(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010870
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/055 20060101AFI20240118BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20240118BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240118BHJP
H01G 9/042 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01G9/055 105
H01G9/035
H01G9/145
H01G9/042 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112425
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】波多江 達
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(57)【要約】
【課題】ニトロ化合物が効率良く用いられ、電解コンデンサ内に発生するガスの総量を抑制した電解コンデンサを提供する。
【解決手段】電解コンデンサは陽極箔と陰極体と電解液を備える。陽極箔は誘電体酸化皮膜が形成される。陰極体は、表面に還元サイトを有する。陰極体は、弁金属から成る陰極箔と当該陰極箔上に積層されるカーボン層を備え、カーボン層が還元サイトとなる。電解液は、陽極箔と陰極体との間に介在し、ニトロ化合物を含有する。ニトロ化合物は、陰極体の投影面積1cm
2当たり1.5mg以下の割合で、電解液に含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、
表面に還元サイトを有する陰極体と、
前記陽極箔と前記陰極体との間に介在し、ニトロ化合物が含有する電解液と、
を備え、
前記陰極体は、
弁金属から成る陰極箔と、
前記陰極箔上に積層され、前記還元サイトとなるカーボン層と、
を含み、
前記ニトロ化合物は、前記陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg以下の割合で、前記電解液に含有すること、
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陰極箔は、表面に陰極側拡面部を有し、
前記カーボン層は、前記陰極側拡面部上に形成されていること、
を特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記カーボン層と前記陰極側拡面部とが圧接していること、
を特徴とする請求項2記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記カーボン層は、前記陰極側拡面部内に入り込んでいること、
を特徴とする請求項2記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記陰極側拡面部は、海綿状のピットを有し、
前記カーボン層は、炭素材を含み、
前記カーボン層の炭素材が前記海綿状のピットに入り込んでいること、
を特徴とする請求項4記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記陽極箔は、
箔表面に形成された拡面部と、
前記拡面部の表面に形成され、200nm以上の厚みの誘電体酸化皮膜と、
を有すること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記陽極箔は、3.5μF/cm2以下の静電容量を有すること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
160V以上の中高圧用途に用いられること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁金属箔に誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と、同種または他の金属の箔によりなる陰極箔とを対向させて備えている。陽極箔及び陰極箔には、ステッチ、コールドウェルド、超音波溶接、レーザー溶接などにより引出端子が接続されている。陽極箔と陰極箔の対は外装ケースに収納され、外装ケースは封口体で封止される。引出端子は、封口体から引き出される。
【0003】
陽極箔と陰極箔の間には電解液が介在する。電解液は、陽極箔と陰極箔の間に介在して陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能している。この電解液は、漏れ電流によって、陽極箔に形成された誘電体酸化皮膜の劣化や損傷等の劣化部を修復する。しかし、誘電体酸化皮膜の漏れ電流による皮膜修復を発端にして、水素ガスが発生する。
【0004】
即ち、陽極側では漏れ電流による皮膜修復時に以下の化学反応式(1)で表されるアノード反応が生じる。そして、陰極側では漏れ電流による皮膜修復時に、アノード反応で生じた電子を受け取って、水素イオンを還元する以下の化学反応式(2)で表されるカソード反応が生じる。化学反応式(2)で生じた原子状水素は、以下の化学反応式(3)で表されるように結合し、水素ガスが発生する。
【0005】
【0006】
