求項1に記載のカバー部材。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のカバー部材を有する表示装置。
【請求項18】
前記表示装置が車載表示装置である請求項17に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルや有機ELパネル等の表示パネルを用いた表示装置と組み合わせて使用されるカバーガラスなどのカバー部材及びカバー部材を用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カバー部材に関する技術としては、例えば、特許文献1等に開示されたものが既に提案されている。
【0003】
この特許文献1は、表示装置の表示パネルをカバーするカバーガラスであって、表示パネルに対向しない表面と、表示パネルに対向する裏面と、表面側の面取り部である表側面取り部と、裏面側の面取り部である裏側面取り部と、を備え、表側面取り部の表面粗さRaが100nm超であり、裏側面取り部の表面粗さRaが100nm以下であるように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2017-208995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、カバー部材の端部がオレンジ色等に発色するのを抑制したカバー部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載された発明は、表面に反射防止膜が成膜されたカバー部材において、
前記カバー部材の端部に外側へ向けて表裏非対称に突出した部分であって、前記カバー部材の端部の表面側に成膜される前記反射防止膜の膜厚を減少させるように最外側の表面側の端部が前記カバー部材の厚さ方向に沿った中心より表面側に位置する突出部を設けたカバー部材である。
【0007】
請求項2に記載された発明は、前記突出部は、前記カバー部材の表面の境界からの突出量が0.20mm以下である請求項1に記載のカバー部材である。
【0008】
請求項3に記載された発明は、前記突出部の表面側がR形状に面取りされた曲線で構成されている請求項1に記載のカバー部材である。
【0009】
請求項4に記載された発明は、前記突出部の表面側がC形状に面取りされた直線で構成されている請求項1に記載のカバー部材である。
【0010】
請求項5に記載された発明は、前記突出部の表面側が直線と曲線の組み合わせから構成されている請求項1に記載のカバー部材である。
【0011】
請求項6に記載された発明は、前記カバー部材の厚さが、0.5~2.5mmである請求項1~5のいずれか1項に記載のカバー部材である。
【0012】
請求項7に記載された発明は、前記カバー部材を構成する基板が、ガラス基板である請求項1に記載のカバー部材である。
【0013】
請求項8に記載された発明は、前記ガラス基板が、強化ガラス基板である請求項7に記載のカバー部材である。
【0014】
請求項9に記載された発明は、前記強化ガラス基板が、化学強化ガラスであり、圧縮応力層の厚さが5μm以上である請求項8に記載のカバー部材である。
【0015】
請求項10に記載された発明は、前記強化ガラス基板が、化学強化ガラスであり、圧縮応力層の表面圧縮応力が500MPa以上である請求項8に記載のカバー部材である。
【0016】
請求項11に記載された発明は、前記カバー部材を構成する基板が、合成樹脂製の基板であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のカバー部材である。
【0017】
請求項12に記載された発明は、前記カバー部材を構成する基板が、アンチグレア層を有する請求項1に記載のカバー部材である。
【0018】
請求項13に記載された発明は、前記カバー部材を構成する基板が、防汚膜を有する請求項1に記載のカバー部材である。
【0019】
請求項14に記載された発明は、前記アンチグレア層が、前記カバー部材を構成する基板の表面に形成された凹凸からなる請求項12に記載のカバー部材である。
【0020】
請求項15に記載された発明は、前記アンチグレア層が、前記カバー部材を構成する基板の表面に形成された塗膜からなる凹凸である請求項12に記載のカバー部材である。
