(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108759
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】シャープペンシルの包装パッケージ
(51)【国際特許分類】
B65D 85/28 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
B65D85/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013294
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】井澤 弘壮
(72)【発明者】
【氏名】荒木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】石塚 裕子
【テーマコード(参考)】
3E068
【Fターム(参考)】
3E068AA23
3E068AB04
3E068AC02
3E068BB01
3E068CC18
3E068CC20
3E068CE02
3E068CE06
3E068DD07
3E068DD14
3E068DE14
3E068EE40
(57)【要約】
【課題】長尺状に成形された台紙の一面に沿ってシャープペンシルを搭載した包装パッケージに容易に適用することができ、製造コストの高騰を招くことなく、効果的な衝撃吸収機能を発揮し得るシャープペンシルの包装パッケージを提供する。
【解決手段】長尺状に成形された台紙52の一面に沿ってシャープペンシル1を搭載したシャープペンシルの包装パッケージ51であって、台紙の長手方向の端部には、当該端部から突出した状態で配置され、衝撃が加わった時に変形して衝撃を吸収する衝撃吸収体52cが、台紙と一体に板状に成形されて備えられる。台紙52の長手方向の一端部には、包装パッケージ51の吊り下げ孔52b1が形成されると共に、他端部に衝撃吸収体52cが配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状に成形された台紙の一面に沿ってシャープペンシルを搭載したシャープペンシルの包装パッケージであって、
前記台紙の長手方向の端部には、当該端部から突出した状態で配置され、衝撃が加わった時に変形して前記衝撃を吸収する衝撃吸収体が、前記台紙と一体に板状に成形されて備えられていることを特徴とするシャープペンシルの包装パッケージ。
【請求項2】
前記台紙の長手方向の一端部には、包装パッケージの吊り下げ孔が形成されると共に、他端部に前記衝撃吸収体が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のシャープペンシルの包装パッケージ。
【請求項3】
前記台紙の一面には、透明な樹脂素材により成形され、前記台紙との間で細長い収容空間を形成するブリスターケースが装着され、前記収容空間内に前記シャープペンシルが搭載されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシャープペンシルの包装パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は長尺状に成形された台紙の一面に沿って、シャープペンシルを搭載することで、シャープペンシルの店頭販売を可能にするシャープペンシルの包装パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
文具店や量販店などの店頭において筆記具を陳列販売する形態として、長尺状に成形された台紙の一面に、透明な樹脂素材によるブリスターケースを装着し、ブリスターケースに成形された細長い収容空間内に、シャープペンシルなどの筆記具を収容したブリスターパッケージが採用されている。その一例が特許文献1に開示されている。
このブリスターパッケージには、台紙の長手方向の上端部に吊り下げ孔が形成され、この吊り下げ孔をバーフックに通すことにより、商品としての多数の筆記具を、陳列販売することが可能となる。
【0003】
前記したようにブリスターパッケージに収容された筆記具を、バーフックに通して陳列販売する場合においては、顧客が商品を観察しようとして、包装パッケージをバーフックから取り外す際に、誤って包装パッケージを落とすことがある。
この場合、前記した包装パッケージに、例えば下方側に先端が細いシャープペンシルが収容されている場合には、落下により受ける衝撃により、下方側のブリスターケースの破損やブリスターパッケージに収容されたシャープペンシルの内蔵芯(替芯)を破損させるなど、商品に対して障害を与える問題が発生し得る。
【0004】
そこで、前記した問題を解消するために、包装パッケージの長手方向の端部に、落下時の衝撃を吸収する手段を施すことが提案されている。
特許文献2には、縦長の包装箱の端部に衝撃吸収手段を施した例が示されており、直方体状に成形される包装箱において、長手方向の端部を構成する蓋板が、長手方向に対して直交せずに傾斜した状態に折り曲げた構成が採用されている。
【0005】
前記した包装箱の構成によると、包装箱の対向する左右側面板の隅角部は、前記蓋板から離れてそれぞれ包装箱の長手方向に突出した状態となる。これにより、左右側面板の隅角部は包装箱の落下時における衝撃吸収体として機能することが、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-41492号公報
【特許文献2】特開2004-17975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2に開示された包装箱によると、前面板及び背面板と左右側面板に加えて、長手方向の両端部に蓋板を備えた六面体を構成するものであり、六面体の包装箱に適用することで、落下時における衝撃吸収の機能を持たせることを基本構成とするものである。
従って、特許文献1に開示された例えばブリスターパッケージなどの台紙に対して、特許文献2に記載の衝撃吸収機能を、そのまま採用することには無理がある。
【0008】
そこでこの発明は、前記したブリスターパッケージなどのように長尺状に成形された台紙の一面に沿ってシャープペンシルを搭載した包装パッケージに容易に適用することができ、製造コストの高騰を招くことなく、効果的な衝撃吸収機能を発揮し得るシャープペンシルの包装パッケージを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るシャープペンシルの包装パッケージは、長尺状に成形された台紙の一面に沿ってシャープペンシルを搭載したシャープペンシルの包装パッケージであって、前記台紙の長手方向の端部には、当該端部から突出した状態で配置され、衝撃が加わった時に変形して前記衝撃を吸収する衝撃吸収体が、前記台紙と一体に板状に成形されて備えられていることを特徴とする。
【0010】
この場合、前記台紙の長手方向の一端部には、包装パッケージの吊り下げ孔が形成されると共に、他端部に前記衝撃吸収体が配置されていることが好ましい。
加えて、好ましい実施の形態においては、前記台紙の一面には、透明な樹脂素材により成形され、前記台紙との間で細長い収容空間を形成するブリスターケースが装着され、前記収容空間内に前記シャープペンシルが搭載された構成が採用される。
【発明の効果】
【0011】
前記したこの発明に係るシャープペンシルの包装パッケージによると、長尺状に成形された台紙の長手方向の端部には、当該端部から突出した状態で配置されて、衝撃が加わった時に変形して前記衝撃を吸収する前記台紙と一体に成形された板状の衝撃吸収体が備えられる。
これは、台紙を型抜き成型するための抜き型の一部に、前記した衝撃吸収体に対応する領域を形成することで容易に実現することができる。したがって、製造コストの高騰を招くことなく、効果的な衝撃吸収機能を発揮し得るシャープペンシルの包装パッケージを提供することが可能となる。
【0012】
