(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108789
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】視覚式触覚センサ及びそれを用いたロボット把持部構造
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20240805BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20240805BHJP
B25J 19/02 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G01L5/00 Z
B25J13/08 A
B25J19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013357
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】390000804
【氏名又は名称】白山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 茂男
【テーマコード(参考)】
2F051
3C707
【Fターム(参考)】
2F051AA10
2F051AB01
2F051BA07
3C707BS10
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET02
3C707EV11
3C707JS01
3C707KS29
3C707KS30
3C707KS31
3C707KT03
3C707KT06
3C707KW01
(57)【要約】
【課題】極限状態においても構成要素が破壊、損傷されることなく信頼性が高く、純粋にメカニカルな構造となっていて、作業を行うロボットの指先を注視したまま物体との接触状態を視認できる視覚式触覚センサ及びそれを用いた遠隔操作型ロボットの把持部構造を提供する。
【解決手段】箱型の3側面を形成する接触枠部材と、接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、弾性体に複数の接触移動部材を介して装着された取付部材とで構成され、接触枠部材に物体が接触したときに、弾性体の変形及び接触枠部材の位置変化を視認でき、複数の接触移動部材のいずれかに物体が接触したときに、接触移動部材の頂部に設けられている突出部が取付部材の表面から突出し、突出を視認できる視覚式触覚センサ及びそれを用いた遠隔操作型ロボットの把持部構造である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面を覆うように形成する接触枠部材と、前記接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、前記弾性体に装着された取付部材とで構成され、
前記接触枠部材に物体が接触したとき、物体の接触方向と接触力によって、前記接触枠部材と前記取付部材との相対位置関係が前記弾性体の変形によって異なるように構成され、前記相対位置関係が接触面の外部から視認できるようになっていることを特徴とする視覚式触覚センサ。
【請求項2】
前記接触枠部材と前記取付部材の色に対して、その間の前記弾性体が挟まれている部分の色のコントラストが強く、前記接触枠部材と前記取付部材の間の隙間の変形の具合が視認しやすいように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の視覚式触覚センサ。
【請求項3】
複数のマトリックス状に配置される複数の接触移動部材と、前記複数の接触移動部材を片面で接着支持する弾性体と、前記弾性体をその別の面で支持する取付部材と、前記接触移動部材のそれぞれに前記弾性体を貫通し、前記取付部材に設けられた孔部を貫通する突出部が設けられ、前記接触移動部分の接触状態を、前記取付部材表面の前記突出部の突出状態によって視認できるようになっていることを特徴とする視覚式触覚センサ。
【請求項4】
前記取付部材に設けられた前記孔部から貫通する前記突出部の側面の色と、前記取付部材表面と突出部頂頭部の色とのコントラストが強く、前記突出部は通常前記頂頭部のみが前記取付部材表面に出ているが、前記接触移動部材が物体に接触して前記突出部が前記頂頭部より突出すると前記突出部側面の色が視認でき、前記突出部の分布と突出量から、前記物体との接触具合を視認できるようになっていることを特徴とする請求項3に記載の視覚式触覚センサ。
【請求項5】
