(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108694
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】シャープペンシル
(51)【国際特許分類】
B43K 21/00 20060101AFI20240805BHJP
B43K 21/16 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B43K21/00 H
B43K21/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013195
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】井澤 弘壮
(72)【発明者】
【氏名】小泉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】池田 敦
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353FA04
2C353FC13
2C353FE01
2C353FE04
2C353FE16
(57)【要約】
【課題】筆記芯の折損等に対するメンテナンス性を向上させたシャープペンシルを提供する。
【解決手段】シャープペンシル1が、筆記芯が突出可能な前端開口2aを備えた前軸2と後軸3とを有する軸筒5と、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するチャックユニット10とチャックユニットを包囲する中継部材9とスライダ7とを有する回転部材と、回転子40を有し、チャックユニットに把持された筆記芯が受ける筆記圧による軸線方向の後退動作及び筆記圧の解除による軸線方向の前進動作を受けて、回転子を一方向に回転駆動させる回転駆動機構30と、を具備し、回転子が中継部材の後端部に対して接続され、スライダが中継部材の前端部に対して着脱可能に接続され、回転部材が、回転子の回転駆動力を受けて回転することによって、チャックユニットに把持された筆記芯が回転するように構成され、前軸が単一部品で構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記芯が突出可能な前端開口を備えた前軸と前記前軸の後端部に対して着脱可能に接続された後軸とを有する軸筒と、
筆記芯の前進を許容し後退を阻止するチャックユニットと前記チャックユニットを包囲する中継部材とスライダとを有する回転部材と、
回転子を有し、前記チャックユニットに把持された筆記芯が受ける筆記圧による軸線方向の後退動作及び筆記圧の解除による軸線方向の前進動作を受けて、前記回転子を一方向に回転駆動させる回転駆動機構と、を具備し、
前記回転子が前記中継部材の後端部に対して接続され、前記スライダが前記中継部材の前端部に対して着脱可能に接続され、
前記回転部材が、前記回転子の回転駆動力を受けて回転することによって、前記チャックユニットに把持された筆記芯が回転するように構成され、
前記前軸が単一部品で構成されていることを特徴とするシャープペンシル。
【請求項2】
前記回転駆動機構が前記後軸内に配置され、前記前軸を外した状態で前記回転駆動機構の前記後軸からの脱落を防止するように構成された支持部材を有する請求項1に記載のシャープペンシル。
【請求項3】
前記スライダには雌ねじが形成され、前記中継部材には雄ねじが形成され、前記スライダと前記中継部材とが螺合によって着脱可能に接続されている請求項1又は2に記載のシャープペンシル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープペンシルに関する。
【背景技術】
【0002】
前軸と前軸の後端部に対して着脱可能に接続された後軸とを有する軸筒と、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するチャックユニットとチャックユニットを包囲する中継部材とスライダとを有する回転部材と、回転子を有し且つチャックユニットに把持された筆記芯が受ける筆記圧による軸線方向の後退動作及び筆記圧の解除による軸線方向の前進動作を受けて、回転子を一方向に回転駆動させる回転駆動機構と、を具備し、回転子が中継部材の後端部に対して接続され、スライダが中継部材の前端部に対して着脱可能に接続され、回転部材が、回転子の回転駆動力を受けて回転することによって、チャックユニットに把持された筆記芯が回転するように構成されたシャープペンシルが公知である(特許文献1)。特許文献1に記載のシャープペンシルでは、略同一外径で形成された筒状の前軸の前端部に対して、別部品である略テーパ状に形成された口先部材が螺合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般にシャープペンシルでは、落下時の衝撃等が原因でシャープペンシルの内部で筆記芯が折損する場合がある。折損又はその他の要因で短くなり、ノック操作では繰り出せなくなってシャープペンシルの内部に残った筆記芯は、引き続きシャープペンシルを使用するために取り除く必要がある。
【0005】
