(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108673
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】共晶セラミックス繊維およびその集合体
(51)【国際特許分類】
C30B 29/28 20060101AFI20240805BHJP
C30B 15/08 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C30B29/28
C30B15/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013155
(22)【出願日】2023-01-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】594081397
【氏名又は名称】株式会社超高温材料研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】井口 浩詠
(72)【発明者】
【氏名】大坪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】宮本 典史
(72)【発明者】
【氏名】宮内 良一
(72)【発明者】
【氏名】泉地 勇生
(72)【発明者】
【氏名】中川 成人
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA04
4G077AB09
4G077BB10
4G077BC24
4G077CF01
4G077CF02
4G077EA02
4G077PC02
(57)【要約】
【課題】引張強度が高く、高温の大気中に長時間曝露されても組織が粗大化し難い共晶セラミックス繊維を提供する。
【解決手段】共晶セラミックス繊維は、Y
3Al
5O
12マトリックスと、それに分散して存在するロッド状のY
2O
3含有立方晶ZrO
2とからなる。Y
3Al
5O
12マトリックスは連続相であり、ロッド状のY
2O
3含有立方晶ZrO
2は共晶セラミックス繊維の長手方向に配向している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y3Al5O12マトリックスと、前記Y3Al5O12マトリックスに分散して存在するロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2と、からなる共晶セラミックス繊維であって、前記Y3Al5O12マトリックスが連続相であり、前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2が前記共晶セラミックス繊維の長手方向に配向している共晶セラミックス繊維。
【請求項2】
前記Y3Al5O12マトリックスが単結晶であることを特徴とする請求項1に記載の共晶セラミックス繊維。
【請求項3】
前記共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な面における、隣接する前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2間の平均距離が、0.2~0.7μmであることを特徴とする請求項1に記載の共晶セラミックス繊維。
【請求項4】
前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2が、HfO2を含むことを特徴とする請求項1に記載の共晶セラミックス繊維。
【請求項5】
前記共晶セラミックス繊維の繊維径が、20~70μmであることを特徴とする請求項1に記載の共晶セラミックス繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の共晶セラミックス繊維を含む、共晶セラミックス繊維の集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共晶セラミックス繊維およびその集合体に関する。より詳しくは、本発明は、ガスタービン部材等に適用される高温構造用セラミックス複合材料の強化用繊維等その他広範な用途に使用されるセラミックス繊維およびその集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン部材等に適用される高温構造用セラミックス複合材料の強化用繊維としては、市販品では、ニカロン(登録商標)またはチラノ繊維(登録商標)等のSiC系繊維、およびネクステル(登録商標)等のAl2O3系繊維が挙げられる。しかし、SiC系繊維は、1300℃を超えるような温度では酸化による劣化が進みやすく、Al2O3系繊維は、1200℃を超えるような温度に長時間曝露されると、結晶粒の粒成長が進んで組織が粗大化し、劣化する。
【0003】
Al2O3系繊維等の酸化物繊維は、通常、微細結晶粒からなる多結晶体または非晶質体であり、酸化物ゾルまたは金属アルコキシド等の前駆体を紡糸し焼成して製造される。したがって、高温では、多結晶体の場合は結晶粒の粒成長が起きて、また非晶質体の場合は結晶粒の析出とその後の粒成長が起きて、繊維の劣化が進みやすい。
【0004】
