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特開2024-108806溶接ワイヤ、溶接方法、溶接金属の製造方法、溶接継手の製造方法、溶接金属、及び溶接継手
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108806
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】溶接ワイヤ、溶接方法、溶接金属の製造方法、溶接継手の製造方法、溶接金属、及び溶接継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20240805BHJP
   B23K 35/368 20060101ALI20240805BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240805BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240805BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20240805BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20240805BHJP
   B23K 9/18 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B23K35/30 320A
B23K35/368 D
B23K35/368 F
C22C38/00 301B
C22C38/60
B23K9/173 B
B23K9/16 G
B23K9/18 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013380
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 圭人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝矩
(72)【発明者】
【氏名】宮田 亮太
【テーマコード(参考)】
4E001
4E084
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
4E001BB06
4E001BB10
4E001CA02
4E001DB01
4E001EA05
4E084AA03
4E084AA07
4E084AA08
4E084AA09
4E084BA02
4E084BA03
4E084BA04
4E084BA05
4E084BA06
4E084BA08
4E084BA09
4E084BA10
4E084BA11
4E084BA12
4E084BA13
4E084BA14
4E084BA15
4E084BA29
4E084CA03
4E084DA09
4E084DA13
(57)【要約】
【課題】高張力鋼板の強度、入熱を問わず、溶接金属及びボンド部の靱性を確保することができる溶接ワイヤ及び溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接ワイヤは、下記M1が0.20以上であるとともに、(M2/M1)が0.730以上1.00未満である。M1=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B],M2=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]。ただし、M1は、高張力鋼板に含有される各合金成分の含有量を、それぞれ、前記高張力鋼板全質量に対する質量%で表した値により算出し、M2は、溶接ワイヤに含有される各合金成分の含有量を、それぞれ、溶接ワイヤ全質量に対する質量%で表した値により算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力鋼板の溶接に使用される溶接ワイヤであって、
下記<式1>により算出される値M1が0.20以上であるとともに、
前記M1に対する、下記<式2>により算出される値M2の比(M2/M1)が、0.730以上1.000未満であることを特徴とする、溶接ワイヤ。
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/30+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
M2=[C(wire)]+[Si(wire)]/30+[Mn(wire)]/20+[Cu(wire)]/20+[Ni(wire)]/60+[Cr(wire)]/20+[Mo(wire)]/15+[V(wire)]/10+5×[B(wire)] ・・・<式2>
ただし、[C(plate)]、[Si(plate)]、[Mn(plate)]、[Cu(plate)]、[Ni(plate)]、[Cr(plate)]、[Mo(plate)]、[V(plate]、及び[B(plate)]は、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、前記高張力鋼板全質量に対する質量%で表した値である。
また、[C(wire)]、[Si(wire)]、[Mn(wire)]、[Cu(wire)]、[Ni(wire)]、[Cr(wire)]、[Mo(wire)]、[V(wire)]、及び[B(wire)]は、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、溶接ワイヤ全質量に対する質量%で表した値である。
【請求項2】
合金成分として、
溶接ワイヤ全質量に対して、
Mn(wire):0.90質量%以上2.80質量%以下、
Ni(wire):1.10質量%以上3.00質量%以下、及び、
Mo(wire):0.30質量%以上1.00質量%以下、
を含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接ワイヤ。
ただし、上記Mn(wire)、Ni(wire)、Mo(wire)は、それぞれ、溶接ワイヤに含有されるMn、Ni、Moを表す。
【請求項3】
さらに、合金成分として、
溶接ワイヤ全質量に対して、
C(wire):0.100質量%以下、
Si(wire):0.80質量%以下、
P(wire):0.050質量%以下、
S(wire):0.050質量%以下、
Cr(wire):1.00質量%以下、
Cu(wire):0.50質量%以下、
Ti(wire):0.10質量%以下、
Al(wire):0.10質量%以下、
Zr(wire):0.10質量%以下、
Nb(wire):0.10質量%以下、
V(wire):0.10質量%以下、及び、
B(wire):0.0050質量%以下、
を含有し、残部がFe(wire)及び不可避不純物であることを特徴とする、請求項2に記載の溶接ワイヤ。
ただし、上記C(wire)、Si(wire)、P(wire)、S(wire)、Cr(wire)、Cu(wire)、Ti(wire)、Al(wire)、Zr(wire)、Nb(wire)、V(wire)、B(wire)、及びFe(wire)は、それぞれ、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、P、S、Cr、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【請求項4】
フラックスを含む溶接ワイヤであって、
さらに、合金成分として、
溶接ワイヤ全質量に対して、
C(wire):0.100質量%以下、
Si(wire):0.80質量%以下、
P(wire):0.050質量%以下、
S(wire):0.050質量%以下、
Cr(wire):1.00質量%以下、
Cu(wire):0.50質量%以下、
Ti(wire):0.10質量%以下、
Al(wire):0.10質量%以下、
Zr(wire):0.10質量%以下、
Nb(wire):0.10質量%以下、
V(wire):0.10質量%以下、
B(wire):0.0050質量%以下、
を含有し、残部がFe(wire)及び不可避不純物であり、
前記フラックスは化合物を含み、
前記化合物は、溶接ワイヤ全質量に対して0質量%超5質量%以下であることを特徴とする、請求項2に記載の溶接ワイヤ。
ただし、上記C(wire)、Si(wire)、P(wire)、S(wire)、Cr(wire)、Cu(wire)、Ti(wire)、Al(wire)、Zr(wire)、Nb(wire)、V(wire)、B(wire)、及びFe(wire)は、それぞれ、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、P、S、Cr、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【請求項5】
前記化合物は、B、SiO、NaO、KO及びAlから選択された少なくとも1種を含み、
溶接ワイヤ中に含有される全ての前記化合物の合計量は、溶接ワイヤ全質量に対して0.100質量%以下であることを特徴とする、請求項4に記載の溶接ワイヤ。
【請求項6】
下記<式3>により算出される値M3が、1.50以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の溶接ワイヤ。
M3=([Ni(wire)]/[Ni(plate)])/([Mn(wire)]/[Mn(plate)]) ・・・<式3>
【請求項7】
下記<式4>により算出される値M4と、下記<式5>により算出される値M5との関係において、以下の条件A、条件B及び条件Cから選択される1つの条件を満足することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の溶接ワイヤ。
M4=[Ni(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式4>
M5=[Ni(plate)]+[Mn(plate)] ・・・<式5>
条件A:M4が3.00未満であって、(M4-M5)が-1.00以上である。
条件B:M4が3.00以上4.50未満である。
条件C:M4が4.50以上であって、(M4-M5)が1.00以下である。
【請求項8】
下記<式6>により算出される値M6が3.30以下であるとともに、
下記<式7>により算出される値M7が0.28以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の溶接ワイヤ。
M6=[Mo(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式6>
M7=[Mo(wire)]/([Mo(wire)]+[Mn(wire)]) ・・・<式7>
【請求項9】
下記<式1>により算出される値M1が0.20以上である高張力鋼板を溶接する溶接方法であって、
前記M1に対する、下記<式2>により算出される値M2の比(M2/M1)が、0.730以上1.000未満となる溶接ワイヤを使用することを特徴とする、溶接方法。
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/50+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
M2=[C(wire)]+[Si(wire)]/50+[Mn(wire)]/20+[Cu(wire)]/20+[Ni(wire)]/60+[Cr(wire)]/20+[Mo(wire)]/15+[V(wire)]/10+5×[B(wire)] ・・・<式2>
ただし、[C(plate)]、[Si(plate)]、[Mn(plate)]、[Cu(plate)]、[Ni(plate)]、[Cr(plate)]、[Mo(plate)]、[V(plate]、及び[B(plate)]は、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、前記高張力鋼板全質量に対する質量%で表した値である。
[C(wire)]、[Si(wire)]、[Mn(wire)]、[Cu(wire)]、[Ni(wire)]、[Cr(wire)]、[Mo(wire)]、[V(wire)]、及び[B(wire)]は、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、溶接ワイヤ全質量に対する質量%で表した値である。
【請求項10】
エレクトロスラグ溶接法、エレクトロガス溶接法、サブマージアーク溶接法及びガスシールドアーク溶接法から選択される1種を用いて溶接することを特徴とする、請求項9に記載の溶接方法。
【請求項11】
スキンプレートとダイアフラムとの間をエレクトロスラグ溶接法により溶接する溶接方法であって、
前記高張力鋼板を前記スキンプレートとして使用することを特徴とする、請求項10に記載の溶接方法。
【請求項12】
溶接時の溶接電流をI(A)、溶接電圧をV(V)、溶接速度をS(cm/min)、溶接入熱をQとする場合に、
溶接電流I:200(A)以上500(A)以下、
溶接電圧V:30(V)以上56(V)以下、
溶接速度S:0.8(cm/min)以上7.0(cm/min)以下、
溶接入熱Q:50(kJ/cm)以上1400(kJ/cm)以下、
とすることを特徴とする、請求項11に記載の溶接方法。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか1項に記載の溶接方法を使用して溶接金属を製造することを特徴とする、溶接金属の製造方法。
【請求項14】
請求項9~12のいずれか1項に記載の溶接方法を使用して溶接継手を製造することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の溶接金属の製造方法により製造される溶接金属であって、
溶接金属全質量に対して、
C(weld):0.100質量%以下、
Si(weld):0.80質量%以下、
Mn(weld):1.50質量%以上2.00質量%以下、
Ni(weld):1.00質量%以上2.10質量%以下、
Cr(weld):1.00質量%以下、
Mo(weld):0.40質量%以上0.60質量%以下、
P(weld):0.050質量%以下、
S(weld):0.050質量%以下、
Cu(weld):0.50質量%以下、
Ti(weld):0.10質量%以下、
Al(weld):0.10質量%以下、
Zr(weld):0.10質量%以下、
Nb(weld):0.10質量%以下、
V(weld):0.10質量%以下、
B(weld):0.0050質量%以下、を含有し、
残部がFe(wire)及び不可避不純物であることを特徴とする、溶接金属。
ただし、上記C(weld)、Si(weld)、Mn(weld)、Ni(weld)、Cr(weld)、Mo(weld)、P(weld)、S(weld)、Cu(weld)、Ti(weld)、Al(weld)、Zr(weld)、Nb(weld)、V(weld)、B(weld)、及びFe(weld)は、それぞれ、溶接金属に含有されるC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、P、S、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【請求項16】