【0021】
請求項16に記載された発明は、前記カバー部材が車載表示装置のカバー部材である請求項1に記載のカバー部材である。
【0022】
請求項17に記載された発明は、請求項1~16のいずれか1項に記載のカバー部材を有する表示装置である。
【0023】
請求項18に記載された発明は、前記表示装置が車載表示装置である請求項17に記載の表示装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カバー部材の端部がオレンジ色等に発色するのを抑制したカバー部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施の形態1に係るカバー部材を示す断面構成図である。
図2】本実施の形態1に係るカバー部材を示す平面構成図である。
図3】従来のカバー部材を示す断面構成図である。
図4】従来のカバー部材の端部における反射防止膜の膜厚を示す模式図である。
図5】従来のカバー部材の端部における発色の状態を示す色相図である。
図6】従来のカバー部材の端部における発色の状態を示す斜視構成図である。
図7】従来のカバー部材を示す断面構成図である。
図8】本実施の形態1に係るカバー部材の端部を示す拡大模式図である。
図9】本実施の形態1に係るカバー部材の端部の他の例を示す拡大模式図である。
図10】研磨装置を示す斜視構成図である。
図11】本実施の形態1に係るカバー部材の作用を示す断面構成図である。
図12】本実施の形態2に係るカバー部材を示す断面構成図である。
図13】本実施の形態2に係るカバー部材の変形例を示す断面構成図である。
図14】本実施の形態3に係るカバー部材の変形例を示す断面構成図である。
図15】実験例の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係るカバー部材を示す断面構成図である。
【0028】
本実施の形態1に係るカバー部材は、例えば、車等の移動体に搭載されるメーター類やナビゲーションシステムなどとして使用される液晶パネルや有機EL(Electro Luminescence)パネル等からなる表示装置の一例としての車載表示装置と組み合わせて使用される。
【0029】
ただし、カバー部材が組み合わせられる表示装置としては、車載表示装置に限定されるものではなく、工作機械や自動販売機等における液晶パネルや有機ELパネル等からなる表示装置、パーソナルコンピュータやテレビ、家電製品の表示部などの固定配置型のディスプレイ、更にはスマートフォンや携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、タブレット、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯型の表示装置を広く含むものである。
【0030】
本実施の形態1に係るカバー部材1は、大別して、図1に示されるように、基材の一例としての透明基板2と、透明基板2の表面3に設けられた(成膜された)反射防止膜4とを備えている。
【0031】
ここで、透明基板2の表面3とは、カバー部材1が車載表示装置などの表示装置と組み合わせて使用される場合、表示装置が配置される側と反対側の面(図中、上側の面)を意味する。また、透明基板2の裏面5とは、カバー部材1が車載表示装置などの表示装置と組み合わせて使用される場合、表示装置が配置される側の面(図中、下側の面)を意味する。
【0032】
カバー部材1を構成する透明基板2としては、特に限定されるものではなく、少なくとも可視光を透過する各種の透明な基板を使用することができる。また、透明基板2は、完全に透明(透過率100%)である必要はなく、可視光を透過するものであれば良い。透明基板2としては、例えば、ガラス基板や合成樹脂製の基板等の各種基板が挙げられる。ガラス基板を構成するガラス材料としては、例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス等の各種ガラス材料を利用することができる。ただし、ガラス基板を構成するガラス材料は、これらに限定されるものではなく、他のガラス材料を用いても良いことは勿論である。
【0033】