例えば特許文献1には、従来の無機塩法やゾル-ゲル法による安定化ジルコニア繊維の製造方法では、得られる繊維が多結晶体であるので、高温で粒成長による劣化を起こしやすく、また、機械的強度等も充分ではないという課題が記されている。また、その課題を解決する手段として、アルコキシドを原料にした、アルカリ等の不純物が極めて少なく、また内包される炭素量を制御することによる非晶質構造を付与できる、連続ジルコニア繊維の製造方法が開示されている。しかし、この特許文献に示される非晶質構造を持つとされている結晶性が低いジルコニア繊維も、高温では、結晶化により結晶粒が析出すると予想されるので、結晶粒析出後に進行する結晶粒の粒成長を根本的に抑制できるわけではない。
【0005】
一方で、融液からの一方向凝固により製造される一部の共晶セラミックスが、結晶粒の集合組織を有する多結晶体の焼結セラミックスに比べて、機械的強度の温度依存性が小さいことに加えて、高温に長時間曝されても組織構造が変化し難いことが知られている。
【0006】
例えば非特許文献1には、ブリッジマン法で作製されたAl2O3/Er3Al5O12共晶複合材料と、焼結法で作製されたAl2O3/Er3Al5O12焼結複合材料との熱的安定性を比較した結果が示されている。より詳しくは、非特許文献1には、1973K(1700℃)で加熱されたAl2O3/Er3Al5O12焼結複合材料が、50時間加熱後には粒成長と曲げ強度の著しい低下とを示すのに対して、同じ組成のAl2O3/Er3Al5O12共晶複合材料が、500時間加熱後でも、組織構造の変化および曲げ強度の低下のいずれも認められないことが示されている。
【0007】
そこで、従来にない熱的安定性を持つセラミックス繊維の開発を目指して、このような共晶セラミックスの繊維化が試みられている。
【0008】
例えば特許文献2および非特許文献2には、Al2O3/Y3Al5O12共晶セラミックス繊維が開示されている。非特許文献2には、Al2O3/Y3Al5O12共晶セラミックス繊維の一例の組織構造が、1500℃の大気中で75時間加熱されてもほとんど変化しないことが示されている。
【0009】
また、非特許文献3には、Al2O3/Y3Al5O12共晶セラミックス繊維に加えて、Al2O3/Dy3Al5O12、Al2O3/Ho3Al5O12、Al2O3/Er3Al5O12、Al2O3/Tm3Al5O12、Al2O3/Yb3Al5O12、Al2O3/Lu3Al5O12、Al2O3/EuAlO3、およびAl2O3/GdAlO3の各共晶セラミックス繊維が開示されている。
【0010】
しかしながら、これら従来の共晶セラミックス繊維には、構造用セラミックス複合材料の強化用繊維として用いるには引張強度が低いという欠点がある。また、繊維の引張強度を高くするには、組織を微細化することが有効であるが、共晶セラミックス繊維であっても、組織構造が微細な場合は、高温に長時間曝されると組織構造の粗大化が進みやすくなるという問題もある。
【0011】
例えば非特許文献4には、以下の内容が示されている。すなわち、ブリッジマン法で作製されたAl2O3/Y3Al5O12共晶複合材料が1973K(1700℃)でも組織構造が安定であるとされている。これに対し、EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法で作製されたAl2O3/Y3Al5O12共晶繊維では、それより200℃低い1773K(1500℃)で結晶粒成長が起こるとされている。これらに着目して、アーク溶融法で作製したAl2O3/Y3Al5O12共晶複合材料の組織構造の高温安定性を調べている。その結果、その組織構造が、1873K(1600℃)の大気中での熱処理により変化したことが示されている。そして、非特許文献4では、EFG法で作製されたAl2O3/Y3Al5O12共晶繊維およびアーク溶融法で作製されたAl2O3/Y3Al5O12共晶複合材料の組織構造の高温安定性が、ブリッジマン法で作製されたAl2O3/Y3Al5O12共晶複合材料より劣ることの原因として、共晶組織のサイズが小さいことと、アーク溶融法で作製されたAl2O3/Y3Al5O12共晶複合材料については、それに加えて欠陥が多いことと、を挙げている。
【0012】
また非特許文献5には、サファイア/Y3Al5O12共晶繊維の結晶成長速度の高低、組織構造の大小および強弱(機械的強度の高低)の関係が図示されており、組織構造が大きいと弱い(機械的強度が低い)ことが示されている。さらに非特許文献5には、「Petchの関係(Hall-Petchの関係)によると、より微細な組織構造は、より強い繊維を与えるはずである。」と記されている。Hall-Petchの関係とは、多結晶体の降伏点または引張強度は結晶粒径が小さくなるほど大きくなる関係であり、その関係は以下の関係式で表される。非特許文献5では、共晶繊維においても、多結晶体と同様に、組織が大きくなれば引張強度が低くなることが示唆されている。
σy=σ0+kyd-1/2
d:結晶粒径
σy:結晶粒径dのときの降伏点または引張強度
σ0:基準とする降伏点または引張強度
ky:比例定数
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2015-094055号公報
【特許文献2】特開平11-278994号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】日本金属学会誌 第64号 第2号 (2000) 101-107
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.38(1999) pp.L55-L58
【非特許文献3】Journal of Crystal Growth, 218 (2000) 67-73
【非特許文献4】Journal of the Ceramic Society of Japan 109[1] 66-70 (2001)
