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特開2024-108773ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド樹脂、配線回路基板、および、電子機器
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  • 特開-ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド樹脂、配線回路基板、および、電子機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108773
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド樹脂、配線回路基板、および、電子機器
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20240805BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20240805BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240805BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G03F7/004 503Z
H05K3/28 D
G03F7/038 504
G03F7/004 501
C08L79/08 A
C08K5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013331
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】西野 晃太
【テーマコード(参考)】
2H225
4J002
5E314
【Fターム(参考)】
2H225AC64
2H225AG00P
2H225AM73P
2H225AM99P
2H225AN21P
2H225AN51P
2H225AN84P
2H225BA28P
2H225CA13
2H225CB06
2H225CC01
2H225CC25
4J002CM041
4J002EH127
4J002ET006
4J002EU076
4J002GP03
4J002GQ00
5E314AA27
5E314AA36
5E314BB02
5E314CC01
5E314FF04
5E314GG26
(57)【要約】
【課題】熱特性および電気特性に優れるポリイミド樹脂を形成するポリイミド前駆体組成物を提供する。
【解決手段】ポリアミド酸と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物とを含み、前記光塩基発生剤が、脱炭酸反応型である、ポリイミド前駆体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸と、
光塩基発生剤と、
窒素非含有エステル化合物と
を含み、
前記光塩基発生剤が、脱炭酸反応型である、ポリイミド前駆体組成物。
【請求項2】
前記光塩基発生剤が、カルバメート基を有する化合物である、請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
前記光塩基発生剤が、さらに、ピペリジン構造を有する化合物である、請求項2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
前記光塩基発生剤が、さらに、アントラセニル基またはアントラキノニル基を有する化合物である、請求項2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項5】
前記窒素非含有エステル化合物が、4-ヒドロキシ安息香酸類である、請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体組成物から形成される、ポリイミド樹脂。
【請求項7】
請求項6に記載のポリイミド樹脂を含む、配線回路基板。
【請求項8】
請求項7に記載の配線回路基板を含む、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド樹脂、配線回路基板、および、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器に用いられる配線回路基板として、金属基材上に形成される絶縁層を備える配線回路基板が知られている。
【0003】
このような配線回路基板に用いられる絶縁層の材料として、例えば、ポリイミド前駆体と、ピリジン系感光剤と、イミドアクリレート化合物とを含む、ポリイミド前駆体組成物が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-100441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、配線回路基板に用いられるポリイミド樹脂は、熱特性および電気特性に優れることが要求される。
【0006】
しかしながら、特許文献1のポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド樹脂は、熱特性および電気特性が不十分である。
【0007】
本発明は、熱特性および電気特性に優れるポリイミド樹脂を形成するポリイミド前駆体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明[1]は、ポリアミド酸と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物とを含み、前記光塩基発生剤が、脱炭酸反応型である、ポリイミド前駆体組成物を含んでいる。
【0009】
本発明[2]は、前記光塩基発生剤が、カルバメート基を有する化合物である、上記[1]に記載のポリイミド前駆体組成物を含んでいる。
【0010】
本発明[3]は、前記光塩基発生剤が、ピペリジン構造を有する化合物である、上記[1]または[2]に記載のポリイミド前駆体組成物を含んでいる。
【0011】
本発明[4]は、前記光塩基発生剤が、さらに、アントラセニル基またはアントラキノニル基を有する化合物である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体組成物を含んでいる。
【0012】
本発明[5]は、前記窒素非含有エステル化合物が、4-ヒドロキシ安息香酸類である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体組成物を含んでいる。
【0013】
本発明[6]は、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体組成物から形成される、ポリイミド樹脂を含んでいる。