複数の部材が溶接金属により接合された溶接継手であって、
前記複数の部材のうち少なくとも1つが高張力鋼板であり、
下記<式1>により算出される値M1が0.20以上であるとともに、
前記M1に対する、下記<式8>により算出される値M8の比(M8/M1)が、0.820以上1.000未満であることを特徴とする、溶接継手。
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/30+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
M8=[C(weld)]+[Si(weld)]/30+[Mn(weld)]/20+[Cu(weld)]/20+[Ni(weld)]/60+[Cr(weld)]/20+[Mo(weld)]/15+[V(weld)]/10+5×[B(weld)] ・・・<式8>
ただし、[C(plate)]、[Si(plate)]、[Mn(plate)]、[Cu(plate)]、[Ni(plate)]、[Cr(plate)]、[Mo(plate)]、[V(plate]、及び[B(plate)]は、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、前記高張力鋼板全質量に対する質量%で表した値である。
また、[C(weld)]、[Si(weld)]、[Mn(weld)]、[Cu(weld)]、[Ni(weld)]、[Cr(weld)]、[Mo(weld)]、[V(weld)]、及び[B(weld)]は、前記溶接金属に含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、溶接金属全質量に対する質量%で表した値である。
【請求項17】
前記高張力鋼板は、
合金成分として、
高張力鋼板全質量に対して、
C(plate):0.100質量%以下、
Si(plate):0.50質量%以下、
Mn(plate):0.50質量%以上2.80質量%以下、
Ni(plate):0.01質量%以上5.50質量%以下、
Cr(plate):0.05質量%以上3.50質量%以下、
Mo(plate):2.50質量%以下、
P(plate):0.050質量%以下、
S(plate):0.050質量%以下、
Cu(plate):1.00質量%以下、
Ti(plate):0.100質量%以下、
Al(plate):0.100質量%以下、
Zr(plate):0.10質量%以下、
Ca(plate):0.10質量%以下、
REM(plate):0.10質量%以下、
Nb(plate):0.10質量%以下、
V(plate):0.10質量%以下、
B(plate):0.0001質量%以上0.0050質量%以下、を含有し、
残部がFe(plate)及び不可避不純物であることを特徴とする、請求項16に記載の溶接継手。
ただし、上記C(plate)、Si(plate)、Mn(plate)、Ni(plate)、Cr(plate)、Mo(plate)、P(plate)、S(plate)、Cu(plate)、Ti(plate)、Al(plate)、Zr(plate)Ca(plate)、REM(plate)、Nb(plate)、V(plate)、B(plate)、及びFe(plate)は、それぞれ、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、P、S、Cu、Ti、Al、Zr、Ca、REM、Nb、V、B及びFeを表す。
【請求項18】
前記溶接金属は、溶接金属全質量に対して、
C(weld):0.100質量%以下、
Si(weld):0.80質量%以下、
Mn(weld):1.50質量%以上2.00質量%以下、
Ni(weld):1.00質量%以上2.10質量%以下、
Cr(weld):1.00質量%以下、
Mo(weld):0.40質量%以上0.60質量%以下、
P(weld):0.050質量%以下、
S(weld):0.050質量%以下、
Cu(weld):0.50質量%以下、
Ti(weld):0.10質量%以下、
Al(weld):0.10質量%以下、
Zr(weld):0.10質量%以下、
Nb(weld):0.10質量%以下、
V(weld):0.10質量%以下、
B(weld):0.0050質量%以下、を含有し、
残部がFe(wire)及び不可避不純物であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の溶接継手。
ただし、上記C(weld)、Si(weld)、Mn(weld)、Ni(weld)、Cr(weld)、Mo(weld)、P(weld)、S(weld)、Cu(weld)、Ti(weld)、Al(weld)、Zr(weld)、Nb(weld)、V(weld)、B(weld)、及びFe(weld)は、それぞれ、溶接金属に含有されるC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、P、S、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高張力鋼板を母材とした溶接に適用され、特に溶接金属と母材の溶融境界部において、優れた靱性を得ることができる溶接ワイヤ及び溶接方法、該溶接方法を用いた溶接金属の製造方法及び溶接継手の製造方法、該溶接金属の製造方法により得られる溶接金属、並びに溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
高張力鋼板は、船舶、橋梁、鉄骨など様々な分野で構造物の製造に使用されている。この構造物を製造する上で、溶接は必要不可欠となる。高張力鋼板を対象とした溶接において、入熱量が増加するほど、溶接金属や熱影響部(Heat Affected Zone)(以下、HAZ部ともいう。)の靱性低下が生じ、脆性破壊の危険性が生じるという問題がある。
【0003】
上記問題に対して、特許文献1には、高入熱溶接法となるエレクトロスラグ溶接において、HAZ部の靱性向上に着目した高強度厚鋼板が提案されている。上記特許文献1には、降伏強さが700MPa以上、引張強さ780MPa以上の高強度を有し、入熱量が500kJ/cmを超える大入熱溶接を施されても、優れた溶接熱影響部靱性を保持できる、大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高強度厚鋼板を提供することができることが記載されている。具体的に、上記高強度厚鋼板は、成分組成が、質量%で、C:0.010~0.050%、Si:0.50%以下、Mn:1.5~3.5%、P:0.007%以下、S:0.0030%以下、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.030%、N:0.0015~0.0065%、Cr:2.0~5.0%、O:0.0050%以下を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、降伏強さが700MPa以上、引張強さ780MPa以上である大入熱溶接熱影響部靱性に優れたものである。
【0004】
また、特許文献2には、高入熱溶接法となるエレクトロスラグ溶接において、溶接金属の靱性向上に着目した溶接ワイヤが提案されている。上記特許文献2に記載の溶接ワイヤは、充填フラックスが金属粉及び/又は合金粉からなるメタル粉入り溶接ワイヤであり、に記載の溶接ワイヤは、非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の2mmVノッチシャルピー衝撃試験の0℃における吸収エネルギーが70J以上となることを課題としている。具体的に、上記メタル粉入りエレクトロスラグ溶接用溶接ワイヤは、鋼製外皮と溶接ワイヤ全体の合金組成を適正化した上で、溶接ワイヤ中のAlを0.030%以下に限定し、かつ、TiとMgを[Mg]+[Ti]/5=0.020~0.30%とし、合わせて、メタル粉の充填率が溶接ワイヤ全体に対する質量%で5~20%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-155254号公報
【特許文献2】特開2011-152579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び特許文献2のように、大入熱溶接であっても、HAZ部及び溶接金属について靱性を確保する技術は、従来から提案されている。しかしながら、これらの従来技術は、溶接金属とHAZ部の溶融境界部(以下、ボンド部ともいう。)の靱性改善については何ら考慮されていない。高張力鋼板や、この高張力鋼板に合わせる溶接材料(以下、溶接ワイヤともいう。)は、強度を上げるために、各種の元素添加がなされている。したがって、鋼板や溶接材料の強度が上がるほど、添加する元素の種類は多岐にわたるとともに、添加量は増加する。この各種元素と溶接入熱量を主とした要因によって、溶接金属やHAZ部の組織が変化し、靱性に影響を及ぼす。そのため、溶接金属においては主に溶接ワイヤの組成を考慮し、HAZ部においては高張力鋼板の組成を考慮して、溶接金属又はHAZ部の組織を制御し、靱性を改善する。一方、ボンド部は、溶接ワイヤと高張力鋼板の混合部のため、溶接ワイヤと高張力鋼板の組合せによって、組織が変わり、靱性の値も変わる。特に、ボンド部では、組成のバラツキも大きく、位置によっては、組織が変わり、大きく靱性が低下する場合もある。
【0007】
このように、高張力鋼板の溶接において、ボンド部の靱性を改善するためには、溶接ワイヤ及び高張力鋼板の双方の強度を合わせる必要があるが、構造物の設計を考慮する上で、高張力鋼板を溶接材料に合わせるよりも、溶接ワイヤを高張力鋼板に合わせる方が望ましい。したがって、高張力鋼板の強度を問わず、すなわち、高張力鋼板を構成する組成を問わず、高入熱で溶接したとしても、溶接後の溶接金属及びボンド部の靱性を十分確保することができる汎用性の高い溶接ワイヤが望まれる。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、高張力鋼板の強度、入熱を問わず、溶接金属及びボンド部の靱性を確保することができる溶接ワイヤ及び溶接方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記溶接方法を用いて靱性が優れた溶接金属及びボンド部を得ることができる、溶接金属の製造方法及び溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記溶接金属の製造方法を用いて優れた靱性を得ることができる溶接金属、並びに、靱性が優れた溶接金属及びボンド部を有する溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、溶接ワイヤに係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 高張力鋼板の溶接に使用される溶接ワイヤであって、
下記<式1>により算出される値M1が0.20以上であるとともに、
前記M1に対する、下記<式2>により算出される値M2の比(M2/M1)が、0.730以上1.000未満であることを特徴とする、溶接ワイヤ。
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/30+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
M2=[C(wire)]+[Si(wire)]/30+[Mn(wire)]/20+[Cu(wire)]/20+[Ni(wire)]/60+[Cr(wire)]/20+[Mo(wire)]/15+[V(wire)]/10+5×[B(wire)] ・・・<式2>
ただし、[C(plate)]、[Si(plate)]、[Mn(plate)]、[Cu(plate)]、[Ni(plate)]、[Cr(plate)]、[Mo(plate)]、[V(plate]、及び[B(plate)]は、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、前記高張力鋼板全質量に対する質量%で表した値である。
また、[C(wire)]、[Si(wire)]、[Mn(wire)]、[Cu(wire)]、[Ni(wire)]、[Cr(wire)]、[Mo(wire)]、[V(wire)]、及び[B(wire)]は、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、溶接ワイヤ全質量に対する質量%で表した値である。
【0011】
また、溶接ワイヤに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[8]に関する。
【0012】
[2] 合金成分として、
溶接ワイヤ全質量に対して、
Mn(wire):0.90質量%以上2.80質量%以下、
Ni(wire):1.10質量%以上3.00質量%以下、及び、
Mo(wire):0.30質量%以上1.00質量%以下、
を含有することを特徴とする、[1]に記載の溶接ワイヤ。
ただし、上記Mn(wire)、Ni(wire)、Mo(wire)は、それぞれ、溶接ワイヤに含有されるMn、Ni、Moを表す。
【0013】
[3] さらに、合金成分として、
溶接ワイヤ全質量に対して、
C(wire):0.100質量%以下、
Si(wire):0.80質量%以下、
P(wire):0.050質量%以下、
S(wire):0.050質量%以下、
Cr(wire):1.00質量%以下、
Cu(wire):0.50質量%以下、
Ti(wire):0.10質量%以下、
Al(wire):0.10質量%以下、
Zr(wire):0.10質量%以下、
Nb(wire):0.10質量%以下、
V(wire):0.10質量%以下、及び、
B(wire):0.0050質量%以下、
を含有し、残部がFe(wire)及び不可避不純物であることを特徴とする、[2]に記載の溶接ワイヤ。
ただし、上記C(wire)、Si(wire)、P(wire)、S(wire)、Cr(wire)、Cu(wire)、Ti(wire)、Al(wire)、Zr(wire)、Nb(wire)、V(wire)、B(wire)、及びFe(wire)は、それぞれ、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、P、S、Cr、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【0014】
[4] フラックスを含む溶接ワイヤであって、
さらに、合金成分として、
溶接ワイヤ全質量に対して、
C(wire):0.100質量%以下、
Si(wire):0.80質量%以下、
P(wire):0.050質量%以下、
S(wire):0.050質量%以下、
Cr(wire):1.00質量%以下、
Cu(wire):0.50質量%以下、
Ti(wire):0.10質量%以下、
Al(wire):0.10質量%以下、
Zr(wire):0.10質量%以下、
Nb(wire):0.10質量%以下、