カバー部材1の透明基板2は、ガラス材料からなるものに限定されるものではなく、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の透明な合成樹脂からなるもの、あるいは2種以上の合成樹脂製の透明基板を溶着等の手段により貼り合わせたものであっても良い。
【0034】
カバー部材1を構成する透明基板2の厚さは、例えば、0.5~2.5mm程度に設定される。透明基板2の厚さが0.5mm未満である場合には、表示装置がタッチパネルとしての機能を兼ね備えているとき、透明基板2が押圧力によって破損する虞れを生じ、逆に透明基板2の厚さが2.5mmを超える場合には、表示装置がタッチパネルとしての機能を兼ね備えているとき、透明基板2の表面3を押圧することにより操作する際に応答性などの操作性が低下する虞れを生じるため望ましくない。ただし、透明基板2が破損する虞れや操作性が低下する虞れを回避できる場合は、上述した値に限定されるものではなく、0.5mmより薄いものであっても、2.5mmより厚いものであっても良い。
【0035】
透明基板2をガラス基板で構成する場合は、例えば、強化ガラスが用いられる。強化ガラスは、物理強化ガラスあるいは化学強化ガラスのいずれからなるものであっても良いが、ガラス基板の強度や製造工程の容易性等を考慮すると化学強化ガラスを用いるのが望ましい。
【0036】
化学強化ガラスは、圧縮応力層の厚さが5μm以上であることが望ましい。化学強化ガラスの圧縮応力層の厚さが5μm未満であると、ガラス基板の強度が不十分となる虞れがある。また、化学強化ガラスは、圧縮応力層の表面圧縮応力が500MPa以上であることが望ましい。圧縮応力層の表面圧縮応力が500MPa未満であると、やはりガラス基板の強度が不十分となる虞れがある。
【0037】
カバー部材1は、透明基板2の表面3に図示しないアンチグレア(防眩)層を有するものであることが望ましい。アンチグレア層は、透明基板2の表面3にエッチングやサンドブラスト等の処理を施したり、あるいはアンチグレア層を構成する塗膜をランダムに塗布することにより所定の表面粗さを有する微細な凹凸を形成することによって設けられる。
【0038】
また、カバー部材1は、タッチパネルとしての機能を兼ね備えた表示装置と組み合わせて使用されることなどを考慮すると、最表面に防汚膜を有するものであることが望ましい。カバー部材1が防汚膜を有する場合、防汚膜は、カバー部材1の最表面つまり反射防止膜4の表面に設けられる。
【0039】
カバー部材1は、表示装置の形状に対応した形状に設定される。本実施の形態1に係るカバー部材1は、図2に示されるように、例えば、縦方向の辺よりも横方向の辺が長い横長の平面矩形状に形成されている。ただし、カバー部材1の形状は任意であり、横長の平面矩形状に限定されるものではなく、平面正方形状や縦長の平面矩形状、あるいは平面台形状、さらには湾曲した曲面形状などであっても良いことは勿論である。カバー部材1は、その上端部に位置する左右の角部6,7が湾曲形状に形成されている。
【0040】
なお、透明基板2の裏面5には、図2に示されるように、その外周縁に縁取りを形成する(装飾を加える)加飾部8が設けられている。透明基板2の加飾部8は、当該透明基板2の外周縁を全周にわたり覆うよう所要の幅(例えば、10mm程度)を有する帯状に形成されている。加飾部8の内周に位置する平面矩形状の開口部9は、図示しない表示装置の表示領域に対応している。本実施の形態1では、加飾部8の材料として、熱硬化型の顔料ブラックインクを用い、スクリーン印刷で加飾部8を形成している。ただし、加飾部8の材料としては、熱硬化型の顔料ブラックインクに限定されるものではなく、色も黒色以外の色に設定しても良いことは勿論である。
【0041】
透明基板2の表面3に設けられる反射防止膜4は、反射防止効果を奏するものであればその構造や材料は特に限定されるものではない。反射防止膜4は、カバー部材1が表示装置と組み合わせて使用される際など、表示装置の表面における光の反射を防止乃至低減することで、表示装置の視認性を向上させることに寄与する。
【0042】