特許文献1に記載のシャープペンシルでは、スライダの内部等にあって芯が短くなる等で繰り出せなくなった筆記芯を取り除くために、口先部材を前軸から取り外し、次いで、スライダを中継部材から取り外す必要がある。スライダは、シャープペンシルの全長に対して軸線方向の長さが短く、そのため比較的把持し難い。
【0006】
仮にスライダが中継部材に対して強く嵌合してしまっている場合、中継部材に対してスライダを捻りながら取り外そうとしても、回転駆動機構の構造上、中継部材自体がスライダと共に回転してしまい、スライダを取り外し難い。さらに、スライダ及び中継部材が嵌合ではなく螺合しているタイプの回転駆動機構を備えたシャープペンシルの場合、中継部材自体がスライダと共に回転することから、螺合を解除し難く、したがってスライダをより取り外し難い。これらの場合、ノック操作によって、シャープペンシルの後端部に配置された操作部を前方へ押圧した状態を維持することで、中継部材の回転を抑止することができる。しかしながら、一方の手で操作部を押圧した状態を維持しつつ、他方の手でスライダを回転させるということは、メンテナンス性が良いとは言い難い。
【0007】
そこで、口先部材だけでなく前軸を後軸から取り外して中継部材を露出させて直接把持し、スライダを回転させて取り外そうとしても、後軸内に配置された回転駆動機構の構成部品の一部又は全部が、後軸から脱落してしまう虞もある。構成部品の一部又は全部が脱落してしまうと、構成部品の紛失及び組立間違いが生じる虞があるため好ましくない。
【0008】
本発明は、筆記芯の折損等に対するメンテナンス性を向上させたシャープペンシルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、筆記芯が突出可能な前端開口を備えた前軸と前記前軸の後端部に対して着脱可能に接続された後軸とを有する軸筒と、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するチャックユニットと前記チャックユニットを包囲する中継部材とスライダとを有する回転部材と、回転子を有し、前記チャックユニットに把持された筆記芯が受ける筆記圧による軸線方向の後退動作及び筆記圧の解除による軸線方向の前進動作を受けて、前記回転子を一方向に回転駆動させる回転駆動機構と、を具備し、前記回転子が前記中継部材の後端部に対して接続され、前記スライダが前記中継部材の前端部に対して着脱可能に接続され、前記回転部材が、前記回転子の回転駆動力を受けて回転することによって、前記チャックユニットに把持された筆記芯が回転するように構成され、前記前軸が単一部品で構成されていることを特徴とするシャープペンシルが提供される。
【0010】
前記回転駆動機構が前記後軸内に配置され、前記前軸を外した状態で前記回転駆動機構の前記後軸からの脱落を防止するように構成された支持部材を有していてもよい。前記スライダには雌ねじが形成され、前記中継部材には雄ねじが形成され、前記スライダと前記中継部材とが螺合によって着脱可能に接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、筆記芯の折損等に対するメンテナンス性を向上させたシャープペンシルを提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態によるシャープペンシルの縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のシャープペンシルの前半分の拡大断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のシャープペンシルの中央部分の拡大断面図である。
【
図4】
図4は、回転駆動機構の回転子の回転駆動を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、
図4に続く回転子の回転駆動を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、前軸を取り外した状態の
図1のシャープペンシルの斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示された状態からさらにスライダを取り外した状態の
図1のシャープペンシルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0014】
図1は、本発明の実施形態によるシャープペンシル1の縦断面図であり、
図2は、
図1のシャープペンシル1の前半分の拡大断面図である。
【0015】
シャープペンシル1は、前軸2と、前軸2の後端部の外周面に対して着脱可能に螺合する後軸3と、後軸3の後端部の内周面に嵌合し且つクリップを備えた内筒4とを有している。前軸2及び後軸3は、軸筒5を構成する。なお、内筒4も含めて軸筒5と称してもよい。シャープペンシル1は、軸筒5の先端から筆記芯が突出するように構成されている。具体的には、前軸2の前端開口2aから筆記芯が突出可能となるように構成されている。本明細書では、シャープペンシル1の軸線方向において、筆記芯側を「前」側と規定し、筆記芯側とは反対側を「後」側と規定する。