【非特許文献5】Journal of Korean Association of Crystal Growth Vol.9,No.4(1999) 432-436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで本発明は、引張強度が高く、高温の大気中に長時間曝露されても組織が粗大化し難い共晶セラミックス繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた。そして、連続相である特定の化合物からなるマトリックスと、前記マトリックスに特定の配向をもって分散して存在するロッド状の特定の化合物とからなる特徴的な微細組織構造を持つ共晶セラミックス繊維が、高い引張強度を有し、高温の大気中に長時間曝露されても組織が粗大化し難いことを見出し、発明に至った。
【0017】
すなわち本発明は、Y3Al5O12マトリックスと、前記Y3Al5O12マトリックスに分散して存在するロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2とからなる共晶セラミックス繊維であって、前記Y3Al5O12マトリックスが連続相であり、前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2が前記共晶セラミックス繊維の長手方向に配向している共晶セラミックス繊維である。
【0018】
また本発明は、前記Y3Al5O12マトリックスが単結晶であることを特徴とする共晶セラミックス繊維である。
【0019】
また本発明は、前記共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な面における、隣接する前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2間の平均距離が、0.2~0.7μmであることを特徴とする共晶セラミックス繊維である。
【0020】
また本発明は、前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2が、HfO2を含むことを特徴とする共晶セラミックス繊維である。
【0021】
また本発明は、前記共晶セラミックス繊維の繊維径が、20~70μmであることを特徴とする共晶セラミックス繊維である。
【0022】
また本発明は、前記共晶セラミックス繊維を含む、共晶セラミックス繊維の集合体である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、引張強度が高く、高温の大気中に長時間曝露されても組織が粗大化し難い共晶セラミックス繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る共晶セラミックス繊維の製造に用いることができる坩堝の形状の一例を模式的に示した図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る共晶セラミックス繊維の製造に用いることができるマイクロ引き下げ装置における主要部の構造の一例を模式的に示した図である。
【
図3】本発明の一実施形態で得られた共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の低倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態で得られた共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の高倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態で得られた共晶セラミックス繊維の表面の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態で得られた共晶セラミックス繊維の長手方向に平行な断面の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す図である。
【
図7】比較例1の共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の低倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す図である。
【
図8】比較例1の共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の高倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す図である。
【
図9】参考例の共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の高倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「~」はその両端の数値を含む以上以下の範囲を意味する。
【0026】
〔共晶セラミックス繊維〕
本発明の一実施形態に係る共晶セラミックス繊維は、Y3Al5O12マトリックスと、前記Y3Al5O12マトリックスに分散して存在するロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2とからなる共晶セラミックス繊維である。
【0027】
