(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108727
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02D 41/32 20060101AFI20240805BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20240805BHJP
F02M 37/08 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
F02D41/32
F02M37/00 A
F02M37/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013250
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】河合 拓哉
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301LA01
3G301LB07
3G301MA11
3G301NC02
3G301PA07Z
3G301PB08Z
3G301PE01Z
3G301PG01Z
(57)【要約】
【課題】プレッシャーレギュレータを利用して燃料圧力が一定化されるエンジンにおいて、燃料ポンプの駆動電圧の変動に起因した予想燃料圧力の誤差を無くす。
【解決手段】燃料ポンプの駆動電圧群の1つを基準電圧V0、プレッシャーレギュレータの設定圧力を基準圧力Prとして、電圧変動に伴う圧力変化量Ph[=(V0-Vb)・a]を基準圧力Prから減算又は加算し、補正された燃料圧力値Qを得る。駆動電圧の変動に起因した吐出圧の変化を織り込んで燃料圧力を高精度で推測できるため、必要な燃料をインジェクタから過不足なく噴射できる。従って、燃費の悪化や排気ガスの悪化、失火といった問題を防止できる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの燃料をインジェクタに圧送する電動式燃料ポンプと、前記インジェクタに圧送される燃料の圧力を基準圧力に調節するプレッシャーレギュレータと、前記基準圧力をパラメータの1つとして前記インジェクタによる燃料噴射量を設定する制御装置と、を有しており、
前記燃料ポンプを駆動する電圧の変化によって前記基準圧力に補正を加えて実際の燃料圧力を推定するように制御される、
エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、燃料がインジェクタによって噴射されるエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時のエンジンはインジェクタによって燃料を噴射しており、燃料は、燃料タンクから燃料ポンプによってインジェクタに圧送されている。スロットルバルブの開度等に基づいて燃料噴出量がECUによって設定されるが、燃料噴出量を算定するためには燃料圧力を一定に設定する必要がある。そこで、燃料ポンプとインジェクタとの間の燃料供給管路にプレッシャーレギュレータを配置して燃料の圧力を一定に保持しており、特許文献1には、燃料ポンプの基準圧力に補正を加えて実際の圧力を算出することが記載されている。
【0003】
プレッシャーレギュレータは、一般にばねとダイヤフラム機構を利用して圧力を一定に保持するようになっているが、スロットル開度の変化に伴う吸気圧の変動や、走行位置の標高の変化に伴う大気圧の変動等によって、実際の燃料圧力とプレッシャーレギュレータの設定圧との間に誤差(乖離)が発生することがある。この点、特許文献1によると、誤差を補正して燃料圧力の推定値の精度を向上できる。その結果、燃料が過不足なく噴射されるように精度を向上できると共に、燃費も向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、自動車は電源としてバッテリーを搭載しており、オルタネータやモータジェネレータによって発電された電気はバッテリーに充電されており、燃料ポンプもバッテリーから送られた電気で駆動されている。この場合、バッテリーの出力電圧は一定ではなく、充電量などの要因によって電圧が変動している。
【0006】