V(wire):0.10質量%以下、
B(wire):0.0050質量%以下、
を含有し、残部がFe(wire)及び不可避不純物であり、
前記フラックスは化合物を含み、
前記化合物は、溶接ワイヤ全質量に対して0質量%超5質量%以下であることを特徴とする、[2]に記載の溶接ワイヤ。
ただし、上記C(wire)、Si(wire)、P(wire)、S(wire)、Cr(wire)、Cu(wire)、Ti(wire)、Al(wire)、Zr(wire)、Nb(wire)、V(wire)、B(wire)、及びFe(wire)は、それぞれ、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、P、S、Cr、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【0015】
[5] 前記化合物は、B、SiO、NaO、KO及びAlから選択された少なくとも1種を含み、
溶接ワイヤ中に含有される全ての前記化合物の合計量は、溶接ワイヤ全質量に対して0.100質量%以下であることを特徴とする、[4]に記載の溶接ワイヤ。
【0016】
[6] 下記<式3>により算出される値M3が、1.50以下であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ。
M3=([Ni(wire)]/[Ni(plate)])/([Mn(wire)]/[Mn(plate)]) ・・・<式3>
【0017】
[7] 下記<式4>により算出される値M4と、下記<式5>により算出される値M5との関係において、以下の条件A、条件B及び条件Cから選択される1つの条件を満足することを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ。
M4=[Ni(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式4>
M5=[Ni(plate)]+[Mn(plate)] ・・・<式5>
条件A:M4が3.00未満であって、(M4-M5)が-1.00以上である。
条件B:M4が3.00以上4.50未満である。
条件C:M4が4.50以上であって、(M4-M5)が1.00以下である。
【0018】
[8] 下記<式6>により算出される値M6が3.30以下であるとともに、
下記<式7>により算出される値M7が0.28以下であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ。
M6=[Mo(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式6>
M7=[Mo(wire)]/([Mo(wire)]+[Mn(wire)]) ・・・<式7>
【0019】
本発明の上記目的は、溶接方法に係る下記[9]に関する。
【0020】
[9] 下記<式1>により算出される値M1が0.20以上である高張力鋼板を溶接する溶接方法であって、
前記M1に対する、下記<式2>により算出される値M2の比(M2/M1)が、0.730以上1.000未満となる溶接ワイヤを使用することを特徴とする、溶接方法。
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/50+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
M2=[C(wire)]+[Si(wire)]/50+[Mn(wire)]/20+[Cu(wire)]/20+[Ni(wire)]/60+[Cr(wire)]/20+[Mo(wire)]/15+[V(wire)]/10+5×[B(wire)] ・・・<式2>
ただし、[C(plate)]、[Si(plate)]、[Mn(plate)]、[Cu(plate)]、[Ni(plate)]、[Cr(plate)]、[Mo(plate)]、[V(plate]、及び[B(plate)]は、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、前記高張力鋼板全質量に対する質量%で表した値である。
[C(wire)]、[Si(wire)]、[Mn(wire)]、[Cu(wire)]、[Ni(wire)]、[Cr(wire)]、[Mo(wire)]、[V(wire)]、及び[B(wire)]は、溶接ワイヤに合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、溶接ワイヤ全質量に対する質量%で表した値である。
【0021】
また、溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[10]~[12]に関する。
【0022】
[10] エレクトロスラグ溶接法、エレクトロガス溶接法、サブマージアーク溶接法及びガスシールドアーク溶接法から選択される1種を用いて溶接することを特徴とする、[9]に記載の溶接方法。
【0023】
[11] スキンプレートとダイアフラムとの間をエレクトロスラグ溶接法により溶接する溶接方法であって、
前記高張力鋼板を前記スキンプレートとして使用することを特徴とする、[10]に記載の溶接方法。
【0024】
[12] 溶接時の溶接電流をI(A)、溶接電圧をV(V)、溶接速度をS(cm/min)、溶接入熱をQとする場合に、
溶接電流I:200(A)以上500(A)以下、
溶接電圧V:30(V)以上56(V)以下、
溶接速度S:0.8(cm/min)以上7.0(cm/min)以下、
溶接入熱Q:50(kJ/cm)以上1400(kJ/cm)以下、
とすることを特徴とする、[11]に記載の溶接方法。
【0025】
本発明の上記目的は、溶接金属の製造方法に係る下記[13]に関する。
【0026】
[13] [9]~[12]のいずれか1つに記載の溶接方法を使用して溶接金属を製造することを特徴とする、溶接金属の製造方法。
【0027】
本発明の上記目的は、溶接継手の製造方法に係る下記[14]に関する。
【0028】
[14] [9]~[12]のいずれか1つに記載の溶接方法を使用して溶接継手を製造することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
【0029】
本発明の上記目的は、溶接金属に係る下記[15]に関する。
【0030】
[15] [13]に記載の溶接金属の製造方法により製造される溶接金属であって、
溶接金属全質量に対して、
C(weld):0.100質量%以下、
Si(weld):0.80質量%以下、
Mn(weld):1.50質量%以上2.00質量%以下、
Ni(weld):1.00質量%以上2.10質量%以下、
Cr(weld):1.00質量%以下、
Mo(weld):0.40質量%以上0.60質量%以下、
P(weld):0.050質量%以下、
S(weld):0.050質量%以下、
Cu(weld):0.50質量%以下、
Ti(weld):0.10質量%以下、
Al(weld):0.10質量%以下、
Zr(weld):0.10質量%以下、
Nb(weld):0.10質量%以下、
V(weld):0.10質量%以下、
B(weld):0.0050質量%以下、を含有し、
残部がFe(wire)及び不可避不純物であることを特徴とする、溶接金属。
ただし、上記C(weld)、Si(weld)、Mn(weld)、Ni(weld)、Cr(weld)、Mo(weld)、P(weld)、S(weld)、Cu(weld)、Ti(weld)、Al(weld)、Zr(weld)、Nb(weld)、V(weld)、B(weld)、及びFe(weld)は、それぞれ、溶接金属に含有されるC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、P、S、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【0031】
本発明の上記目的は、溶接継手に係る下記[16]に関する。
[16] 複数の部材が溶接金属により接合された溶接継手であって、
前記複数の部材のうち少なくとも1つが高張力鋼板であり、
下記<式1>により算出される値M1が0.20以上であるとともに、
前記M1に対する、下記<式8>により算出される値M8の比(M8/M1)が、0.820以上1.000未満であることを特徴とする、溶接継手。
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/30+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
M8=[C(weld)]+[Si(weld)]/30+[Mn(weld)]/20+[Cu(weld)]/20+[Ni(weld)]/60+[Cr(weld)]/20+[Mo(weld)]/15+[V(weld)]/10+5×[B(weld)] ・・・<式8>
ただし、[C(plate)]、[Si(plate)]、[Mn(plate)]、[Cu(plate)]、[Ni(plate)]、[Cr(plate)]、[Mo(plate)]、[V(plate]、及び[B(plate)]は、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、前記高張力鋼板全質量に対する質量%で表した値である。
また、[C(weld)]、[Si(weld)]、[Mn(weld)]、[Cu(weld)]、[Ni(weld)]、[Cr(weld)]、[Mo(weld)]、[V(weld)]、及び[B(weld)]は、前記溶接金属に含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、溶接金属全質量に対する質量%で表した値である。
【0032】
また、溶接ワイヤに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[17]及び[18]に関する。
【0033】
[17] 前記高張力鋼板は、
合金成分として、
高張力鋼板全質量に対して、
C(plate):0.100質量%以下、
Si(plate):0.50質量%以下、
Mn(plate):0.50質量%以上2.80質量%以下、
Ni(plate):0.01質量%以上5.50質量%以下、
Cr(plate):0.05質量%以上3.50質量%以下、
Mo(plate):2.50質量%以下、
P(plate):0.050質量%以下、
S(plate):0.050質量%以下、
Cu(plate):1.00質量%以下、
Ti(plate):0.100質量%以下、
Al(plate):0.100質量%以下、
Zr(plate):0.10質量%以下、
Ca(plate):0.10質量%以下、
REM(plate):0.10質量%以下、
Nb(plate):0.10質量%以下、
V(plate):0.10質量%以下、
B(plate):0.0001質量%以上0.0050質量%以下、を含有し、
残部がFe(plate)及び不可避不純物であることを特徴とする、[16]に記載の溶接継手。
ただし、上記C(plate)、Si(plate)、Mn(plate)、Ni(plate)、Cr(plate)、Mo(plate)、P(plate)、S(plate)、Cu(plate)、Ti(plate)、Al(plate)、Zr(plate)Ca(plate)、REM(plate)、Nb(plate)、V(plate)、B(plate)、及びFe(plate)は、それぞれ、前記高張力鋼板に合金成分として含有されるC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、P、S、Cu、Ti、Al、Zr、Ca、REM、Nb、V、B及びFeを表す。
【0034】
[18] 前記溶接金属は、溶接金属全質量に対して、
C(weld):0.100質量%以下、
Si(weld):0.80質量%以下、
Mn(weld):1.50質量%以上2.00質量%以下、
Ni(weld):1.00質量%以上2.10質量%以下、
Cr(weld):1.00質量%以下、
Mo(weld):0.40質量%以上0.60質量%以下、
P(weld):0.050質量%以下、
S(weld):0.050質量%以下、
Cu(weld):0.50質量%以下、
Ti(weld):0.10質量%以下、
Al(weld):0.10質量%以下、
Zr(weld):0.10質量%以下、
Nb(weld):0.10質量%以下、
V(weld):0.10質量%以下、
B(weld):0.0050質量%以下、を含有し、
残部がFe(wire)及び不可避不純物であることを特徴とする、[16]又は[17]に記載の溶接継手。
ただし、上記C(weld)、Si(weld)、Mn(weld)、Ni(weld)、Cr(weld)、Mo(weld)、P(weld)、S(weld)、Cu(weld)、Ti(weld)、Al(weld)、Zr(weld)、Nb(weld)、V(weld)、B(weld)、及びFe(weld)は、それぞれ、溶接金属に含有されるC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、P、S、Cu、Ti、Al、Zr、Nb、V、B及びFeを表す。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、高張力鋼板の強度、入熱を問わず、溶接金属及びボンド部の靱性を確保することができる溶接ワイヤ及び溶接方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記溶接方法を用いて靱性が優れた溶接金属及びボンド部を得ることができる、溶接金属の製造方法及び溶接継手の製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記溶接金属の製造方法を用いて優れた靱性を得ることができる溶接金属、並びに、靱性が優れた溶接金属及びボンド部を有する溶接継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、横軸を(M2/M1)とし、縦軸をボンド部の吸収エネルギーの最小値とした場合の、(M2/M1)とボンド部の靱性との関係を示すグラフ図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る溶接方法を好適に使用することができるエレクトロスラグ溶接法を示す模式的断面図である。
図3図3は、横軸を(M8/M1)とし、縦軸をボンド部の吸収エネルギーの最小値とした場合の、(M8/M1)とボンド部の靱性との関係を示すグラフ図である。
図4図4は、全ての発明例を3段階に分けて評価した結果を示すグラフ図である。
図5図5は、横軸をM3とし、縦軸を溶接金属の吸収エネルギーの平均値とした場合の、発明例及び比較例の溶接金属の評価結果を示すグラフ図である。
図6図6は、横軸をM4とし、縦軸を(M4-M5)とした場合の、発明例及び比較例のボンド部の評価結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。また、以下において、特別な説明がない限り、元素の後ろに(plate)がつくものは、鋼板に含有される合金元素であることを表し、元素の後ろに(wire)がつくものは、溶接ワイヤに含有される合金元素であることを表し、元素の後ろに(weld)がつくものは、溶接金属に含有される元素であることを表す。また、各成分の含有量は、特別な説明がない限り、鋼板、溶接ワイヤ又は溶接金属全質量に対する質量%とする。