前記Y3Al5O12マトリックスは連続相である。ここで「連続相」とは、巨視的に見て複数のドメインが存在しない相のことを意味する。「連続相」は、走査型電子顕微鏡観察等によってY3Al5O12マトリックス内部に明確な界面が確認されない相のことである。「連続相」は、特性に影響を与えない範囲であれば、Y3Al5O12マトリックス内部の一部に界面が確認される相を含み得る。
【0028】
また、前記Y3Al5O12マトリックスは、引張強度のバラツキを抑制する観点からは単結晶であることが好ましい。前記Y3Al5O12マトリックスが単結晶であることは、以下の方法によって確認することができる。すなわち、電子後方散乱回折(Electron Back Scattered Diffraction Pattern,以下「EBSD」と略記することがある)法により、共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面と、長手方向に平行で互いに直交する2つの断面のY3Al5O12マトリックスの結晶方位解析を行う。得られる結晶方位マップにより、Y3Al5O12マトリックスが単結晶であることを確認することができる。全ての断面における結晶方位マップにてY3Al5O12マトリックスが単色であることにより、Y3Al5O12マトリックスが単結晶であることが特定できる。
【0029】
前記Y2O3含有立方晶ZrO2は、本来ならば単斜晶系であるZrO2にY2O3が含まれることによりY原子がZr原子の一部を置換して、高温領域で相転移を起こさない立方晶系に安定化された結晶質物質である。
【0030】
前記Y2O3含有立方晶ZrO2はロッド状である。複数のY2O3含有立方晶ZrO2が連続相である前記Y3Al5O12マトリックスに分散して存在している。一部のY2O3含有立方晶ZrO2の表面の一部は、前記共晶セラミックス繊維の表面から露出していてもよい。
【0031】
また、前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2は、前記共晶セラミックス繊維の長手方向に配向している。ここで、「ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2が共晶セラミックス繊維の長手方向に配向している」とは、ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2の傾きの平均が、共晶セラミックス繊維の長手方向に対して15°以内にあることをいう。
【0032】
前記共晶セラミックス繊維の繊維径(直径)は、後述の坩堝の細孔径および引き下げ速度にて調節可能である。当該繊維径は、引張強度および可撓性の観点から300μm以下であることが好ましく、160μm以下であることがさらに好ましく、90μm以下であることがさらに好ましく、20μm以上70μm以下であることが特に好ましい。また、前記共晶セラミックス繊維は、連続紡糸が可能であるが、そのアスペクト比は、10以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、300以上であることが特に好ましい。
【0033】
前記共晶セラミックス繊維の繊維径は、LED投影方式の外径測定器(株式会社キーエンス製LS9006M)を使用して測定する。長さ25mmの繊維の中心(繊維の端から12.5mmの位置)、繊維の中心から両端に向かって5mmおよび10mmの位置の合計5箇所の外径を測定して、その平均値を前記共晶セラミックス繊維の繊維径とする。
【0034】
また、前記共晶セラミックス繊維は、前記セラミックス繊維の長手方向に垂直な面における、隣接する前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2間の平均距離が0.2~0.7μmであることが、高温曝露による組織粗大化の抑制と引張強度との両立の観点から好ましい。
【0035】
前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2間の平均距離は、本発明では、画像解析ソフトを使用して次のようにして求める。
【0036】
走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-IT500)を用いて、少なくとも500の独立したY2O3含有立方晶ZrO2が像内に含まれる共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な研磨断面の反射電子像を取得する。画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinROOF2018)を用いて、反射電子像内部のスケールバーにより画像解析ソフト内のスケールを較正する。その後、解析画像を256階調のグレースケールに置き換えて、カーネルサイズ5画素×5画素のメディアンフィルタによるノイズ除去を行い、256階調[0(暗)-255(明)]の165-255の階調に含まれる画素の抽出を行う。すなわち、抽出された画素は、Y2O3含有立方晶ZrO2に対応する。そして、抽出された各領域の重心座標を母点とするボロノイ領域を計算し、隣接するボロノイ領域の母点同士を結ぶ線分を描写する。解析画像内に描写された全ての線分の長さの算術平均を、前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2間の平均距離とする。
【0037】