水素ガスの発生は電解コンデンサの内圧を上昇させ、コンデンサ素子を収容するケースや封口体の膨れを生じさせてしまう。最悪の場合、水素ガスによる電解コンデンサの内圧の上昇は、電解コンデンサに設けた圧力開放弁の開弁を引き起こしたり、液漏れを引き起こしてしまう虞がある。そこで、電解液にはニトロ化合物が添加され、このニトロ化合物により水素ガスの発生を抑制することがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、電解コンデンサは、陽極箔の静電容量と陰極の静電容量とを直列接続で合成した直列コンデンサと考えることができる。陰極箔の静電容量が陽極箔の静電容量よりも十分大きい場合、電解コンデンサの静電容量C[F]は、陽極箔の陰極箔に対向する面の実効面積をS[m2]、陽極箔の表面に形成された誘電体酸化皮膜の厚さをd[m]、誘電体酸化皮膜の比誘電率をε、真空の誘電率を8.85×10-12[F/m]とすると、以下の式1で近似できる。
(式1)
C=8.854×10-12×ε・S/d
【0009】
そして、電解コンデンサには、電気自動車等の車載用途や電力用途等のように、160V以上の耐電圧が要求される場合がある。電解コンデンサの耐電圧には、陽極箔の誘電体酸化皮膜の厚さdが大きな影響を与える。そのため、160V以上の中高圧に耐え得る電解コンデンサは厚みのある誘電体酸化皮膜を必要とする。しかしながら、誘電体酸化皮膜を厚くすることは、式1の厚さdを大きくすることになるので、静電容量Cは低下する。そこで、160V以上の中高圧用途の電解コンデンサは、陽極箔に多数のトンネル状のピットにより成る拡面層を備えている。また電解コンデンサは、陽極箔に箔を貫通するトンネル状のピットを部分的又は全面に有する拡面層を備えている。
【0010】
このように拡面技術によって、160V以上の中高圧用途の電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜の厚みを確保しつつ、陽極箔の大表面積化を図っている。但し、近年では、160V以上の中高圧用途の電解コンデンサに対して、より大きな静電容量が求められている。換言すれば、耐電圧を維持しつつ、誘電体酸化皮膜を薄肉化することも検討しなければならない。
【0011】
しかしながら、誘電体酸化皮膜を薄肉化していくと、誘電体酸化皮膜の厚さの減少量に応じて陽極箔の耐電圧は低下し、漏れ電流が増加する。陽極側で漏れ電流が増加し、陽極側の電極面に於ける電荷の移動及び水素イオンの発生が激しくなる。そのため、160V以上の中高圧用途の電解コンデンサにおいて、耐電圧を維持しつつ、誘電体酸化皮膜を薄肉化していくには、電解液に添加したニトロ化合物に対して、より効率良く水素ガス抑制反応の機会を与えていくことが必要になってくる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、ニトロ化合物が効率良く用いられ、電解コンデンサ内に発生するガスの総量を抑制した電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ニトロ化合物は、主に、陰極箔の端面で水素ガス抑制反応を起こしていることを確認した。ここで、陰極箔は、工業的に所望の幅に裁断されて電解コンデンサに組み込まれていく。陰極箔の表面には誘電体酸化皮膜が形成されているが、裁断により露出した端面には誘電体酸化皮膜が無いか、又は酸化皮膜が形成されていても極めて薄い。このため、ニトロ化合物は、陰極箔の端面領域で、化学反応式(1)で生じた電子の授受し、また水素イオンを吸収し、原子状水素の生成及び水素ガスの発生を阻んでいた。
【0014】
これより、陰極箔の表面に自然酸化され難い還元サイトを形成し、この還元サイトを陰極箔と電気的に導通させることで、水素ガスの発生をより効率的に抑制できる。即ち、ニトロ化合物は、このサイトからも電子を受け取り、このサイトにおいても水素イオンを吸収する。そして、ニトロ化合物は、化学反応式(2)及び(3)を阻み、水素ガスの発生をより抑制する。
【0015】
もっとも、ニトロ化合物は、以下反応式(4)で表されるように、陰極側で還元されて水素イオンを吸収する。これにより、水素イオンから原子状水素が発生し、原子状水素が水素ガスに転じる反応式(2)及び(3)の反応経路が遮断され、水素ガスの発生が抑制される。この反応式(4)により、ニトロ化合物を起点として例えばアニリンのようなニトロ化合物が還元して生成された還元生成物が生じる(以下、単に還元生成物という。)
【0016】
【0017】
ニトロ化合物の還元反応の機会を還元サイトにより増加させつつ、ニトロ化合物の添加量を増加させた場合、還元生成物の生成量は著しく増大し、電解コンデンサの静電容量を低下させてしまう。一方で、陰極体に還元サイトを形成した場合、ニトロ化合物が効率良く用いられるため、ニトロ化合物の添加量が少なくても、水素ガスの発生を長期間抑制できる。
【0018】
本発明は、このような知見に基づき成されたもので、上記課題を解決すべく、電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、表面に還元サイトを有する陰極体と、前記陽極箔と前記陰極体との間に介在し、ニトロ化合物が含有する電解液と、を備え、前記陰極体は、弁金属から成る陰極箔と、前記陰極箔上に積層され、前記還元サイトとなるカーボン層と、を含み、前記ニトロ化合物は、前記陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg以下の割合で、前記電解液に含有する。
【0019】
このカーボン層の形成に関し、まず、容量出現率について定義する。容量出現率は、陽極側の静電容量に対する電解コンデンサの静電容量の割合である。即ち、容量出現率とは、電解コンデンサを陽極側と陰極側とが直列したコンデンサと見做した合成静電容量を持つものと考え、陽極側静電容量で除算して得られる割合の百分率である。合成静電容量は、陽極側静電容量と陰極側静電容量の乗算結果を、陽極側静電容量と陰極側静電容量の和で除算して得られる。従って、容量出現率は、以下の式2で表される。