反射防止膜4は、例えば、屈折率が相対的に高い材料からなる高屈折率層と屈折率が相対的に低い材料からなる低屈折率層とを積層した状態で形成することによって、カバー部材1の表面3ひいては表示装置の表面での光の反射を防止乃至低減する。高屈折率層と低屈折率層は、それぞれ1層ずつ含む形態であっても良いが、それぞれ2層以上含むものであっても良い。高屈折率層と低屈折率層を2層以上含むものである場合は、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した形態であることが好ましい。反射防止膜に要求される反射防止の効果と生産性を考慮すると、高屈折率層と低屈折率層の積層数は、合計して2層以上6層以下であることが好ましい。高屈折率層及び低屈折率層の材料は、特に限定されるものではなく、要求される反射防止の効果や生産性等を考慮して選択される。高屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化ニオブ(Nb25)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸化タンタル(Ta25)から選択された1種以上を好ましく利用できる。また、低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)を好ましく利用できる。
【0043】
反射防止膜4は、透明基板2の表面3に当該反射防止膜4を構成する複数の材料をスパッタリング等の手法により高屈折率層及び低屈折率層として順次積層した状態で成膜することによって形成される。
【0044】
反射防止膜4を形成するスパッタリングは、薄膜形成に用いられる物理的気相成長法(Physical Vaper Deposition)の1種である。反射防止膜4を構成する材料であるターゲットと透明基板2を設置した真空状態のチャンバ内に、アルゴン(Ar)等の不活性ガスを導入することにより、不活性ガスであるアルゴン(Ar)は、ターゲット側を陰極として高電圧を印加することでアルゴンイオン(Ar)となる。そして、アルゴンイオン(Ar)が陰極であるターゲットに引き寄せられてターゲットに衝突することで、反射防止膜4を構成する材料であるターゲットの原子や分子が叩き出されて、透明基板2の表面3に付着することにより反射防止膜4を構成する薄膜が形成される。
【0045】
反射防止膜4は、このようなスパッタリング等の工程を当該反射防止膜4の高屈折率層及び低屈折率層を構成する材料であるターゲットを変えて複数回繰り返すことで、屈折率の異なる複数の反射防止膜4を構成する薄膜が順次積層された状態で形成される。
【0046】
スパッタリング等の工程を実施する際に透明基板3が設置されるチャンバは、例えば、直径の大きな円筒形状に形成される。チャンバの内部においては、複数の透明基板2を垂直に起立させた状態で円筒形状のチャンバの内周面に沿って回転するよう移動させる間に、透明基板2の表面3に反射防止膜4を構成する複数の層をスパッタリング等の手段によって順次積層した状態で成膜していく。また、透明基板3が設置されるチャンバは、直線状に形成される。直線状に形成されたチャンバの内部においては、複数の透明基板2を垂直に起立させた状態で直線状に移動させる間に、透明基板2の表面3に反射防止膜4を構成する複数の層をスパッタリング等の手段によって順次積層した状態で成膜していく。
【0047】
ところで、透明基板2の表面3に反射防止膜4を構成する複数の層を形成するスパッタリングの工程は、基本的に、アルゴン(Ar)等の不活性ガスのイオンであるアルゴンイオン(Ar)が陰極であるターゲットに引き寄せられてターゲットに衝突することで、ターゲットの原子や分子が叩き出されて透明基板2の表面3に例えば垂直な方向に積層された状態で付着することで反射防止膜4を形成する薄膜が順次形成される。その結果、透明基板2の表面3に反射防止膜4を構成する薄膜が順次形成されことで、透明基板2の表面3に所定の層構成及び所定の厚さを有する反射防止膜4が最終的に形成される。
【0048】
しかしながら、従来のカバー部材1では、図3に示されるように、透明基板2の表面3に反射防止膜4を形成する際に、反射防止膜4を構成する材料が透明基板2の表面3のみならず透明基板2の表面3以外の端部10へも回り込んで付着して積層される。そのため、従来のカバー部材1は、図4及び図5に示されるように、透明基板2の端部10に付着した反射防止膜4が特定の波長の光等を反射又は吸収し、図6に示されるように、透明基板2の主として表面側の端部10がオレンジ色等に発色(着色)して見え、カバー部材1の外観品質を低下させるという技術的課題を有していた。なお、図4は透明基板2の端部10に付着する反射防止膜4の膜厚を示しており、図5は当該反射防止膜4の膜厚に応じて透明基板2の端部10がどのような色彩に発色するかを示す色相図である。また、図6は、透明基板2の端部10がオレンジ色に発色する状態を透明基板2の表面側から見た斜視図である。