また、前記Y2O3含有立方晶ZrO2は、HfO2を含むことができる。HfO2は、ZrO2と同形の酸化物で、類似する性質を持っている。したがって、前記共晶セラミックス繊維において、Hf原子が前記Y2O3含有立方晶ZrO2のZrサイトの少なくとも一部を置換することができる。ZrサイトがHf原子に置換されたロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2も、製造時にHfO2を添加しないY2O3含有立方晶ZrO2と少なくとも同等の効果を奏することが期待される。
【0038】
なお、前記共晶セラミックス繊維は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した成分以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。たとえば、前記共晶セラミックス繊維は、本発明の効果が得られる範囲であれば、製造の過程で混入する微量の他の元素をさらに含んでいてもよい。
【0039】
〔共晶セラミックス繊維の製造〕
前記共晶セラミックス繊維の製造方法について一例を挙げて説明する。
【0040】
前記共晶セラミックス繊維は、例えば、モル比でY2O3:Al2O3:ZrO2=36.80:51.95:11.25の組成物の融液を、一方向凝固法の一種であるマイクロ引き下げ法により一方向凝固させることにより製造することができる。ここで、マイクロ引き下げ法とは、下端に細孔が空いた坩堝内で原料を熔解して融液を細孔から流出させるとともに、坩堝下方に設置した種結晶を融液に接触させて坩堝下方に固液界面を形成しながら種結晶を引き下げることにより、融液から結晶を一方向に成長させる方法である。
【0041】
図1および
図2に、本発明の一実施形態に係る共晶セラミックス繊維の製造に用いることができる坩堝の形状およびマイクロ引き下げ装置の主要部の構造の一例を模式的に示す。以下、マイクロ引き下げ法による前記共晶セラミックス繊維の製造方法を説明する。
【0042】
前記共晶セラミックス繊維の製造には、
図1に示すような形状の坩堝を使用することができる。当該坩堝は、円筒状の直胴部1と、直胴部下端に直結した中空円錐状のテーパ部2と、テーパ部下端中央に円形の貫通孔が空いたノズル孔3とを備えている。坩堝の材質としては、Mo、W、Ir、およびこれらを主成分とする合金等の高融点金属が挙げられる。前記共晶セラミックス繊維の製造には、前記共晶セラミックス繊維の金属による汚染を抑制する観点、および坩堝のクリープ変形を抑制する観点から、これらのバランスが比較的良好なMo製坩堝を特に好適に用いることができる。
【0043】
図2に示すように、酸化物熔解原料を収容した前記Mo製坩堝をマイクロ引き下げ装置にセットして当該原料を熔融させ、前記共晶セラミックス繊維を製造する。前記共晶セラミックス繊維の製造に用いるマイクロ引き下げ装置には、Mo製の坩堝4と、当該坩堝の下方にMo製のアフターヒーター5と、それらを取り囲むように多孔質ZrO
2断熱材6が配置されている。多孔質ZrO
2断熱材6の側面の外側にはAl
2O
3管7が設置され、多孔質ZrO
2断熱材6およびAl
2O
3管7は石英管8に載置されている。
【0044】
Al2O3管7の外側に設置された高周波コイル9によりMo製の坩堝4が誘導加熱されることで坩堝4が直接加熱されて、坩堝4に収容された前記原料が熔融し融液10になる。そして、坩堝4の下方に設置した種結晶11を上昇させながら種結晶11に融液10に接触させ、坩堝4の下方に固液界面を形成しながら種結晶11を引き下げることにより融液10を一方向凝固させることで、前記共晶セラミックス繊維を製造することができる。この際、融液の一方向凝固時の固液界面近傍の温度勾配の調節は、Mo製のアフターヒーター5の高さおよびアフターヒーター5の上下方向の配置を変更することにより行うことができる。アフターヒーター5の側面には孔が空けられており、当該孔を介してCCDカメラにて坩堝4の下端および固液界面を観察しながらアフターヒーター5における高周波出力を調節し、融液10への種結晶11の接触および種結晶11の引き下げを行う。このようにして、前記共晶セラミックス繊維を製造することができる。
【0045】
この際の雰囲気を、Ar、または微量のH2を含んだAr+H2混合ガスとすることで、Mo製の坩堝4およびMo製のアフターヒーター5の酸化劣化をより抑制することができる。
【0046】
本発明においては、前述の通り、例えば、モル比でY2O3:Al2O3:ZrO2=36.80:51.95:11.25である組成物を前記酸化物熔解原料として用いることができる。また、HfO2を、ZrO2の一部に代えて用いることもできる。前記酸化物熔解原料の形態としては、粉末、成形体、焼結体または凝固体のいずれでもよいが、金属汚染抑制の観点からは焼結体または凝固体が好ましい。
【0047】
〔共晶セラミックス繊維の集合体〕
本発明の一実施形態に係る共晶セラミックス繊維の集合体は、前述した共晶セラミックス繊維を含む。前記集合体は、例えばセラミックス繊維のみの加工から構成される形態である。当該集合体の例には、共晶セラミックス繊維のウール、共晶セラミックス繊維のプレスによる板材またはシート材、共晶セラミックス繊維の撚り紐、不織布および織布が含まれる。
【0048】
〔まとめ〕
本発明の第一の態様に係る共晶セラミックス繊維は、Y3Al5O12マトリックスと、前記Y3Al5O12マトリックスに分散して存在するロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2と、からなる共晶セラミックス繊維であって、前記Y3Al5O12マトリックスが連続相であり、前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2が前記共晶セラミックス繊維の長手方向に配向している。