側面を覆うように形成する接触枠部材と、前記接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、前記弾性体に装着された取付部材とで構成され、
複数のマトリックス状に配置される複数の接触移動部材が備えられ、前記弾性体は前記複数の接触移動部材の片面で接着支持される共に、別の面で前記取付部材に支持され、前記接触移動部材のそれぞれに前記弾性体を貫通し、前記取付部材に設けられた孔部を貫通する突出部が設けられており、
前記接触枠部材に物体が接触したとき、物体の接触方向と接触力によって、前記接触枠部材と前記取付部材との相対位置関係が前記弾性体の変形によって異なるように構成され、前記相対位置関係が接触面の外部から視認でき、かつ前記接触移動部分の接触状態を、前記取付部材表面の前記突出部の突出状態によって視認できるようになっていることを特徴とする視覚式触覚センサ。
【請求項6】
ロボットの把持部を構成する開閉部材に1対の視覚式触覚センサが対向する形態で取り付けられており、前記1対の視覚式触覚センサで物体を挟持して把持するロボット把持部構造であり、
前記1対の視覚式触覚センサのそれぞれが、
側面を覆うように形成する接触枠部材と、前記接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、前記弾性体に装着された取付部材とで構成され、前記接触枠部材に物体が接触したとき、物体の接触方向と接触力によって、前記接触枠部材と前記取付部材との相対位置関係が前記弾性体の変形によって異なるように構成され、前記相対位置関係が接触面の外部から視認できるようになっている、
ことを特徴とするロボット把持部構造。
【請求項7】
ロボットの把持部を構成する開閉部材に1対の視覚式触覚センサが対向する形態で取り付けられており、前記1対の視覚式触覚センサで物体を挟持して把持するロボット把持部構造であり、
前記1対の視覚式触覚センサのそれぞれが、
複数のマトリックス状に配置される複数の接触移動部材と、前記複数の接触移動部材を片面で接着支持する弾性体と、前記弾性体をその別の面で支持する取付部材と、前記接触移動部材のそれぞれに前記弾性体を貫通し、前記取付部材に設けられた孔部を貫通する突出部が設けられ、前記接触移動部分の接触状態を、前記取付部材表面の前記突出部の突出状態によって視認できるようになっている、
ことを特徴とするロボット把持部構造。
【請求項8】
ロボットの把持部を構成する開閉部材に1対の視覚式触覚センサが対向する形態で取り付けられており、前記1対の視覚式触覚センサで物体を挟持して把持するロボット把持部構造であり、
前記1対の視覚式触覚センサのそれぞれが、
側面を覆うように形成する接触枠部材と、前記接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、前記弾性体に装着された取付部材とで構成され、
複数のマトリックス状に配置される複数の接触移動部材が備えられ、前記弾性体は前記複数の接触移動部材の片面で接着支持される共に、別の面で前記取付部材に支持され、前記接触移動部材のそれぞれに前記弾性体を貫通し、前記取付部材に設けられた孔部を貫通する突出部が設けられており、
前記接触枠部材に物体が接触したとき、物体の接触方向と接触力によって、前記接触枠部材と前記取付部材との相対位置関係が前記弾性体の変形によって異なるように構成され、前記相対位置関係が接触面の外部から視認でき、かつ前記接触移動部分の接触状態を、前記取付部材表面の前記突出部の突出状態によって視認できるようになっている、
ことを特徴とするロボット把持部構造。
【請求項9】
前記視認を、前記把持部の近傍に設置された監視カメラの映像をモニタで行うようになっている請求項6~8のいずれかに記載のロボット把持部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に接触したことを確実に視認することができる視覚式触覚センサ及びそれを用いたロボット把持部構造に関し、特に電子回路を全く用いることなく、純粋にメカニカルな簡易構造で、極限的な環境においても物体への接触を視認することができるようにした視覚式触覚センサ及びそれを用いた遠隔操作型ロボットの把持部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
遠隔操作型ロボットは
図1に示すように、操作者11が操作するロボットの動きを、ロボットの近くに置かれた監視カメラの画像13をモニタ(ディスプレイ)10に映し出し、モニタ10を凝視しながら操作者11が操作盤12の操縦桿で、ロボットを操縦するようになっている。