【0020】
【0021】
式2に示されるように、陽極側の静電容量が大きい場合、容量出現率に及ぼす陰極側の影響は大きくなる。一方、陽極側の静電容量が小さい場合、容量出現率に及ぼす陰極側の影響は小さくなる。
【0022】
電解コンデンサの分野においては、160V以上の所謂中高圧用途向けの電解コンデンサ用の陽極箔は、低圧用途向けの電解コンデンサ用の陽極箔より単位面積当たりの静電容量が小さい。また、160V以上の所謂中高圧用途向けの電解コンデンサでは、陽極側と陰極側の静電容量の差が大きい。これらは、中高圧用途向けの電解コンデンサ用陽極箔においては、耐圧を確保するために拡面層表面の誘電体酸化皮膜が厚くなるためである。容量出現率の向上という観点から考えると、陽極側の静電容量が大きい低圧領域の電解コンデンサにおいては、容量出現率を大きくするために、陰極側の容量を大きくすることの効果は大きい。しかし、陽極側の静電容量が小さい中高圧用途向けの電解コンデンサ、または陰極側の静電容量が陽極側よりも一桁以上大きい電解コンデンサは、陰極側の静電容量を向上させても容量出現率の向上に対する効果は小さい。
【0023】
例えば、低圧用途向けの電解コンデンサとして、1cm2あたりの静電容量が10μFの陽極箔を用いた場合、1cm2あたりの静電容量が100μFの陰極箔を用いたときの容量出現率は、90.9%となるが、陰極箔の1cm2あたりの静電容量を1000μFにした場合の容量出現率は、99.0%となり、109%の容量出現率の向上が見込まれる。一方で、中高圧用途向けの電解コンデンサとして、1cm2あたりの静電容量が1μFの陽極箔において、1cm2あたりの静電容量が100μFの陰極箔を用いた場合の容量出現率は、99.0%となるが、陰極箔の1cm2あたりの静電容量を1000μFにした場合の容量出現率は、99.9%と容量出現率がほぼ向上しない。
【0024】
陰極側の静電容量を向上させても容量出現率の効果は小さい中高圧用途向けの電解コンデンサにおいては、カーボン材料を用いることによる工程数の増加等を考慮すると、陰極箔の容量を向上させることは行われていなかった。しかしながら、本発明者らの知見に基づくことで、カーボン層を還元サイトとして再定義でき、このような電解コンデンサに至ることができたものである。
【0025】
前記陰極箔は、表面に陰極側拡面部を有し、前記カーボン層は、前記陰極側拡面部上に形成されているようにしてもよい。
【0026】
前記カーボン層と前記陰極側拡面部とが圧接しているようにしてもよい。
【0027】
前記カーボン層は、前記陰極側拡面部内に入り込んでいるようにしてもよい。
【0028】
前記陰極側拡面部は、海綿状のピットを有し、前記カーボン層は、炭素材を含み、前記カーボン層の炭素材が前記海綿状のピットに入り込んでいるようにしてもよい。
【0029】
また、前記陽極箔は、箔表面に形成された拡面部と、前記拡面部の表面に形成され、200nm以上の厚みの誘電体酸化皮膜と、を有するようにしてもよい。前記陽極箔は、3.5μF/cm2以下の静電容量を有するようにしてもよい。160V以上の中高圧用途に用いられるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、電解コンデンサ内のガス発生量が抑制できるとともに、電解コンデンサの静電容量の低下を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例1及び2並びに比較例1乃至4の電解コンデンサの体積の時間変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1及び2並びに比較例1乃至4の電解コンデンサの体積を積算電気量ごとに表したグラフである。
【
図3】実施例1及び2並びに比較例1及び3の容量の時間変化を示すグラフである。
【
図4】実施例1及び2並びに比較例1及び3の容量を積算電気量ごとに表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(電解コンデンサ)
本発明の実施形態に係る電極体及びこの電極体を陰極に用いた電解コンデンサについて説明する。電解コンデンサは、静電容量に応じた電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この電解コンデンサは、巻回型又は積層型のコンデンサ素子を有する。コンデンサ素子は、誘電体酸化皮膜が表面に形成された陽極箔と、陽極箔と同種または他の金属の箔によりなる陰極体とをセパレータを介して対向させ、電解液が含浸されて成る。尚、電解液は、ゲル状に固められていてもよい。
【0033】
(陰極体)
陰極体は、集電体として弁金属を延伸して成る陰極箔の表面に、炭素材を含むカーボン層が積層された積層体である。カーボン層は、陰極箔の弁金属よりも不動態皮膜が形成され難い。このカーボン層がニトロ化合物に電子を授与する還元サイトになる。
【0034】
弁金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等が挙げられる。純度は、99%程度以上が望ましい。
【0035】
カーボン層に含有させる炭素材としては、活性炭、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノホーン、または繊維状炭素が挙げられる。活性炭は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック及びサーマルブラック等が挙げられる。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(以下、CNT)、カーボンナノファイバ(以下、CNF)等が挙げられる。