【0016】
前軸2は、略同一外形で形成された筒状の部材であり、前端部近傍が略テーパ状に形成されている。前軸2の前端部には、前端開口2aが形成されている。したがって、前軸2の外形は、従来のシャープペンシルの前軸と同様である。前軸2は、使用者がシャープペンシル1を把持し易いように、前軸2よりも柔らかい材料で形成された把持部2bを有している。前軸2の前端部の内部には、筆記芯を案内する先端パイプ6を有するスライダ7が、軸線方向にスライド可能、且つ、軸線回りに回転可能に配置されている。
【0017】
スライダ7は、前方に向かって外径が段状に細くなる円筒状に形成されている。スライダ7の前端部は、先端パイプ6と共に前軸2の前端開口2aから突出している。先端パイプ6の後方のスライダ7内には、中央に通孔が形成された保持チャック8が配置されている。保持チャック8の通孔は、筆記芯の外周面に摺接し、筆記芯を一時的に保持するように作用する。
【0018】
スライダ7の後端部には、円筒状に形成された中継部材9が螺合している。すなわち、スライダ7の後端部の内周面には、雌ねじ7aが形成されており、中継部材9の前端部の外周面には雄ねじ9aが形成されている。スライダ7及び中継部材9の内部には、筆記芯を把持するチャックユニット10及び芯ケース13が配置されている。チャックユニット10は、チャック本体部11と、チャック本体部11の前端部を包囲するように円筒状に形成された締め具12とを有している。チャック本体部11の少なくとも前半分は、軸線方向に沿って3つのチャック片11aに分割され、中心軸線に沿って筆記芯の通孔が形成されている。チャック片11aの各々は、前端部が互いに離間するように形成されている。芯ケース13は、円筒状に形成され、内部には筆記芯が収容される。芯ケース13の前端部の内部には、チャック本体部11の後端部が挿入され、嵌合している。
【0019】
チャック本体部11を包囲するようにコイルスプリング14が配置されている。コイルスプリング14の前端は、中継部材9の内周面に形成された段部によって支持され、コイルスプリング14の後端は、芯ケース13の前端面に当接している。したがって、コイルスプリング14は、芯ケース13及びチャック本体部11を後方に付勢している。後方に付勢されたチャック本体部11は、締め具12内に収容されることによって前端部が互いに接近し、筆記芯を把持した状態を維持することができる。また、筆記芯に筆記圧が加わった場合には、チャック本体部11がより後退して締め具12内に収容され、筆記芯はチャック本体部11によって把持される。これにより、筆記芯の後退は阻止される。他方、筆記芯を前方に引き出す力が働いた場合には、チャック本体部11が締め具12による作用を受けないため、筆記芯を抵抗なく前方に引き出すことができる。すなわち、チャックユニット10は、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するように作用するが、当該作用を奏する限りにおいてその他のチャックユニット、例えばボールチャックであってもよい。
【0020】
締め具12の外周面は、中継部材9の前端部の内周面に嵌合している。したがって、スライダ7、中継部材9及びチャックユニット10は、軸筒5内において軸線方向に移動可能である。中継部材9の後端部は、後述する回転駆動機構30に連結されている。
【0021】
軸筒5の後端部、具体的には内筒4の後端部には、ノック部材としての筒状のノック部材20が軸筒5に対して前後動可能に設けられている。ノック部材20は、コイルスプリング21によって後方に付勢されている。ノック部材20の前端部の内部には、芯ケース13が挿入されている。ノック部材20の後端部の内部には、消しゴム22が着脱可能に装着されている。ノック部材20の後端部の外周面には、ノックカバー23が着脱可能に取り付けられ、消しゴム22を汚れ等から保護している。
【0022】
ノック部材20又はノックカバー23を前方へ押圧するノック操作をすることによって、芯ケース13が前進する。これにより、チャック本体部11が前方に押し出される。これに伴い、チャック本体部11に把持された筆記芯も前進し、筆記芯を先端パイプ6から繰り出させるように作用する。ノック操作による押圧を解除すると、コイルスプリング21の付勢力によって、ノック部材20は、後退して元の位置に復帰する。このとき、チャック本体部11は、コイルスプリング14の付勢力によって後退する。他方、筆記芯は、スライダ7内に配置された保持チャック8によって保持されるため、チャックユニット10の作用として、筆記芯はチャック本体部11から抵抗なく引き出される。その結果、筆記芯は、先端パイプ6から繰り出されることから、ノック操作を繰り返すごとに、筆記芯を所定量ずつ繰り出すことができる。
【0023】
図3は、
図1のシャープペンシル1の中央部分の拡大断面図である。回転駆動機構30は、後軸3の内部空間に配置されている。回転駆動機構30は、中継部材9の後端部に接続されている。芯ケース13は、中継部材9及び回転駆動機構30の内部を貫通し、回転駆動機構30とは離間している。回転駆動機構30は、軸スプリング31によって後方に付勢されている。すなわち、軸スプリング31の前端は、円筒状に形成された支持部材32によって支持され、軸スプリング31の後端は、回転駆動機構30の前端面によって支持されることで、回転駆動機構30は後方に付勢されている。