【0038】
[鋼板]
本実施形態において、母材とする鋼板は、690N/mm級鋼以上(HT70)の高張力鋼板とする。具体的には、溶接割れ感受性組成Pcmに基づく値、すなわち、下記<式1>で表される、鋼板の硬さに係る数式により算出される値M1が0.20以上のものを対象とする。
【0039】
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/50+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
なお、上記<式1>において、[C(plate)]、[Si(plate)]、[Mn(plate)]、[Cu(plate)]、[Ni(plate)]、[Cr(plate)]、[Mo(plate)]、[V(plate]、[B(plate)]は、高張力鋼板全質量に対する各合金元素の含有量を質量%で表した値である。
高張力鋼板に含有される具体的な成分及び含有量については後述する。
【0040】
以下、本実施形態に係る溶接ワイヤに含有される成分や、この成分に基づき算出される値と上記<式1>との関係等について、詳細に説明する。
【0041】
[溶接ワイヤ]
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、下記<式2>で表される、溶接ワイヤに含有される所定の成分の含有量から算出される値M2と、上記<式1>により算出される値M1との比(M2/M1)を適切に制御することにより、ボンド部の靱性が改善することを見出した。すなわち、高張力鋼板(以下、母材ともいう。)の組成に基づき推定される硬さに対して、溶接ワイヤの組成から推定される硬さが適正範囲になるように設計することが、靱性向上に効果的である。
【0042】
M2=[C(wire)]+[Si(wire)]/50+[Mn(wire)]/20+[Cu(wire)]/20+[Ni(wire)]/60+[Cr(wire)]/20+[Mo(wire)]/15+[V(wire)]/10+5×[B(wire)] ・・・<式2>
なお、上記<式2>において、[C(wire)]、[Si(wire)]、[Mn(wire)]、[Cu(wire)]、[Ni(wire)]、[Cr(wire)]、[Mo(wire)]、[V(wire)]、[B(wire)]は、溶接ワイヤ全質量に対する各合金元素の含有量を質量%で表した値である。
【0043】
(M2/M1)の値を制御することにより得られる効果及び考えられるメカニズムについて、さらに詳細に説明する。溶接ワイヤの組成は、溶接後の溶接金属組成に影響を及ぼし、高張力鋼板の組成は、HAZ部の硬さに影響を及ぼす。具体的には、(M2/M1)が所定の値未満となるような溶接ワイヤを用いて溶接した場合に、溶接金属の硬さは母材である高張力鋼板のHAZ部の硬さよりも極端に低くなる。そして、極端に低い硬さとなる溶接金属の組織は、粒界フェライトが発生しやすい組織となり、ボンド部の近傍において合金成分量が変わるため、さらに、粒界フェライトが生成する割合が増加する。その結果、ボンド部において、組織が粗大化する可能性があると考えられ、これにより、靱性が低下する。以下、(M2/M1)の値の限定範囲について説明する。
【0044】
(M2/M1:0.730以上1.000未満)
図1は、横軸を(M2/M1)とし、縦軸をボンド部の吸収エネルギーの最小値とした場合の、(M2/M1)とボンド部の靱性との関係を示すグラフ図である。図1に示すように、(M2/M1)とボンド部の靱性(最小値)との間には相関性がある。具体的には、(M2/M1)の値が小さい範囲では、ボンド部の吸収エネルギーの最小値は低くなっている。そして、(M2/M1)の値が大きくなるにしたがって、ボンド部の靱性も向上するが、(M2/M1)が所定の値を超えると、ボンド部の靱性(最小値)は再び低下する。
【0045】
なお、測定する位置によっては、ボンド部の靱性が十分に高い場合もある。しかし、溶接金属と母材の溶融境界部において、優れた靱性を得るためには、ボンド部において複数箇所で測定した場合の吸収エネルギーの値のバラツキが少なく、その最小値が所定の値以上であることが必要となる。本実施形態においては、ボンド部における吸収エネルギーの最小値が45(J)以上であると、溶融境界部において優れた靱性を得ることができると判断している。すなわち、(M2/M1)が0.730未満であると、ボンド部の粒界フェライトが起点となり、破壊が進行しやすくなるため、ボンド部の位置によっては靱性が低くなる。したがって、本実施形態においては、(M2/M1)が0.730以上となるように、溶接ワイヤの組成を設計する必要がある。
一方、(M2/M1)が1.000以上であると、溶接金属の硬さが高くなり、母材となる高張力鋼板と硬さが変わらなくなるため、溶接金属側に衝撃が吸収されず、脆性破壊が起こりやすくなる。したがって、本実施形態においては、(M2/M1)が1.000未満となるように、溶接ワイヤの組成を設計する必要がある。なお、母材となる高張力鋼板の硬さと比較して、溶接金属の硬さが低くなる方が、溶接金属側に衝撃が吸収されやすくなり、ボンド部の靱性もより向上する。したがって、(M2/M1)は、0.995以下であることが好ましく、0.990以下であることがより好ましい。なお、(M2/M1)が上記範囲内を満たせば、技術思想上、鋼種、溶接法や溶接条件は問わず、溶接金属及びボンド部の靱性は確保されるものと考えられる。
【0046】
以下、本実施形態に係る溶接ワイヤに含有される合金成分の含有量について、好ましい範囲を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。なお、溶接ワイヤ中の合金成分としてのNi、Mn及びMoは、溶接金属の靱性及びボンド部の靱性を底上げし、靱性を改善する効果を有する。したがって、Ni、Mn及びMoは、以下で説明する範囲で含有されていることが好ましく、その他の合金元素は、母材である高張力鋼板に合わせて適宜調整するとよいため、0質量%であってもよい。また、溶接ワイヤは、合金元素で構成するソリッドワイヤ、メタル系フラックス入りワイヤでもよいし、スラグ系フラックス入りワイヤでもよい。スラグ系フラックス入りワイヤは、以下で説明する合金元素の他に、後述する化合物をフラックス中に含むものである。
【0047】
(C(wire):0.100質量%以下(0質量%を含む))
Cは、脱酸作用を有するとともに、溶接ワイヤ中にCが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。C(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にCが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、C(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、C(wire)の含有量が0.100質量%以下であると、溶接金属内に炭化物が形成されることを抑制でき、炭化物起因による靱性低下を抑制することができる。したがって、C(wire)の含有量は、0.100質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、C(wire)はフープ又はフラックスのどちらに含有されていてもよい。
【0048】
(Si(wire):0.80質量%以下(0質量%を含む))
Siは、脱酸剤であり、溶接ワイヤ中にSiが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。Si(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にSiが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、Si(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、Si(wire)の含有量が0.80質量%以下であると、溶接金属組織において粒界フェライトの割合が増加することを抑制でき、靱性低下を抑制することができる。したがって、Si(wire)の含有量は、0.80質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Si(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0049】
(Mn(wire):0.90質量%以上2.80質量%以下)
Mnは、Si(wire)と同様、脱酸剤であり、溶接ワイヤ中にMnが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。Mn(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にMnが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、Mn(wire)は、溶接金属の靱性向上に寄与する合金元素であり、溶接金属の靱性及びボンド部の靱性を底上げする効果も有するため、Mn(wire)の含有量は0.90質量%以上であることが好ましい。
一方、Mn(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、Mn(wire)の含有量が2.80質量%以下であると、溶接金属組織が粗大なベイナイト組織となることを抑制でき、靱性の劣化を抑制することができる。したがって、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、Mn(wire)の含有量は、2.80質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Mn(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0050】
(P(wire):0.050質量%以下(0質量%を含む))
Pは、溶接金属の割れ性に影響を与える元素であり、溶接金属中のP含有量が少ないほど、耐割れ性が良好となる。したがって、本実施形態においては、P(wire)の含有量は少ないほどよく、0質量%でもよい。なお、耐割れ性の観点から、P(wire)の含有量は、0.050質量%以下とすることが好ましい。溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、P(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0051】
(S(wire):0.050質量%以下(0質量%を含む))
Sは、溶接金属の割れ性に影響を与える元素であり、溶接金属中のS含有量が少ないほど、耐割れ性が良好となる。したがって、本実施形態においては、S(wire)の含有量は少ないほどよく、0質量%でもよい。なお、耐割れ性の観点から、S(wire)の含有量は、0.050質量%以下とすることが好ましい。溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、S(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0052】
(Ni(wire):1.10質量%以上3.00質量%以下)
溶接ワイヤ中にNiが含有されていると、溶接金属の靱性を向上させる効果を得ることができる。Ni(wire)の含有量は、用途に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で靱性が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にNiが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、Ni(wire)は、粒界フェライトの抑制効果を有し、溶接金属及びボンド部の靱性向上に大きく寄与する。これらの効果を発揮するためには、Ni(wire)の含有量は1.10質量%以上であることが好ましい。さらに、粒界フェライトの抑制効果は、Ni(wire)の含有量が1.40質量%以上であるときにより顕著となるため、Ni(wire)の含有量は、1.40質量%以上であることがより好ましい。
一方、Ni(wire)の含有量の上限は、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に限定されない。ただし、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、Ni(wire)の含有量は、3.00質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Ni(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0053】
(Mo(wire):0.30質量%以上1.00質量%以下)
溶接ワイヤ中にMoが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。Mo(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にMoが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、Mo(wire)は、溶接金属の靱性向上に寄与する合金元素であり、溶接金属の靱性及びボンド部の靱性を底上げする効果も有するため、Mo(wire)の含有量は0.30質量%以上であることが好ましい。
一方、Mo(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、Mo(wire)の含有量は、1.00質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Mo(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0054】
(Cr(wire):1.00質量%以下(0質量%を含む))
溶接ワイヤ中にCrが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。Cr(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にCrが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、Cr(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、Cr(wire)の含有量は、1.00質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Cr(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0055】
(Cu(wire):0.50質量%以下(0質量%を含む))