【0036】
カーボン層の陰極箔への形成方法としては、真空蒸着、スパッタ法、イオンプレーティング、CVD法、塗布、電解めっき、無電解めっき等が挙げられる。塗布法による場合、炭素材を分散溶媒中に分散させてスラリーを作製し、スラリーキャスト法、ドクターブレード法又はスプレー噴霧法等によって陰極箔にスラリーを塗布及び乾燥させる。蒸着法による場合、真空中で炭素材を通電加熱することで蒸発させ、又は真空中で炭素材に電子ビームを当てて蒸発させ、陰極箔上に炭素材を成膜する。また、スパッタ法による場合、炭素材により成るターゲットと陰極箔とを真空容器に配置し、真空容器内に不活性ガスを導入して電圧印加することによって、プラズマ化した不活性ガスをターゲットに衝突させ、ターゲットから叩き出された炭素材の粒子を陰極箔に堆積させる。
【0037】
尚、カーボン層の領域以外については自然酸化皮膜又は化成皮膜が形成されていてもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成され、化成皮膜は、アジピン酸やホウ酸、リン酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理によって意図的に形成される酸化皮膜である。弁金属がアルミニウムの場合、酸化皮膜は酸化アルミニウムである。
【0038】
但し、陰極体が陰極箔とカーボン層との積層体である場合、カーボン層を陰極箔に密着させ、自然酸化皮膜や化成皮膜を破ったり、自然酸化皮膜や化成皮膜をトンネリング効果が生じるほど薄厚にしたりして、弁金属とカーボン層とを導通させることが好ましい。これら皮膜をカーボン層の炭素材で突き破ると、カーボン層は陰極箔の未酸化の金属部分と電気的に導通し易くなり、良好な還元サイトとなり易く、ニトロ化合物と効率良く電子を受渡しすることができる。
【0039】
カーボン層と陰極箔との密着性向上のためには、カーボン層と陰極箔により成る陰極体をプレス加工することが好ましい。プレス加工では、例えばカーボン層と陰極箔とにより成る陰極体をプレスローラで挟んで、プレス線圧を加える。プレス圧力は0.01~100t/cm2程度が望ましい。プレス加工により、自然酸化皮膜や化成皮膜を突き破り易くなる。
【0040】
また、陰極箔の表面には拡面層を形成して陰極体の表面積を拡大させてもよい。拡面層は、電解エッチング、ケミカルエッチング若しくはサンドブラスト等により形成され、又は箔体に金属粒子等を蒸着若しくは焼結することにより形成される。電解エッチングとしては交流エッチングが挙げられる。交流エッチング処理では、例えば塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液に陰極箔を漬けて、交流電流を流す。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。即ち、拡面層は、海綿状のエッチングピットの形成領域、又は密集した粉体間の空隙により成る多孔質構造の領域をいう。尚、エッチングピットは、直流エッチングにより形成されるトンネル状のピットであっても、トンネル状のピットが陰極箔を貫通するように形成されていてもよい。
【0041】
拡面層の形成により陰極体の表面積を拡大させると、還元サイトと陰極箔との導通経路が多く、太く、また、その導通経路が密着している状態となる。そのため、ニトロ化合物の還元反応の機会が増し、水素ガスの発生が抑制される。
【0042】
また、拡面層を形成しておくと、陰極箔とカーボン層が更に密着し易い。即ち、炭素材が拡面層の凹凸に入り込むことで、カーボン層と陰極箔との密着性が向上する。拡面層の形成に加えてプレス加工の工程も加えると、炭素材を拡面層の細孔にまで押し込むことができ、また炭素材を拡面層の凹凸面に沿って変形させることができ、カーボン層と陰極体との密着性及び定着性は更に向上する。
【0043】
拡面層を形成する場合、カーボン層に含有する炭素材としては、特に、球状炭素であるカーボンブラックが好ましい。陰極箔の表面に形成した拡面層がエッチングピットである場合、エッチングピットの開口径よりも小さな粒子径のカーボンブラックを用いることにより、エッチングピットのより深部に入り込みやすく、カーボン層は陰極箔と密着する。
【0044】
もっとも、カーボン層には、これらの炭素材の2種以上を混合して含有させてもよい。例えば、カーボン層に含有する炭素材は、鱗片状又は鱗状の黒鉛と球状炭素であるカーボンブラックも好適である。鱗片状又は鱗状の黒鉛は、短径と長径とのアスペクト比が1:5~1:100の範囲であることが好ましい。球状炭素であるカーボンブラックは、好ましくは一次粒子径が平均100nm以下である。この組み合わせの炭素材を含有するカーボン層を陰極箔に積層した場合、カーボンブラックは、黒鉛によって拡面層の細孔に擦り込まれ易い。黒鉛は、拡面層の凹凸面に沿って変形し易く、凹凸面上に積み重なり易い。そして、黒鉛は、押圧蓋になって細孔に擦り込まれた球状炭素を押し留める。そのため、カーボン層と陰極箔との密着性及び定着性がより高まる。
【0045】
また、活性炭や繊維状炭素は、パイ電子が非局在化し、比表面積が大きいため、球状炭素であるカーボンブラックと共にカーボン層に添加したり、鱗片状若しくは鱗状の黒鉛と球状炭素であるカーボンブラックの混合と共にカーボン層に添加したりしてもよい。
【0046】
(陽極箔)
