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特開2024-108795インクジェット処理液セット、インクジェットインクセット、インクジェット印刷装置、及び印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108795
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】インクジェット処理液セット、インクジェットインクセット、インクジェット印刷装置、及び印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240805BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20240805BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240805BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20240805BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41J2/165 205
B41J2/01 501
B41M5/00 100
C09D11/54
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013364
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】浦野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 涼
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】甲 こころ
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EB13
2C056EB45
2C056EC07
2C056EC42
2C056JB04
2H186AB03
2H186AB12
2H186AB34
2H186AB35
2H186AB54
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA09
2H186DA10
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB57
4J039BC09
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】各種基材に対して良好な画質を形成するためのインクジェット処理液セットであり、かつインクジェット処理液セットが導入される液体吐出ヘッドのメンテナンス性を改善するインクジェット処理液セットを提供する。
【解決手段】処理液A及び処理液Bを含み、処理液Aは、電荷密度が380μeq/g以上であり、かつ表面張力が30mN/m以上であり、処理液Bは、電荷密度が330μeq/g以下であり、かつ表面張力が28mN/m以下であり、処理液Aと処理液Bの表面張力の差が8mN/m以上である、インクジェット処理液セットである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液A及び処理液Bを含み、
前記処理液Aは、電荷密度が380μeq/g以上であり、かつ表面張力が30mN/m以上であり、
前記処理液Bは、電荷密度が330μeq/g以下であり、かつ表面張力が28mN/m以下であり、
前記処理液Aと処理液Bの表面張力の差が8mN/m以上である、インクジェット処理液セット。
【請求項2】
前記処理液Aはアセチレングリコール系界面活性剤を含む、請求項1に記載のインクジェット処理液セット。
【請求項3】
前記処理液Bはシリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤のうち少なくとも一方を含む、請求項1に記載のインクジェット処理液セット。
【請求項4】
前記処理液Aと処理液Bの電荷密度の差が150μeq/g以上である、請求項1に記載のインクジェット処理液セット。
【請求項5】
前記処理液Aと処理液Bの表面張力の差が10mN/m以上である、請求項1に記載のインクジェット処理液セット。
【請求項6】
それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有する液体吐出ヘッド用のインクジェット処理液セットである、請求項1に記載のインクジェット処理液セット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット処理液セットと、インクジェットインクとを含む、インクジェットインクセット。
【請求項8】
それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、前記複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の前記複数の吐出口が請求項1から6のいずれか1項に記載の処理液Aを吐出し、他の吐出口列の前記複数の吐出口が請求項1から6のいずれか1項に記載の処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドと、
前記基材にインクジェットインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記液体吐出ヘッドのクリーニング時に前記複数の吐出口列の前記複数の吐出口から押し出されて前記吐出面に付着した前記処理液A及び前記処理液Bを除去するクリーニング機構とを備える、インクジェット印刷装置。
【請求項9】
前記基材の種類に基づき、前記処理液A又は前記処理液Bを吐出するよう前記液体吐出ヘッドを制御する制御部をさらに備える、請求項8に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に記載の処理液A、又は請求項1から6のいずれか1項に記載の処理液Bと、インクジェットインクとを用いる印刷物の製造方法であって、
前記処理液A及び前記処理液Bは、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、前記複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の前記複数の吐出口が前記処理液Aを吐出し、他の吐出口列の前記複数の吐出口が前記処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドを用いて、基材に付与され、
前記インクジェットインクは、基材にインクを吐出するインクジェットヘッドを用いて、基材に付与される、印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記基材の種類に基づき、前記処理液A又は前記処理液Bを吐出するよう前記液体吐出ヘッドを制御する、請求項10に記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット処理液セット、インクジェットインクセット、インクジェット印刷装置、及び印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安全性及び環境対応性の観点から水性インクジェットインクが注目されている。バインダー樹脂を含む水性インクは、基材上で乾燥によりバインダー樹脂が成膜し、定着するという原理から種々の基材への印刷が期待されている。水性インクの基材対応幅を向上するために、基材に処理液を付与する方法がある。印刷領域のみに処理液を付与することができることから、インクジェット方式により処理液を基材に付与する方法が検討されている。特許文献1には、記録媒体上に第1の液を付着させ、次いで第2の液を吐出する画像形成装置において、第1の液の表面張力が35mN/m以下であり、第1の液と第2の液の表面張力の差が10mN/m以上であることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-88578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、インクジェット方式の液体吐出ヘッドによって第1の液として処理液を打滴する場合に、第1の液の表面張力は20~35mN/mが好ましいことが開示されている。しかし、低表面張力の処理液は、液体吐出ヘッドの吐出面に付着しやすく、クリーニング動作によっても吐出面から処理液を除去しきれない場合がある。吐出面に処理液が付着した状態では、処理液の吐出口が塞がれてその吐出性が低下することがある。また、処理液に凝集剤等を含ませ、基材上においてインクの顔料等の凝集を促進する場合では、処理液の電荷密度が高くなる傾向がある。
【0005】
基材の種類に応じて複数種の処理液を用意する場合では、複数種の処理液間で表面張力及び電荷密度が多少なり異なる。この場合、複数種の処理液のなかに低表面張力の処理液が含まれると、液体吐出ヘッドの吐出面へ処理液が付着しやすくなり、さらにはクリーニング動作によっても吐出面から処理液を除去しきれない問題が発生し得る。
【0006】
本発明の一目的としては、各種基材に対して良好な画質を形成するためのインクジェット処理液セットであり、かつインクジェット処理液セットが導入される液体吐出ヘッドのメンテナンス性を改善するインクジェット処理液セットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態は、処理液A及び処理液Bを含み、前記処理液Aは、電荷密度が380μeq/g以上であり、かつ表面張力が30mN/m以上であり、前記処理液Bは、電荷密度が330μeq/g以下であり、かつ表面張力が28mN/m以下であり、前記処理液Aと処理液Bの表面張力の差が8mN/m以上である、インクジェット処理液セットを提供する。
【0008】
他の実施形態は、上記インクジェット処理液セットと、インクジェットインクとを含む、インクジェットインクセットを提供する。
【0009】
さらに他の実施形態は、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、前記複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の前記複数の吐出口が上記処理液Aを吐出し、他の吐出口列の前記複数の吐出口が上記処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドと、前記基材にインクジェットインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記液体吐出ヘッドのクリーニング時に前記複数の吐出口列の前記複数の吐出口から押し出されて前記吐出面に付着した前記処理液A及び前記処理液Bを除去するクリーニング機構とを備える、インクジェット印刷装置を提供する。
【0010】
さらに他の実施形態は、上記処理液A、又は上記処理液Bと、インクジェットインクとを用いる印刷物の製造方法であって、前記処理液A及び前記処理液Bは、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、前記複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の前記複数の吐出口が前記処理液Aを吐出し、他の吐出口列の前記複数の吐出口が前記処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドを用いて、基材に付与され、前記インクジェットインクは、基材にインクを吐出するインクジェットヘッドを用いて、基材に付与される、印刷物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、各種基材に対して良好な画質を形成するためのインクジェット処理液セットであり、かつインクジェット処理液セットが導入される液体吐出ヘッドのメンテナンス性を改善するインクジェット処理液セットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ライン型のインクジェット印刷装置の概略構成図である。
図2図2は、図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部の平面図である。
図3図3は、図1に示すインクジェット印刷装置のヘッドの概略構成図である。
図4図4は、図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部およびクリーニング機構の分解斜視図である。
図5図5は、シリアル型のインクジェット印刷装置の概略構成を示す平面図である。
図6図6は、図5に示すインクジェット印刷装置の液体吐出ヘッドの概略構成図である。
図7図7は、図5に示すインクジェット印刷装置のインクジェットヘッドの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0014】
一実施形態によるインクジェット処理液セットは、処理液A及び処理液Bを含み、処理液Aは、電荷密度が380μeq/g以上であり、かつ表面張力が30mN/m以上であり、処理液Bは、電荷密度が330μeq/g以下であり、かつ表面張力が28mN/m以下であり、処理液Aと処理液Bの表面張力の差が8mN/m以上であることを特徴とする。これによれば、各種基材に対して良好な画質を形成するためのインクジェット処理液セットであり、かつ処理液セットが導入される液体吐出ヘッドのメンテナンス性を改善するインクジェット処理液セットを提供することができる。
【0015】
一実施形態によるインクジェット処理液セットによれば、処理液A及び処理液Bを使い分けることで、浸透性基材と非浸透性基材の両方に高画質な印刷を実現することができる。浸透性基材への細字再現性と、非浸透性基材へのベタ画像の均一性は、特に実現が難しいが、一実施形態によるインクジェット処理液セットによればこれらを実現することができる。
【0016】
処理液A及び処理液Bは、それぞれ、インクジェット方式によって基材に付与されるものである。この処理液A及び処理液Bはインクによる印刷において用いることができる。例えば、インクを基材に付与する前後、又はその間において、処理液A及び処理液Bの一方を基材に付与することができる。好ましくは、インクをインクジェット方式によって基材に付与する前後、又はその間において処理液A及び処理液Bの一方を基材に付与して用いることができる。