図2は、把持部22を有する遠隔操作型ロボット20の一例を示しており、物体を把持する把持部22は、複数関節のアーム21の先端部に、回動自在に、かつ開閉自在に設けられており、把持部22の近辺には監視カメラ30が設置されている。把持部22で物体を把持する際、把持部の接触部が物体のどの部分に触ったのか、また、どの程度の強さで触ったのかは、監視カメラ30の画像情報だけでは分かり難く、そのことがロボット20の遠隔操作を難しくしている。
【0003】
このような問題を解決する手法として、バイラテラル制御が知られている。このバイラテラル制御は、ロボット把持部の指先に接触センサや圧力センサを取り付け、物体を触ったときの接触信号を、ロボットを操作する操縦桿に戻し、操縦桿に物体からの反作用に相当する力を生成させるようにすることで、操作者に接触状況を知らせるというものである。このバイラテラル制御は、操作者が直感的な遠隔操作をするためには有効であるが、実際には以下のような問題がある。
(1)ロボットハンドの先端に、数多くの接触センサ若しくは圧力センサが必要であるが、接触センサや圧力センサはデリケートで壊れ易い。
(2)ロボットがハンドリングする対象物には様々な姿勢で、色々な部分で接触するが、そのような接触状態を操作者に直感的に感知させるようにするには、数多くの接触センサ若しくは圧力センサをロボットの指先に装着すると共に、操作者が操作する操縦桿側にも、それらセンサからの力に対応する力を、操作する指の対応する部位に加えるような、多数の超小型の駆動系が必要であるが、その機構は著しく複雑となり、高価である。
(3)ロボットの指の各部に働く力を、操縦する操作者の指に伝達する上記のような機構を前提とすると、ロボットの指は人間の形を模した形状である必要があり、一般的なロボットの把持部には適用し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4621827号公報
【特許文献2】特開2022-178835号公報
【特許文献3】特開2022-177203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分布型の圧力センサを実現するには、特許第4621827号公報(特許文献1)に示されるような指の接触部を光学系にして、接触の状態を示す画像を映し出すような触覚センサが提案されている。しかしながら、特許文献1の触覚センサでは、ロボットを操縦する操作者は、ロボットの指先の状態をモニタするカメラの画像と、この指先の接触状態を表示するモニタの画像を交互に見ながら操作しなければならず、作業性が悪いという問題がある。
【0006】
また、ロボットの触覚センサを電子回路を含む構成にすると、原子炉などの極限状態においては電子回路が壊れやすく、ロボットの信頼性に問題が生じる。そのため、放射線が高い場合にも破壊、損傷されることなく耐久性を保持し、信頼性を高めるために、電子回路を用いることなく、純粋にメカニカルな構造で触覚を感知できることが望ましい。
【0007】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、原子炉などの極限状態においても構成要素が破壊、損傷されることなく信頼性が高く、純粋にメカニカルな構造となっていて、作業を行うロボットの指先を注視したまま物体との接触状態を視認できる視覚式触覚センサ及びそれを用いた遠隔操作型ロボットの把持部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は視覚式触覚センサに関し、本発明の上記目的は、側面を覆うように形成する接触枠部材と、前記接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、前記弾性体に装着された取付部材とで構成され、前記接触枠部材に物体が接触したとき、物体の接触方向と接触力によって、前記接触枠部材と前記取付部材との相対位置関係が前記弾性体の変形によって異なるように構成され、前記相対位置関係が接触面の外部から視認できるようになっていることにより、或いは、複数のマトリックス状に配置される複数の接触移動部材と、前記複数の接触移動部材を片面で接着支持する弾性体と、前記弾性体をその別の面で支持する取付部材と、前記接触移動部材のそれぞれに前記弾性体を貫通し、前記取付部材に設けられた孔部を貫通する突出部が設けられ、前記接触移動部分の接触状態を、前記取付部材表面の前記突出部の突出状態によって視認できるようになっていることにより、或いは、側面を覆うように形成する接触枠部材と、前記接