陽極箔は、弁金属を材料とする長尺の箔体である。純度は、陽極箔に関して99.9%程度以上が望ましい。この陽極箔は、延伸された箔に拡面層を形成し、拡面層の表面に誘電体酸化皮膜を形成して成る。拡面層は、160V以上の中高圧用途に対応し、直流エッチングにより、箔表面から厚み方向に掘り込まれたトンネル状のピットを多数有する。高容量化に対応すべく、トンネル状のピットは、陽極箔を貫通するように形成されていてもよい。または、拡面層は、弁金属の粉体を焼結して成り、または金属粒子等の皮膜を箔に蒸着させて皮膜を施して成る。
【0047】
陽極箔に形成される誘電体酸化皮膜は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば、多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜は、硼酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の酸あるいはこれらの酸の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。
【0048】
誘電体酸化皮膜は、中高圧用途に対応するために、3.5μF/cm2以下の陽極側静電容量を発生させる厚みとすることが好ましい。3.5μF/cm2超の陽極側静電容量を発生させようとすると、誘電体酸化皮膜が薄くなり耐電圧が低下してしまう。また、誘電体酸化皮膜は、200nm以上の厚みを有することで、160V以上の中高圧用途にも対応して電解コンデンサの耐電圧に寄与することができる。
【0049】
(電解液)
電解液は、溶媒に対して溶質を溶解し、また必要に応じて添加剤が添加された混合液である。溶媒はエチレングリコールが好ましい。エチレングリコールを溶媒とすると、電解コンデンサの耐電圧が向上し、160V以上の中高圧用途として好適となる。但し、陽極箔に対する拡面処理及び化成処理により必要とする耐電圧を得られるのであれば、溶媒はプロトン性の極性溶媒又は非プロトン性の極性溶媒の何れでもよい。プロトン性の有機極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール化合物類などが代表として挙げられる。非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、オキシド系などが代表として挙げられる。
【0050】
電解液に含まれる溶質は、アニオン及びカチオンの成分が含まれ、典型的には、有機酸若しくはその塩、無機酸若しくはその塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物若しくはそのイオン解離性のある塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を溶質成分として別々に電解液に添加してもよい。
【0051】
この電解液には、陰極体の還元サイトで電子を授受して水素イオンを吸収するニトロ化合物が添加される。ニトロ化合物としては、o-ニトロベンジルアルコール、p-ニトロベンジルアルコール、m-ニトロベンジルアルコール、o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、ニトロベンセン等が挙げられる。
【0052】
ニトロ化合物は、陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg以下の割合で、電解液に添加する。陰極箔にカーボン層等の還元サイトを形成することで、ニトロ化合物の還元反応の機会が増えるため、ニトロ化合物の添加量が多くなると、ニトロ化合物の還元生成物も増加する。但し、ニトロ化合物の添加量が陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg以下の割合であれば、還元生成物の生成量が許容範囲内に収まり、電解コンデンサの静電容量の発現を阻害しない。
【0053】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物、リン酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(セパレータ)
セパレータは、陽極箔と陰極体のショートを防止すべく、陽極箔と陰極体との間に介在し、また電解液を保持する。セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができ、またセルロースと混合して用いることができる。
【0055】
(実施例)
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
定格電圧が225Vである高圧用途の実施例1の電解コンデンサを作製した。陰極箔として3cm×4cmのアルミニウム箔を用いた。アルミニウム箔には交流エッチング処理を施し、海綿状のエッチングピットにより成る拡面層を箔両面に形成した。交流エッチング処理では、液温25℃及び約8重量%の塩酸を主たる電解質とする酸性水溶液に陰極箔を浸し、交流10Hz及び電流密度0.14A/cm2の電流を基材に約5分間印加し、アルミニウム箔の両面を拡面化した。次いで、アルミニウム箔に化成処理を施し、拡面層の表面に誘電体酸化皮膜を形成した。化成処理では、リン酸水溶液で交流エッチング処理の際に付着した塩素を除去した後、リン酸二水素アンモニウムの水溶液内で電圧を印加した。
【0057】
陰極箔にはカーボン層を積層させた。カーボン層には、炭素材としてカーボンブラックを含有させた。具体的には、カーボンブラックの粉末、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)、及び分散剤含有水溶液としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液を混合して混練することでスラリーを作製した。