【0049】
更に説明すると、本発明者らは、透明基板2の端部10に形成される反射防止膜4の膜厚に起因して、カバー部材1の端部10がオレンジ色等の発色するメカニズムを見出した。
【0050】
透明基板2の端部10に入射する光線は、透明基板2の端部10に形成される反射防止膜4において波長に応じて選択的に反射又は吸収され、反射防止膜4の膜厚が当該反射防止膜4の本来の膜厚に近い値(100~90%)である場合は、透明基板2の端部10に形成される反射防止膜4がすべての波長の可視光を反射乃至吸収して透明あるいは青色等を呈して人間の目には色として認識されない。
【0051】
ところが、透明基板2の端部10において、当該透明基板2の端部10の形状にしたがって回り込んで付着する反射防止膜4の膜厚が目標とする膜厚の80~50%程度まで減少すると、透明基板2の端部10に形成される反射防止膜4が紫色から赤、あるいはオレンジ色に発色し、人間の目には総じてオレンジ色等として視認されることがわかった。
【0052】
なお、このような技術的課題は、透明基板2の端部10を曲面状に形成した場合に限られるものではなく、図7に示されるように、透明基板2の端部10を直線状に面取りした場合でも同様に発生する。
【0053】
カバー部材1の端部10がオレンジ色等に発色すること自体は、カバー部材1の性能、例えば、カバー部材1によって保護される表示装置の視認性等に影響を及ぼすものではないが、本来無色であるはずのカバー部材1の端部10がオレンジ色等の色彩を呈することで、カバー部材1の構成や構造上に何らかの問題があると看做される虞れもあり、製品としてのカバー部材1の外観品質を低下させることになる。
【0054】
そこで、この実施の形態1に係るカバー部材は、かかる技術的課題を解決するため、表面に反射防止膜が成膜されたカバー部材において、カバー部材の端部に外側へ向けて表裏非対称に突出した部分であって、カバー部材の端部の表面側に成膜される反射防止膜の膜厚を減少させるように最外側の表面側の端部がカバー部材の厚さ方向に沿った中心より表面側に位置する突出部を設けるよう構成したものである。
【0055】
すなわち、この実施の形態1に係るカバー部材1は、図1に示されるように、カバー部材1を構成する透明基板2の端部10に、当該透明基板2の表面3に沿った方向の外側(図中、左側)へ向けて断面形状が表面3側と裏面5側で表裏非対称に突出した突出部11を設けるよう構成している。
【0056】
この透明基板2の突出部11は、カバー部材1の端部10における表面側の面11aに成膜される反射防止膜4の膜厚を減少させるように、最も外側に位置する最外側の表面側の端部(最突出部)12がカバー部材1の厚さ方向に沿った中心Cより表面側に位置している。
【0057】
突出部11における最も外側に位置する最外側の表面側の最突出部12は、最も外側に位置する部位であり、透明基板2の断面形状を見た場合、点状に存在する。しかし、突出部11における最突出部12は、実際上、ある程度の面積を有していても良く、あるいは透明基板2の厚さ方向に沿って所定の面積を有するものであっても良い。
【0058】
透明基板2の突出部11は、その表面側の面11a及び裏面側の面11bを構成する部分が曲線のみあるいは直線のみ、更には曲線と直線の組み合わせのいずれから構成されるものであっても良い。
【0059】
実施の形態1に係るカバー部材1は、図1及び図8に示されるように、透明基板2の突出部11の表面側の面11a及び裏面側の面11bを構成する部分が曲線のみで構成されている。
【0060】
更に説明すると、突出部11の表面側の面11aは、図8に示されるように、曲率半径R1を裏面側の曲率半径R2に比較して相対的に小さく(R1<R2)設定し、結果的に曲率(1/R2)が裏面側より相対的に大きな曲面として形成するよう構成されている。ここでは、例えば、曲率半径R1が1.2mm、曲率半径R2が2.6mm、L1が0.038mm、L2が0.20mmにそれぞれ設定されている。
【0061】