そこで本願発明者が研究したところ、燃料ポンプを駆動する電圧が変化すると燃料ポンプ(正確には電動モータ)の吐出力が変化して、結果として、実際の燃料の圧力が変化していることが判明した。すなわち、燃料ポンプを駆動する電圧によっても、実際の燃料の圧力とプレッシャーレギュレータによる基準圧力との間に誤差(乖離)が生じていた。
【0007】
本願発明はこのような研究・知見を背景に成されたものであり、燃料ポンプの駆動電圧が変動(変化)しても燃料圧力を正確に推算できる技術を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明はエンジンに関し、
「燃料タンクの燃料をインジェクタに圧送する電動式燃料ポンプと、前記インジェクタに圧送される燃料の圧力を基準圧力に調節するプレッシャーレギュレータと、前記基準圧力をパラメータの1つとして前記インジェクタによる燃料噴射量を設定する制御装置と、を有しており、
前記燃料ポンプを駆動する電圧の変化によって前記基準圧力に補正を加えて実際の燃料圧力を推定するように制御される」
という構成になっている。
【0009】
燃料ポンプの吐出圧力は駆動電源の電圧に正比例するので、実際の燃料圧力は、駆動電圧に正比例するように補正したらよい。具体的には、変動する電圧エリアのうちの特定の電圧を基準電圧として、基準電圧のときのプレッシャーレギュレータの圧力を基準圧力として設定しておく一方、単位ボルト当たりの圧力の変動値を予め設定(実測)しておき、実際の電圧と基準電圧との乖離数値から乖離圧力(補正圧力)を演算して、これを基準圧力に対して減算又は加算したらよい。
【発明の効果】
【0010】
本願発明では、バッテリーの充電量や他の電気機器の使用等によって燃料ポンプの駆動電圧が変動しても、電圧の変動に起因した燃料圧力の誤差(乖離)を補正して、実際の燃料の圧力と同じ又は酷似するように演算できる。他方、燃料ポンプの駆動電圧は自動車に搭載されている電圧計によって検出できるため、圧力センサのような新たな部材の付加は不要である。従って、コストアップは生じない。
【0011】
従って、本願発明では、コストアップを生じることなく、燃料の噴射量を過不足がない正確な量に設定できる。その結果、燃料ポンプの駆動電圧の変動に関係なくエンジンを円滑に運転できて、燃費の向上に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】電圧とポンプ吐出圧との関係を示すグラフである。
【
図3】燃料ポンプに関して圧力と流量との関係を示すグラフである。
【
図4】プレッシャーレギュレータに関して圧力と流量と電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1).基本構成
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、
図1を参照してエンジンの概要を説明する。本実施形態は3気筒の自動車用エンジンに適用しており、エンジンは、自動車のエンジンルームに横置き又は縦置きの姿勢で搭載されている。横置きの場合は、前排気と後ろ排気のいずれも選択できる。
【0014】
エンジンの基本構造は従来と同様であり、機関本体の主要構成要素として、シリンダブロック1とその上面に固定されたシリンダヘッド2、シリンダヘッド2の上面に固定されたヘッドカバー3、シリンダブロック1の下面に固定されたオイルパン4、シリンダブロック1及びシリンダヘッド2の前面に固定されたフロントカバー5を備えている。
【0015】
シリンダブロック1には、上向きに開口した複数のシリンダボア6が形成されている。シリンダブロック1及びオイルパン4の後面にはミッションケース7が固定されている。クランク軸8はフロントカバー5の前方に突出しており、この突出部にクランクプーリ9が固定されている。
【0016】
図示の例では紙面の手前が吸気側面になっていて、吸気側のエリアに吸気マニホールド10が配置されている(吸気側面と排気側面を逆にしてもよい。)。吸気マニホールド10は、サージタンク11とフランジ部12とを有しており、フランジ部12はシリンダヘッド2に固定されている。シリンダヘッド2の吸気側面には3対の吸気ポート13が開口している。吸気ポート13は1つのシリンダボア6に対応して前後一対ずつ形成されており、一対の吸気ポート13は入り口において1つに集合している。
【0017】