この場合、前記台紙の長手方向の一端部に包装パッケージの吊り下げ孔を形成し、他端部に前記衝撃吸収体を成形することで、店頭での展示販売の状態において、常に衝撃吸収体を下向きに設定することができる。これにより、包装パッケージの落下時において、衝撃吸収体の作用効果を確実に果たすことができる包装パッケージを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明に係るシャープペンシルの包装パッケージを示し、(A)は表面側から見た斜視図であり、(B)はブリスターケースを除いた状態で示した斜視図である。
【
図2】
図1に示す包装パッケージの全体構成を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は長手方向に沿った断面図である。
【
図3】
図1に示す包装パッケージを部品展開図で示した斜視図である。
【
図4】台紙を展開した状態で示し、(A)は正面図、(B)は衝撃収体部分の拡大図である。
【
図5】
図1乃至
図5に示す包装パッケージに搭載されるシャープペンシルの好ましい一例を示した縦断面図である。
【
図6】
図5のシャープペンシルの前半分の拡大断面図である。
【
図7】
図5のシャープペンシルの中央部分の拡大断面図である。
【
図9】回転駆動機構の回転子の回転駆動を説明する図である。
【
図10】回転駆動機構の回転子の回転駆動を説明する模式図である。
【
図11】回転駆動機構の各カムの関係を説明する模式図である。
【
図14】別の回転駆動機構の各カムの関係を説明する模式図である。
【
図15】
図14の回転駆動機構の回転子の回転駆動を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係るシャープペンシルの包装パッケージについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。なお、以下に示す各図においては、対応する各部は共通の参照符号で示している。
図1及び
図2は、シャープペンシルの包装パッケージの全体構成を示しており、この包装パッケージ51は、長尺状に成形された台紙52の一面に沿って、ブリスターケース53が装着されることで構成されている。
【0015】
ブリスターケース53には、前記台紙52との間で、台紙52の長手方向に沿って細長い直方体状の凹みによるシャープペンシルの収容空間53aが施されていて、このブリスターケース53の収容空間53a内にシャープペンシル1が収容されることで、シャープペンシルの包装パッケージ51が構成される。
なお、
図1(B)は台紙52の一面に対するシャープペンシル1の配置状態を示すために、ブリスターケース53は除いた状態で示している。
【0016】
図3及び
図4は、長尺状に成形される台紙52を、展開した状態で示しており、この台紙52を構成する紙基材は、好ましくはパルプを材料とした厚紙を、型抜き成形することにより得ることができる。この台紙52となる紙基材には、中央部に折り曲げ線52dが施されて、折り曲げ線52dを介して前面板52Aと背面板52Bが形成され、前記折り曲げ線52dにおいて折り曲げることで、前面板52Aと背面板52Bが重ね合わされて台紙52が成形される。
すなわち、前面板52Aと背面板52Bは、
図4(A)に示すように平面視において、同一の長さ寸法及び同一の幅寸法に形成されており、
図3に示された折り曲げ線52dは谷折り線であり、
図4に示された折り曲げ線52dは山折り線となる。
【0017】
また、前面板52Aには長手方向の中央部に沿って、矩形状の窓孔52aが形成されており、この窓孔52aに対してブリスターケース53に施されたシャープペンシルの収容空間53aの外側突出部が挿入される。これにより、ブリスターケース53に施された前記収容空間53aは、前面板52Aから突出した状態で装着される。なお、その詳細は後述するブリスターケース53の説明において記述する。
【0018】
さらに、前面板52Aと背面板52Bの長手方向の一端部(上端部)の中央部には、それぞれ吊り下げ孔52b1,52b2が形成されており、前面板52Aに施された吊り下げ孔52b1の径に対して、背面板52Bに施された吊り下げ孔52b2の径は、わずかに大きく設定されている。
これらの吊り下げ孔52b1,52b2は、前面板52Aと背面板52Bが重ね合されることで同心円状になされ、この吊り下げ孔52b1,52b2を例えばバーフックに通すことにより、包装パッケージ51に搭載された状態のシャープペンシル1を、店頭等において吊り下げた状態で陳列販売することができる。
【0019】
また、台紙52を構成する前面板52Aの長手方向の他端部(下端部)には、当該端部から突出した状態で、平面視においてほぼ矩形状に成形された一対の衝撃吸収体52cが、前記前面板52Aと一体に、板状に成形されて備えられている。
この衝撃吸収体52cは、包装パッケージ51の吊り下げ状態において、台紙52の下部から下に向かって突出した状態で配置される。したがって、包装パッケージ51が落下した場合には、衝撃吸収体52cが変形することで落下による衝撃を吸収するように作用する。なお、前記一対の衝撃吸収体52cは、台紙52の長手方向を上下にしたとき、すなわち包装パッケージ51の吊り下げ状態において、台紙の下端部において左右対称となるように形成されている。
【0020】
一方、ブリスターケース53は、透明な樹脂素材、例えばPET樹脂により形成されており、
図3に示すように長手方向に沿って角柱状の凹みが、例えば真空成型により形成されることで、角柱状の凹みによるシャープペンシルの収容空間53aが構成されている。
ブリスターケースの樹脂素材の板厚は、シャープペンシルの保護と加工性を考慮し0.15~0.25mmのものを用いるのが好ましい。
そして、収容空間53aの開口縁を囲むようにして、平板状のフランジ53bが一体に形成されている。
【0021】
したがって、
図3に示すように、ブリスターケース53における収容空間53aの外側突出部53c(
図3参照)を、前面板52Aに形成された矩形状の窓孔52aに、その背面側から差し込むことで、シャープペンシルの収容空間53aが、前面板52Aから突出した状態で装着される。そして、収容空間53a内にシャープペンシル1を収容し、前面板52Aの裏面に背面板52Bを、接着剤により貼り付けることでブリスターケース53のフランジ53bは、前面板52Aと背面板52Bとの間に挟まれて固定され、
図1及び
図2に示すようにシャープペンシルを搭載した包装パッケージ51とすることができる。
【0022】
前記したシャープペンシルの包装パッケージ51においては、台紙52は前面板52Aと背面板52Bとを接着剤により接合することで構成されているが、接着剤による接合に代えて、前面板52Aと背面板52Bとの両者を、差し込みにより接合させる手段を採用することもできる。
また、前記した台紙52の素材となる前面板52Aと背面板52Bの折り曲げ前の紙基材は、坪量が250~350g/m3、板厚0.25~0.30mmのものを用いることが好ましい。なお、この発明に基づいて出願人が製品化する包装パッケージにおいては、坪量250g/m3の紙基材が用いられる。
【0023】
そして、衝撃吸収体52cの合計幅は、台紙52の幅寸法の半分未満であると共に、衝撃吸収体52cの合計幅(mm)と、合計長さ(mm)の和が、包装パッケージに搭載されるシャープペンシル1の軸重、すなわち重量(g)の2倍以上に設定されることが好ましい。この条件において、この種の包装パッケージにおいて、実用的な衝撃吸収効果が発揮できることが見出されている。
【0024】
図4(B)に、一対の衝撃吸収体52cを含む台紙52の下端部の部分拡大図が示されている。この実施の形態においては、台紙52の板厚は0.27mmであり、幅寸法W0は、50mmであり、矩形状に形成された左右の衝撃吸収体52cの幅寸法は共に7mmである。また、左右の衝撃吸収体52cの長さ寸法は共に3mmである。
したがって、この実施の形態によると、左右の衝撃吸収体52cの合計幅〔(W1+W2)=7mm+7mm=14mm〕は、台紙52の幅寸法〔W0=50mm〕の半分未満であるとする条件を満たしている。