【0017】
処理液Aを用いることで、浸透性基材への印刷において高画質、特に細字再現性を実現することができる。処理液Aの電荷密度が380μeq/g以上であることで、基材上において処理液Aとの反応によってインクの増粘速度が速くなり、画像の滲みを抑制することができる。また、処理液Aの表面張力が30mN/m以上であることで、処理液Aが基材に付与された後に基材表面に残りやすくなり、画像の滲みを抑制する効果をさらに高めることができる。
【0018】
処理液Bを用いることで、非浸透性基材への印刷において高画質、特にベタ画像の均一性を実現することができる。処理液Bの電荷密度が330μeq/g以下であることで、基材上において処理液Bとの反応によってインクドットの収縮が抑制され、基材表面からのインク液滴のはじきを抑制することができる。これにより、均一なベタ画像の形成が難しい非浸透性基材であっても高画質な印刷を実現することができる。また、処理液Bの表面張力が28mN/m以下であることで、処理液Bが基材に均一に濡れ広がりやすくなり、印刷物の画質をさらに高めることができる。
【0019】
一実施形態によるインクジェット処理液セットは、複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、一部の吐出口列の吐出口から処理液Aを吐出し、他の吐出口列の吐出口から処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドにおける、液体吐出ヘッドのメンテナンス性を改善することができる。例えば、液体吐出ヘッドの吐出面のクリーニング性を改善することができる。
【0020】
処理液Aは、電荷密度が高いが表面張力が高いため、液体吐出ヘッドの吐出面に付着しにくく、吐出面をクリーニングしやすい液体である。一方で、処理液Bは電荷密度が低く表面張力が低いため、液体吐出ヘッドの吐出面に濡れ広がりやすく、クリーニング動作において吐出面から処理液Bを完全に除去することが難しい液体である。
【0021】
複数の吐出口列が形成された吐出面を有する液体吐出ヘッドにおいて、一部の吐出口列の吐出口から処理液Aを吐出し、他の吐出口列の吐出口から処理液Bを吐出する方法では、吐出面のクリーニング動作において、吐出面上で処理液Aと処理液Bとが互いに混合する。処理液Aと処理液Bの混合物は、吐出面への撥液性に優れることから、吐出面から除去されやすくなり、吐出面のクリーニング性を高めることができる。この際に、処理液Aと処理液Bの表面張力の差が8mN/m以上であることで、吐出面において、処理液Aが処理液Bの液滴に迅速に巻き込まれ、混合の開始を早めることができる。混合が開始すると、処理液Aと処理液Bの混合は進行することから、吐出面から処理液Aと処理液Bが除去され、吐出面のクリーニング性を高めることができる。
【0022】
さらに、処理液Aと処理液Bの電荷密度の差が少なくとも50μeq/gであることから、吐出面において、処理液Aと処理液Bの混合が急速に進む傾向がある。例えば、クリーニング動作において、処理液A及び処理液Bを吐出面にパージする際に、処理液A及び処理液Bの混合が急速に進み、ワイプにおいて吐出面からの処理液A及び処理液Bの吹き残しを低減することができる。
【0023】
「インクジェット処理液セット」
インクジェット処理液セットは、処理液A及び処理液Bを含む。処理液Aは、電荷密度が380μeq/g以上であり、かつ表面張力が30mN/m以上であることが好ましい。処理液Bは、電荷密度が330μeq/g以下であり、かつ表面張力が28mN/m以下であることが好ましい。
【0024】
処理液Aの電荷密度は、380μeq/g以上が好ましく、400μeq/g以上がより好ましく、420μeq/g以上がさらに好ましい。これによって、良好な画質の印刷物を得ることができる。特に、浸透性基材において画質の向上効果を発揮することができる。処理液Aの電荷密度は、特に限定されないが、1000μeq/g以下が好ましく、800μeq/g以下がより好ましく、600μeq/g以下がさらに好ましい。これによって、基材への処理液の定着性を十分に確保することができる。また、基材への処理液を介したインクの定着性をより改善することができる。例えば、処理液Aの電荷密度は、380~1000μeq/g、400~800μeq/g、又は420~600μeq/gであってよい。
【0025】
処理液Aの表面張力は、30mN/m以上が好ましく、33mN/m以上がより好ましく、35mN/m以上がさらに好ましい。これによって、基材内部への処理液の浸透を抑制し、基材表面において処理液とインクとの反応を促進することができる。処理液Aの表面張力は、特に限定されないが、50mN/m以下、45mN/m以下、又は40mN/m以下であってよい。これによって、基材への処理液の付与が不均一になることを防止することができる。具体的には、基材表面において処理液とインクとの反応が均一に進むようにし、細字再現性をより改善することができる。この効果は浸透性基材でより発揮される傾向がある。例えば、処理液Aの表面張力は、30~50mN/m、33~45mN/m、又は35~40mN/mであってよい。
【0026】
処理液Bの電荷密度は、330μeq/g以下が好ましく、300μeq/g以下がより好ましく、280μeq/g以下がさらに好ましい。これによって、基材上において処理液とインクが適当に反応することで、インクドットの収縮を抑制することができる。例えば、非浸透性基材では、基材表面においてインクドットの収縮が抑制されることで、インクによるベタ画像の均一性を得ることができる。さらに、過剰なインクドットの収縮を防止することで、基材上において、インクによる画像のヒビ割れを防止することができる。処理液Bの電荷密度は、特に限定されないが、150μeq/g以上、200μeq/g以上、又は220μeq/g以上であってよい。これによって、基材上においてインク滴同士の合一を抑制して、インクによる画像の乱れを防止し、より良好な画質を得ることができる。例えば、処理液Bの電荷密度は、150~330μeq/g、200~300μeq/g、又は220~280μeq/gであってよい。
【0027】
処理液Bの表面張力は、28mN/m以下が好ましく、25mN/m以下がより好ましく、23mN/m以下がさらに好ましい。これによって、基材上に処理液を均一に付与し、画像ムラを低減し、良好な画質を得ることができる。例えば、非浸透性基材において、基材上での処理液の濡れ広がりと、処理液に追随するインクの濡れ広がりを適度に保ち、画像ムラを低減することができる。処理液Bの表面張力は、特に限定されないが、15mN/m以上、17mN/m以上、又は20mN/m以上であってよい。これによって、液体吐出ヘッドの吐出面において、処理液の濡れ広がりを防止し、液体吐出ヘッドからの処理液の吐出性をより改善することができる。例えば、処理液Bの表面張力は、15~28mN/m、17~25mN/m、又は20~23mN/mであってよい。
【0028】
処理液Aと処理液Bの表面張力の差は、処理液Aの表面張力(γA)と処理液Bの表面張力(γB)の差「γA-γB」とする場合、8mN/m以上であることが好ましい。この場合、印刷装置のクリーニング動作に際し、液体吐出ヘッドの吐出面において、処理液Aと処理液Bの混和の開始が早まる。理由は定かではないが、表面張力が異なる液体同士は、表面張力が低い液体Bが、表面張力が高い液体Aに濡れ広がりやすく、電荷密度の差による混合促進効果が増加する可能性が考えられる。処理液Aと処理液Bの表面張力の差「γA-γB」は10mN/m以上がより好ましく、12mN/m以上がさらに好ましい。一方、処理液Aと処理液Bの表面張力の差「γA-γB」は特に限定されないが、混和性の観点から、35mN/m以下、30mN/m以下、又は25mN/m以下であってよい。例えば、処理液Aと処理液Bの表面張力の差「γA-γB」は、8~35mN/m、10~30mN/m、又は12~25mN/mが好ましい。
【0029】
処理液Aと処理液Bの電荷密度の差は、処理液Aの電荷密度(ρA)と処理液Bの電荷密度(ρB)の差「ρA-ρB」とする場合、50μeq/g以上であることが好ましい。この場合、処理液Aと処理液Bが混和を開始した後において、互いの処理液の均一化を早めることができる。理由は定かではないが、電荷密度が異なる液体同士は互いに均一化する作用が働き、混合が促進される可能性がある。これによって、印刷装置のクリーニング動作に際し、液体吐出ヘッドの吐出面において、処理液Aと処理液Bが均一に混合されて、吐出面への処理液の付着を防止することができる。処理液Aと処理液Bの電荷密度の差「ρA-ρB」は80μeq/g以上が好ましく、100μeq/g以上がより好ましく、150μeq/g以上がさらに好ましい。一方、処理液Aと処理液Bの電荷密度の差「ρA-ρB」は特に限定されないが、混合性の観点から、800μeq/g以下、600μeq/g以下、又は400μeq/g以下であってよい。例えば、処理液Aと処理液Bの電荷密度の差「ρA-ρB」は、50~800μeq/g、100~600μeq/g、又は150~400μeq/gが好ましい。
【0030】
処理液A及び処理液Bの表面張力は、周波数0.05Hzにおける動的表面張力であって、25℃における値である。詳しくは、処理液A及び処理液Bの表面張力は、バブルプレッシャー法(最大泡圧法)に従って、25℃、0.05Hzの測定条件で求めることができる。測定には、例えば、SITA Process Solutions社製「SITA Messtechnik GmbH science line t60」を用いることができる。
【0031】
処理液A及び処理液Bの電荷密度は、流動電位法で測定される電荷密度である。詳しくは、処理液A及び処理液Bをそれぞれイオン交換水で100倍に希釈した液を試料とし、滴定溶液にて滴定を行い、流動電位が0Vになる反応終点を測定し、反応終点までの滴定溶液の使用量から希釈処理液の総電荷量を求める。希釈処理液中の有効成分量当たりの処理液の総電荷量から処理液の電荷密度(μeq/g)を求める。滴定溶液として、0.0025Nポリビニル硫酸カリウム(PVSK)溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いる。測定には、例えば、コロイド粒子電荷量計(AFG ANALYTIC GmbH製「Model CAS」)を用いることができる。
【0032】
本実施形態のインクジェット処理液セットにおいて、処理液Aと処理液Bは、それぞれ、インクを基材に付与する前に基材に付与される、前処理液であることが好ましい。
【0033】
本実施形態のインクジェット処理液セットは、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有する液体吐出ヘッド用のインクジェット処理液セットであることが好ましい。液体吐出ヘッドの詳細については後述する。
【0034】
処理液Aと処理液Bは、それぞれ水性処理液であることが好ましく、具体的には水を含む水性処理液であることがより好ましい。処理液Aと処理液Bは、それぞれインクの処理液として用いることが可能な各種成分を含むことができる。なお、処理液Aと処理液Bの電荷密度及び表面張力は、処理液の成分の種類及びその含有量等を適宜変更することで調節することができる。例えば、処理液は、水等の溶剤と、界面活性剤、凝集剤等の添加剤とを含み得る。以下、処理液が含み得る成分について説明する。
【0035】
処理液は、水、水溶性有機溶剤、又は水と水溶性有機溶剤との組み合わせを含むことができる。処理液は、主溶剤が水であってもよく、例えば、溶剤全量に対し30質量%以上、50質量%以上、又は60質量%以上が水であってよい。水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。水は、粘度調節の観点から、処理液全量に対して20~90質量%で含まれることが好ましく、30~80質量%で含まれることがより好ましく、40~70質量%がさらに好ましい。
【0036】
水溶性有機溶剤は、水と相溶性を示すことが好ましい。水溶性有機溶剤としては、濡れ性及び保湿性の観点から、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0037】
水溶性有機溶剤の沸点は180~270℃が好ましい。水溶性有機溶剤の沸点が180℃以上、より好ましくは200℃以上であることで、処理液からの水溶性有機溶剤の蒸発を抑制して機上安定性をより改善することができる。水溶性有機溶剤の沸点が270℃以下であることで、処理液の付与後に印刷物に残留する溶剤量を低減し、画像の耐久性をより改善することができる。
【0038】
水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールベンジルエーテル等のグリコールエーテル類;1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、また、単一の相を形成する限り、2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
水溶性有機溶剤は、濡れ性、保湿効果、粘度調節等の観点から、処理液全量に対し、1~80質量%で含ませることができ、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%がより好ましい。
【0040】
処理液は、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれを用いてもよいが、非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、低分子系界面活性剤及び高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましく、10~18であることがより好ましい。
【0041】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ヘキサエチレングリコールドデシルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0042】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグリコールであり、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造を備えてもよい。
