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特開2024-108693細胞培養容器用転写型、細胞培養容器用器材、細胞培養容器、及び細胞培養容器用転写型の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108693
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】細胞培養容器用転写型、細胞培養容器用器材、細胞培養容器、及び細胞培養容器用転写型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240805BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
B29C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013194
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
【テーマコード(参考)】
4B029
4F202
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA08
4B029GB10
4F202AF01
4F202AG05
4F202CA19
4F202CB01
4F202CB29
4F202CD02
4F202CD12
4F202CD22
4F202CL02
(57)【要約】
【課題】培養面の面積が大きく、かつ培養面に微細な凹凸パターンが形成された細胞培養容器を製造するために好適に用いることが可能な細胞培養容器用転写型を提供する。
【解決手段】細胞培養容器用器材の表面に凹凸パターンを形成するための細胞培養容器用転写型であって、2個以上の基板10が連結されてなり、基板10同士の隙間に充填剤30が充填され、基板10の表面に凹凸パターンが形成されている細胞培養容器用転写型。基板10の表面及び充填剤30に凹凸パターンが形成されていることが好ましい。基板10が基板10同士を固定するためのベース基板上に固定されていることが好ましい。充填剤30が接着剤であることが好ましく、接着剤がエポキシ接着剤又はUV硬化型接着剤であることより好ましい。基板10がシリコンからなることが好ましい。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養容器用器材の表面に凹凸パターンを形成するための細胞培養容器用転写型であって、
2個以上の基板が連結されてなり、前記基板同士の隙間に充填剤が充填され、前記基板の表面に前記凹凸パターンが形成されている
ことを特徴とする細胞培養容器用転写型。
【請求項2】
前記基板の表面及び前記充填剤に前記凹凸パターンが形成されていることを特徴とする請求項1記載の細胞培養容器用転写型。
【請求項3】
前記基板が、前記基板同士を固定するためのベース基板上に固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養容器用転写型。
【請求項4】
前記充填剤が、接着剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養容器用転写型。
【請求項5】
前記接着剤がエポキシ接着剤又はUV硬化型接着剤であることを特徴とする請求項4記載の細胞培養容器用転写型。
【請求項6】
前記基板がシリコンからなることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養容器用転写型。
【請求項7】
請求項1記載の細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って得られる電鋳金型であることを特徴とする細胞培養容器用転写型。
【請求項8】
請求項1記載の細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って得られる電鋳一次金型に対して電鋳加工を行って得られる電鋳二次金型であることを特徴とする細胞培養容器用転写型。
【請求項9】
前記電鋳加工が、ニッケル電鋳加工であることを特徴とする請求項7又は8記載の細胞培養容器用転写型。
【請求項10】
請求項1記載の細胞培養容器用転写型により表面に凹凸パターンが形成されてなることを特徴とする細胞培養容器用器材。
【請求項11】
請求項10記載の細胞培養容器用器材からなることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項12】
細胞培養容器用器材の表面に凹凸パターンを形成するための細胞培養容器用転写型の製造方法であって、
2個以上の基板を、前記基板同士を固定するためのベース基板上に固定し、
前記基板同士の隙間に充填剤を充填して前記充填剤を硬化させ、前記基板の表面上にはみ出した前記充填剤を除去して前記基板の表面を平坦化し、
前記基板の表面に前記凹凸パターンを形成する
ことを特徴とする細胞培養容器用転写型の製造方法。
【請求項13】
前記基板の表面及び前記充填剤に前記凹凸パターンを形成することを特徴とする請求項12記載の細胞培養容器用転写型の製造方法。
【請求項14】
前記基板を、前記基板同士を固定するためのベース基板上に固定することを特徴とする請求項12又は13記載の細胞培養容器用転写型の製造方法。
【請求項15】
前記充填剤が、接着剤であることを特徴とする請求項12又は13記載の細胞培養容器用転写型の製造方法。
【請求項16】
前記凹凸パターンをダイシングによって形成することを特徴とする請求項12又は13記載の細胞培養容器用転写型の製造方法。