【0025】
さらに、衝撃吸収体52cの合計幅(W1+W2)と、合計長さ(L1+L2)の和〔(W1+W2)+(L1+L2)〕は、〔(7mm+7mm)+(3mm+3mm)〕=20mmとなる。また、包装パッケージに搭載されるシャープペンシル1の軸重は、10gであることから、この実施の形態においては、前記した衝撃吸収体52cの合計幅(mm)と、合計長さ(mm)の和が、包装パッケージに搭載されるシャープペンシル1の軸重(g)の2倍以上に設定されるとの条件も満たすものとなる。
【0026】
前記した構成のシャープペンシルの包装パッケージ51について、1mの高さから衝撃吸収体52cを下向きにして、コンクリート面に自由落下させて検証したところ、ブリスターケース(PET樹脂:板厚0.22mm)53の損傷は認められず、シャープペンシル1の内蔵芯の破損も防止できることが検証された。
なお、前記した実施の形態においては、台紙52に一対(2つ)の衝撃吸収体52cを形成した例を示しているが、衝撃吸収体52cの数は、必要に応じて1つまたは3つ以上とすることができる。さらに、衝撃吸収体52cの幅寸法及び長さ寸法も、個々に選定することができる。
【0027】
前記したシャープペンシルの包装パッケージについては、台紙の一面に沿ってブリスターケースを装着したブリスターパッケージを例にして説明したが、この発明に係る包装パッケージは、台紙に載置された被包装体(シャープペンシル)を、例えば熱収縮性合成樹脂フィルムで被包し、その熱収縮力により台紙に被包装体を包装するシュリンク包装パッケージなどにも採用すること可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
次に
図5乃至
図13は、前記した包装パッケージ51に搭載したシャープペンシル1の一つの好ましい形態を示している。以下、このシャープペンシル1について、図に基づいて説明する。
図5は、シャープペンシル1の縦断面図であり、
図6は、
図5のシャープペンシル1の前半分の拡大断面図である。
シャープペンシル1は、前軸2と、前軸2の後端部の外周面に螺合する後軸3と、後軸3の後端部の内周面に嵌合し且つクリップを備えた内筒4とを有している。前軸2及び後軸3は、軸筒5を構成する。なお、内筒4も含めて軸筒5と称してもよい。シャープペンシル1は、軸筒5の先端から筆記芯が突出するように構成されている。軸筒5の先端近傍は、筆記芯を案内する先端パイプ6によって覆われている。本明細書では、シャープペンシル1の軸線方向において、筆記芯側を「前」側と規定し、筆記芯側とは反対側を「後」側と規定する。
【0029】
軸筒5の前端部の内部には、スライダ7が、軸線方向にスライド可能、且つ、軸線回りに回転可能に配置されている。スライダ7は、前方に向かって外径が段状に細くなる円筒状に形成されている。スライダ7の前端部には、上述した先端パイプ6が取り付けられている。また、先端パイプ6の後方には、中央に通孔が形成された保持チャック8が配置されている。保持チャック8の通孔は、筆記芯の外周面に摺接し、筆記芯を一時的に保持するように作用する。なお、先端パイプ6は外径が0.5~1.2mmであることが好ましく、本実施形態では外径が0.9mmに形成されている。
スライダ7の後端部には、円筒状に形成された中継部材9が螺合している。スライダ7及び中継部材9の内部には、筆記芯を把持するチャックユニット10及び芯ケース13が配置されている。チャックユニット10は、チャック本体部11と、チャック本体部11の前端部を包囲するように円筒状に形成された締め具12と、を有している。チャック本体部11の少なくとも前半分は、軸線方向に沿って3つのチャック片11aに分割され、中心軸線に沿って筆記芯の通孔が形成されている。チャック片11aの各々は、前端部が互いに離間するように形成されている。芯ケース13は、円筒状に形成され、内部には筆記芯が収容される。芯ケース13の前端部の内部には、チャック本体部11の後端部が挿入され、嵌合している。
【0030】
チャック本体部11を包囲するようにコイルスプリング14が配置されている。コイルスプリング14の前端は、中継部材9の内周面に形成された段部によって支持され、コイルスプリング14の後端は、芯ケース13の前端面に当接している。したがって、コイルスプリング14は、芯ケース13及びチャック本体部11を後方に付勢している。後方に付勢されたチャック本体部11は、締め具12内に収容されることによって前端部が互いに接近し、筆記芯を把持した状態を維持することができる。また、筆記芯に筆記圧が加わった場合には、チャック本体部11がより後退して締め具12内に収容され、筆記芯はチ
ャック本体部11によって把持される。これにより、筆記芯の後退は阻止される。他方、筆記芯を前方に引き出す力が働いた場合には、チャック本体部11が締め具12による作用を受けないため、筆記芯を抵抗なく前方に引き出すことができる。すなわち、チャックユニット10は、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するように作用するが、当該作用を奏する限りにおいてその他のチャックユニット、例えばボールチャックであってもよい。
【0031】
締め具12の外周面は、中継部材9の前端部の内周面に嵌合している。したがって、スライダ7、中継部材9及びチャックユニット10は、軸筒5内において軸線方向に移動可能である。中継部材9の後端部は、後述する回転駆動機構30に連結されている。
軸筒5の後端部、具体的には内筒4の後端部には、ノック部材としての筒状のノック部材20が軸筒5に対して前後動可能に設けられている。ノック部材20は、コイルスプリング21によって後方に付勢されている。ノック部材20の前端部の内部には、芯ケース13が挿入されている。ノック部材20の後端部の内部には、消去部材22が着脱可能に装着されている。ノック部材20の後端部の外周面には、ノックカバー23が着脱可能に取り付けられ、消去部材22を汚れ等から保護している。
【0032】
ノック部材20又はノックカバー23を前方へ押圧するノック操作をすることによって、芯ケース13が前進する。これにより、チャック本体部11が前方に押し出される。これに伴い、チャック本体部11に把持された筆記芯も前進し、筆記芯を先端パイプ6から繰り出させるように作用する。ノック操作による押圧を解除すると、コイルスプリング21の付勢力によって、ノック部材20は、後退して元の位置に復帰する。このとき、チャック本体部11は、コイルスプリング14の付勢力によって後退する。他方、筆記芯は、スライダ7内に配置された保持チャック8によって保持されるため、チャックユニット10の作用として、筆記芯はチャック本体部11から抵抗なく引き出される。その結果、筆記芯は、先端パイプ6から繰り出されることから、ノック操作を繰り返すごとに、筆記芯を所定量ずつ繰り出すことができる。
【0033】
図7は、
図5のシャープペンシル1の中央部分の拡大断面図であり、
図8は、回転駆動機構30の部分拡大図である。回転駆動機構30は、後軸3の内部空間に配置されている。回転駆動機構30は、中継部材9の後端部に接続されている。前軸2の後端面と回転駆動機構30の前端面との間に軸スプリング31が配置され、回転駆動機構30が後方に付勢されている。芯ケース13は、中継部材9及び回転駆動機構30の内部を貫通し、回転駆動機構30とは離間している。
回転駆動機構30は、円筒状に形成された回転子40と、円筒状に形成された第1カム形成部材である上カム形成部材41と、円筒状に形成された第2カム形成部材である下カム形成部材42と、円筒状に形成されたシリンダー部材43と、円筒状に形成されたトルクキャンセラー44と、コイル状のクッションスプリング45とを有している。回転駆動機構30は、これら部材が一体となって、ユニット化されている。
【0034】
回転子40の前端部の内周面には、中継部材9の後端部の外周面が嵌合している。回転子40の前端部近傍は、僅かばかり径の大きいフランジ状に形成された部分を有し、当該部分の後端面には第1カム面40aが形成され、当該部分の前端面には第2カム面40bが形成されている。