【0024】
支持部材32は、内周面に設けられた突起によって形成された後方に面する環状の支持面32aと、後端部の外周面に環状に設けられた係止突起32bとを有している。支持面32aは、上述したように、軸スプリング31の前端を支持するように構成されている。係止突起32bは、後軸3の内周面に設けられた環状の凸部3aと係止するように構成されている。すなわち、シャープペンシル1の組み立てにおいて、回転駆動機構30を後軸3内に配置した後、支持部材32が後軸3内に挿入される。このとき、支持部材32の係止突起32bが、弾性変形によって後軸3の凸部3aを乗り越え、係止突起32b及び凸部3aが係止状態となる。その結果、支持部材32の前方への移動は規制され、支持部材32が後軸3の後端の開口端近傍に固定される。
【0025】
回転駆動機構30は、円筒状に形成された回転子40と、円筒状に形成された第1カム形成部材である上カム形成部材41と、円筒状に形成された第2カム形成部材である下カム形成部材42と、円筒状に形成されたシリンダー部材43と、円筒状に形成されたトルクキャンセラー44と、コイル状のクッションスプリング45とを有している。回転駆動機構30は、これら部材が一体となって、ユニット化されている。
【0026】
回転子40の前端部の内周面には、中継部材9の後端部の外周面が嵌合している。回転子40の前端部近傍は、僅かばかり径の大きいフランジ状に形成された部分を有し、当該部分の後端面には第1カム面40aが形成され、当該部分の前端面には第2カム面40bが形成されている。
【0027】
上カム形成部材41は、回転子40の第1カム面40aの後方において、回転子40を回動可能に包囲している。下カム形成部材42は、上カム形成部材41の前端部の外周面に嵌合している。回転子40の第1カム面40aに対向する上カム形成部材41の前端面には、第1固定カム面41aが形成されている。回転子40の第2カム面40bに対向する下カム形成部材42の前端部内面には、第2固定カム面42aが形成されている。
【0028】
上カム形成部材41の後端部の外周面には、円筒状に形成されたシリンダー部材43が嵌合している。シリンダー部材43の後端部には、芯ケース13が挿通できる挿通孔43aが形成されている。シリンダー部材43内には、円筒状に形成されて軸線方向に移動可能なトルクキャンセラー44が配置されている。トルクキャンセラー44の前端部内面とシリンダー部材43の後端部内面との間には、クッションスプリング45が配置されている。クッションスプリング45は、トルクキャンセラー44を介して、回転子40を前方に付勢している。
【0029】
ここで、中継部材9は、筆記動作に基づく筆記芯の後退動作及び前進動作(クッション動作)を回転駆動機構30、すなわち回転子40に伝達すると共に、クッション動作によって生ずる回転駆動機構30における回転子40の回転運動を、筆記芯を把持した状態のチャックユニット10に伝達する。したがって、中継部材9の回転によって、チャックユニット10に保持された筆記芯も回転する。
【0030】
シャープペンシル1で筆記しているとき以外、すなわち、筆記芯に筆記圧が加わっていないとき、回転子40は、トルクキャンセラー44を介したクッションスプリング45の付勢力によって前方に位置している。したがって、回転子40の第2カム面40bは、第2固定カム面42aに当接して噛み合い状態になされる。シャープペンシル1で筆記しているとき、すなわち、筆記芯に筆記圧が加わっているとき、チャックユニット10は、クッションスプリング45の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子40も後退する。したがって、回転子40の第1カム面40aは、第1固定カム面41aに当接して噛み合い状態になされる。筆記芯と回転子40とは、一体的に、前進、後退又は回転をする。
【0031】
図4は、回転駆動機構30の回転子40の回転駆動を説明する模式図であり、
図5は、
図4に続く回転子40の回転駆動を説明する模式図である。
図4及び
図5において、回転子40の上側の面である後端面には、周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1カム面40aが円環状に形成され、回転子40の下側の面である前端面には、同様に周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2カム面40bが円環状に形成されている。
【0032】
回転子40の第1カム面40aに対峙する上カム形成部材41の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1固定カム面41aが形成され、回転子40の第2カム面40bに対峙する下カム形成部材42の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2固定カム面42aが形成されている。回転子40に形成された第1カム面40a及び第2カム面40bの各カム面と、上カム形成部材41に形成された第1固定カム面41a及び下カム形成部材42に形成された第2固定カム面42aの各カム面とは、ピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。