【請求項17】
請求項12又は13記載の細胞培養容器用転写型の製造方法によって得られた細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って電鋳金型を作成する
ことを特徴とする細胞培養容器用転写型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術に関し、特に培養面に微細な凹凸パターンを有する細胞培養容器を製造するための細胞培養容器用転写型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、熱可塑性樹脂からなる袋状の細胞培養容器を用いて細胞を自動的に大量培養することが行われている。
【0003】
細胞を大量培養するためには、培養面の面積が大きい細胞培養容器を用いることが望ましい。また、細胞培養容器の培養面の面積をより大きくすると共に、その機能をより高性能化させるために、培養面に微細な凹凸パターンを形成することも望ましい。
ところが、培養面の面積が大きく、かつ培養面に微細な凹凸パターンが形成された細胞培養容器の製造は、容易には行うことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6075103号公報
【特許文献2】特願2021-120664号
【特許文献3】特許第5102731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培養面に微細な凹凸パターンを形成させる方法としては、熱可塑性フィルムの表面に凹凸パターンを形成させるための平板状又はベルト状の金型を押し当てて加熱加圧する熱転写法や、凹凸パターンを形成させるための冷却ロール表面に溶融させた樹脂材料を接触させて成型する方法などがある。
これらの方法は、通常サイズの培養面を有する細胞培養容器を製造する場合には利用可能であるものの、大判サイズの培養面を有する細胞培養容器を製造する場合には、容易に適用できないという問題があった。
【0006】
すなわち、大判サイズ(例えば1000cm2)の培養面に凹凸パターン構造を形成するためには、それに合った大判サイズの金型が必要となり、金型の製造コストが膨大になるという問題があった。
一方、大判サイズの一体物の金型を使用せずに、複数の小さい金型を並べて使用することにより分割して培養面を加工する方法や、小さい金型を複数回に分けて使用することにより分割して培養面を加工する方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、このように分割して培養面を加工すると、金型の境目に軟化した樹脂が流れ込むことによって大きな突起が発生し、また金型の周縁部において樹脂が流れ出すため複数回に分けて使用した金型の間や金型の周縁部に対応する部位の樹脂が薄くなり、亀裂が発生し易くなるという問題が生じていた。
【0008】
このような亀裂の生じるリスクは、細胞培養容器の製造においては重大な問題であり、また培養面に大きな突起が生じると、培地の送液が妨げられるという問題があった。さらに、培養面に突起部があると培地を排出する際に細胞培養容器内の培地の液厚を突起部の高さよりも小さくすることができないため、培地交換における培地の消費量が多くなってしまうという問題もあった。
【0009】
特に、樹脂が薄くなるという問題は、ある程度の厚みが許容されるものであれば器材を厚くすることによって亀裂の発生を防止できるために問題とはならないが、例えば袋状の細胞培養容器の場合は容器壁面のガス透過性を高める必要があるため、器材の厚みをできるだけ薄くしたいという要請がある。このため、細胞培養容器の製造においては、亀裂の生じるリスクが重大な問題となっていた。
【0010】
ここで、特許文献1には、大判サイズの培養面に凹凸パターンを形成することが可能なエンドレスベルト状金属金型が開示されている。しかしながら、このようなベルト状の金型製作は高額であり、また凹凸パターンが形成されたフィルムを金型から剥がすときに樹脂が切れるリスクがあった。
また、細胞培養容器の培養面の凹凸パターンとして、深さが0.5mm程度のものを形成させる場合があり、それを実現するためのエンドレスベルト状金型の厚みは、最低でも0.5mmが必要になるところ、このような厚い金属ベルトは剛性が高くなるため、通常のロール径(300mm)に巻き付けることができなかった。
さらに、エンドレスベルト状金型による転写では、熱可塑性フィルムをベルトに接触させ加熱加圧しながら回転させ、その後ベルトに接触させながら徐冷させる。
しかしながら、このような徐冷を行うと、熱可塑性フィルムの樹脂の結晶化が進んでしまい、ガス透過性を30%程度悪化させてしまうという問題もあった。
【0011】
特許文献2は、本発明者によってなされた発明に関するものであり、図11に示すように、細胞培養容器用器材700に凹凸パターンを形成する凸部を備えた一次金型600と、細胞培養容器用器材700の表面の一部を平坦化するための凸部を備えた二次金型800を使用することによって、複数の金型を並べて使用して培養面に凹凸パターンを加工する場合における突起の発生や、亀裂が発生し易くなるという問題を解消している。
しかしながら、この手法では、二次金型800と、培養面の突起部710や薄肉部720の平坦化工程が必要であり、また平坦化される部分730が培養を行えないデッドスペースとなってしまっていた。
【0012】
そこで、本発明者は鋭意研究して、これらの問題を解消することの可能な細胞培養容器用転写型を開発し、本発明を完成させた。
具体的には、2個以上の基板が連結されてなり、基板同士の隙間に接着剤が充填され、基板の表面及び前記接着剤に凹凸パターンが形成されている細胞培養容器用転写型を開発した。