【0049】
本発明の第二の態様に係る共晶セラミックス繊維は、第一の態様において、前記Y3Al5O12マトリックスが単結晶である。
【0050】
本発明の第三の態様に係る共晶セラミックス繊維は、第一の態様または第二の態様において、前記共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な面における、隣接する前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2間の平均距離が0.2~0.7μmである。
【0051】
本発明の第四の態様に係る共晶セラミックス繊維は、第一の態様から第三の態様のいずれかにおいて、前記ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2がHfO2を含む。
【0052】
本発明の第五の態様に係る共晶セラミックス繊維は、第一の態様から第四の態様のいずれかにおいて、前記共晶セラミックス繊維の繊維径が20~70μmである。
【0053】
本発明の第六の態様に係る共晶セラミックス繊維の集合体は、第一の態様から第五の態様のいずれかの共晶セラミックス繊維を含む。
【0054】
本発明によれば、高い引張強度を有する高温構造用セラミックス複合材料の強化用繊維として好適な共晶セラミックス繊維およびその集合体を提供することができる。本発明は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」等の達成への貢献が期待される。
【0055】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせることによって得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0056】
以下に具体的な例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。
【0057】
〔実施例1〕
モル比でY2O3:Al2O3:ZrO2=36.80:51.95:11.25のY2O3粉末(純度99.99%)、Al2O3粉末(純度99.99%)およびZrO2粉末(純度98%)をエタノール中にてボールミル混合し、得られたスラリーから、加熱によりエタノールを除去して混合粉末を調製した。得られた混合粉末を直径15mm×高さ15mmの円柱状に加圧成形し、大気中1550℃で焼結させ熔解原料とした。
【0058】
一方で、
図2に示す形状のMo製坩堝を用意した。当該坩堝において、直胴部の外径/内径および高さが16mm/12mmおよび33mmであり、テーパ部の角度および下端の外径(以下「ダイ径」ということがある)が90°およびφ90μm(ノズル孔周りのMoの厚みが20μm)である。また当該坩堝のノズル孔の孔径はφ50μmである。なお、「テーパ部の角度」とは、当該坩堝の縦断面におけるテーパ部の坩堝内の面の延長線同士がなす角度である。熔解原料の焼結体を当該Mo製坩堝に収容し、
図2に示す構造のマイクロ引き下げ装置を用いて、Mo製坩堝を坩堝テーパ部の外側表面温度が1920℃になるまで加熱して焼結体を熔融させ、融液とした。
【0059】
次いで、融液の熔融状態を維持したまま、融液に[001]方位に配向したY3Al5O12単結晶を接触させてMo製坩堝の下方に固液界面を形成した。そして、Y3Al5O12単結晶を15mm/minの速度で引き下げながら融液を一方向凝固させて、長さ250mmの共晶セラミックス繊維を得た。同じ条件で合計3本の共晶セラミックス繊維を作製した。
【0060】
得られた全ての共晶セラミックス繊維について、その繊維径を、外径測定器(株式会社キーエンス製LS9006M)により各5箇所ずつ測定し、すべての値の平均値を実施例1の共晶セラミックス繊維の繊維径とした。
【0061】
得られた共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の低倍率の(視野内に断面全体が収まっている)走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図3に、当該断面の高倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図4に、それぞれ示す。また、得られた共晶セラミックス繊維の表面の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図5に、当該繊維の長手方向に平行な断面の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図6に、それぞれ示す。
図5および
図6において、図示の写真における横方向が繊維の長手方向である。これらの像は、相対的に暗いマトリックスと、マトリックスに分散して存在する相対的に明るいロッド状の相とからなっており、マトリックス内からはマトリックス同士の界面は観察されない。これらの像から、マトリックスが連続相であること、そして、共晶セラミックス繊維の表面にロッド状の相の一部が露出していることが確認された。
【0062】