【0014】
本発明[7]は、上記[6]に記載のポリイミド樹脂を含む、配線回路基板を含んでいる。
【0015】
本発明[8]は、上記[7]に記載の配線回路基板を含む、電子機器含んでいる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、ポリアミド酸と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物とを含み、光塩基発生剤が、脱炭酸反応型である。そのため、熱特性および電気特性に優れるポリイミド樹脂を形成することができる。
【0017】
本発明のポリイミド樹脂は、本発明のポリイミド前駆体組成物から形成される。そのため、熱特性および電気特性に優れる。
【0018】
本発明の配線回路基板は、本発明のポリイミド樹脂を含む。そのため、熱特性および電気特性に優れる。
【0019】
本発明の電子機器は、本発明の配線回路基板を含む。そのため、熱特性および電気特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1Aから図1Eは、本発明の一実施形態としてのポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド樹脂を用いて、絶縁層を形成する方法の一例を示す。図1Aは、塗布工程を示し、図1Bは、乾燥工程を示し、図1Cは、露光工程を示し、図1Dは、現像工程を示し、図1Eは、硬化工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.ポリイミド前駆体組成物
本発明のポリイミド前駆体組成物は、ポリアミド酸と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物とを含んでいる。ポリイミド前駆体組成物は、フォトリソグラフィ法によってパターンを形成でき、加熱によりポリイミド樹脂となる。
【0022】
<ポリアミド酸>
ポリアミド酸は、ポリイミド前駆体であり、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物である。ポリアミド酸は、繰り返し単位内で隣接するアミド基とカルボキシル基とが反応(イミド化反応)し、イミド基含有閉環構造を形成することによって、ポリイミド樹脂を形成する。イミド化反応は、例えば、加熱によって生ずる。
【0023】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、および、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物が挙げられる。
【0024】
ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミンが挙げられる。
【0025】
芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ジアミノベンゼン、2,5-ジアミノトルエン、および、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルが挙げられる。
【0026】
ポリアミド酸は、例えば、下記の一般式(1)で表される第1構造単位と、下記の一般式(2)で表される第2構造単位とを含む。一般式(1)において、R1は、炭素数1~3のアルキル基であり、mは、0または4以下の正の整数であり、nは、4以下の正の整数である。
【0027】
【化1】
【0028】
【化2】
【0029】
第1構造単位と第2構造単位とを含むポリアミド酸は、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、少なくとも二種類のジアミンとを、有機溶剤中で反応させることにより得られる。
【0030】
すなわち、ポリアミド酸は溶液として得られる。有機溶剤としては、特に制限されず、例えば、公知の有機溶剤が挙げられ、好ましくは、後述する有機溶剤が挙げられる。
【0031】
このような場合、ポリアミド酸の溶液の固形分濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは、3質量%以上、また、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0032】
また、少なくとも二種類のジアミンは、第1構造単位用のジアミン(第1ジアミン)と、第2構造単位用のジアミン(第2ジアミン)とを含む。
【0033】
第1ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミンが挙げられる。すなわち、一般式(1)おいて、mは、好ましくは、0であり、nは、好ましくは、1である。
【0034】
第2ジアミンとしては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルが挙げられる。
【0035】
第1ジアミン(a1)と第2ジアミン(a2)のモル比率(a1/a2)は、例えば、0.25以上、好ましくは、0.5以上、より好ましくは、1以上、さらに好ましくは、2以上、また、例えば、10以下、好ましくは、7.5以下、より好ましくは、5以下である。
【0036】
第1ジアミン(a1)と第2ジアミン(a2)のモル比率(a1/a2)が、上記下限以上であれば、ポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド樹脂の熱膨張率を抑制でき、また、上記上限以下であれば、ポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド樹脂の吸湿膨張率を抑制できる。
【0037】
ポリアミド酸(固形分)の配合割合は、ポリイミド前駆体組成物(固形分)100質量部に対して、例えば、40質量部以上、好ましくは、50質量部以上、より好ましくは、55質量部以上、さらに好ましくは、58質量部以上、とりわけ好ましくは、60質量部以上、また、例えば、95質量部以下、好ましくは、90質量部以下、より好ましくは、80質量部以下、さらに好ましくは、70質量部以下である。
【0038】
ポリアミド酸(固形分)の配合割合が、ポリイミド前駆体組成物(固形分)100質量部に対して、上記範囲内であれば、ポリイミド前駆体組成物の良好な粘度を確保できる。
【0039】
<光塩基発生剤>
光塩基発生剤は、紫外線などの活性光線を照射することによって、塩基を発生する化合物である。光塩基発生剤は、発生した塩基によって、フォトリソグラフィ法の露光工程で光照射を受けた部分(露光部)における、ポリアミド酸の加熱によるイミド化を促進させる感光剤である。
【0040】