このような細胞培養容器用転写型によれば、培養面の面積が大きく、かつ培養面に微細な凹凸パターンが形成された細胞培養容器を、培養面に突起部や薄肉部を有することなく、また突起部や薄肉部が平坦化された部分がなく、ガス透過性が損なわれることのない細胞培養容器を製造することが可能となる。
【0013】
ここで、特許文献3には、複数の金型を並べて配置し、金型の表面に形成された微細パターンを転写する技術が開示されている。しかしながら、この技術は、大画面の液晶ディスプレイを製造するためのナノオーダーの表示素子に関するものであるため、本発明が目的とするサイズの凹凸パターンを有する培養面を備えた細胞培養容器の製造に適用することはできなかった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、培養面の面積が大きく、かつ培養面に微細な凹凸パターンが形成された細胞培養容器を製造するために好適に用いることが可能な細胞培養容器用転写型、細胞培養容器用器材、細胞培養容器、及び細胞培養容器用転写型の製造方法の提供が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養容器用転写型は、細胞培養容器用器材の表面に凹凸パターンを形成するための細胞培養容器用転写型であって、2個以上の基板が連結されてなり、前記基板同士の隙間に充填剤が充填され、前記基板の表面に前記凹凸パターンが形成されている構成としてある。
【0016】
また、本発明の細胞培養容器用転写型を、前記基板の表面及び前記充填剤に前記凹凸パターンが形成されていることが好ましい。
また、本発明の細胞培養容器用転写型を、前記基板が、前記基板同士を固定するためのベース基板上に固定されている構成とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明の細胞培養容器用転写型を、前記充填剤が、接着剤である構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養容器用転写型を、前記接着剤がエポキシ接着剤又はUV硬化型接着剤である構成とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の細胞培養容器用転写型を、前記基板がシリコンからなる構成とすることが好ましい。
さらに、本発明の細胞培養容器用転写型は、上記の細胞培養容器用転写型における構成を様々に組み合わせた構成とすることも好ましい。
【0019】
また、本発明の細胞培養容器用転写型を、上記の細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って得られる電鋳金型である構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養容器用転写型を、上記の細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って得られる電鋳一次金型に対して電鋳加工を行って得られる電鋳二次金型である構成とすることが好ましい。
さらに、本発明の細胞培養容器用転写型を、前記電鋳加工が、ニッケル電鋳加工である構成とすることが好ましい。
【0020】
本発明の細胞培養容器用器材は、上記の細胞培養容器用転写型により表面に凹凸パターンが形成されてなる構成としてある。
本発明の細胞培養容器は、上記の細胞培養容器用器材からなる構成としてある。
【0021】
本発明の細胞培養容器用転写型の製造方法は、細胞培養容器用器材の表面に凹凸パターンを形成するための細胞培養容器用転写型の製造方法であって、2個以上の基板を、前記基板同士を固定するためのベース基板上に固定し、前記基板同士の隙間に充填剤を充填して前記充填剤を硬化させ、前記基板の表面上にはみ出した前記充填剤を除去して前記基板の表面を平坦化し、前記基板の表面に前記凹凸パターンを形成する方法としてある。
また、本発明の細胞培養容器用転写型の製造方法は、前記基板の表面及び前記充填剤に前記凹凸パターンを形成する方法とすることが好ましい。
【0022】
また、本発明の細胞培養容器用転写型の製造方法は、前記基板を、前記基板同士を固定するためのベース基板上に固定する方法とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養容器用転写型の製造方法は、前記充填剤が、接着剤である方法とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明の細胞培養容器用転写型の製造方法は、前記凹凸パターンをダイシングによって形成する方法とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養容器用転写型の製造方法は、上記の細胞培養容器用転写型の製造方法によって得られた細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って電鋳金型を作成する方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、培養面の面積が大きく、かつ培養面に微細な凹凸パターンが形成された細胞培養容器を製造するために好適に用いることが可能な細胞培養容器用転写型、細胞培養容器用器材、細胞培養容器、及び細胞培養容器用転写型の製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の凹凸パターン形成前の斜視図(A)と長手方向中央の断面図(B)を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の凹凸パターン形成工程を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って電鋳金型を作成する工程を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の電鋳金型を用いて細胞培養容器用器材を作成する工程を示す説明図である。