【0043】
アセチレン系界面活性剤の市販品としては、例えば、エボニックインダストリーズ社製サーフィノールシリーズ「サーフィノール104E」、「サーフィノール104H」、「サーフィノール420」、「サーフィノール440」、「サーフィノール465」、「サーフィノール485」等、日信化学工業株式会社製オルフィンシリーズ「オルフィンE1004」、「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」等を挙げることができる(いずれも商品名)。
【0044】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルアルキレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキル基含有オリゴマー、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルカルボン酸エステル、パーフルオロアルキル4級アンモニウム塩、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、パーフルオロアルキルベタイン等が挙げられる。フッ素系界面活性剤はノニオン性フッ素系界面活性剤が好ましく、パーフルオロアルキルアルキレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキル基含有オリゴマーがより好ましい。パーフルオロアルキルアルキレンオキサイド付加物としては、パーフルオロアルキレンエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0045】
フッ素系界面活性剤の市販品例としては、「サーフロンS-242、サーフロンS-243」等のパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、「サーフロンS-386」等のパーフルオロアルキル基含有オリゴマー等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0046】
シリコーン系界面活性剤は、ポリシロキサン骨格に変性基が導入される化合物を用いることができる。変性基は、ポリシロキサン骨格の末端位置及び側鎖位置の一方又は両方に導入されていてもよいが、ポリシロキサン骨格の側鎖位置に変性基が導入されている側鎖型変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。シリコーン系界面活性剤の具体例としては、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル変性シリコーン系界面活性剤、フェニル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリル変性シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0047】
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリシロキサン骨格にポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を用いることができる。この化合物において、ポリアルキレングリコール鎖は、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリエチレン・プロピレングリコール鎖、ポリトリメチレングリコール鎖等であってよいが、好ましくはポリエチレングリコール鎖である。ポリアルキレンオキサイドの付加モル数は、5~20が好ましく、8~15がより好ましい。
【0048】
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、トリシロキサン骨格又はテトラシロキサン骨格の少なくとも1つのケイ素原子にポリアルキレングリコール鎖が導入される化合物が好ましい。この界面活性剤において、シロキサン骨格に結合するメチル基は、炭素数2以上のアルキル基等のその他の疎水性基に置換されてもよい。好ましくは、トリシロキサン骨格の3位のケイ素原子に1個又は2個のポリアルキレングリコール鎖が導入される化合物、テトラシロキサン骨格の3位及び5位のケイ素原子の一方又は両方に合計1~4個のポリアルキレングリコール鎖が導入される化合物等が挙げられる。より具体的には、3位にアルキレングリコール鎖が導入されたヘプタメチルトリシロキサン、3位又は5位にアルキレングリコール鎖が導入されたノナメチルテトラシロキサン、3位及び5位にアルキレングリコール鎖が導入されたオクタメチルテトラシロキサン等が挙げられる。
【0049】
シリコーン系界面活性剤の市販品例としては、例えば、「BYK-302、BYK-307、BYK-325、BYK-331、BYK-333、BYK-342、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-378」(いずれもビックケミー・ジャパン株式会社)、DOWSIL(登録商標)シリーズの「L-7001、L-7002、L-7604、FZ-2105、8032 ADDITIVE」(いずれも東レ・ダウコーニング株式会社)、「KF-6011、KF-6011P、KF-6013、KF-6004、KF-6043」(いずれも信越化学工業株式会社)、「ディスパロンAQ-7120、ディスパロンAQ-7130、ディスパロンAQ-7180」(いずれも楠本化成株式会社)、「シルフェイスSAG503A、シルフェイスSAG001、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG003、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008」(いずれも日信化学工業株式会社)等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0050】
界面活性剤は1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の含有量は、処理液全量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。
【0051】
処理液Aは、アセチレン系界面活性剤を含むことが好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤を含むことがより好ましい。これによって、処理液Aの表面張力を高く保つことができ、処理液Aを用いて浸透性基材に対しより良好な画質で印刷を行うことができる。例えば、アセチレングリコール系界面活性剤を含む処理液Aは、浸透性基材に均一に濡れ広がるため浸透性基材への処理により適し、さらに吐出面の表面において撥液作用を示しクリーニング性をより改善することができる。
【0052】
アセチレングリコール系界面活性剤は、処理液A全量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。また、処理液Aがアセチレングリコール系界面活性剤を含む場合において、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤の合計質量は処理液A全量に対し1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下であってよく、処理液Aにシリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤は含まれなくてもよい。
【0053】
処理液Bは、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤のうち少なくとも一方を含むことが好ましく、少なくともフッ素系界面活性剤を含むことが好ましく、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤の両方を含むことがより好ましい。これによって、処理液Bの表面張力をより低下させることができる。これらによって、処理液Bを用いて非浸透性基材に対し濡れ性を高めてより良好な画質で印刷を行うことができる。具体的には、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤のうち少なくとも一方を含む処理液Bは、塩化ビニル基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の非浸透性基材により均一なベタ画像を形成することができる。
【0054】
シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤は、その合計質量で、処理液B全量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。また、処理液Bがシリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤のうち少なくとも一方を含む場合において、アセチレングリコール系界面活性剤は処理液B全量に対し1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下であってよく、処理液Bにアセチレングリコール系界面活性剤は含まれなくてもよい。
【0055】
処理液は、カチオン性化合物を含むことが好ましい。カチオン性化合物は、処理液を所定の電荷密度に調節し易い利点がある。また、カチオン性化合物は凝集剤としても機能する。基材上において、処理液の凝集剤はインクの色材等の成分を凝集させ、高画質な画像を形成することができる。
【0056】
処理液の電荷密度の調節の観点から、カチオン性化合物としてはカチオン性ポリマーが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、水溶性カチオン性ポリマーが好ましい。カチオン性化合物としては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン及びその塩、ポリビニルピリジン、カチオン性のアクリルアミドの共重合体、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物、ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマー等が挙げられる。カチオン性化合物は1種単独でも、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。カチオン性化合物の処理液中の濃度は、0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましい。
【0057】
なかでも、処理液は、カチオン性化合物として、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物及びジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーのうち少なくとも一方を含むことがより好ましい。基材上においてインクの色材等の成分を凝集させ、高画質な画像を形成するために、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物及びジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーの両方が処理液に含まれることが好ましい。
【0058】
脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物は、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとを含む混合物を重縮合して得ることができる。脂肪族アミンとしては、脂肪族モノアミン、脂肪族ポリアミン等が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、モノアルキルモノアミン、ジアルキルモノアミン、アルキレンジアミン、アルカノールアミン、ポリアルキレングリコールアミン、グリコールエーテルアミン等が挙げられる。具体的には、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン等のアルキルモノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン等のアルキレンジアミン;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、ジ-2-プロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;ジエチレングリコールアミン、トリエチレングリコールアミン等のポリアルキレングリコールアミン;2-(2-メトキシエトキシ)エチルアミン、2-メトキシエチルアミン等のグリコールエーテルアミン等が挙げられる。脂肪族アミンは、アルキルアミンであることが好ましく、アルキルモノアミンであることがより好ましい。
エピハロヒドリンとしては、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等が挙げられる。
さらに、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物は、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとアンモニアとの重縮合物をも含む。
脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物は、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとを重縮合したものであってよいが、ハロゲン原子を有機酸等に置換したものであってもよい。
【0059】
脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物は、4級アンモニウム塩であることが好ましく、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物の構成ユニットにおける2級又は3級アンモニウム塩の比率が低いことが好ましく、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物の構成ユニットにおいてカチオン性基の構成ユニットはすべて4級アンモニウム塩であることがより好ましい。これによって、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物と、ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーとが相互作用することに伴って、異物が発生してしまうこともさらに防止し、放置後の吐出回復性能をより高めることができる。脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物は、ジアルキルモノアミンとエピハロヒドリンとの重縮合物が好ましく、ジアルキルモノアミンとエピハロヒドリンとともにさらにアンモニア又はアルキレンジアミンとを含む重縮合物であってもよい。ジアルキルモノアミンとしてはジメチルアミンが好ましく、アルキレンジアミンとしてはエチレンジアミンが好ましい。エピハロヒドリンとしてはエピクロルヒドリンが好ましい。これによって、ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーとの相互作用がより高まり、ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーに起因する結晶化をより防止して、放置後の吐出回復性能をより高めることができる。具体的には、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物は、脂肪族アミン-エピハロヒドリン重縮合物、脂肪族アミン-アンモニア-エピハロヒドリン重縮合物が好ましく、脂肪族アミン-エピハロヒドリン重縮合物がより好ましい。より具体的には、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン-エチレンジアミン-エピクロルヒドリン重縮合物が好ましく、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物がより好ましい。
【0060】
脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物の重量平均分子量(Mw)は、1,000~200,000が好ましく、2,000~100,000がより好ましい。脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物の重量平均分子量(Mw)は、吐出性の観点から、50,000以下が好ましく、10,000以下がさらに好ましい。本開示において、ポリマーの重量平均分子量は、GPC法で標準ポリスチレン換算で求めた値である。以下同じである。
【0061】
脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物の市販品例は、センカ株式会社製の「ユニセンスKHE1000L、ユニセンスKHE100L、ユニセンスKHE101L、ユニセンスKHE102L、ユニセンスKHE105L」等のジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重縮合物、センカ株式会社製の「ユニセンスKHE104L」等のジメチルアミン-エピハロヒドリン重縮合物、四日市合成株式会社製の「カチオマスターPE-30」等のジメチルアミン-エチレンジアミン-エピクロルヒドリン重縮合物等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0062】
ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーは、ジアリルジアルキルアンモニウムハライドの単独重合体、ジアリルジアルキルアンモニウムハライドと、これと重合可能なモノマーとの共重合体等が挙げられる。ジアリルジアルキルアンモニウムハライドと重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、二酸化硫黄、メチルジアリルアミン等のアルキルジアリルアミン等が挙げられる。
ジアリルジアルキルアンモニウムハライドは、ジアリルジメチルアンモニウムハライド、ジアリルジエチルアンモニウムハライド等が挙げられるが、ジアリルジメチルアンモニウムハライドが好ましい。ジアリルジアルキルアンモニウムハライドは、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドがより好ましい。
ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーは、ジアリルジアルキルアンモニウムハライドを単独重合又はその他のモノマーと共重合したものであってよいが、ハロゲン原子を有機酸等に置換したものであってもよい。
なお、脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物とジアリルジメチルアンモニウムハライド系ポリマーとは共通する中和剤を用いることで水性媒体中で相互作用をより高めることができることから、一方がハロゲンであれば他方もハロゲンが好ましく、一方が有機酸であれば他方も有機酸が好ましい。より好ましくは両方の中和剤が塩素である。
【0063】
ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーの具体例は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド単独重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・メチルジアリルアミン共重合体等が挙げられる。
【0064】
ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、1,000~200,000が好ましく、3,000~100,000がより好ましく、5,000~10,000がさらに好ましい。ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、吐出性の観点から、50,000以下が好ましく、10,000以下がさらに好ましい。
【0065】
ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーの市販品例は、ニットーボーケミカル株式会社製の「PAS-H-1L、PAS-H-5L、PAS-H-10L」、センカ株式会社製の「ユニセンスFPA100L」等のジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ニットーボーケミカル株式会社製の「PAS-A-1、PAS-A-5」等のジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0066】
脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物の含有量は、処理液全量に対し、有効成分量で、0.5~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、3~5質量%がさらに好ましい。ジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーの含有量は、処理液全量に対し、有効成分量で、0.5~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、3~5質量%がさらに好ましい。脂肪族アミンとエピハロヒドリンとの重縮合物とジアリルジアルキルアンモニウムハライド系ポリマーの合計量は、処理液全量に対し、有効成分量で、1~20質量%が好ましく、4~15質量%がより好ましく、5~10質量%がさらに好ましい。
【0067】
処理液は、凝集剤として金属塩、有機酸等を含んでもよい。金属塩として多価金属塩を用いることができる。多価金属塩としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウムなどの塩が挙げられる。多価金属塩として具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。多価金属塩は1種単独でも、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。多価金属塩の処理液中の濃度は、特に限定されないが、1~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。
【0068】
有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、トリカルバリル酸、グリコール酸、チオグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、グルコン酸、ピルビン酸、オキサル酢酸、ジグリコール酸、安息香酸、フタル酸、マンデル酸、サリチル酸等が挙げられる。有機酸は1種単独でも、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機酸の処理液中の濃度は、5~50質量%が好ましく、10~45質量%がより好ましい。
【0069】
処理液には、上記した各成分に加え、任意的に、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、UV吸収剤、赤外線吸収剤、架橋剤、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、定着剤等の各種添加剤が含まれてもよい。
【0070】
処理液の粘度は、インクジェット方式に適した吐出性を得るために、23℃において1~30mPa・sであることが好ましく、3~20mPa・sであることがより好ましく、4~12mPa・sであることがさらに好ましい。
【0071】
処理液の作製方法は、特に限定されないが、各成分を適宜混合することで所望の処理液を得ることができる。得られた組成物をフィルター等を用いてろ過してもよい。また、各種添加剤を適宜添加してもよい。
【0072】
「インクジェットインクセット」
一実施形態によれば、上記した実施形態によるインクジェット処理液セットと、インクジェットインクとを含むインクジェットインクセットを提供することができる。インクジェット処理液セットは、処理液A及び処理液Bを含むものであり、詳細については上記した通りである。以下、インクジェットインクセットを単にインクセットとも記す。
【0073】
このインクジェットインクセットは、処理液A又は処理液Bと、インクジェットインクとを、それぞれインクジェット方式によって基材に付与する印刷物の製造方法に用いることができる。処理液A及び処理液Bは前処理液として、インクジェットインクが付与される前に基材に付与されることが好ましい。インクジェット処理液セットは、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有する液体吐出ヘッド用のインクジェット処理液セットであることが好ましい。液体吐出ヘッドの詳細については後述する。
【0074】
インクジェットインクは水性インクジェットインクであることが好ましい。水性インクジェットインクを単に水性インク又はインクと略す場合がある。以下、水性インクジェットインクについて説明する。
【0075】
水性インクの溶剤としての水は表面張力が高く、水性インクに水溶性有機溶剤を用いる場合はその分子構造内の水素結合により、印刷物の乾燥時間が長くなる傾向がある。本実施形態によるインクジェット処理液セットを用いて、基材の種類に基づき処理液A及び処理液Bを選択し基材に付与することで、浸透性が異なる複数種の基材に対して、1種類の水性インクで高画質な印刷を行うことができる。
【0076】
水性インクジェットインクは、色材及び水を含むことができる。色材としては、顔料、染料、又はこれらの組み合わせを含むことができる。画像の耐候性及び耐水性の点から、顔料を好ましく用いることができる。
【0077】
顔料は、顔料分散体としてインクに好ましく配合することができる。顔料分散体としては、顔料が溶媒中に分散可能なものであって、インク中で顔料が分散状態となるものであればよい。例えば、顔料を顔料分散剤で水中に分散させたもの、自己分散性顔料を水中に分散させたもの、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を水中で分散させたもの等を用いることができる。
【0078】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0079】
顔料の平均粒子径は10~500nmであることが好ましく、10~200nmであることがより好ましい。これらの顔料の平均粒子径は、発色性の観点から10nm以上であることが好ましく、分散安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。インクジェットインクの場合は吐出性の観点から500nm以下が好ましい。
【0080】
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤に代表される顔料分散剤を好ましく用いることができる。高分子分散剤の市販品として、例えば、エボニックジャパン株式会社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W、750W、755W、760W」、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000、27000、41000、43000、44000、46000」、BASFジャパン株式会社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57J、60J、63J」、ビックケミー・ジャパン株式会社製の「DISPERBYK-102、185、190、193、199」、「BYKJET-9152」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0081】