また、光塩基発生剤は、脱炭酸反応型である。光塩基発生剤における、脱炭酸反応とは、紫外線などの活性光線を照射し、その光を吸収する際に、二酸化炭素を放出する化学反応である。このように、脱炭酸反応型の光塩基発生剤は、エントロピー的に優位な脱炭酸反応を伴って、塩基を発生するため、塩基が発生しやすい。そのため、ポリアミド酸のイミド化反応がより一層促進でき、電気特性に優れるポリイミド樹脂を形成できる。
【0041】
光塩基発生剤としては、紫外線などの活性光線を照射することによって、脱炭酸反応が起こり、塩基を発生する化合物であればよく、例えば、カルバメート基を有する化合物が挙げられる。カルバメート基を有する光塩基発生剤に、紫外線などの活性光線を照射すると、二酸化炭素が放出され、塩基が発生する。
【0042】
光塩基発生剤としては、例えば、下記の一般式(3)の化合物を含む。光塩基発生剤としては、好ましくは、下記の一般式(3)の化合物である。下記の一般式(3)の化合物を含む光塩基発生剤は、紫外線などの活性光線を照射することによって、脱炭酸反応が起こり、塩基を発生する。一般式(3)の化合物における、R2~R4の詳細は後述する。
【0043】
【化3】
【0044】
一般式(3)の化合物に、紫外線などの活性光線が照射されると、脱炭酸反応により、R4を含む残基とともに、R2、R3、および、窒素原子を含む塩基を発生する。
【0045】
一般式(3)の化合物における、R2およびR3としては、例えば、それぞれ独立し、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、および、炭素数4~6の脂環族炭化水素基を示す。また、例えば、R2およびR3が結合している窒素原子とともに閉環し、炭素数2~6の窒素含有脂環族を示す。
【0046】
なお、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、および、窒素含有脂環族は、置換基を有していてもよい。好ましくは、窒素含有脂環族は、置換基を有し、脂肪族炭化水素基、および、脂環族炭化水素基は、置換基を有さない。
【0047】
また、脂環族炭化水素基、および、窒素含有脂環族は、ヘテロ原子を有していてもよい。
【0048】
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基が挙げられ、好ましくは、アルキル基が挙げられる。
【0049】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、および、1-エチルブチル基が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、および、n-ブチル基が挙げられ、より好ましくは、エチル基が挙げられる。
【0050】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基が挙げられる。
【0051】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、および、シクロヘキシル基が挙げられ、好ましくは、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0052】
窒素含有脂環族としては、アジリジン(3員環)、アゼチジン(4員環)、ピロリジン(5員環)、および、ピペリジン(6員環)が挙げられ、好ましくは、ピペリジンが挙げられる。すなわち、光塩基発生剤は、好ましくは、ピペリジン構造を有する。
【0053】
置換基としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基、および、メタクリル基が挙げられ、好ましくは、メチル基、および、メタクリル基が挙げられる。
【0054】
一般式(3)の化合物において、R2およびR3としては、例えば、それぞれ独立し、エチル基、および、シクロヘキシル基を示し、また、例えば、R2およびR3が結合している窒素原子とともに閉環し、4‐メタクリルオキシ-ピペリジン、および、2,6-ジメチル-ピペリジンを示す。
【0055】
一般式(3)の化合物における、R4としては、例えば、芳香脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0056】
芳香脂肪族炭化水素基において、芳香族炭化水素基に結合する脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~4のアルキレン基が挙げられ、好ましくは、メチレン基が挙げられる。
【0057】
なお、アルキレン基は、置換基を有していてもよい。
【0058】
置換基としては、例えば、アルキル基が挙げられ、好ましくは、メチル基が挙げられる。
【0059】
芳香脂肪族炭化水素基において、芳香族炭化水素基としては、長波長の光で感光する観点から、例えば、フェニル基、ナフタリル基、アントラセニル基、および、アントラキノニル基が挙げられ、好ましくは、フェニル基、アントラセニル基、および、アントラキノニル基が挙げられる。また、より長波長の光で感光する観点から、アントラセニル基、および、アントラキノニル基が、より好ましい。すなわち、光塩基発生剤は、好ましくは、アントラセニル基、および、アントラキノニル基を有する。
【0060】
芳香脂肪族炭化水素基において、芳香族炭化水素基が、フェニル基、ナフタリル基、アントラセニル基、および、アントラキノニル基を有する場合、長波長の光(活性エネルギー線)の照射によっても、効率的に塩基を発生することが可能となる。
【0061】
なお、芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよく、好ましくは、フェニル基は、置換基を有し、アントラセニル基、および、アントラキノニル基は、置換基を有さない。
【0062】
置換基としては、例えば、ニトロ基、および、アルコキシ基が挙げられる。
【0063】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、および、エトキシ基が挙げられ、好ましくは、メトキシ基が挙げられる。
【0064】
芳香族炭化水素基としては、例えば、ニトロフェニル基、2-ニトロ-4,5‐メトキシフェニル基、アントラセニル基、および、アントラキノニル基が挙げられる。
【0065】
一般式(3)の化合物において、例えば、R2およびR3が、それぞれ独立する、脂肪族炭化水素基であれば、R4の芳香族炭化水素基がアントラセニル基である。また、例えば、R2およびR3が、それぞれ独立する、脂環族炭化水素基であれば、R4の芳香族炭化水素基がアントラセニル基、および、アントラキノニル基である。さらに、例えば、R2およびR3が結合している窒素原子とともに閉環する窒素含有脂環族であれば、R4の芳香族炭化水素基がフェニル基である。
【0066】
一般式(3)の化合物としては、具体的には、下記の化学式(4)~(8)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【化4】
【0068】
【化5】
【0069】
【化6】
【0070】