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、前記弾性体に装着された取付部材とで構成され、複数のマトリックス状に配置される複数の接触移動部材が備えられ、前記弾性体は前記複数の接触移動部材の片面で接着支持される共に、別の面で前記取付部材に支持され、前記接触移動部材のそれぞれに前記弾性体を貫通し、前記取付部材に設けられた孔部を貫通する突出部が設けられており、前記接触枠部材に物体が接触したとき、物体の接触方向と接触力によって、前記接触枠部材と前記取付部材との相対位置関係が前記弾性体の変形によって異なるように構成され、前記相対位置関係が接触面の外部から視認でき、かつ前記接触移動部分の接触状態を、前記取付部材表面の前記突出部の突出状態によって視認できるようになっていることにより達成される。
【0009】
また、本発明は、ロボットの把持部を構成する開閉部材に1対の視覚式触覚センサが対向する形態で取り付けられており、前記1対の視覚式触覚センサで物体を挟持して把持するロボット把持部構造に関し、本発明の上記目的は、前記1対の視覚式触覚センサのそれぞれが、箱型の3側面を形成する接触枠部材と、前記接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、前記弾性体に複数の接触移動部材を介して装着され、端部に前記開閉部材に取り付けるための取付部を垂設された取付部材とで構成され、前記接触枠部材に物体が接触したときに、前記弾性体の変形及び前記接触枠部材の位置変化を把持部の外面から視認でき、前記複数の接触移動部材のいずれかに前記物体が接触したときに、前記接触移動部材の頂部に設けられている突出部が前記取付部材の表面から突出し、前記突出を外面から視認できるようになっていることにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の視覚式触覚センサによれば、電子回路を全く用いることなく、3側面を形成する接触枠部材と、接触枠部材内に嵌合して収容される弾性体と、弾性体に複数の接触移動部材を介して装着された取付部材とで、純粋にメカニカルに構成されているので、接触枠部材に物体が接触したときに、弾性体の変形及び接触枠部材の位置変化を把持部の外面から視認でき、また、接触移動部材に物体が接触したときには、接触移動部材の頂部に設けられている突出部が取付部材の表面から突出するので、同様に把持部の外面から確実に視認できると共に、安価な構成であるにも拘わらず、極限状態においても信頼性高く感知することができる。各部材の色が相違しているので、視認も確実に行うことができる。
【0011】
本発明の視覚式触覚センサを用いた遠隔操作型ロボットの把持部構造によれば、把持部開閉部材に1対の視覚式触覚センサが取り付けられ、視覚式触覚センサが物体を挟持して把持したり、物体に接触したときに、弾性体の変形及び接触枠部材の位置変化、或いは接触移動部材の頂部に設けられている突出部の表面からの突出を、把持部近傍に設置された監視カメラの画像で視認できる。ロボットの操作者は、作業を行う把持部を注視し続けるが、その把持部の内側が物体とどのように接触しているかは見難い。しかし本発明によれば、その把持部の内側の接触状態が把持部外側の形状変化によって視認できるため、操作者は、その視点をほとんど動かさずに把持状態を確認できる。なお、視覚式触覚センサは純粋にメカニカルに構成されたものであるので、ロボットの把持部形状やその使用目的に合わせて適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】遠隔操作型ロボットの操作部の一例を示す模式図である。
【
図2】把持部を有する遠隔操作型ロボットの一例を示す斜視図である。
【
図3】本発明の視覚式触覚センサを用いたロボット把持部の一例を示す側面図である。
【
図4】本発明のロボット把持部が、視覚式触覚センサを介して物体を把持した状態を示す斜視図である。
【
図5】視覚式触覚センサを構成する接触枠部材の形状例を示す平面図及び側面図である。
【
図6】接触枠部材に弾性体を装着した状態を示す平面図及び断面図である。
【
図7】取付部材を装着した視覚式触覚センサを示す平面図である。
【
図8】取付部材と弾性体を係合させる接触移動部材の側面図である。
【
図9】接触移動部材を装着された視覚式触覚センサの一例を示す平面図である。
【
図10】接触移動部材を装着された視覚式触覚センサの一例を示す底面図である。
【
図12】本発明の視覚式触覚センサが、何にも接触していない状態を示す実画面図である。
【
図13】
図12において、接触移動部材が物体に接触したときの変化状態を示す断面図である。