界面活性剤型分散剤には、処理液との反応を考慮して、アニオン性界面活性剤を用いることができる。界面活性剤型分散剤の市販品として、例えば、花王株式会社製エマールシリーズ「エマール0、10G、TD」等のアニオン性界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0082】
顔料分散剤は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。顔料分散剤を用いる場合では、顔料分散剤の添加量はその種類によって異なり特に限定はされない。例えば、顔料分散剤は、有効成分の質量比で、顔料1に対し、0.005~2.0の範囲で添加することができる。
【0083】
色材として自己分散性顔料を配合してもよい。自己分散性顔料は、化学的処理又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された顔料である。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、硫酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、亜リン酸基、亜リン酸エステル基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。
【0084】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
【0085】
自己分散性顔料としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ「CAB-O-JET200、300、400、450C、250C、260M、270」、オリヱント化学工業株式会社製「BONJET BLACK CW-1、CW-2、CW-4」等を好ましく使用することができる(いずれも商品名)。
【0086】
顔料分散剤で顔料があらかじめ分散された顔料分散体を使用してもよい。顔料分散剤で分散された顔料分散体の市販品としては、例えば、クラリアント社製HOSTAJETシリーズ、冨士色素株式会社製FUJI SPシリーズ等が挙げられる(いずれも商品名)。上記した顔料分散剤で分散された顔料分散体を使用してもよい。また、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料の分散体を使用してもよい。
【0087】
色材として染料を配合してもよい。染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられる。これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものを好ましく用いることができる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。
【0088】
色材は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。色材は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、2~5質量%がさらに好ましい。
【0089】
水性インクは、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤は、基材へのインクの浸透性又は濡れ広がり性をより高め、インクの塗工性をより改善することができる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができ、非イオン性界面活性剤を含むことがより好ましい。界面活性剤としては、上記した処理液で説明したもののなかから、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。界面活性剤は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~2質量%であることがより好ましい。
【0090】
水性インクは、バインダー樹脂をさらに含んでもよい。バインダー樹脂は、水分散性樹脂、水溶性樹脂、これらの組み合わせ等を挙げることができる。なかでも、処理液との反応性の観点で、アニオン性の水分散性樹脂が好ましい。
【0091】
水分散性樹脂としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系樹脂;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、又はこれらの組み合わせの重合体又は共重合体、又はこれらとスチレン等との共重合体等のアクリル系樹脂;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;これらの各種樹脂のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性樹脂;ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。これらの水分散性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これら水分散性樹脂は、水性樹脂エマルション(O/W型エマルション)の形態のものであってもよい。水性樹脂エマルションは、上記樹脂単独の樹脂エマルションであってもよく、上記樹脂の2以上からなるハイブリッド型の樹脂エマルションでもよい。水分散性樹脂の平均粒子径は、0.01~0.50μmが好ましく、0.05~0.30μmがより好ましい。水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸中和物、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂にアニオン性の官能基を導入したアニオン性水溶性樹脂を用いることができる。バインダー樹脂は、インク定着性の観点から、水分散性樹脂を含むことが好ましく、水分散性ウレタン樹脂、水分散性ポリオレフィン樹脂、水分散性アクリル系樹脂、又はこれらの組み合わせを含むことがより好ましい。
【0092】
水分散性ウレタン樹脂の具体例としては、ウレタン骨格を有するアニオン性樹脂が挙げられ、具体的には、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス150、スーパーフレックス300、スーパーフレックス460、スーパーフレックス470、スーパーフレックス740、スーパーフレックス840」等、三井化学ポリウレタン株式会社製の「タケラックWS-6021、タケラックWS-4000、タケラックW-512-A-6、タケラックW-6110」等、株式会社アデカ製の「アデカボンタイターHUX-370、アデカボンタイターHUX-380」等、Covestro Coating Resins社製の「NeoRez R-9660、NeoRez R-966、NeoRez R-967、NeoRez R-986、NeoRez R-2170」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0093】
水分散性ポリオレフィン樹脂の市販品例としては、ユニチカ株式会社製アローベースシリーズ(「アローベースSB-1010、アローベースSE-1010、アローベースDC1010」等)、東洋紡株式会社製ハードレンシリーズ(「NZ1004、EW5250、EH801J」等)、ビックケミー株式会社製AQUACERシリーズ(「272、497、515、531、537」等)等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0094】
水分散性アクリル系樹脂としては、例えば、水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。スチレン(メタ)アクリル樹脂及び水分散性(メタ)アクリル樹脂は、いずれも特に限定されず、市販のものを用いることができる。水分散性スチレン(メタ)アクリル樹脂又は水分散性(メタ)アクリル樹脂の市販品例としては、日本合成化学株式会社製の「モビニール966A、モビニール6750、モビニール6751D、モビニール6960、モビニール6718、モビニール7320」、日本ペイント株式会社製の「マイクロジェルE-1002、マイクロジェルE-5002」、株式会社DIC製の「ボンコート4001、ボンコート5454」、日本ゼオン株式会社製の「SAE1014」、サイデン化学株式会社製の「サイビノールSK-200」、Covestro Coating Resins社製の「ネオクリルBT-62、ネオクリルSA-1094」、BASF社製の「ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC-1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX-7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX-7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610」、日信化学工業株式会社製の「ビニブラン2580、ビニブラン2585、ビニブラン2682、ビニブラン2680、ビニブラン2684、ビニブラン2685、ビニブラン2687」、新中村化学工業株式会社製の「NKバインダーR-5HN」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0095】
バインダー樹脂は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。バインダー樹脂は、インク全量に対し、1~20質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。
【0096】
水性インクは、水、水溶性有機溶剤、又は水と水溶性有機溶剤との組み合わせを含むことができる。水性インクは、主溶剤が水であってもよく、例えば、溶剤全量に対し30質量%以上、50質量%以上、又は60質量%以上が水であってよい。水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。水は、粘度調節の観点から、インク全量に対して20~90質量%で含まれることが好ましく、30~80質量%で含まれることがより好ましく、40~70質量%がさらに好ましい。
【0097】
水性インクは、水溶性有機溶剤を含むことができる。水溶性有機溶剤としては、例えば、上記した処理液で説明したもののなかから、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。水溶性有機溶剤は、濡れ性、保湿効果、粘度調節等の観点から、インク全量に対し、1~80質量%で含ませることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%がより好ましい。
【0098】
水性インクには、上記した各成分に加え、任意的に、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、UV吸収剤、赤外線吸収剤、架橋剤、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、定着剤等の各種添加剤が含まれてもよい。
【0099】
水性インクの粘度は、インクジェットインクに適した吐出性を得るために、23℃において1~40mPa・sであることが好ましく、3~20mPa・sであることがより好ましく、4~12mPa・sであることがさらに好ましい。
【0100】
水性インクの作製方法は、特に限定されないが、各成分を適宜混合することで所望のインクを得ることができる。例えば、顔料の分散性を高めるためにビーズミル等の分散機を用いてもよい。また、得られた組成物をフィルター等を用いてろ過してもよい。また、各種添加剤を適宜添加してもよい。
【0101】
一実施形態によるインクジェット処理液セット及び一実施形態によるインクジェットインクセットは、浸透性基材及び非浸透性基材のいずれにも適用することができる。浸透性基材には処理液Aを適用することが好ましく、非浸透性基材には処理液Bを適用することが好ましい。
【0102】
非浸透性基材は、基材内部に液体が染み込んでいかない基材であり、具体的には、処理液中又はインク中の液体の大部分が基材の表面上に留まる基材である。
【0103】
非浸透性基材としては、ガラス基材、セラミックス基材、金属基材、プラスチック基材等が挙げられる。ガラス基材としては、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス等の板ガラスが挙げられる。セラミックス基材としては、アルミナ、ジルコニア、ステアタイト、窒化ケイ素等の成形体が挙げられる。金属基材としては、アルミニウム、鉄、銅、チタン、錫、クロム、カドミウム、合金(例えば、ステンレス、スチール等)、ブリキ等の金属板が挙げられ、メッキ、塗装、コーティングされたものであってもよい。プラスチック基材としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂等のシート、フィルム等が挙げられる。これらの基材は、メッキ層、金属酸化物層、樹脂層等が形成されていてもよく、又はコロナ処理等を用いて表面処理されていてもよい。
【0104】
浸透性基材としては、例えば、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙;織布、編物、不織布等の布基材;調湿用、吸音用、断熱用等の多孔質建材;木材、コンクリート、多孔質材等が挙げられる。ここで、普通紙は、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0105】
布を構成する繊維としては、例えば、金属繊維、ガラス繊維、岩石繊維および鉱サイ繊維等の無機繊維;セルロース系、たんぱく質系等の再生繊維;セルロース系等の半合成繊維;ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフッ化エチレン等の合成繊維;綿、麻、絹、毛等の天然繊維等の各種の繊維から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0106】
「インクジェット印刷装置」