シリンダヘッド2(又は吸気マニホールド10)には、吸気ポートに燃料を噴射するインジェクタ15が一対ずつ配置されている。従って、本実施形態はポート噴射タイプである。インジェクタ15は、電磁ソレノイドで駆動されるバルブを備えており、バルブの開度を調節することで燃料噴射量が設定されている。
【0018】
吸気マニホールド10を構成するサージタンク11には吸気流入口16を設けており、吸気流入口16に電子制御方式のスロットルバルブ(スロットルボデー)17が固定されている。スロットルバルブ17には、エアクリーナ18から吸気が送られる(過給機を備えている場合は、吸気は過給機からスロットルバルブ17に送られる。)。
【0019】
機関本体の排気側空間には、発電手段の一例としてのオルタネータ19が配置されている。オルタネータ19は、図示しないブラケットを介してシリンダブロック1(及びシリンダヘッド2)に固定されており、クランクプーリ9に巻き掛けたベルト20で駆動される。オルタネータ19で発電された電気は、バッテリー21に充電される。
【0020】
自動車は燃料タンク22を備えている一方、各インジェクタ15は1本のデリバリ管23に接続されており、燃料タンク22とデリバリ管23とを結ぶ燃料供給管路24に、燃料を吸い上げて圧送する燃料ポンプ25と、燃料の圧力を一定化するプレッシャーレギュレータ26とが介挿されている。
【0021】
当然ながら、燃料ポンプ25はバッテリー21と結線されている。また、燃料ポンプ25はプレッシャーレギュレータ26よりも上流側に配置されている。プレッシャーレギュレータ26は、例えばばねを内蔵したダイヤフラム方式であり、調圧室とサージタンク11とが管路(ホース)27を介して連通している。
【0022】
エンジンは、制御装置としてECU28を備えており、ECU28には、バッテリー21に設けた電圧計29、回転数センサ30、各インジェクタ15、サージタンク11等に設けた吸気圧センサ31、スロットルバルブ17が電気的に接続されている(接続線は点線で表示している。)。図示していないが、アクセル開度センサやスロットル開度センサ、EGRバルブ、冷却水温度センサなどもECU28、走行距離計なども結線されている。
【0023】
(2).制御態様
図2では、燃料ポンプ25の駆動電圧と流量と燃料圧力との関係を示している。燃料ポンプ25の駆動電圧が高くなると燃料圧力と流量は増大している(電圧が高くなると線が上にシフトしている。)。すなわち、燃料圧力と流量とは、燃料ポンプ25の駆動電圧と正比例の関係にある。このグラフから、単位電圧(1ボルトや0.5ボルト)当たりの燃料圧力及び流量の変化量を算定できる。
【0024】
図2において、どの電圧においても流量は燃料圧力の減少関数(右下がり)になっている。従って、単位時間当たりの流量は一定になる。
【0025】
図3は燃料ポンプ25の単体としての電圧と圧力と流量との関係(特性)を示したグラフであり、圧力が高くなると量流が低下している。このグラフから、電圧が高くなると流量は多くなるようにシフトすることと、どの電圧でも圧力が低下すると流量が増大することを把握できるが、これは
図2と整合している。
【0026】
図4では、プレッシャーレギュレータ26に関して圧力と流量との関係を表示している。プレッシャーレギュレータ26は、圧力が高くなると流量は増大しているが、これは、プレッシャーレギュレータ26の単品のスペックとして自然のことである。
【0027】
本実施形態では、燃料ポンプ25の現実の駆動電圧(バッテリー21の出力電圧)Vbと、プレッシャーレギュレータ26の基準圧力Prと、吸気圧力Pkと、大気圧Ptと、インジェクタ15の噴射圧力Piとを変数として推定燃料圧力Phを算定している一方、スロットル開度や負荷、EGR開度等の諸条件をパラメータとしたマップ(計算式)に基づいて各インジェクタ15の1回当たりの燃料噴射量Qを演算し、予め設定された噴射タイミングに基づいてQの量が噴出されるようにインジェクタ15の開度を制御する。
【0028】
従って、各インジェクタ15による燃料噴射量Qは、
図5(A)に示す基準数式1のとおり、単位時間当たりの基準流量Q0と推定燃料圧力(√で表示された数値)と積算噴射時間Tとを乗じた数値になる。従って、推定燃料圧力の精度は、燃料を過不足なく噴射するための重要な数値になる。
【0029】