図5】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の電子顕微鏡写真(A)と細胞培養容器用器材の電子顕微鏡写真(B)を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の変形例の凹凸パターン形成工程を示す模式図である。
図7】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の変形例を金型マスターとして、電鋳加工を行って電鋳金型を作成する工程を示す説明図である。
図8】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の変形例の電鋳金型を用いて細胞培養容器用器材を作成する工程を示す説明図である。
図9】本発明の実施形態に係る細胞培養容器用転写型の変形例の電子顕微鏡写真(A)と細胞培養容器用器材の電子顕微鏡写真(B)を示す図である。
図10】複数の基板同士を連結して凹凸パターンを形成した細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って得られた電鋳金型を示す説明図である。
図11】複数の一次金型を並べて使用して培養面に凹凸パターンを加工する場合に生じる突起部と薄肉部を二次金型により平坦化する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の細胞培養容器用転写型、細胞培養容器用器材、細胞培養容器、及び細胞培養容器用転写型の製造方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態の具体的な内容に限定されるものではない。
【0027】
本実施形態の細胞培養容器用転写型は、細胞培養容器用器材の表面に凹凸パターンを形成するための細胞培養容器用転写型であって、2個以上の基板が連結されてなり、前記基板同士の隙間に充填剤が充填され、前記基板の表面に前記凹凸パターンが形成されていることを特徴とする。
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型は、基板の表面及び充填剤に凹凸パターンが形成されていることが好ましい。
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型は、基板が、基板同士を固定するためのベース基板上に固定されていることが好ましい。
【0028】
具体的には、図1に示すように、本実施形態の細胞培養容器用転写型は、複数の基板10が、ベース基板20上に連結して固定されている。また、複数の基板10同士の隙間には、充填剤30が充填されている。なお、図1は、凹凸パターン形成前の状態を示している。
【0029】
図2(1)は、本実施形態の細胞培養容器用転写型の凹凸パターン形成前の拡大断面図を示しており、図2(2)は、同凹凸パターン形成後の拡大断面図を示している。
図2(2)に示すように、本実施形態の細胞培養容器用転写型は、基板10の表面及び充填剤30に凹凸パターンが形成されている。
【0030】
この凹凸パターンは、基板10の表面及び充填剤30において、各基板10の長軸方向(細胞培養容器用転写型の短軸方向)にV字型の溝形状に形成されており、複数の凸部11が山脈状(長方形の面を底面とした三角柱状)に並行して形成されている。
なお、本実施形態の細胞培養容器用転写型に形成されている凹凸パターンは、このような形状に限定されず、複数のウェルを備えた形状などその他の形状であってもよい。また、充填剤30と凹凸パターンの位置関係も図2の例に限定されないことは言うまでもない。後述する変形例においても同様である。
【0031】
本実施形態の細胞培養容器用転写型において、凹凸パターンは、パターンの間隔(ピッチ)及び凹部の深さが、いずれも100μm~500μmであることが好ましい。
凹凸パターンをこのような微細なものにすることにより、微細な凹凸パターンが形成された細胞培養容器用器材を作成することができ、微細な凹凸パターンを培養面に備えた細胞の大量培養に適する細胞培養容器を製造することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型において、基板10の材料としては、シリコンを用いることが好ましい。
基板10にシリコンを用いることで、基板10の表面にダイシングにより凹凸パターンを好適に形成させることが可能である。
なお、本実施形態の細胞培養容器用転写型において、ベース基板20の材料としては、特に限定されないが、例えば大判の金属プレートやガラス基板を好適に用いることができる。
【0033】
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型において、充填剤30としては、接着剤、穴埋め剤、コーティング剤、パテ等を用いることができ、特に接着剤を用いることが好ましい。接着剤としては、エポキシ接着剤又はUV硬化型接着剤を用いることが好ましい。
すなわち、これらの接着剤は耐熱性と硬化後の硬度に優れるため、凹凸パターンを適切に形成することが可能である。また、本実施形態の細胞培養容器用転写型を用いて熱転写法により細胞培養容器用器材に凹凸パターンを形成する場合に好適に用いることが可能である。