上カム形成部材41は、回転子40の第1カム面40aの後方において、回転子40を回動可能に包囲している。下カム形成部材42は、上カム形成部材41の前端部の外周面に嵌合している。回転子40の第1カム面40aに対向する上カム形成部材41の前端面には、第1固定カム面41aが形成されている。回転子40の第2カム面40bに対向する下カム形成部材42の前端部内面には、第2固定カム面42aが形成されている。
【0035】
第1カム面40aは複数の第1カム歯40aaを備え、第2カム面40bは複数の第2カム歯40baを備え、第1固定カム面41aは複数の第1固定カム歯41aaを備え、第2固定カム面42aは複数の第2固定カム歯42aaを備えている。第1カム歯40aa及び第1固定カム歯41aaは、同一形状及び同一配向である。第1カム歯40aa及び第2カム歯40baは、同一形状であるが線対称である。第1カム歯40aa、第2カム歯40ba及び第1固定カム歯41aaは、対応する各々のカム面において周方向に沿って隙間無く連続的に配置されている。他方、第2固定カム面42aの第2固定カム歯42aaは、第1カム歯40aa、第2カム歯40ba及び第1固定カム歯41aaよりも大きい相似形状である。また、第2固定カム歯42aaは、第2固定カム面42aにおいて周方向に沿って互いに離間しながら等間隔に配置されている。第1カム面40aは、複数の第1カム歯40aaによって鋸歯状に形成され、第2カム面40bは、複数の第2カム歯40baによって鋸歯状に形成され、第1固定カム面41aは、複数の第1固定カム歯41aaによって鋸歯状に形成されている。
【0036】
上カム形成部材41の後端部の外周面には、円筒状に形成されたシリンダー部材43が嵌合している。シリンダー部材43の後端部には、芯ケース13が挿通できる挿通孔43aが形成されている。シリンダー部材43内には、円筒状に形成されて軸線方向に移動可能なトルクキャンセラー44が配置されている。トルクキャンセラー44の前端部内面とシリンダー部材43の後端部内面との間には、クッションスプリング45が配置されている。クッションスプリング45は、トルクキャンセラー44を介して、回転子40を前方に付勢している。
【0037】
ここで、中継部材9は、筆記動作に基づく筆記芯の後退動作及び前進動作(クッション動作)を回転駆動機構30、すなわち回転子40に伝達すると共に、クッション動作によって生ずる回転駆動機構30における回転子40の回転運動を、筆記芯を把持した状態のチャックユニット10に伝達する。したがって、中継部材9の回転によって、チャックユニット10に保持された筆記芯も回転する。
【0038】
シャープペンシル1で筆記しているとき以外、すなわち、筆記芯に筆記圧が加わっていないとき、回転子40は、トルクキャンセラー44を介したクッションスプリング45の付勢力によって前方に位置している。したがって、回転子40の第2カム面40bは、第2固定カム面42aに当接して噛み合い状態になされる。シャープペンシル1で筆記しているとき、すなわち、筆記芯に筆記圧が加わっているとき、チャックユニット10は、クッションスプリング45の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子40も後退する。したがって、回転子40の第1カム面40aは、第1固定カム面41aに当接して噛み合い状態になされる。筆記芯と回転子40とは、一体的に、前進、後退又は回転をする。
図9は、回転駆動機構30の回転子40の回転駆動を順に説明する図であり、
図10は、回転駆動機構30の回転子40の回転駆動を順に説明する模式図である。
図10(A)乃至(E)は、
図9(A)乃至(E)にそれぞれ対応する模式図である。
【0039】
図10は、回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42を周方向に展開した状態を部分的に示している。また、クッション動作がより分かりやすくなるように、回転子40のカム歯について、
図8の仮想線に囲まれた1つのカム歯のユニットUとして説明する。
第2固定カム歯42aaは、その他のカム歯と相似形状であることから、機能的観点から見れば、同一形状で連続的に配置されたカム歯と実質的に等しい。したがって、例えば
図10及び後述する
図11においては、第2固定カム歯42aaをその他のカム歯と同一形状で連続的に配置されたカム歯に近似して模式的に示している。なお、第2固定カム歯42aaは、その他のカム歯と同様に同一形状として、周方向に沿って連続的に配置してもよい。また、第1カム歯40aa、第2カム歯40ba及び第1固定カム歯41aaは、それぞれ周方向に沿って連続的に配置されているが、周方向に沿って離間して配置してもよく、機能的観点から見て他のカム歯と互いに相似形状であってもよい。
【0040】
図9(A)及び
図10(A)は、筆記芯に筆記圧が加わっていないときの状態における前進した回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42の関係を示している。この状態においては、回転子40に形成された第2カム面40bは、クッションスプリング45の付勢力によって、下カム形成部材42の第2固定カム面42aに対して当接している。このとき、回転子40の第1カム面40aと上カム形成部材41の第1固定カム面41aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係となるように設定されている。
図9(B)及び
図10(B)は、シャープペンシル1による筆記のために、筆記芯に筆記圧が加わった初期の状態を示している。この状態においては、回転子40は、チャックユニット10の後退に伴ってクッションスプリング45を収縮させて後退する。それによって、回転子40は、上カム形成部材41側に移動して、第1固定カム面41aに当接する。
【0041】
次いで、
図9(C)及び
図10(C)は、筆記芯にさらに筆記圧が加わり、回転子40が上カム形成部材41の第1固定カム面41aに当接して滑りながら後退した状態を示している。すなわち、回転子40は、第1カム面40aの一歯の位相に相当する回転駆動を受ける。この状態においては、回転子40の第1カム面40aは、上カム形成部材41の第1固定カム面41aに噛み合っている。
なお、
図9における回転子40の中央部に描いた○印は、回転子40の回転移動量を示している。そして
図9(C)に示す状態においては、回転子40の第2カム面40bと下カム形成部材42の第2固定カム面42aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係となるように設定されている。
【0042】
次いで、
図9(D)及び
図10(D)は、シャープペンシル1による筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解除された初期の状態を示している。この状態においては、回転子40は、クッションスプリング45の付勢力によって前進する。これにより、回転子40は、下カム形成部材42側に移動して、第2固定カム面42aに当接する。
次いで、
図9(E)及び
図10(E)は、回転子40がクッションスプリング45の付勢力によって下カム形成部材42の第2固定カム面42aに当接して滑りながら前進した状態を示している。すなわち、回転子40は、第2カム面40bの一歯の位相に相当する回転駆動を再び受ける。この状態においては、回転子40の第2カム面40bは、下カム形成部材42の第2固定カム面42aに噛み合っている。
【0043】
したがって、