【0033】
図4(A)は、筆記芯に筆記圧が加わっていないときの状態における前進した回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42の関係を示している。この状態においては、回転子40に形成された第2カム面40bは、クッションスプリング45の付勢力によって、下カム形成部材42の第2固定カム面42aに対して当接している。このとき、回転子40の第1カム面40aと上カム形成部材41の第1固定カム面41aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0034】
図4(B)は、シャープペンシル1による筆記のために、筆記芯に筆記圧が加わった初期の状態を示している。この状態においては、回転子40は、チャックユニット10の後退に伴ってクッションスプリング45を収縮させて後退する。それによって、回転子40は、上カム形成部材41側に移動して、第1固定カム面41aに当接する。
【0035】
次いで、
図4(C)は、筆記芯にさらに筆記圧が加わり、回転子40が上カム形成部材41の第1固定カム面41aに当接して滑りながら後退した状態を示している。すなわち、回転子40は、第1カム面40aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。この状態においては、回転子40の第1カム面40aは、上カム形成部材41の第1固定カム面41aに噛み合っている。
【0036】
なお、
図4及び
図5における回転子40の中央部に描いた○印は、回転子40の回転移動量を示している。そして
図4(C)に示す状態においては、回転子40の第2カム面40bと下カム形成部材42の第2固定カム面42aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0037】
次いで、
図5(D)は、シャープペンシル1による筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解除された初期の状態を示している。この状態においては、回転子40は、クッションスプリング45の付勢力によって前進する。これにより、回転子40は、下カム形成部材42側に移動して、第2固定カム面42aに当接する。
【0038】
次いで、
図5(E)は、回転子40がクッションスプリング45の付勢力によって下カム形成部材42の第2固定カム面42aに当接して滑りながら前進した状態を示している。すなわち、回転子40は、第2カム面40bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を再び受ける。この状態においては、回転子40の第2カム面40bは、下カム形成部材42の第2固定カム面42aに噛み合っている。
【0039】
したがって、
図4及び
図5において回転子40の中央部に描いた○印で示すように、筆記圧を受けた回転子40の軸線方向への往復運動、すなわち前後動に伴って、回転子40は、第1カム面40a及び第2カム面40bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、チャックユニット10を介して、これに把持された筆記芯も同様に回転駆動される。したがって、筆記による回転子40の軸線方向への1回の前後動によって回転子40はカムの一歯に対応する回転運動を受け、これを繰り返すことによって、筆記芯は順次回転駆動される。それ故、書き進むにしたがって筆記芯が偏って摩耗するのを防止することができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化することを防止することができる。
【0040】
なお、クッションスプリング45の付勢力を受けて回転子40を前方に押し出すトルクキャンセラー44は、その前端面と回転子40の後端面との間で滑りを発生させて、回転子40の回転運動がクッションスプリング45に伝達するのを防止している。すなわち、トルクキャンセラー44によって、回転子40の回転運動がクッションスプリング45に伝達されるのを防止し、それによって、回転子40の回転動作を阻害するクッションスプリング45のねじれ戻り(トルク)が発生することを防止している。
【0041】
以上より、シャープペンシル1は、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するチャックユニット10とチャックユニット10を包囲する中継部材9とスライダ7とを有する回転部材と、回転子40を有し、チャックユニット10に把持された筆記芯が受ける筆記圧による軸線方向の後退動作及び筆記圧の解除による軸線方向の前進動作を受けて、回転子40を一方向に回転駆動させる回転駆動機構30と、を具備する。そして、回転子40が中継部材9の後端部に対して接続され、スライダ7が中継部材9の前端部に対して着脱可能に接続され、回転部材が、回転子40の回転駆動力を受けて回転することによって、チャックユニット10に把持された筆記芯が回転するように構成されている。