【0058】
このスラリーを陰極箔に均一に塗布した。そして、スラリーを加熱乾燥させて溶媒を揮発させた後、陰極体にプレス加工を施した。プレス加工では、陰極体をプレスローラで挟み込み、5.38kN/cmのプレス線圧をかけ、カーボン層を陰極箔上に定着させた。プレス線圧は、有限会社タクミ技研製のプレス機を用いて加えられた。プレスローラの径は直径180mmであり、プレス処理幅は130mmであり、陰極体を3m/minで1回搬送した。
【0059】
また、陽極箔として3cm×4cmのアルミニウム箔を用いた。アルミニウム箔には直流エッチング処理を施し、トンネル状のエッチングピットにより成る拡面層を形成した。直流エッチング処理では、ピットを形成する第1の工程とピットを拡大する第2の工程を用い、第1の工程は塩素イオンを含む水溶液中で直流電流にて電気化学的にアルミニウム箔にエッチング処理を行った。第2の工程において、第1の工程を経たアルミニウム箔に形成されたピットを拡大するべく、硝酸イオンを含む水溶液中で直流電流にて電気化学的にエッチング処理を行なった。
【0060】
拡面層を形成した後、陽極箔に対して、誘電体酸化皮膜を拡面層表面に形成する化成処理を行った。具体的には、液温85℃、70重量%のホウ酸の化成溶液中で286Vの電圧を印加した。
【0061】
陽極箔と陰極体には、それぞれアルミニウム製のタブ形状の引出端子を超音波接続した。そして、セパレータを介在させつつ、陽極箔を2枚の陰極体で挟み込んだ積層体を作製した。セパレータとしては、4cm×5cmのクラフト系のセパレータを用いた。尚、重ね合わせの前に、陰極体の表面のうち、セパレータを介して陽極箔と向かい合う面とは反対の背面側を絶縁樹脂で覆っておいた。
【0062】
陽極箔と陰極体とセパレータの積層体に対して、電解液を含浸させた。電解液は、エチレングリコールを溶媒とし、アゼライン酸塩を溶質として添加した。また、電解液には、ニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを電解液全量に対して0.4重量%となるように添加した。このニトロ化合物の添加量は、陰極体の投影面積1cm2当たり、0.7mg/cm2に相当する。
【0063】
電解液を含浸させた後、陽極箔、陰極体及びセパレータの積層体をラミネート材で封止した。陰極箔と陰極体に接続しておいた引出端子は、ラミネート材の外に引き出しておいた。これにより、ラミネートセルの電解コンデンサを作製した。ラミネート材としては、厚さ110μmのアルミニウム製を用いた。ラミネートセルを作製した後は、エージング処理を施した。エージング処理は、常温(30℃)にて60分間、230Vの電圧を印加した。これにより、定格電圧が225Vの実施例1に係る電解コンデンサが作製された。
【0064】
(実施例2)
更に、実施例2の電解コンデンサを作製した。実施例2の電解コンデンサにおいて、電解液には、ニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを電解液全量に対して0.8重量%となるように添加した。このニトロ化合物の添加量は、陰極体の投影面積1cm2当たり、1.5mg/cm2に相当する。その他、陰極箔に形成するカーボン層の組成を含め、実施例2の電解コンデンサは、実施例1と同一手法及び同一条件により作製された。
【0065】
(比較例1)
更に、比較例1の電解コンデンサを作製した。比較例1の電解コンデンサにおいて、電解液には、ニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを電解液全量に対して1.2重量%となるように添加した。このニトロ化合物の添加量は、陰極体の投影面積1cm2当たり、2.2mg/cm2に相当する。その他、陰極箔に形成するカーボン層の組成を含め、比較例1の電解コンデンサは、実施例1と同一手法及び同一条件により作製された。
【0066】
(比較例2)
更に、比較例2の電解コンデンサを作製した。比較例2の電解コンデンサにおいて、アルミニウム箔を延伸して成る陰極箔が陰極体として用いられた。アルミニウム箔は純度99.9%以上であり、アルミニウム箔の表面にカーボン層等の積層物はない。電解液には、実施例2と同じく、ニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを電解液全量に対して0.8重量%となるように添加した。このニトロ化合物の添加量は、実施例2と同じく、陰極体の投影面積1cm2当たり、1.5mg/cm2に相当する。その他については、この比較例2の電解コンデンサは、ニトロ化合物の電解液への含有等、実施例1と同一手法及び同一条件により作製された。
【0067】
(比較例3)
更に、比較例3の電解コンデンサを作製した。比較例1の電解コンデンサには、アルミニウム箔を延伸して成る陰極箔が陰極体として用いられた。アルミニウム箔は純度99.9%以上であり、アルミニウム箔の表面にカーボン層等の積層物はない。電解液には、ニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを電解液全量に対して1.6重量%となるように添加した。このニトロ化合物の添加量は、陰極体の投影面積1cm2当たり、3.0mg/cm2に相当する。その他については、この比較例3の電解コンデンサは、ニトロ化合物の電解液への含有等、実施例1と同一手法及び同一条件により作製された。
【0068】
(比較例4)