一実施形態によれば、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の複数の吐出口が処理液Aを吐出し、他の吐出口列の複数の吐出口が処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドと、基材にインクを吐出するインクジェットヘッドと、液体吐出ヘッドのクリーニング時に複数の吐出口列の複数の吐出口から押し出されて吐出面に付着した処理液A及び処理液Bを除去するクリーニング機構とを備える、インクジェット印刷装置を提供することができる。
【0107】
このインクジェット印刷装置において、基材の種類に基づき、処理液A又は処理液Bを吐出するよう液体吐出ヘッドを制御する制御部をさらに備えることが好ましい。処理液A、処理液B、インクジェットインク、及び基材の詳細については上記した通りである。なお、一実施形態によるインクジェット処理液セット及び一実施形態によるインクジェットインクセットは、上記インクジェット印刷装置に使用されるものに限定されない。
【0108】
一実施形態によるインクジェット印刷装置は、ライン型のインクジェット印刷装置であってもよく、シリアル型のインクジェット印刷装置であってもよい。以下、図面を用いて詳細に説明する。なお、図面における具体例に本発明が限定されることはない。
【0109】
<ライン型のインクジェット印刷装置>
図1は、ライン型のインクジェット印刷装置の概略構成図である。図2は、図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部の平面図である。図3は、図1に示すインクジェット印刷装置のヘッドの概略構成図である。図4は、図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部およびクリーニング機構の分解斜視図である。なお、図1の紙面に直交する方向を前後方向とし、紙面表方向を前方とする。また、図1における紙面の上下左右を上下左右方向とする。上下方向は鉛直方向であり、左右方向および前後方向は、互いに直交し、かつ、いずれも上下方向に直交する方向である。
【0110】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、搬送部2と、印刷部3と、クリーニング機構4と、制御部5とを備える。
搬送部2は、印刷媒体である基材6を搬送する。基材6は、上記説明した通りである。搬送部2は、搬送ベルト11と、駆動ローラ12と、従動ローラ13~15とを備える。
搬送ベルト11は、基材6を保持して搬送する。搬送ベルト11は、駆動ローラ12および従動ローラ13~15に掛け渡される環状のベルトである。搬送ベルト11は、図1における時計回り方向に回転することで、基材6を右方向に搬送する。搬送ベルト11は、印刷部3の下方に配置されている。
駆動ローラ12は、搬送ベルト11を回転させる。駆動ローラ12は、図示しないモータにより駆動される。
従動ローラ13~15は、駆動ローラ12とともに搬送ベルト11を支持する。従動ローラ13~15は、搬送ベルト11を介して駆動ローラ12に従動回転する。
【0111】
搬送部2は、印刷時における位置である印刷位置と、その下方の退避位置との間で移動可能に構成されている。搬送部2の退避位置への移動は、後述するヘッド26の吐出面26aのクリーニングを行う際に、クリーニング機構4を搬送部2と印刷部3との間に移動させるために行われる。
【0112】
印刷部3は、搬送部2により搬送される基材6に印刷を行う。印刷部3は、ラインヘッド21A~21Cを備える。ラインヘッド21A~21Cは、基材6の搬送方向における上流側(左側)からこの順で、搬送方向(左右方向)に並列して配置されている。ラインヘッド21A~21Cは、後述のように吐出する液体が異なる以外は、同様の構成である。なお、ラインヘッド21A~21C等の符号におけるアルファベットの添え字を省略して総括的に表記することがある。
【0113】
ラインヘッド21は、複数のヘッド26を有する。本実施形態では、図2に示すように、ラインヘッド21は、6個のヘッド26を有する。ラインヘッド21において、6個のヘッド26は、千鳥配置されている。具体的には、6個のヘッド26は、基材6の搬送方向(副走査方向)と直交する主走査方向(前後方向)に配列され、かつ、1つおきに搬送方向における位置をずらして配置されている。
【0114】
ヘッド26は、図3に示すように、2つのチャンバ27A,27Bと、2列の吐出口列28A,28Bとを備える。なお、図3は、ヘッド26を下側から見た図である。
【0115】
チャンバ27は、ヘッド26が吐出する液体を貯留する。チャンバ27には、液体経路(図示せず)を介して液体が供給される。チャンバ27A,27Bは、上流側(左側)からこの順で、基材6の搬送方向(左右方向)に並列して配置されている。
【0116】
ラインヘッド21Aの各ヘッド26のチャンバ27A,27Bは、それぞれ処理液A,Bを貯留する。ラインヘッド21B,21Cの各ヘッド26のチャンバ27A,27Bは、インクを貯留する。例えば、ラインヘッド21Bの各ヘッド26のチャンバ27A,27Bがそれぞれブラックインク、シアンインクを貯留し、ラインヘッド21Cの各ヘッド26のチャンバ27A,27Bがそれぞれマゼンタインク、イエローインクを貯留する。
【0117】
吐出口列28A,28Bは、それぞれ液体を吐出する複数の吐出口29を含み、ヘッド26の下面である吐出面26aに形成されている。吐出口列28Aの各吐出口29は、チャンバ27Aに貯留された液体を吐出し、吐出口列28Bの各吐出口29は、チャンバ27Bに貯留された液体を吐出する。
【0118】
すなわち、ラインヘッド21Aの各ヘッド26の吐出口列28A,28Bは、それぞれ処理液A,Bを各吐出口29から吐出する。また、ラインヘッド21B,21Cの各ヘッド26の吐出口列28A,28Bは、インクを各吐出口29から吐出する。例えば、ラインヘッド21Bの各ヘッド26の吐出口列28A,28Bがそれぞれブラックインク、シアンインクを各吐出口29から吐出し、ラインヘッド21Cの各ヘッド26の吐出口列28A,28Bがそれぞれマゼンタインク、イエローインクを各吐出口29から吐出する。
【0119】
上述のように、ラインヘッド21B,21Cの各ヘッド26は、インクを吐出するインクジェットヘッドである。ラインヘッド21Aの各ヘッド26は、ラインヘッド21B,21Cの各ヘッド26と同様の構成であるが、インクではなく処理液A,Bを吐出する液体吐出ヘッドである。
【0120】
クリーニング機構4は、ヘッド26の吐出面26aのクリーニングを行う。
クリーニング機構4は、印刷時には、図1において実線で示す待機位置に配置される。待機位置は、搬送部2の右側の下方にある。クリーニング機構4は、ヘッド26の吐出面26aのクリーニングを行う際には、図1において破線で示すクリーニング位置に移動される。クリーニング位置は、搬送部2とヘッド26との間にある。クリーニング機構4は、図示しないモータにより移動可能に構成されている。
【0121】
図4に示すように、クリーニング機構4は、液体受け部材31と、駆動部32と、ワイパ部33とを備える。なお、図4は、クリーニング機構4がクリーニング位置に配置された状態における図である。
【0122】
液体受け部材31は、クリーニングよって吐出面26aから除去された処理液A,B、インク等を受けるものである。液体受け部材31は、クリーニング機構4の各部材を保持する。液体受け部材31は、直方体形状に形成されている。液体受け部材31の中央部には、処理液A,B、インク等を受けるための凹部31aが形成されている。凹部31aは、平面視にて、ヘッド26が配置されている領域よりも大きくなるように形成されている。液体受け部材31の上側は、開口されている。
【0123】
駆動部32は、クリーニング時にワイパ部33を前後方向に移動させるものである。駆動部32は、駆動モータ36と、駆動ベルト37と、1対の駆動プーリ38A,38Bと、1対のネジ歯車39A,39Bとを備える。
駆動モータ36は、所定の方向の回転駆動力を生じさせる。駆動モータ36は、出力ギヤ36aを有する。出力ギヤ36aは、駆動ベルト37に駆動モータ36の回転駆動力を伝達する。
駆動ベルト37は、駆動モータ36から伝達された回転駆動力を駆動プーリ38A,38Bへと伝達する。駆動ベルト37は、駆動プーリ38Aと駆動プーリ38Bとの間に渡って掛けられている。
【0124】
1対の駆動プーリ38A,38Bは、駆動ベルト37から伝達された回転駆動力をネジ歯車39A,39Bへと伝達する。
ネジ歯車39A,39Bは、駆動モータ36から伝達された回転駆動力によってワイパ部33を前後方向へと移動させる。
【0125】
ワイパ部33は、クリーニング時において、ヘッド26の吐出面26aをワイプして、吐出面26aに付着した処理液A,B、インク等を除去する。ワイパ部33は、取付台41と、6枚のワイパ42とを備える。
【0126】
取付台41は、ワイパ42が取り付けられるものである。取付台41には、一対のネジ孔41a,41bが形成されている。ネジ孔41a,41bには、それぞれネジ歯車39A,39Bが貫通され、且つ、螺合されている。これにより、ネジ歯車39A,39Bが回転されると、取付台41は前後方向に移動する。
【0127】
ワイパ42は、吐出面26aを摺動することによって処理液A,B、インク等を除去する。ワイパ42は、弾性変形可能なゴム等の樹脂によって構成されている。ワイパ42を構成する材料は、吐出面26aを破損させない程度の弾力を有する材料が好ましい。6枚のワイパ42は、前後方向に配列されたヘッド26の延長線上に配置されている。
【0128】
ワイパ42の上端部は、クリーニング位置において、ヘッド26の吐出面26aよりも高くなるように配置されている。これにより、ワイパ42は、前後方向に移動されてヘッド26と接すると、弾性変形されて吐出面26aを摺動する。
【0129】
制御部5は、インクジェット印刷装置1全体の動作を制御する。制御部5は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0130】
インクジェット印刷装置1の印刷時の動作について説明する。
印刷ジョブが入力されると、制御部5は、印刷ジョブに含まれる設定情報に基づき、基材6の種類を判断する。前述のように、基材6の種類としては、上記説明した通りである。具体的には、基材6が浸透性基材であるか非浸透性基材であるかを判断する。制御部5は、基材6の種類に基づき、処理液A,Bのうち、ラインヘッド21Aから吐出する処理液として用いるものを選択する。具体的には、基材6が浸透性基材であれば処理液Aを選択し、非浸透性基材であれば処理液Bを選択する。
【0131】
また、制御部5は、搬送部2の駆動を開始させる。図示しない基材供給部から基材6が搬送部2に供給されると、制御部5は、搬送部2により搬送される基材6に、処理液として用いることを選択した処理液Aまたは処理液Bを吐出するようラインヘッド21Aの各ヘッド26を制御する。また、制御部5は、印刷ジョブに基づき、搬送部2により搬送される基材6にインクを吐出して画像を形成するようラインヘッド21B,21Cの各ヘッド26を制御する。
【0132】
インクジェット印刷装置1におけるヘッド26の吐出面26aのクリーニング時の動作について説明する。
吐出面26aのクリーニングを行う際、制御部5は、クリーニング機構4をクリーニング位置に配置する。
次いで、制御部5は、図示しない加圧手段により各ヘッド26を加圧して各吐出口列28の各吐出口29から液体を強制的に排出させる、いわゆるパージを行う。各ヘッド26において、パージにより排出された液体の少なくとも一部は、吐出面26aに付着する。
すなわち、ラインヘッド21Aでは、各ヘッド26の吐出口列28A,28Bからそれぞれ処理液A,Bが排出され、吐出面26aに処理液A,Bが付着する。また、ラインヘッド21B,21Cでは、各ヘッド26の吐出口列28A,28Bからインクが排出され、吐出面26aにインクが付着する。
【0133】
次いで、制御部5は、駆動モータ36を駆動させる。これにより、駆動モータ36の回転駆動力が、出力ギヤ36a、駆動ベルト37、駆動プーリ38A,38Bを伝達して、ネジ歯車39A,39Bを回転させる。この結果、ワイパ42が、ネジ歯車39A,39Bに螺合されている取付台41とともに後方へと移動する。ワイパ42の上端部がヘッド26と接触する位置まで移動すると、ワイパ42はヘッド26に押圧されて弾性変形する。この状態でさらにワイパ42が後方へ移動すると、ワイパ42の後面が、ヘッド26の吐出面26aを摺動する。これにより、吐出面26aに付着した液体が、ゴミ等とともに除去される。
【0134】
なお、処理液A,Bを吐出するヘッド26の吐出口列28は2列に限らず、複数列であればよい。複数の吐出口列28のうちの一部の吐出口列28の各吐出口29が処理液Aを吐出し、他の吐出口列28の各吐出口29が処理液Bを吐出するものであればよい。
また、上述した実施形態では、ワイパ42によるワイプにより吐出面26aに付着した液体を除去するクリーニング機構4を示したが、クリーニング機構の構成はこれに限らない。例えば、吐出面26aに付着した液体を吸引して除去する構成であってもよい。
また、上述した実施形態では、ラインヘッド21が複数のヘッド26からなる構成を示したが、ラインヘッド21が長尺な単一のヘッドからなるものであってもよい。
【0135】
<シリアル型のインクジェット印刷装置>
図5は、シリアル型のインクジェット印刷装置の概略構成を示す平面図である。図6は、図5に示すインクジェット印刷装置の液体吐出ヘッドの概略構成図である。図7は、図5に示すインクジェット印刷装置のインクジェットヘッドの概略構成図である。なお、図5の紙面に直交する方向を上下方向とし、紙面表方向を上方とする。また、図5における紙面の前後左右を前後左右方向とする。上下方向は鉛直方向であり、左右方向および前後方向は、互いに直交し、かつ、いずれも上下方向に直交する方向である。
【0136】
図5に示すように、インクジェット印刷装置51は、印刷部52と、レール部53と、搬送部54と、クリーニング機構55と、制御部56とを備える。
【0137】
印刷部52は、印刷媒体である基材(図示せず)に印刷を行う。基材は、上記説明した通りである。印刷部52は、液体吐出ヘッド61と、インクジェットヘッド62A~62Dと、ヘッドホルダ63とを備える。
【0138】
液体吐出ヘッド61は、処理液A,Bを吐出する。液体吐出ヘッド61は、図6に示すように、2つのチャンバ71A,71Bと、2列の吐出口列72A,72Bとを備える。なお、図6は、液体吐出ヘッド61を下側から見た図である。