【0042】
図6は、前軸2を取り外した状態の
図1のシャープペンシル1の斜視図であり、
図7は、
図6に示された状態からさらにスライダ7を取り外した状態の
図1のシャープペンシル1の斜視図である。
【0043】
シャープペンシル1では、スライダ7の内部等にあって、芯が短くなる等で繰り出せなくなった筆記芯を取り除くために、前軸2を後軸3から取り外す(
図6)。次いで、中継部材9を把持し、スライダ7を回転させて螺合を解除する(
図7)。それによって使用者は、チャックユニット10及びスライダ7の内部に対してアクセスすることができ、スライダ7の内部等にある筆記芯を取り除くことが可能となる。
【0044】
シャープペンシル1では、前軸2は、筆記芯が突出可能な前端開口2aから後軸3に対して接続される後端開口まで単一部品で構成されている。そのため、前軸2を後軸3から取り外すだけで、中継部材9は軸線方向において十分な長さだけ露出する。そして、使用者は、露出した中継部材9を直接把持しながらスライダ7を回転させることができることから、スライダ7を容易に取り外すことができる。したがって、シャープペンシル1によれば、筆記芯の折損等に対するメンテナンス性を向上させることができる。
【0045】
また、後軸3の開口端近傍に支持部材32が配置されていることから、前軸2を後軸3から取り外した状態であっても、回転駆動機構30の構成部品の一部又は全部が後軸3から脱落することを防止することができる。それによって、回転駆動機構30の構成部品の紛失等が防止される。
【0046】
ここで、従来のシャープペンシルのように、前軸に対して口先部材が接続されるような構成の場合、接続部分における嵌合又は螺合による径方向に重畳する2つの部材の厚みの分だけ、接続部分近傍の内部空間が狭くなる。結果として、接続部分に対応するスライダの部分の外径を小さくする必要があり、それによってスライダがより把持し難くなる。
【0047】
一方、本発明の実施形態によるシャープペンシル1では、前軸2は単一部品で構成されており、前軸2は、中継部材9のみならず、スライダ7も包囲するように構成されている。シャープペンシル1では、従来のシャープペンシルのような接続部分がないことから、スライダ7の周囲の空間を従来よりも広くすることができ、スライダ7の外径をより大きくすることができる。その結果、スライダ7を取り外すときにより把持し易くなる。
【0048】
特許文献1に記載のシャープペンシルのように、スライダ及び中継部材が螺合ではなく嵌合によって接続されている場合、筆記芯の折損等に対するメンテナンス性を考慮して、強すぎる嵌合は好ましくない。他方、ある程度の緩さの嵌合にすると、筆記時に筆記芯がしっかりと保持されずにがたつくことから、使用者による筆記感が損なわれる。すなわち、筆記による筆記面との摩擦によって筆記芯が径方向の力を受け、それに対して、先端パイプ、ひいてはスライダも径方向の力を受ける。このとき、スライダ及び中継部材の嵌合が緩いと、スライダが中継部材に対して径方向に移動し、軸筒を介して中継部材を把持する使用者にとって筆記芯ががたつくと感じる。このがたつきが、筆記感を損なう原因となる。
【0049】
一方、本発明の実施形態によるシャープペンシル1では、スライダ7及び中継部材9が螺合によって接続されている。そのため、特許文献1に記載のシャープペンシルのように、嵌合によってスライダ及び中継部材が接続されている場合に比べて、より強固な接続を確立することができ、筆記感も損なわれることはない。
【0050】
さらに、シャープペンシル1では、スライダ7の後端部の内周面には、雌ねじ7aが形成されており、中継部材9の前端部の外周面には雄ねじ9aが形成されている。そのため、スライダに雄ねじ部が形成され、中継部材に雌ねじが形成される場合に比べて、スライダの外径をより大きくすることができる。その結果、スライダ7を取り外すときにより把持し易くなる。
【0051】
なお、前軸2が単一部品で構成されていることによって、特に前端部の内部空間を従来よりも広くすることができることから、スライダ7の雌ねじ及び中継部材9の雄ねじの軸線長さをより長くし、よりしっかりとした接続を実現することができる。より長い接続部分を確保することができることから、螺合ではなく嵌合によってスライダ及び中継部材を接続するようにしてもよい。
【0052】
上述した実施形態では、回転駆動機構を備えたシャープペンシルについて説明したが、回転駆動機構を備えないシャープペンシルであって、チャックユニットの前方に着脱可能なスライダがあるシャープペンシルに対して本発明の実施形態を適用してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 シャープペンシル
2 前軸
2a 前端開口
2b 把持部
3 後軸
4 内筒
5 軸筒
6 先端パイプ
7 スライダ
8 保持チャック
9 中継部材
10 チャックユニット
11 チャック本体部
13 芯ケース
14 コイルスプリング
20 ノック部材
21 コイルスプリング
22 ゴム
23 ノックカバー
30 回転駆動機構
31 軸スプリング
32 支持部材
40 回転子