溶接ワイヤ中にCuが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。Cu(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にCuが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、Cu(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、Cu(wire)の含有量は、0.50質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがソリッドワイヤである場合に、Cu(wire)は、ワイヤ中に添加されていても、めっきとして添加されていてもよい。溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Cu(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよく、めっきとして添加されていてもよい。
【0056】
(Ti(wire):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Tiは強脱酸元素であるため、溶接ワイヤ中にTiが含有されていると、溶接金属中において炭素と結合し、炭化物を形成することで靱性が劣化する可能性がある。したがって、本実施形態においては、溶接ワイヤ中にTiが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、Ti(wire)の含有量が0.10質量%以下であると、溶接金属の靱性の劣化を抑制することができる。したがって、Ti(wire)の含有量は0.10質量%以下に抑制することが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Ti(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0057】
(Al(wire):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Alは強脱酸元素であるため、溶接ワイヤ中にAlが含有されていると、溶接金属中において酸素と結合し、粗大な酸化物を形成することで靱性が劣化する可能性がある。したがって、本実施形態においては、溶接ワイヤ中にAlが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、Al(wire)の含有量が0.10質量%以下であると、溶接金属の靱性の劣化を抑制することができる。したがって、Al(wire)の含有量は0.10質量%以下に抑制することが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Al(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0058】
(Zr(wire):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Zrは強脱酸元素であるため、溶接ワイヤ中にZrが含有されていると、溶接金属中において酸素と結合し、粗大な酸化物を形成することで靱性が劣化する可能性がある。したがって、本実施形態においては、溶接ワイヤ中にZrが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、Zr(wire)の含有量が0.10質量%以下であると、溶接金属の靱性の劣化を抑制することができる。したがって、Zr(wire)の含有量は0.10質量%以下に抑制することが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Zr(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0059】
(Nb(wire):0.10質量%以下(0質量%を含む))
溶接ワイヤ中にNbが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。Nb(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にNbが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
一方、Nb(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、Nb(wire)の含有量は、0.10質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、Nb(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0060】
(V(wire):0.10質量%以下(0質量%を含む))
溶接ワイヤ中にVが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。V(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にVが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、V(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、V(wire)の含有量は、0.10質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、V(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0061】
(B(wire):0.0050質量%以下(0質量%を含む))
溶接ワイヤ中にBが含有されていると、溶接金属の機械的性能を高める効果を得ることができる。B(wire)の含有量は、用途の強度に応じて適宜調整することができるが、本実施形態においては、他の元素で強度が確保でき、かつ(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば、溶接ワイヤ中にBが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
また、B(wire)の含有量の上限についても、(M2/M1)が上記規定の範囲内であれば特に制限されない。ただし、溶接金属組織に悪影響を及ぼさない範囲として、B(wire)の含有量は、0.0050質量%以下とすることが好ましい。なお、溶接ワイヤがメタル系フラックス入りワイヤ又はスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、B(wire)はフープ又はフラックスのどちらに添加されていてもよい。
【0062】
(溶接ワイヤの合金元素の残部:Fe(wire)及び不可避不純物)
本実施形態において使用することが好ましい溶接ワイヤの合金元素の残部は、Fe(wire)及び不可避不純物である。不可避不純物としては、例えば、W、Sn、Ca、O及びN等が挙げられる。これらの不可避不純物の含有量は、ワイヤ全質量に対して、それぞれ、0.0100質量%以下であることが好ましく、0.0050質量%以下であることがより好ましい。また、これらの不可避不純物の含有量の合計は、ワイヤ全質量に対して、0.1000質量%以下であることが好ましい。
【0063】
本実施形態において使用する溶接ワイヤがスラグ系フラックス入りワイヤである場合に、溶接ワイヤの組成としては、上述した合金元素の他に、さらにフラックス中に化合物が含有されていてもよい。また、フラックス中に化合物が含有される場合に、この化合物は、溶接ワイヤ全質量に対して0質量%超5質量%以下であることが好ましい。
【0064】
化合物の種類は、酸化物、硫化物、炭化物又は窒化物などであり、例えば、B、SiO、NaO、KO及びAl等が挙げられる。化合物の種類は、エレクトロスラグ溶接法やサブマージアーク溶接法等の溶接法、溶接条件や適用する鋼種に合わせて、適宜変更すればよい。なお、特に大入熱の溶接となるエレクトロスラグ溶接法やサブマージアーク溶接法を使用する場合に、組織微細化の観点から、溶接ワイヤ全質量に対して、Bを0.0005質量%以上0.1質量%以下の範囲で添加することが好ましい。本実施形態において、化合物として、B、SiO、NaO、KO及びAlから選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、スラグ浴安定性の観点から溶接ワイヤにSiOを含有させる場合は、SiOの含有量は3質量%以下とすることが好ましい。また、スラグ浴安定性の観点から溶接ワイヤにNaO、KOを含有させる場合は、合計で1質量%以下の範囲で含めることが好ましい。さらに、スラグ浴安定性の観点から溶接ワイヤにAlを含有させる場合は、Alの含有量は3質量%以下とすることが好ましい。さらにまた、スラグ浴安定性をより一層向上させるためには、溶接ワイヤ中に含有される全ての化合物の合計量は、不可避的な化合物も含めて、0.100質量%以下とすることがより好ましい。
【0065】
(M3:1.50以下)
本実施形態においては、ボンド部の靱性改善に加えて、溶接金属においてもさらに靱性を向上させることがより好ましい。溶接金属の組成は、上述のとおり、概ね溶接ワイヤの組成に依存するが、母材となる高張力鋼板の組成にも影響される。本願発明者らは、粒界フェライトを抑制するという観点で、NiとMnの合金元素に着目し、下記<式3>で表される、溶接ワイヤ及び高張力鋼板のNi量とMn量とのバランスを制御することにより、溶接金属の靱性を最適化できることを見出した。
【0066】
M3=([Ni(wire)]/[Ni(plate)])/([Mn(wire)]/[Mn(plate)]) ・・・<式3>
なお、上記<式3>において、[Ni(wire)]、[Mn(wire)]は、溶接ワイヤ全質量に対するNi、Mnの含有量を質量%で表した値である。また、[Ni(plate)]、[Mn(plate)]は、高張力鋼板全質量に対するNi、Mnの含有量を質量%で表した値である。
【0067】
上記<式3>により算出される値M3が1.50以下であれば、溶接金属の靱性を十分に確保することができ、M3が小さくなるほど、靱性の改善効果を得ることができる。したがって、<式3>により算出される値M3は、1.50以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましい。
すなわち、溶接ワイヤ中のNi(wire)の含有量と、高張力鋼板中のNi(plate)の含有量との比([Ni(wire)]/[Ni(plate)])が小さいほど、溶接金属の靱性を向上させることができると推測される。また、溶接ワイヤ中のMn(wire)の含有量と、高張力鋼板中のMn(plate)の含有量との比([Mn(wire)]/[Mn(plate)])が大きいほど、溶接金属の靱性を向上させることができると推測される。
【0068】
(条件A、条件B及び条件Cから選択される1つの条件を満足する)
さらに、本願発明者らは、ボンド部の靱性は、溶接ワイヤ中のNi(wire)の含有量及びMn(wire)量の合計量と、高張力鋼板中のNi(plate)の含有量及びMn(plate)の含有量の合計量とのバランスによって、より一層靱性の改善が可能であることを見出した。すなわち、下記<式4>により算出される値M4と、下記<式5>により算出される値M5との関係に基づき、ボンド部の靱性の平均値を向上させることができる条件A、条件B及び条件Cを得た。
【0069】
M4=[Ni(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式4>
M5=[Ni(plate)]+[Mn(plate)] ・・・<式5>
なお、上記<式4>において、[Ni(wire)]、[Mn(wire)]は、溶接ワイヤ全質量に対するNi、Mnの含有量を質量%で表した値である。また、上記<式5>において、[Ni(plate)]、[Mn(plate)]は、高張力鋼板全質量に対するNi、Mnの含有量を質量%で表した値である。
【0070】
具体的には、以下の条件A、条件B及び条件Cから選択される1つの条件を満足することが好ましい。
【0071】
条件A:M4が3.00未満であって、(M4-M5)が-1.00以上である。
溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量が3.00質量%未満の範囲では、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量が、鋼板中のNi含有量とMn含有量との合計量よりも少なすぎると、ボンド部の靱性が低下しやすくなる。したがって、M4が3.00未満の範囲においては、(M4-M5)が-1.00以上であることが好ましい。なお、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量と、鋼板中のNi含有量とMn含有量との合計量との差が大きすぎると、ボンド部において、Ni含有量とMn含有量とのバラツキが生じやすくなり、組織制御が困難になると推測される。また、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量が少なすぎると、溶接金属及びボンド部の靱性を十分に得られないことがある。したがって、条件Aとしては、M4が2.00以上3.00未満であって、(M4-M5)が-1.00以上1.50以下であることがより好ましい。
【0072】
条件B:M4が3.00以上4.50未満である。
溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量が3.00質量%以上4.50質量%未満の範囲では、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量と、鋼板中のNi含有量とMn含有量との合計量との差は特に制限されない。したがって、条件Bとしては、M4が3.00以上4.50未満であればよい。ただし、M4が上記範囲内であっても、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量と、鋼板中のNi含有量とMn含有量との合計量との差が大きすぎると、ボンド部において、Ni含有量とMn含有量とのバラツキが生じやすくなり、組織制御が困難になると推測される。したがって、条件Bとしては、M4が3.00以上4.50未満の範囲において、(M4-M5)が-1.50以上1.50以下であることがより好ましく、得られる溶接金属の靱性を考慮すると、(M4-M5)は1.00以下であることがさらに好ましい。
【0073】
条件C:M4が4.50以上であって、(M4-M5)が1.00以下である。
溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量が4.50質量%以上の範囲では、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量が、鋼板中のNi含有量とMn含有量との合計量よりも多すぎると、ボンド部の靱性が低下しやすくなる。したがって、M4が4.50以上の範囲においては、(M4-M5)が1.00以下であることが好ましい。なお、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量と、鋼板中のNi含有量とMn含有量との合計量との差が大きすぎると、ボンド部において、Ni含有量とMn含有量とのバラツキが生じやすくなり、組織制御が困難になると推測される。また、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量との合計量が多すぎると、溶接金属組織に悪影響が及ぼされる虞がある。したがって、条件Cとしては、M4が4.50以上5.50以下であって、(M4-M5)が-1.50以上1.00以下であることがより好ましい。
【0074】
なお、ボンド部の靱性をより一層向上させるためには、上記M4とM5との関係において、条件B及び条件Cから選択される1つの条件を満足することがより好ましい。
【0075】
(M6:3.30以下、M7:0.28以下)
上述のとおり、溶接ワイヤ中のNi(wire)、Mo(wire)及びMn(wire)は、ともに強度、靱性を向上させる元素である。本実施形態においては、特に、Mo(wire)とMn(wire)の合計量、及びこの合計量に対するMo(wire)の割合を制御すると、ボンド部の靱性をより一層向上させることができる。すなわち、下記<式6>により算出される値M6を3.30以下とするとともに、下記<式7>により算出される値M7を0.28以下とし、Ni(wire)で強度調整を行うことが好ましい。このように、Niを優先的に含有させることと、フェライト生成元素であるMoの添加量を、Mnと比較して抑えることにより、特にボンド部において粒界フェライトの生成を抑制でき、靱性のさらなる向上を実現することができると推測される。
【0076】
M6=[Mo(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式6>
M7=[Mo(wire)]/([Mo(wire)]+[Mn(wire)]) ・・・<式7>
なお、上記<式6>及び<式7>において、[Mo(wire)]、[Mn(wire)]は、溶接ワイヤ全質量に対するMo、Mnの含有量を質量%で表した値である。
【0077】
[溶接方法]
次に、本願発明に係る溶接方法について説明する。本願発明に係る溶接方法は、上述の本願発明に係る溶接ワイヤを使用するものであり、その他の溶接条件を問わず、ボンド部の靱性を確保することができる。具体的に、本実施形態に係る溶接方法は、上記<式1>により算出される値M1が0.20以上である高張力鋼板を溶接する溶接方法であって、M1に対する、上記<式2>により算出される値M2の比(M2/M1)が、0.730以上1.000未満となる溶接ワイヤを使用する。
【0078】
溶接法としては、エレクトロスラグ溶接法、エレクトロガス溶接法、サブマージアーク溶接法及びガスシールドアーク溶接法から選択される1種を用いて溶接することができる。なお、上述の本実施形態に係る溶接ワイヤを用いた場合に、特に効果的であるのは、高入熱の溶接法であるエレクトロスラグ溶接法及びサブマージアーク溶接法である。
【0079】
図2は、本発明の実施形態に係る溶接方法を好適に使用することができるエレクトロスラグ溶接法を示す模式的断面図である。なお、図2は、鉛直上方から下方に向かって見た図である。図2を参照して、エレクトロスラグ溶接法について簡単に説明する。
【0080】
まず、スキンプレート1を、その板厚方向を水平にして配置するとともに、ダイアフラム2の端面とスキンプレート1の表面とを所定の間隔で離隔するように対向させて配置する。また、ダイアフラム2の一対の表面及びスキンプレート1の表面に当接させるように、当金3を配置する。次に、スキンプレート1、ダイアフラム2及び当金3に囲まれた領域に、不図示のノズルで保持された溶接ワイヤ4を挿入し、溶接ワイヤ4を通電することにより、溶接ワイヤ4とスキンプレート1及びダイアフラム2とを溶融させる。これにより、上記領域に溶接金属5が形成され、スキンプレート1とダイアフラム2とが接合される。
【0081】
本実施形態に係る溶接方法は、図2に示すように、スキンプレート1とダイアフラム2との間をエレクトロスラグ溶接法により溶接する溶接方法とすることが好ましく、高張力鋼板をスキンプレート1として使用することが好ましい。高張力鋼板をスキンプレート1として、エレクトロスラグ溶接法によりスキンプレート1とダイアフラム2とを接合した場合に、溶接金属5とスキンプレート1との間におけるボンド部の靱性を向上させることができる。なお、本実施形態はあくまで一例であり、任意のギャップで突合せた二つの高張力鋼板を摺動銅板で挟み、ギャップに溶接金属を形成する手法を用いたエレクトロスラグ溶接法も好適に使用することができる。また、使用される溶接ワイヤは単電極でもよいし、2電極以上の複数電極でもよい。さらに、複数電極を用いた場合に、各々の極性は問わない。
【0082】
本実施形態に係る溶接方法を適用したエレクトロスラグ溶接法において、溶接時の溶接電流I(A)、溶接電圧E(V)、溶接速度S(cm/min)及び溶接入熱Q(kJ/cm)を以下の範囲とすると、最良なボンド部の靱性を得ることができる。
溶接電流I:200(A)以上500(A)以下
溶接電圧E:30(V)以上56(V)以下
溶接速度S:0.8(cm/min)以上7.0(cm/min)以下
溶接入熱Q:50(kJ/cm)以上1400(kJ/cm)以下
なお、溶接入熱Qは、Q=(60×E×I)/Sにより算出することができる。
【0083】
[溶接金属の製造方法、溶接継手の製造方法]
本発明に係る溶接金属の製造方法は、上述の本発明に係る溶接方法を使用して溶接金属を製造する方法である。また、本発明に係る溶接継手の製造方法は、上述の本発明に係る溶接方法を使用して溶接継手を製造する方法である。本発明に係る溶接方法の具体的な例は、上記溶接方法に関する実施形態で説明したとおりである。本実施形態に係る溶接金属の製造方法により製造された溶接金属は、優れた靱性を有するものとなり、ボンド部の靱性も優れたものとなる。また、本実施形態に係る溶接継手の製造方法により製造された溶接継手は、優れた靱性を有する溶接金属、ボンド部及びHAZ部を有するものとなる。
【0084】
[溶接金属]
本発明に係る溶接金属は、上記溶接金属の製造方法により製造される溶接金属であって、所定の成分を含有する。以下、本実施形態に係る溶接金属において、優れた靱性を得ることができるとともに、ボンド部の靱性も向上させることができる組成範囲について具体的に説明する。なお、任意の元素は、0質量%を含むものとする。本実施形態に係る溶接金属は、優れた靱性を有するものとなり、ボンド部の靱性も優れたものとなる。
【0085】
(C(weld):0.100質量%以下(0質量%を含む))
Cは、溶接金属の強度を向上させる効果を有する成分である。しかし、溶接金属の強度は他の元素でも向上させることができるため、溶接金属中にはCが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。なお、溶接金属の強度を向上させる効果を得るために、溶接金属中にCを含有させる場合に、C(weld)の含有量は0.010質量%以上であることが好ましい。
一方、C(weld)の含有量が0.100質量%を超えると、溶接割れを発生させることなく溶接金属の強度を向上させることが困難となる。したがって、C(weld)の含有量は、0.100質量%以下とし、0.090質量%以下とすることがより好ましく、0.080質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0086】
(Si(weld):0.80質量%以下(0質量%を含む))
Siは、溶接金属の強度を確保することができるとともに、脱酸の効果を有する成分である。しかし、溶接金属の強度は他の元素でも向上させることができるため、溶接金属中にはSiが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。なお、脱酸効果を発揮させるために、溶接金属中にSiを含有させる場合に、Si(weld)の含有量は0.05質量%以上であることが好ましい。
一方、Si(weld)の含有量が0.80質量%を超えると、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることが困難となる。したがって、Si(weld)の含有量は0.80質量%以下とし、0.70質量%以下とすることが好ましく、0.50質量%以下とすることがより好ましい。
【0087】
(Mn(weld):1.50質量%以上2.00質量%以下)
Mnは、溶接金属の強度及び靱性を確保することができるとともに、脱酸の効果を有する成分である。Mn(weld)の含有量が1.50質量%未満であると、溶接金属及びボンド部の靱性を十分に確保することができない、したがって、Mn(weld)の含有量は1.50質量%以上とし、1.52質量%以上とすることが好ましい。
一方、Mn(weld)の含有量が2.00質量%を超えると、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることが困難となる。したがって、Mn(weld)の含有量は2.00質量%以下とし、1.95質量%以下とすることが好ましい。
【0088】
(Ni(weld):1.00質量%以上2.10質量%以下)
Niは、溶接金属の強度及び靱性を確保することができるとともに、脱酸の効果を有する成分である。Ni(weld)の含有量が1.00質量%未満であると、溶接金属及びボンド部の靱性を十分に確保することができない。したがって、Ni(weld)の含有量は1.00質量%以上とし、1.05質量%以上とすることが好ましい。
一方、Ni(weld)の含有量が2.10質量%を超えると、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることが困難となる。したがって、Ni(weld)の含有量は2.10質量%以下とし、2.05質量%以下とすることが好ましい。
【0089】
(Cr(weld):1.00質量%以下(0質量%を含む))
Crは、溶接金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。しかし、溶接金属の強度は他の元素でも向上させることができるため、溶接金属中にはCrが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。なお、溶接金属の強度を向上させる効果を得るために、溶接金属中にCrを含有させる場合に、Cr(weld)の含有量は0.10質量%以上であることが好ましい。
一方、Cr(weld)の含有量が1.00質量%を超えると、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることが困難になる。したがって、Cr(weld)含有量は1.00質量%以下とし、0.95質量%以下とすることが好ましい。
【0090】
(Mo(weld):0.40質量%以上0.60質量%以下)
Moは、溶接金属の強度及び靱性を確保することができるとともに、脱酸の効果を有する成分である。Mo(weld)の含有量が、0.40質量%未満であると、溶接金属及びボンド部の靱性を十分に確保することができない。したがって、Mo(weld)の含有量は0.40質量%以上とし、0.41質量%以上とすることが好ましい。
一方、Mo(weld)の含有量が0.60質量%を超えると、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることが困難となる。したがって、Mo(weld)の含有量は0.60質量%以下とし、0.58質量%以下とすることが好ましい。
【0091】
(P(weld):0.050質量%以下(0質量%を含む))
Pは、溶接金属の耐割れ性や機械的性質を低下させる元素である。P(weld)の含有量が0.050質量%を超えると、極端な耐割れ性や機械的性質の低下を抑制することが困難となる。したがって、P(weld)の含有量は、0.050質量%以下とし、0.025質量%以下とすることが好ましい。なお、P(weld)の含有量は少ないほどよく、0質量%でもよい。
【0092】
(S(weld):0.050質量%以下(0質量%を含む))
Sは、溶接金属の耐割れ性や機械的性質を低下させる元素である。S(weld)の含有量が0.050質量%を超えると、極端な耐割れ性や機械的性質の低下を抑制することが困難となる。したがって、S(weld)の含有量は、0.050質量%以下とし、0.025質量%以下とすることが好ましい。なお、S(weld)の含有量は少ないほどよく、0質量%でもよい。
【0093】
(Cu(weld):0.50質量%以下(0質量%を含む))
Cuは、溶接金属の強度を向上させる効果を有する成分である。しかし、溶接金属の強度は他の元素でも向上させることができるため、溶接金属中にはCuが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。なお、溶接金属の強度を確保するために、溶接金属中にCuを含有させる場合に、Cu(weld)の含有量は0.05質量%以上であることが好ましい。
一方、Cu(weld)の含有量が0.50質量%を超えると、高温割れを発生させることなく溶接金属の強度を向上させることが困難となる。したがって、Cu(weld)の含有量は0.50質量%以下とし、0.40質量%以下とすることが好ましい。
【0094】
(Ti(weld):0.10質量%以下(0質量%を含む))
(Al(weld):0.10質量%以下(0質量%を含む))
(Zr(weld):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Ti、Al、Zrは、本実施形態に係る溶接金属において必須の成分ではなく、溶接金属中のTi、Al、Zrの含有量は、それぞれ0質量%でもよい。ただし、これらの成分は、溶接金属内で化合物として析出することにより、溶接金属の靱性を向上させる効果を有するため、溶接金属に含有されていてもよい。溶接金属の靱性を向上させることを目的として、溶接金属中にTi、Al、Zrを含有させる場合に、Ti(weld)、Al(weld)及びZr(weld)のいずれかの元素の含有量は0.002質量%以上とすることが好ましく、0.005質量%以上とすることがより好ましい。
一方、溶接金属中に、Ti、Al、Zrが過剰に含有されると、粗大な介在物が生成され、靱性が低下する虞がある。したがって、Ti(weld)、Al(weld)及びZr(weld)の含有量は、それぞれ0.10質量%以下とする。
【0095】
(V(weld):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Vは、溶接金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。ただし、溶接金属中にVが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。溶接金属の強度を確保することを目的として、溶接金属中にVを含有させる場合に、V(weld)の含有量は0.001質量%以上とすることが好ましい。