【化7】
【0071】
【化8】
【0072】
上記化学式(4)~(8)の化合物を含む光塩基発生剤は、紫外線などの活性光線を照射することによって、脱炭酸反応が起こり、塩基を発生させる。例えば、上記化学式(4)で示される化合物では、下記化学反応式(9)で表される、脱炭酸反応が起こる。
【0073】
化学反応式(9):
【0074】
【化9】
【0075】
光塩基発生剤から発生する塩基としては、例えば、アミン化合物が挙げられ、好ましくは、二級アミン化合物が挙げられる。
【0076】
光塩基発生剤から発生するアミン化合物としては、例えば、脂肪族アミン化合物、脂環族アミン化合物、および、複素環アミン化合物が挙げられる。
【0077】
脂肪族アミン化合物、脂環族アミン化合物、および、複素環アミン化合物は、置換基を有していてもよい。好ましくは、複素環アミン化合物は、置換基を有し、脂肪族アミン化合物、および、脂環族アミン化合物は、置換基を有さない。
【0078】
また、脂環族アミン化合物、および、複素環アミン化合物は、ヘテロ原子を有していてもよい。
【0079】
脂肪族アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、および、ジヘキシルアミンが挙げられ、好ましくは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、および、ジヘキシルアミンが挙げられ、より好ましくは、ジエチルアミンが挙げられる。
【0080】
脂環族アミン化合物としては、例えば、シクロヘキシルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミン、および、ジシクロヘキシルアミンが挙げられ、好ましくは、ジシクロヘキシルアミンが挙げられる。
【0081】
複素環アミン化合物としては、アジリジン化合物(3員環)、アゼチジン化合物(4員環)、ピロリジン化合物(5員環)、および、ピペリジン化合物(6員環)が挙げられ、好ましくは、ピペリジン化合物(6員環)が挙げられる。
【0082】
光塩基発生剤から発生する塩基のpKaとしては、例えば、6.0以上、好ましくは、8.0以上、より好ましくは、9.0以上、とりわけ好ましくは、10.0以上である。
【0083】
光塩基発生剤から発生する塩基のpKaが、上記下限以上であれば、ポリアミドのイミド化をより一層促進する。
【0084】
光塩基発生剤から発生する塩基の400℃揮発量は、例えば、50質量%以上、好ましくは、60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、75質量%以上、とりわけ好ましくは、80質量%以上である。
【0085】
400℃揮発量は、25℃から400℃まで昇温速度10℃/分にて昇温させたときの、サンプル(光塩基発生剤の塩基)の400℃時点での質量減少率であり、熱重量示差熱分析装置で測定できる。
【0086】
光塩基発生剤から発生する塩基のモル吸光係数は、波長436nmの活性エネルギー線に対して、例えば、500以下、好ましくは、100以下、より好ましくは、10以下、さらに好ましくは、0である。
【0087】
光塩基発生剤から発生する塩基のモル吸光係数は、波長405nmの活性エネルギー線に対して、例えば、2000以下、好ましくは、1000以下、より好ましくは、800以下、さらに好ましくは、600以下である。
【0088】
モル吸光係数は、光塩基発生剤から発生する塩基を、上記した波長領域に吸収をもたない溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン)に溶解し、紫外可視分光光度計により吸光度を測定することにより確認することができる。
【0089】
光塩基発生剤から発生する塩基の、周波数10GHzにおける誘電正接は、例えば、0.0070以下、好ましくは、0.0065以下、より好ましくは、0.0062以下である。
【0090】
周波数10GHzにおける誘電正接は、ASTMD150(タイトル:固体電気絶縁体のAC損失特性および誘電率(誘電率)の標準試験法)に基づく、SPDR(Split post dielectric resonators)方式にて、空洞共振器摂動法により、ネットワークアナライザおよび10GHzSPDR共振器を用いて、測定できる。
【0091】
光塩基発生剤の配合割合は、ポリイミド前駆体組成物(固形分)100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上、より好ましくは、5質量部以上、また、例えば、30質量部以下、好ましくは、25質量部以下、より好ましくは、20質量部以下、さらに好ましくは、18質量部以下である。
【0092】
また、光塩基発生剤の配合割合は、ポリアミド酸(固形分)100質量部に対して、例えば、3質量部以上、好ましくは、5質量部以上、より好ましくは、7質量部以上、さらに好ましくは、9質量部以上、また、例えば、60質量部以下、好ましくは、50質量部以下、より好ましくは、45質量部以下、さらに好ましくは、40質量部以下、とりわけ好ましくは、35質量部以下である。
【0093】
光塩基発生剤の配合割合が、ポリアミド酸(固形分)100質量部に対して、上記下限以上であると、ポリイミド前駆体組成物において、露光部における、ポリアミド酸の加熱によるイミド化を促進し、現像液に対する露光部の溶解性を低下させ、電気特性に優れるポリイミド樹脂を形成できる。また、光塩基発生剤の配合割合が、ポリアミド酸(固形分)100質量部に対して、上記上限以下であると、加熱工程において、ポリイミド樹脂のパターンの厚さの減少を抑制することができる。
【0094】
また、光塩基発生剤の配合割合は、後述する窒素非含有エステル化合物100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上、より好ましくは、15質量部以上、さらに好ましくは、18質量部以上、また、例えば、90質量部以下、好ましくは、80質量部以下、より好ましくは、70質量部以下、さらに好ましくは、65質量部以下である。
【0095】
<窒素非含有エステル化合物>
窒素非含有エステル化合物は、窒素原子を有さず、エステル結合を有する化合物である。窒素非含有エステル化合物は、現像工程において、現像液に対するフォトリソグラフィ法の露光工程で光照射を受けていない部分(未露光部)の溶解を促進させる現像促進剤である。
【0096】
窒素非含有エステル化合物は、窒素原子を有していないため、窒素原子に基づく塩基性を発現しない。そのため、塩基性化合物の存在下において、未露光部分のポリアミド酸のイミド化が、過度に進行することを抑制できる。その一方、窒素非含有エステル化合物は、エステル結合を有しているため、例えば、現像工程において塩基性現像液が用いられる場合には、窒素非含有エステル化合物のエステル結合が、塩基性現像液により加水分解されてアルコールおよびカルボン酸を生成し、それにより、親水性が増大することに伴って、塩基性現像液がポリアミド酸に、より一層浸透しやすくなる。