得られた共晶セラミックス繊維は、粉砕試料(粉末)のX線回折パターンと、走査電子顕微鏡に装着されたエネルギー分散型X線分析装置(EDS)による元素分析との結果から、マトリックスがY3Al5O12で、ロッド状の相がY2Zr2O7またはY2O3含有立方晶ZrO2であることがわかった。そして、共晶セラミックス繊維の長手方向に対して垂直に繊維を切断し薄層化して作製した試料の、繊維の長手方向に垂直な面の走査透過電子顕微鏡観察にて得られたロッド状の相の電子回折パターンから、ロッド状の相はY2O3含有立方晶ZrO2と特定された。
【0063】
また、得られた共晶セラミックス繊維の結晶方位解析を、繊維の長手方向に垂直な断面を測定面としてEBSD法により実施した。繊維の長手方向に平行な方向をND(Normal Direction)、長手方向に垂直で互いに直交する2つの方向をRD(Reference Direction)およびTD(Transverse Direction)として結晶方位解析を実施した。得られた、ND、RDおよびTD各方向に垂直な3つの面の結晶方位マップにおけるY3Al5O12マトリックスが全て単色であったことから、得られた共晶セラミックス繊維のY3Al5O12マトリックスは単結晶であることが確認された。
【0064】
また、繊維の長手方向に対して垂直に繊維を切断し薄層化して作製した試料の、繊維長手方向に垂直な面の走査透過電子顕微鏡観察にて得られたマトリックスの電子回折パターンがY3Al5O12の[001]方位の回折図形と一致した。このことから、得られた共晶セラミックス繊維のマトリックスは単結晶であり、共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な面とY3Al5O12の(001)面が一致している、すなわちY3Al5O12の[001]方位に配向していることがわかった。
【0065】
得られた共晶セラミックス繊維の室温(25℃)における引張試験を、試長25mm、クロスヘッド速度2mm/minの条件にて実施した。共晶セラミックス繊維の断面積を、上述の通り算出した共晶セラミックス繊維の繊維径(直径)から求めて、実施例1の共晶セラミックス繊維の引張強度を算出した。
【0066】
また、得られた共晶セラミックス繊維を1500℃の大気中に50時間曝露して、曝露前後のロッド状Y2O3含有立方晶ZrO2のロッド間距離を測定した。そして、曝露前のロッド間距離に対する曝露後のロッド間距離の割合を算出し、ロッド間距離の変化とした。
【0067】
表1に、共晶セラミックス繊維の室温引張強度を、共晶セラミックス繊維の製造条件(坩堝のノズル孔径、坩堝のダイ径、種子結晶および引き下げ速度)、得られた共晶セラミックス繊維の構成相、繊維径、1500℃-50時間大気曝露前後のロッド状Y2O3含有立方晶ZrO2(表1中ではc-ZrO2と表記する)のロッド間距離およびロッド間距離の変化、ならびに、マトリックスの態様とあわせて記す。なお、表1に記す共晶セラミックス繊維の引張強度は、9本の試験片の引張強度の中央値とした。また、ロッド状のY2O3含有立方晶ZrO2のロッド間距離(表1中では「c-ZrO2ロッド間距離」と表記する)は、画像解析ソフトを使用する前述した方法によって求めた。
【0068】
室温引張強度は、共晶セラミックス繊維の用途に応じて適宜に設定し得るが、ここでは1.8以上であれば実用上問題ない、と判断する。また、1500℃50時間大気曝露後のロッド間距離の変化も、共晶セラミックス繊維の用途または使用条件に応じて適宜に設定し得るが、ここでは110%以下であれば実用上問題ない、と判断する。
【0069】
【0070】
〔実施例2~5〕
引き下げ速度を表1に記すように変更した以外は実施例1と同様にして実施例2~5の共晶セラミックス繊維を製造した。得られた共晶セラミックス繊維について、実施例1と同様にして繊維径および室温引張強度を測定し、繊維の構成相とマトリックスの態様を特定し、1500℃50時間大気曝露前後のY2O3含有立方晶ZrO2のロッド間距離を測定し、曝露後のロッド間距離の変化を算出した。結果を実施例1と同様に表1に示す。
【0071】
〔実施例6~9〕
坩堝のダイ径、ノズル径および引き下げ速度を表1に記すように変更した以外は実施例1と同様にして実施例6~9の共晶セラミックス繊維を製造した。得られた共晶セラミックス繊維について、実施例1と同様にして繊維径および室温引張強度を測定し、繊維の構成相とマトリックスの態様を特定し、1500℃50時間大気曝露前後のY2O3含有立方晶ZrO2のロッド間距離を測定し、曝露後のロッド間距離の変化を算出した。結果を実施例1と同様に表1に示す。
【0072】
〔比較例1〕
混合粉末の原料をモル比でAl2O3:Y2O3=82:18のY2O3粉末(純度99.99%)およびAl2O3粉末(純度99.99%)とし、焼結体の熔解温度をMo製坩堝の坩堝テーパ部の外側表面温度で1870℃とし、種結晶に[11-20]方位に配向したAl2O3単結晶を用いた以外は実施例1と同様にして比較例1の共晶セラミックス繊維を製造し、その繊維径および室温引張強度を実施例1と同様にして測定した。また、得られた共晶セラミックス繊維を実施例1と同様に1500℃の大気中に50時間曝露して、後述する方法により曝露前後の共晶セラミックスの組織構造サイズを数値化し、その変化を算出した。
【0073】
得られた共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の低倍率の(視野内に断面全体が収まっている)走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図7に、当該断面の高倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図8に、それぞれ示す。これらの像はラメラ状の共晶組織を呈しており、相対的に暗い相と、相対的に明るい相の二相からなっていることが確認された。得られた共晶セラミックス繊維について、粉砕試料(粉末)のX線回折パターンと、走査電子顕微鏡に装着されたエネルギー分散型X線分析装置(EDS)による元素分析の結果から、暗い相がAl