【
図14】視覚式触覚センサ(接触移動部材)の突出部の動作例を説明するための斜視図である。
【
図15】接触枠部材が物体に接触したときの状態を示す実画面図である。
【
図16】接触枠部材に対する力の印加例を示す図である。
【
図17】視覚式触覚センサ(接触枠部材)の動作例を説明するための模式的平面図である。
【
図18】接触枠部材が物体に接触したときの状態を示す実画面図である。
【
図19】接触枠部材の角が物体に接触したときの状態を示す実画面図である。
【
図20】接触枠部材の他の構造例を示す平面図である。
【
図21】視覚式触覚センサの他の例を示す平面図である。
【
図22】視覚式触覚センサの更に他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ロボットの近くに設置された監視カメラの画像を見ながら、遠隔操作する遠隔操作型ロボットの把持部が、物体とどのような接触状態にあるかを把持部外面の形状変化から視認できる視覚式触覚センサであり、電子回路を全く含まない純粋にメカニカルな簡易構造であり、安価な構成にも拘らず、原子炉などの極限的な悪環境においても壊れ難く、耐久性が良く、信頼性の高い視覚式触覚センサ及びそれを用いたロボット把持部構造である。本発明の視覚式触覚センサには、物体(ワーク)との接触状態によって機械的に、即ち視覚的に変化する構造が容易に視認できる機構が組み込まれているので、操作者は把持部を操縦しながら、触覚センサ(指先相当)と物体との接触状態を、接触と同時に視覚的に判断することができる。
【0014】
本発明は、監視カメラでモニタされるロボットと、このロボットの動きを遠隔地に置かれたディスプレイで監視しながらロボットを操作する遠隔操作装置とで構成される遠隔操作型ロボットにおいて、遠隔操作装置で操作されるロボットの把持部に1対の視覚式触覚センサが開閉可能、つまり物体を把持可能に設けられ、視覚式触覚センサが弾性体を介して取り付けられる接触枠部材を有し、この接触枠部材が物体などから外圧を受けたときの接触枠部材と弾性体との相対位置関係のズレを、監視カメラの画像で操作者が容易にモニタできるように構成されている。接触枠部材の角が物体に接触した場合には、角度のズレも視認することができる。いずれの場合も操作者の視認を容易にするため、接触枠部材と弾性体とは色で区別されている。
【0015】
また、本発明の視覚式触覚センサは、ロボットのアームに接続する取付部材が弾性体を介して複数の棒状の接触移動部材で係合されており、外部の物体に接触移動部材が接触すると、接触移動部材の上面(突出部)が、取付部材の表面から突出するようになっているので、操作者は容易に物体との接触を視認することができる。接触移動部材の突出部の側面の色は、取付部材の表面の色と相違しているので、操作者は確実に視認することができる。
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図3は、本発明に係るロボットの把持部構造の一例を側面図で示しており、
図4はその把持部が円柱状の物体1を把持した状態を斜視図で示している。把持部には、本発明に係る視覚式触覚センサ110及び120が対向して、開閉可能に取り付けられており、1対の視覚式触覚センサ110及び120により物体1を挟持するようになっている。視覚式触覚センサ110及び120が物体1を挟持する場合には、視覚式触覚センサ110及び120が物体1に確実に接触していることを感知する必要があり、また、把持動作以外においても、視覚式触覚センサ110及び120が他の物体、障害物等に接触したことを感知する必要がある。本発明の視覚式触覚センサ110及び120は、ロボット遠隔操作の操作者が物体への接触を把持部の裏側を見ることで確実に視認できるような構造になっている。
【0018】
即ち、
図3に示すようにロボットのアーム先端部に、開閉部材101及び102が支点103を介して開閉可能に設けられており、開閉部材101及び102の先端取付部101A及び102Aにそれぞれ視覚式触覚センサ110及び120が、ねじ止め104及び105で固定的に取り付けられている。1対の対向する視覚式触覚センサ110及び120が先端取付部101A及び102Aに取り付けられ、ロボットの把持部を構成している。視覚式触覚センサ110及び120は全く同一構造であるので、以下では視覚式触覚センサ110について説明するが、視覚式触覚センサ120についても同様である。
【0019】