【0097】
このように、窒素非含有エステル化合物を用いることにより、ポリアミド酸のイミド化の過度の進行を抑制し、また、ポリアミド酸に対する塩基性現像液の浸透性が向上することにより、現像工程において、未露光部をより確実に除去することができる。そのため、形成されたポリイミド樹脂は、パターニング精度に優れる。
【0098】
窒素非含有エステル化合物は、露光工程および現像工程を含む一連のプロセスにおける高温条件下においても、分解または揮発しない耐熱性を有することが好ましい。
【0099】
窒素非含有エステル化合物の200℃揮発量は、例えば、70質量%以下、好ましくは、50質量%以下、より好ましくは、25質量%以下、さらに好ましくは、10質量%以下、とりわけ好ましくは、5質量%以下、最も好ましくは、2質量%以下である。
【0100】
200℃揮発量は、25℃から400℃まで昇温速度10℃/分にて昇温させたときの、サンプル(窒素非含有エステル化合物)の200℃時点での質量減少率であり、熱重量示差熱分析装置で測定できる。
【0101】
窒素非含有エステル化合物において、760mmHg下の沸点は、例えば、200℃以上、好ましくは、260℃以上、より好ましくは、300℃以上、さらに好ましくは、310℃以上、とりわけ好ましくは、320℃以上、最も好ましくは、350℃以上、また、例えば、500℃以下である。
【0102】
窒素非含有エステル化合物において、2mmHg下の沸点は、例えば、50℃以上、好ましくは、100℃以上、より好ましくは、125℃以上、さらに好ましくは、150℃以上、とりわけ好ましくは、170℃以上、また、例えば、300℃以下である。
【0103】
窒素非含有エステル化合物において、12mmHg下の沸点は、例えば、50℃以上、好ましくは、100℃以上、より好ましくは、125℃以上、さらに好ましくは、150℃以上、とりわけ好ましくは、170℃以上、また、例えば、300℃以下である。
【0104】
窒素非含有エステル化合物において、3.5mmHg下の沸点は、例えば、50℃以上、好ましくは、75℃以上、より好ましくは、100℃以上、さらに好ましくは、125℃以上、とりわけ好ましくは、150℃以上、また、例えば、300℃以下である。
【0105】
窒素非含有エステル化合物としては、例えば、芳香環非含有の窒素非含有エステル化合物、および、芳香環含有の窒素非含有エステル化合物が挙げられる。耐熱性の観点から、好ましくは、芳香環含有の窒素非含有エステル化合物が挙げられる。
【0106】
芳香環非含有の窒素非含有エステル化合物としては、例えば、環状エステル化合物が挙げられる。
【0107】
環状エステル化合物としては、例えば、ε-カプロラクトン、グリコリド、DL-ラクチド、テトラメチルグリコリド、デルタオクタノラクトン、DL-メバロノラクトン、および、ガンマヘプタノラクトンが挙げられる。
【0108】
芳香環含有の窒素非含有エステル化合物としては、例えば、芳香環含有の脂肪族カルボン酸エステル化合物、および、芳香族カルボン酸エステル化合物が挙げられる。好ましくは、耐熱性の観点から、芳香族カルボン酸エステル化合物が挙げられる。
【0109】
芳香環含有の脂肪族カルボン酸エステル化合物としては、例えば、芳香環含有の酢酸エステル化合物が挙げられる。
【0110】
芳香環含有の酢酸エステル化合物としては、例えば、(3-メチルフェニル)アセテート、メチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセテート、メチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)アセテート、エチル-2-(2-メチルフェニル)アセテート、エチル-2-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)アセテート、および、エチル-2-ヒドロキシ-2-(3-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)アセテートが挙げられる。
【0111】
芳香族カルボン酸エステル化合物としては、例えば、安息香酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、および、トリメリット酸エステル化合物が挙げられ、好ましくは、安息香酸エステル化合物、および、トリメリット酸エステル化合物が挙げられ、より好ましくは、安息香酸エステル化合物が挙げられる。
【0112】
安息香酸エステル化合物としては、例えば、エチル-3-ヒドロキシベンゾエート、エチル-2-アセチルオキシベンゾエート、エチル-2-エトキシ-6-ヒドロキシベンゾエート、エチル-3,5-ジヒドロキシベンゾエート、エチル-2,4-ジヒドロキシ-6-メチルベンゾエート、2-ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシベンゾエート、および、フェニルベンゾエート(安息香酸フェニル)が挙げられ、好ましくは、フェニルベンゾエート(安息香酸フェニル)が挙げられる。
【0113】
安息香酸エステル化合物としては、4-ヒドロキシ安息香酸(パラベン)類も挙げられる。
【0114】
4-ヒドロキシ安息香酸(パラベン)類としては、例えば、ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート(ブチルパラベン)、イソブチル-4-ヒドロキシベンゾエート(イソブチルパラベン)、ヘキシル-4-ヒドロキシベンゾエート(ヘキシルパラベン)、2-メチルプロピル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-エチルヘキシル-4-ヒドロキシベンゾエート、および、ベンジル-4-ヒドロキシベンゾエート(ベンジルパラベン)が挙げられ、好ましくは、ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート(ブチルパラベン)、および、ヘキシル-4-ヒドロキシベンゾエート(ヘキシルパラベン)が挙げられる。
【0115】
フタル酸エステル化合物としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジフェニル、および、フタル酸ビス(2-メトキシエチル)が挙げられる。
【0116】
トリメリット酸エステル化合物としては、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリプロピル、トリメリット酸トリブチル、および、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)が挙げられる。好ましくは、トリメリット酸トリメチルが挙げられる。
【0117】