特に、エポキシ接着剤は、硬化後200℃まで耐えることが可能であり、シリコン基板同士の隙間に充填されている状態において、ダイシングの加工性が良好である。
【0034】
このような本実施形態の細胞培養容器用転写型によれば、熱可塑性フィルムからなる細胞培養容器用器材に押し当てて加熱加圧する熱転写法などによって、大面積で、かつ表面に凹凸パターンが形成された細胞培養容器用器材を好適に得ることが可能である。
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型によって得られた細胞培養容器用器材を用いることにより、培養面の面積の大きく、かつ培養面に凹凸パターンが形成された細胞培養容器を好適に得ることが可能となる。
【0035】
ここで、細胞培養容器用器材のガス透過性を高いレベルで維持するためには、転写直後に冷却プレートを押し付けるなどして急冷し、樹脂の結晶化を抑えてガス透過性を維持する処理を行うことが好ましい。
すなわち、本実施形態の細胞培養容器用器材は、細胞培養容器用転写型を熱可塑性フィルムに押し当てて加熱加圧し転写直後に冷却プレートを押し付けて急冷して樹脂の結晶化が抑えられてなるものであることが好ましい。
【0036】
本実施形態の細胞培養容器用器材の材料としては、例えば0.1mmの厚みのポリエチレンシートなどを用いることができる。
具体的には、細胞培養容器用器材の材料として、樹脂フィルムなどを好適に用いることができ、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。例えば、ポリエチレン、エチレンとα-オレフィンの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸やメタクリル酸共重合体と金属イオンを用いたアイオノマー等を挙げることができる。また、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等を用いることもできる。さらに、軟質塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマー、例えば、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)、フッ素系樹脂等を用いてもよい。
【0037】
本実施形態の細胞培養容器は、本実施形態の細胞培養容器用器材を2枚準備して、その培養面(凹凸パターンが形成された表面)が内側になるように重ね合わせて、周囲をヒートシールすることによって得ることができる。勿論、本実施形態の細胞培養容器用器材1枚と凹凸パターンが形成されていない樹脂フィルムを細胞培養容器用器材の培養面が内側になるように重ね合わせて、周囲をヒートシールすることによって得ることもできる。
【0038】
本実施形態の細胞培養容器を用いて培養する細胞は特に限定されず、浮遊性細胞、接着性細胞、スフェア(細胞塊)、又は数種類の細胞を凝集させて作成されるオルガノイドであってもよい。
【0039】
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型は、上述した細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って得られる電鋳金型とすることも好ましい。
本実施形態の細胞培養容器用転写型をこのような電鋳金型とすることによって、破損リスクが低減され、より丈夫な金型を得ることが可能となる。
【0040】
具体的には、図3(1)に示すように、2個以上の基板10が、基板10同士を固定するためのベース基板20上に固定されてなり、基板10同士の隙間に充填剤30が充填され、基板10の表面及び充填剤30に凹凸パターンが形成されている細胞培養容器用転写型を作成して金型マスターとする。この細胞培養容器用転写型は、シリコンからなる基板10をダイシング加工することによって好適に得ることができる。
【0041】
次に、図3(2)に示すように、Niスパッタリングを行うことによって、凹凸パターン上に薄膜層40を形成する。なお、スパッタリングは、Niスパッタリングに限定されず、例えばAuスパッタリングなどその他の方法で行うこともできる。
そして、図3(3)に示すように、薄膜層40上にニッケル電鋳加工を行うことによって、図3(4)に示すニッケルからなる電鋳金型50を得ることができる。
この電鋳金型50には、凹凸パターンとして複数の凸部51が山脈状(長方形の面を底面とした三角柱状)に並行して形成されている。
なお、電鋳金型50の凹凸パターンが形成された側の反対側は、図3(3)において図示していないが、凹凸パターンが形成された側とほぼ同様の凹凸パターンが形成され、研削や研磨処理により平坦化される。
【0042】
このようにして得られた電鋳金型50を用いて、凹凸パターンが形成された細胞培養容器用器材を得る工程を図4に示す。
図4(1)は、凹凸パターンを形成する側に熱可塑性フィルム60(例えばLLDPE)が積載台70に配置され、この熱可塑性フィルム60に対して電鋳金型50を用いて熱転写加工を行う様子を示している。また、図4(2)は、これによって得られた表面に凹凸パターンが形成された細胞培養容器用器材を示している。
なお、図4(1)において、電鋳金型50に代えて、図3(1)に示すシリコンからなる細胞培養容器用転写型を用いて、熱可塑性フィルム60に対して熱転写加工を行うことも勿論可能である。
【0043】
ここで、図5(A)は、実際に作成したシリコンからなる細胞培養容器用転写型(接着剤の層に並行にV字型の溝が形成されているもの)の電子顕微鏡写真を示す。