視覚式触覚センサ110は全体が箱型平板形状であり、3側面を形成する接触枠部材111と、接触枠部材111内に嵌合して収容される平板状の弾性体112と、弾性体112の上面に複数の接触移動部材を介して装着され、一端にL字状に垂設された取付部113Aを有する取付部材113とで構成されている。先端取付部101Aと取付部113Aとがねじ止め104で固定されるが、固定手段はねじ止めに限定されるものではなく、溶接や金具等の公知の手段を用いたものであって良い。
【0020】
以下に、視覚式触覚センサ110の構造について、製造工程に沿って説明する。
【0021】
図5は接触枠部材111の構造例を示しており、
図5(A)は平面図であり、
図5(B)は側面図である。接触枠部材111は全体が矩形状の枠体であり、1面が空きスペースで、3面で枠を形成する断面コの状の枠体であり、3面の底部に所定幅のステップ状の受け部111Aが設けられている。接触枠部材111の材質は剛性の合成樹脂、金属などで良い。
【0022】
図5に示す接触枠部材111に対して、
図6(A)及び(B)に示すように接触枠部材111の3面の内壁に嵌合する矩形平板の形状で、平面的に円形の12個の貫通孔112Aがマトリックス状に設けられている弾性体112が、受け部111A上に載置されて収容される。弾性体112は天然ゴム、ブチルゴム(PIB)、エラストマー、エチレン-プロピレンゴム(EPR)などであり、スポンジのように多孔質に形成されていても良いが、外部から力が印加されたときに、その力に応じたへこみ若しくは変形すると共に、外部力がなくなったときに復元する弾性力を有している必要がある。また、接触枠部材111に収容されて保持され、後述の取付部材113と接触移動部材を介して固定される強度が必要であると共に、接触枠部材111及び取付部材113と異なる色であるか、若しくは異なる色に加工(例えば塗布で着色)されている。
【0023】
図6の状態で、
図7に示すように弾性体112の上面に矩形平板状の取付部材113が載置され、取付部材113には、弾性体112の複数(本例では12個)の貫通孔112Aに対応する位置に、複数の円形の検出穴113Bが設けられている。検出穴113Bの径は、貫通孔112Aの径より大きくなっている。この状態で、取付部材113は、弾性体112の裏面に接着されている。また、取付部材113の一端部には取付部113Aが垂設されており、取付部113Aに設けられている係合穴(図示せず)を介して、ロボット本体側の先端取付部101Aにねじ止め104で固定され、視覚式触覚センサ110がロボット把持部に装着される。
【0024】
図8は、取付部材113と弾性体112とを係合させる接触移動部材の構造例を側面図で示しており、円盤状の突出部114の底面には、貫通孔112Aに嵌合する径の胴部材114Aが一体的に垂設されている。そして、胴部材114Aの底面には、矩形板状(図は矩形板状であるが、円盤状など他の形状でも可)の接触板115がビス116で連結されている。胴部材114Aと接触板115との連結は、差し込み式機構やねじ式であっても良い。
【0025】
図7の状態において、突出部114と一体になっている胴部材114Aを貫通孔112Aに貫通させる共に、
図8に示すように突出部114を取付部材113の検出穴113Bに係合させて保持する。この状態で、接触板115を弾性体112の底面に当接すると共に、胴部材114Aの底面に接触板115を当てながらビス116で固定する。これにより、取付部材113は弾性体112に一体化されると共に、接触移動部材は、貫通孔112A及び113Bを通して上方(取付部材113側)に移動可能な状態となる。接触板115が接触移動部材に固定された状態は
図10の底面図であり、接触板115が弾性体112の底面に、相互に密接した状態でマトリックス状に敷設されている。
図9のY-Y線に沿った断面構造は、
図11のようになっている。即ち、突出部114の上面と取付部材113の上面とはほぼ同一になっており、接触板115の上面は弾性体112の底面と当接し、表面から接触板115は表面から突出した状態になっている。また、弾性体112の嵌合で接触枠部材111は保持され、弾性体112と取付部材113とは接着・固定され、取付部材113は取付部113Aを介してロボットの把持部の開閉部材101に取り付けられる。
【0026】
このような構造の視覚式触覚センサ110及び120が、ロボット把持部の開閉部材101及び102に対向して取り付けられ、遠隔操作による開閉部材101及び102の開閉動作によって、視覚式触覚センサ110及び120が物体を挟持して把持し、物体を加工したり、移動させたりする。
【0027】
図12は、本発明に係る視覚式触覚センサを用いたロボットの把持部を実画像で示しており、物体を何も把持していない状態である。この状態では、突出部114は取付部材113の検出穴113Bに対して同一平面となっており、