窒素非含有エステル化合物は、好ましくは、安息香酸エステル化合物が挙げられ、また、親水性を向上する観点から、より好ましくは、フェノール性水酸基を有する安息香酸エステル化合物が挙げられる。そのようなフェノール性水酸基を有する安息香酸エステル化合物として、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸(パラベン)類が挙げられる。
【0118】
窒素非含有エステル化合物の配合割合は、ポリイミド前駆体組成物(固形分)100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、25質量部以上、さらに好ましくは、28質量部以上、とりわけ好ましくは、30質量部以上、また、例えば、50質量部以下、好ましくは、40質量部以下、より好ましくは、35質量部以下である。
【0119】
窒素非含有エステル化合物の配合割合は、ポリアミド酸(固形分)100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、30質量部以上、さらに好ましくは、40質量部以上、とりわけ好ましくは、45質量部以上、また、例えば、80質量部以下、好ましくは、70質量部以下、より好ましくは、60質量部以下、さらに好ましくは、55質量部以下である。
【0120】
窒素非含有エステル化合物の配合割合が、上記下限以上であれば、ポリアミド酸のイミド化の過度の進行を抑制でき、上記上限以下であれば、十分な相溶性を確保して、現像コントラストの向上を図ることができる。
【0121】
ポリイミド前駆体組成物は、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、光増感剤が挙げられる。
【0122】
光増感剤としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-N,N-ジメトキシ)クマリン、3-ベンゾイルクマリン、3-ベンゾイル-7-N,N-メトキシクマリン、およびベンザルアセトフェノンが挙げられる。
【0123】
光増感剤の配合割合は、ポリアミド酸(固形分)100質量部に対して、例えば、0.05質量部以上、また、例えば、20質量部以下である。
【0124】
ポリイミド前駆体組成物は、例えば、ポリアミド酸と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物と、必要に応じて添加される他の成分とを混合することにより、調製できる。ポリイミド前駆体組成物は、好ましくは、ポリアミド酸の溶液と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物と必要に応じて添加される他の成分とを混合する、または、ポリイミド前駆体組成物は、好ましくは、ポリアミド酸と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物と必要に応じて添加される他の成分とを有機溶剤中で混合することにより、ポリイミド前駆体組成物の希釈液(ワニス)として調製できる。具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒中で反応させることによって得られるポリアミド酸の溶液に、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物と、必要に応じて他の成分とを配合することにより、ワニスを調製できる。
【0125】
有機溶剤としては、例えば、非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0126】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、およびヘキサメチルホスホルアミドが挙げられる。
【0127】
有機溶剤の配合割合は、ポリアミド酸(固形分)100質量部に対して、例えば、150質量部以上、また、例えば、2000質量部以下である。
【0128】
ポリイミド前駆体組成物の希釈液(ワニス)における、ポリアミド酸(固形分)の含有量は、例えば、5質量%以上、好ましくは、7.5質量%以上、より好ましくは、10質量%以上、また、例えば、20質量%以下、好ましくは、16質量%以下、より好ましくは、14質量%以下である。
【0129】
ポリアミド酸(固形分)の含有量が、上記範囲内であれば、ポリイミド前駆体組成物の良好な粘度を確保することができる。
【0130】
ポリイミド前駆体組成物の希釈液(ワニス)における、光塩基発生剤(固形分)の含有量は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、1質量%以上、また、例えば、10質量%以下、好ましくは、7.5質量%以下、より好ましくは、5質量%以下、さらに好ましくは、3質量部以下、とりわけ好ましくは、2質量部以下である。
【0131】
光塩基発生剤(固形分)の含有量が、上記下限以上であると、ポリイミド前駆体組成物において、露光部における、ポリアミド酸の加熱によるイミド化を促進し、現像液に対する露光部の溶解性を低下させ、電気特性に優れるポリイミド樹脂を形成できる。光塩基発生剤(固形分)の含有量が、上記上限以下であると、加熱工程において、ポリイミド樹脂のパターンの厚さの減少を抑制することができる。
【0132】
ポリイミド前駆体組成物の希釈液(ワニス)における、窒素非含有エステル化合物(固形分)の含有量は、例えば、1.0質量%以上、好ましくは、1.5質量%以上、より好ましくは、2.0質量%以上、さらに好ましくは、3.0質量%以上、とりわけ好ましくは、4.0質量%以上、また、例えば、15質量%以下、好ましくは、13質量%以下、より好ましくは、11質量%以下、さらに好ましくは、10質量%以下、特に好ましくは、8質量%以下である。
【0133】
窒素非含有エステル化合物(固形分)の含有量が、上記下限以上であれば、ポリアミド酸のイミド化の過度の進行を抑制できる。窒素非含有エステル化合物(固形分)の含有量が、上記上限以下であれば、十分な相溶性を確保して、現像コントラストの向上を図ることができる。
【0134】
ポリイミド前駆体組成物(またはワニス)は、加熱硬化によりポリイミド樹脂を形成する。
【0135】
2.ポリイミド樹脂
本発明のポリイミド樹脂は、本発明のポリイミド前駆体組成物から形成される。ポリイミド樹脂は、例えば、配線回路基板の絶縁層として用いられる。
【0136】
3.配線回路基板
本発明の配線回路基板は、例えば、基材と、基板上に配置される絶縁層とを備える。絶縁層は、本発明のポリイミド樹脂を含む。
【0137】
基材の形状としては、例えば、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む。)、および、板状が挙げられる。
【0138】
基材の材料としては、例えば、金属が挙げられ、好ましくは、アルミニウム、ステンレス、および銅が挙げられ、より好ましくは、ステンレスが挙げられる。