図9において回転子40の中央部に描いた○印で示すように、筆記圧を受けた回転子40の軸線方向への往復運動、すなわち前後動に伴って、回転子40は、第1カム面40a及び第2カム面40bの一歯に相当する回転駆動を受け、チャックユニット10を介して、これに把持された筆記芯も同様に回転駆動される。したがって、筆記による回転子40の軸線方向への1回の前後動によって回転子40はカムの一歯に対応する回転運動を受け、これを繰り返すことによって、筆記芯は順次回転駆動される。それ故、書き進むにしたがって筆記芯が偏って摩耗するのを防止することができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化することを防止することができる。なお、なお、以下の説明は、回転駆動機構を有するが、筆記芯が回転するように構成されていないシャープペンシルに対しても適用可能である。
【0044】
要するに、回転駆動機構30は、回転子40の後端面に形成された円環状の第1カム面40aと、回転子40の前端面に形成された円環状の第2カム面40bと、軸筒5側に設けられ、第1カム面40aと協働して回転子40を回転させる第1固定カム面41aと、軸筒5側に設けられ、第2カム面40bと協働して回転子40を回転させる第2固定カム面42aと、を有している。筆記圧によるチャックユニット10の後退動作によって、回転子40の第1カム面40aが第1固定カム面41aに当接して回転子40を回転させながら噛み合わされ、筆記圧の解除によって、回転子40の第2カム面40bが第2固定カム面42aに当接して回転子40を回転させながら噛み合わされるように構成されている。回転子40の第1カム面40aが、第1固定カム面41aに噛み合わされた状態において、第2カム面40bと第2固定カム面42aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係に設定され、回転子40の第2カム面40bが第2固定カム面42aに噛み合わされた状態において、第1カム面40aと第1固定カム面41aとが軸線方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係に設定されている。
【0045】
なお、クッションスプリング45の付勢力を受けて回転子40を前方に押し出すトルクキャンセラー44は、その前端面と回転子40の後端面との間で滑りを発生させて、回転子40の回転運動がクッションスプリング45に伝達するのを防止している。すなわち、トルクキャンセラー44によって、回転子40の回転運動がクッションスプリング45に伝達されるのを防止し、それによって、回転子40の回転動作を阻害するクッションスプリング45のねじれ戻り(トルク)が発生することを防止している。
【0046】
以上より、シャープペンシル1は、チャックユニット10と回転子40とを有し、チャックユニット10の前後動により筆記芯の解除及び把持を行うことで、筆記芯を前方に繰り出すことができるように構成され、チャックユニット10が、筆記芯を把持した状態で中心軸線回りに回転可能となるように軸筒5内に保持されると共に、筆記芯の筆記圧によるチャックユニット10を介した回転子40の前後動により回転子40を回転させ、回転子40の回転運動を、チャックユニット10を介して筆記芯に伝達するように構成されている。
【0047】
図11は、回転駆動機構30の各カムの関係を説明する模式図であり、
図10(A)と同一の図である。第1カム面40aの第1カム歯40aaは、第1斜面40aa1と第2斜面に相当する垂直面40aa2とを有し、隣接する第1カム歯40aaの第1斜面40aa1及び垂直面40aa2によって、第1カム面40aは連続する鋸歯状になされている。第1斜面40aa1は、軸線方向に対して直交する横断方向に対して傾斜角θで傾斜した面であり、垂直面40aa2は、軸線方向に対して平行な面、すなわち横断方向に対して直交する面である。上述したように、第2カム面40bの第2カム歯40ba、第1固定カム面41aの第1固定カム歯41aaも同様の形状を有している。
第1カム歯40aa及び第2カム歯40baの高さ、並びに、第2固定カム歯42aaが実質的に第2カム歯40baと噛み合う高さは、距離Hとする。第1カム歯40aaの垂直面40aa2の長さは、第1カム歯40aaの高さに等しく、したがって距離Hに等しい。第1カム歯40aaの先端が回転子40の後退によって第1固定カム歯41aaに当接するまでの移動距離は、距離Dとする。第1カム歯40aaの周方向に沿った長さを、カム歯の長さLとする。
【0048】
なお、第1カム歯40aaは、円筒状に形成された回転子40の部材に応じた径方向の厚みを有している。
図10及び
図11は、回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42を周方向に展開した状態を模式的に示しているが、第1カム歯40aaについて径方向の厚みの範囲のうちどの部分を展開するかで、厳密に言うと角度及び寸法が僅かばかり異なる。したがって、
図10及び
図11並びに本明細書のその他説明においては、回転子40の外径を規定する最も外側部分について周方向に展開したものとしてθ及びL等の角度及び距離並びにその他部材の位置関係を規定する。
【0049】
シャープペンシル1における回転駆動機構30では、第1固定カム面41aと第2固定カム面42aとは、回転子40の回転が阻害されない最小距離で配置されている。そのため、第2カム歯40baと第2固定カム歯42aaとが実質的に噛み合う高さである距離Hと、第1カム歯40aaの先端と第1固定カム歯41aaとの軸線方向における距離Dとは、等しくなるように構成されている。
詳細には、
図9(A)及び
図10(A)に相当する
図11においては、回転子40は、第2カム面40bの第2カム歯40baと第2固定カム面42aの第2固定カム歯42aaとが係止することによって回転が規制されている。この状態から筆記芯の後退によって回転子40が距離Hだけ後退すると、第2カム歯40baと第2固定カム歯42aaとの係止が解除され、それによって、回転子40の回転の規制が解除される。また、回転子40が距離Dだけ後退すると回転子40の第1斜面40aa1が第1固定カム歯41aaに当接し、それによって、回転子40を回転させることができる。
【0050】
要するに、回転子40の回転の規制の解除と、第1カム面40aと第1固定カム面41aとの当接とが同時に行われる場合、すなわち距離Hと距離Dとが等しい状態(D=H)が、第1固定カム面41aと第2固定カム面42aとが、回転子40の回転が阻害されない最小距離で配置された状態であるといえる。言い換えると、距離Hと距離Dとが等しい場合に、筆記芯の後退量mが最小となる。製造時の公差等を考慮し、僅かばかり距離Dが距離Hよりも長くなるように構成してもよい。最小距離とは、回転子の回転が阻害されないように設計された意図が客観的又は外形的に明らかであればよく、製造時の公差も考慮した上で判断され、シャープペンシルの使用による摩耗は考慮しないで判断される。
【0051】
上述したように、第1カム面40aと第1固定カム面41aとは、カムの一歯に対して位相がずれて配置されている。したがって回転子40は、
図9(B)及び
図10(B)に示された状態から
図9(C)及び
図10(C)に示された状態に至るまで、距離1/2Lだけ回転すると共に距離1/2Hだけ後退する。要するに、一連のクッション動作において、筆記芯は、距離3/2H(=1/2H+H)だけ後退し、これが回転駆動機構30として、筆記芯の最小の後退量mである。こうして幾何学的に求められる最小の後退量mを、最小後退量Mとする。当然のことながら、回転子40が後退した状態(
図9(C)及び
図10(C))から前進した状態(
図9(E)及び
図10(E))への軸線方向の移動量、すなわち前進量は、最小後退量Mと同一の距離3/2Hである。
【0052】
なお、第2カム面40bの第2カム歯40baの山の先端の動作に着目すると、最初に後退するとき軌跡T1に沿って移動し、その後の回転及び後退によって軌跡T2に沿って移動する。第1カム面40aの第1カム歯40aaも、これと同様の軌跡を描きながら移動する。
距離Hは、第1カム歯40aaの傾斜角θ及び周方向の長さLに依存し、H=Ltanθの関係にある。そのため、カム歯の長さLをより小さくするか又は傾斜角θをより小さくすることによって、距離Hを小さくすることができ、結果として最小後退量Mをより小さくすることができる。そこで、傾斜角θ及びカム歯の長さLの設計について説明する。