【0139】
チャンバ71A,71Bは、それぞれ処理液A,Bを貯留する。チャンバ71A,71Bには、それぞれ液体経路(図示せず)を介して処理液A,Bが供給される。チャンバ71A,71Bは、左右方向(主走査方向)に並列して配置されている。
【0140】
吐出口列72A,72Bは、それぞれ液体を吐出する複数の吐出口73を含み、液体吐出ヘッド61の下面である吐出面61aに形成されている。吐出口列72Aの各吐出口73は、チャンバ71Aに貯留された処理液Aを吐出し、吐出口列72Bの各吐出口73は、チャンバ71Bに貯留された処理液Bを吐出する。
【0141】
インクジェットヘッド62は、インクを吐出する。インクジェットヘッド62A~62Dは、それぞれ異なる色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のインクを吐出する。インクジェットヘッド62A~62Dは、吐出するインクが異なる以外は、同様の構成である。
【0142】
インクジェットヘッド62A~62Dは、左右方向(主走査方向)に並列して配置されている。インクジェットヘッド62A~62Dは、前後方向(副走査方向)において、液体吐出ヘッド61とは異なる位置に配置されている。
【0143】
インクジェットヘッド62は、図7に示すように、チャンバ76と、吐出口列77とを備える。なお、図7は、インクジェットヘッド62を下側から見た図である。
【0144】
チャンバ76は、インクを貯留する。チャンバ76には、インク経路(図示せず)を介してインクが供給される。
【0145】
吐出口列77は、インクを吐出する複数の吐出口78を含み、インクジェットヘッド62の下面である吐出面62aに形成されている。
ヘッドホルダ63は、液体吐出ヘッド61およびインクジェットヘッド62A~62Dを保持する。
レール部53は、印刷部52を左右方向(主走査方向)に往復移動させる。
搬送部54は、基材を前側から後側へ向かう搬送方向(副走査方向)に搬送する。
【0146】
クリーニング機構55は、液体吐出ヘッド61の吐出面61aおよびインクジェットヘッド62A~62Dの吐出面62aのクリーニングを行う。クリーニング機構55は、液体吐出ヘッド61の吐出面61a、およびインクジェットヘッド62A~62Dの吐出面62aをそれぞれワイプする5枚のワイパ(図示せず)を備える。
【0147】
制御部56は、インクジェット印刷装置51全体の動作を制御する。制御部56は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0148】
インクジェット印刷装置51の印刷時の動作について説明する。
印刷ジョブが入力されると、制御部56は、印刷ジョブに含まれる設定情報に基づき、基材の種類を判断する。具体的には、基材が浸透性基材であるか非浸透性基材であるかを判断する。制御部56は、基材の種類に基づき、処理液A,Bのうち、液体吐出ヘッド61から吐出する処理液として用いるものを選択する。具体的には、基材が浸透性基材であれば処理液Aを選択し、非浸透性基材であれば処理液Bを選択する。
次いで、制御部56は、印刷部52を主走査方向に移動させつつ、処理液として用いることを選択した処理液Aまたは処理液Bを吐出するよう液体吐出ヘッド61を制御する。
次いで、制御部56は、搬送部54により基材を搬送させた後、印刷部52を主走査方向に移動させつつ、印刷ジョブに基づき、処理液Aまたは処理液Bが吐出された基材上の領域にインクを吐出して画像を形成するようインクジェットヘッド62A~62Dを制御する。
【0149】
制御部56は、上述のような処理液Aまたは処理液Bの吐出とインクの吐出とを交互に繰り返すことで、基材への処理液Aまたは処理液Bの吐出、および処理液Aまたは処理液Bが吐出された領域へのインクの吐出による印刷を行う。
【0150】
インクジェット印刷装置51における液体吐出ヘッド61の吐出面61aおよびインクジェットヘッド62A~62Dの吐出面62aのクリーニング時の動作について説明する。
吐出面61a,62aのクリーニングを行う際、制御部56は、印刷部52を主走査方向における所定の位置に配置する。
【0151】
次いで、制御部56は、液体吐出ヘッド61およびインクジェットヘッド62A~62Dを図示しない加圧手段により加圧して、各吐出口列72の各吐出口73および吐出口列77の各吐出口78から液体を強制的に排出させるパージを行う。
これにより、液体吐出ヘッド61では、吐出口列72A,72Bからそれぞれ処理液A,Bが排出され、吐出面61aに処理液A,Bが付着する。また、インクジェットヘッド62A~62Dでは、吐出口列77からインクが排出され、吐出面62aにインクが付着する。
【0152】
次いで、制御部56は、液体吐出ヘッド61の吐出面61aおよびインクジェットヘッド62A~62Dの吐出面62aをワイパでワイプするようクリーニング機構55を制御する。これにより、吐出面61a,62aに付着した液体が、ゴミ等とともに除去される。
【0153】
なお、液体吐出ヘッド61の吐出口列72は2列に限らず、複数列であればよい。複数の吐出口列72のうちの一部の吐出口列72の各吐出口73が処理液Aを吐出し、他の吐出口列72の各吐出口73が処理液Bを吐出するものであればよい。
【0154】
また、上述した実施形態では、ワイパによるワイプにより吐出面61a,62aに付着した液体を除去するクリーニング機構55を示したが、クリーニング機構の構成はこれに限らない。例えば、吐出面61a,62aに付着した液体を吸引して除去する構成であってもよい。
【0155】
また、液体吐出ヘッド61とインクジェットヘッド62A~62Dとが、前後方向(副走査方向)において同じ位置に配置されていてもよい。ただし、液体吐出ヘッド61とインクジェットヘッド62A~62Dとを前後方向において互いに異なる位置に配置することで、処理液A,Bのミストがインクジェットヘッド62A~62Dに付着したり、インクのミストが液体吐出ヘッド61に付着することによる不具合の発生を抑制できる。
【0156】
また、上述した実施形態では、液体吐出ヘッド61およびインクジェットヘッド62A~62Dがそれぞれ単一のヘッドからなる構成を示したが、液体吐出ヘッド61およびインクジェットヘッド62A~62Dがそれぞれ複数のヘッドからなるものであってもよい。
【0157】
「印刷物の製造方法」
印刷物の製造方法の一実施形態は、上記した実施形態による処理液A又は処理液Bと、インクジェットインクとを用いる印刷物の製造方法であって、処理液A及び処理液Bは、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の複数の吐出口が処理液Aを吐出し、他の吐出口列の複数の吐出口が処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドを用いて、基材に付与され、インクジェットインクは、基材にインクを吐出するインクジェットヘッドを用いて、基材に付与される印刷物の製造方法である。
【0158】
この印刷物の製造方法において、基材の種類に基づき、処理液A又は処理液Bを吐出するよう液体吐出ヘッドを制御することが好ましい。処理液A、処理液B、インクジェットインク、及び基材の詳細については上記した通りである。液体吐出ヘッド、インクジェットヘッド及びそれらの制御についても上記した通りである。なお、一実施形態によるインクジェット処理液セット及び一実施形態によるインクジェットインクセットは、上記印刷物の製造方法に使用されるものに限定されない。
【0159】
インクジェット方式は、基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができる印刷方式である。インクジェット方式は、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式等のいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから処理液又はインクを吐出させ、吐出された処理液又はインクの液滴を基材に付着させるようにすることが好ましい。
【0160】
まず、処理液をインクジェット方式によって基材に付与する工程について説明する。処理液を基材に付与する領域は、インクによる画像と同一の形状の領域であってもよいし、インクによる画像の形状を含む広めの領域であってもよいし、基材の全面であってもよい。処理液は、インクジェット方式によってオンデマンドで付与可能であるため、インクによる画像の形状に合わせてその付与領域を調節することができる。処理液の付与量は、0.1~200g/mが好ましく、2~20g/mがより好ましい。
【0161】
次に、インクをインクジェット方式によって、基材に付与する工程について説明する。インクは、処理液が付与された基材に付与することが好ましい。インクは、処理液が付与された基材にウェットオンウェット法で付与されることが好ましい。すなわち、処理液が付与された基材から水分を完全には除去しない状態で、好ましくは処理液が付与された基材が湿潤状態を保つ状態で、インクが付与されるとよい。具体的には、処理液を付与後、基材上の処理液の揮発分の残存量が60質量%以上の状態で、インクが付与されることが好ましい。例えば、基材に処理液を付与後に、加熱乾燥などの乾燥工程を経ずに、インクを付与することが好ましい。基材上で処理液が湿潤状態である間にインクが付与されることで、基材上で処理液とインクとが十分に混和し、インク成分が均一に凝集し、優れた画質を得ることができる。インクの付与量は、0.1~400g/mが好ましく、2~40g/mがより好ましい。
【0162】
処理液を付与後、インクを付与するまでの基材表面の温度は、好ましくは40℃以下が好ましく、35℃以下であることが好ましい。また、処理液を付与してからインクを付与するまでの間に基材を湿潤状態に保てる範囲であれば、上記温度にかかわらず、基材を加熱しながら処理液を付与することも好ましい。さらには、処理液が付与された基材を加熱しながら、インクを付与してもよい。例えば、基材を30~60℃、好ましくは35~45℃に加熱しながら、処理液及びインクを付与してもよい。特に、基材として非浸透性基材を用いる場合は、加熱しながら処理液及びインクを付与することが好ましい。
【0163】
基材に処理液を付与してからインクを付与するまでの時間は、0.1~200秒であることが好ましい。この温度又は時間とすることで、基材が非浸透性基材の場合では、処理液が基材に適度にレベリングしてからインクが付与されやすくなり、浸透性基材の場合では、処理液が基材に過浸透することなくインクが付与されやすくなる。
【0164】
処理液を付与する工程とインクを付与する工程は別々の装置で行ってもよく、1つの装置を用いて行ってもよい。一実施形態による印刷物の製造方法は、処理液及びインクをインクジェット方式を用いて付与することから、1つのインクジェット印刷装置内で処理液及びインクの付与をインラインで簡便に行うことができる。
【0165】
インクの付与後に基材を熱処理する工程をさらに設けることができる。処理液及びインクが付与された基材を熱処理することで、基材から水分を除去することができる。さらに、基材上で処理液中の凝集剤の成分が濃縮されて、インクの色材を凝集させる作用をより強め、より高画質の印刷物を得ることができる。バインダー樹脂を含むインクを用いる場合は、基材上で樹脂の成膜を促進することができる。
【0166】
基材の加熱は接触式又は非接触式であってもよい。加熱装置としては、例えば、温風乾燥、電熱線、ホットプレート、ヒートローラ、IRヒータ等が挙げられる。これらの加熱装置は印刷装置と一体的に構成されてもよい。熱処理温度は、40~200℃が好ましく、60~180℃がより好ましく、80~120℃がさらに好ましい。40℃以上であることで効率的に加熱を行って加熱時間を短縮することができる。200℃以下であることで、過剰な加熱による画質の低下、基材の劣化等を防止することができる。熱処理時間は、処理液及びインクの成分、含有量等とともに、基材の種類、熱処理温度、熱処理方式等に応じて適宜設定すればよい。
【0167】
インクの付与後に基材を後処理してオーバーコート層を形成する工程をさらに設けてもよい。基材を後処理する方法としては、基材にオーバーコート液を付与して行うことができる。オーバーコート液としては、例えば、皮膜を形成可能な樹脂と、水性媒体又は油性媒体とを含むオーバーコート液を用いることができる。なお、一実施形態による処理液及びインクを用いる印刷物の製造方法によれば優れた画質が得られることから、オーバーコート層を設けなくてもよい。
【0168】
本開示は、下記の実施形態を含む。
<1>処理液A及び処理液Bを含み、前記処理液Aは、電荷密度が380μeq/g以上であり、かつ表面張力が30mN/m以上であり、前記処理液Bは、電荷密度が330μeq/g以下であり、かつ表面張力が28mN/m以下であり、前記処理液Aと処理液Bの表面張力の差が8mN/m以上である、インクジェット処理液セット。
【0169】
<2>前記処理液Aはアセチレングリコール系界面活性剤を含む、<1>に記載のインクジェット処理液セット。
<3>前記処理液Bはシリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤のうち少なくとも一方を含む、<1>又は<2>に記載のインクジェット処理液セット。
<4>前記処理液Aと処理液Bの電荷密度の差が150μeq/g以上である、<1>から<3>のいずれかに記載のインクジェット処理液セット。
【0170】
<5>前記処理液Aと処理液Bの表面張力の差が10mN/m以上である、<1>から<4>のいずれかに記載のインクジェット処理液セット。
<6>それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有する液体吐出ヘッド用のインクジェット処理液セットである、<1>から<5>のいずれかに記載のインクジェット処理液セット。
<7>上記<1>から<6>のいずれかに記載のインクジェット処理液セットと、インクジェットインクとを含む、インクジェットインクセット。
【0171】