【0139】
基材の厚みとしては、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、また、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0140】
次に、配線回路基板において、ポリイミド前駆体組成物から、ポリイミド樹脂の絶縁層を形成する方法を、図1A図1Eを参照して説明する。
【0141】
まず、図1Aに示すように、ポリイミド前駆体組成物の希釈液(ワニス)を、スピンコーターにより、基材S上に塗布することにより、塗膜10Aを形成する(塗布工程)。
【0142】
スピンコーターの回転速度は、例えば、500rpm以上、また、例えば、3000rpm以下である。塗布時間は、例えば、10秒以上、また、例えば、100秒以下である。
【0143】
次に、図1Bに示すように、塗膜10Aを加熱することによって乾燥し、基材S上に絶縁膜10Bを形成する(乾燥工程)。
【0144】
乾燥温度は、例えば、100℃以上、また、例えば、200℃以下である。乾燥時間は、例えば、1分以上、また、例えば、15分以下である。
【0145】
絶縁膜10Bの厚さは、例えば、1μm以上、また、例えば、50μm以下である。
【0146】
次に、図1Cに示すように、絶縁膜10Bに、フォトマスクMを介して紫外線照射する(露光工程)。フォトマスクMは、絶縁層10Cのパターン形状に対応する開口部Maを有する。
【0147】
照射紫外線の波長は、例えば、300nm以上、また、例えば、450nm以下である。紫外線の累積照射量は、例えば、100mJ/cm以上、また、例えば、1000mJ/cm以下である。
【0148】
本工程では、絶縁膜10Bにおいて、露光部分11と未露光部分12とが生ずる。本工程の後、絶縁膜10Bを予備加熱してもよい。
【0149】
次に、図1Dに示すように、絶縁膜10Bを現像する(現像工程)。具体的には、絶縁膜10Bの未露光部分12が、現像液によって溶解されて除去される。
【0150】
現像液としては、例えば、塩基性現像剤が挙げられる。
【0151】
塩基性現像剤としては、例えば、無機アルカリ水溶液、および、有機アルカリ水溶液が挙げられる。
【0152】
無機アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、および、水酸化カリウム水溶液が挙げられる。
【0153】
有機アルカリ水溶液としては、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)の水溶液が挙げられる。
【0154】
現像方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、および、パドル法が挙げられる。
【0155】
次に、図1Eに示すように、基材S上の露光部分11を加熱する。これによって、露光部分11が硬化し、ポリイミド樹脂が形成され、絶縁層(パターン)10Cが形成される(硬化工程)。
【0156】
加熱温度は、例えば、300℃以上、また、例えば、450℃以下である。加熱時間は、例えば、1時間以上、また、例えば、10時間以下である。
【0157】
以上のようにして、所定のパターン形状を有するポリイミド層からなる絶縁層10Cが基材S上に形成される。これによって、基材Sと、基材S上に配置される絶縁層10Cとを備える配線回路基板が得られる。
【0158】
4.電子機器
本発明の電子機器は、本発明の配線回路基板を含む。
【0159】
電子機器としては、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話器が挙げられる。
【0160】
<作用効果>
本発明のポリイミド前駆体組成物は、ポリアミド酸と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物とを含み、光塩基発生剤が脱炭酸反応型である。そのため、熱特性および電気特性に優れる。
【0161】
より具体的には、本発明のポリイミド前駆体組成物は、脱炭酸反応型の光塩基発生剤を含む。脱炭酸反応型の光塩基発生剤に、紫外線などの活性光線を照射することによって、エントロピー的に優位な脱炭酸反応を伴って、塩基を発生するため、塩基が発生しやすくなる。そのため、ポリアミド酸のイミド化反応がより一層促進できる。
【0162】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、窒素非含有エステル化合物を含む。窒素非含有エステル化合物は、窒素原子を有していないため、窒素原子に基づく塩基性を発現しない。そのため、塩基性化合物の存在下において、未露光部分のポリアミド酸のイミド化が、過度に進行することを抑制できる。その一方、窒素非含有エステル化合物は、エステル結合を有しているため、例えば、現像工程において塩基性現像液が用いられる場合には、窒素非含有エステル化合物のエステル結合が、塩基性現像液により加水分解されてアルコールおよびカルボン酸を生成し、それにより、親水性が増大することに伴って、塩基性現像液がポリアミド酸に、より一層浸透しやすくなる。
【0163】
よって、露光部はポリアミド酸のイミド化が促進され、未露光部はポリアミド酸のイミド化の過度な進行が抑制され、現像工程における、現像コントラストが向上する。また、現像コントラストが向上するため、本発明のポリイミド前駆体組成物から形成したポリイミド樹脂は、パターニング精度に優れる。ひいては、熱特性および電気特性に優れるポリイミド樹脂を得ることができる。
【実施例0164】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0165】
<成分の詳細>
各実施例、および、各比較例で用いた成分の、商品名および略語について、詳述する。
【0166】
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PPD:p-フェニレンジアミン
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DNCDP:{[(4,5-ジメトキシ-2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル}2,6-ジメチルピぺリジン、化学式(4)で表される光塩基発生剤、ヨーユーラボ社製
WPBG-018:N,N-ジエチルカルバミン酸9-アントリルメチル、化学式(5)で表される光塩基発生剤、和光純薬工業社製
WPBG-166:N,N-ジシクロヘキシルカルバミン酸1-(アントラキノン-2-イル)エチル、化学式(6)で表される光塩基発生剤、和光純薬工業社製
WPBG-172:{[(4,5-ジメトキシ-2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル}2,6-ジメチルピぺリジン、化学式(7)で表される光塩基発生剤、和光純薬工業社製