2O
3で、明るい相がY
3Al
5O
12であることがわかった。
【0074】
そして、比較例1の共晶セラミックス繊維については、以下の方法によりその組織サイズを数値化した。
【0075】
走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-IT500)を用いて、共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な研磨断面の反射電子像(視野サイズ:19.2μm×25.6μm)を取得した。画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinROOF2018)を用いて、反射電子像内部のスケールバーにより画像解析ソフト内のスケールを較正した。その後、反射電子像を256階調のグレースケールに置き換えて、カーネルサイズ5画素×5画素のメディアンフィルタによるノイズ除去を行い、256階調[0(暗)-255(明)]の0-128の階調に含まれる画素をクラス1、129-255の階調に含まれる画素をクラス2とする2値化を行った。すなわち、2値化された解析画像において、クラス1の領域をAl2O3に、クラス2の領域をY3Al5O12に対応させた。そして、2値化された解析画像の上に、5本の線形の解析領域を無作為に描写し、解析領域内におけるクラス1の領域とクラス2の領域の全ての境界点を抽出した。その後、各解析領域内において、隣接する境界点同士を結ぶ線分を描写した。ただし、前記線分の描写数の合計が50に満たない場合には、50以上になるまで解析領域を追加した。解析画像内に描写された全ての線分の長さの算術平均を、Al2O3-Y3Al5O12層間距離とした。
【0076】
表2に、得られた共晶セラミックス繊維の室温引張強度、1500℃50時間大気曝露前後の前記層間距離および曝露後の層間距離の変化を、その製造条件(坩堝のノズル孔径、坩堝のダイ径、種子結晶および引き下げ速度)、得られた共晶セラミックス繊維の構成相および繊維径とあわせて記す。
【0077】
【0078】
〔比較例2~9〕
坩堝のダイ径、ノズル径および引き下げ速度を表2に記すように変更した以外は比較例1と同様にして比較例2~9の共晶セラミックス繊維を製造した。得られた共晶セラミックス繊維について、比較例1と同様にして繊維径および室温引張強度および1500℃50時間大気曝露前後の前記層間距離を測定し、繊維の構成相を特定し、当該曝露後の層間距離の変化を求めた。結果を比較例1と同様に表2に示す。
【0079】
〔参考例〕
原料のZrO
2をHfO
2に換え、ZrO
2粉末(純度98%)に換えてHfO
2粉末(純度98%)を用いて混合粉末を調製し、焼結体の熔解温度をMo製坩堝の坩堝テーパ部の外側表面温度で1930℃とした以外は実施例7と同様にして本例の共晶セラミックス繊維を製造した。得られた共晶セラミックス繊維の長手方向に垂直な断面の高倍率の走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図9に示す。得られた共晶セラミックス繊維は、その構成相が「Y
3Al
5O
12/c-HfO
2」で表されるものであり、複数のロッド状のY
2O
3含有立方晶HfO
2が連続相である前記Y
3Al
5O
12マトリックスに分散して存在する組織構造を有していた。
【0080】
上記の結果から明らかなように、本例の共晶セラミックス繊維の組織構造は、Y3Al5O12マトリックスに分散して存在するロッド状の結晶相がY2O3含有立方晶ZrO2からY2O3含有立方晶HfO2に換わってはいるものの、実施例1~9の共晶セラミックス繊維の組織構造と同様の形態である。ZrとHfは、原子半径およびイオン半径がほぼ同じで、電子配置が非常に似ており、物理化学的性質も似ている。ZrとHfは、自然界において一緒に産出され、分離が非常に困難なことも知られている。故に、ZrとHfは同様の化合物を形成するし、また、それらの化合物の物理化学的性質も類似する。
【0081】
したがって、本例の共晶セラミックス繊維が、実施例1~9の共晶セラミックス繊維と同様の組織形態を持つことは推察できることであるし、1500℃50時間大気曝露後においても、実施例1~9の共晶セラミックス繊維と同様にロッド間距離の変化は小さくなると考えられる。本例と実施例7との対比によれば、本発明においてZrの全部または一部をHfに置き換え可能であり、Zrの一部または全部をHfに置き換えた構成もまた、少なくともZrの場合と同等の効果を奏すると考えられる。
【0082】
以上の通り、本発明の共晶セラミックス繊維は、従来の構成相および従来の微細組織構造からなる共晶セラミックス繊維と比較して、高い引張強度を有するとともに、高温の大気中に長時間曝露されても組織が粗大化し難いことが明らかである。
本発明の共晶セラミックス繊維は、ガスタービン部材等に適用される高温構造用セラミックス複合材料の強化用繊維として用いられる他、金属複合材料等様々な複合材料の強化用繊維としても用いられる。また、本発明の共晶セラミックス繊維のみを加工することにより、耐熱マットまたは耐熱ロープ等、多様な耐熱材料として、多様な用途に用いられる。