<8>それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、前記複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の前記複数の吐出口が<1>から<6>のいずれかに記載の処理液Aを吐出し、他の吐出口列の前記複数の吐出口が<1>から<6>のいずれかに記載の処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドと、前記基材にインクジェットインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記液体吐出ヘッドのクリーニング時に前記複数の吐出口列の前記複数の吐出口から押し出されて前記吐出面に付着した前記処理液A及び前記処理液Bを除去するクリーニング機構とを備える、インクジェット印刷装置。
【0172】
<9>前記基材の種類に基づき、前記処理液A又は前記処理液Bを吐出するよう前記液体吐出ヘッドを制御する制御部をさらに備える、<8>に記載のインクジェット印刷装置。
【0173】
<10>上記<1>から<6>のいずれかに記載の処理液A、又は<1>から<6>のいずれかに記載の処理液Bと、インクジェットインクとを用いる印刷物の製造方法であって、前記処理液A及び前記処理液Bは、それぞれ基材に液体を吐出する複数の吐出口をそれぞれ含む複数の吐出口列が形成された吐出面を有し、前記複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列の前記複数の吐出口が前記処理液Aを吐出し、他の吐出口列の前記複数の吐出口が前記処理液Bを吐出する液体吐出ヘッドを用いて、基材に付与され、前記インクジェットインクは、基材にインクを吐出するインクジェットヘッドを用いて、基材に付与される、印刷物の製造方法。
【0174】
<11>前記基材の種類に基づき、前記処理液A又は前記処理液Bを吐出するよう前記液体吐出ヘッドを制御する、<10>に記載の印刷物の製造方法。
【実施例0175】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。以下の説明において、特に説明のない箇所では、「%」は「質量%」を示す。各表に示す含有量は、溶液又は分散体として配合される成分はその全体量で示す。
【0176】
(インクの作製)
下記に示す処方にしたがって原材料を混合し、ミックスロータを用いて100rpm、30分間撹拌し、5μmナイロンシリンジフィルターでろ過し、インクを得た。
【0177】
「インク1」
CAB-O-JET 400(顔料分15質量%):20.0質量%。
NeoRezR-967(樹脂分40質量%):22.5質量%。
ジエチレングリコール:30.0質量%。
シルフェイスSAG002:1.0質量%。
イオン交換水:26.5質量%。
【0178】
「インク2」
CAB-O-JET 450C(顔料分15質量%):20.0質量%。
タケラックWS-4000(樹脂分30質量%):30.0質量%。
グリセリン:2.0質量%。
1,2-ブタンジオール:28.0質量%。
シルフェイスSAG002:1.0質量%。
イオン交換水:19.0質量%。
【0179】
用いた成分は以下の通りである。
CAB-O-JET 400(商品名、顔料分15質量%):ブラック顔料、自己分散顔料、キャボット社。
CAB-O-JET 450C(商品名、顔料分15質量%):シアン顔料、自己分散顔料、キャボット社。
NeoRezR-967(商品名、樹脂分40質量%):ウレタン樹脂エマルション、Covestro Coating Resins社。
タケラックWS-4000(商品名、樹脂分30質量%):シラノール基を有するカーボネート系ウレタン樹脂エマルション、三井化学株式会社。
グリセリン、ジエチレングリコール、1,2-ブタンジオール:富士フイルム和光純薬株式会社。
シルフェイスSAG002(商品名):シリコーン系界面活性剤、日信化学工業株式会社。
【0180】
(処理液の作製)
表1及び表2に処理液の処方を示す。表中に示す処方にしたがって原材料を混合し、ミックスロータを用いて100rpm、30分間撹拌し、5μmナイロンシリンジフィルターでろ過し、処理液を得た。用いた成分は以下の通りである。
【0181】
(凝集剤)
ユニセンスKHE101L(商品名):センカ株式会社、エピクロロヒドリン-ジメチルアミン-アンモニア共重合体、樹脂分41.0質量%。
ユニセンスKHE104L(商品名):センカ株式会社、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン縮合物、樹脂分20.0質量%。
PAS-H-1L(商品名):ニットーボーメディカル株式会社、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(分子量:8,500)、樹脂分28.0質量%。
PAS-A-1(商品名):ニットーボーメディカル株式会社、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体(分子量:5000)、樹脂分24.0質量%。
【0182】
(界面活性剤)
サーフロンS-243(商品名):AGCセイミケミカル株式会社、フッ素系界面活性剤。
BYK-349(商品名):ビックケミー社、シリコーン系界面活性剤。
シルフェイスSAG002(商品名):日信化学工業株式会社、シリコーン系界面活性剤。
オルフィンE1010(商品名):日信化学工業株式会社、アセチレングリコール系界面活性剤。
オルフィンE1020(商品名):日信化学工業株式会社、アセチレングリコール系界面活性剤。
ヘキサエチレングリコールドデシルエーテル:富士フイルム和光純薬株式会社、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(POEAE)系界面活性剤。
【0183】
(溶剤)
ジプロピレングリコール:東京化成工業株式会社。
トリエチレングリコール、エチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社。
【0184】
(印刷物の製造方法)
「印刷方法」
表3に、処理液とインクの組み合わせを示す。各実施例及び各比較例では、1種のインクと2種の処理液を用いた。表中において、「フッ素」はフッ素系界面活性剤を示し、「シリコーン」はシリコーン系界面活性剤を示し、「AG」はアセチレングリコール系界面活性剤を示し、「POEAE」はPOEAE系界面活性剤を示す。
【0185】
液体吐出ヘッド及びインクジェットヘッドとして、図3に示されるヘッド26と同じ構造を有する液体吐出ヘッドを複数個、用意した。これらのインクジェットヘッド及び液体吐出ヘッドを、図2に示した配置と同じになるように配置してラインヘッド21を構成し、インクジェットプリンター(「オルフィスGD9630」(商品名)、理想科学工業株式会社)に取り付けた。取り付けられたインクジェットプリンターの構成は、図1に示されたインクジェット印刷装置の概略構成図と同じ構成である。
【0186】
各実施例の印刷方法を以下に説明する。各実施例では、2種類の処理液を1つの液体吐出ヘッドから吐出した。具体的には、ラインヘッド21Aの各ヘッド26のチャンバ27A,27Bに、それぞれ処理液A,Bを供給し、吐出口列28Aの各吐出口29から処理液Aが吐出され、吐出口列28Bの各吐出口29から処理液Bが吐出されるようにした。また、ラインヘッド21Bの各ヘッド26のチャンバ27A,27Bには、それぞれ上記で作製したインク1,インク2を供給し、吐出口列28Aの各吐出口29からインク1が吐出され、吐出口列28Bの各吐出口29からインク2が吐出されるようにした。
【0187】
布基材への印刷では、布基材に処理液Aを吐出し、次いでインクを吐出し、最後に布基材を乾燥した。
塩ビ基材への印刷では、塩ビ基材に処理液Bを吐出し、次いでインクを吐出し、最後に塩ビ基材を乾燥した。
布基材及び塩ビ基材のいずれにおいても、処理液の付与後に、乾燥は、熱風式乾燥機を用い、90℃で行った。
【0188】
比較例1~3は、処理液とインクの組み合わせを変更した以外の手順は、上記した各実施例と同様にした。
【0189】
「基材」
用いた基材は以下の通りである。
布基材:ポリエステル布であるトロマット。浸透性基材。
塩ビ基材:ポリ塩化ビニルフィルムである「AveryDennison MPI3002PP WPE」。非浸透性基材。
【0190】
メンテナンス性の評価において用いたノズル抜け観察用の基材は以下の通りである。
ノズル抜け観察用基材:PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである「桜井 クリアーフィルム CF300 A4」。
【0191】
布基材及び塩ビ基材はA4サイズにカットして印刷に供した。塩ビ基材とPETフィルムはいずれも印刷前にウエスで表面のゴミをふき取った。
【0192】
「印刷条件」
印刷条件は以下の通りである。
解像度:300×600dpi
画像:20cm×20cmのベタ画像内に12ptと14ptの白抜き文字を形成する。白抜き文字は「理」とした。
印字率:処理液25%、インク100%
【0193】
(評価方法)
以下の各評価を行った。結果を表3に併せて示す。
【0194】
「処理液の電荷密度」
処理液の電荷密度は、流動電位法による電荷密度であり、以下のようにして測定した。電荷密度の測定にはコロイド粒子電荷量計(AFG ANALYTIC GmbH製「Model CAS」)を使用した。
【0195】
処理液をそれぞれイオン交換水で100倍に希釈した液を試料とし、下記の滴定溶液にて滴定を行い、流動電位が0Vになる反応終点を測定し、反応終点までの滴定溶液の使用量から希釈処理液の総電荷量を求めた。希釈処理液中の有効成分当たりの処理液の総電荷量から処理液の電荷密度(μeq/g)を求めた。滴定溶液として、0.0025Nポリビニル硫酸カリウム(PVSK)溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0196】
「処理液の表面張力」
処理液の表面張力は、SITA Process Solutions社製の表面張力計「SITA Messtechnik GmbH science line t60」を用いて、25℃、0.05Hzの測定条件で求めた。
【0197】
「印刷物の画質」
布基材の印刷物の画質は、下記基準で細字再現性を評価した。
A:12pt及び14ptの白抜き文字でいずれも文字潰れが起きない。
B:12ptの白抜き文字で文字潰れが起き、14Ptの白抜き文字で文字潰れが起きない。
C:12pt及び14ptの白抜き文字でいずれも文字潰れが起きる。
【0198】
塩ビ基材の印刷物の画質は、下記基準でベタ画像の均一性を評価した。
A:均一なベタが形成される。
B:印刷物の表面から40cmの距離で離れた位置から認識できる画像ムラが発生する。
C:明らかな画像ムラが発生する。
【0199】
「メンテナンス性」
液体吐出ヘッドのメンテナンス性は、下記のとおりに液体吐出ヘッドの吐出面のクリーニング性を評価した。
【0200】
300×300dpiでPETフィルムに20cm×20cmのベタ画像を連続して20枚印刷した。処理液Aと処理液Bの印刷は別々各20枚印刷した。
印刷の後に、クリーニング動作として、液体吐出ヘッドへ処理液を供給する経路を加圧することにより液体吐出ヘッドの吐出口から処理液A及び処理液Bを押し出した(いわゆるパージ)。続いて、ワイパによって液体吐出ヘッドの吐出面に付着した処理液を拭き取る動作を行った。
【0201】
クリーニング動作の後に、ノズル抜け確認用基材としてPETフィルムに、処理液Aを吐出し、ノズルチェックパターンを印刷した。続いて、同様に、PETフィルムに処理液Bを吐出しノズルチェックパターンを印刷した。処理液Aによるノズルチェックパターン及び処理液Bによるノズルチェックパターンをそれぞれ観察した。処理液A及び処理液Bのノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが多く観察された方の処理液の結果から、以下の基準でクリーニング性を評価した。
A:ノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが1%未満。
B:ノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが1%以上2%未満。
C:ノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが2%以上3%未満。
D:ノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが3%以上。
【0202】
【表1-1】
【0203】
【表1-2】
【0204】
【表2-1】
【0205】
【表2-2】
【0206】
【表3-1】
【0207】
【表3-2】
【0208】
【表3-3】
【0209】
【表3-4】
【0210】
【表3-5】
【0211】
表中に示す通り、各実施例の処理液が付与された基材を用いて印刷が行われることで、布基材及び塩ビ基材のいずれに対しても良好な画質が得られた。また、各実施例の処理液用の液体吐出ヘッドにおいてメンテナンス性を改善することができた。
【0212】
比較例1及び3では、処理液Aと処理液Bのそれぞれの電荷密度及び表面張力の少なくとも一方を起因として、各基材への画質が低下した。比較例2及び3では、処理液Aと処理液Bの表面張力の差が小さいことを一つの要因として、メンテナンス性が低下した。
【符号の説明】
【0213】
1 インクジェット印刷装置、2 搬送部、3 印刷部、4 クリーニング機構、5 制御部、6 基材、11 搬送ベルト、12,13,14,15 駆動ローラ、21A~B ラインヘッド、26 ヘッド、26a 吐出面、27 チャンバ、27A,B チャンバ、28A,B 吐出口列、29 吐出口、31 液体受け部材、31a 凹部、32 駆動部、33 ワイパ部、36 駆動モータ、36a 出力ギヤ、37 駆動ベルト、38A,B 駆動プーリ、39A,B ネジ歯車、41 取付台、41a,b ネジ孔、42 ワイパ、51 制御部、51 インクジェット印刷装置、52 印刷部、53 レール部、54 搬送部、55 クリーニング機構、56 制御部、61 液体吐出ヘッド、61a 吐出面、62 インクジェットヘッド、62a 吐出面、62A,B,C,D インクジェットヘッド、63 ヘッドホルダ、71A,B チャンバ、72A,B 吐出口列、73 吐出口、76 チャンバ、77 吐出口列、78 吐出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7