一方、V(weld)の含有量が0.10質量%を超えると、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることが困難となる。したがって、V(weld)の含有量は0.10質量%以下とし、0.05質量%以下とすることが好ましい。
【0096】
(Nb(weld):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Nbは、溶接金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。ただし、溶接金属中にNbが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。溶接金属の強度を確保することを目的として、溶接金属中にNbを含有させる場合に、Nb(weld)の含有量は0.001質量%以上とすることが好ましい。
一方、Nb(weld)の含有量が0.10質量%を超えると、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることが困難となる。したがって、Nb(weld)の含有量は0.10質量%以下とし、0.05質量%以下とすることが好ましい。
【0097】
(B(weld):0.0050質量%以下(0質量%を含む))
Bは、溶着金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。ただし、溶接金属中にBが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。
一方、B(weld)の含有量が、0.0050質量%を超えると、耐割れ性を低下させることなく所望の靱性を確保することが困難となる。したがって、B(weld)の含有量は0.0050質量%以下とし、0.0040質量%以下とすることが好ましい。
【0098】
(溶接金属の残部:Fe(weld)及び不可避不純物)
本実施形態に係る溶接金属において、上記元素を除く残部は、Fe及び不可避不純物である。不純物とは、意図的に添加されていないものを意味し、上記以外の元素として、例えばO、N、Sn、Co、Sb、As、Mg、REM、Li、Bi等が挙げられる。溶接金属中の不純物の含有量について、O(weld)は0.020質量%以下、N(weld)は0.020質量%以下、Sn(weld)、Co(weld)、Sb(weld)、As(weld)、Mg(weld)、REM(weld)、Li(weld)、Bi(weld)は、各々0.030質量%以下であることが好ましい。また、上記不純物の合計は0.500質量%以下であることがより好ましく、0.300質量%以下であることがさらに好ましい。
【0099】
[溶接継手]
本発明に係る溶接継手は、複数の部材が溶接金属により接合された溶接継手であって、複数の部材のうち少なくとも1つが高張力鋼板であり、溶接金属の組成と高張力鋼板の組成との間において特別な関係を有する。本実施形態に係る溶接継手は、優れた靱性を有する溶接金属、ボンド部及びHAZ部を有するものとなる。なお、溶接金属により接合された全ての部材が高張力鋼であることが好ましい。
【0100】
以下、本実施形態に係る溶接継手において、より良好なHAZ部の靱性が得られるための溶接金属の組成と高張力鋼板の組成との関係、並びに、溶接金属及び高張力鋼板の組成範囲について具体的に説明する。以下に示す任意の元素は、0質量%を含むものとする。
【0101】
本実施形態においては、上記溶接ワイヤの場合と同様に、溶接金属に含有される所定の成分の含有量に基づき、下記<式8>から算出される値M8と、上記<式1>により算出される値M1との比(M8/M1)を適切に制御している。溶接金属の組成は溶接ワイヤの組成に依存するため、溶接継手においては、(M8/M1)を制御することにより、ボンド部の靱性を改善することができる。すなわち、高張力鋼板の組成に基づき推定される硬さに対して、溶接金属の組成から推定される硬さが適正範囲になるように設計することにより、靱性向上を実現することができる。
【0102】
M8=[C(weld)]+[Si(weld)]/30+[Mn(weld)]/20+[Cu(weld)]/20+[Ni(weld)]/60+[Cr(weld)]/20+[Mo(weld)]/15+[V(weld)]/10+5×[B(weld)] ・・・<式8>
ただし、上記<式8>において、[C(weld)]、[Si(weld)]、[Mn(weld)]、[Cu(weld)]、[Ni(weld)]、[Cr(weld)]、[Mo(weld)]、[V(weld)]、及び[B(weld)]は、溶接金属に含有されるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V及びBの含有量を、それぞれ、溶接金属全質量に対する質量%で表した値である。
【0103】
(M8/M1:0.820以上1.000未満)
図3は、横軸を(M8/M1)とし、縦軸をボンド部の吸収エネルギーの最小値とした場合の、(M8/M1)とボンド部の靱性との関係を示すグラフ図である。図3に示すように、(M8/M1)とボンド部の靱性(最小値)との間には相関性がある。図1と同様に、(M8/M1)の値が小さい範囲では、ボンド部の吸収エネルギーの最小値は低くなっている。そして、(M8/M1)の値が大きくなるにしたがって、ボンド部の靱性も向上するが、(M8/M1)が所定の値を超えると、ボンド部の靱性(最小値)は再び低下する。
【0104】
上述のとおり、本実施形態においては、ボンド部における吸収エネルギーの最小値が45(J)以上であると、溶融境界部において優れた靱性を得ることができると判断している。すなわち、(M8/M1)が0.820未満であると、ボンド部の位置によっては靱性が低くなる。したがって、本実施形態においては、(M8/M1)が0.820以上となるように、溶接ワイヤの組成を設計する必要がある。なお、(M8/M1)は、0.850以上であることが好ましい。
一方、(M8/M1)が1.000以上であると、溶接金属の硬さが高くなり、母材となる高張力鋼板と硬さが変わらなくなるため、溶接金属側に衝撃が吸収されず、脆性破壊が起こりやすくなる。したがって、本実施形態においては、(M8/M1)が1.000未満となるように、溶接ワイヤの組成を設計する。なお、母材となる高張力鋼板の硬さと比較して、溶接金属の硬さが低くなる方が、溶接金属側に衝撃が吸収されやすくなり、ボンド部の靱性もより向上する。したがって、(M8/M1)は、0.990以下であることが好ましく、0.980以下であることがより好ましい。なお、(M8/M1)が上記範囲内を満たせば、技術思想上、溶接継手における溶接金属及びボンド部の靱性は確保されるものと考えられる。
【0105】
以下、本実施形態に係る溶接継手において、高張力鋼板に含有される合金成分の含有量について、好ましい範囲を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0106】
(C(plate):0.100質量%以下(0質量%を含む))
Cは、鋼板強度の増加に寄与する元素であるが、鋼板中にCが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、所望の母材強度を確保することを目的として、鋼板中にCを含有させる場合に、C(plate)の含有量は0.020質量%以上とすることが好ましい。
一方、C(plate)の含有量が0.100質量%を超えると、特に大入熱溶接HAZ部において島状マルテンサイト(MA)が増加し、HAZ部の靱性が低下する虞がある。したがって、C(plate)の含有量は、0.100質量%以下とすることが好ましく、0.050質量%以下とすることがより好ましい。
【0107】
(Si(plate):0.50質量%以下(0質量%を含む))
Siは、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であるが、鋼板中にSiが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、Siを脱酸剤として作用させることを目的として、鋼板中にSiを含有させる場合に、Si(plate)の含有量は0.01質量%以上とすることが好ましい。
一方、Si(plate)の含有量が0.50質量%を超えると、島状マルテンサイトが増加し、HAZ部の靱性が低下する虞がある。したがって、Si(plate)の含有量は、0.50質量%以下とすることが好ましく、0.40質量%以下とすることがより好ましい。
【0108】
(Mn(plate):0.50質量%以上2.80質量%以下))
Mnは、強力なオーステナイト安定化元素であり、γ→α変態点を低下させ、焼入れ性を増大させて、ベイナイト変態、マルテンサイト変態を促進させ、所望の母材強度や母材靱性を確保するのに有効な元素である。Mn(plate)の含有量が0.50質量%未満であると、所望の母材強度や母材靱性を十分に確保することができない。したがって、Mn(plate)の含有量は0.50質量%以上とすることが好ましく、0.70質量%以上とすることがより好ましい。
一方、Mn(plate)の含有量が2.80質量%を超えると、HAZ部の硬さが過剰に高くなり、HAZ部の靱性の低下が起こる可能性がある。したがって、Mn(plate)の含有量は2.80質量%以下とすることが好ましく、2.50質量%以下とすることがより好ましい。
【0109】
(Ni(plate):0.01質量%以上5.50質量%以下)
Niは、強力なオーステナイト安定化元素であり、γ→α変態点を低下させて、所望の母材強度を確保するのに有用な元素である。また、Niは、靱性の向上にも大きく寄与する元素でもある。本実施形態においては、ボンド部の粒界フェライトを押さえ、靱性にも寄与するため、鋼板中にNiが含有されていることが好ましい。Ni(plate)の含有量が0.01質量%未満であると、特に優れた機械的性能の効果を得ることが困難となる。したがって、Ni(plate)の含有量は0.01質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましい。
一方、Ni(plate)の含有量が5.50質量%を超えると、合金コストが高騰化する。したがって、Ni(plate)の含有量は5.50質量%以下とすることが好ましく、4.99質量%以下とすることがより好ましい。
【0110】
(Cr(plate):0.05質量%以上3.50質量%以下)
Crは、フェライト安定化元素であり、焼入れ性の向上を介して、所望の母材強度や母材靱性を確保するのに有効な元素である。Cr(plate)の含有量が0.05質量%未満であると、所望の母材強度や母材靱性を十分に確保することができない。したがって、Cr(plate)の含有量は0.05質量%以上とすることが好ましく、0.90質量%以上とすることがより好ましい。
一方、Cr(plate)の含有量が3.50質量%を超えると、HAZ部の硬さが過度に高くなり、HAZ部の靱性が低下する虞がある。したがって、Cr(plate)の含有量は3.50質量%以下とすることが好ましく、3.00質量%以下とすることがより好ましい。
【0111】
(Mo(plate):2.50質量%以下(0質量%を含む))
Moは、Crと同様に、フェライト安定化元素であり、焼入れ性の向上を介して、所望の母材強度や母材靱性を確保するのに有効な元素である。本実施形態においては、鋼板中にCrが含有されているため、鋼板中にMoが含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、所望の母材強度や母材靱性を十分に確保するために、Mo(plate)の含有量は0.10質量%以上とすることが好ましい。
一方、Mo(plate)の含有量が2.50質量%を超えると、HAZ部の硬さが過度に高くなり、HAZ部の靱性が低下する虞がある。したがって、Mo(plate)の含有量は2.50質量%以下とすることが好ましく、2.10質量%以下とすることがより好ましい。
【0112】
(P(plate):0.050質量%以下(0質量%を含む))
Pは、HAZ組織の粒界に偏析することで粒界破壊の発生を引き起こし、HAZ部の靱性に悪影響を及ぼす元素である。したがって、鋼板中のPはできるだけ低減することが好ましく、0質量%でもよい。P(plate)の含有量が0.050質量%を超えると、HAZ部の靱性が低下する。したがって、P(plate)の含有量は0.050質量%以下とすることが好ましく、0.015質量%以下とすることがより好ましい。
【0113】
(S(plate):0.050質量%以下(0質量%を含む))
Sは、鋼板中では主としてMnS系介在物として存在し、延性、靱性に悪影響をもたらす元素である。したがって、鋼板中のSはできるだけ低減することが好ましく、0質量%でもよい。S(plate)の含有量が0.050質量%を超えると、鋼板の延性及び靱性が低下する。したがって、S(plate)の含有量は0.050質量%以下とすることが好ましく、0.008質量%以下とすることがより好ましい。
【0114】
(Cu(plate):1.00質量%以下(0質量%を含む))
Cuは、フェライトの生成を抑制してベイナイト変態を促進し、所望の母材強度を確保するために有効な元素である。本実施形態においては、他の元素で強度を調整することができるため、鋼板中にCuは含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、所望の母材強度を確保することを目的として、鋼板中にCuを含有させる場合に、Cu(plate)の含有量は0.10質量%以上とすることが好ましい。
一方、Cu(plate)の含有量が1.00質量%を超えると、熱間圧延時に表面疵(Cu疵)を発生させることになる。したがって、Cu(plate)の含有量は1.00質量%以下とすることが好ましく、0.60質量%以下とすることがより好ましい。
【0115】
(Ti(plate):0.100質量%以下(0質量%を含む))
Tiは、Nと結合してTiNを形成し、特にHAZ部におけるγ粒の成長を抑制して、HAZ部の靱性の向上に寄与する元素である。鋼板中にはTiは含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、HAZ部の靱性の向上を目的として、鋼板中にTiを含有させる場合に、Ti(plate)の含有量は0.004質量%以上とすることが好ましい。
一方、Ti(plate)の含有量が0.100質量%を超えると、TiNが粗大化しやすくなり、母材靱性及びHAZ部の靱性がともに低下する。したがって、Ti(plate)の含有量は0.100質量%以下とすることが好ましく、0.030質量%以下とすることがより好ましい。
【0116】
(Al(plate):0.100質量%以下(0質量%を含む))
Alは、製鋼時に脱酸剤として作用する元素である。鋼板中にAlは含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、脱酸剤としての効果を得ることを目的として、鋼板中にAlを含有させる場合に、Al(plate)の含有量は0.001質量%以上とすることが好ましい。