また、図5(B)は、実際に作成したシリコンからなる細胞培養容器用転写型(接着剤の層に垂直にV字型の溝が形成されているもの)の電子顕微鏡写真を示す。なお、図5(B)は、接着剤の層を200μm程度の幅広に作成した例の細胞培養容器用転写型の電子顕微鏡写真を示している。接着剤の層を幅広に作成する方が、加工の難易度は高くなっている。
【0044】
これらの写真に示されるように、本実施形態の細胞培養容器用転写型によれば、2個以上の基板が連結されてなり、基板同士の隙間に接着剤が充填されているものであっても、基板の表面及び接着剤に凹凸パターンを適切に形成することが可能となっている。
さらに、図5(C)は、細胞培養容器用転写型を用いて熱転写加工を行うことによって得られた細胞培養容器用器材の電子顕微鏡写真を示している。
【0045】
ここで、本実施形態の細胞培養容器用転写型を発明するに至るまでの過程について説明する。
細胞培養容器の培養面に形成することが要求される微細な凹凸パターンは、パターンの間隔(ピッチ)及び凹部の深さが、いずれも100μm~500μmである。
また、微細な凹凸パターンには、図5に示される急傾斜角度(例えば75°)を有するV字型の溝形状タイプのもの(接着細胞培養用)や、40μm幅で高さ300μmの薄い切り立った壁を有するウェルタイプのもの(細胞凝集塊(スフェア)培養用)などがあり、これらを形成できるように対応する必要がある。
【0046】
さらに、細胞を大量培養するために、細胞培養容器の培養面の面積を1000cm(363mm×272mm)とし、かつ培養面に形成する微細な凹凸パターンを均一で繋ぎ目がないものにしたいとの望みがあった。
すなわち、図11を参照して上述したとおり、培養面の繋ぎ目には突起部や薄肉部が形成されるところ、これらを平坦化することによって培養面に凹凸パターンが形成されていない平坦な繋ぎ目が形成されると、接着細胞は平坦な繋ぎ目を超えて面積の広い凹凸側に移動できず、部分的にコンフルエント状態(培養面積が狭くなり、接着細胞が培養面を覆いつくして窮屈になる状態)になるという問題があった。
【0047】
また、細胞凝集塊を培養する場合は、部分的にウェルがない部分が形成されると、凝集した細胞が細長く大きな繋がった塊が生じるという問題(本来、ウェルで区切られていれば数10個から数100個の細胞が凝集してほぼ球体になりサイズも揃う)があった。
このため、培養面に形成する微細な凹凸パターンを繋ぎ目なく形成することは非常に重要であった。
【0048】
微細な凹凸パターンを形成する方法は、いくつか存在している。
まず、ナノインプリントで広く活用されるレーザ直接描画がある。レーザ直接描画は、ナノオーダーから数μmレベルの非常に微細で複雑な形状加工には優れているが、加工時間が膨大であり、加工装置のランニングコストも高く、またレーザービームの照射で反応硬化させる加工方法であるため、深さ方向の加工限界があり、100μm以上の深さの加工は不可能であった。
【0049】
また、大きな金属プレートに対して先端が微細な工具で削る方法(シェーパー加工など)がある。
しかしながら、45度以上の急な角度の溝は、工具の摩耗が非常に大きく現実的には対応できず、40μm幅で深さ300μmの深い溝などは加工することができなかった。
【0050】
すなわち、細胞培養容器の培養面に形成することが要求される微細な凹凸パターンは、加工面積が270mm×121mm(1000cm(の1/3に相当する。)の場合で、X軸及びY軸方向に各1000ライン加工する必要がある。このため、加工を行うための工具の寿命としては、距離換算で約500m以上の連続加工をしても摩耗量が数μm以下であることが要求されるところ、これは現実的ではないという問題があった。
【0051】
そこで、本発明者は、シリコン基板をダイシング加工することによって、細胞培養容器の培養面に形成することが要求される微細な凹凸パターンを転写可能な細胞培養容器用転写型を作成することを試みた。
ダイシング加工は、ダイシングブレードと呼ばれるダイヤモンド砥粒をブレード内外に固着した薄い刃具で加工する方法である。ダイシングブレードは、ガラス等のセラミックや金属も加工できる。
【0052】
しかし、ガラス等のセラミックを加工するためのダイシングブレードは、メタルボンドやレジン(樹脂硬化)ボンドであり、これらのブレードは切削加工中にどんどん新しいダイヤを露出させる必要がある。このため、加工中に少しずつボンド材が摩耗脱落するように設計されている。
したがって、このようなダイシングブレードを用いることにより、切断加工は連続的に行えるが、ブレードの摩耗により形状維持ができず、細胞培養容器の培養面に形成することが要求される微細な凹凸パターンを形成することはできなかった。
また、金属材をダイシング加工すると、金属はガラスやシリコンに比べれば柔らかく、粘りがあるため、バリの発生が多く、同様に細胞培養容器の培養面に形成することが要求される微細な凹凸パターンを形成することはできなかった。
【0053】
このため、シリコン基板をNi電鋳ダイシングブレードでダイシング加工することによって、細胞培養容器の培養面に形成することが要求される微細な凹凸パターンを形成することとした。
すなわち、上述のダイシング加工の問題を解消して、要求される微細な凹凸パターンの形成を可能にする組み合わせとして最適であるのが、シリコン基板をNi電鋳ダイシングブレードで加工するという方法である。
【0054】
Ni電鋳ダイシングブレードは、ダイヤモンドを浮遊させたNiメッキ浴中でNiを堆積する方法で作られるブレードであり、上記のメタルやレジンのボンド材の機能をNi堆積層が果たしている。Ni電鋳ブレードの特徴は、ガラス等の切断性は悪いが、シリコン基板を切断用としては最適であり、一旦露出したダイヤ砥粒が長時間加工してもほとんど摩耗せず形状を維持できる。