傾斜角θは、その大きさによってカム歯同士の滑りやすさを決める1つの要因である。すなわち、傾斜角θが小さすぎると、例えば傾斜角θが摩擦角よりも小さいと、カム歯同士が滑らず、したがって回転子40が回転しない。傾斜角θが大きすぎると、距離Hがより大きくなり、最小後退量Mもより大きくなる。筆記具の部品として使用されている材料全般も考慮し、傾斜角θは、8~25°の範囲内であることが好ましい。
【0053】
一般に、シャープペンシル等の筆記具の構成部品の多くは、ポリプロピレンやポリアセタール等の樹脂で形成される。特に回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42のカム構造のような複雑な形状で且つ外観に影響を与えないような内部部品は、金属材料で形成されることはほとんどない。これら部品に形成された各カム歯の協働動作、具体的には回転子40が上カム形成部材41又は下カム形成部材42に当接して滑りながら回転することを、特に摩擦抵抗を考慮してより確実に行うため、各カム歯において摩擦角よりも大きい傾斜角θが必要である。例えば、回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42をポリアセタールで製造し、その摩擦角を10.2°とする。すなわち、傾斜角θが10.2°以下だとカム歯同士が滑らず、したがって回転子40を回転させることができない。
【0054】
カム歯の長さLは、回転子40の外径から全周の長さを算出し(外径×π)、それをカム歯の数で割ることで算出される。回転子40の外径の寸法設計の一例について説明する。0.5mmの筆記芯は、シャープペンシル用芯のJIS規格S6005によれば、0.58mmの外径まで許容される。複数本の筆記芯を芯ケース13に収容可能とする場合、芯ケース13の内径は、例えば筆記芯の3本分として、少なくとも1.8mmだけ必要である。樹脂製の部材は、強度の観点から円筒状の部分の肉厚を少なくとも0.5mmとする。したがって、芯ケース13の肉厚、芯ケース13を包囲する部分の回転子40の肉厚、さらにはカム歯が形成されている部分の肉厚は各々0.5mmとする。これら肉厚及び芯ケース13の内径を考慮して、回転子40の第1カム面40a及び第2カム面40bの部分の外径は、4.8mmとなる。
第1カム面40aのカム歯の数、すなわち対応する第2カム面40bのカム歯の数は、20~90個であることが好ましい。カム歯の数は、1回のクッション動作によって回転する筆記芯の回転角を規定する。例えばカム歯の数が90個の場合、360°を90で割って4°となることから、1回のクッション動作で回転子40が4°だけ回転する。したがって、90画の筆記をすると、筆記芯は1回転する。
【0055】
カム歯の数が90個よりも多いと、回転角がより小さくなり、筆記芯が摩耗している部分で次の筆記が行われる。そのため、筆記芯の偏った摩耗を防止するという、回転駆動機構を備えたシャープペンシルの本来の目的を達成することができない。他方、カム数が20個よりも少ないと、カム歯の長さLがより大きくなる。そのため、上述した距離H=Ltanθの関係式から、カム歯の高さである距離Hがより大きくなり、最小後退量Mもより大きくなってしまう。そのため、カム歯の数は、20~90個が好ましい。
回転子40の外径を4.8mmとし、カム歯の数を90個とし、傾斜角θを摩擦角10.2°よりも大きい10.3°とした場合、カム歯の長さLは、4.8×π/90から、約0.17mmである。そうすると、カム歯の高さである距離Hは、Ltanθの関係式から、0.03mmとなる。その結果、最小後退量Mは、3/2Hの関係式から、0.05mmとなる。
【0056】
以上より、筆記芯の後退量mが、最小後退量Mである0.05mmよりも小さい場合には、カム歯の傾斜角θがより小さくなることから、カム歯同士が滑らず回転不良が生じる虞があるか、又は、回転子40の回転角がより小さくなることから、回転駆動機構を備えたシャープペンシルの本来の目的を達成することができない虞がある。したがって、後退量mは、最小後退量Mである0.05mm以上であることが好ましい。
他方、後退量mは0.3mm以下であることが好ましい。後退量mが0.3mmよりも大きい場合には、使用者が筆記芯の後退による違和感を覚える虞がある。
本発明者等は、学生23人に対し、後退量mが0.15mmのシャープペンシル及び後退量mが0.3mmのシャープペンシルについて、後退量mに違いがあることを事前に伝えずに筆記を行ってもらう調査を行ったところ、全員がその違いに気づいたという結果が得られた。要するに、使用者は、僅か0.15mmの違いも感じるということが分かった。筆記芯の後退量mはより小さい方が好ましいが、上述したように、後退量mが小さすぎると回転不良等の虞がある。使用者ができるだけ筆記芯の後退という違和感を覚えないようにしつつ、確実に回転子40及び筆記芯の回転を実現するため、後退量mは、0.3mm以下であることが好ましい。
【0057】
以上より、軸筒5と、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するチャックユニット10と、回転子40を有し、チャックユニット10に把持された筆記芯が受ける筆記圧による軸線方向の後退動作及び筆記圧の解除による軸線方向の前進動作を受けて、回転子40を一方向に回転駆動させる回転駆動機構30と、を具備するシャープペンシル1において、筆記芯の後退量mは、0.05~0.3mmの範囲内であることが好ましい。
上述したように、カム歯の数を90個とすると1回のクッション動作で4°だけ回転する。筆記圧の強い使用者の場合、1回の筆記によって摩耗する筆記芯の量も多く、そのため4°の回転では十分ではない場合がある。1回のクッション動作によって回転する筆記芯の回転角を増やすため、カム歯の数は20~40個であることがより好ましい。例えばカム歯の数が40個の場合、360°を40で割って9°となることから、1回のクッション動作で回転子40が9°だけ回転する。したがって、40画の筆記をすると、筆記芯は1回転する。
回転子40の外径を上述した4.8mmとし、カム歯の数を40個とし、傾斜角θを10.3°とする場合、カム歯の長さLは、4.8×π/40から、約0.38mmである。そうすると、カム歯の高さである距離Hは、Ltanθの関係式から、0.07mmとなる。その結果、最小後退量Mは、3/2Hの関係式から、0.1mmとなる。
【0058】
以上より、後退量mが0.1mm以上だと、筆記圧が強い使用者の場合であっても十分な筆記芯の回転が得られるためより好ましい。さらに、使用者によっては、筆記面に対して極端にシャープペンシル1を傾けて筆記する場合がある。このような場合、後退量mがより大きい方が、すなわちカム歯の長さLをより長くするか又は傾斜角θをより大きくした方が、各カム歯を確実に協働させることができるため好ましい。こうした理由からも、後退量mが0.1mm以上であることがより好ましい。
ところで、小さい文字を筆記しているときは筆記芯の先端を注視し且つ感覚もより研ぎ澄まされることから、後退量mは、0.2mm以下であることがより好ましい。また、同じクッション量であっても、0.5mmの筆記芯による筆記時に感じる感覚と、0.3mmの筆記芯による筆記時に感じる感覚とは異なる。すなわち、0.3mmの筆記芯による筆記時に感じる感覚の方が、筆記芯の太さに対して、筆記芯の先端が前後する距離が相対的に大きいことから、より違和感を覚えやすい。こうした理由からも、後退量mは、0.2mm以下であることがより好ましい。
以上より、筆記芯の後退量mは、0.1~0.2mmの範囲内であることがより好ましい。
【0059】
また、後退量mは、筆記芯の芯径に応じて変更してもよく、筆記芯の外径の約半分以下であることがより好ましい。例えば、シャープペンシル用芯のJIS規格S6005によれば、例えば、0.5mmの筆記芯は、0.55~0.58mmと規定されている。したがって、0.5mmの筆記芯の場合、後退量mは、0.3mm以下であることが好ましい。同様に、0.3mmの筆記芯は、0.37~0.39mmと規定されている。したがって、0.3mmの筆記芯の場合、後退量mは、0.2mm以下であることが好ましい。