透明基板2の突出部11の表面側の面11aは、透明基板2の表面3の端部側の境界13と突出部11の最突出部12とを曲線で接続するよう外側へ向けて凸形状に突出した湾曲形状に形成されている。
【0062】
透明基板2の突出部11の表面側の面11aは、透明基板2の表面3の端部側の境界13から突出部11の最突出部12までの距離L1が短く、かつ透明基板2の突出部11が中心Cから離れた距離Dが長いほど、面積が小さくなり、結果的に突出部11の表面側の面11aに付着する反射防止膜4の厚さが薄くなり望ましい。ただし、突出部11の表面側の面11aにおける境界13の成す角度が90度に近くなると、突出部11の表面3側の角度が鋭角化することに繋がり、安全性上問題となる場合がある。
【0063】
円弧形状の曲線の中心を透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cよりも表面側にずらす所定の距離Dとしては、例えば、透明基板2の表面3と中心Cとの間隔の1/2あるいは1/2より大きな値に設定される。ただし、円弧形状の曲線の中心Oを透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cよりも表面側にずらす距離Dは、透明基板2の表面と中心Cとの間隔の1/2に限定されるものではなく、これよりも小さくても大きくても良いことは勿論である。
【0064】
また、透明基板2の突出部11の裏面側の面11bは、透明基板2の裏面5の端部側の境界14と突出部11の最突出部12とを曲線で接続するよう外側へ向けて凸形状に突出した湾曲形状に形成されている。突出部11の裏面側の面11bは、上述したように、表面側の曲率半径R1より曲率半径R2が大きく設定されている。
【0065】
そのため、透明基板2の突出部11の表面側の面11aは、透明基板2の表面3の端部側の境界13から突出部11の最突出部12までの距離L1が裏面側に比較して短く、突出部11の裏面側の面11bは、透明基板2の裏面5の端部側の境界14から突出部11の最突出部12までの距離L2が長く設定されている。
【0066】
なお、透明基板2の端部10に突出部11を研磨工程等により形成する際の加工性、加工工具の製造容易性などを考慮すると、突出部11の表面側の面11a及び裏面側の面11bを構成する曲線は、図9に示されるように、例えば、連続した同一の曲率半径を有する円弧形状に形成しても良い。この突出部11の表面側の面11a及び裏面側の面11bを構成する曲線として単一の円弧形状の曲線を採用する場合は、上述したように、円弧形状の曲線の中心を透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cよりも表面側に所定の距離Dだけずらすよう設定される。
【0067】
本実施の形態1では、ガラス基板からなる透明基板2の端部を研磨する研磨装置として次に示されるような装置を使用し、透明基板2の端部10に外側へ向けて断面形状が表裏非対称に突出した突出部11を設けるように構成されている。
【0068】
研磨工程前の透明基板2は、図9に示されるように、例えば、ガラス基板の端部10が略90度にカットされた形状に形成されている。
【0069】
透明基板2の端部を研磨する研磨装置は、透明基板2の端部10に設けられる突出部11の断面形状に対応した外周形状21を有する金属製の円筒形状に形成された研磨部材20を備えている。研磨部材20の外周面には、ダイヤモンド等の研磨材からなる研磨層が形成されており、当該研磨部材20を高速で回転させるよう構成されている。
【0070】
透明基板2は、その端部10を研磨部材20の回転軸に直行する方向から当該研磨部材20の研磨面に押し当てるとともに、当該透明基板2をその外周に沿って移動させることにより、該透明基板2の端部10が全周にわたり研磨部材20の研磨面に倣った形状に研磨される。
【0071】
カバー部材1は、透明基板2の端部10に突出部11が設けられた後、透明基板2の表面に反射防止膜4が形成される。
【0072】
<カバー部材の作用>
以上の構成において、本実施の形態1に係るカバー部材では、次のようにして、カバー部材の端部がオレンジ色等に発色するのを抑制することが可能となっている。
【0073】