更に、比較例4の電解コンデンサを作製した。比較例4の電解コンデンサには、アルミニウム箔を延伸して成る陰極箔が陰極体として用いられた。アルミニウム箔は純度99.9%以上であり、アルミニウム箔の表面にカーボン層等の積層物はない。電解液には、ニトロ化合物を未添加とした。
【0069】
(ガス発生量測定試験)
実施例1及び2並びに比較例1乃至4の電解コンデンサのガス発生量を測定した。各電解コンデンサには105℃の温度環境下でDC225Vの高電圧を印加し続け、各経過時間のガス発生量を測定した。ガス発生量は、ラミネートセルの膨れ量(体積変化量;ml)によって測定した。ラミネートセルの膨れ量はアルキメデス法により測定した。即ち、ラミネートセルを水に浸漬した際の重量増加分を測定することにより、ラミネートセルが排除した液体の体積を測定した。
【0070】
また、このガス発生量の測定の際に漏れ電流の積算電気量(C)を測定した。積算電気量の測定のために、電解コンデンサに対して100kΩの抵抗を直列接続し、電圧印加の際に、同時に抵抗にかかる電圧値を定期的に測定した。この電圧値から抵抗値で除することで漏れ電流を算出した。そして、測定順序第N番目までの漏れ電流の和に対して、電圧値測定の時間間隔を掛けることで、第N番目の測定時における積算電気量(C)を計算した。
【0071】
ガス発生量と経過時間との関係を
図1に示す。また、ガス発生量と積算電気量との関係を
図2に示す。
図1は、実施例1及び2並びに比較例1乃至4の電解コンデンサの体積の時間変化を示すグラフである。
図2は、実施例1及び2並びに比較例1乃至4の電解コンデンサの体積を積算電気量ごとに表したグラフである。
【0072】
図1に示すように、比較例3の電解コンデンサの膨張は、ガス発生量の測定開始から258時間経過後には始まり、570時間経過後以降は急激になっている。一方、
図1に示すように、実施例1及び2並びに比較例1の電解コンデンサの膨張は、ガス発生量の測定開始から570時間経過しても始まらず、1026時間経過後に始まるものの、その変化は穏やかである。
【0073】
図2に示すように、比較例3の電解コンデンサの膨張は、漏れ電流の積算電気量が1.2C/cm
2に到達してから始まり、その後の変化は急激である。一方、実施例1の電解コンデンサは、漏れ電流の積算電気量が2.0C/cm
2に到達してから始まる。実施例2の電解コンデンサは、漏れ電流の積算電気量が2.4C/cm
2に到達してから始まる。比較例1の電解コンデンサは、漏れ電流の積算電気量が2.8C/cm
2に到達してから始まる。
【0074】
電解コンデンサの膨張は、水素ガスの発生に起因するものである。従って、電解コンデンサの膨張が急激になるときの積算電気量は、水素ガスが発生し始めたときの積算電気量とも言える。このことから、実施例1及び2並びに比較例1は、電圧を印加し始めた試験の初期においては、ニトロ化合物の還元反応により水素ガスの発生が抑制されていたが、試験時間が経過し、電解コンデンサの膨張が急激になるときの積算電気量の時点においては、ニトロ化合物が消失したことで、水素ガスが発生したと推定できる。つまり、電解コンデンサの膨張が急激になるときの積算電気量は、ニトロ化合物が消失する積算電気量であり、ニトロ化合物の添加量によって、ニトロ化合物が消費される積算電気量が異なることを示唆しているといえる。
【0075】
ここで、比較例3の電解コンデンサにおいて、ニトロ化合物は、陰極体の投影面積1cm2当たり3.0mg/cm2の割合で電解液に添加されたものである。これに対し、実施例1及び2並びに比較例1の電解コンデンサにおいて、ニトロ化合物は、最大でも、陰極体の投影面積1cm2当たり2.2mg/cm2の割合で電解液に添加されたものである。
【0076】
この結果から、実施例1及び2並びに比較例1の電解コンデンサでは、誘電体酸化皮膜を突き破って陰極箔のアルミニウムと電気的に導通したカーボン層が陰極箔の表面に形成されているため、ニトロ化合物は、このカーボン層を還元サイトとして効率良く電子を受け取り、水素イオンを吸収していることが確認できる。一方、比較例3の電解コンデンサでは、陰極箔の表面が誘電体酸化皮膜で覆われてしまっているために、ニトロ化合物が電子を受け取れる領域が陰極箔の端面領域に限られ、水素イオンの吸収が追いつかず、水素ガスが発生し続けてしまっていることが確認できる。
【0077】
このように、陰極体は、表面に還元サイトであるカーボン層を有するようにすることで、ニトロ化合物が効率良く電子を受け取って水素イオンの吸収反応が促進し、水素ガスの発生を抑制することができることが確認された。
【0078】
ここで、比較例4の電解コンデンサの陰極体はカーボン層を備えておらず、また電解液に対してニトロ化合物は未添加である。この比較例4の電解コンデンサは、製造中のエージング過程で膨張が始まってしまい、ガス発生量の測定開始直後から膨張が急峻であった。
【0079】
比較例2の電解コンデンサの陰極体はカーボン層を備えておらず、ニトロ化合物の電解液への添加量は、陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg/cm2に限られている。この比較例2の電解コンデンサについても、カーボン層を備えていない場合にはニトロ化合物の添加量が少な過ぎ、製造中のエージング過程で膨張が始まってしまい、ガス発生量の測定開始直後から膨張が急峻であった。
【0080】
比較例2の電解コンデンサでは、陰極箔の表面が誘電体酸化皮膜で覆われてしまっているために、ニトロ化合物が電子を受け取れる領域が陰極箔の端面領域に限られており、尚且つニトロ化合物の添加量が少ない。そのため、比較例2の電解コンデンサでは、ニトロ化合物の還元反応の機会が限られ、水素ガスの発生を抑制できなかったものと推測される。
【0081】