【0055】
そして、このようにシリコン基板をNi電鋳ダイシングブレードでダイシング加工する方法によれば、急傾斜角度(例えば75°)を有するV字型の溝形状タイプの凹凸パターンや、40μm幅で高さ300μmの薄い切り立った壁を有するウェルタイプの凹凸パターンを形成することが可能であることが分かった。
なお、メタルボンドやレジンボンドのブレードでは、75°のV字型や40μmのような薄いブレードは製作できない。
また、Ni電鋳ダイシングブレードでシリコン基板を加工する場合は、1個のブレードで連続500m以上加工しても摩耗は数μmであるため、精度も安定しており、結果的に費用も安価となる。
【0056】
ところが、シリコン基板を用いる場合には、細胞培養容器の培養面の面積を1000cm(363mm×272mm)とし、かつ培養面に形成する微細な凹凸パターンを均一で繋ぎ目がないものにすることが困難であるという問題があった。
すなわち、シリコンは半導体材料として広く用いられており、サイズと形状が規格化されている。
現在一般的に使用されているシリコンウェハは、円形状(元となるシリコンインゴットがシリコン結晶の種をゆっくり引き上げて製造されるため円筒状であるため)で、直径12インチ(300mm)で厚み0.725mmのものが最大であり、それ以上のサイズのものを入手することは現実的ではない。
【0057】
そこで、細胞培養容器の培養面の面積を1000cm(363mm×272mm)とするために、細胞培養容器用転写型として272mm×121mmの基板を3枚連結したものを用いることにした。
しかしながら、このような細胞培養容器用転写型は、基板の間隔をいくら狭くして連結しても、隙間をゼロにすることはできず、10μm~20μmの隙間が発生し、この連結した細胞培養容器用転写型で転写加工を行うと、隙間に樹脂が流れ込み、細胞培養容器用器材の表面には突起が形成されてしまうという問題が生じた。
【0058】
次に、このようなシリコンからなる細胞培養容器用転写型をベースにして、ニッケル電鋳を行うことにより、ニッケルからなる電鋳金型の作成を試みた。
これによって、シリコン型を用いて転写加工を行う場合の破損のリスクを低減させ、丈夫な金型を使用可能にすると共に、電鋳加工をすることで型を接続した隙間の問題が解消されることを期待した。
【0059】
しかしながら、電鋳プロセスは、メッキ液の浸透性が非常に高く、10μm程度の隙間まで電鋳材が堆積してしまうことが分かった。
すなわち、図10に示すように、ベース基板200上に複数の基板100同士を連結して固定し、凹凸パターンを形成した細胞培養容器用転写型を金型マスターとした。そして、Niスパッタリングを行うことによって、凹凸パターン上に薄膜層400を形成し、薄膜層400上にニッケル電鋳を行うことによって、ニッケルからなる電鋳金型500を得た。
【0060】
その結果、電鋳金型500には、非常に大きな(0.5mm程度)ひだ上の突起部が形成された。
このため、このニッケルの突起部を除去することを試したが、10μm幅で高さが0.5mmもある突起の除去は困難であった。
【0061】
そこで、ダイシング加工によって除去することを試したが、ニッケル材は柔らかく、バリが非常に多くて使用できるレベルでの加工を行うことはできなかった。
以上のことから、ニッケル電鋳プロセスの前に、電鋳金型において突起部が生じない状態にすることが必要であると判断して、初めに基板を連結し、接着剤で基板同士の隙間を埋めた後に基板の表面及び接着剤に微細な凹凸パターンを加工する方法を案出するに至った。
【0062】
次に、本実施形態の細胞培養容器用転写型の変形例について説明する。
図6(1)は、本実施形態の細胞培養容器用転写型の変形例の凹凸パターン形成前の拡大断面図を示している。
図6(2)は、シリコンからなる基板10a及び充填剤30aに対してダイシング加工を行っている状態を示しており、10°のブレードで凹凸パターンが斜面状に加工され、基板10aの表面上にはみ出した充填剤30aが除去されている。
【0063】
図6(3)は、直角のブレードで基板10aに溝の加工が施され、凹凸パターンが形成された後の細胞培養容器用転写型の変形例の拡大断面図を示している。
この凹凸パターンでは、基板10aの表面及び充填剤30aにおいて、直方体及び略四角錐からなる複数の凸部11aが形成されている。
【0064】
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型の変形例は、上述した細胞培養容器用転写型の変形例を金型マスターとして、電鋳加工を行って得られる電鋳一次金型に対して電鋳加工を行って得られる電鋳二次金型とすることも好ましい。
【0065】
具体的には、図7(1)に示すように、2個以上の基板10aが、基板10a同士を固定するためのベース基板20a上に固定されてなり、基板10a同士の隙間に充填剤30aが充填され、基板10aの表面及び充填剤30aに凹凸パターンが形成されている細胞培養容器用転写型の変形例を作成して金型マスターとする。この細胞培養容器用転写型の変形例は、シリコンからなる基板10aをダイシング加工することによって好適に得ることができる。
なお、図7において、Niスパッタリングを行うことによって凹凸パターン上に形成する薄膜層については省略する。
【0066】
次に、図7(2)に示すように、ニッケル電鋳加工を行うことによって、図7(3)に示すニッケルからなる電鋳一次金型50aを得ることができる。
この電鋳一次金型50aには、凹凸パターンとして直方体及び略四角錐からなる複数の凹部51aが形成されている。