すなわち、本実施の形態1に係るカバー部材1は、図1に示されるように、透明基板2の端部10に断面形状が表裏非対称に形成された突出部11を、透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cよりも表面3側に距離Dだけずらして設けるように構成されている。
【0074】
その結果、本実施の形態1に係るカバー部材1は、図11に示されるように、透明基板2の表面3に反射防止膜4を形成する際に、当該反射防止膜4を構成する材料の一部が端部10の表面側に付着するが、透明基板2の端部10には、表裏非対称に形成された突出部11が透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cよりも表面3側に距離Dだけずらして設けられているため、突出部11の表面側に位置する面11aの面積は、突出部11が透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cに位置する場合に比べて小さくなる。
【0075】
しかも、本実施の形態1に係るカバー部材1は、突出部11の表面側に位置する面11aの曲率半径R1が裏面側に位置する面11bの曲率半径R2より小さく設定されている。そのため、上述したように、突出部11を透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cよりも表面3側に距離Dだけずらして設けることに加えて、表面側に位置する面11aの曲率半径R1が小さく設定されているため、突出部11の表面側に位置する面11aの面積を従来に比較して大幅に小さくすることが可能となる。
【0076】
その結果、本実施の形態1に係るカバー部材1は、透明基板2の表面3に反射防止膜4を形成する際に、当該反射防止膜4を形成する材料が透明基板2の突出部11の主として表面側11aに付着したとしても、当該透明基板2の突出部11の面積が小さく、且つ突出部11の突出量L1も大幅に小さいため、表面側11aに付着する反射防止膜4の厚さが相対的に薄くなる。
【0077】
したがって、カバー部材1は、透明基板2の端部10に反射防止膜4を構成する材料が付着しても、目標とする膜厚の50~70%程度に積層される領域がほとんど存在しないか、存在しても極僅かであるため、透明基板2の端部10がオレンジ色等に発色するのを防止乃至抑制することができる。
【0078】
実験例
本発明者らは、本実施の形態1に係るカバー部材1の効果を確認するため、図1に示されるようなカバー部材を試作し、透明基板2の突出部11の突出量を0.20mm、0.15mm、0.11mm、0.04mmと種々変化させた場合に、透明基板2の端部10がどのように発色して観察者に視認されるかを確認する実験を行った。
【0079】
なお、比較例として、図3に示されるように、透明基板2の端部10に表裏非対称の突出部11を設けずに突出量が0.25mmであるカバー部材を用いた。
【0080】
図15は、上記実験例及び比較例の結果を示した図表である。
【0081】
この図15から明らかなように、本実験例のカバー部材1は、いずれも透明基板2の端部10の視認結果が良好であり、従来のように透明基板2の端部10がオレンジ色に発色して問題となることがなかった。したがって、透明基板2の端部10の突出量は、0.20mm以下であることが望ましく、0.15mm以下であることがより望ましく、0.10mm以下であることが最も望ましい。なお、図15中の濃淡レベルは、人間の目にオレンジ色に発色していると見えるか否かを10段階で評価したものであり、「10」が人間の目にオレンジ色に発色していると全く見えない場合、「1」が人間の目にオレンジ色に発色していると明らかに見える場合、「9」~「2」は人間の目にオレンジ色に発色していると見える程度が順次増加する場合である。
【0082】
ただし、透明基板2の突出部11の突出量が0.20mmであると、端部10の表面側の一部がオレンジ色に発色する現象が見られた。また、透明基板2の突出部11の突出量が0.15mm、0.11mmと減少すると、端部10の表面側の一部がオレンジ色に発色する現象が徐々に低減し、透明基板2の突出部11の突出量が0.04mmであると、端部10の表面側の一部がオレンジ色に発色する現象が肉眼ではまったく見られなくなった。
【0083】
[実施の形態2]