一方、実施例2の電解コンデンサは、比較例2と同量のニトロ化合物が添加されている。しかしながら、実施例2のニトロ化合物は、カーボン層を還元サイトとして還元反応の機会を多く得ることができたものと考えられる。そのため、実施例2のニトロ化合物は、アルミニウム箔を陰極体とする電解コンデンサにおいては過少な添加量ではあるが、水素ガスの発生を効率良く抑制したものと考えられる。
【0082】
これらの結果より、陰極体の表面条件が同じであれば、ニトロ化合物の電解液への添加量が多い程、ニトロ化合物の還元反応の機会が継続し、水素ガスの発生をより抑制できることがわかる。このことから、ニトロ化合物を多量に電解液に添加することで、水素ガスの発生をより抑止できると言える。また、還元サイトを備える陰極体を用いた電解コンデンサは、還元サイトを備えていない陰極体を用いた電解コンデンサと比較して、電解液へのニトロ化合物の添加量が同等以下であっても水素ガスの発生を効率よく抑制できることが認められる。これらのことから、還元サイトを形成した陰極体は、ニトロ化合物による水素ガスの発生を効率よく抑制できると言える。
【0083】
(静電容量測定試験)
実施例1及び2並びに比較例1及び3の電解コンデンサの静電容量を測定した。各電解コンデンサには105℃の温度環境下でDC450Vの高電圧を印加し続け、各経過時間の静電容量を測定した。測定にはLCRメータ(Agilent Technologies社製、4284A)を用いた。測定環境は周囲温度が20℃であり、交流電圧レベルが0.5Vrms以下であり、測定周波数が120Hzである。
【0084】
静電容量と経過時間との関係を
図3に示す。また、静電容量と積算電気量との関係を
図4に示す。
図3は、実施例1及び2並びに比較例1及び3の静電容量の時間変化を示すグラフである。
図4は、実施例1及び2並びに比較例1及び3の静電容量を積算電気量ごとに表したグラフである。
【0085】
図3及び4に示すように、比較例3の電解コンデンサは、時間経過及び漏れ電流の積算電気量に対する大きな容量変化はない。一方、比較例1の電解コンデンサは途中で静電容量が比較例3を大きく下回って低下している。これに対し、実施例1及び2の電解コンデンサは、比較例3と変わることなく、時間経過及び漏れ電流の積算電気量に対する大きな容量変化はない。
【0086】
このことから、ニトロ化合物の還元サイトであるカーボン層を備えた陰極体を用いた場合においては、ニトロ化合物の添加量が少ない場合、時間経過による容量減少は認められないが、ニトロ化合物の添加量が多量になると時間経過による容量減少が認められることが判明した。これは言い換えると、ニトロ化合物の還元サイトであるカーボン層を備えた陰極体を用いた場合においては、ニトロ化合物の添加量が少ない場合、積算電気量に関係なく、容量減少が認められないが、ニトロ化合物の添加量が多量になると、積算電気量によって容量減少が認められたことを示す。
【0087】
一方、ニトロ化合物の還元サイトであるカーボン層を形成していない陰極体を用いた場合は、ニトロ化合物の添加量が多量であっても、時間経過による容量減少が認められないことが判明した。これは言い換えると、ニトロ化合物の還元サイトであるカーボン層を形成していない陰極体を用いた場合は、ニトロ化合物の添加量が多量であっても、積算電気量による容量減少は認められないことを示す。
【0088】
つまり、ニトロ化合物に起因する容量減少は、ニトロ化合物の還元サイトであるカーボン層を備えた陰極体を用い、かつ、電解コンデンサが電解液に添加されるニトロ化合物に起因とする容量減少が生じる積算電気量となったときに、電解液にニトロ化合物が残存している場合において生じる現象であることを示唆している。このことは、陰極体の還元サイトによってニトロ化合物の還元反応が生じることで、水素ガスの発生抑制を実現しつつ、ニトロ化合物に起因する容量減少を回避するためには、電解液へのニトロ化合物の添加量を、電解コンデンサがニトロ化合物に起因する容量減少の現象が生じる積算電気量になる前に消失する量に制限する必要があることを示している。
【0089】
比較例1の電解コンデンサにおいて、ニトロ化合物は、陰極体の投影面積1cm2当たり2.2mg/cm2の割合で電解液に添加されたものである。これに対し、実施例1及び2の電解コンデンサにおいて、ニトロ化合物は、最大でも、陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg/cm2の割合で電解液に添加されたものである。
【0090】
比較例1は、ニトロ化合物が多く添加されており、且つニトロ化合物の還元反応の機会を増やす還元サイトとしてカーボン層を陰極体が備えている。このため、比較例1では、ニトロ化合物の還元生成物が、比較例1の電解コンデンサの許容量を超えて生成されたことが推測される。そして、比較例1では、この還元生成物により静電容量が低下してしまったことが推測される。
【0091】
これに対し、実施例1及び2は、比較例1よりも少なく、陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg/cm2以下の割合でニトロ化合物が添加されている。このため、実施例1及び2では、ニトロ化合物の還元生成物が電解コンデンサの許容量以下に収まったことが推測される。そして、実施例1及び2では静電容量の発現が阻害されなかったものと推測される。
【0092】
このように、ガス発生量測定試験と静電容量測定試験によれば、陰極体がカーボン層のような還元サイトを有し、陰極体の投影面積1cm2当たり1.5mg/cm2以下の割合でニトロ化合物が添加されることで、電解コンデンサの静電容量を低下させることなく、ニトロ化合物が水素ガスの発生を効率良く抑制できることが確認された。