一方、Al(plate)の含有量が0.100質量%を超えると、アルミナ等の粗大介在物が増加して清浄度が低下し、母材靱性が低下する。また、鋼板中にAl(plate)が多量に含有されると、HAZ部の組織においてMAが増加し、HAZ部の靱性が低下する。したがって、Al(plate)の含有量は0.100質量%以下とすることが好ましく、0.080質量%以下とすることがより好ましい。
【0117】
(Zr(plate):0.10質量%以下(0質量%を含む)>
ZrはAlと同様に、製鋼時に脱酸剤として作用する元素である。鋼板中にAlが含有されていれば、Zrは含有されていなくてもよく、質量%でもよい。ただし、脱酸剤としての効果を得ることを目的として、Alの代わりに鋼板中にZrを含有させる場合に、Zr(plate)の含有量は0.001質量%以上とすることが好ましい。
一方、Zr(plate)の含有量が0.10質量%を超えると、ジルコニア等の粗大介在物が増加して清浄度が低下し、母材靱性が低下する。また、鋼板中にZr(plate)の多量に含有されると、HAZ部の組織においてMAが増加し、HAZ部の靱性が低下する。したがって、Zr(plate)の含有量は0.10質量%以下とすることが好ましく、0.03質量%以下とすることがより好ましい。
【0118】
(Ca(plate):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Caは、介在物の形態を制御して、母材の延性及び靱性、並びにHAZ部の靱性を向上させる効果を有する元素である。鋼板中にCaは含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、母材の延性及び靱性、並びにHAZ部の靱性を向上させることを目的として、鋼板中にCaを含有させる場合に、Ca(plate)の含有量は0.0004質量%以上とすることが好ましい。
一方、Ca(plate)含有量が0.10質量%を超えると、介在物が粗大化してHAZ部の靱性を低下させる虞がある。したがって、Ca(plate)の含有量は0.10質量%以下とすることが好ましく、0.0030質量%以下とすることがより好ましい。
【0119】
(REM(plate):0.10質量%以下(0質量%を含む))
REM(Rare Earth Metals)もCaと同様に、介在物の形態を制御して、母材の延性及び靱性、並びにHAZ部の靱性を向上させる効果を有する元素である。鋼板中にCaが添加されていれば、REMは含有されていなくてもよく、0質量%でもよい。ただし、母材の延性及び靱性、並びにHAZ部の靱性を向上させることを目的として、鋼板中にREMを含有させる場合に、REM(plate)の含有量は0.0004質量%以上とすることが好ましい。
一方、REM(plate)の含有量が0.10質量%を超えると、介在物が粗大化してHAZ部の靱性を低下させる虞がある。したがって、REM(plate)の含有量は0.10質量%以下とし、0.03質量%以下とすることが好ましい。
【0120】
(Nb(plate):0.10質量%以下(0質量%を含む))
Nbは、ベイナイト変態を促進させて、所望の母材強度を確保するのに有効な元素であるが、他の元素で強度を調整することができるため、鋼板中にNbが含有されていなくてもよく、0質量%であることが好ましい。
また、Nb(plate)が0.10質量%を超えると、HAZ部の硬さが高くなりすぎて、HAZ部の靱性が低下する。したがって、鋼板中にNbを含有させる場合に、Nb(plate)の含有量は0.10質量%以下とする。
【0121】
(V(plate):0.10質量%以下(0質量を%含む))
Vは、析出強化によって母材の強度を上昇する効果を有するが、他の元素で強度を調整することができるため、鋼板中にVが含有されていなくてもよく、0質量%であることが好ましい。
また、V(plate)の含有量が0.10質量%を超えると、HAZ部の靱性が著しく低下する。したがって、鋼板中にVを含有させる場合に、V(plate)の含有量は0.10質量%以下とすることが好ましい。
【0122】
(B(plate):0.0001質量%以上0.0050質量%以下)
Bは、少量の含有で焼入れ性を向上させ、母材強度の向上に有効な元素である。B(plate)の含有量が0.0001質量%未満であると、母材強度を向上させる効果を十分に得ることができない。したがって、B(plate)の含有量は0.0001質量%以上とすることが好ましく、0.0004質量%以上とすることがより好ましい。
一方、B(plate)の含有量が0.0050質量%を超えると、HAZ部の硬さが硬くなりすぎ、HAZ部の靱性が低下する。したがって、B(plate)の含有量は0.0050質量%以下とすることが好ましく、0.0030質量%以下とすることがより好ましい。
【0123】
(高張力鋼板の残部:Fe(plate)及び不可避不純物)
本実施形態に係る溶接継手において、上記元素を除く残部は、Fe及び不可避不純物である。不純物とは、意図的に添加されていないものを意味し、上記以外の元素として、例えばO、N、Sn、Co、Sb、As、Mg、Li、Bi等が挙げられる。溶接金属中の不純物の含有量について、O(plate)は0.020質量%以下、N(plate)は0.020質量%以下、Sn(plate)、Co(plate)、Sb(plate)、As(plate)、Mg(plate)、Li(plate)、Bi(plate)は、各々0.030質量%以下であることが好ましい。また、上記不純物の合計は0.500質量%以下であることがより好ましく、0.300質量%以下であることがさらに好ましい。
【0124】
なお、本実施形態に係る溶接継手において、溶接金属の組成は、上記[溶接金属]の欄で説明したとおりである。
【実施例0125】
以下、発明例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。また、ここで説明する溶接条件は一例であり、本実施の形態では、以下の溶接条件に限定されるものではない。
【0126】
[エレクトロスラグ溶接]
図2に示すように、種々の組成を有する溶接ワイヤ4を使用して、種々の組成を有するスキンプレート1とダイアフラム2との間をエレクトロスラグ溶接法により溶接した。共通の溶接条件を以下に示す。また、溶接ワイヤの合金組成を表1に示し、溶接ワイヤの化合物組成を表2に示す。さらに、スキンプレートの組成を表3に示し、ダイアフラムの組成を表4に示す。
【0127】
<溶接条件>
スキンプレートの板厚:50(mm)
ダイアフラムの板厚:65(mm)
フラックス:JIS Z 3353:2013に規定されたFES-CSのフラックス
フラックス率:ワイヤ全質量に対して18質量%
溶接電流I:360~400(A)
溶接電圧V:50~55(V)
溶接速度S:10~15(mm/min)
溶接入熱Q:80~100(kJ/mm)
ギャップ:23(mm)
【0128】
<評価試験>
(シャルピー衝撃試験:溶接金属の靱性)
上記エレクトロスラグ溶接により得られた溶接金属に対して、シャルピー衝撃試験を実施し、靱性を評価した。溶接金属の靱性は、得られた溶接金属から、JIS Z 3111:2005に規定された溶接金属測定用衝撃試験片を採取し、溶接金属中央部を溶接線方向に破断させるようにノッチを形成して、JIS Z 2242:2018に規定された金属材料のシャルピー衝撃試験方法に準拠して、吸収エネルギーを測定した。なお、吸収エネルギーの値は、3本の試験片について、試験温度を0℃としてシャルピー衝撃試験を実施し、これらの平均値を算出することにより得た。
【0129】
(シャルピー衝撃試験:ボンド部の靱性)
上記エレクトロスラグ溶接により得られたボンド部に対して、シャルピー衝撃試験を実施し、靱性を評価した。ボンド部の靱性を測定するためのボンド部測定用衝撃試験片は、得られた溶接金属から、JIS Z 3111:2005に規定された採取方法を参照し、ボンド部を溶接線方向に破断させるようにノッチを形成することにより得た。そして、得られたボンド部測定用衝撃試験片に対して、JIS Z 2242:2018に規定された金属材料のシャルピー衝撃試験方法に準拠して、吸収エネルギーを測定した。なお、試験片は、5~8本用意し、試験温度を0℃として吸収エネルギーを測定した。
【0130】
<評価方法>
溶接金属の靱性については、吸収エネルギーの平均値が47(J)以上であったものを合格とし、吸収エネルギーの平均値が47(J)未満であったものを不合格とした。また、ボンド部の靱性については、吸収エネルギーの平均値が47(J)以上であるとともに、全ての試験片の吸収エネルギーが45(J)以上であったものを合格とした。一方、吸収エネルギーの平均値が47(J)未満であるか、又は、全ての試験片のうち1本でも吸収エネルギーが45(J)未満であったものを不合格とした。
【0131】
そして、継手の評価としては、溶接金属の靱性及びボンド部の靱性について、いずれか一方又は両方の評価結果が不合格となったものを、総合評価で不合格とし、「Poor」と表記した。
一方、溶接金属の靱性及びボンド部の靱性のいずれもが合格となったものを、総合評価で合格とし、これらをさらに3段階で評価した。具体的には、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が47(J)以上80(J)未満であるとともに、ボンド部の吸収エネルギーの平均値が47(J)以上100(J)未満であって、すべての試験片の吸収エネルギーが45(J)以上であったものを良好であると評価し、「Good」と表記した。また、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が80(J)以上であるとともに、ボンド部の吸収エネルギーの平均値が47(J)以上100(J)未満であって、すべての試験片の吸収エネルギーが45(J)以上であったもの、又は溶接金属の吸収エネルギーの平均値が47(J)以上80(J)未満であるとともに、ボンド部の吸収エネルギーの平均値が100(J)以上であって、すべての試験片の吸収エネルギーが45(J)以上であったものをより優れていると評価し、「Very Good」と表記した。さらに、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が80(J)以上であるとともに、ボンド部の吸収エネルギーの平均値が100(J)以上であって、すべての試験片の吸収エネルギーが45(J)以上であったものを最も優れていると評価し、「Excellent」と表記した。
【0132】
発明例及び比較例における溶接金属の組成を下記表5に示し、高張力鋼板(スキンプレート)、溶接ワイヤ及び溶接金属の組成に基づいて、種々の式により算出される値を下記表6に示す。また、靱性の測定結果及び総合評価を下記表7に示す。なお、下記表1及び3~5において、「-」は該当する成分の含有量が検出限界以下であったことを示す。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
ここで、表6に記載のM1~M8は、それぞれ<式1>~<式8>により算出される値であり、<式1>~<式8>は以下の通りである
【0141】
M1=[C(plate)]+[Si(plate)]/30+[Mn(plate)]/20+[Cu(plate)]/20+[Ni(plate)]/60+[Cr(plate)]/20+[Mo(plate)]/15+[V(plate)]/10+5×[B(plate)] ・・・<式1>
【0142】
M2=[C(wire)]+[Si(wire)]/30+[Mn(wire)]/20+[Cu(wire)]/20+[Ni(wire)]/60+[Cr(wire)]/20+[Mo(wire)]/15+[V(wire)]/10+5×[B(wire)] ・・・<式2>
【0143】
M3=([Ni(wire)]/[Ni(plate)])/([Mn(wire)]/[Mn(plate)]) ・・・<式3>
【0144】
M4=[Ni(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式4>
【0145】
M5=[Ni(plate)]+[Mn(plate)] ・・・<式5>
【0146】
M6=[Mo(wire)]+[Mn(wire)] ・・・<式6>
【0147】
M7=[Mo(wire)]/([Mo(wire)]+[Mn(wire)]) ・・・<式7>
【0148】
M8=[C(weld)]+[Si(weld)]/30+[Mn(weld)]/20+[Cu(weld)]/20+[Ni(weld)]/60+[Cr(weld)]/20+[Mo(weld)]/15+[V(weld)]/10+5×[B(weld)] ・・・<式8>
【0149】
上記表6及び表7に示すように、発明例No.X1~X7は、M2/M1が本発明において規定する範囲内となるように、高張力鋼(スキンプレート)を選択しているとともに、溶接ワイヤの組成を制御している。したがって、溶接金属及びボンド部の吸収エネルギーの平均値が47(J)以上となるとともに、またボンド部について複数箇所における吸収エネルギーが全て45(J)以上となり、優れた靱性を得ることができた。
【0150】
図4は、全ての発明例を3段階に分けて評価した結果を示すグラフ図である。図4に示すように、特に、発明例No.X3、X4、X6、X7は、より一層優れた靱性を得ることができた。
【0151】
図5は、横軸をM3とし、縦軸を溶接金属の吸収エネルギーの平均値とした場合の、発明例及び比較例の溶接金属の評価結果を示すグラフ図である。比較例No.X1~X4は、ボンド部の吸収エネルギーの最小値が45(J)未満であるため、靱性の総合評価は悪いものとなっているが、図5に示すように、溶接金属の吸収エネルギーの平均値の観点では、M3の値が小さくなるほど平均値が高くなっている。発明例のみを考慮すると、発明例No.X1~X7は、M3の値が1.50以下であるため、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が優れたものとなった。特に、発明例No.X2~X7は、M3がより好ましい値である0.9以下であるため、溶接金属の吸収エネルギーの平均値がさらに一層優れた結果となった。
【0152】
図6は、横軸をM4とし、縦軸を(M4-M5)とした場合の、発明例及び比較例のボンド部の評価結果を示すグラフ図である。すなわち、縦軸において、M4が0.00より上方の領域では、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量の合計量よりも、鋼板中のNi含有量とMn含有量の合計量が少ないことを表す。また、M4が0.00よりも下方の領域では、溶接ワイヤ中のNi含有量とMn含有量の合計量よりも、鋼板中のNi含有量とMn含有量の合計量が多いことを表す。比較例No.X1~X4は、ボンド部の吸収エネルギーの最小値が45(J)未満であるため、靱性の総合評価は悪いものとなっているが、図6に示すように、条件A、条件B及び条件Cのいずれか1つの条件を満足する試験片については、ボンド部の吸収エネルギーの平均値が100(J)以上であり、ボンド部の吸収エネルギーの平均値が優れたものとなった。特に、発明例No.X3~X7は、より好ましい条件である条件B及び条件Cの一方を満足するため、ボンド部の吸収エネルギーの平均値がさらに一層優れた結果となった。
【符号の説明】
【0153】
1 スキンプレート
2 ダイアフラム
3 当金
4 溶接ワイヤ
5 溶接金属
図1
図2
図3
図4
図5
図6