なお、電鋳一次金型50aの凹凸パターンが形成された側の反対側は研磨処理が行われて平坦化されている。
【0067】
また、図7(4)に示すように、電鋳一次金型50aに対してニッケル電鋳加工を行うことによって、図7(5)に示すニッケルからなる電鋳二次金型50bを得ることができる。
この電鋳二次金型50bには、凹凸パターンとして直方体及び略四角錐からなる複数の凸部51bが形成されている。
【0068】
このようにして得られた電鋳二次金型50bを用いて、凹凸パターンが形成された細胞培養容器用器材を得る工程を図8に示す。
図8(1)は、凹凸パターンを形成する側にコーティング層80a(例えばMPCポリマー)が塗布されている熱可塑性フィルム60a(例えばLLDPE)が積載台70aに配置され、この熱可塑性フィルム60aに対して電鋳二次金型50bを用いて熱転写加工を行う様子を示している。なお、コーティング層80aが塗布されていない熱可塑性フィルム60aに対して熱転写加工を行った後、凹凸パターンが形成された側にコーティング層80aを形成してもよい。
【0069】
また、図8(2)は、これによって得られた表面に凹凸パターン(複数のウェル)が形成された細胞培養容器用器材を示している。
なお、図8(1)において、電鋳二次金型50bに代えて、図7(1)に示すシリコンからなる細胞培養容器用転写型を用いて、熱可塑性フィルム60aに対して熱転写加工を行うことも勿論可能である。
【0070】
ここで、図9(A)は、実際に作成したシリコンからなる細胞培養容器用転写型の変形例の電子顕微鏡写真を示す。
この写真に示されるように、本実施形態の細胞培養容器用転写型によれば、2個以上の基板が連結されてなり、基板同士の隙間に接着剤が充填されているものであっても、基板の表面及び接着剤にウェル状の凹凸パターンを適切に形成することが可能となっている。
さらに、図9(B)に、細胞培養容器用転写型の変形例を用いて熱転写加工を行うことによって得られた細胞培養容器用器材の電子顕微鏡写真を示している。
【0071】
次に、本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法について説明する。
本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法は、細胞培養容器用器材の表面に凹凸パターンを形成するための細胞培養容器用転写型の製造方法であって、2個以上の基板を、基板同士を固定するためのベース基板上に固定し、基板同士の隙間に充填剤を充填して充填剤を硬化させ、基板の表面上にはみ出した充填剤を除去して基板の表面を平坦化し、基板の表面に凹凸パターンを形成することを特徴とする。
【0072】
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法は、基板の表面及び充填剤に凹凸パターンを形成することが好ましい。
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法は、基板を、基板同士を固定するためのベース基板上に固定することが好ましい。
【0073】
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法は、充填剤が、接着剤であることが好ましい。
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法は、凹凸パターンをダイシングによって形成することが好ましい。
【0074】
また、本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法は、上記の細胞培養容器用転写型の製造方法によって得られた細胞培養容器用転写型を金型マスターとして、電鋳加工を行って電鋳金型を作成することも好ましい。
本実施形態の細胞培養容器用転写型の製造方法における細胞培養容器用転写型及び細胞培養容器用器材の構成は、上述したものと同様である。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の細胞培養容器用転写型、及び細胞培養容器用転写型の製造方法は、培養面の面積が大きく、かつ培養面に微細な凹凸パターンが形成された細胞培養容器用器材、及び細胞培養容器を製造するために好適に用いることが可能である。
【0076】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。例えば、図7の例では充填剤30aが10°のブレードによる加工の斜面途中に位置しているが、充填剤30aの位置はこれに限定されず、充填剤30aが溝加工部に位置するように凹凸パターンを加工してもよい。また、凹凸パターンは、充填剤30aによる基板10aの接着面に対して平行や垂直な方向に加工するのみならず、斜めの方向に加工してもよい。さらに、細胞培養容器用転写型を構成する基板の枚数を変えるなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、大判サイズの培養面を有する細胞培養容器を製造するために好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
10,10a 基板
11,11a 凸部
20,20a ベース基板
30,30a 充填剤
40 薄膜層
50,50a,50b 電鋳(一次,二次)金型
51 凸部
51a 凹部
51b 凸部
60,60a 熱可塑性フィルム
70,70a 積載台
80a コーティング層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11