【0060】
なお、カム歯は、全周に亘って連続的でなくてもよい。カム歯の数を考える場合、例えカム歯が全周に亘って連続的ではなく、離間して配置されている場合であっても、代表する1つのカム歯の周方向の長さLで、全周の長さを割ることで、仮想的なカム歯の数を算出してもよい。カム歯の数は、設計の効率化のため、回転子40の一周360°に対して、20個、40個、60個及び90個が好ましく、40個が後退量mの低減の観点から最も好ましい。
【0061】
上述した実施形態では、回転子40の外径やカム歯の数、傾斜角の一例に基づき、最小後退量M、さらには筆記芯の後退量mについて説明したが、上述した筆記芯の後退量mの好適な範囲は、その他の外径やカム歯の数等のシャープペンシルにおいても同様に適用可能である。すなわち、上述した実施形態によれば、筆記芯を回転させる回転駆動機構を備えたシャープペンシル1において、筆記芯の後退量をより低減させることができる。
ところで、第1カム歯40aaの長さLをより短くするということは、1つの第1カム歯40aaが全周の長さに占める割合を小さくすることになる。言い換えると、長さLをより短くするということは、カム歯の数を増やすことができるようになる。長さLをより短くすると、上カム形成部材41及び下カム形成部材42に対する回転子40の相対的位置関係が径方向においてずれることによって、すなわち互いの中心軸線がずれることによって、ずれた方向に対して直交する方向に対応する位置に配置されたカム歯の噛み合いが不完全となる可能性がある。その結果、回転子40の回転不良が生じる可能性がある。これに関し、
図12及び
図13を参照しながら説明する。
【0062】
図12は、回転子40のずれを説明する図であり、
図13は、回転子40の回転不良を説明する図である。
図12は、回転駆動機構30を軸線方向から見て縮尺等を捨象して多少誇張して模式的に描かれている。
図12において、上カム形成部材41及び下カム形成部材42に対して回転子40が図において上方に距離gだけずれた状態を示している。すなわち上カム形成部材41及び下カム形成部材42は、軸筒5側に設けられていることから、これらの中心軸線は一致しているが、回転子40の中心軸線だけが、距離gだけずれている。
【0063】
図13(A)は、回転子40が径方向に最もずれた位置である
図12の部分P1の各カムの関係を示している。
図13(B)は、回転子40が周方向に最もずれた位置である
図12の部分P2の各カムの関係を示している。すなわち、部分P1は、回転子40がずれた方向に位置する部分であり、部分P2は、ずれた方向に対して直交する方向に位置する部分である。各カムの各カム歯は、周方向に沿って配置されていることから、部分P1においてカム歯の各々は、図において左右方向に沿って配置され、部分P2においてカム歯の各々は、図において上下方向に沿って配置されている。
図13(A)を参照すると、回転子40のカム歯は、上カム形成部材41及び下カム形成部材42のカム歯に対して、
図10(A)に示された状態と比較して、回転子40の径方向、すなわち図において紙面垂直方向に距離gだけずれている。そのため、部分P1においては、カム歯の位相についてのずれはなく、したがって回転子40の回転駆動に対する影響はほとんどない。
【0064】
他方、
図13(B)を参照すると、回転子40のカム歯は、上カム形成部材41及び下カム形成部材42のカム歯に対して、
図10(A)に示された状態と比較して、回転子40の周方向、すなわち図において右方向に距離gだけずれている。通常であれば、筆記により回転子40が後退したとき、回転子40の第1カム面40aが、回転子40の第1斜面40aa1の半分の長さに亘り、上カム形成部材41の第1固定カム面41aに当接する。すなわち、
図10(B)に示されるように、周方向における当接部分の長さである掛かり代Eは、1/2Lである。
他方、回転子40が距離gだけずれていることによって、その分だけ、掛かり代Eは小さくなる。そのため、第1カム面40aと第1固定カム面41aとが確実に協働することができず、回転子40が回転しない回転不良が生じる虞がある。また、
図13(C)に示されるように、距離gが、第1カム歯40aaのカム歯の長さLの半分より大きい場合、すなわちカムの一歯に対して位相が以上ずれた場合には、第1カム面40aは、当接すべき対応する第1固定カム面41aに当接することもできない。その結果、その他の部分では回転駆動力が生じたとしても、当該部分によって回転が規制され、回転子40が回転しない回転不良が生じる。
【0065】
要するに、カム歯の長さLが、回転子40が径方向にずれた距離gに対して相対的に小さいほど、回転不良が生じる可能性が高くなる。したがって、回転子40の径方向のずれを考慮し、カム歯の長さL、ひいてはカム歯の数が、上述した筆記芯の後退量mを実現可能な範囲において適宜決定される。
なお、回転子40の径方向のずれは、回転子40が中継部材9を介して連結するスライダ7の先端部の外周面と、当該外周面を包囲する前軸2の内周面とのクリアランスに大きく依存する。クリアランスは、製造時の公差に起因することから、より精度良く加工できるよう、少なくともスライダ7は金属製であることが好ましい。
上述した実施形態における回転子40の第1カム歯40aaは、第1斜面40aa1と第2斜面に相当する垂直面40aa2とを有している。そのため、第1カム面40aは連続する、いわゆる鋸歯状に形成されている。その他のカム歯についても同様の形状である。カム歯は、鋸歯状でなくても回転子を回転駆動させることは可能である。以下、別のカム歯の形状について説明する。
【0066】
図14は、別の回転駆動機構の各カムの関係を説明する模式図であり、
図11に対応する図である。
図14に示された回転駆動機構は、回転子140、上カム形成部材141及び下カム形成部材142を有しており、上述した回転駆動機構30の回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42と置換可能である。
第1カム面140aの第1カム歯140aaは、第1斜面140aa1と第2斜面140aa2とを有し、隣接する第1カム歯140aaの第1斜面140aa1及び第2斜面140aa2によって、第1カム面40aは連続する山型状になされている。第1斜面140aa1は、軸線方向に対して直交する横断方向に対して傾斜角θで傾斜した面である。第2カム面140bの第2カム歯140ba、第1固定カム面141aの第1固定カム歯141aa及び第2固定カム面142aの第2固定カム歯142aaも、第1カム歯140aaと同様の形状を有している。
【0067】
図15は、
図14の回転駆動機構の回転子140の回転駆動を順に説明する模式図である。
図15(A)乃至(E)は、
図10(A)乃至(E)にそれぞれ対応する模式図であり、基本的な動作は同じである。
図15は、回転子140、上カム形成部材141及び下カム形成部材142を周方向に展開した状態を部分的に示している。また、クッション動作がより分かりやすくなるように、回転子140のカム歯について、
図10と同様に1つのカム歯のユニットUとして説明する。
図15(A)は、筆記芯に筆記圧が加わっていないときの状態における前進した回転子140、上カム形成部材141及び下カム形成部材142の関係を示している。この状態においては、回転子140に形成された第2カム面140bは、クッションスプリング45の付勢力によって、下カム形成部材142の第2固定カム面142aに対して当接している。このとき、回転子140の第1カム面140aと上カム形成部材141の第1固定カム面141aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して位相がずれた関係となるように設定されている。
【0068】