図12は本発明の実施の形態2に係るカバー部材を示す断面構成図である。本実施の形態2に係るカバー部材は、透明基板の突出部の断面形状が曲線のみからなるものではなく、曲線と直線の組み合わせからなるように構成されている。
【0084】
すなわち、本実施の形態2に係るカバー部材1は、図12に示されるように、透明基板2の端部10に設けられる突出部11が、実施の形態1の突出部11の表面側の面11aと同様に、曲率半径が小さい円弧状の曲線から構成されており、最突出部12の下方に表面側の面11aと連続した円弧状の曲線が形成された後、その下部が直線状に形成されている。また、透明基板2の端部10は、その裏面5側に大きく直線状にカットしたC面が設けられている。
【0085】
本実施の形態2に係るカバー部材1においても、透明基板2の端部10に設けられる突出部11は、最突出部12が透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cより表面側に変位した位置に設けられている。
【0086】
したがって、透明基板2の突出部11は、その裏面側に位置する面11bが最突出部12の下方に設けられた僅かな曲線部とそれに続く相対的に長い直線部と、直線部の下方に位置する大きく直線状にカットされたC面とから構成されている。
【0087】
本実施の形態2に係るカバー部材1は、上述した実施の形態1に係るカバー部材1と同様に、突出部11の表面側に位置する面11aの面積が従来に比較して大幅に小さく、当該突出部11の表面側に位置する面11aに反射防止膜4を構成する材料が付着したとしても極僅かであり、透明基板2の端部がオレンジ色等に発色するのを防止乃至抑制することができる。
【0088】
図13は、本実施の形態2に係るカバー部材1の変形例であり、突出部11の表面側に位置する面11aが曲線状ではなく、直線状に小さくカットされたC面から構成されている。
【0089】
よって、最突出部12は、直線状に小さくカットされたC面の下方に位置する端部ということになる。最突出部12の下方に位置する面11bは、実施の形態1と同様に形成されている。
【0090】
本実施の形態2に係るカバー部材1の変形例の場合には、突出部11の表面側に位置する面11aの面積を実施の形態1に比較して大幅に小さく設定することが可能となり、透明基板2の端部がオレンジ色等に発色するのを略完全に防止することができる。
【0091】
その他の構成及び作用は、前記実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0092】
[実施の形態3]
図14は本発明の実施の形態3に係るカバー部材を示す断面構成図である。本実施の形態2に係るカバー部材は、透明基板の突出部の断面形状が曲線からなるものではなく、直線のみからなるように構成されている。
【0093】
すなわち、本実施の形態3に係るカバー部材1は、図14に示されるように、透明基板2の端部10に設けられる突出部11が、透明基板2の端部10の表面側の角部を直線状に小さくカットしたC面から構成されており、かつ透明基板2の端部10の裏面側の角部を直線状に大きくカットしたC面から構成されている。
【0094】
この場合、透明基板2の端部10に設けられる突出部11は、最突出部12が端部に平面形状に位置することになる。
【0095】
本実施の形態3に係るカバー部材1においても、突出部11が表裏非対称な形状に形成されており、最突出部12の表面側の端部12aは、透明基板2の厚さ方向に沿った中心Cより表面側に位置するという要件を満たしている。
【0096】
本実施の形態3に係るカバー部材1の場合には、突出部11が直線のみから構成されているため、突出部11を研磨加工する研磨装置の製造等が容易となる。
【0097】
その他の構成及び作用は、前記実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0098】
カバー部材の端部がオレンジ色等に発色するのを抑制したカバー部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0099】
1…カバー部材
2…透明基板
3…表面
4…反射防止膜
5…裏面
10…端部
11…突出部
12…最突出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15