他方、バッテリー21からオルタネータ19に供給される電気の出力電圧Vbは、バッテリー21の容量やオルタネータ19の駆動状態、他の電気器具による電力消費具合などによって変動するようになっている(例えば、バッテリー21の残量の段階的な低下に応じて電圧を下げるように設定されている。)。このため、燃料ポンプ25の駆動電圧も変化するが、燃料ポンプ25の駆動電圧が変化すると吐出圧が変化して、実際の燃料圧力の数値と推定燃料圧力との間に乖離(誤差)が発生する。
【0030】
具体的には、燃料ポンプ25の駆動電圧が高くなると、現実の燃料圧力が推定値よりも高くなって燃料噴射量が必要量より増加する傾向を呈して、空燃比の低下によって燃費の悪化や排気ガスの成分悪化をもたらす一方、燃料ポンプ25の駆動電圧が低くなると、現実の燃料圧力が推定値よりも低くなって燃料噴射量が必要量より減少する傾向を呈して、出力不足や失火のおそれが出ている。
【0031】
そこで、燃料ポンプ25の駆動電圧が変化しても推定燃料圧力が実際の燃料圧力に等しくなるように、推定燃料圧力を補正している。具体的には、
図5(B)の補正数式に示すように、オルタネータ19を駆動する電圧のうちの1つを基準電圧V0として設定すると共に、基準電圧V0のときにプレッシャーレギュレータ26の設定圧力を基準圧力Prとして設定し、基準圧力Prに、実際の駆動電圧Vbと基準電圧V0との乖離によって発生する圧力変化量Ph[=(V0-Vb)・a]を減算(或いは加算)することにより、実際の燃料圧力を推測する。具体的な数値として、V0=14.5V、Pr=294KPa、a=2.4KPaを設定できる。
【0032】
これにより、プレッシャーレギュレータ26の基準圧力Prを基準にしつつ、燃料圧力の推測値が実際の圧力と同じ又は殆ど同じになるように演算して、燃料噴射量の制御を高精度で行える。基準電圧V0は、最も使用時間が多い電圧に設定してもよいし、電圧の変動エリアの上限値と下限値との中間値として設定してもよい。
【0033】
更に具体的に述べると、オルタネータ19に関して変化する駆動電圧の数値ごとに数式2が組み込まれた制御マップを個別に作成しておいて、電圧計29の数値が変動変化したら、変動後の電圧に対応したマップに差し替えてインジェクタ15の駆動を制御することができる。電圧計29はバッテリー21の備品として自動車に組み込まれているため、ECU28のプログラムの修正のみで対応可能である。なお、ECU28がインターネットに対応している場合は、自動車メーカー等が遠隔操作して改良プログラムを置き換えることも可能である。
【0034】
本実施形態では、スロットル開度等から要求される燃料供給量をインジェクタ15に過不足なく供給できるため、燃費の悪化を防止できると共に、燃料過多による排気ガスの悪化や燃料不足による出力低下・失火を防止できる。また、燃料噴射量を正確に演算できるため、燃費(単位走行距離当たりの燃料消費量)の計算も正確に行える。
【0035】
上記の例は各電圧に対応して作成していたマップを置き換える方式であったが、燃料ポンプ25の駆動電圧をパラメータの1つとした制御マップを作成しておいて、インジェクタ15による燃料噴射のたびに電圧をインプットして燃料噴射量を演算することも可能である。
【0036】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、発電手段としてはモータジェネレータも採用できる。吸気圧力は吸気ポートから取り出すことも可能である。プレッシャーレギュレータは、ダイヤフラム式でなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明は、プレッシャーレギュレーとインジェクタとを備えたエンジンに広く適用できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダブロック
2 シリンダヘッド
8 クランク軸
9 クランクプーリ
10 吸気マニホールド
11 サージタンク
12 フランジ部
13 吸気ポート
14 シリンダボア
15 インジェクタ
17 スロットルバルブ(スロットルボデー)
19 発電手段の一例としてオルタネータ
21 バッテリー
22 燃料タンク
23 デリバリ管
24 燃料供給管路
25 燃料ポンプ
26 プレッシャーレギュレータ
28 制御装置としてECU
29 電圧計
31 吸気圧センサ