図14(A)のようになっている。そして、把持部が物体を把持したり、物体に接触したりすると、接触移動部材の接触板115に
図13に示すような押圧力が印加されるので、接触板115は弾性体112に食い込むと共に、胴部材114Aを介して頂部の突出部114は検出穴113Bから突出する。つまり、突出部114が
図14(B)に示すように突出するので、操作者は、色の異なる突出部114の突出を容易に視認できる。この場合、突出部114と取付部材113のコントラストが大きいほど、視認が容易である。
図15は、この状態の実画像である。
【0028】
一方、接触枠部材111に物体が接触していない場合には、接触枠部材111と弾性体112,取付部材113の位置関係は
図17(A)に示すようになっている。つまり、接触枠部材111の内壁と取付部材113の外壁との間の間隔が一様になっている。そして、接触枠部材111に物体が接触すると、
図16に示すように水平(横)方向の押圧力F1、垂直(縦)方向の押圧力F2或いは斜め方向の押圧力F3が印加され、例えば水平(横)方向の押圧力F1が印加されると、
図17(B)に示すように間隔がずれる。弾性体112の色が、接触枠部材111及び取付部材113の色と相違しているので、操作者は接触によるずれを視認することで、接触枠部材111に働く力の位置、方向、そしてその大きさを推定することができる。この場合も、弾性体112と取付部材113のコントラスト、或いは弾性体112と接触枠部材111のコントラストが大きいほど、視認が容易である。
【0029】
図18は、接触枠部材111が水平(横)方向の押圧力F1を受けたときの実画像であり、
図19は、接触枠部材111が斜め方向の押圧力F3を受けたときの実画像である。
【0030】
上述の実施形態では、接触枠部材111の構造をコの字形状としているが、側面ごとに分割しても良く、また、
図20に示すような円盤状構造であっても良く、使用目的に合わせて他の形状(楕円や三角形など)にすることも可能である。この場合、Z-Z線に沿った断面構造は、
図11と同様である。
【0031】
また、上述の実施形態では、接触枠部材111、弾性体112による外側の接触検知と、取付部材113,弾性体112、接触板115,突出部114による内側の接触検知とを併せて行うようになっているが、
図21に示すように接触枠部材111、弾性体112による外側だけの接触検知でも有効である。即ち、側面を覆うように形成する接触枠部材111と、接触枠部材111内に嵌合して収容される弾性体112と、弾性体112に装着された取付部材113Cとで構成され、接触枠部材111に物体が接触したとき、物体の接触方向と接触力によって、接触枠部材111と取付部材113Cとの相対位置関係が弾性体112の変形によって異なるように構成され、相対位置関係が接触面の外部から視認できるようになっている。
【0032】
更に、
図22に示すように取付部材113,弾性体112、接触板115,突出部114による内側だけの接触検知でも有効である。即ち、複数のマトリックス状に配置される複数の接触移動部材と、複数の接触移動部材を片面で接着支持する弾性体112と、弾性体112をその別の面で支持する取付部材113と、接触移動部材のそれぞれに弾性体112を貫通し、取付部材113に設けられた孔部を貫通する突出部114が設けられ、接触移動部分の接触状態を、取付部材113表面の突出部114の突出状態によって外部から視認できるようになっている。
【0033】
なお、上述の実施形態では、接触移動部材の数、つまり突出部114,接触板115、貫通孔112Aの数を「3×4」の12個としているが、接触センサのサイズに合わせた適宜な数にすることが望ましく、接触を緻密に感知するには数が多いほど良い。
【0034】
また、上述の実施形態では、弾性体を接触枠部材に嵌合させて一体化を図っているが、弾性体と接触枠部材とを機械的な結合手段若しくは接着剤などを用いて一体化することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 モニタ(ディスプレイ)
11 操作者
12 操作盤
20 ロボット
22 把持部
110、120 視覚式触覚センサ
101、102 開閉部材
101A、102A 先端取付部
103 支点
104、105 ねじ止め
111、111B、121 接触枠部材
111A 受け部
112、122 弾性体
112A 貫通孔
113、113C、123 取付部材
113A、123A 取付部
113B 検出穴
114 突出部
114A 胴部材
115 接触板
116 ビス