WPBG-165:N,N-ジエチルカルバミン酸9-アントリルメチル、化学式(8)で表される光塩基発生剤、和光純薬工業社製
NKS-4:1-エチル-3,5-ジメトキシカルボニル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン(光塩基発生剤)
Aronix:トリプロピレングリコールジアクリレート、東亞合成社製
【0167】
<ポリイミド前駆体組成物の調製>
実施例1
まず、ポリアミド酸を合成した。具体的には、1000mLの四つ口フラスコ内で、94.15g(320mmol)のBPDAと、27.68g(256mmol)のPPDと、20.50g(64mmol)のTFMBと、874gのNMPとを含む溶液を、室温(25℃)で50時間、撹拌した(ポリアミド酸(A)の合成)。これにより、ポリアミド酸(A)を含有するNMP溶液を得た。合成されたポリアミド酸(A)は、上述の第1構造単位および第2構造単位を含む。このポリアミド酸(A)において、第1構造単位を表す上記一般式(1)中のmは0であり、かつ、一般式(1)中のnは1である。また、このポリアミド酸(A)における第2構造単位の割合は、20モル%である。
【0168】
次に、ポリアミド酸(A)を含有する上記NMP溶液と、光塩基発生剤と、窒素非含有エステル化合物とを混合し、感光性のポリイミド前駆体組成物のワニスを調製した。光塩基発生剤は、上記の式(4)で表されるDNCDPを用いた。窒素非含有エステル化合物は、ブチルパラベンを用いた。ポリイミド前駆体組成物の調製においては、上記ポリアミド酸(A)(固形分)と、DNCDPと、ブチルパラベンの組成比(質量比)が、10:1:5となるように、混合した。これにより、実施例1のポリイミド前駆体組成物のNMP溶液(ワニス)を得た。
【0169】
<ポリイミドフィルムの作製>
厚み20μmのステンレス箔(SUS304)の上に、上記実施例1のポリイミド前駆体組成物のNMP溶液(ワニス)をスピンコーターにて塗布した後、170℃で10分間加熱乾燥して、実施例1のポリイミド前駆体組成物からなる皮膜(厚み14μm)を形成した。次いで、皮膜を露光機で紫外線照射(波長365nm、露光量400mJ/cm)し、185℃で3分間加熱した。さらに、10Pa以下の気圧下、360℃、6時間加熱して 硬化(イミド化)させることにより、ステンレス箔付きポリイミド樹脂フィルムを作製した。その後、塩化第二鉄溶液を用いて、50℃、10分間エッチングし、上記ステンレス箔を除去した。このようにして、実施例1のポリイミド樹脂フィルムを作製した。
【0170】
実施例2~5、および、比較例1
表1に基づいて、光塩基発生剤の種類を変更した以外は、実施例1のポリイミド前駆体組成物と同様にして、各ポリイミド前駆体組成物を調製した。次いで、実施例1のポリイミドフィルムと同様にして、各ポリイミドフィルムを作製した。
【0171】
実施例6、7
表2に基づいて、上記ポリアミド酸(固形分)と、DNCDPと、ブチルパラベンの組成比を変更した以外は、実施例1のポリイミド前駆体組成物と同様にして、各ポリイミド前駆体組成物を調製した。次いで、実施例1のポリイミドフィルムと同様にして、各ポリイミドフィルムを作製した。
【0172】
実施例8、実施例9、および、比較例2
表3に基づいて、窒素非含有エステル化合物の種類を変更した以外は、実施例1のポリイミド前駆体組成物と同様にして、各ポリイミド前駆体組成物を調製した。次いで、実施例1のポリイミドフィルムと同様にして、各ポリイミドフィルムを作製した。
【0173】
実施例10、および、比較例3、4
表4に基づいて、光塩基発生剤および窒素非含有エステル化合物の種類を変更した以外は、実施例1のポリイミド前駆体組成物と同様にして、各ポリイミド前駆体組成物を調製した。次いで、実施例1のポリイミドフィルムと同様にして、各ポリイミドフィルムを作製した。
【0174】
<評価>
[イミド化率]
各実施例および各比較例のポリイミド前駆体組成物のNMP溶液(ワニス)を、厚み20μmのステンレス箔(SUS304) 上にスピンコーターにて塗工した後、120℃、10分間加熱乾燥して、皮膜を得た。この皮膜の半分をステンレス箔で覆い、露光機で、紫外線照射(波長365nm、露光量400mJ/cm)し、185℃、5分間加熱することにより二分割にパターニングされた厚さ約20μmのポリイミドフィルムを作製した。作製したフィルムの露光部および未露光部の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(NICOLET iS20、Thermo Fisher社製)を用いて測定し、イミド構造の吸収ピークから、作製したフィルムの露光部および未露光部のイミド化率を算出した。イミド化率に関して、露光部のイミド化率および未露光部のイミド化率の比を、次の基準で評価した。その結果を表1~4に示す。
【0175】
{基準}
〇:露光部のイミド化率/未露光部のイミド化率>1.5
×:露光部のイミド化率/未露光部のイミド化率≦1.5
【0176】
[熱特性]
各実施例および各比較例のポリイミドフィルムを、幅5mm×長さ20mmに切断し、評価用サンプルとして用いた。そして、上記サンプルを熱機械的分析装置(ThermoPlusTMA8310、リガク社製)を用いて測定した。測定条件としては、測定試料の観測長を15mm、昇温速度を5℃/min、測定試料は引張荷重を49mNとし、測定温度を25℃から400℃とした。なお、100℃から200℃の間の平均線膨張係数を線膨張係数(CTE)とした。線膨張係数(CTE)に関して、次の基準で評価した。その結果を表1~4に示す。
【0177】
{基準}
〇:25ppm/K以下
△:25ppm/K超過、27ppm/K未満
×:27ppm/K以上
【0178】
[電気特性]
各実施例および各比較例のポリイミドフィルムを、幅2mm×長さ70mmに切断し、評価用サンプルとして用いた。そして、上記サンプルを、ASTMD150(タイトル:固体電気絶縁体のAC損失特性および誘電率(誘電率)の標準試験法)に基づく、SPDR(Split post dielectric resonators)方式にて、空洞共振器摂動法により、周波数10GHzにおける誘電正接を測定した。測定機器は、ネットワークアナライザ(N5227A、Keyshight Technologies社製)、10GHzSPDR共振器(QWED社製)を用いた。誘電正接に関して、次の基準で評価した。その結果を表1~4に示す。
【0179】
{基準}
〇:0.007未満
×:0.007以上
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】
【0182】
【表3】
【0183】
【表4】
【符号の説明】
【0184】
S 基材
10A 塗膜
10B 絶縁膜
10C 絶縁層
11 露光部分
12 未露光部分
図1