図15(B)は、シャープペンシル1による筆記のために、筆記芯に筆記圧が加わった初期の状態を示している。この状態においては、回転子140は、チャックユニット10の後退に伴ってクッションスプリング45を収縮させて後退する。それによって、回転子140は、上カム形成部材141側に移動して、第1固定カム面141aに当接する。
次いで、
図15(C)は、筆記芯にさらに筆記圧が加わり、回転子140が上カム形成部材141の第1固定カム面141aに当接して滑りながら後退した状態を示している。すなわち、回転子140は、第1カム面140aの一歯の位相に相当する回転駆動を受ける。この状態においては、回転子140の第1カム面140aは、上カム形成部材141の第1固定カム面141aに噛み合っている。
次いで、
図15(D)は、シャープペンシル1による筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解除された初期の状態を示している。この状態においては、回転子140は、クッションスプリング45の付勢力によって前進する。これにより、回転子140は、下カム形成部材142側に移動して、第2固定カム面142aに当接する。
【0069】
次いで、
図15(E)は、回転子140がクッションスプリング45の付勢力によって下カム形成部材142の第2固定カム面142aに当接して滑りながら前進した状態を示している。すなわち、回転子140は、第2カム面140bの一歯の位相に相当する回転駆動を再び受ける。この状態においては、回転子140の第2カム面140bは、下カム形成部材142の第2固定カム面142aに噛み合っている。
したがって、筆記圧を受けた回転子140の軸線方向への往復運動、すなわち前後動に伴って、回転子140は、第1カム面140a及び第2カム面140bの一歯に相当する回転駆動を受け、チャックユニット10を介して、これに把持された筆記芯も同様に回転駆動される。要するに、カム歯の形状が鋸歯状であっても、山型状であっても回転駆動機構の基本的な回転駆動の動作について相違はない。
【0070】
図14を参照しながら、最小後退量Mの算出について説明する。
図11に示された鋸歯状のカム歯の高さが距離Hであるのに対し、
図14に示された山型状のカム歯の高さを、距離H’とする。
図14では、
図11に示された鋸歯状のカム歯を仮想線で示している。第1カム歯140aaの先端が回転子140の後退によって第1固定カム歯141aaに当接するまでの移動距離を、距離Dとする。第1カム歯140aaの周方向に沿った長さを、カム歯の長さLとする。第1カム歯140aaの三角形を考え、頂点から底辺に対して垂線を引いて長さLを分割したとき、回転子140の回転方向(図中左方向)に対して後側の底辺の長さをXとし、回転子140の回転方向に対して前側の底辺の長さをYとする。
【0071】
鋸歯状のカム歯の距離Hと山型状のカム歯の距離H’とは、幾何学的にH’=HX/(X+Y)の関係となる。また、
図14の第2カム歯140baの部分の複数の補助線Jを考慮すると、距離Dは、D=H-2H(Y/(X+Y))=H(X-Y)/(X+Y)となる。これらより、最小後退量Mは、M=1/2H+D=1/2H+H(X-Y)/(X+Y)=H(3X-Y)/{2(X+Y)}=H’(3X-Y)/(2X)の関係となる。したがって、最小後退量M=3/2H’-H’Y/(2X)という関係式が求められる。
図11に示されたカム歯の高さが距離Hの鋸歯状のカム歯の場合、Yがゼロであることから、当該関係式によれば上述のとおり最小後退量M=3/2Hとなる。
なお、第2カム面140bの第2カム歯140baの山の先端の動作に着目すると、最初に後退するとき軌跡T3に沿って移動し、その後の回転及び後退によって軌跡T4に沿って移動する。第1カム面140aの第1カム歯140aaも、これと同様の軌跡を描きながら移動する。
【0072】
第1カム歯140aaは、X=Yのときに二等辺三角形となる。この場合、最小後退量M=3/2H’-H’Y/(2X)の関係式より、最小後退量M=H’となり、最小後退量Mは最小となる。しかしながら、
図14を参照しながらX=Yの場合を考慮すると明らかなように、第1カム歯140aaの頂点と、第1固定カム歯141aaの頂点とは、対向する位置に配置される。そのため、掛かり代Eは微小又は点状となり、回転子140の径方向における僅かなずれによって、回転不良を生じる可能性がある。
したがって、YはXよりも小さい方が好ましい。また、第1カム歯140aaは、上記関係式から、
図11に示されるような直角三角形である鋸歯状の第1カム歯40aaではない方が、最小後退量Mをより小さくすることができる。したがって、Yはゼロよりも大きい方が好ましい。
【0073】
以上より、第1カム歯140aaの頂点又は第2カム歯140baの頂点に対して、回転子140の回転方向に対して後側の底辺の長さをXとし、回転子140の回転方向に対して前側の底辺の長さをYとすると、0<Y<Xの関係となるように第1カム歯140aa及び第2カム歯140baが構成されていることが好ましい。そして、第1固定カム面141aと第2固定カム面142aとは、回転子140の回転が阻害されない最小距離で配置されるように構成されていることが好ましい。それによって、最小後退量M、ひいては筆記芯の後退量mをより低減させつつ、必要な掛かり代Eをより大きく確保することができる。
【0074】
ところで、製造時の公差を考慮すると、掛かり代Eは、0.1mm以上(E≧0.1mm)であることが好ましい。これに関し、カム歯の数を40個とし、上述したように、回転子140の第1カム面140a及び第2カム面140bの部分の外径が、4.8mmの場合を考える。また、各種寸法について、シャープペンシル1又は回転子140の中心軸線回りの回転角に対応させて説明する。
カム歯の数が40個のとき、カムの一歯の位相に相当する回転角αは、360/40/2=4.5°となる。0.1mmの掛かり代Eに相当する回転角βは、4.8mm×π×β/360=0.1の関係式から、2.4°となる。
図14を参照し、上述した第1カム歯140aaの底辺について、X=Yの二等辺三角形を考えた場合、第1カム歯140aaの頂点が、図中左方向に1.2°オフセットし、対向する第1固定カム歯141aaは、図中右方向に1.2°オフセットすると、相対的に合計2.4°の回転角となり、掛かり代Eは0.1mmとなる。このときの第1カム歯140aaの底辺の長さに関し、Xに相当する回転角は、カムの一歯に相当する回転角の9.0°から、9.0/2+1.2=5.7°となり、Yに相当する回転角は、9.0/2-1.2=3.3°となる。したがって、掛かり代E≧0.1mmとするためには、X/Y≧5.7/3.3=1.72であることが好ましい。
【0075】
以上より、X/Y≧1.72の関係となるように第1カム歯140aa及び第2カム歯140baが構成されていることが好ましい。また、回転子140の径方向におけるずれによる回転不良をより確実に防止するため、X/Y≧2.0の関係となるように第1カム歯140aa及び第2カム歯140baが構成されていることがより好ましい。また、上述したX及びYの関係にあるカム歯の場合であっても、上述したように、後退動作による筆記芯の後退量が0.05~0.3mmの範囲内であることが好ましく、0.1~0.2mmの範囲内であることがより好ましい。
【0076】
上述した実施形態では、回転子140の外径やカム歯の数、傾斜角の一例に基づき、好適なカム歯の形状、すなわち、X及びYの関係について説明したが、上述したX及びYの関係は、その他の外径やカム歯の数等のシャープペンシルにおいても同様に適用可能である。すなわち、上述した実施形態によれば、筆記芯を回転させる回転駆動機構を備えたシャープペンシル1において、筆記芯の後退量をより低減させることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 シャープペンシル
51 包装パッケージ
52 台紙
52A 前面板
52B 背面板
52a 窓孔
52b1 吊り下げ孔
52b2 吊り下げ孔
52c 衝撃吸収体
52d 折り曲げ線
53 ブリスターケース
53a 収容空間
53b フランジ
53c 外側突出部